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特開2022-170672抗ウイルス材料及びこれを備えた抗ウイルス部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170672
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】抗ウイルス材料及びこれを備えた抗ウイルス部材
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/02 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A61L2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018950
(22)【出願日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2021076818
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
(72)【発明者】
【氏名】小田 皓介
(72)【発明者】
【氏名】小川 夏輝
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058AA23
4C058AA24
4C058BB02
4C058EE29
(57)【要約】
【課題】微細構造物によって抗ウイルス性を発現する抗ウイルス材料、およびこれを備えた抗ウイルス部材を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る抗ウイルス材料は、複数の柱状突起を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱状突起を備える、抗ウイルス材料。
【請求項2】
前記各柱状突起の形状は円柱状である、請求項1に記載の抗ウイルス材料。
【請求項3】
前記各柱状突起がシリコンまたは樹脂から構成されている、請求項1または2に記載の抗ウイルス材料。
【請求項4】
前記複数の柱状突起は、疎水基を持つ分子が表面に存在する柱状突起と、親水基を持つ分子が表面に存在する柱状突起とが混在して構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ウイルス材料。
【請求項5】
抗ウイルスの対象ウイルスの径が、50~150nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス材料。
【請求項6】
前記複数の柱状突起のうち、隣接する柱状突起の中心間距離が、前記対象ウイルスの径の1.5~3.0倍である、請求項5に記載の抗ウイルス材料。
【請求項7】
前記複数の柱状突起のうち、隣接する3本の柱状突起と接する外接円の直径である外接円径が、前記対象ウイルスの径の±25%以内である、請求項5または6に記載の抗ウイルス材料。
【請求項8】
前記複数の柱状突起の高さが、前記対象ウイルスの径の1倍以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載の抗ウイルス材料。
【請求項9】
液体に接する部分に用いられる抗ウイルス部材であって、
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗ウイルス材料を、前記複数の柱状突起が前記液体に対して突出するように設けた抗ウイルス部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス材料及びこれを備えた抗ウイルス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに抗ウイルス性を発現する材料として、銅(Cu)などの金属系材料、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子を含有した素材、酸化チタン(TiO)などの光触媒系素材、及び抗ウイルス薬剤を固定化又は練り込んだ材料などが知られている。しかし、酸化による抗ウイルス活性の低下、金属系材料の色の変化、光触媒系素材の光の必要性、抗ウイルスの持続性、スペクトル性等の問題点があり、これらの問題点を克服して高い活性を有する抗ウイルス材料が望まれている。
【0003】
また、セミの翅が抗菌性を有することが報告されており、このセミの翅を模したナノサイズの柱から構成される微細構造物が、セミの翅と同様に抗菌性を有することが従来技術として知られている。
【0004】
特許文献1には、表面に複数の凹部が形成されることにより、殺菌作用を備えた表面を有するインテリア建材などが開示されている。
【0005】
非特許文献1には、抗菌性を有する微細構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-150626号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Minoura K,Yamada M, Mizoguchi T, Kaneko T, Nishiyama K, Ozminskyj M, et. al.,PLos ONE 12(9),2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、殺菌作用については開示されているがウイルスに対する作用は検討されていなかった。
【0009】
また、非特許文献1には、抗菌性を有する微細構造が開示され、ウイルスに対しても作用を検討したことが開示されていたが、抗ウイルス性を有しないと報告されている。
【0010】
これより、抗ウイルス材料については、検討する余地がある。本発明の一態様は、微細構造物によって抗ウイルス性を発現する抗ウイルス材料、およびこれを備えた抗ウイルス部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る抗ウイルス材料は、複数の柱状突起を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、微細構造物によって抗ウイルス性を発現する抗ウイルス材料、およびこれを備えた抗ウイルス部材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る抗ウイルス材料の一部を拡大して示した、概略的な斜視図である。
図2】抗ウイルス材料の寸法を説明するための概略的な縦断面図である
図3】(a)~(f)は、前記抗ウイルス材料をメタルアシストケミカルエッチング法で作製する場合の手順を工程順に示した、概略的な斜視図である。
図4】(a)は親水基(水酸基)を先端に持つ分子が表面に存在する柱状突起を示し、(b)は疎水基(メチル基)を先端に持つ分子が表面に存在する柱状突起を示す。
図5】抗ウイルス活性試験の一形態を示す概略図である。
図6】柱状突起の表面および断面の画像である。
図7】柱状突起の形状を示す模式図である。
図8】柱状突起の中心間距離と、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。
図9】柱状突起の外接円径と、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。
図10】柱状突起の高さと、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0015】
〔1.抗ウイルス材料〕
本発明の実施形態に係る抗ウイルス材料は、複数の柱状突起を備える。図1は、本実施形態の、基板2上に複数の微細構造物としての柱状突起(ナノピラー)3…3を備えた抗ウイルス材料を示す。なお、図1は概略図であって、本実施形態の抗ウイルス材料1を正確に示したものではない。
【0016】
各柱状突起3の形状は、円柱状であってもよい。しかし、各柱状突起3の形状は特に限定されるものではなく、多角柱状、円錐状、多角錐状であってもよい。また、各柱状突起3は、各柱状突起の柱部から複数の枝分かれするような形状であっても良い。例えば後述のメタルアシストケミカルエッチング法により自己組織化膜を形成できることから、形状を円柱状とすることが、複数の柱状突起3…3を容易に形成できるため好ましい。
【0017】
複数の柱状突起3…3の配置及び各柱状突起3の寸法に関して説明する。図2は抗ウイルス材料1の寸法を説明するための概略的な縦断面図である。図2のSは隣り合う柱状突起同士の中心間距離、Gは隣り合う柱状突起同士の側面間の距離、Hは柱状突起の高さであり、Dは柱状突起の直径である。各柱状突起3は、隣り合う二つの柱状突起3同士の中心間距離Sが1000nm以下であることが好ましい。また、隣り合う二つの柱状突起3同士の中心間距離は500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。柱状突起3同士の中心間距離は、後述する〔2.抗ウイルス材料の作製方法〕において使用するポリスチレン球の直径に相当する。なお、本明細書内において、柱状突起3同士の中心間距離は、「ピッチ」とも称する。柱状突起3の中心間距離の下限値は下記隙間の設定に関連して定まるが、100nm超であることが好ましい。
【0018】
また、柱状突起3同士の中心間距離Sは、対象のウイルスの径の1.5~3.0倍であることが好ましく、1.8~2.7倍であることがより好ましく、2.0~2.5倍であることがさらに好ましい。これによれば、抗ウイルス材料1は高い抗ウイルス活性を示す。
【0019】
前記隣り合う二つの柱状突起3同士の側面間の隙間Gは20nm以上200nm以下であることが好ましい。隙間Gは、後述する〔2.抗ウイルス材料の作製方法〕におけるエッチングでのポリスチレン球の小径化によって適宜調節することができる。また、直径Dもポリスチレン球の小径化によって適宜調節することができる。本実施形態において、例えば、中心間距離S、隙間G、および直径Dの寸法は、S-G=Dという関係が成り立つ。
【0020】
柱状突起の高さHは特に限定されないが、50~2000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましく、300nmであることが最も好ましい。また、前記各柱状突起3の中心を通る縦断面形状のアスペクト比が1以上であることが好ましい。このように各寸法を設定することで、抗ウイルス材料の表面に抗ウイルス性を付与することができる。
【0021】
また、柱状突起の高さHは、対象のウイルスの径の1倍以上であることが好ましく、11.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましく、3倍以上であることが特に好ましい。これによれば、抗ウイルス材料1は高い抗ウイルス活性を示す。
【0022】
外接円径Cは特に限定されないが、対象のウイルスの径の±25%以内であることが好ましい。ここで、外接円径Cとは、隣接する3本の柱状突起と接する外接円の直径でありうる。これによれば、抗ウイルス材料1は高い抗ウイルス活性を示す。
【0023】
本発明の実施形態に係る抗ウイルス材料は、各柱状突起3がシリコンまたは樹脂から構成されていることが好ましい。後述するメタルアシストケミカルエッチング法を用いて簡便に製作出来る点ではシリコンであることが好ましい。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂などが挙げられる。
【0024】
本発明の実施形態に係る抗ウイルス材料が対象とするウイルスの径は特に限定されないが、50~150nmの大きさ(径)のウイルスであることが好ましい。ウイルスの大きさ(径)とは、球形のウイルスであれば球の径の長さを意味し、非球形のウイルスであれば外接円の径を意味する。上記の大きさのウイルスであれば好適に抗ウイルス活性を発現することができる。また、エンベロープを有するウイルスであってもよく、エンベロープを有さないウイルスであってもよい。エンベロープを有するウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルス、ジカウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、及びヒト免疫不全ウイルスなどが挙げられる。また、エンベロープを有さないウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、ヒトパピロマーウイルス、バクテリオファージMS2、及びバクテリオファージQβなどが挙げられる。
【0025】
〔2.抗ウイルス材料の作製方法〕
本実施形態の抗ウイルス材料1の作製方法は特に限定されないが、例えば湿式エッチング技術に係る方法の一例であるメタルアシストケミカルエッチング法で作製されてもよい。一例として、作製手順を工程順に図3(a)~図3(f)に示す。なお、図3(a)~図3(f)は概略図であって、図示されている寸法関係は実際の寸法関係とは異なる。
【0026】
まず、平坦なシリコン板2aの表面に所定寸法のポリスチレンビーズ(以下、単に「ビーズ」という)Bを複数、重ならず最密充填状態となるように敷き詰め、図3(a)に示した状態とする。これにより、シリコン板2a上に、複数のビーズB…Bからなる自己組織化膜が形成される。最密充填状態であるから、各ビーズBの直径がすなわち、形成後の隣り合う二つの柱状突起3,3どうしの中心間距離Sとなる。このため、この処理によって所望の中心間距離Sを有する複数の柱状突起3…3を得ることができる。
【0027】
次に、各ビーズBに対してプラズマ(本実施形態では酸素プラズマ)を照射させて炭化させることにより、各ビーズBをシリコン板2a上の同一位置にて小径化して、図3(b)に示した状態とする。小さくなったビーズBの直径がすなわち、形成後の柱状突起3の直径Dとなる。このため、この処理によって所望の直径を有する柱状突起3を得ることができる。
【0028】
次に、種々の成膜方法を用いて、シリコン板2a上に金属を上方から堆積させ薄膜Fを形成することで、図3(c)に示した状態とする。本実施形態ではスパッタリングによりシリコン板上に金の薄膜Fを形成している。ここで、シリコン板2a上には複数のビーズB…Bが存在しているため、各ビーズBが陰になって、各ビーズBの直下における各ビーズBの直径分の円形領域Rには金属の薄膜Fは形成されない状態となる。
【0029】
次に、図3(c)に示したものをエッチング液に浸漬する。本実施形態のエッチング液は、過酸化水素及びフッ化水素酸の混合水溶液である。この浸漬により、シリコン板2aのうち、金属の薄膜Fに接した部分のシリコンが選択的に削られる。これに伴い薄膜Fは下降していき、図3(d)に示すように、複数のビーズB…Bの下方に微細な円柱状である柱状突起3が複数形成されると共に基板2が形成される。浸漬時間を調整することにより、柱状突起3の高さを制御することができる。
【0030】
次に、金属の薄膜Fを除去して、図3(e)に示した状態とする。除去のため、本実施形態では王水が用いられる。その他に、ヨウ素とヨウ化カリウムを混合した溶液でも実施できる。そしてビーズBを除去することで、図3(f)に示した状態とし、抗ウイルス材料1が出来上がる。ただし、図3(f)に示した状態では柱状突起3の表面はメタルアシストケミカルエッチングによる影響により形成されたシリコン酸化膜で覆われたままの状態である。
【0031】
このように複数のビーズB…Bを用いたメタルアシストケミカルエッチング法により、所望の寸法及び密度とされた複数の柱状突起3…3を備えた抗ウイルス材料1を容易に得ることができる。自己組織化膜を利用することで、コストダウンと作製に要する時間の短縮をはかることができる。抗ウイルス材料1は、前述のメタルアシストケミカルエッチング法により得られた複数の柱状突起3…3を備えた物体を直接的に用いることもできるし、この物体を樹脂(例えばシリコンゴム)等に転写したものを用いることもできるし、この物体をかたどった成形型・転写型をまず形成し、その成形型・転写型を利用して製造した樹脂(例えばシリコンゴム)等の成型品を用いることもできる。さらに、アルミニウムやチタンなどの金属を陽極酸化することで形成される比較的規則的な孔を型に利用することもできる。このように型の成形とその転写を行うことで、抗ウイルス材料を大量生産できる。成形・転写の技術としてはナノインプリント技術、電子線リソグラフィ等を利用できる。このようにして、複数の柱状突起を備えた抗ウイルス材料1を、一般的な材料であるシリコンまたは樹脂により容易に得ることができる。
【0032】
メタルアシストケミカルエッチング法による場合、ポリスチレンビーズ以外に種々の物体を使用してもよい。なお、自己組織化膜を形成できる物体を使用することが望ましい。また、金属薄膜の形成を、本実施形態ではスパッタリングによって行う方法を説明したが、物理的蒸着法(例えば真空蒸着)、化学的蒸着法(例えばプラズマCVD)、湿式製膜法(めっき)等の種々の方法で行ってもよい。
【0033】
メタルアシストケミカルエッチング法により形成された各柱状突起3の表面はシリコン酸化膜(二酸化シリコンの膜)で覆われることにより親水性を有していてもよい。また、このシリコン酸化膜を除去することにより、各柱状突起3の表面に疎水性を有するものとしてもよい。疎水性を有する表面はシリコン酸化膜の除去された表面のことである。例えば、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合液への浸漬により酸化膜を除去してもよい。このようにシリコン酸化膜を除去することで、各柱状突起3の表面に容易に疎水性を付与することができる。また、前記浸漬がされない部分は親水性を有したままで、前記浸漬がされた部分は疎水性を有するものとできるので、例えば、各柱状突起3の先端周辺の表面だけを疎水性を有するようにする等、所望の領域に関して疎水性及び親水性を実現できる。
【0034】
また一般的に、「疎水性」とは、水の接触角(具体的には静的接触角)が90°を超える場合に該当するが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、相対的に疎水性か親水性かを定めることもできる。前記「先端周辺」とは端面及び側面のうち端面側の面である。
【0035】
柱状突起3の表面が有する濡れ性(接触角)の調整は、疎水基を持つ分子または親水基を持つ分子を適宜、各柱状突起3の表面に設けることで実現してもよい。例えば、まず各柱状突起3の表面に金の薄膜を形成しておく。そして、図4の(a)および(b)に示すように、金と結合しやすいチオール基を基端部に持ち、先端部に水酸基(親水基)またはメチル基(疎水基)を持つ分子を結合させる。このようにすることで本実施形態では、各柱状突起3の表面において、接触角(水)を10°~140°の範囲で任意に調整できる。接触角は公知の方法で測定されてよい。各柱状突起3の表面の接触角(水)は、20°~80°であることが好ましい。各柱状突起3の表面の接触角が前記の範囲であれば、ウイルスが柱状突起3にトラップされやすく、抗ウイルス材料1が好適に抗ウイルス性を発現する。
【0036】
このように、複数の柱状突起3…3は、疎水基を持つ分子が表面に存在する柱状突起3と親水基を持つ分子が表面に存在する柱状突起3とが混在して構成されることができる。疎水基を持つ分子が表面に位置することで、柱状突起3の表面に容易に疎水性を実現できる。また、複数の柱状突起3…3のうち、疎水基を持つ分子が表面に存在するものと、親水基を持つ分子が表面に存在するものとの混在割合を調整することで、複数の柱状突起3…3の全体で所望の濡れ性を実現できる。このほか、一つの柱状突起3において、疎水基を持つ分子と親水基を持つ分子とが表面に混在して存在するようにすることも可能である。
【0037】
〔3.抗ウイルス部材〕
このように形成された抗ウイルス材料1は、例えばブロック状やシート状の形状とすることができる。この抗ウイルス材料1は、液体に接する部分に用いられる抗ウイルス部材であって、抗ウイルス材料1の備える複数の柱状突起3…3が液体に対して突出するように備えられた抗ウイルス部材に組み込んで利用できる。この抗ウイルス部材を用いることで、抗ウイルス性を発現する。この抗ウイルス部材は、上下水道用の配管部材、家庭内の配管部材、食品工場等の衛生管理が必要な施設において液体に触れる部材、医療機器や医療用分析装置を構成する部材等に利用できる。
【0038】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0039】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0040】
〔抗ウイルス活性の評価〕
本発明の実施形態に係る抗ウイルス材料の抗ウイルス性を評価した。対象ウイルスとしてはA型インフルエンザウイルス(H3N2)、直径100nmを用いた。
【0041】
図5に示すように、ポリプロピレンフィルム4(3.5cm×3.5cm)の上に抗ウイルス材料1を設置し、抗ウイルス材料1に225μL(濃度2.2×10pfu/mL)のウイルス液を滴下し、25℃において24時間放置した。ここで、pfuとはplaque-forming unitの略であり、単位量当たりに含まれる感染能力を持ったウイルスの数である。抗ウイルス材料1を滅菌された生理食塩水に浸漬させウイルスを回収し、回収したウイルスを含む溶液を用いてISO18184プラーク法に基づき、感染能力のあるウイルスの数を算出した。評価する材料は、同じ作製方法で作製した2~3つを用意し、これらの材料のウイルス感染価から対数平均値を求めた。式1より抗ウイルス活性値を算出し、ISO18184に基づいて抗ウイルス活性を評価した。
【0042】
[式1]
抗ウイルス活性値=U-A
U:無加工試験片における単位面積当たりのウイルス感染価の対数平均値
A:抗ウイルス加工試験片における単位面積当たりのウイルス感染価の対数平均値
抗ウイルス活性値は0.4以上であることが好ましい。特に、ISO18184によると、抗ウイルス活性値が3.0以上であれば十分な抗ウイルス性を有すると規定されており、抗ウイルス効果は、具体的には表1に示す基準で評価分類される。
【0043】
【表1】
【0044】
〔材料の作製〕
<実施例1>
シリコン板(3.0cm×3.0cm)をアンモニア過水溶液に浸漬させ、95℃で90分間処置することによりシリコン板を洗浄した。シリコン板の上に直径200nmのポリスチレン球を含むポリスチレン溶液(濃度:5.68×1012個/mL)を滴下し、スピンコーティングにてシリコン基板上にポリスチレン球配列膜を作製した。
【0045】
次に、ポリスチレン球に対して酸素プラズマによるエッチングを行い、ポリスチレン球を炭化させることにより、各ポリスチレン球をシリコン板上にて直径130nmにまで小径化させた。
【0046】
続いて、スパッタリングによりシリコン板上にAu(金)を上方から堆積させ、金薄膜を形成した。金薄膜形成後のシリコン板をエッチング液(過酸化水素およびフッ化水素酸の混合水溶液)に浸漬させることにより、金薄膜に接した部分のシリコンのみを除去した。これにより、金薄膜に接した部分は下降し、ポリスチレン球の下方に円柱状の柱状突起が形成された。
【0047】
王水を用いて金薄膜を除去した。そして、シリコン基板をピラニア溶液に30分間、65℃にて浸漬させ、ポリスチレンを除去し、抗ウイルス材料(A-1)を得た。同様の操作を行い、抗ウイルス材料(A-2)、(A-3)を作製した。
【0048】
図6は各材料の表面および断面を電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型番JSM-7500F)によって撮影した画像である。また、図7は各材料の断面形状の模式図である。図6に示す通り、抗ウイルス材料(A-1)は、柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが300nm、外接円径が123.3nmであった。抗ウイルス材料(A-2)、(A-3)についても同様であった。また、柱状突起の表面が有する濡れ性を示す水の接触角は23°であった。
【0049】
<比較例1>
直径100nmのポリスチレン球を用い、エッチングにてポリスチレン球を直径50nmにまで小径化させた以外は、実施例1と同様の方法で比較材料(B-1)を得た。また、同様の操作を行い、比較材料(B-2)、(B-3)を作製した。図6に示す通り、比較材料(B-1)は、柱状突起の直径が50nm、中心間距離(ピッチ)が100nm、高さが300nm、外接円径が67.4nmであった。比較材料(B-2)、(B-3)についても同様であった。
【0050】
<比較例2>
直径50nmのポリスチレン球を用い、エッチングにてポリスチレン球を直径25nmにまで小径化させた以外は、実施例1と同様の方法で比較材料(C-1)を得た。また、同様の操作を行い、比較材料(C-2)、(C-3)を作製した。図6に示す通り、比較材料(C-1)の断面観察箇所ではたまたま微細な凹凸が見られたのみであったが、図7の模式図に示す構造が出来ているもの考えられる。
【0051】
<比較例3>
比較例3としては、加工していないシリコン板(R-1)、(R-2)および(R-3)を用いた。
【0052】
<比較例4>
直径350nmのポリスチレン球を用い、エッチングにてポリスチレン球を直径250nmにまで小径化させた以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ比較材料(D-1)、(D-2)、(D-3)を作成した。比較材料(D-1)~(D-3)は、それぞれ柱状突起の直径が250nm、中心間距離(ピッチ)が350nm、高さが300nm、外接円径が169.6nmであった。
【0053】
<比較例5>
直径500nmのポリスチレン球を用い、エッチングにてポリスチレン球を直径274nmにまで小径化させた以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ比較材料(E-1)、(E-2)を作成した。比較材料(E-1)及び(E-2)は、それぞれ柱状突起の直径が274nm、中心間距離(ピッチ)が500nm、高さが300nm、外接円径が338.3nmであった。
【0054】
<比較例6>
直径1000nmのポリスチレン球を用い、エッチングにてポリスチレン球を直径407nmにまで小径化させた以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ比較材料(F-1)、(F-2)を作成した。比較材料(F-1)及び(F-2)は、それぞれ柱状突起の直径が407nm、中心間距離(ピッチ)が1000nm、高さが300nm、外接円径が839.4nmであった。
【0055】
<実施例2>
浸漬時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ実施例材料(G-1)、(G-2)、(G-3)を作成した実施例材料(G-1)~(G-3)は、それぞれ柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが190nm、外接円径が123.3nmであった。
【0056】
<実施例3>
浸漬時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ実施例材料(I-1)、(I-2)、(I-3)を作成した。比較材料(I-1)~(I-3)は、それぞれ柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが400nm、外接円径が123.3nmであった。
【0057】
<実施例4>
浸漬時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ実施例材料(J-1)、(J-2)を作成した。実施例材料(J-1)及び(J-2)は、それぞれ柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが100nm、外接円径が123.3nmであった。
【0058】
<実施例5>
浸漬時間を変更し、高さを114nmとした以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ実施例材料(K-1)、(K-2)、(K-3)を作成した。実施例材料(K-1)~(K-3)は、それぞれ柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが114nm、外接円径が123.3nmであった。
【0059】
<実施例6>
浸漬時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ実施例材料(L-1)、(L-2)、(L-3)を作成した。実施例材料(L-1)~(L-3)は、それぞれ柱状突起の直径が130nm、中心間距離(ピッチ)が200nm、高さが158nm、外接円径が123.3nmであった。
【0060】
各材料について抗ウイルス活性の評価を行った結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1のウイルスの感染価は検出限界以下であった。対数平均値を1.0として算出したところ、抗ウイルス活性値は4.4であり、高い抗ウイルス活性を示すことがわかった。
【0063】
[中心間距離(ピッチ)と抗ウイルス活性値との関係]
図8は、実施例1、比較例1、2、4~6のそれぞれの柱状突起の中心間距離と、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。これによれば、直径100nmのインフルエンザウイルスに対しては中心間距離が200nmである場合に抗ウイルス活性値が高いことがわかった。すなわち、中心間距離がウイルス径の2倍である材料が抗ウイルス活性を示すことがわかった。また、比較例1の抗ウイルス活性値は1未満であるが、外接円径が30.1nmである比較例2の材料と比較すると、抗ウイルス活性値が高くなっていた。
【0064】
[外接円径と抗ウイルス活性値との関係]
図9は、実施例1、比較例1、2、4~6のそれぞれの柱状突起の外接円径と、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。これによれば、直径100nmのインフルエンザウイルスに対しては、外接円径が123.3nmである場合に抗ウイルス活性値4.4という、突出して高い抗ウイルス活性を示すことがわかった。すなわち、外接円径がウイルス径の+25%以内である材料が高い抗ウイルス活性を示すことがわかった。
【0065】
[高さと抗ウイルス活性値との関係]
図10は、実施例1~6のそれぞれの柱状突起の高さと、抗ウイルス活性値とをプロットしたグラフである。これによれば、直径100nmのインフルエンザウイルスに対しては、高さが100nm以上であれば、抗ウイルス活性値が0.4以上を示す。すなわち、柱状突起の高さがウイルス径の1倍以上ある場合に高い抗ウイルス活性を示すことがわかった。また、特に、柱状突起の高さがウイルス径の1.5倍以上ある場合に特に高い抗ウイルス活性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、抗ウイルス材料として利用することができる。また、本発明は不特定多数の人が触れるドアノブ、手すり、ボタンなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 抗ウイルス材料
2 基板
3 柱状突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10