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特開2022-169860評価方法、評価システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169860
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】評価方法、評価システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/022 20060101AFI20221102BHJP
   G21C 17/032 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G21C17/022
G21C17/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075545
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 貴司
(72)【発明者】
【氏名】吉迫 公一
(72)【発明者】
【氏名】平野 良太
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓弥
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA40
2G075EA03
2G075FB07
2G075GA18
(57)【要約】
【課題】原子力プラントにて生成される液体廃棄物の生成量を計算することができる。
【解決手段】一次冷却材中に存在する液体廃棄物の含有量の実績値から、一次冷却材中で生成される液体廃棄物の生成量を減じ、さらに炉心で生成される液体廃棄物の生成量で除算して透過率を計算する。そして、評価対象期間に一次冷却材中で生成される液体廃棄物の生成量(第2生成量)と炉心で生成される液体廃棄物の生成量(第1生成量)とを計算し、第1生成量に透過率を乗じた値に第2生成量を加算して、評価対象期間に一次冷却材中に放出される液体廃棄物の全生成量を計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、
前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、
前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと、
前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップと、
評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、
前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、
前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップと、
を有する評価方法。
【請求項2】
前記一次冷却材で計測されたほう素濃度の実績データに基づいて、前記評価対象期間におけるほう素濃度の推移を評価するステップと、
前記評価対象期間における中性子束の推移を中性子計算コードによって計算するステップと、
前記液体廃棄物の生成に関係する反応についての断面積のデータを取得するステップと、
をさらに有し、
前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップでは、前記評価対象期間の前記ほう素濃度の推移と、前記評価対象期間における前記中性子束の推移と、前記断面積のデータとを用いて、前記第2生成量を計算する、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記透過率を計算するステップでは、
前記解析対象期間における前記液体廃棄物の時系列の実績値の各々に対して、その実績値に対応する時間における前記第2生成量の値と、前記時間における前記第1生成量の値に前記透過率を乗じた値と、の合計が、前記解析対象期間におけるどの時間についても前記実績値を下回ることが無いように前記透過率を設定する、
請求項1または請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップでは、ほう素濃度に前記解析対象期間における前記ほう素濃度の実績値を下回る値を設定し、中性子束に前記解析対象期間における最低値を設定して、前記第2生成量を計算する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記第1生成量は、
燃料棒中の原子核3分裂によって生成される前記液体廃棄物の生成量、を含み
前記第2生成量は、
前記一次冷却材中のほう素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、
前記一次冷却材中のリチウムの中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、
前記一次冷却材中の重水素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、
を含む、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記第1生成量は、バーナブルポイズン棒中のほう素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量、
をさらに含む請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記液体廃棄物はトリチウムである
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、
前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、
前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得する手段と、
前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算する手段と、
評価対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、
前記評価対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、
前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出する手段と、
を有する評価システム。
【請求項9】
コンピュータに、
原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、
前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、
前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと、
前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップと、
評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、
前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、
前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、評価システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、トリチウム等の液体廃棄物の年間放出量を所定の管理値以下に抑えることが要求されている。この要求を満たすために、液体廃棄物の放出量を保守的に見積もって、プラントの運転が行われている。
【0003】
原子力プラントから放出されるトリチウムに関し、特許文献1には、プラントに設置されている換気空調系ダクトから排気空気を採取し、これを凝縮させて凝縮水とし、凝縮水中のトリチウム濃度を計測して、原子力プラントからの一次系水の漏洩を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-68793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、放出量は保守的に(多めに)見積もられているが、現実的で正確な放出量を評価する方法が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる評価方法、評価システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の評価方法は、原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップと、評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップと、を有する。
【0008】
本開示の評価システムは、原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得する手段と、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算する手段と、評価対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出する手段と、を有する。
【0009】
本開示のプログラムは、コンピュータに、原子力プラントの炉心で生成される液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップと、評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の評価方法、評価システム及びプログラムによれば、原子力プラントから放出される液体廃棄物の放出量を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る原子力プラントの概略図である。
図3】実施形態に係る評価処理について説明する第1の図である。
図4】実施形態に係る評価処理について説明する第2の図である。
図5】実施形態に係る評価処理について説明する第3の図である。
図6】実施形態に係る評価処理について説明する第4の図である。
図7】実施形態に係る評価処理の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の評価システムについて、図1図8を参照して説明する。
<実施形態>
(構成)
図1は、実施形態に係る評価システムの一例を示すブロック図である。本実施形態の評価システム10は、原子力プラントから放出されるトリチウム等の液体廃棄物の放出量を評価するシステムである。以下、一例として、液体廃棄物がトリチウムであるとして説明を行う。ここで、図2を参照する。図2に加圧水型の原子力プラント1の概略を示す。原子力プラント1は、原子炉2と、加圧器3と、蒸気発生器4と、一次冷却ループ5と、原子炉格納容器7とを備えている。原子炉2は、原子炉容器8と、燃料棒9aと、制御棒9bと、その他の炉内構造物(例えば、図示しないバーナブルポイズン棒)と、を備えている。一次冷却ループ5は、原子炉容器8と蒸気発生器4との間で、一次冷却水を循環させる流路を形成している。一次冷却ループ5は、一次冷却材を循環させるための一次冷却ポンプ6を有している。加圧器3は、一次冷却ループ5の内部を加圧する。蒸気発生器4は、タービン等を含む二次側設備を流通する二次冷却水と、一次冷却ループ5を循環する一次冷却水とを熱交換させて、二次冷却水を加熱し、蒸気を発生させる。原子炉格納容器7は、原子炉2、一次冷却ループ5、加圧器3、蒸気発生器4を格納する。
【0013】
トリチウムは、燃料棒9aおよびバーナブルポイズン棒(図示せず)と一次冷却ループ5を循環する一次冷却材にて生成される。バーナブルポイズン棒(以下、BP棒と記載する場合がある。)は、燃料棒9a、制御棒9bとともに原子炉容器8内に設置され、炉内の核反応を制御する目的で使用される。トリチウムは、(C1)燃料棒における原子核3体核分裂による生成、(C2)BP棒のほう素の中性子反応による生成、(C3)一次冷却材中のほう素の中性子反応による生成、(C4)一次冷却材中のリチウムの中性子反応による生成、(C5)一次冷却材中の重水素の放射化による生成、の5通りの過程の何れかによって生成される。(C1)、(C2)については、生成された一部が燃料棒又はBP棒の外側を覆う被覆管を透過して一次冷却材へ流出し、(C3)~(C5)の何れかの過程で生成されたトリチウムとともに一次冷却材中に溶け込んで存在する。トリチウムは、原子力プラント1から一次冷却材(水)が河川や海洋へ放出されるときに一次冷却材とともに放出される。評価システム10は、過去の実績データに基づいて、実態に近いトリチウム放出量を計算するための評価モデル(被覆管透過率)を導出し、この評価モデルに基づいて評価対象期間におけるトリチウムの放出量を計算する。
【0014】
評価システム10は、ほう素濃度データ取得部11と、中性子束計算部12と、設定受付部13と、廃棄物濃度実績データ取得部14と、生成量計算部15と、被覆管透過率計算部16と、放出量計算部17と、出力部18と、記憶部19と、を備える。
【0015】
ほう素濃度データ取得部11は、評価対象の原子力プラント1で測定された一次冷却材中のほう素濃度の実績データを取得する。この実績データには、一次冷却ループ5内の一次冷却材について定期的に計測して得られた、例えば過去の1つの運転サイクルにおけるほう素濃度の時系列の計測値が含まれている。
【0016】
中性子束計算部12は、所定の中性子輸送計算コード及び中性子拡散計算コード(まとめて中性子計算コードと呼ぶ。)を用いて評価対象の原子力プラント1の原子炉2で生成される中性子束を計算する。中性子束計算部12は、評価対象の原子炉2における燃料の配置、燃焼度等に基づいて、中性子束の時間的変化を考慮した、例えば、過去の1つの運転サイクルにおける中性子束の推移を計算する。また、中性子束計算部12は、評価対象期間における中性子束の推移を計算する。
【0017】
設定受付部13は、評価対象期間、中性子束の計算に用いる燃料配置や燃焼度の情報、被覆管透過率の導出に用いる評価条件(a)~(c)の値(後述)など、トリチウム放出量の計算に必要な種々の設定情報を取得する。また、設定受付部13は、日本原子力研究開発機構(JAEA:Japan Atomic Energy Agency)等の機関が公開している最新の断面積のデータを取得する。また、設定受付部13は、ユーザの指示操作の入力を受け付ける。
【0018】
廃棄物濃度実績データ取得部14は、原子力プラント1で生成されたトリチウム等の1次冷却材中の液体廃棄物の濃度等の実績データを取得する。この実績データには、定期的に計測して得られた、例えば、過去1年間の液体廃棄物の時系列の濃度の計測値が含まれている。1次冷却材中の液体廃棄物とは、原子力プラントの炉心で生成される放射性物質を起因とする液体廃棄物である。
【0019】
生成量計算部15は、上記した(C1)~(C5)の過程ごとに、所定の計算式によってトリチウムの生成量を計算する。
【0020】
被覆管透過率計算部16は、燃料棒9a内で生成されたトリチウムが、燃料棒9aの被覆管を透過して一次冷却材へ流れ出すときの透過率を計算する。なお、本実施形態では、トリチウムの放出量について支配的な影響力を有する燃料棒9aの被覆管透過率について計算することとし、BP棒の透過率については所定の設定値を用いることとする。
【0021】
放出量計算部17は、生成量計算部15が計算した(C1)~(C5)の各過程で生成されたトリチウムの生成量と、被覆管透過率計算部16が計算した透過率とに基づいて、所定の評価対象期間に一次冷却材へ放出(生成)されるトリチウムの放出量、あるいは原子力プラント1から海洋などへ放出されるトリチウムの放出量を計算する。
【0022】
出力部18は、諸々の情報を表示装置や電子ファイルに出力する。例えば、出力部18は、放出量計算部17が計算した放出量を表示装置へ出力する。
記憶部19は、諸々の情報を記憶する。例えば、記憶部19は、トリチウムの放出量の計算に必要なデータ、計算用プログラム、ほう素濃度や液体廃棄物の実績データなどの情報を記憶する。
【0023】
(トリチウムの生成量の計算)
図3にトリチウム生成量の計算方法を示す。トリチウムは、炉心内で生成されるものと、一次冷却材内で生成されるものとに大別される。(C1)~(C2)は炉心内の反応によって生成されるトリチウム、(C3)~(C5)は一次冷却材内で生成されるトリチウムである。(C1)~(C5)の各過程で生成されるトリチウムの生成量は、工学的な解析により得られた1つ又は複数の計算式によって計算することができる。
【0024】
例えば、(C1)燃料棒における原子核3体核分裂による生成量αについては、炉心熱出力、核分裂率、崩壊定数などを用いた所定の計算式によって生成量を計算することができる。
【0025】
(C2)BP棒のほう素の中性子反応による生成量αBPについては、BP棒中の10Bの全重量、中性子束φ、10Bの断面積σ1、10B(n、2α)T反応の断面積σ2、10B(n、α)LiT反応の断面積σ3などを与えて、所定の計算式により計算することができる。
【0026】
(C3)一次冷却材中のほう素の中性子反応による生成量αについては、反応度制御のために一次冷却材中に添加されているほう素濃度B、中性子束φ、10B(n、2α)T反応の断面積σ2などを与えて、所定の計算式により計算することができる。
【0027】
(C4)一次冷却材中のリチウムの中性子反応による生成量αLiについては、一次冷却材中のリチウム濃度、中性子束φ、Li(n、α)T反応の断面積などを与えて、所定の計算式により計算することができる。
【0028】
(C5)一次冷却材中の重水素の放射化による生成量αについては、炉心冷却水中の水素量、天然の重水素量、中性子束φ、H(n、γ)D反応の断面積σ4、D(n、γ)T反応の断面積σ5などを与えて、所定の計算式により計算することができる。
【0029】
生成量計算部15は、(C1)~(C5)について、所定の計算式に基づいてトリチウムの生成量α、αBP、α、αLi、αを計算する。また、原子力プラント1からの放出量は、一次冷却材中に存在するトリチウム量に関係するので、放出量計算部17は、次式により、トリチウム生成量評価値Evを計算する。
Ev=α×L+αBP×LBP+α+αLi+α・・・(1)
ここでLは燃料棒9aの被覆管透過率、LBPはBP棒の被覆管透過率である。トリチウム生成量評価値Evは、(C1)~(C5)の各過程により生成されたトリチウムのうちの一次冷却材に放出(生成)されるトリチウム量である。原子力プラント1からの放出量の計算にあたっては、(C1)のトリチウム生成量αに被覆管透過率Lを乗じて燃料棒9aから一次冷却材へのトリチウム流出量を計算し(C11)、(C2)のトリチウム生成量αBPに被覆管透過率LBPを乗じてBP棒から一次冷却材へのトリチウム流出量を計算し(C12)、これらを一次冷却材中で生成されたトリチウム生成量αB、αLi、αを合計した値に加える。トリチウム生成量評価値Evが計算できると、海洋等へのトリチウム放出量を評価することができる。
【0030】
(トリチウム生成量の評価方法)
トリチウム生成量の計算自体は、上記の方法により可能であるが、従来のトリチウム放出量評価では、保守的な評価方法を用いて、トリチウムの生成量を計算している。図4に従来の方法と本実施形態のトリチウム生成量の評価方法との比較を示す。
【0031】
例えば、(C3)のトリチウム生成量の計算で用いられるほう素濃度について、従来は、1つの運転サイクルの開始(BOC)から終了(EOC)を通じて、ほう素のばらつき(不確かさ)を大きく見積もって余裕を持たせて設定している。これに対し、本実施形態では、ほう素濃度の実績値を用いて、より現実的なほう素濃度の推移を設定する。従来方法による1つの運転サイクルを通じたほう素濃度の推移と本実施形態において設定するほう素濃度の推移とを図4のグラフ41に対比して示す。実線41aが従来方法のほう素濃度、破線41bが本実施形態によるほう素濃度である。グラフ41に示すように従来方法では、ほう素濃度が余裕を見て多く見積もられて設定されている。ほう素濃度が高いと、(C3)について計算されるトリチウム生成量が増加し、トリチウム生成量の評価値が増加する。これに対し、本実施形態では実績データに基づいて評価対象期間におけるホウ素濃度を設定する。例えば、次の運転サイクルのプラントAのトリチウム生成量を評価する場合であって、次の運転サイクルのプラントAの運転計画が、今回の運転サイクルや前回の運転サイクルのプラントAの運転計画(実績)と変わらないような場合、今回と前回の時系列のほう素濃度の推移を示す実績データを重ねて並べる。この様子を図5に示す。例えば、黒丸点が前回の運転サイクルで計測されたほう素濃度の実績値で、白丸点が今回の運転サイクルで計測されたほう素濃度の実績値であるとする。これらの実績データに基づいて、各時間における2つのデータを包絡するように(1つの運転サイクルを通じて今回と前回の実績値を漏れなくその中に含むように)、ほう素濃度が最大となるときの推移を示す線51と、ほう素濃度が最小となるときの推移を示す線53とを引く。なお、実績データは、プラントAのものに限らず、燃料の種類や燃焼度、運転計画等の条件が類似する他のプラントの実績データを加えてもよい。また、実績データが示すほう素濃度を中心として、ばらつきの範囲H1、H2を設定したうえで、このばらつき分を含んだ、ほう素濃度の最大と最小の範囲を包絡する線51、53を引いてもよい。また、例えば、実績データが1つの運転サイクルの途中のT1付近までのデータしか得られないような場合(例えば、次の運転サイクルが、これまでよりも長期化するような場合)、最大推移線51と最小推移線53をEOCまで延長して次の運転サイクル用の線51、53を引いてもよい。従来方法では、図4のグラフ41を参照して説明したように、例えば、最大推移線51が示すほう素濃度よりも高い濃度を設定して、(C3)のトリチウム生成量を計算する。これに対し、本実施形態では、最大推移線51と最小推移線53の間で、工学的な知見に基づいて、評価対象期間における現実的なほう素濃度の推移を設定する。図5の破線で示す線52は、このようにして設定された現実的なほう素濃度の推移を示している。線52は、図4のグラフ41の破線41bに対応する。ほう素濃度データ取得部11は、線52が示すほう素濃度の時系列データを取得する。そして、生成量計算部15は、現実的に見積もられたほう素濃度に基づいて、(C3)のトリチウム生成量を計算する。ほう素濃度が低く設定されることで、一次冷却材中の中性子反応によるトリチウム生成量が従来方法よりも少なく計算される。
【0032】
また、(C2)~(C5)のトリチウム生成量の計算で用いられる中性子束について、従来は、1つの運転サイクルの開始(BOC)から終了(EOC)を通じた中性子束の最大値を計算し、1つの運転サイクルを通じて中性子束が、この最大値であると設定している。これに対し、本実施形態では、中性子束計算部12が計算した時間変化を考慮した中性子束の値を用いる。従来方法による1つの運転サイクルを通じた中性子束の推移と本実施形態において設定する中性子束の推移とをグラフ42に対比して示す。実線42aが従来方法で設定される中性子束、破線42bが本実施形態において設定する中性子束を示す。グラフ42に示すように従来方法では、運転サイクルの開始から終了までを最大値で一定としている。中性子束の値が高いと(C2)~(C5)について計算されるトリチウム生成量が増加する。これに対し、本実施形態では、評価対象プラントの燃料配置、燃焼度などを設定したうえで、中性子計算コードによって、評価対象の炉心で実際に生成される中性子束の値を模擬するため、現実に近い中性子束の時間変化が得られる(破線42b)。生成量計算部15は、模擬された現実的な中性子束に基づいて、(C2)~(C5)のトリチウム生成量を計算する。従来方法に比べ、中性子束が低く設定されることで、一次冷却材中の中性子反応によるトリチウム生成量が従来方法よりも少なく計算される。
【0033】
また、図3の(C11)の計算で用いられる被覆管透過率Lについて、従来方法では、保守的な値(大きな透過率)が設定されている。これにより、従来方法では、燃料棒9a内の核分裂によって生成されたトリチウムが、実際よりも多く一次冷却材へ流出していると仮定されてトリチウム放出量が評価されている。これに対し、本実施形態では、トリチウム濃度の過去の実績データと、(C1)~(C5)について計算したトリチウム生成量の計算値と、式(1)と、に基づいて、被覆管透過率Lを逆算し、現実的な透過率を導出する。図6を用いて、被覆管透過率Lの推定方法について説明する。図6のグラフはある期間(例えば、1つの運転サイクル)におけるトリチウム生成量の推移を示すグラフである。図6のグラフの縦軸はトリチウム生成量、横軸は時間を示す。トリチウム生成量は、例えば、ある単位時間(例えば1日)に新たに生成されたトリチウムの生成量を示す。線61は、後述する評価条件に沿ったほう素濃度及び中性子束を用いて、生成量計算部15が(C3)~(C5)のトリチウム生成量を計算した結果の合計(α+αLi+α)である。つまり、線61は、一次冷却材中の反応で生成されたトリチウム生成量を示す。図4を用いて説明したように本実施形態では、評価対象期間の(C2)~(C5)によるトリチウム生成量を計算する際には、現実的なほう素濃度及び現実的な中性子束を用いて計算を行うが、被覆管透過率Lを算出する場面では、保守的な被覆管透過率Lを算出するために別の値を用いる(後述)。生成量計算部15は、時間T2(例えば、ある時刻t2を基準とする1日)におけるほう素濃度及び中性子束と断面積のデータと所定の計算式により、時間T2における生成量α、αLi、αをそれぞれ計算し、これらを合計する。生成量計算部15は、対象とする期間にわたって単位時間ごとにこの計算を行い、線61に示す一次冷却材で生成されたトリチウム生成量の計算結果を得る。
【0034】
また、線62は、トリチウム濃度の実績データに基づいて計算された、各単位時間に新たに生成された一次冷却材中のトリチウムの量である。例えば、時間T2に注目すると、時間(T2+1)の開始時のトリチウム濃度から時間T2の開始時のトリチウム濃度を減算して得られた値に、一次冷却ループ5を循環する冷却水の体積を乗じた値が時間T2に新たに生成されたトリチウムであると考えられる(生成量Qとする。)。また、原子力プラント1では、ほう素濃度の希釈の為、一次冷却材の抽出(一次冷却ループ5から一次冷却材を排出すること)が行われる。従って、時間T2に抽出された一次冷却材に溶け込んでいるトリチウム量(ΔQ)を足し戻して時間T2に生成されたトリチウム量(Q+ΔQ)を計算する。足し戻す分のトリチウム量(ΔQ)については、例えば、同じ一次冷却材についてのほう素濃度の実績データが示すほう素濃度の時間変化から算出することができる。あるいは、所定の方法で計算した推定値(概略値)をΔQとみなして生成量Qに加算してもよい。被覆管透過率計算部16は、解析対象期間にわたって単位時間ごとにこの計算を行い、線62に示す一次冷却材中に新たに存在することになったトリチウム量の計算結果を得る。
【0035】
式(1)から分かるように、燃料棒9a内で生成されたトリチウムのうち、一次冷却材へ流出したトリチウムの量は、トリチウム生成量評価値Evから一次冷却材中で生成されたトリチウム生成量の合計(α+αLi+α)を減じ、さらにBP棒由来のトリチウム流出量(αBP×LBP)を減じることによって得られる。すると、Evから(α+αLi+α)+(αBP×LBP)を減じて、その結果を燃料棒9a内で生成されたトリチウム生成量αで除算することにより、被覆管透過率Lが計算できる。本実施形態では、式(1)に基づいて、このような逆算を行うことにより、現実的な被覆管透過率Lを導出する。ここで、現実的でありながら、安全面に配慮した保守的な被覆管透過率Lを導出するために、本実施形態では、以下のような評価条件(a)~(c)を設定して被覆管透過率Lを逆算する。
【0036】
(a)運転中の10Bの現存を考慮し、当該運転サイクルのほう素濃度実績値をすべて下回るようにほう素濃度を設定する。被覆管透過率Lの導出にあたっては、図5の線52ではなく、例えば、線53を用いて(C3)のトリチウム生成量αを計算する。ほう素濃度を低めに設定することにより、トリチウム生成量αは小さく計算され、その結果、保守的な(大きな)被覆管透過率Lが導出される。
【0037】
(b)中性子束に当該運転サイクル中の最小値を設定する。例えば、中性子束計算コードが解析対象期間について計算した値の中の最小値(例えば、図4のグラフ42の線42bのBOCでの値)を選択し、この値に基づいて(C2)~(C5)のトリチウム生成量αBP、α、αLi、αを計算する。中性子束の値を低めに設定することにより、トリチウム生成量αBP、α、αLi、αは小さく計算され、その結果、保守的な被覆管透過率Lが導出される。
【0038】
(c)BP棒の被覆管透過率LBPに0を設定する。BP棒内で生成されるトリチウムの影響を除外することで、保守的な被覆管透過率Lが導出される。
【0039】
被覆管透過率計算部16は、評価条件(a)~(b)を適用して計算された(C1)~(C5)のトリチウム生成量と、式(1)および評価条件(c)とから、現実的且つ保守的な被覆管透過率Lを計算する。また、式(1)は、ある1つの時間におけるトリチウム生成量評価値Evと(C1)~(C5)のトリチウム生成量の関係式であるところ、評価対象期間全体を通して適切な被覆管透過率Lとして、トリチウム生成量の実績値を包絡するような値を設定する。包絡するとは、設定した被覆管透過率Lに基づいて計算したトリチウム生成量評価値Evが実績値以上となることである。被覆管透過率計算部16は、被覆管透過率Lに様々な値を設定して、その被覆管透過率Lの値と、評価条件(a)~(c)と、式(1)とに基づいて、評価対象期間における単位時間ごとのトリチウム生成量評価値Evを計算する。そして、被覆管透過率計算部16は、評価値Evが、評価対象期間内の全ての時間について、トリチウム生成量の実績値以上となり、且つ、例えば、被覆管透過率Lの値が最小となるような被覆管透過率Lを計算する。図6の線63、64は、被覆管透過率Lに異なる値を設定して、評価条件(a)~(c)と式(1)に基づいて算出した単位時間ごとのトリチウム生成量評価値Evの値である。線63が示すトリチウム生成量評価値Evは、時間帯によってはトリチウム生成量の実績値を下回っている。これは、トリチウム生成量の実績値を包絡するものではない。他方、線64が示すトリチウム生成量評価値Evは、評価対象期間を通じて、トリチウム生成量の実績値以上となっている。つまり、トリチウム生成量の実績値を包絡している。被覆管透過率計算部16は、式(1)によって計算されるトリチウム生成量評価値Evの値が線64のような推移(実績値を包絡しつつ、過度に上回らない)となるような被覆管透過率Lの値を見つけ出して、その値を被覆管透過率Lとして設定する。実際に過去の実績データに基づいて、この方法で被覆管透過率Lを設定したところ、従来方法で用いられてきた被覆管透過率X%よりも小さな値となることが確認されている。
【0040】
このように本実施形態では、ほう素濃度、中性子束、被覆管透過率Lを精緻化して、従来方法に比べて現実的なほう素濃度、中性子束、被覆管透過率Lを用いてトリチウム生成量を計算する。これにより、保守的な値が算出される従来方法に比べ、現実的なトリチウムの生成量を計算することができる。
【0041】
(動作)
次に図7を参照して、評価システム10による評価処理の流れについて説明する。
図7は、実施形態に係る評価処理の一例を示すフローチャートである。
(0.各種設定情報の入力)
まず、設定受付部13が、断面積、過去の解析対象期間および評価対象期間における炉心の燃料配置、燃焼度などの情報、評価対象期間などの計算条件を取得する(ステップS11)。解析対象期間とは、被覆管透過率Lの導出に用いるほう素濃度やトリチウム濃度の実績データが収集された期間(例えば、過去の1つの運転サイクル)のことであり、評価対象期間とは、トリチウム放出量を評価する期間(例えば、次の運転サイクル)である。設定受付部13は、取得した情報を記憶部19へ記録する。
【0042】
(1.被覆管透過率の導出)
次に、廃棄物濃度実績データ取得部14が、廃棄物濃度の実績データを取得する(ステップS12)。廃棄物濃度実績データ取得部14は、一次冷却系におけるトリチウム濃度の実績データ、例えば、過去の1つの運転サイクル中に定期的に計測された一次冷却材中のトリチウム濃度の時系列データを取得し、このデータを記憶部19へ記録する。
【0043】
次に、ほう素濃度データ取得部11が、ほう素濃度の実績値を下回るデータを取得する(ステップS13)。ほう素濃度データ取得部11は、一次冷却材におけるほう素濃度の実績データ、例えば、過去の1つの運転サイクル中に定期的に計測された一次冷却材中のほう素濃度について、実績値を下回るように設定した時系列のデータ(例えば、図5の線53)を取得し、このデータを記憶部19へ記録する。
【0044】
次に、中性子束計算部12が、解析対象期間における中性子束の推移を計算する(ステップS14)。中性子束計算部12は、解析対象期間の開始時における燃料の配置、燃料の燃焼度に基づいて、解析対象期間における炉心の状態を模擬し、解析対象期間の運転中に生成される中性子束の時間変化を計算する。中性子束計算部12は、計算結果を記憶部19へ記録する。
【0045】
次にユーザが被覆管透過率Lの導出に用いる評価条件(a)~(c)を設定する(ステップS15)。ユーザは、評価条件(a)について、ステップS13で取得したほう素濃度のデータに基づいてトリチウム生成量を計算するように設定する。ユーザは、評価条件(b)について、ステップS14で計算された中性子束のうちの最小値を選択し、この最小値に基づいて、トリチウム生成量を計算するように設定する。ユーザは、評価条件(c)について、BP棒の被覆管透過率LBPの値に0を設定する。設定受付部13は、これらの設定を受け付け、生成量計算部15の計算条件として設定する。
【0046】
次にユーザの指示などに基づき、生成量計算部15が、評価条件(a)~(b)に基づいて(C1)~(C5)の各過程によるトリチウム生成量を計算する(ステップS16)。生成量計算部15は、計算結果を記憶部19に記録する。
【0047】
次に、被覆管透過率計算部16が、ステップS16で計算された(C1)~(C5)のトリチウム生成量と、式(1)と、評価条件(c)とに基づいて、図6を用いて説明したように、トリチウム生成量の実績値を包絡する被覆管透過率Lを導出する(ステップS17)。被覆管透過率計算部16は、導出した被覆管透過率Lの値を記憶部19に記録する。
【0048】
(2.トリチウム放出量の評価)
次に中性子束計算部12が、評価対象期間における中性子束の推移を計算する(ステップS18)。中性子束計算部12は、ステップS11で入力された燃料配置や燃焼度の情報、評価対象期間の長さ等に基づいて中性子計算コードを用いて、評価対象期間における中性子束の時間変化を計算する。これにより、図4のグラフ42における線42bが得られる。中性子束計算部12は、計算結果を記憶部19に記録する。
【0049】
次にほう素濃度データ取得部11が、評価対象期間におけるほう素濃度の現実的な時系列データを取得する(ステップS19)。ユーザは、図5で説明したような手順によって生成された次の運転サイクルにおける、ばらつきを考慮した現実的なほう素濃度の時系列データ(線52)を評価システム10へ入力する。ほう素濃度データ取得部11は、このほう素濃度の時系列データを取得し、記憶部19に記録する。これにより、図4のグラフ41における線41bが得られる。
【0050】
次に生成量計算部15が、評価対象期間における(C1)~(C5)の生成量を計算する(ステップS20)。生成量計算部15は、評価対象期間の開始時(BOC)から終了時(EOC)までの単位時間ごとの(C1)~(C5)のトリチウム生成量を、最新の断面積と、現実的なほう素濃度の値と、現実的な中性子束の値を用いて計算する。生成量計算部15は、計算結果を記憶部19に記録する。なお、BP棒を備えないプラントについては、(C2)のトリチウム生成量の計算は実行しなくてよい。
【0051】
次に放出量計算部17が、評価対象期間における単位時間ごとの(C1)~(C5)のトリチウム生成量と、ステップS17で導出した被覆管透過率Lと、被覆管透過率LBPの所定の設定値を式(1)に代入して、単位時間ごとのトリチウム生成量評価値Evを計算する。BP棒の被覆管透過率LBPについては、所定の設定値を設定してもよいし、導出した被覆管透過率Lと同じ値を設定してもよい。放出量計算部17は、単位時間ごとのトリチウム生成量評価値Evを評価対象期間について合計して、評価対象期間全体におけるトリチウムの放出量を計算する(ステップS21)。この放出量は、評価対象期間全体で、一次冷却材へ放出又は一次冷却材中で生成されたトリチウム量の合計である。実際に海洋などへ放出する放出量については、別途、ステップS21で算出された放出量に基づいて計算することができる。放出量計算部17は、計算したトリチウム放出量を記憶部19に記録する。次に出力部18が、トリチウム放出量を表示装置等へ出力する(ステップS22)。これにより、ユーザは、精緻化されたほう素濃度、中性子束、被覆管透過率Lに基づいて計算されたトリチウムの放出量を把握することができる。なお、本実施形態に係る評価方法によって計算されたトリチウムの放出量は、従来方法によって計算されるトリチウム放出量よりも小さな値となることが確認されている。
【0052】
(効果)
以上、説明したように、従来方法では、中性子束やほう素濃度のばらつきに対して、保守的な値を設定することで対応している。これに対して、本実施形態では、中性子束やほう素濃度のばらつきに対して、中性子計算コードによるシミュレーションやほう素濃度の実績値を用いて精緻化することで、中性子束やほう素濃度のばらつきへ対応する。また、従来方法では、被覆管透過率Lについても保守的な値を設定しているが、本実施形態では、トリチウム濃度の実績データとトリチウム生成量の計算値を比較することによって、実態に即した被覆管透過率Lを導出する。これにより、本実施形態によれば、加圧水型の原子力プラント1から放出される液体廃棄物の現実的な放出量を評価することができる。また、上記実施形態では、液体廃棄物としてトリチウムを例示したが、炉心内および一次冷却材内で生成される他の物質についても同様の評価方法を適用して放出量を評価することができる。
【0053】
図8は、実施形態に係る評価システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の評価システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0054】
なお、評価システム10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0055】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
<付記>
各実施形態に記載の評価方法、評価システム及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0057】
(1)第1の態様に係る評価方法は、原子力プラントの炉心で生成される(放射性物質を起因とする)液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップ(S16のC1)と、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップ(S16のC3~C5)と、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと(S12)、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップ(S17)と、評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップ(S20のC1、C2)と、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップ(S20のC3~C5)と、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップ(S21)と、を有する。
実績データに基づいて推定した被覆管透過率を用いて液体廃棄物の生成量・放出量を計算する。これにより、現実的な液体廃棄物の生成量・放出量を計算することができる。
【0058】
(2)第2の態様に係る評価方法は、(1)の評価方法であって、前記一次冷却材で計測されたほう素濃度の実績データに基づいて、前記評価対象期間におけるほう素濃度の推移を評価するステップと、前記評価対象期間における前記中性子束の推移を中性子計算コードによって計算するステップと、前記液体廃棄物の生成に関係する反応についての断面積のデータを取得するステップと、をさらに有し、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップでは、前記評価対象期間の前記ほう素濃度の推移と、前記評価対象期間における前記中性子束の推移と、前記断面積のデータとを用いて、前記第2生成量を計算する。
ほう素の実績データや中性子束のシミュレーション結果に基づいて、液体廃棄物の生成量を計算する。これにより、現実的な液体廃棄物の生成量・放出量を計算することができる。
【0059】
(3)第3の態様に係る評価方法は、(1)~(2)の評価方法であって、前記透過率を計算するステップでは、前記解析対象期間における前記液体廃棄物の時系列の実績値の各々に対して、その実績値に対応する時間における前記第2生成量の値と、前記時間における前記第1生成量の値に前記透過率を乗じた値と、の合計が、前記解析対象期間におけるどの時間についても前記実績値を下回ることが無いように前記透過率を設定する。
これにより、現実的且つ保守的な透過率を計算することができる。
【0060】
(4)第4の態様に係る評価方法は、(1)~(3)の評価方法であって、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップでは、前記ほう素濃度に前記解析対象期間における前記ほう素濃度の実績値を下回る値を設定し、前記中性子束に前記解析対象期間における最低値を設定して、前記第2生成量を計算する。
これにより、保守的な透過率を計算することができる。
【0061】
(5)第5の態様に係る評価方法は、(1)~(4)の評価方法であって、前記第1生成量は、燃料棒中の原子核3分裂によって生成される前記液体廃棄物の生成量、を含み前記第2生成量は、前記一次冷却材中のほう素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、前記一次冷却材中のリチウムの中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、前記一次冷却材中の重水素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量と、を含む。
これにより、第1放出量と第2放出量とを正確に計算することができる。
【0062】
(6)第6の態様に係る評価方法は、(5)の評価方法であって、前記第1放出量は、バーナブルポイズン棒中のほう素の中性子反応によって生成される前記液体廃棄物の生成量、をさらに含む。
これにより、バーナブルポイズン棒を備える原子力プラントについても、第1放出量と第2放出量とを正確に計算することができる。
【0063】
(7)第7の態様に係る評価方法は、(1)~(6)の評価方法であって、前記液体廃棄物はトリチウムである。
これにより、トリチウムの放出量を計算することができる。
【0064】
(8)第8の態様に係る評価システムは、原子力プラントの炉心で生成される(放射性物質を起因とする)液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得する手段と、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算する手段と、評価対象期間における前記第1生成量を計算する手段と、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算する手段と、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出する手段と、を有する。
【0065】
(9)第9の態様に係るプログラムは、コンピュータに、原子力プラントの炉心で生成される(放射性物質を起因とする)液体廃棄物の生成量を示す第1生成量について、過去の解析対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記原子力プラントの一次冷却材で生成される前記液体廃棄物の生成量を示す第2生成量について、前記解析対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記解析対象期間において前記一次冷却材で計測された前記液体廃棄物の濃度の実績データを取得するステップと、前記実績データに基づく前記一次冷却材に存在する前記液体廃棄物の実績値から前記解析対象期間における前記第2生成量を減じた値を、前記解析対象期間における前記第1生成量で除算して、前記炉心から被覆管を透過して前記一次冷却材へ流出する前記液体廃棄物の透過率を計算するステップと、評価対象期間における前記第1生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第2生成量を計算するステップと、前記評価対象期間における前記第1生成量に前記透過率を乗じた値に、前記評価対象期間における前記第2生成量を加算して、前記評価対象期間における前記液体廃棄物の放出量を算出するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0066】
1・・・原子力プラント
2・・・原子炉
3・・・加圧器
4・・・蒸気発生器
5・・・一次冷却ループ
6・・・一次冷却ポンプ
7・・・原子炉格納容器
8・・・原子炉容器
9a・・・燃料棒
9b・・・制御棒
10・・・評価システム
11・・・ほう素濃度データ取得部
12・・・中性子束計算部
13・・・設定受付部
14・・・廃棄物濃度実績データ取得部
15・・・生成量計算部
16・・・被覆管透過率計算部
17・・・放出量計算部
18・・・出力部
19・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8