(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170012
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/02 20060101AFI20221102BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G08G3/02 A
G08B31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075833
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】桑原 悟
(72)【発明者】
【氏名】魚下 成一
【テーマコード(参考)】
5C087
5H181
【Fターム(参考)】
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA09
5C087AA10
5C087AA19
5C087BB20
5C087DD03
5C087DD16
5C087FF04
5C087FF16
5C087GG06
5C087GG38
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB12
5H181BB13
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
(57)【要約】
【課題】船舶が他船の前方を通過するか後方を通過するかを把握することが容易な船舶監視システムを提供する。
【解決手段】船舶監視システムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、第1船舶データ及び第2船舶データに基づいて、第2船舶の予測針路上の各点について、第1船舶が変針して各点に到達すると仮定したときに、第1船舶が第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する通過判定部と、第2船舶の予測針路上に、第1船舶が第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と第1船舶が第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示する表示部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、
第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、
前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する通過判定部と、
前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示する表示部と、
を備える、船舶監視システム。
【請求項2】
前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第1船舶が任意の方向に変針して前記第2船舶の予測針路に向かうと仮定したときの、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクがあるリスク領域を算出するリスク値算出部をさらに備え、
前記表示部は、前記リスク領域をさらに表示する、
請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項3】
前記リスク領域は、OZT(Obstacle Zone by Target)である、
請求項2に記載の船舶監視システム。
【請求項4】
前記リスク領域は、DAC(Dangerous Area of Collision)である、
請求項2に記載の船舶監視システム。
【請求項5】
前記表示部は、前記前方通過領域及び前記後方通過領域の少なくとも一方を前記リスク領域と重ねて表示する、
請求項2ないし4の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項6】
前記表示部は、前記第2船舶の予測針路上のうち、前記リスク領域内に前記前方通過範囲と前記後方通過範囲とを表示する、
請求項2ないし4の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項7】
前記表示部は、前記前方通過領域及び前記後方通過領域とともに、前記第2船舶の予測針路を表す補助線を表示する、
請求項1ないし6の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項8】
前記表示部は、前記第2船舶の予測針路のうち、針路方向の最先にある前記前方通過領域又は前記後方通過領域よりも先に前記補助線を表示しない、
請求項7に記載の船舶監視システム。
【請求項9】
前記通過判定部は、前記各点に前記第1船舶が先に到達する確率と前記第2船舶が先に到達する確率とを算出し、前記確率の大小関係に応じて、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する、
請求項1ないし8の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項10】
前記通過判定部は、前記各点に前記第1船舶が到達する時間と前記第2船舶が到達する時間とを算出し、前記時間の大小関係に応じて、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する、
請求項1ないし8の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項11】
前記通過判定部は、前記各点におけるBCR(Bow Crossing Range)を算出し、前記BCRの正負に応じて、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する、
請求項1ないし8の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項12】
前記第1データ生成部は、前記第1船舶に搭載され、GNSS(Global Navigation Satellite System)から受信した電波に基づいて前記第1船舶の位置を検出するGNSS受信機を含む、
請求項1ないし11の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項13】
前記第2データ生成部は、前記第1船舶に搭載され、前記第1船舶の周囲に発せられた電波の反射波を受信して生成されたエコーデータから前記第2船舶の位置及び速度を検出するレーダーを含む、
請求項1ないし12の何れかに記載の船舶監視システム。
【請求項14】
第1データ生成部により、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成し、
第2データ生成部により、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成し、
前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定し、
前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示する、
船舶監視方法。
【請求項15】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する通過判定部と、
前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示するための表示用画像を生成する表示制御部と、
を備える、情報処理装置。
【請求項16】
第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定すること、及び、
前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示するための表示用画像を生成すること、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶同士が衝突するリスクを評価する種々の手法が存在する。例えば、非特許文献1には、OZT(Obstacle Zone by Target)を表示する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】今津隼馬,福戸淳司,沼野正義,“相手船による妨害ゾーンとその表示について”,日本航海学会論文集,2002年,Vol.107,p.191-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、OZTを表示する手法では、他船の予測針路のうちのOZTが表示されていない範囲は、船舶の航行が可能な範囲である。しかしながら、そのような範囲について、船舶が他船の前方を通過するか後方を通過するかを一見しただけで把握することは困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、船舶が他船の前方を通過するか後方を通過するかを把握することが容易な船舶監視システム、船舶監視方法、情報処理装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の船舶監視システムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成する第1データ生成部と、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成する第2データ生成部と、前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する通過判定部と、前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示する表示部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の態様の船舶監視方法は、第1データ生成部により、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データを生成し、第2データ生成部により、第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データを生成し、前記第1船舶データ及び前記第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定し、前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示する。
【0008】
また、本発明の他の態様の情報処理装置は、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定する通過判定部と、前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示するための表示用画像を生成する表示制御部と、を備える。
【0009】
また、本発明の他の態様のプログラムは、第1船舶の位置及び速度を表す第1船舶データ並びに第2船舶の位置及び速度を表す第2船舶データに基づいて、前記第2船舶の予測針路上の各点について、前記第1船舶が変針して前記各点に到達すると仮定したときに、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過するか後方を通過するか判定すること、及び、前記第2船舶の予測針路上に、前記第1船舶が前記第2船舶の前方を通過する前方通過範囲と前記第1船舶が前記第2船舶の後方を通過する後方通過範囲とを表示するための表示用画像を生成すること、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、船舶が他船の前方を通過するか後方を通過するかを把握することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る船舶監視システムの構成例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る船舶監視方法の手順例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る船舶監視システム100の構成例を示すブロック図である。船舶監視システム100は、船舶に搭載され、周囲に存在する船舶を監視するためのシステムである。
【0014】
船舶監視システム100が搭載された船舶は、第1船舶の例であり、以下の説明では「自船」という。また、自船の周囲に存在する船舶は、第2船舶の例であり、以下の説明では「他船」という。
【0015】
また、以下の説明において、「速度」は速さと方位を表すベクトル量(いわゆる、船速ベクトル)であるとし、「速さ」はスカラー量であるとする。
【0016】
船舶監視システム100は、情報処理装置1、表示部2、レーダー3、AIS4、GNSS受信機5、ジャイロコンパス6、ECDIS7、及び警報部8を備えている。これらの機器は、例えばLAN等のネットワークNに接続されており、相互にネットワーク通信が可能である。
【0017】
情報処理装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。情報処理装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0018】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0019】
表示部2は、例えばタッチセンサ付き表示装置である。タッチセンサは、指等による画面内の指示位置を検出する。タッチセンサに限らず、トラックボール等により指示位置が入力されてもよい。
【0020】
レーダー3は、自船の周囲に電波を発するとともにその反射波を受信し、受信信号に基づいてエコーデータを生成する。また、レーダー3は、エコーデータから物標を識別し、物標の位置及び速度を表す物標追跡データ(TTデータ)を生成する。
【0021】
AIS(Automatic Identification System)4は、自船の周囲に存在する他船又は陸上の管制からAISデータを受信する。AISに限らず、VDES(VHF Data Exchange System)が用いられてもよい。AISデータは、他船の位置及び速度等を含んでいる。
【0022】
GNSS受信機5は、GNSS(Global Navigation Satellite System)から受信した電波に基づいて自船の位置を検出する。ジャイロコンパス6は、自船の方位を検出する。ジャイロコンパスに限らず、GPSコンパス又は磁気コンパスが用いられてもよい。
【0023】
ECDIS(Electronic Chart Display and Information System)7は、GNSS受信機5から自船の位置を取得し、電子海図上に自船の位置を表示する。また、ECDIS7は、電子海図上に自船の予定航路も表示する。ECDISに限らず、GNSSプロッタが用いられてもよい。
【0024】
警報部8は、自船が他船と衝突するリスクがある場合に警報を発報する。警報部8は、例えば表示による警報であってもよいし、音又は光による警報であってもよい。表示による警報は、表示部2において行われてもよい。すなわち、表示部2が警報部8を兼ねてもよい。
【0025】
本実施形態において、情報処理装置1は独立した装置であるが、これに限らず、ECDIS7等の他の装置と一体であってもよい。すなわち、情報処理装置1の機能部がECDIS7等の他の装置で実現されてもよい。
【0026】
また、表示部2も独立した装置であるが、これに限らず、ECDIS7等の他の装置の表示部が、情報処理装置1により生成された画像を表示する表示部2として用いられてもよい。
【0027】
本実施形態において、GNSS受信機5とECDIS7の組は、第1データ生成部の例であり、自船の位置及び速度を表す自船データを生成する。具体的には、GNSS受信機5が自船の位置を検出するとともに、ECDIS7が自船の位置の時間変化から自船の速度を検出する。
【0028】
これに限らず、自船の速度は、ジャイロコンパス6により検出される自船の方位と、不図示の船速計により検出される自船の速さとに基づいて検出されてもよい。
【0029】
また、レーダー3又はAIS4は、第2データ生成部の例であり、他船の位置及び速度を表す他船データを生成する。具体的には、レーダー3により生成されるTTデータが他船データに相当する。また、AIS4により生成されるAISデータも他船データに相当する。
【0030】
図2は、情報処理装置1のメモリに構築される他船管理データベースの例を示す図である。他船管理データベースには、レーダー3又はAIS4により生成された他船データが登録される。
【0031】
他船管理データベースは、「他船識別子」、「位置」、「速さ」、及び「方位」等のフィールドを含んでいる。なお、レーダー3により検出される他船の位置及び方位は、GNSSと同じ座標系に変換される。
【0032】
図3は、実施形態に係る情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。情報処理装置1は、リスク値算出部11、前後通過判定部12、及び表示制御部13を備えている。これらの機能部は、情報処理装置1のCPUがプログラムに従って情報処理を実行することにより実現される。
【0033】
リスク値算出部11は、自船データ及び他船データに基づいて、自船と他船とが衝突するリスクを表すリスク値を算出する。具体的には、リスク値算出部11は、自船が任意の方向に変針して他船の予測針路に向かうと仮定したときの、自船と他船とが衝突するリスクがあるリスク領域を算出する。
【0034】
リスク値の算出には、OZT(Obstacle Zone by Target)を表示するための公知の手法が用いられる。OZTに限らず、PAD(Predict Area of Danger)又はDAC(Dangerous Area of Collision)等の手法が用いられてもよい。OZT、PAD、又はDACは、リスク領域の例である。
【0035】
図4は、OZTの表示例(従来例)を示す図である。OZTは、自船の航行が他船によって妨害されるゾーンであり、他船の予測針路上に表示される。
【0036】
ところで、他船の予測針路のうちのOZTが表示されていない範囲GPは、自船の航行が可能な範囲であるが、そのような範囲について、自船が他船の前方を通過するか後方を通過するかを一見しただけで把握することは困難である。
【0037】
そこで、本実施形態では、前後通過判定部12及び表示制御部13の機能により、自船が他船の前方を通過するか後方を通過するかを判定して表示する。以下、具体的な手法について説明する。
【0038】
図5は、船舶監視システム100において実現される、実施形態に係る船舶監視方法の手順例を示す図である。情報処理装置1は、同図に示す情報処理をプログラムに従って実行する。
図6は、計算を説明するための図である。
【0039】
まず、情報処理装置1は、他船の予測針路上に複数の判定点を設定する(S11)。他船の予測針路は、他船が現在の位置から速度を維持して航行すると仮定したときの針路である。複数の判定点は、他船の予測針路上に等間隔で設定される。
【0040】
次に、情報処理装置1は、複数の判定点のうちの選択された1つの判定点において自船と他船とが衝突するリスクを表すリスク値を算出する(S12:リスク値算出部11としての処理)。
【0041】
判定点におけるリスク値は、自船が速さを維持しつつ現在の位置から変針して判定点に到達し、且つ他船が現在の位置から速度を維持して判定点に到達すると仮定したときの、自船と他船が同時に判定点に存在する確率で表される。
【0042】
次に、情報処理装置1は、上記S12で算出されたリスク値が閾値以上であるか否か判定する(S13)。
【0043】
リスク値が閾値以上である場合(S13:YES)、情報処理装置1は、判定点を「OZT表示点」とする(S14)。
【0044】
次に、情報処理装置1は、判定点に自船と他船のどちらが先に到達するか判定する(S15:前後通過判定部12としての処理)。言い換えると、情報処理装置1は、判定点に自船が先に到達するか否か判定する。
【0045】
情報処理装置1は、自船が他船より先に判定点に到達すると判定された場合(S15:YES)、当該判定点を自船が他船の前方を通過する「他船前方通過点」とし(S16A)、他船が自船より先に判定点に到達すると判定された場合(S15:NO)、当該判定点を自船が他船の後方を通過する「他船後方通過点」とする(S16B)。言い換えると、情報処理装置1は、自船が他船の前方を通過するか後方を通過するか判定する。
【0046】
具体的には、情報処理装置1は、判定点に自船が先に到達する確率と他船が先に到達する確率とを算出し、算出された2つの確率の大小関係を判定する。例えば、自船が先に到達する確率が他船が先に到達する確率より大きい場合には、判定点を「他船前方通過点」とする。一方、自船が先に到達する確率が他船が先に到達する確率より小さい場合には、判定点を「他船後方通過点」とする。
【0047】
判定点に自船が先に到達する確率と他船が先に到達する確率とを算出する手法は、上記S12におけるOZTの計算方法を応用することによって実現できる。
【0048】
これに限らず、情報処理装置1は、判定点に自船が到達する時間と他船が到達する時間とを算出し、算出された2つの時間の大小関係を判定してもよい。例えば、自船が到達する時間が他船が到達する時間より小さい場合には、判定点を「他船前方通過点」とする。一方、自船が到達する時間が他船が到達する時間より大きい場合には、判定点を「他船後方通過点」とする。
【0049】
また、情報処理装置1は、自船が判定点に向かうと仮定したときのBCR(Bow Crossing Range)を算出し、BCRの正負を判定してもよい。BCRは、他船が自船の船首ラインを横切るときの自船から他船までの予測距離である。例えば、BCRが負の場合には、判定点を「他船前方通過点」とする。一方、BCRが正の場合には、判定点を「他船後方通過点」とする。
【0050】
時間を算出する手法及びBCRを算出する手法では、確率計算を行わないため、演算負荷を低減することが可能である。
【0051】
情報処理装置1は、以上に説明したS12~S16の処理を、全ての判定点について実行する(S17)。
【0052】
ここで、隣り合う判定点が同じ「他船前方通過点」であれば、それらの間は「他船前方通過範囲」となる。同様に、隣り合う判定点が同じ「他船後方通過点」であれば、それらの間は「他船後方通過範囲」となる。
【0053】
次に、情報処理装置1は、表示用画像を生成し、表示部2に出力する(S18:表示制御部13としての処理)。
【0054】
図7は、表示部2に表示される表示用画像の例を示す図である。表示用画像では、他船の予測針路上に、自船と他船が衝突するリスク値が閾値以上であることを表すOZTが表示される。さらに、他船の予測針路上には、自船が他船の前方を通過する「他船前方通過範囲」と自船が他船の後方を通過する「他船後方通過範囲」とが表示される。他船の予測針路は、例えば破線等の補助線で表示される。
【0055】
他船前方通過範囲と他船後方通過範囲は、一見して識別が可能なように、色又はテクスチャ等の表示態様を変えて識別表示されている。さらに、「他船前方通過範囲」と「他船後方通過範囲」には、識別を容易にするために文字列が付加されてもよい。
【0056】
他船前方通過範囲と他船後方通過範囲は、所定の幅を持ち、他船の予測針路に沿って延びる帯状に形成されている。他船前方通過範囲と他船後方通過範囲の幅は、OZTの幅より狭い。
【0057】
他船前方通過範囲及び他船後方通過範囲の少なくとも一方は、OZTに重ねて表示される。例えば、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲は、OZT上に配置されてもよいし、半透明で形成されたOZT下に配置されてもよい。
【0058】
以上に説明した実施形態によれば、他船の予測針路上に「他船前方通過範囲」と「他船後方通過範囲」が表示されるので、自船が他船の前方を通過するか後方を通過するかを一見して把握することが容易になる。
【0059】
図8は、OZTに代えてDACを表示する表示用画像の例を示す図である。上記
図7の例と同様に、他船前方通過範囲及び他船後方通過範囲の少なくとも一方は、DACに重ねて表示される。例えば、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲は、DAC上に配置されてもよいし、半透明で形成されたDAC下に配置されてもよい。
【0060】
図7及び
図8の例によれば、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲が、OZT又はDAC等のリスク領域に重ねて表示されるので、リスク領域の内部においても、自船が他船の前方を通過するか後方を通過するか判別できる。こうした表示は、やむを得ずにリスク領域に侵入する針路を採らなければいけない場合に有用である。
【0061】
図9に示すように、他船の予測針路のうちの、OZT又はDAC等のリスク領域内にのみ、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲とを表示してもよい。これによれば、船数が多くなっても、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲によって視認性が妨げられることを抑制できる。また、リスク領域内のみ判定すればよいので計算負荷を軽減できる。
【0062】
図10に示すように、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲を表示する場合において、他船の予測針路を、例えば破線等の補助線で表示してもよい。これによれば、複数の他船が存在する場合に、他船前方通過範囲と他船後方通過範囲がどの他船に係る表示であるかを視認しやすくできる。
【0063】
また、他船の予測針路のうち、針路方向の最先にある他船前方通過範囲又は他船後方通過範囲よりも先には補助線を表示しなくてもよい。
図10の例では、他船の針路方向の最先(図中の最左)に他船後方通過範囲があり、それよりも先には補助線が表示されていない。これによれば、補助線によって視認性が妨げられることを抑制できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0065】
1 情報処理装置、2 表示部、3 レーダー、4 AIS、5 GNSS受信機、6 ジャイロコンパス、7 ECDIS、8 警報部、11 リスク値算出部、12 前後通過判定部、13 表示制御部、100 船舶監視システム