(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170206
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20221102BHJP
B43K 1/08 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076179
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】川崎 紀英
(72)【発明者】
【氏名】益田 博考
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
4J039AB02
4J039AB07
4J039BC07
4J039BC08
4J039BC13
4J039BC34
4J039BC36
4J039BC56
4J039BC57
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE28
4J039CA04
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、濃い筆跡を保ちつつ、非浸透面にも筆記可能であり、インキ漏れを抑制(加重インキ漏れ抑制)し、書き味を良好とすることが可能である油性ボールペンを得ることである。
【解決手段】インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンであって、前記油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量が80mg以上であり、かつ、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤、有機溶剤、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペンとすることである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンであって、前記油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量が80mg以上であり、かつ、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤、有機溶剤、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペン。
【請求項2】
前記有機溶剤が、低級アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン。
【請求項3】
前記セルロース誘導体が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの中から選択することを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン。
【請求項4】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
【請求項5】
前記界面活性剤のHLB値が、12以下であることを特徴とする請求項4に記載の油性ボールペン。
【請求項6】
前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、10~50μmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
【請求項7】
前記油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度200sec-1において、300mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
【請求項8】
前記油性ボールペン用インキ組成物の粘性指数が、0.3~0.8であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙面などの浸透面に筆記可能な筆記具として、インキ筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを具備してなるボールペンについてはよく知られている。
【0003】
一方、プラスチック材、クラフトテープなどの非浸透面に筆記可能な筆記具として、一般的に筆端部が繊維束で形成されたマーキングペンが知られている。マーキングペンは、前記非浸透面への筆記に際して広範に愛用されている。しかしながら、これらマーキングペンは、様々な課題があり改善の余地がある。
【0004】
マーキングペンは、筆端部が繊維束で形成されているため、非常に破損、変形しやすいことである。筆端部を繊維束で形成すると、筆記面との接触が面接触となるので太字筆記が可能となる。また、非浸透面に対する筆記に際しても、一般的なボールペンのようにボールの回転に依るところがないので、筆端部の動きに応じて十分にインキが塗布できる。しかしながら、繊維束は筆記によって先端部が破損や変形を生じやすく、一定の筆記幅を長期間の使用に対して保証することができない。特に、プラスチック材、クラフトテープなどの非浸透面への筆記の場合には、繊維束で形成される筆端部が変形しやすい。(特許文献1、2)
【0005】
こうしたマーキングペンの問題を解消するため、筆端部を繊維束とせずにボールペンのような金属もしくは樹脂材からなるボールペンチップによって形成しようとする試みも種々検討されている。しかしながら、筆端部をマーキングペン構造からボールペン構造に変え、従来の油性ボールペンのようにボールペンチップを金属あるいは樹脂材とするだけでは(特許文献3)、プラスチック材、クラフトテープなどに代表される非浸透面上では、完全に解決できず、新しい問題も抱えることになる。
【0006】
また、200mあたりのインキ消費量を32~47mg(100mあたり換算で16~23.5mg)に設定したボールペン用インキでは、紙面では筆記可能であるが、それだけでは筆跡の濃さが十分ではなく、さらに、非浸透面(プラスチック面など)に対して筆記した場合は、インキが非浸透面に載らず、十分ではなく、様々な課題が生じてしまう。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】「特開2006-056946号公報」
【特許文献2】「特開2003-176438号公報」
【特許文献3】「特開平10-95948号公報」
【特許文献4】「特開2011-153199号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした問題を鑑みて、従来よりも100mあたりのインキ消費量を多く出しても、単にインキ吐出量を多くしただけでは、ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れ(インキ垂れ下がり)が発生しやすく、改善の余地があった。
一方で、前記したインキ漏れを解決するために、インキでの対応方法として、インキ粘度を高くすると、インキ消費量が少なくなり、紙面では濃い筆跡が得られず、非浸透面(プラスチック面など)に対して筆記しても、十分ではない。さらに筆記時の書き味も劣ってしまい、改善の余地があった。
【0009】
ところで、陳列ケースに陳列されているボールペンは、使用者は、陳列ケースからボールペンを取り出し、試し書きやノック操作の確認等をして、前記ボールペンを、同陳列ケースに戻している。
この時、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接する。そのように、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みによって、ボールペン用陳列ケースの底部に、ボールペンチップ先端が当接した時の衝撃をボールが受けてボール抱持室の底壁方向に移動するため、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、その隙間からインキが垂れ下がり、インキ漏れを発生し、陳列ケースを汚してしまい、他のケース内のボールペンも、汚れてしまう問題があり、よりボールペンに加重がかかった状態でのインキ漏れ抑制(加重インキ漏れ抑制)を想定して、改善する必要があった。
【0010】
本発明の目的は、濃い筆跡を保ちつつ、非浸透面にも筆記可能であり、前記した陳列ケースのように、ボールペンに加重がかかった状態であっても、インキ漏れを抑制(加重インキ漏れ抑制)し、書き味を良好とすることが可能である油性ボールペンとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.インキ収容筒の先端部にボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンであって、前記油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量が80mg以上であり、かつ、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤、有機溶剤、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペン。
2.前記有機溶剤が、低級アルコールであることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン。
3.前記セルロース誘導体が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの中から選択することを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペン。
4.前記油性ボールペン用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
5.前記界面活性剤のHLB値が、12以下であることを特徴とする第4項に記載の油性ボールペン。
6.前記ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量が、10~50μmであることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
7. 前記油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度200sec-1において、300mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。
8.前記油性ボールペン用インキ組成物の粘性指数が、0.3~0.8であることを特徴とする第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の油性ボールペン。 」とする。
【発明の効果】
【0012】
インキ消費量を多くして、濃い筆跡を保ちながらも、紙面のみならず非浸透面にも筆記可能であり、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制(加重インキ漏れ抑制)し、書き味を良好とすることが可能である油性ボールペンとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特長は、濃い筆跡とし、さらに、非浸透面にも筆記可能するために、油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量を80mg以上としてインキ消費量を多くした場合でも、油性ボールペン用インキ組成物に、脂肪酸アマイド、セルロース誘導体を含んでなることで、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制(加重インキ漏れ抑制)し、書き味を良好とすることができることを特長とする。
【0014】
本発明では、脂肪酸アミドとセルロース誘導体とを併用することで、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制することが可能であることが解った。これは、脂肪酸アミドが、有機溶剤などとの相互作用により、擬塑性を付与し、3次元網目構造を形成するが、さらにセルロース誘導体を併用することで、脂肪酸アミドに対して、相互に絡み合うことで、より密度の高い3次元網目構造を形成し、静止時のインキ粘度を高く設定することができ、インキの流動を抑えることで、ボールとチップ先端の間隙からインキがしみ出ることを抑える効果が得られる。さらに、セルロース誘導体によるチップ先端で形成される被膜によって、よりインキ漏れ抑制効果が得られるため、効果的である。特に、前記した陳列ケースのように、ボールペンに加重がかかった状態であっても、インキ漏れ抑制(加重インキ漏れ抑制)効果を得ることが可能である。
また、脂肪酸アミドとセルロース誘導体の3次元網目構造は、セルロース誘導体によって、比較的微弱な凝集構造を形成しやすくなるため、筆記時の剪断などの衝撃により、一時的にゲル構造が解けやすくなり、インキ粘度を低くすることで、インキ消費量を多くして、従来の油性ボールペンよりも、ボールペンの100mあたりのインキ消費量を80mg以上とすることができ、同時に書き味を良好に保つことが可能である。
さらに、着色剤として、顔料を用いた場合は、密度の高い3次元網目構造により、顔料分散性を向上しやすいため、より好適に用いることができるため、好ましい。
【0015】
(脂肪酸アミド)
本発明で用いる脂肪酸アミドについては、有機溶剤などとの相互作用により、擬塑性を付与し、3次元網目構造を形成して、静止時のインキ粘度を高くし、筆記時のインキ粘度を低く設定することが可能である。脂肪酸アミドとしては、炭素数2~22を有するカルボン酸と、炭素数2~12を有するジアミン、又は炭素数2~22を有するモノアミンなどとを反応させることにより得られるものである。
炭素数2~22を有するモノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸などが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
炭素数2~12を有するジアミンとしては、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミンなどを挙げることができ、炭素数2~22を有するモノアミンとしてはエチルアミン、モノエタノールアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミンなどが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0016】
本発明で用いる脂肪酸アミドについては、経時安定性を考慮すれば、相溶性のある炭化水素系溶剤、アルコール溶剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、脂肪族系炭化水素、低級アルコール(炭素数1~5)を用いることが好ましく、より経時安定性を考慮すれば、脂肪族系炭化水素、炭素数1~3である低級アルコールを用いることが好ましく、より好ましくは、脂肪族系シクロヘキサン、炭素数1~3である低級アルコールを用いることが好ましく、これらの混合溶液を用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。さらに、前記脂肪酸アミドは、経時安定性を考慮して、予め上記溶剤と混合して、膨潤させて、ペースト状としたものを用いることが好ましい。
脂肪酸アミドについては、具体的には、ディスパロンシリーズ(楠本化成(株)製)、ターレンシリーズ(共栄社化学(株)製)などが挙げられる。
【0017】
また、脂肪酸アミドの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%未満だと、所望の3次元網目構造を形成しづらく、インキ漏れ抑制効果が得られず、5質量%を超えると、インキ粘度が高くなることで、インキ消費量が少なくなり、筆跡の濃さが劣りやすくなるため、0.1~5質量%が好ましく、より考慮すれば、0.1~3質量%がより好ましく、より考慮すれば、0.2~1質量%が好ましい。
【0018】
(セルロース誘導体)
セルロース誘導体としては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの中から選択することが好ましい。これらの中でも、より密度の高い3次元網目構造を形成して、静止時のインキ粘度を高く保ちやすく、筆記時には、ボールの剪断によってゲル構造が解けやすくして、ボールペンの100mあたりのインキ消費量80mg以上を保ち、濃い筆跡とし、非浸透面への筆記がしやすくして、インキ漏れを抑制しつつ、書き味を良好にしやすいことを考慮すれば、ヒドロキシアルキルセルロースが好ましく、より考慮すれば、インキ中で、安定した3次元網目構造を形成しやすい、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
セルロース誘導体の中でも質量平均分子量が200万以下であることが好ましい。これは、上記範囲を超えると、インキ粘度が高くなりやすく、前記インキ消費量を保ちにくく、濃い筆跡、非浸透面への筆記性、書き味に影響が生じやすく、より考慮すれば、前記質量平均分子量が150万以下であることが好ましく、130万以下であることが好ましい。また、前記質量平均分子量が10万以上であることが好ましい。これは、上記範囲より低いと、所望のインキ粘度が得られにくいため、インキ漏れ抑制に影響が生じやすく、より考慮すれば、前記質量平均分子量が30万以上であることが好ましく、50万以上であることが好ましい。
なお、質量平均分子量は、分子量標品としてプルランを用いてGPCにより求めた。
【0019】
また、本発明で用いるセルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロースなどが挙げられ、本発明の効果が得られやすいことを考慮すれば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく、さらに、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
セルロース誘導体としては、 具体的には、HPCシリーズ(日本曹達(株)製)、クルーセルシリーズ、サンヘックシリーズ(三晶(株)製)などが挙げられる。
【0020】
また、前記セルロース誘導体の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01~3質量%がより好ましい。これは、前記セルロース誘導体の含有量が、0.01質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、3質量%を越えると、インキ粘度が高くなりやすく、インキ消費量が十分ではなく、濃い筆跡や非浸透面への筆記性、書き味に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.01~1.5質量%が好ましく、0.1~1.0質量%が特に好ましく、さらに、0.1~0.5質量%が好ましい。
【0021】
前記脂肪酸アミドのインキ組成物全量に対する含有量をX、前記セルロース誘導体のインキ組成物全量に対する含有量をYとした場合、濃い筆跡、非浸透面への筆記性、インキ漏れ抑制をバランス良く向上することを考慮すれば、0.1≦Y/X≦10の関係であることが好ましく、より考慮すれば、1≦Y/X≦10が好ましく、さらに4≦X/Y≦10の関係であることが好ましい。
【0022】
(ボールペン)
また、ボールペンの100mあたりのインキ消費量は80mg以上にする必要がある。これは、100mあたりのインキ消費量を、80mg以上とするのは、濃い筆跡や、非浸透面にも筆記可能とするためであり、良好な書き味も得られ、より考慮すれば、100mg以上とすることが好ましく、110mg以上とすることが好ましい。また、前記インキ消費量は300mg以下であることが好ましい、これは、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ抑制に影響が出やすく、筆跡の裏抜け、泣きボテも発生しやすいためで、より考慮すれば、前記インキ消費量は200mg以下であることが好ましく、180mg以下であることが好ましい。上記効果のバランスを考慮すれば、前記インキ消費量は、100~200mgが好ましく、より濃い筆跡、非浸透面への筆記性、インキ漏れ抑制を両立させることを考慮すれば、110~180mgが好ましい。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0023】
本発明では、濃い筆跡としながらも、さらに、非浸透面にも筆記可能とし、インキ漏れを抑制、書き味、筆跡カスレ・裏抜け・泣きボテ・にじみ・乾燥性などの筆記性の全てを良好とするには、インキ消費量を増やすだけでは十分ではなく、ボールペンのインキ消費量A(mg)とボール直径B(mm)との関係を検討することが好ましい。
100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)とした場合、100<A/B<600の関係とし、油性ボールペンでは、従来とは異なる関係とすることで、濃い筆跡を保ちながらも、紙面のみならず非浸透面にも筆記可能とし、インキ漏れを抑制、筆跡カスレ・裏抜け・泣きボテ・にじみ・乾燥性などの筆記性を良好としやすい。
本発明の100<A/B<600の関係については、A/B<100だと、ボール径に対して、インキ消費量が十分ではなく、濃い筆跡や、非浸透面にも筆記性した場合、筆跡カスレ、ハジキが発生し、良好な書き味が得られなく、A/B>600だと、裏抜け・泣きボテ・にじみが発生し、筆跡乾燥性も劣ってしまい、ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れが発生しやすい。より濃い筆跡、非浸透面への筆記性、インキ漏れを抑制、書き味、筆跡カスレ・泣きボテ・にじみ・乾燥性などの筆記性を良好とすることを考慮すれば、120≦A/B≦450の関係とすることが好ましく、上記効果をバランス良く良好とするには、150≦A/B≦400が好ましく、180≦A/B≦400が好ましい。
なお、ボール直径については、特に限定されないが、0.1~2.0(mm)程度のボール直径とし、本発明では、0.3~1.6(mm)範囲のボール直径とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、10~50μmとするのが好ましい。これは、前記ボールの縦軸方向の移動量が10μm未満であると、所望のインキ消費量が確保しづらく、濃い筆跡、非浸透面への筆記性、書き味が得られづらくなり、一方、前記ボールの縦軸方向の移動量が50μmを越えると、インキ漏れ抑制に影響が出やすくなるためであり、より考慮すれば、20~50μmとすることが好ましく、25~45μmとするのが好ましい。
本発明において、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量については、筆記開始前の初期状態のボールペンのボールペンチップの形態とする。
【0025】
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすること好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。また、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであると、非浸透面への筆記性を保ちやすく、より好ましくは、0.1~8nmである。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0026】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられる。
【0027】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。染料、顔料を併用しても良い。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、ニグロシン染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
これらの中でも、濃い筆跡が得られることを考慮すれば、含金染料、ニグロシン染料、造塩染料の中から選択することが好ましく、さらに、脂肪酸アミド、セルロース誘導体との安定性を考慮すれば、含金染料、造塩染料を用いることが好ましい。
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0028】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0029】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、3.0~30.0質量%が好ましい。これは3.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、5.0~25.0質量%が好ましく、さらに考慮すれば、5.0~20.0質量%である。
【0030】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、油性ボールペン用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0031】
これらの有機溶剤の中でも、脂肪酸アミド、セルロース誘導体が、インキ中で安定した3次元網目構造を維持することを考慮すれば、アルコール溶剤を用いることが好ましい。また、インキの乾燥性を考慮すれば、沸点140℃以下であるアルコール溶剤を用いることが好ましい。これは、非浸透面へ筆記した場合は、筆跡乾燥性が向上しやすいため、効果的であり、さらに、ボールペンチップ先端部を乾燥しやすくして、ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制しやすいためで、より考慮すれば、沸点120℃以下であるアルコール溶剤が好ましい。より考慮すれば、低級アルコール(分子中の炭素原子5以下)が好ましく、より考慮すれば、分子中の炭素原子3以下の低級アルコールが好ましい。
アルコール溶剤の含有量は、上記のような効果を得られやすくするには、油性ボールペン用インキ組成物中の全有機溶剤の含有量に対して50%以上とすることが好ましく、より考慮すれば、70%以上とすることが好ましく、90%以上が好ましい。
【0032】
有機溶剤については、沸点160℃以上である有機溶剤を含んでなることが好ましい。これは、沸点が高いので、揮発しにくく、ボールペンチップ先端の書き出し性能の向上や、筆跡白化を抑制しやすいためである。特に、沸点140℃以下であるアルコール溶剤を主要剤として用いる場合は、筆跡が急激に乾燥することで、筆跡が白化する場合があるため、沸点160℃以上である有機溶剤を用いると、急激な乾燥を抑制しやすく、効果的である。より考慮すれば、沸点170℃以上である有機溶剤が好ましく、さらに沸点200℃以上が好ましい。
そのため、非浸透面での筆跡乾燥性、インキ漏れ抑制、書き出し性能、筆跡白化の抑制をバランス良くするには、沸点140℃以下であるアルコール溶剤と、沸点170℃以上である有機溶剤を併用して用いることが好ましい。
沸点160℃以上である有機溶剤の含有量は、上記のような効果を得られやすくするには、油性ボールペン用インキ組成物中の全有機溶剤の含有量に対して20%未満とすることが好ましく、より考慮すれば、10%未満とすることが好ましく、5%未満が好ましい。
【0033】
有機溶剤については、上記のことを考慮すれば、非浸透面での筆跡乾燥性、インキ漏れ抑制、書き出し性能、筆跡白化の抑制をバランス良くするには、沸点140℃以下であるアルコール溶剤と、沸点160℃以上である有機溶剤を併用して用いることが好ましく、低級アルコール(分子中の炭素原子5以下)と、沸点170℃以上である有機溶剤を併用して用いることが好ましい。
【0034】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、書き出し性能などを向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0~90.0質量%が好ましく、20.0~90.0質量%が好ましく、より好ましくは40.0~70.0質量%である。
【0035】
(樹脂)
また、インキ粘度調整剤、非浸透面への密着性(筆記性)を向上するために、樹脂を含んでなることが好ましい。樹脂としては、ケトン樹脂、アミド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などのロジン樹脂、テルペンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン- マレイン酸樹脂、エチレン- マレイン酸樹脂、スチレン- アクリル樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、セルロース樹脂、石油樹脂、クマロン-インデン樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン-ホルムアルデヒド樹脂、α-及びβ-ピネン・フェノール重縮合樹脂などが挙げられる。これらは単独又は2種以上用いても良い。
【0036】
これらの樹脂の中でも、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を用いる場合は、非浸透面へインキの密着性(筆記性)、インキ漏れ抑制を考慮すれば、テルペンフェノール樹脂、ロジン樹脂、スチレン- マレイン酸樹脂、スチレン- アクリル樹脂、アクリル樹脂の中から選択することが好ましく、より考慮すれば、テルペンフェノール樹脂、スチレン- アクリル樹脂が好ましい。
【0037】
テルペンフェノール樹脂については、非浸透面へのインキの密着性、インキ中での溶解安定性を考慮すれば、テルペンフェノール樹脂の水酸基価が300mgKOH/g以下が好ましく、より考慮すれば、30~300mgKOH/gが好ましく、80~250mgKOH/gが好ましく、100~200mgKOH/gが好ましい。ここで、「水酸基価」は、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数を意味するものである。
また、テルペンフェノール樹脂の軟化点については、非浸透面へのインキの密着性、インキ中での溶解安定性を考慮すれば、100~160℃であることが好ましく、より考慮すれば、110~150℃であることが好ましい。ここで、テルペンフェノール樹脂(C)の軟化点はJIS K2207に準じて測定した値である。
また、スチレン- マレイン酸樹脂、スチレン- アクリル樹脂、アクリル樹脂については、非浸透面へのインキの密着性、インキ中での溶解安定性、筆跡乾燥性を考慮すれば、酸価が300mgKOH/g以上が好ましく、より考慮すれば、50~300mgKOH/gが好ましく、100~250mgKOH/gが好ましい。
これらの樹脂としては、具体的には、YSポリスターU、T、G、S、N、K、THシリーズ(ヤスハラケミカル(株)製)、タマノルシリーズ(荒川化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0038】
樹脂の総含有量は、インキ組成物全量に対し、3質量%より少ないと、非浸透面への密着性(筆記性)や、インキ漏れ抑制の効果を得るには十分な効果が得られにくく、40質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすく、インキ粘度が高くなりすぎて、インキ消費量の低下や、書き味、書き出し性能に影響しやすいため、インキ組成物全量に対し、3~40質量%が好ましく、より考慮すれば、5~30質量%が好ましく、10~25質量%が好ましい。
【0039】
また、上記のような樹脂以外に、曳糸性付与剤を適宜用いてもよい。特に、ポリビニルピロリドン樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキの発生を抑制しやすいため、ポリビニルピロリドン樹脂を含有することが好ましい。前記ポリビニルピロリドン樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01質量%より少ないと、余剰インキの発生を抑制しにくいため、3.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、0.01~3.0質量%が好ましい。より上記理由を考慮すれば、0.1~2.0質量%が好ましい。具体的には、PVPシリーズ(アイエスピー・ジャパン(株)製)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0040】
(界面活性剤)
本発明においては、紙面のみならず非浸透面に筆記可能とするために、非浸透面への濡れ性を向上しつつ、潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤としては、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステルの中からを選択することが好ましい。
【0041】
界面活性剤の中でも、非浸透面への濡れ性を向上することで、筆跡はじきを抑制して、非浸透面で良好に筆記でき、書き出し性能を向上することを考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、書き味を向上しやすい効果が得られるため、好ましく、リン酸エステル系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤を併用して用いることが好ましい。
【0042】
リン酸エステル系界面活性剤としては、具体的には、アルコキシエチル基(CnH2n+1OCH2CH2O)またはアルコキシ基(CmH2m+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
リン酸エステル系界面活性剤については、具体的には、phoslexシリーズ(SC有機化学(株)製)、JPシリーズ(城北化学工業(株)製)、プラーサーフシリーズ(第一工業(株)製)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)、NIKKOLシリーズ(日光ケミカルズ(株)製)などが挙げることができる。
【0043】
リン酸エステル系界面活性剤の中でも、非浸透面で書き出し性能を向上し、書き味を向上することを考慮すれば、アルコキシエチル基(ClH2l+1O-C2H4O)またはアルコキシ基(CmH2m+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステルの中からを選択することが好ましい。
さらに、リン酸エステル系界面活性剤の中でも、非浸透面で書き出し性能を向上し、書き味を向上することを考慮すれば、アルコキシエチル基(ClH2l+1O-C2H4O)またはアルコキシ基(CmH2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、アルコキシル基(CmH2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0044】
前記リン酸エステル系界面活性剤については、アルコキシエチル基(ClH2l+1O-C2H4O)またはアルコキシ基(CmH2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(l,m)については、1~20とすることが好ましい。さらに、アルコキシエチル基(ClH2l+1O-C2H4O)またはアルコキシ基(CmH2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(l,m)が適度の長さを有すると、非浸透面で書き出し性能を良好に保ちやすいため、前記末端アルキル基の炭素鎖(l,m)は、4~20であることが好ましく、より考慮すれば、前記炭素鎖(l,m)は、12~18であることが好ましい。
【0045】
前記シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の中でも、非浸透面への濡れ性を向上することを考慮すれば、ポリエーテル変性シリコーンを用いることが好ましい。
シリコーン系界面活性剤については、具体的には、BYKシリーズ(ビックケミー・ジャパン(株)製)、Lシリーズ、FZシリーズ(東レ・ダウコーニング(株)製)、KFシリーズ(信越化学(株)製)、シルフェイスシリーズ(日信化学工業(株)製)、ディスパロンシリーズ(楠本化成(株)製)などが挙げることができる。
【0046】
前記界面活性剤のHLB値については、非浸透面への濡れ性、書き出し性能、書き味を向上することを考慮すれば、HLB値が12以下であることが好ましく、より考慮すれば、HLB値が9以下であることが好ましい。さらに、インキ経時安定性を考慮すれば、HLB値が3以上であることが好ましく、より考慮すればHLB値が5以上であることが好ましい。
尚、本発明で用いるHLB値は、グリフィン法、川上法などから求めることができる。
【0047】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の非浸透面への濡れ性、潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~4.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が好ましい。
【0048】
(有機アミン)
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性を考慮すれば、有機アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましい。特にリン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、中和することで、インキ中で安定することで、リン酸エステル系界面活性剤の効果が得られやすいため、好ましい。
【0049】
また、前記有機アミンとインキ中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、インキ経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0050】
さらに、前記有機アミンの全アミン価は、脂肪酸アミド、セルロース誘導体、着色剤やその他の成分との安定性を考慮すれば、70~300(mgKOH/g)とすることが好ましい。これは、300(mgKOH/g)を超えると、反応性が強いため、上記成分と反応し易いため、インキ経時安定性が劣りやすい。また、全アミン価が、70(mgKOH/g)未満であると、インキ経時安定性に影響が出やすい。より上記成分との安定性を考慮すれば、100~300(mgKOH/g)の範囲が好ましく、より安定性を考慮すれば、150~300(mgKOH/g)が好ましい。
なお、全アミン価については、1級、2級、3級アミンの総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0051】
前記有機アミンの含有量は、インキ成分との安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%が好ましく、さらにリン酸エステル系界面活性剤などの界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.1~5.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.3~3.0質量%が好ましい。
【0052】
また、その他として、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、消泡剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0053】
本発明のボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を用いる場合は、擬塑性を付与することで、筆記時のインキ粘度を低くして、インキ消費量を80mg以上としてインキ消費量を多く設定して、濃い筆跡や、非浸透面にも筆記可能とし、良好な書き味も得られ、カスレなどの筆記性を向上しやすくなることを考慮すれば、20℃、剪断速度200sec-1(筆記時)におけるインキ粘度が300mPa・s以下が好ましく、より濃い筆跡や、非浸透面にも筆記性を考慮すれば、インキ粘度が200mPa・s以下が好ましく、より考慮すれば、インキ粘度が150mPa・s以下が好ましい。筆跡乾燥性、筆跡の裏抜け抑制、にじみなどの筆記性を考慮すれば、インキ粘度が10mPa・s以上が好ましく、より考慮すれば、インキ粘度が20mPa・s以上が好ましい。
また、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を用いる場合は、インキ漏れ抑制、インキ追従性(インキ消費量を多く設定)を考慮すれば、20℃、剪断速度1.0sec-1(静止時)におけるインキ粘度が300mPa・s以上が好ましく、より考慮すれば、800mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上が好ましい。
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、インキ漏れ抑制をより考慮する必要があるため、効果的である。
【0054】
本発明のように、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を用いる場合は、粘性指数nは、S=αDnで示される粘性式中のnを指す。なお、Sは剪断応力(dyn/cm2=0.1Pa)、Dは剪断速度(s-1)、αは粘性係数を示す。粘性指数nは、20℃において、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-42スピンドルを使用して、インキ粘度を測定して、算出することができる。
粘性指数nについては、濃い筆跡、非浸透面への筆記性、書き味、筆跡の裏抜け、カスレなどの筆記性を考慮すれば、粘性指数n=0.3~0.8とすることが好ましく、より上記効果のバランスを考慮すれば、粘性指数n=0.4~0.7とすることが好ましく、より考慮すれば、0.4~0.6が好ましい。
【0055】
実施例1
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として染料、有機溶剤として低級アルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、脂肪酸アミド、セルロース誘導体、界面活性剤としてアルコキシル基を有するリン酸エステル系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン、有機アミンとしてポリオキシエチレンアルキルアミン、テルペンフェノール樹脂を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。
具体的な配合量は下記の通りである。
【0056】
実施例1(インキ配合)
着色剤(含金染料) 10.0質量%
低級アルコール(エタノール(沸点79℃)とイソプロピルアルコール(沸点82℃)の混合物) 64.5質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル 沸点245℃) 3.0質量%
脂肪酸アミド(有効成分:20%、予め脂肪酸アミドを、脂肪族系炭化水素と炭素数1~3である低級アルコールとの混合物に膨潤させたもの) 5.0質量%
セルロース誘導体(ヒドロキシアルキルセルロース、質量平均分子量:100万) 0.2質量%
リン酸エステル系界面活性剤(アルコキシル基(CmH2m+1O):m=18)を有するリン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量%
シリコーン系界面活性剤(ポリエーテル変性シリコーン、HLB値:6) 0.3質量%
有機アミン(ポリオキシエチレンアルキルアミン) 2.0質量%
テルペンフェノール樹脂(水酸基価:160mgKOH/g) 14.0質量%
【0057】
実施例2~22
表1に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2~22の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-42スピンドルを使用して、20℃の環境下、剪断速度1.0sec-1、剪断速度200sec-1における実施例1~7のインキ粘度を測定し、粘性指数nを算出したところ、以下のような結果となった。
実施例1
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=1400mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=110mPa・s 粘性指数n=0.52
実施例2
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=2400mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=110mPa・s 粘性指数n=0.42
実施例3
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=1800mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=96mPa・s 粘性指数n=0.45
実施例4
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=1800mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=94mPa・s 粘性指数n=0.44
実施例5
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=750mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=45mPa・s 粘性指数n=0.46
実施例6
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=400mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=95mPa・s 粘性指数n=0.73
実施例7
剪断速度1.0sec-1 インキ粘度=600mPa・s
剪断速度200sec-1 インキ粘度=170mPa・s 粘性指数n=0.76
【0058】
比較例1~6
表に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~6の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-42スピンドルを使用して、20℃の環境下、剪断速度1.0sec
-1、剪断速度200sec
-1における比較例1~3のインキ粘度を測定し、粘性指数nを算出したところ、以下のような結果となった。
比較例1
剪断速度1.0sec
-1 インキ粘度=10mPa・s
剪断速度200sec
-1 インキ粘度=15mPa・s
比較例2
剪断速度1.0sec
-1 インキ粘度=1250mPa・s
剪断速度200sec
-1 インキ粘度=50mPa・s 粘性指数n=0.39
比較例3
剪断速度1.0sec
-1 インキ粘度=3000mPa・s
剪断速度200sec
-1 インキ粘度=80mPa・s 粘性指数n=0.31
【表1】
【表2】
【表3】
【0059】
試験および評価
実施例1および比較例1で作製した油性ボールペン用インキ組成物(1.0g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.38mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(ボールの縦軸方向の移動量35μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)1nm)を装着した油性ボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペンを作製した。実施例2~22および比較例2~6も同様にして、作製した油性ボールペン用インキ組成物(1.0g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、表のようにチップ仕様を変更したボールペン用チップを装着した油性ボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
実施例1の100mあたりのインキ消費量は、油性ボールペンで、らせん筆記試験を行ったところ、120mg/100mであった。
【0060】
筆跡の濃さ:筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて、手書きにより筆記した筆跡を目視にて、評価した。
濃く鮮明な筆跡であるもの ・・・◎
濃い筆跡であるもの ・・・○
実用上問題ない濃さの筆跡であるもの ・・・△
薄い筆跡のもの ・・・×
【0061】
加重インキ漏れ抑制試験:40gの重りをボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端からのインキ漏れがほぼ認められないもの ・・・◎
チップ先端からのインキ漏れが実用上気にならないもの ・・・○
チップ先端からのインキ漏れが実用上問題となるもの ・・・×
【0062】
非浸透面への筆記性試験:ポリエチレンテレフタレート(PET)製シート上に、手書きにて、筆記した筆跡を目視にて、評価した。
筆記線が、若干のハジキ、色薄があるが、実用上問題がないもの ・・・◎
筆記線が、ハジキ、色薄があるが、実用可能なもの ・・・○
筆記線が、ハジキ、色薄があり、実用上懸念があるもの ・・・×
【0063】
筆跡の裏抜け試験:筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて、手書きにより筆記した筆跡を目視にて、評価した。
裏抜けがないもの ・・・◎
若干裏抜けがあるが、実用上問題がないもの ・・・○
裏抜けがあり、実用上懸念があるもの ・・・×
【0064】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
滑らかさが、やや劣るもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0065】
実施例1~22では、筆跡の濃さ、加重インキ漏れ抑制試験、非浸透面への筆記性試験、筆跡の裏抜け試験、書き味ともに良好な性能が得られた。特に、従来インキ漏れ抑制試験よりも、厳しい条件である加重インキ漏れ抑制試験でも、良好であった。
なお、実施例1~22において、書き出し性能試験として、手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20、65%RHの環境下に30分放置し、手書き筆記を行ったところ、良好な性能が得られた。
また、実施例22の顔料インキの顔料分散性も実用上問題なかった。
【0066】
比較例1~4では、脂肪酸アミド、セルロース誘導体を併用しなかったため、インキ漏れ抑制が劣ってしまった。
比較例5では、ゲル化がうまくいかず、インキ化できなかったため、試験評価できなかった。
比較例6では、インキ消費量が80mg未満と少ないため、筆跡の濃さが十分ではなく、非浸透面への筆記性試験、書き味が劣ってしまった。
【0067】
また、ノック式油性ボールペンや回転繰り出し式油性ボールペン等の出没式油性ボールペン(出没式ボールペン)を用いた場合では、インキ漏れ抑制性能が最も重要な性能の1つであるため、本発明のようにボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れを抑制して、インキ漏れ抑制性能が良好とすることが可能である本発明のような脂肪酸アミド、セルロース誘導体を含んだ油性ボールペン用インキ組成物を用いると効果的である。
【0068】
また、インキ漏れ抑制や、書き出し性能(筆跡カスレ)を向上するためには、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0069】
また、本実施例では、便宜上、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した油性ボールペン用レフィルを収容した油性ボールペンを例示しているが、本発明の油性ボールペンは、軸筒をインキ収容筒とし、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、油性ボールペンであってもよい。また、本実施例では便宜上、線材を切削によって形成したボールペンチップを例示しているが、パイプ材を押圧加工によって形成するボールペンチップであってもよい。
【0070】
また、本実施例では、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の油性ボールペンは、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、油性ボールペン用インキ組成物を直に収容した直詰め式の油性ボールペンであっても良く、インキ収容筒内に油性ボールペン用インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、油性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の油性ボールペンとして広く利用することができる。