(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170543
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
G01S13/90 135
G01S13/90 164
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076737
(22)【出願日】2021-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日:令和2年9月21日、ウェブサイトのアドレス:https://igarss2020.org/view_paper.php?PaperNum=1350(2020 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium予稿集)、発行者名:IEEE ウェブサイトの掲載日:令和2年9月21日、ウェブサイトのアドレス:https://igarss2020.org/view_paper.php?PaperNum=1350(2020 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium発表資料)、発行者名:IEEE 開催日:令和2年9月29日、集会名:2020 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium、開催場所:バーチャルシンポジウム(オンライン口頭発表)
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】平原 大地
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AD10
5J070AE02
5J070AE07
5J070AF01
5J070AF03
5J070AF06
5J070AF08
5J070BE02
(57)【要約】
【課題】センシングの自由度と分解能を向上させることができる信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【解決手段】実施形態に係る信号処理装置は、アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際、前記アンテナを搭載する観測定点が回転する際、あるいは観測すべきターゲットが移動体であり複数回観測する際において、観測位置において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行う処理部を備え、前記処理部が、前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際、前記アンテナを搭載する観測定点が回転する際、あるいは観測すべきターゲットが移動体であり複数回観測する際において、各観測位置において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行う処理部を備え、
前記処理部は、前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する、
信号処理装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記合成開口処理において、所定の条件を満たすように前記観測位置を間引く、または仮想的な前記観測位置を拡張する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記処理部は、
前記複数の観測位置の中から、前記ターゲットと前記移動体とのドップラー遷移が零となる観測位置を選択し、
前記選択した観測位置を前記カトリ・ラオ積拡張の基準としたときに、前記観測位置の冗長性が最も低くなるように前記観測位置を間引く、または仮想的な前記観測位置を拡張する、
請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記合成開口処理が行われた観測信号に基づいて、前記観測位置から前記ターゲットを観測した画像を生成し、
前記画像上において出現する虚像の位置に基づいて、前記観測位置を間引く、
請求項2又は3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記観測位置の冗長性が最も低くなるように前記観測位置を間引く際に、複数のターゲットと複数の観測位置との位置関係をデータベース化する、
請求項3に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記合成開口処理により特定されたターゲットに対して、他の虚像を許容して、前記カトリ・ラオ積拡張が最低冗長となるように、不規則な観測位置を用いて再処理する、
請求項1から5のうちいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記合成開口処理には、前記観測位置ごとの観測信号から、各シーンに対応したデータを抽出する第1処理と、前記シーンごとに抽出されたデータを圧縮する第2処理とが含まれ、
前記処理部は、前記第2処理時に前記カトリ・ラオ積拡張を行う、
請求項1から6のうちいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際において、各観測位置において前記アンテナにより受信された観測信号を、前記移動体から受信する受信部と、
前記受信部によって受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行う処理部と、を備え、
前記処理部は、前記合成開口処理において、前記観測信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置の観測信号を仮想的に増やす、
信号処理装置。
【請求項9】
アンテナを搭載したプラットフォームが移動体である観測ターゲットを複数回観測する際において、複数の観測位置の其々において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、前記観測ターゲットの移動方向に合成開口処理を行う処理部を備え、
前記処理部は、前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する、
信号処理装置。
【請求項10】
前記処理部は、
前記複数の観測位置の中から、移動する前記観測ターゲットとのドップラー遷移が零となる観測位置を選択し、
前記選択した観測位置を前記カトリ・ラオ積拡張の基準として前記観測ターゲットの移動方向に前記カトリ・ラオ積拡張を行い、前記観測位置の冗長性が最も低くなるように前記観測位置を間引くまたは拡張する、
請求項9に記載の信号処理装置。
【請求項11】
コンピュータが、
アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際、前記アンテナを搭載する観測定点が回転する際、あるいは観測すべきターゲットが移動体であり複数回観測する際において、各観測位置において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行い、
前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する、
信号処理方法。
【請求項12】
コンピュータに、
アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際、前記アンテナを搭載する観測定点が回転する際、あるいは観測すべきターゲットが移動体であり複数回観測する際において、各観測位置において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行うこと、
前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定すること、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成開口レーダ(SAR)又はその合成開口処理について知られている(例えば、特許文献1参照)。合成開口処理の技術は、効率的かつ画期的であり多用されている。さらなる利便性や機能性能向上には、小型化可能な観測周波数であれば複数機による撮像結果を合成する手法があり、小型化が難しい場合は単機でアンテナの大型化や複数の周波数利用等が検討されている。しかしながら、開発コストやプラットホームのリソースの負荷が課題となっている。また、複数機による時間差を設けた観測では移動体の検出に向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の解決方法としては、ディジタルビームフォーミング(DBF)処理や、圧縮センシング技術が考案されている。ディジタルビームフォーミング処理については、合成開口処理のため、プラットホームの進行方向に関する解像度の恩恵は限定的である。圧縮センシング技術については、観測点を間引くことで(データ量を削減することで)、解像度を維持することが可能であるが、観測データの周波数成分にスパース性が前提となっており間引ける条件も限定的となる。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、センシングの自由度と分解能を向上させることができる信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、アンテナを搭載した移動体が複数の観測位置を移動する際、前記アンテナを搭載する観測定点が回転する際、あるいは観測すべきターゲットが移動体であり複数回観測する際において、各観測において前記アンテナにより受信された観測信号に基づいて、合成開口処理を行う処理部を備え、前記処理部が、前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する信号処理装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、センシングの自由度と分解能を向上させることができる。また、観測回数を削減し補間できることからさらなるシステムトレードオフを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るリモートセンシングシステム1の概念図である。
【
図2】人工衛星Mによる地上観測の様子を模式的に表す図である。
【
図3】実施形態に係るレーダ装置100の構成図である。
【
図4】実施形態に係る信号処理装置200の構成図である。
【
図5】実施形態に係る合成開口処理部232の一連の処理の流れを表すフローチャートである。
【
図6】カトリ・ラオ積拡張を模式的に表す図である。
【
図7】人工衛星Mが軌道ORに沿って航行している様子を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムの実施形態について説明する。
【0010】
[リモートセンシングシステム]
図1は、実施形態に係るリモートセンシングシステム1の概念図である。図示のように、リモートセンシングシステム1には、例えば、少なくとも一つの移動体Mと、一つ又は複数の地上局Gが含まれる。移動体Mは、プラットホームの一種であり、典型的には、人工衛星である。この人工衛星は、衛星メガコンステレーションやクラスター衛星群といったクラスタを形成するものであってもよい。人工衛星のような移動体Mに自律機能があり、他観測システム等の制御機能を有する場合は、必ずしも地上局Gを必須としない。
【0011】
なお移動体Mは、人工衛星に限られず、宇宙探査機であってもよいし、航空機やドローンといった地上上空を航行する飛行体であってもよい。また、移動体Mは、合成開口処理を行うことができれば如何なる移動体であってもよく、例えば車両等の陸上を移動するものであってもよい。以下、一例として、移動体Mは「人工衛星」であるものとして説明する。
【0012】
人工衛星Mは、例えば、予め決められた軌道ORを航行しながら地上(海洋も含む)を観測し、その観測結果を表す信号(以下、観測信号という)を地上局Gに送信する。軌道ORは、例えば、地球周回軌道である。
【0013】
地上局Gは、地上に設置された無線局である。地上局Gは、人工衛星Mから観測信号を受信したり、人工衛星Mに観測に関する指示(例えば観測すべきタイミングや観測すべき地点等)を送信したりする。
【0014】
図2は、人工衛星Mによる地上観測の様子を模式的に表す図である。図示のように、人工衛星Mは、軌道ORに沿って航行しながら、ターゲットTが存在する地上に向けてマイクロ波のビームを照射し、そのビームの反射波(エコー)を受信することで、地上観測が行われる。ターゲットTは、例えば、海洋上の船舶などであってよい。人工衛星Mのようなプラットホームの移動に伴って、観測範囲を帯状に走査しながらデータを収集する方法はストリップマッピングと呼ばれる。
【0015】
人工衛星Mの軌道OR上には、地上を観測すべき位置(以下、観測位置という)が定められており、その観測位置に人工衛星Mが到達すると、地上の観測が実行される。本実施形態では、観測位置でない位置、つまり非観測位置を仮想的な観測位置(以下、「仮想位置」)に見立てて、合成開口処理が行われる。図中に示す楕円の領域は、マイクロ波のビームが照射された領域を表している。合成開口処理により、ビームの照射領域(楕円領域)よりも狭い領域にまで分解能を向上させることができる。
【0016】
[レーダ装置]
図3は、実施形態に係るレーダ装置100の構成図である。レーダ装置100は、人工衛星Mに搭載される。例えば、レーダ装置100は、アンテナ110と、送受信器120と、送受信制御部130と、記憶部140とを備える。
【0017】
アンテナ110は、例えば、複数のアンテナ素子が配列されたフェーズドアレイアンテナである。大型の展開アンテナであっても良く、記憶される観測位置毎の受信データはアナログ合成によるものであってもよいし、デジタル合成によるものであってもよい。
【0018】
送受信器120は、特定周波数のパルス信号(例えばPRF(Pulse Repetition Frequency)信号)をアンテナ110に供給し、アンテナ110を介してパルス状のマイクロ波を、所望の方向に向けて照射する。更に、送受信器120は、アンテナ110を介して、照射電波の反射波(つまり観測信号)を受信する。
【0019】
送受信制御部130は、軌道OR上の各観測位置において観測が行われるように、送受信器120にマイクロ波の送受信をさせる。また、送受信制御部130は、アンテナ110によって受信された観測信号に対してエンコードが行われた結果を、記憶部240に保存する。合成開口処理が地上システム側で行われる場合観測信号は地上局Gへと送信され、地上局G側でエンコードされてよい。合成開口処理が衛星システム側で行われる場合、観測信号は地上局Gに送信される前に人工衛星M側でエンコードされてよい。
【0020】
送受信制御部130は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサが記憶部140に格納されたプログラムやAPI(Application Programming Interface)等を実行することにより実現される。また、送受信制御部130は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェア(回路)により実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、プロセッサにより参照されるプログラムは、予め記憶部140に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、その記憶媒体から記憶部140へとインストールされてもよい。レーダ装置100の各機能部は、人工衛星Mに設けられるのに限られず、地上局Gや、地上局Gと異なるその他の地上設備(例えばサーバが集約されたデータセンタ等)に設けられてもよい。
【0021】
記憶部140は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などによって実現される。記憶部140には、例えば、軌道情報142などが格納される。軌道情報142は、人工衛星Mの軌道ORを表す情報であり、上述した観測位置(観測時刻)の情報が含まれる。
【0022】
[信号処理装置]
図4は、実施形態に係る信号処理装置200の構成図である。信号処理装置200は、地上局Gやデータセンタといった任意の地上設備に設置されてよい。例えば、信号処理装置200は、アンテナ210と、送受信器220と、処理部230と、記憶部240とを備える。アンテナ210と、送受信器220とを合わせたものは「受信部」の一例である。
【0023】
アンテナ210は、例えば、パラボラアンテナやフェーズドアレイアンテナである。
【0024】
送受信器220は、アンテナ210を介してマイクロ波を人工衛星Mに向けて照射する。更に、送受信器120は、アンテナ110を介して、人工衛星Mから観測信号を受信する。
【0025】
処理部230は、例えば、合成開口処理部232と、航法補間部234と、送受信制御部236とを備える。
【0026】
処理部230の構成要素は、例えば、CPUやGPUなどのプロセッサが記憶部240に格納されたプログラムを実行することにより実現される。また、処理部230の構成要素の一部または全部は、LSI、ASIC、またはFPGAなどのハードウェア(回路)により実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、プロセッサにより参照されるプログラムは、予め記憶部240に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、その記憶媒体から記憶部240へとインストールされてもよい。
【0027】
記憶部240は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、RAMなどによって実現される。記憶部240には、例えば、プログラムなどが格納される。
【0028】
合成開口処理部232は、人工衛星Mから受信された観測信号に対して、合成開口処理を行う。本実施形態に係る合成開口処理の詳細な説明については後述する。
【0029】
航法補間部234は、アジマス圧縮のための仮想観測位置における人工衛星M航行情報を、選択した効果的な実観測位置からの航法情報を用いて補間する。より具体的には、航法補間部234は、軌道OR上において実観測位置の間隔や数を決定、もしくは観測済みの観測データを仮想観測位置で補間できることから冗長性が低くなるように間引く。
【0030】
送受信制御部236は、人工衛星Mが地上局Gとの通信を必要とする場合、アップリンクならびにダウンリンクが行われるように、送受信器220を制御する。
【0031】
[フローチャート]
図5は、実施形態に係る合成開口処理部232の一連の処理の流れを表すフローチャートである。例えば、信号処理装置200が任意の地上データセンタに設置される場合、本フローチャートの処理は、地上局Gの送受信器220が、アンテナ210を介して人工衛星Mから観測信号を受信し地上伝送によりデータセンタに送信した場合に実行されてよい。人工衛星Mに搭載されたレーダ装置100が信号処理装置200の一部または全ての機能を備える場合は、本フローチャートの処理は、レーダ装置100によって実行されてよい。
【0032】
まず、合成開口処理部232は、レベル0(L0)の処理を行う(ステップS1000)。例えば、合成開口処理部232は、レベル0の処理として、人工衛星Mから受信した観測信号(つまりダウンリンクした観測信号)を復号し、人工衛星Mにおいてエンコードされる前の元の観測信号(Rawデータ)を取得する。この際、合成開口処理部232は、Rawデータから余分なパケットを分離させる。以下、レベル0の処理が行われた観測信号のことを、「L0データ」と称して説明する。
【0033】
次に、合成開口処理部232は、レベル1(L1)の処理を行う(ステップS1100)。レベル1の処理には、レベル1.0の処理(図中S1110)と、レベル1.1の処理(図中S1120)と、レベル1.5の処理(図中S1130)とが含まれる。レベル1.0の処理は、「第1処理」の一例である。レベル1.1の処理は、「第2処理」の一例である。
【0034】
レベル1.0の処理(L1.0)は、一つのL0データから各シーンのデータを抽出する処理である。L0データの元となった観測信号は、複数の観測位置のぞれぞれに対応した観測信号が、人工衛星Mが到達していった順番に連なった時系列データである。そのため、L0データもまた時系列データである。例えば、合成開口処理部232は、観測位置ごと、つまりシーンごとに、時系列データであるL0データを切り出し、後段の処理で扱いやすいデータサイズにする。レベル1.0の処理は、「第1処理」の一例である。
【0035】
レベル1.1の処理(L1.1)は、各シーンのデータのパルスを圧縮する処理である。例えば、合成開口処理部232は、地上における人工衛星Mの進行方向であるアジマス方向に関してパルス圧縮を行うとともに、そのアジマス方向に直交するグランドレンジ方向に関してパルス圧縮を行う。
【0036】
より具体的には、合成開口処理部232は、レベル1.1の処理として、各シーンのデータをデコードし、更に、グランドレンジ方向に関してパルス圧縮を行う(ステップS1122)。なお、L0処理においてデコードが行われる場合、S1122におけるデコードは省略されてもよい。
【0037】
次に、合成開口処理部232は、カトリ・ラオ積拡張を行う(ステップS1124)。
【0038】
図6は、カトリ・ラオ積拡張を模式的に表す図である。例えば、合成開口処理部232は、
図6に表すように、実際に観測信号が得られた観測位置同士の間隔に基づいて、観測信号が得られていない非観測位置に、仮想的な観測位置(仮想位置)を設定する(補間または拡張する)。仮想位置は、実観測位置に応じて複数の観測位置の間に内挿されてもよいし、観測位置の外側に外挿されてもよい。
【0039】
仮想位置では観測が行われていないため、観測信号が存在しない。従って、合成開口処理部232は、各観測位置での観測信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行い、非観測位置での観測信号を補間する。このようなカトリ・ラオ積拡張によって、後段のアジマス方向に関する圧縮処理の対象が増えるため、アジマス方向の分解能が向上する。また、観測回数の削減が可能なため、衛星搭載リソースを緩和することができる。
【0040】
合成開口処理部232は、カトリ・ラオ積拡張を行う際に、実際に得られた複数の観測位置を所定の条件を満たすように間引いたり、拡張したりしてよい。間引かれた観測位置は、カトリ・ラオ積拡張の際に仮想位置が設定される対象となる。
【0041】
例えば、合成開口処理部232は、複数の観測位置の中から、観測すべき地上のターゲットTと人工衛星Mとのドップラー遷移が零となる一つの観測位置を選択し、その選択した観測位置をカトリ・ラオ積拡張の基準としたときに、観測位置の冗長性が最も低くなるように観測位置を間引く、又は拡張する。より具体的には、ネストアレーなどの手法を用いた際に最低冗長アレーとなるように間引く間隔や間引く数を決めたり、拡張する間隔や拡張する数を決めたりする。
【0042】
また、合成開口処理部232は、観測位置ではなく、観測信号を間引いたり拡張したりしてもよい。間引かれた観測信号は、カトリ・ラオ積拡張の際に仮想的な信号として推定される対象となる。
【0043】
例えば、合成開口処理部232は、複数の観測信号の中から、ターゲットTとのドップラー遷移が零となる観測位置に対応した観測信号を選択し、その選択した観測信号をカトリ・ラオ積拡張の基準としたときに、冗長性が最も低くなるように観測信号を間引いたり拡張したりしてよい。
【0044】
更に、合成開口処理部232は、カトリ・ラオ積拡張を行う際に、SAR画像上において出現する虚像の位置に基づいて、観測位置を間引いてもよい。例えば、複数の観測位置をアジマス方向に並べたときに、それら観測位置の中で、ターゲットTと人工衛星Mとのドップラー遷移が零となる観測位置が中心に位置していたとする。SAR画像を提供するユーザによっては、SAR画像上においてターゲットTさえ高解像度で確認できればその他の領域の解像度は問題にしないようなユーザも存在する。このような場合、ドップラー遷移が零となる観測位置(中心)を基準にし、基準の観測位置(中心)に近い観測位置ほど、間引く間隔を狭くしたり、間引く数を少なくしたりし、基準の観測位置(中心)から離れる観測位置ほど、間引く間隔を広くしたり、間引く数を多くしたりしてよい。このように間引き処理によって出現し得る虚像を無視することができれば、更に、観測位置(又はその観測信号)をより多く間引くことができる。
【0045】
図5のフローチャートの説明に戻る。次に、合成開口処理部232は、カトリ・ラオ積拡張が行われた観測信号(L0データ)に対して、アジマス方向に関してパルス圧縮を行う(ステップS1126)。カトリ・ラオ積拡張によって仮想位置が補間または拡張され、その仮想位置での観測信号が推定されている場合、観測位置での観測信号に加えて、仮想位置での観測信号も併せてパルス圧縮される。パルス圧縮時に必要となる仮想位置に対する航法情報は航法補間部234によって作成される。
【0046】
次に、合成開口処理部232は、SAR画像及び/又は干渉図(インターフェログラム)を生成する(ステップS1128)。
【0047】
次に、合成開口処理部232は、レベル1.5の処理として、SAR画像や干渉図の幾何補正を行う(ステップS1130)。例えば、合成開口処理部232は、人工衛星Mの速度や加速度などを用いてをSAR画像や干渉図を補正したり、マルチルック処理を行って、SAR画像や干渉図のノイズを低減させたりしてよい。更に、合成開口処理部232は、アジマス方向を基準にしたジオリファレンスや、地図を基準にしたジオコーデッドなどの手法を用いて、SAR画像や干渉図を地図上に重ね合わせるようにマッピングしてよい。
【0048】
次に、合成開口処理部232は、レベル2.0や3.0といった、より高次元の処理を行う(ステップS1200)。例えば、合成開口処理部232は、レベル2.0の処理として、オルソ補正を行ってよい。また、例えば、合成開口処理部232は、レベル3.0の処理として、ノイズ低減処理や、ダイナミックレンジ方向に関してパルス圧縮を行ってよい。その他に、待機補正、斜面勾配補正、反射率補正といった種々の補正も行われてよい。これによって、本フローチャートに示す合成開口処理の一連の処理が終了する。
【0049】
上述した航法補間部234は、過去の合成開口処理の結果に基づいて、軌道OR上の人工衛星Mの送受信制御部130に対して、パルス送受信タイミングをターゲットTに対して最低冗長となるように最適化しても良い。または、補間可能な観測位置の情報を間引き、さらには拡張された仮想観測位置も用いてターゲットTに対する観測性能を向上するよう繰り返し最適化しても良い。送受信制御部236は、航法補間部234によって最適化された観測条件を、送受信器220を介して、軌道OR上の人工衛星Mに対して送信する。
【0050】
このような観測位置の決め方により、軌道ORの次の周回などにおいて、人工衛星Mによるパルス信号の送受信回数を削減できるため、人工衛星M内での消費電力を削減することができる。また、人工衛星Mによるパルス信号の送受信回数を削減できるため、人工衛星Mから地上局Gへとダウンリンクされるデータ量も少なくすることができる。
【0051】
以上説明した実施形態によれば、合成開口処理において、観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、仮想的に観測位置を設定(補間)したり、観測信号に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、観測信号を仮想的に増やし拡張したりする。これによって、センシングの自由度と分解能を向上させることができる。
【0052】
また、上述した実施形態によれば、カトリ・ラオ積拡張の際に、最低冗長アレーとなるように観測位置又は観測信号を間引くため、更にセンシングの自由度を向上させることができる。
【0053】
また、上述した実施形態によれば、カトリ・ラオ積拡張を行う際に、SAR画像上において間引き処理によって出現し得る虚像を無視することができれば、更に、観測位置(又はその観測信号)をより多く間引くことができる。
【0054】
また、上述した実施形態によれば、間引かれた観測位置を人工衛星Mの軌道OR上から取り除くため、次の周回などにおいて、人工衛星Mによるパルス信号の送受信回数を削減できる。この結果、人工衛星M内での消費電力を削減したり、人工衛星Mから地上局Gへとダウンリンクされるデータ量を少なくしたりすることができる。
【0055】
また、上述した実施形態によれば、地球周回軌道などの軌道ORを航行する人工衛星Mに対して間引き処理を適用するため、カトリ・ラオ積拡張の計算を簡単にしつつ、更に、冗長性を低減することができる。
【0056】
図7は、人工衛星Mが軌道ORに沿って航行している様子を模式的に表す図である。図示のように、地表面からはるか上空を航行する人工衛星Mの軌道ORはわずかに曲線(弧の形状)を描くことになる。一般的に、一直線上では、カトリ・ラオ積拡張を計算する際に、観測位置を等間隔で間引くよりも不規則(ランダム)に間引いた方が冗長性が低下して虚像が発生しにくいことが知られている。これに対して、本実施形態では、観測位置が曲線形状である軌道OR上に存在するため、観測位置を等間隔で間引いたとしても、補間される仮想的な観測位置がアジマス方向に関して不規則に配置されるため、規則的に間引くときに比べてカトリ・ラオ積拡張の計算を簡単にすることができ、更に冗長性を低下させて虚像が発生しにくくさせることができる。
【0057】
(その他の実施形態)
以下のその他の実施形態について説明する。上述した信号処理装置200の航法補間部234は、観測位置の冗長性が最も低くなるように観測位置を間引く際に、複数のターゲットTと複数の観測位置との其々の相対的な位置の対応関係をデータベース化し、そのデータベースを記憶部240に記憶されてよい。更に、航法補間部234は、記憶部240に記憶されたデータベースを更新してよい。これによって、アンテナを搭載した人工衛星Mが複数の観測位置を航行する際において、常に最適な観測を行うことできる。
【0058】
また、上述した航法補間部234は、合成開口処理により特定されたターゲットTに対して他の虚像が出現することを許容できる場合(SAR画像上においてターゲットTではない虚像が出現することを許容できる場合)、カトリ・ラオ積拡張が最低冗長となるように観測位置を不規則に補間し、その補間した不規則な観測位置を用いて再度合成開口処理を行ってよい。これによって、観測領域の一部分の解像度を向上させることができる。
【0059】
また、上述した実施形態では、人工衛星Mが移動しながらターゲットTを観測するもの、つまり、人工衛星MがターゲットTに対して相対的に移動する場合について説明したがこれに限られない。例えば、レーダ装置100が地上局Gに搭載されたとする。この場合、地上局GはターゲットTを定点観測することになる。ターゲットTが地上局Gに対して相対的に移動する際に、地上局GがターゲットTを複数回にわたって観測するような場合であっても、合成開口処理の際に、移動体であるターゲットTの移動方向に関してカトリ・ラオ積拡張を適用してよい。また、人工衛星Mが定点観測可能な準天頂衛星等である場合であっても、合成開口処理の際に、移動体であるターゲットTの移動方向に関してカトリ・ラオ積拡張を適用してよい。
【0060】
また、レーダ装置100が船舶等に搭載され、アンテナ110が全周を回転しながら、ターゲットTを観測するような場合にも、合成開口処理の際に、移動体であるターゲットTの移動方向に関してカトリ・ラオ積拡張を適用してよい。つまり、レーダ装置100を搭載したプラットフォームがターゲットTを定点観測する際において、そのレーダ装置100のアンテナ110の電波の放射方向と、ターゲットTの存在方向(プラットフォームからみてターゲットTが存在する方向)との相対的な位置関係が変動する場合、合成開口処理の際に、移動体であるターゲットTの移動方向に関してカトリ・ラオ積拡張を適用してよい。
【0061】
[付記]
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
アンテナを搭載したプラットフォームがターゲットを観測する際に、複数の観測位置の其々において前記アンテナにより受信された観測信号に基づき、合成開口処理を行う処理部を備え、
前記処理部は、(i)前記プラットフォームと前記ターゲットとの相対的な位置関係が変動する場合、又は(ii)前記プラットフォームが定位置から前記ターゲットを観測する際において、前記アンテナの電波の放射方向と前記プラットフォームからみて前記ターゲットが存在する方向との相対的な位置関係が変動する場合、前記合成開口処理において、前記観測位置に対してカトリ・ラオ積拡張を行うことで、非観測位置に前記観測位置を仮想的に設定する、
信号処理装置。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…リモートセンシングシステム、S…人工衛星、G…地上局、100…レーダ装置、110…アンテナ、120…送受信器、130…送受信制御部、140…記憶部、200…信号処理装置、210…アンテナ、220…送受信器、230…処理部、232…合成開口処理部、234…航法補間部、236…送受信制御部、240…記憶部