(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170560
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】貨物船
(51)【国際特許分類】
B63B 29/00 20060101AFI20221102BHJP
B63B 15/00 20060101ALI20221102BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B63B29/00 Z
B63B15/00 Z
B63B29/00 A
B63B25/16 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076762
(22)【出願日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小村 淳
(72)【発明者】
【氏名】井上 幸也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
(72)【発明者】
【氏名】冨永 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 元気
(72)【発明者】
【氏名】岡田 みどり
(57)【要約】
【課題】船橋及び居住区を船尾に有する貨物船において、船橋の高さを抑えつつ、船橋からの前方の海面見通しを確保できる貨物船を提供する。
【解決手段】貨物船は、船体と、船体の上甲板の上であって船尾に設けられた居住区と、居住区の上に設けられ船橋と、を備える。舳先へ向いた外壁が前壁と規定され、舳先と反対へ向いた外壁が後壁と規定されたときに、居住区は複数階層から成り、当該居住区の最下層の前壁よりも最上層の前壁が舳先側にあり、且つ、居住区の最上層の前壁よりも船橋の前壁が舳先側にある又は居住区の最上層の前壁と船橋の前壁とが船体の全長方向において実質的に同じ位置にある。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
前記船体の上甲板の上であって船尾に設けられた居住区と、
前記居住区の上に設けられた船橋と、を備え、
舳先へ向いた外壁が前壁と規定され、前記舳先と反対へ向いた外壁が後壁と規定されたときに、前記居住区は複数階層から成り、当該居住区の最下層の前壁よりも最上層の前壁が舳先側にあり、且つ、前記居住区の前記最上層の前壁よりも前記船橋の前壁が前記舳先側にある又は前記居住区の前記最上層の前壁と前記船橋の前壁とが前記船体の全長方向において実質的に同じ位置にある、
貨物船。
【請求項2】
前記船体において前記居住区の前記最下層の前壁よりも前記舳先側に貨物倉が設けられており、
前記居住区の前記最上層の前壁は、前記貨物倉の上方にある、
請求項1に記載の貨物船。
【請求項3】
前記貨物倉に配置されたタンクと、
前記タンクの上部に設けられた前記船体の全長方向に延びるフライングパッセージとを、更に備え、
前記居住区の一部は前記貨物倉の上方まで前記舳先側へせり出しており、前記フライングパッセージと前記居住区とが前記貨物倉の上方で接続されている、
請求項2に記載の貨物船。
【請求項4】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の前壁よりも上層の前壁が前記舳先側にある、
請求項1~3のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項5】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が前記舳先側にある、
請求項1~4のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項6】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が前記舳先側にあり、
前記上層の後壁よりも船尾端側に当該上層の甲板と実質的に同じレベルのヘリデッキが設けられた、
請求項1~4のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項7】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が前記舳先側にあり、
平面視において前記居住区と重複し且つ前記上層の後壁よりも船尾端側に物体載置部が設けられた、
請求項1~4のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項8】
前記居住区の下層部の後壁よりも上層部の後壁が前記舳先側に位置するように、前記居住区の後壁は全体的に前記舳先側へ傾倒しており、
前記船体の船首に設けられ、下部よりも上部が船尾端側に位置するように前記船尾端側へ傾倒した面を有する風防と、
前記居住区と前記風防との間に配置され、前記居住区及び前記風防より高い位置に排気口が設けられたベントマストとを、更に備える、
請求項1~7のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項9】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において、下層の前壁から後壁までの距離よりも上層の前壁から後壁までの距離のほうが短い、
請求項5~8のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項10】
前記居住区の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の側壁間の距離よりも上層の側壁間の距離のほうが短い、
請求項1~9のいずれか一項に記載の貨物船。
【請求項11】
前記居住区の2階以上のいずれかの層を支持する支持柱が前記上甲板に立設されている、
請求項1~10のいずれか一項に記載の貨物船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、居住区及び船橋が船尾に設けられた貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の貨物船においては、貨物倉の容積をより広く確保するために、船橋と居住区を含む上部構造物が船尾の機関室上に配置されたものがある。このような貨物船では、船橋における前方海面見通しを確保できるように船橋の高さ位置が設計されている。特に甲板上にタンクの上部やコンテナなどの貨物や艤装品が存在する貨物船では、これらによって船橋から前方の視界が遮られて死角距離が大きくなることから、船橋を高くする必要があった。しかし、船橋の位置が高くなると、風圧抵抗が増加して燃費が悪化したり、エアドラフトが高くなって橋の架かった港湾や河川における航行が制限されるという問題がある。そこで、特許文献1では、船橋と居住区を含む上部構造物が船尾に配置された船舶において、上部構造物の高さを抑えることが提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の商用船舶では、主船橋と居住区とからなる船橋付居住構造物(上部構造物)を船尾側に配置すると共に、船体の中央部よりも前方に補助船橋を設けることによって、居住性を確保しつつ、船尾側の船橋付居住構造物の高さを抑え、補助船橋で前方海面見通しを確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の船舶では、通常航海で船尾の主船橋が用いられ、要注意海域を通行する暫定的な航海で船首の補助船橋を用いられるが、この場合、船尾の船橋付居住区から船首の補助船橋へのアクセスが必要になるうえ、倍の船橋設備が必要となる。
【0006】
そこで、本開示では、船橋及び居住区が船尾に設けられた貨物船において、船橋の高さを抑えつつ、当該船橋からの前方の海面見通しを確保できる貨物船を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る貨物船は、
船体と、
前記船体の上甲板の上であって船尾に設けられた居住区と、
前記居住区の上に設けられた船橋と、を備え、
舳先へ向いた外壁が前壁と規定され、前記舳先と反対へ向いた外壁が後壁と規定されたときに、前記居住区は複数階層から成り、当該居住区の最下層の前壁よりも最上層の前壁が舳先側にあり、且つ、前記居住区の前記最上層の前壁よりも前記船橋の前壁が前記舳先側にある又は前記居住区の前記最上層の前壁と前記船橋の前壁とが前記船体の全長方向において実質的に同じ位置にあることを特徴としている。
【0008】
上記構成の貨物船によれば、上下に亘って前壁が直立している態様の従来の居住区を備える場合と比較して、居住区の最下層の前壁の舳先からの位置を変えずに船橋の前壁をより舳先に近づけることができる。船橋の前壁がより舳先に近づくことによって、船橋の高さを変えずに前方の死角距離を短くすることができるので、船橋の高さを抑えつつ船橋からの前方海面見通しを確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示では、船橋及び居住区が船尾に設けられた貨物船において、船橋の高さを抑えつつ、当該船橋からの前方の海面見通しを確保できる貨物船を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る貨物船(液化ガス運搬船)の側面図である。
【
図2】
図2は、居住区及び船橋の構成を示す船尾の斜視図である。
【
図3】
図3は、居住区及び船橋の構成を示す船尾の側面図である。
【
図4】
図4は、変形例1に係る居住区及び船橋の構成を示す船尾の側面図である。
【
図5】
図5は、変形例2に係る居住区及び船橋の構成を示す船尾の側面図である。
【
図6】
図6は、居住区及び船橋の構成を示す船尾の平面図である。
【
図7】
図7は、変形例3に係る居住区及び船橋の構成を示す船尾の平面図である。
【
図8】
図8は、変形例4に係る居住区及び船橋の構成を示す船尾の側面図である。
【
図9】
図9は、本発明が適用される他の貨物船(ばら積み貨物船)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る貨物船1の側面図である。
図1に示す貨物船1は、船体11と、船体11の船尾の上甲板18の上に設けられた上部構造物20と、船体11の船尾端に設けられたプロペラ14及び舵15とを備える。船体11の船尾には機関室13が設けられており、船体11の機関室13よりも舳先17側には貨物倉12が設けられている。
【0012】
上部構造物20は機関室13の上方に設けられている。上部構造物20は、居住区3と、居住区3の上に設けられた船橋2からなる。居住区3は、一般に、公室,居室,事務室,病室,配膳室などであるが、ここでは、電気機器室や倉庫などの区画も居住区に含まれる。上部構造物20の両側面は側部カバー24で覆われている。側部カバー24は、上部構造物20の意匠性を高めると共に、風圧抵抗を低減する機能を果たす。船橋2から側部カバー24を貫いて両側方へ突出するように、ブリッジウィング25が設けられている。
【0013】
なお、本実施形態に係る貨物船1は、液化ガス運搬船であって、貨物倉12には液化ガスを収容するための球形のタンク16が設けられており、タンク16の上部が上甲板18より上方に突出し、タンク16の上甲板18よりも突出した部分は半球形のタンクカバー162で覆われている。タンク16の頂部にはベントマスト163が突出している。ベントマスト163から放出された気体は、球形のタンクカバー162の表面に沿って流れ、滞留することなく拡散される。
【0014】
タンク16の頂部にはタンクドーム161が設けられている。貨物船1に搭載された複数のタンク16のタンクドーム161を連結するように、タンク16の上部には船体11の全長方向Xに延びるフライングパッセージ19が設けられている。フライングパッセージ19は筒状を呈し、内部には船員のアクセスを許容する通路が設けられている他、電線や配管が通されている。フライングパッセージ19の一方の端部191は居住区3と接続されており、居住区3からフライングパッセージ19を通って各タンク16へアクセス可能である。
【0015】
船体11の船首には風防27が設けられている。風防27は、最前のタンク16の前部を覆うように形成されている。風防27は、下部よりも上部が船尾端側に位置するように舳先17から船尾端へ向けて傾倒した面を有する。後述するが、船体11の船尾に設けられた居住区3の後壁は全体として船尾端から舳先17側へ向けて前傾した態様となっている。そして、前述のベントマスト163は風防27と居住区3との間に位置し、ベントマスト163の排気口は風防27及び居住区3よりも高い位置に開口している。このように、貨物船1では、風防27が向かい風を整流して風圧抵抗を低減できるように形成され、居住区3が追い風を整流して風圧抵抗を低減できるように形成されている。更に、貨物船1では、球形タンク16を覆う球形のタンクカバー162が横風を整流して風圧抵抗を低減できるように形成されている。そのうえ、ベントマスト163の排気口は風防27及び居住区3よりも高い位置にあるので、ベントマスト163から放出された排気は、風防27によって整流された向かい風又は居住区3によって整流された追い風によって滞留することなく拡散される。
【0016】
図2は、居住区3及び船橋2の構成を示す船尾の斜視図であり、
図3は、居住区3及び船橋2の構成を示す船尾の側面図である。なお、
図3では側部カバー24及びブリッジウィング25は省略されている。
図2及び
図3に示すように、居住区3は上下方向に複数の階層を有する。本実施形態に係る居住区3は4層からなる。但し、居住区3の階層の数は本実施形態に限定されない。船橋2及び居住区3において、舳先17へ向いた外壁(面)を「前壁」と規定し、舳先17と反対側へ向いた外壁(面)を「後前壁」と規定する。また、前壁と後壁とを船体11の全長方向Xに繋ぐ壁を「側壁」と称する。
【0017】
居住区3は、最下層31の前壁(以下、最下層前壁31fと称する)よりも最上層32の前壁(以下、最上層前壁32fと称する)が舳先17側にある。換言すれば、居住区3の最下層前壁31fよりも最上層前壁32fが船体11の全長方向Xの前側にある。居住区3の最下層31は、居住区3のうち上甲板18の直上の層である。居住区3の最上層32は、居住区3のうち船橋2の直下の層である。最上層前壁32fには、フライングパッセージ19の船尾側の端部191が接続されており、最上層32からフライングパッセージ19へ出入りすることができる。但し、フライングパッセージ19は、最上層32よりも下の層と接続されていてもよい。
【0018】
図3に示す例において、居住区3の下から2階以上の各層の前壁は、直下の層の前壁よりも舳先17側に位置する。つまり、下から2層目の前壁は最下層前壁31fよりも舳先17側にあり、下から3層目の前壁は2層目の前壁よりも舳先17側にあり、最上層前壁32fは3層目の前壁よりも舳先17側にある。これにより、居住区3を側面から見た場合に、階層が上がるにつれて前壁は舳先17に近づく。舳先17側へせり出す居住区3の上層部を支えるために、居住区3の下から3層目の層の下に上甲板18に支持柱28が立設されている。ここで、居住区3の階層を上側と下側の2つに分けたときに、上側を上層部、下側を下層部と称する。
【0019】
最下層前壁31fよりも最上層前壁32fが舳先17側にあれば、居住区3の前壁の態様は上記に限定されず、居住区3の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の前壁よりも上層の前壁が舳先17側に位置すればよい。例えば、
図4に示すように、居住区3(3A)の最下層前壁31fと下から2層目の前壁とが実質的に同一面内にあり、下から3層目の前壁が下から2層目の前壁よりも舳先17側にせり出して、下から3層目の前壁と最上層前壁32fとが実質的に同一面内にあってもよい。
【0020】
図3に戻って、居住区3の最上層32の直ぐ上には船橋2が設けられており、船橋2の前壁(以下、船橋前壁21fと称する)は居住区3の最上層前壁32fよりも舳先17側にある。但し、船橋前壁21fと居住区3の最上層前壁32fの船体11の全長方向Xの位置は実質的に同じであってもよい。
【0021】
上記のように居住区3の最下層前壁31fよりも最上層前壁32fが舳先17側にせり出すことによって、最下層前壁31fは貨物倉12より船尾端側にあるが、最上層前壁32fは貨物倉12の上方にある。そして、船橋前壁21fは居住区3の最上層前壁32fと船体11の全長方向Xの位置が同じかそれよりも前(舳先17側)に位置することから、船橋前壁21fも貨物倉12の上方に位置する。更に、居住区3の最上層32と接続されたフライングパッセージ19の船尾側の端部191も貨物倉12の上方に位置する。
【0022】
居住区3の下から2階以上の各層の後壁は、直下の層の後壁よりも舳先17側にある。つまり、下から2層目の後壁は最下層31の後壁(以下、最下層後壁31rと称する)よりも舳先17側にあり、下から3層目の後壁は2層目の後壁よりも舳先17側にあり、最上層32の後壁(以下、最上層後壁32rと称する)は3層目の後壁よりも舳先17側にある。このように、居住区3を側面から見た場合に、階層が上がるにつれて後壁は舳先17に近づく(即ち、船尾端から離れる)。これにより、居住区3の上部層の後壁から船尾端までの間に空間が生じる。この空間を利用して、最上層32の甲板と連続し、当該甲板と実質的に同じ高さレベルのヘリデッキ23が設けられている。つまり、居住区3の後方にヘリデッキ23が設けられている。
【0023】
但し、居住区3の上部層の後壁から船尾端までの間に空間の用途はヘリデッキ23に限定されない。
図5に例示する居住区3(3B)では、最上層32の甲板と実質的に同じ高さレベルで当該甲板を船尾端側へ延長した態様のデッキが設けられ、このデッキは物体載置部36として利用される。物体載置部36には、タンク37(例えば、燃料タンクや水タンク)が載置される。但し、物体載置部36は、タンク37を載置する以外の用途に用いられてもよい。
【0024】
居住区3の後方にヘリデッキ23(又は物体載置部36)が形成され得る空間を形成することができれば、居住区3の後壁の態様は上記に限定されない。例えば、
図4に示すように、居住区3(3A)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が舳先17側に位置し、上層の後壁よりも船尾端側に当該上層の甲板と実質的に同じレベルのヘリデッキ23(又は物体載置部36)が設けられていてもよい。また、ヘリデッキ23(又は物体載置部36)は、居住区3の最上層32の甲板に限定されず、上層部のいずれかの甲板と連続するように当該甲板と同じ高さレベルに設けられていればよい。
【0025】
図3に戻って、居住区3の下から2階以上の各層の前壁から後壁までの距離は、直下の層の前壁から後壁までの距離よりも短い。換言すれば、居住区3の各層の全長方向Xの長さは、上層へ行くに従って短い。これにより、居住区3の各層の甲板の面積(床面積)は上層へ行くに従って小さくなる。但し、居住区3の全長方向Xの長さは毎層変化することに限定されず、例えば、
図4に示すように、居住区3(3A)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において、下層の前壁から後壁までの距離よりも上層の前壁から後壁までの距離のほうが短くてもよいし、或いは、居住区3の全長方向Xの長さは全層において実質的に同一であってもよい。
【0026】
図6に示すように、居住区3の下から2階以上の各層の側壁間の距離は、直下の層の側壁間の距離よりも短い。換言すれば、居住区3の各層の船幅方向の長さは、上層へ行くに従って短い。これにより、居住区3の各層の甲板の面積(床面積)は上層へ行くに従って小さくなる。但し、居住区3の船幅方向の幅は毎層変化することに限定されず、居住区3の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の側壁間の距離よりも上層の側壁間の距離のほうが短くてもよいし、或いは、居住区3の船幅方向の幅は全層において実質的に同一であってもよい。
【0027】
居住区3の各層の甲板(床)は、平面視台形であってよい。
図6に示す居住区3では、居住区3の各層の甲板は舳先17側よりも船尾端側が短い台形を呈する。これにより、船尾の形状に合わせてよりワイドで且つ追い風に対する風圧抵抗の小さい居住区3を形成することができる。但し、居住区3の各層の甲板の形状は上記に限定されず、平面視において、舳先17側よりも船尾端側が短い台形や矩形であってもよい。更に、
図7に示すように、居住区3(3C)の船尾端側に物体配置用のエリアを形成するために、当該エリアを回避して居住区3(3C)が平面視L字状に形成されていてもよい。
【0028】
〔総括〕
以上に説明した通り、本実施形態に係る貨物船1は、
船体11と、
船体11の上甲板18の上であって船尾に設けられた居住区3(3A~3C)と、
居住区3の上に設けられ船橋2と、を備え、
舳先17へ向いた外壁が前壁と規定され、舳先17と反対へ向いた外壁が後壁と規定されたときに、居住区3(3A~3C)は複数階層から成り、当該居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fよりも最上層前壁32fが舳先17側にあり、且つ、居住区3の最上層前壁32fよりも船橋前壁21fが舳先17側にある(又は、居住区3の最上層前壁32fと船橋前壁21fとが船体11の全長方向Xにおいて実質的に同じ位置にある)。
【0029】
上記構成の貨物船1によれば、上下に亘って前壁が直立している態様の従来の居住区を備える場合と比較して、居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fの舳先17からの位置を変えずに船橋前壁21fを舳先17により近づけることができる。居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fの舳先17からの位置は変わらないので、居住区3(3A~3C)よりも舳先17側に設けられる貨物倉12における貨物の積載量を確保することができる。そして、船橋前壁21fが舳先17により近づくことによって、船橋2の高さを変えずに前方の死角距離を短くすることができるので、船橋2の高さを抑えつつ船橋2からの前方海面見通しを確保することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る貨物船1は、船体11において居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fよりも舳先17側に貨物倉12が設けられており、居住区3(3A~3C)の最上層前壁32fは貨物倉12の上方にある。
【0031】
このように、最上層前壁32fが貨物倉12の上方にあることから、船橋前壁21fも貨物倉12の上方にある。このように、船橋2が貨物倉12の上方にまでせり出していることによって、船橋2をより舳先17に近づけて、船橋2からの前方海面見通しの死角距離をより短くすることができる。
【0032】
また、本実施形態に係る貨物船1は液化ガス運搬船であって、船体11において居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fよりも舳先17側に貨物倉12が設けられており、貨物倉12には、少なくとも1つのタンク16が設けられ、当該タンク16の上部に全長方向Xに延びるフライングパッセージ19が設けられている。居住区3(3A~3C)の一部(上層部)は貨物倉12の上方まで舳先17側へせり出しており、フライングパッセージ19と居住区3とが貨物倉12の上方で接続されている。
【0033】
このように、貨物倉12の上方で居住区3(3A~3C)とフライングパッセージ19とが接続されることによって、居住区3(3A~3C)の上層部が舳先17側へせり出していない場合と比較して、フライングパッセージ19を短くすることができる。
【0034】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3A~3C)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の前壁よりも上層の前壁が舳先17側にある。ここで、居住区3(3A~3C)の下から2階以上のいずれかの層を支持する支持柱28が上甲板18に立設されていてもよい。これにより、居住区3(3A~3C)の最下層前壁31fよりも最上層前壁32fを舳先17側に形成できる。
【0035】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3B,3C)の下から2階以上の各層の前壁は、直下の層の前壁よりも舳先側にある。これにより、居住区3の前壁は上層に行くに従って舳先17側へせり出す態様となり、例えばタンク16のような貨物容器との干渉を回避しつつ、居住区3(3B,3C)の最下層前壁31fよりも最上層前壁32fを舳先17側に形成できる。
【0036】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3A~3C)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が舳先17側にある。ここで、居住区3(3B,3C)の下から2階以上の各層の後壁は、直下の層の後壁よりも舳先17側にあってもよい。
【0037】
このように居住区3(3A~3C)の後壁が上層へ行くに従って船尾端から離れることによって、居住区3の上層部の後方に空間が生じる。これにより、後壁が下層よりも舳先17側にある上層において、当該上層の後壁よりも船尾端側に空間が形成され、この空間がヘリコプターの離着や物体の配置に利用できる。
【0038】
例えば、
図5に示す貨物船1では、居住区3Bの少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が舳先17側にあり、平面視において居住区3Bと重複し且つ上層の後壁よりも船尾端側に物体載置部36が設けられている。
【0039】
また、例えば、
図3,4,6,7に示す貨物船1では、居住区3(3A,3C)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の後壁よりも上層の後壁が舳先17側にあり、上層の後壁よりも船尾端側に当該上層の甲板と実質的に同じレベルのヘリデッキ23が設けられている。
【0040】
ヘリデッキ23が設けられた階層の後壁は船尾端から舳先17側へ離れているので、ヘリデッキ23を居住区3から後方へ突出した態様に設けることができる。このようなヘリデッキ23では、ヘリコプターの離着の方向が制限されない。また、居住区3のヘリデッキ23が設けられた階層の後壁とヘリデッキ23とを全長方向Xに十分に離すことができる。これにより、ヘリコプターと居住区3及び船舶乗組員との干渉の可能性を低減することができる。更に、ヘリデッキ23の上方も開放された空間となるので、ヘリコプターを貨物船1の上空でホバリングさせて荷物を降ろすウィンチングの作業時においても、ヘリコプターと居住区3及び船舶乗組員との干渉の可能性を低減することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3A~3C)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において、下層の前壁から後壁までの距離よりも上層の前壁から後壁までの距離のほうが短い。ここで、居住区3(3A,3B)の下から2階以上の各層の前壁から後壁までの距離が、直下の層の前壁から後壁までの距離よりも短くてもよい。
【0042】
これにより、居住区3(3A~3C)は下層部よりも上層部の甲板面積が小さくなり、下層部に重心を持たせることができる。また、居住区3の下層部よりも上層部の全長方向Xの長さが短いことにより、居住区3(3A~3C)の上層部の後ろ側にヘリデッキ23等を設けるための空間を形成することが容易となる。
【0043】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3A,3B)の少なくとも1組の上下方向に隣接する二層において下層の側壁間の距離よりも上層の側壁間の距離のほうが短い。ここで、居住区3(3A,3B)の下から2階以上の各層の側壁間の距離が、直下の層の側壁間の距離よりも短くてもよい。
【0044】
これにより、居住区3(3A,3B)は下層部よりも上層部の甲板面積が小さくなり、下層部に重心を持たせることができる。また、居住区3(3A,3B)の上層部の幅を小さくすることで、居住区3による風圧抵抗を低減することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る貨物船1では、居住区3(3A~3C)の下層部の後壁よりも上層部の後壁が前記舳先側に位置するように、居住区3(3A~3C)の後壁は全体的に前記舳先側へ傾倒しており、船体11の船首に設けられ、下部よりも上部が船尾端側に位置するように船尾端側へ傾倒した面を有する風防27と、居住区3(3A~3C)と風防27との間に配置され、居住区3(3A~3C)及び風防27より高い位置に排気口が設けられたベントマスト163とを、更に備える。
【0046】
これにより、貨物船1では、向かい風は風防27によって整流され、追い風は居住区3によって整流され、このように整流された風によってベントマスト163から放出された排気は滞留することなく拡散される。
【0047】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の貨物船1の居住区3の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0048】
図8は、変形例に係る居住区3D及び船橋2の構成を示す船尾の側面図である。
図8に示すように、居住区3Dは、最下層前壁31fより最上層前壁32fが舳先17側にあれば、最下層後壁31rと最上層後壁32rが全長方向Xに同じ位置であってもよい。この場合、ヘリデッキ23は、居住区3の上方に設けられてよい。
【0049】
上記実施形態において貨物船1は液化ガス運搬船であるが、本発明が適用される貨物船1は船尾に居住区3及び船橋2が設けられたものであればよく、貨物船1によって輸送される貨物は限定されない。本発明が適用される貨物船1として、コンテナ船、多目的貨物船、冷凍冷蔵運搬船、ばら積み貨物船、石炭船、鉱石運搬船、ホッパー船、木材専用船、石油タンカー、ケミカルタンカー、セメントタンカー、及び、液化ガス(LNG,LPG,LHなど)運搬船が例示される。
図9では、本発明が適用された貨物船1Aとしてばら積み貨物船が示されている。
【符号の説明】
【0050】
1,1A :貨物船
11 :船体
12 :貨物倉
16 :タンク
162 :タンクカバー
163 :ベントマスト
17 :舳先
18 :上甲板
19 :フライングパッセージ
2 :船橋
21f :船橋前壁
23 :ヘリデッキ
27 :風防
28 :支持柱
3,3A~D:居住区
31 :最下層
31f :最下層前壁
31r :最下層後壁
32 :最上層
32f :最上層前壁
32r :最上層後壁
36 :物体載置部