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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169816
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A61B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019179476
(22)【出願日】2019-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】竹村 知晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 侑右
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160AA14
(57)【要約】
【課題】牽引シャフトによる牽引によって拡張体を望ましい形状に拡張させることができ、生体組織を径方向へ望ましい形状に押し広げることができる医療デバイスを提供する。
【解決手段】長尺な中空のシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体21と、シャフト部20の内部から拡張体21を先端側へ貫通し、拡張体21の先端部に牽引力を作用させるための牽引シャフト60と、を有し、拡張体21は、先端部に軸方向に沿って導出孔71が形成された先端導出部70を有し、牽引シャフト60は、導出孔71から先端側へ導出され、拡張体21よりも先端側に先端牽引部62を有し、先端牽引部62および先端導出部70は、互いに接触して滑りを制限する滑り制限部90を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な中空のシャフト部と、
前記シャフト部の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体と、
前記シャフト部の内部から前記拡張体を先端側へ貫通し、前記拡張体の先端部に牽引力を作用させるための牽引シャフトと、を有し、
前記拡張体は、先端部に軸方向に沿って導出孔が形成された先端導出部を有し、
前記牽引シャフトは、前記導出孔から先端側へ導出され、前記拡張体よりも先端側に先端牽引部を有し、
前記先端牽引部および/または前記先端導出部は、互いに接触して滑りを制限する滑り制限部を有する医療デバイス。
【請求項2】
前記牽引シャフトは、複数の線材により形成される牽引用管体を有する請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記拡張体は、自然状態において径方向へ広がっている基準形態と、前記基準形態よりも径方向に収縮した収縮形態と、になることが可能であり、
前記基準形態において、前記先端牽引部は、前記先端導出部よりも先端側に前記先端牽引部から離れて配置可能である請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記滑り制限部は、前記先端導出部から基端側へ突出する導出側凸部と、前記先端牽引部から先端側へ突出する牽引側凸部と、を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記導出側凸部および/または前記牽引側凸部の頂部は、径方向の外側から見て、頂部へ向かって細くなるように形成された請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記導出側凸部および/または前記牽引側凸部の頂部は、径方向の外側から見て曲面で形成された請求項4に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記導出側凸部は、周方向の一方側に、軸方向と略平行な導出側凸部側面を有し、
前記牽引側凸部は、周方向の一方側に、軸方向と略平行な牽引側凸部側面を有し、
前記導出側凸部側面および前記牽引側凸部側面は、接触可能である4~5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するコイルを有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するリニアスライド機構を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するリンク機構を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および/または前記先端牽引部に設けられる磁石を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部の対向して接触可能な部位の少なくとも一部に、摩擦係数の高い高摩擦部を有する請求項1~7のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記先端導出部および前記先端牽引部の一方は、径方向の内側が軸方向へ窪む内側凹部を有し、他方は、径方向の内側が軸方向へ突出する内側凸部を有し、
前記内側凸部は、前記内側凹部に入り込んで接触可能である請求項12に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の孔を拡張させるための医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患の一つとして、慢性心不全が知られている。慢性心不全は、心機能の指標に基づいて収縮不全と拡張不全に大別される。拡張不全に罹患した患者は、心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下する。これにより、患者は、肺水腫などの心不全症状を呈することとなる。また、肺高血圧症等により右心房側の血圧が高まり、心臓のポンプ機能が低下することで心不全症状を呈するような心臓疾患もある。
【0003】
近年、これらの心不全患者に対し、上昇した心房圧の逃げ道となるシャント(貫通孔)を心房中隔に形成し、心不全症状の緩和を可能にするシャント治療が注目されている。シャント治療は、経静脈アプローチで心房中隔にアクセスし、貫通孔を形成する。そして、貫通孔を所望のサイズに押し広げ、貫通孔にエネルギーを付与して焼灼することで、シャント孔とする方法が知られている。
【0004】
また、生体管腔内で、形成した孔を押し広げる方法は、心房中隔のシャント孔の形成以外でも行われている。例えば特許文献1には、牽引シャフトの先端部が拡張体の先端部に当接することで、拡張体が拡張するデバイスが記載されている。
【0005】
生体管腔内に挿入されるデバイスは、高い可撓性が要求される。このために、牽引シャフトを、例えば特許文献2に示すような金属の撚り線とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5222971号明細書
【特許文献2】特許第3626495号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
牽引シャフトを軸方向へ牽引する際に、撚り線は、引っ張り力が作用することで、撚り線を構成する線材が真直ぐに延びようとする撚り戻しが生じる。撚り戻しが生じると、牽引シャフトの移動に対する拡張体の圧縮がばらつき、拡張体を望ましい形状に拡張できない可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、牽引シャフトによる牽引によって拡張体を望ましい形状に拡張させることができ、生体組織を径方向へ望ましい形状に押し広げることができる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、長尺な中空のシャフト部と、前記シャフト部の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体と、前記シャフト部の内部から前記拡張体を先端側へ貫通し、前記拡張体の先端部に牽引力を作用させるための牽引シャフトと、を有し、前記拡張体は、先端部に軸方向に沿って導出孔が形成された先端導出部を有し、前記牽引シャフトは、前記導出孔から先端側へ導出され、前記拡張体よりも先端側に先端牽引部を有し、前記先端牽引部および/または前記先端導出部は、互いに接触して滑りを制限する滑り制限部を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した医療デバイスは、滑り制限部が設けられるため、シャフト部に対する牽引シャフトの回転を制限できる。このため、医療デバイスは、牽引シャフトによる牽引によって拡張体を望ましい形状に拡張させることができる。したがって、医療デバイスは、生体組織を径方向へ望ましい形状に押し広げることができる。
【0011】
前記牽引シャフトは、複数の線材により形成される牽引用管体を有してもよい。複数の線材により形成される牽引シャフトは、牽引の際に望ましくない回転を生じさせる可能性がある。しかしながら、医療デバイスは、滑り制限部が設けられるため、シャフト部に対する牽引シャフトの回転を制限できる。したがって、医療デバイスは、牽引シャフトを複数の線材により形成して牽引シャフトの柔軟性を高めつつ、シャフト部に対する牽引シャフトの回転を制限できる。
【0012】
前記拡張体は、自然状態において径方向へ広がっている基準形態と、前記基準形態よりも径方向に収縮した収縮形態と、になることが可能であり、前記基準形態において、前記先端牽引部は、前記先端導出部よりも先端側に前記先端牽引部から離れて配置可能であってもよい。これにより、拡張体を収縮形態とするために、先端導出部が先端側へ移動する空間を確保できる。このため、牽引シャフトを操作せずに、例えば拡張体を収納シースに収納することで、拡張体を基準形態から収縮形態とすることができる。また、牽引シャフトを操作せずに、例えば拡張体を収納シースから放出することで、拡張体を収縮形態から基準形態とすることができる。
【0013】
前記滑り制限部は、前記先端導出部から基端側へ突出する導出側凸部と、前記先端牽引部から先端側へ突出する牽引側凸部と、を有してもよい。これにより、導出側凸部と牽引側凸部が噛み合い、シャフト部に対する牽引シャフトの回転を制限できる。
【0014】
前記導出側凸部および/または前記牽引側凸部の頂部は、径方向の外側から見て、頂部へ向かって細くなるように形成されてもよい。これにより、導出側凸部および牽引側凸部は、突き当たることで円滑に噛み合うことができる。また、導出側凸部および牽引側凸部は、接触した後に、互いに離れることが容易である。
【0015】
前記導出側凸部および/または前記牽引側凸部の頂部は、径方向の外側から見て曲面で形成されてもよい。これにより、導出側凸部および牽引側凸部は、突き当たることで円滑に噛み合うことができ、かつ生体に接触しても生体を傷つけず、安全性が高い。
【0016】
前記導出側凸部は、周方向の一方側に、軸方向と略平行な導出側凸部側面を有し、前記牽引側凸部は、周方向の一方側に、軸方向と略平行な牽引側凸部側面を有し、前記導出側凸部側面および前記牽引側凸部側面は、接触可能であってもよい。これにより、導出側凸部側面および牽引側凸部側面は、回転力の方向と略垂直に接触できる。このため、導出側凸部側面および牽引側凸部側面は、回転力を効果的に受け止めることができ、回転を制限する効果が高い。
【0017】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するコイルを有してもよい。コイルは、先端導出部および先端牽引部の軸方向への移動を、変形することで許容しつつ、相対的な回転を制限できる。
【0018】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するリニアスライド機構を有してもよい。リニアスライド機構は、先端導出部および先端牽引部の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。
【0019】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部を連結するリンク機構を有してもよい。リンク機構は、先端導出部および先端牽引部の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。
【0020】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および/または前記先端牽引部に設けられる磁石を有してもよい。これにより、滑り制限部は、先端導出部および先端牽引部の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。
【0021】
前記滑り制限部は、前記先端導出部および前記先端牽引部の対向して接触可能な部位の少なくとも一部に、摩擦係数の高い高摩擦部を有してもよい。これにより、先端導出部および先端牽引部の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。
【0022】
前記先端導出部および前記先端牽引部の一方は、径方向の内側が軸方向へ窪む内側凹部を有し、他方は、径方向の内側が軸方向へ突出する内側凸部を有し、前記内側凸部は、前記内側凹部に入り込んで接触可能であってもよい。これにより、先端牽引部が牽引されて内側凸部が内側凹部に入り込んで接触する際に、先端牽引部が先端導出部に対して回転することを制限できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る医療デバイスの全体構成を表した正面図である。
図2】医療デバイスの先端部の拡大斜視図である。
図3】医療デバイスの先端部の拡大平面図である。
図4】本実施形態に係る医療デバイスを使用した処置方法の説明図であって、心房中隔の貫通孔に拡張体を配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図5】拡張体を心房中隔に配置した状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図6】心房中隔において拡張体を拡径させた状態を、医療デバイスは正面図で、生体組織は断面図で、それぞれ模式的に示す説明図である。
図7】牽引シャフトを牽引した際の医療デバイスの先端部を示す拡大平面図である。
図8】滑り制限部が設けられない医療デバイスの牽引シャフトを牽引した際の先端部を示す拡大平面図である。
図9】第1変形例に係る医療デバイスの先端部を、導出側管体を透過して示す平面図である。
図10】第2変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図11】第3変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図であり、(A)は牽引シャフトを牽引する前の状態、(B)は牽引シャフトを牽引している状態を示す。
図12】第4変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図13】第5変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図14】第6変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図15】第7変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図16】第8変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
図17】第9変形例に係る医療デバイスの先端部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体内腔に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0025】
本実施形態に係る医療デバイス10は、図4に示すように、患者の心臓Hの心房中隔HAに形成された貫通孔Hhを拡張し、さらに拡張した貫通孔Hhをその大きさに維持する維持処置を行うことができるように構成されている。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施形態の医療デバイス10は、長尺なシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられる拡張体21と、拡張体21を拡張させるための牽引シャフト60と、シャフト部20の基端部に設けられる操作部23とを有している。拡張体21には、前述の維持処置を行うためのエネルギー伝達要素22が設けられる。
【0027】
シャフト部20は、先端部に拡張体21を保持している主シャフト31と、主シャフト31を収納する収納シース30と、主シャフト31の先端部に連結される外管33と、外管33に収納可能な内管34とを有している。収納シース30は、主シャフト31に対して、軸方向に進退移動可能である。収納シース30は、シャフト部20の先端側に移動した状態で、その内部に拡張体21を収納することができる。拡張体21を収納した状態から、収納シース30を基端側に移動させることで、拡張体21を露出させることができる。
【0028】
主シャフト31の基端部は、操作部23に連結されている。主シャフト31の先端部は、拡張体21の基端部および外管33の基端部に連結されている。外管33は、主シャフト31の先端部から先端側に延出している。内管34は、拡張体21の先端部から基端側へ延出している。内管34の基端部は、外管33の内部に収納されて、外管33の内部を軸方向へ摺動可能である。
【0029】
牽引シャフト60は、拡張体21に圧縮力を作用させるための牽引用のシャフトである。牽引シャフト60は、主シャフト31、外管33および内管34の内部に収納されている。牽引シャフト60は、拡張体21および内管34の先端から先端側に突出している。牽引シャフト60は、長尺な中空の牽引用管体61と、牽引用管体61の先端側に連結される先端牽引部62とを有している。
【0030】
先端牽引部62は、図3に示すように、基端側へ向かって突出する複数の牽引側凸部63を有している。複数の牽引側凸部63は、牽引用管体61を囲むように周方向に均等に並んで配置されている。各々の牽引側凸部63は、径方向の外側から見て、基端側に頂角を有する略二等辺三角形で形成されている。したがって、牽引側凸部63は、二等辺三角形の等辺に対応する位置に、2つの牽引側凸部側面64が形成されている。2つの牽引側凸部側面64に挟まれる基端側の牽引側頂部65は、径方向の外側から見て、基端側へ向かって細くなるように形成される。なお、基端側頂部65は、先端導出部70に突き当たって破損しないように、ある程度の曲率を有して形成されることが好ましい。また、基端側頂部65は、ある程度の曲率を有することで、基端側頂部65による生体の損傷を抑制できる。隣接する2つの牽引側凸部63は、周方向に所定の隙間G1を有して並んでいる。隣接する2つの牽引側凸部63の間には、先端側へ向かって窪む牽引側凹部66が形成される。
【0031】
牽引用管体61は、複数の線材67が撚られて管状に形成された撚り線68を有している。撚り線68において、各々の線材67は、螺旋状に並んで配置されている。なお、牽引用管体61は、撚り線68を有する形態に限定されない。例えば、牽引用管体61は、撚り線68が径方向に重なって、多層構造で形成されてもよい。また、牽引用管体61は、撚り線68を有さなくてもよい。
【0032】
先端牽引部62は、拡張体21の先端部に接触して、拡張体21を圧縮方向に牽引することが可能である。また、拡張体21を収納シース30に収納する際、先端牽引部62を拡張体21から先端側に離すことによって、拡張体21の軸方向への延伸が容易になり、収納性を向上させることができる。
【0033】
操作部23は、図1に示すように、術者が挟持する筐体40と、術者が回転操作可能な操作ダイヤル41と、操作ダイヤル41の回転に連動して動作する変換機構42とを有している。牽引シャフト60は、操作部23の内部において、変換機構42に保持されている。変換機構42は、操作ダイヤル41の回転に伴い、保持する牽引シャフト60を軸方向に沿って進退移動させることができる。変換機構42としては、例えばラックピニオン機構を用いることができる。
【0034】
拡張体21は、図2および図3に示すように、周方向に複数の線材部50を有している。本実施形態において線材部50は、周方向に4本が設けられている。なお、線材部50の数は、特に限定されない。線材部50は、それぞれ拡張体21の径方向に拡張および収縮可能である。線材部50の基端部の第1連結部58は、主シャフト31の先端部に連結されている。線材部50の基端部は、主シャフト31の先端部から先端側に延出している。線材部50の先端部の第2連結部59は、内管34の先端部に連結されている。線材部50の先端部は、内管34の先端部から基端側に延出している。線材部50は、軸方向の両端部から中央部に向かって、径方向に大きくなるように傾斜している。また、線材部50は、軸方向中央部に、拡張体21の径方向において谷形状の挟持部51を有する。
【0035】
挟持部51は、基端側挟持部52と、基端側挟持部52よりも先端側に位置する先端側挟持部53とを有している。挟持部51は、さらに、基端側外凸部55と、中央内凸部56と、先端側外凸部57とを有している。基端側挟持部52と先端側挟持部53の間の間隔は、外力が作用していない基準形態において、径方向の内側よりも外側において軸方向に多少大きく開いていることが好ましい。これにより、基端側挟持部52と先端側挟持部53の間に、径方向の外側から生体組織を配置することが容易である。
【0036】
基端側挟持部52は、先端側に向かって突出する突出部54を有している。突出部54には、エネルギー伝達要素22が配置される。なお、基端側挟持部52は、突出部54を有さなくてもよい。すなわち、エネルギー伝達要素22は、先端側へ突出しなくてもよい。
【0037】
基端側外凸部55は、基端側挟持部52の基端側に位置して、径方向の外側へ凸形状に形成されている。先端側外凸部57は、先端側挟持部53の先端側に位置して、径方向の外側へ凸形状に形成されている。中央内凸部56は、基端側挟持部52と先端側挟持部53の間に位置して、径方向の内側へ凸形状に形成されている。基端側外凸部55、中央内凸部56および先端側外凸部57は、収納シース30に収納されることで、凸形状から平坦に近い形状に変形できる。
【0038】
本実施形態では、基端側挟持部52にエネルギー伝達要素22を設けているが、先端側挟持部53にエネルギー伝達要素22を設けてもよい。
【0039】
拡張体21は、先端部に、軸方向に沿って導出孔71が形成された先端導出部70を有している。先端導出部70には、牽引シャフト60の牽引用管体61が貫通している。
【0040】
先端導出部70は、図3に示すように、先端側へ向かって突出する複数の導出側凸部73を有している。複数の導出側凸部73は、牽引用管体61を囲むように周方向に均等に並んで配置されている。各々の導出側凸部73は、径方向の外側から見て、先端側に頂角を有する略二等辺三角形で形成されている。したがって、導出側凸部73は、二等辺三角形の等辺に対応する位置に、2つの導出側凸部側面74が形成されている。2つの導出側凸部側面74に挟まれる先端側の導出側頂部75は、径方向の外側から見て、先端側へ向かって細くなるように形成される。なお、導出側頂部75は、先端牽引部62部に突き当たって破損しないように、ある程度の曲率を有して形成されることが好ましい。また、導出側頂部75は、ある程度の曲率を有することで、導出側頂部75による生体の損傷を抑制できる。隣接する2つの導出側凸部73は、周方向に所定の隙間G2を有して並んでいる。隣接する2つの導出側凸部73の間には、基端側へ向かって窪む導出側凹部76が形成される。導出側凸部73は、牽引側凹部66に入り込むことができる。また、牽引側凸部63は、導出側凹部76に入り込むことができる。先端導出部70は、導出側凸部73を囲む導出側管体77を有している。導出側頂部75は、導出側管体77の導出側端面78よりも基端側に位置している。導出側凸部73の軸方向の長さと、牽引側凸部63の軸方向の長さは、略一致する。
【0041】
先端導出部70および先端牽引部62の接触する構造は、滑り制限部90を構成する。牽引側凸部63および導出側凸部73の各々の数は、特に限定されず、例えば3~24個であり、より好ましくは6~18個であり、さらに好ましくは6~12個である。牽引側凸部63および導出側凸部73の数が多いと、牽引側凸部63および導出側凸部73が適切な周方向位置で噛み合うために回転する角度が小さくなるが、滑りを抑制する効果が低下する。牽引側凸部63および導出側凸部73の数が少ないと、牽引側凸部63および導出側凸部73が適切な周方向位置で噛み合うために回転する角度が大きくなるが、滑りを抑制する効果が向上する。
【0042】
拡張体21を形成する線材部50は、例えば、円筒から切り出した平板形状を有する。拡張体21を形成する線材は、厚み50~500μm、幅0.3~2.0mmとすることができる。ただし、拡張体21を形成する線材は、この範囲外の寸法を有していてもよい。また、線材部50の形状は、限定されず、例えば円形の断面形状や、それ以外の断面形状を有していてもよい。
【0043】
エネルギー伝達要素22は、基端側挟持部52の突出部54に設けられているので、挟持部51が心房中隔HAを挟持する際、エネルギー伝達要素22からのエネルギーは、心房中隔HAに対して右心房側から伝達される。なお、エネルギー伝達要素22が先端側挟持部53に設けられる場合、エネルギー伝達要素22からのエネルギーは、心房中隔HAに対して左心房側から伝達される。
【0044】
エネルギー伝達要素22は、例えば、外部装置であるエネルギー供給装置(図示しない)から電気エネルギーを受けるバイポーラ電極で構成される。この場合、各線材部50に配置されたエネルギー伝達要素22間で通電がなされる。エネルギー伝達要素22とエネルギー供給装置とは、絶縁性被覆材で被覆された導線(図示しない)により接続される。導線は、シャフト部20及び操作部23を介して外部に導出され、エネルギー供給装置に接続される。
【0045】
エネルギー伝達要素22は、他にも、モノポーラ電極として構成されていてもよい。この場合、体外に用意される対極板との間で通電がなされる。また、エネルギー伝達要素22は、エネルギー供給装置から高周波の電気エネルギーを受給して発熱する発熱素子(電極チップ)でもよい。この場合、各線材部50に配置されたエネルギー伝達要素22間で通電がなされる。さらに、エネルギー伝達要素22は、マイクロ波エネルギー、超音波エネルギー、レーザー等のコヒーレント光、加熱した流体、冷却された流体、化学的な媒体により加熱や冷却作用を及ぼすもの、摩擦熱を生じさせるもの、電線等を備えるヒーター等のように、貫通孔Hhに対してエネルギーを付与可能な要素により構成することができ、具体的な形態は特に限定されない。
【0046】
線材部50は、金属材料で形成することができる。この金属材料としては、例えば、チタン系(Ti-Ni、Ti-Pd、Ti-Nb-Sn等)の合金、銅系の合金、ステンレス鋼、βチタン鋼、Co-Cr合金を用いることができる。なお、ニッケルチタン合金等のバネ性を有する合金等を用いるとよりよい。ただし、線材部50の材料はこれらに限られず、その他の材料で形成してもよい。
【0047】
シャフト部20の収納シース30、主シャフト31は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、PEEK、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0048】
牽引シャフト60の線材67は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、比較的剛性の高い樹脂材料などの長尺状の線材で形成することができる。また、上記にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、フッ素樹脂などの樹脂材料を被覆したもので形成してもよい。
【0049】
先端牽引部62、外管33および内管34は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼等の金属材料、比較的剛性の高い樹脂材料などで形成することができる。
【0050】
次に、本実施形態に係る医療デバイス10を使用した処置方法について説明する。本処置方法は、心不全(左心不全)に罹患した患者に対して行われる。より具体的には、図4に示すように、心臓Hの左心室の心筋が肥大化してスティッフネス(硬さ)が増すことで、左心房HLaの血圧が高まる慢性心不全に罹患した患者に対して行われる処置の方法である。
【0051】
術者は、貫通孔Hhの形成に際し、ガイディングシース及びダイレータが組み合わされたイントロデューサを心房中隔HA付近まで送達する。イントロデューサは、例えば、下大静脈Ivを介して右心房HRaに送達することができる。また、イントロデューサの送達は、ガイドワイヤ11を使用して行うことができる。術者は、ダイレータにガイドワイヤ11を挿通し、ガイドワイヤ11に沿わせて、イントロデューサを送達させることができる。なお、生体に対するイントロデューサの挿入、ガイドワイヤ11の挿入等は、血管導入用のイントロデューサを用いるなど、公知の方法で行うことができる。
【0052】
次に、術者は、右心房HRa側から左心房HLa側に向かって、穿刺デバイス(図示しない)をおよびダイレータを貫通させ、貫通孔Hhを形成する。穿刺デバイスとしては、例えば、先端が尖ったワイヤ等のデバイスを使用することができる。穿刺デバイスは、ダイレータに挿通させて心房中隔HAまで送達する。穿刺デバイスは、ダイレータからガイドワイヤ11を抜去した後、ガイドワイヤ11に代えて心房中隔HAまで送達することができる。
【0053】
次に、術者は、予め右心房HRaから貫通孔Hhを介して左心房HLaに挿入されたガイドワイヤ11に沿って、医療デバイス10を心房中隔HA付近に送達する。このとき、医療デバイス10の先端部の一部は、心房中隔HAに開けた貫通孔Hhを通過して、左心房HLaに達するようにする。また、医療デバイス10の挿入の際、拡張体21は、収納シース30に収納されて収縮形態となっている。収縮形態において、基準形態では凸形状である基端側外凸部55、中央内凸部56および先端側外凸部57が、平坦に近い形状に弾性的に変形することで、拡張体21が径方向に収縮している。
【0054】
次に、図5に示すように、収納シース30を基端側に移動させることにより、拡張体21を露出させる。これにより、拡張体21は、自己の弾性力により、元の基準形態または基準形態に近い形態に復元する。この際、心房中隔HAは、基端側挟持部52と先端側挟持部53との間に配置される。なお、拡張体21は、貫通孔Hhに接触することで、完全に基準形態に戻らずに、基準形態に近い形状に戻る可能性がある。なお、この基準形態に近い形態において、拡張体21は、収納シース30に覆われず、かつ牽引シャフト60から力を受けていない。拡張体21のこの形態も、基準形態に含まれると定義することができる。
【0055】
次に、術者は、挟持部51によって心房中隔HAを保持した状態で操作部23を操作し、牽引シャフト60を基端側に移動させる。これにより、図7に示すように、先端牽引部62が基端側へ移動し、先端導出部70に接触する。このとき、牽引側凸部63および導出側凸部73は、径方向外側から見て略二等辺三角形であるため、牽引側凸部側面64および導出側凸部側面74が接触して滑らかに滑り、所定の状態で安定する。これにより、先端牽引部62の牽引側凸部63が、先端導出部70の導出側凹部76に入り込み、先端導出部70の導出側凸部73が、先端牽引部62の牽引側凹部66に入り込んだ状態となる。このとき、先端牽引部62の牽引側凸部63が形成される基端側の端面69が、先端導出部70の導出側端面78に当接する。導出側端面78は、導出側頂部75よりも先端側に位置するため、導出側頂部75は、牽引側凹部66の最奥まで到達しない。このため、導出側頂部75が牽引側凹部66の最奥に突き当たって破損することを抑制できる。また、牽引側頂部65も、導出側凹部76の最奥まで到達しない。このため、牽引側頂部65が導出側凹部76の最奥に突き当たって破損することを抑制できる。また、牽引側凸部63は、周方向に所定の隙間G1を有して並んでおり、導出側凸部73は、周方向に所定の隙間G2を有して並んでいる。このため、仮に、導出側頂部75が牽引側凹部66の最奥まで到達しても、導出側凸部73は、牽引側凹部66に密着して嵌合しない。また、仮に、牽引側頂部65が導出側凹部76の最奥まで到達しても、牽引側凸部63は、導出側凹部76に密着して嵌合しない。このため、導出側凸部73は、牽引側凹部66から抜けることが容易であり、牽引側凸部63は、導出側凹部76から抜けることが容易である。このため、先端牽引部62を、先端導出部70に接触させた後、軸方向へ離間させることが容易である。
【0056】
術者は、牽引シャフト60をさらに基端側に移動させる。これにより、先端牽引部62が先端導出部70を基端側へ押圧し、拡張体21へ軸方向に沿う圧縮力が作用する。これにより、図6に示すように、軸方向へ圧縮力を受ける拡張体21は、基準形態よりも径方向に拡張した拡張形態となる。拡張体21は、拡張形態となることで、基端側挟持部52と先端側挟持部53が近づき、基端側挟持部52と先端側挟持部53の間に心房中隔HAを挟持する。挟持部51は、心房中隔HAを挟持した状態でさらに拡張し、貫通孔Hhを径方向に押し広げる。
【0057】
牽引シャフト60を基端側に移動させている際には、牽引シャフト60には引張力が作用するため、螺旋状の各々の線材67は、牽引シャフト60の軸方向と平行になろうとする現象(撚り戻し)を生じる。このため、先端牽引部62は、図7中の方向X1へ回転力を受ける。仮に、先端牽引部62に牽引側凸部63が設けられず、先端導出部70に導出側凸部73が設けられない場合、図8に示すように、先端牽引部62は方向X1へ回転する。先端牽引部62が方向X1へ回転し続けると、線材67に元の形状へ戻ろうとする力が作用し、意図しないタイミングで、先端牽引部62は方向X1の逆方向X2へ回転する。このような現象が発生すると、牽引シャフト60の移動に対する拡張体21の圧縮がばらつき、拡張体21を望ましい形状に拡張できない可能性がある。
【0058】
これに対し、本実施形態では、図7に示すように、牽引側凸部63が導出側凹部76に入り込み、導出側凸部73が牽引側凹部66に入り込んでいるため、先端牽引部62が先端導出部70に対して回転することが抑制される。このため、牽引シャフト60の移動に対する拡張体21の圧縮が均一となり、拡張体21を望ましい形状に拡張させることができる。したがって、拡張体21は、均一な拡張力で均一に広がり、心房中隔HAの貫通孔Hhを径方向へ均一に押し広げることができる。
【0059】
貫通孔Hhを拡張させたら、血行動態の確認を行う。術者は、図4に示すように、下大静脈Iv経由で右心房HRaに対し、血行動態確認用デバイス200を送達する。血行動態確認用デバイス200としては、例えば、公知のエコーカテーテルを使用することができる。術者は、血行動態確認用デバイス200で取得されたエコー画像を、ディスプレイ等の表示装置に表示させ、その表示結果に基づいて貫通孔Hhを通る血液量を確認することができる。
【0060】
次に、術者は、貫通孔Hhの大きさの維持するために維持処置を行う。維持処置では、エネルギー伝達要素22を通して貫通孔Hhの縁部にエネルギーを付与することにより、貫通孔Hhの縁部をエネルギーによって焼灼(加熱焼灼)する。エネルギー伝達要素22を通して貫通孔Hhの縁部付近の生体組織が焼灼されると、縁部付近には生体組織が変性した変性部が形成される。変性部における生体組織は弾性を失った状態となるため、貫通孔Hhは拡張体21により押し広げられた際の形状を維持できる。
【0061】
拡張形態において、前述したように、拡張体21は均一な拡張力で均一に広がるため、各々の線材部50に設けられるエネルギー伝達要素22は、心房中隔HAに適切に押し付けられる。また、エネルギー伝達要素22は、基端側挟持部52の突出部54に配置されている。このため、突出部54が心房中隔HAに押し付けられることで、エネルギー伝達要素22が生体組織に埋没した状態で、維持処置が行われる。これにより、維持処置時にエネルギー伝達要素22が血液に触れないようにし、電流が血液に漏洩して血栓等を生じることを抑制できる。
【0062】
維持処置後には、再度血行動態を確認し、貫通孔Hhを通る血液量が所望の量となっている場合、術者は、拡張体21を縮径させる。術者は、まず、先端牽引部62を先端側へ移動させ、先端導出部70よりも先端側に離れた位置に配置する。この後、術者は、収納シース30を拡張体21に対して先端側へ移動させる。これにより、拡張体21は、基端側から収納シース30に収納されて、収縮形態となる。さらに、術者は、医療デバイス10全体を生体外に抜去し、処置を終了する。
【0063】
以上のように、上述の実施形態に係る医療デバイス10は、長尺な中空のシャフト部20と、シャフト部20の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体21と、シャフト部20の内部から拡張体21を先端側へ貫通し、拡張体21の先端部に牽引力を作用させるための牽引シャフト60と、を有し、拡張体21は、先端部に軸方向に沿って導出孔71が形成された先端導出部70を有し、牽引シャフト60は、導出孔71から先端側へ導出され、拡張体21よりも先端側に先端牽引部62を有し、先端牽引部62および先端導出部70は、互いに接触して滑りを制限する滑り制限部90を有する。これにより、医療デバイス10は、滑り制限部90が設けられるため、シャフト部20に対する牽引シャフト60の回転を制限できる。このため、医療デバイス10は、牽引シャフト60による牽引によって拡張体21を望ましい形状に拡張させることができる。したがって、医療デバイス10は、生体組織を径方向へ望ましい形状に押し広げることができる。
【0064】
また、牽引シャフト60は、複数の線材67により形成される牽引用管体61を有してもよい。複数の線材67により形成される牽引シャフト60は、牽引の際に望ましくない回転を生じさせる可能性がある。しかしながら、医療デバイス10は、滑り制限部90が設けられるため、シャフト部20に対する牽引シャフト60の回転を制限できる。したがって、医療デバイス10は、牽引シャフト60を複数の線材67により形成して牽引シャフト60の柔軟性を高めつつ、シャフト部20に対する牽引シャフト60の回転を制限できる。
【0065】
また、拡張体21は、自然状態において径方向へ広がっている基準形態と、基準形態よりも径方向に収縮した収縮形態と、になることが可能であり、基準形態において、先端牽引部62は、先端導出部70よりも先端側に先端牽引部62から離れて配置可能である。これにより、拡張体21を収縮形態とするために、先端導出部70が先端側へ移動する空間を確保できる。このため、牽引シャフト60を操作せずに、例えば拡張体21を収納シース30に収納することで、拡張体21を基準形態から収縮形態とすることができる。また、牽引シャフト60を操作せずに、例えば拡張体21を収納シース30から放出することで、拡張体21を収縮形態から基準形態とすることができる。
【0066】
また、滑り制限部90は、先端導出部70から基端側へ突出する導出側凸部73と、先端牽引部62から先端側へ突出する牽引側凸部63と、を有する。これにより、導出側凸部73と牽引側凸部63が噛み合い、シャフト部20に対する牽引シャフト60の回転を制限できる。
【0067】
また、導出側凸部73および牽引側凸部63の頂部は、径方向の外側から見て、頂部へ向かって細くなるように形成される。これにより、導出側凸部73および牽引側凸部63は、突き当たることで円滑に噛み合うことができる。また、導出側凸部73および牽引側凸部63は、接触した後に、互いに離れることが容易である。
【0068】
また、本発明は、処置方法をも提供する。本処置方法は、医療デバイス10を用いて生体組織に開けた貫通孔Hhを押し広げる処置方法であって、前記医療デバイス10は、長尺な中空のシャフト部20と、前記シャフト部20の先端部に設けられ径方向に拡縮可能な拡張体21と、前記シャフト部20の内部から前記拡張体21を先端側へ貫通し、前記拡張体21の先端部に牽引力を作用させるための牽引シャフト60と、を有し、前記拡張体21は、先端部に軸方向に沿って導出孔71が形成された先端導出部70を有し、前記牽引シャフト60は、前記導出孔71から先端側へ導出され、前記拡張体21よりも先端側に先端牽引部62を有し、前記先端牽引部62および/または前記先端導出部70は、互いに接触して滑りを制限する滑り制限部90を有し、医療デバイス10の先端部を生体管腔に挿入して前記拡張体21を生体組織に開けた貫通孔Hhに挿入し、前記先端牽引部62を牽引して前記先端導出部70に接触させ、前記滑り制限部90により先端牽引部62および先端導出部70の相対的な回転を制限しつつ、前記拡張体21を径方向へ拡張させて当該拡張体21により前記貫通孔Hhを押し広げる。
【0069】
上記のように構成した処置方法は、滑り制限部90によって先端牽引部62および先端導出部70の相対的な回転を制限できるため、牽引シャフト60による牽引によって拡張体21を望ましい形状に拡張させることができる。したがって、本処置方法は、貫通孔Hhを径方向へ望ましい形状に押し広げることができる。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば医療デバイス10が適用される生体管腔は、血管に限定されず、例えば、脈管、尿管、胆管、卵管、肝管等であってもよい。
【0071】
また、図9に示す第1変形例のように、周方向の一方側の導出側凸部側面74が、軸方向と略平行であり、当該導出側凸部側面74と接触可能な牽引側凸部側面64が、軸方向と略平行であってもよい。そして、軸方向と略平行な導出側凸部側面74および牽引側凸部側面64は、撚り線68が撚り戻りをする際に接触する面である。撚り線68の撚り戻りの方向X1は、螺旋状に巻かれる撚り線68の先端側への巻回方向の逆方向である。したがって、軸方向と略平行な導出側凸部側面74は、導出側凸部73の撚り戻りの方向X1側の側面である。そして、軸方向と略平行な牽引側凸部側面64は、導出側凸部73の撚り戻りの方向X1側の逆側の側面である。
【0072】
また、図10に示す第2変形例のように、滑り制限部90は、先端導出部70および先端牽引部62を連結するコイル91を有してもよい。コイル91の基端部は、先端導出部70に固定され、コイル91の先端部は、先端牽引部62に固定される。コイル91は、先端導出部70および先端牽引部62の軸方向への近接および離間を、変形することで許容しつつ、相対的な回転を制限できる。コイル91の先端側への巻回方向は、限定されないが、撚り線68の先端側への巻回方向の逆方向であることが好ましい。これにより、撚り線68の撚り戻りの方向X1へ、先端牽引部62に力が作用すると、コイル91は、コイル半径を小さくする方向に捩れる。しかしながら、コイル91の内側には、牽引シャフト60が配置されているため、コイル91は、コイル半径を小さくできず、捩れない。このため、コイル91は、先端牽引部62が先端導出部70に対して撚り戻りの方向X1へ回転することを制限できる。
【0073】
また、図11に示す第3変形例のように、滑り制限部90は、コイル半径が徐々に変化するコイル91を有してもよい。これにより、牽引シャフト60を牽引すると、コイル91の線材が同一平面内で巻回するように収縮する。コイル91の先端側への巻回方向は、限定されないが、第3変形例と同様に、撚り線68の先端側への巻回方向の逆方向であることが好ましい。これにより、撚り線68の撚り戻りの方向X1へ、先端牽引部62に力が作用すると、コイル91は、コイル半径を小さくする方向に捩れる。しかしながら、コイル91の内側には、コイル91を構成する線材が巻回されているため、コイル91は、コイル半径を小さくできず、捩れない。このため、コイル91は、先端牽引部62が先端導出部70に対して撚り戻りの方向X1へ回転することを制限できる。
【0074】
また、図12に示す第4変形例のように、滑り制限部90の導出側凸部73および牽引側凸部63は、径方向外側から見て円弧状に形成されてもよい。これにより、導出側凸部73および牽引側凸部63は、突き当たることで円滑に噛み合うことができ、かつ生体に接触しても生体を傷つけず、安全性が高い。
【0075】
また、図13に示す第5変形例のように、滑り制限部90は、先端導出部70に位置する第1磁石92と、先端牽引部62に位置する第2磁石93とを有してもよい。第1磁石92および第2磁石93の少なくとも一方は、電磁石である。第1磁石92および第2磁石93は、S極とN極が周方向へ交互に配置されている。これにより、電磁石に電流を流すと、第1磁石92および第2磁石93の対極同士が磁力によって連結され、先端牽引部62が先端導出部70に対し回転することを制限できる。なお、第1磁石92および第2磁石93は、周方向にS極およびN極が並んでいなくてもよい。すなわち、第1磁石92がS極またはN極であり、第2磁石93は、その対極であってもよい。このような構成であっても、第1磁石92および第2磁石93が磁力によって連結されると、接触する面の摩擦力によって、先端牽引部62が先端導出部70に対し回転することを制限できる。なお、先端導出部70または先端牽引部62は、磁石ではなく、磁石にくっつく強磁性体であってもよい。
【0076】
また、図14に示す第6変形例のように、滑り制限部90は、リニアスライド機構を有してもよい。リニアスライド機構は、例えば、先端導出部70に設けられる摺動溝96と、先端牽引部62に設けられて摺動溝96を摺動可能な摺動用凸部95とを有している。リニアスライド機構は、先端導出部70および先端牽引部62の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。なお、リニアスライド機構は、特に限定されない。例えば、先端導出部70に摺動用凸部95が設けられて、先端牽引部62に摺動溝96が設けられてもよい。また、リニアスライド機構は、リニアベアリングが配置されてもよい。
【0077】
また、図15に示す第7変形例のように、滑り制限部90は、1方向のみへ曲がりやすい3つのジョイント98および2つのリンク97を備えるリンク機構を有してもよい。リンク機構は、先端導出部70および先端牽引部62の軸方向への移動を可能としつつ、相対的な回転を制限できる。なお、リンク機構は、特に限定されない。例えば、ジョイント98には、ピン等が用いられてもよい。
【0078】
また、図16に示す第8変形例のように、滑り制限部90は、摩擦係数の高い高摩擦部99を有してもよい。高摩擦部99は、先端導出部70および先端牽引部62の接触可能な面の少なくとも一部に設けられる。高摩擦部99は、先端導出部70または先端牽引部62の一方にのみ設けられてもよい。高摩擦部99は、先端導出部70および先端牽引部62の軸方向への移動を可能としつつ、先端牽引部62が牽引されて先端導出部70と接触する際に、先端牽引部62が先端導出部70に対して回転することを制限できる。高摩擦部99を構成する高摩擦材料は、例えば、ニッケル-チタン合金、銅-亜鉛合金等の超弾性合金、ステンレス鋼、アルミニウム、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリイミド、シリコーンゴム、ラテックスゴム等を適用できる。また、高摩擦部99は、例えば、表面が粗く形成されることで、高い摩擦係数を有してもよい。高摩擦部99の静止摩擦係数は、例えば0.02~1.0、好ましくは0.4~1.0である。
【0079】
また、図17に示す第9変形例のように、先端牽引部62は、径方向の内側が先端側へ窪む内側凹部101を有し、先端導出部70は、径方向の内側が軸方向へ突出する内側凸部100を有してもよい。そして、内側凹部101および内側凸部100の接触可能な面の少なくとも一部に、摩擦力の高い高摩擦部99が設けられる。これにより、内側凸部100は、内側凹部101に入り込んで接触することで、内側凹部101に対する移動が制限される。このため、内側凹部101および内側凸部100は、先端導出部70および先端牽引部62の軸方向への移動を可能としつつ、先端牽引部62が牽引されて内側凸部100が内側凹部101に入り込んで接触する際に、先端牽引部62が先端導出部70に対して回転することを制限できる。なお、内側凸部100は、先端牽引部62に設けられて、内側凹部101は、先端導出部70に設けられてもよい。また、上述の実施形態や第1~第8変形例に、高摩擦部99が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 医療デバイス
20 シャフト部
21 拡張体
33 外管
34 内管
50 線材部
60 牽引シャフト
61 牽引用管体
62 先端牽引部
63 牽引側凸部
64 牽引側凸部側面
65 牽引側頂部
66 牽引側凹部
67 線材
68 撚り線
70 先端導出部
71 導出孔
73 導出側凸部
74 導出側凸部側面
75 導出側頂部
76 導出側凹部
80 滑り制限部
91 コイル
92 磁石
99 高摩擦部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17