(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170404
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、これを含む成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20221102BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20221102BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/12
C08K5/3492
C08K5/17
C08K5/07
C08K5/315
C08K5/13
C08K5/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076502
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG06X
4J002CG01W
4J002EE036
4J002EH127
4J002EJ036
4J002EU176
4J002EU186
4J002EW048
4J002FD056
4J002FD078
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】電波の伝搬損失が小さく視認性が困難な透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、これを含む成形体及び成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)5~80質量%及びメチルメタクリレート単位(b2)20~95質量%を含有し、質量平均分子量が5,000~30,000である重合体(B)25~200重量部を含む、透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)5~80質量%及びメチルメタクリレート単位(b2)20~95質量%を含有し、質量平均分子量が5,000~30,000である重合体(B)25~200重量部を含む、透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、更にリン系酸化防止剤(C)を0.01~0.5重量部含有する、請求項1記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、更に紫外線吸収剤(D)を0.05~3重量部含有する、請求項1または2に記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
紫外線吸収剤(D)が、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物、サリシレート系化合物及びベンゾフェノン系化合物から選択される1種もしくは2種以上の紫外線吸収剤である、請求項3記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、更にトリメチロールプロパントリベンゾエート(E)を0.1~6重量部含有する、請求項1~4のいずれかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
透明アンテナが、車両、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、テレビ、デジタルサイネージ、小型無人航空機(ドローン)、基地局用の透明アンテナである、請求項1~5のいずれかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
28GHzの周波数における誘電損失が25db/m以下である、請求項1~6の何れかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ISO 75に準拠して測定した荷重たわみ温度が90℃以上である、請求項1~7の何れかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成型することを含む、成形体の成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難な、透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、これを含む成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の送受信用アンテナとして、透明アンテナが知られている。
【0003】
透明アンテナは、透明なガラスや樹脂からなる基板上に、視認されにくい回路パターンが形成されている。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-005013号公報
【特許文献2】特開2020-202593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無線通信システムが近年注目されている第5世代移動通信システム(5G)等の場合には、これまでよりも高周波数である28GHz帯の周波数が用いられることから、基板の影響を受けて電波の伝搬損失が大きくなる問題があった。また、直進性が高いため伝送距離が短いことからアンテナを多数設置する必要があるが、アンテナを多数設置することでアンテナが視認され、景観が損なわれる問題もあった。
【0006】
本発明は、移動通信システムにおいて、例えば28GHz帯等の高周波数体の電波が用いられた場合でも、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、これを含む成形体及び成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に特定構造の重合体(B)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて透明アンテナ基板を形成すると、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)5~80質量%及びメチルメタクリレート単位(b2)20~95質量%を含有し、質量平均分子量が5,000~30,000である重合体(B)25~200重量部を含む、透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明に係る成形体は、上記の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含み、本発明に係る成形体の製造方法は、上記の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成型することを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、28GHz帯等の高周波数帯電波が用いられた場合でも電波の伝搬損失が小さく、視認性が困難なため、工
業的利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
本発明の透明アンテナ基板は、主に、車両、スマートフォン、コンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、テレビ、デジタルサイネージ、小型無人航空機(ドローン)、基地局等で使用される透明アンテナを構成する基板である。
【0014】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に特定構造の重合体(B)が配合されたものである。尚、本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じてその他の成分を配合してもよい。
【0015】
本発明の実施形態において、「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」は、芳香族化合物に基づくポリカーボネート樹脂であって、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような芳香族ポリカーボネート樹脂として、例えば、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体を例示できる。代表例は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂を含む。
【0016】
前記ジヒドロキシジアリール化合物として、ビスフェノールAの他に、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類を例示できる。これらは単独で又は組み合わせて使用できる。これらの他にも、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等を組み合わせて使用することができる。
【0017】
更に、前記ジヒドロキシジアリール化合物と、例えば以下に示す3価以上の芳香族化合
物とを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
前記3価以上のフェノール化合物として、例えば、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-[4,4-(4,4´-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパン等を例示できる。
【0019】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、12000~30000であることがより好ましい。なお、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明にて使用される特定構造の重合体(B)は、芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)5~80重量%及びメチルメタクリレート単位(b2)20~95重量%からなる共重合体であり、かつ当該共重合体の重量平均分子量が5,000~30,000であるものである。尚、本明細書においては(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを意味する。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に特定構造の重合体(B)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と比較して表面硬度に優れることは一般的に知られている(特開2010-116501号公報等)。しかしながら、上記の特定構造の重合体(B)が、電波の伝搬損失を小さくすることは、これまで全く知られていなかった。
【0021】
芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、好ましくはフェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートであり、より好ましくはフェニルメタクリレートである。
【0022】
特定構造の重合体(B)中の芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)の含有率が5重量%以上80重量%以下であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との相容性が良好なので好ましい。更に好ましい芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)の含有率は20~70重量%の範囲である。
【0023】
特定構造の重合体(B)には、必要に応じて芳香族(メタ)アクリレート単位(b1)及びメチルメタクリレート単位(b2)以外の他の単量体単位を含有させてもよい。他の単量体単位を構成するその他の単量体としては、例えば、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸系ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド系単量体;アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、1,3-ブチレンジメタクリレート等の架橋剤を挙げることができる。これらのうち、好ましくはメタクリレート、アクリレート、シアン化ビニル単量体であり、特定構造の重合体(B)の熱分解を抑制するという観
点からより好ましくはアクリレートである。これらの単量体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
その他の単量体単位を含有する場合、特定構造の重合体(B)の構成単量体は、芳香族(メタ)アクリレート単位5~79.9重量%、メチルメタクリレート単位20~94.9重量%及びその他の単量体単位0.1~10重量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
特定構造の重合体(B)を得るための単量体の重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の公知の方法を使用することができる。好ましくは懸濁重合法や塊状重合法であり、更に好ましくは懸濁重合法である。また、重合に必要な添加剤等は必要に応じて適宜添加することができ、例えば、重合開始剤、乳化剤、分散剤、連鎖移動剤が挙げられる。
【0026】
特定構造の重合体(B)の重量平均分子量は、5,000~30,000である。重量平均分子量が5,000~30,000の範囲において、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との相容性が良好なので好ましい。更に好ましい重量平均分子量の範囲は、10,000~25,000である。
【0027】
特定構造の重合体(B)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり25~200重量部であり、好ましくは40~110重量部である。特定構造の重合体(B)の量が25~200重量部の場合、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0028】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、リン系酸化防止剤(C)を含むことができる。
【0029】
リン系酸化防止剤(C)は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物を含むことが好ましい。
【化1】
【0030】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、前記リン系酸化防止剤(C)が、下記式(2)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(3)で表される亜リン酸エステル化合物、下記式(4)で表される亜リン酸エステル化合物及び下記式(5)で表される亜リン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0031】
リン系酸化防止剤(C)は、例えば、下記式(2)で表される化合物を含むことが好ま
しい。
【0032】
式(2):
【化2】
(式中、R
1は、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0033】
前記式(2)において、R1は、炭素数1~20のアルキル基であるが、更には、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0034】
式(2)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製イルガフォス168として商業的に入手可能である。
【0035】
リン系酸化防止剤(C)は、例えば、下記式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0036】
式(3):
【化3】
(式中、R
2、R
3、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。R
4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR
7-(ここで、R
7は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR
8-(ここで、R
8は、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0037】
式(3)において、R2、R3、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0038】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0039】
前記R2、R3及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R2及びR5は、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、R3は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることが更に好ましい。
【0040】
前記R6は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが更に好ましい。
【0041】
式(3)において、R4は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、R4は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましい。
【0042】
式(3)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR7-で表される基を示す。ここで、式:-CHR7-中のR7は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることが更に好ましい。
【0043】
式(3)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR8-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR8-におけるR8は、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。R8を示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。R8は、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR8-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0044】
式(3)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R2、R3、R5及びR6の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0045】
式(3)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d
,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンとしては、住友化学社製スミライザーGPとして商業的に入手可能である。
【0046】
リン系酸化防止剤(C)は、例えば、下記式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0047】
式(4):
【化4】
(式中、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0048】
式(4)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトとしては、ADEKA社製のアデカスタブPEP-36が商業的に入手可能である。
【0049】
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系酸化防止剤(C)として以下のいずれかを含むことが好ましい。
式(2)で表される亜リン酸エステル化合物として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
式(3)で表される亜リン酸エステル化合物として、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-[3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン
式(4)で表される亜リン酸エステル化合物として、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン
【0050】
リン系酸化防止剤(C)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.01~0.5重量部であり、0.03~0.2重量部が好ましい。リン系酸化防止剤(C)の量が0.01~0.5重量部の場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性を向上させることができるため、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の色相に優れる。
【0051】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、紫外線吸収剤(D)を含むことができる。
【0052】
紫外線吸収剤(D)は、本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得られる限り特に制限されることはないが、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物、サリシレート系化合物及びベンゾフェノン系化合物から選択される1種もしくは2種以上の紫外線吸収剤(D)を
含むことが好ましい。
【0053】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ペンチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]などが挙げられる。これらの中でも、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール等が好適である。2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールとしては、BASF社製のTINUVIN 329、シプロ化成社製シーソーブ709等として商業的に入手可能である。2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノールとしては、BASF社製のTINUVIN 234等として商業的に入手可能である。
【0054】
トリアジン系化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシフェニル-4-ヘキシルオキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられる。この中でも、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノールが好適である。2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノールとしては、BASF社製のTINUVIN 1577等として商業的に入手可能である。
【0055】
シュウ酸アニリド系化合物としては、例えば、クラリアントジャパン社製Sanduvor VSU等として商業的に入手可能である。
【0056】
シアノアクリレート系化合物としては、例えば、BASF社製Uvinul3030等として商業的に入手可能である。
【0057】
サリシレート系化合物としては、例えば、シプロ化成社製シーソーブ201、ケミソーブ21等として商業的に入手可能である。
【0058】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、シプロ化成社製シーソーブ102、ケミソーブ11、BASF社製Uvinul3049等として商業的に入手可能である。
【0059】
紫外線吸収剤(D)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.05~3重量部であり、0.1~1重量部が好ましい。紫外線吸収剤(D)の量が0.05~3重量部の場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を向上させることができるため、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を屋外で使用した際の色相安定性に優れる。
【0060】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、トリメチロールプ
ロパントリベンゾエート(E)を含むことができる。
【0061】
トリメチロールプロパントリベンゾエート(E)としては、ADEKA社製アデカサイザーPN-7000等として商業的に入手可能である。
【0062】
本発明にて使用されるトリメチロールプロパントリベンゾエート(E)は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形加工する際に、ある種滑剤のように振る舞って芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のせん断粘度を低下させることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と特定構造の重合体(B)との相分離が必要以上に発生するのを抑制することができる。
【0063】
トリメチロールプロパントリベンゾエート(E)の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.1~6重量部であり、好ましくは0.2~5重量部、更に好ましくは0.5~3重量部である。トリメチロールプロパントリベンゾエート(E)の量が0.1~6重量部の場合、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のせん断粘度を低下させることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と特定構造の重合体(B)との相分離が必要以上に発生するのを抑制することができるため、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の透明性に優れる。
【0064】
更に、本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、熱安定剤、他の酸化防止剤、着色剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤、充填剤等の各種添加剤、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等が適宜配合されていてもよい。
【0065】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、特定構造の重合体(B)を混合し、必要に応じて、リン系酸化防止剤(C)、紫外線吸収剤(D)、トリメチロールプロパントリベンゾエート(E)、前記各種添加剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリマー等を混合することにより製造することができる。本発明が目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる限り、その製造方法は特に制限されることはなく、各成分の種類及び量を適宜調整することができる。成分の混合方法も特に制限されることはなく、例えば、タンブラー、及びリボンブレンダー等の公知の混合機にて混合する方法や、押出機にて溶融混練する方法を例示できる。これらの方法により、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを容易に得ることができる。
【0066】
前記のごとく得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの形状及び大きさには特に限定がなく、一般的な樹脂ペレットが有する形状及び大きさであればよい。例えば、ペレットの形状としては、楕円柱状、円柱状等が挙げられる。ペレットの大きさとしては、長さが2~8mm程度であることが好適であり、楕円柱状の場合、断面楕円の長径が2~8mm程度、短径が1~4mm程度であることが好適であり、円柱状の場合、断面円の直径が1~6mm程度であることが好適である。なお、得られたペレット1つずつがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体を形成する全てのペレットがこのような大きさであってもよく、ペレット集合体の平均値がこのような大きさであってもよく、特に限定はない。
【0067】
本発明の透明アンテナ基板は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得ることができる。
【0068】
本発明が目的とする、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難な透明アンテナ基板を得ることができる限り、成形体の製造方法は特に限定されることはなく、例えば、公知の射出
成形法、圧縮成形法等により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。
【0069】
本発明に係る成形体は、例えば、ミリ波帯、マイクロ波帯、UHF帯およびVHF帯の無線受信用透明アンテナ基板、より特定的には、ミリ波帯の無線受信用透明アンテナ基板として好適である。本発明に係る成形体は、特に、28GHz帯の電波を用いる第5世代(5G)移動通信システム向けの透明アンテナ基板として好適に利用できる
【0070】
以上のように、本発明の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例0071】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0072】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
1-1.ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化ポリカーボネート社製 SDポリカ200-3、粘度平均分子量
28500、以下「A」と略記)
【0073】
2.特定構造の重合体(B):
2-1.芳香族(メタ)アクリレート単位及びメチルメタクリレート単位の共重合体
(三菱ケミカル製 メタブレンH-880、重量平均分子量10000、
以下「B」と略記)
【0074】
3.リン系酸化防止剤(C):
3-1.以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【化5】
(BASF社製 イルガフォス168、以下「C1」と略記)
【0075】
3-2.以下の式で表される、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン
【化6】
(住友化学製 スミライザーGP、以下「C2」と略記)
【0076】
3-4.以下の式で表される、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(IUPAC名:3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン)
【化7】
(ADEKA製 アデカスタブPEP-36、以下「C3」と略記)
【0077】
4.紫外線吸収剤(D):
4-1.2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール
(BASF社製 TINUVIN 329、以下「D1」と略記)
4-4.2-エチル2’-エトキシ-オキサルアニリド
(クラリアントジャパン社製 Sanduvor VSU、以下「D2」と略記)
【0078】
5.トリメチロールプロパントリベンゾエート(E):
(ADEKA社製 アデカサイザー PN-7000、以下「E1」と略記)
【0079】
(実施例1~9及び比較例1~2)
前記各原料を、表1~表2に示す割合にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(東芝機械社製 TEM-37SS)を用いて、溶融温度260℃にて溶融混練し、実施例1~9及び比較例1~2の各々の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0080】
得られたペレットを用い、以下の方法にしたがって、各評価用試験片を作製して評価に供した。
【0081】
(電波の伝搬損失評価)
得られたペレットを90℃で6時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック社製、ROBOSHOT α-S150iA)を用い、シリンダ温度300℃、金型温度80℃で、120mm×120mm×厚さ3.2mmの成形体を作製した。
【0082】
上記成形体を用いて、キーコム社製ミリ波・マイクロ波 測定装置・システムを用い、周波数変化法フリースペースタイプにより、25~40GHzの範囲で透過減衰量と位相変化量を測定し、28GHzにおける測定結果と成形体厚みをもとに逆計算にて誘電率及び誘電正接を計算した。得られた誘電率及び誘電正接を用いて、下記計算式より誘電損失(電波の伝搬損失)を計算した。誘電損失が25db/m以下を合格(○)とした。
【0083】
【数1】
(ここで、式中、fは周波数[Hz]、Cは光速[m/s]、ε
rは誘電率、tanδは誘電正接を示す。)
【0084】
(耐熱性の評価)
得られたペレットを90℃で6時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック社製、ROBOSHOT S2000i100A)を用い、シリンダ温度250℃、金型温度60℃、ISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO 75に準じ荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度が90℃以上を合格(○)とした。
【0085】
(視認性の評価)
電波の伝搬損失評価に用いた120mm×120mm×厚さ3.2mmの成形体を目視で確認し、透明性に優れ、視認性が困難な場合を合格(○)とした。
【0086】
表1~表2に、各実施例及び比較例の原料及び配合割合、評価結果を併せて示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1~表2より、本発明の要件を満足する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、透過する電波の伝搬損失が小さく、耐熱性にも優れている。
【0090】
これに対して、比較例1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特定構造の重合体(B)の量が少ないので、電波の伝搬損失が大きい。
【0091】
比較例2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特定構造の重合体(B)の量が多い
ので、耐熱性に劣り、透明性に劣るため視認可能である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形体は、電波の伝搬損失が小さく視認性が困難で、耐熱性にも優れている。そのため、第5世代(5G)移動通信システムの透明アンテナ基板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物として好適に使用される。