(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170193
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】流体注入セラピーのためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A61M37/00 514
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021076146
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウラム・パク
(72)【発明者】
【氏名】シャーヒド・ナスィール
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・ペレ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
(57)【要約】
【課題】流体注入セラピーのためのデバイスを提供すること。
【解決手段】本デバイスは、流体注入セラピーのための流体を貯蔵するように構成された流体容器、流体容器から皮膚の中に流体を送達するように構成された内部通路をそれぞれが有する1つまたは複数の中空針、および流体の流れを制御するように構成された、流体容器と1つまたは複数の中空針との間のフィルタを含む注入ユニットと、注入ユニットに着脱可能に装着されて注入ユニットに流体を供給するように構成された充填ユニットとを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体注入セラピーのためのデバイスであって、
前記流体注入セラピーのための流体を貯蔵するように構成された流体容器、
前記流体容器から皮膚の中に前記流体を送達するように構成された内部通路をそれぞれが有する1つまたは複数の中空針、および
前記流体の流れを制御するように構成された、前記流体容器と前記1つまたは複数の中空針との間のフィルタを含む注入ユニットと、
前記注入ユニットに着脱可能に装着されて前記注入ユニットに前記流体を供給するように構成された充填ユニットとを含む、デバイス。
【請求項2】
前記フィルタは、前記1つまたは複数の中空針の前記内部通路への前記流体の流量を制御するために、少なくとも1つの穴またはスリットを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの穴またはスリットおよび前記内部通路が、共に微小流体チャネルを形成する、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記流体容器は、前記流体容器の内部体積を変更するために、膨張可能かつ収縮可能なシェルを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記1つまたは複数の中空針を出る前記流体の流量は、0.1mL/minと60mL/minとの間である、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記フィルタは、0.01μmと10μmとの間の直径を有する1つまたは複数の穴、および/または0.01μmと10μmとの間の幅を有する1つまたは複数のスリットを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記1つまたは複数の中空針は、10μmと150μmとの間の内径を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記1つまたは複数の中空針は、50μmと1,000μmとの間の長さを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記1つまたは複数の中空針は、水溶性または水分散性のプラグを、その端部に有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記充填ユニットは、
大気圧よりも高い圧力を有する前記流体を貯蔵するように構成された流体貯蔵部と、
前記流体貯蔵部から前記注入ユニットに供給される前記流体の前記圧力を制御するように構成された圧力調整器とを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記圧力調整器は、前記流体貯蔵部からの前記流体の前記圧力を低減し、前記低減された圧力の前記流体を前記注入ユニットに供給するように構成される、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記流体注入セラピーは、カルボキシセラピーであり、前記流体は、二酸化炭素である、請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシセラピーなどの流体注入セラピーのためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の上のくまは消費者の大きな関心事であり、いまだに対処されていない問題である。化粧品が唯一の家庭での解決策であるが、多くの人に対して十分に要求を満たすものではない。その一方で、より侵襲的な処置は存在するが、診療所で実行されなければならない。
【0003】
カルボキシセラピーは医療治療であり、医学の様々な分野で成功裏に広く使用されている。たとえば、特許文献1(国際公開第2014/142970号公報)は、CO2ガスを皮膚の中に注入するためのカルボキシセラピーデバイスを開示している。カルボキシセラピーは、CO2の真皮への注入から成り、顔の老化防止において、特にくまの低減に対して非常に高い実績を示す。実際に、くまは、顔深部の解剖学的構造(皮内毛細血管ネットワークなど)、皮膚からの寄与(過度の色素沈着など)、軟部組織の経年劣化(薄い皮膚、または皮膚弛緩による陰りなど)を含む、多様な要因に起因する。多様な要因が、くまの問題を非常に複雑にする。CO2注入は、酸素供給、微小循環の改善、消炎、およびコラーゲン刺激など、複数の便益をもたらし、それらは、上記の多因子の問題に応えることができる。臨床的に観察される美容効果は、目の下の円形色素沈着の改善、すなわち、目の周りを明るくすることである。
【0004】
医療治療において、典型的な注入当たりの容積は、数マイクロリットルと数ミリリットルとの間である。しかしながら、その量のガスは、痛みなど、いくつかの副作用を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/142970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カルボキシセラピーなどの流体注入セラピーにおける痛みなどの副作用を低減することができる、流体注入セラピーのためのデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様は、流体注入セラピーのためのデバイスを提供する。デバイスは、流体注入セラピーのための流体を貯蔵するように構成された流体容器、流体容器から皮膚の中に流体を送達するように構成された内部通路をそれぞれが有する1つまたは複数の中空針、および流体の流れを制御するように構成された、流体容器と1つまたは複数の中空針との間のフィルタを含む注入ユニットと、注入ユニットに着脱可能に装着されて注入ユニットに流体を供給するように構成された充填ユニットとを含む。
【0008】
デバイスの一態様によれば、フィルタは、1つまたは複数の中空針の内部通路への流体の流量を制御するために、少なくとも1つの穴またはスリットを有し得る。
【0009】
デバイスの一態様によれば、少なくとも1つの穴またはスリットおよび内部通路は、共に微小流体チャネルを形成し得る。
【0010】
デバイスの一態様によれば、流体容器は、流体容器の内部体積を変更するために、膨張可能かつ収縮可能なシェルを有し得る。
【0011】
デバイスの一態様によれば、1つまたは複数の中空針を出る流体の流量は、0.1mL/minと60mL/minとの間であり得る。
【0012】
デバイスの一態様によれば、フィルタは、0.01μmと10μmとの間の直径を有する1つまたは複数の穴、および/または0.01μmと10μmとの間の幅を有する1つまたは複数のスリットを有し得る。
【0013】
デバイスの一態様によれば、1つまたは複数の中空針は、10μmと150μmとの間の内径を有し得る。
【0014】
デバイスの一態様によれば、1つまたは複数の中空針は、20μmと1,000μmとの間の長さを有し得る。
【0015】
デバイスの一態様によれば、1つまたは複数の中空針は、水溶性または水分散性のプラグを、その端部に有し得る。
【0016】
デバイスの一態様によれば、充填ユニットは、大気圧よりも高い圧力を有する流体を貯蔵するように構成された流体貯蔵部と、流体貯蔵部から注入ユニットに供給される流体の圧力を制御するように構成された圧力調整器とを含み得る。
【0017】
デバイスの一態様によれば、圧力調整器は、流体貯蔵部からの流体の圧力を低減し、低減された圧力の流体を注入ユニットに供給するように構成され得る。
【0018】
デバイスの一態様によれば、流体注入セラピーは、カルボキシセラピーであり得、流体は、二酸化炭素であり得る。
【0019】
次に、本発明の非限定的で代表的な実施形態について、本発明がより良く理解され得るように添付の図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】第1の実施形態による、非膨張状態にある流体注入セラピーのためのデバイス1の平面図である。
【
図1B】第1の実施形態による、膨張状態にある流体注入セラピーのためのデバイス1の平面図である。
【
図2】第1の実施形態による注入ユニット10の平面図である。
【
図3】第1の実施形態による注入ユニット10の正面図である。
【
図4】
図3の線IV-IVに沿った、第1の実施形態による注入ユニット10の断面図である。
【
図5】第1の実施形態によるフィルタ18の斜視図である。
【
図6】注入ユニット10を使用して皮膚Sの中にCO
2ガスを注入する方法の概略図である。
【
図7】第2の実施形態によるフィルタ18の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以後、本発明の実施形態について、詳細に説明する。XYZ座標系が、図に示すように定義されるが、これは、本発明を限定することを意図するものではない。
【0022】
CO2ガスを皮膚の中に注入するためのカルボキシセラピーデバイスについて、例を通して以下で説明する。しかしながら、注入されるべき流体は、CO2に限定されず、N2O、NO、O2もしくはH2などのガス、混合ガス、液体、混合液、医療用溶液、もしくは他の流体、またはそれらの組合せであってもよい。
【0023】
[第1の実施形態]
(流体注入セラピーのためのデバイス)
第1の実施形態による流体注入セラピーのためのデバイス1について、
図1A~
図6を参照しながら説明する。第1の実施形態に従って、
図1Aは、非膨張状態にあるカルボキシセラピーのためのデバイス1の平面図であり、
図1Bは、膨張状態にあるカルボキシセラピーのためのデバイス1の平面図である。
【0024】
図1Aおよび
図1Bを参照すると、デバイス1は、注入ユニット10と充填ユニット50とを含む。注入ユニット10および充填ユニット50は、互いに着脱可能に装着される。代わりに、注入ユニット10および充填ユニット50は、一体的に形成されてもよい。デバイス1は、充填ユニット50から注入ユニット10にCO
2ガスを供給することによって、
図1Aにおける非膨張状態から
図1Bにおける膨張状態に変形される。
【0025】
(注入ユニット10)
図2は、第1の実施形態による、非膨張状態における注入ユニット10の平面図である。
図3は、第1の実施形態による注入ユニット10の正面図である。
図4は、
図3の線IV-IVに沿った、第1の実施形態による注入ユニット10の断面図である。
【0026】
図2および
図4を参照すると、注入ユニット10は、内部にCO
2ガスを貯蔵し、CO
2ガスを皮膚S内に注入するためのパッチデバイスとしてユーザの皮膚Sに適用される。注入ユニット10は、ガス容器12(「流体容器」の一例)と、支持部材14と、中空針16と、フィルタ18と、コネクタ20とを含む。
【0027】
ガス容器12は、注入ユニット10の本体である。ガス容器12の内部空間は、CO2ガスのためのガスチャンバとしての役割を果たす。ガス容器12は、内部にCO2ガスを、たとえば、大気圧よりも高い圧力で貯蔵する。内部圧力は、たとえば、特にCO2ガスに対して、0.1MPa(1バール)と1MPa(10バール)との間、好ましくは0.15MPa(1.5バール)と0.4MPa(4バール)との間、より好ましくは0.15MPa(1.5バール)と0.3MPa(3バール)との間である。ガス容器12の内部に充填される体積は、たとえば、皮膚Sの状態に応じて0.1mLと10mLとの間である。
【0028】
本実施形態では、ガス容器12は、膨張可能かつ収縮可能なシェル13を有し、それにより、ガス容器12は、たとえば、CO
2ガスの供給に応じて増加する内部圧力によって、
図1Bに示すように膨張する。それにより、膨張可能/収縮可能なシェル13は、ガス容器12の内部体積を変更することができ、ガス容器12は、CO
2ガスの様々な圧力に順応する。たとえば、ガス容器12のシェル13は、可塑性エラストマー、シリコーン、またはポリマー層など、可撓性および/または弾性を有する材料で作られる。それに加えて、又はその代わりに、シェル13は、蛇腹構造または任意の膨張可能な構造を有してもよい。またあるいは、ガス容器12は、硬くて膨張できないシェル13を有してもよい。
【0029】
図2および
図4に示すように、非膨張状態におけるガス容器12は、一般に、Y方向に沿った長軸を有する楕円球体の形状を有し、X方向に遠位端12aと近位端12bとを有する。非膨張状態におけるガス容器12は、適用の間にユーザの顔または皮膚Sの上にとどまるのに適するように、X方向に薄くなっている。
図2~
図4に示すように、接着層13aが、注入ユニット10がユーザの顔または皮膚Sの上にとどまるのを助けるために、ガス容器12の遠位端12a上に設けられる。
【0030】
支持部材14は、その上に中空針16を支持するために、ガス容器12の遠位端12aの上に設けられる。たとえば、支持部材14は、たとえば接着剤24を用いて、フィルタ18周りでガス容器12に装着される。接着剤24は、接着層13aの一部であり得る。代わりに、支持部材14は、ガス容器12と一体的に形成されてもよく、またはガス容器12の一部として形成されてもよい。
【0031】
支持部材14は、皮膚Sと接触することになる接触面22を有する。本実施形態では、支持部材14は、適用の間にユーザの皮膚Sの形状に適合するために、可塑性エラストマー、シリコーン、またはポリマー層などの可撓性材料で作られる。
【0032】
図2および
図4に示すように、中空針16は、支持部材14の接触面22の上に設けられる。使用中、中空針16は、皮膚Sに貫通し、中空針16を通して皮膚Sの中にCO
2ガスを送達する。中空針16の各々は円筒形を有し、それは、好ましくは少なくとも部分的に先細である。
【0033】
中空針16の外径は、用途に応じて決定され得る。たとえば、中空針16の外径(たとえば、最大外径)は、40μmと200μmとの間である。たとえば、中空針16の外径は、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、または100μm以上であり、かつ190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、または150μm以下であり得る。中空針16の外径が小さすぎる場合、針16は、皮膚Sに挿入している間に容易に壊れるであろう。その一方で、中空針16の外径が大きすぎる場合、針16は痛みを生じるであろう。本実施形態では、中空針16は、中空の極微針である。
【0034】
注入ユニット10は、1つまたは複数の中空針16を有することができる。たとえば、16本の中空針16が、
図3に示されている。中空針16の数は、1、2、3、4、6、8、9、12、16、25、36または任意の他の数であり得る。複数の中空針16は、接触面22の上に、規則的にまたは不規則に(ランダムに)配置され得る。CO
2ガスは迅速かつ効果的に拡散するため、使用中に十分な量のCO
2ガスを皮膚Sの中に供給するのに、単一の中空針16で十分であるので、注入ユニット10は、複数の中空針16を有する必要はないことに留意されたい。
【0035】
図4に示すように、中空針16の各々は、内部通路26と、内部通路26の中の水溶性または水分散性のプラグ28とを有する。
【0036】
内部通路26は、中空針16の各々を貫通して、フィルタ18の穴30を通してガス容器12の内部のガスチャンバと連通している。内部通路26は、CO2ガスがガス容器12から内部通路26を通過するのを可能にする。
【0037】
内部通路26の直径、すなわち中空針16の内径は、用途に応じて決定され得る。たとえば、内部通路26の直径は、10μmと150μmとの間である。たとえば、内部通路26の直径は、20μm以上、30μm以上、40μm以上、または50μm以上であり、かつ140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、または100μm以下であり得る。内部通路26の直径が小さすぎる場合、それは、CO2ガスの注入を完了するために多くの時間がかかるであろう。その一方で、内部通路26の直径が大きすぎる場合、中空針16の総直径が大きすぎて痛みを生じるであろう。内部通路26の直径は、一定である必要はなく、たとえば、内部通路26の長手方向に沿って変化してもよい。
【0038】
中空針16の長さは、目標深さに応じて決定され得る。たとえば、中空針16は、20μmと1,000μmとの間の長さを有し、美容用途に対して、角質層S1または表皮S2(
図6参照)などの皮膚Sの薄い層の中にガスを送達するために、中空針16は50μmと250μmとの間の長さを有し得る。それにより、中空針16は、真皮S3などの深い層にではなく、角質層S1または表皮S2などの浅い層に挿入されるので、50μmと250μmとの間の長さを有する中空針16を有する注入ユニット10は、ユーザの痛みを低減することができる。もし中空針16の長さが長すぎると、中空針16によって痛みが生じるであろう。一方、もし中空針16の長さが短すぎると、中空針16を皮膚Sに挿入することが難しくなるであろう。
【0039】
水溶性または水分散性のプラグ28は、内部通路26の内部のCO2ガスが外に漏れるのを防止するために、内部通路26の遠位端をブロックする。水溶性または水分散性のプラグ28は、水溶性または水分散性の材料、たとえば、水溶性または水分散性のポリマーで作られる。たとえば、水溶性または水分散性の材料は、ヒアルロン酸、中性単糖類、二糖、オリゴ糖、多糖、デキストリン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)、ポリビニルピロリドン、ポリ(メチル/ビニルエーテル/マレイン酸)(PMVE/MA)、加水分解コラーゲン、およびそれらのエステル、ならびにポリ(メチル/ビニルエーテル/無水マレイン酸)(PMVE/MAH)で構成されるグループから選択される少なくとも1つである。したがって、中空針16が皮膚Sに挿入されるとき、水溶性または水分散性のプラグ28は、水または体液中に溶解され、それにより、中空針16の内部のCO2ガスが、皮膚S内に放出される。
【0040】
水溶性または水分散性のプラグ28以外の中空針16の材料は、たとえば、ステンレス鋼などの金属、シリコーン化合物、生分解性ポリマー、熱可塑性樹脂、水溶性ポリマーである。生分解性ポリマーは、たとえば、ポリグリコール酸(PGA)またはポリ乳酸(PLA)である。熱可塑性樹脂は、たとえば、医療用シリコーン、ポリマー材料、紫外線硬化樹脂、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、または環状オレフィンコポリマーである。水溶性ポリマーは、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、プルラン、アルギン酸塩、ペクチン、キトサン、キトサンサクシナミド、またはオリゴキトサンである。
【0041】
図4に示すように、フィルタ18は、ガス容器12の遠位端12aに設けられる。たとえば、ガス容器12の遠位端12aは、フィルタ18を装着するための開口を有する。フィルタ18は、多孔質膜、膜、または板などの薄い部材であり、部材を通る少なくとも1つの穴30を有する。フィルタ18は、ガス容器12の内部通路26への出口をカバーすることができ、CO
2ガスは、フィルタ18を通過することができる。フィルタ18は、ガス容器12からフィルタ18を通るCO
2ガスの流れを遅くするかまたは制限することができる。
【0042】
図5は、第1の実施形態によるフィルタ18の斜視図である。
図5に示すように、第1の実施形態によるフィルタ18は、複数の穴30を有する。穴30は、CO
2ガスが穴30を通過することを可能にするが、フィルタ18は、穴30の小さい断面積によって、CO
2ガスがガス容器12から内部通路26に進むのを部分的にブロックする。
【0043】
フィルタ18の厚さは、用途に応じて決定され得る。たとえば、フィルタ18の厚さは、50μmと数ミリメートルとの間、好ましくは50μmと500μmとの間である。フィルタ18の数は、1つに限定されるものではなく、複数のフィルタが、CO2ガスの最適流量を達成するために設けられてもよい。
【0044】
穴30の直径は、目標流量に応じて決定され得る。たとえば、穴30の直径は、0.01μmと10μmとの間である。たとえば、穴30の直径は、0.02μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、0.2μm以上、0.5μm以上、または1μm以上であり、かつ9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、または5μm以下である。
【0045】
フィルタ18の材料は、注入予定の流体に応じて適切に決定され得る。たとえば、フィルタ18は、織布フィルタ、メンブレンフィルタ、またはポリマー、金属ワイヤなどで作られた多孔質材料フィルタであり得る。フィルタ18の材料は、特に限定されるものではなく、紙、ポリマー、金属、またはセラミックを含み得る。たとえば、フィルタ18は、ナイロン、PES(ポリエーテルスルホン)、またはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)で作られてもよい。
【0046】
フィルタ18の穴30および中空針16の内部通路26は、共に流体チャネルを形成する。ガス容器12内のCO2ガスは、穴30を通過し、内部通路26の各々に分配されて、中空針16から外に出る。CO2を適用する場合、穴30および内部通路26は、微小規模において設計され、それにより共に微小流体チャネル32を形成することが好ましい。この微小流体チャネル32は、追加の入力なしに、中空針16を出るCO2ガスの流量を制御するために流体抵抗を与える。
【0047】
出ていくCO2ガスの流量は、用途に応じて微小流体チャネル32の設計によって決定され得る。たとえば、中空針16を出ていくCO2ガスの流量は、0.1mL/minと60mL/minとの間である。たとえば、CO2ガスの流量は、0.2mL/min以上、0.5mL/min以上、1mL/min以上、2mL/min以上、5mL/min以上、または10mL/min以上であり、かつ55mL/min以下、50mL/min以下、45mL/min以下、40mL/min以下、35mL/min以下、または30mL/min以下である。CO2ガスの流量が小さすぎる場合、それは、CO2ガスの注入を完了するために多くの時間がかかるであろう。その一方で、CO2ガスの流量が大きすぎる場合、CO2ガスの速い注入が、皮膚の膨張をもたらすことがあり、さらなる悪影響をもたらすことがある。
【0048】
コネクタ20は、ガス容器12を充填ユニット50の一方向弁66に接続し、充填ユニット50がCO2ガスをガス容器12の中に充填することを可能にする。コネクタ20は、ガス容器12の近位端12b上に設けられた硬い円筒部である。任意の既知の接続機構が、コネクタ20に対して可能である。
【0049】
注入ユニット10は、完全に1回使用のユニットで使い捨てであり得る。あるいは、支持部材14が、ガス容器12に着脱可能に装着され、ガス容器12から分離されて廃棄される場合がある。そのような場合、支持部材14は1回使用の部品であり、中空針16とともに使い捨てであり得る。ガス容器12は、支持部材14および中空針16を処分することによって繰り返し使用され得るので、費用効率が高い。支持部材14および中空針16が効果的な殺菌を受ける限り、それらを複数回使用することも可能である。
【0050】
(充填ユニット50)
図1Aに戻って参照すると、充填ユニット50は、内部にCO
2ガスを貯蔵し、CO
2ガスを注入ユニット10内に充填する。充填ユニット50は、ガス貯蔵部52と圧力調整器54とを含む。
【0051】
ガス貯蔵部52は、ガスの使用法によって変動する高圧(たとえば、数MPaまたは数十MPa以上)のCO2ガスを貯蔵するためのカートリッジである。従来の交換可能なガスシリンダが、ガス貯蔵部52として使用され得る。
【0052】
ガス貯蔵部52は、圧力調整器54に着脱可能に接続される。圧力調整器54は、ガス貯蔵部52からガス容器12にCO2ガスを送達するとともに、送達されたCO2ガスの圧力を調整する。圧力調整器54は、ガス容器12送達供給されるべきCO2ガスの圧力が一定になるように制御し、ガス貯蔵部52からのCO2ガスの圧力を、ガス容器12に対する供給圧力まで低減させる。供給圧力は、用途に応じて決定され得る。たとえば、供給圧力は、0.15MPa(1.5バール)と0.4MPa(4バール)との間である。それにより、圧力調整器54は、CO2ガスの圧力を一貫して維持し、適度な圧力のCO2ガスをガス容器12に着実に供給することができる。
【0053】
図1Aに示すように、圧力調整器54は、圧力表示器60、操作ユニット62、注入スイッチ64、一方向弁66、およびガス貯蔵部コネクタ68を含む。
【0054】
圧力表示器60は、ガス容器12に供給されるCO2ガスの圧力を視覚的に示す。ユーザは、圧力表示器60の圧力表示をチェックすることによって供給圧力を制御することができる。
【0055】
操作ユニット62は、ユーザが供給圧力を調整するためのユニットである。たとえば、操作ユニット62は、
図1Aに示すように、手動ダイアル部材として具体化され得る。
【0056】
注入スイッチ64は、ユーザがCO
2ガスのガス容器12への注入を起動/停止するためのユニットである。たとえば、注入スイッチ64は、
図1Aに示すように、手動ボタンとして具体化され得る。たとえば、注入スイッチ64は、ユーザが注入スイッチ64を押したときにCO
2ガスのガス容器12への注入を起動し、ユーザが注入スイッチ64を解放したときに注入を停止するためのボタンとして構成され得る。
【0057】
一方向弁66は、一方向、すなわち
図1Aにおいて+X方向にのみ、CO
2ガスが一方向弁66を通過することを可能にする。具体的には、一方向弁66は、ガス貯蔵部52からのCO
2ガスが一方向弁66を通過する(+X方向)ことを可能にするが、ガス容器12からのCO
2ガスが一方向弁66を通過する(-X方向)ことを妨げる。それにより、一方向弁66は、-X方向におけるCO
2ガスの逆流を妨げることができる。
【0058】
ガス貯蔵部コネクタ68は、ガス貯蔵部52を圧力調整器54に接続する。任意の既知の接続機構が、ガス貯蔵部コネクタ68に対して可能である。
【0059】
(流体注入セラピーのためのデバイスを使用する方法)
本実施形態によるデバイス1を使用する方法について、以下で説明する。
【0060】
図1Aに示すように、ユーザは、最初に、圧力調整器54の一方向弁66に注入ユニット10のコネクタ20を装着して、デバイス1を組み立てる。ユーザは、同じく、ガス貯蔵部52をガス貯蔵部コネクタ68に装着する。次いで、ユーザは、操作ユニット62および注入スイッチ64によってCO
2ガスの供給圧力を調整し、注入スイッチ64を操作することによってCO
2ガスをガス容器12内に注入する。ガス容器12を必要な量のCO
2ガス(たとえば、0.1mL~10mL)で充填することを完了した後、ユーザは、注入スイッチ64を操作することによってガス容器12へのガス注入を停止する。
図1Bは、CO
2ガスをガス容器12に注入した後の、膨張した状態の注入ユニット10を示す。次いで、ユーザは、携帯用途のために注入ユニット10を充填ユニット50から取り外す。
【0061】
図6は、注入ユニット10を使用して皮膚Sの中にCO
2ガスを注入する方法の概略図である。
図6に示すように、ユーザは、注入ユニット10の接触面22を対象の皮膚Sの近傍に設置する。支持部材14および/またはガス容器12は、皮膚Sの形状に適合する。注入ユニット10を適用する前に、水溶性または水分散性のプラグ28は、ガス容器12の内部のCO
2ガスが漏れるのを防ぐために内部通路26をブロックする。次いで、ユーザは、接触面22および中空針16を皮膚Sに押し付ける。それにより、中空針16が皮膚Sの角質層S1を貫通し、水溶性または水分散性のプラグ28は、水または体液中に溶解される。
【0062】
水溶性または水分散性のプラグ28が溶解した後、CO
2ガスは、中空針16の内部通路26を通ってゆっくりと放出される。注入ユニット10内のCO
2ガスの圧力は、大気圧よりも高いことが必要である。角質層の下層(sub-stratum corneum layer)におけるCO
2ガスは、
図6に示すように、皮膚Sのより深い層に拡散する。
【0063】
上記で説明したように、注入ユニット10の内部の微小流体チャネル32は、表皮S2へのCO2ガスの流量を、たとえば、0.1mL/minと60mL/minとの間になるように制御することができる。これは、従来の技術と比較して比較的ゆっくりとした放出であるので、結果として痛みや不快感が少なくなるかまたは無くなる。その上、中空針16の長さが、従来の技術と比較して比較的短い場合、中空針16は、皮膚Sの浅い深さまで、たとえば、真皮S3までではなく、角質層S1または表皮S2の上部まで、挿入され得る。したがって、それは、痛みまたは不快感がほとんどまたはまったくないという結果をもたらす。中空針16の挿入深さは、針の長さに依存するので、十分な長さを有する中空針16が、真皮S3まで挿入され得ることに留意されたい。
【0064】
合計の治療時間は、たとえば、治療の目的または面積に応じて、数分と数時間との間である。治療の間、注入ユニット10は、皮膚Sに付着する接着層13aによって皮膚S上にとどまることができる。CO2ガスの皮膚Sへの注入が完了した後、ユーザは、注入ユニット10を取り外し、中空針16を有する支持部材14をガス容器12から分離して、衛生のために支持部材14を廃棄する。ユーザは、治療の間に必要に応じて皮膚S上の注入ユニット10の適用位置を変えてもよいことに留意されたい。
【0065】
(効果)
デバイス1によれば、ガス容器12と中空針16との間のフィルタ18は、皮膚Sの浅い深さへのゆっくりとした注入とゆっくりとしたガスの放出を達成するために、ガスの流量を制御することができる。それにより、デバイス1は、カルボキシセラピーなどの流体注入セラピーの副作用、たとえば痛みまたは不快感を低減することができる。このようにして、デバイス1を使用する流体注入セラピーは、既存の処置よりも低い侵襲性でありながら、局所適用よりも顕著に良好な実績と長い持続性とを有することができる。
【0066】
その上、注入ユニット10は、充填ユニット50から着脱可能であるので、注入ユニット10は良好な携行性を有し、手で取り扱うことおよび保持することが容易である。
【0067】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について、以下で説明する。第2の実施形態は、フィルタ18が、穴30の代わりに1つまたは複数のスリット130を有するという点で第1の実施形態と異なる。第1の実施形態と同じ構成の説明は、以下で繰り返さない。
【0068】
図7は、第2の実施形態によるフィルタ18の斜視図である。
図7に示すように、第2の実施形態によるフィルタ18は、1つまたは複数のスリット130を有する。スリット130は、CO
2ガスがスリット130を通過することを可能にするが、フィルタ18は、スリット130がチャネルの流れを制限することによって、CO
2ガスがガス容器12から内部通路26に進むのを部分的にブロックする。
【0069】
スリット130の幅は、目標流量に応じて決定され得る。たとえば、スリット130の幅は、0.01μmと10μmとの間である。たとえば、スリット130の幅は、0.02μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、0.2μm以上、0.5μm以上、または1μm以上であり、かつ9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、または5μm以下である。
【0070】
フィルタ18は、1つまたは複数の穴と1つまたは複数のスリットの両方を有してもよいことに留意されたい。
【実施例0071】
角質層または表皮の中にCO2を送達することの実行可能性を評価するために、光干渉断層計および組織学試験を使用して、豚の皮膚の上で生体外試験が実行された。実験は、単一の中空の極微針と、圧力調整器に接続されたCO2カートリッジを含む充填ユニットとを有する注入ユニットから成る扱いやすいデバイスを使用して実行された。
【0072】
70μmの長さを有する非常に短い中空の極微針を用いて、針の貫入は角質層および表皮に限定されたが、注入後に光干渉断層計を使用して、CO2の泡が皮膚の中に観察された。したがって、本出願によるデバイスによって、針を真皮に貫入することなく、皮膚にCO2ガスを注入することが実行可能であることが実証された。
【0073】
CO2注入の後、周囲の組織への影響が、組織学を使用してチェックされた。主要な組織の損傷は観察されず、組織の完全性は保たれた。