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特開2022-170335樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法、抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法、及び抗菌・抗ウィルス性樹脂素材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170335
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法、抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法、及び抗菌・抗ウィルス性樹脂素材
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20221102BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221102BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221102BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20221102BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C08J7/00 305
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/10
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076405
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】510123460
【氏名又は名称】株式会社アクト・ノンパレル
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】清野 智史
(72)【発明者】
【氏名】眞柄 智成
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雄司
【テーマコード(参考)】
4F073
4H011
【Fターム(参考)】
4F073AA09
4F073BA04
4F073BA07
4F073BA08
4F073BA13
4F073BA16
4F073BA18
4F073BA19
4F073BA26
4F073CA42
4F073EA01
4F073EA11
4F073EA21
4F073EA53
4F073HA11
4F073HA12
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】樹脂素材に優れた抗菌性、抗ウィルス性を、容易に付与することができる樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法、前記抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含む抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法、及び前記抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により容易に製造でき、優れた抗菌・抗ウィルス性を有する抗菌・抗ウィルス性樹脂素材を提供する。
【解決手段】樹脂素材の表面を、銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液と接触させた後、前記表面に電離放射線を照射して20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子を、前記樹脂素材の表面に担持固定する樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法、前記抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含む抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法、及び前記抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により容易かつ安価に製造することができ、優れた抗菌・抗ウィルス性を有する抗菌・抗ウィルス性樹脂素材。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂素材の表面を、銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液と接触させた後、前記表面に電離放射線を照射して20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子を、前記樹脂素材の表面に担持固定することを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項2】
前記樹脂素材が、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリ塩化ビニルであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項3】
前記樹脂素材が、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項4】
前記水溶液が、炭素数2-5の分岐低級アルコールを8体積%以下含むアルコール水の溶液であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項5】
前記電離放射線が、電子線であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項6】
抗菌処理方法であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項7】
抗ウィルス処理方法であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含むことを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法。
【請求項9】
20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材。
【請求項10】
60質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材。
【請求項11】
80質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂素材の表面に酸化銀のナノ粒子を担持固定して抗菌・抗ウィルス性を付与することを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法、前記抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含む抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法、及び前記抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により製造することができる抗菌・抗ウィルス性樹脂素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症の拡大等により抗菌・抗ウィルスに対する要請が高まり、日用品等を含む種々の物品への抗菌性、抗ウィルス性の付与が望まれている。そこで、種々の物品を形成する素材として広く用いられている樹脂素材にも、抗菌性や抗ウィルス性を効率的に付与できる抗菌・抗ウィルス処理方法の開発が望まれている。
【0003】
抗菌性を有する樹脂材料の製造方法として、特許文献1には、抗菌効果を有する成分として知られている銀を含有する抗菌剤を、ABS樹脂等の汎用の樹脂材料に配合する方法が開示されている。しかし、この方法は、樹脂材料の製造過程で抗菌剤を練り込み配合する方法であるので、製造された後の樹脂素材を抗菌処理する方法ではない。
【0004】
特許文献2、3には、電子線照射により貴金属ナノ粒子を樹脂素材の表面に担持固定化する技術が開示されている。すなわち、特許文献2には、無電解めっき層を有する樹脂素材表面に、めっき触媒であるパラジウムや銀等のイオンの溶液を接触させ、電子線及び/又はγ線を照射して、前記樹脂表面に触媒金属のナノ粒子を担持するめっき樹脂成形品の製造方法が開示されており、特許文献3には、合成樹脂等からなる担体に、白金イオンを含む溶液を接触させた後、該担体に電子線を照射して、白金を含む微粒子を該担体表面に固定化する方法が開示されている。しかし、これらの方法は、樹脂素材の表面の抗菌処理を目的とする樹脂素材の抗菌処理方法ではない。
【0005】
又、特許文献4には、銀等の貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する水溶液に繊維を浸し、前記水溶液にγ線または電子線を照射することを特徴とする繊維の抗菌処理方法が開示されている。そして、この方法により金属銀の微粒子が繊維に固定され、その金属銀により抗菌効果を有する繊維材料が得られることが確認されている。
このように、金属銀等の貴金属は抗菌効果を有する成分として知られているが、酸化銀は、金属銀等の貴金属よりもさらに優れた抗菌効果を有することが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-60635号公報
【特許文献2】特開2019-167598号公報
【特許文献3】特開2017-159228号公報
【特許文献4】国際公開WO2009/078442公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ACSNano Liu et al,VOL.4,No.11,6903-6913,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、繊維素材以外の樹脂素材については、抗菌性の貴金属により、樹脂素材が製造された後に抗菌処理する方法は従来知られていなかった。又、繊維素材についても、金属銀等の抗菌性の貴金属よりもさらに優れた抗菌効果を有する酸化銀を主体とする抗菌剤を担持固定して抗菌性を付与する方法も知られていなかった。
【0009】
本発明は、酸化銀又は酸化銀を主体とする銀の微粒子を樹脂素材に担持固定して、当該樹脂素材に優れた抗菌性、抗ウィルス性を、容易かつ安価に付与することができる樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法を提供することを課題とする。本発明は、又、前記樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含むことを特徴とする抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法を提供することを課題とする。本発明は、さらに、前記抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により容易かつ安価に製造することができ、優れた抗菌・抗ウィルス性を有する抗菌・抗ウィルス性樹脂素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく検討した結果、樹脂素材の表面を銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液を接触させた後、電離放射線を照射することにより、樹脂素材の表面に酸化銀を含む銀ナノ粒子を担持固定させることができ、その結果、前記樹脂素材の表面に、抗菌性・抗ウィルス性を付与して、抗菌・抗ウィルス性樹脂素材を製造できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記の本発明の課題は、下記の構成により解決することができる。
【0011】
本発明の第1は、樹脂素材の表面を、銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液と接触させた後、前記表面に電離放射線を照射して20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子を、前記樹脂素材の表面に担持固定することを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。なお、20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子とは、銀ナノ粒子中の銀の中の20質量%以上の銀が酸化銀であることを意味する。以下に示す酸化銀の含有量の質量%についても同様である。
【0012】
本発明の第2は、本発明の第1の好ましい態様であって、前記樹脂素材が、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、又はポリ塩化ビニル(PVC)であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。
【0013】
本発明の第3は、本発明の第1の好ましい態様であって、前記樹脂素材が、フッ素樹脂であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。代表的なフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)が挙げられる。
【0014】
本発明の第4は、本発明の第2又は第3の好ましい態様であって、前記水溶液が、炭素数2-5の分岐低級アルコールを、8体積%以下含むアルコール水の溶液であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。
【0015】
本発明の第5は、本発明の第1-4の好ましい態様であって、前記電離放射線が、電子線であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。
【0016】
本発明の第6は、本発明の第1-5であって、抗菌処理方法であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。
【0017】
本発明の第7は、本発明の第1-5であって、抗ウィルス処理方法であることを特徴とする樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法である。
【0018】
本発明の第8は、本発明の第1-7の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含むことを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法である。
【0019】
本発明の第9は、20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材である。
【0020】
本発明の第10は、60質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材である。
【0021】
本発明の第11は、80質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、その表面に固定担持されていることを特徴とする抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1-7の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、種々の物品を構成する素材等として用いられる樹脂素材に、容易な手順で安価に、優れた抗菌性及び/又は抗ウィルス性を付与することができる。
本発明の抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法は、前記の抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含む方法であり、優れた抗菌性及び/又は抗ウィルス性を有する樹脂素材を容易に安価に製造することができる。
前記の抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により製造することができる、本発明の抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材は、従来の樹脂素材よりも優れた抗菌性・抗ウィルス性を奏するものであり、繊維素材や日用品等を含む種々の物品を構成する素材等として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例での樹脂素材の抗菌処理のプロセスを示すフロー図である。
図2】フィルム密着法(JIS Z 2801)の試験プロセスの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法とは、樹脂素材に、菌の増殖を抑制する抗菌性若しくはウィルスの増殖を抑制する抗ウィルス性、又は抗菌性及び抗ウィルス性を付与する方法を意味する。
本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法は、前記のように、
被処理対象である樹脂素材の表面と、銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液とを接触させる工程、及び
前記接触させる工程の後、前記樹脂素材の表面に電離放射線を照射する工程を含み、
前記電離放射線の照射が、20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が、前記樹脂素材の表面に担持固定される条件で行われることを特徴とする。
【0025】
この処理方法において、樹脂素材の表面と銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液とを接触させる方法としては、樹脂素材の表面の、抗菌性・抗ウィルス性の付与が意図される部分の全体を満遍なく、前記水溶液により覆うことができる方法であれば、特に限定されない。例えば、樹脂素材を水溶液に浸漬する方法、樹脂素材及び水溶液を、密閉容器内、例えばビニルバックに入れて該密閉容器を振盪して樹脂素材の表面を水溶液で濡らす方法、樹脂素材の表面に水溶液を塗布又は噴霧して樹脂素材の表面を水溶液で濡らす方法等を挙げることができる。
なお、樹脂素材が、糸、織物、編み物等の繊維製品の場合は、これらを形成する繊維等の表面全体が水溶液と接触される方法が好ましい。又、樹脂素材の表面の一部分のみに、抗菌性・抗ウィルス性を付与する場合は、当該一部分のみが水溶液と接触する方法でもよい。
【0026】
抗菌・抗ウィルス処理がされる樹脂素材の形態としては、板状、棒状、バルク状等が挙げられ特に限定されない。又、繊維状の樹脂、繊維状の樹脂を細長く集合した糸、前記の糸を織り上げた織物、編み物等も本発明の処理対象の樹脂素材に含まれる。
【0027】
本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法が適用される樹脂素材としては、抗菌性・抗ウィルス性の付与が望まれている物品の素材として用いられているものであれば特に限定されない。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、表面が粗い素材でも、平滑な素材であってもよく、多孔性の素材や前記のような繊維状の素材にも本発明の処理方法を適用することができる。
【0028】
中でもABS、PC、PP、PE、PVCの抗菌・抗ウィルス処理に、本発明は好適に適用される。また、PTFE等のフッ素樹脂の抗菌・抗ウィルス処理にも、本発明は好適に適用される。
【0029】
銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液としては、硝酸銀等の水溶性の銀塩を溶解する水溶液、NHを加えてつくる[Ag(NH、ジアンミン銀(I)イオン、[Ag(S3-、ビス(チオスルファト)銀イオン等の銀錯イオンを溶解する水溶液を挙げることができる。
【0030】
樹脂素材の表面と前記水溶液とを前記のように接触させた後、前記樹脂素材の表面に電離放射線を照射する。この照射により、酸化銀を含む銀ナノ粒子が析出するとともに、前記銀ナノ粒子は、前記樹脂素材の表面に担持固定され、その結果前記樹脂素材が抗菌・抗ウィルス処理される。
照射に用いられる電離放射線としては、γ線等の高エネルギー電磁波、電子線等の荷電粒子線が挙げられるが、中でも、γ線と電子線が好ましく、特に、照射のための装置や設備が比較的安価で、操作や制御が容易な電子線が好ましく用いられる。
【0031】
電離放射線照射は、照射により酸化銀を20質量%以上含む銀ナノ粒子が樹脂素材の表面に担持固定される条件で行われる。ここで酸化銀とは、AgO及びAgOのいずれをも含む意味である。すなわち担持固定される酸化銀には、AgOのみからなる場合、AgOのみからなる場合、AgO及びAgOからなる場合も含まれる。又、水溶液中の銀イオンや銀錯イオンからの酸化銀が生成する過程も特に限定されない。すなわち、銀イオンや銀錯イオンと水分子との反応により生成する場合、空気中の酸素との反応により生成する場合、樹脂素材を形成する樹脂材料との反応により生成する場合等、樹脂素材の表面に酸化銀が担持固定される限り、いずれの過程であってもよい。
【0032】
酸化銀を20質量%以上含む銀ナノ粒子を樹脂素材の表面に担持固定することにより、金属銀のナノ粒子や酸化銀の含有割合が20質量%より小さい銀ナノ粒子を担持固定する場合より優れた抗菌性、抗ウィルス性が得られる。
前記銀ナノ粒子が、酸化銀を60質量%以上含む場合はより優れた抗菌性、抗ウィルス性が得られ、酸化銀を80質量%以上含む場合はさらに優れた抗菌性、抗ウィルス性が得られるので、好ましい。
【0033】
銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液中の銀イオンまたは銀錯体の濃度を10mM以下とすることにより、樹脂素材の表面に担持固定される銀ナノ粒子を、酸化銀を20質量%以上含むものとすることができる。銀イオンまたは銀錯体の濃度を低くするほど酸化銀の割合が増大するので、銀イオンまたは銀錯体の濃度を調整することにより、より酸化銀の割合が高い銀ナノ粒子を得ることができる。そこで、より好ましくは、銀イオンまたは銀錯体の濃度は5mM以下であり、さらに好ましくは3mM以下である。
一方、銀イオンまたは銀錯体の濃度が低すぎる場合は、担持する銀ナノ粒子の量が少なくなり、所望の抗菌・抗ウィルス効果が得られなくなるので、濃度は0.1mM以上であり、より好ましくは0.2mM以上であり、さらに好ましくは、0.5mM以上である。
【0034】
前記水溶液の溶媒が水のみの場合は、樹脂素材の種類によって、前記水溶液が樹脂素材の表面全体を満遍なく濡らすことが困難な場合がある。水溶液に水溶性の有機溶剤を添加すると樹脂素材の表面全体を濡らすことが容易となる場合があるが、有機溶剤の種類によっては抗菌・抗ウィルス性の付与を阻害する場合が考えられる。有機溶剤が、炭素数2-5の分岐低級アルコールであって、その添加量が水溶液中8体積%以下の場合は、抗菌・抗ウィルス性の阻害がないと考えられるので好ましい。より好ましくは、2体積%以下である。
【0035】
前記炭素数2-5の分岐低級アルコールとしては、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、メチル-1-ブタノール、メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等を挙げることができるが、中でも、1級アルコールが好ましく、特に2-プロパノールが好ましい。
【0036】
本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により増殖が抑制される菌としては、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌、大腸菌等のグラム陰性菌のいずれも挙げることができる。中でも、黄色ブドウ状球菌、大腸菌が、本発明の処理方法が好適に適用される菌として挙げられる。又、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、増殖が抑制されるウィルスとしては、インフルエンザウィルス、コロナウィルス等のエンベロープ型のウィルス、ネコカリシウィルス、ノロウィルス等のノンエンベロープ型のウィルスのいずれも挙げることができる。
【0037】
本発明の抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法は、前記の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法を実施する工程を含む。
【0038】
本発明の抗菌・抗ウィルス性樹脂素材は、樹脂素材の表面に、20質量%以上の酸化銀を含む銀ナノ粒子が固定担持されていることを特徴とし、優れた抗菌・抗ウィルス性を有する素材である。従ってこの樹脂素材を構成材料として用いて製造された物品は、優れた抗菌・抗ウィルス性を有し、日用品や衣類、建物資材等として好適に用いられる。本発明の抗菌性・抗ウィルス性樹脂素材は、前記の本発明の抗菌・抗ウィルス性樹脂素材の製造方法により製造することができる。
【実施例0039】
以下、本発明の実施形態を以下に記載の実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではなく、特許請求の範囲と同一及びその均等の範囲で種々の変更を加えたものも含まれると解されるべきである。
【0040】
実施例1 ABS樹脂の抗菌処理
1)抗菌処理のプロセス
アズワン株式会社製のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂板ABSN-100-3を縦50mm×横50mm×厚さ3mmにカットしたもの(樹脂素材:以下、単に「ABS樹脂板1」と言うこともある。)を、以下のプロセス(第1~4工程)で抗菌処理した。抗菌処理のプロセスのフローを図1に示す。
【0041】
第1工程(図1の(a))
ABS樹脂板1をソルミックス(エチルアルコールを主剤とした混合溶剤:日本アルコール販売社)を用いて洗浄して油脂等表面の付着物を除去した後、さらに超純水を用いて洗浄する。
第2工程(図1の(b))
洗浄したABS樹脂板1と下記の表1に示す原料溶液3の20mLとをビニルバック2内に密封した後、密封した状態で一夜放置して、ABS樹脂板1の表面の全体を原料溶液3で濡らす。
第3工程
ABS樹脂板1と原料溶液3とをビニルバックに密封した状態で、電子線照射装置(DI社製ダイナミトロン型5MeV電子加速器)を用いて、4.8MeV、線量率20kGyの条件で電子線照射を行う。
第4工程(図1の(c))
電子線照射後、ビニルバックからABS樹脂板1を取り出して、超純水で洗浄し、下記の抗菌性試験、抗ウィルス性試験に供する試料を得る。
【0042】
(原料溶液)
硝酸銀を、水又は水に2-プロパノールを1vol%加えたアルコール水に溶解し、最終濃度を1mM(1mmol%)として、表1に示す原料溶液(銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液)を調整した。なお、表1中の「Ag/ABS」とは、ABS樹脂板1の表面に銀を担持固定したものを示す。以後も同じである。
【0043】
【表1】
【0044】
以下、原料溶液として原料溶液1を用い前記プロセス(第1~4工程)で抗菌処理がされたABS樹脂板1を「Ag/ABS-2p無」と表し、原料溶液2を用い前記プロセス(第1~4工程)で抗菌処理がされたABS樹脂板1を「Ag/ABS-2p有」と表わす。
【0045】
(ICP発光分析)
ICP発光分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)とは、分析試料にプラズマのエネルギーを外部から与え、含有されている成分元素(原子)を励起し、その励起された原子が低いエネルギー準位に戻るときに放出される発光線(スペクトル線)を測定する方法であり、その測定結果から成分元素の量を求めることができる。
ICP発光分析により、前記の抗菌処理がされた後のABS樹脂板1の1cmあたりの銀の担持量を求めた結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
(X線光電子分光法(XPS))
Ag/ABS-2p無について、アルバック・ファイ社製の走査型X線光電子分光装置Quantum 2000を用いてXPSの測定を行った。測定されたAg3dのスペクトルは377.6eV近傍でピークを示しており、Ag/ABS-2p無に担持された銀は、金属銀としてではなく、抗菌性の高い酸化銀、AgO又はAgOとして担持していると考えられる。そして、このAg3dのスペクトルの結果から、前記の第1~4工程により処理されるABS樹脂板1に担持固定される銀は、少なくとも80質量%がAgO又はAgOであると考えられる。又、前記の第1~4工程に準じた方法、条件により、樹脂素材の表面に、AgO及び/又はAgOを20質量%以上含む銀ナノ粒子を担持固定できると考えられる。
【0048】
2)抗菌性試験
(試験対象の樹脂素材(検体))
・ ポリエチレンフィルム(ABS樹脂板1と同じ大きさ:「無加工試験片」と表す)
・ 抗菌処理(前記プロセス:第1~4工程)をしていないABS樹脂板1(「ABS樹脂板(無加工)」と表す)
・ ABS樹脂板1の表面を原料溶液で濡らす工程(第2工程)を行わず、第1工程、第3工程(電子線照射)及び第4工程のみを行った場合のABS樹脂板1(「ABS樹脂板(EBのみ)」と表す)
・ Ag/ABS-2p無
・ Ag/ABS-2p有
【0049】
(抗菌処理対象の菌種)
黄色ブドウ球菌、大腸菌
【0050】
(抗菌性試験の方法)
前記試験対象の樹脂素材(検体)のそれぞれについて、フィルム密着法(JIS Z 2801)により抗菌性試験を行い、抗菌性能を評価した。フィルム密着法(JIS Z 2801)の試験プロセスの概略を図2に示す。又、試験の具体的なプロセス、条件を以下に示す。
【0051】
第1工程: 菌液4(抗菌処理の対象の菌を6.1×10CFU/mL含む液)0.4mLを、試験対象の樹脂素材(検体)1の表面に滴下する(図2(a)参照)。
第2工程: 菌液4が滴下された検体の表面を、密着フィルム5(ポリエチレンフィルム:縦40mm×横40mm)で覆うことにより菌液4を均等に広げる(図2(b)参照)。
第3工程: 24時間菌を培養した後、スポイト6等で菌液を回収し生菌数を測定する(図2(c)参照)。
【0052】
(抗菌性試験結果)
前記のようにして測定された抗菌性試験の結果を下記表3~表5に示す。
表3には、黄色ブドウ球菌に対する、前記検体(無加工試験片、ABS樹脂板(無加工)、ABS樹脂板(EBのみ)、Ag/ABS-2p有)の抗菌性試験結果を、
表4には、大腸菌に対する、前記検体(無加工試験片、ABS樹脂板(無加工)、ABS樹脂板(EBのみ)、Ag/ABS-2p有)の抗菌性試験結果を、
表5には、大腸菌に対する、前記検体(無加工試験片、Ag/ABS-2p無)の抗菌性試験結果を示す。
【0053】
表中の、生菌数の対数平均値(/cm)は、1cmあたりの生菌数の対数値の平均を示している。例えば表3の黄色ブドウ球菌における無加工試験片では培養前(接触直後)では平均10の4.19乗の生菌数を有している。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
表3~5中の、抗菌活性値[R]は、無加工試験片の24時間培養後の生菌数の対数平均値Utから、他の検体の24時間培養後の生菌数の対数平均値Atを引いた値、すなわち[R]=Ut-Atで算出される値であり、フィルム密着法(JIS Z2801)で定められている抗菌効果の程度を判定する指標の値である。日本衛生材料工業連合会が定める抗菌性能基準では、抗菌活性値[R]≧2.0で抗菌性を有するとされている。
【0058】
表3に示す黄色ブドウ球菌に対する抗菌性試験結果では、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により抗菌処理がされたAg/ABS-2p有の場合、24時間培養後は、At<―0.20、抗菌活性値[R]≒5.0となっており、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きく高い抗菌性能が示されている。なお、ABS樹脂板1の表面を原料溶液で濡らす工程を行わず、電子線照射のみを行ったABS樹脂板1(ABS樹脂板(EBのみ))の場合、24時間培養後は、At=0.70、抗菌活性値[R]=4.1となっており、この場合も抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きく高い抗菌性能を有しており、ABS樹脂板は抗菌処理をしない場合でも、高い抗菌性能を有すると言えるが、ABS樹脂板1の表面を原料溶液で濡らした後電子線照射を行ったAg/ABS-2p有の場合は、より優れた抗菌性能を有すると言える。
【0059】
表4に示す大腸菌に対する抗菌性試験結果では、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により抗菌処理がされたAg/ABS-2p有の場合、24時間培養後は、At<―0.20、抗菌活性値[R]≧5.9となっており、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きく高い抗菌性能が示されている。一方、無加工のABS樹脂板1の場合(ABS樹脂板(無加工))は、24時間培養後はAt=4.23、抗菌活性値[R]=1.5であり、又、ABS樹脂板1の表面を原料溶液で濡らす工程を行わず、電子線照射のみを行ったABS樹脂板1(ABS樹脂板(EBのみ))の場合、24時間培養後はAt=3.98、抗菌活性値[R]=1.7であり、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より小さい。表4に示す結果より、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、大腸菌に対して飛躍的に高い抗菌性能をABS樹脂からなる樹脂素材に付与できることが示されている。
【0060】
表5に示す大腸菌に対する抗菌性試験結果では、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により抗菌処理がされたAg/ABS-2p無の場合、24時間培養後は、At<―0.20、抗菌活性値[R]≧6.3となっており、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きく高い抗菌性能が示されている。すなわち、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、大腸菌に対する抗菌性能をABS樹脂に付与する場合は、原料溶液(銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液)の分岐低級アルコールの有無に係わらず、飛躍的に高い抗菌性能が得られることが、表5の結果より示されている。
【0061】
以上、表3~表5から、図1に示す第1~第4工程を経てABS樹脂板1の表面を銀イオンまたは銀錯体を含有する原料溶液と接触させて、電離放射線を照射することで酸化銀を主体とする銀ナノ粒子をABS樹脂板1の表面に担持固定させた場合、原料溶液中の分岐低級アルコールの有無に係わらず、大腸菌等の生菌を全滅又は大幅に減らすことができ、汎用のABS樹脂板1を高い抗菌性(除菌性)を有するABS樹脂板1にすることができることが示されている。
原料溶液中の分岐低級アルコールの有無に係わらず高い抗菌性を有することから、ABS樹脂以外の樹脂素材であって、水溶液と接触させても表面全体を水溶液で濡らすことが難しく、表面全体を水溶液で濡らすために有機溶剤の添加が必要な場合でも、原料溶液中に分岐低級アルコールを添加し本発明の処理方法を適用することにより、高い抗菌性が得られることが推察される。
【0062】
実施例2 PC、PP、PE、PVCの抗菌処理
1)抗菌処理のプロセス
PC、PP、PE、PVCの樹脂板を縦50mm×横50mm×厚さ3mmにカットしたもの(樹脂素材)を、実施例1と同じプロセス(第1~4工程:図1)で抗菌処理した。原料溶液としては、1mM硝酸銀水溶液(原料溶液1)及び硝酸銀を1mMの濃度で水+2-プロパノール(10vol%)に溶解した溶液(原料溶液3)を用いた。
【0063】
2)抗菌性試験
(試験対象の樹脂素材(検体))
・ ポリエチレンフィルム(ABS樹脂板1と同じ大きさ:「無加工試験片」と表す)
・ 抗菌処理をしていないPC、PP、PE、PVCの樹脂板(それぞれ、「コントロールPC」、「コントロールPP」、「コントロールPE」、「コントロールPVC」と表す)
・ 原料溶液1を用い前記抗菌処理のプロセスで抗菌処理がされたPC、PP、PE、PVCの樹脂板(それぞれ、「Ag/PC-2p無」、「Ag/PP-2p無」、「Ag/PE-2p無」、「Ag/PVC-2p無」と表す)
・ 原料溶液3を用い前記抗菌処理のプロセスで抗菌処理がされたPC、PP、PE、PVCの樹脂板(それぞれ、「Ag/PC-2p有」、「Ag/PP-2p有」、「Ag/PE-2p有」、「Ag/PVC-2p有」と表す)
【0064】
(抗菌性試験の方法)
前記試験対象の樹脂素材(検体)のそれぞれについて、実施例1と同様に、フィルム密着法(JIS Z 2801)により抗菌性試験を行い、抗菌性能を評価した。
試験の具体的な条件を以下に示す。
試験菌種:大腸菌
試験菌液の生菌数:5.7×10(CFU/mL)
菌液調製溶液 :1/500NB培地
試験菌液接種量:0.4ml
試験片の清浄化:試験片の全面を純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭いた後、十分に乾燥させた。
【0065】
(抗菌性試験結果)
前記のようにして測定された抗菌性試験の結果を下記表6に示す。
表6中の、生菌数の対数平均値(/cm)は、表3~5と同様に、1cmあたりの生菌数の対数値の平均を示している。
【0066】
【表6】
【0067】
表6に示す抗菌性試験結果では、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により抗菌処理がされたAg/PC-2p無、Ag/PP-2p無、Ag/PE-2p無、Ag/PVC-2p無、Ag/PC-2p有、Ag/PP-2p有、Ag/PE-2p有、Ag/PVC-2p有の場合、24時間培養後は、At<―0.20、抗菌活性値[R]≧6.1となっており、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きい。すなわち、処理対象の樹脂がPC、PP、PE、PVCの場合でも、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により抗菌処理をすれば、原料溶液中の2-プロパノールの有無に係わらず、高い抗菌性能が得られることが示されている。
一方、抗菌処理をしていないPC、PP、PE、PVC(コントロールPC、PP、PE、PVC)の場合は、24時間培養後のAtは、それぞれ、5.64、5.76、4.80、5.55であり、、抗菌活性値[R]は、それぞれ、0.2、0.1、1.1、0.3、0.1であり、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より小さい。
表6に示す結果より、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、大腸菌に対する飛躍的に高い抗菌性能をPC、PP、PE、PVCの樹脂素材に付与でき、これらの樹脂素材から高い抗菌性(除菌性)を有する樹脂素材が製造できることが示されている。
【0068】
実施例3 ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の抗菌処理
1)抗菌処理プロセス
日東電工株式会社製の厚み80μmのPTFEの多孔質膜(テミッシュS-NTF1133)を縦50mm×横50mmにカットしたもの(樹脂素材:以下、単に「PTFE膜」と言うこともある。)を、前記と同様に図1に示すフロー(第1~4工程)で抗菌処理した。
ただし、洗浄したPTFE膜を原料溶液に浸してビニルバック内に密封する第2工程(図1(b))では、PTFE膜を、2-プロパノール、2.0mM-(AgNO)/(60質量%2-プロパノール水溶液、2.0mM-(AgNO)/水溶液、の順に浸漬させ、ビニルバック内に密封した。これは、PTFE膜をそのまま原料溶液としての硝酸銀(AgNO)溶液に浸すだけでは、上述したABS樹脂板1のように表面全体を原料溶液で濡らすことができず、表面に満遍なく銀ナノ粒子を担持させることができないため、有機溶剤としての2-プロパノールと接触する処理をしたためである。
なお、第3工程では、実施例1(ABS樹脂板1の場合)と同様に、4.8MeV、線量率20kGyの条件で電子線照射を行った。
【0069】
2)抗菌性試験
(試験対象の樹脂素材(検体))
・ ポリエチレンフィルム(ABS樹脂板1と同じ大きさ:「無加工試験片」と表す)
・ 前記抗菌処理プロセスを行ったPTFE膜(「抗菌処理済みPTFE膜」と表す)
・ 前記抗菌処理プロセスを行っていないPTFE膜(「未処理PTFE膜」と表す)
【0070】
(抗菌処理対象の菌種)
黄色ブドウ球菌、大腸菌
【0071】
(抗菌性試験の方法及び結果)
実施例1(ABS樹脂板1)と同様に、図2に示すフィルム密着法(JIS Z 2801)により抗菌性の評価を行った。実施例1(ABS樹脂板1)と同様に、図2(a)、(b)、(c)に示す工程にて生菌数を測定し、生菌数の対数平均値(/cm)を求め、無加工試験片の24時間培養後の生菌数の対数平均値Utから、他の検体の24時間培養後の生菌数の対数平均値Atを引いた値、すなわち[R]=Ut-Atで算出される値である抗菌活性値[R]を求めた。その結果を下記表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
表7に示すように、抗菌処理済みPTFE膜の場合、黄色ブドウ球菌に対しては抗菌活性値[R]は4.7以上であり、大腸菌に対しては抗菌活性値[R]は6.4以上であり、いずれの菌種についても、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に大きく、抗菌処理済みPTFE膜は、飛躍的に高い抗菌性能を有していることが示されている。
一方、未処理PTFE膜の場合、黄色ブドウ球菌に対しては抗菌活性値[R]は0.0であり、大腸菌に対しては抗菌活性値[R]は0.2であり、抗菌性能基準の抗菌活性値[R]≧2.0より大幅に小さく、ほとんど抗菌性能を有していないと言える。
【0074】
実施例4 ABS樹脂の抗ウィルス処理
1)抗ウィルス処理プロセス
実施例1の抗菌処理のプロセスと同様のプロセス(第1~4工程)にてABS樹脂板1ついての抗ウィルス処理をした。ただし、銀イオンまたは銀錯体を含有する水溶液(原料溶液)としては、硝酸銀を、水、2-プロパノールを1vol%溶解したアルコール水、又は2-プロパノールを10vol%溶解したアルコール水に溶解し、最終濃度を1mM(mmol%)として調整したものを使用した。
【0075】
原料溶液として水を用いて前記抗ウィルス処理がされたABS樹脂板1を「Ag/ABS-2p無」と表し、2-プロパノールを1vol%溶解したアルコール水を用いて前記抗ウィルス処理がされたABS樹脂板1を「Ag/ABS-2p1%」と表し、2-プロパノールを10vol%溶解したアルコール水を用いて前記抗ウィルス処理がされたABS樹脂板1を「Ag/ABS-2p10%」と表わす。
【0076】
2)抗ウィルス性試験
(試験対象の樹脂素材(検体))
・ ポリエチレンフィルム(ABS樹脂板1と同じ大きさ:「無加工試験片」と表す。)
・ Ag/ABS-2p10%
・ Ag/ABS-2p1%
・ Ag/ABS-2p無
【0077】
(抗ウィルス処理対象のウィルス)
A型インフルエンザウィルス(H3N2)
(A/HongKong/8/68;TCadapted ATCC-1679)
(試験ウィルス液濃度)
1.2×10PFU/ml
(PFU : plaque forming units)
【0078】
(抗ウィルス性試験の方法)
ISO 21702「Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces」により抗ウィルス性試験を行い、抗ウィルス性能を評価した。ISO 21702の試験の具体的なプロセス、条件を以下に示す。
【0079】
第1工程: 宿主細胞(MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞))に前記ウィルスを感染させ、培養後、遠心分離によって細胞残渣を除去したものをウィルス懸濁液とする。
第2工程: 第1工程で得られたウィルス懸濁液を、滅菌蒸留水を用いて10倍希釈し、1~5×10PFU/mLに調整したものを試験ウィルス懸濁液とする。
第3工程: 滅菌済シャーレの底に加工面を上にして、各検体(試験対象の樹脂素材)を置き、前記試験ウィルス懸濁液1を0.4mL接種する。(図2(a)参照)
第4工程: 検体の樹脂素材の表面に、密着フィルム5(ポリエチレンフィルム:縦40mm×横40mm)をかぶせ、試験ウィルス懸濁液4がフィルム全体に行きわたるように軽く押さえつけて覆うことにより試験ウィルス懸濁液4を均等に広げる。(図2(b)参照)
第5工程: シャーレの蓋をかぶせ、25℃で24時間放置後、各検体に洗い出し液(SCDLP培地)10mLを加える。
第6工程: 各試験検体および密着フィルムの表面を擦ることによりウィルスを洗い出した後、プラーク測定法にてウィルス感染価(PFU/cm)を測定する。
(無加工試験片については、24時間放置前(培養前)についても測定する。)
【0080】
(抗ウィルス性試験結果)
前記試験対象の樹脂素材(検体)のそれぞれについて、前記の抗ウィルス性試験にて測定されたウィルス感染価(PFU/cm)の常用対数平均値を表8に示す。表8の最右欄に示す抗ウィルス活性値[R]は、無加工試験片の24時間培養後のウィルス感染価の常用対数平均値Utから、抗ウィルス処理品の24時間培養後のウィルス感染価の常用対数平均値Atを減じた数、すなわち、[R]=Ut-Atで算出される値であり、抗菌活性値[R]の場合と同様に、前記ISO21702で定められている抗ウィルス効果の程度を判定する指標の値である。繊維評価技術協議会のSEKマーク認証基準では、抗ウィルス活性値3.0>[R]≧2.0で抗ウィルス性を有し、[R]≧3.0で非常に高い抗ウィルス性を有するとされている。
【0081】
【表8】
【0082】
表8に示すように、水に2-プロパノールを大量に添加した原料溶液を用い前記抗ウィルス処理がされたAg/ABS-2p10%の場合、抗ウィルス活性値[R]は1.8であり、抗ウィルス性能基準で抗ウィルス性が認められる抗ウィルス活性値[R]≧2.0より小さく、抗ウィルス性は認められるもの抗ウィルス性能基準で認められるほどの抗ウィルス性は有していないことが示されている。
【0083】
一方、2-プロパノールの添加量を減らした原料溶液を用い前記抗ウィルス処理がされたAg/ABS-2p1%の場合、抗ウィルス活性値[R]は2.0となり、抗ウィルス性能基準で抗ウィルス性が認められる抗ウィルス活性値[R]≧2.0を満たしている。さらに、2-プロパノールを添加しない原料溶液を用い前記抗ウィルス処理がされたAg/ABS-2p無の場合、抗ウィルス活性値[R]は3.1であり、抗ウィルス性能基準で非常に高い抗ウィルス性が認められる抗ウィルス活性値[R]≧3.0を満たしており、非常に高い抗ウィルス性は有していることが示されている。
【0084】
表8に示す結果から、本発明の樹脂素材の抗菌・抗ウィルス処理方法により、ABS等の樹脂素材の表面に酸化銀を主体とする銀ナノ粒子を担持固定することにより、樹脂素材に優れた抗ウィルス性が付与され、優れた抗ウィルス性を有する樹脂素材が製造できることが示されている。
【0085】
一方、樹脂素材の種類によっては、その表面全体を満遍なく原料溶液で濡らすことが困難な場合があり、この問題は、原料溶液に炭素数2-5の分岐低級アルコールを添加することにより解決できるが、表8に示す結果から、原料溶液に添加される2-プロパノールの濃度を高くし10体積%程度とすることは、抗菌・抗ウィルス効果を低下させるので好ましくないと言える。表8に示す結果から、原料溶液に添加される2-プロパノールの濃度は、8体積%以下とするべきであり、より好ましくは、2体積%以下が好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0086】
1 樹脂素材(検体)
2 ビニルバック
3 原料溶液
4 菌液(又は試験ウィルス懸濁液)
5 密着フィルム
6 スポイト
図1
図2