(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170324
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】車両等の移動速度誘導システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20221102BHJP
E01F 15/08 20060101ALI20221102BHJP
E01F 9/547 20160101ALI20221102BHJP
E01F 9/608 20160101ALI20221102BHJP
【FI】
G08G1/09 S
E01F15/08
E01F9/547
E01F9/608
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076388
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000153236
【氏名又は名称】株式会社光波
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】及川 晋
(72)【発明者】
【氏名】高木一誠
(72)【発明者】
【氏名】木本 安彦
(72)【発明者】
【氏名】白井 秀和
【テーマコード(参考)】
2D064
2D101
5H181
【Fターム(参考)】
2D064AA01
2D064AA13
2D064AA22
2D064AA24
2D064EA01
2D064EB05
2D064EB11
2D101CA07
2D101EA01
2D101GA21
5H181AA01
5H181HH22
5H181HH23
(57)【要約】
【課題】 車両等の移動路に沿って、所定の間隔にて車両等から視認できるように配置された複数の発光体を順次点灯及び消灯することにより移動速度の誘導を行うシステムに於いて、車両等の位置や速度によらずに、移動速度を誘導したい速度へ誘導できるようにする。
【解決手段】 車両等の移動速度誘導システムは、車両等の移動路の進行方向に沿って、所定の間隔毎に、配置された複数の発光装置と、各発光装置を車両等の進行方向に沿って順番に点灯及び消灯する発光制御手段とを含み、複数の発光装置のうちで点灯する発光装置が車両等の移動速度の目標値に一致する速度にて遷移するように選択されると共に、各発光装置は、移動路の進行方向に沿って延在した発光可能な発光可能領域を車両等から視認可能に位置に有し、点灯するよう選択された際に、発光可能領域に於いて発光する発光部位が車両等の進行方向に沿って変位する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両等の移動速度誘導システムであって、
前記車両等の移動路の進行方向に沿って、所定の間隔毎に、配置された複数の発光装置と、
前記発光装置の各々を前記車両等の進行方向に沿って順番に点灯及び消灯する発光制御手段とを含み、
前記発光制御手段が、前記車両等の移動速度の目標値に一致する速度にて、前記複数の発光装置のうちで点灯する発光装置が遷移するように、前記点灯する発光装置を選択し、
前記発光装置の各々が、前記移動路の進行方向に沿って延在した発光可能な発光可能領域を前記車両等から視認可能な位置に有し、前記発光制御手段により点灯するよう選択された際に、前記発光可能領域に於いて発光する発光部位が前記車両等の進行方向に沿って変位するよう構成されているシステム。
【請求項2】
請求項1によるシステムであって、前記発光装置の各々の前記発光可能領域に於いて前記車両等の進行方向に沿って変位する前記発光部位の前記移動路の進行方向の長さが前記車両等から一時に視認可能な長さであるシステム。
【請求項3】
請求項1又は2によるシステムであって、前記発光装置の各々の前記発光可能領域に於いて複数の発光体が前記移動路の進行方向に沿って並置され、前記複数の発光体のうちで発光する発光体が前記車両等の進行方向に沿って順番に変更されることにより、前記発光部位が前記車両等の進行方向に沿って変位するシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかによるシステムであって、前記発光装置の各々が、前記発光制御手段により点灯するよう選択された際に、前記発光可能領域に於いて前記車両等の進行方向に沿って変位する発光部位の大きさ及び発光量が前記車両等から前記車両等から視認可能となるよう調節されているシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかによるシステムであって、前記発光可能領域に於ける前記車両等の進行方向に沿った前記発光部位の変位する速度が可変に制御可能であるシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかによるシステムであって、前記発光制御手段が前記点灯する発光装置の遷移する速度を可変に制御可能であるシステム。
【請求項7】
請求項6によるシステムであって、前記車両等の移動速度が低下しやすい区間では、前記車両等の移動速度の目標値を車両等の平均移動速度よりも高く設定するシステム。
【請求項8】
請求項6によるシステムであって、前記車両等の移動速度が上昇しやすい区間では、前記車両等の移動速度の目標値を車両等の平均移動速度よりも低く設定するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両、その他の移動体又は歩行者(以下、「車両等」と称する。)の走行時又は移動時の速度を誘導するためのシステムに係り、より詳細には、車両等の走行路又は移動路に沿って、車両等から視覚的に認識できるように発光体を配置し、それらの発光体を順次、点灯及び消灯させて、視覚的に車両等の速度を誘導するシステムに係る。
【背景技術】
【0002】
従来の技術に於いて、自動車等の車両の走行速度を誘導するためのシステムとして、車両の走行路に於いて、複数の発光体を、車両の進行方向に沿って、車両の運転者から視認できるように、間隔を空けて配置し、発光体を車両の望ましい走行速度(道路の法定速度、安全速度など)に合わせて順次点灯及び消灯し、運転者に点灯した発光体に追随して車両を走行させるようにさせて、車両の走行速度の誘導を試みる構成が提案されている。そのような構成として、特許文献1に於いては、車両の走行路に沿って設置された側壁上に、上下方向に伸びた発光部を有し、発光部は手前から視認して運転者に対面する角度で取付部に取付けられ、運転者の視線の位置の高さに配置する視線誘導標装置を、走行路に沿って所定間隔にて、複数個、配置し、道路事情に応じた渋滞が発生する速度よりも速い速度で発光部を発光し、運転者が運転する車両の速度を誘導するシステムが開示されている。かかる速度誘導システムに於いては、高速道路などの渋滞が発生しそうな箇所での速度低下の防止や速度超過が発生しそうな箇所での速度抑制等の様々な道路事情に適応し、運転者の視覚に働きかけることで速度調整を促すことができる構成を、限られた道路空間内において安全に設置することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き複数の発光体の点滅によって速度の誘導を行うシステムは、端的に述べれば、ストロボ効果又はワゴンホイール効果と呼ばれる現象を利用して、実際は静止している発光体を進行方向と同方向に移動しているかのように錯覚させるものである。具体的には、例えば、
図3(A)に示されている如く、車両の走行路に沿って、所定の間隔L[m]にて、複数の発光体Eが配置され、N個(図中3個)当たりに一つの発光体が点灯するように(on)、誘導したい走行速度(目標速度)Vt[m/s]に合わせて、複数の発光体が順番に点灯及び消灯(off)していく構成の場合、一つの発光体は、ΔT=L/Vt[s]だけ点灯することとなる。そして、システムに於いては、発光する発光体がΔT毎に車両の進行方向へ移っていくように発光体列の点滅が制御され、それを視覚的に認識した車両(の運転者)からは、光が目標速度にて前進するように錯覚して見えるので、その光の移動に追随するように車両を走行することで、車両の走行速度が目標速度に誘導することが期待される。
【0005】
しかしながら、上記の構成の場合、複数の順次点滅していく発光体の光が車両の進行方向へ移動するように見える現象は、車両の位置や速度によって発生しない場合があり、光が車両の進行方向と逆方向に流れてくるように見える現象などが起きる場合がある。例えば、点灯している発光体はΔTに亙って点灯するので、
図3(B)に例示されている如く、速度Vにて走行中の車両からは、光の位置は、時間τに於いて、図中の距離d(=V・τ)だけ進行方向と逆へ移動することとなる。その場合、図中(i)にて示されている如く、光の位置が車両から前方へ適当に離れている場合には、車両が距離dだけ移動しても、光の位置の視角の変化θfは小さく、光の位置は、殆ど止って見えることとなる。一方、図中(ii)にて示されている如く、光の位置が車両に相当に近接している場合には、車両が距離dだけ移動したときの光の位置の視角の変化θnは大きく、この場合、光の位置が車両の進行方向と逆方向に流れてくるように見えてしまうこととなる。また、上記の
図3(A)の如きシステムに於いては、車両の走行速度が誘導したい目標速度Vtの約N+1倍程度又はそのk倍程度(kは、整数)である場合、
図3(C)に例示されている如く、車両の移動が、所定間隔Lだけ離れた位置への光の遷移(発光位置の遷移)だけに同期するのでなく、k・(N+1)Lだけ離れた位置への光の遷移にも同期するので、車両から一つの発光体の光を視認した後に、所定間隔Lだけ離れた光ではなく、k・(N+1)Lだけ離れた発光体の光に追随しようとして、車両の走行速度が目標速度Vtのk・(N+1)倍の速度に誘導されてしまう場合も起き得る。例えば、
図3(C)の上段に示されている如く、光の移動速度Vtと同程度の車速Vにて走行している車両aが発光体α
tを視認している状態から、
図3(C)の下段に示されている如く、ΔTの経過後に発光体α
tに隣接した発光体α
t+1が発光するときに、車両aは、その発光体α
t+1の光を視認することが期待される。しかしながら、光の移動速度Vtと(N+1)倍程度(図では4倍程度)の車速(N+1)Vにて走行している車両bは、発光体α
tを視認した後、ΔTの経過後には、発光体α
t+1のN個先の発光体β
t+1の光を視認し、これにより、車速が(N+1)Vtに誘導されてしまう可能性が生ずる。同様に、車両の走行速度が誘導したい目標速度Vtの約1/{(N+1)・k}倍程度である場合には、車両の走行速度が目標速度Vtの1/{(N+1)k}倍の速度に誘導されてしまう場合も起き得る。なお、これらの現象は、対象を誘導したい速度が遅い場合(例えば、対象が車両の運転手ではなく自転車や歩行者のような低速の移動体とした場合にも)、或いは、発光体の設置間隔が広い場合に発生しやすいと考えられる。従って、上記の複数の発光体の点滅によって速度の誘導を行うシステムに於いて、適切に、車両の走行速度を目標速度に誘導できるようにするには、車両の位置や速度によらずに、光が目標速度にて進行方向に移動するように見えるように、システムの構成を改良することが好ましい。
【0006】
この点に関し、本発明の発明者等の開発研究に於いて、走行路に沿って所定の間隔にて配置される複数の発光体のそれぞれが点灯する際に、一つの発光体に於いて、発光部位が、車両の進行方向に変位するようにすると、上記の如き、車両の位置や速度によって、光が車両の進行方向と逆方向に流れるように見えたり、車両の速度が目標速度Vtのk・(N+1)倍又は1/{(N+1)k}倍に誘導されてしまうといった予定外の現象を回避できることが見出された。この知見は、本発明に於いて利用される。なお、この知見は、車両の走行速度の誘導だけではなく、その他の移動体又は歩行者などの移動速度の誘導にも適用可能である。
【0007】
かくして、本発明の一つの課題は、車両等の走行路又は移動路に沿って、所定の間隔にて車両等から視認できるように配置された複数の発光体を順次点灯及び消灯することによって走行速度又は移動速度の誘導を行うシステムであって、車両等の位置や速度によらずに、走行速度又は移動速度を誘導したい速度へ誘導できるように構成されたシステムを提供することである。
【0008】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如きシステムに於いて、速度を誘導するための光が進行方向の逆方向に移動するように見えてしまう錯覚を防止する構成を提供することである。
【0009】
更に、本発明のもう一つの課題は、上記の如きシステムに於いて、車両等の走行速度又は移動速度が誘導したい速度の整数倍又は誘導したい速度を整数で除した値に誘導されないようにする構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の課題は、車両等の移動速度誘導システムであって、
前記車両等の移動路の進行方向に沿って、所定の間隔毎に、配置された複数の発光装置と、
前記発光装置の各々を前記車両等の進行方向に沿って順番に点灯及び消灯する発光制御手段とを含み、
前記発光制御手段が、前記車両等の移動速度の目標値に一致する速度にて、前記複数の発光装置のうちで点灯する発光装置が遷移するように、前記点灯する発光装置を選択し、
前記発光装置の各々が、前記移動路の進行方向に沿って延在した発光可能な発光可能領域を前記車両等から視認可能な位置に有し、前記発光制御手段により点灯するよう選択された際に、前記発光可能領域に於いて発光する発光部位が前記車両等の進行方向に沿って変位するよう構成されているシステム
によって達成される。
【0011】
上記の構成に於いて、「車両等」は、既に触れた如く、自動車等の車両、その他の移動体又は歩行者であってよい。「移動速度」は、車両又はその他の移動体の場合には、車速又は走行速度であり、歩行者の場合は、歩行速度である。「移動路」は、車両又はその他の移動体の場合には、道路又は走行路であり、歩行者の場合は、歩行路であってよい。「発光装置」は、LED、電球、電灯などの任意の形式の発光体を備えた装置であってよい。複数の発光装置が移動路の進行方向に沿って配置される際の「所定の間隔」は、システムの設置される環境、移動速度の誘導の対象となる車両等の種類又は想定される移動速度、設置に要する費用等を考慮して、適宜設定されてよい。例えば、車両の場合には、想定される車速を考慮して、所定の間隔は、一般道路では、数m~十数mであってよく、高速道路では、20m以上などであってよい。歩行者の場合には、想定される歩行速度を考慮して、所定の間隔は、2~4m程度であってよい。「発光制御手段」は、上記の如く、移動路の進行方向に沿って配置された複数の発光装置を順番に点灯及び消灯するように複数の発光装置の点灯状態を制御する任意の形式の手段であってよく、例えば、有線又は無線の通信ネットワークを通じて、個々の発光装置の点灯又は消灯を制御するよう構成されていてよい。「車両等の移動速度の目標値に一致する速度にて、前記複数の発光装置のうちで点灯する発光装置が遷移するように、前記点灯する発光装置を選択し、」とは、点灯させる発光装置が移動速度の目標値に同期して順番に移っていくように点灯させる発光装置を選択することを意味しており、例えば、発光装置が所定の間隔Lにて配置されている場合に、移動速度の目標値Vtに一致する速度にて点灯する発光装置を遷移する場合には、時間L/Vt毎に、隔置された発光装置が移動路の進行方向に沿って順番に点灯するよう選択されることとなる(点灯された発光装置は、時間L/Vt後に隣りの発光装置が点灯されるよう選択されたときに、消灯されてよい。)。なお、複数の配列された発光装置のうちで、点灯するよう選択される発光装置は、数個おきに選択されてよい。更に、特に本発明のシステムに於いては、各発光装置の光が発せられる「発光可能領域」は、上記の如く、移動路の進行方向に沿って延在し、車両等から視認可能な位置に設けられるところ、「車両等から視認可能な位置」とは、車両又はその他の移動体の場合には、その運転者から、歩行者の場合には、その歩行者から視認可能な任意の位置であってよく、例えば、移動路の側壁、移動路の縁石、移動路の路面などの表面であってよい。
【0012】
上記の如き移動路の進行方向に沿って順番に点灯する発光装置が選択される構成のシステムに於いては、基本的には、車両等が移動路の進行方向に沿って順番に遷移していく発光装置からの光に追随することで、車両等の移動速度がその目標値に一致するよう誘導されることとなる。しかしながら、既に述べた如く、各発光装置を単に点灯するだけの場合には、移動中の車両等から見ると、車両等の位置や速度によって、光が進行方向と逆方向に移動するように見えたり、光の位置の遷移が移動速度の目標値の整数倍又は(1/整数)倍に同期して見えてしまうといった予定外の現象が発生し、光の位置の遷移が車両等の移動速度の目標値への誘導に適切に機能しない状況が生じた。
【0013】
そこで、本発明では、移動路の進行方向に沿った発光装置の点灯状態の遷移が、車両等の位置や速度によらずに車両等の移動速度の目標値への誘導を達成できるように、上記の如く、発光装置の各々が、移動路の進行方向に沿って延在した発光可能な発光可能領域を車両等から視認可能な位置に有し、発光制御手段により点灯するよう選択された際に、かかる発光可能領域に於いて発光する発光部位が車両等の進行方向に沿って変位するよう構成される。即ち、本発明のシステムに於いては、各発光装置が点灯状態に選択された際に、単に発光可能領域全体が一時に点灯するのではなく、発光可能領域に於ける移動路の進行方向の後方から前方へ光が移動して見えるように(光がアニメーションのように動くように)、発光位置が変化させられる。このように各発光装置内で光が移動路の進行方向の後方から前方へ移動するように構成にすると、本発明の発明者等の研究によれば、車両等から、光が進行方向に沿って移動する動きが認識されることとなり、上記の如き予定外の現象がほぼ解消されることが見出され、これにより、車両等の移動速度の目標値への誘導が効果的に達成されることが期待される。
【0014】
上記の本発明のシステムの構成に於いて、具体的には、各発光装置の発光可能領域は、その発光装置が点灯状態に選択されたときに、その発光可能領域に於ける光の移動が車両等から視認されるように構成されることが好ましい。そこで、発光装置の各々の発光可能領域に於いて車両等の進行方向に沿って変位する発光部位の移動路の進行方向の長さが車両等から一時に視認可能な長さであってよい。これにより、車両等から、発光可能領域に於いて、より確実に、移動路の進行方向の後方から前方へ光が移動するように観察されることが期待される。各発光装置の発光可能領域の長さ及び発光部位の長さは、システムの設置される環境、移動速度の誘導の対象となる車両等の種類又は想定される移動速度、設置に要する費用等を考慮して、適宜設定されてよい。かかる長さは、自動車等の車両の場合には、想定される車速によって、数十cm~数mの範囲で適宜決定されてよく、歩行者の場合には、数cmなどであってよい。そして、発光可能領域内に於いて、実際に一時に光を発している部分の長さは、車両等から十分に視認できるように適宜設定されてよい。
【0015】
上記の各発光装置の発光可能領域に於いて、光が移動するように発光部位を車両等の進行方向に沿って変位する構成は、任意の形態によって実現されてよい。一つの態様に於いては、発光装置の各々の発光可能領域に於いて、複数の発光体(LEDなどの発光素子であってよい。)が移動路の進行方向に沿って並置され、複数の発光体のうちで発光する発光体が車両等の進行方向に沿って順番に変更されることにより、発光部位が前記車両等の進行方向に沿って変位するようになっていてよい。また、別の態様として、一つ又はいくつかの発光体を点灯させた状態でその位置を移動させる構成、一つの発光体からの光の伝播方向を偏向ミラーなどを用いて変更させる構成などであってもよい。また、発光装置の各々が、発光制御手段により点灯するよう選択された際に、発光部位の光が車両等から確実に又は適当な明るさにて認識されるように、発光可能領域に於いて車両等の進行方向に沿って変位する発光部位の大きさ及び発光量は車両等から視認可能となるよう調節されていることが好ましい。後の実施形態に於いて示されているように、複数の発光体を発光可能領域に並置する場合には、一時に複数の発光体のうちの一部が順番に点灯されるようになっていてよい(一時に二つ以上の発光体が点灯している状態が順番に変位するようになっていてよい。)。なお、発光可能領域に於ける車両等の進行方向に沿った発光部位の変位する速度は、発光部位の光が車両等から確実に又は適当な明るさにて認識されるように、適合により設定されてよく、可変に制御可能であってよい。例えば、各発光装置が点灯状態に選択されている時間に於いて、少なくとも一回、発光可能領域の後端から前端へ発光部位が変位するように、発光部位の変位速度が設定されていてよいが、これに限定されない(発光部位の変位速度は、車両等の移動速度の目標値に一致していなくてよい。)。
【0016】
上記のシステムに於いて、更に、発光制御手段が点灯する発光装置の遷移する速度を可変に制御可能であってよく、これにより、車両等の移動速度の目標値が任意に変更することが可能となる。例えば、かかる点灯する発光装置の遷移速度は、移動路の環境や時間帯などによって変更されてよい。具体的には、車両等の移動速度が低下しやすい区間では、車両等の移動速度の目標値を車両等の平均移動速度よりも高く設定し、車両等の移動速度が上昇しやすい区間では、車両等の移動速度の目標値を車両等の平均移動速度よりも低く設定するなどして、これに対応して、点灯する発光装置の遷移速度が変更されてよい。
【発明の効果】
【0017】
かくして、上記の本発明のシステムに於いては、車両等から視覚的に認識できるように発光装置を配置して、順次、点灯及び消灯させて、光により視覚的に車両等の移動速度を誘導する構成に於いて、各発光装置に於いて、光が、アニメーションの如く、車両等の進行方向に移動するように車両等へ見せることによって、光が進行方向と逆方向に移動するように見える現象や、光の位置の遷移が移動速度の目標値の整数倍又は(1/整数)倍に同期して見えてしまうといった現象の発生を抑制し、車両等の移動速度を誘導したい速度へ誘導することが可能となることが期待される。本発明のシステムは、自動車などの車両の走行する道路に於いて、車両の速度調節のために有利に利用されてよい。また、歩行者の歩行速度を調節したい場合などに用いられてよい。
【0018】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による車両等の移動速度誘導システムの概略構成を表わした模式図である。
図1(B)は、本実施形態によるシステムの一つの発光装置の概略構成を表わした図である。
【
図2】
図2(A)は、本実施形態による車両等の移動速度誘導システムに於ける移動路に沿って配列された複数の発光装置のうちで、点灯状態にされる発光装置の選択の態様(時間経過)を模式的に表わした図である。図に於いて、黒色(on)が点灯状態にされている発光装置であり、白色(off)が消灯状態にされている発光装置である。
図2(B)は、本実施形態による車両等の移動速度誘導システムに於いて、各発光装置が点灯状態に選択されたときの発光可能領域に於ける発光部位の変位を模式的に表わした図である。t0~t9が点灯状態に於ける経過時間の各時点を順に表わしており、それぞれの対応する図が、各時点に於ける発光部位を示している。図に於いて、●が発光している部位(発光素子)であり、○が発光していない部位(発光素子)である。
【
図3】
図3(A)は、従前の、車両等の走行路又は移動路に沿って、車両等から視覚的に認識できるように発光体を配置して、順次点灯及び消灯させて、視覚的に車両等の速度を誘導するシステム(車両等の移動速度誘導システム)の作動の概略を説明する図である。
図3(B)は、従前の車両等の移動速度誘導システムに於いて、光が車両等の移動方向と逆方向に流れるように見える現象を説明する図である。
図3(C)は、従前の車両等の移動速度誘導システムに於いて、車両等の移動速度が発光位置の遷移速度の整数倍に誘導される現象を説明する図である。
【符号の説明】
【0020】
10…車両
12…発光装置
14…発光可能領域
16…発光素子
20…システムコントローラ
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
システムの構成
図1(A)を参照して、本実施形態の車両等の移動速度誘導システムに於いては、車両等10の移動路R、即ち、自動車等の車両又はその他の移動体が走行する道路、移動路或いは歩行者が通行する歩行路に沿って、所定の間隔L毎に、車両10又はその他の移動体の運転者から又は歩行者から視認可能な位置に、発光装置12が配置され、端的に述べれば、車両等の移動速度を、誘導したい速度(目標速度)に誘導するべく、目標速度に合わせて、点灯させる発光装置12(及び消灯させる発光装置12)が順次、遷移させられる。なお、図に於いては、車両の走行する道路に本実施形態のシステムの発光装置12を配置した様子が例示されているが、その他の移動体が通行する通行路や歩行者の歩行する道に、同様に、発光装置12が配置されてよく、そのような場合も本実施形態の範囲に属することは理解されるべきである。発光装置12の設置場所は、具体的には、移動路Rの側壁、移動路の縁石、移動路の路面などの表面であってよい。発光装置12の配置される所定の間隔Lは、システムの設置される環境、移動速度の誘導の対象となる車両等の種類又は想定される移動速度、設置に要する費用等を考慮して、適宜設定されてよい。例えば、車両の場合には、想定される車速を考慮して、所定の間隔は、一般道路では、数m~十数mであってよく、高速道路では、20m以上などであってよい。歩行者の場合には、所定の間隔は、2~4m程度であってよい。そして、発光装置12の点灯と消灯の制御は、システムコントローラ(発光制御手段)20からの、有線又は無線の通信ネットワーク手段を介して与えられる制御指令によって実行されるようになっていてよい。システムコントローラ20は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するコンピュータ及び駆動回路を含むコンピュータ装置により構成されてよく、その作動は、プログラムに従ったコンピュータ装置の作動により実現されてよい。
【0022】
上記の移動路に沿って配置される発光装置12の各々は、
図1(B)に模式的に描かれている如く、光を発することが可能な発光可能領域14と、発光可能領域14に於ける発光部位を制御する発光部位制御部とを有する。発光可能領域14は、図示の如く、移動路の進行方向に沿って延在した形状に形成され、車両等から視認できるように配置され、光を発する発光部位が発光可能領域14内で移動路の進行方向に沿って変位できるように構成される。典型的には、図示の如く、移動路の進行方向に沿って、LED、電球、電灯などの発光素子16が整列されて発光可能領域14が形成されてよい。そして、発光部位制御部は、コンピュータ及び駆動回路を含むコンピュータ装置により構成されてよく、その作動は、電子回路装置又はプログラムに従ったコンピュータ装置の作動により実現されてよい。具体的には、発光部位制御部は、システムコントローラ20からの制御指令に応答して、点灯状態に選択されると、発光可能領域14に於いて光を発光する発光部位を、後に詳細に説明されるように、移動路の進行方向に沿って変位するように制御する。発光可能領域14を、図示の如く、複数の発光素子16を整列して形成している場合には、発光部位制御部は、移動路の進行方向後方から前方へ向かって、発光素子16を順番に、点灯し、その後、消灯するよう各発光素子16の状態を制御するよう機能する。また、発光可能領域14について、発光可能領域14に於ける光の移動、即ち、発光部位の変位が、移動中の車両等から視認できるように、発光可能領域14の移動路の進行方向の幅W、発光している発光部位の寸法、発光量が、システムの設置される環境、移動速度の誘導の対象となる車両等の種類又は想定される移動速度、設置に要する費用等を考慮して、適合により設定されてよい。典型的には、発光している発光部位の寸法が、車両等(運転者又は歩行者)から一時に視認可能な長さ、例えば、車両等からの一時に認識可能な視角範囲であってよい。発光可能領域14の長さは、具体的には、自動車等の車両の場合には、想定される車速によって、数十cm~数mの範囲で適宜決定されてよく、歩行者の場合には、数cmなどであってよく、発光している発光部位の長さは、例えば、発光可能領域14の長さの2~8割程度であってよい。
【0023】
システムの作動
(1)概要
本実施形態の車両等の移動速度誘導システムの作動に於いては、システムコントローラ20が、移動路に沿って配置された複数の発光装置12に於いて、適宜設定されてよい所定の個数N毎に少なくとも一つの発光装置12を点灯状態に選択し、その他の発光装置12を消灯状態に選択するところ、点灯状態に選択する発光装置12を、車両等の誘導したい速度(目標速度)に合わせて、移動路に沿って順番に、例えば、一つずつ、遷移するよう作動する。より具体的には、
図2(A)に描かれている如く、点灯状態(on)に選択される発光装置12が、目標速度Vt[m/s]と発光装置12の配置間隔L[m]とを用いて、時間L/Vt[s]毎に、移動路の進行方向に沿って隣りの発光装置12へ遷移させられるようになっていてよい。そして、システムコントローラ20は、点灯状態に選択する発光装置12と消灯状態に選択する発光装置12に対して、それぞれ、対応する制御指令を送信し、各発光装置12は、点灯状態に選択されたことを示す制御指令を受信すると、上記の発光可能領域14に於いて、車両等から視認できるように光を放出することとなる。かかる作動に於いて、点灯する発光装置12が時間L/Vt[s]毎に進行方向に遷移することとなるので、車両等が発光可能領域14からの光に追随することように移動することで、車両等の移動速度が目標速度に誘導されることが期待される。
【0024】
しかしながら、発光装置12が点灯状態に選択されている間に、単に、発光体が点灯したままだけの場合、「発明が解決しようとする課題」の欄に於いて、
図3に関連して説明されている如く、車両等の位置又は速度によっては、光が進行方向とは逆方向に流れて見えたり、車両等が誘導したい速度の整数倍又は誘導したい速度を整数で除した値に誘導されてしまうなどの予定外の現象が発生した。この点に関し、既に説明されている如く、本発明の発明者等の研究によれば、車両等から一時に視認される光の発光位置を進行方向に変位させるなどして、発光位置を実際に動かすようにすると、車両等から、光が進行方向に沿って、アニメーションの如く、実際に移動する動きが認識され、上記の如き予定外の現象の発生は、抑制されることが見いだされた。そこで、本実施形態では、以下に説明されるように、各発光装置12が点灯状態に選択されている際に、発光可能領域14内に於いて、光が進行方向に沿って移動するように、発光部位が変位させられる。
【0025】
(2)発光可能領域14に於ける光の移動の演出
本実施形態のシステムでは、上記の如く、各発光装置12は点灯状態に選択されると、発光可能領域14内に於いて、実際に発光する部位の位置が進行方向に沿って移動するように発光可能領域14の状態が制御される。具体的には、例えば、
図2(B)に模式的に描かれている如く、各発光装置12の点灯状態の選択後に、発光可能領域14に於いて、進行方向の後方から前方へ向かって、順番に発光素子16が点灯されるように、発光可能領域14の状態が制御されてよい。図示の例では、二つの発光素子16ずつ、順次点灯され、最大で、8個の発光素子が同時に点灯されるようになっているが、これに限定されず、点灯一時に点灯される発光素子16の数は、車両等から視認される光の見易さなどに応じて適宜調整されてよい。また、図では、発光可能領域14に於ける発光部位の変位速度、例えば、単位時間当たりに点灯を開始する発光素子16の数も、車両等から視認される光の見易さなどに応じて適宜調整されてよい。図示の例では、一つの発光装置12が点灯状態に選択されている時間に亙って、一度、発光可能領域14の進行方向後端から前端へ発光部位が変位するように描かれているが、これより遅くても早くてもよく、或いは、時間ΔTに於いて、2回以上、発光部位が移動するようになっていてもよい。かかる構成によれば、個々の発光装置12に於いて、任意の速度にて発光位置が移動する様子を演出することが可能となり、車両等の移動速度を、その位置や速度によらずに、ストロボ効果が発生しにくい条件下でも、誘導したい速度へ誘導できることとなる。
【0026】
(3)システムの処理過程
本実施形態のシステムの作動に於いては、まず、発光制御手段であるシステムコントローラ20に於いて、車両等の速度誘導の対象となる移動路での目標速度(Vt)が決定される。かかる目標速度は、移動路の法定速度又は安全速度、移動路の環境や時間帯などに応じて適宜設定されるようになっていてよい。具体的には、目標速度は、車両等の移動速度が低下しやすい区間では、車両等の平均移動速度よりも高く設定され、車両等の移動速度が上昇しやすい区間では、車両等の平均移動速度よりも低く設定されてよい(これにより、移動路の渋滞防止又は解消に寄与することが期待される。)。そして、目標速度が決定されると、移動路に沿って配置された発光装置12のうちで、所定の個数N毎に、少なくとも一つの発光装置12(
図2の場合には3個毎に一つ)を点灯状態に選択するところ、点灯状態に選択する発光装置12が時間ΔT=L/Vt毎に移動路の進行方向に順々に遷移するように、点灯状態にする発光装置12が選択され、点灯状態にする発光装置12に対して、発光可能領域14を点灯するよう制御指令が送信される。
【0027】
点灯状態にする制御指令を受けた発光装置12に於いては、上記の如き態様にて、発光部位制御部の作動により、発光可能領域14の進行方向の後端から前端へ発光部位が変位するように、発光素子16の点灯状態が制御される。なお、目標速度によって、各発光装置12の点灯状態に選択される時間幅ΔTが変化するので、システムコントローラ20から時間ΔTの情報が発光部位制御部へ送信され、その情報に基づいて、発光可能領域14内の発光部位の変位速度が調節されるようになっていてよい。
【0028】
かくして、上記の本実施形態のシステムによれば、車両等が発光装置12の発光可能領域14の光に追随するように移動する際に、各発光可能領域14内で光が移動するように演出することにより、車両等の移動速度が、好適に、点灯状態となる発光装置12の遷移速度に対応する目標速度に誘導されることが期待される。
【0029】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。