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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170238
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】光触媒塗布液
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20221102BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221102BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20221102BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B01J23/30 M
C09K3/00 R
B01J35/02 J
A61L9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076243
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】芝 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 徳隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】堤之 朋也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喜紀
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB08
4C180CC03
4C180DD04
4C180EA04X
4C180EA05X
4C180EA22X
4C180EB05Y
4C180EB15Y
4C180EB17Y
4C180EB22X
4C180EB26
4G169AA02
4G169BA21C
4G169BA22C
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BE01C
4G169BE07C
4G169BE13C
4G169BE14C
4G169BE21C
4G169BE37C
4G169BE38C
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA05
4G169EC17Y
4G169HA02
4G169HA10
4G169HB06
4G169HD10
4G169HE12
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】本発明は、光触媒層が呈色することを抑制することができる光触媒塗布液を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒塗布液は、酸化タングステン粒子と、着色剤と、親水性不揮発性液体である分散剤と、水性分散媒とを含むことを特徴とする。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン粒子と、着色剤と、親水性不揮発性液体である分散剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液。
【請求項2】
前記着色剤は、分子量が500以下の有機化合物である請求項1に記載の光触媒塗布液。
【請求項3】
前記着色剤は、フェノチアジン系染料又はローダミンである請求項1又は2に記載の光触媒塗布液。
【請求項4】
前記分散剤は、アミノ基含有化合物、ポリアルキレン基含有化合物又は脂肪族ポリエーテル誘導体である請求項1~3のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項5】
前記分散剤は、平均分子量が10000以下の高分子化合物である請求項1~4のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【請求項6】
前記光触媒塗布液に含まれる前記酸化タングステン粒子の重量mに対する前記光触媒塗布液に含まれる前記分散剤の重量nの比率(n/m)は、0.5以上2以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の光触媒塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(光触媒)を含む光触媒コーティング液が知られている(例えば、特許文献1参照)。この光触媒コーティング液を基材上に噴霧し、塗布膜を乾燥させることにより基材上に光触媒層を形成することができる。この光触媒層の光触媒活性により、光触媒層に付着した汚れを分解することや大気中の有機物質を分解することができる。
また、特許文献1では、有色の塗布膜を形成するために、光触媒コーティング液に有機色素を配合している。有色の塗布膜を形成することにより、塗布ムラが生じることを抑制することができ、ムラのない有色の光触媒層を形成することができる。また、光触媒層に紫外線や直射日光を照射することにより有機色素が分解され、光触媒層の色は消える。
【0003】
一方、可視光応答型光触媒として、酸化タングステンが知られている(例えば、特許文献2参照)。酸化タングステンは、酸化チタンに比べて光の吸収帯域が広く、紫外線を含まない可視光でも反応するため、住居等の室内照明環境において、光触媒効果を発揮することができる。この酸化タングステンを用いると、太陽光の当たらない室内において光触媒層の光触媒活性により光触媒層に付着した汚れを分解することや大気中の有機物質(例えば、悪臭物質)を分解することができる。また、酸化タングステンは黄色又は黄緑色である。
酸化タングステンを含むスプレー液を住居等に塗布する場合、塗布された場所に呈色してしまうことを防ぐため、基本的には、濃度を薄く設定し、呈色しない程度の量しか塗布しない。当然、塗布を行っている作業者も目視での塗布膜の確認が困難であるため、塗り斑の発生が避けられない。その結果、場所によって光触媒性能にばらつきが生じるばかりか、一部の領域で呈色してしまう可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-249288号公報
【特許文献2】特開2012-55876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塗布ムラが生じることを抑制するために有機色素を酸化タングステンコーティング液に配合すると、室内光は紫外線をほとんど含まず光強度が弱いため、有機色素が光触媒層に残り光触媒層が呈色することが懸念される。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光触媒層が呈色することを抑制することができる光触媒塗布液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸化タングステン粒子と、着色剤と、親水性不揮発性液体である分散剤と、水性分散媒とを含む光触媒塗布液を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒塗布液は親水性不揮発性液体である分散剤を含むため、光触媒層に光を照射することにより着色剤のほとんどを分解することができ、光触媒層が呈色することを抑制することができる。このことは本願発明者等が行った実験により明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の光触媒塗布液を用いて光触媒層を形成する方法の説明図である。
図2】実験3の測定結果を示す表及びグラフである。
図3】実験3の測定結果を示す表及びグラフである。
図4】実験3の測定結果を示す表及びグラフである。
図5】実験3の測定結果を示す表及びグラフである。
図6】実験3の測定結果を示す表及びグラフである。
図7】分解時間と、光触媒に対する分散剤の比率との関係を示したグラフである。
図8】実験4において撮影された光触媒層の写真を含む表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光触媒塗布液は、酸化タングステン粒子と、着色剤と、親水性不揮発性液体である分散剤と、水性分散媒とを含むことを特徴とする。
【0010】
前記着色剤は、分子量が500以下の有機化合物であることが好ましい。このような着色剤は、酸化タングステン粒子の光触媒活性により分解されやすい。
前記着色剤は、フェノチアジン系染料又はローダミンであることが好ましい。
前記分散剤は、アミノ基含有化合物、ポリアルキレン基含有化合物又は脂肪族ポリエーテル誘導体であることが好ましい。
【0011】
前記分散剤は、平均分子量が10000以下の高分子化合物であることが好ましい。このような分散剤は、光触媒活性により分解されやすい。
前記光触媒塗布液に含まれる酸化タングステン粒子の重量mに対する光触媒塗布液に含まれる前記分散剤の重量nの比率(n/m)は、0.5以上2以下であることが好ましい。このことにより、酸化タングステン粒子及び着色剤の分散性を向上させることができ、かつ、光触媒層における分散剤の分解に要する時間を短くすることができる。
【0012】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0013】
図1は、本実施形態の光触媒塗布液を用いて光触媒層を形成する方法の説明図である。
本実施形態の光触媒塗布液2は、酸化タングステン粒子と、着色剤と、親水性不揮発性液体である分散剤と、水性分散媒とを含むことを特徴とする。
【0014】
光触媒塗布液2は、水性分散媒に酸化タングステン粒子が分散した分散液であり、着色剤と分散剤とを含む。また、光触媒塗布液2は、基材4の表面に塗布法により塗布される分散液である。塗布法は、特に限定されないが、例えば、浸漬塗布法、スプレーコーティング、スクリーン印刷法、スピンコート法、刷毛塗り、ロールコート等である。
光触媒塗布液2をスプレーコーティングする場合、例えば、図1に示したようなハンドスプレー3を用いてもよく、エアゾールを用いてもよい。エアゾールで光触媒塗布液2を噴射する場合、エアゾール容器中において光触媒塗布液2は噴射剤であるジメチルエーテルを含むことができる。
基材4は、例えば、例えば、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、フィルター、布帛、紙、皮革などである。
【0015】
水性分散媒は、主成分として水を含む。また、水性分散媒は、水とアルコールとの混合液であってもよい。
光触媒粒子である酸化タングステン粒子(WO3粒子)は、光触媒活性を有すれば、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化タングステン粒子であってもよい。また、酸化タングステン粒子は、光触媒活性を失わない範囲で、不純物原子や添加原子を含んでもよい。また、光触媒微粒子はその表面に助触媒を有してもよい。助触媒は、例えば、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Irのような白金族金属を含む。
【0016】
酸化タングステン粒子(一次粒子)の平均粒径(メディアン径D50、累積分布50vol%の時の粒子径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに5nm以上200nm以下であることが好ましい。また、光触媒粒子の二次粒径は100nm以上1000μm以下であることが好ましい。粒子径測定は、BET比表面積計やレーザ回折式粒度分布計や動的光散乱式粒度分布計等によって測定することができる。
光触媒塗布液2は、光触媒塗布液2に対して0.1wt%以上5.0wt%以下の酸化タングステン粒子を含むことができる。
【0017】
分散剤は、水性分散媒中において酸化タングステン粒子及び着色剤を分散させる物質である。分散剤は、界面活性剤であってもよい。また、分散剤は、親水性を有する。このことにより、分散剤が水性分散媒に溶解することができ、水性分散媒中において酸化タングステン粒子及び着色剤を安定的に分散させることができる。また、分散剤は不揮発性液体である。このことにより、光触媒塗布液2をスプレー噴霧した際に分散剤が蒸発しないため、基材4上の光触媒層6に酸化タングステン粒子の凝集体が形成されることを抑制することができ、光触媒層6の白化を抑制することができる。さらに、光触媒層6において、酸化タングステン粒子と着色剤とを均等に分布させることができ、着色剤が光触媒活性により分解されやすくなる。
【0018】
分散剤は、アミノ基含有化合物、ポリアルキレン基含有化合物又は脂肪族ポリエーテル誘導体であることが好ましい。また、分散剤は脂肪族ポリエーテル誘導体であるエチレン、プロピレンオキサイドが好ましく、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール等である。
前記分散剤は、平均分子量が10000以下の高分子化合物であることが好ましい。このことにより、光触媒層6の光触媒活性により分散剤が分解されやすくなり、光触媒層6の脱臭能力を向上させることができる。
光触媒塗布液2に含まれる酸化タングステン粒子の重量mに対する光触媒塗布液2に含まれる分散剤の重量nの比率(n/m)は、0.5以上2以下であることが好ましい。このことにより、酸化タングステン粒子及び着色剤の分散性を向上させることができ、かつ、光触媒層6における分散剤の分解に要する時間を短くすることができる。
【0019】
着色剤は、光触媒塗布液2を着色するための物質である。光触媒塗布液2が着色剤を含むことにより、光触媒塗布液2を基材4に塗布した際に塗布層5が着色剤の色を有し、作業者が塗布層5を目視で確認することができる。従って、作業者が基材4上に塗りムラなく塗布層5を形成することができる。この塗布層5が乾燥すると塗りムラのない光触媒層6aが形成される。しかし、この光触媒層6aは着色剤の色を有するため、基材4の見た目の色を変化させてしまう。
着色剤は、酸化タングステン粒子の光触媒活性により分解する有機化合物である。このため、光触媒層6aに含まれる着色剤は、室内灯、窓からの採光、太陽光などが光触媒層6aに照射されることにより分解され、光触媒層6は無色化する。この光照射後の光触媒層6bはほぼ無色であるため、光触媒層6を設けても基材4の見た目の色をほとんど変化させない。
着色剤を分解するための光触媒層6への光照射には、生活に伴う光を利用してもよい。また、光触媒層6を無色化することを目的として光触媒層6に光を照射してもよい。
【0020】
着色剤は、分子量が500以下の有機化合物であることが好ましい。このような着色剤は、酸化タングステン粒子の光触媒活性により分解されやすい。
着色剤は、例えば、有機色素、食用染料、アゾ系染料、フェノチアジン系染料、キサンテン系染料などである。また、着色剤は、フェノチアジン系染料又はローダミンが好ましい。フェノチアジン系染料は、例えば、メチレンブルーである。また、ローダミンは、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン6GP、ローダミン3GO、ローダミン123などである。
【0021】
実験1
分散剤の異なる試料1~18の光触媒塗布液を調製した。また、光触媒塗布液の分散安定性の評価と、光触媒塗布液を用いて形成した光触媒層の光触媒性能の評価を行った。
用いた分散剤、分散剤の主な成分、分散剤のイオン型、評価結果を表1に示す。なお、表1の評価において、「○」は「良好」を表し、「△」はやや不良を表し、「×」は不良を表す。
【0022】
【表1】
【0023】
[光触媒塗布液]
エタノール水溶液(エタノール:9.8%、水:90.2%)に0.4wt%の酸化タングステン粉末(体積平均粒径D50=200nm)と、0.3wt%の分散剤とを加え攪拌分散させることにより光触媒塗布液を調製した。分散剤には、表1に記載したものを用いた。エスリーム(登録商標)及びマリアリム(登録商標)は日油株式会社製であり、ポリソルベート、アミート(登録商標)及びエレクトロストリッパー(登録商標)は花王株式会社製であり、PEG200及びカチナール(登録商標)は東邦化学工業株式会社製であり、サンスタット(登録商標)及びカチオンは三洋化成工業株式会社製であり、サンウォッシュ(登録商標)及びリポカード(登録商標)はライオン株式会社製である。
また、市販の分散剤を用いているため、分散剤の正確な分子量は不明であるが、エスリームAD-3172Mの分子量は約5000であり、マリアリムFA-1150Aの分子量は約8000であり、マリアリムAKM-0531の分子量は約30000であり、マリアリムSC-0505Kの分子量は約15000である。
また、エスリームADシリーズは、ポリオキシアルキレン基を有する高分子化合物であり、ポリアルキレン基を有している。
なお、表1に示した分散剤はすべて親水性不揮発性液体である。
【0024】
[分散安定性]
分散安定性の評価は、調製した光触媒塗布液を4日間静置した後、凝集沈殿が生じるか否かを観察することにより行った。表1では、沈殿が確認されなかった試料の評価を「○」で示し、わずかに沈殿が確認された試料の評価を「△」で示し、大量の沈殿が確認された試料の評価を「×」で示した。
表1に示したように、試料1、5、6、11、15の光触媒塗布液が優れた分散安定性を有することがわかった。
【0025】
[光触媒性能]
分散安定性の評価が「○」であった試料1、5、6、11、15について、光触媒性能の評価を行った。具体的には、不織布(旭化成株式会社製「ベンコット」(登録商標))に調製した光触媒塗布液2gをスポイドを使用してまんべんなく滴下した。上記不織布を40℃の送風乾燥機で乾燥させ、4500luxの青色LED光(中心波長450nm)を48時間プレ照射することにより試験用サンプルを形成した。次に1Lの透明なガスバック内に上記試験用サンプルを投入し、50ppmのアセトアルデヒドガスを投入した。4500luxの青色LEDの光を上記ガスバッグ内の試験用サンプルに2時間照射した後、ガスバッグ内のアセトアルデヒドガス濃度を検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。
表1において、アセトアルデヒドガス濃度が80%以上減少した測定で用いた光触媒塗布液(試料)の評価を「○」で示し、アセトアルデヒドガス濃度が80%未満減少した測定で用いた光触媒塗布液(試料)の評価を「△」で示した。また、表1には減少パーセンテージも示した。
表1に示したように、試料1、11の光触媒塗布液を用いて形成した光触媒層が優れた光触媒性能を有することがわかった。
【0026】
実験2
エスリームAD-3172M(分散剤)の含有量を変化させた試料19~24の光触媒塗布液を調製した。表2に示した光触媒(酸化タングステン)の質量に対する分散剤の質量の比率となるように、分散剤の添加量を変化させたこと以外は、「実験1」と同様に光触媒塗布液を調製した。
調製した光触媒塗布液を図1に示したようなハンドスプレー3を用いてポリカーボネートシート(基材4)上にスプレー塗布して光触媒層を形成した。この光触媒層において光触媒粒子の凝集体が生じているか否かを観察した(凝集体が生じていると光触媒層が白く見える)。
観察結果を表2に示す。表2において、透明な光触媒層が形成された試料の評価を「◎」で示し、角度によっては若干白く見える光触媒層が形成された試料の評価を「○」で示し、若干白く見える光触媒層が形成された試料の評価を「△」で示し、白く見える光触媒層が形成された試料の評価を「×」で示した。
表2に示したように、光触媒の質量に対する分散剤の質量の比率が0.27以下になると、光触媒粒子が凝集した光触媒層が形成されることがわかった。
【0027】
【表2】
【0028】
実験3
エスリームAD-3172M(分散剤)の含有量を変化させた試料25~29の光触媒塗布液を調製した。図2図6に示した光触媒(酸化タングステン)の質量に対する分散剤の質量の比率となるように、分散剤の添加量を変化させたこと以外は、「実験1」と同様に光触媒塗布液を調製した。
調製した光触媒塗布液を用いて不織布上に光触媒層を形成し、光触媒層の光触媒性能を評価した。具体的には、不織布(旭化成株式会社製「ベンコット」(登録商標))に調製した塗布液2gをスポイドを使用してまんべんなく滴下した。上記不織布を40℃の送風乾燥機で乾燥させ光触媒層を形成することにより試験用サンプルを作製した。試料29では、4500luxの青色LED光(中心波長450nm)でのプレ照射を6時間行った。試料25~28ではプレ照射を行っていない。
【0029】
次に1Lの透明なガスバック内に上記試験用サンプルを投入し、50ppmのアセトアルデヒドガスを投入した。4500luxの青色LEDの光を上記ガスバッグ内の試験用サンプルに0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間又は5時間照射した後、ガスバッグ内のアセトアルデヒドガス濃度を検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。測定結果を図2図6に示す。また、照射時間については、図2図6に示したグラフの経過時間を参照。
【0030】
分散剤を添加した試料26~28では、照射時間が短いと光触媒層がアセトアルデヒドガスを分解しなかったが、照射時間が長くなるとアセトアルデヒドガスが分解された。また、分散剤の添加量が多くなるほど、アセトアルデヒドガスを分解できない時間が長くなった。アセトアルデヒドガスを分解できない時間においては、光触媒は、光触媒層内の分散剤を分解していると考えられる。従って、アセトアルデヒドガスを分解できない時間は、分散剤の分解時間に相当すると考えられる。
光触媒の質量に対する分散剤の質量の比率と分解時間との関係を示したグラフを図7に示す。このグラフのように、分散剤の比率が多くなると、比例して分解時間が長くなることがわかる。従って、分散剤の比率を2.0以下とすることにより、分解時間を24時間以内にすることができることがわかった。
【0031】
実験4
試料30~43の光触媒塗布液を調製した。試料30~43の光触媒塗布液に含まれる光触媒、着色剤、分散剤、及び光触媒に対する分散剤の質量比率を表3に示す。また、試料30、31の光触媒塗布液は、図8に示したような組成を有する。試料32~43の光触媒塗布液の酸化タングステンの含有量は試料30、31と同じである。また、試料32、35~43の光触媒塗布液の着色剤の含有量は試料30、31と同じである。試料30、33の光触媒塗布液は分散剤を含んでいない。試料33、34の光触媒塗布液は着色剤を含んでいない。
【0032】
着色剤には、メチレンブルー(分子量:約320)、ローダミンB(分子量:約479)又はフタロシアニンブルー(分子量:576)を用いた。また、分散剤には、エスリームAD-3172M(日油株式会社製)、マリアリムAKM-0531(日油株式会社製)、アミート320(花王株式会社製)又はPEG200(東邦化学工業株式会社製)を用いた。また、表3に示した光触媒(酸化タングステン)の質量に対する分散剤の質量の比率となるように、分散剤の添加量を調節した。
【0033】
【表3】
【0034】
調製した光触媒塗布液を図1に示したようなハンドスプレー3を用いてポリカーボネートシート(基材4)上にスプレー塗布して光触媒層を形成した。また、形成した光触媒層に10000luxの青色LED光(中心波長450nm)を48時間照射した。
光照射前の光触媒層の色と、光照射後の光触媒層の色とから着色効果及び消色効果を評価した。評価結果を表3に示す。光触媒層に光を照射することにより着色剤の色が消えた試料の評価を「○」で示し、光触媒層に光を照射しても着色剤の色が残った試料の評価を「△」で示し、着色剤を含んでいない試料の評価を「×」で示した。
また、光照射後において、光触媒層において光触媒粒子の凝集体が生じているか否かを観察した(凝集体が生じていると光触媒層が白く見える)。
観察結果を表3(分散状態)に示す。表3において、透明な光触媒層が形成された試料の評価を「○」で示し、若干白く見える光触媒層が形成された試料の評価を「△」で示し、白く見える光触媒層が形成された試料の評価を「×」で示した。
また、試料30、31の光触媒塗布液を用いて形成した光触媒層の写真(光照射前)を図8に示す。試料30、31の光触媒塗布液を用いて形成した光触媒層(光照射後)の写真も図8に示す。
【0035】
試料30の光触媒塗布液を用いて形成した光照射前の光触媒層では、比較的濃い着色剤の斑点が観察された。試料30の光触媒塗布液は分散剤を含まないため、光触媒層において、光触媒がポリカーボネートシート上に斑点状に付着していると考えられる。そして、斑点上に付着した光触媒の間に着色剤の比較的大きい液滴が付着すると考えられる。このため、比較的濃い色の着色剤が斑点状に観察されたと考えられる。
試料30の光触媒塗布液を用いて形成した光照射後の光触媒層では、比較的濃い着色剤が光触媒層に残っていることが確認された。この光触媒層では、光触媒がポリカーボネートシート上に斑点状に付着し、光触媒が付着していない部分が一定量存在すると考えられる。この光触媒が付着していない部分では、着色剤が光触媒活性により分解されずポリカーボネートシート上に残ったと考えられる。
【0036】
試料31の光触媒塗布液を用いて形成した光照射前の光触媒層では、比較的薄く広がった着色が観察された。試料31の光触媒塗布液は分散剤を含むため、光触媒層において、光触媒がポリカーボネートシート上に均一に付着していると考えられ、また、着色剤も比較的小さな液滴として広くポリカーボネートシート上に付着していると考えられる。このため、薄く広がった着色が観察されたと考えられる。
試料31の光触媒塗布液を用いて形成した光照射後の光触媒層では、着色剤の色がほとんど消えたことが確認された。この光触媒層では、光触媒がポリカーボネートシート上に均一に付着しているため、ほとんどの着色剤は光触媒活性により分解されたと考えられる。
【0037】
また、試料32、35、39~42の光触媒塗布液(着色剤がメチレンブルー又はローダミンBでありかつ、分散剤がエスリームAD-3172M又はPEG200)を用いて形成した光触媒層でも、試料31と同様に、光触媒層に光を照射すると、着色剤の色が消えたことが確認された。このことから、光触媒塗布液に含まれる着色剤を分子量が500以下のフェノチアジン系染料又はローダミンとすることにより、優れた着色効果・消色効果を有する光触媒層を形成できることがわかった。また、光触媒塗布液に含まれる分散剤をアミノ基含有化合物、ポリアルキレン基含有化合物又は脂肪族ポリエーテル誘導体とすることにより、優れた着色効果・消色効果を有する光触媒層を形成できることがわかった。
また、試料40~43の実験結果から、光触媒塗布液における光触媒の質量に対する分散剤の質量の比率を0.5以上2.0以下とすることにより、光触媒粒子が凝集せず、かつ、優れた着色効果・消色効果を有する光触媒層を形成できることがわかった。
【符号の説明】
【0038】
2: 光触媒塗布液 3:ハンドスプレー 4:基材 5:塗布膜 6:光触媒層 6a:光照射前の光触媒層 6b:光照射後の光触媒層
図1
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図8