(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170027
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】生体信号処理装置、生体信号検査装置及び生体信号処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20221102BHJP
A61B 5/308 20210101ALI20221102BHJP
【FI】
A61B5/00 C
A61B5/308
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075870
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋井 洋介
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
(72)【発明者】
【氏名】深山 大地
(72)【発明者】
【氏名】堂山 剛人
(72)【発明者】
【氏名】打田 博則
【テーマコード(参考)】
4C117
4C127
【Fターム(参考)】
4C117XB01
4C117XD24
4C117XE17
4C117XJ13
4C117XJ17
4C117XN01
4C127AA02
4C127CC01
4C127CC02
4C127EE08
4C127FF02
4C127GG01
4C127GG11
(57)【要約】
【課題】混入するノイズに応じた適切なフィルタを選択すること。
【解決手段】生体信号処理装置は、生体信号の信号処理を行う生体信号処理装置であって、生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出する算出部と、算出された混入度合いに応じて、生体信号に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する判定部と、判定部でフィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、生体信号に混入するノイズを除去する除去部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号の信号処理を行う生体信号処理装置であって、
前記生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出する算出部と、
算出された前記混入度合いに応じて、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する判定部と、
前記判定部で前記フィルタの強度を変更すると判定された場合、前記フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去する除去部と、
を備える、
生体信号処理装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記フィルタの強度を変更して、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去した場合、前記ノイズを除去した後の前記生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出し、
前記判定部は、前記ノイズを除去した後の前記生体信号で算出された前記混入度合いに応じて、前記ノイズを除去した後の前記生体信号に混入する前記ノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する、
請求項1に記載の生体信号処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記混入度合いが所定の閾値以上である場合、前記混入度合いが所定の閾値未満である場合よりも前記フィルタの強度が強くなるように変更する、
請求項1又は2に記載の生体信号処理装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記フィルタをかけない場合を含む複数段階の強度を有し、
前記判定部は、前記混入度合いが所定の閾値以上である場合、前記混入度合いが所定の閾値未満である場合よりも前記フィルタの強度が1段階強くなるように変更する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の生体信号処理装置。
【請求項5】
前記判定部で前記フィルタの強度を変更すると判定された場合、当該判定をユーザーに通知する通知部を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の生体信号処理装置。
【請求項6】
前記通知部は、前記フィルタの強度の変更に対して、前記ユーザーによる許可又は不許可を入力する入力部を有し、
前記除去部は、前記入力部に許可が入力された場合、前記フィルタの強度を変更して、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去する、
請求項5に記載の生体信号処理装置。
【請求項7】
生体の生体信号を取得する取得部と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の生体信号処理装置を備える、
生体信号検査装置。
【請求項8】
生体信号の信号処理を行う生体信号処理方法であって、
前記生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出し、
算出された前記混入度合いに応じて、前記生体信号に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定し、
前記フィルタの強度を変更すると判定された場合、前記フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、前記生体信号に混入するノイズを除去する、
生体信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測した生体信号の信号処理を行う生体信号処理装置、生体信号検査装置及び生体信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間などの生体の健康状態を把握するため、生体の生体信号を計測して検査する生体信号検査装置、例えば、心電計などが知られている。
【0003】
例えば、心電計は、生体の心臓の電気的な活動を示す生体信号である心電波形(心電図)を、生体の皮膚に貼り付けた電極で計測して検査する装置であり、心電図を解析することにより、心臓の活動に関する情報を取得することができる。このようにして計測する心電図には、例えば、手足の筋肉の緊張などによる筋電ノイズ、商用電源に起因するACノイズなどが混入する場合がある。
【0004】
心電図にノイズが混入する場合があるため、心電計のユーザーは、ノイズの混入の有無を目視で判断するための心電図を計測し、計測した心電図にノイズの混入があると判断した場合には、必要となるフィルタを設定する操作を行っている。そして、フィルタの設定後、心電図を計測して、ノイズ処理を行うようにしている。若しくは、心電計のユーザーは、ノイズ処理に必要なフィルタを予め設定した状態で、心電図の計測を行い、心電図を計測した際に予め設定したフィルタを用いて、ノイズ処理を行うようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
心電計のフィルタの設定に習熟している専任の臨床検査技師などは、ノイズの混入の有無を自ら判断できることが多い。そのため、専任の臨床検査技師などは、計測した心電図に対して、ノイズ処理に適切なフィルタを選択することができ、ノイズ処理を行うことができる。また、専任の臨床検査技師などは、計測前の生体の皮膚処理や計測環境などを最適な状態にすることができ、そのため、心電図の計測の際に、これらに起因するノイズの混入を抑制することもできる。
【0006】
一方、専任の臨床検査技師以外の医療従事者に対しては、できるだけノイズの混入が少ない心電図を提供することを目的として、上述したように、ノイズ処理に必要なフィルタを予め心電計に設定しておくことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
心電図のような生体信号は、ノイズが混入することで、適切な計測値や自動解析による解析所見が得られないことがある。一方で、フィルタにより生体信号のノイズ処理を行う場合、ノイズ処理が過剰になることがあり、その場合、波形に歪みが生じてしまい、計測値や自動解析による解析所見が適切に得られないこともある。
【0009】
例えば、心電図では、フィルタによるノイズ処理が過剰になると、高周波成分で形成されるR波の減高(R波の波の高さが低くなること)が生じたり、J波の形状がノッチ型からスラー型へ変化したり、時には消失したりする可能性がある。
【0010】
従って、混入するノイズに応じて、フィルタによるノイズ処理を行う必要があるが、フィルタによるノイズ処理を適切に行うためには、専任の臨床検査技師のような技術が必要である。そのため、専任の臨床検査技師に限らず、どのような医療従事者が使用しても、混入するノイズに応じて、ノイズ処理を適切に実施可能な装置が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、混入するノイズに応じて、ノイズ処理を適切に実施可能な生体信号処理装置、生体信号検査装置及び生体信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る生体信号処理装置は、
計測された生体信号の信号処理を行う生体信号処理装置であって、
前記生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出する算出部と、
算出された前記混入度合いに応じて、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する判定部と、
前記判定部で前記フィルタの強度を変更すると判定された場合、前記フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、前記生体信号に混入する前記ノイズを除去する除去部と、
を備える。
【0013】
本発明に係る生体信号検査装置は、
生体の生体信号を取得する取得部と、
上記の生体信号処理装置と、
を備える。
【0014】
本発明に係る生体信号処理方法は、
計測された生体信号の信号処理を行う生体信号処理方法であって、
前記生体信号に混入するノイズの混入度合いを算出し、
算出された前記混入度合いに応じて、前記生体信号に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定し、
前記フィルタの強度を変更すると判定された場合、前記フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、前記生体信号に混入するノイズを除去する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、混入するノイズに応じて、ノイズ処理を適切に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る生体信号検査装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す生体信号検査装置で実施する生体信号処理方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図1に示す生体信号検査装置で計測された生体信号であって、信号処理前の生体信号を表示する検査画面を示す図である。
【
図4】生体信号にノイズを検出した場合に表示されるメッセージを含む検査画面を示す図である。
【
図5】生体信号にノイズを検出した場合に表示される操作ウィンドウを含む検査画面を示す図である。
【
図6】信号処理後の生体信号を表示する検査画面を示す図である。
【
図7】信号処理後の生体信号にノイズを検出した場合に表示される操作ウィンドウを含む検査画面を示す図である。
【
図8】更なる信号処理後の生体信号を表示する検査画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
[生体信号検査装置]
図1は、本実施の形態に係る生体信号検査装置の一例である心電計10を示すブロック図である。なお、ここでは、心電計10を例示するが、生体信号を計測、検査する装置であれば、本発明は適用可能である。
【0019】
心電計10は、生体(例えば、人体)の心臓の電気的な活動である心電波形(心電図)を生体信号として計測して検査する装置である。
【0020】
心電計10は、電極群11、A/D変換部12、算出部13、判定部14、除去部15、操作表示部16、記憶部17、通信部18、制御部19などを有する。
【0021】
電極群11は、生体の生体信号を取得する取得部として機能し、本実施の形態では、生体の皮膚に貼り付けられ、生体の心電図となる電気信号を検出して、A/D変換部12に入力する。電極群11は、複数種の誘導からなる心電図を取得するため、複数の電極を有しており、例えば、標準12誘導心電図を取得するため、四肢電極(4つ)と胸部電極(6つ)とを有している。
【0022】
例えば、標準12誘導心電図においては、後述する
図3に示すように、四肢電極で検出される心電図として、双極肢誘導(I誘導、II誘導、III誘導)、単極肢誘導(aVF誘導、aVR誘導、aVL誘導)がある。また、胸部電極で検出される心電図として、胸部誘導(V1~V6誘導)がある。
【0023】
なお、電極群11が有する電極の種類や数は、心電計10で計測する心電図の種類及び数に応じて変更される。また、心電計10から離れた場所の生体の電気信号を電極群11で検出する場合には、検出された電気信号を、例えば、テレメーター送信機などの装置を用いて、心電計10へ送信するようにしてもよい。この場合、検出された電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、心電計10へ送信するようにすれば、下記のA/D変換部12を介さずに、算出部13に入力してもよい。
【0024】
A/D変換部12は、電極群11の各電極から入力されたアナログ信号である電気信号をデジタル信号に変換し、心電図として算出部13に出力する。
【0025】
算出部13は、A/D変換部12から入力された心電図に混入するノイズの混入度合いを算出する。具体的には、算出部13は、誘導毎にノイズの混入度合いを算出する。ノイズとしては、例えば、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズであり、各々のノイズについて、混入度合いを算出する。
【0026】
筋電ノイズは、例えば、手足の筋肉の緊張などにより生じるノイズである。筋電ノイズの混入度合いは、例えば、以下に説明する方法で算出する。まず、心電図において、QRS波以外の区間、例えば、S波の終了点から次のQ波の開始点までの区間を抽出する。そして、抽出した区間の周波数解析を、例えば、高速フーリエ変換などを用いて行って、筋電ノイズの周波数領域(25~75Hz)のパワーを算出することで、筋電ノイズの混入度合いを算出する。このとき、以下に説明する商用電源の周波数領域(50Hz又は60Hz)を除いて、筋電ノイズの周波数領域のパワーを算出することが望ましい。
【0027】
ACノイズは、例えば、商用電源に起因するノイズである。ACノイズの混入度合いは、例えば、以下に説明する方法で算出する。まず、心電図において、QRS波以外の区間、例えば、S波の終了点から次のQ波の開始点までの区間を抽出する。そして、抽出した区間の周波数解析を、例えば、高速フーリエ変換などを用いて行って、商用電源の周波数領域(50Hz又は60Hz)のパワーを算出することで、ACノイズの混入度合いを算出する。
【0028】
ドリフトノイズは、例えば、呼吸に伴って心電図の基線が変動することによるノイズである。ドリフトノイズの混入度合いは、例えば、以下に説明する方法で算出する。まず、心電図の予め定めた区分点、例えば、Q波の開始点について、連続する2つのQ波の開始点の値(電位)を求める。そして、連続する2つのQ波の開始点の値の差分(電位差)を算出することで、ドリフトノイズの混入度合いを算出する。
【0029】
算出部13は、例えば、所定の時間周期毎に、上述した筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いを算出して、判定部14に出力する。
【0030】
算出部13は、A/D変換部12から入力された心電図に混入するノイズの混入度合いを算出するだけでなく、後述する除去部15でノイズ除去処理された後の心電図についても、混入するノイズの混入度合いを算出する。
【0031】
判定部14は、A/D変換部12から入力された心電図について算出された筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いに応じて、心電図に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する。また、判定部14は、後述する除去部15でノイズ除去処理された後の心電図について算出された筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いに応じて、心電図に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する。
【0032】
判定部14には、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いについて、フィルタの強度を変更するか否かを判定する閾値が各々設定されている。例えば、筋電ノイズの混入度合いが閾値以上となった場合、フィルタの強度を変更すると判定する。また、判定の信頼性を向上させるため、筋電ノイズの混入度合いが所定の連続回数以上連続して閾値以上となった場合、フィルタの強度を変更すると判定してもよい。ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いについても同様である。
【0033】
なお、上述した閾値や所定の連続回数は、計測環境などに応じて、心電計10のユーザーなどが変更できるようにしてもよい。
【0034】
判定部14は、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いについて判定した判定結果を除去部15に出力する。
【0035】
除去部15は、A/D変換部12から入力された心電図について、判定部14でフィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、混入するノイズを除去する。また、除去部15は、前回、除去部15でノイズ除去処理された後の心電図について、判定部14でフィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を変更し、当該フィルタを用いて、混入するノイズを除去する。
【0036】
除去部15は、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの各々に対して、フィルタをかけない場合を含む複数段階の強度のフィルタを有する。一例として、除去部15は、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの各々に対して、フィルタをかけない「OFF」、フィルタの強度が弱である「弱」及びフィルタの強度が強である「強」の3段階の強度のフィルタを有するものとする。なお、ここでは、説明を簡単にするため、3段階の強度としているが、更に多くの段階としてもよい。
【0037】
筋電ノイズに対応するフィルタの強度の強弱は、一例として、カットする周波数の帯域幅(領域幅)を変更することで行っている。例えば、筋電ノイズに対応するフィルタの強度が「弱」よりも「強」の場合において、カットする周波数の帯域幅が広くなるようにしている。ドリフトノイズに対応するフィルタの強度の強弱も、一例として、カットする周波数の帯域幅を変更することで行っている。例えば、ドリフトノイズに対応するフィルタの強度が「弱」よりも「強」の場合において、カットする周波数の帯域幅が広くなるようにしている。
【0038】
ACノイズに対応するフィルタの強度の強弱は、一例として、前処理の有無を変更することで行っている。例えば、ACノイズに対応するフィルタの強度が「弱」の場合、前処理は行わず、電源周波数帯以外をバンドパスフィルタで透過させる。一方、「強」の場合、所定のカットオフ周波数のハイカットフィルタで高周波成分を除去する前処理を行い、その後、電源周波数帯以外をバンドパスフィルタで透過させる。なお、前処理の内容、例えば、上記のカットオフ周波数を変更することで、ACノイズに対応するフィルタの強度の強弱を変更してもよい。
【0039】
心電計10による心電図の計測及び検査の初期状態においては、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの各々に対するフィルタの強度は、「OFF」である。除去部15は、判定部14でフィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を変更しない場合(例えば、上述したノイズの混入度合いが閾値未満の場合)よりもフィルタの強度が強くなるように、フィルタの強度を「弱」に変更する。その後においても、判定部14でフィルタの強度を変更すると判定された場合、除去部15は、フィルタの強度を変更しない場合よりもフィルタの強度が強くなるように、フィルタの強度を「強」に変更する。
【0040】
除去部15で、フィルタの強度を変更する場合、フィルタの強度を1段階ずつ強くすることが望ましい。これは、例えば、フィルタの強度を「OFF」から「強」に変更した場合、ノイズ処理が過剰にかかった結果、上述したノイズの混入度合いが閾値未満となる可能性があるからである。
【0041】
一方、除去部15は、判定部14でフィルタの強度を変更しないと判定された場合、現在のフィルタの強度が「OFF」であれば「OFF」のままとし、フィルタは使用しない。また、現在のフィルタの強度が「弱」であれば「弱」のままとし、当該フィルタを用いて、混入するノイズを除去する。現在のフィルタの強度が「強」の場合でも同様である。
【0042】
以上説明したように、上述した算出部13、判定部14及び除去部15は、A/D変換部12から入力された心電図や除去部15でノイズ除去処理された後の心電図について、上述したノイズの混入度合いでフィルタの強度を変更するか否かを判定する。そして、フィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を変更し、また、フィルタの強度を変更しないと判定された場合、現在のフィルタの強度として、当該フィルタを用いて、上述した心電図に混入するノイズを除去する。このようにして、上述した算出部13、判定部14及び除去部15は、心電図の信号処理を行っており、本発明における生体信号処理装置に該当する。
【0043】
上述した算出部13、判定部14及び除去部15は、例えば、独立した電子回路として構成する。なお、上述した算出部13、判定部14及び除去部15は、それらの機能をプログラムにして、制御部19で実行するように構成してもよい。
【0044】
操作表示部16は、例えば、タッチパネル付の液晶ディスプレイで構成され、表示部及び操作部として機能する。表示部は、制御部19から入力される表示制御信号に従って、心電図や解析レポートなどの各種情報、各種操作画面などの表示を行う。操作部は、テンキー、スタートキーなどの各種操作キーを備え、ユーザーによる各種設定や指示を入力する入力操作を受け付けて、操作信号を制御部19に出力する。操作部は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、トラックボールなど)、音声入力装置などの入力デバイスを備えていてもよい。
【0045】
記憶部17は、計測した心電図のデータなどを保存するための記憶装置である。記憶装置は、例えば、不揮発性メモリカードのような着脱可能な記録媒体を用いるものであっても、内蔵不揮発性メモリや内蔵ハードディスクドライブのように、着脱できないものであっても、両者を備えていてもよい。
【0046】
通信部18は、図示は省略するが、電話回線、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)やなどのネットワークを介して、外部のコンピュータやサーバーなどとの間で心電図などの各種情報を送受信する通信処理を行う。通信部18は、有線による通信に限らず、無線による通信を行うものでもよい。
【0047】
制御部19は、上述した算出部13、判定部14、除去部15、操作表示部16、記憶部17、通信部18などを制御して、心電計10全体の動作を制御する。制御部19は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などにより構成される。制御部19のCPUは、ROMに記憶されている処理プログラムなどの各種プログラムを読み出してRAMに展開し、展開されたプログラムに従って各種処理を実行する。
【0048】
プリンタ20は、制御部19の制御に従って、例えば、心電図や解析レポートを印刷する。心電図にノイズが混入している場合には、混入しているノイズの種類や混入度合いを、心電図や解析レポートと共に印刷する。
【0049】
[生体信号処理方法]
図2は、
図1に示す心電計10で実施する生体信号処理方法を説明するフローチャートである。本実施の形態の生体信号処理方法について、
図1及び
図2と共に、
図3~
図8も参照して説明を行う。なお、
図3~
図8においては、一例として、V3誘導に筋電ノイズが発生した場合を示している(太線黒矢印で示す部分を参照)。
【0050】
(ステップS11)
心電計10において、ユーザーが心電図の検査開始の操作入力を操作表示部16から行うと、制御部19は、生体の皮膚に貼り付けられた電極群11で生体の心電図となる電気信号を検出し、A/D変換部12でデジタル信号に変換して、心電図を計測する。
【0051】
制御部19は、A/D変換部12から心電図を取得すると、
図3に示す検査画面D1を操作表示部16に表示する。
図3は、心電計10で計測される心電図であって、信号処理前の心電図を表示する検査画面D1を示す図である。
【0052】
なお、フィルタ表示領域A1は、フィルタの種類、状態及びノイズの混入度合いのレベルを表示する領域である。「MF」は、筋電ノイズに対するフィルタの状態を示し、「AC」は、ACノイズに対するフィルタの状態を示し、「DF」は、ドリフトノイズに対するフィルタの状態を示す。「MF」、「AC」及び「DF」において、白文字はフィルタがオフの状態を示し、黒文字はフィルタがオンの状態を示す(後述の
図5を参照)。また、図示は省略するが、フィルタがオンの状態において、黒文字を囲む領域を、「弱」と「強」とでは異なる色とするようにしてもよい。例えば、「強」の場合には、「弱」の場合より画面上で目立つようにするため、黒文字を囲む領域を赤色とする。また、「MF」、「AC」及び「DF」の各々の隣に示される数値は、ノイズの混入度合いのレベルを示している。ノイズの混入度合いのレベルについては、後述するが、ここでは、最大レベルの筋電ノイズが発生しているとして、そのレベルとして「5」が表示されている。また、最小レベルのACノイズ及びドリフトノイズが発生しているとして、それらのレベルとして「1」が表示されている。
【0053】
(ステップS12)
制御部19は、A/D変換部12から心電図を取得すると、当該心電図に混入するノイズ(筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズ)の混入度合いを算出部13で算出する。筋電ノイズの混入度合いは、誘導毎に算出され、
図3に示す標準12誘導心電図では、I誘導、II誘導及びV1~V6誘導の各々において、算出されている。ACノイズの混入度合いは、全誘導をまとめて、算出されており、ドリフトノイズの混入度合いも、全誘導をまとめて、算出されている。
【0054】
筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いの算出方法は、上述した通りであるので、ここでは、説明は省略するが、算出部13は、所定の時間周期毎に、例えば、4秒周期毎に、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いを算出する。
【0055】
(ステップS13)
制御部19は、判定部14において、フィルタの強度を変更する否か判定するため、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いが閾値以上かどうかを判定する。筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの混入度合いが、1つでも閾値以上であれば(YES)、ステップS14へ進み、いずれも閾値未満であれば(NO)、ステップS11へ戻る。
【0056】
なお、判定の信頼性を向上させるため、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズのいずれか1つの混入度合いが所定の連続回数以上連続して閾値以上となった場合、ステップS14へ進むようにしてもよい。この場合、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズのいずれにおいても、混入度合いが閾値以上となった連続回数が所定の連続回数未満である場合には、ステップS11へ戻る。
【0057】
上述した閾値や所定の連続回数は、計測環境などに応じて、心電計10のユーザーなどが変更可能である。例えば、閾値については、上述したノイズの混入度合いを複数レベル(例えば、5レベル)に分類するための複数の閾値を予め設定しておき、計測環境などに応じて、ユーザーが適切な閾値を選択可能とする。レベルは、例えば、1~5の整数で示され、レベルの数値が小さいほど、ノイズの混入度合いが小さい。
【0058】
また、所定の連続回数については、例えば、短め、普通、長めの連続回数に変更可能とし、短めの場合、連続回数を3回、普通の場合、連続回数を4回、長めの場合、連続回数を5回などと設定する。
【0059】
(ステップS14)
制御部19は、現在のフィルタの強度を確認し、フィルタの強度が「強」である場合(YES)、ステップS11へ戻り、フィルタの強度が「強」でない場合(NO)、ステップS15へ進む。上述したように、一例として、除去部15は、筋電ノイズ、ACノイズ及びドリフトノイズの各々に対して、フィルタをかけない「OFF」、フィルタの強度が弱である「弱」及びフィルタの強度が強である「強」の3段階の強度のフィルタを有する。フィルタの強度が「強」である場合、これ以上強い強度のフィルタがないため、制御部19は、ステップS11へ戻り、フィルタの強度を「強」に維持した状態で、心電図を計測する。
【0060】
(ステップS15)
制御部19は、操作ウィンドウを表示するか否かを判断し、操作ウィンドウを表示する場合(YES)、ステップS17へ進み、操作ウィンドウを表示しない場合(NO)、ステップS16へ進む。操作ウィンドウを表示するか否かは、ユーザーが予め設定をしておき、制御部19は、この設定を確認することにより、操作ウィンドウを表示するか否かを判断する。
【0061】
(ステップS16)
制御部19は、ステップS15で操作ウィンドウを表示しないと判断した場合、
図4に示すメッセージM1を含む検査画面D2を操作表示部16に表示する。
図4は、心電図にノイズを検出した場合に表示されるメッセージM1を含む検査画面D2を示す図である。
【0062】
ユーザーが操作ウィンドウを表示しない設定を選択した場合、制御部19は、心電図に上述したノイズを検出すると、検査画面D2にメッセージM1(通知部)を表示することで、ノイズを検出したこと、フィルタの強度を変更することをユーザーに通知する。この場合、ユーザーが何らかの操作を行うことなく、自動的にフィルタの強度が変更される。ここでは、一例として、V3誘導にレベル「5」の筋電ノイズが発生した場合であるので、
図4に示す検査画面D2には、「ノイズを検出しました。これからフィルタをONにします。(MF)」とのメッセージM1を表示する。ACノイズ及びドリフトノイズの場合も同様のメッセージが表示される。
【0063】
(ステップS17)
一方、制御部19は、ステップS15で操作ウィンドウを表示すると判断した場合、
図5に示す操作ウィンドウW1を含む検査画面D3を操作表示部16に表示する。
図5は、心電図にノイズを検出した場合に表示される操作ウィンドウW1を含む検査画面D3を示す図である。
【0064】
ユーザーが操作ウィンドウを表示する設定を選択した場合、制御部19は、心電図に上述したノイズを検出すると、検査画面D3に操作ウィンドウW1(通知部及び入力部)を表示する。操作ウィンドウW1を表示することにより、ノイズを検出したことをユーザーに通知すると共に、フィルタの強度を変更することについて、その許可又は不許可の入力をユーザーに求めるようにしている。
【0065】
ここでは、一例として、V3誘導にレベル「5」の筋電ノイズが発生した場合であるので、操作ウィンドウW1には、「ノイズを検出しました。これからフィルタをONにします。(MF)」とのメッセージを表示する。また、操作ウィンドウW1には、変更される場合の筋電ノイズのフィルタの設定を表示する。なお、ACノイズ及びドリフトノイズについては、ノイズが発生していないので、ACノイズ及びドリフトノイズのフィルタの設定が「OFF」であることを表示している。
【0066】
また、操作ウィンドウW1には、ユーザーの操作入力を受け付ける、戻るボタンB11、×ボタンB12及び詳細設定ボタンB13が表示されている。戻るボタンB11、×ボタンB12及び詳細設定ボタンB13のいずれかをユーザーが押下することで、制御部19は、フィルタの変更の許可又は不許可を判断する。
【0067】
(ステップS18)
制御部19は、操作ウィンドウW1に表示された戻るボタンB11又は×ボタンB12がユーザーに押下されると、フィルタの変更の許可の操作と判断して(YES)、ステップS19へ進む。一方、操作ウィンドウW1に表示された詳細設定ボタンB13がユーザーに押下されると、フィルタの変更の不許可の操作と判断して(NO)、ステップS20へ進む。
【0068】
(ステップS19)
制御部19は、A/D変換部12から入力された心電図について、フィルタの強度を変更すると判定された場合、除去部15において、フィルタの強度を1段階強くし、当該フィルタを用いて、混入するノイズを除去する。
【0069】
図6は、ノイズ除去処理後の心電図を表示する検査画面D4を示す図である。ここでは、V3誘導に筋電ノイズが発生した場合であるので、フィルタ表示領域A1において、「MF」は黒文字で表示され、その隣に表示されるレベルは、「3」と表示され、筋電ノイズのレベルが低減できていることを示している。
【0070】
ステップS19でノイズ除去処理が行われた後、ノイズ除去処理後の心電図についても、再び、上述したステップS12~S18の処理を行って、ノイズ除去処理が十分かどうかを確認する。
【0071】
つまり、ステップS12において、算出部13は、ステップS19でノイズ除去処理された後の心電図についても、混入するノイズの混入度合いを算出する。そして、ステップS13において、判定部14は、ステップS19でノイズ除去処理された後の心電図について算出されたノイズの混入度合いに応じて、心電図に混入するノイズを除去するフィルタの強度を変更するか否かを判定する。
【0072】
そして、制御部19は、上述したステップS14~S18の処理を行う。ステップS14~S16については、基本的に、上述した通りであるので、ここでは、重複する説明は省略する。
【0073】
そして、制御部19は、ステップS17~S18において、
図7に示す操作ウィンドウW2を含む検査画面D5を操作表示部16に表示する。
図7は、ノイズ除去処理後の心電図にノイズを検出した場合に表示される操作ウィンドウW2を含む検査画面D5を示す図である。
【0074】
そして、制御部19は、ノイズ除去処理後の心電図に上述したノイズを検出すると、検査画面D5に操作ウィンドウW2(通知部及び入力部)を表示する。操作ウィンドウW2を表示することにより、ノイズを検出したことをユーザーに通知すると共に、フィルタの強度を変更することについて、その許可又は不許可の入力をユーザーに求めるようにしている。
【0075】
ここでは、一例として、V3誘導にレベル「4」の筋電ノイズが発生した場合である。言い換えると、前回のノイズ除去処理後の心電図において、V3誘導にレベル「4」の筋電ノイズがノイズ除去されずに残っている状態である。この場合も、操作ウィンドウW2には、「ノイズを検出しました。これからフィルタをONにします。(MF)」とのメッセージを表示する。また、操作ウィンドウW2には、変更される場合の筋電ノイズのフィルタの設定を表示する。なお、ACノイズ及びドリフトノイズについては、ノイズが発生していないので、ACノイズ及びドリフトノイズのフィルタの設定が「OFF」であることを表示している。また、操作ウィンドウW2には、操作ウィンドウW1と同様の戻るボタンB21、×ボタンB22及び詳細設定ボタンB23が表示されている。
【0076】
そして、制御部19は、ステップS18において、操作ウィンドウW2に表示された戻るボタンB21又は×ボタンB22がユーザーに押下されると、フィルタの変更の許可の操作と判断して(YES)、ステップS19へ進む。一方、操作ウィンドウW2に表示された詳細設定ボタンB23がユーザーに押下されると、フィルタの変更の不許可の操作と判断して(NO)、ステップS20へ進む。
【0077】
そして、ステップS19において、除去部15は、前回、除去部15でノイズ除去処理された後の心電図について、判定部14でフィルタの強度を変更すると判定された場合、フィルタの強度を1段階強くし、当該フィルタを用いて、混入するノイズを除去する。
【0078】
図8は、更なるノイズ除去処理後の心電図を表示する検査画面D6を示す図である。ここでは、V3誘導に筋電ノイズが発生した場合であるので、フィルタ表示領域A1において、「MF」は黒文字で表示され、その隣に表示されるレベルは、「2」と表示され、筋電ノイズのレベルが低減できていることを示している。
【0079】
(ステップS20)
ステップS18において、操作ウィンドウW1に表示された詳細設定ボタンB13がユーザーに押下された場合、制御部19は、オートフィルタ機能を停止し、つまり、上述したフィルタの強度の自動設定の機能を停止する。また、操作ウィンドウW2に表示された詳細設定ボタンB23がユーザーに押下された場合も同様である。これは、フィルタの設定に関し、ユーザーによる設定を優先するためである。以降は、心電計10は、ユーザーにより設定されたフィルタを用いて(フィルタをオフに設定する場合も含む)、心電図の計測を行うことになる。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態の心電計10は、計測した心電図に混入するノイズの混入度合いに応じて、フィルタの強度を変更しており、また、ノイズ除去処理後の心電図に混入するノイズの混入度合いに応じても、フィルタの強度を変更している。
【0081】
このため、心電計10は、ノイズの混入度合いに応じて、適切な強度のフィルタを自動的に設定することになる。そして、適切な強度のフィルタを設定することにより、ノイズ処理を適切に実施して、心電図の計測、検査を行うことができる。
【0082】
また、適切な強度のフィルタを自動的に設定するので、ユーザーの操作の手間を低減することができ、また、ユーザーによるフィルタ設定の個人差を無くすことができ、心電図の計測、検査の質を向上させることができる。
【0083】
また、検査の開始時には、心電計10のフィルタはオフとしているので、ノイズの混入がない場合には、歪みの少ない心電図の計測、検査を行うことができる。
【0084】
なお、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又は、その主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 心電計
11 電極群
12 A/D変換部
13 算出部
14 判定部
15 除去部
16 操作表示部
17 記憶部
18 通信部
19 制御部
20 プリンタ