(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170163
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】航空機の操縦システム
(51)【国際特許分類】
B64C 13/04 20060101AFI20221102BHJP
B64C 13/16 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B64C13/04
B64C13/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076096
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】石坂 仁
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光男
(57)【要約】
【課題】航空機の安全性を向上させる航空機の操縦システムを提供する。
【解決手段】航空機10は、左右の主翼14にそれぞれエンジン20を備える。補助翼1406の起伏状態およびエレベータ1802の起伏状態を調整するための操縦桿31、ラダー1602の揺動状態を調整するためのラダーペダル32、エンジン20の出力を調整するためのスラストレバー33は通常時操作部材を構成する。航空機10は、通常時操作部材とは別個に航空機10の姿勢調整を行う緊急時操作部材40を備える。出力決定部540は、緊急時操作部材40への操作状態に基づいて、左右それぞれのエンジン20の出力量を決定する。出力制御部542は、出力決定部540で決定された出力量に基づいて、左右のエンジン20の出力を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の主翼にそれぞれ同数のエンジンを備える航空機の操縦システムであって、
補助翼の起伏状態およびエレベータの起伏状態を調整するための操縦桿と、
ラダーの揺動状態を調整するためのラダーペダルと、
前記エンジンの出力を調整するためのスラストレバーと、
前記操縦桿、前記ラダーペダルおよび前記スラストレバーと別個に設けられた、前記航空機の姿勢調整を行う姿勢調整操作部材と、
前記姿勢調整操作部材への操作状態に基づいて、それぞれの前記エンジンの出力量を決定する出力決定部と、
前記出力決定部で決定された出力量に基づいて、前記エンジンの出力を制御する出力制御部と、
を備えることを特徴とする航空機の操縦システム。
【請求項2】
前記姿勢調整操作部材は、前記航空機のロール方向の姿勢を調整するための第1の操作部材と、前記航空機の飛行高度を調整する第2の操作部材と、前記航空機のヨー方向の姿勢を調整するための第3の操作部材と、を備え、
前記出力決定部は、前記第1の操作部材への操作、前記第2の操作部材への操作および前記第3の操作部材への操作に対してそれぞれ個別に前記エンジンの出力の増加量を設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の航空機の操縦システム。
【請求項3】
前記出力決定部は、前記第1の操作部材への操作に対して前記第3の操作部材への操作よりも多くの前記増加量を設定する、
ことを特徴とする請求項2記載の航空機の操縦システム。
【請求項4】
前記姿勢調整操作部材に対する操作を有効にする切り替え操作部を更に備え、
前記切り替え操作部への非操作時には前記操縦桿、前記ラダーペダルおよび前記スラストレバーへの操作状態に基づいて前記航空機の姿勢および飛行高度を調整し、前記切り替え操作部への操作時には前記姿勢調整操作部材への操作状態に基づいて前記航空機の姿勢および飛行高度を調整する、
ことを特徴とする請求項2または3のいずれか1項記載の航空機の操縦システム。
【請求項5】
前記出力決定部は、前記切り替え操作部への操作時に前記航空機が水平飛行状態となる前記エンジンの出力である水平飛行時出力を検知し、前記水平飛行時出力に基づいて前記第1の操作部材への操作および前記第3の操作部材への操作に対する前記エンジンの出力の増加量を決定する、
ことを特徴とする請求項4記載の航空機の操縦システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の操縦システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機の操縦は、複数の操縦士(一般には機長および副操縦士の2名)が航空機に搭乗し、交代で操縦業務を行っている。
例えば、下記特許文献1は、航空機の操縦装置の操縦者に適切な操縦感覚を与えることを目的としており、操縦装置は、航空機を操縦するための操縦端と、操作力以外の操縦端に作用する外力を打ち消すオフセット値および操縦端の操作位置に応じた値を反力として操縦端に付与する反力発生装置と、反力発生装置を制御する反力制御部と、を備える。反力制御部は、航空機の姿勢に基づいて操縦端に作用すると算出される外力を打ち消す値をオフセットとして設定する。この構成により、航空機の姿勢が変化しても、操縦者の操縦感覚を一定とすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機には様々な操作部材が設けられており、これらを操縦士が操縦することにより航空機の各部(補助翼やラダー等)が動作し、航空機の姿勢の維持や方向転換を行う。一方で、何らかの原因により操作部材が使用できなくなったり、補助翼等の部材が制御できなくなったりした場合に備えて、航空機の姿勢の維持や方向転換を行うための冗長構成を設けることが望まれる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、航空機の安全性を向上させる航空機の操縦システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、左右の主翼にそれぞれ同数のエンジンを備える航空機の操縦システムであって、補助翼の起伏状態およびエレベータの起伏状態を調整するための操縦桿と、ラダーの揺動状態を調整するためのラダーペダルと、前記エンジンの出力を調整するためのスラストレバーと、前記操縦桿、前記ラダーペダルおよび前記スラストレバーと別個に設けられた、前記航空機の姿勢調整を行う姿勢調整操作部材と、前記姿勢調整操作部材への操作状態に基づいて、それぞれの前記エンジンの出力量を決定する出力決定部と、前記出力決定部で決定された出力量に基づいて、前記エンジンの出力を制御する出力制御部と、を備えることを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記姿勢調整操作部材は、前記航空機のロール方向の姿勢を調整するための第1の操作部材と、前記航空機の飛行高度を調整する第2の操作部材と、前記航空機のヨー方向の姿勢を調整するための第3の操作部材と、を備え、前記出力決定部は、前記第1の操作部材への操作、前記第2の操作部材への操作および前記第3の操作部材への操作に対してそれぞれ個別に前記エンジンの出力の増加量を設定する、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記出力決定部は、前記第1の操作部材への操作に対して前記第3の操作部材への操作よりも多くの前記増加量を設定する、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記姿勢調整操作部材に対する操作を有効にする切り替え操作部を更に備え、前記切り替え操作部への非操作時には前記操縦桿、前記ラダーペダルおよび前記スラストレバーへの操作状態に基づいて前記航空機の姿勢および飛行高度を調整し、前記切り替え操作部への操作時には前記姿勢調整操作部材への操作状態に基づいて前記航空機の姿勢および飛行高度を調整する、ことを特徴とする。
本発明の一実施形態は、前記出力決定部は、前記切り替え操作部への操作時に前記航空機が水平飛行状態となる前記エンジンの出力である水平飛行時出力を検知し、前記水平飛行時出力に基づいて前記第1の操作部材への操作および前記第3の操作部材への操作に対する前記エンジンの出力の増加量を決定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、通常時に航空機を操作する際に用いる操縦桿、ラダーペダル、スラストレバー等の通常時操作部材と別個に、航空機の姿勢調整を行う姿勢調整操作部材を設けたので、通常時操作部材が故障した際に航空機の姿勢の維持や方向転換を行うための冗長構成として姿勢調整操作部材を利用することができ、航空機の安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明の一実施形態によれば、姿勢調整操作部材を用いた姿勢調整は、左右のエンジンの出力量を変更することによって実現するので、補助翼、エレベータ、ラダー等の部材が故障した際にも航空機の姿勢の維持や方向転換を行うことができ、航空機の安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明の一実施形態によれば、航空機のロール方向の姿勢を調整するための第1の操作部材と、航空機の飛行高度を調整する第2の操作部材と、航空機のヨー方向の姿勢を調整するための第3の操作部材と、を備え、それぞれの操作部材への操作に対してそれぞれ個別にエンジンの出力の増加量を設定するので、航空機の姿勢維持や方向転換を確実に行うことができる。
また、本発明の一実施形態によれば、航空機のロール方向の姿勢を調整する第1の操作部材への操作に対して、航空機のヨー方向の姿勢を調整する第3の操作部材への操作よりも多くの出力増加量を設定するので、墜落等のリスクにより大きく関わるロール方向の姿勢をヨー方向の姿勢より優先して安定させることができる。
また、本発明の一実施形態によれば、姿勢調整操作部材に対する操作を有効にする切り替え操作部を更に備え、切り替え操作部への操作の有無に基づいて有効にする操作部材を切り替えるので、通常時と緊急時をより明確に切り替え、安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明の一実施形態によれば、切り替え操作部への操作時に航空機が水平飛行状態となるエンジンの出力である水平飛行時出力を検知し、水平飛行時出力に基づいて第1の操作部材への操作および第3の操作部材への操作に対するエンジンの出力の増加量を決定するので、航空機が水平姿勢を取るためのエンジン出力を確実に検知した上でロール方向およびヨー方向の姿勢調整を行う上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る航空機外観を示す図である。
【
図2】航空機のコックピット内の構成を示す図である。
【
図6】航空機の旋回時における機体姿勢を示す説明図である。
【
図7】水平飛行時における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図8】機体上昇時における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図9】機体下降時における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図10】左傾した機体を水平飛行しながら水平に戻す際における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図11】左傾した機体を機体上昇しながら水平に戻す際における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図12】水平飛行時に右旋回する際における左右エンジンの出力を模式的に示す図である。
【
図13】航空機制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、航空機10は、機体12と、主翼14と、垂直尾翼16と、水平尾翼18と、エンジン20と、コックピット30とを備える。
本実施の形態では、
図4に示すように、機体12の延在方向(前後方向)に沿った軸X1周りの回転をロール(Roll)、機体12の左右方向に沿った軸X2周りの回転をピッチ(Pitch)、機体12の上下方向に沿った軸X3周りの回転をヨー(Yaw)という。
【0010】
機体12は、操縦士を含む乗員および乗客(または貨物)を収容する。
主翼14は、機体12の略中央部から機体12の左右方向に延び、機体12を上昇させる揚力を発生させる。主翼14は、機体12に対して固定されている。
主翼14の上面の中央部付近にはスポイラー1402が設けられている。スポイラー1402は、後述するスピードブレーキレバー34の非操作時は主翼14の表面と平行に伏した状態であるが、スピードブレーキレバー34を操作すると主翼14の表面に対して垂直方向に立ち上がり、空気抵抗により航空機10が減速する。スポイラー1402は、着陸時に急降下する際などに用いられる。
【0011】
また、主翼14の後縁のうち、主翼14の延在方向中央部には、フラップ1404が設けられている。フラップ1404は、後述するフラップレバー35の非操作時は主翼14の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、フラップレバー35を操作するとフラップ1404が主翼14の前後方向の延在方向に対して下側(地表側)に傾き、機体12の揚力が増す。フラップ1404は、離着陸時など低速時において高い揚力を得られるように設けられた高揚力装置である。
【0012】
また、主翼14の後縁のうち、主翼14の延在方向先端部には、補助翼(エルロン)1406が設けられている。補助翼1406は、後述する操縦桿31の非操作時は主翼14の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、操縦桿31を操作すると左右の補助翼1406が主翼14の前後方向の延在方向に対して下側(地表側)または上側(上空側)にそれぞれ傾き、機体12がロール方向に変位する。
【0013】
垂直尾翼16は、機体12の後端部付近から垂直に立設し、機体12のヨー方向の姿勢を安定させる。垂直尾翼16は機体12に対して固定されている。
垂直尾翼16の後縁部には左右方向に移動可能なラダー1602が設けられている。ラダー1602は、後述するラダーペダル32の非操作時は垂直尾翼16の延在方向(≒機体12の延在方向)に沿って伸びているが、ラダーペダル32を操作すると垂直尾翼16の延在方向に対して左右に傾き、機体12の進行方向が左右(ヨー方向)に変化する。
【0014】
水平尾翼18は、機体12の後端部付近から左右方向に延び、機体12のピッチ方向の姿勢を安定させる。水平尾翼18は機体12に対して固定されている。
水平尾翼18の後縁部には上下方向に移動可能なエレベータ1802が設けられている。エレベータ1802は、操縦桿31の非操作時は水平尾翼18の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、操縦桿31を前後方向に操作すると水平尾翼18の延在方向に対して上下に傾き、機体12の先頭部(機首)が上下(ピッチ方向)に変位する。
【0015】
すなわち、本実地の形態では、補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602が航空機10の機体12の姿勢調整を行なう姿勢調整部材として設けられている。
【0016】
エンジン20は、航空機10の飛行に必要な推進力を発生させる。本実施の形態では、左右の主翼14に各1つ、合計2つのエンジン20が設けられている。
また、本実施の形態では、エンジン20は、燃料の熱エネルギーをピストンの往復運動に変換し、回転運動として出力するレシプロエンジンであるものとする。エンジン20の前方にはプロペラ22が配置されており、プロペラ22は、エンジン20から出力された回転運動により回転し、航空機10の飛行に必要な推進力を発生させる。
【0017】
コックピット30は、機体12の内部前端部に設けられ、航空機10の操作部材が設けられている。
図2に示すように、コックピット30には、操縦士が着席する操縦席300と、モニタや各種計器類等が設けられたコントロールパネル302と、通常時操作部材を構成する操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35、緊急時操作部材40である緊急ボタン41、左右傾き調整レバー42、飛行高度調整レバー44、左右旋回レバー46が設けられている。
【0018】
通常時操作部材31、32、33、34、35は、通常時(緊急時以外)に航空機10の被操作部材の操縦を行なうために操縦士によって操縦される部材である。
なお、操縦席300、操縦桿31およびラダーペダル32は、機長および副操縦士用に2つずつ設けられている。
また、コックピット30には、
図2に挙げた操作部材の他にも、例えば車輪格納用レバーなど、様々な操作部材が設けられているが、本実施の形態では代表的な操作部材について説明する。
【0019】
操縦桿31は、航空機10の姿勢を操縦するための機構であり、より詳細には、操縦桿31は、補助翼1406の起伏状態およびエレベータ1802の起伏状態を調整するための操作部材である。
操縦桿31は、床面から立設する揺動軸3100と、揺動軸3100の先端に取り付けられた被把持部3102と、揺動軸3100と被把持部3102とを接続する接続部3104とを備える。操縦士が航空機10の操縦を行う際には、被把持部3102を把持して操縦を行う。
【0020】
被把持部3102は、接続部3104内に設けられた図示しない回転軸を中心に回転可能である。すなわち、接続部3104は、被把持部3102を回転軸周りに回転可能とする回動部として機能し、被把持部3102を右方向(時計周り)または左方向(反時計周り)に回転可能である。被把持部3102の回転状態は、図示しない回転センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
【0021】
被把持部3102を右方向に回転させると、航空機制御部50(より詳細には通常時飛行制御部52)は、航空機10の右側の主翼14の補助翼1406を上げるとともに、航空機10の左側の主翼14の補助翼1406を下げる。これにより、機体12はロール軸回りを右側に傾き(右翼が下方向に傾き)、航空機10は右旋回する。
また、被把持部3102を左方向させると、航空機制御部50は、航空機10の左側の主翼14の補助翼1406を上げるとともに、航空機10の右側の主翼14の補助翼1406を下げる。これにより、機体12はロール軸回りを左側に傾き(左翼が下方向に傾き)、航空機10は左旋回する。
すなわち、操縦桿31は、航空機10のロール方向の姿勢を調整する操作部材として機能する。
【0022】
また、操縦桿31の揺動軸3100は、機体12の前後方向に揺動可能である。揺動軸3100の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
被把持部3102を前方向に移動させて(押し出して)揺動軸3100を前側に傾けると、航空機制御部50は、エレベータ1802の後方側を下げる。これにより、航空機10の機首が下がる。また、被把持部3102を後ろ方向に移動させて(引き寄せて)揺動軸3100を後ろ側に傾けると、航空機制御部50は、エレベータ1802の前方側を下げる。これにより、航空機10の機首が上がる。
すなわち、操縦桿31は、航空機10のピッチ方向の姿勢を調整する操作部材として機能する。
【0023】
ラダーペダル32は、航空機の進行方向を操縦するための機構であり、より詳細には、ラダーペダル32は、ラダーの揺動状態を調整するための操作部材である。
ラダーペダル32は、操縦席300近傍の床面近くに設けられる。ラダーペダル32の踏み込み量は、図示しない踏み込み量センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
【0024】
図1に示すように、ラダーペダル32は、操縦桿31の左右に一つずつ設けられている。操縦士から見て右側に位置する右側ラダーペダル32Aを踏み込むと、航空機制御部50は、垂直尾翼16のラダー1602に右側に傾ける。これにより、機体12がヨー軸周りに時計回りに回転し、右側に旋回する。また、操縦士から見て左側に位置する左側ラダーペダル32Bを踏み込むと、航空機制御部50は、垂直尾翼16のラダー1602を左側に傾ける。これにより、機体12がヨー軸周りに反時計回りに回転し、左側に旋回する。
すなわち、ラダーペダル32は、航空機10のヨー方向の姿勢を調整する操作部材として機能する。
【0025】
上述のように、操縦桿31を左右に傾けることによっても補助翼1406の作用により左右に旋回するが、操縦桿31またはラダーペダル32(ラダー1602)のいずれかのみを用いた旋回は、回転方向の加速度が大きくなり、搭乗者に不快を与えることになる。よって、通常の旋回時には、操縦桿31の左右回転操作およびラダーペダル32の踏み込み操作をバランスよく組み合わせることが必要となる。
【0026】
スラストレバー33は、エンジン20の出力を調整するための操作部材である。
一般に、スラストレバー33はエンジン20の数だけ設けられている。本実施の形態では、エンジン20が2つ設けられているため、スラストレバー33も2つ設けられている。2つ並んだスラストレバー33のうち、操縦士から見て右側に位置するスラストレバー33Aは右側の主翼14に取り付けられたエンジン20用のスラストレバーであり、操縦士から見て左側に位置するスラストレバー33Bは左側の主翼14に取り付けられたエンジン20用のスラストレバーである。
【0027】
スラストレバー33は、左右の操縦席の間に設けられたセンターコンソール304に設けられている。スラストレバー33は、センターコンソール304に設けられた切り欠きから露出し、機体12の前方向に揺動可能に設けられた揺動軸3300と、揺動軸3300の先端に設けられ手により把持される被把持部3302とを備えている。
【0028】
スラストレバー33は、中立位置から機体12の前方の範囲に傾倒可能に設けられている。スラストレバー33の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、スラストレバー33の前傾が大きくなるほど(基準位置からの揺動角度が大きくなるほど)、エンジン20の出力を大きくする。これにより、航空機10の飛行速度が速くなる。また、航空機制御部50は、スラストレバー33の前傾が小さくなるほど(基準位置からの揺動角度が小さくなるほど)、エンジン20の出力を小さくする。
【0029】
スピードブレーキレバー34は、スポイラー1402の姿勢を調整するための機構である。
スピードブレーキレバー34は、スラストレバー33と同様にセンターコンソール304(操縦パネル)に設けられている。スピードブレーキレバー34は、センターコンソール304に設けられた切り欠きから露出し、機体12の後方向に揺動可能に設けられた揺動軸3400と、揺動軸3400の先端に設けられ手により把持される被把持部3402とを備えている。
【0030】
スピードブレーキレバー34は、中立位置から機体12の後方の範囲に傾倒可能に設けられている。すなわち、スピードブレーキレバー34の傾倒方向はスラストレバー33と逆になる。スピードブレーキレバー34の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、スピードブレーキレバー34が引かれると、その傾斜角度に比例して、主翼14上に設けられたスポイラー1402を立ち上げる。これにより、航空機10にかかる空気抵抗が増し、航空機10の飛行速度が遅くなる。
【0031】
フラップレバー35は、フラップ1404の姿勢を調整するための機構である。
フラップレバー35は、スラストレバー33と同様にセンターコンソール304に設けられている。フラップレバー35は、センターコンソールに設けられた切り欠きから露出し、機体12の後方向に揺動可能に設けられた揺動軸3500と、揺動軸3500の先端に設けられ手により把持される被把持部3502とを備えている。
【0032】
フラップレバー35は、中立位置から機体12の後方の範囲に傾倒可能に設けられている。すなわち、フラップレバー35の傾倒方向はスラストレバー33と逆になる。フラップレバー35の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、フラップレバー35が引かれると、その傾斜角度に比例して主翼14の後端部に設けられたフラップ1404を地面方向に下げる。これにより、航空機10の揚力が増し、例えば着陸のために航空機10の飛行速度を落とした際にも揚力を維持することが可能となる。
【0033】
また、コックピット30には、上述した操縦桿31、ラダーペダル32、スラストレバー33等の通常時操作部材と別個に、航空機10の姿勢調整を行う姿勢調整操作部材、すなわち緊急時操作部材40が設けられている。
本実施の形態では、緊急時操作部材40は、コントロールパネル302の左右の端部に配置されている。緊急時操作部材40は、例えば通常時操作部材の故障や被操作部材である補助翼1406、ラダー1602、スポイラー1402、フラップ1404(エンジン20を除く)の故障等により、通常の操縦ができなくなった場合に備えたバックアップ操作機構である。
【0034】
緊急時操作部材40は、左右傾き調整レバー42、飛行高度調整レバー44、左右旋回レバー46を備える。また、緊急時操作部材40の近傍には緊急ボタン41が設けられている。
緊急ボタン41は、緊急時操作部材40を用いた操縦のオンオフを切り替えるための操作部材である。本実施の形態では、後述する航空機制御部50は、緊急ボタン41が押下されていない時(通常時)には、通常時操作部材である操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35を用いた航空機10の操縦を受け付け、緊急時操作部材40が操作されても当該操作を無視する。また、緊急ボタン41が押下されている時は、緊急時操作部材40である左右傾き調整レバー42、飛行高度調整レバー44、左右旋回レバー46を用いた航空機10の操縦を受け付け、操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35への操作は無視する。
すなわち、緊急ボタン41は、緊急時操作部材40(姿勢調整操作部材)に対する操作を有効にする切り替え操作部として機能する。
【0035】
左右傾き調整レバー42は、航空機10の左右の傾き、すなわちロール方向の姿勢を調整するための操作部材である。
左右傾き調整レバー42は、
図5に示すように、コントロールパネル302に設けられた切り欠き302Aから露出し、左右方向に揺動可能に設けられた揺動軸4202と、揺動軸4202の先端に設けられ手により把持される被把持部4200とを備えている。切り欠き302Aは、揺動軸4202の揺動方向(左右方向)に沿って設けられている。
左右傾き調整レバー42は、中立位置から左右に傾倒可能に設けられており、左右傾き調整レバー42の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50(より詳細には緊急時飛行制御部54)は、左右傾き調整レバー42が右側に傾けられると、機体12が右側に傾くように(右翼が地面に近くなるように)エンジン20の出力を調整する。また、航空機制御部50は、左右傾き調整レバー42が左側に傾けられると、機体12が左側に傾くように(左翼が地面に近くなるように)エンジン20の出力を調整する。
すなわち、左右傾き調整レバー42は、航空機10のロール方向の姿勢を調整するための第1の操作部材として機能する。
【0036】
飛行高度調整レバー44は、航空機10の上下方向の位置、すなわち飛行高度(ピッチ方向の姿勢)を調整するための操作部材である。
飛行高度調整レバー44の構成は、左右傾き調整レバー42とほぼ同一であるため、
図5を用いて説明する。飛行高度調整レバー44は、コントロールパネル302に設けられた切り欠き302Aから露出し、左右方向に揺動可能に設けられた揺動軸4402と、揺動軸4402の先端に設けられ手により把持される被把持部4400とを備えている。切り欠き302Aは、揺動軸4402の揺動方向(上下方向)に沿って設けられている。
飛行高度調整レバー44は、中立位置から上下に傾倒可能に設けられており、飛行高度調整レバー44の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50(より詳細には緊急時飛行制御部54)は、飛行高度調整レバー44が上側に傾けられると、機体12が高度を上昇させるようにエンジン20の出力を調整する。また、航空機制御部50は、飛行高度調整レバー44が左側に傾けられると、機体12が高度を下降させるエンジン20の出力を調整する。また、飛行高度調整レバー44が中立位置にある場合、航空機制御部50は、機体12が水平飛行するようにエンジン20の出力を調整する。
すなわち、飛行高度調整レバー44は、航空機10の飛行高度を調整する第2の操作部材として機能する。
【0037】
左右旋回レバー46は、航空機10の左右方向の旋回量、すなわちヨー方向の姿勢を調整するための操作部材である。
左右旋回レバー46の構成は、左右傾き調整レバー42とほぼ同一であるため、
図5を用いて説明する。左右旋回レバー46は、コントロールパネル302に設けられた切り欠き302Aから露出し、左右方向に揺動可能に設けられた揺動軸4602と、揺動軸4602の先端に設けられ手により把持される被把持部4600とを備えている。切り欠き302Aは、揺動軸4602の揺動方向(左右方向)に沿って設けられている。
左右旋回レバー46は、中立位置から左右に傾倒可能に設けられており、左右旋回レバー46の揺動状態は、図示しない揺動センサによって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50(より詳細には緊急時飛行制御部54)は、左右旋回レバー46が右側に傾けられると、機体12が右側に旋回するようにエンジン20の出力を調整する。また、航空機制御部50は、左右旋回レバー46が左側に傾けられると、機体12が左側に旋回するようにエンジン20の出力を調整する。
すなわち、左右旋回レバー46は、航空機10のヨー方向の姿勢を調整するための第3の操作部材として機能する。
【0038】
なお、
図2に示す緊急時操作部材40のうち、右側の操縦席300側に設置されたものは、左右傾き調整レバー42、飛行高度調整レバー44および左右旋回レバー46がそれぞれ独立している。すなわち、左右傾き調整レバー42および左右旋回レバー46は、それぞれ左右方向に揺動可能なレバー部材として設けられ、飛行高度調整レバー44は上下方向に揺動可能なレバー部材として設けられている。
一方、左側の操縦席300側に設置されたものは、左右傾き調整レバー42と飛行高度調整レバー44が一体となった十字型のレバー48が設けられており、これに加えて左右旋回レバー46が設けられている。すなわち、左右傾き調整レバー42および飛行高度調整レバー44は上下左右方向に揺動可能な十字型のレバー48として設けられており、左右旋回レバー46は左右方向に揺動可能な一文字型のレバーとして設けられている。このような構成とするのは、緊急時に航空機10の姿勢を安定させるに当たって、左右の傾きおよび飛行高度の調整を最優先で行うことが望ましく、左右の旋回については、左右の傾きおよび飛行高度が安定した状態で調整すればよいためである。左右傾き調整レバー42と飛行高度調整レバー44が一体となった十字型のレバー48と、左右旋回レバー46とを設けることによって、機体操縦の優先順位が明確となり、緊急時における操縦を支援することができる。
【0039】
図3に示すように、航空機10は、上述した被操作部材である補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602、エンジン20、スポイラー1402、フラップ1404、通常時操作部材である操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35、緊急時操作部材40である緊急ボタン41、左右傾き調整レバー42、飛行高度調整レバー44、左右旋回レバー46の他、航空機制御部50を備える。
【0040】
航空機制御部50は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、航空機各部とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
航空機制御部50は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、通常時飛行制御部52および緊急時飛行制御部54として機能する。
【0041】
通常時飛行制御部52は、通常時(緊急ボタン41の非操作時)において、通常時操作部材31、32、33、34、35の操作量に基づいて、被操作部材を制御する。
すなわち、通常時飛行制御部52は、操縦桿31の被把持部3102の回転量に基づいて補助翼1406を上げ下げし、この結果、航空機10のロール方向の姿勢が調整される。
また、通常時飛行制御部52は、操縦桿31の揺動軸3100の揺動量に基づいてエレベータ1802を上げ下げし、この結果、航空機10のピッチ方向の姿勢が調整される。
また、通常時飛行制御部52は、ラダーペダル32の踏み込み量に基づいてラダー1602を左右に傾け、この結果、航空機10のヨー方向の姿勢が調整される。
また、通常時飛行制御部52は、スラストレバー33の揺動量に基づいてエンジン20の出力を増減させ、この結果、航空機10の飛行速度が調整される。
また、通常時飛行制御部52は、スピードブレーキレバー34の揺動量に基づいてスポイラー1402を上げ下げし、この結果、航空機10の飛行速度が調整される。
また、通常時飛行制御部52は、フラップレバー35の揺動量に基づいてフラップ1404を上げ下げし、この結果、航空機10の揚力が調整される。
【0042】
緊急時飛行制御部54は、緊急時(緊急ボタン41の操作時)において、緊急時操作部材42、44、46(姿勢調整操作部材)の操作状態に基づいて、エンジン20の出力を制御する。すなわち、本実施の形態では、緊急時には被操作部材のうち補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602、スポイラー1402、フラップ1404を用いずに、エンジン20のみを用いて航空機10の飛行高度および姿勢を調整する。
【0043】
すなわち、航空機制御部50は、緊急時操作部材42、44、46(姿勢調整操作部材)に対する操作を有効にする緊急ボタン41(切り替え操作部)への非操作時には操縦桿31、ラダーペダル32およびスラストレバー33等への操作状態に基づいて航空機10の姿勢および飛行高度を調整し、緊急ボタン41(切り替え操作部)への操作時には緊急時操作部材42、44、46(姿勢調整操作部材)への操作状態に基づいて航空機の姿勢および飛行高度を調整する。
【0044】
緊急時飛行制御部54は、出力決定部540および出力制御部542を備える。
出力決定部540は、緊急時操作部材42、44、46(姿勢調整操作部材)への操作状態に基づいて、左右それぞれのエンジン20の出力量を決定する。
出力制御部542は、出力決定部540で決定された出力量に基づいて、左右のエンジン20の出力を制御する。
【0045】
より詳細に出力決定部540によるエンジン出力制御について説明する。
飛行中の航空機10において、気流などの横方向の外力がない場合、左右のエンジン20の出力を等しくすると航空機10は直進する。
このとき、左右のエンジン20の出力を所定の水平飛行出力にすると、航空機10は高度を維持しながら直進する(水平飛行)。この水平飛行出力は、航空機10および乗員・乗客を含めた総重量や機体形状、風向風速、飛行高度などによって変化する。
水平飛行出力より左右のエンジン20の出力を等しく大きくすると、航空機10の高度は上昇する。この時の出力を上昇出力(=水平飛行出力+α)とする。また、水平飛行出力より左右のエンジン20の出力を等しく小さくすると、航空機10の高度は下降する。この時の出力を下降出力(=水平飛行出力-β)とする。上昇出力と下降出力も、航空機10および乗員・乗客を含めた総重量や機体形状、風向風速、飛行高度などによって変化する。
【0046】
また、例えば左右のエンジン20のうち一方の出力のみを増加させると、速度差により左右翼にかかる揚力の差が生じ、機体12に傾きが生じる。例えば右翼側のエンジン20の出力のみを増加させると、右翼が上方に上がり、機体12は左側に傾く。例えば気流などの影響で機体12が左右いずれかに傾いた場合は、傾いた側と反対側のエンジン20の出力を増加させれば傾きを解消することができる。
また、
図5に示すように、機体12が左に傾斜すると、主翼14に働く揚力(L)の作用線も左に傾き、機体12の重量(W)を支える垂直成分のほか機体12を左に加速させる水平成分(求心力)が生じる。この水平成分と機体12に働く遠心力(F)が釣り合うようにすれば飛行機は左旋回の軌跡を描く。
【0047】
このように、緊急時には、補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602、スポイラー1402、フラップ1404を用いることなく、エンジン20の出力を調整することにより航空機10の飛行高度や傾きの調整、旋回を行うことができる。
出力決定部540は、左右傾き調整レバー42(第1の操作部材)への操作、飛行高度調整レバー44(第2の操作部材)への操作および左右旋回レバー46(第3の操作部材)への操作に対してそれぞれ個別にエンジン20の出力の増減量を設定する。
【0048】
出力決定部540は、航空機10の飛行高度調整にかかるエンジン出力を最優先に設定する。これは、航空機10の左右傾き、飛行高度、左右旋回のうち、墜落等のリスクに直結するのが飛行高度調整であるためである。なお、上述したように、航空機10の飛行高度調整にかかるエンジン出力は航空機10の重量等の要因で決まる。
【0049】
また、出力決定部540は、航空機10の左右傾きの調整(ロール方向の姿勢調整)に対して、左右旋回(ヨー方向の姿勢調整)よりも多くのエンジン出力増加量を設定する。
これは、航空機10の左右傾きと左右方向の姿勢とを比較すると、墜落等のリスクにより関係するのが左右傾きであるためである。このため、航空機10の飛行中に機体12の姿勢を変更する必要がある場合、まず左右傾きを変更してから左右方向の姿勢を修正する。仮に左右傾きの調整のために左右方向がずれたとしても、これを許容し、後から左右方向の姿勢を修正するものとする。
【0050】
以下、一例として
図7に示すように左右のエンジン20の出力を最大出力の60%にした場合に機体12が水平飛行し(水平飛行出力=60%)、
図8に示すように左右のエンジン出力を最大出力の80%にした場合に機体12が上昇し(上昇出力=80%)、
図9に示すように左右のエンジン出力を最大出力の50%にした場合に機体12が下降する(下降出力=50%)ものとする。
【0051】
また、出力決定部540は、左右傾き調整レバー42の操作時(ロール方向の姿勢調整時)には、レバーが操作された方向と反対側のエンジン20の出力を20%増加させる。また、左右旋回レバー46の操作時(ヨー方向の姿勢調整時)にはレバーが操作された方向と反対側のエンジン20の出力を10%増加させる。
すなわち、出力決定部540は、ロール方向の姿勢調整に対してヨー方向の姿勢調整よりも多くのエンジン出力増加量を設定する。
【0052】
例えば水平飛行時(エンジン出力:左右とも60%)に機体12が左に傾いた場合、操縦士は左右傾き調整レバー42を右側に揺動させる。この場合、出力決定部540は、
図10に示すように、右側のエンジン出力は60%に保ったまま左側のエンジン出力のみを80%(+20%)とする。これにより、左翼の揚力が上がり、機体12は水平飛行しながら後方視で時計回りに回転(ローリング)し、機体12の傾きを修正することができる。
【0053】
また、例えば機体上昇時(エンジン出力:左右とも80%)に機体12が左に傾いた場合、操縦士は左右傾き調整レバー42を右側に揺動させる。この場合、出力決定部540は、
図11に示すように、右側のエンジン出力は80%に保ったまま左側のエンジン出力のみを100%(+20%)とする。これにより、左翼の揚力が上がり、機体12は後方視で時計回りに回転(ローリング)し、機体12の傾きを修正することができる。
なお、
図10および
図11のいずれの場合にも機体12が傾く過程で機体12の旋回も生じると考えられるが、機体12の傾きが修正されてから本来の進行方向へと逆旋回させればよい。
【0054】
また、例えば水平飛行時(エンジン出力:左右とも60%)に機体12を右旋回させたい場合、操縦士は左右旋回レバー46を右側に揺動させる。この場合、出力決定部540は、
図12に示すように、右側のエンジン出力は60%に保ったまま左側のエンジン出力のみを70%(+10%)とする。これにより、左翼の揚力が上がり、機体12がやや右に傾くとともに緩やかに右側に旋回する。
なお、航空機10の着陸時には、操縦士は着陸直前に飛行高度調整レバーを下方向に揺動させることにより、一瞬機首を上げ、飛行速度を遅くしてから着地するようにするのが好ましい。
【0055】
図13は、航空機制御部の処理の手順を示すフローチャートである。
航空機制御部50は、航空機10の飛行中に緊急ボタン41が操作されていない場合は(ステップS10:No)、通常時飛行制御部52により通常時操作部材(操縦桿31、ラダーペダル32、スラストレバー33等の)への操作に基づいて航空機10を飛行させる(ステップS12)。
【0056】
一方、緊急ボタン41が操作された場合(ステップS10:Yes)、航空機制御部50は、緊急時操作部材40および緊急時飛行制御部54による飛行に切り替える。
緊急時飛行制御部54の出力決定部540は、まず水平飛行出力、上昇出力および下降出力を検知する(ステップS14)。
出力決定部540は、例えばエンジン20の出力を数パーセントずつ増減させるとともに、高度計の検出値などを用いて航空機10が一定高度で飛行できる出力を水平飛行出力として検知する。
上昇出力および下降出力は、例えばエンジン20の出力を水平飛行出力から数パーセントずつ増減させることにより実際に機体12を上昇または下降させて決定してもよいし、水平飛行出力を基準とした推定値を予め設定しておいてもよい(例えば「上昇出力=水平飛行出力+α」のαの値を航空機10の重量等に基づいて予め決定しておく、など)。
【0057】
つぎに、出力決定部540は、左右傾きの調整時(ロール方向の姿勢調整時)および左右旋回時(ヨー方向の姿勢調整時)におけるエンジン出力の増加量を決定する(ステップS16)。これらの出力増加量は、予め定めた固定値(左右傾きの調整時:+20%、左右旋回時:+10%など)であってもよいし、水平飛行出力や上昇出力に基づいて決定してもよい。水平飛行出力や上昇出力に基づいて出力増加量を決定する場合、例えば上昇出力とエンジン20の最大出力との差分を算出し、その差分の範囲内に出力増加量を決定する。より具体的には、上昇出力が85%の場合には出力増加量の上限は+15%となるので、左右傾きの調整時の出力増加量を+15%、左右旋回時の出力増加量を+7.5%とする、などである。
【0058】
すなわち、出力決定部540は、例えば緊急ボタン41(切り替え操作部)への操作時にまず航空機10が水平飛行状態となるエンジン20の出力である水平飛行時出力を検知し、その後水平飛行時出力に基づいて上昇出力および下降出力(飛行高度調整レバー44への操作に対するエンジン20の出力増減量)を検知し、更に第1の操作部材である左右傾きレバー42の操作および第3の操作部材である左右旋回レバー46の操作に対するエンジン20の出力の増加量を決定する。
【0059】
緊急時操作部材40が操作されると(ステップS18:Yes)、出力決定部540が操作に対応する挙動を実現するためのエンジン出力を決定し、出力制御部542がエンジン20の出力を調整する(ステップS20)。
航空機10が着陸するまでは(ステップS22:No)、ステップS10に戻り、以降の処理を繰り返す。そして、航空機10が着陸すると(ステップS22:Yes)、本フローチャートの処理を終了する。
【0060】
以上説明したように、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、通常時に航空機10を操作する際に用いる操縦桿31、ラダーペダル32、スラストレバー33等の通常時操作部材と別個に、航空機10の姿勢調整を行う姿勢調整操作部材である緊急時操作部材40を設けたので、通常時操作部材が故障した際に航空機の姿勢の維持や方向転換を行うための冗長構成として緊急時操作部材40を利用することができ、航空機10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、緊急時操作部材40を用いた姿勢調整は、左右のエンジン20の出力量を変更することによって実現するので、補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602等の部材が故障した際にも航空機10の姿勢の維持や方向転換を行うことができ、航空機10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、航空機10のロール方向の姿勢を調整するための左右傾き調整レバー42(第1の操作部材)と、航空機10の飛行高度を調整する飛行高度調整レバー44(第2の操作部材)と、航空機10のヨー方向の姿勢を調整するための左右旋回レバー46(第3の操作部材)と、を備え、それぞれの操作部材への操作に対してそれぞれ個別にエンジン20の出力の増加量を設定するので、航空機10の姿勢維持や方向転換を確実に行うことができる。
また、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、航空機10のロール方向の姿勢を調整する左右傾き調整レバー42(第1の操作部材)への操作に対して、航空機10のヨー方向の姿勢を調整する左右旋回レバー46(第3の操作部材)への操作よりも多くの出力増加量を設定するので、墜落等のリスクにより大きく関わるロール方向の姿勢をヨー方向の姿勢より優先して安定させることができる。
また、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、緊急時操作部材40に対する操作を有効にする切り替え操作部である緊急ボタン41を更に備え、緊急ボタン41への操作の有無に基づいて有効にする操作部材を切り替えるので、通常時と緊急時をより明確に切り替え、安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機の操縦システムによれば、緊急ボタン41への操作時に航空機10が水平飛行状態となるエンジン20の出力である水平飛行時出力を検知し、水平飛行時出力に基づいて左右傾き調整レバー42への操作および左右旋回レバー46への操作に対するエンジン20の出力の増加量を決定するので、航空機10が水平姿勢を取るためのエンジン出力を確実に検知した上でロール方向およびヨー方向の姿勢調整を行う上で有利となる。
【0061】
なお、本実施の形態において航空機10は、左右の主翼14に各1つ、合計2つのエンジン20が設けられている双発機であるものとしたが、左右の主翼にそれぞれ同数のエンジンを備える航空機であれば本発明を適用可能である。片方の主翼14に2つ以上のエンジン20が設けられた航空機に本発明を適用する場合、上述した実施の形態における「左側のエンジン20の出力」を「左翼に設けられたエンジンの出力の和」に、「右側のエンジン20の出力」を「右翼に設けられたエンジンの出力の和」に、それぞれ置き換えればよい。
【0062】
10 航空機
12 機体
14 主翼
16 垂直尾翼
18 水平尾翼
20 エンジン
22 プロペラ
30 コックピット
31 操縦桿
32(32A、32B) ラダーペダル
33(33A、33B) スラストレバー
34 スピードブレーキレバー
35 フラップレバー
40 緊急時操作部材(姿勢調整操作部材)
41 緊急ボタン
42 左右傾き調整レバー
44 飛行高度調整レバー
46 左右旋回レバー
50 航空機制御部
52 通常時飛行制御部
54 緊急時飛行制御部
540 出力決定部
542 出力制御部