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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170453
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20221102BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01J49/04 950
H01J49/40 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076589
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朋也
(57)【要約】
【課題】逆止弁が異常である場合でも、ロータリーポンプ(RP)から真空室へのオイルの逆流を防止する。
【解決手段】本発明に係る質量分析装置の一態様は、内部に真空室を形成する真空チャンバーと、真空室に連通する吸気口を通して該真空室内を真空排気する真空ポンプ(18)と、真空ポンプを粗引きするためのRP(16)と、真空ポンプの排気口とRPの吸気口とを接続する配管であって、第1配管と第2配管とを含む真空配管(19A2、19C)と、真空配管を真空ポンプ側の第1配管(19A2)とRP側の第2配管(19C)とに分けるように、該真空配管の途中で且つ該真空配管の中で最も高い位置である最高部位(U)よりもRPに近い側に挿設された、その内部に所定の内容積の空間を有するオイル溜め部であり、当該オイル溜め部を含むRPと最高部位との間の真空配管の内容積が、該RPにおいてシール材として用いられるオイルの最大容量よりも大きくなるように内容積が定められているオイル溜め部(20)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に真空室を形成する真空チャンバーと、
前記真空室に連通する吸気口を通して該真空室内を真空排気する真空ポンプと、
前記真空ポンプを粗引きするためのロータリーポンプと、
前記真空ポンプの排気口と前記ロータリーポンプの吸気口とを接続する配管であって、後記第1配管と後記第2配管とを含む真空配管と、
前記真空配管を前記真空ポンプ側の前記第1配管と前記ロータリーポンプ側の前記第2配管とに分けるように、該真空配管の途中で且つ該真空配管の中で最も高い位置である最高部位よりも前記ロータリーポンプに近い側に挿設された、その内部に所定の内容積の空間を有するオイル溜め部であり、当該オイル溜め部を含む前記ロータリーポンプと前記最高部位との間の真空配管の内容積が、該ロータリーポンプにおいてシール材として用いられるオイルの最大容量よりも大きくなるように、前記内容積が定められているオイル溜め部と、
を備える質量分析装置。
【請求項2】
前記オイル溜め部において、前記第1配管の接続部が前記第2配管の接続部よりも高い位置に設けられている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記オイル溜め部は、前記第1配管及び前記第2配管がそれぞれ接続される第1筒部及び第2筒部を有し、前記第1筒部の一端の開口面は該オイル溜め部の内部空間で斜め上方を向くように形成され、前記第2筒部の一端の開口面は該オイル溜め部の内部空間で斜め下方を向くように形成されている、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記オイル溜め部は、前記第1配管及び前記第2配管がそれぞれ接続される第1筒部及び第2筒部を有し、該第1配管及び該第2配管の接続部は、該第1筒部及び該第2筒部に該第1配管及び該第2配管としてのホースをネジ締め式のホースバンドを用いて固定する構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記真空チャンバーの内部は複数の真空室に区画され、
前記真空配管は、前記第1配管中に挿設された分岐部と前記複数の真空室のうちで最も真空度が低い真空室とを接続する第3配管を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記真空チャンバーの内部は複数の真空室に区画され、
前記真空ポンプとして、それぞれ異なる真空室内を真空排気する複数の真空ポンプを含み、
前記真空配管は、前記複数の真空ポンプのそれぞれの排気口と前記オイル溜め部とを個別に接続する複数系統の前記第1配管を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項7】
略水平方向に移動するイオンをその光軸に略直交する方向に加速して飛行空間に投入する直交加速方式の飛行時間型質量分析装置であり、
前記真空チャンバーは、前記飛行空間を形成するフライトチューブが内部に収容される、鉛直軸を中心とする周面が略円筒形状であるTOF部真空チャンバーを含み、
前記オイル溜め部は、前記TOF部真空チャンバーの外周面と当該装置の筐体との間に配置されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記真空ポンプはターボ分子ポンプである、請求項1~7のいずれか1項に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置における真空排気技術に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、高い真空度(例えば10-3~10-5Pa)に維持される真空室内に、四重極マスフィルターや飛行時間型質量分離器などの質量分離器が配置される。真空室内をこのような高い真空度に維持するために、通常、ターボ分子ポンプなどの高い真空排気性能を有する真空ポンプが用いられる。ターボ分子ポンプは或る程度の真空雰囲気の下でしか動作しないため、通常、ターボ分子ポンプ内を粗引きするためにロータリーポンプが用いられる。
【0003】
特許文献1に記載の質量分析装置は、エレクトロスプレーイオン源を備えた質量分析装置であり、イオン化室の次段の低真空雰囲気である中間真空室はロータリーポンプにより真空排気される。また、その中間真空室よりも後段に位置する、より高い真空度の必要な複数の真空室はいずれも、ターボ分子ポンプによって真空排気される。そのターボ分子ポンプの排気口もロータリーポンプに接続されており、ロータリーポンプによって粗引きが行われている。即ち、ロータリーポンプは、低真空雰囲気である中間真空室を真空引きするとともに、ターボ分子ポンプを粗引きする役割を有している。
【0004】
こうした質量分析装置において、ロータリーポンプやターボ分子ポンプの起動及びその動作の停止は、質量分析装置の動作を制御する制御ソフトウェアが搭載されたコンピューターによって制御される。通常、質量分析装置を停止する際には、真空室内に配置されている各種のイオン光学系などへの電力の供給が停止されるのに引き続いて、ターボ分子ポンプの動作が停止され、さらにそのあとにロータリーポンプの動作が停止される。また、ロータリーポンプが停止された後、ターボ分子ポンプのベントポートに接続されたリークバルブが開放され、真空チャンバーの内部に高純度窒素ガスが導入される。これは、装置の停止時に真空チャンバー内に窒素ガスを充満させることで、真空チャンバー内に配置されている各種部品に汚れや水分が吸着するのを防止し、次の真空排気の際の真空引き時間の短縮や真空度の向上を図るためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/110264号
【特許文献2】国際公開第2016/042632号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「アルミニウム製 高真空L型バルブ 常時閉/ベローズシール XLAVシリーズ 電磁弁付」、[Online]、[2021年3月24日検索]、株式会社ミスミグループ本社、インターネット<URL: https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/221006501232/?CategorySpec=00000269413::d>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、ロータリーポンプは、そのポンプ室内にシール部材としてオイルが投入された状態で使用される。上述したようにターボ分子ポンプが停止されても真空チャンバー内の真空度は直ぐには下がらないため、通常、ロータリーポンプが停止された時点で、該ロータリーポンプのポンプ室内の圧力よりもその吸気口に接続されている真空配管内の圧力のほうがかなり低い。そのため、ロータリーポンプのポンプ室内のオイルは吸気口を経て真空配管へと逆流しようとする。これを回避するため、ロータリーポンプの吸気口には、弁体を圧縮バネで弁座に押し付けるような簡単な構造の逆止弁が設けられており、この逆止弁によってロータリーポンプから真空配管へのオイルの逆流が防止される。
【0008】
ところが、ロータリーポンプのメンテナンス時やロータリーポンプを移動するために配管を脱着したときに、逆止弁に異物が付着したり逆止弁が損傷したりすることによって、逆止弁が正常に動作しない場合がある。また、逆止弁が適切に動作するためには、ポンプ内の圧力と吸気口外側の圧力との差が一定以上必要であり、停電などによって意図せずロータリーポンプが停止した場合、その状況によっては逆止弁が正常に動作しない場合があり得る。
【0009】
ロータリーポンプの逆止弁が正常に動作せず、オイルがロータリーポンプのポンプ室から真空配管に逆流すると、ターボ分子ポンプを経由して真空チャンバー内にオイルが侵入するおそれがある。真空チャンバー内にオイルが侵入すると、真空チャンバーの内壁のほか、その真空チャンバー内に設置されている様々な精密部品がオイルで汚染される。その場合、そうした部品を取り外して洗浄する必要がある。また、オイルによる汚染がひどい場合には、一部のユニットや装置一式の交換修理が必要になることがある。このように、オイルが真空チャンバーにまで逆流すると、その損害は極めて大きい。
【0010】
質量分析装置では、装置停止時などに真空チャンバー内を大気圧に戻すために必要である時間が長いほど、それだけ、オイルが真空配管中を逆流して真空チャンバー内に侵入する可能性が高くなる。即ち、分析時の真空度が高いほど、また真空チャンバーの内容積が大きいほど、オイルが真空チャンバーに侵入する可能性が高くなる。特許文献2等に開示されている四重極-飛行時間(Q-TOF)型質量分析装置は、直交加速飛行時間型質量分離器が収容される真空室内の真空度が高く、しかも真空チャンバーの内容積が大きい。その点で、Q-TOF型質量分析装置は、四重極型質量分析装置やトリプル四重極型質量分析装置に比べて、ロータリーポンプの逆止弁が正常に動作しなかった場合に、オイルの逆流による真空チャンバー内の汚染が生じ易く、オイル逆流防止対策の必要性が高い。
【0011】
オイルの逆流防止対策の一つとして、非特許文献1等に記載の高真空用バルブをフォアラインバルブとして真空配管中に設けることが可能である。しかしながら、こうしたバルブはかなり高価であり、またバルブを駆動するために電源が別途必要であるために、装置のコスト増加に繋がる。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、ロータリーポンプから真空配管に逆流したオイルが真空チャンバー内にまで侵入するのを、低廉なコストで且つ簡便に防止することができる質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、
内部に真空室を形成する真空チャンバーと、
前記真空室に連通する吸気口を通して該真空室内を真空排気する真空ポンプと、
前記真空ポンプを粗引きするためのロータリーポンプと、
前記真空ポンプの排気口と前記ロータリーポンプの吸気口とを接続する配管であって、後記第1配管と後記第2配管とを含む真空配管と、
前記真空配管を前記真空ポンプ側の前記第1配管と前記ロータリーポンプ側の前記第2配管とに分けるように、該真空配管の途中で且つ該真空配管の中で最も高い位置である最高部位よりも前記ロータリーポンプに近い側に挿設された、その内部に所定の内容積の空間を有するオイル溜め部であり、当該オイル溜め部を含む前記ロータリーポンプと前記最高部位との間の真空配管の内容積が、該ロータリーポンプにおいてシール材として用いられるオイルの最大容量よりも大きくなるように、前記内容積が定められているオイル溜め部と、
を備える。
【0014】
上記真空ポンプは、ロータリーポンプに比べて真空排気性能が高い真空ポンプであれば特にその方式を問わないが、一例として、ターボ分子ポンプを用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る上記態様の質量分析装置によれば、ロータリーポンプの停止時等に、該ロータリーポンプの吸気口に設けられている逆止弁が正常に動作せず、該ロータリーポンプで使用されているオイルが真空配管中に逆流した場合であっても、そのオイルがターボ分子ポンプ等の真空ポンプを経て真空チャンバー内にまで侵入することを回避することができる。それにより、真空チャンバーの内壁や真空チャンバー内に配設されている様々な精密部品がオイルで汚染されることを防止することができる。
【0016】
また、本発明に係る上記態様の質量分析装置において、オイル溜め部は単純な構造であるため、オイルの逆流防止対策に要するコストを抑えることができる。また、オイル溜め部はフィルターのような流れ抵抗となる部材や水分などを吸着し易い部材を有さないため、通常の動作時に、真空ポンプ及びロータリーポンプによる真空排気の性能に悪影響を及ぼしにくい。そのため、本発明に係る上記態様の質量分析装置によれば、本来の真空排気性能を実質的に損なうことなく、オイル逆流防止を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る質量分析装置の一実施形態であるQ-TOF型質量分析装置の全体構成図。
図2】本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における真空ポンプを含む真空配管の配管図。
図3】本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における筐体内の真空ポンプと真空配管との概略配置を示す平面図。
図4】本実施形態のQ-TOF型質量分析装置におけるオイル溜め部の概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る質量分析装置の一実施形態であるQ-TOF型質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のQ-TOF型質量分析装置の全体構成図である。
まず、このQ-TOF型質量分析装置の全体構成と典型的な分析動作を説明する。
【0019】
このQ-TOF型質量分析装置では、その内部にイオン化室100が設けられたイオン化装置10が真空チャンバー1の前方に接続されている。この真空チャンバー1内は、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第3中間真空室13、第1分析室14、及び第2分析室15、の5室に概ね区画されている。このQ-TOF型質量分析装置において、イオン化室100は略大気圧であり、イオン化室100から、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第3中間真空室13、第1分析室14、及び第2分析室15と順に、段階的に真空度が高くなる多段差動排気系の構成となっている。
【0020】
イオン化室100には、試料液に電荷を付与しつつ噴霧することにより該試料液中の化合物をイオン化するエレクトロスプレーイオン(ESI)源101が配置されている。但し、イオン化の手法はこれに限らず、大気圧化学イオン源などの他のイオン源を用いることもできる。また、液体試料ではなく、気体試料や固体試料をイオン化するイオン源を用いてもよい。
【0021】
イオン化室100と第1中間真空室11とは細径の脱溶媒管102を通して連通している。イオン化室100で生成された試料成分由来のイオン及び微細な帯電液滴は、主として、イオン化室100内の圧力(略大気圧)と第1中間真空室11の圧力との差によって脱溶媒管102中に引き込まれ、第1中間真空室11に送られる。脱溶媒管102は適度な温度に加熱されており、脱溶媒管102の内部を帯電液滴が通ることによって溶媒の気化が促進され、イオンの生成が促される。
【0022】
第1中間真空室11には多重極イオンガイド110が配置されており、該多重極イオンガイド110によってイオンはイオン光軸C1の近傍に収束され、スキマー111の頂部の開口を通って第2中間真空室12に入射する。第2中間真空室12及び次の第3中間真空室13にもそれぞれ多重極イオンガイド120、130が配置されており、多重極イオンガイド120、130によってイオンは、第2中間真空室12から第3中間真空室13へ、さらには第3中間真空室13から第1分析室14へと送られる。
【0023】
第1分析室14には、イオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離する四重極マスフィルター140、多重極イオンガイド142を内部に備えたコリジョンセル141、及びコリジョンセル141から出射されたイオンを輸送するトランスファー電極143の前段部が配置されている。第1分析室14に入射したイオンは四重極マスフィルター140に導入され、四重極マスフィルター140に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極マスフィルター140を通過する。コリジョンセル141の内部には、アルゴン、窒素などのコリジョンガスが連続的又は間欠的に供給される。所定のエネルギーを有してコリジョンセル141に入射したイオンは、コリジョンガスに接触して衝突誘起解離により解離され、各種のプロダクトイオンが生成される。
【0024】
コリジョンセル141から出射した各種のプロダクトイオンは、トランスファー電極143により収束されつつ第2分析室15に送られる。第2分析室15には、トランスファー電極143の後段部、直交加速部150、案内電極部151、フライトチューブ152、リフレクトロン153、バックプレート154、イオン検出器155などが配置されている。トランスファー電極143によって細く平行性の高いビームとして第2分析室15に導入されたイオンは、直交加速部150においてそのビームの入射方向と略直交する方向(図1では下方向)に射出される。射出されたイオンは、案内電極部151を経てフライトチューブ152内の飛行空間に導入される。フライトチューブ152、リフレクトロン153、及びバックプレート154によって、飛行空間内には、図1中にC2で示すような経路でイオンを折り返し飛行させる電場が形成さる。これによって、イオンは折り返されたあと再びフライトチューブ152内を飛行し、イオン検出器155に到達する。
【0025】
直交加速部150から射出されたイオンは、そのイオンの質量電荷比に応じた速度で飛行する。そのため、直交加速部150において同時に加速された各種のイオンは、飛行途中で質量電荷比に応じて分離され、時間差を有してイオン検出器155に到達する。イオン検出器155は、到達したイオンの量に応じた検出信号を生成する。図示しないデータ処理部は、その検出信号に基いて、飛行時間を質量電荷比に換算したマススペクトルを作成する。これにより、試料成分由来の特定の質量電荷比を有するイオンが解離して生成されたプロダクトイオンのスペクトルを得ることができる。
【0026】
次に、本実施形態のQ-TOF型質量分析装置において真空チャンバー1内の各室を真空排気する真空排気部の構成について、図1に、図2図4を加えて説明する。図2は、真空ポンプを含む真空配管の配管図である。図3は、筐体内における真空ポンプと真空配管との概略配置を示す平面図である。図4は、オイル溜め部20の概略縦断面図である。
【0027】
図1に示すように、真空排気部は、ロータリーポンプ(RP)16と、第2中間真空室12、第3中間真空室13、及び第1分析室14の3室を真空排気する第1ターボ分子ポンプ(TMP)17と、第2分析室15のみを真空排気する第2ターボ分子ポンプ(TMP)18と、真空チャンバー1内の各室と真空ポンプ16、17、18とを接続する真空配管19と、を含む。
【0028】
より詳しく説明すると、第1ターボ分子ポンプ17はそれぞれ内部の動作室に連通する三つの吸気口170、171、172を備え、それら吸気口170、171、172はそれぞれ、第1分析室14の排気口144、第3中間真空室13の排気口131、第2中間真空室12の排気口121に接続されている。一方、第2ターボ分子ポンプ18は一つの吸気口180を備え、その吸気口180は第2分析室15の排気口156に接続されている。
【0029】
第1中間真空室11の排気口112は、配管19D、分岐部19E、及び配管19Bを介してオイル溜め部20に接続されている。配管19A1は、第1ターボ分子ポンプ17の排気口175と分岐部19Eを接続する配管であり、配管19A2は、第2ターボ分子ポンプ18の排気口185とオイル溜め部20を接続する配管であり、配管19Cはオイル溜め部20とロータリーポンプ16の吸気口161とを接続する配管である。即ち、配管19D、19B、19Cは、ロータリーポンプ16が第1中間真空室11内を真空排気するための真空配管であり、分岐部19E及びオイル溜め部20はその真空配管の一部に含まれる。
【0030】
上記配管19Cを含め、配管19A1、19A2、19Bは、第1ターボ分子ポンプ17及び第2ターボ分子ポンプ18の粗引きを行うための真空配管である。分岐部19E及びオイル溜め部20はその真空配管の一部にも含まれる。配管19Cは、第1ターボ分子ポンプ17の粗引きと第2ターボ分子ポンプ18の粗引きとの両方を兼ねる配管であるとみることができる。また、この例では、2台のターボ分子ポンプが用いられているが、ターボ分子ポンプが1台であれば、配管19A1、19A2の一方は不要である。ここでは、配管はいずれも合成樹脂製のホースであるが、金属製のパイプなどを用いてもよい。
【0031】
図2において、ロータリーポンプ16、ターボ分子ポンプ17、18、オイル溜め部20の高さ方向の位置関係は、図3に示した筐体2内における実際の位置関係をほぼ反映している。即ち、図3に示すように、ロータリーポンプ16は、質量分析装置の筐体2の外側(つまり質量分析装置とは別体)にあり、通常は、床の上に直置きされる。
【0032】
略直方体形状である筐体2内に収容されている真空チャンバー1は、図1中に示したイオン光軸C1に沿ったイオン光学系が配置される横置きチャンバー1Aと、フライトチューブ152、リフレクトロン153等が収容されている縦置きチャンバー1Bとに大別される。縦置きチャンバー1Bは鉛直方向の軸を中心とする周面略円筒形状である。第1ターボ分子ポンプ17は横置きチャンバー1Aと同方向(水平方向)に延伸するように該チャンバー1Aに沿って配置される。第2ターボ分子ポンプ18は、縦置きチャンバー1Bの側面下方に配置される。これは、特にリフレクトロン153の内部を高い真空度に保つためである。
【0033】
オイル溜め部20は、縦置きチャンバー1Bの上下方向の略中央よりも上側に配置される。上述したように縦置きチャンバー1Bの周面は略円筒形状であるため、オイル溜め部20は縦置きチャンバー1Bの周面と筐体2との間の空間に良好に収容され得る。
【0034】
図4に示すように、オイル溜め部20は底面と天面とが共に閉鎖され、周面が円筒状の容器本体21を備える。その天面は取り外し可能であるような蓋体であってもよい。オイル溜め部20は、その周面に三つの配管接続部22、23、24を備える。配管接続部22、23、24は、周面から水平方向に突出する筒部220、230、240であるが、最も下方の筒部220は容器本体21の内部空間にまで突出し、その端部の開口2200が下方を向くように斜めに形成されている。その上の筒部230も容器本体21の内部空間にまで突出し、その端部の開口2300が上方を向くように斜めに形成されている。最も上方の筒部240は容器本体21の内部空間にまで突出していないが、筒部230と同様に容器本体21の内部空間にまで突出し、その端部の開口が上方を向くように斜めに形成されていてもよい。
【0035】
いずれも柔軟性を有するホースである各配管19B、19A2、19Cの端部は、オイル溜め部20の筒部230、240、220にそれぞれ嵌め込まれ、ネジ式のホースバンド231、241、221で締結されている。したがって、ホースバンド231、241、221のネジを緩めることで、それぞれの配管19B、19A2、19Cを外してオイル溜め部20を本装置から容易に取り出すことができる。
【0036】
この例では、図2図3に示すように、第1ターボ分子ポンプ17はオイル溜め部20よりも少し高い位置にあり、第2ターボ分子ポンプ18はオイル溜め部20よりも十分に低い位置にあり、ロータリーポンプ16は第2ターボ分子ポンプ18よりもさらに低い位置にある。また、配管19A1、19A2、19B、19Cはいずれも、その途中で両端よりも高くなっている部分が存在しない。そのため、第2ターボ分子ポンプ18の粗引きのための経路は、配管19A2、オイル溜め部20の容器本体21、及び配管Cであるが、その経路の中で最も高い部位はオイル溜め部20の配管接続部24、つまり、図2及び図4中のUの位置である。一方、第1ターボ分子ポンプ17の粗引きのための経路は、配管19A1、分岐部19E、配管19B、オイル溜め部20の容器本体21、及び配管19Cであるが、その経路の中で最も高い部位は配管19A1の第1ターボ分子ポンプ17との連結部である。
【0037】
この例では、上述した各ターボ分子ポンプ17、18を粗引きするための経路の中で、それぞれの最も高い位置となる部位とロータリーポンプ16の吸気口161との間にある配管(オイル溜め部20を含む)の内容積が、いずれもロータリーポンプ16のポンプ室に投入されるオイルの最大量よりも大きくなるように、オイル溜め部20の容器本体21の内容積が定められている。
【0038】
具体的には、この例で用いられるロータリーポンプ16のオイル最大量は2Lである。一方、第2ターボ分子ポンプ18の粗引きの経路における最高部位(上記Uの位置)とロータリーポンプ16の吸気口161との間の配管内容積が2.3Lとなるように、オイル溜め部20の容器本体21の内容積は定められている。なお、このとき、第1ターボ分子ポンプ17の粗引きの経路における最高部位(配管19A1の第1ターボ分子ポンプ17との連結部)とロータリーポンプ16の吸気口161との間の配管内容積は2.3L以上である。
【0039】
ロータリーポンプ16の吸気口161には逆止弁が設けられており、この逆止弁の動作が正常である場合には、ロータリーポンプ16の停止時に逆止弁が閉鎖し、ロータリーポンプ16のポンプ室内のオイルは真空配管(配管19C)側に逆流しない。したがって、通常、オイル溜め部20の容器本体21は空であり、配管19A1、19B、19A2、19Cを通した2台のターボ分子ポンプ17、18の粗引きは何ら問題なく実行される。
【0040】
オイル溜め部20とは全く目的が異なるが、ロータリーポンプの吸気口から真空配管側に漏出するオイルミストを除去する目的で真空配管中に設置される部品として、フォアライントラップが知られている。フォアライントラップは、その内部にオイルミストを捕集するための吸着材が充填されており、場合によってはミストを冷却するクーラーを備えているために、流れ抵抗が大きい。また、吸着材はオイルミストだけでなく水分も吸着するため、長期間、真空ポンプを停止していた場合などには多くの水分が吸着材に吸着されてしまう。そのため、フォアライントラップを真空配管中に設置すると、真空排気性能の低下が懸念され、真空チャンバー内を所定の真空度にまで真空排気するための所要時間が長くなったり、到達真空度が悪化したりするおそれがある。これを避けるためには、その分だけ真空ポンプの性能を高くする等の対応が必要となる。
【0041】
これに対し、本実施形態の質量分析装置で使用されているオイル溜め部20は、実質的に流れ抵抗を有さず、水分などを吸着し易い部材も有さないので、真空配管の途中にオイル溜め部20を設けても真空排気性能には殆ど影響がない、という利点がある。さらにまた、オイル溜め部20は吸着材やクーラーを備えていないため、低廉なコストで製作することができる。また、オイル溜め部20がオイルで汚染された場合に、洗浄作業や交換作業が行い易いという利点もある。
【0042】
ロータリーポンプ16の逆止弁に異物が付着する、或いは逆止弁が損傷する等の理由によって、逆止弁が正常に動作しない場合、真空チャンバー1内の真空度が高い状態でロータリーポンプ16が停止すると、図2中に点線矢印で示すように、ロータリーポンプ16のポンプ室内のオイルが配管19C側に逆流する。オイルは配管19C内を遡ってオイル溜め部20の容器本体21内に流入し、図2中に示しているように容器本体21内に溜まる。ロータリーポンプ16のポンプ室から真空配管側へと逆流するオイルの量は、最悪の場合、そのポンプ室に投入されたオイルの全量、つまり2Lとなる可能性がある。
【0043】
真空配管内を逆流したオイルはオイル溜め部20にまで到達する可能性があるが、上述したように、第2ターボ分子ポンプ18の粗引きの経路における最高部位とロータリーポンプ16の吸気口161との間の配管内容積は2.3Lである。そのため、仮に、ポンプ室内に投入されたオイルの全量が逆流して配管19C内に満ち、さらに容器本体21に流れ込んで溜まった場合でも、オイルが上記最高部位を越えることはない。
【0044】
図2及び図3に示したように、この最高部位から第2ターボ分子ポンプ18に至る配管19A2は、該最高部位から下方向に延出しているため、オイルが最高部位にまで達すると自重によって第2ターボ分子ポンプ18へ流れてしまうおそれがある。それに対し、この例では、逆流したオイルが上記最高部位にまで到達しないので、オイルが第2ターボ分子ポンプ18にまで到達することを回避することができる。また、逆流したオイルが第1ターボ分子ポンプ17にまで到達することも回避することができる。それによって、オイルがターボ分子ポンプ17、18を経て真空チャンバー1内に侵入することも防止することができる。
【0045】
また、配管19C内を逆流したオイルがオイル溜め部20の筒部220を通して勢いよく容器本体21に噴出する可能性があるが、図4に示したように、その筒部220の端部の開口2200が下方を指向しているため、オイルは斜め下向きに吐き出される。一方、高さ方向で筒部220に近い配管接続部23の、筒部230の端部の開口2300は上方を指向している。そのため、開口2200から勢いよくオイルが吐き出された場合であっても、オイルがそのまま開口2300には飛び込みにくい。もちろん、さらに上方に位置する配管接続部24の筒部240の端部の開口2400にはオイルはさらに飛び込みにくい。これにより、ターボ分子ポンプ17、18へのオイルの逆流をより確実に防止することができる。
【0046】
また、上述したように、オイル溜め部20は簡単に装置から取り外すことが可能であるため、オイル溜め部20にオイルが溜まった場合には、それのみを装置から取り外して洗浄したり交換したりすることが容易に行える。また、容器本体21の構造もシンプルであるため、内部の洗浄が容易である。また、フォアラインバルブ等と異なりそれ自体も廉価であるから、新品に交換する選択も容易に採り得る。これにより、オイル逆流が発生した場合であっても、メンテナンスに要するコストと手間を抑えることができる。
【0047】
オイル溜め部20は、実質的に真空配管の内容積を大きくして逆流したオイルを保持する機能を有する。これに代わる方法として、配管であるホース自体を長くしたり太くしたりして配管内容積を大きくすることも考えられる。しかしながら、質量分析装置における分析感度の観点から、第1中間真空室11内の真空度には最適値がある。これに対応して、第1中間真空室11とロータリーポンプ16とを接続する真空配管のコンダクタンスには、そのロータリーポンプ16の排気速度に関係する最適値が存在する。そのため、一般に、配管であるホースの長さや太さには制約がある。また、ホースを長くしたり太くしたりする場合には、装置の筐体内にホースを引き回すための余分なスペースを確保する必要があり、装置の大形化に繋がる。また、長く太くしたホースが障害となり、ホース付近の部品(例えば、上記縦置きチャンバー1Bを温調するためのヒーターなど)の保守交換の作業性が低下する。さらにまた、装置輸送時の振動によってホースが振動し破損することを防ぐためにホースを筐体に対して複数個所でクランプする必要があり、それもコスト高及び保守性悪化の要因となる。
【0048】
これに対し、オイル溜め部20は、上述したように筐体2と縦置き真空チャンバー1Bとの間の、通常無駄になりがちであるスペースに収容可能であり、ホースの引き回し等によるスペースの逼迫ももたらさない。そのため、装置の大形化を要せず、保守作業性の低下も発生しない。また、オイル溜め部20を設けたことによる、第1中間真空室11とロータリーポンプ16とを接続する真空配管のコンダクタンスの変化もなく、真空排気系の設計変更等を実質的に必要としないという利点がある。
【0049】
上記実施形態はQ-TOF型質量分析装置であるが、他の方式や態様の質量分析装置においても本発明を適用可能である。例えば四重極型質量分析装置やトリプル四重極型質量分析装置、イオントラップ飛行時間型質量分析装置など、様々な質量分析装置に本発明を適用可能である。また、必ずしも多段差動排気系の構成の質量分析装置に限らず、少なくとも1台のターボ分子ポンプ等の高い真空排気性能を有する真空ポンプと、粗引きポンプとして1台のロータリーポンプとを用いた質量分析装置全般に本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、一つのオイル溜め部20に2台のターボ分子ポンプ17、18を接続していたが、一つのオイル溜め部に3台以上のターボ分子ポンプを接続する構成としてもよい。
【0050】
また、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜に修正、変更、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0051】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項)本発明に係る質量分析装置の一態様は、
内部に真空室を形成する真空チャンバーと、
前記真空室に連通する吸気口を通して該真空室内を真空排気する真空ポンプと、
前記真空ポンプを粗引きするためのロータリーポンプと、
前記真空ポンプの排気口と前記ロータリーポンプの吸気口とを接続する配管であって、後記第1配管と後記第2配管とを含む真空配管と、
前記真空配管を前記真空ポンプ側の前記第1配管と前記ロータリーポンプ側の前記第2配管とに分けるように、該真空配管の途中で且つ該真空配管の中で最も高い位置である最高部位よりも前記ロータリーポンプに近い側に挿設された、その内部に所定の内容積の空間を有するオイル溜め部であり、当該オイル溜め部を含む前記ロータリーポンプと前記最高部位との間の真空配管の内容積が、該ロータリーポンプにおいてシール材として用いられるオイルの最大容量よりも大きくなるように、前記内容積が定められているオイル溜め部と、
を備える。
【0053】
第1項に記載の質量分析装置によれば、ロータリーポンプの停止時等に、該ロータリーポンプの吸気口に設けられている逆止弁が正常に動作せず、該ロータリーポンプで使用されているオイルが真空配管中に逆流した場合であっても、そのオイルが真空ポンプを経て真空室内にまで侵入することを回避することができる。それにより、真空室の内壁や真空室内に配設されている様々な精密部品がオイルで汚染されることを防止することができる。
【0054】
また第1項に記載の質量分析装置において、オイル溜め部は単純な構造であるので、オイルの逆流防止対策に要するコストを抑えることができる。また、オイル溜め部はフィルターのような流れ抵抗となる部材や水分等を吸着し易い部材を有さないため、ロータリーポンプ及び真空ポンプによる真空排気の性能に殆ど悪影響を及ぼさない。そのため、第1項に記載の質量分析装置によれば、本来の真空排気性能を損なうことなく、オイル逆流防止を達成することができる。
【0055】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置では、前記オイル溜め部において、前記第1配管の接続部は前記第2配管の接続部よりも高い位置に設けられていてもよい。
【0056】
第2項に記載の質量分析装置によれば、真空ポンプの内部や第1配管内の真空が解除されて大気圧近くにまで戻ったときに、オイル溜め部に溜まっていたオイルが第2配管に流れ込み、最終的にロータリーポンプへと戻り易い。それにより、オイル溜め部に溜まったままとなるオイルの量を少なくすることができる。
【0057】
(第3項)第2項に記載の質量分析装置において、前記オイル溜め部は、前記第1配管及び前記第2配管がそれぞれ接続される第1筒部及び第2筒部を有し、前記第1筒部の一端の開口面は該オイル溜め部の内部空間で斜め上方を向くように形成され、前記第2筒部の一端の開口面は該オイル溜め部の内部空間で斜め下方を向くように形成されていてもよい。
【0058】
第3項に記載の質量分析装置によれば、ロータリーポンプからの逆流によって第2配管からオイル溜め部の内部空間に吐き出されたオイルが、真空ポンプに繋がる第1配管へとそのまま直接的に入り込んでしまうことを回避することができる。それにより、オイルが真空ポンプを経て真空チャンバーにまで到達することを、より確実に防止することができる。
【0059】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記オイル溜め部は、前記第1配管及び前記第2配管がそれぞれ接続される第1筒部及び第2筒部を有し、該第1配管及び該第2配管の接続部は、該第1筒部及び該第2筒部に該第1配管及び該第2配管としてのホースをネジ締め式のホースバンドを用いて固定する構造であるものとしてもよい。
【0060】
第4項に記載の質量分析装置によれば、オイル溜め部の取り外し及び取り付けが容易である。それにより、オイルの逆流によってオイル溜め部にオイルが溜まった場合に、オイル溜め部のみを取り外して洗浄したり交換したりすることが容易であり、メンテナンスの手間と費用とを抑えることができる。
【0061】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、
前記真空チャンバーの内部は複数の真空室に区画され、
前記真空配管は、前記第1配管中に挿設された分岐部と前記複数の真空室のうちで最も真空度が低い真空室とを接続する第3配管を含むものとしてもよい。
【0062】
第5項に記載の質量分析装置において、ロータリーポンプは、ターボ分子ポンプ等である真空ポンプの粗引きを行うとともに、低真空室の真空排気を行う機能も併せ持つ。これにより、多段差動排気の構成を採る場合でも、使用するロータリーポンプの数を少なくし、質量分析装置のコストを抑えることができる。また、質量分析装置の設置スペースを減らすこともできる。
【0063】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、
前記真空チャンバーの内部は複数の真空室に区画され、
前記真空ポンプとして、それぞれ異なる真空室内を真空排気する複数の真空ポンプを含み、
前記真空配管は、前記複数の真空ポンプのそれぞれの排気口と前記オイル溜め部とを個別に接続する複数系統の前記第1配管を含むものとしてもよい。
【0064】
第6項に記載の質量分析装置によれば、多段差動排気の構成であって複数の真空ポンプを使用する必要がある場合でも、使用するロータリーポンプの数を少なくし、質量分析装置のコストを抑えることができる。装置の筐体内において真空配管が占めるスペースも減らすことができる。
【0065】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の質量分析装置は、略水平方向に移動するイオンをその光軸に略直交する方向に加速して飛行空間に投入する直交加速方式の飛行時間型質量分析装置であり、
前記真空チャンバーは、前記飛行空間を形成するフライトチューブが内部に収容される、鉛直軸を中心とする周面が略円筒形状であるTOF部真空チャンバーを含み、
前記オイル溜め部は、前記TOF部真空チャンバーの外周面と当該装置の筐体との間に配置されていてもよい。
【0066】
第7項に記載の質量分析装置によれば、直交加速飛行時間型質量分析装置において筐体内に生じるスペースを有効に利用してオイル溜め部を配置することができる。これにより、装置の外形サイズを大きくすることなくオイル溜め部を設置することができる。
【0067】
(第8項)第1項~第7項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記真空ポンプはターボ分子ポンプとしてもよい。
【0068】
第8項に記載の質量分析装置によれば、高い真空度を達成して、質量分析を良好に遂行することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…真空チャンバー
1A…横置き真空チャンバー
1B…縦置き真空チャンバー
10…イオン化装置
100…イオン化室
101…エレクトロスプレーイオン源
102…脱溶媒管
11…第1中間真空室
110…多重極イオンガイド
111…スキマー
112…排気口
12…第2中間真空室
120…多重極イオンガイド
121…排気口
13…第3中間真空室
131…排気口
14…第1分析室
140…四重極マスフィルター
141…コリジョンセル
142…多重極イオンガイド
143…トランスファー電極
144…排気口
15…第2分析室
150…直交加速部
151…案内電極部
152…フライトチューブ
153…リフレクトロン
154…バックプレート
155…イオン検出器
156…排気口
16…ロータリーポンプ
161…吸気口
17、18…ターボ分子ポンプ
170、171、172、180…吸気口
175、185…排気口
19…真空配管
19A1、19A2、19B、19C、19D…配管
19E…分岐部
20…オイル溜め部
21…容器本体
22、23、24…配管接続部
220、230、240…筒部
2200、2300、2400…開口
221、231、241…ホースバンド
図1
図2
図3
図4