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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170148
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】風力発電装置の風車翼の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20221102BHJP
   F03D 17/00 20160101ALI20221102BHJP
【FI】
G01N29/04
F03D17/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076067
(22)【出願日】2021-04-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 保貴
(72)【発明者】
【氏名】安達 大陸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 一海
【テーマコード(参考)】
2G047
3H178
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AC05
2G047BA03
2G047BC07
2G047EA11
2G047GA13
2G047GF16
2G047GF26
2G047GG47
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB56
3H178BB79
3H178CC02
3H178DD51X
(57)【要約】
【課題】風力発電装置において風車翼の欠陥に関するデータを適切に送受信できる風力発電装置の風車翼の検査方法を提供する。
【解決手段】本開示の検査方法は、超音波プローブを取付けるステップと、パルサレシーバを取付けるステップと、超音波プローブから超音波を発信させるステップと、超音波が風車翼に反射した反射波を超音波プローブが受信するステップと、反射波のデータをパルサレシーバが取得するステップと、パルサレシーバが反射波のデータを無線伝送するステップと、少なくとも2つのアンテナのうちの少なくとも1つが、無線伝送された反射波のデータを受信するステップと、少なくとも2つのアンテナに電気的に接続された情報処理機器によって反射波のデータが情報処理されるステップとを含んでいる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置の風車翼の検査方法であって、
前記風力発電装置は、前記風車翼を含むロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、
前記検査方法は、
前記風車翼の内部の異なる位置に複数の超音波プローブを取付けるステップと、
前記複数の超音波プローブを少なくとも1つの超音波プローブを含むように分けた複数のグループのそれぞれに対して1つずつ設けられたパルサレシーバであって、前記複数のグループのそれぞれに属する前記少なくとも1つの超音波プローブと電気的に接続されるようにパルサレシーバを取付けるステップと、
前記パルサレシーバが、前記少なくとも1つの超音波プローブから前記風車翼に超音波を発信させるステップと、
前記超音波が前記風車翼に反射した反射波を前記少なくとも1つの超音波プローブが受信するステップと、
前記少なくとも1つの超音波プローブが受信した反射波のデータを、前記少なくとも1つの超音波プローブに電気的に接続された前記パルサレシーバが取得するステップと、
前記パルサレシーバが前記反射波のデータを無線伝送するステップと、
前記ナセルの外部に設けられた少なくとも2つのアンテナのうちの少なくとも1つが、無線伝送された前記反射波のデータを受信するステップと、
前記少なくとも2つのアンテナに電気的に接続された情報処理機器によって前記反射波のデータが情報処理されるステップと
を含む検査方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つのアンテナは、前記風車翼の回転方向に沿って異なる位置に設けられている、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記情報処理機器は、前記少なくとも2つのアンテナのうち、前記反射波のデータの受信強度が最も大きいアンテナが受信した前記反射波のデータを情報処理する、請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記情報処理機器は前記ナセル内に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記複数のグループのうち複数の超音波プローブを含むグループにおいて、前記パルサレシーバは、前記複数の超音波プローブに順番に前記風車翼に前記超音波を発信させ、前記複数の超音波プローブから順番に、前記超音波が前記風車翼によって反射された反射波のデータを取得する、請求項1~4のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記情報処理機器は、前記反射波のデータから、バックエコーの位置及び強度を検出する、請求項1~5のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記反射波のデータが情報処理されるステップは、
前記風車翼の内部の温度を測定するステップと、
前記バックエコーの強度を前記温度に基づいて補正するステップと
を含む、請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
前記反射波のデータが情報処理された結果を無線送信して、予め指定された記憶部に記憶させるステップと、
前記記憶部にアクセスして、前記結果を取得するステップと
をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項9】
前記風車翼の内部にシェアウェブが設けられ、前記パルサレシーバは前記シェアウェブに固定されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風力発電装置の風車翼の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、風車翼の翼根部に取り付けられている超音波プローブが受信した信号をコントロールユニットに無線伝送し、コントロールユニットは、無線伝送された信号を受信して、受信した信号に基づいて、翼根部に生じる欠陥を検査する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/018671号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、風車翼に取り付けられた超音波プローブから風車翼の欠陥に関するデータの信号を無線伝送すると、風車翼が回転しているときには、信号を無線伝送する発信体と無線伝送された信号を受信するアンテナ等の受信体との位置関係によっては、コントロールユニットが信号を適切に受信できない可能性がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、風力発電装置において風車翼の欠陥に関するデータを適切に送受信できる風力発電装置の風車翼の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る検査方法は、風力発電装置の風車翼の検査方法であって、前記風力発電装置は、前記風車翼を含むロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、前記検査方法は、前記風車翼の内部の異なる位置に複数の超音波プローブを取付けるステップと、前記複数の超音波プローブを少なくとも1つの超音波プローブを含むように分けた複数のグループのそれぞれに対して1つずつ設けられたパルサレシーバであって、前記複数のグループのそれぞれに属する前記少なくとも1つの超音波プローブと電気的に接続されるようにパルサレシーバを取付けるステップと、前記パルサレシーバが、前記少なくとも1つの超音波プローブから前記風車翼に超音波を発信させるステップと、前記超音波が前記風車翼に反射した反射波を前記少なくとも1つの超音波プローブが受信するステップと、前記少なくとも1つの超音波プローブが受信した反射波のデータを、前記少なくとも1つの超音波プローブに電気的に接続された前記パルサレシーバが取得するステップと、前記パルサレシーバが前記反射波のデータを無線伝送するステップと、前記ナセルの外部に設けられた少なくとも2つのアンテナのうちの少なくとも1つが、無線伝送された前記反射波のデータを受信するステップと、前記少なくとも2つのアンテナに電気的に接続された情報処理機器によって前記反射波のデータが情報処理されるステップとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示の検査方法によれば、パルサレシーバから無線伝送された反射波のデータをいずれかのアンテナが受信することができるので、風力発電装置において風車翼の欠陥に関するデータを適切に送受信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る検査方法が適用される風力発電装置の構成図である。
図2】本開示の一実施形態に係る検査方法で使用される情報処理機器の構成模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係る検査方法が適用される風力発電装置の風車翼の内部の構成を示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係る検査方法で使用されるパルサレシーバの構成模式図である。
図5】本開示の一実施形態に係る検査方法のフローチャートである。
図6】本開示の一実施形態に係る検査方法において、超音波プローブが超音波を発信すること及び超音波の反射波を受信する動作を説明するための断面図である。
図7】本開示の一実施形態に係る検査方法において、超音波プローブが受信した反射波の波形の一例を模式的に示した図である。
図8】本開示の一実施形態に係る検査方法において、温度に基づくバックエコーの強度の補正を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による風力発電装置の風車翼の検査方法について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示の一実施形態に係る検査方法が適用される風力発電装置の構成>
図1に示されるように、風力発電装置1は、基礎2上に設けられるタワー3と、タワー3の上端に設けられるナセル4と、ナセル4の前端部側に回転可能に支持されるロータヘッド5とを備えている。ロータヘッド5には、その回転軸線周りに放射状に複数の風車翼6が取り付けられている。尚、ロータヘッド5に取り付けられる風車翼6の個数は任意である。
【0011】
ナセル4の外部、例えばナセル4の外面に2つのアンテナ7a,7bが設けられている。アンテナ7a,7bのそれぞれがナセル4の外面において設けられる位置は特に限定はしないが、風車翼6の回転方向に沿って異なる位置に設けられることが好ましい。この形態の具体例の1つとして、図1には、ナセル4の外面において鉛直方向に最も高い位置に、すなわちナセル4の外面から鉛直方向上方に延びるようにアンテナ7aが設けられ、ナセル4の外面において鉛直方向に最も低い位置に、すなわちナセル4の外面から鉛直方向下方に延びるようにアンテナ7bが設けられる形態が図示されている。
【0012】
尚、以下では、2つのアンテナ7a,7bが設けられる形態で説明するが、3つ以上のアンテナが設けられていてもよい。この形態でも、各アンテナは風車翼6の回転方向に沿って異なる位置に設けられることが好ましい。また、2つ以上のアンテナのそれぞれが設けられる位置は、ナセル4の外面に限定するものではなく、タワー3や基礎2の外面に設けられてもよく、風力発電装置1とは別の風力発電装置のナセル、タワー、基礎のいずれかの外面に設けられてもよく、地上に設けられた建屋の屋根等に設けられてもよい。後述するが、アンテナ7a,7bは、ナセル4内に設けられる情報処理機器10(図2参照)と有線接続されており、この情報処理機器10と有線接続が可能であれば、どこに設けられていてもよい。
【0013】
図2に示されるように、後述する動作でアンテナ7a,7bが受信した信号(反射波のデータ)を情報処理する情報処理機器10がナセル4内に設けられている。情報処理機器10は、アンテナ7a,7bのそれぞれと有線接続された無線親機11と、無線親機11に有線接続されたコンピュータ12と、コンピュータ12をインターネット接続させるためのWi-Fiルータ13とを備えている。無線親機11及びコンピュータ12のそれぞれは、ナセル4内に設けられた制御盤14から給電されるように構成されている。
【0014】
図3に示されるように、各風車翼6の内部の空間を画定する内周面6aに超音波プローブ20が設けられている。超音波プローブ20は、風車翼6の内周面6aに向かって超音波を発信するとともに、その超音波が風車翼6の内周面6aで反射した反射波及び風車翼6の内周面6aを透過して風車翼6の外周面6bで反射した反射波(後者の反射波をバックエコーという)を受信するように構成されている。各風車翼6の内部の空間に設けられる超音波プローブ20の個数は任意であり、1つでも2つ以上でもよい。
【0015】
各風車翼6の内部の空間にはシェアウェブ8が設けられており、シェアウェブ8には、風車翼6の内部の空間に設けられた超音波プローブ20の全てと有線接続された1つのパルサレシーバ30が固定されている。パルサレシーバ30は、予め設定したインターバルで各超音波プローブ20から超音波を発信させるとともに、各超音波プローブ20が受信した反射波のデータを電気信号として無線伝送するように構成されている。無線伝送された電気信号は、前述したアンテナ7a,7b(図2参照)によって受信される。
【0016】
以下では、各風車翼6に1つのパルサレシーバ30が設けられる構成で説明するが、この形態に限定するものではない。各風車翼6の内部の空間に複数の超音波プローブ20が設けられている場合には、複数の超音波プローブ20を、少なくとも1つの超音波プローブを含むように2つ以上のグループにグループ分けし、各グループに1つのパルサレシーバ30を設けるように、すなわち、各グループの全ての超音波プローブ20が1つの同じパルサレシーバ30に有線接続されるように構成してもよい。尚、上述した図3の構成では、各風車翼6に設けられた全ての超音波プローブ20が1つのグループを構成することになる。
【0017】
図4に示されるように、パルサレシーバ30は、超音波パルス発生回路31と、超音波パルス受信回路(アナログ回路)32と、デジタル回路33と、制御回路34と、通信回路35と、電源回路36と、スイッチング回路37とを備えている。
【0018】
超音波パルス受信回路32は、マルチプレクサ41とアンプ42とを備えている。マルチプレクサ41とアンプ42とは互いに電気的に接続されている。マルチプレクサ41には、超音波パルス発生回路31と、パルサレシーバ30に対応するグループに属する超音波プローブ20の全てとが電気的に接続されている。
【0019】
デジタル回路33は、AD変換器43とデジタル処理IC(FPGA)44とを備えている。AD変換器43とFPGA44とは互いに電気的に接続されている。AD変換器43はアンプ42と電気的に接続され、FPGA44は超音波パルス発生回路31と電気的に接続されている。
【0020】
制御回路34は、処理装置(CPU)45とメモリ46とを備えている。CPU45はFPGA44及びメモリ46のそれぞれと電気的に接続されている。尚、本開示の検査方法を実施する上での必須の構成ではないが、各風車翼6(図3参照)には、その内部の空間の温度を測定するための温度センサ21を設けることができる。温度センサ21が設けられる構成では、制御回路34は、CPU45と電気的に接続される温度センサIC47をさらに備え、温度センサ21は温度センサIC47と電気的に接続されている。尚、温度センサ内蔵のパルサレシーバも市販されており、このようなパルサレシーバを使用することで、パルサレシーバ30とは別に温度センサ21を風車翼6の内部の空間内に設ける手間を省くことができる。
【0021】
通信回路35は、無線通信モジュール48と有線通信モジュール(USB端子)49とを備えている。無線通信モジュール48とUSB端子49とはそれぞれ、CPU45と電気的に接続されている。
【0022】
電源回路36は、電池38が電気的に接続され、スイッチング回路37を介して超音波パルス発生回路31、超音波パルス受信回路32、デジタル回路33、制御回路34、通信回路35のそれぞれと電気的に接続されている。電源回路36は、電池38からの電力を超音波パルス発生回路31、超音波パルス受信回路32、デジタル回路33、制御回路34、通信回路35のそれぞれに供給するように構成されている。スイッチング回路37は、制御回路34の処理内容に応じて超音波パルス発生回路31、超音波パルス受信回路32、デジタル回路33、制御回路34、通信回路35それぞれへの電力の供給を遮断可能なスイッチ51,52,53,54,55を備えている。
【0023】
<本開示の一実施形態に係る検査方法>
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係る検査方法は、風車翼6が回転しているときでも、風車翼6が回転していないときでも実施可能である。まず、この検査方法の概要を説明すると、この検査方法は、図5に示されるように、超音波プローブ20を取付けるステップS1と、パルサレシーバ30を取付けるステップS2と、超音波プローブ20から超音波を発信させるステップS3と、超音波が風車翼6に反射した反射波を超音波プローブ20が受信するステップS4と、反射波のデータをパルサレシーバ30が取得するステップS5と、パルサレシーバ30が反射波のデータを無線伝送するステップS6と、アンテナ7a,7bのうちの少なくとも1つが、無線伝送された反射波のデータを受信するステップS7と、アンテナ7a,7bに電気的に接続された情報処理機器10によって反射波のデータが情報処理されるステップS8とを含んでいる。
【0024】
ステップS1及びS2については、図3を参照しながら上述したように、1つのグループを構成する少なくとも1つの超音波プローブ20と、1つのグループを構成する全ての超音波プローブ20と有線接続された1つのパルサレシーバ30とを、風車翼6の内部の空間に取付ける。尚、超音波プローブ20及びパルサレシーバ30を一旦取付けた後は、これらのメンテナンス又は交換若しくは超音波プローブ20の取付け位置の変更を行うとき以外は、ステップS1及びS2を省略して、ステップS3からこの検査方法を繰り返すことができる。したがって、この検査方法において、ステップS1及びS2とステップS3との間に、時間的な間隔が存在していてもよい。
【0025】
ステップS3では、パルサレシーバ30が各超音波プローブ20から風車翼6の内周面6aに向けて超音波を予め決められた期間ごとに発信させる。1つのグループに複数の超音波プローブ20が属する場合、パルサレシーバ30は、予め決められた期間ごとに複数の超音波プローブ20のそれぞれから順番に超音波を発信させる。予め決められた期間は例えば、毎分、10分ごと、1時間ごと、6時間ごと、12時間ごと、1日ごとのように任意に設定可能である。
【0026】
パルサレシーバ30がいずれかの超音波プローブ20から超音波を発信させるタイミングとなったら、図4に示されるように、超音波パルス発生回路31は、マルチプレクサ41に対してパルス状の電圧を出力する。マルチプレクサ41は、チャンネル1に設定し、超音波パルス発生回路31から出力されたパルス状の電圧を、チャンネル1に対応する超音波プローブ20の発信器に出力する。これにより、チャンネル1に対応する超音波プローブ20の発信器から超音波が発信される。尚、超音波を発信させるタイミングの制御は制御回路34により行われる。
【0027】
図6に示されるように、チャンネル1に対応する超音波プローブ20の発信器から風車翼6の内周面6aに向けて発信された超音波は、一部が内周面6aで反射されて1次反射波となり、一部が内周面6aを透過して風車翼6の外周面6bで反射されて2次反射波となる。図6には、2次反射波RW2(バックエコー)が図示されている。ステップS4では、チャンネル1に対応する超音波プローブ20の受信器がこのような反射波を受信する。
【0028】
図4に示されるように、ステップS5において、マルチプレクサ41は、超音波プローブ20の受信器が受信した反射波を電気信号として変換して受信する。マルチプレクサ41からの電気信号をアンプ42が増幅する。AD変換器43は、アンプ42からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。FPGA44は、デジタル信号から送信用測定データを生成し、送信用測定データを時間に対する波形として制御回路34に出力する。CPU45は、FPGA44からの送信用測定データをメモリ46に保存し、温度センサ21及び温度センサIC47が設けられている場合は、温度センサ21による検出値のデータもメモリ46に保存する。
【0029】
ステップS6において、通信回路35は、FPGA44からの送信用測定データ及び温度センサ21による検出値のデータ又はメモリ46に保存されたデータを外部に無線伝送する。
【0030】
1つのグループに複数の超音波プローブ20が属している場合には、ステップS3~ステップS6を行った後、マルチプレクサ41は、チャンネル1からチャンネル2に切り替えて、チャンネル2に対応する超音波プローブ20に対して超音波の発信及び反射波の受信を行わせ、すなわちステップS3及びステップS4を行い、続いて、ステップS5及びステップS6を行う。1つのグループに3つ以上の超音波プローブ20が属している場合には、マルチプレクサ41はさらに、チャンネル3、チャンネル4のようにチャンネルを順次切り替えて、ステップS3~ステップS6を繰り返す。
【0031】
ステップS7において、通信回路35から無線伝送された信号は、図2に示されるように、アンテナ7a,7bの少なくとも一方に受信される。アンテナ7a,7bの少なくとも一方に受信された信号は、無線親機11に伝送され、コンピュータ12によって取得される。
【0032】
ここで例えば、アンテナ7aしか設けられていない場合、風車翼6の回転位置によっては、パルサレシーバ30から無線伝送された信号をアンテナ7aが受信できない可能性がある。しかし、本実施形態に係る検査方法では、風車翼6の回転方向に沿って異なる位置に2つのアンテナ7a,7bが設けられているので、風車翼6の回転位置がどこであっても、アンテナ7a,7bのいずれかがパルサレシーバ30から無線伝送された信号を受信することができるので、パルサレシーバ30から無線伝送された信号を適切に受信することができる。
【0033】
ステップS8において、コンピュータ12は取得した信号の情報処理を行う。パルサレシーバ30から無線伝送される信号に関し、風車翼6の回転位置によっては、アンテナ7a,7bが受信する信号の受信強度が異なる可能性が高い。そこで、アンテナ7a,7bのそれぞれによって受信された信号を、無線親機11を経由してコンピュータ12が取得した後、コンピュータ12は、それぞれの信号の受信強度を比較し、受信強度の大きい信号を情報処理に使用するようにしてもよい。ここで、受信強度の大きい信号とは、アンテナ7a,7bのいずれか一方によって受信された信号であり得るし、アンテナ7a,7bのそれぞれによって受信された信号を適切な時間間隔で交互に採用したものでもあり得る。これにより、情報処理機器10は、適切に送受信された信号を情報処理できるので、風車翼6の検査精度を向上することができる。
【0034】
図6に示されるように、超音波プローブ20から発信された超音波が風車翼6に反射されて生成した反射波には1次反射波及び2次反射波があることを上述したが、実際にはこれらの他に、2次反射波が内周面6aで反射されてさらに外周面6bで反射された3次反射波、3次反射波がさらに同様の反射によって生成された第4反射波といった無数の反射波が存在し得る。図7は、超音波プローブ20が受信する反射波の波形の一例を模式的に示している。図7には、1次反射波RW1~5次反射波RW5が図示されているが、隣り合う反射波間の時間間隔T1~T4はそれぞれ、原理的には内周面6aから外周面6bまでの距離に応じた同じ時間となる。
【0035】
このような原理に基づいてコンピュータ12(図2参照)は、取得した信号からバックエコーすなわち2次反射波RW2のデータを取出し、バックエコーの強度の経時変化のグラフを作成する。超音波プローブ20(図6参照)ごと、すなわちパルサレシーバ30(図6参照)のチャンネルごとにこのようなバックエコーの経時変化のグラフを作成すれば、バックエコーの位置ごとに強度の経時変化を得ることができる。
【0036】
このようにして得られたバックエコーの位置ごとの強度の経時変化を用いて風車翼6(図6参照)に欠陥等があるか否かを判断してもよいが、バックエコーの強度は温度によって変動するため、風車翼6の内部の空間の温度に基づいてバックエコーの強度を補正することが好ましい。このような補正をすることにより、測定時の温度の違いによるバックエコーの強度の変動を補正できるので、風車翼6の検査精度を向上することができる。
【0037】
バックエコーの強度の温度による補正は、例示的に次のように行うことができる。コンピュータ12は、バックエコーの強度の経時変化を、温度センサ21(図4参照)が検出した風車翼6の内部の空間の温度に基づいて補正する。すなわち、図8において実線で例示的に表されるように風車翼6の内部の空間の温度が変動すると、バックエコーの強度に本来は変動がなかったとしても、図8において点線で例示的に表されるように、バックエコーの強度が風車翼6の内部の空間の温度に応じて変動してしまう。このため、コンピュータ12は、バックエコーの強度を、予め設定された補正値に基づいて補正する。すると、図8において一点鎖線で例示的に表されるように、バックエコーの強度の経時変化から、風車翼6の内部の空間の温度の変動による影響が取り除かれる。尚、温度による補正のための補正値は、事前に実験やシミュレーション等により、風車翼6の内部の空間の温度に基づいた補正前のバックエコーの強度と補正後のバックエコーの強度との偏差から算出しておくことが好ましい。
【0038】
このようにして情報処理された結果に基づいて、ナセル4(図1参照)内でコンピュータ12を使用して風車翼6の検査を行うことができるが、このようにして情報処理された結果を、Wi-Fiルータ13(図2参照)を介して無線送信し、クラウド上の予め指定されたフォルダ(記憶部)に保存することにより、風車翼6の検査を行う者が、常勤するオフィス又は自宅のコンピュータ若しくは携帯するタブレット等からクラウド上に保存された結果にアクセスできるようになる。これにより、風力発電装置1が設けられている現場に出向かなくても、常時どこでも風車翼6の検査を行うことができる。
【0039】
風車翼6の検査は、バックエコーの位置ごとの強度の経時変化に基づいて行うことができる。例えば、あるチャンネルのバックエコーが大きく低下したり消滅したりした場合、その後数日その現象が続くかどうかを監視する。そのような現象が続いていることを確認した場合は、現場に出向いて実地調査を行い、剥離や損傷が見つかれば、適当なタイミングで補修作業が行われる。
【0040】
この実施形態のように、複数のアンテナの位置を風車翼6の回転方向に沿って異なるようにすれば、風車翼6が回転していても信号を適切に送受信することができるが、複数のアンテナを隣り合うようにほぼ同じ位置に設けることもできる。このような場合は、上述した実施形態から得らえる作用効果は得にくいものの、いずれかのアンテナが故障したとしても、他のアンテナが信号を受信できるので、信号を適切に送受信できるといった作用効果を奏することができる。
【0041】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0042】
[1]一の態様に係る検査方法は、
風力発電装置(1)の風車翼(6)の検査方法であって、
前記風力発電装置(1)は、前記風車翼(6)を含むロータヘッド(5)を回転可能に支持するナセル(4)を備え、
前記検査方法は、
前記風車翼(6)の内部の異なる位置に複数の超音波プローブ(20)を取付けるステップと、
前記複数の超音波プローブ(20)を少なくとも1つの超音波プローブ(20)を含むように分けた複数のグループのそれぞれに対して1つずつ設けられたパルサレシーバ(30)であって、前記複数のグループのそれぞれに属する前記少なくとも1つの超音波プローブ(20)と電気的に接続されるようにパルサレシーバ(30)を取付けるステップと、
前記パルサレシーバ(30)が、前記少なくとも1つの超音波プローブ(20)から前記風車翼(6)に超音波を発信させるステップと、
前記超音波が前記風車翼(6)に反射した反射波を前記少なくとも1つの超音波プローブ(20)が受信するステップと、
前記少なくとも1つの超音波プローブ(20)が受信した反射波のデータを、前記少なくとも1つの超音波プローブ(20)に電気的に接続された前記パルサレシーバ(30)が取得するステップと、
前記パルサレシーバ(30)が前記反射波のデータを無線伝送するステップと、
前記ナセル(4)の外部に設けられた少なくとも2つのアンテナ(7a,7b)のうちの少なくとも1つが、無線伝送された前記反射波のデータを受信するステップと、
前記少なくとも2つのアンテナ(7a,7b)に電気的に接続された情報処理機器(10)によって前記反射波のデータが情報処理されるステップと
を含む。
【0043】
本開示の検査方法によれば、パルサレシーバから無線伝送された反射波のデータをいずれかのアンテナが受信することができるので、風力発電装置において風車翼の欠陥に関するデータを適切に送受信することができる。
【0044】
[2]別の態様に係る検査方法は、[1]の検査方法であって、
前記少なくとも2つのアンテナ(7a,7b)は、前記風車翼(6)の回転方向に沿って異なる位置に設けられている。
【0045】
このような検査方法によれば、風車翼の回転によってパルサレシーバがどの位置にあっても、パルサレシーバから無線伝送された反射波のデータをいずれかのアンテナが受信することができるので、風力発電装置において風車翼が回転していても、風車翼の欠陥に関するデータを適切に送受信することができる。
【0046】
[3]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]または[2]の検査方法であって、
前記情報処理機器(10)は、前記少なくとも2つのアンテナ(7a,7b)のうち、前記反射波のデータの受信強度が最も大きいアンテナが受信した前記反射波のデータを情報処理する。
【0047】
このような検査方法によれば、情報処理機器は、適切に送受信された反射波のデータを情報処理できるので、風車翼の検査精度を向上することができる。
【0048】
[4]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]~[3]のいずれかの検査方法であって、
前記情報処理機器(10)は前記ナセル(4)内に設けられている。
【0049】
このような構成によれば、アンテナをナセルの外壁に配置することにより、アンテナと情報処理機器との配線距離を短くすることができる。
【0050】
[5]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]~[4]のいずれかの検査方法であって、
前記複数のグループのうち複数の超音波プローブ(20)を含むグループにおいて、前記パルサレシーバ(30)は、前記複数の超音波プローブ(20)に順番に前記風車翼(6)に前記超音波を発信させ、前記複数の超音波プローブ(20)から順番に、前記超音波が前記風車翼(6)によって反射された反射波のデータを取得する。
【0051】
このような構成によれば、複数の超音波プローブを含むグループであっても1つのパルサレシーバによって各超音波プローブから反射波のデータを取得できるので、設置するパルサレシーバの個数を減らし、検査コストを低減することができる。
【0052】
[6]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]~[5]のいずれかの検査方法であって、
前記情報処理機器(10)は、前記反射波のデータから、バックエコーの位置及び強度を検出する。
【0053】
このような構成によれば、反射波のデータから検出したバックエコーの位置及び強度の変化に基づいて、風車翼に欠陥が生じた可能性を検知することができる。
【0054】
[7]さらに別の態様に係る検査方法は、[6]の検査方法であって、
前記反射波のデータが情報処理されるステップは、
前記風車翼(6)の内部の温度を測定するステップと、
前記バックエコーの強度を前記温度に基づいて補正するステップと
を含む。
【0055】
温度によってバックエコーの強度は変動するが、このような構成によれば、測定時の温度の違いによるバックエコーの強度の変動を補正できるので、風車翼の検査精度を向上することができる。
【0056】
[8]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]~[7]のいずれかの検査方法であって、
前記反射波のデータが情報処理された結果を無線送信して、予め指定された記憶部に記憶させるステップと、
前記記憶部にアクセスして、前記結果を取得するステップと
をさらに含む。
【0057】
このような構成によれば、風力発電装置から離れた場所で、反射波のデータを情報処理した結果を得ることができるので、常時どこでも風車翼の検査を行うことができる。
【0058】
[9]さらに別の態様に係る検査方法は、[1]~[8]のいずれかの検査方法であって、
前記風車翼(6)の内部にシェアウェブ(8)が設けられ、前記パルサレシーバ(30)は前記シェアウェブ(8)に固定されている。
【0059】
このような構成によれば、既存の部品にパルサレシーバを設置できるので、検査コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 風力発電装置
4 ナセル
5 ロータヘッド
6 風車翼
7a アンテナ
7b アンテナ
8 シェアウェブ
10 情報処理機器
20 超音波プローブ
30 パルサレシーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-04-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置の風車翼の検査方法であって、
前記風力発電装置は、前記風車翼を含むロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、
前記検査方法は、
前記風車翼の内部の異なる位置に複数の超音波プローブを取付けるステップと、
前記複数の超音波プローブを少なくとも1つの超音波プローブを含むように分けた複数のグループのそれぞれに対して1つずつ設けられたパルサレシーバであって、前記複数のグループのそれぞれに属する前記少なくとも1つの超音波プローブと電気的に接続されるように前記風車翼の内部にパルサレシーバを取付けるステップと、
前記パルサレシーバが、前記少なくとも1つの超音波プローブから前記風車翼に超音波を発信させるステップと、
前記超音波が前記風車翼に反射した反射波を前記少なくとも1つの超音波プローブが受信するステップと、
前記少なくとも1つの超音波プローブが受信した反射波のデータを、前記少なくとも1つの超音波プローブに電気的に接続された前記パルサレシーバが取得するステップと、
前記パルサレシーバが前記反射波のデータを無線伝送するステップと、
前記ナセルの外部に設けられた少なくとも2つのアンテナのうちの少なくとも1つが、無線伝送された前記反射波のデータを受信するステップと、
前記少なくとも2つのアンテナに電気的に接続された情報処理機器によって前記反射波のデータが情報処理されるステップと
を含み、
前記情報処理機器は、前記反射波のデータから、バックエコーの位置及び強度を検出する検査方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つのアンテナは、前記風車翼の回転方向に沿って異なる位置に設けられている、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記情報処理機器は、前記少なくとも2つのアンテナのうち、前記反射波のデータの受信強度が最も大きいアンテナが受信した前記反射波のデータを情報処理する、請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記情報処理機器は前記ナセル内に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記複数のグループのうち複数の超音波プローブを含むグループにおいて、前記パルサレシーバは、前記複数の超音波プローブに順番に前記風車翼に前記超音波を発信させ、前記複数の超音波プローブから順番に、前記超音波が前記風車翼によって反射された反射波のデータを取得する、請求項1~4のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記反射波のデータが情報処理されるステップは、
前記風車翼の内部の温度を測定するステップと、
前記バックエコーの強度を前記温度に基づいて補正するステップと
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記反射波のデータが情報処理された結果を無線送信して、予め指定された記憶部に記憶させるステップと、
前記記憶部にアクセスして、前記結果を取得するステップと
をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項8】
前記風車翼の内部にシェアウェブが設けられ、前記パルサレシーバは前記シェアウェブに固定されている、請求項1~のいずれか一項に記載の検査方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る検査方法は、風力発電装置の風車翼の検査方法であって、前記風力発電装置は、前記風車翼を含むロータヘッドを回転可能に支持するナセルを備え、前記検査方法は、前記風車翼の内部の異なる位置に複数の超音波プローブを取付けるステップと、前記複数の超音波プローブを少なくとも1つの超音波プローブを含むように分けた複数のグループのそれぞれに対して1つずつ設けられたパルサレシーバであって、前記複数のグループのそれぞれに属する前記少なくとも1つの超音波プローブと電気的に接続されるように前記風車翼の内部にパルサレシーバを取付けるステップと、前記パルサレシーバが、前記少なくとも1つの超音波プローブから前記風車翼に超音波を発信させるステップと、前記超音波が前記風車翼に反射した反射波を前記少なくとも1つの超音波プローブが受信するステップと、前記少なくとも1つの超音波プローブが受信した反射波のデータを、前記少なくとも1つの超音波プローブに電気的に接続された前記パルサレシーバが取得するステップと、前記パルサレシーバが前記反射波のデータを無線伝送するステップと、前記ナセルの外部に設けられた少なくとも2つのアンテナのうちの少なくとも1つが、無線伝送された前記反射波のデータを受信するステップと、前記少なくとも2つのアンテナに電気的に接続された情報処理機器によって前記反射波のデータが情報処理されるステップとを含み、前記情報処理機器は、前記反射波のデータから、バックエコーの位置及び強度を検出する