(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170010
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/02 20060101AFI20221102BHJP
G08B 21/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G08G3/02 A
G08B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075831
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】松重 太郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 悟
(72)【発明者】
【氏名】竹林 優一
(72)【発明者】
【氏名】魚下 成一
【テーマコード(参考)】
5C086
5H181
【Fターム(参考)】
5C086AA51
5C086AA52
5C086BA23
5C086CA06
5C086CA21
5C086CA25
5C086CB27
5C086DA19
5C086EA42
5C086FA17
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB12
5H181BB13
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
(57)【要約】
【課題】衝突リスクの評価精度の向上を図ることが可能な船舶監視システムを提供する。
【解決手段】船舶監視システムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、第1船舶データ及び第2船舶データに基づいて、第1船舶と第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出するリスク値算出部と、第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、第2船舶の位置の安全度を判定する安全度判定部と、安全度に応じてリスク値を調整するリスク値調整部と、調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報を発報する警報部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、
第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、
前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出するリスク値算出部と、
前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定する安全度判定部と、
前記安全度に応じて前記リスク値を調整するリスク値調整部と、
前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報を発報する警報部と、
を備える、船舶監視システム。
【請求項2】
前記安全度判定部は、前記第1船舶の横方向のうち、前記第1船舶の船首ラインに対して前記第2船舶が位置する方向を第1方向とし、その逆方向を第2方向として、前記船首ラインに対して前記第1方向に位置する領域の安全度よりも前記第2方向に位置する領域の安全度を高くする、
請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項3】
前記安全度判定部は、前記第1船舶の横方向のうち、前記第1船舶の船首ラインに対して前記第2船舶が位置する方向を第1方向とし、その逆方向を第2方向として、前記船首ラインに対して前記第2方向に位置する、前記船首ラインと同方向に延びる安全ラインを設定し、前記安全ラインに対して前記第1方向に位置する領域の安全度よりも前記第2方向に位置する領域の安全度を高くする、
請求項2に記載の船舶監視システム。
【請求項4】
前記安全度判定部は、前記船首ラインと前記安全ラインとの間の領域内の安全度を、前記第2方向に進むに従って高くする、
請求項3に記載の船舶監視システム。
【請求項5】
前記安全度判定部は、前記第1船舶の正横ラインに対して前方に位置する領域の安全度よりも後方に位置する領域の安全度を高くする、
請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項6】
前記安全度判定部は、前記第1船舶に対して後方に位置する、前記第1船舶の正横ラインと同方向に延びる安全ラインを設定し、前記安全ラインに対して前方に位置する領域の安全度よりも後方に位置する領域の安全度を高くする、
請求項1または5に記載の船舶監視システム。
【請求項7】
前記安全度判定部は、前記正横ラインと前記安全ラインとの間の領域内の安全度を、後方に進むに従って高くする、
請求項6に記載の船舶監視システム。
【請求項8】
前記安全度判定部は、前記第1船舶と前記第2船舶との見合い関係に応じて、前記第2船舶の位置の安全度を判定する、
請求項1ないし7の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項9】
前記安全度判定部は、前記見合い関係の境界範囲において、前記第1船舶と前記第2船舶との相対方向の変化に応じて前記安全度を徐々に変化させる、
請求項8に記載の船舶監視システム。
【請求項10】
前記リスク値算出部は、TCPA(Time to Closest Point of Approach)及びDCPA(Distance to Closest Point of Approach)に基づいて前記リスク値を算出する、
請求項1ないし9の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項11】
前記リスク値算出部は、SJ(Subject Judgement)値に基づいて前記リスク値を算出する、
請求項1ないし10の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項12】
前記リスク値算出部は、OZT(Obstacle Zone by Target)並びにBCR(Bow Crossing Range)及びBCT(Bow Crossing Time)に基づいて前記リスク値を算出する、
請求項1ないし11の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項13】
前記リスク値算出部は、前記リスク値におけるOZTの寄与度をBCR及びBCTの寄与度よりも高くする、
請求項12に記載の船舶監視システム。
【請求項14】
前記第1データ生成部は、前記第1船舶に搭載され、GNSS(Global Navigation Satellite System)から受信した電波に基づいて前記第1船舶の位置を検出するGNSS受信機を含む、
請求項1ないし13の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項15】
前記第2データ生成部は、前記第1船舶に搭載され、前記第1船舶の周囲に発せられた電波の反射波を受信して生成されたエコーデータから前記第2船舶の位置及び速度を検出するレーダーを含む、
請求項1ないし14の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項16】
第1データ生成部により、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成し、
第2データ生成部により、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成し、
前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出し、
前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定し、
前記安全度に応じて前記リスク値を調整し、
前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報を発報する、
船舶監視方法。
【請求項17】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出するリスク値算出部と、
前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定する安全度判定部と、
前記安全度に応じて前記リスク値を調整するリスク値調整部と、
前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報部に発報指令を出力する発報判定部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項18】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出すること、
前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定すること、
前記安全度に応じて前記リスク値を調整すること、及び、
前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報部に発報指令を出力すること、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶同士が衝突するリスクを評価する種々の手法が存在する。例えば、非特許文献1には、OZT(Obstacle Zone by Target)を表示する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】今津隼馬,福戸淳司,沼野正義,“相手船による妨害ゾーンとその表示について”,日本航海学会論文集,2002年,Vol.107,p.191-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の手法では、実際には船舶同士が衝突するリスクが低いにも関わらず、条件に依ってはリスクが高く評価されてしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、衝突リスクの評価精度の向上を図ることが可能な船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の船舶監視システムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出するリスク値算出部と、前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定する安全度判定部と、前記安全度に応じて前記リスク値を調整するリスク値調整部と、前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報を発報する警報部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の態様の船舶監視方法は、第1データ生成部により、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成し、第2データ生成部により、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成し、前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出し、前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定し、前記安全度に応じて前記リスク値を調整し、前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報を発報する。
【0008】
また、本発明の他の態様の情報処理装置は、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出するリスク値算出部と、前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定する安全度判定部と、前記安全度に応じて前記リスク値を調整するリスク値調整部と、前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報部に発報指令を出力する発報判定部と、を備える。
【0009】
また、本発明の他の態様のプログラムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを表すリスク値を算出すること、前記第1船舶を基準に定まる安全度の分布から、前記第2船舶の位置の安全度を判定すること、前記安全度に応じて前記リスク値を調整すること、及び、前記調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報部に発報指令を出力すること、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、衝突リスクの評価精度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
【
図4】TCPA/DCPAを説明するための図である。
【
図6】実施形態に係る船舶監視方法の手順例を示す図である。
【
図7】船首通過による安全度分布の例を示す図である。
【
図8】正横通過による安全度分布の例を示す図である。
【
図11】実施形態に係る船舶監視方法の他の手順例を示す図である。
【
図17】BCR/BCTを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る船舶監視システム100の構成例を示すブロック図である。船舶監視システム100は、船舶に搭載され、周囲に存在する船舶を監視するためのシステムである。
【0014】
船舶監視システム100が搭載された船舶は、第1船舶の例であり、以下の説明では「自船」という。また、自船の周囲に存在する船舶は、第2船舶の例であり、以下の説明では「他船」という。
【0015】
また、以下の説明において、「速度」は速さと方位を表すベクトル量(いわゆる、船速ベクトル)であるとし、「速さ」はスカラー量であるとする。
【0016】
船舶監視システム100は、情報処理装置1、表示部2、レーダー3、AIS4、GNSS受信機5、ジャイロコンパス6、ECDIS7、及び警報部8を備えている。これらの機器は、例えばLAN等のネットワークNに接続されており、相互にネットワーク通信が可能である。
【0017】
情報処理装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。情報処理装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0018】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0019】
表示部2は、例えばタッチセンサ付き表示装置である。タッチセンサは、指等による画面内の指示位置を検出する。タッチセンサに限らず、トラックボール等により指示位置が入力されてもよい。
【0020】
レーダー3は、自船の周囲に電波を発するとともにその反射波を受信し、受信信号に基づいてエコーデータを生成する。また、レーダー3は、エコーデータから物標を識別し、物標の位置及び速度を表す物標追跡データ(TTデータ)を生成する。
【0021】
AIS(Automatic Identification System)4は、自船の周囲に存在する他船又は陸上の管制からAISデータを受信する。AISに限らず、VDES(VHF Data Exchange System)が用いられてもよい。AISデータは、他船の位置及び速度等を含んでいる。
【0022】
GNSS受信機5は、GNSS(Global Navigation Satellite System)から受信した電波に基づいて自船の位置を検出する。ジャイロコンパス6は、自船の方位を検出する。ジャイロコンパスに限らず、GPSコンパス又は磁気コンパスが用いられてもよい。
【0023】
ECDIS(Electronic Chart Display and Information System)7は、GNSS受信機5から自船の位置を取得し、電子海図上に自船の位置を表示する。また、ECDIS7は、電子海図上に自船の予定航路も表示する。ECDISに限らず、GNSSプロッタが用いられてもよい。
【0024】
警報部8は、自船が他船と衝突するリスクがある場合に警報を発報する。警報部8は、例えば表示による警報であってもよいし、音又は光による警報であってもよい。表示による警報は、表示部2において行われてもよい。すなわち、表示部2が警報部8を兼ねてもよい。
【0025】
本実施形態において、情報処理装置1は独立した装置であるが、これに限らず、ECDIS7等の他の装置と一体であってもよい。すなわち、情報処理装置1の機能部がECDIS7等の他の装置で実現されてもよい。
【0026】
また、表示部2も独立した装置であるが、これに限らず、ECDIS7等の他の装置の表示部が、情報処理装置1により生成された画像を表示する表示部2として用いられてもよい。
【0027】
本実施形態において、GNSS受信機5とECDIS7の組は、第1データ生成部の例であり、自船の位置及び速度を表す自船データを生成する。具体的には、GNSS受信機5が自船の位置を検出するとともに、ECDIS7が自船の位置の時間変化から自船の速度を検出する。
【0028】
これに限らず、自船の速度は、ジャイロコンパス6により検出される自船の方位と、不図示の船速計により検出される自船の速さとに基づいて検出されてもよい。
【0029】
また、レーダー3又はAIS4は、第2データ生成部の例であり、他船の位置及び速度を表す他船データを生成する。具体的には、レーダー3により生成されるTTデータが他船データに相当する。また、AIS4により生成されるAISデータも他船データに相当する。
【0030】
図2は、情報処理装置1のメモリに構築される他船管理データベースの例を示す図である。他船管理データベースには、レーダー3又はAIS4により生成された他船データが登録される。
【0031】
他船管理データベースは、「他船識別子」、「位置」、「速さ」、及び「方位」等のフィールドを含んでいる。なお、レーダー3により検出される他船の位置及び方位は、GNSSと同じ座標系に変換される。
【0032】
図3は、実施形態に係る情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。情報処理装置1は、リスク値算出部11、安全度判定部12、リスク値調整部13、及び発報判定部14を備えている。これらの機能部は、情報処理装置1のCPUがプログラムに従って情報処理を実行することにより実現される。
【0033】
リスク値算出部11は、自船データ及び他船データに基づいて、自船と他船とが衝突するリスクを表すリスク値を算出する。リスク値の算出には、公知の手法が用いられる。例えば、リスク値算出部11は、TCPA及びDCPAに基づいてリスク値を算出する。また、リスク値算出部11は、SJ値に基づいてリスク値を算出してもよい。
【0034】
図4は、TCPA(Time to Closest Point of Approach:最接近時間)/DCPA(Distance to Closest Point of Approach:最接近距離)を説明するための図である。TCPA/DCPAによる衝突警報は、TCPAとDCPAの両方が閾値以下である場合に警報を発報する手法である。
【0035】
この手法では、同図に示すように、自船の前方に他船が接近する場合と自船の後方に他船が接近する場合とでTCPA/DCPAの値が同じになるため、本来であれば前者の方が後者より危険性が高いにも関わらず、両者の危険性を同列に扱ってしまうという課題がある。
【0036】
図5は、SJ(Subject Judgement)値を説明するための図である。SJ値は、操船シミュレータによる被験者データから得られた操船者が感じる主観的な衝突危険度を、他船の距離及び相対方位変化率の回帰式で表した値である。
【0037】
すなわち、この手法では、距離が近く、同じ方位に見え続ける他船のリスク値が高く算出される傾向にある。しかしながら、同図に示すように、行き違った後の衝突のリスクが無い他船についてもリスク値が高く算出されてしまうという課題がある。
【0038】
そこで、本実施形態では、リスク値算出部11により算出されたリスク値を、安全度判定部12及びリスク値調整部13により調整することで、リスク評価の精度向上を図っている。以下、リスク値を調整する具体的な手法について説明する。
【0039】
図6は、船舶監視システム100において実現される、本実施形態に係る船舶監視方法の手順例を示すフロー図である。情報処理装置1は、同図に示す情報処理をプログラム従って実行する。
【0040】
まず、情報処理装置1は、上述したようにTCPA/DCPA又はSJ値等の手法により、自船と他船とが衝突するリスクを表すリスク値を算出する(S11:リスク値算出部11としての処理)。
【0041】
次に、情報処理装置1は、自船データ及び他船データに基づいて、自船を基準に定まる安全度分布から、他船の位置の安全度を判定する。具体的には、情報処理装置1は、船首通過による安全度Aと、正横通過による安全度Bとを判定する(S12,S13:安全度判定部12としての処理)。
【0042】
図7は、船首通過による安全度分布の例を示す図である。S12において、情報処理装置1は、自船の船首ラインに対して他船とは逆方向(すなわち、他船の進行方向側又は船首方向側)に、船首ラインから予め定められた距離だけ離れた、船首ラインと平行な安全ラインを設定する。
【0043】
例えば、他船が船首ラインに対して右方向に位置し、左方向に向かって航行する場合、船首ラインに対して例えば自船の全幅の5倍の距離だけ離れた左方向に安全ラインを設定する。このとき、船首ラインに対して右方向の領域が(a)危険領域となり、船首ラインと安全ラインの間の領域が(b)注意領域となり、安全ラインに対して左方向の領域が(c)安全領域となる。
【0044】
(a)危険領域の安全度は0とされる。(b)注意領域の安全度は、0と1の間の値とされ、(a)危険領域の安全度よりも高くされる。(c)安全領域の安全度は1とされ、(b)注意領域の安全度よりも高くされる。
【0045】
(b)注意領域の安全度は、安全ラインに近づくに従って、すなわち船首ラインから離れるに従って、徐々に高くなるように設定されてもよい。
【0046】
そして、情報処理装置1は、(a)危険領域、(b)注意領域、及び(c)安全領域のどの領域に他船が位置するか判定し、該当する領域に対応する安全度を船首通過による安全度Aとして適用する。
【0047】
図8は、正横通過による安全度分布の例を示す図である。S13において、情報処理装置1は、自船に対して後方向(すなわち、他船の進行方向側又は船首方向側)に、自船の正横ラインから予め定められた距離だけ離れた、正横ラインと平行な安全ラインを設定する。
【0048】
例えば、他船が自船の正横ラインに対して前方向に位置し、後方向に向かって航行する場合、正横ラインに対して例えば自船の全幅の5倍の距離だけ離れた後方向に安全ラインを設定する。このとき、正横ラインに対して前方向の領域が(a)危険領域となり、正横ラインと安全ラインの間の領域が(b)注意領域となり、安全ラインに対して後方向の領域が(c)安全領域となる。
【0049】
上記と同様に、(a)危険領域の安全度は0とされる。(b)注意領域の安全度は、0と1の間の値とされ、(a)危険領域の安全度よりも高くされる。(c)安全領域の安全度は1とされ、(b)注意領域の安全度よりも高くされる。
【0050】
(b)注意領域の安全度は、安全ラインに近づくに従って、すなわち船首ラインから離れるに従って、徐々に高くなるように設定されてもよい。
【0051】
そして、情報処理装置1は、(a)危険領域、(b)注意領域、及び(c)安全領域のどの領域に他船が位置するか判定し、該当する領域に対応する安全度を正横通過による安全度Bとして適用する。
【0052】
図6の説明に戻る。次に、情報処理装置1は、上記S12,S13で判定された安全度A及び安全度Bに基づいて、安全度を決定する(S14:安全度判定部12としての処理)。
【0053】
例えば、安全度A及び安全度Bのうちの最大値 max(安全度A,安全度B)を採ることで、安全度を決定してもよい。また、1-(1-安全度A)(1-安全度B)を演算することで、安全度を決定してもよい。1-安全度Aは、安全度Aの否定を表す。
【0054】
次に、情報処理装置1は、上記S11で算出されたリスク値を、上記S14で決定された安全度に応じて調整する(S15:リスク値調整部13としての処理)。
【0055】
具体的には、
図9に示すように、リスク値調整部13は、係数変換部131及びand演算部132を備えている。係数変換部131は、1から安全度(0~1の値)を引いた値を出力する。and演算部132は、1から安全度を引いた値をリスク値に乗じることで、リスク値を調整する。すなわち、and演算部132は、1-安全度の値とリスク値とのand演算を行う。これに限らず、and演算部132は、1-安全度の値及びリスク値のうちの最小値を採ってもよい。
【0056】
次に、情報処理装置1は、上記S15で調整されたリスク値が閾値以上であるか否かを判定し、調整されたリスク値が閾値以上である場合に、警報部8に発報指令を出力する(S16,S17:発報判定部14としての処理)。警報部8は、発報指令を受けると、警報を発報する。
【0057】
警報の発報は、例えば警報部8を兼ねる表示部2において、他船のシンボルの色等を変更したり、点滅させたり、又は警報の対象であることを表す枠を付加する等の強調表示を行うことによって実現される。この場合、発報指令は、強調表示を行うための表示指令である。
【0058】
以上に説明した実施形態によれば、自船と他船が衝突するリスクが実際には低いにも関わらず、警報が発報されてしまう事態を抑制することが可能となる。このため、輻輳海域において誤警報が多発する事態を抑制することが可能となる。
【0059】
[第1変形例]
図10に示すように他船が進行する場合、自船と他船の距離がまだ近いにも関わらず、上記実施形態では、他船が船首方向の安全ラインを超えているので、安全度は最大になってしまう。そこで、本変形例では、以下に説明するように、自船と他船の見合い関係を判定し、見合い関係を考慮して安全度を決定する。
【0060】
図11は、本変形例に係る船舶監視方法の手順例を示すフロー図である。上記実施形態と重複する処理については、同番号を付すことで詳細な説明を省略することがある。
【0061】
情報処理装置1は、安全度A,Bを判定すると(S12,S13)、自船データ及び他船データに基づいて、自船と他船の見合い関係を判定する(S21)。
【0062】
図12に示すように、見合い関係には、例えば追い越し、右横切り、左横切り、行き会い(反航)、及び並走などがある。自船の速度ベクトルと他船の速度ベクトルとの相対速度ベクトルの向き及び大きさにより、どの見合い関係に属するか判定される。同図は、右横切りと判定される例を示している。
【0063】
情報処理装置1は、判定された見合い関係に応じた安全度分布から、安全度を決定し(S22)、安全度に応じてリスク値を調整する(S15)。
【0064】
具体的には、情報処理装置1は、見合い関係が横切り(右横切り又は左横切り)である場合には、船首通過による安全度分布(
図7参照)に基づく安全度Aを、安全度として決定する。これに限らず、安全度Aの重みを上げる等、安全度Aが優先的に適用されるようにしてもよい。
【0065】
一方、情報処理装置1は、見合い関係が行き会いである場合には、正横通過による安全度分布(
図8参照)に基づく安全度Bを、安全度として決定する。これに限らず、安全度Bの重みを上げる等、安全度Bが優先的に適用されるようにしてもよい。
【0066】
なお、情報処理装置1は、見合い関係が横切り又は行き会い以外である場合には、上記実施形態のS14と同様に、安全度を決定する。
【0067】
また、見合い関係の境界範囲においては、針路差(自船の進行方向に対する相対速度ベクトルの方位)の変化に応じて安全度を徐々に変化させることが好ましい。
【0068】
例えば、
図13に示すように、針路差160度以下を横切りとし、針路差170度以上を行き会いとし、その間を境界範囲とする。横切りの適合度は、境界範囲において針路差が160度から170度まで増加するのに伴って、1から0まで徐々に減少する。行き会いの適合度は、境界範囲において針路差が160度から170度まで増加するのに伴って、0から1まで徐々に増加する。
【0069】
この適合度に基づいて安全度を決定することで、見合い関係の境界範囲において安全度を徐々に変化させることが可能となるので、船速や位置のノイズで安全度が過剰に反応すること(いわゆるチャタリング)を抑制することが可能となる。
【0070】
具体的には、針路差が境界範囲にある場合に、横切りの適合度を、船首通過による安全度分布(
図7参照)に基づく安全度Aに乗じることで、安全度Aを補正する。また、針路差が境界範囲にある場合に、行き会いの適合度を、正横通過による安全度分布(
図8参照)に基づく安全度Bに乗じることで、安全度Bを補正する。
【0071】
例えば、横切りの適合度が0.7であり、行き会いの適合度が0.3である場合、安全度Aに0.7を乗じた値と、安全度Bに0.3を乗じた値とを足し合わせた値が、安全度として決定される。安全度は、上記段落0053~0055と同様に計算してもよい。
【0072】
[第2変形例]
上記実施形態では、TCPA/DCPA又はSJ値等を用いる手法によりリスク値を算出したが、これに限らず、以下に説明する変形例のように、OZT並びにBCR及びBCTに基づいてリスク値を算出してもよい。
【0073】
図14は、リスク値算出部11の変形例を示す図である。リスク値算出部11は、OZT算出部111、BCR/BCT算出部112、及び合成部113を備えている。
【0074】
図15は、OZT(Obstacle Zone by Target)を説明するための図である。OZTは、自船の航行が他船によって妨害されるゾーンであり、他船の予定針路上に表示される。自船の船速ベクトルの延長線がOZTと交差し、且つOZTまでの到達時間が閾値以下である場合に、他船と衝突するリスクが高いと評価される。
【0075】
ところで、
図16に示すように、自船の船速ベクトルの延長線がOZTと交差せず、他船と衝突するリスクが低いと評価される場合であっても、短時間のうちに他船が自船の前方を近距離で横切るような場合には、注意喚起のために警報を発報することが好ましい。
【0076】
そこで、本変形例では、OZT算出部111によるリスク評価とBCR/BCT算出部112によるリスク評価とを、合成部113によって組み合わせている。
【0077】
図17は、BCR(Bow Crossing Range)及びBCT(Bow Crossing Time)を説明するための図である。BCTは、他船が自船の船首ラインを横切るまでの予測時間である。BCRは、他船が自船の船首ラインを横切るときの自船から他船までの予測距離である。
【0078】
BCR及びBCTは、「短時間のうちに他船が自船の前方を近距離で横切る場合」を評価するのに適した指標である。なお、BCRは、自船の前方と後方とで正負が逆転するため、上述のTCPA/DCPAとは異なり、自船の前方のリスクを評価できる。
【0079】
例えば、OZT算出部111は、自船と他船が衝突する衝突危険度を表す指標として、(ア)OZTの発生方位及び(イ)OZTまでの到達時間を出力する。また、(ウ)OZTでの衝突確率を出力してもよい。
【0080】
一方、BCR/BCT算出部112は、他船が自船の前方を横切る横切り危険度を表す指標として、(エ)BCR及び(オ)BCTを出力する。
【0081】
合成部113は、上記(ア)~(オ)に基づいて、衝突危険度と横切り危険度の両方を考慮した総合的なリスク値を算出する。このような総合的なリスク値の算出には、例えばファジィ推論が用いられる。リスク値は、例えば0~1の値で表される。
【0082】
ここで、合成部113は、リスク値におけるOZTの寄与度をBCR及びBCTの寄与度よりも高くするようにパラメータが調整されている。例えば、OZT発生方位が自船針路に近い場合やOZTまでの到達時間が短い場合に高レベルのリスク値が出力され、BCRが近い場合やBCTが短い場合に中レベルのリスク値が出力されるようにする。
【0083】
このように本変形例によれば、自船と他船が衝突するリスクが高い場合に警報を発報するだけでなく、短時間のうちに他船が自船の前方を近距離で横切るような場合にも、注意喚起のために警報を発報することが可能となる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0085】
1 情報処理装置、2 表示部、3 レーダー、4 AIS、5 GNSS受信機、6 ジャイロコンパス、7 ECDIS、8 警報部、11 リスク値算出部、12 安全度判定部、13 リスク値調整部、100 船舶監視システム、131 係数変換部、132 and演算部、14 発報判定部、111 OZT算出部、112 BCR/BCT算出部、113 合成部