(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169880
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ウエハ支持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20221102BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075568
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】趙 維江
(72)【発明者】
【氏名】王 建
(72)【発明者】
【氏名】井上 真輔
(72)【発明者】
【氏名】村山 喬之
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌和
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA23
5F131CA02
5F131CA07
5F131CA09
5F131CA18
5F131CA33
5F131CA42
5F131EA03
5F131EA11
5F131EB54
5F131EB55
5F131EB58
5F131EB64
5F131EB81
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】高温下で行われるウエハ処理において、ウエハかかる応力を低減することのできるウエハ支持装置を提供する。
【解決手段】ウエハ支持装置Pは、高温下でのウエハ処理時に使用されるウエハ支持装置で、支持ベース2と、ウエハ1の外形よりも小さな領域でウエハ1を吸着する少なくとも1つの静電吸着部材Eと、支持ベース2と静電吸着部材Eを連結する支持部材4とを有し、支持部材4が、ウエハ処理中に発生するウエハ1の熱変形に追従した静電吸着部材Eの移動を許容する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温下でのウエハ処理に使用されるウエハ支持装置で、
支持ベースと、
ウエハの外形よりも小さな領域で前記ウエハを吸着する少なくとも1つの静電吸着部材と、
前記支持ベースと前記静電吸着部材を連結する支持部材とを有し、
前記支持部材が、ウエハ処理中に発生するウエハの熱変形に追従した前記静電吸着部材の移動を許容するウエハ支持装置。
【請求項2】
前記支持ベースに設けられ、前記支持部材をウエハ処理に使用される荷電粒子から保護する保護部材を有する、請求項1記載のウエハ支持装置。
【請求項3】
前記静電吸着部材がウエハ中央に対応する第1の静電吸着部材を有し、
前記第1の静電吸着部材の前記支持ベースに垂直な方向への移動のみを許容する第1の移動制限部材を有する請求項1または2記載のウエハ支持装置。
【請求項4】
前記静電吸着部材がウエハ外周に対応する第2の静電吸着部材を有し、
前記第2の静電吸着部材の前記支持ベースに垂直な方向への移動を許容し、前記第2の静電吸着部材の前記支持ベースに水平な方向への移動を所定範囲内で許容する、第2の移動制限部材を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウエハ支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウエハを支持するウエハ支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の成膜装置やイオン注入装置などでは、高温下でウエハに処理を施す工程が採用されている。
高温下での処理を実施することで、熱膨張にともなう応力がウエハに発生して、ウエハは様々な形状に変形する。
【0003】
ウエハの熱変形を抑えるため、ウエハ処理中は静電チャックを用いてウエハを強固に固定する方法が使用されている。しかしながら、こうした固定方法を用いると、静電チャックからウエハを離脱させる際、抑制されていたウエハにかかる応力が一挙に解放されることになる。そうなると、ウエハが離脱の際に静電チャックから跳ねて、脱落する問題が発生する。そこで、ウエハが静電チャックから跳ねることへの対策が必要とされていた。
【0004】
対策例として、特許文献1ではウエハの上面にピンを押し当てた状態で静電チャックからの離脱を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の手法を用いれば、ウエハの跳ねを防止することはできるが、ウエハにかかる応力の大きさによっては、静電チャックからの離脱時にウエハが割れてしまうことやウエハが径方向へ位置ずれしてしまうことが懸念される。
【0007】
そこで、高温下で行われるウエハ処理において、ウエハかかる応力を低減することのできるウエハ支持装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ウエハ支持装置は、
高温下でのウエハ処理に使用されるウエハ支持装置で、
支持ベースと、
ウエハの外形よりも小さな領域で前記ウエハを吸着する少なくとも1つの静電吸着部材と、
前記支持ベースと前記静電吸着部材を連結する支持部材とを有し、
前記支持部材が、ウエハ処理中に発生するウエハの熱変形に追従した前記静電吸着部材の移動を許容する。
【0009】
ウエハの外形よりもウエハの吸着領域を小さくすることで、ウエハが吸着支持されていない箇所でウエハの熱変形を許容することができる。
また、ウエハの熱変形に追従した静電吸着部材の移動を許容する支持部材を用いることにより、ウエハの熱変形を抑制することで生じていた応力を低減することが可能となる。
【0010】
また、ウエハ支持装置は、前記支持ベースに設けられ、前記支持部材をウエハ処理に使用される荷電粒子から保護する保護部材を有することが望ましい。
【0011】
半導体の処理工程では、イオンビームやプラズマ等の荷電粒子を用いたウエハ処理が実施されている。
支持部材がウエハ処理に使用される荷電粒子からみえる状態にあれば、ウエハ処理中に支持部材が荷電粒子によってスパッタリングされて静電吸着部材の移動が許容できなくなるなどの支障を来してしまうことが懸念される。
しかしながら、支持部材を荷電粒子から保護する保護部材を設けておくことで、そのような懸念を解消することができる。
【0012】
支持ベースを傾けてウエハ処理を施す場合には、
前記静電吸着部材がウエハ中央に対応する第1の静電吸着部材を有し、
前記第1の静電吸着部材の前記支持ベースに垂直な方向への移動のみを許容する第1の移動制限部材を有することが望ましい。
【0013】
第1の移動制限部材を用いて、第1の静電吸着部材の移動方向を支持ベースに垂直な方向にのみとしているので、ウエハが自重により下方に垂れ下がり、支持ベースに衝突することを防止することができる。
【0014】
一方で、支持ベースを傾けてウエハ処理を施す場合には、
前記静電吸着部材がウエハ外周に対応する第2の静電吸着部材を有し、
前記第2の静電吸着部材の前記支持ベースに垂直な方向への移動を許容し、前記第2の静電吸着部材の前記支持ベースに水平な方向への移動を所定範囲内で許容する、第2の移動制限部材を有する構成を採用してもよい。
【0015】
上記構成でも、ウエハの支持ベースへの衝突を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
ウエハの外形よりもウエハの吸着領域を小さくすることで、吸着支持されていない箇所でウエハの熱変形を許容することができる。
また、ウエハの熱変形に追従した静電吸着部材の移動を許容する支持部材を用いることにより、ウエハの熱変形を抑制することで生じていた応力を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】ウエハ熱変形に追従した静電吸着部材の移動についての説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1はウエハ支持装置Pの構成例を示す平面図である。
図2は
図1記載のA-A線での断面図である。
図1、
図2をもとに、ウエハ支持装置Pの構成例について説明する。
【0019】
ウエハ支持装置Pは、室温よりも高い高温下でウエハ処理を行う際に用いられるウエハ支持装置である。
ウエハ支持装置Pは少なくとも1つの静電吸着部材Eを備えている。静電吸着部材Eのウエハ1と接触する面には静電チャックの吸着面が設けられていて、この吸着面を用いてウエハの吸着支持が行われる。
【0020】
例えば、4つの静電吸着部材を使用する場合、ウエハ面内で各静電吸着部材を分散配置する。具体的には、
図2に図示されるように、ウエハ1の中央を支持する静電吸着部材Ecとウエハ1の外周を支持する3つの静電吸着部材E1~E3を用いてウエハ1を吸着支持している。
【0021】
静電吸着部材Ec、E1~E3の静電チャックの領域を足し合わせた面積はウエハ1の面積よりも小さい。換言すると、静電吸着部材Eは、ウエハ1の外形よりも小さな領域でウエハ1を吸着している。つまり、ウエハ1には静電チャックで支持されていない領域が存在している。
未支持の領域では、ウエハの熱変形が許容されるため、この部分ではウエハにかかる応力は各段に低減される。
【0022】
ウエハ支持装置Pは、土台となる支持ベース2を備えている。静電吸着部材Eは、支持部材4を介して支持ベース2に支持されている。
支持部材4は、例えば耐熱性のコイルばねや板ばねで構成されていて、静電吸着部材Eがウエハ1の熱変形に追従して移動した場合でも、その移動を許容するように構成されている。
【0023】
上述した支持部材4を用いることで、ウエハ1の熱変形を抑制することで生じていた応力を低減することが可能となる。なお、
図1や
図2、後述する他の図面には、熱変形する前のウエハの形状が描かれているが、ウエハ処理が行われることで、図示されるウエハはドーム状、お椀状、ポテトチップス状といった種々の形状に変形する。
図3には、一例として、ウエハ処理中にウエハが熱変形して、これに追従して静電吸着部材(Ec、E2、E3)が移動する様子が描かれている。なお、図示は省略しているが、静電吸着部材E1は同図において静電吸着部材EcのY方向側に配置されていて、静電吸着部材E1もウエハが熱変形に追従して移動する。
【0024】
半導体の処理工程では、イオンビームやプラズマ等の荷電粒子を用いたウエハ処理が実施されている。
支持部材4がウエハ処理に使用される荷電粒子からみえる状態にあれば、ウエハ処理中に支持部材4が荷電粒子によってスパッタリングされて静電吸着部材Eの移動が許容できなくなるなどの支障を来してしまうことが懸念される。
【0025】
上述した懸念点への対策として、
図4に示すウエハ支持装置Pを採用してもよい。
図4の構成では、支持ベース2に設けられ、各々の静電吸着部材の支持部材4の外周を保護する保護部材7を設けている。保護部材7は、例えば、円筒状の部材で、その内部に支持部材4を収納している。
なお、
図4の構成に代えて、各静電吸着部材の支持部材4に対して個別に保護部材7を設ける構成にしてもよい。
【0026】
保護部材7の支持ベース2からの高さは、支持部材4の側方を保護する程度のものにしておくことが考えられる。
一方、静電吸着部材Eの損耗を考慮するのであれば、静電吸着部材Eとの物理的な干渉を考慮に入れたうえで、保護部材7の支持ベース2からの高さは部分的に静電吸着部材Eを保護する程度のものにしておくことが考えられる。
【0027】
保護部材7の構成としては、円筒状の部材以外に板状の部材を用いて支持部材4の一部を保護するようにしてもいい。特に、ウエハ処理に使用される荷電粒子によって支持部材4の一部のみが損耗するのであれば、部分的に支持部材4を保護する構成を採用してもよい。
【0028】
重力方向Gに対して支持ベース2を傾けた状態でウエハ処理が行われることもある。
図5には、イオン注入処理でチルト角度を設定してウエハへのイオン注入処理を行う様子が描かれている。
イオンビームIBは紙面奥手前方向に長いリボンビームで、ウエハ支持装置Pは不図示の駆動機構を用いて図の上下方向にイオンビームIBを横切るように走査されることで、ウエハ1へのイオン注入処理が実施されている。
【0029】
図5のウエハ処理において、支持部材4が静電吸着部材Eの移動を許容する部材であるために、ウエハ1が自重によって支持ベース2から重力方向Gに向けて垂れ下がってしまうことが懸念される。重力の影響は、
図4でウエハ面と重力方向Gとが平行に近づくほど大きくなる。つまり、重力方向Gに垂直な床に配置された支持ベース2を傾ける角度が大きくなるほど、重力の影響は大きくなる。この懸念点についての対策として、
図6や
図7に示す構成を採用してもよい。
【0030】
図6では、ウエハ中央に対応する静電吸着部材Ecの移動を規制する第1の移動制限部材31を使用している。
第1の移動制限部材31によって、静電吸着部材Ecの移動方向は、支持ベース2に垂直方向のみに制限されている。
【0031】
具体的には、
図6(A)の第1の移動制限部材31は、静電吸着部材Ecよりもわずかに大きい径を持つ円筒部材3aである。円筒部材3aは支持ベース2に支持されていて、円筒部材3aの内部には支持部材4と一部の静電吸着部材Ecが収納されている。この円筒部材3aは、
図4で説明した保護部材7を兼ねていてもよい。
【0032】
図6(A)に示す円筒部材3aを用いる構成では、第1の移動制限部材31と静電吸着部材Ecとの間にわずかな隙間があるため、厳密には、垂直方向以外の方向への移動も行われることになる。具体的には、微動ではあるが斜め上方や下方へ移動することもある。ただし、静電吸着部材Ecの直径に対して、上述した隙間が数%であれば、垂直方向以外の成分は無視できる。これより、本発明で垂直方向のみに制限されるとは、垂直方向以外の方向へも静電吸着部材Ecが微動するものも対象にしている。
なお、静電吸着部材Ecが斜め上方や下方へ移動する場合、円筒部材3aに静電吸着部材Ecの側面が擦れて損耗することが懸念される。この対策として、
図6(B)の構成を採用してもよい。
【0033】
図6(B)の第1の移動制限部材31は、静電吸着部材Ecの外周に取り付けられた環状の突起物3bとこの突起物3bを上下方向に摺動させるための溝3cが形成された板部材3dとで構成されている。
なお、板部材3dは、支持ベース2の上方から視たときに環状の突起物3bに沿って湾曲していて、静電吸着部材Ecを挟むように、その左右で支持ベース2上に設けられている。
図6(B)に示す構成を採用することで、静電吸着部材Ecの移動に伴う損耗を防ぐことができる。
【0034】
ウエハ外周に対応する静電吸着部材E1~E3についても同様の移動制限部材を用いてもよい。
図7には静電吸着部材E1~E3の外周に円筒状の第2の移動制限部材32を配置した構成例が描かれている。
第2の移動制限部材32は、
図6(A)で第1の移動制限部材31の例として挙げた円筒部材3aよりも径が大きく、静電吸着部材E1~E3の支持ベース2に垂直な方向だけでなく、支持ベース2の水平方向への移動も所定範囲内で許容できる構成となっている。
なお、支持ベース2の水平方向とは、平板状の支持ベース2の面と平行な方向のことである。静電吸着部材E1~E3の実際の動きとしては、水平方向と垂直方向への移動が同時に起こり、斜め方向へ動くこともある。
【0035】
水平方向での静電吸着部材E1~E3の移動については、筒の内径でもって移動距離が制限されている。これにより、静電吸着部材E1~E3の水平方向への移動は所定範囲内では許容されているものの、許容範囲を超えると移動が制限される。このため、静電吸着部材E1~E3は、ある程度傾斜した姿勢以上にはならない。上述した所定範囲とは、静電吸着部材E1~E3の傾斜角度に基づいて決定されている。この傾斜角度は、自重によるウエハの倒れ込みを防止することができる角度であり、静電吸着部材の数や配置に応じて変更される。
水平方向ではウエハ1の熱変形に伴う静電吸着部材E1~E3の移動をある程度許容することで応力の発生を低減しつつ、自重によるウエハの倒れ込みを防止することができる。
【0036】
図8には、ウエハ1を加熱する機能を備えたウエハ支持装置Pの構成例が描かれている。これまでの実施形態で説明した構成との違いは、ヒーター5と冷媒流路6を備えている点にある。
【0037】
ヒーター5は、例えば、円板状のPGヒーターやPBNヒーターであり、
図6と
図7で説明した第1の移動制限部材31と第2の移動制限部材32に支持されている。このヒーター5を用いてウエハ1の裏面側を加熱している。
なお、ヒーター5の支持は、支持ベース2で行うようにしてもよい。
【0038】
ヒーター5から支持ベース2側に放熱された熱をウエハ1側に反射するために、支持ベース2に反射板を取り付けておいてもよい。また、同様の主旨で、支持ベース2の表面に反射膜を付けておいてもよい。
【0039】
ヒーター5を設ける場合、ヒーター5の設定温度が高く、支持部材4に用いるばねの耐熱温度を超えてしまうことが懸念される。
この対策として、支持ベース2に冷媒流路6を設けておき、支持部材4の冷却を行うようにしている。
なお、支持ベース2に冷媒流路6を形成することに代えて、支持部材4や支持ベース2にピエゾ素子を取り付けておき、支持部材4の冷却を行うようにしてもよい。
【0040】
上記実施形態では、4つの静電吸着部材を用いてウエハを支持する構成を説明したが、ウエハ中央に対応する静電吸着部材Ecだけを用いてウエハ1の支持を行うようにしてもよい。
静電吸着部材の数が減るほど、ウエハ1が支持されていない領域が増えることから、その分だけ処理中のウエハの熱変形が許容できる。
反対にウエハ1の支持を安定して行うのであれば、静電吸着部材Eの数を増やしウエハを多点支持してもよい。例えば、その場合、ウエハ中央に対応する静電吸着部材Ecをなくし、ウエハ外周に対応する3つの静電吸着部材E1~E3でウエハ1を支持してもよい。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
P ウエハ支持装置
E、Ec、E1、E2、E3 静電吸着部材
2 支持ベース
4 支持部材
7 保護部材
31 第1の移動制限部材
32 第2の移動制限部材