(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170020
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/22 20060101AFI20221102BHJP
B23B 27/16 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/16 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075860
(22)【出願日】2021-04-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰岳
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046EE01
3C046JJ02
3C046JJ04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】切りくずの処理性を向上させた切削工具を提供する。
【解決手段】切れ刃部材20は、端面に対向する方向から見た端面視において仮想平面とコーナー部20C1との交点から離間し切削インサートの中心に接近する方向に窪んで形成される凹面を含む第1壁面20B1と、切削インサートの中心から離間する方向に突出する凸面を含む第2壁面20B2と、仮想平面に対して第2壁面20B2の反対側であって、仮想平面から離間した位置に第1壁面20B1に接続して設けられ、切削インサートの中心から離間する方向に突出する凸面を含む第3壁面20B3と、第1壁面20B1と交点との間の領域であって、切削インサートの中心から離間する方向に突出する凸面を含み、かつ、側面に対向する方向から見た側面視において、第2壁面20B2及び第3壁面20B3の高さより小さい高さを有する第4壁面20B4とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃部材を備える切削工具であって、
前記切れ刃部材は、
端面と側面とを接続するコーナー部に形成される切れ刃と、
前記コーナー部を2等分するように定められる仮想平面が通過する位置に設けられ、前記端面に対向する方向から見た端面視において前記仮想平面と前記コーナー部との交点から離間する方向に窪んで形成される凹面を含む第1壁面と、
前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対の方向に突出する凸面を含む第2壁面と、
前記仮想平面に対して前記第2壁面の反対側であって、前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対の方向に突出する凸面を含む第3壁面と、
前記端面視において前記第1壁面と前記交点との間の領域であって、前記仮想平面が通過する領域に設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対方向に突出する凸面を含み、かつ、前記側面に対向する方向から見た側面視において、前記第2壁面及び前記第3壁面の高さより小さい高さを有する第4壁面と、
を備える、
切削工具。
【請求項2】
前記仮想平面に垂直な第2仮想平面で前記第4壁面を切断した線は、円弧状又は楕円弧状である、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記仮想平面で前記切れ刃部材を切断した断面は、
前記コーナー部と、前記コーナー部と前記第4壁面との間に設けられるブレーカー底面と、前記ブレーカー底面に接続し前記コーナー部から離間するほど上方に移動する前記第4壁面と、前記第4壁面に接続する接続面と、前記接続面に接続し前記コーナー部から離間するほど上方に移動する前記第1壁面と、前記第1壁面に接続し、前記第4壁面の高さより大きい高さを有するボス面と、
を示す、
請求項1又は2に記載した切削工具。
【請求項4】
前記切れ刃部材と、前記切れ刃部材が取り付けられるベースインサートとを有する切削インサートを備え、
前記ベースインサートには、中心軸が前記仮想平面内に存在する貫通孔が形成されている、
請求項1乃至3の何れか一項に記載した切削工具。
【請求項5】
前記切れ刃部材と、前記切れ刃部材が取り付けられるベースインサートとを有する切削インサートを備え、
前記切削インサートは、前記端面に対向する方向から見た端面視において多角形に形成され、
前記コーナー部は、前記多角形の頂点に形成される、
請求項1乃至4の何れか一項に記載した切削工具。
【請求項6】
前記切れ刃部材を保持するホルダを更に備える、
請求項1乃至5の何れか一項に記載した切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、切りくず処理性を向上させるための技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、コーナー部を2等分するように定められる仮想平面から離間した位置に凸面が形成されたブレーカ壁面を有するチップブレーカが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際出願公開WO2016/136694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される切削インサートで切削を行うと、切りくずが良好に処理され難いケースが生じることがある。特に切込み量を増やすと、切りくずがうまく折断されない場合があることが明らかになった。
【0006】
そこで本発明は、切りくずの処理性を向上させた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、切削工具を開示する。この切削工具は、少なくとも切れ刃部材を備える。前記切れ刃部材は、端面と側面とを接続するコーナー部に形成される切れ刃と、前記コーナー部を2等分するように定められる仮想平面が通過する位置に設けられ、前記端面に対向する方向から見た端面視において前記仮想平面と前記コーナー部との交点から離間する方向に窪んで形成される凹面を含む第1壁面と、前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対の方向に突出する凸面を含む第2壁面と、前記仮想平面に対して前記第2壁面の反対側であって、前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対の方向に突出する凸面を含む第3壁面と、前記端面視において前記第1壁面と前記交点との間の領域であって、前記仮想平面が通過する領域に設けられ、前記端面視において前記凹面が窪む方向と反対方向に突出する凸面を含み、かつ、前記側面に対向する方向から見た側面視において、前記第2壁面及び前記第3壁面の高さより小さい高さを有する第4壁面と、を備える。
【0008】
仮想平面に平行な方向のうち、切れ刃部材又の中心からコーナー部に向かう方向を前方と呼び、反対の方向を後方と呼ぶとき、仮想平面と前記コーナー部との交点から離間する方向は後方に相当し、前記凹面が窪む方向と反対の方向は前方に相当する。従って、第1壁面は後方に窪む凹面を有し、第2壁面、第3壁面及び第4壁面はそれぞれ前方に突出する凸面を有するといえる。
【0009】
前記切削工具において、前記仮想平面に垂直な第2仮想平面で前記第4壁面を切断した線は、円弧状又は楕円弧状であってもよい。
【0010】
前記切削工具において、前記仮想平面で前記切れ刃部材を切断した断面は、前記コーナー部又は前記切れ刃と、前記コーナー部又は前記切れ刃と前記第4壁面との間に設けられるブレーカー底面と、前記ブレーカー底面に接続し前記コーナー部又は前記切れ刃から離間するほど上方に移動する前記第4壁面と、前記第4壁面に接続する接続面と、前記接続面に接続し前記コーナー部又は前記切れ刃から離間するほど上方に移動する前記第1壁面と、前記第1壁面に接続し、前記第4壁面の高さより大きい高さを有するボス面と、を示すように切れ刃部材を設けてもよい。
【0011】
前記切削工具において、前記切れ刃部材と、前記切れ刃部材が取り付けられるベースインサートとを有する切削インサートを備え、前記切削インサートにおいて前記ベースインサートには、中心軸が前記仮想平面内に存在する貫通孔が形成されていてもよい。
【0012】
前記切削工具において、前記切れ刃部材と、前記切れ刃部材が取り付けられるベースインサートとを有する切削インサートを備え、前記切削インサートは、前記端面に対向する方向から見た端面視において多角形に形成され、前記コーナー部は、前記多角形の頂点に形成されてもよい。
【0013】
前記切削工具は、前記切れ刃部材を保持するホルダを更に備えてもよい。
【0014】
切削工具は、旋削工具であってもよい。切削工具は、外径加工、端面加工、倣い加工、内径加工等の切削加工に使用することが可能である。
【0015】
本出願は、切れ刃部材を開示する。この切れ刃部材は、端面と側面とを接続するコーナー部に形成される切れ刃と、前記コーナー部を2等分するように定められる仮想平面が通過する位置に設けられ、前記端面に対向する方向から見た端面視において前記仮想平面と前記コーナー部との交点から離間する方向に窪んで形成される凹面を含む第1壁面と、前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において外方に突出する凸面を含む第2壁面と、前記仮想平面に対して前記第2壁面の反対側であって、前記仮想平面から離間した位置に前記第1壁面に接続して設けられ、前記端面視において外方に突出する凸面を含む第3壁面と、前記端面視において前記第1壁面と前記交点との間の領域であって、前記仮想平面が通過する領域に設けられ、前記端面視において外方に突出する凸面を含み、かつ、前記側面に対向する方向から見た側面視において、前記第2壁面及び前記第3壁面の高さより小さい高さを有する第4壁面と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る切削インサートの斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る切削インサートの拡大斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る切削インサートの平面図(上面図)である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る切削インサートの正面図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る切削インサートを仮想平面で切断した断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る切削工具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0018】
図1は本実施形態に係る切削インサート10の斜視図であり、
図2は
図1の領域Aに相当する切削インサート10の拡大斜視図である。
図3は、切削インサート10を端面に対向する方向から見た平面図である。
図4は切削インサート10を側面に対向する方向であって後述する仮想平面IPに平行な方向から見た正面図である。
図5は切削インサート10を仮想平面IPで切断した断面図である。
【0019】
切削インサート10は上端面10U(又は切れ刃部材20のボス面20T乃至ベースインサート40の上端面40U)に対向する方向から見た端面視(上面視)において多角形状に形成可能であり、本実施形態における切削インサート10は、
図3の端面視に示されるように、2つの鋭角(例えば80度)のコーナー部10C1及びコーナー部10C2と、2つの鈍角(例えば100度)のコーナー部とを有する菱形状に形成されている。同図に示されるように切削インサート10には、対向する上端面10U及び下端面10L(
図4)の中心を貫通する貫通孔10Hが形成されており、切削インサート10は貫通孔10Hの中心軸AXを基準として180度回転対称に形成されている。
【0020】
切削インサート10は、ベースインサート40を備え、コーナー部10C1及びコーナー部10C2に相当する位置には、ベースインサート40に固着された2つの超高圧焼結体からなる切れ刃部材20が設けられる。従って一方の切れ刃部材20の切れ刃の摩耗後にコーナー部10C1をコーナー部10C2と入れ替えることにより他方の切れ刃部材20を使用することが可能である。
【0021】
なお、切削インサートを用いることなく、切れ刃部材をバイト、エンドミル(切削工具の一例)等のホルダにろう付け等により固着して切削工具を設けてもよい。
【0022】
本実施形態における切れ刃部材20は、立方晶窒化ほう素を含有する焼結体と、焼結体の表面を被覆するコーティング膜とを備える。コーティング膜は、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition)又はCVD(Chemical Vapor Deposition)により焼結体表面に堆積させることが可能である。但し、切れ刃部材20にコーティング膜を被覆しなくてもよい。また切れ刃部材20をダイヤモンド等から構成してもよい。
【0023】
以下切れ刃部材20の構成を詳述する。なお便宜的に貫通孔10Hの中心軸AX方向のうち、切削インサート10の中心からシャンクホルダ50(
図6)への着座面となる下端面10Lに向かう方向を中心軸AX方向下方又は単に下方と呼び、反対の切削インサート10の切れ刃部材20が取り付けられる上端面10Uに向かう方向を中心軸AX方向上方又は単に上方と呼ぶ場合がある。加えて上方側(下方側)の端部等を上端(下端)又は上端部(下端部)等と呼ぶ場合がある。また端面視(
図3)において仮想平面IPに平行な方向のうち、切削インサート10の中心からコーナー部10C1に取り付けられた切れ刃部材20に向かう方向を前方と呼び、反対のコーナー部10C2に取り付けられた切れ刃部材20に向かう方向を後方と呼ぶ場合がある。本実施形態において切削インサート10の上端面10Uに対向する方向は中心軸AX方向と略一致し、切削インサート10の側面に対向する方向は中心軸AXに垂直な方向と略一致する。
【0024】
切れ刃部材20は、中心軸AX方向上方の表面に相当する上端面20Uと、中心軸方向AX下方の表面に相当する下端面20Lと、上端面20Uと下端面20Lとを接続する側面20Sとを有する。
図2等に示されるように本実施形態に係る切れ刃部材20は、上端面20Uを頂面とし下端面20Lを底面とする三角柱状に形成されている。
【0025】
接続部は、上端面20Uと側面20Sとを接続する部分である。端面視において三角形状に形成される上端面20Uと、側面20Sとを接続する接続部のうち、一つの頂点部分に相当するコーナー部20C1は、
図2及び
図3に示されるように円弧状に形成されている。このコーナー部20C1には、円弧状のコーナー切れ刃が形成されている。本実施形態においてコーナー部20C1を近似する円弧の中心角は、例えば、25度以上90度未満(例えば、80度)に設定される。コーナー部20C1の端部にそれぞれ接続される直線部20C2及び直線部20C3には、直線状の直線切れ刃がそれぞれ形成されている。
【0026】
本実施形態においてコーナー部20C1を2等分するように定められる仮想平面IPに対し、切れ刃部材20は、面対称に形成される。従って上端面20Uは、
図3等に示されるように、端面視においてコーナー部20C1を頂点とする二等辺三角形状に形成されている。なお仮想平面IPは、貫通孔10Hの中心軸AXを包含する。また仮想平面IPとコーナー部20C1との交点を交点P(
図3)とする。
【0027】
図2に示されるように上端面20Uは、ボス面20Tと、ブレーカー底面20Gと、ブレーカー底面20Gとボス面20Tとを接続する領域に設けられるブレーカー壁面とを備える。
【0028】
ボス面20Tは、ベースインサート40の上端面40Uと面一になるように(即ち、中心軸AX方向を基準として同一の高さを有するように)、中心軸AX方向に垂直に形成された面である。ボス面20Tは、切れ刃部材20の表面のうち、中心軸AX方向上端に位置する面に相当することから、頂面と呼ばれてもよい。本実施形態に係るボス面20Tは、端面視において、仮想平面IPと交差する領域において交点Pとの距離が大きくなるように後方に窪む領域と、この領域を挟むように仮想平面IPと離間した領域において仮想平面IPと平行な方向における交点Pとの距離が小さくなるように前方に突出する2つの領域を有する。
【0029】
ブレーカー底面20Gは、上端面20Uのうち、コーナー切れ刃及び直線切れ刃を含む切れ刃に隣接する面であり、その少なくとも一部はすくい面としても機能する。ブレーカー底面20Gは、ボス面20Tよりも下方の領域に設けられる。
【0030】
ブレーカー壁面20Bは、ブレーカー底面20Gとボス面20Tとを接続する領域に設けられた面であり、少なくとも、第1壁面20B1、第2壁面20B2、第3壁面20B3及び第4壁面20B4を備える。
【0031】
第1壁面20B1は、仮想平面IPが通過する位置に設けられ、端面視において交点Pから離間する方向(後方)に窪み、又は、端面視において端面視における切削インサート10の中心である中心軸AXに接近する方向に窪んで形成された凹面である。
図5の断面図に示されるように、仮想平面IPで切断した断面図において第1壁面20B1は、後方に進行し交点Pからの距離が大きくなるほど上方に移動するように中心軸AX方向に対して傾斜して形成される。
【0032】
第2壁面20B2は、仮想平面IPから離間した位置に第1壁面20B1と直接的又は間接的に接続して設けられた凸面である。また第2壁面20B2は、前方又は外方、即ち端面視において端面視における切削インサート10の中心から離間する方向、又は、端面視において交点P又は側面20Sに接近する方向に突出して形成されている。
図5の断面図に示されるように、仮想平面IPで切断した断面図において第2壁面20B2は交点Pからの距離が大きくなるほど上方に移動するように中心軸AX方向に対して傾斜して形成される。
【0033】
第3壁面20B3は、仮想平面IPに対し、第2壁面20B2の反対側に、第2壁面20B2と面対称に形成される凸面である。即ち、第2壁面20B2と第3壁面20B3とは、仮想平面IPの両側に配置される。第2壁面20B2は第3壁面20B3と対称に形成されるため、第2壁面20B2を第3壁面20B3に読み替えることによりその構成を説明することが可能である。従って第3壁面20B3に関する説明を省略する。
【0034】
第4壁面20B4は、端面視において第1壁面20B1と交点Pとの間の領域であって、仮想平面IPが通過する領域に設けられる。第4壁面20B4は、端面視において端面視における切削インサート10の中心から離間する方向、又は、交点P又は側面20Sに接近する方向に突出して設けられる凸面である。更に
図4の側面視に示されるように、第4壁面20B4は、第2壁面20B2、第3壁面20B3及び第1壁面20B1の高さよりも小さい高さを有する。また、第4壁面20B4は、中心軸AXに垂直な平面(第2仮想平面の一例)で切断した断面図において円弧又は楕円弧を有するように形成される。この円弧又は楕円弧は、中心軸AXに垂直な上記平面と仮想平面IPとの交線に対し、線対称に形成される。なお、仮想平面IPと第2仮想平面は垂直に交わる。
【0035】
本実施形態において第4壁面20B4は、ボス面20Tよりも低い高さを有する円錐状の突起の円錐面として実現される。従って第4壁面20B4は、中心軸AX方向上方に進行するほど小さい半径の円弧断面を有する。
【0036】
接続面20B5は、突起の後方に設けられることにより、第4壁面20B4と第1壁面20B1とを接続する面である。
【0037】
ここで第2壁面20B2及び第3壁面20B3は、主として切込み量が相対的に小さい(例えば、0.2mm以下)切削を行った場合に切りくずが衝突する面であるから、ブレーカー壁面として機能することが可能である。第1壁面20B1は、主として切込み量が相対的に小さい切削を行った場合に第2壁面20B2又は第3壁面20B3に衝突した切りくずの少なくとも一部が接触する面であるから、ブレーカー壁面として機能することが可能である。ただし、第1壁面20B1は、第2壁面20B2又は第3壁面20B3に衝突した切りくずが接触しないように設けられてもよい。
【0038】
一方で第2壁面20B2及び第4壁面20B4、又は、第3壁面20B3及び第4壁面20B4の対は、主として切込み量が相対的に大きい(例えば、0.2mm以上0.3mm以下)切削を行った場合に切りくずが衝突する面であるから、ブレーカー壁面として機能することが可能である。
【0039】
なお、第4壁面20B4を中心軸AXに垂直な平面で切断して現れる円弧の曲率(又は第4壁面20B4を中心軸AXに垂直な平面で切断して現れる曲線を近似する円弧の曲率)は、コーナー部20C1を近似する円弧の曲率より大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0040】
また、第2壁面20B2、第1壁面20B1及び第3壁面20B3は必ずしも滑らかに接続されなくてもよく、異なる曲面又は平面を介して互いに接続されてもよい。
【0041】
図5に示されるように、仮想平面IPで切削インサート10を切断した断面には、切れ刃が形成されるコーナー部20C1が示される。なおコーナー部20C1はホーニングされてもよい。更に同断面図には、コーナー部20C1と第4壁面20B4との間に設けられるブレーカー底面20Gが示される。本実施形態においてブレーカー底面20Gは、概ね中心軸AX方向に垂直に設けられる。但し正のすくい角を与えるようにブレーカー底面20Gを下方に傾斜するように形成してもよい。更に同断面図には、ブレーカー底面20Gに接続し、コーナー部20C1から離間するほど上方に移動する第4壁面20B4と、第4壁面20B4と第1壁面20B1とを接続する接続面20B5が示される。本実施形態において接続面20B5は、同断面図において概ね中心軸AX方向に垂直に設けられ、この断面に垂直な方向に下降するように傾斜して設けられる。そして同断面図には、接続面20B5に接続し、コーナー部20C1から離間するほど上方に移動する第1壁面20B1と、第1壁面20B1に接続するボス面20Tとが示される。ボス面20Tは、第4壁面20B4よりも上方に、即ち、第4壁面20B4の高さより大きい高さを有するように設けられる。
【0042】
側面20Sは、コーナー部20C1、直線部20C2及び直線部20C3にそれぞれ形成される切れ刃に対する逃げ面として機能する。本実施形態に係る側面20Sは、ベースインサート40の側面40Sと面一に形成されている。また、側面20Sの後方側を向いた面は、知られた方法でベースインサート40に固着されている。
【0043】
下端面20Lは、知られた方法でベースインサート40に固着される面である。
【0044】
続いで本実施形態に係る切削工具の一例について説明する。
【0045】
図6は、本実施形態に係る切削工具である旋削工具100の拡大斜視図である。この旋削工具100は、焼結体である切れ刃部材20が取り付けられた切削インサート10と、切削インサート10を保持するシャンクホルダ50と、切削インサート10をシャンクホルダ50に保持させるための保持部材の一例である押え金60とを備える。
【0046】
本発明は、内径加工用、外径加工用、ねじ切り用、溝入れ用の旋削工具に適用可能である。また、フライス等の転削工具に適用可能である。
【0047】
また、切削インサートをホルダに保持させるための保持部材は、知られた様々な手段を適用することが可能である。本実施形態に係る押え金60は、貫通孔10Hに挿入される先端部を用いて切削インサート10をシャンクホルダ50に引き込むことにより切削インサート10をシャンクホルダ50に保持させるインサートクランプである。しかしながら、知られた他の手段を適用してもよい。例えば、ホルダに雌ねじを形成し、締付けねじを用いて切削インサートをホルダに保持させてもよい。
【0048】
以下、本実施形態に係る旋削工具100を用いて被切削材であるワークを旋削する際の作用について説明する。
【0049】
まず切り込み量が小さい場合(例えば、0.2mm以下)について説明する。
【0050】
切削インサート10は、両勝手で使用可能であり、右勝手として使用されるとき、コーナー部10C1又はコーナー部20C1側からみて右側に配置される第3壁面20B3が、第1壁面20B1と協働して切りくずに作用する。切削インサート10が左勝手の切削工具として使用されるとき、コーナー部10C1側又はコーナー部20C1側からみて左側に配置される第2壁面20B2が、第1壁面20B1と協働して切りくずに作用する。
【0051】
ここでは切削インサート10が、右勝手の切削工具として使用されるときの作用を説明し、左勝手の切削工具として使用されるときの作用は、同様であるため説明を省略する。一般に、超高圧焼結体の切れ刃を備える切削工具による切削加工、特に旋盤加工やフライス加工は、切削条件の切り込みおよび送りが小さく設定される。このため、生成される切りくずは幅が狭く、かつ厚さが薄くなり、切りくず処理を行うことが極めて難しくなりやすい。特に旋盤でならい加工を行うとき、コーナー部20C1の切れ刃により生成される切りくずが、切削加工中に大きく変化し、切りくずが流出する方向が大きく変化することがある。このため、切りくず処理を行うことが非常に難しくなりやすい。
【0052】
本実施形態における切削インサート10の切れ刃部材20は、切りくずがコーナー部20C1の中央付近で生成されるとき、すなわちコーナー部20C1の2等分線である仮想平面IP付近で生成されるとき、切りくずはコーナー部20C1から第1壁面20B1に向かって流れる。このとき、第1壁面20B1と比較して第3壁面20B3の方がコーナー部20C1に向かって突出しているため、流れてきた切りくずの少なくとも一部は、第3壁面20B3に衝突する。第3壁面20B3は外方に向かって膨らむ湾曲面であり、それと隣接するように内方に向かって窪むように湾曲する第1壁面20B1が配置されている。このため第3壁面20B3に衝突した切りくずの少なくとも一部は、すくい面であるブレーカー底面20Gによって上向きに曲げようとする力に加えて、第1壁面20B1に向かって、すなわち仮想平面IPに向かって横向きにも曲げるような力を受ける。すなわち、コーナー部20C1から第1壁面20B1に向かって流れる切りくずは、切りくずの中央からずれた位置が第3壁面20B3に当たることで横向きにも曲げられる。この結果、上向きの力のみを受けた場合と比較して、切りくずがより細かく分断される。
【0053】
ここで本実施形態における切れ刃部材20は、端面視(平面視)において、第1壁面20B1及び第3壁面20B3の上端の境界線、即ち、第1壁面10B1及び第3壁面20B3と、ボス面20Tとを接続する境界線の輪郭形状が、それぞれ略円弧状とされている。同様に、中心軸AX方向に垂直な水平断面において、第1壁面10B1及び第3壁面20B3の輪郭形状は、それぞれ略円弧状とされている。このため、切りくずの衝突による摩耗(摩滅)の進行を抑制することができる。
【0054】
加えて第4壁面20B4は、
図4等の側面視において、第2壁面20B2及び第3壁面20B3の高さより小さい高さを有する。また第4壁面20B4は、上方に進行するほど水平方向の幅が狭くなるように設けられている。このため、切りくずの少なくとも一部を、第4壁面20B4と第3壁面20B3との間隙を通過させることが可能となる。
【0055】
続いて切り込み量が大きい場合(例えば、0.2mm以上0.3mm以下)について説明する。本出願の発明者らは、切り込み量を大きくしていくと、切りくずが第3壁面20B3を含む山部よりも、第1壁面20B1を含む谷部に多く流出し、その結果切りくずが流出方向にねじれてしまい折断されない場合がある点に着目した。
【0056】
切込み量を大きくすると、コーナー部20C1から最も近い位置に設けられる第4壁面20B4によって切りくずを拘束することが可能となる。少なくとも一部の切りくずは第4壁面20B4及び第3壁面20B3の二つの凸面に張り付くように湾曲するので、切りくずにはアラビア数字の3の形のように2つの湾曲部が形成される。
【0057】
ここで中心軸AX方向に垂直な仮想平面で切断したときに、第2壁面20B2、第3壁面20B3及び第4壁面20B4がそれぞれ円弧を含むようにこれらブレーカ壁面を設けることにより、好適に切りくずを湾曲することが可能となる。湾曲した切りくずの少なくとも一部は、流出方向と垂直な方向にカールし、ワークの端面や切削インサート10の逃げ面に衝突し、折断される。
【0058】
以上のとおりであるから、本発明によれば、切りくずの処理性を向上させた切削インサート及び切削工具を提供することが可能となる。特に、広範囲の切削条件にわたり切りくずの処理性を向上させることが可能となる。
【0059】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の知られた構成に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の知られた構成と置換することができる。例えば、切れ刃部分にワイパー刃のような仕上げ刃部分が設けられても構わない。また、ブレーカ壁面である第1壁面20B1、第2壁面20B2、第3壁面20B3及び第4壁面20B4は、切りくずが衝突することを想定した領域に設けられればよい。例えば、第1壁面20B1、第2壁面20B2及び第3壁面20B3は、壁面の少なくとも上部に形成されていてもよい。このとき、壁面の下端は、切りくず処理性に影響のない範囲で、他の形状に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 切削インサート
10C1、10C2 コーナー部
10U 上端面
10L 下端面
10H 貫通孔
20 切れ刃部材
20B1~20B4 第1壁面~第4壁面
20C1、コーナー部
20C2、20C3 直線部
20G ブレーカー底面
20L 下端面
20S 側面
20T ボス面
20U 上端面
40 ベースインサート
50 シャンクホルダ
100 旋削工具
AX 中心軸
IP 仮想平面