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特開2022-170699水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法
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  • 特開-水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170699
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 16/02 20060101AFI20221102BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C04B16/02 Z
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064658
(22)【出願日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2021075501
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】301037512
【氏名又は名称】伊藤組土建株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504073126
【氏名又は名称】草野作工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】北見 実敏
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 孝之
(72)【発明者】
【氏名】松島 得雄
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA22
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】AE剤といった空気連行剤の代替品として使用でき、かつ効果的に水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性を向上させることのできる剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤は、セルロース繊維を有効成分として含有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を有効成分として含有する水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤。
【請求項2】
前記セルロース繊維は、バクテリアセルロースである、
ことを特徴とする請求項1に記載の凍結融解抵抗性向上剤。
【請求項3】
バクテリアセルロース繊維含有率は、前記水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%である、
ことを特徴とする請求項2に記載の凍結融解抵抗性向上剤。
【請求項4】
バクテリアセルロースを含有する、水硬性無機質硬化体。
【請求項5】
バクテリアセルロース繊維含有率は、前記水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%である、
ことを特徴とする請求項4に記載の水硬性無機質硬化体。
【請求項6】
バクテリアセルロースを添加する工程を含む、水硬性無機質硬化体の製造方法。
【請求項7】
前記バクテリアセルロースの添加量は、前記水硬性無機質硬化体に対して、バクテリアセルロース繊維含有率0.005~0.5重量%である、
ことを特徴とする請求項6に記載の水硬性無機質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地で使用されるコンクリートでは、凍結と融解とが急速に繰り返される。コンクリート中の水分が凍結し体積が膨張することで、コンクリートに圧力がかかり、この圧力が引張強度に達すると、ひび割れを起こすことがある。ひび割れが生じた箇所では、コンクリート内部に水が浸透しやすくなっているため、外部から浸透した水分が次の凍結でさらに大きな膨張圧を発生させ、ひび割れを拡大させたり、さらなる損傷を引き起こすといった悪循環に陥りやすい。
【0003】
コンクリートの凍結融解抵抗性を高めるために、種々の方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、コンクリート中に微細な気泡を形成させるために、Air Entraining剤(AE剤)等の化学混和剤をフレッシュコンクリートに適量混入する方法が開示されている。また、特許文献2には、AE剤を液体の空気連行剤として添加して、コンクリートの耐凍害性を改善する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-259050号公報
【特許文献2】特開2000-95551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の方法で用いるAE剤といった空気連行剤については、比較的多量に添加しないと耐凍害性の改善効果が得られないため、添加量次第では空気量が過大となり、コンクリートの強度低下を引き起こすというリスクがあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、AE剤といった空気連行剤の代替品として使用でき、かつ効果的に水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性を向上させることのできる剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤は、
セルロース繊維を有効成分として含有する。
【0009】
例えば、前記セルロース繊維は、バクテリアセルロースである。
【0010】
例えば、バクテリアセルロース繊維含有率は、前記水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%である。
【0011】
本発明の第2の観点に係る水硬性無機質硬化体は、バクテリアセルロースを含有する。
【0012】
例えば、バクテリアセルロース繊維含有率は、前記水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%である。
【0013】
本発明の第3の観点に係る水硬性無機質硬化体の製造方法は、
バクテリアセルロースを添加する工程を含む。
【0014】
例えば、前記バクテリアセルロースの添加量は、前記水硬性無機質硬化体に対して、バクテリアセルロース繊維含有率0.005~0.5重量%である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、AE剤といった空気連行剤の代替品として使用でき、かつ効果的に水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性を向上させることのできる剤、水硬性無機質硬化体及び水硬性無機質硬化体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本実施例で使用したB(NFBC培養液)の外観の写真図、(b)は、本実施例で使用したP(NFBC精製物)の外観の写真図である。
図2】本実施例のモルタルのフローの測定結果を表すグラフ図である。
図3】本実施例のモルタルの空気量の測定結果を表すグラフ図である。
図4】本実施例のモルタルの気泡間隔係数の測定結果を表すグラフ図である。
図5】本実施例のモルタルにおける相対動弾性係数と凍結融解回数の関係を表すグラフ図である。
図6】本実施例のモルタルにおける相対動弾性係数と凍結融解回数の関係を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.凍結融解抵抗性向上剤)
まず、本発明による水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤について詳細に説明する。
【0018】
本発明による水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性向上剤は、セルロース繊維を有効成分として含有する。
【0019】
本明細書において、水硬性無機質硬化体とは、水硬性無機材料と、無機質混和材と、水と、を混和して作製されるものを指す。水硬性無機質硬化体に用いられる水硬性無機材料として、例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、高炉セメント、石膏セメント、マイクロセメント、アルミナセメントなどのセメント類、半水、2水、6水石膏などの石膏類を挙げることができる。なお、セメント類は普通硬化型、早強型、速硬型、超速硬型のいずれであってもよい。また、水硬性無機質硬化体に用いられる無機質混和材として、例えば、細骨材、粗骨材、砕砂、砕石、硅砂、海砂、再生骨材、山砂、河砂、雲母、石粉末、ガラス粉末、アルミ粉末、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグなどを挙げることができる。
【0020】
本明細書において、セルロース繊維とは、その由来、製法、性状等に限定はなく、パルプ由来セルロースなどの植物由来のセルロース、バクテリアセルロース等を指し、セルロースの微細構造においてセルロースを構成している繊維のことを指す。セルロース繊維として、例えば、平均幅及び平均厚みが100nm以下であるセルロースナノファイバー(例えば、パルプ由来セルロースナノファイバー、バクテリアセルロースナノファイバー等)が好適に用いられる。
【0021】
本発明による凍結融解抵抗性向上剤に用いられるセルロース繊維は、例えば、液体(水系溶媒又は有機溶媒)中にほぼ均一に分散するほど高い分散性を有していてもよい。セルロース繊維の分散性の高低は、例えば、光の透過率を指標として測定することができ、光の透過率は、所定の濃度のセルロース繊維を含む水を分光光度計に供して所定の波長の光を照射し、透過した光の量を測定することにより求めることができる。該セルロース繊維の光の透過率については、例えば、終濃度0.1±0.006%(w/w)でセルロース繊維を含む水の波長500nmの光の透過率が35%以上であってもよく、またこれに限定されることなく、例えば、36%以上、37%以上、38%以上、39%以上、40%以上、35%以上99%以下、36%以上99%以下、37%以上99%以下、38%以上99%以下、40%以上99%以下、35%以上95%以下、36%以上95%以下、37%以上95%以下、38%以上95%以下、40%以上95%以下、35%以上90%以下、36%以上90%以下、37%以上90%以下、38%以上90%以下、40%以上90%以下、35%以上85%以下、36%以上85%以下、37%以上85%以下、38%以上85%以下、40%以上85%以下、35%以上80%以下、36%以上80%以下、37%以上80%以下、38%以上80%以下、40%以上80%以下などであってもよい。
【0022】
本発明による凍結融解抵抗性向上剤においては、凍結融解抵抗性向上効果の観点から、セルロース繊維としてバクテリアセルロースを好適に用いることができる。本明細書において、バクテリアセルロースとは、バクテリアセルロース生産菌が産生するセルロースを指す。バクテリアセルロース生産菌は、バクテリアセルロースを生産することができる公知の細菌を用いることができ、具体的には、例えば、Gluconacetobacter xylinus ATCC53582株、Gluconacetobacter hansenii ATCC23769株やGluconacetobacter xylinus ATCC700178(BPR2001)株、Gluconacetobacter swingsii BPR3001E株、Acetobacter xylinum JCM10150株、Enterobacter sp.CJF-002株、Gluconacetobacter intermedius SIID9587株(受託番号NITE BP-01495)などを用いることができる。
【0023】
本発明による凍結融解抵抗性向上剤にバクテリアセルロースを用いる場合、バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%としてもよい。バクテリアセルロースを、水硬性無機質硬化体に対して、バクテリアセルロース繊維含有率で0.005~0.5重量%添加することで、水硬性無機質硬化体において凍結融解抵抗性(耐凍害性)のより高い向上効果が得られる。この添加量は、既存のAE剤に比べて少ないため、水硬性無機質硬化体の強度を維持しつつ効果的に凍結融解抵抗性(耐凍害性)の向上効果が発揮される。バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%、好ましくは、0.006~0.4重量%、より好ましくは、0.007~0.3重量%、さらにより好ましくは、0.0075~0.1重量%である。なお、バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、添加されるバクテリアセルロースのセルロース繊維量を上記同様、光の透過率を用いて測定し、バクテリアセルロースの添加量に基づき算出することができる。
【0024】
バクテリアセルロースとして、水硬性無機質硬化体内の分散性の観点から、分散剤が結合したバクテリアセルロースを用いるのが好ましい。分散剤として、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と略記する場合がある。)、カルボキシルメチルセルロース(以下、「CMC」と略記する場合がある。)、ヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」と略記する場合がある。)等を用いることができる。
【0025】
分散剤が結合したバクテリアセルロースにおいて、分散剤の結合量は適宜設定することができるが、例えば、分散剤が結合したバクテリアセルロース全体を100%とした場合の分散剤の質量割合が20%(w/w)程度であれば、水に良好に分散するバクテリアセルロースを得ることができる。なお、分散剤とバクテリアセルロースとは分子間力(水素結合、ファンデルワールス力)で結合していると考えられる。
【0026】
分散剤が結合したバクテリアセルロースは、例えば、バクテリアセルロース生産菌を、分散剤を添加した培地で撹拌培養や通気培養し、得られた培養液から菌体成分を除去してバクテリアセルロースを精製することにより得ることができる。分散剤は、市販のものを用いることができる。培地への分散剤の添加量は、例えば、培地における終濃度が0.5~5%(w/v)などとすることができるが、バクテリアセルロースへの所望の分散剤結合量に応じて適宜設定することができる。また、分散剤が結合したバクテリアセルロースとして、例えば、市販のナノフィブリル化バクテリアセルロース(Fibnano(登録商標)CM-NFBC、Fibnano(登録商標)HE-NFBC、Fibnano(登録商標)HP-NFBC(以上、草野作工)等を用いることもできる。なお、例えば、終濃度0.1±0.006%(w/w)でバクテリアセルロースを含む水の波長500nmの光の透過率が35%以上となるように分散剤の添加量を調節してもよい。例えば、CMCの培地における終濃度を0.5~2.0%(w/w)とすると、終濃度0.1±0.006%(w/w)でバクテリアセルロースを含む水の波長500nmの光の透過率が35%以上に調整することができる。
【0027】
バクテリアセルロース生産菌の培養条件は、上述の細菌の培養に用いられる公知の培養条件とすることができ、例えば、通気量1~10L/分、回転数100~800rpm、温度20~40℃、培養期間1~7日間の培養条件を挙げることができる。また、培地もヘストリン-シュラム(Hestrin-Schramm)標準培地(HS培地)など、上述の細菌の培養に用いられる公知のものを用いることができる。
【0028】
培養液からのバクテリアセルロースの精製について以下に例示する。例えば、まず、培養液に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて60℃程度に加温しながら数時間振とうすることにより菌体を溶解する。これを遠心分離に供し、上清を除去することにより菌体成分を除去して、沈殿物を回収する。続いて、沈殿物に水を加えて遠心分離を行った後、上清を除去する操作を、沈殿物のpHが7以下となるまで繰り返し行う。これにより、分散剤が結合したバクテリアセルロースが水に分散した液体(バクテリアセルロース分散液)を得ることができる。
【0029】
なお、上記のようにして得られるバクテリアセルロース分散液(分散剤の部分を除く)は非常にセルロース純度が高く、その構成糖を分析した場合、90%以上がグルコースである。構成糖の分析は、例えば、液体クロマトグラフ-ポストカラム誘導体化法(H.Mikami et al,32,E207(1983))により行うことができる。バクテリアセルロースとパルプ由来セルロースとについて、精製品を当該方法により分析した結果を表1に例示する。表1は検出された糖の全量を100%とした場合に各糖が占める割合を百分率で示すものである。バクテリアセルロースの精製品は、当該方法により得られるクロマトグラムにおいて、グルコースのピーク以外に目立ったピークは認められない。これに対して、パルプ由来セルロースの精製品のクロマトグラムでは、グルコースの他にキシロースやマンノース、セロビオース等の目立ったピークが認められ、グルコースの含有割合は90%未満となる。この点において、バクテリアセルロースの精製品とパルプ由来セルロースの精製品とは区別することができる。
【0030】
【表1】
【0031】
本発明による凍結融解抵抗性向上剤は、水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性(耐凍害性)を向上させることができる。
【0032】
凍結融解抵抗性の評価は、例えば、JIS A 1148(コンクリートの凍結融解試験方法)のA法(水中凍結水中融解方法)に従い、相対動弾性係数を測定することで行うことができる。より具体的には、例えば、本発明による凍結融解抵抗性向上剤を添加した水硬性無機質硬化体について、JIS A 1148のA法に従って相対動弾性係数を測定し、凍結融解サイクル150回、300回等において、該凍結融解抵抗性向上剤を添加していない水硬性無機質硬化体の相対動弾性係数に比して、測定値が増加している場合に、凍結融解抵抗性が向上した、と判定することがきる。
【0033】
凍結融解抵抗性の評価は、例えば、気泡間隔係数を測定することで行ってもよい。気泡間隔係数は、例えば、ASTM C 457によるリニアトラバース法又はJIS A 1128による圧力法により測定される。一般的に、気泡間隔係数が小さいほど、凍結融解抵抗性に優れているとされる(坂田昇ら:コンクリートの気泡組織と耐凍害性の関係に関する考察,コンクリート工学論文集,Vol.23,No.1,pp.35-47,2012.1)。例えば、本発明による凍結融解抵抗性向上剤を添加した水硬性無機質硬化体について、ASTM C 457によるリニアトラバース法に従って気泡間隔係数を測定し、該凍結融解抵抗性向上剤を添加していない水硬性無機質硬化体の気泡間隔係数に比して、測定値が減少している場合に、凍結融解抵抗性が向上した、と判定することがきる。
【0034】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、本発明による凍結融解抵抗性向上剤を添加することで、水硬性無機質硬化体のフレッシュ時の空気量が増加し、水分が凍結して体積が膨張しても水硬性無機質硬化体に膨張圧がかかりにくくなるため、凍結融解抵抗性(耐凍害性)を向上させることができると考えられる。
【0035】
(2.水硬性無機質硬化体)
次に、本発明による水硬性無機質硬化体について説明する。
【0036】
本発明による水硬性無機質硬化体は、バクテリアセルロースを含有する。
【0037】
水硬性無機質硬化体及びバクテリアセルロースの詳細については、前述同様である。バクテリアセルロースとして、水硬性無機質硬化体内の分散性の観点から、分散剤が結合したバクテリアセルロースを用いるのが好ましい。
【0038】
バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%としてもよい。バクテリアセルロースをバクテリアセルロース繊維含有率で0.005~0.5重量%含有する水硬性無機質硬化体では、凍結融解抵抗性(耐凍害性)のより高い向上効果が得られる。本発明による水硬性無機質硬化体におけるバクテリアセルロースの添加量は、既存のAE剤に比べて少ないため、水硬性無機質硬化体の強度を維持しつつ効果的に凍結融解抵抗性(耐凍害性)の向上効果が発揮される。バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、水硬性無機質硬化体に対して、0.005~0.5重量%、好ましくは、0.006~0.4重量%、より好ましくは、0.007~0.3重量%、さらにより好ましくは、0.0075~0.1重量%である。なお、バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、添加されるバクテリアセルロースのセルロース繊維量を上記同様、光の透過率を用いて測定し、バクテリアセルロースの添加量に基づき算出することができる。
【0039】
(3.水硬性無機質硬化体の製造方法)
次に、本発明による水硬性無機質硬化体の製造方法について説明する。
【0040】
本発明による水硬性無機質硬化体の製造方法は、バクテリアセルロースを添加する工程を含む。
【0041】
水硬性無機質硬化体及びバクテリアセルロースの詳細については、前述同様である。バクテリアセルロースとして、水硬性無機質硬化体内の分散性の観点から、分散剤が結合したバクテリアセルロースを用いるのが好ましい。また、バクテリアセルロースの添加量は、凍結融解抵抗性(耐凍害性)の向上効果の観点から、例えば、水硬性無機質硬化体に対して、バクテリアセルロース繊維含有率で0.005~0.5重量%、好ましくは、0.006~0.4重量%、より好ましくは、0.007~0.3重量%、さらにより好ましくは、0.0075~0.1重量%としてもよい。なお、バクテリアセルロース繊維含有率は、例えば、添加されるバクテリアセルロースのセルロース繊維量を上記同様、光の透過率を用いて測定し、バクテリアセルロースの添加量に基づき算出することができる。
【0042】
(4.結語)
以上説明したように、本発明の凍結融解抵抗性向上剤は、セルロース繊維(好ましくはバクテリアセルロース)を有効成分として含有し、AE剤といった空気連行剤の代替品として使用でき、かつ効果的に水硬性無機質硬化体の凍結融解抵抗性を向上させることができる。なお、水硬性無機質硬化体における添加量について、本発明の凍結融解抵抗性向上剤では、AE剤といった既存の空気連行剤よりも少ない量で、効果的に凍結融解抵抗性向上効果が発揮されるため、空気量が過大となることがなく、水硬性無機質硬化体の強度低下を引き起こすというリスクを低減できるとともに、凍結融解抵抗性に優れた水硬性無機質硬化体を得ることができる。
【0043】
また、バクテリアセルロースを含有する本発明の水硬性無機質硬化体は、凍結融解抵抗性に優れているため、寒冷地の構造物の材料として有効に利用することができ、構造物の耐用年数を延ばすことができる。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
バクテリアセルロースナノファイバーを添加したモルタルの凍結融解抵抗性向上効果について検証した。
【0046】
(使用材料)
モルタルとして、セメント、細骨材及び水を混合したものを用いた。セメントについては、普通ポルトランドセメント(密度:3.17g/cm)、細骨材については、登別産陸砂(表乾密度:2.73g/cm、絶乾密度:2.68g/cm、吸水率:1.72%)を使用した。本実験では、水セメント比50%、セメント砂比1:3とし、混練水量にバクテリアセルロースを含む内割り添加で試験体を作製した。
【0047】
バクテリアセルロースとして、バクテリアセルロースナノファイバー(以下、NFBC)を用いた。NFBCとして、砂糖や糖蜜を原料に発酵により生成した培養液(以下、B)並びにこれより菌体及び培地成分を取り除いた精製物(以下、P)の2種類を使用した。B(NFBC培養液)及びP(NFBC精製物)の外観を図1に示す。また、B及びPの物性を以下に示す。
・B(NFBC培養液)
発酵により生成したセルロースナノファイバー
繊維の他に菌体や培地成分を含む培養液
繊維量:0.3wt%
繊維幅:20~60nm
繊維長さ:100~500μm
・P(NFBC精製物)
Bから菌体や培地成分を取り除いた精製物
繊維量:1wt%
繊維幅:20~60nm
繊維長さ:100~500μm
【0048】
B(NFBC培養液)の調製方法について以下に示す。HS培地(組成;bacto pepton 0.5%(w/v)、yeast extract 0.5%(w/v)、NaHPO 0.27%(w/v)、クエン酸 0.115%(w/v)、グルコース 2%(w/v))に、終濃度2%(w/v)となるよう分散剤(カルボキシメチルセルロース:CMC)を添加した。バクテリアセルロース生産菌であるGluconacetobacter intermedius SIID9587株(受託番号NITE BP-01495;平成24年(2012年12月21日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託)を植菌して、通気量 7~10L/分、回転数200~500rpm、温度30℃の条件下で通気撹拌培養を3日間行うことによりバクテリアセルロースを産生させ、これをB(NFBC培養液)とした。
【0049】
P(NFBC精製物)として、市販のナノフィブリル化バクテリアセルロース(Fibnano(登録商標)CM-NFBC、草野作工)を使用した。
【0050】
Bの添加率は、予備実験より、材齢1日で脱型できる最大添加率であるセメントに対して質量比で2.5%と設定した(バクテリアセルロース繊維含有率:0.0075wt%)。また、Pの添加率は,0.75wt%(バクテリアセルロース繊維含有率:0.0075wt%)、2.5wt%(バクテリアセルロース繊維含有率:0.025wt%)、5.0wt%(バクテリアセルロース繊維含有率:0.05wt%)及び10.0wt%(バクテリアセルロース繊維含有率:0.1wt%)の4水準とした。なお、対照(比較例)として、B又はPを添加していない試験区でも同様の検討を行った(図2~6において「N」)。図2~6におけるB及びPのバクテリアセルロース繊維含有率について以下に示す。
・B2.5 :0.0075wt%
・P0.75:0.0075wt%
・P2.5 :0.025wt%
・P5.0 :0.05wt%
・P10.0:0.1wt%
【0051】
(フローの測定)
フローの測定は、JIS R 5201に準じて行った。
【0052】
フローの測定結果を図2に示す。Bを添加した場合、フローは増加した。一方、Pを添加した場合、添加率増加に伴いフローは低下した。これは、P中の繊維によってセメントペーストが拘束されたことによる可能性が考えられる。既往の研究において、ポリプロピレン短繊維や鋼繊維の混入により流動性が低下したことが報告されており(コンクリート工学年次論文集,Vol.39,No.1,pp.265-270,2017.6;農業農村工学会論文集,No.308(87-1),pp.I_117-I_122,2019.6;土木学会論文集,Vol.296,pp.111-119,1980.4)、他の繊維同様、Pの添加によっても流動性が低下することが確認された。Bの添加によりフローが増加した原因としては、Pとは異なり、菌体や培地成分などの不純物が含まれていることから、この不純物に起因するものではないかと考えられるが、その詳細な機構については不明である。
【0053】
(空気量の測定)
空気量の測定は、JIS A 1128に準じて行った。
【0054】
フレッシュ時の空気量の測定結果を図3に示す。フレッシュ時において、B及びPの添加により、NFBC非添加の対照(N)と比較して、空気量が増加した。一方で、Pの添加量の違いによる空気量の差はみられなかった。
【0055】
(気泡間隔係数の測定)
ASTM C 457のリニアトラバース法に準じて気泡間隔係数を測定した。なお、試験体は、40×40×160mmの角柱試験体を4週間、20℃での水中養生後、40×40×10mmにカットし、カット面を#80、#320、#1000、#1500の研磨砂で研磨し、超音波洗浄器で洗浄したものを用いた。
【0056】
リニアトラバース法による気泡間隔係数の測定結果を図4に示す。B及びPの添加により、気泡間隔係数が小さくなることが確認された。このことから、B及びPの添加により、気泡組織を改善する可能性が考えられる。
【0057】
(凍結融解試験)
40×40×160mmの角柱試験体を、4週間、20℃での水中養生後、JIS A1148のA法に準じて、相対動弾性係数の測定を行った。
【0058】
相対動弾性係数と凍結融解回数の関係を図5に示す。NFBC非添加の対照(N)では、凍結融解回数が50cycle付近で相対動弾性係数が60%を下回る結果となり、非常に耐凍害性が低いモルタルであることが示唆された。一方、B及びPを用いた場合では、いずれも凍結融解回数が150cycleを超えても相対動弾性係数が60%以上に維持される結果となり、凍結融解による劣化が抑制された。B及びPの凍結融解抵抗性向上効果の要因として、B及びPの添加により空気量が増加したこと、気泡間隔係数が小さくなったことが考えられた(一般的に、気泡間隔係数が小さいほど耐凍害性に優れている(コンクリート工学論文集,Vol.23,No.1,pp.35-47,2012.1))。
【0059】
また、P10.0(バクテリアセルロース繊維含有率:0.1wt%)の相対動弾性係数と凍結融解回数の関係を図6に示す。NFBC非添加の対照(N)では、凍結融解回数が50cycle付近で相対動弾性係数が40%を下回る結果となり、非常に耐凍害性が低いモルタルであることが示唆された。一方、P10.0を用いた場合では、凍結融解回数が200cycleを超えても相対動弾性係数が60%以上に維持される結果となり、凍結融解による劣化が顕著に抑制された。
【0060】
以上より、バクテリアセルロースナノファイバーを含有する本実施例のモルタルでは、気泡間隔係数が小さく、また、凍結融解回数が150cycleを超えても相対動弾性係数が60%以上に維持されており、凍結融解抵抗性(耐凍害性)に優れることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6