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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170506
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】送り軸機構の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/02 20190101AFI20221102BHJP
【FI】
G01M13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076681
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】北郷 匠
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB11
2G024BA27
2G024CA06
2G024CA13
2G024CA27
2G024DA09
2G024DA12
2G024EA11
2G024EA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】サーボモータの回転をカップリングを介してボールねじに伝えて移動体を軸方向に移動させる送り軸機構において、異常の発生を速やかに検知するとともに、その異常の部位を正確に特定することが可能な異常診断装置を提供する。
【解決手段】異常診断装置は、測定された共振周波数の内の少なくとも1つの基準値に対する変化量が異常有無判定用閾値を上回る場合には、送り軸機構に異常があると判定する。また、そのように送り軸機構に異常があると判定する際に、カップリングの連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量と、反カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量との差を求め、その差が異常部位特定用閾値を上回る場合には、カップリングの異常であると診断し、それ以外の場合には、ボールねじの異常であると診断する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転をカップリングにより接続されたボールねじに伝えて回転駆動する送り軸機構の異常発生及び異常部位を診断する診断装置において、
送り軸機構のストローク範囲内における複数のストローク位置において共振周波数を測定し、それらのストローク位置と測定された各共振周波数の基準値に対する変化量との関係に基づいて、異常部位の特定を行うことを特徴とする送り軸機構の異常診断装置。
【請求項2】
2つのストローク位置において測定された共振周波数の内の少なくとも1つの基準値に対する変化量が、予め設定された異常有無判定用閾値を上回る場合には、送り軸機構に異常があると判定し、
送り軸機構に異常があると判定する際に、カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量と、反カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量との差を求め、その差が、予め設定された異常部位特定用閾値を上回る場合には、カップリングの異常であると診断し、それ以外の場合には、ボールねじの異常であると診断することを特徴とする請求項1に記載の送り軸機構の異常診断装置。
【請求項3】
複数のストローク位置において測定された共振周波数の内の少なくとも1つの基準値に対する変化量が、予め設定された異常有無判定用閾値を上回る場合には、送り軸機構に異常があると判定し、
測定された各ストローク位置における共振周波数の基準値に対する変化量を数式によって近似し、その近似式を利用して異常部位の特定を行うこと特徴とする請求項1に記載の送り軸機構の異常診断装置。
【請求項4】
前記近似式として1次の線形近似式を用い、
その1次の線形近似式における係数と予め設定された異常箇所特定用閾値との比較の結果、および、カップリングのストローク位置に対する設置位置に基づいて、ねじ軸の異常か、カップリングの異常か、ボールねじのナット部または転動体の異常かを診断することを特徴とする請求項3に記載の送り軸機構の異常診断装置。
【請求項5】
前記近似式として2次の近似式を用い、その2次の近似式における係数が負となる場合に、ねじ軸の局所的な摩耗による異常と診断し、
前記2次の近似式の頂点となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリング側にある場合に、ボールねじのナット部または転動体の異常と診断し、
前記2次の近似式の頂点となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリングの反対側にある場合に、カップリングの異常であると診断することを特徴とする請求項3に記載の送り軸機構の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に搭載される送り軸機構の異常、および、その異常部位について診断するための異常診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の中には、サーボモータ、カップリング、支持軸受、ボールねじにより構成される送り軸機構が搭載されたものがある。そのような送り軸機構を搭載した工作機械においては、予期せぬ不具合が発生すると、計画外の損失を招いてしまうため、不具合の発生前に予兆の検知を行うことが求められる。また、不具合の予兆の検知時には、不具合の解消を行うために、不具合発生の原因となる異常部位を特定することも必要である。
【0003】
工作機械の送り軸機構では、モータの回転運動をボールねじに伝えて回転させて、移動体を案内装置に沿って移動させる方式が多く使用されている。そして、そのような送り軸機構の作動が正常であるか否かを診断する方法として、共振周波数を用いる方法が提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、工作機械を駆動するためのサーボモータを制御する制御装置によって共振周波数を検出し、共振周波数に基づいて剛性を算出し、その算出結果に基づいて点検するべきことを通知する異常診断方法が開示されている。また、特許文献2には、モータによってねじ軸が回転駆動された時点でのボールねじユニットおよびモータを含む所定の機械構成体の軸方向の共振周波数と、その共振周波数に対応したねじ軸におけるナット部材の位置との組み合わせに基づいて、ボールねじの予圧低下を伴う故障を検出する故障診断システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-34224号公報
【特許文献2】特開2019-105317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サーボモータ、カップリング、支持軸受、ボールねじ等の要素からなる送り軸機構においては、共振周波数は、送り軸系の要素全体を総合的に反映したものとなる。それゆえ、ボールねじの摩耗による予圧低下以外にも、カップリングの板バネの変形による剛性の変化等も共振周波数に影響を与える送り軸の故障の原因となり得る。したがって、上記した特許文献の1,2の如き従来の故障診断方法では、共振周波数が変化するような故障において、どのような部位の故障であるのか(すなわち、どのような原因による故障であるのか)を特定することが困難である。
【0007】
本発明の目的は、特許文献の1,2の如き従来の送り軸機構の故障診断方法における問題点を解消し、サーボモータの回転をカップリングを介してボールねじに伝えて移動体を軸方向に移動させる送り軸機構において、異常の発生を速やかに検知するとともに、その異常の部位(すなわち、異常の詳細な原因)を正確に特定することが可能な異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モータの回転をカップリングにより接続されたボールねじに伝えて回転駆動する送り軸機構の異常発生及び異常部位を診断する診断装置において、送り軸機構のストローク範囲内における複数のストローク位置において共振周波数を測定し、それらのストローク位置と測定された各共振周波数の基準値に対する変化量との関係に基づいて、異常部位の特定を行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、2点のストローク位置において測定された共振周波数の内の少なくとも1つの基準値に対する変化量が、予め設定された異常有無判定用閾値を上回る場合(基準値に対する共振周波数の変化量が閾値より大きい場合、あるいは、基準値に対する共振周波数の変化量が閾値以上である場合)には、送り軸機構に異常があると判定し、送り軸機構に異常があると判定する際に、カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量と、反カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量との差を求め、その差が、予め設定された異常部位特定用閾値を上回る場合には、カップリングの異常であると診断し、それ以外の場合には、ボールねじの異常であると診断することを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、複数のストローク位置において測定された共振周波数の内の少なくとも1つの基準値に対する変化量が、予め設定された異常有無判定用閾値を上回る場合((基準値に対する共振周波数の変化量が閾値より大きい場合、あるいは、基準値に対する共振周波数の変化量が閾値以上である場合)には、送り軸機構に異常があると判定し、測定された各ストローク位置における共振周波数の基準値に対する変化量を数式によって近似し、その近似式を利用して異常部位の特定を行うこと特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記近似式として1次の線形近似式を用い、その1次の線形近似式における係数と予め設定された異常箇所特定用閾値との比較の結果、および、カップリングのストローク位置に対する設置位置に基づいて、ねじ軸の異常か、カップリングの異常か、ボールねじのナット部または転動体の異常かを診断することを特徴とするものである。
【0012】
すなわち、請求項4に記載の発明には、カップリングがストローク位置のプラス側にある場合は、係数が異常箇所特定用閾値を上回る場合(係数が閾値より大きい場合、あるいは、係数が閾値以上である場合)には、カップリングの異常であると診断し、係数が異常箇所特定用閾値を下回る場合(係数が閾値より小さい場合、あるいは、係数が詳細異常箇所特定用閾値以下である場合)には、ボールねじのナットまたは転動体によるボールねじの異常と診断し、カップリングがストローク位置のマイナス側にある場合は、係数が異常箇所特定用閾値を下回る場合(係数が閾値より小さい場合、あるいは、係数が閾値以下である場合)には、カップリングの異常であると診断し、係数が異常箇所特定用閾値を上回る場合(係数が閾値より大きい場合、あるいは、係数が閾値以上である場合)には、ボールねじのナットまたは転動体によるボールねじの異常と診断するもの等が含まれる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記近似式として2次の近似式を用い、その2次の近似式における係数が負となる場合に、ねじ軸の局所的な摩耗による異常と診断し、前記2次の近似式の頂点(最上点)となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリング側にある場合に、ボールねじのナット部または転動体の異常と診断し、前記2次の近似式の頂点(最上点)となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリングの反対側にある場合に、カップリングの異常であると診断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の送り軸機構の異常診断装置(以下、単に異常診断装置という)によれば、サーボモータの回転をカップリングを介してボールねじに伝えて移動体を軸方向に移動させる送り軸機構において、異常の発生を速やかに検知することができる上、その異常の原因が生じている部位を精度良く特定することができる。
【0015】
請求項2に記載の異常診断装置によれば、異常部位がカップリングであるのか、ボールねじであるのかを非常に正確に特定することができる。
【0016】
請求項3~5に記載の異常診断装置によれば、異常部位がカップリングであるのか、ボールねじのナット部や転動体であるのか、ねじ軸であるのかをきわめて正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】異常診断装置が適用される送り軸機構の構成例を示す説明図である。
図2】送り軸機構の故障部位による共振周波数の変化の様子(一例)を示す説明図である。
図3】異常診断装置による異常診断の手順を示すフローチャートである。
図4】送り軸機構の故障部位による共振周波数の変化を線形近似した様子(一例)を示す説明図である。
図5】送り軸機構の故障部位による共振周波数の変化を2次式により近似した様子(一例)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る異常診断装置の一実施形態について図面に基づいて説明する。
【0019】
[第一実施形態]
<送り軸機構および異常診断装置の構成>
図1は、本発明に係る異常診断装置が設置される送り軸機構の一例を示したものであり、送り軸機構2は、ボールねじ15、支持軸受14a,14b、サーボモータ11、カップリング13、案内装置16、移動体10、ナット部17からなる送り軸本体と、および、当該送り軸本体の作動を制御するためのNC装置1(位置制御装置)とによって構成されている。
【0020】
すなわち、送り軸機構2においては、図示しない基台に支持軸受14a,14bが固着されており、それらの支持軸受14a,14bによって、ボールねじ15が回転自在に保持されている。当該ボールねじ15は、駆動装置であるサーボモータ11の軸部材にカップリング13を介して連結されている。また、サーボモータ11には、ボールねじ15の軸方向における移動体10の位置を検出するための位置検出器12が設けられており、かかるサーボモータ11は、NC装置1に接続されている。
【0021】
NC装置1には、共振周波数を測定するための共振周波数測定部21、および、作動の異常を診断するための診断部22が設けられている。また、NC装置1は、RAM、ROM等からなる記憶手段、タイマ等を備えており、インターフェイスを介して、モニタ等の表示手段、テンキー等の入力手段等と接続された状態になっている(なお、図1においては、NC装置1の各構成要素の記載が省略されている)。そして、当該NC装置1は、サーボモータ11、位置検出器12と協動することによって、送り軸機構2の異常を診断するための異常診断装置Dを構成するようになっている。
【0022】
また、ボールねじ15の前後の支持軸受14a,14bの間には、ナット部17が移動可能に螺合した状態になっており、当該ナット部17の上部に移動体10が固着されている。さらに、ボールねじ15の上方には、ボールねじ15の長手方向に沿うように案内装置(レール等)16が設けられており、移動体10の下面が、当該案内装置16に摺動可能に係合された状態になっている。
【0023】
上記した送り軸機構2においては、NC装置1により生成された指令が送信されることによって、サーボモータ11が作動し、ボールねじ15が所定量だけ回転することによって、ナット部17に固着された移動体10が、案内装置16により案内されてボールねじ15の軸方向に沿って並進する。また、サーボモータ11に備えられた位置検出器12が、ボールねじ15の回転量に基づいて、移動体10の位置を検出し、その検出信号をNC装置1にフィードバックすることによって、並進作動が制御されるようになっている。
【0024】
<異常診断装置による送り軸機構の異常診断方法>
次に、異常診断装置Dによる送り軸機構2の異常診断方法について説明する。異常診断装置Dによって送り軸機構2の異常の診断を行う際には、共振周波数測定部21によって、送り軸機構2のストローク動作範囲(すなわち、移動体10が支持軸受14aに最も近接した位置から、移動体10が支持軸受14aから最も遠い位置に離れるまでの範囲)内の複数の位置において、共振周波数を測定する。すなわち、NC装置1の指令により、サーボモータ11に所定の周波数範囲で掃引された正弦波の制御信号を外乱入力し、その入力時に、位置検出器12によって検出される信号と入力波形とを用いて周波数応答を算出する。そして、算出された周波数応答の利得が極大となる周波数を共振周波数として検出する。そのように共振周波数が検出されると、異常診断装置Dは、測定されたストローク位置と、予めNC装置1の記憶手段に記憶された基準値(後述する)に対する共振周波数の低下量との関係に基づいて、種々の方法で異常部位(故障部位)を特定する。
【0025】
図1の如き送り軸機構2においては、移動体10とボールねじ15のナット部17との連結部分、ボールねじ15のねじ軸、ボールねじ15の両端を支持する支持軸受14a,14b、カップリング13等の送り軸系を構成するすべての要素の影響を受けて、送り軸系の共振周波数が変動する。また、図1の如き送り軸機構2においては、ボールねじ15の摩耗や損傷によりボールねじ15のナット部17の剛性が低下することや、カップリング13の板ばねの変形によりカップリング13の剛性が変化することによって異常(故障)が発生する。
【0026】
図2は、図1の如き構造を有する送り軸機構2に異常が発生した際に、ストローク位置において共振周波数が変化する様子(一例)を示したものである。ボールねじ15のねじ軸は、ナット部17の位置によってストロークの両側(プラス側およびマイナス側)に分割され、ナット部17の位置(すなわち、ストローク位置)において共振周波数が変化する。それゆえ、ナット部17の位置により、ストロークの両側の部分を構成する各要素の共振周波数の変化への影響度合いが変化する。
【0027】
そして、カップリング13がストロークのプラス側にあって、そのカップリング13に異常がある場合には、プラス側の変化量が極端に大きくなる(図2におけるAのケース)。また、ボールねじ15に異常がある場合であって、主としてナット部17(または転動体)が摩耗している場合には、正常な場合の共振周波数からの低下量が、ボールねじ異常1(図2におけるBのケース)で示すような変化となる。一方、ねじ軸が局所的に摩耗している場合では、正常な場合の共振周波数からの低下量が、ボールねじ異常2(図2におけるCのケース)で示すような変化となる。異常診断装置Dによる送り軸機構2の異常診断は、上記の如き各ストローク位置における共振周波数の低下量の変化に基づいて、送り軸機構2における異常の発生の検知、および、異常部位の特定を行うものである。
【0028】
以下、異常診断装置Dによる異常診断の具体的な手順について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0029】
異常診断装置Dにより異常診断する際には、まず、ステップ(以下、単にSで示す)1で、共振周波数測定部21によって、ストロークの両端の2点について、それぞれ、共振周波数を測定する(S1)。そして、続くS2で、測定された各共振周波数について、予め設定(記憶)された基準値からの低下量を算出する(S2)。なお、NC装置1の記憶手段には、予め、送り軸機構2の組立直後に測定した共振周波数が、共振周波数の基準値(正常値)として記憶されている。
【0030】
S2において各共振周波数の基準値からの低下量を算出した後には、続くS3で、ストロークの両側の各共振周波数の低下量の内のいずれかが、予め設定されている(予めNC装置1の記憶手段に記憶されている)異常有無判定用閾値以上であるか否か判断される。そして、S3で“YES”と判断された場合(すなわち、各共振周波数の低下量の内のいずれかが異常有無判定用閾値以上であると判断された場合には、送り軸系に異常があるとして、異常部位を特定するためのS4が実行される。
【0031】
S4では、カップリング連結側(カップリング13に近い側)の共振周波数の低下量と反カップリング連結側(カップリング13から遠い側)の共振周波数の低下量とを比較し、カップリング連結側の低下量が反カップリング連結側の低下量に比べて異常部位特定用閾値以上であるか否か判断される。そして、S4で“YES”と判断された場合(すなわち、カップリング連結側の低下量が反カップリング連結側の低下量と比べて異常部位特定用閾値以上であると判断された場合には、S5で、カップリング13の影響で異常が生じているとして、その旨が、NC装置1の表示手段に表示される。
【0032】
一方、S3で、“NO”と判断された場合(すなわち、各共振周波数の低下量のいずれも異常有無判定用閾値未満であると判断された場合には、送り軸機構2は正常であると判断され、その旨が、NC装置1の表示手段に表示される。また、S4で“NO”と判断された場合(すなわち、反カップリング連結側の低下量がカップリング連結側の低下量よりも大きい、あるいは、カップリング連結側の低下量と反カップリング連結側の低下量との差が異常部位特定用閾値未満である、と判断された場合)には、S6で、ボールねじ15の影響で異常が生じているとして、その旨が、NC装置1の表示手段に表示される。
【0033】
<異常診断装置の効果>
異常診断装置Dは、上記の如く、送り軸機構2のストローク範囲内の2点において共振周波数を測定し、それらのストローク位置と測定された各共振周波数の基準値に対する変化量との関係に基づいて、異常部位の特定を行うものであるため、異常の発生を速やかに検知することができる上、その異常の原因が生じている部位を特定することができる。
【0034】
また、異常診断装置Dは、上記の如く、測定された2つの共振周波数の内のいずれかの基準値に対する変化量が異常有無判定用閾値を上回る場合に、送り軸機構2に異常があると判定し、その際に、カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量と、反カップリング連結側のストローク位置において測定された共振周波数の基準値に対する変化量との差を求め、その差が異常部位特定用閾値を上回る場合に、カップリング13の異常であると診断し、それ以外の場合には、ボールねじ15の異常であると診断する。それゆえ、異常診断装置Dによれば、異常部位がカップリング13であるのか、ボールねじ15であるのかを非常に正確に特定することができる。
【0035】
[第二実施形態]
第二実施形態の異常診断装置D’の構造は、第一実施形態の異常診断装置Dと同様であるが、共振周波数測定部21による共振周波数の測定の方法(測定数)、および、測定された共振周波数の処理の方法が、第一実施形態の異常診断装置Dと異なっている。すなわち、第二実施形態の異常診断装置D’は、共振周波数測定部21によって、ストローク内の複数の位置(等間隔で離れた位置)において、それぞれ、共振周波数を測定する。しかる後、測定された各ストローク位置における共振周波数の基準値に対する変化量に対して、図4の如く、最小二乗法等の方法によって1次の線形近似を行い、1次の線形近似式(y=ax+b)を求める。
【0036】
そして、その1次の線形近似式における係数(a)が、予め設定されている(NC装置1の記憶手段に記憶されている)異常箇所特定用閾値の範囲内である場合(すなわち、係数(a)の絶対値が異常箇所特定用閾値以下である場合、たとえば、図4におけるC’のケース)には、ボールねじ15のねじ軸の局所的な摩耗による異常と診断する。
【0037】
また、送り軸機構2においてはカップリング13がストローク位置のマイナス側に位置しているため、係数(a)が異常箇所特定用閾値を上回っている場合(係数(a)が異常箇所特定用閾値より大きい場合、たとえば、図4におけるA’のケース)には、カップリング13の異常であると診断し、それ以外の場合(係数(a)が負の数値となり、かつ、その絶対値が異常箇所特定用閾値より大きい場合、たとえば、図4におけるB’のケース)には、ボールねじ15の主としてナット部17(または転動体)に起因した異常と診断する。
【0038】
なお、異常診断装置が、カップリングをストローク位置のプラス側に位置した送り軸機構に搭載されている場合には、係数(a)が異常箇所特定用閾値を上回っている場合には、ボールねじの主としてナット部(または転動体)に起因した異常と診断し、それ以外の場合には、カップリングの異常であると診断することができる。
【0039】
第二実施形態の異常診断装置D’は、上記の如く、各ストローク位置における共振周波数(測定値)の基準値に対する変化量を数式によって近似するものであり、近似式として1次の線形近似式を用い、その1次の線形近似式における係数と予め設定された異常箇所特定用閾値との比較の結果、および、カップリング13のストローク位置に対する設置位置に基づいて、異常部位を特定するものである。したがって、異常診断装置D’によれば、異常部位がカップリング13であるのか、ボールねじ15のナット部17であるのか、ねじ軸であるのかをきわめて正確に特定することができる。
【0040】
[第三実施形態]
第三実施形態の異常診断装置D”の構造は、第一実施形態の異常診断装置Dと同様であるが、共振周波数測定部21による共振周波数の測定の方法(測定数)、および、測定された共振周波数の処理の方法が、第一実施形態の異常診断装置Dと異なっている。すなわち、第三実施形態の異常診断装置D”は、第二実施形態の異常診断装置D’と同様に、共振周波数測定部21によって、ストローク内の複数の位置(等間隔で離れた位置)において、それぞれ、共振周波数を測定する。しかる後、測定された各ストローク位置における共振周波数の基準値に対する変化量に対して、図5の如く、最小二乗法等の方法によって2次の近似を行い、2次近似式(y=px+qx+r)を求める。
【0041】
そして、その2次近似式における係数(p)が負である場合(たとえば、図5におけるC”のケース)には、ボールねじ15のねじ軸の局所的な摩耗による異常と診断する。一方、2次近似式における係数(p)が正である場合(たとえば、図5におけるA”あるいはB”のケース)には、カップリング13の異常であると診断する。
【0042】
さらに、2次近似式における係数(p)が負である場合であって、2次式の頂点(最上点)となるストローク位置が、ストロークの中央に対してカップリング13の設置側にある場合には、ボールねじ15の主としてナット部17(または転動体)に起因した異常と診断し、2次式の頂点(最上点)となるストローク位置が、ストロークの中央に対して反カップリング側(カップリング13の設置位置と反対側)にある場合には、カップリング13の異常であると診断する。
【0043】
第三実施形態の異常診断装置D”は、上記の如く、各ストローク位置における共振周波数(測定値)の基準値に対する変化量を数式によって近似するものであって、近似式として2次の近似式を用い、その2次の近似式における係数が負となる場合に、ねじ軸の局所的な摩耗による異常と診断し、2次の近似式の頂点となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリング側にある場合に、ボールねじ15のナット部17(または転動体)の異常と診断し、2次の近似式の頂点となるストローク位置がストロークの中央に対してカップリング13の反対側にある場合に、カップリング13の異常であると診断するものである。それゆえ、第三実施形態の異常診断装置D”によれば、異常部位がカップリング13であるのか、ボールねじ15のナット部17(または転動体)であるのか、ねじ軸であるのかをきわめて正確に特定することができる。
【0044】
<異常診断装置の変更例>
本発明に係る異常診断装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、NC装置(共振周波数測定部、診断部)、サーボモータ、位置検出器等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明に係る異常診断装置が搭載される送り軸機構の構成も、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、ボールねじ、支持軸受、サーボモータ、カップリング、案内装置、移動体、ナット部等の構成を、必要に応じて適宜変更することができる。
【0045】
たとえば、本発明に係る異常診断装置は、上記実施形態の如く、サーボモータに所定の周波数範囲で掃引された正弦波の制御信号を外乱入力し、その入力時に位置検出器によって検出される信号と入力波形とを用いて算出した周波数応答の利得が極大となる周波数を検出することによって共振周波数を求めるものに限定されず、他の方法によって共振周波数を求めるものでも良い。また、本発明に係る異常診断装置は、上記実施形態の如く、組立直後に測定した共振周波数を共振周波数の基準値(正常値)とするものに限定されず、同型の複数の送り軸機構において測定された共振周波数の平均値を共振周波数の基準値とするもの等に変更することも可能である。さらに、本発明に係る異常診断装置は、上記実施形態の如く、最小二乗法を利用して、各ストローク位置における共振周波数(測定値)の基準値に対する変化量を一次あるいは二次の数式等で近似するものに限定されず、他の数学的な手法によって、各ストローク位置における共振周波数の基準値に対する変化量を一次あるいは二次の数式等で近似するものでも良い。
【符号の説明】
【0046】
1・・NC制御装置
2・・送り軸機構
10・・移動体
11・・サーボモータ
12・・位置検出器
13・・カップリング
14a,14b・・支持軸受
15・・ボールねじ
17・・ナット部
D,D’,D”・・異常診断装置
図1
図2
図3
図4
図5