(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170048
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】コーヒー豆の焙煎装置及び焙煎方法
(51)【国際特許分類】
A23N 12/08 20060101AFI20221102BHJP
A23F 5/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A23N12/08 A
A23F5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075920
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】305019266
【氏名又は名称】ダートコーヒー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517179505
【氏名又は名称】株式会社システムキューブ
(71)【出願人】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】小畑 和輝
(72)【発明者】
【氏名】曽我 真人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 将生
【テーマコード(参考)】
4B027
4B061
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FC10
4B027FQ02
4B027FR01
4B061AA01
4B061AB04
4B061AB08
4B061BA09
4B061CD19
(57)【要約】
【課題】所望の香味を引き出すようにコーヒー豆を焙煎する。
【解決手段】コーヒー豆の焙煎装置Dは、コーヒー豆を焙煎する焙煎部1と、焙煎部1で焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分の、複数の成分の揮発量変化を測定して測定結果を取得する測定部2と、測定結果に基づき、焙煎部1による焙煎の仕方を調整する調整部3とを備える。上記測定結果は、複数の成分の揮発量変化を別々に示す。上記複数の成分は、甘味成分である第1成分と苦味成分である第2成分とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆を焙煎する焙煎部と、
上記焙煎部で焙煎される上記コーヒー豆から揮発する香味成分を構成する、複数の成分の揮発量変化を測定して測定結果を取得する測定部と、
上記測定結果に基づき、上記焙煎部による焙煎の仕方を調整する調整部と
を備え、
上記測定結果は、上記複数の成分の揮発量変化を別々に示す、
コーヒー豆の焙煎装置。
【請求項2】
請求項1に記載の焙煎装置において、
上記測定部は、
上記複数の成分を構成する分子が吸着可能な吸着膜を表面に有し、上記焙煎部の空気に含まれる上記分子が、上記吸着膜に吸着することで、上記複数の成分の揮発量変化を測定するセンサと、
上記センサの周辺の状態を切り替え可能な切替手段であって、上記センサの周辺に上記焙煎部の空気が流れる第1状態と、上記センサの周辺に焙煎装置の外部の空気が流れる第2状態との間で、切り替え可能な切替手段と
を有する、コーヒー豆の焙煎装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焙煎装置において、
上記複数の成分は、コーヒー豆を焙煎した際において、ハゼ後に揮発量の増加が加速する、苦味成分を含む、コーヒー豆の焙煎装置。
【請求項4】
請求項3に記載の焙煎装置を使用した、コーヒー豆の焙煎方法であって、
上記測定部は、測定できる成分が互いに異なる複数のセンサを有し、
コーヒー豆を焙煎しながら、上記複数のセンサにより複数の成分の揮発量変化を成分ごとに取得し、取得した複数の該揮発量変化を香味の種類ごとに分類する分類工程と、
上記分類工程で分類した複数の上記揮発量変化の中から、上記苦味成分の揮発量変化を特定することにより、上記複数のセンサの中から、上記苦味成分の揮発量変化を測定できる苦味検出センサを特定する特定工程と、
上記特定工程の後に、コーヒー豆を焙煎する焙煎工程と、
上記焙煎工程でコーヒー豆から揮発する苦味成分の揮発量変化を、上記苦味検出センサで測定して、上記苦味成分の揮発量変化を含む上記測定結果を取得する測定工程と、
上記測定結果に基づき、上記焙煎工程における焙煎の仕方を調整する調整工程と
を備える、コーヒー豆の焙煎方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コーヒー豆の焙煎装置及び焙煎方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1には、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素の量を測定する工程と、上記コーヒー豆を焙煎する工程において、上記一酸化炭素の量の測定時におけるコーヒー豆の焙煎度を確認する工程と、上記コーヒー豆の焙煎度の確認結果に基づいて、コーヒー豆の焙煎度と一酸化炭素の量との対応関係を決定する工程と、上記対応関係を、上記コーヒー豆と少なくとも種類又はロットのいずれかが異なるコーヒー豆を焙煎する際の焙煎度の指標として用いる、コーヒー豆の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コーヒー豆の焙煎の目的の1つは、コーヒー豆の所望の香味を引き出すことにある。従来のコーヒー豆の焙煎方法では、焙煎中のコーヒー豆の色の変化を、焙煎を制御するための判定基準とすることが多い。例えば、特許文献1に開示された方法では、焙煎中のコーヒー豆から発生する一酸化炭素の量とコーヒー豆の焙煎度との対応関係を制御の指標として用いるものの、上記焙煎度はコーヒー豆の色の変化に基づくので、コーヒー豆の色の変化が焙煎の制御の判定基準に直接関係している(特許文献1の段落0063及び0073を参照)。
【0005】
しかし、人が知覚できる香味には、果実のような香り、甘味、苦味等、多くの種類がある。以上の理由から、単にコーヒー豆の色の変化を焙煎の制御の判定基準とすることは、コーヒー豆の所望の香味を引き出すという観点では、妥当ではない。
【0006】
本開示は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の香味を引き出すようにコーヒー豆を焙煎することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、コーヒー豆を焙煎する焙煎部と、上記焙煎部で焙煎される上記コーヒー豆から揮発する香味成分を構成する、複数の成分の揮発量変化を測定して測定結果を取得する測定部と、上記測定結果に基づき、上記焙煎部による焙煎の仕方を調整する調整部とを備え、上記測定結果は、上記複数の成分の揮発量変化を別々に示す、コーヒー豆の焙煎装置である。
【0008】
なお、本開示では、各成分の「揮発量変化」とは、各成分の空気中の揮発量の時間履歴を意味し、「揮発量変化を測定する」とは、ある経過時刻tにおける揮発量が経過時刻0における揮発量に対して増加したか又は減少したかを示すものを測定できればよい。
【0009】
この第1の開示では、測定部によって、焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分を構成する複数の成分の揮発量変化を測定し、その測定結果に基づき調整部によって焙煎の仕方を調整するので、所望の香味を引き出すように焙煎できる。また、上記測定結果は、複数の成分を含む香味成分の揮発量変化を、成分ごとに別々に示すので、焙煎されるコーヒー豆の複数の香味成分を調整するように焙煎できる。以上より、所望の香味を引き出すようにコーヒー豆を焙煎できる。
【0010】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、上記測定部は、上記複数の成分を構成する分子が吸着可能な吸着膜を表面に有し、上記焙煎部の空気に含まれる上記分子が、上記吸着膜に吸着することで、上記複数の成分の揮発量変化を測定するセンサと、上記センサの周辺の状態を切り替え可能な切替手段であって、上記センサの周辺に上記焙煎部の空気が流れる第1状態と、上記センサの周辺に焙煎装置の外部の空気が流れる第2状態との間で、切り替え可能な切替手段とを有する、コーヒー豆の焙煎装置である。
【0011】
この第2の態様では、香味成分の揮発量変化を、センサで測定するという具体的な構成が得られる。また、測定部は、センサの周辺に焙煎部の空気が流れる第1状態と、センサの周辺に焙煎装置外部の空気が流れる第2状態との間で切り替え可能な切替手段を有するので、第1状態で香味成分の揮発量変化の測定を行うだけでなく、必要に応じて、第2状態で焙煎装置外部の正常な空気を流入させ、センサ周辺の状態を、測定前の状態に戻すことができる。すると、センサの吸着膜に分子が吸着しすぎたり、吸着膜の水分含有量が変動したりして正確な測定ができなくなった場合でも、センサの状態を初期化して正確な香味成分の揮発量を測定できる。
【0012】
本開示の第3の態様は、第1又は第2の態様において、上記複数の成分は、コーヒー豆を焙煎した際において、ハゼ後に揮発量の増加が加速する、苦味成分を含む、コーヒー豆の焙煎装置である。
【0013】
この第3の態様では、ハゼ後に揮発量の増加が加速する、苦味成分の揮発量変化を測定できる。すなわち、苦味成分の生成を抑えるようにコーヒーを焙煎できる。
【0014】
本開示の第4の態様は、第3の態様に係る焙煎装置を使用した、コーヒー豆の焙煎方法であって、上記測定部は、測定できる成分が互いに異なる複数のセンサを有し、コーヒー豆を焙煎しながら、上記複数のセンサにより複数の成分の揮発量変化を成分ごとに取得する、分類工程と、コーヒー豆を焙煎しながら、上記複数のセンサにより複数の成分の揮発量変化を成分ごとに取得し、取得した複数の該揮発量変化を香味の種類ごとに分類する分類工程と、上記分類工程で分類した複数の上記揮発量変化の中から、上記苦味成分の揮発量変化を特定することにより、上記複数のセンサの中から、上記苦味成分の揮発量変化を測定できる苦味検出センサを特定する特定工程と、上記特定工程の後に、コーヒー豆を焙煎する焙煎工程と、上記焙煎工程でコーヒー豆から揮発する苦味成分の揮発量変化を、上記苦味検出センサで測定して、上記苦味成分の揮発量変化を含む上記測定結果を取得する測定工程と、上記測定結果に基づき、上記焙煎工程における焙煎の仕方を調整する調整工程とを備える、コーヒー豆の焙煎方法である。
【0015】
この第4の態様では、複数のセンサの中から、苦味成分の揮発量変化を測定できる苦味検出センサを特定した上で、焙煎工程を行う。そして、焙煎工程でコーヒー豆から揮発する苦味成分の揮発量変化をそれぞれ測定し、その測定結果に基づき焙煎の仕方を調整できる。したがって、苦味成分の生成を抑えつつ、所望の香味を引き出すように焙煎できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本開示によると、所望の香味を引き出すようにコーヒー豆を焙煎できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置を示す概略図である。
【
図2】参考例1で測定した香味成分の揮発量変化を示すグラフである。
【
図3】参考例2で測定した香味成分の揮発量変化を示すグラフである。
【
図4】参考例3で測定した香味成分の揮発量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図しない。
【0019】
[実施形態]
≪コーヒー豆の焙煎装置≫
図1は本開示の実施形態に係るコーヒー豆の焙煎装置Dを示している。焙煎装置Dは、コーヒー豆を焙煎する焙煎部1と、焙煎部1で焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分を構成する複数の成分の揮発量変化を測定する測定部2と、測定部2の測定結果に基づき、焙煎部1による焙煎の仕方を調整する調整部3とを備える。
【0020】
以下、
図1に基づき、焙煎部1、測定部2及び調整部3の構成を具体的に説明する。
【0021】
<焙煎部>
焙煎部1は、コーヒー豆を収容するための焙煎容器11を有している。焙煎容器11は、工業用のものでは、例えばコーヒー豆5~80kgを収容できる大きさのものであり、家庭用のものでは、例えばコーヒー豆0.05~1kgを収容できる大きさのものである。焙煎容器11は、コーヒー豆を混合するために、回転可能に構成されている。焙煎容器11の回転速度は、例えば30~120rpmである。
【0022】
また、焙煎部1は、焙煎容器11に収容されたコーヒー豆に熱を供給するための熱源12を有している。熱源12は、例えばガスバーナである。熱源12により供給される熱によって加熱される空気の温度は、例えば100~300℃である。
【0023】
また、焙煎部1は、熱源12で供給された熱によって加熱された空気を焙煎容器11に収容されたコーヒー豆に対して送風する送風部13を有している。送風部13は、例えば圧縮機(ブロワ)である。送風部13がコーヒー豆1kgに対して送風する送風量は、例えば毎分0.1~1m3である。
【0024】
また、焙煎部1は、送風部13から送風された空気が焙煎容器11内を通過後、焙煎装置Dの外に排出されるための排気用通路14aと、測定部2に流入させるための測定用通路14bとに連通している(以下、排気用通路14a及び測定用通路14bにおける位置を表す場合において、焙煎容器11により近い方を「上流側」といい、焙煎容器11からより遠い方を「下流側」という)。排気用通路14a内には、焙煎容器11内の雰囲気温度を知るために、焙煎容器11から排出される空気の温度を測定する温度測定部15が設けられている。また、排気用通路14aの途中には、温度測定部15よりも下流側に、コーヒー豆のチャフ(いわゆる、シルバースキン)を回収するチャフコレクタ16が設けられている。チャフコレクタ16には、回収されたチャフを燃焼除去するアフターバーナ17が設けられている。
【0025】
また、焙煎部1には、コーヒー豆の焙煎条件を調整して焙煎を制御する制御部18が設けられている。制御部18は、例えば、後述するように、調整部3からの指示に応じて、適宜、焙煎条件の調整や焙煎の終了などを行い、焙煎を制御する。
【0026】
<測定部>
測定部2は、測定用通路14bの途中に設けられたフィルタ21を有する。フィルタ21は、焙煎容器11から測定用通路14bに流入した空気からチャフなどの異物を除去するためのものである。フィルタ21は、高温に対して耐性のある、例えばセラミックフィルタである。
【0027】
また、測定部2は、フィルタ21の下流側で、測定用通路14bの途中に設けられた、冷却装置22を有する。冷却装置22は、測定用通路14bを通過する空気を、例えば室温まで、冷却できるものである。
【0028】
また、測定部2は、冷却装置22の下流側で、測定用通路14bの途中に設けられた空気弁23(切替手段)を有する。空気弁23は、焙煎容器11の空気が測定用通路14bを通って空気弁23の下流側に流れる第1状態と、焙煎装置D外部の清浄な空気が空気弁23の下流側に流れる第2状態との間で、下流側に流れる空気を切り替え可能に構成されている。
【0029】
また、測定部2は、空気弁23の下流側で、測定用通路14bの途中に設けられた気体ポンプ24を有する。気体ポンプ24により、適宜下流側に空気を送風することで、下流側に流れる空気の量を調節できるように構成されている。
【0030】
また、測定部2は、気体ポンプ24の下流側で、焙煎部1から流入する空気における香味成分の揮発量変化を測定する複数のセンサ25を有する。複数のセンサ25は、測定できる成分が互いに異なっている。複数のセンサ25は、上記香味成分を構成する特定の分子が吸着可能な吸着膜を表面に有している。複数のセンサ25は、各々の吸着膜で吸着可能な特定の分子の種類が互いに異なっている(以下、本実施形態の説明では「複数のセンサ」を、単に「センサ」という)。センサ25は、常時、特定の電圧が印加されいるため、上記特定の電圧に対応する特定の振動周波数で振動している。センサ25は、吸着膜に分子が吸着すると、吸着分子重量に対応して上記振動周波数が変化し、その振動周波数の変化に対応した強度の電圧信号αを出力する。ここでいう「吸着分子重量」とは、厳密には、吸着膜に吸着する分子の重量と吸着膜から離脱する分子の重量との差分であって、空気中の分子濃度、すなわち揮発量と相関があるものである。すなわち、空気中の吸着可能な分子の揮発量に応じて、電圧信号αの強度が決まるので、この電圧信号αの強度から、吸着可能な分子の揮発量がわかる。このようにして、センサ25は、焙煎部1から測定用通路14bを通過して流入する空気に含まれる分子の揮発量を測定できるように構成されている。そして、センサ25の電圧信号αの変化を測定することで、分子の揮発量変化がわかる。より具体的な揮発量変化の測定については、後述の焙煎方法における測定工程の説明として記載する。
【0031】
センサ25が測定できる複数の香味成分は、第1成分と、第1成分とは組成の異なる(すなわち、構成分子の種類及び構成分子の含有率の少なくとも一方が異なる)第2成分とを含む。本実施形態では、第1成分は、コーヒー豆を焙煎した際において他の成分に先行して揮発量の増加を開始する甘味成分であり、第2成分は、コーヒー豆を焙煎した際においてハゼ後に揮発量の増加が加速する苦味成分である。ここで、「ハゼ」とは、コーヒー豆の焙煎中に発生するハゼ音(クラック音)を意味する。また、「揮発量の増加が加速する」とは、揮発量の増加速度がさらに大きくなることをいう。すなわち、苦味成分である第2成分は、ハゼ前に比べ、ハゼ後の揮発量の増加速度が大きくなる。
【0032】
前述の測定結果とは、揮発量変化が測定される香味成分の、揮発量の時間履歴(焙煎開始から経過した各時点における揮発量)を示すものであり、具体的には、第1成分及び第2成分の揮発量の時間履歴を別々に示すものである。なお、測定結果は、これに加えて、測定時の情報(例えば、焙煎容器内の温度、気温等)を示してもよい。
【0033】
なお、気体ポンプ24による送風により、センサ25周辺の圧力が大きくなる場合に備えて、センサ25周辺の圧力を一定に保てるように、空気を外部に排出できる排出部(図示しない)をセンサ25周辺に設けてもよい。
【0034】
<調整部>
調整部3は、測定部2の測定結果のデータを受け取り、その測定結果に基づき、焙煎の仕方を、焙煎部1の制御部18に、適宜、調整するように指示する。これにより、焙煎部1による焙煎の仕方を調整できる。具体的な調整の仕方については、後述の焙煎方法における調整工程の説明として記載する。
【0035】
なお、調整部3は、測定結果のデータを記録するための、コンピュータ31を有している。
【0036】
≪コーヒー豆の焙煎方法≫
コーヒー豆の焙煎方法は、前述の焙煎装置Dを用いてコーヒー豆の焙煎を行う方法である。すなわち、コーヒー豆の焙煎方法は、コーヒー豆を焙煎する焙煎工程と、焙煎工程で焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分の、複数の成分の揮発量を測定して測定結果を取得する測定工程と、測定工程の測定結果に基づき、焙煎の仕方を調整する調整工程とを備えている。以下、各工程について、説明する。
【0037】
<焙煎工程>
前述の焙煎部1により、コーヒー豆の焙煎を行う。具体的に、焙煎工程は、熱源12で加熱された空気を送風部13で送風し、焙煎容器11内のコーヒー豆に熱を供給する、いわゆる熱風式により、コーヒー豆を焙煎する工程である。焙煎時間は、焙煎容器の容量並びに測定される香味成分の種類及び揮発量の設定値に応じて決定され、例えば300~4800秒である。焙煎中、焙煎容器を回転させてもよい。また、焙煎中、温度測定部15を用いて、焙煎容器11内の温度を確認してもよい。
【0038】
なお、使用されるコーヒー豆の種類は、特に限定されず、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のうちのいずれでもよい。また、コーヒー豆の産地も特に限定されず、例えば、エチオピア、コナ、ジャバ、ブラジル、エチオピア、コスタリカ、キリマンジャロ、ベトナム、コロンビア、タンザニア、モカ、ブルーマウンテン、クリスタルマウンテン、ケニア、マンデリン及びメキシコ産のうちのいずれであってもよい。また、コーヒー豆は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、コーヒー豆は、脱カフェイン処理が施されていてもよい。
【0039】
また、焙煎工程では、焙煎しながら、コーヒー豆のチャフを除去するために、焙煎により発生したチャフをチャフコレクタ16で回収してもよく、アフターバーナ17でチャフを燃焼除去してもよい。
【0040】
<測定工程>
前述の測定部2により、香味成分の複数の成分の揮発量を測定する。揮発量の測定は焙煎開始後、途切れることなく連続して行ってもよく、途中で中断しながら断続して行ってもよい。途中で中断しながら断続して測定を行う場合には、必要に応じて、測定を行っていないタイミングで、空気弁23により、清浄な空気をセンサ25の周辺に流入させる。なお、センサ25の吸着膜が親水性である場合には、吸着膜中の水分量の変動が電圧信号αに影響することによる測定誤差の発生を防止するために、上記清浄な空気に水蒸気を含有もしくは飽和させることが好ましい。
【0041】
焙煎の開始後、所定時間(例えば100秒間)中は、コーヒー豆に含まれる水分が水蒸気となるので、香味成分の揮発量の測定は安定しない。また、上記水分が水蒸気となるのは吸熱反応であるため、上記所定時間中は、焙煎容器11内の温度は約100℃に留まる。このため、上記所定時間後、焙煎容器内温度の上昇開始時点を、香味成分の測定の開始時点とすることが好ましい。また、測定開始直後の所定時間(例えば10秒間)の、センサ25の各々の電圧信号の平均値{α(0)}をとり、その後に得られる電圧信号αを上記平均値{α(0)}で割った値α/{α(0)}を、焙煎の仕方を調整するための基準値とするのが好ましい。その理由は、測定開始直後の電圧信号は、センサ25の初期状態に依存する情報を含み、そのような情報は焙煎の仕方の調整にとってバイアスとなるので、そのような測定誤差となる要因を除去するためである。以下、α/{α(0)}を焙煎の仕方を調整するための基準値βとする。この基準値βは、センサ25によって測定される香味成分の揮発量の大きさに略比例すると考えられ、上記香味成分の揮発量変化を示すものである。
【0042】
<調整工程>
前述の調整部3により、焙煎部1での焙煎の仕方を調整する。
【0043】
具体的に、調整部3は、測定部2の測定結果(すなわち、前述の基準値βの時間履歴)のデータを受け取り、その測定結果に基づき、焙煎の仕方を、焙煎部1の制御部18に、適宜、調整するように指示する。焙煎の仕方の調整とは、例えば、熱源12の熱量の調整(例えば供給する熱量の増減又は停止)、送風部13による送風量の調整、及び、焙煎容器11の回転速度の調整である。
【0044】
例えば、調整部3は、センサ25によって測定される香味成分の揮発量変化を表す基準値βについて閾値cを設定しておき、測定結果に示される当該基準値βが、その閾値cに到達した場合に、制御部18に焙煎の仕方の調整の指示を与える。
【0045】
≪作用・効果≫
本実施形態では、測定部2によって、焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分の複数の成分の揮発量を測定し、その測定結果に基づき調整部3によって焙煎の仕方を調整するので、所望の香味を引き出すように焙煎できる。また、上記測定結果は、複数の成分を含む香味成分の揮発量の時間履歴を、成分ごとに別々に示すので、焙煎されるコーヒー豆の複数の香味成分を調整するように焙煎を制御できる。以上より、所望の香味を引き出すようにコーヒー豆を焙煎できる。
【0046】
ところで、後述の参考例1~3で示すように、焙煎中のコーヒー豆の色の変化はコーヒー豆の種類によって異なり、また、焙煎中の香味成分を構成する各成分の揮発量もコーヒー豆の種類によって異なる。
【0047】
ここで、本実施形態では、焙煎されるコーヒー豆から揮発する香味成分の複数の成分の揮発量を測定し、その測定結果に基づき調整部3によって焙煎の仕方を調整するので、コーヒー豆の種類にかかわらず、安定して所望の香味を引き出すように焙煎できる。
【0048】
ところで、従来、コーヒー豆の焙煎は、焙煎を行う者(以下「オペレータ」という)が、焙煎中に変化するコーヒー豆の色などから、焙煎終了などの判断を行うことが多い。オペレータの判断により焙煎の仕方の調整を行う場合、オペレータの技量が不十分であると、正確な焙煎が行われないおそれもある。
【0049】
ここで、本実施形態では、上記測定結果に基づき調整部3によって焙煎の仕方を調整するので、オペレータの技量によらず、安定して、所望の香味を引き出すように焙煎できる。
【0050】
ところで、センサ25は、吸着膜に吸着する分子の重量に対応する特定の振動周波数から、香味成分の揮発量に対応した電圧信号αを出力するが、吸着膜が親水性である場合、空気中の水分量の変動が振動周波数に影響し、出力される電圧信号αに影響する場合がある。すなわち、空気中の水分量が変動すると、香味成分を構成する成分の揮発量を正確に測定できない場合がある。例えば、一般に、焙煎により焙煎部1から流れてくる空気は乾燥しているので、焙煎時間の経過にしたがい、吸着膜が含む水分量が減少する。すると、それに応じて振動周波数も変化するが、そのような振動周波数の変化(及びそれに対応した電圧信号αの変化)は、香味成分の揮発量の変化の測定には測定誤差の要因となるので、正確な測定ができなくなるおそれがある。また、センサ25の吸着膜に分子が吸着しすぎた場合にも、正確な測定ができなくなるおそれがある。
【0051】
ここで、本実施形態では、測定部2は、センサ25の周辺に焙煎部1の空気が流れる第1状態と、センサ25の周辺に焙煎装置D外部の空気が流れる第2状態との間で切り替え可能な空気弁23を有するので、必要に応じて、第2状態で焙煎装置D外部の正常な空気を流入させ、センサ25周辺の状態の初期化を行うことができ、センサ25による香味成分の断続的な測定ができる。すると、吸着膜中の水分量が変動したり、センサ25の吸着膜に分子が吸着しすぎたりすることによって香味成分の揮発量の正確な測定ができなくなった場合でも、センサ25の状態を初期化して正確な香味成分の揮発量を測定できる。
【0052】
また、本実施形態では、ハゼ後に揮発量の増加が加速する苦味成分の揮発量を測定できる。すなわち、苦味成分の生成を抑えるようにコーヒーを焙煎できる。
【0053】
また、本実施形態では、測定部2は、センサ25の上流側に気体ポンプ24を有するので、センサ25周辺の圧力を安定させるように、気体ポンプ24がセンサ25に向かって適宜送風できるので、センサ25により香味成分の揮発量変化を安定して測定できる。
【0054】
[実施形態の変形例]
ところで、人が感知できる香味は、果実のような香り、甘味、苦味等、多くの種類がある。このため、複数のセンサ25の各々で揮発量変化を測定できる成分が、人が感知できるどのような種類の香味成分に対応するか把握したい場合も考えられる。すなわち、複数のセンサ25の各々で揮発量を測定できる成分と、その成分を人がどのような香味と感じるかを関連付けたい場合も考えられる。
【0055】
以上のような場合に鑑みて、実施形態の変形例に係る焙煎方法では、複数のセンサ25の各々で揮発量変化を測定できる成分と、人が感知する香味とを関連付けた上で、前述の実施形態に係る焙煎方法を行う。以下、本変形例に係る焙煎方法について説明するが、上記実施形態と共通する部分の説明は省略する。
【0056】
本変形例に係る焙煎方法では、まず、コーヒー豆を焙煎しながら、複数のセンサ25により複数の成分の揮発量変化を成分ごとに取得し、取得した複数の揮発量変化を香味の種類ごとに分類する分類工程を行う。複数の揮発量変化の分類の仕方は、例えば、揮発量変化のパターンと特定の香味成分との関係を予め機械学習した学習器を用いる方法であってもよく、又は主成分解析を含む統計解析であってもよい。
【0057】
なお、複数のセンサ25は、検出できる成分が互いに異なっているが、本変形例では、具体的にどのような成分を検出できるかが不明であってもよい。
【0058】
次いで、前述の分類工程で取得した成分ごとの時間履歴の中から、第1成分(甘味成分)及び第2成分(苦味成分)の揮発量の時間履歴をそれぞれ特定することにより、複数のセンサ25の中から、第1成分及び第2成分の揮発量変化をそれぞれ測定できる第1センサ(甘味検出センサ)及び第2センサ(苦味検出センサ)を特定する特定工程を行う。
【0059】
次いで、前述の実施形態に係る製造方法と同様に、焙煎工程、測定工程及び調整工程を行う。
【0060】
本変形例では、複数のセンサ25の中から、第1成分(甘味成分)及び第2成分(苦味成分)の揮発量変化をそれぞれ測定できる第1センサ(甘味検出センサ)及び第2センサ(苦味検出センサ)を特定した上で、焙煎工程を行う。そして、焙煎工程でコーヒー豆から揮発する第1成分及び第2成分の揮発量変化をそれぞれ測定し、その測定結果に基づき焙煎の仕方を調整できる。したがって、苦味成分を抑えつつ、所望の香味を引き出すように焙煎できる。
【0061】
また、本変形例では、第1成分及び第2成分を測定できるセンサ25をそれぞれ特定するので、複数のセンサ25の各々で揮発量変化を測定できる成分が不明な場合であっても、所望の香味を引き出すようにコーヒーの焙煎を行うことができる。
【0062】
[その他の実施形態]
上記実施形態に係る焙煎装置Dにおいて、焙煎部1は、コーヒー豆を焙煎できればよい。例えば、コーヒー豆に直接火を与える直火式の焙煎を行ってもよく、この場合、送風部13は必要ない。また、測定部2は、香味成分の揮発量を測定できればよく、少なくともセンサ25を有していればよい。また、測定部2は、測定用通路14bを介して、焙煎部1とは独立して構成されているが、測定部2は焙煎部1と一体に構成されていてもよく、例えば焙煎部1の内部に組み込まれていてもよい。このような構成によって、焙煎されるコーヒー豆と測定部2のセンサ25との距離が近くなれば、焙煎と香味成分の揮発量の測定との時間差が少なくなり、より精度の高い焙煎の制御が可能となる。
【0063】
また、上記実施形態では、測定部2による測定結果は、甘味成分としての第1成分及び苦味成分としての第2成分の揮発量変化を別々に示すものであるが、測定結果はこれに限られず、複数の成分の揮発量の時間履歴を別々に示すものであればよい。
【0064】
また、上記実施形態では、センサ25は複数あるが、単一のセンサを用いてもよい。また、センサ25は、分子が吸着膜に吸着して振動周波数が変化するものであるが、これに限られず、香味成分の揮発量変化を測定できればよい。
【0065】
また、上記実施形態では、香味成分の揮発量変化を、焙煎の制御の判断基準とするが、コーヒー豆の色も判断基準に加えてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、調整部3は、測定結果に示される基準値βが、予め設定された閾値cに到達した場合に、制御部18に焙煎の仕方の調整の指示を与えるが、これに代えて、又はこれに加えて、以下のようにしてもよい。すなわち、測定開始後、経過時間tの時点で、経過時間0~tにおける基準値(β(0)~β(t))の変化に基づき、時間t+Δt経過時における基準値β(t+Δt)を予測して、焙煎の仕方の調整の指示を与える。例えば、測定開始後、揮発量が単調に増加又は減少する香味成分についての基準値βであれば、経過時刻tの時点で、経過時刻t+Δtにおける基準値β(t+Δt)を簡単に予測できる。
【実施例0067】
以下、本開示に係るコーヒーの焙煎装置D及び焙煎方法の有用性を示すために、実際にコーヒー豆を焙煎してその評価を行った参考例1~3について説明する。なお、本開示に係る焙煎装置D及び焙煎方法では、前述のように、焙煎の調整の仕方を行うために第1成分及び第2成分の揮発量変化に基づくが、参考例1~3では第2成分のみの揮発量変化に基づく。また、参考例1~3は、焙煎したコーヒー豆の産地が互いに異なっていることを除き、使用した焙煎装置及び焙煎方法は互いに同じである。
【0068】
<焙煎装置の準備>
使用した焙煎装置の構成は、調整部を除き、上記実施形態について説明したとおりである。具体的な製品名などは以下のとおりである。
【0069】
フィルタとしては、イソライト工業株式会社製のイソフィル(登録商標)IVを用いた。焙煎部としては、ゴットホット社製の工業用焙煎炉(型番R60ROA)を用いた。熱源としてはガスバーナを用い、送風部としてはブロワを用いた。
【0070】
センサとしては、I-PEX株式会社製のnose@MEMS(登録商標)を180個用いた。すなわち、用いたセンサ180個により、計180種類の分子の揮発量変化を測定できる。気体ポンプとしては、上記nose@MEMS(登録商標)の付属品を用いた。なお、該気体ポンプの能力は100mL/分で安定していた。
【0071】
<分類工程及び特定工程>
前述の180個のセンサは、揮発量変化を測定できる分子が不明なため、前述の変形例の説明に記載の分類工程及び特定工程を行った。すなわち、焙煎中における180個のセンサの電圧信号の変化のパターンを分類し、分類したそれらのパターンのうち、特にコーヒー豆の香味成分x(以下、コーヒー豆の香味成分をxと表す)に関連している6種類(パターン1~6)を特定し、得られる基準値βxの時間変化が、これらパターン1~6と同様であるそれぞれのセンサA~Fを特定した。これらのパターン1~6の説明を、表1に示す。
【0072】
【0073】
なお、他の成分に先行して増加する香味成分(第1成分)の揮発量変化に対応する電圧信号の変化はパターン2及び4であり、この第1成分の揮発量変化を測定できる第1センサはセンサB及びDである。また、ハゼ後に増加する香味成分(第2成分)の揮発量変化に対応する電圧信号の変化はパターン3であり、この第2成分の揮発量変化を測定できる第2センサはセンサCである。
【0074】
<焙煎工程及び測定工程>
アラビカ種コーヒー豆であって、コロンビア産(参考例1)、ブラジル産(参考例2)及びエチオピア産(参考例3)のものを、それぞれ60kgずつ焙煎した。焙煎開始後、焙煎容器内の温度が上昇を開始した時点を、香味成分の測定の開始時点とした。センサA~Fから、香味成分xについての電圧信号αxのデータを受け取った。測定開始直後10秒間の電圧信号の平均値{αx(0)}を算出し、その後、得られた電圧信号αxを{αx(0)}で割ったαx/{αx(0)}を、香味成分xの基準値βxとした。
【0075】
第2成分(苦味成分)の揮発量変化を測定できるセンサCから得られた、参考例1~3で測定された基準値βxの変化(第2成分の揮発量変化に相当)を、それぞれ、
図2(参考例1)、
図3(参考例2)及び
図4(参考例3)に示す。なお、
図2~4のグラフにおいて、縦軸は第2成分xの基準値βxを示し、横軸は測定開始時点を0とした香味成分xの測定時間を示す。
【0076】
<調整工程>
調整部3は、センサCから得られた基準値βxがあらかじめ設定した閾値cxを3秒以上超えた場合に、焙煎部1によるコーヒー豆に対する熱の供給を停止させ、焙煎を終了させ、気体ポンプを停止させるように設定した。
【0077】
(焙煎結果と官能試験との比較)
5人の嗅覚による官能試験を行い、参考例1~3の焙煎結果と比較した。
【0078】
前述の測定工程において、センサCで測定される香味成分の基準値βxが1.1、1.2及び1.3に到達した時点で、焙煎炉内から焙煎中のコーヒー豆のサンプル100gずつを採取し、それぞれ評価用のサンプルとした。以下、参考例1(コロンビア産)のサンプルを採取順にC1、C2及びC3と表す。同様に、参考例2(ブラジル産)並びに参考例3(エチオピア産)についても、採取順に、それぞれ、B1、B2及びB3、並びにE1、E2、E3と表す。なお、
図2~4には、これらの各サンプルを採取した時点を示している。
【0079】
サンプル採取したコーヒー豆をそれぞれパウダー状に粉砕し、圧縮した状態のコーヒー豆の香味を5人で嗅ぐことにより官能試験を行った。以下の表2に、官能試験結果を示す。なお、表2に示す官能試験結果は、官能試験を行った5人の意見のうち、最も多くの人数による評価が一致した結果である。
【0080】
【0081】
コーヒー豆の種類(産地)及び焙煎の進行度(基準値βxの大きさ)により、官能試験結果は異なっているものの、参考例1~3のいずれにおいても、センサCにより測定された基準値βx(第2成分の揮発量変化を示す)が1.3に到達すると、焦げ臭が感じられた(表2のC3、B3及びE3を参照)。このことにより、コーヒー豆の種類によらず、基準値βxが1.3に到達する以前に焙煎を終了させることにより、焦げ臭の発生を抑制できることがわかる。
【0082】
(コーヒー豆の色の確認)
参考例1~3で焙煎されたコーヒー豆の色を、以下のように確認した。
【0083】
前述のように、サンプルとして採取したコーヒー豆を、それぞれパウダー状に粉砕し、圧縮した状態の色を、ライトテルズ社のキット(型番CM―100)を用いて計測し、これを基準として対応させた。パウダー状に粉砕し圧縮した状態のコーヒー豆の粉の色を、以下の表3に示すアメリカ・スペシャルティーコーヒー協会(SCAA)基準の計測スケールの色見本と、照合した。
【0084】
【0085】
コーヒー豆のサンプルについての色の判定結果を以下の表4に示す。なお、表4中の「サンプルのSCAA値」の項目における各数値は、表3におけるSCAA基準の色見本と照合した結果である。
【0086】
【0087】
表4によれば、参考例1及び参考例2で焙煎されたサンプルの焙煎時間を、基準値βxが同じもの同士で互いに比較すると、C1は、B1よりも70秒短く、C2は、B2よりも90秒短く、C3は、B3よりも120秒短い、という違いがある。このように焙煎時間に違いがあるにもかかわらず、色の照合結果は、C1(74)及びB1(75)、C2(55)及びB2(56)、並びに、C3(35)及びB3(35)で、それぞれが互いにほぼ同じ数値を示しており、参考例1及び参考例2で互いに色に大きな違いはない。
【0088】
一方、表4において、参考例1及び参考例3で焙煎されたサンプルの焙煎時間を、同じβxを示すもの同士で互いに比較すると、C1は、E1と同じであり、C2は、E2よりも10秒だけ短く、C3は、E3よりも10秒短い、というわずかな違いしかなかった。しかしながら、色の照合結果は、C1(74)及びE1(80)、C2(55)及びE2(61)、並びに、C3(35)及びE3(38)であり、全体的に参考例1は、参考例3に比べてSCAA値が小さく、暗い色を示していた。そして、参考例1及び参考例2の比較の場合よりも、参考例1及び参考例3の比較の場合のほうが、それぞれのSCAA値の違いが大きい。
【0089】
以上説明した表4に示す結果からわかることは以下である。まず、参考例1及び参考例2の比較では、βxが同じもの同士で焙煎時間が大きく異なる一方、色の違いは比較的小さい。これに対して、参考例1及び参考例3の比較では、βxが同じもの同士で焙煎時間の違いは小さい一方、色の違いは比較的大きい。すなわち、基準値βxから判定される焙煎度は、コーヒー豆の色の変化とは異なっている場合があり、また、焙煎時間から判定した場合の焙煎度とは異なっている場合もある。このため、コーヒー豆の色の変化及び焙煎時間のいずれを焙煎度の判定基準として焙煎の仕方を調整しても、所望の香味成分を引き出せない場合があることがわかる。これに対して、香味成分の揮発量変化を基準値として焙煎の仕方を調整する、本開示に係る製造装置及び製造方法は、香味成分の揮発量を直接測定するので、所望の香味成分を引き出すことができるという点で優れている。
【0090】
(複数の香味成分の揮発量変化の測定)
参考例1~3に係る焙煎において、センサA~Fによって得られた各基準値βの変化を、表5~7に示す。表5は、参考例1(コロンビア産)に係る焙煎におけるセンサA~Fによって得られた各基準値βxの結果である。
【0091】
【0092】
表6は、参考例2(ブラジル産)に係る焙煎におけるセンサA~Fによって得られた各基準値βxの結果である。
【0093】
【0094】
表7は、参考例3(エチオピア産)に係る焙煎におけるセンサA~Fによって得られた各基準値βxの結果である。
【0095】
【0096】
表5~7に示すように、焙煎によりコーヒー豆から揮発した香味成分の基準値βxは、コーヒー豆の種類の違いにより、そのパターンに差異があることがわかる。すなわち、複数の香味成分の揮発量変化を測定し、それらに対応する複数の基準値を判定基準として、焙煎の仕方を調整する本開示に係る焙煎装置及び焙煎方法は、コーヒー豆の焙煎において微妙な香味を引き出したい場合に、特に有用であるといえる。