(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170548
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】PTP用多層シート及びその利用
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20221102BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221102BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221102BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B32B27/30 101
B32B27/32 C
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076744
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】593140255
【氏名又は名称】サンビック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小峰 正文
(72)【発明者】
【氏名】谷口 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】深田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 貴正
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD07
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA33
3E086BA35
3E086BB02
3E086BB23
3E086BB35
3E086BB62
3E086CA01
3E086CA28
3E086DA08
4F100AK04
4F100AK04C
4F100AK15
4F100AK15A
4F100AK15E
4F100AK16
4F100AK16B
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4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100EJ30
4F100GB15
4F100GB66
4F100JD04
4F100JK01
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】防湿性及び取り出し性に加えて、スリッタ調整性にも優れたPTP用多層シート及びその利用技術を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、少なくとも、X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなり、前記X層は、厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体等であり、前記Y層は、ポリエチレン系樹脂からなるものであり、前記Z層は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、厚みが0.080mm超であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.005mm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるPTP用多層シートであって、
前記X層は、(i)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体、又は、(ii)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、
前記Y層は、ポリエチレン系樹脂からなるものであり、
前記Z層は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、厚みが0.080mm超であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、
前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.005mm以上である、PTP用多層シート。
【請求項2】
前記A層の厚みが0.050mm~0.095mmであり、前記D層の厚みが0.085mm~0.150mmであり、
前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.010mm~0.030mmである、請求項1に記載のPTP用多層シート。
【請求項3】
PTP用多層シートの総厚みが、0.150mm~0.350mmである、請求項1又は2に記載のPTP用多層シート。
【請求項4】
前記B層及び/又はC層の厚みが、0.010mm~0.080mmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のPTP用多層シート。
【請求項5】
透湿度が0.55g/(m2・24時間)以下であり、
容器表面積を2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力が8.0~19.5Nである、請求項1~4のいずれか1項に記載のPTP用多層シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のPTP用多層シートを用いたPTP包装体。
【請求項7】
請求項6に記載のPTP包装体に対して、前記X層側からスリッタ刃を侵入させて、切り離し用スリットを形成する工程を有する、PTP包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTP用多層シート及びその利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
長期の品質保持が要求される食品や医薬品等の包装材料として、酸素透過率や水蒸気透過率が改善された積層プラスチックシートであるPTP(press-through package)用多層シートが広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、防湿性、耐衝撃性、カプセルや錠剤の取り出し性に優れたPTP用多層シートを提供することを目的として、厚みが0.05mm以上、0.12mm以下であるポリ塩化ビニル系樹脂(A)からなる層(X)を最外層に少なくとも1層有し、厚みが0.05mm以上、0.15mm以下であるポリ塩化ビニリデン系樹脂(B)からなる層(Y)を内層に少なくとも1層以上有し、かつ、全層の合計厚みが0.20mm以上、0.32mm以下、透湿度が0.35g/(m2・24時間)以下であり、PTP成形した後のPTP押し出し力のピーク1、及び、ピーク2の強度が共に45N以上、60N以下であることを特徴とするPTP用多層シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような技術は、防湿性、カプセルや錠剤の取り出し性には優れているものの、スリッタ調整性に関しては全く考慮されていない。本発明者らによる独自の検討の結果、従来のPTP用多層シートでは、スリッタ調整性について改善の余地があることを新規課題として見出した。
【0006】
本発明の一態様は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スリッタ調整性に優れたPTP用多層シート及びその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の構造を有するPTP用多層シートにおいて、スリッタ刃の侵入側の層の厚みを、スリッタ刃の侵入側の反対側の層の厚みより、所定の範囲で薄くすることにより、防湿性、取り出し性、及びスリッタ調整性にも優れるPTP用多層シートとなることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の一実施形態は、以下の態様を含む。
【0008】
(1)少なくとも、X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるPTP用多層シートであって、前記X層は、(i)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体、又は、(ii)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、前記Y層は、ポリエチレン系樹脂からなるものであり、前記Z層は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、厚みが0.080mm超であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.005mm以上である、PTP用多層シート。
【0009】
(2)前記A層の厚みが0.050mm~0.095mmであり、前記D層の厚みが0.085mm~0.150mmであり、前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.010mm~0.030mmである、(1)記載のPTP用多層シート。
【0010】
(3)PTP用多層シートの総厚みが、0.150mm~0.350mmである、(1)又は(2)に記載のPTP用多層シート。
【0011】
(4)前記B層及び/又はC層の厚みが、0.010mm~0.080mmである、(1)~(3)のいずれかに記載のPTP用多層シート。
【0012】
(5)透湿度が0.55g/(m2・24時間)以下であり、容器表面積を2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力が8.0N~19.5Nである、(1)~(4)のいずれかに記載のPTP用多層シート。
【0013】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載のPTP用多層シートを用いたPTP包装体。
【0014】
(7)上記(6)に記載のPTP包装体に対して、前記X層側からスリッタ刃を侵入させて、切り離し用スリットを形成する工程を有する、PTP包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、防湿性及び取り出し性にえて、スリッタ調整性にも優れたPTP用多層シートを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートの構造を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施例におけるPTP押し出し力の測定方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0018】
<1.PTP用多層シート>
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、少なくとも、X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側(スリッタ装置のスリッタ刃が侵入する方向側)から、この順で積層されてなるPTP用多層シートであって、前記X層は、(i)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体、又は、(ii)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、前記Y層は、ポリエチレン系樹脂からなるものであり、前記Z層は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、厚みが0.080mm超であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものであり、前記D層の厚みから、前記A層の厚みを引いた差分が0.005mm以上である。以下、本発明の一実施形態について詳説する。
【0019】
図1(a)、(b)に示すように、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、5層の多層シートの場合と、4層の多層シートの場合があり得る。
【0020】
より具体的には、5層の多層シートの場合、
図1(a)に示すように、PTP用多層シート1は、X層2、Y層3、Z層4からなる。X層2は、ポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものである。Y層3は、ポリエチレン系樹脂からなるものである。Z層4は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、ポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものである。
【0021】
一方、4層の多層シートの場合、
図1(b)に示すように、PTP用多層シート1’は、X層2’、Y層3、Z層4からなる。X層2’は、ポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体からなる点のみが、
図1(a)に示す5層の多層シートと異なる。
【0022】
本発明者らは、上述した4層又は5層のPTP用多層シートにおいて、従来技術では、スリッタ調整性について改善の余地があることを独自に見出した。ここで、「スリッタ調整性」とは、PTP包装体に切り離し用スリットを形成する際のスリッタ形成装置の(スリッタ刃の間隔の)調整に関して、切り離し用スリットの「分割性」と「安定性(軽く振って折れない)」とを、生産性よく達成するための、調整時間が短くてすみ、かつ製品歩留まりがよいことを意図する。従来、かかるスリッタ調整性については全く考慮されていなかった。
【0023】
上述したスリッタ形成装置において、一般的に、スリッタ刃の物理的な間隙は一定である。このスリッタ刃を加熱(例えば、120℃~160℃程度)することで、切り離し用スリットの深度と分割性を調整する。スリッタ刃の加熱条件で深度を浅くする等の微妙な調整は困難なことから、切り離し用スリットを形成するに際し、スリッタ刃の物理的な間隙について、切り離し用スリットの「分割性」と「安定性(軽く振って折れない)」とが両立するように、適切に調整することになる。しかし、スリッタ刃の間隙の調整は、経験が豊富な人材が行う場合でも時間がかかり、生産性が悪化したり、また上述した「分割性」と「安定性」とが両立できず製品の歩留まりが悪化したりするという問題があることが、本発明者らの検討の結果、明らかとなった。
【0024】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討した結果、PTP用多層シートにおいて、スリッタ刃の侵入側のA層の厚みについて、スリッタ刃の侵入側の反対側のD層の厚みより薄くするとともに、その厚みの差を0.005mm以上とすることで、スリッタ調整性に優れることを独自に見出した。
【0025】
また、本PTP用多層シートにおいて、透湿度が0.55g/(m2・24時間)以下であり、容器表面積を2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力が8.0N~19.5Nであることが好ましい。本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、PTP用多層シートの各層の材質、積層順、厚み等の諸構成を検討することにより、併せて防湿性及び取り出し性にも優れるPTP用多層シートとなることを見出した。すなわち、本発明者らは、総厚みを大きくせずに、スリッタ刃の侵入側のX層のうちのA層を薄膜化する(必要に応じてY層も薄膜化しても可)ことで取り出し性を改善するとともに、スリッタ刃の侵入側と反対側(スリッタ刃の受け側)のZ層のD層の厚みを、A層より所定の範囲で厚くすることにより、スリッタ調整と取り出し性とを両立させることができることを見出した。かかるスリッタ調整性という新規課題を解決しつつ、残りの2つの特性(防湿性・取り出し性)をも同時に達成できる本願発明は、画期的なものであるといえる。以下、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートの各構成について詳説する。
【0026】
<1-1.各層の構成>
上述のとおり、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、少なくとも、X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるPTP用多層シートである。
【0027】
X層は、(i)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層単体、又は、(ii)厚みが0.100mm未満であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層と、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものである。X層の厚みは、取り出し性の観点から、0.149mm以下であることが好ましく、0.130mm以下であることがより好ましく、0.80mm以下であることがさらに好ましい。下限は特に限定されないが、防湿性を考慮した場合、0.081mm以上であることが好ましい。
【0028】
また、X層において、A層の厚みは、取り出し性の観点から、0.050mm~0.095mmであることが好ましく、0.060mm~0.090mmであることがより好ましく、0.070mm~0.085mmであることがさらに好ましい。
【0029】
また、X層において、B層の厚みは、防湿性の観点から、0.010mm~0.080mmであることが好ましく、0.015mm~0.070mmであることがより好ましく0.020mm~0.060mmであることがさらに好ましい。
【0030】
Y層は、ポリエチレン系樹脂からなるものであればよい。Y層の厚みは、0.005mm~0.050mmであることが好ましく、0.010mm~0.040mmであることがより好ましく、0.015mm以上0.030mm未満であることがさらに好ましく、0.018mm~0.025mmであることが特に好ましい。
【0031】
Z層は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層と、厚みが0.080mm超であるポリ塩化ビニル系樹脂からなるD層と、がスリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるものである。Z層の厚みは、防湿性の観点から、0.101mm以上であることが好ましく、0.120mm以上であることがより好ましく、0.150mm以上であることがさらに好ましい。下限は特に限定されないが、スリッタ調整性の観点から、0.101mm以上であることが好ましい。
【0032】
Z層において、C層の厚みは、防湿性の観点から、0.010mm~0.080mmであることが好ましく、0.015mm~0.070mmであることがより好ましく0.020mm~0.060mmであることがさらに好ましい。
【0033】
Z層において、D層の厚みは、スリッタ調整性の観点から、0.085mm~0.150mmであることが好ましく、0.090mm~0.120mmであることがより好ましく、0.095mm~0.110mmであることがさらに好ましい。
【0034】
また、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートでは、D層の厚みから、A層の厚みを引いた差分が0.005mm以上であるが、より好適には、0.010mm~0.040mmであることが好ましく、0.015mm~0.030mmであることがより好ましく、0.018mm~0.025mmであることがさらに好ましい。かかる構成により、PTP用多層シートのスリッタ調整性に優れる。
【0035】
また、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、透湿度が0.55g/(m2・24時間)以下である。透湿度は、0.45g/(m2・24時間)以下であることが好ましく、0.35g/(m2・24時間)であることがより好ましく、0.25g/(m2・24時間)であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、塗工工程の観点から、1.0g/(m2・24時間)以上であることが好ましい。かかる構成により、PTP包装体の内容物の水分による悪化を抑制できる。なお、透湿度は低い値ほど好ましいといえ、透湿値を低くするほどに厚みは大きくなる。一方、厚みが大きくなると、取り出し性が悪化する。透湿値と取り出し性とはトレードオフの関係にある。
【0036】
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、容器表面積2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力が、8.0~19.5Nであるが、より好適には、9N~19Nであることが好ましく、9.5N~18Nであることがより好ましく、10N~17Nであることがさらに好ましい。かかる構成により、PTP包装体の内容物の取り出し性が向上する。なお、「容器表面積を2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力」は、後述する実施例における測定方法により測定される。
【0037】
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、ラミネート加工した総厚みが、0.150mm~0.350mmであることが好ましく、0.200mm~0.340mmであることが好ましく、0.225mm~0.325mmであることがより好ましく、0.240mm~0.320mmであることがさらに好ましい。かかる構成により、PTP包装体とした際の錠剤等の取り出し性と強度とを両立させることができる。
【0038】
<1-2.ポリ塩化ビニル系樹脂(A層、D層)>
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートに使用可能なポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、600~1,300であることが好ましく、600~1,100であることがより好ましく、650~900であることがさらに好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度が600以上であることによって、十分な機械強度の多層シートを得ることができる。一方、ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度が1,300以下であることによって、溶融粘度の増加に伴う発熱が生じることなく、樹脂の分解による着色の発生を少なくすることができる。
【0039】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体(以下「塩化ビニル系共重合体」と称する)、この塩化ビニル系共重合体以外の重合体に塩化ビニルをグラフト共重合させたグラフト共重合体(以下「塩化ビニル系グラフト共重合体」と称する)等を挙げることができる。
【0040】
塩化ビニル系共重合体は、得られる多層シートの機械的特性の観点から、共重合体中に占める塩化ビニルの割合が60~99重量%であることが好ましい。塩化ビニルの単独重合体、及び、塩化ビニル系共重合体は、任意の公知の方法、例えば乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造することができる。
【0041】
塩化ビニル系共重合体を構成する塩化ビニルと共重合可能な単量体は、分子中に反応性二重結合を有するものである限り、特に限定されない。このような単量体の例としては、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのα-オレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸類、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸フェニルなどのアクリル酸又はメタクリル酸のエステル類、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル類、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのN-置換マレイミド類などを挙げることができる。これらの単量体は、単独、又は、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0042】
塩化ビニル系共重合体以外の重合体は、塩化ビニルをグラフト共重合できるものである限り、特に限定されない。この重合体の例としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート・一酸化炭素共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどを挙げることができる。これらの重合体は、単独、又は、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0043】
ポリ塩化ビニル系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を添加してもよい。このような添加剤の例としては、ポリ塩化ビニル系樹脂の熱安定性を向上するための安定剤、衝撃改良剤、滑剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、PVC以外の樹脂などが挙げられる。
【0044】
ポリ塩化ビニル系樹脂の熱安定性を向上するための安定剤の例としては、カルシウムの脂肪酸塩と亜鉛の脂肪酸塩の混合物であるCa-Zn系安定剤が挙げられる。脂肪酸の例としては、ベヘニン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リシノール酸、安息香酸等が挙げられる。その他の安定剤の例としては、アルキル錫マレー、アルキル錫ラウレート、アルキル錫メルカプト、錫メルカプト酸エステルなどが挙げられる。
【0045】
衝撃改良剤の例としては、MBS樹脂、ABS樹脂、ブチルアクリレートを主成分とするアクリルゴムなどが挙げられる。この中でも、衝撃改良剤としてMBS樹脂を用いることが最も好ましい。MBS樹脂は、ポリ塩化ビニル系樹脂の総量100重量%に対して通常3~20重量%程度、好ましくは5~19重量%の量で用いられてよい。
【0046】
滑剤の例としては、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩などが挙げられる。
【0047】
紫外線吸収剤の例としては、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0048】
可塑剤の例としては、エポキシ化植物油(例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油)、フタル酸エステル類(例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート)、ポリエステル系可塑剤(例えば、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸などの二塩基酸と1,2-プロパンジオール、ブタンジオールなどグリコール類とのポリエステル)等が挙げられる。この中でも、可塑剤としてはエポキシ化大豆油等のエポキシ化植物油を用いることが最も好ましい。エポキシ化大豆油等の可塑剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂の総量100重量%に対して通常0.5~15重量%程度、好ましくは1~10重量%の量で用いられてよい。
【0049】
また、上述したA層及びD層において、上述した各種の添加剤の用法を変更することもできる。例えば、PTP包装体に包装する内容物(錠剤等)に直接接する面(層)には、内容物に影響を及ぼす添加剤(例えば、紫外線吸収剤、顔料等)を加えないといった態様も可能である。
【0050】
<1-3.ポリ塩化ビニリデン系樹脂(B層、C層)>
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートに使用可能なポリ塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンを含んでなる樹脂である限りは特に限定されないが、好ましい例として、塩化ビニリデン単量体が70~95重量%の共重合組成を有する塩化ビニリデン系共重合体ラテックスが挙げられる。
【0051】
塩化ビニリデン系共重合体の共重合組成において塩化ビニリデン単量体が70重量%以上であることによって、得られる多層シートの酸素・水蒸気バリア性の改良効果を得ることができる。また、共重合組成において塩化ビニリデン単量体が95重量%以下であることによって、重合反応性が保たれると共に、十分なエマルジョン安定性を得ることができる。塩化ビニリデン系共重合体の形成において、塩化ビニリデンと共重合する単量体の例としては、塩化ビニル、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニル、又はこれらの1種又は複数種の混合物が挙げられる。
【0052】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂としての塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの好ましい具体例として、以下が挙げられる:塩化ビニリデン85~95重量部、及び、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマー5~15重量部(塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計は100重量部)を含んでなる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスであり、塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーが、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、メタクリル酸メチル4~10重量部、メタアクリロニトリル又はアクリロニトリル0.3~5重量部、アクリル酸0~2重量部を含む、塩化ビニリデン系共重合体ラテックス。
【0053】
本態様の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、任意選択で、これら以外のモノマーを含んでよく、含まなくてもよい。通常、この塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、これら以外のモノマーを含まない。これらのモノマーの組成について、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計を100重量部とするとき、十分な酸素・水蒸気バリア性を得る観点から、塩化ビニリデン(以下、VDCと略すことがある)の含有量は85~95重量部であり、好ましくは90~93重量部であってよい。他方で、VDCと共重合可能なモノマーの含有量は5~15重量部であり、好ましくは7~10重量部であってよい。
【0054】
本態様の塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、ラテックスの総重量に基づいて、VDC85~95重量%、及び、VDCと共重合可能なモノマー5~15重量%を含んでなる。この場合、塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーの合計は、100重量%であってよい(ラテックスは、これら以外のモノマーを含まずに構成されてよい)。好ましくは、上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、VDC90~93重量%、及び、VDCと共重合可能なモノマー7~10重量%を含んでよい。
【0055】
VDCと共重合可能なモノマーは、メタクリル酸メチル(MMA)、メタアクリロニトリル(MAN)又はアクリロニトリル(AN)、及びアクリル酸(AA)を含み、好ましくは、MMA、及びAN又はMANからなる。VDCと共重合可能なモノマーは、好ましくは、アクリル酸メチル(MA)を含まない。
【0056】
VDCと共重合可能なモノマーは、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、MMAが4~10重量部、MAN又はANが0.3~5重量部であり、より好ましくは組成中のMMAのMAN(又はAN)に対する重量比が1.0以上(MMA/MAN又はAN≧1.0)であってよい。この範囲内であることにより、上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを含む層を有するフィルムは、そのバリア性を保持したまま、ポリマーの変色(黄変)及び結晶化を抑制し、柔軟性を付与することが可能になる。より好ましい実施形態では、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づいて、MMAが5~8重量部、MAN又はANが0.4~2重量部であってよい。また、他のより好ましい実施形態において、組成中のMMAのMAN(又はAN)に対する重量比は、3.0以上であり、さらに好ましくは5.0以上であってよい。
【0057】
さらに、VDCと共重合可能なモノマーにおいて、VDC及びVDCと共重合可能なモノマーの合計100重量部に基づくAAの含有量は0~2.0重量部であり、より好ましくは0~1.0重量部であってよい。この範囲であると、上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、熱と機械シアによる凝集が抑制され、塗工性が向上し得る。
【0058】
上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、単量体混合物を乳化重合することによって製造することができる。特に限定されないが、乳化重合は、通常、30~70℃の温度で行われる。重合温度は、好ましくは40~60℃の範囲内であってよい。重合温度を70℃以下にすることにより、重合中の原料の分解が抑えられるため、好ましい。重合温度を30℃以上にすることにより、重合速度を上げることができるので、重合の効率が良くなる。重合時の媒体として例えば水又はメタノールを使用することができるが、好ましくは水のみを使用してよい。
【0059】
上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの乳化重合に用いる塩化ビニリデン及び塩化ビニリデンと共重合可能なモノマーは、例えば重合前に予め所定量を混合し、連絡的に投入してもよく、及び/又は、段階的にバッチ投入してもよい。連続投入する場合の単量体の添加速度は、例えば重合温度を50℃とする場合は、添加する単量体の総重量の内の70%以上を17~30時間、好ましくは19~30時間、更に好ましくは21~30時間をかけて添加する程度が好ましい。連続添加する時間は、重合温度によって最適化することが好ましい。好ましい一態様は、重合初期に単量体をバッチ投入し、後に残量を連続投入する方法である。単量体の連続投入を行うことにより、共重合体の重合度を調整することができ、共重合体の重量平均分子量を最適な範囲に調整することが可能となり、重合を効率的に行うことができる。
【0060】
上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの乳化重合に用いることができる界面活性剤として、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩などの陰イオン性界面活性剤が挙げられる。重合開始剤として、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、tーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。重合活性剤として、例えば亜硫酸水素ナトリウムのような開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が挙げられる。これら重合添加剤は、特に限定されず、例えば本技術分野において従来から好ましく使用されている種類であってよい。これらの物質はラテックスから生成させた塗膜中に残存してバリア性を劣化させる要因となりうるので、その使用量は可能な限り少量であることが好ましい。
【0061】
上記ラテックスを構成する塩化ビニリデン系共重合体の重合度は、例えば重合に供する単量体の一部を速度調整しながら連続添加して重合することにより、最適な範囲内に調整することができる。その重合度の尺度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnによって判断される。一実施形態において、上記ラテックスを構成する塩化ビニリデン系共重合体の重量平均分子量Mwは、通常12万~30万であり、好ましくは12万~22万である。数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(Mw/Mn)は、通常3.0以下である。
【0062】
上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスに含まれる塩化ビニリデン系共重合体粒子は、特に限定されないが、その平均粒径は100~200nmであることが好ましい。平均粒径をこの範囲とすることで、ラテックスの貯蔵安定性が良く、塗工性が向上する。上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスの固形分は、特に限定されないが、通常40~70重量%である。
【0063】
また、上記塩化ビニリデン系共重合体ラテックスに、必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、たとえば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、ワックス、シリコーンオイルなどを添加してもよい。また、このラテックスに、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機フィラー、着色顔料、体質顔料等を配合して使用することも可能である。
【0064】
<1-4.ポリエチレン系樹脂(Y層)>
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートに利用可能なポリエチレン系樹脂は、特に限定されないが、低密度ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂は、エチレン単独重合体であってもよいし、又は、エチレンと、エチレン以外のモノマー成分、特にはα-オレフィンとの共重合体であってもよい。また、これらの混合物を用いることもできる。
【0065】
エチレンと共重合するα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、へキセン-1、へプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、3-メチル-ブテン-1、4-メチル-ペンテン-1等を例示することができる。中でも、工業的な入手し易さや諸特性、経済性などの観点から、プロピレン、ブテン-1、へキセン-1、オクテン-1が好適である。エチレンと共重合するα-オレフィンは1種のみを単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもかまわない。
【0066】
これらの中でも、エチレン単独重合体、又は、エチレンと、ブテン-1、ヘキセン-1、及びオクテン-1からなる群より選ばれる少なくとも1種類のα-オレフィンとの共重合体を用いるのが好ましい。
【0067】
エチレンとα-オレフィンとの共重合体を用いる場合、共重合体中に占めるα-オレフィンの割合が0.1~10.0重量%であることが好ましい。α-オレフィンの割合がかかる範囲内であればPTP成形性を損なうことがない。α-オレフィンの割合の下限は前記範囲の中でも0.5重量%以上であることがより一層好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。一方、上限は前記範囲の中でも8重量%以下であることがより一層好ましく、6重量%以下であることがさらに好ましい。
【0068】
<1-5.PTP用多層シートの製造方法>
本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0069】
まず、ポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層(又はD層)は、圧延法により製造することができる。具体的には、4本カレンダロールなどの圧延装置によりポリ塩化ビニル系樹脂(A層又はD層)と各種添加剤のブレンド物を圧延、シート化する。その後、引取ロールで引き取られ、複数本の冷却ロールで次第に冷却され、所定の厚みのシートが得られる。
【0070】
次に、ポリ塩化ビニル系樹脂(A層又はD層)に、前記塩化ビニリデン系樹脂(B層又はC層)を公知の方法、例えば、エアナイフコーターやロールコーター、リバースグラビアコーター、あるいは、ドクターブレードコーターを用いて層を塗布する。次に、赤外線ヒーターなどにより前加熱処理を施した後、熱風乾燥、あるいは、ドラム乾燥によりPVDCラテックスの水分を除去し、皮膜を形成する。このとき、A層に対してB層を直接塗布することもできるが、接着性をより向上するため、アルキルチタネート系化合物、ポリイソシアネート系化合物、ポリアルキレンイミン系化合物、ポリウレタン系樹脂等のアンカーコート剤を用いることができる。
【0071】
A層(又はD層)の上に所定の厚みになるようにB層(又はC層)を繰り返し塗布することにより、X層(又はZ層)が形成できる。なお、4層のPTP用多層シートを形成する場合、X層としてA層単体を用いればよい。
【0072】
次いで、X層とZ層との間に、ポリエチレン系樹脂からなるY層を挟み、貼り合せることで本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートを製造することができる。その際、各層は、適宜、アンカーコート剤、一般的な接着剤等を用いて貼り合せることができる。
【0073】
接着剤としては公知のものが使用可能であるが、例えば、溶剤溶解性、又は、水溶性のポリエステル系樹脂、イソシアネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ビニル系変性樹脂、エポキシ系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン系樹脂、変性シリコーン系樹脂等を単独、或いは、2種類以上を混合して使用することができる。この中でも、ポリ塩化ビニリデン系樹脂との密着性の点からウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂を用いることが好ましく、この中でもさらに、硬化時における揮発成分の少ないエポキシ系樹脂を用いることが特に好ましい。前記接着剤の厚みは特に制限されるものではないが、0.004~0.014mmであることが好ましく、0.005~0.013mmであることがより好ましく、0.006~0.012mmであることがさらに好ましい。接着剤の厚みがかかる範囲内であれば、十分な接着強度が得られる。
【0074】
<2.PTP包装体>
本発明の一実施形態に係るPTP包装体は、上述したPTP用多層シートを用いたものである。上述したPTP用多層シートは、真空成形、圧空成形、圧空真空成形、プレス成形、その他の熱成形によって、各種形状の成形体に形成することができ、PTP包装体を製造し利用することができる。
【0075】
PTP包装体を製造する方法としては、成形前に加熱板により、上述したPTP用多層シートを加熱軟化させ、成形型にて当該シートを挟み、圧空を注入して成形型の凹型に沿わせてシート面内に多数のポケット部を成形する方法を挙げることができる。また、必要に応じて圧空注入時に適切なタイミングでプラグを上昇及び下降させて成形性を補助することもできる。その他、加熱ドラムを用いてPTP用多層シートを加熱軟化させる製造方法(例えば、岩黒製作所 PTP加工装置)や、成形ドラムを用いてPTP用多層シートを成形型の凹型に沿わせ成形ポケットを真空にて吸引する装置も存在する。なお、これらの記載は好ましい一例に過ぎず、本発明は上記方法に限定されない。
【0076】
上述の熱成形を施すとともに、上述したPTP用多層シート表面、あるいは、裏面又は両面にアルミ箔、アルミ蒸着フィルム、プラスチックフィルム(例えば二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム)などを積層することも可能である。なお、PTP用多層シート表面或いは裏面又は両面にアルミ箔や前記各種フィルムなどを積層して複合シートを形成した後、これを熱成形することも可能である。
【0077】
また、本発明の一実施形態に係るPTP包装体の製造方法において、上述したPTP包装体に対して、PTP用多層シートのX層側からスリッタ刃を侵入させて、切り離し用スリットを形成する工程を有することが好ましい。かかる構成によれば、スリッタ調整性に優れるPTP用多層シートを用いることから、「分割性」と「安定性(軽く振って折れない)」とが両立したPTP包装体を簡便に製造することができる。なお、切り離し用スリットを形成するためのスリッタ形成装置は、公知のものを好適に使用でき、特に限定されない。
【0078】
また、上述した以外にも、PTP包装体の意匠性や二次加工性等を高める目的で、PTP用多層シート表面にエンボス加工や、艶消し加工等の加工を行ってもよい。この場合、一旦鏡面状のシートを作成してからエンボスロールや艶消しロールで加工を施すようにしても、押出成形の際にキャストロールをエンボスロールや艶消しロールに変更して成形するようにしてもよい。本発明の趣旨を損なわない限り、PTP用多層シート表面に帯電防止剤、シリコーン、ワックスなどをコーティングすることも、傷付着防止などの目的で表面保護シートを用いて皮膜を形成することも、印刷層を設けることも可能である。なお、印刷層の形成手段は、公知の任意の手段を採用できる。
【0079】
上述のとおり、本発明の一実施形態に係るPTP用多層シートは、防湿性、取り出し性、及びスリッタ調整性の全てに優れるため、医薬品の包装分野においてカプセルや錠剤等の固形剤、粒状の食品等を包装するためのPTP包装体として特に防湿性が要求される用途に好適に使用することができる。
【実施例0080】
以下、実施例及び比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記又は後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例及び比較例において「部」及び「%」とある場合、重量部又は重量%を意味する。
【0081】
<評価方法>
(1)水蒸気透過率(防湿性)
JIS K7129Bに基づき、水蒸気透過率測定装置<MOCON社製、PERMATRAN W3/33>を用いて、40℃、90%RHの雰囲気下において、得られた多層シートの水蒸気透過率を測定した。水蒸気透過率が0.55(g/m2・24時間)以下であるものを、「合格(〇)」とした。
【0082】
(2)PTP押し出し力
PTP用多層シートの容器表面積を2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した後のPTP押し出し力は、次の通り、測定した。PTP用多層シートをCKD株式会社製PTP成形装置FBP-300Eプラグ成形の方法によりPTP包装体に成形した。その後、得られたPTP包装体について、汎用引張り圧縮試験機<日本計測システム株式会社製、HIT-B;ロードセル 100N)を用いて、
図2(a)に示すように、試験体取り付け面(1-C)に錠剤取り付けホルダー(1-D)とロードセルにφ5mmの平面の測定圧子(1-A)を備えた測定装置にて圧縮試験モードにてPTP押し出し力を測定した。
【0083】
このとき、試料(1-B)となる錠剤は、1錠ずつに切り離したPTP包装体を用い、容器フィルムと錠剤、蓋フィルムからなるものから蓋フィルムと錠剤を取り除いたものを用いた。
【0084】
試料(1-B:PTP包装体)の成形ポケット天頂部中央を測定圧子(1-A)にて10mm/minの圧縮試験速度で押し込んだ際、
図2(c)に示すような位置(3-A)に、測定圧子(1-A)と試料(1-B)の接触開始(つまりポケットの頭頂部を測定圧子(1-A)が押し始めた時点)から、
図2(c)に示す位置(3-B)に、測定圧子(1-A)がPTP包装体の蓋材(アルミ箔)と試料取り付け面(1-C)に到達するまでの荷重変動において、
図2(b)に示すように、成形ポケットBの基となるPTP包装体の面積Cに対し成形ポケットBの表面積Dが2.0~2.5倍の範囲にPTP成形した成形ポケットにおいて錠剤取出力試験の終了点、位置(3-B)の荷重値Aが、8.0N~19.5Nの範囲に入るものを「合格(〇)」に入らないものを「不合格(×)」に判定した。
【0085】
(3)スリッタ調整性
X層、Y層、Z層が、スリッタ刃の侵入側から、この順で積層されてなるPTP用多層シートをCKD株式会社製PTP成形装置FBP-300Eプラグ成形の方法によりPTP成形し同装置内でカプセルや錠剤がアルミ箔等を用いた蓋材にて加熱シールにて貼り合わせたPTP用多層シートを用いて包装体に加工。その後、得られたPTP包装体を小片に分割することを目的とし、上部より加熱した刃と下部受台にてPTP包装体を挟み込み切れ目を入れることを目的としたスリッタ形成装置を用いて、スリッタ調整性を評価した。スリッタ調整性は、スリッタ形成装置にて、スリッタ刃による切り離し用スリットがシート断面方向に対してポリエチレン系樹脂からなるY層を貫通する位置まで侵入させるようにスリッタ刃の温度、スリッタ刃と台座の間隙を調整したとき、PTP包装体のスリッタ分割線をアルミ薄等のシール側へ90°折り曲げ、戻し軽く切り離せることが可能であり、錠剤入りPTP包装体の耳(端部)をもって軽く振った際にスリッタ部分から折れ曲がらないものを「合格(〇)」とし、スリッタ分割線から容易に折れ曲がったものを「不合格(×)」とした。OQバリデーション項目のスリッタバリデーションに準拠して評価した。
【0086】
(4)総合判定
上述した(1)水蒸気透過率(防湿性)、(2)PTP押し出し力、及び(3)スリッタ調整性の全てについて、「合格(〇)」のものを総合判定にて「合格(〇)」とした。
【0087】
<使用した材料>
(ポリ塩化ビニル系樹脂からなるA層)
A-1 硬質ポリ塩化ビニルシート(サンビック社製「商品名A32C」、厚み=80μm)
A-2 硬質ポリ塩化ビニルシート(サンビック社製「商品名A32C」、厚み=100μm)
(ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるB層)
B-1 旭化成ケミカルズ製、商品名「サランラテックスL509」
(ポリエチレン系樹脂からなるY層)
Y-1 LDPE樹脂 (住友化学製、商品名「スミカセンL705」)
(ポリ塩化ビニリデン系樹脂からなるC層)
C-1 旭化成ケミカルズ製、商品名「サランラテックスL509」
(ポリ塩化ビニル系樹脂(D))
D-1 硬質ポリ塩化ビニルシート(サンビック社製「商品名A32C」、厚み=80μm)
D-2 硬質ポリ塩化ビニルシート(サンビック社製「商品名A32C」、厚み=100μm)
(実施例1)
X層としてA-1単体を用い、Z層として、C-1を塗工したD-2を用いた。X層とZ層において、A-1層とC-1層が内側となるように、Y層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/Y層/C-1層/D-2層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.080mm/0.020mm/0.050mm/0.100mm(総厚み=0.250mm)となるように、PTP用多層シートを作製した。
【0088】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
X層としてB-1を塗工したA-1を用い、Z層としてC-1を塗工したD-2を用いた。X層とZ層において、B-1層とC-1層が内側となるように、Y層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/B-1層/Y層/C-1層/D-2層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.080mm/0.025mm/0.020mm/0.050mm/0.100mm(総厚み=0.275mm)となるようにPTP用多層シートを作製した。
【0090】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
X層として、B-1を塗工したA-1を用い、Z層として、C-1を塗工したD-2を用いた。X層とZ層において、B-1層とC-1層が内側となるようにY層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/B-1層/Y層/C-1層/D-2層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.080mm/0.050mm/0.020mm/0.050mm/0.100mm(総厚み=0.300mm)となるようにPTP用多層シートを作製した。
【0092】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
X層として、B-1を塗工したA-1を用い、Z層として、C-1を塗工したD-1を用いた。X層とZ層において、B-1層とC-1層が内側となるようにY層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/B-1層/Y層/C-1層/D-1層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.100mm/0.050mm/0.020mm/0.050mm/0.100mm(総厚み=0.330mm)となるようにPTP用多層シートを作製した。
【0094】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例2)
X層として、B-1を塗工したA-1を用い、Z層として、C-1を塗工したD-1を用いた。X層とZ層において、B-1層とC-1層が内側となるようにY層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/B-1層/Y層/C-1層/D-1層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.080mm/0.050mm/0.020mm/0.050mm/0.080mm(総厚み=0.280mm)となるようにPTP用多層シートを作製した。
【0096】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例3)
X層としてA-1単体を用い、Z層としてC-1層を塗工したD-1を用いた。X層とZ層において、A-1層とC-1層が内側となるようにY層にてラミネートし、スリッタ刃の侵入側から見て、A-1層/Y層/C-1層/D-1層の順で積層される構成とし、厚みがそれぞれ0.080mm/0.020mm/0.050mm/0.080mm(総厚み=0.230mm)となるようにPTP用多層シートを作製した。
【0098】
得られたPTP用多層シートについて防湿性を評価した。またPTP用多層シートをPTP包装体に成形した後、PTP押し出し力、スリッタ調整性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】