(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170018
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】交流負荷駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 5/45 20060101AFI20221102BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20221102BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221102BHJP
【FI】
H02M5/45
H02M7/12 Q
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075842
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友範
(72)【発明者】
【氏名】内倉 政治
【テーマコード(参考)】
5H006
5H750
5H770
【Fターム(参考)】
5H006AA02
5H006BB05
5H006CA01
5H006CB01
5H006CB04
5H006CC01
5H006DA02
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC05
5H750AA04
5H750AA10
5H750BA01
5H750BA08
5H750CC02
5H750CC06
5H750CC16
5H750DD13
5H750DD18
5H750FF02
5H750FF05
5H750FF06
5H770AA09
5H770BA01
5H770BA09
5H770CA02
5H770DA03
5H770EA07
5H770GA19
5H770HA02W
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA04X
(57)【要約】
【課題】インバータ回路の直流側に力率改善回路を備えた構成において、交流入力電流を高精度に推定する。
【解決手段】倍電圧整流回路20は、交流電源2からの交流入力電圧Vacを直流リンク電圧Vdcに変換する。インバータ回路30は、倍電圧整流回路20から出力された直流リンク電圧Vdcを、交流負荷5を駆動する交流電圧に変換する。昇圧PAM回路15は、交流入力電圧Vacのゼロクロス点毎にスイッチング素子18のオン期間を設けることで、交流電源2及びリアクトル16を含む電流経路を形成する。制御装置50は、直流リンク電圧Vacの目標値に対する偏差に応じて、スイッチング素子18のオン期間の時間長を調整する。制御装置50は、インバータ回路30の出力電力の算出値と、スイッチング素子18のオン期間に係る制御データとに基づいて、交流入力電流Iacの推定値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源からの交流電力によって交流負荷を駆動する交流負荷駆動装置であって、
前記交流電源からの交流入力電圧を直流電圧に変換する整流回路と、
前記整流回路から出力された直流リンク電圧を前記交流負荷を駆動する交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記交流電源及び前記整流回路の間に接続された力率改善回路と、
前記インバータ回路及び前記力率改善回路を制御するとともに、前記交流電源から前記交流負荷駆動装置への交流入力電流を推定するための制御装置とを備え、
前記力率改善回路は、
前記交流電源及び前記整流回路の間に接続されたリアクトルと、
導通時に前記交流電源及び前記リアクトルを経由する電流経路を形成するためのスイッチング素子とを有し、
前記制御装置は、
前記交流負荷が指令値に従って動作する様に、前記インバータ回路から前記交流負荷へ供給される交流電流を制御するとともに、前記交流入力電圧のゼロクロス点に応答してターンオンされる前記スイッチング素子のオン期間の制御によって前記直流リンク電圧を目標値に制御し、かつ、
前記インバータ回路の前記交流電流の検出値に基づく前記インバータ回路の出力電力の算出値と、前記スイッチング素子の前記オン期間に係る制御データの実績値とに基づいて、前記交流入力電流の推定値を算出する、交流負荷駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記交流入力電圧、前記インバータ回路の出力電力、及び、前記制御データの相互の対応関係を予め格納した第1のルックアップテーブルを、前記インバータ回路の出力電力の算出値及び前記制御データの実績値によって参照することで前記交流入力電圧の推定値を算出し、更に、
前記インバータ回路の出力電力の算出値を効率係数で除算することで算出された交流入力電力を、算出された前記交流入力電圧の推定値で除算することによって前記交流入力電流の推定値を算出する、請求項1記載の交流負荷駆動装置。
【請求項3】
前記第1のルックアップテーブルは、前記インバータ回路の出力の複数の段階値と、前記交流入力電圧の複数の段階値との組み合わせで規定される複数の区分のそれぞれにおける前記制御データの実績値をテーブル値として予め格納する様に構成され、
前記制御装置は、
前記インバータ回路の出力電力の前記複数の段階値のうちの、前記インバータ回路の出力電力の算出値に対応する1個又は2個の段階値に対応する、前記複数の区分のうちの区分群から前記制御データの実績値に近い前記テーブル値を有する1個又は複数個の区分を抽出して、抽出された当該1個又は複数個の区分に対応する前記交流入力電圧の1個又は複数個の段階値から前記交流入力電圧の推定値を算出する、請求項2記載の交流負荷駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記スイッチング素子のオン期間の時間長が最低でも最小オン時間は確保される様に前記力率改善回路を制御し、
前記制御装置は、前記スイッチング素子の前記オン期間の時間長が前記最小オン時間に制御されている場合には、前記第1のルックアップテーブルに代えて、前記交流入力電圧、前記インバータ回路の出力電力、及び、前記直流リンク電圧の相互の対応関係を予め格納した第2のルックアップテーブルを、前記インバータ回路の出力電力の算出値及び前記直流リンク電圧の検出値によって参照することで前記交流入力電圧の推定値を算出する、請求項2又は3に記載の交流負荷駆動装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記インバータ回路の出力電力、及び、前記効率係数の対応関係を予め格納した第3のルックアップテーブルを、前記インバータ回路の出力電力の算出値で参照することによって、前記交流入力電力を算出するための前記効率係数を可変に設定する、請求項2~4のいずれか1項に記載の交流負荷駆動装置。
【請求項6】
前記制御データは、前記交流電源からの前記交流電圧の半周期に対する前記スイッチング素子のオン期間の時間比であるオンデューティである、請求項1~5のいずれか1項に記載の交流負荷駆動装置。
【請求項7】
前記制御データは、前記スイッチング素子のオン期間の時間長である、請求項1記載の交流負荷駆動装置。
【請求項8】
前記制御データは、前記スイッチング素子のオン期間の時間長であり、
前記第1のルックアップテーブルは、前記交流電源の周波数公称値毎に作成される、請求項2~5のいずれか1項に記載の交流負荷駆動装置。
【請求項9】
前記交流負荷は、ヒートポンプ加熱式給湯器の構成機器である、請求項1~8のいずれか1項に記載の交流負荷駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流負荷駆動装置に関し、より特定的には、交流電力が入力される交流負荷駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電力系統からの電力供給によって動作する電気機器において、交流入力電流が過大にならない様に監視するニーズがある。通常、交流入力電流の検出には絶縁が必要になるため、電流センサ(代表的には、カレントトランス)を配置すると機器コストが上昇する。
【0003】
このため、特許第5024827号公報(特許文献1)には、ブラシレスDCモータを駆動するインバータ装置において、交流電源からの交流入力電流を推定する技術が記載される。特許文献1のインバータ装置では、ブラシレスDCモータに流れる電流の検出値から算出される消費電力と、インバータ装置の直流リンク電圧の検出値とから、インバータ装置への交流入力電圧が推定され、更に、当該交流入力電圧(推定値)と、消費電力(算出値)とを用いて、インバータ装置への交流入力電流を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のインバータ装置では、交流電源からの交流電圧が倍電圧整流回路によって直流電圧に変換されて、インバータの直流リンク電圧とされる、所謂、コンデンサインプット型の構成とされている。この様な構成では、力率を改善するために、PFC(Power Factor Correction)回路が配置されることがある。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、PFC回路の配置は全く考慮されていないため、同じ手法で、力率改善のためのPFC回路が直流側に配置された構成のインバータ装置に対する交流入力電流を推定した場合には、推定精度が低下することが懸念される。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、インバータ回路の直流側に力率改善回路を備えた構成の交流負荷駆動装置において、機器コストを抑制して、交流入力電流を推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある局面では、交流電源からの交流電力によって交流負荷を駆動する交流負荷駆動装置が提供される。交流負荷駆動装置は、整流回路と、インバータ回路と、交流電源及び整流回路の間に接続された力率改善回路と、制御装置とを備える。整流回路は、交流電源からの交流入力電圧を直流電圧に変換する。インバータ回路は、整流回路から出力された直流リンク電圧を交流負荷を駆動する交流電圧に変換する。力率改善回路は、交流電源及び整流回路の間に接続されたリアクトルと、スイッチング素子とを有する。スイッチング素子は、導通時に交流電源及びリアクトルを経由する電流経路を形成する様に配置される。制御装置は、インバータ回路及びスイッチング素子を制御するとともに、交流電源から交流負荷駆動装置への交流入力電流を推定する。制御装置は、交流負荷が指令値に従って動作する様に、インバータ回路から交流負荷へ供給される交流電流を制御するとともに、交流入力電圧のゼロクロス点に応答してターンオンされるスイッチング素子のオン期間の制御によって直流リンク電圧を目標値に制御する。更に、制御装置は、インバータ回路の交流電流の検出値に基づくインバータ回路の出力電力の算出値と、スイッチング素子のオン期間に係る制御データの実績値とに基づいて、交流入力電流の推定値を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インバータ回路の出力電力の算出値に加えて、力率改善回路のスイッチング素子のオン期間に係る制御データの実績値を用いて、交流入力電流の推定値を算出することによって、交流入力電流を精度良く監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係る交流負荷駆動装置の構成を説明する概略図である。
【
図2】
図1における昇圧PAM回路の動作を説明するための波形図である。
【
図3】昇圧PAM制御を説明するブロック図である。
【
図4】本実施の形態に係る交流負荷駆動装置における交流入力電流推定の制御処理を説明するフローチャートである。
【
図5】交流入力電圧の推定に用いられるルックアップテーブルの構成を説明する概念図である。
【
図6】
図5に示されたルックアップテーブルを用いた交流入力電圧の推定値の算出手法を説明する概念図である。
【
図7】第1の変形例を説明するフローチャートである。
【
図8】第1の変形例で用いられるルックアップテーブルの構成を説明する概念図である。
【
図9】第2の変形例に係るルックアップテーブルを説明する概念図である。
【
図10】第3の変形例に係るルックアップテーブルを説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る交流負荷駆動装置10の構成を説明する概略図である。
図1を参照して、交流負荷駆動装置10は、交流電源2からの交流電力によって交流負荷5を駆動する。交流電源2は、代表的には、電源周波数fac(fac=50[Hz]又は60[Hz])の商用電力系統によって構成される。交流負荷5は、代表的には、ブラシレスDCモータ等の交流電力の供給によって回転駆動されるモータを含む。例えば、交流負荷駆動装置10は、ヒートポンプ加熱式給湯器に搭載されて、ヒートポンプ加熱式給湯器の構成機器(例えば、コンプレッサ駆動用のモータ及びファンモータ)を交流負荷5として駆動する。以下では、交流負荷5がモータであるものとして説明を進める。
【0013】
ヒートポンプ加熱式給湯器では、交流電力系統からの入力電流(交流入力電流)に制約があるため、当該入力電流を常時監視して、制約値を超えない様に、必要に応じて消費電力を調整する必要がある。上述の様に、交流入力電流の監視のためにカレントトランスを配置すると機器コストが上昇するため、カレントトランスを配置することなく、交流入力電流を推定することが求められる。
【0014】
交流負荷駆動装置10は、倍電圧整流回路20及びインバータ回路30に加えて、PFC回路の一例である昇圧PAM(Pulse Amplitude Modulation)回路15と、ゼロクロス検出器40と、制御装置50とを備える。即ち、昇圧PAM回路15は、「力率改善回路」の一実施例に対応する。
【0015】
交流電源2は、電力線ACL1,ACL2によって、倍電圧整流回路20と接続される。倍電圧整流回路20は、「整流回路」の一実施例に対応し、ダイオードD1,D2と、キャパシタC1,C2とを有する。ダイオードD1及びD2と、キャパシタC1及びC2とは、それぞれ、高電圧側の電力線PL及び低電圧側の電力線NLの間に接続される。
【0016】
キャパシタC1の正極端子は、導通状態のダイオードD1を経由して電力線ACL1と接続される電力線PLに接続される。キャパシタC1の負極端子、及び、キャパシタC2の正極端子は、電力線ACL2と接続される。キャパシタC2の負極端子は、導通状態のダイオードD2を経由して電力線ACL1と接続される電力線NLに接続される。
【0017】
インバータ回路30は、特許文献1にも記載される一般的な三相インバータで構成されて、電力線PL及びNLの電圧差に相当する直流リンク電圧Vdcを振幅とするパルス電圧によって構成された交流電圧を、交流負荷5に対して出力する。
【0018】
昇圧PAM回路15は、電力線ACL1又はACL2に介挿接続されるリアクトル16と、ダイオードD3~D6によるダイオードブリッジ17と、スイッチング素子18とを有する。ダイオードブリッジ17の入力側の端子T1,T2は、電力線ACL1及びACL2に接続される。スイッチング素子18は、ダイオードブリッジ17の出力側の端子T3,T4の間に接続される。スイッチング素子18は、代表的には、トランジスタで構成されて、制御装置50からの制御信号Spamに従ってオンオフされる。
【0019】
ゼロクロス検出器40は、交流電源2からの交流入力電圧Vacの極性(正/負)が入れ替わるゼロクロス点を検出する。例えば、ゼロクロス検出器40は、ゼロクロス点の検出毎にパルス信号を制御装置50に対して出力する。交流電源2からは、交流入力電流Iacが、交流負荷駆動装置10に対して供給される。
【0020】
制御装置50は、マイクロコンピュータで構成することが可能であり、予め格納されたプログラムの実行によるソフトウェア処理、及び/又は、電子回路によるハードウェア処理によって、後述する制御処理及び電流推定処理を実行する。
【0021】
次に、交流負荷駆動装置10の基本的な回路動作を説明する。まず、昇圧PFC回路15を除いた構成を考えると、交流入力電圧Vac>0の半周期では、ダイオードD1の導通により、キャパシタC1が充電される一方で、交流入力電圧Vac<0の半周期では、ダイオードD2の導通により、キャパシタC2が充電される。従って、直流リンク電圧Vdcは、交流入力電圧Vacの振幅の2倍まで上昇することができる。又、インバータ回路30が交流負荷5を駆動するための電力消費に応じて、直流リンク電圧Vdcは低下する。
【0022】
図示は省略しているが、直流リンク電圧Vdcの検出器(電圧センサ)、及び、インバータ回路30における三相電流iu.iv,iwの検出器が、一般的なインバータ制御のために配置されている。三相電流iu,iv,iw及び直流リンク電圧Vdcの検出値は、制御装置50に入力される。
【0023】
三相電流iu,iv,iwは、特許文献1に示される様に、三相インバータの少なくとも2相に配置されたシャント抵抗によって検出することができる。或いは、インバータ回路30全体の電流を検出するための1個のシャント抵抗による検出値と、三相インバータのスイッチングパターンとを用いて、三相電流iu,iv,iwを算出することも可能である。
【0024】
例えば、制御装置50は、特許文献1と同様の、d-q軸変換による励磁成分のd軸電流Id及びd軸電圧Vdと、トルク成分のq軸電流Iq及びq軸電圧Vqを用いたベクトル制御によって、交流負荷5としてのDCブラシレスモータ(図示せず)の出力トルク及び/又は回転速度を制御する。具体的には、交流負荷5を指令値に従って動作させるために設定されたd軸電流及びq軸電流の指令値に従って、d軸電流Id及びq軸電流が制御されるように、インバータ回路30(三相インバータ)のスイッチング制御信号Sinvが制御装置50によって生成されることで、モータ電流の制御による上述のモータ制御が実行される。
【0025】
図2には、昇圧PAM回路15の動作を説明するための波形図の一例が示される。
図2中には、交流入力電圧Vacに対する、昇圧PAM回路15が非配置のときの交流入力電流Iac(点線)、及び、昇圧PAM回路15の動作時における交流入力電流Iac(実線)が示される。
【0026】
点線で示される様に、コンデンサインプット型の構成では、交流入力電圧Vacのゼロクロス点から遅れて、キャパシタC1又はC2を充電する交流入力電流Iacが立ち上がる。このため、電流が流れない無通電期間が発生することにより、力率が低下する。リアクトル16の配置によって電流波形を滑らかにしても、力率の改善には限界がある。
【0027】
これに対して、昇圧PAM回路15は、交流入力電圧Vacのゼロクロス点を起点として、制御信号SpamのHレベル期間を設けることによって、スイッチング素子18のオン期間を発生させる。
図1から理解される様に、スイッチング素子18をオンすると、交流入力電圧Vac>0の半周期ではダイオードD3及びD6の導通により、又、交流入力電圧Vac<0の半周期ではダイオードD4及びD5の導通により、交流電源2及びリアクトル16による電流経路を形成することができる。これにより、ゼロクロス点直後での無通電期間を解消する様に、交流入力電流Iacを発生することができる。
【0028】
スイッチング素子18のオフ期間では、交流入力電圧VacによってキャパシタC1又はC2を充電することで、交流入力電流Iacが流れる。この結果、
図2中に実線で示される様に、交流入力電流Iacの無通電期間が減少することで、力率を大きく改善することができる。
【0029】
又、スイッチング素子18のオン期間では、リアクトル16にエネルギが蓄積されるため、当該オン期間長Tpam(
図2)の調整によって、直流リンク電圧Vdcを制御することができる。尚、交流入力電圧Vacの半周期Tac(Tac=1/(2・fac))によって、スイッチング素子18のオン期間長Tpamを除算することで、スイッチング素子18のオンデューティDpamを求めることができる(Dpam=Tpam/Tac)。
【0030】
図3には、直流リンク電圧Vdcを制御するための昇圧PAM回路の制御を説明するブロック図が示される。
【0031】
図3に示される様に、制御装置50は、昇圧PAM回路15を制御するための、Vdc設定部52と、偏差演算部54と、制御演算部56とを有する。Vdc設定部52は、交流負荷5の条件に応じて、直流リンク電圧Vdcの電圧指令値Vdc*を生成する。例えば、Vdc設定部52は、交流負荷5であるモータの回転速度に従って、電圧指令値Vdc*を可変に設定する。この場合には、当該回転速度でモータに発生する逆起電圧よりも直流リンク電圧Vdcが高くなる様に、電圧指令値Vdc*が設定される。
【0032】
偏差演算部54は、電圧指令値Vdc*から、直流リンク電圧Vdcの検出値を減算することによって、電圧偏差ΔVdcを算出する。制御演算部56は、電圧偏差ΔVdcに対する所定の制御演算、例えば、PI(比例積分)制御演算によって、昇圧PAM回路15の指令値(PAM指令値)を生成する。例えば、PAM指令値は、
図2中に示されたスイッチング素子18のオン期間長Tpamである。
【0033】
尚、オン期間長Tpamには、最小オン時間Tpamminが設けられており、PI制御演算によって、Tpam<Tpamminが算出された場合には、Tpam=Tpamminに修正される。即ち、交流入力電圧Vacのゼロクロス点毎に、スイッチング素子18のオン期間が、最低でも最小オン時間Tpamminは設けられることになる。尚、Tpammin=0として、最小オン時間Tpamminを設けないことも可能である。
【0034】
この様にして、本実施の形態に係る交流負荷駆動装置10では、昇圧PAM回路15の動作を伴って、倍電圧整流回路20によるAC/DC変換、及び、インバータ回路30によるDC/AC変換により、交流電源2からの交流電力によって、交流負荷5が駆動される。以下では、交流負荷駆動装置10での上述の動作時における、交流入力電流Iacの推定処理について説明する。
【0035】
図4には、交流負荷駆動装置10における交流入力電流推定の制御処理を説明するフローチャートが示される。
図4に示された制御処理は、交流負荷駆動装置10の運転中において制御装置50によって繰り返し実行される。
【0036】
制御装置50は、ステップ(以下、単に「S」と表記する)110では、センサによるモータ電流(ここでは、三相電流iu,iv,iw)及び直流リンク電圧Vdcの検出値を取得する。制御装置50は、S120では、インバータ回路30から交流負荷5(モータ)へ出力されるインバータ電力Pinvを算出する。
【0037】
例えば、インバータ電力Pinvは、特許文献1にも記載される様に、ベクトル制御に用いられるd軸及びq軸の電圧、電流を用いて、下記の様に算出することができる。
【0038】
三相電流iu,iv,iwを用いて、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、下記の式(1)に従って算出される。
【0039】
【0040】
式(1)中のθは、モータの回転角度[rad]であり、センサ検出値、又は、演算による推定値(例えば、角速度ωの推定値或いは検出値の積分値)を用いることができる。
【0041】
d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqは、モータ定数であるRa,Ld,Lqと、モータ回転速度に相当する角速度ω(検出値或いは推定値)と、電機子鎖交磁束φとを用いて、d軸電流Id及びq軸電流Iqから、式(2),(3)によって算出される。
【0042】
【0043】
公知の様に、式(1),(2)に示された、d軸電流Id及びq軸電流Iq、並びに、d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを用いたベクトル制御によって、モータの回転速度又はトルクを制御することが可能である。これらのベクトル制御で用いられる電流及び電圧を用いて、式(4)によって、インバータ電力Pinvを算出することができる。
【0044】
Pinv=Vd・Id+Vq+Iq …(4)
制御装置50は、S130では、S120で算出されたインバータ電力Pinvを効率係数ηで除算することにより、下記の式(5)を用いて、交流電源2から入力されるAC皮相電力Pacを算出する。
【0045】
Pac=Pinv/η …(5)
尚、効率係数η(η<1.0)は、AC/DC変換効率、及び、力率の積に相当する。例えば、効率係数ηは、実機実験等で予め求めた一定値とすることができる。
【0046】
制御装置50は、S140では、PAM昇圧回路15の制御データ(PAM制御データ)の実績値を取得する。PAM制御データは、昇圧PAM回路15のスイッチング素子18のオンデューティDpamを含む。
【0047】
S140では、
図3に示した、直流リンク電圧Vdcの制御におけるスイッチング素子18のオン期間長Tpamの実績値を取得して、オンデューティDpamを実績値として求めることができる(Dpam=Tpam/Tac)。
【0048】
制御装置150は、S150では、予め作成されたルックアップテーブルの参照により、インバータ電力Pinv(S130)及びPAM制御データ(S140)から、交流入力電圧Vacの推定値を算出する。
【0049】
図5には、S150で用いられるルックアップテーブル200の構成を説明するための概念図が示される。
【0050】
図5に示される様に、ルックアップテーブル200は、インバータ電力Pinvが段階値P1~Pm(P1<P2<…<Pm)のm段階(m:2以上の整数)に区切られ、交流入力電力Vacが段階値V1~Vn(V1<V2<…<Vn)のn段階(n:2以上の整数)に区切られた、(m×n)個の複数の区分のそれぞれにおいて、PAM制御データT11~Tmnがテーブル値として格納されることで構成される。各PAM制御データは、上述のスイッチング素子18のオンデューティDpamとすることができる。
【0051】
例えば、交流負荷駆動装置10に対して、試験用に交流入力電圧Vacの検出器を取りつけた状態での実機試験において、交流負荷5の運転条件(即ち、消費電力)を変化させて、それぞれの条件における、インバータ電力Pinv(算出値)、及び、Vac実測値と組み合わせて、PAM制御データの実験測定値を実績値として求め、各区分のテーブル値として格納することで、ルックアップテーブル200を予め作成することができる。ルックアップテーブル200は「第1のルックアップテーブル」の一実施例に対応する。或いは、テーブル値として格納される、PAM制御データの実績値は、上述の実機実験での測定値に限定されず、電子計算機上でのシミュレーション試験によって得られた値(机上値)を含んでもよい。
【0052】
図5中にも示される様に、定性的には、インバータ電力Pinvが大きい程、又、交流入力電圧Vacが低い程、PAM昇圧回路15でのオンデューティDpamが大きくなる特性がある。又、交流入力電圧Vacが大きい領域では、オンデューティDpamは、上述の最小オン時間Tpamminに対応する一定値に固定される傾向にある。
【0053】
図6には、ルックアップテーブル200を用いた交流入力電圧Vacの算出手法を説明する概念図が示される。
【0054】
図6では、インバータ出力電力Pinvの算出値(S120)が、
図5の段階値P1~Pmに対して、P5<Pinv<P6、かつ、(Pinv-P5)>(P6-Pinv)である場合に、PAM制御データTdt(S140)が得られたケースが例示される。即ち、段階値P1~Pmのうち、インバータ出力電力Pinvの算出値には、段階値P6が最も近く、P5が二番目に近い。
【0055】
このときに、Pinv=P6に対応する区分群のテーブル値T16~Tn6のうち、PAM制御データTdtと最も近いテーブル値が探索される。
図6の例では、Vac=V5に対応する区分のテーブル値T65が、Tdtに最も近く、Vac=V6に対応する区分のテーブル値T66が二番目に近い。即ち、T66<Tdt<T65、かつ、(T65-Tdt)<(Tdt-T66)である。
【0056】
最もシンプルには、インバータ出力電力Pinvの算出値に最も近い段階値P6に対応する区分群のうちの、Tdtに最も近いテーブル値T56を有する区分に対応する段階値V5を、交流入力電圧Vacの推定値とすることができる。
【0057】
又は、Pinv=P6に属する区分群のうち、Tdtに最も近いテーブル値T65の区分に対応する段階値V5と、Tdtに二番目に近いテーブル値T66の区分に対応する段階値V6との線形補間によって、交流入力電圧Vacの推定値を求めることも可能である。即ち、段階値V5及びV6と、2個のテーブル値T65,T66との関数として、交流入力電圧Vacの推定値を算出することができる。
【0058】
例えば、下記の式(6)によって、交流入力電圧Vacを推定することができる。
Vac=V5+(V6-V5)・k …(6)
但し、k=(T65-Tdt)/(T65-T66)
或いは、線形補間の点数を更に増やして、インバータ出力電力Pinvの算出値に最も近い段階値P6に対応する区分群と、二番目に近い段階値P5に対応する区分群との各々で、PAM制御データの実績値Tdt(S140)に最も近いテーブル値を有する区分と、二番目に近いテーブル値を有する区分とを抽出して、計4個の区分のそれぞれのテーブル値を用いた線形補間によって、交流入力電圧Vacの推定値を求めることも可能である。
【0059】
例えば、
図6の例では、4個のテーブル値T65,T66,T55,T56の関数として、式(6)中のkを求める様にして、交流入力電圧Vacの推定値を算出することができる。
【0060】
この様にして、S150では、ルックアップテーブル200の参照によって交流入力電圧Vacの推定値を算出することができるが、具体的な算出ロジックには自由度が存在する。
【0061】
再び
図4を参照して、制御装置50は、S160では、S150で算出された交流入力電圧Vacと、S130で算出されたAC皮相電力Pacとを用いて、下記の式(7)により、交流入力電流Iacの推定値を算出する。
【0062】
Iac=Pac/Vac …(7)
制御装置150は、S170では、S160で算出された交流入力電流Iacの監視処理を行う。例えば、算出された交流入力電流Iacが、予め定められた上限値より大きくなると、交流負荷5の運転条件を、消費電力低下側に修正することで、当該監視処理を実行することができる。
【0063】
この様に、本実施の形態に係る交流負荷駆動装置によれば、交流電源及びインバータの間にPFC回路(昇圧PAM回路15)が配置された構成において、PFC回路の動作状態を反映して、電流センサ(カレントトランス)を配置することなく、交流入力電流を高精度に算出することができる。
【0064】
次に、推定精度を更に高めるための変形例を説明する。
(第1の変形例)
第1の変形例として、
図7及び
図8を用いて、昇圧PAM回路15でのオンデューティDpamが、最小オン時間Tpamminに対応する最小値に固定されたときの、交流入力電圧Vacの推定精度を向上するためのS150(
図4)の変形例を説明する。
【0065】
図7に示される様に、第1の変形例では、制御装置150は、
図4のS150において、S152,S154,S156を実行する。
【0066】
制御装置150は、S152において、スイッチング素子18のオン期間長Tpamが最小オン時間Tpamminであるか否かを判定する。上述の様に、Tpam=Tpamminのとき、オンデューティも所定の最小値となる。
【0067】
制御装置150は、Tpam>Tpamminのとき(S152のNO判定時)には、S154に処理を進めて、交流入力電圧Vacの推定値を算出する。S154では、
図5に示した、PAM制御値データT11~Tmnをテーブル値とするルックアップテーブル200の参照により、交流入力電圧Vacが算出される。
【0068】
これに対して、制御装置150は、Tpam=Tpamminのとき(S152のYES判定時)には、S156に処理を進めて、交流入力電圧Vacの推定値を算出する。S156では、
図5のルックアップテーブル200に代えて、
図8に示されるルックアップテーブル210の参照により、交流入力電圧Vacが算出される。
【0069】
図8を参照して、ルックアップテーブル210は、ルックアップテーブル200と同様のインバータ電力Pinv及び交流入力電力Vacによる(m×n)個の区分のそれぞれにおいて、直流リンク電圧Vdc11~Vdcmnがテーブル値として格納されることで構成される。ルックアップテーブル210は「第2のルックアップテーブル」の一実施例に対応する。
【0070】
例えば、上述した、交流負荷駆動装置10に対して、試験用に交流入力電圧Vacの検出器を取りつけた状態での実機試験において、PAM昇圧回路15がTpam=Tpmminで動作する下で、交流負荷5の運転条件(即ち、消費電力)を変化させて、それぞれの条件における、インバータ電力Pinv(算出値)、Vac実測値、及び、Vdc実測値を採取することで、ルックアップテーブル210を作成することができる。
【0071】
図8中にも示される様に、定性的には、インバータ電力Pinvが小さい程、又、交流入力電圧Vacが高い程、最小オン時間Tpamminの下での直流リンク電圧Vdcが高くなる特性がある。又、交流入力電圧Vacが低い領域では、直流リンク電圧Vdcも一定値に固定される傾向にある。
【0072】
図8のルックアップテーブル210を参照する際にも、
図6での説明において、PAM制御値データを直流リンク電圧Vdcに置き換えることで、同様に、交流入力電圧Vacの推定値を算出することができる。
【0073】
即ち、P1~Pmのうち、
図4のS120で算出されたインバータ出力電力Pinvの算出値が最も近い1つ(例えば、Pi)が抽出される。そして、Pinv=Piに対応する区分群のうちの、直流リンク電圧Vdcの検出値と最も近いテーブル値を有する区分に対応する、段階値V1~Vnのうちの1つを、交流入力電圧Vacの推定値とすることができる。
【0074】
或いは、インバータ出力電力Pinvの算出値に対応して選択された1個又は2個の段階値に対応する区分群において、直流リンク電圧Vdcの検出値と近いテーブル値を有する2個又は4個の区分を抽出して、段階値V1~Vnのうちの2個の電圧値の線形補間によって交流入力電圧Vacの推定値を算出することも可能である。
【0075】
尚、周波数facに対して、最小オン時間Tpamminが固定である場合には、周波数fac毎、即ち、fac=50[Hz]及びfac=60[Hz]で個別に、ルックアップテーブル210を作成する必要がある。
【0076】
(第2の変形例)
第2の変形例として、PAM制御データとして、スイッチング素子18のオンデューティDpamに代えて、オン期間長Tpamを直接用いる変形例を説明する。
【0077】
図9に示される様に、
図5に示された、昇圧PAM回路15におけるスイッチング素子18のオンデューティDpamをテーブル値とするルックアップテーブル200は、周波数fac別に、スイッチング素子18のオン期間長Tpamをテーブル値とするルックアップテーブルに置き換えることが可能である。例えば、fac=50[Hz]のときのオン期間長Tpamをテーブル値とするルックアップテーブル201と、fac=60[Hz]のときのオン期間長Tpamをテーブル値とするルックアップテーブル202とによって、
図5に示されたルックアップテーブル200を置き換えることが可能である。
【0078】
この場合には、
図4のS150において、S140(
図4)で取得されたスイッチング素子18のオン期間長Tpamをデューティ換算することなく、交流電源2の周波数facに対応する、ルックアップテーブル201及び202の一方を参照することで、同様に交流入力電圧Vacの推定値を算出することができる。
【0079】
ルックアップテーブル201,202は、fac=50[Hz]及び60「Hz]の両方において、ルックアップテーブル200を作成するための上記実機試験を行うことによって作成できる。ルックアップテーブル201,202は、ルックアップテーブル200と同様に、「第1のルックアップテーブル」の一実施例に対応する。
【0080】
(第3の変形例)
第3の変形例では、
図4のS130におけるAC皮相電力の算出に用いられる、式(5)中の効率係数ηを、ルックアップテーブル220を用いて可変に設定する。
【0081】
図10には、インバータ電力Pinvに対して効率係数ηを設定するためのルックアップテーブルを説明するための概念図が示される。
【0082】
図10に示される様に、例えば、ルックアップテーブル220は、
図6と同様のインバータ出力電力Pinvのn個の区分のそれぞれに、実機試験等での測定結果から設定された効率係数η(η=Pinv/Pac)のテーブル値を格納することによって構成することができる。ルックアップテーブル220は、「第3のルックアップテーブル」の一実施例に対応する。
【0083】
S140(
図4)では、インバータ電力Pinvの段階値P1~Pnのうち、S120で算出されたインバータ電力Pinvと最も近い1個の電力値に対応するテーブル値、又は、一番目及び二番目に近い2個の段階値に対応する2個のテーブル値の線形補間によって、S130での式(5)の演算で用いられる効率係数ηを設定することができる。これにより、交流入力電流Iacの推定精度を向上することができる。
【0084】
尚、ルックアップテーブル200~202,220において、インバータ電力Pinvの段階値P1~Pnは等間隔に設定することができる。或いは、段階値P1~Pnについては、交流入力電流Iacの監視のために推定精度の向上が求められる領域、具体的には、大電力の領域において、低電力の領域よりも間隔が狭くなる様に設定されてもよい。
【0085】
尚、本実施の形態に係る交流負荷駆動装置10は、上述した様に、ヒートポンプ加熱式給湯器での交流入力電流Iacの監視に好適であるが、交流電源から供給される交流電力を用いて、PFC回路が配置されたAC/DC変換、及び、インバータ回路によるDC/AC変換によって交流負荷を駆動する構成であれば、任意の構成に対し適用することが可能である。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
2 交流電源、5 交流負荷、10 交流負荷駆動装置、15 昇圧PAM回路(力率改善回路:PFC回路)、16 リアクトル、17 ダイオードブリッジ、18 スイッチング素子、20 倍電圧整流回路、30 インバータ回路、40 ゼロクロス検出器、50 制御装置、52 Vdc設定部、54 偏差演算部、56 制御演算部、ACL1,ACL2 電力線(AC)、C1,C2 キャパシタ、D1~D6 ダイオード、Iac 交流入力電流、NL,PL 電力線(DC)、Pinv インバータ電力、T1~T4 端子、Vac 交流入力電圧、Vdc 直流リンク電圧、Vdc* 電圧指令値、iu,iv,iw 三相電流。