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特開2022-170059リアクトル及びリアクトルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170059
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】リアクトル及びリアクトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20221102BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F37/00 A
H01F37/00 M
H01F41/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075934
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍太
(57)【要約】
【課題】分割コアが分離する虞を抑えつつ小型化されたリアクトル、及びこのリアクトルの製造方法を提供する。
【解決手段】リアクトル1は、コイル2とコア3とモールド樹脂5を備えている。コイル2は、導電線21を巻回して成り、コア3は、コイル2が装着されると共に、複数の分割コア41が連なって成り、モールド樹脂5は、コイル2とコア3と被覆して一体化する。このとき、モールド樹脂5と分割コア41の各々は、嵌合により、モールド樹脂5を介して分割コア41同士を繋ぎ止める凹部6及び凸部7を有するようにした。凹部6は、分割コア41の並びと直交する方向に深く、凸部7は、分割コア41の並びと直交する方向に突出し、モールド樹脂5側と分割コア41側に分配されて嵌合している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線を巻回して成るコイルと、
前記コイルが装着されると共に、複数の分割コアが連なって成るコアと、
前記コイルと前記コアと被覆して一体化するモールド樹脂と、
を備え、
前記モールド樹脂と前記分割コアの各々は、嵌合により、前記モールド樹脂を介して前記分割コア同士を繋ぎ止める凹部及び凸部を有し、
前記凹部は、前記分割コアの並びと直交する方向に深く、前記凸部は、前記分割コアの並びと直交する方向に突出し、
前記凹部と前記凸部は、前記モールド樹脂側と前記分割コア側に分配されて嵌合していること、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記分割コアは、隣り合う前記分割コアとの並び方向に沿って当該隣り合う分割コアから最も離れた背面を有し、
前記モールド樹脂は、前記分割コアの前記背面の全てを露出させていること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトル。
【請求項3】
前記コアは、前記分割コアが連なって形成される環形状を有し、
前記モールド樹脂は、前記コアの環内周面のうち、前記分割コアの境界を含む境界領域を被覆し、
前記凹部と前記凸部は、前記分割コア側の前記境界領域と、前記モールド樹脂側の前記境界領域を覆う外周面に形成されていること、
を特徴とする請求項2記載のリアクトル。
【請求項4】
前記モールド樹脂は、前記コアの環形状を有する面のうち、前記コアの環内周面と接する縁を被覆するフランジを有すること、
を特徴とする請求項3記載のリアクトル。
【請求項5】
前記モールド樹脂は、前記コアの外周面を露出させていること、
を特徴とする請求項3又は4記載のリアクトル。
【請求項6】
前記分割コアは、非接合で連なること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のリアクトル。
【請求項7】
前記分割コアは、前記磁束を通す分割コア本体と、当該分割コア本体を被覆する分割コア被覆樹脂とを有し、
前記分割コア側に分配される前記凹部又は前記凸部は、前記分割コア被覆樹脂の表面に形成されていること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のリアクトル。
【請求項8】
磁束を通す分割コア本体を分割コア被覆樹脂で被覆して、分割コアを作製するコアモールド工程と、
前記分割コアを連ねたコアと当該コアに装着されたコイルに対し、モールド樹脂を形成する二次モールド工程と、
を含み、
前記コアモールド工程では、前記分割コア被覆樹脂に、前記分割コアの並びと直交する方向に深い凹部を形成し、
前記二次モールド工程では、前記凹部に対向する位置又は前記凹部近傍にゲート孔を有する金型により、前記凹部と嵌合する凸部を前記モールド樹脂に形成すること、
を特徴とするリアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルとコアを有するリアクトルと当該リアクトルを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは主としてコイルとコアとから成る。コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コアは、コイルが発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0003】
このようなリアクトルは、多種多様の用途に使用されている。代表的なリアクトルとして、昇圧リアクトル、直列リアクトル、並列リアクトル、限流リアクトル、始動リアクトル、分路リアクトル、中性点リアクトル及び消弧リアクトル等が挙げられる。
【0004】
昇圧リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等の車載用の昇圧回路に組み込まれる。直列リアクトルは、電動機回路に直列に接続し短絡時の電流を制限する。並列リアクトルは、並列回路間の電流分担を安定させる。限流リアクトルは、短絡時の電流を制限しこれに接続される。始動リアクトルは、機械を保護する電動機回路に直列に接続して始動電流を制限する。分路リアクトルは、送電線路に並列接続されて進相無効電力の補償や異常電圧を抑制する。中性点リアクトルは、中性点と大地間に接続して電力系統の地絡事故時に流れる地絡電流を制限するために使用する。消弧リアクトルは、三相電力系統の1線地絡時に発生するアークを自動的に消滅させる。
【0005】
このリアクトルは、コイルとコアとを同時に被覆して一体化するモールド樹脂を備えている。モールド樹脂は、コイルとコアを一体化することにより、リアクトルの振動を抑制したり、コイルの導電線を保護する絶縁被覆を更に保護したりしている。
【0006】
また、コアは複数に分割されており、分割コアを連ねて形成されることがある(例えば、特許文献1参照。)。分割コア同士は分割面同士を接着剤等により接合していたが、接着剤の塗布や乾燥のための時間や手間が必要であり、製造工数や製造時間を増大させる要因となっていた。
【0007】
そこで、このモールド樹脂は、分割コアの領域のうち、分割コアの並び方向に沿って隣接の分割コアから最も離れた背面に及び、コアを分割コアの並び方向から挟み込むように抱え込んでいた。これにより、分割コア同士を非接合としても分割コア同士が離間したり、個別に振動したりすることがなく、製造工数や製造時間を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-110232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、例えば車載用途で顕著に見られるように、回路部品の集積化が急進しており、リアクトルの更なる小型化が期待されている。モールド樹脂は、リアクトルの最外殻を構成している。そのため、モールド樹脂で被覆するコイルとコアの領域を限定出来れば、リアクトルの小型化に寄与する。
【0010】
但し、分割コアが非接合である場合、モールド樹脂によってコアを分割コアの並び方向から挟み込むように抱え込むことができないと、振動により分割コア同士が衝突し騒音発生源となり、最悪の場合には分割コアが分離してコアの透磁率が変化してしまう。分割コアが接合されていたとしても、モールド樹脂によってコアを分割コアの並び方向から挟み込むように抱え込むことができないと、接着剤が剥がれて、振動により分割コア同士が衝突し騒音発生源となり、最悪の場合には分割コアが分離してコアの透磁率が変化してしまう。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、分割コアが分離する虞を抑えつつ小型化されたリアクトル、及びこのリアクトルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るリアクトルは、導電線を巻回して成るコイルと、前記コイルが装着されると共に、複数の分割コアが連なって成るコアと、前記コイルと前記コアと被覆して一体化するモールド樹脂と、を備え、前記モールド樹脂と前記分割コアの各々は、嵌合により、前記モールド樹脂を介して前記分割コア同士を繋ぎ止める凹部及び凸部を有し、前記凹部は、前記分割コアの並びと直交する方向に深く、前記凸部は、前記分割コアの並びと直交する方向に突出し、前記凹部と前記凸部は、前記モールド樹脂側と前記分割コア側に分配されて嵌合していること、を特徴とする。
【0013】
前記分割コアは、隣り合う前記分割コアとの並び方向に沿って当該隣り合う分割コアから最も離れた背面を有し、前記モールド樹脂は、前記分割コアの前記背面の全てを露出させているようにしてもよい。
【0014】
前記コアは、前記分割コアが連なって形成される環形状を有し、前記モールド樹脂は、前記コアの環内周面のうち、前記分割コアの境界を含む境界領域を被覆し、前記凹部と前記凸部は、前記分割コア側の前記境界領域と、前記モールド樹脂側の前記境界領域を覆う外周面に形成されているようにしてもよい。
【0015】
前記モールド樹脂は、前記コアの環形状を有する面のうち、前記コアの環内周面と接する縁を被覆するフランジを有するようにしてもよい。
【0016】
前記モールド樹脂は、前記コアの外周面を露出させているようにしてもよい。
【0017】
前記分割コアは、非接合で連なるようにしてもよい。
【0018】
前記分割コアは、前記磁束を通す分割コア本体と、当該分割コア本体を被覆する分割コア被覆樹脂とを有し、前記分割コア側に分配される前記凹部又は前記凸部は、前記分割コア被覆樹脂の表面に形成されているようにしてもよい。
【0019】
リアクトルの製造方法も本発明の実施形態に係る一態様であり、上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るリアクトルの製造方法は、磁束を通す分割コア本体を分割コア被覆樹脂で被覆して、分割コアを作製するコアモールド工程と、前記分割コアを連ねたコアと当該コアに装着されたコイルに対し、モールド樹脂を形成する二次モールド工程と、を含み、前記コアモールド工程では、前記分割コア被覆樹脂に、前記分割コアの並びと直交する方向に深い凹部を形成し、前記二次モールド工程では、前記凹部に対向する位置又は前記凹部近傍にゲート孔を有する金型により、前記凹部と嵌合する凸部を前記モールド樹脂に形成すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モールド樹脂で被覆するコイルとコアの領域を限定しても、分割コアが分離する虞を抑えることができ、リアクトルを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】モールド樹脂を省いて示したリアクトルの斜視図である。
図2】コアの分解斜視図である。
図3】モールド樹脂を含むリアクトルを示す斜視図である。
図4】モールド樹脂を含むリアクトルを示す上面図である。
図5】コアを示す斜視図である。
図6】コアを分割コアの並び方向に沿って切った断面図である。
図7】モールド樹脂の斜視図であり、(a)は一方向から見た斜視図であり、(b)は(a)の斜視図に対して90度回転させた方向から見た斜視図である。
図8】リアクトルを分割コアの並び方向に沿って切った断面図である。
図9】モールド樹脂の形成過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のリアクトルについて説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態のリアクトルの主構成を示す斜視図であり、説明の都合上、モールド樹脂5(図3等参照)を省いて示してある。リアクトル1は、コイル2とコア3とを備えている。コイル2はコア3に嵌っている。このコイル2は、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コア3はコイル2が発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路である。即ち、このリアクトル1は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。コア3には、ボルトを挿通可能な固定部49が複数箇所に延設されており、リアクトル1は、この固定部49を介して回路上に実装される。
【0024】
コイル2は、銅線等の導電線21を筒状に巻いた巻回体である。導電線21は、エナメル被覆等の絶縁被覆が施されている。コイル2は、この導電線21を、巻き軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に巻回することで形成される。導電線21はコイル2の巻き始めと巻き終わりから引き出されている。コイル2から引き出された導電線21は、導電性部材であるバスバー22と溶接されている。バスバー22は、例えば銅等の長板であり、バスバー22の先端には、外部回路と接続される端子台23が形成されている。コイル2は、このバスバー22を介して外部から電流供給され、巻き軸に沿って貫く磁束を発生させる。
【0025】
コア3は、2個の分割コア41が端面44を向かい合わせにして連なって形成されている。2個の分割コア41は非接合である。即ち、端面44は接着剤が塗布されずに突き合わされ、端面44同士は接触しているだけで、2個の分割コア41は接合されていない。尚、非接合には、接着剤無しで分割コア41の端面44を突き合わせる他、分割コア本体42間にはエアギャップが形成され、分割コア被覆樹脂43同士は接合されずに接触している態様も含まれるものである。
【0026】
図2は、このコア3の分解斜視図である。図2に示すように、コア3は、中脚31、2本の外脚32、及び一対のヨーク33を備えている。中脚31は、コイル2の内径よりも小径であり、コイル2の全長と同じか若干長く延び、コイル2が嵌め込まれる。外脚32は、中脚31の両脇に延び、中脚31と同一の平面上で当該中脚31と平行である。ヨーク33は、中脚31及び両外脚32の両端に分かれて配置され、中脚31及び両外脚32と直交し、中脚31及び両外脚32を繋ぐ。このようなコア3は、中脚31を共通とする2個の環形状が連なる概略θ形状を有している。
【0027】
両分割コア41は、コア3の中脚31及び両外脚32の中央を、中脚31及び両外脚32を直交するように分断して成り、概略E字形状を有する。分割コア41の端面44同士を向かい合わせにし、分割コア41の背面48を離反させて、両分割コア41を連ねることで、コア3は形成される。各分割コア41は分割コア本体42と分割コア被覆樹脂43を備える。
【0028】
分割コア本体42は、圧粉磁心、フェライト磁心、メタルコンポジットコア又は積層鋼板等の磁性体を含んでいる。圧粉磁心は、磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を焼鈍したものである。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成るコアである。
【0029】
この分割コア本体42も分割コア41の形状に合わせてE字形状を有する。分割コア本体42は、継ぎ目のない一繋ぎの一体品としてE字形状を有していてもよいし、更に複数のブロックに細分化され、各ブロックが連なることで、分割コア41の形状に合わせてE字形状となるようにしてもよい。
【0030】
分割コア被覆樹脂43は、分割コア本体42の端面44を除いて、分割コア本体42を被覆しており、この分割コア被覆樹脂43は、分割コア41の形状に合わせてE字形状になっている。この分割コア被覆樹脂43は、絶縁性及び耐熱性を備えており、分割コア被覆樹脂43には熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0031】
分割コア被覆樹脂43の材質としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合が挙げられる。
【0032】
図3は、モールド樹脂5を含むリアクトル1を示す斜視図であり、図4は、モールド樹脂5を含むリアクトル1を示す上面図である。図3及び図4に示すように、リアクトル1は、更に、コイル2とコア3とを被覆して一体化するモールド樹脂5を備えている。モールド樹脂5は、絶縁性及び耐熱性を備えており、モールド樹脂5には熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0033】
モールド樹脂5の材質としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合が挙げられる。
【0034】
このモールド樹脂5は、金型内にコイル2及びコア3を収容して射出成型により形成される。このモールド樹脂5はコイル2周りに流入し、コイル2の内外周を含む全表面を覆う。もっとも、コイル2の全表面をモールド樹脂5で覆う必要はなく、コイル2の一部表面には平板53を載置し、この平板53で覆うようにしてもよい。モールド樹脂5は、平板53の全周縁に密着しつつ、コイル2の他の全表面を覆う。
【0035】
また、モールド樹脂5は、リアクトル1の大型化に影響しないコア3の内周面45(図2参照)を被覆している。コア3の内周面45は、中脚31と対面する外脚32の1面、外脚32と対面する中脚31の2面、これらの面に挟まれたヨーク33の1面で画成される。このうち、モールド樹脂5は、少なくとも中脚31と対面する外脚32の1面を覆っている。
【0036】
更に、モールド樹脂5は、中脚31及び両外脚32と直交する方向に振幅する振動対策のため、コア3の環状面46(図2参照)のうち、コア3の内周面45と接する縁領域に覆い被さるフランジ51を有している。コア3の環状面46は、中脚31及び外脚32が並ぶ平面と平行な面である。
【0037】
但し、モールド樹脂5は、リアクトル1の小型化のために、分割コア41の背面48(図2参照)の全領域を露出させて被覆しない。背面48は、分割コア41の並び方向9に沿って他の分割コア41から最も離れた面である。尚、好ましくは、モールド樹脂5は、リアクトル1の更なる小型化のために、コア3の外周面47(図2参照)についても全領域を露出させて被覆しない。コア3の外周面47は、内周面45と反対に位置する面である。
【0038】
ここで、図5はコア3を示す斜視図であり、図6はコア3を分割コア41の並び方向9に沿って切った断面図である。図5及び図6に示すように、分割コア41は凹部6を備えている。凹部6は、各分割コア41の内周面45のうち、両外脚32の端面44の近傍に1本ずつ形成されており、両環状面46を繋ぐように溝状に延設されている。コア3全体としては、各外脚32に端面44を挟んで2本ずつ、計4本が形成されている。この凹部6は、分割コア41の並び方向9と直交する方向に深くなっている。即ち、凹部6は、分割コア41の並び方向9と直交する内壁面を備えている。
【0039】
一方、図7は、モールド樹脂の斜視図であり、(a)は一方向から見た斜視図であり、(b)は(a)の斜視図に対して90度回転させた方向から見た斜視図である。図7に示すように、モールド樹脂5は、凸部7を備えている。凸部7は、分割コア41の並び方向9と直交する方向に突出している。この凸部7は、分割コア41の外脚32の内周面45を被覆する外周面52に形成されており、この内周面45に向けて突出している。
【0040】
そして、リアクトル1を分割コア41の並び方向9に沿って切った断面図である図8に示すように、モールド樹脂5の凸部7は、各分割コア41の各凹部6と嵌合している。そのため、各分割コア41は、分割コア41の並び方向9においてモールド樹脂5を基準に位置固定される。従って、分割コア41同士が非接合であり、またモールド樹脂5がコア3の両背面48を抱え込むように延在していなくとも、分割コア41が並び方向9に沿って接近又は離反等の距離変化の虞が抑えられている。
【0041】
このように、凹部6と凸部7は、モールド樹脂5を介して分割コア41が連なった状態を維持させるため、モールド樹脂5が被覆するコア3の表面の何れにも形成することができる。例えば、凹部6は、コア3の環状面46や外周面47に形成し、モールド樹脂5は、これら環状面46や外周面47を被覆しつつ、凹部6との対応箇所に凸部7を有していてもよい。これによっても、モールド樹脂5がコア3の両背面48を抱え込むように延在する態様のリアクトルよりも小型化できる。
【0042】
もっとも、コア3の内周面45をモールド樹脂5で被覆し、コア3の内周面45とモールド樹脂5の外周面52に凹部6と凸部7を設けることが、特に好ましい。コア3の内周面45をモールド樹脂5で被覆しても、リアクトル1は大型化せず、リアクトル1を更に小型化できるためである。
【0043】
以上のリアクトル1は、分割コア41を作製するコアモールド工程と、分割コア41を連ねてコア3を形成しつつ、モールド樹脂5によってコイル2とコア3とを一体化する二次モールド工程を経て製造される。
【0044】
コアモールド工程では、分割コア被覆樹脂43の金型内に、分割コア本体42、又はこれに加えて固定部49に金属製カラー等がインサートされている場合には、それら金属製カラー等を収容し、金型内に分割コア被覆樹脂43の樹脂材料を射出する。これにより、凹部6が形成された分割コア被覆樹脂43で分割コア本体42が被覆されて成る分割コア41が作製される。
【0045】
尚、分割コア本体42が例えば圧粉磁心であれば、分割コア本体42は、軟磁性粉末に単層又は複数種類複数層の絶縁被膜等を形成した後、分割コア本体42の形に加圧成型し、加圧成形体を焼成することで作製される。
【0046】
二次モールド工程では、コイル2にバスバー22を溶接し、コイル2とバスバー22を分割コア41に嵌め込んだ上で、モールド樹脂5の金型内に、分割コア41を並べて収容する。コイル2には平板53を乗せておく。モールド樹脂5の金型は、上型と下型とから成り、平板53は、上型によってコイル2の表面が金型で傷つかないように、コイル2と上型との間に緩衝材として介在している。金型を閉じたとき、コイル2は、平板53を介して金型によって押圧されて、金型内での位置ズレを抑制するように支持され、またコイル2の表面の凹凸や捻れが矯正される。
【0047】
図9は、モールド樹脂5の金型内に収容されたコイル2とコア3を示し、モールド樹脂5の形成過程を示す斜視図である。図9に示すように、金型が閉じられると、金型内にはモールド樹脂5の樹脂材料が射出される。モールド樹脂5の樹脂材料を射出するゲート孔8は、各種位置に配置できるが、少なくとも、分割コア41に形成された凹部6に対応して配置することができる。
【0048】
ゲート孔8は、凹部6の環状面46側開口と対向しており、モールド樹脂5の樹脂材料は効率よく凹部6内に流し込まれる。そのため、モールド樹脂5には、凹部6に隙間なく密着した凸部7が形成される。従って、分割コア41同士はガタツキなく精度良く合わさって固定される。このゲート孔8は、凹部6に効率的にモールド樹脂5の樹脂材料を流し込めればよく、凹部6の環状面46側開口と正対する精度がなくとも、凹部6の近傍に位置していればよい。
【0049】
そして、このゲート孔8の存在によって、各凸部7の両端には、コア3の環状面46に引っ掛かるように拡がってドーム状のゲート跡54が発生する(例えば図3図7等参照)。このゲート跡54によれば、振動によっても凸部7にクラックが入り難くなり、凸部7が破損して凹部6から外れてしまうことが抑制される。尚、ゲート跡54は、ドーム状に形成する他、中心部が凹んだすり鉢状に形成してもよい。
【0050】
このように、本実施形態のリアクトル1は、コイル2とコア3とモールド樹脂5を備えている。コイル2は、導電線21を巻回して成り、コア3は、コイル2が装着されると共に、複数の分割コア41が連なって成り、モールド樹脂5は、コイル2とコア3と被覆して一体化する。このとき、モールド樹脂5と分割コア41の各々は、嵌合により、モールド樹脂5を介して分割コア41同士を繋ぎ止める凹部6及び凸部7を有するようにした。凹部6は、分割コア41の並びと直交する方向に深く、凸部7は、分割コア41の並びと直交する方向に突出し、モールド樹脂5側と分割コア41側に分配されて嵌合している。
【0051】
これにより、分割コア41との並び方向9に沿って当該隣り合う分割コア41から最も離れた背面48を、モールド樹脂5で抱え込むようにせずに全て露出させても、分割コア41が分離する虞を抑えることができ、リアクトル1を小型化できる。
【0052】
尚、本実施形態では、2個のE字形の分割コア41を連ねて概略θ状のコア3が形成されるようにしたが、コア3の形状及び分割態様はこれに限られない。例えば、中脚31となる分割コア41、外脚32となる分割コア41、及びヨーク33となる分割コア41により、コア3を形成するようにしてもよい。並び方向9とは、隣り合う2個の分割コア41の組ごとに定められる。
【0053】
例えば中脚31の分割コア41と一方のヨーク33の分割コア41の並び方向9と直交するように、中脚31とヨーク33の各々に凹部6を設け、これら中脚31とヨーク33を被覆するモールド樹脂5に、これら凹部6と嵌合する凸部7を形成すればよい。更に、モールド樹脂5には、外脚32の凹部6、他方のヨーク33の凹部6と嵌合する凸部7が設けられればよい。
【0054】
また、コア3は、例えば第1乃至第3の計3つの分割コア41から成り、第1及び第2の分割コア41の並び方向9に対し、第3の分割コア41が直交する方向から連なっていてもよい。この場合、第1及び第2の分割コア41の並び方向9と直交する方向に深い凹部6と凸部7を、第1及び第2の分割コア41及びモールド樹脂5に分配して設ければよい。更に、第3の分割コア41と第1又は第2の分割コア41とが連なる並び方向9と直交する方向に深い別の凹部6と凸部7を、第3の分割コア41、及び第1又は第2の分割コア41、及びモールド樹脂5に分配して設ければよい。
【0055】
また、本実施形態では、分割コア41に凹部6を形成するようにし、モールド樹脂5に凸部7を設けるようにしたが、これに限られない。即ち、分割コア41に凸部7を形成するようにし、モールド樹脂5に凹部6を設けるようにしてもよい。また、一方の分割コア41に凹部6を設け、この分割コア41と嵌合させるためにモールド樹脂5に凸部7を設け、更に他方の分割コア41に凸部7を設け、この分割コア41と嵌合させるためにモールド樹脂5に凹部6を設けるようにしてもよい。
【0056】
また、コア3は分割コア41が連なって形成される環形状を有し、凹部6と凸部7は、分割コア41の内周面45とモールド樹脂5の外周面52に形成されているようにした。コア3の内周面45をモールド樹脂5で被覆しても、リアクトル1が大型化してしまうことがなく、リアクトル1の小型化と分割コア41の分離阻止を良好に両立できる。即ち、例えば、モールド樹脂5は、分割コア41の背面48を露出させる他、コア3の外周面47を露出させることで、リアクトル1を更に小型化できる。
【0057】
尚、分割コア41が分離する虞を抑えるためには、最低限、モールド樹脂5は、コア3の内周面45のうち、凹部6や凸部7による嵌合構造を形成しようとする領域のみを被覆していればよい。分割コア41の内周面45の中でも、凹部6や凸部7による嵌合構造を形成する領域としては、コア3の内周面45のうち、分割コア41の分離の境界領域が好ましく、両分割コア41の分離の虞を更に抑制できる。
【0058】
分割コア41の分離の境界は、端面44が向かい合った部分である。境界領域は、この分離の境界を挟んで、外脚32に沿って両側に拡がる領域であり、外脚32の全長範囲に及ばずともよい。換言すれば、モールド樹脂5が、内周面45のうちの外脚32部分全てを被覆することは必須ではなく、内周面45のうちのヨーク33の領域を被覆することは必須ではなく、更には内周面45のうちの中脚31の領域を被覆することは必須ではない。
【0059】
また、モールド樹脂5は、コア3の環状面46のうち、コア3の内周面45と接する縁を被覆するフランジ51を有するようにした。これにより、モールド樹脂5の領域を減らしてリアクトル1を小型化しても、コア3の環状面46と直交する方向に振動振幅を抑制することができる。
【0060】
本実施形態では、分割コア41は非接合で連なるようにした。非接合の分割コア41は分離し易く、この凹部6と凸部7を設けるリアクトル1には特に有益であるが、分割コア41は接合されていてもよい。分割コア41の端面44同士が接着剤で接合されていたとしても、接着剤が振動により剥がれて分割コア41が分離する虞がある。従って、分割コア41が接合されているリアクトル1においても、分割コア41の分離の虞を抑えつつ、小型化することができる。
【0061】
ここで、非接合とは、接着剤無しで分割コア41の端面44を突き合わせる他、分割コア本体42間にはエアギャップが形成され、分割コア被覆樹脂43同士は突き合わせられている態様も含まれるものである。
【0062】
また、このようなリアクトル1の製造方法としては、コアモールド工程と二次モールド工程とを含むようにした。コアモールド工程では、磁束を通す分割コア本体42を分割コア被覆樹脂43で被覆して、分割コア41を作製する。二次モールド工程では、分割コア41を連ねたコア3と当該コア3に装着されたコイル2に対し、モールド樹脂5を形成する。このコアモールド工程では、分割コア被覆樹脂43に、分割コア41の並びと直交する方向に深い凹部6を形成するようにし、また二次モールド工程では、凹部6に対向する位置又は凹部6近傍にゲート孔8を有する金型により、凹部6と嵌合する凸部7をモールド樹脂5に形成するようにした。
【0063】
これにより、凹部6内に十分にモールド樹脂5の樹脂材料が充填され、凹部6と隙間無く密着する凸部7を形成することができる。そのため、分割コア41にガタツキが生じ、リアクトル1から騒音が発生する虞も低減できる。
【0064】
以上の本発明の実施形態は例として提示したものであって、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
1 リアクトル
2 コイル
21 導電線
22 バスバー
23 端子台
3 コア
31 中脚
32 外脚
33 ヨーク
41 分割コア
42 分割コア本体
43 分割コア被覆樹脂
44 端面
45 内周面
46 環状面
47 外周面
48 背面
49 固定部
5 モールド樹脂
51 フランジ
52 外周面
53 平板
54 ゲート跡
6 凹部
7 凸部
8 ゲート孔
9 並び方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9