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特開2022-169818ユーケマ属海藻由来タンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169818
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ユーケマ属海藻由来タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/405 20060101AFI20221102BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20221102BHJP
   A23J 1/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C07K14/405
C07K1/14
A23J1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019182124
(22)【出願日】2019-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 秀高
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045CA30
4H045EA01
4H045FA71
4H045GA05
(57)【要約】
【課題】ユーケマ(Eucheuma)属海藻由来タンパク質の製造方法を提供する。
【解決手段】ユーケマ(Eucheuma)属海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液からタンパク質を回収することにより、タンパク質を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の製造方法であって、
タンパク質溶液からタンパク質を回収することを含み、
前記タンパク質溶液が、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液であり、
前記海藻が、ユーケマ(Eucheuma)属海藻である、方法。
【請求項2】
前記タンパク質の回収が、酸沈殿により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸沈殿が、塩酸を利用して実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸沈殿が、硫酸を利用して実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記酸沈殿が、酢酸を利用して実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質溶液が、前記海藻から調製したカラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カラギーナンの回収が、ゲル化またはアルコール沈殿により実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲル化が、カリウムイオンを利用して実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコール沈殿が、イソプロパノールを利用して実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記カラギーナン溶液が、前記海藻をアルカリ処理または加熱処理に供することにより調製される、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質溶液が、前記海藻のアルカリ処理上清である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ処理が、水酸化カリウムを利用して実施される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質の回収の前に、さらに、前記タンパク質溶液を得ることを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
さらに、カラギーナンを製造することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーケマ(Eucheuma)属海藻由来タンパク質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユーケマ(Eucheuma)属海藻は、カラギーナンを含有する海藻として知られており、カラギーナンの製造に用いられている。
【0003】
カラギーナンは、例えば、Eucheuma属海藻からアルカリ処理により抽出した後、ゲル化またはアルコール沈殿により回収することができる。その際、カラギーナンと分離された液体画分は廃液として廃棄されてきた。
【0004】
また、カラギーナンの抽出前に酵素を利用してEucheuma属海藻からタンパク質を抽出する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】デンマーク工科大学ホームページ(https://www.playware.elektro.dtu.dk/news/nyhed?id=24C8B5B8-5ABC-4615-B93C-ABC15E885E7F)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ユーケマ(Eucheuma)属海藻由来タンパク質を取得する新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ユーケマ(Eucheuma)属海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液がタンパク質を含有していること、および同廃液からタンパク質を回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
タンパク質の製造方法であって、
タンパク質溶液からタンパク質を回収することを含み、
前記タンパク質溶液が、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液であり、
前記海藻が、ユーケマ(Eucheuma)属海藻である、方法。
[2]
前記タンパク質の回収が、酸沈殿により実施される、前記方法。
[3]
前記酸沈殿が、塩酸を利用して実施される、前記方法。
[4]
前記酸沈殿が、硫酸を利用して実施される、前記方法。
[5]
前記酸沈殿が、酢酸を利用して実施される、前記方法。
[6]
前記タンパク質溶液が、前記海藻から調製したカラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分である、前記方法。
[7]
前記カラギーナンの回収が、ゲル化またはアルコール沈殿により実施される、前記方法。
[8]
前記ゲル化が、カリウムイオンを利用して実施される、前記方法。
[9]
前記アルコール沈殿が、イソプロパノールを利用して実施される、前記方法。
[10]
前記カラギーナン溶液が、前記海藻をアルカリ処理または加熱処理に供することにより調製される、前記方法。
[11]
前記タンパク質溶液が、前記海藻のアルカリ処理上清である、前記方法。
[12]
前記アルカリ処理が、水酸化カリウムを利用して実施される、前記方法。
[13]
前記タンパク質の回収の前に、さらに、前記タンパク質溶液を得ることを含む、前記方法。
[14]
さらに、カラギーナンを製造することを含む、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーケマ(Eucheuma)属海藻由来タンパク質を取得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、タンパク質の製造方法であって、タンパク質溶液からタンパク質を回収することを含み、前記タンパク質溶液が海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液であり、前記海藻がユーケマ(Eucheuma)属海藻である、方法である。
【0011】
本発明において用いられる海藻は、ユーケマ(Eucheuma)属海藻(すなわち、Eucheuma属に属する海藻)である。Eucheuma属海藻としては、ユーケマ・コットニー(Eucheuma cottonii)やユーケマ・スピノサム(Eucheuma spinosum)が挙げられる。なお、Eucheuma
cottoniiは、カッパフィカス・アルバレジ(Kappaphycus alvarezii)と呼ばれる場合がある。また、Eucheuma spinosumは、ユーケマ・デンティクラタム(Eucheuma denticulatum)と呼ばれる場合がある。「Eucheuma属海藻」とは、本願の出願時にEucheuma属に分類される海藻に限られず、本願の出願前、出願時、および出願後の少なくともいずれかの時点でEucheuma属に分類される海藻を総称する。同様に、「Eucheuma cottonii」または「Eucheuma spinosum」とは、それぞれ、本願の出願時にEucheuma cottoniiまたはEucheuma spinosumに分類される海藻に限られず、本願の出願前、出願時、および出願後の少なくともいずれかの時点でEucheuma cottoniiまたはEucheuma spinosumに分類される海藻を総称する。すなわち、例えば、Eucheuma cottoniiに分類されていた海藻がKappaphycus alvareziiに再分類されても、同海藻は引き続き本発明における「Eucheuma属海藻」および「Eucheuma cottonii」に包含されるものとする。また、例えば、Eucheuma spinosumに分類されていた海藻がEucheuma denticulatumに再分類されても、同海藻は引き続き本発明にお
ける「Eucheuma spinosum」に包含されるものとする。
【0012】
海藻としては、天然物や養殖物等、いずれの手段で得られたものを利用してもよい。海藻としては、例えば、市販品を利用してもよい。海藻は、例えば、乾燥物であってもよく、湿潤物であってもよい。
【0013】
Eucheuma属海藻は、カラギーナンを含有する。言い換えると、Eucheuma属海藻は、カラギーナンの生産能を有する。カラギーナンとしては、カッパカラギーナンやイオタカラギーナンが挙げられる。Eucheuma属海藻は、1種のカラギーナンを含有していてもよく、2種またはそれ以上のカラギーナンを含有していてもよい。Eucheuma cottoniiは、例えば
、主にカッパカラギーナンを含有してよい。Eucheuma spinosumは、例えば、主にイオタ
カラギーナンを含有してよい。
【0014】
「タンパク質溶液」とは、タンパク質を含有する液体を意味する。
【0015】
タンパク質溶液中のタンパク質の含有量は、タンパク質溶液からタンパク質を回収できる限り、特に制限されない。タンパク質溶液中のタンパク質の含有量は、例えば、0.001%w/w以上、0.002%w/w以上、0.003%w/w以上、0.005%w/w以上、0.007%w/w以上、0.01%w/w以上、0.02%w/w以上、0.03%w/w以上、0.05%w/w以上、0.07%w/w以上、または0.1%w/w以上であってもよく、5%w/w以下、3%w/w以下、2%w/w以下、1%w/w以下、0.7%w/w以下、0.5%w/w以下、0.3%w/w以下、0.2%w/w以下、または0.1%w/w以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。タンパク質溶液中のタンパク質の含有量は、具体的には、例えば、0.001~1%w/w、0.002~0.5%w/w、または0.003~0.2%w/wであってもよい。
【0016】
本発明において用いられるタンパク質溶液は、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液である。すなわち、本発明によれば、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液を有効利用することができる。それにより、例えば、海藻からカラギーナンを製造するプロセスのコストパフォーマンスが向上してよい。
【0017】
「海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液」とは、海藻からカラギーナンを製造する際に副生物として得られる液体画分を意味する。「海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液」とは、具体的には、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる液体画分であって、カラギーナンと分離されたものを意味してよい。また、「海藻からカラギーナンを製造する際に得られる廃液」とは、具体的には、海藻からカラギーナンを製造する際に得られる液体画分であって、カラギーナンを回収した後に残ったものを意味してよい。廃液は、海藻からカラギーナンを製造するいずれの工程で得られたものであってもよい。なお、カラギーナンと廃液とは所望の程度に分離されればよい。すなわち、廃液中には一部のカラギーナンが残存してもよい。また、回収されるカラギーナン中には一部のタンパク質が混入してもよい。
【0018】
本発明の方法は、タンパク質の回収の前に、さらに、タンパク質溶液を得ることを含んでいてもよい。
【0019】
本発明の方法は、さらに、カラギーナンを製造することを含んでいてもよい。すなわち、一態様において、本発明の方法は、タンパク質とカラギーナンの製造方法であってもよい。
【0020】
海藻からカラギーナンを製造する方法は、タンパク質溶液が副生物として得られる限り、特に制限されない。カラギーナンは、例えば、公知の方法により海藻から製造することができる。
【0021】
カラギーナンは、具体的には、例えば、海藻からカラギーナン溶液を調製し、次いでカラギーナン溶液から回収することにより、製造することができる。カラギーナンを回収し
た後の液体画分(すなわち、カラギーナンと分離された液体画分)は、タンパク質溶液としてタンパク質の回収に利用することができる。すなわち、タンパク質溶液としては、カラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分が挙げられる。
【0022】
「カラギーナン溶液」とは、カラギーナンを含有する液体を意味する。カラギーナン溶液は、さらに、タンパク質を含有する。カラギーナン溶液は、例えば、海藻をアルカリ処理または加熱処理に供することにより調製することができる。すなわち、例えば、海藻をアルカリ処理または加熱処理に供することにより、カラギーナンとタンパク質を抽出することができ、以てカラギーナン溶液を調製することができる。
【0023】
アルカリ処理は、アルカリ水溶液中で実施することができる。すなわち、アルカリ処理は、具体的には、海藻をアルカリ水溶液中に置くことにより実施することができる。アルカリ処理の条件は、カラギーナンとタンパク質が抽出される限り、特に制限されない。原料の混合の順番は特に制限されない。例えば、予め調製したアルカリ水溶液と海藻を混合してもよいし、海藻とアルカリと水とを混合してもよい。アルカリ水溶液は、本発明の目的を損なわない限り、アルカリに加えて、他の任意の成分を含有していてよい。アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムが挙げられる。アルカリとしては、特に、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、例えば、0.05N以上、0.1N以上、0.2N以上、0.3N以上、0.5N以上、0.7N以上、1N以上、1.5N以上、2N以上、2.5N以上、または3N以上であってもよく、4.5N以下、4N以下、3.5N以下、3N以下、2.5N以下、2N以下、1.5N以下、1N以下、0.7N以下、0.5N以下、または0.3N以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、具体的には、例えば、0.05~3N、0.5~3N、または1.5~3Nであってもよい。なお、「アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度」とは、海藻を含まないアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度を意味してよい。すなわち、例えば、予め調製したアルカリ水溶液と海藻を混合する場合、「アルカリ水溶液におけるアルカリの濃度」とは、海藻と混合する前の、予め調製したアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度を意味してよい。アルカリ処理の温度は、例えば、室温であってもよく、そうでなくてもよい。アルカリ処理は、例えば、加熱条件で実施してもよい。アルカリ処理の温度は、例えば、60℃以上、70℃以上、80℃以上、または90℃以上であってもよく、アルカリ水溶液の沸点以下、100℃以下、90℃以下、80℃以下、または70℃以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。アルカリ処理の温度は、具体的には、例えば、60~100℃、70~90℃、または70~80℃であってもよい。アルカリ処理の時間は、例えば、0.5時間以上、1時間以上、1.5時間以上、2時間以上、2.5時間以上、または3時間以上であってもよく、10時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2.5時間以下、または2時間以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。アルカリ処理の時間は、具体的には、例えば、1~3時間であってもよい。海藻の使用量は、例えば、乾燥重量に換算して、アルカリ水溶液100質量部に対し、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上であってもよく、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、または5質量部以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。海藻の使用量は、具体的には、例えば、乾燥重量に換算して、アルカリ水溶液100質量部に対し、1~20質量部であってもよい。アルカリ処理は、静置条件で実施してもよく、撹拌や振盪等の非静置条件で実施してもよい。一態様において、アルカリ処理は、加熱処理を兼ねてもよい。
【0024】
加熱処理は、水や水溶液等の水性媒体中で実施することができる。すなわち、加熱処理は、具体的には、海藻を水性媒体中で加熱することにより実施することができる。加熱処理の条件は、カラギーナンとタンパク質が抽出される限り、特に制限されない。水性媒体
は、本発明の目的を損なわない限り、任意の成分を含有していてよい。水性媒体は、例えば、アルカリを含有していてもよい。すなわち、水性媒体は、例えば、アルカリ水溶液であってもよい。アルカリの利用については、アルカリ処理の記載を準用できる。加熱処理の温度は、例えば、60℃以上、70℃以上、80℃以上、または90℃以上であってもよく、水性媒体の沸点以下、100℃以下、90℃以下、80℃以下、または70℃以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。加熱処理の温度は、具体的には、例えば、60~100℃、70~100℃、または80~100℃であってもよい。加熱処理の時間は、例えば、0.5時間以上、1時間以上、1.5時間以上、2時間以上、2.5時間以上、または3時間以上であってもよく、10時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2.5時間以下、または2時間以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。加熱処理の時間は、具体的には、例えば、1~3時間であってもよい。加熱処理のpHは、例えば、中性付近(例えば、6~8)であってもよく、アルカリ性であってよい。海藻の使用量は、例えば、乾燥重量に換算して、水性媒体100質量部に対し、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上であってもよく、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、または5質量部以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。海藻の使用量は、具体的には、例えば、乾燥重量に換算して、水性媒体100質量部に対し、1~20質量部であってもよい。加熱処理は、静置条件で実施してもよく、撹拌や振盪等の非静置条件で実施してもよい。一態様において、加熱処理は、アルカリ処理を兼ねてもよい。
【0025】
カラギーナン溶液は、そのまま、あるいは適宜、固形分の除去、濃縮、pH調整等の処理に供してから、カラギーナンの回収に用いることができる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用することができる。固形分としては、海藻残渣(すなわち、未溶解の海藻)が挙げられる。すなわち、海藻残渣は、適宜、カラギーナン溶液から分離されてよい。固形分の除去は、例えば、固液分離手段により実施できる。固液分離手段としては、濾過や遠心分離が挙げられる。海藻残渣等の固形分とカラギーナン溶液とは所望の程度に分離されればよい。pH調整は、例えば、酸を利用することにより実施することができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。pHは、例えば、中性付近(例えば、6~8)に調整されてよい。アルカリ処理後の海藻残渣を「アルカリ処理海藻」、アルカリ処理海藻と分離されたカラギーナン溶液を「アルカリ処理上清」ともいう。加熱処理後の海藻残渣を「加熱処理海藻」、加熱処理海藻と分離されたカラギーナン溶液を「加熱処理上清」ともいう。海藻残渣は、未抽出のカラギーナンおよび/またはタンパク質を含有していてよい。
【0026】
カラギーナン溶液からカラギーナンを回収する方法は、タンパク質溶液が副生物として得られる限り、特に制限されない。カラギーナンは、例えば、公知の方法によりカラギーナン溶液から回収することができる。カラギーナンは、具体的には、例えば、ゲル化またはアルコール沈殿によりカラギーナン溶液から回収することができる。
【0027】
ゲル化は、陽イオンを利用することにより実施することができる。すなわち、ゲル化は、具体的には、カラギーナン溶液と陽イオンとを混合することにより実施することができる。ゲル化の条件は、カラギーナンのゲル化をもたらすものであれば、特に制限されない。陽イオンとしては、カリウムイオン(K)が挙げられる。カリウムイオン等の陽イオンは、例えば、特に、カッパカラギーナンのゲル化に有用であり得る。よって、ゲル化は、例えば、特に、Eucheuma cottoniiから抽出したカラギーナンの回収に利用されてよい
。陽イオンは、例えば、塩の形態で利用することができる。塩は、水中で目的の陽イオンを与えるものであれば特に制限されない。塩を構成する陰イオンは、特に制限されない。陰イオンとしては、塩化物イオン(Cl)が挙げられる。すなわち、例えば、陽イオンとしてカリウムイオンを用いる場合、塩としては塩化カリウムが挙げられる。陽イオン(
例えば、塩)は、予めイオン化した形態でカラギーナン溶液と混合されてもよく、そうでなくてもよい。陽イオン(例えば、塩)は、例えば、そのまま、あるいは水溶液等の希釈された形態で、カラギーナン溶液と混合されてよい。カラギーナン溶液と混合される陽イオン(例えば、塩)は、少なくとも、以下に例示するカラギーナン溶液との混合後の陽イオンの濃度よりも高い濃度のものであってよい。陽イオンの使用量は、例えば、カラギーナン溶液との混合後の陽イオンの濃度が所定の範囲になる量であってよい。カラギーナン溶液との混合後の陽イオンの濃度は、例えば、0.1N以上、0.2N以上、0.3N以上、0.5N以上、1N以上、1.5N以上、2N以上、2.5N以上、または3N以上であってもよく、4.5N以下、4N以下、3.5N以下、3N以下、2.5N以下、2N以下、1.5N以下、1N以下、0.7N以下、または0.5N以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。カラギーナン溶液との混合後の陽イオンの濃度は、具体的には、例えば、0.5~4N、1~4N、または2~4Nであってもよい。ゲル化の温度は、例えば、45℃以下、40℃以下、35℃以下、30℃以下、または25℃以下であってよい。
【0028】
アルコール沈殿は、アルコールを利用することにより実施することができる。すなわち、アルコール沈殿は、具体的には、カラギーナン溶液とアルコールとを混合することにより実施することができる。アルコール沈殿の条件は、カラギーナンの沈殿をもたらすものであれば、特に制限されない。アルコールとしては、イソプロパノールやエタノールが挙げられる。アルコールとしては、特に、イソプロパノールが挙げられる。アルコールは、例えば、そのまま、あるいは水溶液等の希釈された形態で、カラギーナン溶液と混合してよい。アルコールの使用量は、例えば、カラギーナン溶液との混合後のアルコールの濃度が所定の範囲になる量であってよい。カラギーナン溶液との混合後のアルコールの濃度は、例えば、40%w/w以上、50%w/w以上、60%w/w以上、70%w/w以上、または80%w/w以上であってもよく、100%w/w未満、95%w/w以下、90%w/w以下、80%w/w以下、または70%w/w以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。カラギーナン溶液との混合後のアルコールの濃度は、具体的には、例えば、50~95%w/wであってもよい。
【0029】
ゲル化またはアルコール沈殿したカラギーナンは、適宜、回収することができる。カラギーナンの回収は、例えば、固液分離手段により実施することができる。固液分離手段としては、濾過や遠心分離が挙げられる。また、ゲル化したカラギーナンを回収する方法としては、ゲルプレスや凍結融解も挙げられる。ゲル化またはアルコール沈殿したカラギーナンを回収した後の液体画分(すなわち、ゲル化またはアルコール沈殿したカラギーナンと分離された液体画分)は、タンパク質溶液としてタンパク質の回収に利用することができる。すなわち、タンパク質溶液として、具体的には、ゲル化またはアルコール沈殿によりカラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分が挙げられる。ゲル化によりカラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分を、「ゲル化上清」ともいう。アルコール沈殿によりカラギーナン溶液からカラギーナンを回収した後の液体画分を、「アルコール沈殿上清」ともいう。
【0030】
また、アルカリ処理の際にカラギーナンを含有する海藻残渣が残存する場合、当該海藻残渣(すなわちアルカリ処理海藻)をカラギーナンとして回収することもできる。そのようなアルカリ処理海藻は、例えば、Alkali Treated Chips(ATC)等の名称でカラギーナ
ンとして流通している。アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合、アルカリ処理上清は、タンパク質溶液としてタンパク質の回収に利用することができる。すなわち、タンパク質溶液として、具体的には、アルカリ処理上清も挙げられる。アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合、アルカリ処理の条件は、カラギーナンを含有する海藻残渣が残存し、且つタンパク質が抽出される限り、特に制限されない。アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合のアルカリ処理については、例えば、上述したカ
ラギーナン溶液を調製する場合のアルカリ処理の記載を準用できる。アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合のアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、具体的には、例えば、0.05~2N、0.2~2N、または0.5~2Nであってもよい。なお、アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合でも、アルカリ処理上清はカラギーナンを含有していてよい。よって、アルカリ処理海藻をカラギーナンとして回収する場合でも、アルカリ処理上清は、カラギーナンを回収してからタンパク質溶液としてタンパク質の回収に利用してもよい。
【0031】
回収されたカラギーナンは、例えば、そのまま、あるいは適宜、pH調整、洗浄、乾燥、破砕等の処理に供してから、利用することができる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用することができる。
【0032】
タンパク質溶液からタンパク質を回収する方法は、特に制限されない。タンパク質は、例えば、タンパク質等の物質の分離精製に用いられる公知の手法により、タンパク質溶液から回収することができる。そのような手法としては、酸沈殿、硫安沈殿、有機溶媒沈殿、凍結乾燥、膜分離、クロマトグラフィーが挙げられる。そのような手法としては、特に、酸沈殿が挙げられる。本発明の方法によれば、特に、酵素を用いることなくタンパク質を回収することができる。
【0033】
酸沈殿は、酸を利用することにより実施することができる。すなわち、酸沈殿は、具体的には、タンパク質溶液と酸とを混合することにより実施することができる。酸沈殿の条件は、タンパク質の沈殿をもたらすものであれば、特に制限されない。酸としては、塩酸、硫酸、トリクロロ酢酸(TCA)、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸が挙げられる。
酸としては、特に、塩酸、硫酸、酢酸が挙げられる。酸として、さらに特には、塩酸や硫酸が挙げられる。酸は、例えば、そのまま、あるいは水溶液等の希釈された形態で、タンパク質溶液と混合してよい。タンパク質溶液と混合される酸の濃度は、例えば、1N以上、2N以上、3N以上、5N以上、7N以上、または10N以上であってよい。酸の使用量は、例えば、タンパク質溶液との混合後の酸の濃度が所定の範囲になる量であってよい。タンパク質溶液との混合後の酸の濃度は、例えば、0.05N以上、0.1N以上、0.2N以上、0.3N以上、0.4N以上、または0.5N以上であってもよく、2N以下、1.5N以下、1.2N以下、1N以下、0.9N以下、0.8N以下、0.7N以下、0.6N以下、0.5N以下、0.4N以下、0.3N以下、または0.2N以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。タンパク質溶液との混合後の酸の濃度は、具体的には、例えば、0.1~1.5Nであってもよい。また、酸の使用量は、例えば、タンパク質溶液1Lに対し、0.1Eq以上、0.2Eq以上、0.3Eq以上、0.4Eq以上、0.5Eq以上、0.7Eq以上、または1Eq以上であってもよく、4Eq以下、3.5Eq以下、3Eq以下、3.5Eq以下、2Eq以下、1.5Eq以下、1Eq以下、0.7Eq以下、または0.5Eq以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。酸の使用量は、具体的には、例えば、タンパク質溶液1Lに対し、0.2~3Eqであってもよい。
【0034】
本発明において製造されるタンパク質は、海藻に由来するものであれば、特に制限されない。本発明においては、1種のタンパク質が製造されてもよく、2種またはそれ以上のタンパク質が製造されてもよい。2種またはそれ以上のタンパク質が製造される場合、それらのタンパク質は、例えば、それぞれ別個に製造されてもよく、混合物として製造されてもよい。
【0035】
回収されたタンパク質は、例えば、そのまま、あるいは適宜、pH調整、洗浄、乾燥等の処理に供してから、利用することができる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用することができる。
【0036】
タンパク質の用途は、特に制限されない。タンパク質は、例えば、飲食品原料として利用されてよい。
【実施例0037】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0038】
実施例1:アルカリ処理上清からの酸沈殿によるタンパク質回収
海藻として、Eucheuma cottonii(乾燥物;PT. Indonusa Algaemas Prima社製)およびEucheuma spinosum(乾燥物;PT. Indonusa Algaemas Prima社製)を用いた。2 gの各海
藻を50 mLファルコンチューブに入れ、0.8 N KOH水溶液で35 mLにフィルアップした。フ
ィルアップに用いた0.8 N KOH水溶液の量は、いずれも33.44 gであった。サンプルを70℃で2時間加温した。加温後、3000 rpmで15 min遠心し、固液分離した。Eucheuma cottoniiについて、29.49 gのアルカリ処理上清と5.95 gの海藻残渣を得た。Eucheuma spinosumについて、29.26 gのアルカリ処理上清と5.75 gの海藻残渣を得た。
【0039】
1 mLのアルカリ処理上清に200 μLの12 N HClを添加し、5回転倒混和後、15000 rpm、4℃で30 min遠心した。上清1 mLを回収し、酸沈殿上清とした。残部200 μLをボルテック
スし、酸沈殿残渣とした。
【0040】
アルカリ処理上清、酸沈殿上清、および酸沈殿残渣中のタンパク質濃度を、ブラッドフォード法により測定した。結果を表1に示す。いずれの海藻を用いた場合でも、アルカリ処理上清がタンパク質を含有すること、および酸沈殿によりアルカリ処理上清からタンパク質を十分に回収できることが明らかとなった。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例2:ゲル化上清からのタンパク質回収
海藻として、Eucheuma cottonii(乾燥物;PT. Indonusa Algaemas Prima社製)を用いた。4gの海藻と156 gの0.1 N KOH水溶液をビーカーに入れ、70℃で2時間加温した。加温
後、海藻残渣をピンセットで分離し、105.0 gのアルカリ処理上清と14.6 gの海藻残渣を
得た。加温による水分の蒸発量は44.4 gであった。
【0043】
20 gのアルカリ処理上清に0.8 gのKCl粉末を添加し、4℃で10 min静置し、カラギーナ
ンをゲル化した。ゲル化後、3000 rpmで15 min遠心した。上清16.44 gを回収し、ゲル化
上清とした。
【0044】
1 mLのゲル化上清に0.1 mLの12 N HClを添加して混和後、15000 rpmで10 min遠心した
。上清1 mLを回収し、酸沈殿上清とした。残部100 μLをボルテックスし、酸沈殿残渣と
した。
【0045】
アルカリ処理上清、ゲル化上清、酸沈殿上清、および酸沈殿残渣中のタンパク質濃度を、ブラッドフォード法により測定した。結果を表2に示す。ゲル化上清がタンパク質を含有すること、およびゲル化上清から酸沈殿によりタンパク質を十分に回収できることが明らかとなった。
【0046】
【表2】