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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170458
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】クラッチアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16D 28/00 20060101AFI20221102BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20221102BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20221102BHJP
   F16D 13/46 20060101ALI20221102BHJP
   H02K 7/12 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16H1/28
F16D13/52 D
F16D13/46 A
H02K7/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076598
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 巧美
【テーマコード(参考)】
3J027
3J056
5H607
【Fターム(参考)】
3J027FB01
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J056AA32
3J056AA37
3J056AA58
3J056AA60
3J056BB22
3J056CA06
3J056CA07
3J056CC02
3J056CC14
3J056CC32
3J056GA02
3J056GA12
5H607BB01
5H607DD02
5H607EE02
5H607EE33
(57)【要約】
【課題】安定して作動可能なクラッチアクチュエータを提供する。
【解決手段】モータ20は、ハウジング12に設けられたステータ21、ステータ21に対し相対回転可能に設けられたロータ23、および、ロータ23に設けられたマグネット230を有し、通電により作動しロータ23からトルクを出力可能である。マグネットカバー24は、マグネット230の少なくとも一部を覆うよう設けられている。減速機30は、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、キャリア33、第1リングギヤ34、および、第2リングギヤ35を有している。キャリア33は、サンギヤ31の径方向外側、かつ、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側において、マグネットカバー24または駆動カム40に接触可能に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能な第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間において、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチ(70)を備えるクラッチ装置(1)に用いられるクラッチアクチュエータであって、
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに設けられたステータ(21)、前記ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)、および、前記ロータに設けられたマグネット(230)を有し、通電により作動し前記ロータからトルクを出力可能な原動機(20)と、
前記マグネットの少なくとも一部を覆うよう設けられたマグネットカバー(24)と、
前記原動機のトルクを減速して出力可能な減速機(30)と、
前記減速機から出力されたトルクが入力されると前記ハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、前記回転部が前記ハウジングに対し相対回転すると前記ハウジングに対し軸方向に相対移動し前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な並進部(50)を有する回転並進部(2)と、を備え、
前記減速機は、
前記ロータからのトルクが入力されるサンギヤ(31)、
前記サンギヤに噛み合いつつ自転しながら前記サンギヤの周方向に公転可能なプラネタリギヤ(32)、
前記プラネタリギヤを回転可能に支持し、前記サンギヤに対し相対回転可能なキャリア(33)、
前記プラネタリギヤに噛み合い可能な第1リングギヤ(34)、および、
前記プラネタリギヤに噛み合い可能、かつ、前記第1リングギヤとは歯部の歯数が異なるよう形成され、前記回転部にトルクを出力する第2リングギヤ(35)を有し、
前記キャリアは、
前記サンギヤの径方向外側、かつ、前記第1リングギヤおよび前記第2リングギヤの径方向内側において、
前記マグネットカバーまたは前記回転部に接触可能に設けられているクラッチアクチュエータ。
【請求項2】
前記マグネットカバーは、前記キャリアに接触可能なカバー凸部(245)を有する請求項1に記載のクラッチアクチュエータ。
【請求項3】
前記キャリアに接触可能な前記カバー凸部の外壁は、前記マグネットカバーの軸を含む平面による断面における形状が前記キャリアに向かって凸となる曲線状になるよう形成されている請求項2に記載のクラッチアクチュエータ。
【請求項4】
前記キャリアは、
端部が前記マグネットカバーまたは前記回転部に接触可能なよう前記プラネタリギヤの回転中心に設けられたピン(335)を有する請求項1~3のいずれか一項に記載のクラッチアクチュエータ。
【請求項5】
前記ピンの端部(337)は、SR形状に形成されている請求項4に記載のクラッチアクチュエータ。
【請求項6】
前記マグネットカバーおよび前記回転部の少なくとも一方は、前記ピンの端部が摺動可能な環状のピン摺動溝部(45)を有する請求項4または5に記載のクラッチアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対回転可能な第1伝達部と第2伝達部との間に設けられ、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチの状態を変更可能なクラッチアクチュエータが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1のクラッチアクチュエータでは、減速機は、原動機のロータからのトルクが入力されるサンギヤ、サンギヤに噛み合いつつ自転しながらサンギヤの周方向に公転可能なプラネタリギヤ、プラネタリギヤを回転可能に支持しサンギヤに対し相対回転可能なキャリア、プラネタリギヤに噛み合い可能な第1リングギヤ、および、プラネタリギヤに噛み合い可能に形成され回転部にトルクを出力する第2リングギヤを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-21479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のクラッチアクチュエータでは、キャリアのキャリア本体は、第2リングギヤと一体に回転する回転並進部の回転部、および、原動機のロータに接触可能なよう、プラネタリギヤの軸方向の両端に設けられている。回転部およびロータをキャリア本体に接触させることで、キャリアおよびプラネタリギヤの軸方向への移動を規制している。これにより、減速機の作動の安定化を図っている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のクラッチアクチュエータでは、ロータに設けられたマグネットが破損した場合、破損したマグネットが周囲に飛散し、減速機等の作動不良を招くおそれがある。
【0007】
また、ロータをキャリア本体に接触させて軸方向の移動を規制するため、ロータは、サンギヤに対し径方向および軸方向に屈曲しており、形状が複雑である。
【0008】
また、ロータは、キャリア本体との接触および摺動により摩耗した場合、磁気特性が変化するおそれがある。これにより、原動機の作動が不安定になるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、安定して作動可能なクラッチアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、相対回転可能な第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間において、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を許容する係合状態と、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する非係合状態とに状態が変化するクラッチ(70)を備えるクラッチ装置(1)に用いられるクラッチアクチュエータであって、ハウジング(12)と原動機(20)とマグネットカバー(24)と減速機(30)と回転並進部(2)とを備える。
【0011】
原動機は、ハウジングに設けられたステータ(21)、ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)、および、ロータに設けられたマグネット(230)を有し、通電により作動しロータからトルクを出力可能である。マグネットカバーは、マグネットの少なくとも一部を覆うよう設けられている。減速機は、原動機のトルクを減速して出力可能である。
【0012】
回転並進部は、減速機から出力されたトルクが入力されるとハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、回転部がハウジングに対し相対回転するとハウジングに対し軸方向に相対移動しクラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な並進部(50)を有する。
【0013】
減速機は、サンギヤ(31)、プラネタリギヤ(32)、キャリア(33)、第1リングギヤ(34)、および、第2リングギヤ(35)を有している。サンギヤには、ロータからのトルクが入力される。プラネタリギヤは、サンギヤに噛み合いつつ自転しながらサンギヤの周方向に公転可能である。キャリアは、プラネタリギヤを回転可能に支持し、サンギヤに対し相対回転可能である。第1リングギヤは、プラネタリギヤに噛み合い可能である。第2リングギヤは、プラネタリギヤに噛み合い可能、かつ、第1リングギヤとは歯部の歯数が異なるよう形成され、回転部にトルクを出力する。
【0014】
キャリアは、サンギヤの径方向外側、かつ、第1リングギヤおよび第2リングギヤの径方向内側において、マグネットカバーまたは回転部に接触可能に設けられている。そのため、キャリアは、サンギヤと、第1リングギヤおよび第2リングギヤとにより、サンギヤの径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。また、キャリアは、マグネットカバーまたは回転部と接触することにより、サンギヤの軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。したがって、減速機の作動を安定させることができる。
【0015】
また、マグネットの少なくとも一部を覆うマグネットカバーにより、マグネットの破損および周囲への飛散を抑制できる。これにより、原動機および減速機等の作動不良を抑制できる。また、マグネットカバーによりキャリアとロータとの接触を抑制できるため、ロータの摩耗および磁気特性の変化を抑制できる。これにより、原動機の安定した作動を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態によるクラッチアクチュエータおよびそれを適用したクラッチ装置を示す断面図。
図2】第1実施形態によるクラッチアクチュエータおよびクラッチ装置の一部を示す断面図。
図3】第1実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図4】第2実施形態によるクラッチアクチュエータおよびクラッチ装置の一部を示す断面図。
図5】第3実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図6】第4実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図7】第5実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図8】第6実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
図9】第7実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、複数の実施形態によるクラッチアクチュエータを図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態によるクラッチアクチュエータを適用したクラッチ装置を図1、2に示す。クラッチ装置1は、例えば車両の内燃機関と変速機との間に設けられ、内燃機関と変速機との間のトルクの伝達を許容または遮断するのに用いられる。
【0019】
クラッチ装置1は、クラッチアクチュエータ10、クラッチ70、「制御部」としての電子制御ユニット(以下、「ECU」という)100、「第1伝達部」としての入力軸61、「第2伝達部」としての出力軸62等を備えている。
【0020】
クラッチアクチュエータ10は、ハウジング12、「原動機」としてのモータ20、マグネットカバー24、減速機30、「回転並進部」または「転動体カム」としてのボールカム2、状態変更部80等を備えている。
【0021】
ECU100は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROM、RAM等、入出力手段としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。ECU100は、車両の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両の各種装置および機器の作動を制御する。このように、ECU100は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0022】
ECU100は、各種センサからの信号等の情報に基づき、内燃機関等の作動を制御可能である。また、ECU100は、後述するモータ20の作動を制御可能である。
【0023】
入力軸61は、例えば、図示しない内燃機関の駆動軸に接続され、駆動軸とともに回転可能である。つまり、入力軸61には、駆動軸からトルクが入力される。
【0024】
内燃機関を搭載する車両には、固定体11が設けられる(図2参照)。固定体11は、例えば筒状に形成され、車両のエンジンルームに固定される。固定体11の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、ボールベアリング141が設けられる。これにより、入力軸61は、ボールベアリング141を介して固定体11により軸受けされる。
【0025】
ハウジング12は、固定体11の内周壁と入力軸61の外周壁との間に設けられる。ハウジング12は、ハウジング内筒部121、ハウジング板部122、ハウジング外筒部123、ハウジング小板部124、ハウジング段差面125、ハウジング小内筒部126、ハウジング側スプライン溝部127等を有している。
【0026】
ハウジング内筒部121は、略円筒状に形成されている。ハウジング小板部124は、ハウジング内筒部121の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ハウジング小内筒部126は、ハウジング小板部124の外縁部からハウジング内筒部121とは反対側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ハウジング板部122は、ハウジング小内筒部126のハウジング小板部124とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ハウジング外筒部123は、ハウジング板部122の外縁部からハウジング小内筒部126およびハウジング内筒部121と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、ハウジング内筒部121とハウジング小板部124とハウジング小内筒部126とハウジング板部122とハウジング外筒部123とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0027】
上述のように、ハウジング12は、全体としては、中空、かつ、扁平形状に形成されている。
【0028】
ハウジング段差面125は、ハウジング小板部124のハウジング小内筒部126とは反対側の面において円環の平面状に形成されている。ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング内筒部121の軸方向に延びるようハウジング内筒部121の外周壁に形成されている。ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング内筒部121の周方向に複数形成されている。
【0029】
ハウジング12は、外壁の一部が固定体11の壁面の一部に当接するよう固定体11に固定される(図2参照)。ハウジング12は、図示しないボルト等により固定体11に固定される。ここで、ハウジング12は、固定体11および入力軸61に対し同軸に設けられる。ここで、「同軸」とは、2つの軸が厳密に一致する同軸の状態に限らず、僅かに偏心している状態または傾いている状態を含むものとする(以下、同じ)。また、ハウジング内筒部121の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、略円筒状の空間が形成される。
【0030】
ハウジング12は、「空間」としての収容空間120を有している。収容空間120は、ハウジング内筒部121とハウジング小板部124とハウジング小内筒部126とハウジング板部122とハウジング外筒部123との間に形成されている。
【0031】
モータ20は、収容空間120に収容されている。モータ20は、ステータ21、ロータ23等を有している。ステータ21は、ステータコア211、コイル22を有している。ステータコア211は、例えば積層鋼板により略円環状に形成され、ハウジング外筒部123の内側に固定される。コイル22は、ステータコア211の複数の突極のそれぞれに設けられている。
【0032】
モータ20は、「永久磁石」としてのマグネット230を有している。ロータ23は、例えば鉄系の金属により略円環状に形成されている。より詳細には、ロータ23は、例えば磁気特性が比較的高い純鉄により形成されている。
【0033】
マグネット230は、ロータ23の外周壁に設けられている。マグネット230は、磁極が交互になるようロータ23の周方向に等間隔で複数設けられている。
【0034】
マグネットカバー24は、マグネット230の少なくとも一部を覆うようロータ23に設けられている。より詳細には、マグネットカバー24は、例えば非磁性の金属により形成されている。図3に示すように、マグネットカバー24は、カバー筒部240、カバー板部241、カバー板部242を有している。
【0035】
カバー筒部240は、略円筒状に形成されている。カバー板部241は、カバー筒部240の一方の端部から径方向内側に延びるよう略円環の板状に形成されている。カバー板部242は、カバー筒部240の他方の端部から径方向内側に延びるよう略円環の板状に形成されている。カバー板部241の内径は、カバー板部242の内径より大きい。そのため、カバー板部241の径方向の幅は、カバー板部242の径方向の幅より小さい。
【0036】
マグネットカバー24がロータ23に設けられた状態において、カバー筒部240は、マグネット230に対しロータ23の径方向外側に位置している。カバー板部241は、マグネット230に対しロータ23の軸方向の一方側に位置している。カバー板部242は、マグネット230に対しロータ23の軸方向の他方側に位置している。
【0037】
ここで、カバー板部241の内縁部およびカバー板部242の内縁部は、マグネット230に対しロータ23の径内方向に位置している。このように、マグネットカバー24は、マグネット230のうちロータ23から露出する全ての部分を覆っている。
【0038】
クラッチアクチュエータ10は、ベアリング151を備えている。ベアリング151は、ハウジング小内筒部126の外周壁に設けられている。ベアリング151の径方向外側には、後述するサンギヤ31が設けられている。ロータ23は、サンギヤ31の径方向外側においてサンギヤ31に対し相対回転不能に設けられている。ベアリング151は、収容空間120に設けられ、サンギヤ31、ロータ23、マグネット230およびマグネットカバー24を回転可能に支持している。
【0039】
ECU100は、コイル22に供給する電力を制御することにより、モータ20の作動を制御可能である。コイル22に電力が供給されると、ステータコア211に回転磁界が生じ、ロータ23が回転する。これにより、ロータ23からトルクが出力される。このように、モータ20は、ステータ21、および、ステータ21に対し相対回転可能に設けられたロータ23を有し、電力の供給によりロータ23からトルクを出力可能である。
【0040】
ここで、ロータ23は、ステータ21のステータコア211の径方向内側において、ステータ21に対し相対回転可能に設けられている。モータ20は、インナロータタイプのブラシレス直流モータである。
【0041】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、回転角センサ104を備えている。回転角センサ104は、収容空間120に設けられている。
【0042】
回転角センサ104は、ロータ23と一体に回転するセンサマグネットから発生する磁束を検出し、検出した磁束に応じた信号をECU100に出力する。これにより、ECU100は、回転角センサ104からの信号に基づき、ロータ23の回転角および回転数等を検出することができる。また、ECU100は、ロータ23の回転角および回転数等に基づき、ハウジング12および後述する従動カム50に対する駆動カム40の相対回転角度、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50および状態変更部80の軸方向の相対位置等を算出することができる。
【0043】
減速機30は、収容空間120に収容されている。減速機30は、サンギヤ31、プラネタリギヤ32、キャリア33、第1リングギヤ34、第2リングギヤ35等を有している。
【0044】
サンギヤ31は、ロータ23と同軸かつ一体回転可能に設けられている。つまり、ロータ23とサンギヤ31とは、異なる材料により別体に形成され、一体に回転可能なよう同軸に配置されている。
【0045】
より詳細には、サンギヤ31は、サンギヤ本体310、「歯部」および「外歯」としてのサンギヤ歯部311、ギヤ側スプライン溝部315を有している。サンギヤ本体310は、例えば金属により略円筒状に形成されている。ギヤ側スプライン溝部315は、サンギヤ本体310の一方の端部側の外周壁において軸方向に延びるよう形成されている。ギヤ側スプライン溝部315は、サンギヤ本体310の周方向に複数形成されている。サンギヤ本体310は、一方の端部側がベアリング151によって軸受けされている。
【0046】
ロータ23の内周壁には、ギヤ側スプライン溝部315に対応するスプライン溝部が形成されている。ロータ23は、サンギヤ31の径方向外側に位置し、スプライン溝部がギヤ側スプライン溝部315とスプライン結合するよう設けられている。これにより、ロータ23は、サンギヤ31に対し、相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0047】
サンギヤ歯部311は、サンギヤ31の他方の端部側の外周壁に形成されている。ロータ23と一体回転するサンギヤ31には、モータ20のトルクが入力される。ここで、サンギヤ31は、減速機30の「入力部」に対応する。本実施形態では、サンギヤ31は、例えば鉄鋼材により形成されている。
【0048】
プラネタリギヤ32は、サンギヤ31の周方向に沿って複数設けられ、サンギヤ31に噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転可能である。より詳細には、プラネタリギヤ32は、例えば金属により略円筒状に形成され、サンギヤ31の径方向外側においてサンギヤ31の周方向に等間隔で4つ設けられている。プラネタリギヤ32は、「歯部」および「外歯」としてのプラネタリギヤ歯部321を有している。プラネタリギヤ歯部321は、サンギヤ歯部311に噛み合い可能なようプラネタリギヤ32の外周壁に形成されている。
【0049】
キャリア33は、プラネタリギヤ32を回転可能に支持し、サンギヤ31に対し相対回転可能である。
【0050】
より詳細には、キャリア33は、キャリア本体331、ピン335を有している。キャリア本体331は、例えば金属により略円環の板状に形成されている。キャリア本体331は、軸方向においてはロータ23、マグネットカバー24およびコイル22とプラネタリギヤ32との間に位置している。キャリア本体331には、キャリア本体331を板厚方向に貫くキャリア穴部332が形成されている。
【0051】
ピン335は、ピン本体336を有している。ピン本体336は、例えば金属により略円柱状に形成されている。ピン335は、ピン本体336の軸方向の端部がキャリア穴部332に嵌合するようキャリア本体331に設けられている。ここで、ピン本体336のキャリア穴部332に嵌合する端部の端面は、キャリア本体331の端面と同一面上に位置している。ピン335およびキャリア穴部332は、プラネタリギヤ32の数に対応し、キャリア本体331の周方向に等間隔で合計4つ設けられている。
【0052】
減速機30は、プラネタリギヤベアリング36を有している。プラネタリギヤベアリング36は、ピン335の外周壁とプラネタリギヤ32の内周壁との間に設けられている。これにより、プラネタリギヤ32は、プラネタリギヤベアリング36を介してピン335により回転可能に支持されている。すなわち、ピン335は、プラネタリギヤ32の回転中心に設けられ、プラネタリギヤ32を回転可能に支持している。また、プラネタリギヤ32とピン335とは、プラネタリギヤベアリング36を介して所定の範囲で軸方向に相対移動可能である。言い換えると、プラネタリギヤ32とピン335とは、プラネタリギヤベアリング36により、軸方向の相対移動可能範囲が所定の範囲に規制されている。
【0053】
第1リングギヤ34は、プラネタリギヤ32に噛み合い可能な歯部である第1リングギヤ歯部341を有し、ハウジング12に固定されている。より詳細には、第1リングギヤ34は、例えば金属により略円環状に形成されている。第1リングギヤ34は、コイル22に対しハウジング板部122とは反対側において、外縁部がハウジング外筒部123の内周壁に嵌合するようハウジング12に固定されている。そのため、第1リングギヤ34は、ハウジング12に対し相対回転不能である。
【0054】
ここで、第1リングギヤ34は、ハウジング12、ロータ23、サンギヤ31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第1リングギヤ歯部341は、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321の軸方向の一方の端部側に噛み合い可能なよう第1リングギヤ34の内縁部に形成されている。
【0055】
第2リングギヤ35は、プラネタリギヤ32に噛み合い可能な歯部であり第1リングギヤ歯部341とは歯数の異なる第2リングギヤ歯部351を有し、後述する駆動カム40と一体回転可能に設けられている。より詳細には、第2リングギヤ35は、例えば金属により略円環状に形成されている。第2リングギヤ35は、ギヤ内筒部355、ギヤ板部356、ギヤ外筒部357を有している。ギヤ内筒部355は、略円筒状に形成されている。ギヤ板部356は、ギヤ内筒部355の一端から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ギヤ外筒部357は、ギヤ板部356の外縁部からギヤ内筒部355とは反対側へ延びるよう略円筒状に形成されている。
【0056】
ここで、第2リングギヤ35は、ハウジング12、ロータ23、サンギヤ31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第2リングギヤ歯部351は、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321の軸方向の他方の端部側に噛み合い可能なようギヤ外筒部357の内周壁に形成されている。本実施形態では、第2リングギヤ歯部351の歯数は、第1リングギヤ歯部341の歯数よりも多い。より詳細には、第2リングギヤ歯部351の歯数は、第1リングギヤ歯部341の歯数よりも、プラネタリギヤ32の個数である4に整数を乗じた数分だけ多い。
【0057】
また、プラネタリギヤ32は、同一部位において2つの異なる諸元をもつ第1リングギヤ34および第2リングギヤ35と干渉なく正常に噛み合う必要があるため、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の一方もしくは両方を転位させて各歯車対の中心距離を一定にする設計としている。
【0058】
上記構成により、モータ20のロータ23が回転すると、サンギヤ31が回転し、プラネタリギヤ32のプラネタリギヤ歯部321がサンギヤ歯部311と第1リングギヤ歯部341および第2リングギヤ歯部351とに噛み合いつつ自転しながらサンギヤ31の周方向に公転する。ここで、第2リングギヤ歯部351の歯数が第1リングギヤ歯部341の歯数より多いため、第2リングギヤ35は、第1リングギヤ34に対し相対回転する。そのため、第1リングギヤ34と第2リングギヤ35との間で第1リングギヤ歯部341と第2リングギヤ歯部351との歯数差に応じた微小差回転が第2リングギヤ35の回転として出力される。これにより、モータ20からのトルクは、減速機30により減速されて、第2リングギヤ35から出力される。このように、減速機30は、モータ20のトルクを減速して出力可能である。本実施形態では、減速機30は、3k型の不思議遊星歯車減速機を構成している。
【0059】
第2リングギヤ35は、後述する駆動カム40とは別体に形成され、駆動カム40と一体回転可能に設けられている。第2リングギヤ35は、モータ20からのトルクを減速して駆動カム40に出力する。ここで、第2リングギヤ35は、減速機30の「出力部」に対応する。
【0060】
ボールカム2は、「回転部」としての駆動カム40、「並進部」としての従動カム50、「転動体」としてのボール3を有している。
【0061】
駆動カム40は、駆動カム本体41、駆動カム内筒部42、駆動カム板部43、駆動カム外筒部44、駆動カム溝400等を有している。駆動カム本体41は、略円環の板状に形成されている。駆動カム内筒部42は、駆動カム本体41の外縁部から軸方向に延びるよう略円筒状に形成されている。駆動カム板部43は、駆動カム内筒部42の駆動カム本体41とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。駆動カム外筒部44は、駆動カム板部43の外縁部から駆動カム内筒部42とは反対側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、駆動カム本体41と駆動カム内筒部42と駆動カム板部43と駆動カム外筒部44とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0062】
駆動カム溝400は、駆動カム本体41の駆動カム内筒部42側の面である一方の端面から他方の端面側へ凹むよう形成されている。駆動カム溝400は、駆動カム本体41の周方向において一方の端面からの深さが変化するよう形成されている。駆動カム溝400は、例えば駆動カム本体41の周方向に等間隔で3つ形成されている。
【0063】
駆動カム40は、駆動カム本体41がハウジング内筒部121の外周壁とサンギヤ31の内周壁との間に位置し、駆動カム板部43がプラネタリギヤ32に対しキャリア本体331とは反対側に位置するようハウジング内筒部121とハウジング外筒部123との間に設けられている。駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転可能である。
【0064】
第2リングギヤ35は、ギヤ内筒部355の内周壁が駆動カム外筒部44の外周壁に嵌合するよう駆動カム40と一体に設けられている。第2リングギヤ35は、駆動カム40に対し相対回転不能である。すなわち、第2リングギヤ35は、「回転部」としての駆動カム40と一体回転可能に設けられている。そのため、モータ20からのトルクが、減速機30により減速されて、第2リングギヤ35から出力されると、駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転する。すなわち、駆動カム40は、減速機30から出力されたトルクが入力されるとハウジング12に対し相対回転する。
【0065】
従動カム50は、従動カム本体51、従動カム筒部52、カム側スプライン溝部54、従動カム溝500等を有している。従動カム本体51は、略円環の板状に形成されている。従動カム筒部52は、従動カム本体51の外縁部から軸方向に延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、従動カム本体51と従動カム筒部52とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0066】
カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の内周壁において軸方向に延びるよう形成されている。カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の周方向に複数形成されている。
【0067】
従動カム50は、従動カム本体51が駆動カム本体41に対しハウジング段差面125とは反対側かつ駆動カム内筒部42および駆動カム板部43の径方向内側に位置し、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合するよう設けられている。これにより、従動カム50は、ハウジング12に対し、相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0068】
従動カム溝500は、従動カム本体51の駆動カム本体41側の面である一方の端面から他方の端面側へ凹むよう形成されている。従動カム溝500は、従動カム本体51の周方向において一方の端面からの深さが変化するよう形成されている。従動カム溝500は、例えば従動カム本体51の周方向に等間隔で3つ形成されている。
【0069】
なお、駆動カム溝400と従動カム溝500とは、それぞれ、駆動カム本体41の従動カム本体51側の面側、または、従動カム本体51の駆動カム本体41側の面側から見たとき、同一の形状となるよう形成されている。
【0070】
ボール3は、例えば金属により球状に形成されている。ボール3は、3つの駆動カム溝400と3つの従動カム溝500との間のそれぞれにおいて転動可能に設けられている。すなわち、ボール3は、合計3つ設けられている。
【0071】
このように、駆動カム40と従動カム50とボール3とは、「転動体カム」としてのボールカム2を構成している。駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、ボール3は、駆動カム溝400および従動カム溝500においてそれぞれの溝底に沿って転動する。
【0072】
図1に示すように、ボール3は、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側に設けられている。より詳細には、ボール3は、大部分が、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の軸方向の範囲内に設けられている。
【0073】
上述のように、駆動カム溝400および従動カム溝500は、駆動カム40または従動カム50の周方向において深さが変化するよう形成されている。そのため、減速機30から出力されるトルクにより駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500において転動し、従動カム50は、駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、ストロークする。
【0074】
このように、従動カム50は、駆動カム溝400との間にボール3を挟むようにして一方の端面に形成された複数の従動カム溝500を有し、駆動カム40およびボール3とともにボールカム2を構成している。従動カム50は、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転すると駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動する。ここで、従動カム50は、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合しているため、ハウジング12に対し相対回転しない。また、駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転するものの、軸方向には相対移動しない。
【0075】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、「付勢部材」としてのリターンスプリング55、リターンスプリングリテーナ56、Cリング57を備えている。リターンスプリング55は、例えばコイルスプリングであり、従動カム本体51の駆動カム本体41とは反対側において、ハウジング内筒部121のハウジング小板部124とは反対側の端部の径方向外側に設けられている。リターンスプリング55は、一端が従動カム本体51の駆動カム本体41とは反対側の面に当接している。
【0076】
リターンスプリングリテーナ56は、例えば金属により略円環状に形成され、ハウジング内筒部121の径方向外側においてリターンスプリング55の他端に当接している。Cリング57は、リターンスプリングリテーナ56の内縁部の従動カム本体51とは反対側の面を係止するようハウジング内筒部121の外周壁に固定されている。
【0077】
リターンスプリング55は、軸方向に伸びる力を有している。そのため、従動カム50は、駆動カム40との間にボール3を挟んだ状態で、リターンスプリング55により駆動カム本体41側へ付勢されている。
【0078】
出力軸62は、軸部621、板部622、筒部623、摩擦板624を有している(図2参照)。軸部621は、略円筒状に形成されている。板部622は、軸部621の一端から径方向外側へ環状の板状に延びるよう軸部621と一体に形成されている。筒部623は、板部622の外縁部から軸部621とは反対側へ略円筒状に延びるよう板部622と一体に形成されている。摩擦板624は、略円環の板状に形成され、板部622の筒部623側の端面に設けられている。ここで、摩擦板624は、板部622に対し相対回転不能である。筒部623の内側には、クラッチ空間620が形成されている。
【0079】
入力軸61の端部は、ハウジング内筒部121の内側を通り、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側に位置している。出力軸62は、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側において、入力軸61と同軸に設けられる。軸部621の内周壁と入力軸61の端部の外周壁との間には、ボールベアリング142が設けられる。これにより、出力軸62は、ボールベアリング142を介して入力軸61により軸受けされる。入力軸61および出力軸62は、ハウジング12に対し相対回転可能である。
【0080】
クラッチ70は、クラッチ空間620において入力軸61と出力軸62との間に設けられている。クラッチ70は、内側摩擦板71、外側摩擦板72、係止部701を有している。内側摩擦板71は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。内側摩擦板71は、内縁部が入力軸61の外周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、内側摩擦板71は、入力軸61に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0081】
外側摩擦板72は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。ここで、内側摩擦板71と外側摩擦板72とは、入力軸61の軸方向において交互に配置されている。外側摩擦板72は、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、外側摩擦板72は、出力軸62に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。複数の外側摩擦板72のうち最も摩擦板624側に位置する外側摩擦板72は、摩擦板624に接触可能である。
【0082】
係止部701は、略円環状に形成され、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁に嵌合するよう設けられる。係止部701は、複数の外側摩擦板72のうち最も従動カム50側に位置する外側摩擦板72の外縁部を係止可能である。そのため、複数の外側摩擦板72、複数の内側摩擦板71は、筒部623の内側からの脱落が抑制される。なお、係止部701と摩擦板624との距離は、複数の外側摩擦板72および複数の内側摩擦板71の板厚の合計よりも大きい。
【0083】
複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに接触、つまり係合した状態である係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力が生じ、当該摩擦力の大きさに応じて内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転が規制される。一方、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに離間、つまり係合していない状態である非係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力は生じず、内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転は規制されない。
【0084】
クラッチ70が係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、クラッチ70を経由して出力軸62に伝達される。一方、クラッチ70が非係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、出力軸62に伝達されない。
【0085】
このように、クラッチ70は、入力軸61と出力軸62との間でトルクを伝達する。クラッチ70は、係合している係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を遮断する。
【0086】
本実施形態では、クラッチ装置1は、通常、非係合状態となる、所謂常開式(ノーマリーオープンタイプ)のクラッチ装置である。
【0087】
状態変更部80は、「弾性変形部」としての皿ばね81、皿ばねリテーナ82、スラストベアリング83を有している。皿ばねリテーナ82は、リテーナ筒部821、リテーナフランジ部822を有している。リテーナ筒部821は、略円筒状に形成されている。リテーナフランジ部822は、リテーナ筒部821の一端から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。リテーナ筒部821とリテーナフランジ部822とは、例えば金属により一体に形成されている。皿ばねリテーナ82は、リテーナ筒部821の他端の外周壁が従動カム筒部52の内周壁に嵌合するよう従動カム50に固定されている。
【0088】
皿ばね81は、内縁部がリテーナ筒部821の径方向外側において、従動カム筒部52とリテーナフランジ部822との間に位置するよう設けられている。スラストベアリング83は、従動カム筒部52と皿ばね81との間に設けられている。
【0089】
皿ばねリテーナ82は、リテーナフランジ部822が皿ばね81の軸方向の一端すなわち内縁部を係止可能なよう従動カム50に固定されている。そのため、皿ばね81およびスラストベアリング83は、リテーナフランジ部822により、皿ばねリテーナ82からの脱落が抑制されている。皿ばね81は、軸方向に弾性変形可能である。
【0090】
図1、2に示すように、ボール3が、駆動カム溝400の一方の端面から駆動カム本体41の軸方向すなわち深さ方向に最も離れた部位である最深部に対応する位置(原点)、および、従動カム溝500の一方の端面から従動カム本体51の軸方向すなわち深さ方向に最も離れた部位である最深部に対応する位置(原点)に位置するとき、駆動カム40と従動カム50との距離は、比較的小さく、皿ばね81の軸方向の他端すなわち外縁部とクラッチ70との間には、隙間Sp1が形成されている(図1参照)。そのため、クラッチ70は非係合状態であり、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達は遮断されている。
【0091】
ここで、クラッチ70の状態を変更する通常作動時、ECU100の制御によりモータ20のコイル22に電力が供給されると、モータ20が回転し、減速機30からトルクが出力され、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転する。これにより、ボール3が最深部に対応する位置から駆動カム溝400および従動カム溝500の周方向の一方側へ転動する。これにより、従動カム50は、リターンスプリング55を圧縮しながらハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、クラッチ70側へ移動する。これにより、皿ばね81は、クラッチ70側へ移動する。
【0092】
従動カム50の軸方向の移動により皿ばね81がクラッチ70側へ移動すると、隙間Sp1が小さくなり、皿ばね81の軸方向の他端は、クラッチ70の外側摩擦板72に接触する。皿ばね81がクラッチ70に接触した後さらに従動カム50が軸方向に移動すると、皿ばね81は、軸方向に弾性変形しつつ、外側摩擦板72を摩擦板624側へ押す。これにより、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに係合し、クラッチ70が係合状態となる。そのため、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達が許容される。
【0093】
このとき、皿ばね81は、スラストベアリング83に軸受けされながら従動カム50および皿ばねリテーナ82に対し相対回転する。このように、スラストベアリング83は、皿ばね81からスラスト方向の荷重を受けつつ、皿ばね81を軸受けする。
【0094】
ECU100は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に達すると、モータ20の回転を停止させる。これにより、クラッチ70は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に維持された係合保持状態となる。このように、状態変更部80の皿ばね81は、従動カム50から軸方向の力を受け、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置に応じてクラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0095】
出力軸62は、軸部621の板部622とは反対側の端部が、図示しない変速機の入力軸に接続され、当該入力軸とともに回転可能である。つまり、変速機の入力軸には、出力軸62から出力されたトルクが入力される。変速機に入力されたトルクは、変速機で変速され、駆動トルクとして車両の駆動輪に出力される。これにより、車両が走行する。
【0096】
本実施形態では、クラッチ装置1は、オイル供給部5を備えている(図1、2参照)。オイル供給部5は、一端がクラッチ空間620に露出するよう、出力軸62において通路状に形成されている。オイル供給部5の他端は、図示しないオイル供給源に接続される。これにより、オイル供給部5の一端からクラッチ空間620のクラッチ70にオイルが供給される。
【0097】
ECU100は、オイル供給部5からクラッチ70に供給するオイルの量を制御する。クラッチ70に供給されたオイルは、クラッチ70を潤滑および冷却可能である。このように、本実施形態では、クラッチ70は、湿式クラッチであり、オイルにより冷却され得る。
【0098】
本実施形態では、「回転並進部」としてのボールカム2は、「回転部」としての駆動カム40および第2リングギヤ35とハウジング12との間に収容空間120を形成している。ここで、収容空間120は、駆動カム40および第2リングギヤ35に対しクラッチ70とは反対側においてハウジング12の内側に形成されている。モータ20および減速機30は、収容空間120に設けられている。クラッチ70は、駆動カム40に対し収容空間120とは反対側の空間であるクラッチ空間620に設けられている。
【0099】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、スラストベアリング161、スラストベアリングワッシャ162を備えている。スラストベアリングワッシャ162は、例えば金属により略円環の板状に形成され、一方の面がハウジング段差面125に当接するよう設けられている。スラストベアリング161は、スラストベアリングワッシャ162の他方の面と駆動カム本体41の従動カム50とは反対側の面との間に設けられている。スラストベアリング161は、駆動カム40からスラスト方向の荷重を受けつつ駆動カム40を軸受けする。本実施形態では、クラッチ70側から従動カム50を経由して駆動カム40に作用するスラスト方向の荷重は、スラストベアリング161およびスラストベアリングワッシャ162を経由してハウジング段差面125に作用する。そのため、ハウジング段差面125により駆動カム40を安定して軸受けできる。
【0100】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ10は、「シール部材」としての内側シール部材191、外側シール部材192を備えている。内側シール部材191、外側シール部材192は、例えばゴム等の弾性材料および金属環により環状に形成されたオイルシールである。
【0101】
内側シール部材191の内径および外径は、外側シール部材192の内径および外径より小さい。
【0102】
内側シール部材191は、径方向においてはハウジング内筒部121とスラストベアリング161との間に位置し、軸方向においてはスラストベアリングワッシャ162と駆動カム本体41との間に位置するよう設けられている。内側シール部材191は、ハウジング内筒部121に固定され、駆動カム40に対し相対回転可能である。
【0103】
外側シール部材192は、第2リングギヤ35のギヤ内筒部355とハウジング外筒部123のクラッチ70側の端部との間に設けられている。外側シール部材192は、ハウジング外筒部123に固定され、第2リングギヤ35に対し相対回転可能である。
【0104】
ここで、外側シール部材192は、内側シール部材191の軸方向から見たとき、内側シール部材191の径方向外側に位置するよう設けられている(図1、2参照)。
【0105】
駆動カム本体41のスラストベアリングワッシャ162側の面は、内側シール部材191のシールリップ部と摺動可能である。すなわち、内側シール部材191は、「回転部」としての駆動カム40に接触するよう設けられている。内側シール部材191は、駆動カム本体41とスラストベアリングワッシャ162との間を気密または液密にシールしている。
【0106】
第2リングギヤ35のギヤ内筒部355の外周壁は、外側シール部材192の内縁部であるシールリップ部と摺動可能である。すなわち、外側シール部材192は、「回転部」としての駆動カム40の径方向外側において、駆動カム40と一体回転する第2リングギヤ35に接触するよう設けられている。外側シール部材192は、ギヤ内筒部355の外周壁とハウジング外筒部123の内周壁との間を気密または液密にシールしている。
【0107】
上述のように設けられた内側シール部材191、および、外側シール部材192により、モータ20および減速機30を収容する収容空間120を気密または液密に保持可能であり、収容空間120と、クラッチ70が設けられたクラッチ空間620との間を気密または液密に保持可能である。これにより、例えばクラッチ70において摩耗粉等の異物が発生したとしても、当該異物がクラッチ空間620から収容空間120へ侵入するのを抑制できる。そのため、異物によるモータ20または減速機30の作動不良を抑制できる。
【0108】
以下、本実施形態の各部の構成について、より詳細に説明する。
【0109】
<1>キャリア33は、サンギヤ31の径方向外側、かつ、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側において、マグネットカバー24または「回転部」としての駆動カム40に接触可能に設けられている。
【0110】
より詳細には、キャリア33は、特にピン335のキャリア穴部332に嵌合する端部以外の部分が、サンギヤ31の径方向外側、かつ、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側に位置している。
【0111】
プラネタリギヤ32は、サンギヤ31と第1リングギヤ34および第2リングギヤ35との間に設けられている。そのため、プラネタリギヤ32は、サンギヤ31と第1リングギヤ34および第2リングギヤ35とにより、サンギヤ31の径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。これにより、プラネタリギヤ32を回転可能に支持するキャリア33も、サンギヤ31の径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0112】
また、キャリア本体331のマグネットカバー24側の面、および、ピン本体336のキャリア穴部332に嵌合する端部の端面は、カバー板部241のカバー板部242とは反対側の面と接触可能である。ここで、キャリア本体331およびピン本体336とマグネットカバー24とは、面接触し得る。キャリア33は、キャリア本体331およびピン本体336とマグネットカバー24とが接触したとき、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0113】
また、ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端面は、駆動カム板部43のプラネタリギヤ32側の面と接触可能である。ここで、ピン本体336と駆動カム板部43とは面接触し得る。キャリア33は、ピン本体336と駆動カム板部43とが接触したとき、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0114】
なお、ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端面は、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36の駆動カム板部43側の端面に対し駆動カム板部43側に位置している。そのため、ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端面と駆動カム板部43とは接触し得るものの、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36の駆動カム板部43側の端面と駆動カム板部43およびギヤ板部356とは接触しない。
【0115】
以上説明したように、<1>本実施形態では、キャリア33は、サンギヤ31の径方向外側、かつ、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側において、マグネットカバー24または「回転部」としての駆動カム40に接触可能に設けられている。
【0116】
そのため、キャリア33は、サンギヤ31と、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35とにより、サンギヤ31の径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。また、キャリア33は、マグネットカバー24または駆動カム40と接触することにより、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。したがって、減速機30の作動を安定させることができる。
【0117】
また、マグネット230の少なくとも一部を覆うマグネットカバー24により、マグネット230の破損および周囲への飛散を抑制できる。これにより、モータ20および減速機30等の作動不良を抑制できる。また、マグネットカバー24によりキャリア33とロータ23との接触を抑制できるため、ロータ23の摩耗および磁気特性の変化を抑制できる。これにより、モータ20の安定した作動を維持できる。
【0118】
このように、本実施形態では、キャリア33は、サンギヤ31の径方向外側、かつ、第1リングギヤ34および第2リングギヤ35の径方向内側に設けられることで、サンギヤ31の径方向に沿う移動が規制され、マグネットカバー24または「回転部」としての駆動カム40に接触可能に設けられることで、サンギヤ31の軸方向に沿う移動が規制される。
【0119】
また、<4>本実施形態では、キャリア33は、端部がマグネットカバー24または「回転部」としての駆動カム40に接触可能なようプラネタリギヤ32の回転中心に設けられたピン335を有する。
【0120】
そのため、キャリア33は、ピン335の端部がマグネットカバー24または駆動カム40と接触することにより、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0121】
このように、本実施形態では、キャリア33は、端部がマグネットカバー24または回転部に接触可能なようプラネタリギヤ32の回転中心に設けられたピン335を有し、ピン335の端部がマグネットカバー24または「回転部」としての駆動カム40に接触することで、サンギヤ31の軸方向に沿う移動が規制される。
【0122】
(第2実施形態)
第2実施形態によるクラッチアクチュエータを適用したクラッチ装置の一部を図4に示す。第2実施形態は、クラッチや状態変更部の構成等が第1実施形態と異なる。
【0123】
本実施形態では、固定体11の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、ボールベアリング141、143が設けられる。これにより、入力軸61は、ボールベアリング141、143を介して固定体11により軸受けされる。
【0124】
ハウジング12は、外壁の一部が固定体11の壁面に当接するよう固定体11に固定される。例えば、ハウジング12は、ハウジング小板部124のボール3とは反対側の面、ハウジング内筒部121の内周壁およびハウジング小内筒部126の内周壁が固定体11の外壁に当接するよう固定体11に固定される。ハウジング12は、図示しないボルト等により固定体11に固定される。ここで、ハウジング12は、固定体11および入力軸61に対し同軸に設けられる。
【0125】
ハウジング12に対するモータ20、減速機30、ボールカム2等の配置は、第1実施形態と同様である。
【0126】
本実施形態では、出力軸62は、軸部621、板部622、筒部623、カバー625を有している。軸部621は、略円筒状に形成されている。板部622は、軸部621の一端から径方向外側へ環状の板状に延びるよう軸部621と一体に形成されている。筒部623は、板部622の外縁部から軸部621とは反対側へ略円筒状に延びるよう板部622と一体に形成されている。出力軸62は、ボールベアリング142を介して入力軸61により軸受けされる。筒部623の内側には、クラッチ空間620が形成されている。
【0127】
クラッチ70は、クラッチ空間620において入力軸61と出力軸62との間に設けられている。クラッチ70は、支持部73、摩擦板74、摩擦板75、プレッシャプレート76を有している。支持部73は、出力軸62の板部622に対し従動カム50側において、入力軸61の端部の外周壁から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。
【0128】
摩擦板74は、略円環の板状に形成され、支持部73の外縁部において出力軸62の板部622側に設けられている。摩擦板74は、支持部73に固定されている。摩擦板74は、支持部73の外縁部が板部622側に変形することにより、板部622に接触可能である。
【0129】
摩擦板75は、略円環の板状に形成され、支持部73の外縁部において出力軸62の板部622とは反対側に設けられている。摩擦板75は、支持部73に固定されている。
【0130】
プレッシャプレート76は、略円環の板状に形成され、摩擦板75に対し従動カム50側に設けられている。
【0131】
摩擦板74と板部622とが互いに接触、つまり係合した状態である係合状態では、摩擦板74と板部622との間に摩擦力が生じ、当該摩擦力の大きさに応じて摩擦板74と板部622との相対回転が規制される。一方、摩擦板74と板部622とが互いに離間、つまり係合していない状態である非係合状態では、摩擦板74と板部622との間に摩擦力は生じず、摩擦板74と板部622との相対回転は規制されない。
【0132】
クラッチ70が係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、クラッチ70を経由して出力軸62に伝達される。一方、クラッチ70が非係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、出力軸62に伝達されない。
【0133】
カバー625は、略円環状に形成され、プレッシャプレート76の摩擦板75とは反対側を覆うよう出力軸62の筒部623に設けられている。
【0134】
本実施形態では、クラッチ装置1のクラッチアクチュエータ10は、第1実施形態で示した状態変更部80に代えて状態変更部90を備えている。状態変更部90は、「弾性変形部」としてのダイアフラムスプリング91、リターンスプリング92、レリーズベアリング93等を有している。
【0135】
ダイアフラムスプリング91は、略円環の皿ばね状に形成され、軸方向の一端すなわち外縁部がプレッシャプレート76に当接するようカバー625に設けられている。ここで、ダイアフラムスプリング91は、外縁部が内縁部に対しクラッチ70側に位置するよう形成され、内縁部と外縁部との間の部位がカバー625により支持されている。また、ダイアフラムスプリング91は、軸方向に弾性変形可能である。これにより、ダイアフラムスプリング91は、軸方向の一端すなわち外縁部によりプレッシャプレート76を摩擦板75側へ付勢している。これにより、プレッシャプレート76は、摩擦板75に押し付けられ、摩擦板74は、板部622に押し付けられている。すなわち、クラッチ70は、通常、係合状態となっている。
【0136】
本実施形態では、クラッチ装置1は、通常、係合状態となる、所謂常閉式(ノーマリークローズタイプ)のクラッチ装置である。
【0137】
リターンスプリング92は、例えばコイルスプリングであり、一端が従動カム筒部52のクラッチ70側の端面に当接するよう設けられている。
【0138】
レリーズベアリング93は、リターンスプリング92の他端とダイアフラムスプリング91の内縁部との間に設けられている。リターンスプリング92は、レリーズベアリング93をダイアフラムスプリング91側へ付勢している。レリーズベアリング93は、ダイアフラムスプリング91からスラスト方向の荷重を受けつつダイアフラムスプリング91を軸受けする。なお、リターンスプリング92の付勢力は、ダイアフラムスプリング91の付勢力より小さい。
【0139】
図4に示すように、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500の最深部に対応する位置(原点)に位置するとき、駆動カム40と従動カム50との距離は、比較的小さく、レリーズベアリング93と従動カム50の従動カム段差面53との間には、隙間Sp2が形成されている。そのため、ダイアフラムスプリング91の付勢力により摩擦板74が板部622に押し付けられ、クラッチ70は係合状態であり、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達は許容されている。
【0140】
ここで、ECU100の制御によりモータ20のコイル22に電力が供給されると、モータ20が回転し、減速機30からトルクが出力され、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転する。これにより、ボール3が最深部に対応する位置から駆動カム溝400および従動カム溝500の周方向の一方側へ転動する。これにより、従動カム50は、ハウジング12および駆動カム40に対し軸方向に相対移動、すなわち、クラッチ70側へ移動する。これにより、レリーズベアリング93と従動カム筒部52の端面との間の隙間Sp2が小さくなり、リターンスプリング92は、従動カム50とレリーズベアリング93との間で軸方向に圧縮される。
【0141】
従動カム50がクラッチ70側にさらに移動すると、リターンスプリング92が最大限圧縮され、レリーズベアリング93が従動カム50によりクラッチ70側へ押圧される。これにより、レリーズベアリング93は、ダイアフラムスプリング91の内縁部を押圧しつつ、ダイアフラムスプリング91からの反力に抗してクラッチ70側へ移動する。
【0142】
レリーズベアリング93がダイアフラムスプリング91の内縁部を押圧しつつクラッチ70側へ移動すると、ダイアフラムスプリング91は、内縁部がクラッチ70側へ移動するとともに、外縁部がクラッチ70とは反対側へ移動する。これにより、摩擦板74が板部622から離間し、クラッチ70の状態が係合状態から非係合状態に変更される。その結果、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達が遮断される。
【0143】
ECU100は、クラッチ伝達トルクが0になると、モータ20の回転を停止させる。これにより、クラッチ70の状態が非係合状態に維持される。このように、状態変更部90のダイアフラムスプリング91は、従動カム50から軸方向の力を受け、駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置に応じてクラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0144】
本実施形態では、クラッチ装置1は、第1実施形態で示したオイル供給部5を備えていない。すなわち、本実施形態では、クラッチ70は、乾式クラッチである。
【0145】
このように、本発明は、乾式クラッチを備えた常閉式のクラッチ装置にも適用可能である。
【0146】
(第3実施形態)
第3実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を図5に示す。第3実施形態は、マグネットカバー24の構成等が第1実施形態と異なる。
【0147】
<2>本実施形態では、マグネットカバー24は、カバー凸部245をさらに有している。カバー凸部245は、カバー板部241のカバー板部242とは反対側の面からキャリア本体331側に突出するよう半球状に形成されている。カバー凸部245の外壁は、SR形状、すなわち、球面状に形成されている。
【0148】
カバー凸部245の外壁は、キャリア本体331のマグネットカバー24側の面に接触可能である。ここで、カバー凸部245とキャリア本体331とは、点接触する。カバー凸部245は、例えばカバー板部241の周方向に等間隔で4つ形成されている。
【0149】
<3>キャリア33のキャリア本体331に接触可能なカバー凸部245の外壁は、マグネットカバー24の軸Ax1を含む平面による断面における形状がキャリア33に向かって凸となる曲線状になるよう形成されている(図5参照)。
【0150】
以上説明したように、<2>本実施形態では、マグネットカバー24は、キャリア33に接触可能なカバー凸部245を有する。
【0151】
そのため、カバー凸部245を有しない第1実施形態と比べ、キャリア33とマグネットカバー24との接触面積を小さくできる。これにより、キャリア33とマグネットカバー24との摺動抵抗を小さくでき、キャリア33の摺動損失を低減できる。
【0152】
このように、本実施形態では、マグネットカバー24は、キャリア33に接触可能なカバー凸部245を有し、カバー凸部245がキャリア33に接触することで、サンギヤ31の軸方向に沿うキャリア33の移動を規制可能である。
【0153】
また、<3>本実施形態では、キャリア33に接触可能なカバー凸部245の外壁は、マグネットカバー24の軸Ax1を含む平面による断面における形状がキャリア33に向かって凸となる曲線状になるよう形成されている。
【0154】
そのため、キャリア33とカバー凸部245とを点接触させることができ、キャリア33とマグネットカバー24との接触面積をさらに小さくできる。これにより、キャリア33とマグネットカバー24との摺動抵抗をさらに小さくでき、キャリア33の摺動損失をさらに低減できる。
【0155】
(第4実施形態)
第4実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を図6に示す。第4実施形態は、キャリア33の構成等が第1実施形態と異なる。
【0156】
本実施形態では、キャリア33は、キャリア本体333をさらに有している。キャリア本体333は、例えば金属により略円環の板状に形成されている。キャリア本体333は、軸方向においては駆動カム板部43とプラネタリギヤ32との間に位置している。キャリア本体333には、キャリア本体333を板厚方向に貫くキャリア穴部334が形成されている。
【0157】
ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端部は、キャリア穴部334に嵌合している。ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端面は、キャリア本体333の駆動カム板部43側の端面に対し駆動カム板部43側に位置している。そのため、ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端面と駆動カム板部43とは接触し得るものの、キャリア本体333の駆動カム板部43側の端面と駆動カム板部43およびギヤ板部356とは接触しない。
【0158】
なお、キャリア本体333の径方向の幅は、プラネタリギヤ32の歯底円の直径より小さい。そのため、キャリア本体333の外縁部が第2リングギヤ歯部351に接触したり、キャリア本体333の内縁部が駆動カム内筒部42に接触したりすることはない。
【0159】
(第5実施形態)
第5実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を図7に示す。第5実施形態は、キャリア33の構成等が第1実施形態と異なる。
【0160】
本実施形態では、キャリア33は、第1実施形態で示したキャリア本体331を有していない。ピン本体336のマグネットカバー24側の端面は、カバー筒部240およびカバー板部241のプラネタリギヤ32側の面と接触可能である。ここで、ピン本体336とマグネットカバー24とは、面接触し得る。キャリア33は、ピン本体336とマグネットカバー24とが接触したとき、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0161】
また、ピン本体336の駆動カム板部43側の端面は、駆動カム板部43のプラネタリギヤ32側の面と接触可能である。ここで、ピン本体336と駆動カム板部43とは面接触し得る。キャリア33は、ピン本体336と駆動カム板部43とが接触したとき、サンギヤ31の軸方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0162】
なお、ピン本体336のマグネットカバー24側の端面は、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36のマグネットカバー24側の端面に対しマグネットカバー24側に位置している。そのため、ピン本体336のマグネットカバー24側の端面とマグネットカバー24とは接触し得るものの、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36のマグネットカバー24側の端面とマグネットカバー24とは接触しない。
【0163】
また、ピン本体336の駆動カム板部43側の端面は、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36の駆動カム板部43側の端面に対し駆動カム板部43側に位置している。そのため、ピン本体336の駆動カム板部43側の端面と駆動カム板部43とは接触し得るものの、プラネタリギヤ32およびプラネタリギヤベアリング36の駆動カム板部43側の端面と駆動カム板部43およびギヤ板部356とは接触しない。
【0164】
本実施形態では、キャリア33は、第1実施形態で示したキャリア本体331を有していない。そのため、キャリア33の構成を簡略化できるとともに、クラッチアクチュエータ10を軽量化できる。
【0165】
(第6実施形態)
第6実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を図8に示す。第6実施形態は、キャリア33の構成等が第1実施形態と異なる。
【0166】
<5>本実施形態では、ピン335は、ピン凸部337をさらに有している。ピン凸部337は、ピン本体336の駆動カム板部43側の端面から駆動カム板部43側へ突出するよう形成されている。ピン凸部337の外壁は、SR形状、すなわち、球面状に形成されている。このように、ピン335の駆動カム板部43側の端部は、SR形状に形成されている。
【0167】
ピン凸部337の外壁は、駆動カム板部43のプラネタリギヤ32側の面に接触可能である。ここで、ピン凸部337と駆動カム板部43とは、点接触する。
【0168】
駆動カム板部43に接触可能なピン凸部337の外壁は、ピン本体336の軸を含む平面による断面における形状が駆動カム板部43に向かって凸となる曲線状になるよう形成されている(図8参照)。
【0169】
以上説明したように、<5>本実施形態では、ピン335の端部は、SR形状に形成されている。
【0170】
そのため、ピン335がピン凸部337を有しない第1実施形態と比べ、ピン335と駆動カム板部43との接触面積を小さくできる。これにより、キャリア33と駆動カム40との摺動抵抗を小さくでき、キャリア33の摺動損失を低減できる。
【0171】
(第7実施形態)
第7実施形態によるクラッチアクチュエータの一部を図9に示す。第7実施形態は、駆動カム40の構成等が第1実施形態と異なる。
【0172】
本実施形態では、「回転部」としての駆動カム40は、ピン摺動溝部45をさらに有している。ピン摺動溝部45は、駆動カム板部43のプラネタリギヤ32側の面からプラネタリギヤ32とは反対側へ凹むよう円環状に形成されている。
【0173】
ピン摺動溝部45は、サンギヤ31に対するピン335の公転軌道円に沿うよう形成されている。ピン摺動溝部45の底面である溝底面450は、円環の平面状に形成されている。ピン摺動溝部45の径方向外側の側面である溝側面451は、円筒面状に形成されている。ピン摺動溝部45の径方向内側の側面である溝側面452は、円筒面状に形成されている。駆動カム板部43の径方向における溝側面451と溝側面452との距離は、ピン本体336の直径よりやや大きい。
【0174】
ピン335のキャリア本体331とは反対側の端部、すなわち、ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端部およびピン凸部337は、ピン摺動溝部45内に位置し、減速機30の作動時、ピン摺動溝部45に接触可能かつ摺動可能である。
【0175】
より詳細には、ピン凸部337の外壁は、溝底面450に点接触可能かつ摺動可能である。ピン本体336のキャリア本体331とは反対側の端部の外周壁は、溝側面451または溝側面452に接触可能かつ摺動可能である。
【0176】
キャリア33は、ピン本体336の外周壁とピン摺動溝部45の溝側面451または溝側面452とが接触したとき、サンギヤ31の径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。
【0177】
以上説明したように、<6>本実施形態では、「回転部」としての駆動カム40は、ピン335の端部が摺動可能な環状のピン摺動溝部45を有する。
【0178】
そのため、キャリア33は、ピン335の端部とピン摺動溝部45とが接触したとき、サンギヤ31の軸方向または径方向に沿う、他部材との相対移動が規制される。したがって、減速機30の作動を安定させることができる。
【0179】
(他の実施形態)
他の実施形態では、「マグネットカバー」は、「マグネット」の少なくとも一部を覆うよう設けられているのであれば、「マグネット」の全ての部分を覆っていなくてもよい。
【0180】
また、他の実施形態では、「キャリア」は、「マグネットカバー」または「回転部」のいずれか一方にのみ接触可能に設けられていてもよい。
【0181】
また、上述の第3実施形態では、「マグネットカバー」が半球状の「カバー凸部」を4つ有する例を示した。これに対し、他の実施形態では、「カバー凸部」は、例えば円柱状等、半球状以外の形状に形成されていてもよい。また、「カバー凸部」は、いくつ形成されていてもよい。ここで、「カバー凸部」は、「マグネットカバー」の周方向に等間隔で3つ以上形成されていることが望ましい。
【0182】
また、<2>他の実施形態では、「カバー凸部」は、例えば「マグネットカバー」から「キャリア」側に略円環状に突出し「キャリア」に接触可能に1つ形成されていてもよい。ここで、<3>「キャリア」に接触可能な「カバー凸部」の外壁は、「マグネットカバー」の軸を含む平面による断面における形状が「キャリア」に向かって凸となる曲線状になるよう形成されていてもよい。この場合、「カバー凸部」と「キャリア」とを線接触させることができ、「カバー凸部」と「キャリア」とが面接触する場合と比べ、「カバー凸部」と「キャリア」との接触面積を小さくできる。これにより、「キャリア」と「マグネットカバー」との摺動抵抗を小さくでき、「キャリア」の摺動損失を低減できる。
【0183】
また、上述の第7実施形態では、「マグネットカバー」および「回転部」の一方である「回転部」が、「ピン」の端部が摺動可能な環状の「ピン摺動溝部」を有する例を示した。これに対し、<6>他の実施形態では、「マグネットカバー」のみ、または、「マグネットカバー」および「回転部」の両方が「ピン摺動溝部」を有することとしてもよい。「マグネットカバー」および「回転部」の両方が「ピン摺動溝部」を有する場合、「減速機」の作動をより安定させることができる。
【0184】
また、他の実施形態では、駆動カム溝400および従動カム溝500は、それぞれ、3つ以上であれば、いくつ形成されていてもよい。また、ボール3も、駆動カム溝400および従動カム溝500の数に合わせ、いくつ設けられていてもよい。
【0185】
また、本発明は、内燃機関からの駆動トルクによって走行する車両に限らず、モータからの駆動トルクによって走行可能な電気自動車やハイブリッド車等に適用することもできる。
【0186】
また、他の実施形態では、「第2伝達部」からトルクを入力し、「クラッチ」を経由して「第1伝達部」からトルクを出力することとしてもよい。また、例えば、「第1伝達部」または「第2伝達部」の一方を回転不能に固定した場合、「クラッチ」を係合状態にすることにより、「第1伝達部」または「第2伝達部」の他方の回転を止めることができる。この場合、クラッチ装置をブレーキ装置として用いることができる。
【0187】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【0188】
本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のクラッチ装置の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0189】
1 クラッチ装置、2 ボールカム(回転並進部)、10 クラッチアクチュエータ、12 ハウジング、20 モータ(原動機)、21 ステータ、23 ロータ、230 マグネット、24 マグネットカバー、30 減速機、31 サンギヤ、32 プラネタリギヤ、33 キャリア、34 第1リングギヤ、35 第2リングギヤ、40 駆動カム(回転部)、50 従動カム(並進部)、61 入力軸(第1伝達部)、62 出力軸(第2伝達部)、70 クラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9