IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコン・エシロールの特許一覧

特開2022-169812眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡レンズ発注装置、眼鏡レンズ受注装置および眼鏡レンズ受発注システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169812
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡レンズ発注装置、眼鏡レンズ受注装置および眼鏡レンズ受発注システム
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20221102BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20221102BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20221102BHJP
   G06Q 30/06 20120101ALI20221102BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/06
G06F17/50 680A
G06Q30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019177824
(22)【出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】本間 幸男
【テーマコード(参考)】
2H006
5B046
5B146
5L049
【Fターム(参考)】
2H006BD03
5B046BA08
5B046CA06
5B146AA09
5B146BA01
5L049BB58
(57)【要約】
【課題】複数の距離における装用者の利き目の度合に応じた眼鏡レンズを提供する。
【解決手段】眼鏡レンズの設計方法は、異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報を取得することと、当該情報に基づいて、眼鏡レンズの設計を行うこととを備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報を取得することと、
前記情報に基づいて、眼鏡レンズの設計を行うことと
を備える眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記眼鏡レンズの設計では、前記情報に基づいて、左眼用の眼鏡レンズにおける光学特性値の分布と、右眼用の眼鏡レンズにおける光学特性値の分布とから、設計する眼鏡レンズにおける光学特性値の分布を算出する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
請求項2に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記眼鏡レンズの設計では、空間の各位置を見る際に、前記左眼用の眼鏡レンズにおいて視線が通過する第1位置と、前記右眼用の眼鏡レンズにおいて視線が通過する第2位置とが算出され、
前記情報と、算出された前記第1位置における前記光学特性値と、算出された前記第2位置における前記光学特性値とから、設計する眼鏡レンズの前記光学特性値が算出される、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
請求項3に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記情報は、前記装用者の前記利き目の度合を示す数値を含む、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
請求項4に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記数値に基づいた重みを用いて、前記第1位置における前記光学特性値と、前記第2位置における前記光学特性値との重みづけ加算により前記設計する眼鏡レンズの前記光学特性値が算出される眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
請求項5に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記数値は、前記装用者が前記空間の各位置を見る際の視線のずれに基づいて算出される眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
請求項6に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記数値は、前記装用者から前記各位置までの距離に基づいて算出される、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項2から7までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記光学特性値は、目標収差および目標屈折力の少なくとも一つである、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記情報は、前記装用者が特定の環境にいる際の、装用者の利き目についての情報である、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項10】
請求項9に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記環境は、車の内部である、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズの製造方法。
【請求項12】
請求項11の眼鏡レンズの製造方法で製造された眼鏡レンズ。
【請求項13】
異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報の入力を受け付ける入力部と、
前記入力部を介して入力された前記情報を眼鏡レンズ受注装置に送信する送信部と、
を備える眼鏡レンズ発注装置。
【請求項14】
異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報を受信する受信部と、
前記情報に基づいて眼鏡レンズを設計する設計部と、
を備える眼鏡レンズ受注装置。
【請求項15】
請求項13に記載の眼鏡レンズ発注装置と、請求項14に記載の眼鏡レンズ受注装置とを備える眼鏡レンズ受発注システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡レンズ発注装置、眼鏡レンズ受注装置および眼鏡レンズ受発注システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの装用者の左眼または右眼のいずれが利き目であるかに基づいて、眼鏡レンズを設計することが報告されている(特許文献1参照)。利き目に基づいて、より装用者に合った眼鏡レンズの設計方法が提案されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/061267号
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、眼鏡レンズの設計方法は、異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報を取得することと、前記情報に基づいて、眼鏡レンズの設計を行うこととを備える。
本発明の第2の態様によると、眼鏡レンズの製造方法は、第1の態様の眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズを製造する。
本発明の第3の態様によると、眼鏡レンズは、第2の態様の眼鏡レンズの製造方法で製造されたものである。
本発明の第4の態様によると、眼鏡レンズ発注装置は、異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報の入力を受け付ける入力部と、前記入力部を介して入力された前記情報を眼鏡レンズ受注装置に送信する送信部と、を備える。
本発明の第5の態様によると、眼鏡レンズ受注装置は、異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報を受信する受信部と、前記情報に基づいて眼鏡レンズを設計する設計部と、を備える。
本発明の第6の態様によると、眼鏡レンズ受発注システムは、第4の態様の眼鏡レンズ発注装置と、第5の態様の眼鏡レンズ受注装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、一実施形態に係る眼鏡レンズを示す概念図である。
図2図2は、利き目を説明するための概念図である。
図3図3は、利き目を説明するための概念図である。
図4図4は、利き目依存度の算出を説明するための概念図である。
図5図5は、利き目依存度の算出を説明するための概念図である。
図6図6は、利き目依存度に関連する各数値と利き目依存度とを示す表である。
図7図7は、ターゲットオブジェクト座標と利き目依存度とを示す表である。
図8図8は、利き目依存度のスプライン補間を説明するための概念図である。
図9図9は、眼鏡レンズの形状に関する数値を示す概念図である。
図10図10は、目標非点収差の混合処理を説明するための概念図である。
図11図11は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
図12図12は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
図13図13は、一実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムを示す概念図である。
図14図14は、一実施形態に係る眼鏡レンズの提供の流れを示すフローチャートである。
図15図15は、変形例における利き目依存度の設定を説明するための概念図である。
図16図16は、実施例における眼鏡レンズの物体側面のサグを示す図である。
図17図17は、実施例における眼鏡レンズの眼球側面のサグを示す図である。
図18図18は、実施例における眼鏡レンズの混合処理前の目標非点収差を示す図である。
図19図19は、実施例における眼鏡レンズの混合処理後の目標非点収差を示す図である。
図20図20は、実施例における眼鏡レンズの設計後の非点収差を示す図である。
図21図21は、実施例における眼鏡レンズの混合処理前の目標平均屈折力を示す図である。
図22図22は、実施例における眼鏡レンズの混合処理後の目標平均屈折力を示す図である。
図23図23は、実施例における眼鏡レンズの設計後の平均屈折力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法等について説明する。以下の記載において、屈折力の単位は、特に言及しない場合にはディオプター(D)によって表されるものとする。また、以下の説明において、眼鏡レンズの「上方」、「下方」、「上部」、「下部」等と表記する場合は、当該眼鏡レンズが装用されたときのレンズの位置関係に基づくものとする。
【0007】
眼鏡レンズの装用状態における、眼球の回旋点(回旋中心)を通る光線が眼鏡レンズの物体側または眼球側の面と交差する位置における、眼鏡レンズの最大屈折力と最小屈折力の算術平均を平均屈折力とする。以下では、特に断りの無い限り、「屈折力」はこの平均屈折力を指す。上記回旋点を通る光線における、眼鏡レンズの最大屈折力と最小屈折力の差を非点収差とする。これらの屈折力および非点収差は、装用者の処方データにおいて指定された装用者の眼の収差を補正して完全矯正にするために必要な球面度数、円柱度数および乱視軸角度の分を、適宜眼球運動におけるリスティングの法則を考慮して取り除いた値とする。
【0008】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報に基づいて、眼鏡レンズが設計される。設計する眼鏡レンズの種類は特に限定されず、単焦点レンズ、二重焦点レンズまたは累進屈折力レンズ等とすることができる。本実施形態で設計される累進屈折力レンズは、外面累進レンズ、内面累進レンズまたは両面累進レンズのいずれでもよい。ここで、外面累進レンズは、物体側のレンズ面を累進面とする眼鏡レンズであり、内面累進レンズは、眼球側のレンズ面を累進面とする眼鏡レンズであり、両面累進レンズは、物体側のレンズ面と眼球側のレンズ面との両方を累進面とする眼鏡レンズである。乱視について処方されている装用者に対してはいずれの累進屈折力レンズの場合も、眼球側の球面または累進面に円柱面またはトーリック面等を足し合わせた面とすることにより乱視矯正の機能を持たせることができる。
【0009】
本実施形態で設計される眼鏡レンズは、特に限定されないが、セミフィニッシュレンズを用いて製造することができる。例えば内面累進レンズの場合、物体側の球面はベースカーブ区分で定められる所定の度数範囲においては固定された一定のカーブ値を有する面である。外面累進レンズおよび両面累進レンズの場合、物体側の面は所定の度数範囲において、一定のカーブ値の球面と一定の加入度の累進面を足し合わせた面である。いずれの眼鏡レンズの場合も、物体側の面はこれ以上加工されない基準面である。このセミフィニッシュレンズの物体側の面を基準として、装用者の処方データおよびフィッティングパラメータに基づいて、加工すべき眼球側の面が計算され、加工される。非点収差の抑制等、様々な補正を加えた複雑なレンズ面が加工可能となっている。ここで、装用者の処方データとしては、遠用度数、近用度数、乱視度数、加入度数およびプリズムの少なくとも一つを含むことができる。フィッティングパラメータとしては、フレームそり角、前傾角および角膜頂点間距離の少なくとも一つを含むことができる。
【0010】
以下では、セミフィニッシュレンズを用いた両面累進レンズにおいて、レンズの眼球側の面の形状を設計する例を説明する。しかし、本実施形態の眼鏡レンズの設計方法は、異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報を用いて設計を行えば、以下の例に限定されない。
【0011】
図1は、本実施形態の眼鏡レンズの設計方法により設計される眼鏡レンズの各部を示す概念図である。図1の例では、眼鏡レンズLSは、累進屈折力レンズである。眼鏡レンズLSは、眼鏡用フレームの形状に合わせてレンズを加工する前の状態(玉摺り加工前の状態)になっており、平面視で円形に形成されている。眼鏡レンズLSは、図中上側が装用時において上方に配置されることとなり、図中下側が装用時において下方に配置されることとなる。眼鏡レンズLSは、遠用部Fと、近用部Nと、中間部Pとを有している。
【0012】
遠用部Fは、眼鏡レンズLSの上部に配置されており、近用部Nは、眼鏡レンズLSの下部に配置されている。眼鏡レンズLSが眼鏡用に加工された後には遠用部Fは、近用部Nと比較して、より長い距離に対応する屈折力を有する部分となる。言い換えれば、遠用部Fは、近用部Nを通して見る対象までの距離よりも、長い距離にある対象を見るための部分である。中間部Pは、眼鏡レンズLSのうち遠用部Fと近用部Nの中間に配置されており、遠用部Fと近用部Nとの間の屈折力は適宜連続的に滑らかに変化して接続されている。
【0013】
眼鏡レンズLSは、複数の基準点を有している。このような基準点として、例えば、図1に示すように、アイポイント(フィッティングポイントとも呼ばれる)EP、プリズムリファレンスポイントPRP、遠用参照点FV、近用参照点NVが挙げられる。アイポイントEPは、装用者が眼鏡レンズLSを装用する時の瞳の位置の基準点となる。アイポイントEPは中間部Pに配置されてもよい。プリズムリファレンスポイントPRPはプリズム量が0(ゼロ)値になる位置であり、設計中心でもある。遠用参照点FVは、レンズの遠用度数を測定する測定基準点となる。近用参照点NVは、レンズの近用度数を測定する測定基準点となる。単位をmmとし、図1に示した座標系800のように、眼鏡レンズLS上の位置を、左右方向に取ったX1座標と上下方向にとったY1座標により示し、(X1,Y1)と表記する。原点(0,0)を、幾何中心Oとする。一例として、遠用参照点FVの位置が(+2.5,+8.0)または(+2.5,+15.0)、アイポイントEPの位置が(+2.5,+2.0)、(+2.5,+3.0)または(+2.5,+4.0)、プリズムリファレンスポイントPRPの位置が(+2.5,+0.0)、近用参照点NVの位置が(+2.5,-12.0)とすることができる。しかし、これらの例に限定されず、累進帯長またはモデル等に応じ、上下方向または左右方向に、適宜0mm~数mmずらした位置を採用することもできる。また、幾何中心Oと設計中心(PRP)との位置関係も上記例に限定されず、これらが一致していてもよい。
【0014】
眼鏡レンズLSのほぼ中央には、装用者が正面上方から正面下方にある物体を見る場合に視線が通過するレンズ上の仮想線である主注視線Mが設けられている。主注視線Mは、主子午線とも呼ばれる。主注視線Mは、遠用部Fにおいて、アイポイントEPと遠用参照点FVとを通り、装用時における鉛直方向に対応する方向(以下、「上下方向」と呼ぶ)に沿って設定される。主注視線Mは、近用部Nにおいて、近用参照点NVを通り、上下方向に沿って設定される。近用参照点NVは、輻輳を考慮して鼻側(図1では右側)に内寄せされている。主注視線Mの一部は、中間部Pにおいて、遠用参照点FVと近用参照点NVとを接続するため、上下方向に対して斜めに設定されている。
【0015】
眼鏡レンズLSは、中近両用レンズでも遠近両用レンズでもよい。中近両用レンズにおいては、例えば遠用部Fを通して遠距離または中間距離の対象物を好適に見るように設計され、近用部Nを通して近距離の対象物を好適に見るように設計される。遠近両用レンズにおいては、例えば遠用部Fを通して遠距離の対象物を好適に見るように設計され、近用部Nを通して近距離の対象物を好適に見るように設計される。遠距離、中間距離および近距離に対応する距離は、国・地域や眼鏡レンズの用途等によっても変化し特に限定されないが、例えば遠距離が1m以上、中間距離が50cm以上1m未満、近距離が25cm以上50cm未満である。
【0016】
従来の眼鏡レンズの設計では、左眼または右眼のいずれか一方を利き目として固定して設計を行っていた。しかし、実際には、遠くを見る場合と近くを見る場合とで、利き目が異なる場合がある。さらに、視覚においてどの程度利き目に依存しているかの度合も、視対象までの距離および視線の方向により変化し得る。
【0017】
図2および図3は、利き目の変化を説明するための概念図である。眼鏡レンズの装用者は、自動車の車内にいて運転を行うとする。図2および図3には、視対象として、フロントガラス201、ルームミラー202、左側バックミラー203、右側バックミラー204、カーナビゲーションシステム等の機器の表示モニタ205、計器類206および道路標識207が示されている。
【0018】
利き目でない方の眼は、正しく対象を捉えられない傾向があることが知られている。図2において、装用者が遠距離左前方にある道路標識207を見る場合、左眼ELから左眼用レンズLSLを通る視線SL1は道路標識207へと向かっているが、右眼ERから右眼用レンズLSRを通る視線SR1は、道路標識207からずれている。このことは、装用者は道路標識207等が配置されている遠距離左前方を見る際に、利き目が左眼となることを示す。
【0019】
一方、装用者が、短距離または中間距離に配置され、正面にある計器類206を見る場合、左眼ELから左眼用レンズLSLを通る視線SL2および、右眼ERから右眼用レンズLSRを通る視線SR2は、共に、計器類206に向かっている。このことは、装用者は短距離または中間距離にある正面の対象を見る際に、特に利き目が現れないことを示す。このように、利き目は左側方または右側方を見る際に現れやすい。
【0020】
図2の例では、装用者が遠距離左前方にある道路標識207を見る場合に、道路標識207よりも遠い距離の位置に焦点または輻輳を合わせていた。図3の例では、装用者が遠距離左前方にある道路標識207を見る場合に、道路標識207よりも近い距離の位置に焦点または輻輳を合わせている。このような様々な場合も含め、視覚においてどの程度利き目に依存しているかの度合を定量化する必要がある。
【0021】
本実施形態で設計される眼鏡レンズLSは、図2または図3のような特定の状況に好適に装用される眼鏡レンズとすることができる。この場合、普段装用する眼鏡レンズとは別の2つ目の眼鏡レンズとして提供することができる。しかし、眼鏡レンズLSは、特定の状況に限らず、より一般的な状況に対応し装用者が普段装用するための眼鏡レンズとしてもよい。
【0022】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、装用者が視線検出装置を着用し、複数の距離における視対象を見て得られた視線検出データが取得される。視線検出データでは、装用者の両眼の視線方向が記録される。例えば、装用者は特定の位置にある対象に焦点を合わせるように指示される。合焦を行っている装用者の両眼の視線方向が視線検出データとして記録される。上記対象の位置と、視線検出データとから、装用者が焦点を合わせようとしている対象と、視線とのずれを算出することができる。あるいは、装用者に周囲の風景等を見させ、対象までの距離を記録可能な赤外線センサーまたはレーザーを備える視線検出装置を用いて、対象までの距離と装用者の視線方向を随時記録することにより視線のずれを算出してもよい。この場合、装用者に見させる対象は、後述するターゲットオブジェクト面を模したものであることが好ましい。
【0023】
図4は、本実施形態における視線のずれの算出方法を説明するための概念図である。以下の実施形態では、装用者が装用している眼鏡レンズの位置の指標として、左眼用レンズLSLおよび右眼用レンズLSRのフレームセンター(フレーム中心ともいう)の中点を用いる。この中点を、眼鏡位置FCと呼ぶ。眼鏡レンズの位置の指標としては、視線のずれを所望の精度で定量することができれば特に限定されず、眼鏡レンズの位置を示す任意の点を用いることができる。
【0024】
視線検出の際の装用者が見る対象Tの位置を対象位置OCと呼び、対象位置OCと眼鏡位置FCとの距離を対象距離bとする。眼鏡位置FCと対象位置OCとを通過する直線に垂直な面で、対象位置OCを通る面を対象面PNと呼ぶ。以下では、対象面PNに沿って左右方向にX軸、上下方向にY軸をとり、対象位置OCから眼鏡位置FCへ向かう方向にZ軸をとる。図4には座標軸8を示した。
【0025】
左眼ELから出射し、左眼レンズLSLを通過した視線SL3と対象面PNとの交点を左対象面通過点PLとする。右眼ERから出射し、右眼レンズLSRを通過した視線SR3と対象面PNとの交点を右対象面通過点PRとする。本実施形態では、対象位置OCと左対象面通過点PLとの距離を左眼の視線のずれdlとし、対象位置OCと右対象面通過点PRとの距離を右眼の視線のずれdrとする。
【0026】
図5は、対象Tについての対象面PN上における左対象面通過点PLおよび右対象面通過点PRとを示す概念図である。対象位置OCと左対象面通過点PLとのX軸方向の座標の差をxl、Y軸方向の座標の差をylとする。左眼の視線のずれdlは、xlとylの二乗和の平方根により算出される。対象位置OCと右対象面通過点PRとのX軸方向の座標の差をxr、Y軸方向の座標の差をyrとする。右眼の視線のずれdrは、xrとyrの二乗和の平方根により算出される。
なお、視線のずれの算出方法は、装用者の利き目の度合を所望の精度で定量できれば特に限定されない。
【0027】
視線のずれから、対象位置OCにおける利き目依存度が算出される。利き目依存度は、視覚においてどの程度利き目に依存しているかの度合を示す数値である。視線のずれが大きい程、利き目依存度が高く設定される。利き目依存度は、右眼の左眼依存度vRと、左眼の右眼依存度vLとを含む。後述するように、設計する右眼用レンズの目標設定収差が右眼の左眼依存度vRに基づいて設定され、設計する左眼用レンズの目標設定収差が左眼の右眼依存度vLに基づいて設定される。
【0028】
利き目依存度は、対象位置OCと眼鏡位置FCとの間の距離(対象距離b)および視線のずれに基づいて算出される。対象距離bは、視線検出装置による測距等または、装用者に予め位置の分かっている対象を見させることで取得できる。対象位置OCにおける右眼の左眼依存度vRと、左眼の右眼依存度vLとは、それぞれ以下の式(1)および式(2)により算出される。
vR=1-dl/b …(1)
vL=1-dr/b …(2)
【0029】
ここで、利き目依存度を具体的な状況等に合わせて適切に調整するため、重み係数Wを用いて利き目依存度を算出することが好ましい。この場合、対象位置OCにおける右眼の左眼依存度vRと、左眼の右眼依存度vLとは、それぞれ以下の式(3)および式(4)により算出される。ここで、「×」は掛け算を示し、以下の各式でも同様である。
vR=1-(dl/b)×W …(3)
vL=1-(dr/b)×W …(4)
なお、一方の眼の視線のずれが大きい程、後述する混合処理において当該眼についての光学特性値を他方の眼に反映する量または割合が小さくなれば、利き目依存度の設定の方法は特に限定されない。
【0030】
重み係数Wは、対象距離bに基づいて設定することができる。例えば、対象距離bが0mm以上~300mm未満の場合、重み係数Wを15とし、対象距離bが300mm以上600mm未満の場合、重み係数を10とし、対象距離bが600mm以上の場合、重み係数Wを5とすることができる。このように、対象がより近いと重み係数Wをより大きくすることで、距離に応じた利き目の影響を眼鏡レンズの設計により正確に反映することができる。
なお、重み係数Wの設定方法は特に限定されず、例えば、所定の重み係数Wを用いて眼鏡レンズの設計を行った際の装用者の装用感等に基づいて適宜数値を調整することができる。
【0031】
図6は、利き目依存度と、利き目依存度の算出に関連する数値とを示す表TA1である。「番号」の項目は、三次元の座標位置に対応付けられた通し番号を示す。「ターゲットオブジェクト座標」の項目は、装用者が見る対象が存在する各座標位置の三次元座標を示す。以下で、小文字の(x,y,z)による三次元座標は、対象面PNをXY平面とし対象の位置OCごとに設定される上述のXYZ座標系とは異なり、装用者に対して固定され対象の位置を記述する三次元座標系である。ターゲットオブジェクト座標は、装用者が眼鏡レンズLSを装用する際の対象の位置に基づいて設定することができる。例えば装用者が自動車の運転を行うことを想定する場合には、図2または図3に示すような各対象の表面に対応する曲面において設定される。ターゲットオブジェクト座標において記述される、装用者が見る対象がなす面を、ターゲットオブジェクト面と呼ぶ。
なお、ターゲットオブジェクト座標は、少なくとも2つの距離にある対象について記述されていれば、図2等に示されるような数個以上の対象を記述するものでなくともよい。
【0032】
「対象距離b」の項目は、上述の対象距離bを示す。「視線ずれ」の項目は、ターゲットオブジェクト座標にある対象を装用者が見る際の、左眼の視線のずれdlおよび右眼の視線のずれdrを示す。「重み係数W」の項目は、上述の重み係数Wを示す。「利き目依存度」の項目は、右眼の左眼依存度vRおよび左眼の右眼依存度vLを示す。表TA1における「…」は、データの記載を省略した点を示し、図7の表でも同様である。
なお、表TA1は、数値をまとめて示した一例であり、表中の全ての数値を互いに対応付けて記憶媒体等に記憶させる必要はない。
【0033】
図7は、本実施形態で生成される利き目依存度データを模式的に示す表TA2である。利き目依存度データでは、三次元の各座標位置と、当該座標位置にある対象を装用者が見る場合の視線のずれとが対応付けて格納されている。例えば、表TA2の最も左上のデータは、単位をmmとし、眼鏡位置FCに対して(x,y,z)=(2000,2000,10000)の座標にある対象を装用者が見る場合を示す。この場合、右眼の左眼依存度vRは0.5であり、左眼の右眼依存度vLは0.95である。表TA2に対応する利き目依存度データでは、三次元座標において、xが0~2000、yが-1995~2000の範囲について、利き目依存度が格納されている。zについては、10000と500の例しか示していないが、x、y、zそれぞれ様々な範囲を設定することができる。利き目依存度データにおける三次元座標の範囲は、視線検出データが得られた対象の位置またはターゲットオブジェクト面を含むことが好ましく、適宜拡張することができる。
【0034】
表TA2では、三次元座標および利き目依存度のデータの一部では、値が設定されていないことを示す「blank」となっている。このことは、座標位置が未設定であるか、または座標位置に対応する視線検出データが存在せず、利き目依存度が算出されていないことを示す。利き目依存度データにおいて利き目依存度が設定されていない点がある場合、適宜利き目依存度が設定されている点に基づいた補間処理を行うことが好ましい。
【0035】
図8は、本実施形態における利き目依存度データの補間処理を示す概念図である。図8では、眼鏡位置FCに対して固定された、利き目依存度データが設定される(x,y,z)三次元空間が示されている。図8では、ターゲットオブジェクト座標系80に設定されたターゲットオブジェクト面を2本の曲線TSで模式的に示した。座標点DPにおいては、視線検出データに基づいて利き目依存度が設定されている。座標点DP1では、利き目依存度が設定されていない。この場合、スプライン補間により、座標点DP1の周囲の座標点DPの利き目依存度から、座標点DP1の利き目依存度が算出され、設定される。具体的には、利き目依存度が設定されている座標点DPを制御点とし、三次元座標、右眼の左眼依存度vRおよび左眼の右眼依存度vLのそれぞれが独立した3つのスプライン曲面が生成される。これらのスプライン曲面から座標点DP1における利き目依存度が算出される。これにより図7の表TA2における「blank」の値を埋めることができる。
【0036】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、利き目依存度に基づいて、眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する。以下では、利き目依存度と、予め利き目に関する情報を用いないで設計された両眼の眼鏡レンズの目標非点収差とを用いて、設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する例を説明する。以下では、この予め利き目に関する情報を用いないで設計された眼鏡レンズを基本レンズと呼ぶ。基本レンズのうち、左眼用の眼鏡レンズを左眼用基本レンズと呼び、右眼用の眼鏡レンズを右眼用基本レンズと呼ぶ。
【0037】
基本レンズについての目標非点収差分布のデータを基本収差データと呼び、左眼用基本レンズについての基本収差データを左基本収差データ、右眼用基本レンズについての基本収差データを右基本収差データと呼ぶ。基本収差データとしては、利き目を考慮しない従来の眼鏡レンズの設計方法により装用者のために設計される任意の眼鏡レンズについてのものを用いることができる。本実施形態において設計する眼鏡レンズLSは、自動車の運転用等の特定の用途に用いる眼鏡レンズとすることができる。この場合、基本収差データとして、装用者が現在普段装用している眼鏡レンズの目標非点収差分布のデータを用いることができる。
【0038】
基本収差データでは、例えばプリズムリファレンスポイント(PRP)を中心とした二次元座標の各位置に目標非点収差が設定される。この二次元座標の範囲はレンズ外径を含む範囲である。例えば、レンズ外径が60mmの場合、基本収差データにおける二次元座標(p,q)は(p,q)=(-30,30)~(30,-30)の正方形に対応する範囲とすることができる。使用する目標非点収差の値はPRPを中心としたレンズに対応する範囲のみであるが、この範囲外のデータがこの範囲内の設計に影響を及ぼすことがある。従って、基本収差データは、4隅にレンズに対応しない部分を有する矩形の座標範囲または、各方向においてレンズよりも広い座標範囲について設定されるものでもよい。基本収差データでは、各二次元座標に目標非点収差が対応付けられている。各座標点における目標非点収差の値はスプライン補間等により補間されていることが好ましい。
【0039】
設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差分布のデータを設計収差データと呼ぶ。設計収差データについても、基本収差データと同様に、二次元の各座標点に目標非点収差が設定される。
【0040】
設計収差データの生成処理を以下に説明する。この生成処理は、後述の受注装置2(図13)における設計部27により行われ、設計部27を構成するCPU等の処理装置が、メモリ等の記憶媒体にプログラムを読み込んで行われる。
【0041】
設計部27は、利き目依存度データ、基本収差データおよびサグデータを取得する。サグとは、レンズ面(物体側の面又は眼球側の面)上の任意の点と、当該レンズ面についてのプリズムリファレンスポイント(PRP)における接平面との距離である。これらのデータは、記憶部22等に参照可能に記憶される。サグデータは、基本レンズのサグ量が格納されたデータである。サグデータは、基本レンズの物体側の面についてのサグ量を示すデータと、基本レンズの眼球側の面についてのサグ量を示すデータを含む。サグデータでは、各二次元座標にレンズ面までのサグ量が対応付けられている。各座標点におけるサグ量の値はスプライン補間されていることが好ましい。
【0042】
次に、設計部27は、装用者についての、眼鏡レンズまたはフレームの形状についての数値を取得する。以下では、この数値を形状パラメータと呼ぶ。
【0043】
図9は、形状パラメータを説明するための概念図である。図中、LSLは左眼用レンズ、LSRは右眼用レンズを示す。形状パラメータは、フレームセンター間距離FPD、フレームの左右方向の幅A、フレームの上下方向の幅B、鼻幅DBL、左眼側の瞳孔間距離PDL、右眼側の瞳孔間距離PDR、左眼側のアイポイント高さEPL1および右眼側のアイポイント高さEPR1を含む。左眼側のアイポイント高さEPL1および右眼側のアイポイント高さEPR1は、アイポイントの位置を示すパラメータであり、図9では、フレームセンター間を結ぶ直線L1から左眼アイポイントEPLおよび右眼アイポイントEPRまでの距離としている。しかし、アイポイントの位置を示すことができれば、左眼側のアイポイント高さEPL1および右眼側のアイポイント高さEPR1は直線L1以外の位置からの距離としてもよいし、他の数値を用いてもよく、適宜、眼鏡レンズの任意の2点間の長さ等を用いることができる。図9では、直線L1(フレームセンターの高さに対応)は、フレームの最も低い位置から上下方向の幅Bの半分の高さに配置されているが、これに限定されず適宜設定することができる。
【0044】
形状パラメータが取得されたら、設計部27は、利き目依存度データ、基本収差データおよびサグデータを、形状パラメータを用いて変換する。具体的には、形状パラメータにおける左眼側の瞳孔間距離PDL、右眼側の瞳孔間距離PDR、左眼側のアイポイント高さEPL1および右眼側のアイポイント高さEPR1から、PRPの位置を算出する。基本収差データおよびサグデータにおけるPRPの位置と、利き目依存度データにおける左右のPRPの位置とが合うようにこれらのデータが変換される。これにより、ターゲットオブジェクト座標において、眼から、眼鏡位置FCを基準に配置された基本レンズを通り、利き目依存度データにおける各位置へと向かう光線の光線追跡が可能となる。
【0045】
上記変換が行われたら、設計部27は、光線追跡により、左眼用基本レンズにおける各位置に対応する、右眼用基本レンズにおける位置を算出する。ここで、左眼用基本レンズにおけるある位置と、右眼用基本レンズにおけるある位置が「対応している」とは、装用者がある対象を見る際に、これらの位置が視線通過点となっていることを指す。
【0046】
この光線追跡は以下のように行われる。左眼用基本レンズにおいて目標非点収差が設定されている任意の座標点に向け、眼球の回旋中心から光線ベクトルが設定される。光線ベクトルにより記述される光線が左眼用基本レンズの眼球側面において到達する点が算出される。算出された点において、スネルの法則に基づく光線屈折計算または波面屈折計算により、屈折後の光線ベクトルが算出される。算出された光線ベクトルにより記述される光線が左眼用基本レンズの物体側面において到達する点が算出される。算出された点において、スネルの法則に基づく光線屈折計算または波面屈折計算により、屈折後の光線ベクトルが算出される。算出された光線ベクトルにより記述される光線が、利き目依存度データにおいて予め設定されたターゲットオブジェクト座標のいずれかの座標点または補間により設定された中間点に到達する際の到達位置が算出される。
【0047】
次に、算出された上記到達位置に到達するように、右眼から光線追跡が行われる。この光線追跡の方法は特に限定されないが、例えば以下のように行われる。眼球の回旋中心と上記到達位置を直線で結び、右眼用基本レンズにおいて当該直線と交わる眼球側面の座標点が算出される。その座標点に向けて光線ベクトルが設定される。光線ベクトルにより記述される光線が右眼用基本レンズの眼球側面に到達する位置が算出される。算出された位置において、スネルの法則に基づいた光線屈折計算または波面屈折計算により、屈折後の光線ベクトルが算出される。算出された光線ベクトルにより記述される光線が右眼用基本レンズの物体側面に到達する位置が算出される。算出された位置において、スネルの法則に基づいた光線屈折計算もしくは波面屈折計算により、屈折後の光線ベクトルが算出される。算出された光線ベクトルにより記述される光線が、利き目依存度データにおいて予め設定されたターゲットオブジェクト座標のいずれかの座標点または中間点に到達する際の到達位置が算出される。この到達位置が、左眼用基本レンズについて行われた光線追跡での光線の到達位置と同じかまたは許容する範囲内か確認する。許容範囲外の場合は、左眼についての光線追跡での到達位置と右眼についての光線追跡での到達位置との差を、今回の右眼についての光線追跡において光線ベクトルが交差した右眼用基本レンズの眼球側面の座標に加算し、この加算で得られた位置を目標座標として再度右眼についての光線追跡を行う。この右眼についての光線追跡を、左眼についての光線追跡での到達位置と右眼についての光線追跡での到達位置が同じかまたは許容する範囲内になるまで繰り返す。
【0048】
左眼についての光線追跡において、左眼から出射する光線が向かう左眼用基本レンズの位置を変え、上述の両眼についての光線追跡を繰り返すことで、左眼用基本レンズのレンズ面の各位置に対応する右眼用基本レンズのレンズ面における位置が算出される。
なお、上記光線追跡において、右眼についての光線追跡を行った後、その到達位置に光線が到達するように左眼についての光線追跡を行ってもよい。この左右の順番を入れ替えた光線追跡は、上記光線追跡の後に対応する位置が得られなかった右眼用基本レンズの位置に対して行ってもよい。適宜左右の順番を入れ替えた光線追跡を行うことで、基本レンズの全体において対応する位置が算出され得る。
【0049】
図10は、上記光線追跡を示す概念図である。ターゲットオブジェクト座標の座標点T1を装用者が見る際の、左眼用基本レンズBLの視線通過点(左視線通過点TL1と呼ぶ)と右眼用基本レンズBRの視線通過点(右視線通過点TR1と呼ぶ)が算出される。図10では、光線追跡で得られた、左眼の視線SL4を実線で、右眼の視線SR4を破線で示した。図10では、座標点T1の座標は(1995,1995,10000)、右眼の左眼依存度vRが0.5、左眼の右眼依存度vLが0.95となっているが、この数値は例示であり本発明を限定するものではない。
【0050】
左眼用基本レンズBLのレンズ面におけるある位置を第1位置とし、第1位置に対応する右眼用基本レンズBRのレンズ面における位置を第2位置とする。設計部27は、第1位置における目標非点収差の値と、第2位置における目標非点収差の値と、利き目依存度とに基づいて、眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する。設定された目標非点収差は設計収差データに格納される。
【0051】
眼鏡レンズLSの左眼用レンズの第1位置における目標非点収差をAnewLとし、眼鏡レンズLSの右眼用レンズの第2位置における目標非点収差をAnewRとする。このとき、AnewRおよびAnewLは、以下の式(5)および式(6)により、左眼用基本レンズBLの第1位置における目標非点収差と右眼用基本レンズBRの第2位置における目標非点収差との重みづけ加算により算出される。
AnewR=AorgR×(1-vR)+AorgL×vR …(5)
AnewL=AorgL×(1-vL)+AorgR×vL …(6)
ここで、vRは、上記光線追跡において、第1位置または第2位置を通過する光線が到達するターゲットオブジェクト座標の位置における右眼の左眼依存度であり、vLは、当該ターゲットオブジェクト座標の位置における左眼の右眼依存度である。AorgLは左眼用基本レンズBLの第1位置における目標非点収差であり、AorgRは、右眼用基本レンズBRの第2位置における目標非点収差である。
【0052】
目標非点収差の算出における上記の重みづけ加算では、装用者がターゲットオブジェクト座標で記述される空間の各位置を見る際の視線のずれに基づいて算出された利き目依存度が重みとなっている。利き目依存度は式(1)~(4)に示されるように、装用者から上記空間の各位置までの距離に基づいて算出され得る。以下では、左眼用基本レンズBLの目標非点収差と右眼用基本レンズBRの目標非点収差から眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する処理を、適宜混合処理と呼ぶ。
【0053】
ある対象物を見る場合、利き目ではない側の眼鏡レンズの収差と利き目の側の眼鏡レンズの収差とに差があると装用者は違和感を感じ得る。両眼視で対象物を鮮明に立体的にとらえるため、上述の混合処理のように、利き目の度合に基づいて一方の眼についての眼鏡レンズの目標非点収差を他方の眼についての眼鏡レンズの目標非点収差に反映させることで、装用者の違和感を軽減したより快適な眼鏡レンズを提供することができる。
【0054】
図11は、本実施形態の眼鏡レンズの設計方法および眼鏡レンズの製造方法の流れを示すフローチャートである。図11の各ステップは、後述する受注装置2の設計部27により行われる。ステップS101において、設計部27は、装用者の処方データおよび基本レンズについてのデータを取得する。ステップS101が終了したら、ステップS103が開始される。ステップS103において、設計部27は、装用者の利き目についての情報を取得する。ステップS103が終了したら、ステップS105が開始される。
【0055】
ステップS105において、設計部27は目標非点収差を設定する。ステップS105が終了したら、ステップS107が開始される。ステップS107において、設計部27は、後述する最適化設計により(図14のステップS22)眼鏡レンズの形状を決定する。ステップS107が終了したら、処理が終了される。
【0056】
図12は、図11のステップS105の流れを示すフローチャートである。ステップS103が終了したら、ステップS1051が開始される。ステップS1051において、設計部27は、基本収差データおよびサグデータ等の基本レンズについてのデータを、光線追跡を行うターゲットオブジェクト座標に合わせて変換する。ステップS1051が終了したら、ステップS1053が開始される。
【0057】
ステップS1053において、設計部27は、光線追跡を行い、左眼用基本レンズBLおよび右眼用基本レンズBRの対応する視線通過点TL1,TR1を算出する。ステップS1053が終了したら、ステップS1055が開始される。ステップS1055において、設計部27は、混合処理を行い、眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する。ステップS1055が終了したら、ステップS107が開始される。
【0058】
眼鏡レンズの設計に係る眼鏡レンズ受発注システムについて説明する。本実施形態に係る眼鏡レンズLSは、以下に説明される眼鏡レンズ受発注システムにより提供されることが好ましい。
【0059】
図13は、本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システム10の構成を示す図である。眼鏡レンズ受発注システム10は、発注者側の眼鏡店に設置される発注装置1と、受注者側のレンズ製造業者に設置される、受注装置2、加工機制御装置3、および眼鏡レンズ加工機4と、を含んで構成される。発注装置1と受注装置2とは、例えばインターネット等のネットワーク5を介して通信可能に接続されている。また、受注装置2には、加工機制御装置3が通信可能に接続されており、加工機制御装置3には眼鏡レンズ加工機4が通信可能に接続されている。
なお、図13では、図示の都合上、発注装置1を1つのみ記載しているが、実際には複数の眼鏡店に設置された複数の発注装置1が受注装置2に接続されている。
【0060】
発注装置1は、眼鏡レンズの発注処理を行うコンピュータであり、制御部11と、記憶部12と、通信部13と、表示部14と、入力部15とを含む。制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、発注装置1を制御する。制御部11は、眼鏡レンズの発注処理を行う発注処理部16を備える。通信部13は、受注装置2とネットワーク5を介して通信を行う。表示部14は、例えば液晶モニタ等の表示装置であり、発注する眼鏡レンズの情報(発注情報)を入力するための発注画面等を表示する。入力部15は、例えばマウス、キーボード等を含む。例えば、入力部15を介して、発注画面の内容に応じた発注情報が入力される。
なお、表示部14と入力部15とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。
【0061】
受注装置2は、眼鏡レンズの受注処理や設計処理、光学性能の演算処理等を行うコンピュータであり、制御部21と、記憶部22と、通信部23と、表示部24と、入力部25とを含んで構成される。制御部21は、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、受注装置2を制御する。制御部21は、眼鏡レンズの受注処理を行う受注処理部26と、眼鏡レンズの設計処理を行う設計部27とを備える。通信部23は、発注装置1とネットワーク5を介して通信を行ったり、加工機制御装置3と通信を行ったりする。記憶部22は、眼鏡レンズ設計のための各種データを読み出し可能に記憶する。表示部24は、例えば液晶モニタ等の表示装置であり、眼鏡レンズの設計結果等を表示する。入力部25は、例えばマウスやキーボード等を含んで構成される。
なお、表示部24と入力部25とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。
【0062】
次に、眼鏡レンズ受発注システム10において、眼鏡レンズを提供する手順について、図14に示すフローチャートを用いて説明する。図14の左側には発注者側で行う手順を示し、図14の右側には受注者側で行う手順を示す。眼鏡レンズ受発注システム10による眼鏡レンズの製造方法では、上述の眼鏡レンズの設計方法に基づいて設計された眼鏡レンズLSが設計および製造される。
【0063】
ステップS11において、発注装置2は、装用者の利き目についての情報を取得する。例えば、眼鏡レンズの販売店において、装用者が、視線検出装置を着用し、ターゲットオブジェクト面に対応する複数の距離にある対象を見て得られた視線のずれから、利き目依存度が算出され、利き目依存度データが生成される。ステップS11が終了したら、ステップS12が開始される。
【0064】
ステップS12において、眼鏡店の販売員等により発注装置2に発注情報が入力される。発注情報は、眼鏡レンズの商品名と、装用者の処方データに含まれる球面度数、乱視度数、乱視軸の角度、加入度およびプリズムとを含むレンズ情報、眼鏡レンズの外径等を含む加工指定情報、眼鏡レンズの染色についての情報を含む染色情報、装用者の瞳孔間距離PDおよびアイポイントの位置を示すアイポイント情報、ならびに、フレームのモデル名、種別およびフレームセンター間距離FPDを含むフレーム情報等が含まれる。発注者は、発注装置1の表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。発注画面は、発注情報を入力するための画面である。発注者が、発注画面の各項目を入力し、送信ボタンをクリックすると、発注装置1の発注処理部16は、発注情報を取得する。ステップS12が終了したら、ステップS13が開始される。
【0065】
ステップS13において、発注装置1は、利き目についての情報である利き目依存度データおよび当該発注情報を、通信部13を介して受注装置2へ送信する。図14では、発注情報が発注装置1から受注装置2へと送信される点を、矢印A100で模式的に示した。ステップS13が終了したら、ステップS21が開始される。
【0066】
発注装置1において、発注画面を表示する処理、発注画面において入力された発注情報を取得する処理、当該発注情報を受注装置2に送信する処理については、発注装置1の制御部11が、記憶部12に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
【0067】
ステップS21において、受注装置2の受注処理部26は、通信部23を介して、発注装置1から発注情報および利き目についての情報を受信する。ステップS21が終了したら、ステップS22が開始される。
【0068】
ステップS22において、受注装置2の設計部27は、受信した発注情報および利き目についての情報に基づいて眼鏡レンズの設計を行う。設計部27は、基本レンズについてのデータを、眼鏡レンズの商品やフレームについてのデータベースから取得することもできる。設計部27は、受信した発注情報および利き目についての情報に基づいて、上述のように設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定する。設計部27は、設定された目標非点収差に基づいて、眼鏡レンズLSの形状の最適化設計を行う。この最適化設計では、眼鏡レンズLSの形状を設計した後、目標非点収差等の設計条件をどの程度満たしているかを示す値が算出され、当該値が最適な値になるように眼鏡レンズLSが適宜再設計される。予め設定された一定の基準を満たす眼鏡レンズの形状が設計されたら、眼鏡レンズLSの設計を完了する。ステップS22が終了したら、ステップS23が開始される。
【0069】
ステップS23において、受注装置2は、ステップS22で設計した眼鏡レンズLSの設計データを加工機制御装置3(図13)に出力する。加工機制御装置3は、受注装置2から出力された設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機4に加工指示を送る。この結果、眼鏡レンズ加工機4によって、当該設計データに基づく眼鏡レンズLSが加工され、製造される。眼鏡レンズ加工機4によって製造された眼鏡レンズLSが眼鏡店に出荷され、眼鏡フレームにはめ込まれて顧客(装用者)に提供される。
【0070】
なお、受注装置2において、発注装置1から発注情報および利き目についての情報を受信する処理、受信した発注情報および利き目についての情報に基づいて眼鏡レンズを設計する処理、眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3に出力する処理については、受注装置2の制御部21が、記憶部22に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
なお、受注装置2の設計部27は、受注装置2とは別の眼鏡レンズの設計装置に配置されてもよい。
【0071】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法は、異なる複数の距離にある対象を見る場合における、装用者の利き目についての情報(利き目依存度)を取得することと、前記情報に基づいて、眼鏡レンズLSの設計を行うこととを備える。これにより、装用者が設計された眼鏡レンズLSを装用した際の、利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0072】
(2)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、眼鏡レンズLSの設計では、利き目についての情報に基づいて、左眼用基本レンズBLにおける目標非点収差の分布と、右眼用基本レンズBRにおける目標非点収差の分布とから、設計する眼鏡レンズLSにおける目標非点収差の分布を算出する。これにより、装用者が眼鏡レンズLSを装用した際の、目標非点収差等の光学特性から生じる利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0073】
(3)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、眼鏡レンズLSの設計では、空間の各位置を見る際に、左眼用基本レンズBLにおいて視線が通過する第1位置と、右眼用基本レンズBRにおいて視線が通過する第2位置とが算出され、利き目についての情報と、算出された第1位置における目標非点収差と、算出された第2位置における目標非点収差とから、設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差が算出される。これにより、想定される視対象に合わせて利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0074】
(4)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、利き目についての情報は、装用者の利き目の度合を示す数値である利き目依存度を含む。これにより、装用者の利き目の度合いを定量化して適切に眼鏡レンズLSの設計に反映することができる。
【0075】
(5)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、利き目依存度に基づいた重みを用いて、第1位置における目標非点収差と、第2位置における目標非点収差との重みづけ加算により設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差が算出される。これにより、装用者の利き目の度合を精度よく眼鏡レンズLSの設計に反映することができる。
【0076】
(6)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、利き目依存度は、装用者が空間の各位置を見る際の視線のずれに基づいて算出される。これにより、装用者の視線のずれに基づいて、精度よく装用者の利き目の度合を定量化することができる。
【0077】
(7)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、利き目依存度は、装用者から空間の各位置までの距離に基づいて算出される。これにより、装用者と対象との間の距離bに合わせ、精度よく装用者の利き目の度合を定量化することができる。
【0078】
(8)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、利き目についての情報は、装用者が特定の環境にいる際の、装用者の利き目についての情報とすることができる。これにより、特定の環境に合わせて利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0079】
(9)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、上記特定の環境は、車の内部とすることができる。これにより、車内の装用者が見る対象に合わせて利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0080】
(10)本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上述の眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズLSを製造する。これにより、装用者が製造された眼鏡レンズLSを装用した際の、利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0081】
(11)本実施形態に係る眼鏡レンズLSは、上述の眼鏡レンズの製造方法により製造されたものである。これにより、装用者が眼鏡レンズLSを装用した際の、利き目に基づく違和感を軽減することができる。
【0082】
(12)本実施形態に係る眼鏡レンズの発注装置は、異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報の入力を受け付ける入力部15と、入力部15を介して入力された上記情報を眼鏡レンズ受注装置2送信する送信部である通信部13とを備える。これにより、装用者の利き目に基づく違和感を軽減する眼鏡レンズLSを発注することができる。
【0083】
(13)本実施形態に係る眼鏡レンズの受注装置は、異なる複数の距離における、装用者の利き目についての情報を受信する受信部である通信部23と、この情報に基づいて眼鏡レンズLSを設計する設計部27とを備える。これにより、装用者の利き目に基づく違和感を軽減する眼鏡レンズLSを受注および設計することができる。
【0084】
(14)本実施形態に係る眼鏡レンズの受発注システムは、眼鏡レンズ発注装置1と、眼鏡レンズ受注装置2とを備える。これにより、装用者の利き目に基づく違和感を軽減する眼鏡レンズLSを提供することができる。
【0085】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、上述の実施形態および他の変形例と組み合わせることが可能である。上述の実施形態と同一の参照符号で示された部分は、同一の機能を有し適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態では、利き目についての情報を用いて、設計する眼鏡レンズLSの目標非点収差を設定した。しかし、利き目についての情報を用いて、設計する眼鏡レンズLSの目標屈折力を設定してもよい。眼鏡レンズのある位置における目標屈折力は、当該位置を通して見る対象までの距離に対応する平均屈折力で表現され得る。本変形例では、利き目についての情報を用いて、眼鏡レンズLSの平均屈折力の分布が設定される。
【0086】
設計部27は、上述の実施形態における光線追跡により左視線通過点TL1および右視線通過点TR1とを算出し、左右の基本レンズ間で対応する第1位置および第2位置を取得する。その後、設計部27は、第1位置における目標平均屈折力の値と、第2位置における目標平均屈折力の値と、利き目依存度に基づいて、眼鏡レンズLSの目標平均屈折力を設定する。
【0087】
眼鏡レンズLSの左眼用レンズの第1位置における目標平均屈折力をRnewLとし、眼鏡レンズLSの右眼用レンズの第2位置における目標平均屈折力をRnewRとする。このとき、RnewRおよびRnewLは、以下の式(7)および式(8)により、左眼用基本レンズの第1位置における目標平均屈折力と右眼用基本レンズの第2位置における目標平均屈折力との重みづけ加算により算出される。
RnewR=RorgR×(1-vR)+RorgL×vR …(7)
RnewL=RorgL×(1-vL)+RorgR×vL …(8)
ここで、RorgLは左眼用基本レンズBLの第1位置における目標平均屈折力であり、RorgRは、右眼用基本レンズBRの第2位置における目標平均屈折力である。
【0088】
平均屈折力についても、上述のように、利き目の度合に基づいて一方の眼の目標平均屈折力を他方の眼の目標平均屈折力に反映させることで、違和感を軽減することができる。
なお、利き目についての情報を用いて、非点収差、屈折力以外の、任意の目標収差等の光学特性値を設定してもよい。これにより、当該光学特性値によって生じる利き目に基づく違和感を低減することができる。
【0089】
(変形例2)
上述の実施形態では、スプライン補間により利き目依存度データについて補間処理を行った。しかし、利き目依存度データにおける利き目依存度の設定は、スプライン補間以外の方法を利用してもよい。
【0090】
図15は、本変形例に係る利き目依存度の設定を説明するための概念図である。発注装置1等のユーザが、ターゲットオブジェクト面が記述される三次元空間の範囲R1,R2について利き目依存度を入力部15等を介して入力することができる。ユーザは、範囲R1,R2を定める情報と、当該範囲R1,R2に設定される利き目依存度を入力する。この範囲R1,R2を定める情報は、例えば、範囲R1が球の形状であれば中心の座標および半径の値であり、範囲R2が直方体の形状であれば各頂点の座標である。
なお、範囲R1,R2の形状は特に限定されず、楕円等の任意の形状とすることができる。ユーザが各座標点の利き目依存度を直接的に入力または変更できるように構成してもよい。上述したようなユーザによる利き目依存度の数値の入力または変更を行った後に、スプライン補間等の補間処理を行ってもよい。
【0091】
(変形例3)
上述の実施形態では、装用者がターゲットオブジェクト座標に記述された対象を見る場合の利き目依存度を用いる例を示した。しかし、2つ以上の異なる距離において装用者の利き目についての情報を取得し、当該情報を用いて眼鏡レンズの設計を行えば、その方法は特に限定されない。
【0092】
(変形例4)
上述の実施形態において、眼鏡レンズの一部の範囲について、左眼用基本レンズBLの目標非点収差と右眼用基本レンズBRの目標非点収差との混合処理を行う構成にしてもよい。例えば、右眼の左眼依存度vRおよび左眼の右眼依存度vLについて、vR>vLであれば左眼を利き目とし、vR<vLであれば右眼を利き目とする。この場合、利き目側の眼鏡レンズについては混合処理による目標非点収差の値の変更を行わない構成とすることができる。利き目か利き目でないかを、遠用部、中間部、近用部等の部位ごとに設定し、当該設定に基づき、これらの部位ごとに、混合処理による目標非点収差の値の変更を行うか行わないかを決定してもよい。混合処理を行う範囲は特に限定されず、適宜当該範囲をユーザが設定する構成にしてもよい。
【0093】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【実施例0094】
以下では、上述の実施形態および変形例に係る実施例を示すが、本発明は、実施例の具体的な数値等の内容により限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
利き目に基づいた設計をしていない累進屈折力レンズについて、サグの分布を示すデータおよび目標非点収差の分布を示すデータを取得した。上部に配置された対象までの距離が下部に配置された対象までの距離よりも長いターゲットオブジェクト面を設定し、装用者は、上部に配置された対象を見るときは右眼が利き目であり、下部に配置された対象を見る際には左眼が利き目であるものとした。また、装用者の処方は、左眼、右眼共に球面度数が+2.00D、加入度が2.00Dとした。これらのデータに基づいて光線追跡を行い、左眼用レンズと右眼用レンズとにおける対応する視線通過点を算出した。遠用部および近用部のそれぞれについて、上述の混合処理により、利き目でない側のレンズの目標非点収差の値を、利き目の側のレンズの目標非点収差を反映するように変更した。
【0096】
図16および図17は、それぞれ物体側面および眼球側面について、基本レンズのサグの分布を示すデータであり、設計する眼鏡レンズについても同様のサグの分布となる。縦軸は上下方向について、横軸は左右方向についてのPRPからの距離を示し、サグ量は濃さで示す。サグ量と濃さとの関係は、図の右側の凡例により示す。
【0097】
図18図19および図20は、それぞれ、混合処理前の目標非点収差の分布、混合処理後の目標非点収差の分布、および設計後の非点収差の分布を示す図である。図19の混合処理後の目標非点収差の分布では、混合処理が行われた右眼用レンズの近用部および左眼用レンズの遠用部を含む領域をそれぞれ破線L11およびL12で囲んで示す。図20の設計後の非点収差分布は、最適化により眼鏡レンズの形状を設計した後、非点収差を算出したものである。図18図19および図20において、目標非点収差または非点収差と濃さとの関係は、図の右側の凡例により示す。
【0098】
(実施例2)
実施例2では、目標非点収差ではなく平均屈折力について混合処理を行う他は、実施例1と同様に累進屈折力レンズの設計を行った。サグの分布を示すデータは、図16および図17に示したものと同一である。
【0099】
図21図22および図23は、それぞれ、混合処理前の目標平均屈折力の分布、混合処理後の目標平均屈折力の分布、および設計後の平均屈折力の分布を示す図である。図22の混合処理後の目標平均屈折力の分布では、混合処理が行われた右眼用レンズの近用部および左眼用レンズの遠用部を含む領域をそれぞれ破線L21およびL22で囲んで示す。図23の設計後の平均屈折力分布は、最適化により眼鏡レンズの形状を設計した後、平均屈折力を算出したものである。図21図22および図23において、目標平均屈折力または平均屈折力と濃さとの関係は、図の右側の凡例により示す。
【符号の説明】
【0100】
1…発注装置、2…受注装置、8…座標系、27…設計部、80…ターゲットオブジェクト座標系、BL…左眼用基本レンズ、BR…右眼用基本レンズ、dl…左眼の視線のずれ、dr…右眼の視線のずれ、EL…左眼、ER…右眼、EP…アイポイント、F…遠用部、FC…眼鏡位置、FV…遠用参照点、LS…眼鏡レンズ、LSL…左眼用レンズ、LSR…右眼用レンズ、M…主注視線、N…近用部、NV…近用参照点、OC…対象位置、P…中間部、PN…対象面、PRP…プリズムリファレンシャルポイント、SL1,SL2,SL3,SR4…左眼の視線、SR1,SR2,SR3,SR4…右眼の視線、T…対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23