(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169789
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】2-O-硫酸化酵素変異体、および3-O-硫酸化酵素変異体、ならびにそれらを用いる方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/10 20060101AFI20221101BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20221101BHJP
C08B 37/10 20060101ALI20221101BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20221101BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12P19/04
C08B37/10
C12N15/54
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022139264
(22)【出願日】2022-09-01
(62)【分割の表示】P 2019565572の分割
【原出願日】2018-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2017170637
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】清水 朋子
(72)【発明者】
【氏名】田上 宇乃
(72)【発明者】
【氏名】三原 康博
(72)【発明者】
【氏名】杉木 正之
(72)【発明者】
【氏名】中野 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】本山 智晴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 創平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い活性を示す2-OST変異体などの提供。
【解決手段】(a)特定のアミノ酸配列;(b)前記アミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または(c)前記アミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは(d)前記アミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;(e)前記アミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または(f)前記アミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されている2-O-硫酸化酵素変異体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体。
【請求項2】
塩基性アミノ酸残基が、アルギニン残基またはリジン残基である、請求項1記載の2-O-硫酸化酵素変異体。
【請求項3】
ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法であって、
2-O-硫酸化酵素変異体の存在下において、ヘパロサン化合物を、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含み、
2-O-硫酸化酵素変異体が、下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体である、方法。
【請求項4】
前記ヘパロサン化合物が、N-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化エピメリ化ヘパロサン、N-硫酸化低分子化ヘパロサン、またはN-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記2-O-硫酸化酵素変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下において、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化されたヘパロサン化合物が製造される、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
前記形質転換微生物がエシェリヒア属細菌である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体。
【請求項9】
α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法であって、
3-O-硫酸化酵素変異体の存在下において、ヘパロサン化合物を、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含み、
3-O-硫酸化酵素変異体が、下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体である、方法。
【請求項10】
前記ヘパロサン化合物が、N-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、またはN-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記3-O-硫酸化酵素変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下において、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物が製造される、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記形質転換微生物がエシェリヒア属細菌である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヘパラン硫酸の製造方法であって、
ヘパロサンを、(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化、(2)低分子化、(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化、(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化、(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化、(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化、および(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化を含む処理に供して、ヘパラン硫酸を生成することを含み、
(I)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化が、下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われるか、あるいは
(II)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化が、下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-O-硫酸化酵素変異体、および3-O-硫酸化酵素変異体、ならびにそれらを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンは、ヘパラン硫酸の一種であり、抗凝固活性を有する化合物である。動物由来ヘパリンは、品質管理の面で問題があり、品質管理された非動物由来ヘパリンの製造開発が検討されてきた。非動物由来ヘパリンを製造する方法には、例えば、微生物を用いて生産されたヘパロサンを、硫酸化および異性化等の反応に供してヘパリンを製造する方法がある(特許文献1、2、非特許文献1~3)。
【0003】
ヘパリンを製造するための好ましい原料として、ヘパロサンが知られている。ヘパロサンは、β-D-グルクロン酸(GlcA)残基とN-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAc)残基からなる二糖の繰り返し構造[→4)-β-D-GlcA-(1→4)-α-D-GlcNAc-(1→]より構成される多糖である。
【0004】
ヘパロサンからヘパリンを製造する方法では、(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化、(2)低分子化(depolymerization)、(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化、(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化(すなわち、β-D-グルクロン酸残基のα-L-イズロン酸残基への異性化)、(5)ヘキスロン酸残基(好ましくはα-L-イズロン酸残基)の2-O-硫酸化、(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化、(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化という、相互に入れ替え可能である一連の反応を必要とする方法が知られている(特許文献1、3~5)。
【0005】
これらの反応のうち、2-O-硫酸化の反応を触媒する酵素(2-OST)について、幾つかの知見が報告されている。例えば、ニワトリ由来2-OSTを用いた解析では、3量体が活性型であること、精製酵素中に凝集した多量体(非3量体)が存在すること、および332位のバリンの変異が3量体率(活性体率)を低下させることが報告されている(非特許文献4)。しかし、2-OSTについて、3量体率の向上や、それによって活性が向上した変異体は報告されていない。
【0006】
また、3-O-硫酸化の反応を触媒する酵素(3-OST)についても、幾つかの知見が報告されている。例えば、マウス由来3-OSTのアイソフォームである3-OST-1について、結晶構造(非特許文献5)、E90Q変異体およびR276A変異体(非特許文献6)、ならびにE76A変異体、E76Q変異体、K123A変異体、Q163A変異体、H271A変異体等の種々の変異体(非特許文献7)が報告されている。しかし、3-OSTについて、活性が向上した変異体は殆ど報告されていない。例えば、非特許文献7には、H271A変異体のみが野生型酵素に比し109%という僅かに高い比活性を有することしか記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8,227,449号
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/322114号明細書
【特許文献3】国際公開第2017/115674号
【特許文献4】国際公開第2017/115675号
【特許文献5】米国特許出願公開第2012/0322114号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lindahl U. et al.(2005)J Med Chem 48(2):349-352
【非特許文献2】Zhang Z. et al.(2008)Journal of the American Chemical Society 130(39):12998-13007
【非特許文献3】Chen J,et al.,(2005)J Biol Chem. 280(52):42817-25
【非特許文献4】Bethea HN et al.,(2008)Proc Natl Acad Sci USA. 105(48):18724-9
【非特許文献5】Moon et al.(2012) Proc Natl Acad Sci USA. 109(14):5265-70
【非特許文献6】Munoz et al.,(2006)Biochemistry 45:5122-28
【非特許文献7】Edavettal et al.(2004)J BIOL CHEM. 279(24):25789-97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、高い活性を示す2-OST変異体、および当該2-OST変異体を用いた2-O-硫酸化方法を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、高い活性を示す3-OST変異体、および当該3-OST変異体を用いた3-O-硫酸化方法を提供することである。
【0011】
本発明の第3の目的は、上記硫酸化方法を利用した、ヘパリン等のヘパラン硫酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、321位のロイシン残基を塩基性アミノ酸残基に置換した2-OST変異体が3量体率の向上により高い活性を示すことを見出した。本発明者らはまた、77位、125位または164位のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換した3-OST-1変異体が高い活性を示すことを見出した。したがって、本発明者らは、効率的な2-O-および3-O-硫酸化方法、ならびにこれらの硫酸化方法を利用したヘパラン硫酸の製造方法を提供することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加
を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体。
〔2〕塩基性アミノ酸残基が、アルギニン残基またはリジン残基である、〔1〕の2-O-硫酸化酵素変異体。
〔3〕ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法であって、
2-O-硫酸化酵素変異体の存在下において、ヘパロサン化合物を、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含み、
2-O-硫酸化酵素変異体が、下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体である、方法。
〔4〕前記ヘパロサン化合物が、N-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化エピメリ化ヘパロサン、N-硫酸化低分子化ヘパロサン、またはN-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンである、〔3〕の方法。
〔5〕前記2-O-硫酸化酵素変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下において、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化されたヘパロサン化合物が製造される、〔3〕または〔4〕の方法。
〔6〕前記形質転換微生物がエシェリヒア属細菌である、〔5〕の方法。
〔7〕エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、〔6〕の方法。
〔8〕下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体。
〔9〕α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法であって、
3-O-硫酸化酵素変異体の存在下において、ヘパロサン化合物を、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含み、
3-O-硫酸化酵素変異体が、下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体である、方法。
〔10〕前記ヘパロサン化合物が、N-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、またはN-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンである、〔9〕の方法。
〔11〕前記3-O-硫酸化酵素変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下において、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物が製造される、〔9〕または〔10〕の方法。
〔12〕前記形質転換微生物がエシェリヒア属細菌である、〔11〕の方法。
〔13〕エシェリヒア属細菌がエシェリヒア・コリである、〔12〕の方法。
〔14〕ヘパラン硫酸の製造方法であって、
ヘパロサンを、(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化、(2)低分子化、(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化、(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化、(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化、(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化、および(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化を含む処理に
供して、ヘパラン硫酸を生成することを含み、
(I)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化が、下記:
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われるか、あるいは
(II)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化が、下記:
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われる、方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の2-O-硫酸化酵素変異体および3-O-硫酸化酵素変異体は、高い活性を示すことから、目的物質の製造プロセスにおいて好適に用いることができる。
本発明の変異体を用いる本発明の方法によれば、目的物質を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ヘパロサンからヘパリンを製造する方法の好ましい例を示す図である(例、国際公開第2017/115674号、国際公開第2017/115675号)。ヘパロサンは、D-グルクロン酸(GlcA)残基とN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)残基からなる二糖の繰り返し構造[→4)-β-D-GlcA-(1→4)-α-D-GlcNAc-(1→]より構成される多糖である。(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基のN-アセチル基をN-脱アセチル化(例、部分的N-脱アセチル化)してアミノ基を生成する反応である。(2)低分子化(depolymerization)は、ヘパロサンを分解して、より低分子量のヘパロサンを生成する反応である。(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基のアミノ基を硫酸化する反応である。(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化は、ヘパロサン中のβ-D-グルクロン酸残基を、エピマーであるα-L-イズロン酸(IdoA)残基に異性化する反応である。(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化は、ヘパロサン中のヘキスロン酸残基(好ましくはα-L-イズロン酸残基)中の2位の水酸基を硫酸化する反応である。(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基の6位の水酸基を硫酸化する反応である。(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基の3位の水酸基を硫酸化する反応である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.変異体
(1-1)2-O-硫酸化酵素変異体
本発明は、下記(a)~(f)のいずれかのアミノ酸配列において、321番目のロイシン残基が塩基性アミノ酸残基に置換されており、かつ、2-O-硫酸転移活性を有する2-O-硫酸化酵素変異体を提供する。
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f)配列番号2のアミノ酸配列における69番目から356番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列。
【0017】
(a)~(c)は、チャイニーズハムスター由来2-O硫酸化酵素(2-OST)の全長アミノ酸配列に対応する配列番号2で特定される。(d)~(f)は、チャイニーズハムスター由来2-OSTの触媒部位(配列番号2におけるAsp69-Asn356)で特定される。
【0018】
321番目のロイシン残基が置換されるべき塩基性アミノ酸残基は、アルギニン残基、リジン残基、またはヒスチジン残基であるが、アルギニン残基、またはリジン残基が好ましく、アルギニン残基がより好ましい。
【0019】
(b)、(c)、(e)および(f)は、所定の部位に所望の変異をさらに有していてもよい。例えば、2-OSTについて、配列番号2のアミノ酸配列における94番目のチロシン残基が、アラニン残基、イソロイシン残基、グリシン残基、フェニルアラニン残基、またはグルタミン酸残基に置換されている場合、β-D-グルクロン酸残基(ヘキスロン酸残基)よりもα-L-イズロン酸残基(ヘキスロン酸残基)の2位の水酸基を優先的に硫酸化できること(すなわち、基質特異性の変化)が報告されている(Li K. e
t al.(2010)J Biol Chem 285(15):11106-11113)。321番目のロイシン残基の塩基性アミノ酸残基への置換は、3量体率の向上により活性を改善するものであり、基質特異性には影響し得ない変異である。したがって、本発明の2-O-硫酸化酵素変異体は、321番目のロイシン残基の塩基性アミノ酸残基への置換に加えて、このような変異をさらに有することもまた好ましい。
【0020】
用語「2-O-硫酸転移活性」とは、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基に対して、硫酸基供与体(例、3’-ホスホアデノシン-5’-ホスホサルフェート(PAPS))からの硫酸基を転移して、ヘキスロン酸残基の2位において「-O-硫酸基」の構造を生成する活性をいう。ヘキスロン酸残基としては、例えば、α-L-イズロン酸残基、β-D-グルクロン酸残基が挙げられるが、α-L-イズロン酸残基が好ましい。
【0021】
2-O-硫酸転移活性の評価は、適宜行うことができる。例えば、2-O-硫酸転移活性の評価は、実施例に記載されるように、2-O-硫酸転移活性を測定し、次いで、二糖組成分析により2-O-硫酸化率を決定することにより行われてもよい。より具体的には、2-O-硫酸転移活性の測定は、反応液(2mg/mL ヘパロサン化合物(基質)、0.6mM PAPS(硫酸基供与体)、50mM MES(pH7.0))に変異体含有液を1.9%添加し、37℃で30分間反応を行い、2倍量の2.0M クエン酸水溶液と混合し、95℃、15分間の熱処理により反応を停止することにより行うことができる。変異体含有液としては、例えば、精製酵素液、無細胞抽出液を利用することができる。ヘパロサン化合物(基質)としては、後述するものを用いることができるが、N-硫酸化ヘパロサン、もしくはエピメリ化ヘパロサン、またはN-硫酸化エピメリ化ヘパロサンが好ましい。これらのヘパロサンは、低分子化されていてもよい。ヘパロサン化合物(基質)は、N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンであってもよい。
【0022】
(1-2)3-O-硫酸化酵素変異体
本発明はまた、下記(a’)~(f’)のいずれかのアミノ酸配列において、
(i)77番目のメチオニン残基がリジン残基に置換されているか、
(ii)96番目のトリプトファン残基がフェニルアラニン残基に置換されているか、
(iii)125番目のプロリン残基がアラニン残基に置換されているか、
(iv)164番目のバリン残基がイソロイシン残基に置換されているか、
(v)167番目のアスパラギン残基がヒスチジン残基に置換されているか、
(vi)171番目のリジン残基がグルタミン残基に置換されているか、または
(vii)259番目のチロシン残基がフェニルアラニン残基に置換されており、かつ
3-O-硫酸転移活性を有する3-O-硫酸化酵素変異体を提供する。
(a’)配列番号8のアミノ酸配列;
(b’)配列番号8のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(c’)配列番号8のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(e’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、もしくは付加を含むアミノ酸配列;または
(f’)配列番号8のアミノ酸配列における48番目から311番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列。
【0023】
(a’)~(c’)は、マウス由来3-OSTのアイソフォーム(3-OST-1)の全長アミノ酸配列に対応する配列番号8で特定される。(d’)~(f’)は、マウス由
来3-OST-1の触媒部位(配列番号8におけるGly48-His311)で特定される。
【0024】
用語「3-O-硫酸転移活性」とは、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基に対して、硫酸基供与体(例、PAPS)からの硫酸基を転移して、α-D-グルコサミン残基の3位において「-O-硫酸基」の構造を生成する活性をいう。
【0025】
3-O-硫酸転移活性の評価は、適宜行うことができる。例えば、3-O-硫酸転移活性の評価は、実施例に記載されるように、3-O-硫酸転移活性を測定し、次いで、二糖組成分析により3-O-硫酸化率を決定することにより行われてもよい。より具体的には、3-O-硫酸転移活性の測定は、1g/L ヘパロサン化合物(基質)、1.25mM
PAPS(硫酸基供与体)、50mM HEPES(pH7.5)の混合液80μL(水浴中で予め37℃に保温)に、変異体含有液20μLを添加することにより、37℃で酵素反応を開始させ、1時間経過後に100℃3分加熱し酵素を失活させることにより、行われてもよい。変異体含有液としては、例えば、精製酵素液、無細胞抽出液を利用することができる。ヘパロサン化合物(基質)としては、後述するものを用いることができるが、N-硫酸化ヘパロサン、もしくは6-O硫酸化ヘパロサン、またはN-硫酸化6-O硫酸化ヘパロサンが好ましい。これらのヘパロサンは、低分子化されていてもよい。ヘパロサン化合物(基質)は、N-硫酸化6-O硫酸化低分子化ヘパロサンがであってもよい。
【0026】
(1-3)変異体に関する一般的な説明
(b)、(e)、(b’)または(e’)のアミノ酸配列では、アミノ酸残基の欠失、置換、付加および挿入からなる群より選ばれる1、2、3または4種の変異により、1個または数個のアミノ酸残基が改変され得る。アミノ酸残基の変異は、アミノ酸配列中の1つの領域に導入されてもよいが、複数の異なる領域に導入されてもよい。用語「1個または数個」は、タンパク質の活性を大きく損なわない個数を示す。用語「1個または数個」が示す数は、例えば、1~100個、好ましくは1~80個、より好ましくは1~50個、さらにより好ましくは1~40個、特に好ましくは1~30個、1~20個、1~10個または1~5個(例、1個、2個、3個、4個、または5個)である。
【0027】
(c)、(f)、(c’)または(f’)のアミノ酸配列に対する同一性%は、90%以上である。好ましくは、同一性は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。より具体的には、ポリペプチド(タンパク質)の同一性%の算出は、アルゴリズムblastpにより行うことができる。ポリペプチドの同一性%の算定は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において提供されているアルゴリズムblastpにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11 Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて行うことができる。ポリヌクレオチド(遺伝子)の同一性%の算定は、アルゴリズムblastnにより行うことができる。より具体的には、ポリヌクレオチドの同一性%の算定は、NCBIにおいて提供されているアルゴリズムblastnにおいて、デフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて行うことができる。
【0028】
(b)、(c)、(e)、(f)、(b’)、(c’)、(e’)または(f’)に対応する変異体は、目的物質の生成に優れ得るという特性を有する。例えば、(b)および
(c)に対応する変異体は、特定の測定条件で活性を測定した場合、(a)に対応する変異体の活性を基準として、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または同等以上の活性を有することが好ましい。(e)および(f)に対応する変異体は、特定の測定条件で活性を測定した場合、(d)に対応する変異体の活性を基準として、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または同等以上の活性を有することが好ましい。(b’)および(c’)に対応する変異体は、特定の測定条件で活性を測定した場合、(a’)に対応する変異体の活性を基準として、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または同等以上の活性を有することが好ましい。(e’)および(f’)に対応する変異体はそれぞれ、特定の測定条件で活性を測定した場合、(d’)に対応する変異体の活性を基準として、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または同等以上の活性を有することが好ましい。このような特定の測定条件として、上述した条件を利用することができる。
【0029】
(b)、(c)、(e)、(f)、(b’)、(c’)、(e’)または(f’)のアミノ酸配列には、目的特性を保持し得る限り、触媒ドメイン中の部位、および触媒ドメイン以外の部位に、変異が導入されていてもよい。目的特性を保持し得る、変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかである。具体的には、当業者は、1)同種の特性を有する複数のタンパク質のアミノ酸配列を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、アミノ酸配列において変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置を特定できる。
【0030】
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0031】
本発明で用いられる変異体はまた、異種部分とペプチド結合を介して連結された融合タンパク質であってもよい。このような異種部分としては、例えば、目的タンパク質(変異体)の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep-tag II等のタグ部分;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、およびこれらの変異型等の目的タンパク質の精製に利用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus-tag)、シャペロンとして働くペ
プチド成分(例、トリガーファクター)、他の機能を有するペプチド成分(例、全長タンパク質またはその一部)、ならびにリンカーが挙げられる。
【0032】
(a)~(f)、および(a’)~(f’)のアミノ酸配列としては、例えば、天然タンパク質、天然に生じるそのホモログ、または人為的に作出された変異タンパク質のアミノ酸配列が挙げられる。変異タンパク質は、例えば、目的タンパク質をコードするDNAに変異を導入し、得られた変異DNAを用いて変異タンパク質を産生させることにより、得ることができる。変異導入法としては、例えば、部位特異的変異導入、ならびに無作為変異導入処理(例、変異剤による処理、および紫外線照射)が挙げられる。
【0033】
2.変異体を用いた目的物質の製造方法
(2-1)ヘパロサン化合物
本発明の製造方法では、ヘパロサン化合物を出発物質として用いることにより所定の目的物質を製造することができる。
【0034】
本発明において、用語「ヘパロサン化合物」とは、ヘパロサン、またはヘパロサン誘導体を意味する。
【0035】
ヘパロサンは、β-D-グルクロン酸(GlcA)残基とN-アセチル-α-D-グルコサミン(GlcNAc)残基からなる二糖の繰り返し構造[→4)-β-D-GlcA-(1→4)-α-D-GlcNAc-(1→]より構成される多糖である。ヘパロサンは、例えば、ヘパロサン生産能を有する微生物を利用した発酵法により調製することができる(例、国際公開第2015/050184号)。
【0036】
本発明において、用語「ヘパロサン誘導体」とは、以下(1)~(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、5、6または7)の修飾を有するヘパロサンをいう:
(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化;
(2)低分子化(depolymerization);
(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化;
(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化;
(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化;
(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化;または
(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化。
これらの修飾様式の詳細は、図面の簡単な説明に記載したとおりである。このようなヘパロサン誘導体は、後述する処理により調製することができる。
【0037】
本発明において、用語「ヘキスロン酸」(HexA)は、β-D-グルクロン酸(GlcA)またはα-L-イズロン酸(IdoA)を意味する。(4)の「ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化」における「ヘキスロン酸残基」としては、β-D-グルクロン酸が好ましい。したがって、(4)のC5-エピメリ化では、β-D-グルクロン酸の異性化によりα-L-イズロン酸が生成することが好ましい。また、(5)の「ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化」における「ヘキスロン酸残基」としては、α-L-イズロン酸が好ましい。したがって、(5)の2-O-硫酸化では、ヘキスロン酸残基としてα-L-イズロン酸の2位の水酸基が硫酸化されることが好ましい。
【0038】
(2-2)ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法
本発明は、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法を提供する。本方法は、上述したような2-O-硫酸化酵素変異体の存在下におい
て、ヘパロサン化合物を、ヘキスロン酸残基の2位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含む。
【0039】
一実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化ヘパロサン化合物であってもよい。用語「N-硫酸化」とは、N-アセチル-D-グルコサミン残基のアミノ基が硫酸化されていることを意味する。N-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(1)および(3)の双方の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。N-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(2)、(4)、(6)、(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、または4)の修飾をさらに有していてもよい。
【0040】
別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、エピメリ化ヘパロサン化合物であってもよい。用語「エピメリ化」とは、ヘキスロン酸残基についてβ-D-グルクロン酸残基がα-L-イズロン酸残基に変換されていることを意味する。エピメリ化ヘパロサン化合物は、上記(4)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。エピメリ化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(3)、(6)、(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0041】
さらに別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、低分子化ヘパロサン化合物であってもよい。用語「低分子化」とは、分子量が小さくなるように処理されることを意味する。例えば、「低分子化」ヘパロサン化合物は、プルランを標準としてGPCにより測定される値として、1000~150000、好ましくは、8000~60000の数平均分子量(Mn)、および2000~300000、好ましくは、10000~100000の重量平均分子量(Mw)を有する。低分子化ヘパロサン化合物は、上記(2)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。低分子化ヘパロサン化合物は、上記(1)、(3)、(4)、(6)、(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0042】
特定の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン化合物であってもよい。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン化合物における「N-硫酸化」、「エピメリ化」、および「低分子化」は、上述したとおりである。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(4)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン化合物は、上記(6)、(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2)の修飾をさらに有していてもよい。
【0043】
好ましい実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンであってもよい(実施例5(1)を参照)。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンにおける「N-硫酸化」、「エピメリ化」、および「低分子化」は、上述したとおりである。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンは、上記(1)~(4)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンは、上記(6)、(7)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2)の修飾を有しない。
【0044】
(2-3)α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法
本発明は、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物の製造方法を提供する。本方法は、上述したような3-O-硫酸化酵素変異体の存在下において、ヘパロサン化合物を、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物に変換することを含む。
【0045】
一実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、上述したようなN-硫酸化ヘパロサン化合物であってもよい。N-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(2)、(4)~(6)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、または4)の修飾をさらに有していてもよい。
【0046】
別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、上述したようなエピメリ化ヘパロサン化合物であってもよい。エピメリ化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(3)、(5)、(6)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0047】
さらに別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、上述したような低分子化ヘパロサン化合物であってもよい。低分子化ヘパロサン化合物は、上記(1)、(3)、(4)~(6)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0048】
さらに別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、2-O-硫酸化ヘパロサン化合物であってもよい。用語「2-O-硫酸化」とは、ヘキスロン酸残基(好ましくはα-L-イズロン酸残基)の2位の水酸基が硫酸化されていることを意味する。2-O-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(5)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。2-O-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(4)、(6)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0049】
さらに別の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、6-O-硫酸化ヘパロサン化合物であってもよい。用語「6-O-硫酸化」とは、N-アセチル-D-グルコサミン残基の6位の水酸基が硫酸化されていることを意味する。6-O-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(6)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。6-O-硫酸化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(5)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2、3、4、または5)の修飾をさらに有していてもよい。
【0050】
特定の実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン化合物であってもよい。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン化合物における「N-硫酸化」、「6-O-硫酸化」、および「低分子化」は、上述したとおりである。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン化合物は、上記(1)~(3)、(6)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン化合物は、上記(4)、(5)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2)の修飾をさらに有していてもよい。
【0051】
好ましい実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサンであってもよい(実施例9(1)を参照)。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサンにおける「N-硫酸化」、「6-O-硫酸化」、および「低分子化」は、上述したとおりである。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサンは、上記(1)~(3)、(6)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサンは、上記(4)、(5)からなる群より選ばれる1以上(例、1、2)の修飾を有しない。
【0052】
別の好ましい実施形態では、出発物質であるヘパロサン化合物は、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンであってもよい。N-硫酸化2-O-硫酸化6-O硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンにおける「N-硫酸化」、「2-O硫酸化」、「6-O-硫酸化」、「エピメリ化」、および「低分子化」は、上述したとおり
である。N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンは、上記(1)~(6)の処理にヘパロサンを供することにより得ることができる。3-O-硫酸化酵素は、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンを基質として利用することができることが周知である(例、国際公開第2017/115674号、国際公開第2017/115675号)。したがって、本発明の3-O-硫酸化酵素変異体は、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンを基質として利用することができる。
【0053】
(2-4)ヘパラン硫酸の製造方法
本発明は、ヘパラン硫酸(好ましくはヘパリン)の製造方法を提供する。本方法は、ヘパロサンを、(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化、(2)低分子化、(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化、(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化、(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化、(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化、および(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化を含む処理に供して、ヘパラン硫酸を生成することを含み、
(I)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化が、上述したような2-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われるか、あるいは
(II)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化が、上述したような3-O-硫酸化酵素変異体の存在下で行われることを特徴とする。
【0054】
ヘパラン硫酸の製造方法において、上記(1)~(7)によるヘパロサンの処理は、後述するような当該分野において周知の方法により行うことができる(例、国際公開第2017/115674号;国際公開第2017/115675号;米国特許第8,227,449号;米国特許出願公開第2012/322114号;Lindahl U. et
al.(2005)J Med Chem 48(2):349-352;Zhang
Z. et al.(2008)Journal of the American Chemical Society 130(39):12998-13007;Chen J,et al.,J Biol Chem.2005 Dec 30;280(52):42817-25.)。
【0055】
(1)α-D-グルコサミン残基のN-脱アセチル化は、例えば、脱アセチル化剤を利用して化学的に実施できる。脱アセチル化剤としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびヒドラジン等の塩基性物質が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムが挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、例えば、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムが挙げられる。
【0056】
N-脱アセチル化としては、部分的N-脱アセチル化が好ましい。N-脱アセチル化は、例えば、N-アセチル基の残存率が下記のような値となるように実施することができる。すなわち、N-アセチル基の残存率は、例えば、1%以上、1.5%以上、3%以上、5%以上、7%以上、9%以上、または11%以上であってもよく、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、33%以下、30%以下、25%以下、20%以下、または17%以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。N-アセチル基の残存率は、具体的には、例えば、1%~33%、7%~33%、7%~30%、または11%~17%であってもよい。例えば、N-アセチル基の残存率7%~30%は、概ね、N-アセチル基が6~28糖残基に1つ(二糖単位として3~14単位に1つ)の比率で存在していることに相当する。また、例えば、N-アセチル基の残存率11%~17%は、概ね、N-アセチル基が12~18糖残基に1つ(二糖単位として6~9単位に1つ)の比率で存在していることに相当する。N-脱アセチル化の程度(すなわちN-アセチル
基の残存率)は、例えば、二糖分析により確認することができる。すなわち、N-アセチル基の残存率は、多糖を二糖分析に供した際の、二糖単位の総量に対する、N-アセチル基を有する二糖単位の量の比率(モル比)として算出することができる。
【0057】
水酸化ナトリウムを利用した部分的N-脱アセチル化の条件としては、例えば、既報(Kuberan B.et al.,(2003)J Biol Chem.,278(52):52613-52621;US2011281820A1)の条件を参照することができる。ヒドラジンを利用した部分的N-脱アセチル化の条件としては、例えば、既報(Glycobiology,10(2000)159-171;Carbohydrate Research,290(1996)87-96;Biochem.J.217(1984)187-197)の条件を参照することができる。
【0058】
(2)低分子化は、ヘパリナーゼを利用して酵素的に実施することができる。ヘパリナーゼとしては、例えば、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、およびヘパリナーゼIIIが挙げられるが、ヘパリナーゼIIIが好ましい。低分子化は、低分子化後のヘパロサンが低分子化前のヘパロサンよりも分子量が小さくなるように処理される限り特に限定されないが、プルランを標準としてGPCにより測定される値として、1000~150000、好ましくは、8000~60000の数平均分子量(Mn)および2000~300000、好ましくは、10000~100000の重量平均分子量(Mw)となるように実施することができる。
【0059】
好ましくは、低分子化は、ヘパリナーゼIIIを用いて行われる。「ヘパリナーゼIII」とは、ヘパロサン等のグリコサミノグリカンにおけるN-硫酸化またはN-アセチル化されたグルコサミン残基の部位を切断する酵素(典型的には、EC4.2.2.8)をいう。本発明において用いられるヘパリナーゼIIIは、N-脱アセチル化ヘパロサンの、N-アセチル基を有するグルコサミン残基の部位を優先的に切断できるものであれば、特に制限されない。
【0060】
(3)α-D-グルコサミン残基のN-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基のアミノ基を硫酸化する工程である。N-硫酸化は、例えば、硫酸化試薬を利用して化学的に実施することができる。硫酸化試薬としては、例えば、三酸化硫黄ピリジン錯体(PySO3)や三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(TMASO3)等の三酸化硫黄錯体が挙げられる。
【0061】
(4)ヘキスロン酸残基のC5-エピメリ化は、ヘパロサン中のβ-D-グルクロン酸残基の異性化によりα-L-イズロン酸残基を生成する工程である。C5-エピメリ化は、C5-エピメラーゼを用いて行うことができる。C5-エピメラーゼとしては、種々の哺乳類および細菌に由来するC5-エピメラーゼを用いることができる(米国特許第8,227,449号;米国特許出願公開第2012/322114号;国際公開第02/46379号;Lindahl U. et al.(2005)J Med Chem 48(2):349-352;Zhang Z. et al.(2008)Journal of the American Chemical Society 130(39):12998-13007;Chen J,et al.,J Biol Chem.2005 Dec 30;280(52):42817-25;John R,et
al.,J Biol Chem.2013 Aug 23;288(34):24332-9)。
【0062】
(5)ヘキスロン酸残基の2-O-硫酸化は、ヘパロサン中のヘキスロン酸残基(好ましくはα-L-イズロン酸残基)の2位の水酸基を硫酸化する工程である。2-O-硫酸化は、例えば、種々の2-O-硫酸化酵素(2-OST)を利用して酵素的に実施するこ
とができる(例、背景技術に挙げた文献を参照)。
【0063】
(6)α-D-グルコサミン残基の6-O-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基の6位の水酸基を硫酸化する工程である。6-O-硫酸化は、例えば、6-O-硫酸化酵素(6-OST)を利用して酵素的に実施することができる。6-OSTとしては、例えば、6-OST-1、6-OST-2、6-OST-3が挙げられる。6-O-硫酸化はまた、例えば、硫酸化試薬を利用して化学的に実施することもできる。硫酸化試薬としては、例えば、三酸化硫黄ピリジン錯体(PySO3)や三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(TMASO3)等の三酸化硫黄錯体が挙げられる。
【0064】
(7)α-D-グルコサミン残基の3-O-硫酸化は、ヘパロサン中のα-D-グルコサミン残基の3位の水酸基を硫酸化する工程である。3-O-硫酸化は、例えば、3-O-硫酸化酵素(3-OST)を利用して酵素的に実施することができる。3-OSTとしては、例えば、3-OST-1、3-OST-2、3-OST-3、3-OST-4、3-OST-5が挙げられる(例、背景技術に挙げた文献を参照)。
【0065】
上記処理は、任意の順番で行うことができる。例えば、(2)低分子化は、上記(1)、(3)~(7)による処理前後または途中に行うことができるが、上記(1)の後であって上記(3)の前に行われてもよい。また、上記(5)~(7)の処理は、いずれの順序により行われてもよいが、代表的には、2-O-硫酸化、3-O-硫酸化、および6-O-硫酸化の順序、ならびに、2-O-硫酸化、6-O-硫酸化、および3-O-硫酸化の順序で行うことができる。上記処理はまた、番号順に行われてもよい(
図1)。上記処理の2以上は、同時または別個に実施してもよい。
【0066】
各工程による生成物は、各工程の反応液に含まれたまま次の工程に供してもよく、反応液から回収して次の工程に供してもよい。反応液から各生成物を回収する手段は、特に制限されない。各生成物を回収する手段としては、膜処理法や沈殿法等の、化合物の分離精製に用いられる公知の手法が挙げられる。各工程による生成物は、適宜、精製、希釈、濃縮、乾燥、溶解、酵素の失活等の処理に供してから、次の工程に供してもよい。精製は所望の程度に実施してよい。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて実施してよい。
【0067】
(2-5)上記(2-2)~(2-4)の方法の実施様式
上記(2-2)~(2-4)の方法における各反応は、適切な系(例、緩衝液系、発酵系)において適宜行うことができる。これらの反応の条件としては、既報(例、上述した文献を参照)、または実施例に記載される条件を採用することができる。例えば、(2-2)および(2-3)の方法は、0.1~50g/L へパロサン化合物、0.05~10mM PAPSを含む適切なpH(例、5.0~9.0)の緩衝液(例、MES、HEPES)中において、適切な温度(例、25~42℃)で所望の時間(例、10分~48時間)反応させることにより、行うことができる。
【0068】
一実施形態では、本発明の方法は、本発明の変異体(以下、必要に応じて「タンパク質」等と称する)自体を用いて行うことができる。例えば、本発明の変異体として組換えタンパク質を用いる場合、組換えタンパク質は、無細胞系ベクターを用いて、または本発明の変異体を産生する形質転換微生物から得ることができる。本発明の変異体は、未精製、粗精製または精製タンパク質として利用することができる。これらのタンパク質としては、反応において、固相に固定された固相化タンパク質として利用されてもよい。
【0069】
形質転換微生物を培養するための培地は公知であり、例えば、LB培地などの栄養培地や、M9培地などの最小培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加して用いることがで
きる。形質転換微生物は宿主に応じて、通常、16~42℃、好ましくは25~37℃で5~168時間、好ましくは8~72時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌を行ってもよく、通気を行ってもよい。放線菌を発現宿主として選択する場合は、タンパク質を生産させるために使用し得る条件を適宜用いることが出来る。また、タンパク質の発現のために誘導型プロモーターを用いた場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養を行うこともできる。
【0070】
産生されたタンパク質は、形質転換微生物の抽出物から公知の塩析、等電点沈殿法もしくは溶媒沈殿法等の沈殿法、透析、限外濾過もしくはゲル濾過等の分子量差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の疎水度の差を利用する方法やその他アフィニティークロマトグラフィー、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、等電点電気泳動法等、またはこれらの組み合わせにより、精製および単離することが可能である。目的タンパク質を分泌発現させた場合には、形質転換微生物を培養して得られた培養液から、菌体を遠心分離等で除くことでタンパク質を含む培養上清が得られる。この培養上清からもタンパク質を精製および単離することが可能である。
【0071】
別の実施形態では、本発明の方法は、本発明の変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下で行うことができる。
【0072】
本発明の変異体を産生する微生物の抽出物としては、任意の方法により処理された、目的タンパク質を含有する処理液を使用することができる。このような処理としては、例えば、上述した単離および精製で言及した方法、ならびに微生物の死滅を可能にする殺微生物処理方法が挙げられる。殺微生物処理方法としては、微生物の死滅を可能にする任意の方法を用いることができるが、例えば、熱処理、酸性処理、アルカリ性処理、界面活性剤処理、および有機溶媒処理が挙げられる。
【0073】
好ましい実施形態では、形質転換微生物は、本発明の変異体をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む発現単位を含む宿主細胞である。
【0074】
用語「発現単位」とは、タンパク質として発現されるべき所定のポリヌクレオチドおよびそれに作動可能に連結されたプロモーターを含む、当該ポリヌクレオチドの転写、ひいては当該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の産生を可能にする最小単位をいう。発現単位は、ターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。発現単位は、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAであることが好ましい。
【0075】
発現単位は、宿主細胞に対して同種(homologous)(すなわち、固有(inherent))であっても、異種(heterologous)(すなわち、非固有)であってもよいが、好ましくは異種発現単位である。用語「異種発現単位」とは、発現単位が宿主細胞に対して異種であることを意味する。したがって、本発明では、発現単位を構成する少なくとも1つのエレメントが宿主細胞に対して異種である。宿主細胞に対して異種である、発現単位を構成するエレメントとしては、例えば、上述したエレメントが挙げられる。好ましくは、異種発現単位を構成する、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、もしくはプロモーターの一方、または双方が、宿主細胞に対して異種である。したがって、本発明では、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、もしくはプロモーターの一方、または双方が、宿主細胞以外の生物(例、原核生物および真核生物、または微生物、昆虫、植物、および哺乳動物等の動物)もしくはウイルスに由来するか、または人工的に合成されたものである。あるいは、目的タンパク質をコードするポリヌクレ
オチドが、宿主細胞に対して異種であってもよい。好ましくは、目的タンパク質が、宿主細胞に対して異種である。
【0076】
異種発現単位を構成するプロモーターは、その下流に連結されたポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を宿主細胞で発現させることができるものであれば特に限定されない。例えば、プロモーターは、宿主細胞に対して同種であっても異種であってもよい。例えば、組換えタンパク質の産生に汎用される構成または誘導プロモーターを用いることができる。このようなプロモーターとしては、例えば、PhoAプロモーター、PhoCプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、PRプロモーター、PLプロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーターが挙げられる。好ましくは、宿主細胞で強力な転写活性を有するプロモーターを用いることができる。宿主細胞で強力な転写活性を有するプロモーターとしては、例えば、宿主細胞で高発現している遺伝子のプロモーター、およびウイルス由来のプロモーターが挙げられる。
【0077】
本発明において、形質転換微生物として使用される宿主細胞としては、例えば、エシェリヒア属細菌(例、エシェリヒア・コリ)、放線菌およびコリネ型細菌を含む種々の微生物が挙げられる。本発明において宿主細胞として用いられるエシェリヒア・コリには一般にクローニングや異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184が含まれる。本発明において宿主細胞として用いられる放線菌には一般に異種タンパク質の発現によく利用される菌株、例えば、S.リビダンス TK24やS.セリカラーA3(2)が含まれる。本発明において宿主細胞として用いられるコリネ型細菌とは好気性のグラム陽性桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int.J.Syst.Bacteriol.,41,255(1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含む。コリネ型細菌を使用することの利点には、これまでにタンパク質の分泌に好適とされてきたカビ、酵母やBacillus属細菌と比べて本来的に菌体外に分泌されるタンパク質が極めて少なく、目的タンパク質を分泌生産した場合にその精製過程が簡略化、省略化できること、分泌生産した酵素を用いて酵素反応を行う場合には、培養上清を酵素源として用いることができるため、菌体成分、夾雑酵素等による不純物、副反応を低減させることができること、糖、アンモニアや無機塩等を含む単純な培地で容易に生育するため、培地代や培養方法、培養生産性の点で優れていることが含まれる。また、Tat系分泌経路を利用することにより、これまでに知られていたSec系分泌経路では分泌生産が困難なタンパク質であったイソマルトデキストラナーゼやプロテイングルタミナーゼ等産業上有用なタンパク質も効率良く分泌させることが可能である(国際公開第2005/103278号)。その他、国際公開第01/23491号、国際公開第02/081694号、国際公開第01/23491号等に開示されるコリネバクテリウム・グルタミカムを用いることもできる。
【0078】
好ましくは、形質転換微生物は、エシェリヒア属細菌である。エシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリが好ましい。
【0079】
本発明で用いられる形質転換微生物は、当該分野において公知の任意の方法により作製することができる。例えば、このような発現単位は、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれた形態、または宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれていない形態(例、発現ベクターの状態)において、宿主細胞に含まれる。発現単位を含む宿主細胞は、当該分野において公知の任意の方法(例、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法)により、発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じる組込み型(integrative)ベクターで
ある場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれることができる。一方、発現ベクターが宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えを生じない非組込み型ベクターである場合、発現単位は、形質転換により、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれず、宿主細胞内において、発現ベクターの状態のまま、ゲノムDNAから独立して存在できる。あるいは、ゲノム編集技術(例、CRISPR/Casシステム、Transcription Activator-Like Effector Nucleases(TALEN))により発現単位を宿主細胞のゲノムDNAに組み込むことが可能である。
【0080】
本発明で用いられる発現ベクターは、発現単位として上述した最小単位に加えて、宿主細胞で機能するターミネーター、リボゾーム結合部位、および薬剤耐性遺伝子等のエレメントをさらに含んでいてもよい。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する耐性遺伝子が挙げられる。
【0081】
発現ベクターはまた、宿主細胞のゲノムDNAとの相同組換えのために、宿主細胞のゲノムとの相同組換えを可能にする領域をさらに含んでいてもよい。例えば、発現ベクターは、それに含まれる発現単位が一対の相同領域(例、宿主細胞のゲノム中の特定配列に対して相同なホモロジーアーム、loxP、FRT)間に位置するように設計されてもよい。発現単位が導入されるべき宿主細胞のゲノム領域(相同領域の標的)としては、特に限定されないが、宿主細胞において発現量が多い遺伝子のローカスであってもよい。
【0082】
発現ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、または人工染色体であってもよい。発現ベクターはまた、組込み型(integrative)ベクターであっても非組込み型ベクターであってもよい。組込み型ベクターは、その全体が宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。あるいは、組込み型ベクターは、その一部(例、発現単位)のみが宿主細胞のゲノムに組み込まれるタイプのベクターであってもよい。発現ベクターはさらに、DNAベクター、またはRNAベクター(例、レトロウイルス)であってもよい。発現ベクターはまた、汎用される発現ベクターを用いてもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、pUC(例、pUC19、pUC18)、pSTV、pBR(例、pBR322)、pHSG(例、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398)、RSF(例、RSF1010)、pACYC(例、pACYC177、pACYC184)、pMW(例、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218)、pQE(例、pQE30)、およびその誘導体が挙げられる。また、コリネバクテリウム・グルタミカムのようなコリネ型細菌を宿主細胞として選択する場合、高コピーベクターであるpPK4などを好適に利用することができる。
【実施例0083】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1:N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンの調製
(1)ヘパロサン発酵
WO2015/050184の実施例1に記載のヘパロサン生産菌(エシェリヒア・コリBL21(DE3)/pVK9-kfiABCD株)および培養条件にてヘパロサンを含有する培養液を得た。
【0085】
(2)ヘパロサンの精製
培養液から遠心分離により培養上清を回収した。培地成分を除去するために1mLの培
養上清をUF膜を用いてmilliQ水で洗浄し、250μLまで濃縮した。UF膜濃縮液250μLに500μLの100%エタノールを加え、遠心分離によってヘパロサンを沈降させた。得られた沈殿を風乾させ、ヘパロサンを得た。残りの培養上清から同様の手順でヘパロサンを精製し、ヘパロサン計10gを得た。
【0086】
(3)ヘパロサンのN-脱アセチル化
先ず、ヘパロサン1.22gにHydrazine・H2O 61mLおよび1N硫酸4.7mLを添加し、気相を窒素置換後、100℃に加温し、4.75時間反応させた。
【0087】
次に、氷冷により反応を停止させた後、16%NaCl水溶液61mLおよびMeOH
610mLを添加して遠心し、上清を除去した。得られた沈殿をH2O 50mLに溶解させた後、AmiconUF膜(3kDa)を用いて脱塩濃縮した。
【0088】
次に、得られた濃縮液に2倍量のH2Oおよび等量の1M NaHCO3を添加後、0.2M I2/0.4M KI溶液を黄色に呈色するまで滴下した。その後Hydrazine・H2Oを滴下し、余剰のヨウ素をヨウ素イオンに還元後、再度AmiconUF膜(3kDa)を用いて脱塩濃縮し、濃縮液を減圧乾固してN-脱アセチル化ヘパロサンを得た。得られたN-脱アセチル化ヘパロサンにおけるアセチル基の残存率は14.9%であった(後述)。
【0089】
(4)N-脱アセチル化ヘパロサンの低分子化
(4-1)ヘパリナーゼIIIの調製
<Flavobacterium heparinum由来hepC遺伝子の発現プラスミドの構築>
Flavobacterium heparinum(ATCC13125)よりヘパリナーゼIIIをコードするhepC遺伝子をpMIV-Pnlp0ベクター(米国特許出願公開20050196846号)にクローニングし、hepC遺伝子の発現プラスミドpMIV-Pnlp0-hepCを構築した。pMIV-Pnlp0-terには強力なnlp0プロモーター(Pnlp0)とrrnBターミネーターが組み込まれており、プロモーターとターミネーターの間に目的の遺伝子を挿入することで発現ユニットとして機能させることができる。「Pnlp0」はエシェリヒア・コリK-12株由来の野生型nlpD遺伝子のプロモーターを示す。
【0090】
発現プラスミドの構築の詳細を以下に示す。エシェリヒア・コリMG1655の染色体DNAをテンプレートとして、プライマーP1(配列番号11)及びプライマーP2(配列番号12)を用いたPCRによって、nlpD遺伝子のプロモーター領域(Pnlp0)約300bpを含むDNA断片を取得した。これらプライマーの5’末端には制限酵素SalI及びPaeIのサイトがそれぞれデザインされている。PCRサイクルは次の通りであった。95℃3分の後、95℃60秒、50℃30秒、72℃40秒を2サイクル、94℃20秒、55℃20秒、72℃15秒を25サイクル、最後に72℃5分。得られた断片をSalI及びPaeIで処理し、pMIV-5JS(特開2008-099668号)のSalI-PaeIサイトに挿入し、プラスミドpMIV-Pnlp0を取得した。このpMIV-Pnlp0プラスミドに挿入されたPnlp0プロモーターのPaeI-SalI断片のヌクレオチド配列は配列番号13に示したとおりである。
【0091】
次に、MG1655の染色体DNAをテンプレートとして、プライマーP3(配列番号14)及びプライマーP4(配列番号15)を用いたPCRによって、rrnB遺伝子のターミネーター領域約300bpを含むDNA断片(配列番号16)を取得した。これらプライマーの5’末端には制限酵素XbaI及びBamHIのサイトがそれぞれデザインされている。PCRサイクルは次の通りであった。95℃3分の後、95℃60秒、50
℃30秒、72℃40秒を2サイクル、94℃20秒、59℃20秒、72℃15秒を25サイクル、最後に72℃5分。得られた断片をXbaI及びBamHIで処理し、pMIV-Pnlp0のXbaI-BamHIサイトに挿入し、プラスミドpMIV-Pnlp0-terを取得した。
【0092】
次に、Flavobacterium heparinum(ATCC13125)のhepC遺伝子のORF(Su H.et.al.,Appl.Environ.Microbiol.,1996,62:2723-2734)を含むDNA鎖を人工合成した。そのDNA鎖をテンプレートとして、プライマーP5(配列番号17)及びプライマーP6(配列番号18)をプライマーとして用いたPCRによって、hepC遺伝子のDNA断片を増幅した。PCRにはPrimeStarポリメラーゼ(TaKaRa社)を用い、プロトコールに記載の反応組成で行った。PCRサイクルは次の通りであった。94℃5分の後、98℃5秒、55℃10秒、72℃8分を30サイクル、最後に4℃保温。また、pMIV-Pnlp0をテンプレートDNAとし、プライマーP7(配列番号19)及びプライマーP8(配列番号20)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRによって、pMIV-Pnlp0のDNA断片を得た。PCRにはPrimeStarポリメラーゼを用い、プロトコールに記載の反応組成で行った。PCRサイクルは次の通りであった。94℃5分の後、98℃5秒、55℃10秒、72℃6分を30サイクル、最後に4℃保温。得られた両DNA断片をIn-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(クロンテック社製)を用いて連結し、hepC遺伝子の発現プラスミドpMIV-Pnlp0-hepCを構築した。クローニングされたhepC遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号21に、それがコードするヘパリナーゼIII(HepC)のアミノ酸配列を配列番号22に示す。
【0093】
<エシェリヒア・コリBL21(DE3)株のhepC遺伝子発現株の構築及びヘパリナーゼIII酵素液の調製>
hepC遺伝子の発現プラスミドpMIV-Pnlp0-hepCをエシェリヒア・コリBL21(DE3)株(ライフテクノロジーズ社)へエレクトロポレーション(Cell:80μL,200Ω,25μF,1.8kV,キュベット:0.1mL)により導入し、ヘパリナーゼIII生産株としてエシェリヒア・コリBL21(DE3)/pMIV-Pnlp0-hepC株を得た。この株を25μg/mLクロラムフェニコール添加LB培地にて37℃で一晩前培養を行った。その後、培養液を、坂口フラスコに300mL張りこんだLB培地中に終濃度2%v/vとなるよう植菌した。37℃にて4時間振とう培養を行い、培養を終了した。遠心分離後、菌体を0.85%NaClにて2回洗浄し、30mLの50mM HEPESバッファー(pH7.0)にて懸濁した。懸濁液を超音波破砕に供して菌体を破砕した。細胞破砕液を遠心分離し、上清(無細胞抽出液)としてヘパリナーゼIII酵素液を調製した。
【0094】
(4-2)ヘパリナーゼIII反応による低分子化
上記(3)で得られたN-アセチル基残存率14.9%のN-脱アセチル化ヘパロサン1gおよび31.3mIU/μLのヘパリナーゼIII溶液2mLを100mM NaClおよび1.5mM CaCl2を含むTris緩衝溶液(pH8.0)100mLに溶解し、37℃にて5.3時間反応させた。反応液に16%NaCl水溶液100mLおよびEtOH 900mLを添加して混合し、遠心分離して上清を除去し、低分子化N-脱アセチル化ヘパロサンを得た。ヘパリナーゼIIIによる低分子化後の分子量について、プルランを標準としてGPCにより測定した。その結果、数平均分子量(Mn)は、9860、重量平均分子量(Mw)は、15430であった。
【0095】
(5)低分子化N-脱アセチル化ヘパロサンのN-硫酸化
先ず、上記(4)で得られた低分子化N-脱アセチル化ヘパロサン1gをmilliQ
水50mLに溶解させ、20mg/mL NaHCO3/20mg/mL Trimethylamine・SO3水溶液を50mL添加して55℃で一晩反応させた。
【0096】
次に、EtOH 1Lを添加して混合し、遠心分離して上清を除去し、N-硫酸化低分子化ヘパロサンを得た。
【0097】
次に、得られたN-硫酸化低分子化ヘパロサンをmilliQ水に溶解して500μLとし、二糖分析を行ってN-脱アセチル化ヘパロサンに対する収率を求めた。手順を以下に示す。
【0098】
<二糖分析>
N-硫酸化低分子化ヘパロサンの二糖分析は、既報(T.Imanari,et.al.,“High-performance liquid chromatographic analysis of glycosaminoglycan-derived
oligosaccharides.”J.O.Chromato.A,720,275-293(1996))の条件に従い実施した。すなわち、N-硫酸化低分子化ヘパロサンをヘパリナーゼIIおよびIIIを用いて不飽和二糖に分解し、分解物をHPLCで分析することにより、各構成二糖の量を定量した。
【0099】
同様に、N-脱アセチル化ヘパロサンの二糖分析を実施した。なお、N-脱アセチル化ヘパロサンの二糖分析は、N-脱アセチル化ヘパロサンをN-硫酸化してから実施した。すなわち、N-脱アセチル化ヘパロサンをN-硫酸化した後、ヘパリナーゼIIおよびIIIを用いて不飽和二糖に分解し、分解物をHPLCで分析することにより、各構成二糖の量を定量した。N-脱アセチル化ヘパロサンのN-硫酸化は、低分子化N-脱アセチル化ヘパロサンのN-硫酸化と同様に実施した。
【0100】
二糖分析は、具体的には、以下の手順で実施した。
(a)ヘパリナーゼII 0.2U(Sigma)、ヘパリナーゼIII 0.02~0.03mIU、多糖サンプル5μg、および酵素消化用buffer(100mM CH3COONa,10mM(CH3COO)2Ca,pH7.0)10μLを混合し、milliQ水で100μLにメスアップし、反応溶液とした。
(b)反応溶液を37℃で16時間以上反応させた後、100℃にて2分間煮沸し、反応を停止させた。
(c)0.45μmのフィルターで不溶物を除去した溶液を二糖分析用サンプルとした。(d)分析は、カラムにはInertsil ODS-3 150mm×2.1mm、粒子径5μmを用い、温度は50℃、流速は0.25mL/min、検出波長は230nm、溶離液はA液として4%Acetonitrile、1.2mM Tributylamineを用い、B液として4%Acetonitrile、0.1M CsClを用い、B液1-90%のグラジエント条件で行った。
【0101】
各多糖サンプルから生成した構成二糖の量の合計から、収率を算出した。すなわち、収率は、N-脱アセチル化ヘパロサンから生成した二糖の全量に対する、N-硫酸化低分子化ヘパロサンから生成した二糖の全量の比率(モル比)として算出した。また、この時、得られたN-硫酸化低分子化ヘパロサンにおいて、N-脱アセチル化により生じたアミノ基の99%以上がN-硫酸化されていることを確認した。
【0102】
また、N-脱アセチル化ヘパロサンから生成した各構成二糖の量に基づき、N-脱アセチル化ヘパロサンにおけるN-アセチル基の残存率を算出した。すなわち、アセチル基の残存率は、二糖の総量に対する、N-アセチル基を有する二糖の量の比率(モル比)として算出した。アセチル基の残存率は、14.9%であった。
【0103】
(6)N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンの調製
(6-1)精製D-グルクロニル C5-エピメラーゼ(Dlce)の調製
<ゼブラフィッシュ由来Dlce発現菌株の構築>
pMAL-c2x(配列番号23、New England BioLabs社)をテンプレートDNAとし、配列番号24および25をプライマーとして用いたPCR反応によって、変異型Maltose binding protein(MBP*)のC末端領域DNA断片を得た。上記PCR反応においては、5’末端に制限酵素BglII、3’末端に制限酵素HindIII、BamHI、SacI、XhoI、およびNotIの認識サイトを付加した。pMAL-c2xプラスミドDNAおよびMBP*のC末端領域DNA断片をBglIIおよびHindIIIにより切断し、ライゲーション反応を行うことによりpMAL-MBP*プラスミドを得た。pMAL-MBP*プラスミドのヌクレオチド配列を配列番号26に示す。
【0104】
pMAL-MBP*をテンプレートDNAとして、ポリメラーゼとしてPrimeStarポリメラーゼ(TaKaRa社)を使用して、製造元のプロトコールに従ってPCRを行い、pMAL-MBP*のDNA断片を得た。プライマーとしては配列番号27および28の組み合わせを使用した。
【0105】
ゼブラフィッシュ由来DlceのcDNAを人工遺伝子合成(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により調製した。そのcDNAをテンプレートとして、配列番号29および30をプライマーとして用いたPCR反応によって、ゼブラフィッシュ由来Dlceの触媒部位(G70-Asn585)をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を取得した。得られたDNA断片とpMAL-MBP*のDNA断片をIn-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(クロンテック社製)を用いて連結した。該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、pMAL-MBP*-dreDlce(G70)を得た。得られたプラスミドでエシェリヒア・コリOrigami
B(DE3)を形質転換し、エシェリヒア・コリOrigami B(DE3)/pMAL-MBP*-dreDlce(G70)と命名した。挿入断片のヌクレオチド配列、および、それによりコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号31および32に示す。
【0106】
<D-グルクロニル C5-エピメラーゼ(Dlce)の調製>
エシェリヒア・コリOrigami B(DE3)/pMAL-MBP*-dreDlce(G70)を100μg/mLアンピシリンを添加したLB培地に植菌し、37℃にて一晩前培養を行った。その後、100μg/mLアンピシリンを添加したLB+Glycerol培地(95%(v/v)LB培地、1.0%(v/v)グリセロール、5mM
MOPS-KOH (pH 7.0))を100mL張り込んだ500mL容坂口フラスコに、終濃度1%となるように植菌し、37℃にてOD660が0.5-0.7となるまで振とう培養後、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)(ナカライテスク社)を終濃度0.5mMとなるよう添加し、さらに一晩22℃にて培養を行った。
【0107】
培養液を遠心分離後、菌体を回収し、緩衝液-1(20mM Tris-HCl(pH7.5)、200mM NaCl)により1回洗浄し、懸濁した。懸濁液を超音波破砕機201M(久保田商事株式会社)により超音波破砕し14,000rpm、20分間の遠心分離後の上清を無細胞抽出液として得た。次いで、無細胞抽出液を20 mM Tris(pH 7.5)、200 mM NaClにより平衡化したMBPTrap HP 5 ml (GEヘルスケア)に供し、非吸着タンパク質を緩衝液-1で洗浄後、10 mMのマルトースを添加した緩衝液-1にて溶出し、精製MBP*-dreDlce(G
70)を取得した。
【0108】
(6-2)DlceによるC5-エピメリ化
上記(4)で取得したN-硫酸化低分子化ヘパロサンのC5-エピメリ化反応を実施した。4g/L N-硫酸化低分子化ヘパロサン、50mM MES(pH7.0)、1mM塩化カルシウムに8mU/mLの精製MBP*-dreDlce(G70)を添加し、37℃にて一晩反応した。95℃、15分間の熱処理による反応停止後、反応停止液をアミコンウルトラ-15 3K(Merck Millipore)を用いて超純水に液置換した。
【0109】
(6-3)C5-エピメリ化率の定量
C5-エピメリ化率の定量は、亜硝酸分解による二糖組成分析により実施した。その結果、C5-エピメリ化率は26.7%であった。
【0110】
<試薬>
NaNO2(CAS No.:7632-00-0,MW:69.01)
クエン酸(CAS No.:77-92-9,MW:192.1)
2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(CAS No.:119-26-6,MW:198.1)50%含水品(略:DNPH)
【0111】
<試験液>
NaNO2水溶液:試薬49.5mgをH2O 1mLに溶解
クエン酸水溶液:試薬384.2mgをH2O 1mLに溶解
DNPH溶液:試薬20.4mg(50%含水)をアセトニトリル1mLに溶解
【0112】
<分析手順>
1.5mLマイクロチューブ(Eppendorf)に反応液10μL、クエン酸緩衝液20μL、NaNO2水溶液10μLを順に添加し、混合溶液を65℃で2hr撹拌(1000rpm)し、亜硝酸分解液を得た。得られた亜硝酸分解液40μLにDNPH溶液20μLを添加し、45℃で2hr撹拌(1000rpm)し、誘導化液を得た。得られた誘導化液の組成を下記に示す条件によりHPLCで分析した。
【0113】
<HPLC分析条件>
カラム:住化分析センター製ODS Z-CLUE3μm 2.0mm×250mm
カラム槽温度:50℃
溶離液流量:0.3mL/min
検出:UV365nm
注入量:5μL
溶離液組成:A液 50mM-HCOONH4(pH4.5)
B液 MeCN
【0114】
【0115】
【0116】
実施例2:2-O硫酸化酵素(2-OST)発現菌株の構築
(1)pC2-1の構築
2-O硫酸化酵素(2-OST)としては、チャイニーズハムスター由来の2-OSTの94番目のチロシン残基をアラニンに変換した変異体の触媒部位(Asp69-Asn356)と、マルトース結合タンパク質MBPとの融合タンパク質(MBP**-2-OST)を利用した。
【0117】
発現プラスミドの構築の詳細を以下に示す。pMAL-c2xプラスミドをテンプレートDNAとして、ポリメラーゼとしてPrimeStarポリメラーゼ(TaKaRa社)を使用して、製造元のプロトコールに従ってPCRを行い、pMAL-MBP**のDNA断片を得た。プライマーとしては、配列番号33および34の組み合わせを使用した。
【0118】
小林らの報告(Kobayashi M. et. al., Jour. Biol. Chem. 1997, 272:13980-13985)を参照して、チャイニーズハムスター由来の2-OSTの94番目のチロシン残基をイソロイシンに変換した変異体のcDNA(エシェリヒア・コリのcodon usageに合わせて最適化)を人工遺伝子合成(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により調製した(ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列については、配列番号5および6を参照)。そのcDNAをテンプレートとして、配列番号35および36のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCR反応によって、チャイニーズハムスター由来の2-OSTの触媒部位(Asp69-Asn356)をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片2-OST(Y94A)を取得した。得られたDNA断片とpMAL-MBP**のDNA断片をIn-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(クロンテック社製)を用いて連結した。該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布後、37℃で終夜培養した。生育してきた形質転換微生物のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティ
ックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてヌクレオチド配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドをpC2-1と名付けた。
【0119】
(2)変異型2-OST発現プラスミドの構築
変異型2-OST発現プラスミドを構築するため、各種変異型に対応するプライマー(配列番号37~64)を用いて、pMAL-MBP**-2-OST(Y94A)を鋳型として、PCRを実施した。各変異とプライマーの関係を表3に示す。得られたPCR産物をDpnIで消化した後、該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布後、37℃で終夜培養した。生育してきた形質転換微生物のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてヌクレオチド配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドpC2-2、3、4、5、6、7、8、10、11、12を取得した。同様の方法で、pC2-3を鋳型として、PCRを実施し、pC2-22、25、26、27、28を構築した。各変異とプライマーおよびプラスミドの関係を表3に示す。
【0120】
【0121】
(3)発現菌株の構築
シャペロニン発現プラスミドpGro7(TaKaRa社)でエシェリヒア・コリOrigami B(DE3)株(ノバジェン社)を形質転換し、エシェリヒア・コリOrigami B(DE3)/pGro7を構築した。これを上記(1)および(2)で構築したプラスミドpC2-1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、20、21、22、23、24、25、26、27、28によりそれぞれ形質転換し、菌株C2-1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、20、21、22、23、24、25、26、27、28を取得した。
【0122】
実施例3:2-OSTの発現および無細胞抽出液の調製
実施例2で取得した菌株を100μg/mLアンピシリンおよび25μg/mLクロラムフェニコールを添加したLB培地に植菌し、37℃にて一晩前培養を行った。その後、
100μg/mLアンピシリンおよび25μg/mLクロラムフェニコールを添加したLB+Glycerol培地を100mL張り込んだ500mL容坂口フラスコに、終濃度1%となるように植菌し、37℃にてOD660が0.5-0.7となるまで振とう培養後、IPTG(ナカライテスク社)を終濃度0.5mM、L-アラビノース(和光純薬工業社)を終濃度0.2%となるよう添加し、さらに一晩22℃にて培養を行った。
【0123】
培養液を遠心分離後、菌体を回収し、緩衝液-2(20mM Tris-HCl(pH7.5)、200mM NaCl、15% Glycerol)により1回洗浄し、培養液の1/10量の緩衝液-2にて懸濁した。次いで、菌体をBioraptor(ソニック・バイオ株式会社)により超音波破砕し14,000rpm、20分間の遠心分離後の上清液を無細胞抽出液として得た。
【0124】
実施例4:分子量分画による高次構造解析と活性体(3量体)率の測定
実施例3で取得した無細胞抽出液0.5mLを、緩衝液-2で予め平衡化したSuperose 6 increase 10/300カラム(GEヘルスケア社)に注入し、流速0.25mL/分にて分子量分画した。0.2倍のカラムボリューム量以降の透過液を0.4mLずつ98穴プレートに回収した。分子量スタンダードとしては、ゲルろ過スタンダード(バイオ・ラッド社、#151-1901)および分子量マーカー(HPLC)(オリエンタル酵母工業株式会社、#46804000)を使用した。
【0125】
各フラクション10μLに試料緩衝液(SDS-PAGE用, 6倍濃縮, 還元剤含有)(ナカライテスク)を2μL添加し、95℃にて5分間熱変性した。全量を4-20% Criterion(登録商標) TGX(登録商標) プレキャストゲルを用いたSDS-PAGEに供し、ゲルをバレットCBBステイン ワン(Ready To Use)(ナカライテスク)を用いて染色した。本来、2-OSTは活性体として3量体を形成しており、3量体はフラクションの29番目(C3フラクション)付近に溶出されるが、推定分画分子量が3量体のものより大きな画分にも多くの2-OSTが溶出され、多量体を形成していることが推定された。そこで、ゲルの染色像をAmersham Imager 600(GEヘルスケア)により取り込み、多量体の分子量を示す2-OSTが分画されたフラクションの9番目(A9)、および、3量体の分子量を示す2-OSTが分画された29番目(C3)中の2-OSTのバンド強度をImage QuantTL(GEヘルスケア)を用いて解析した。各バンド強度の解析結果から、C3フラクションのバンド強度/A9フラクションのバンド強度×100を算出し、活性体の含まれる割合を示す指標とした。
【0126】
各種変異体発現株から調製した無細胞抽出液の活性体率を算出した結果を表4に示す。L321Rの変異導入により活性体率指標が向上することが明らかとなった。
【0127】
【0128】
実施例5:無細胞抽出液による2-O硫酸化反応
(1)2-O硫酸化反応
実施例1で調製したN-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンを基質として反応を実施した。反応液(2mg/mL N-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、0.6mM 3’-Phosphoadenosine-5’-phosphosulfate、50mM MES(pH7.0))に各無細胞抽出液を1.9%添加し、37℃で30分間反応を行い、2倍量の2.0M クエン酸水溶液と混合し、95℃、15分間の熱処理により反応を停止した。陰性対照として、反応液に無細胞抽出液の代わりに緩衝液-2を添加した条件で酵素反応を実施した。
【0129】
2-O硫酸化率は二糖組成分析により定量した。HPLC分析により求めたIdoA-GlcN(NS)とIdoA2S-GlcN(NS)の比率から2-O硫酸化率を算出し、各2-O硫酸化率から陰性対象の2-O硫酸化率を差し引いた値を2-O硫酸化反応において変換された割合として求めた。2糖単位であるGIdoA-GlcNSの分子量415.8から、変換した物質量を算出した。酵素単位(U)は、上記の条件下で、1分間に1μmolのIdoA(2S)-Glc(NS)を生成させる酵素量と定義した。実施例4ではL321R変異導入により、無細胞抽出液中の活性体(3量体)の比率が約2倍に向上し、活性向上が期待されたが、活性体率から予想された通り、L321Rの変異導入によって2-O硫酸化活性は135 U/mlから330 U/mlと大きく向上した(表5)。
【0130】
【0131】
(2)変換率の定量(二糖組成分析)
変換率(2-O-硫酸化率および3-O-硫酸化率)の定量は、亜硝酸分解による二糖組成分析により実施した。
【0132】
<試薬>
NaNO2(CAS No.:7632-00-0,MW:69.01)
クエン酸(CAS No.:77-92-9,MW:192.1)
2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(CAS No.:119-26-6,MW:198.1)50%含水品(略:DNPH)
Heparin(Aldrich製)
【0133】
<試験液>
Heparin標準溶液:1mg/mL
NaNO2水溶液:試薬49.5mgをH2O1mLに溶解
クエン酸水溶液:試薬384.2mgをH2O1mLに溶解
DNPH溶液:試薬20.4mg(50%含水)をアセトニトリル1mLに溶解
【0134】
<LC-MS分析条件>
<LC条件>
カラム:住化分析センター製ODS Z-CLUE3μm 2.0mm×250mm
カラム槽温度:50℃
溶離液流量:0.3mL/min
検出:UV365nm
注入量:5μL
溶離液組成:A液 50mM-HCOONH4(pH4.5)
B液 MeCN
【0135】
【0136】
<MS条件>
イオン化法 ;エレクトロスプレーイオン化(ESI(+/-))
DL温度 :250℃
ヒートブロック :250℃
ネブライザーガス流速:1.5L/min
ドライガス流速 :15L/min
【0137】
【0138】
<分析手順および結果>
1.5mLマイクロチューブ(Eppendorf)にHeparin標準液又は被験液10μL、クエン酸buffer水溶液20μL、NaNO2水溶液10μLを順に添加し、混合溶液を65℃で2hr撹拌(1000rpm)し、亜硝酸分解液を得た。得られた亜硝酸分解液40μLにDNPH溶液20μLを添加し、45℃で2hr撹拌(1000rpm)し、誘導化液を得た。得られた誘導化液の組成をLC-MSで分析した。Heparin標準液を分析して得られるIdoA(2S)-GlcN(NS6S)のピークから換算係数(1mg×IdoA(2S)-GlcN(NS6S)のarea純度/IdoA(2S)-GlcN(NS6S)のarea値)を算出し、被験液中の各二糖誘導体のarea値からその濃度を求めた。算出された二糖構造とその割合を表3に示す。表中、N-アセチル基を有する二糖誘導体等を含むと考えられる未同定ピークのデータは割愛し、GlcA(2S)-GlcN(NS)、IdoA(2S)-GlcN(NS)、GlcA-GlcN(NS)、およびIdoA-GlcN(NS)の総量を100%とした。
【0139】
実施例6:N-硫酸化6-O硫酸化低分子化ヘパロサンの調製
(1)N-硫酸化低分子化ヘパロサンの6-O硫酸化
<反応前の精製>
実施例1(5)で得られたN-硫酸化低分子化ヘパロサン30mLを遠心分離し(7000G、30分)、その上清を0.45μmのフィルターで濾過した。濾過液27.3gをファルマシア製カラム(型番:XK26)に充填した弱アニオン交換樹脂15g(DIAION、WA-30三菱化学製 事前に25.6mM NaH2PO4でpH5.5に調整)に投入して多糖成分を吸着し、洗浄液(0.5M NaCl+25.6mM NaH2PO4(pH5.5))480mLを通液した(流速:6.4mL/min)。次に、溶離液(2M NaCl+25.6mM NaH2PO4(pH5.5))230mLを通液し(流速6.4mL/min)、多糖成分を含む溶離液を得た。得られた溶離液をAmicon-3K(メルクミリポア製)にチャージして遠心分離(4000G)を行った。得られた濃縮液に更に水100mLを添加して再度遠心分離を行った。この洗浄操作を3回実施して洗浄濃縮液11gを取得した。
【0140】
<イオン交換>
強カチオン交換樹脂(DIAION、UBK550三菱化学製 予め1M塩酸でH型に変換)3mLに洗浄濃縮液11gを通液した後(pH2.25)、トリブチルアミン2.36mg/エタノール10μLの混合液1.8mLを添加して中和した(pH8.36)。得られた中和液を凍結乾燥した。
【0141】
<6-O硫酸化反応>
アルゴン気流下で凍結乾燥物全量にDMF1.92mL及び三酸化硫黄ピリジン付加物76.4mg(0.48mmol)を添加し、-10℃で48時間撹拌した。反応液に5M酢酸Na水溶液2.8mL及び水31mLを添加して室温で1時間撹拌することで反応を停止した。反応停止液を0.2μmのフィルターで濾過し、その濾過液をAmicon-3K(メルクミリポア製)にチャージして遠心分離(4000G)を行った。得られた濃縮液に更に水20mLを添加して再度遠心分離を行った。この洗浄操作を2回実施して洗浄濃縮液3.92gを取得した。得られた洗浄濃縮液をサンプリングし、実施例1と同様の手順で亜硝酸分解により二糖組成分析を行った。その結果、洗浄濃縮液3.92g中に二糖単位の量に換算して76.5mgの反応生成物N-硫酸化6-O硫酸化低分子化ヘパロサンが含まれていることを確認した。
【0142】
実施例7:3-O硫酸化酵素(3-OST-1)発現菌株の構築
(1)pETDuet-3-OST-1の構築
マウス由来3-OST-1のアミノ酸配列(NCBI-Protein ID:NP_034604;配列番号8)をKEGG(Kyoto Encyclopedia of
Genes and Genomes)データベースより取得した。既報(Edavettal S.C.et al.,J Biol Chem.2004;279(24)25789-97)を参考に、エシェリヒア・コリのcodon usageに合わせて最適化した、同3-OST-1の触媒部位(Gly48-His311;配列番号10)をコードする塩基配列(配列番号9)を含むDNA断片を合成した。得られたDNA断片をpETDuet-1ベクター(Novagen)のEcoRI-SalIサイトに挿入して、3-OST-1発現プラスミドpETDuet-3-OST-1を構築した。この発現プラスミドによれば、N末端側にHis-Tagが付加された3-OST-1が発現するため、Hisタグによる3-OST-1の精製が可能となる。
【0143】
(2)変異型3-OST-1発現プラスミドの構築
変異型3-OST-1発現プラスミドを構築するため、各種変異型に対応するプライマー(配列番号65~138)を用いて、pETDuet-3-OST-1を鋳型として、PCRを実施した。各変異とプライマーの関係を表6に示す。得られたPCR産物をDpnIで消化した後、該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布後、37℃で終夜培養した。生育してきた形質転換微生物のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてヌクレオチド配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドpET3OST#1、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、17、18、19、20、21、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40を取得した。各変異とプライマーおよびプラスミドの関係を表8-1および8-2に示す。
【0144】
【0145】
【0146】
(3)3-OST-1発現菌株の構築
野生型3-OST-1を搭載した発現プラスミドpETDuet-3-OST-1、および変異型3-OST-1を搭載した37種の発現プラスミドpET3OSTをエシェリヒア・コリBL21(DE3)株へ実施例1(5)と同様の手法で導入し、野生型3-OST-1発現株pETDuet-3-OST-1/BL21(DE3)株(3OS-WT)および37種の変異型3-OST-1発現株を得た。
【0147】
実施例8:3-OSTの発現および無細胞抽出液の調製
実施例7で取得した菌株を100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地3mL(1.0%(w/v)ペプトン、0.5%(w/v)酵母エキス、1.0%(w/v)NaCl、1.5%(w/v)寒天)に接種し、試験管にて37℃での一晩前培養を行なった。トリプトントリプトン(BD社製)1.2%(w/v)、酵母エキス(BD社製)2.4
%(w/v)、グリセリン(純正化学社製)0.5%(w/v))及び水からなる溶液Aを120℃、20分オートクレーブ処理して調製し、リン酸二水素カリウム(純正化学社製)2.3%(w/v)、リン酸水素二カリウム(純正化学社製)12.5%(w/v)及び水からなる溶液Bを0.45μmフィルター(メルク社製)を用いてろ過調製した。上記の溶液Aと溶液BをA:B=9:1となるように無菌環境下混合し、TB培地を調製した。TB培地3mL(100μg/mLアンピシリン含有)を張り込んだ試験管に、前培養した培養液を終濃度1%となるよう添加し、37℃にて、120往復/分でOD660が0.5-0.7に到達するまで振とう培養した。そこでIPTG(ナカライテスク社)を終濃度0.2mMとなるよう添加し、さらに24~26時間振とう培養を行なった。培養液1mLを遠心分離(4℃、15,000rpm、5分)によって集菌した。沈殿として得られた菌体を1mLの平衡化バッファー(50mM リン酸ナトリウム、300mM
NaCl、pH7.0)に懸濁し、再度遠心分離(4℃、8,000rpm、5分)することによって菌体を洗浄した。洗浄操作を2回繰り返した後、沈殿として得られた菌体を400μLの平衡化バッファーに再度懸濁し、4℃冷却水で冷やしながら超音波破砕装置Bioruptor(ソニック・バイオ社製)を用いて、菌体破砕を行った。破砕液を遠心分離(4℃、15,000rpm、20分)し、得られた上清を無細胞抽出液とした。
【0148】
実施例9:無細胞抽出液による3-O硫酸化反応
(1)GlcN残基の3-O硫酸化反応
実施例6で得られたN-硫酸化6-O硫酸化低分子化ヘパロサンを基質として反応を実施した。反応液として、1g/L N-硫酸化6-O硫酸化低分子化ヘパロサン、1.25mM PAPS、50mM HEPES(pH7.5))の混合液80μLを調製した。水浴中で予め37℃に保温した同混合液に実施例8で調製した無細胞抽出液 20μLを添加し酵素反応を開始した。37℃で反応を進行させ、1時間経過後に100℃3分加熱し酵素を失活させた。
【0149】
(2)GlcN残基の3-O-硫酸化率の定量
実施例5(2)と同様の手順で亜硝酸分解により反応生成物の二糖組成分析を行った。反応停止液を亜硝酸分解による二糖組成分析に供することより3-O硫酸化率を算出した。3-O硫酸化率の計算方法は、式(I)の通りである。
【0150】
【0151】
(3)変異型3-OST-1の活性評価
実施例9(2)で求めた3-O硫酸化率をもとに3-OST活性を算出した。1分間に1μmolの3-O硫酸化二糖単位GlcA-GlcNS3S6S(分子量 593)を生成させる酵素量を1Uと定義した。野生型3-OST-1の酵素活性を1とする変異型3-OST相対活性を表9に示す。活性評価の結果、M77K、P125A、およびV164Iの変異導入により、3-OST活性が向上することが明らかとなった。
【0152】
前記ヘパロサン化合物が、N-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサン、N-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化低分子化ヘパロサン、またはN-硫酸化2-O-硫酸化6-O-硫酸化エピメリ化低分子化ヘパロサンである、請求項2記載の方法。
前記3-O-硫酸化酵素変異体を産生する形質転換微生物、またはその抽出物の存在下において、α-D-グルコサミン残基の3位の水酸基が硫酸化された修飾ヘパロサン化合物が製造される、請求項2または3記載の方法。