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特開2022-1707305’→3’エキソヌクレアーゼ活性等を有するDNAポリメラーゼを使用した遺伝子ライブラリーの新規調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170730
(43)【公開日】2022-11-10
(54)【発明の名称】5’→3’エキソヌクレアーゼ活性等を有するDNAポリメラーゼを使用した遺伝子ライブラリーの新規調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6853 20180101AFI20221102BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20221102BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20221102BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221102BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C12Q1/6853 Z
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073298
(22)【出願日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021075856
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 信也
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】次世代シーケンサーを用いて主に複数の遺伝子を標的とする場合において、経済的、簡便、高感度に最終人工配列付加産物を取得できる技術の提供。
【解決手段】標的とする核酸配列に人工核酸配列を付加した核酸を調製する方法は、
(1)標的とする核酸配列に特異的なプライマー対の各々に、一部の配列が付加されているプライマー対を用いた核酸増幅法により、一部の配列を5’末端に有する特異的産物を得る工程、
(2)1対のオリゴDNAを用い、DNAポリメラーゼによって前記工程で得られた3’末端に相補的配列を付加した産物を生成する工程、
(3)相補付加産物が、当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域に、5’人工配列導入プライマー対を結合させ、プライマーの3’末端を、伸長方向に塩基対が存在する状況であっても伸長が可能なDNAポリメラーゼを使用し、伸長させることにより最終人工配列付加産物を得る工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的とする核酸配列に人工核酸配列を付加した核酸(以下、最終人工配列付加産物)を調製する方法であって、下記の(1)~(3)の工程を含む前記方法。
(1)標的とする核酸配列に特異的なプライマー対の各々に、人工核酸配列A又はBの配列のうち、少なくとも一部の配列が付加されているプライマー対(以下、人工付加特異プライマー対)を1対以上用いた核酸増幅法により、人工核酸配列Aのうち少なくとも一部の配列を一方の5’末端側に有し、人工核酸配列Bのうち少なくとも一部配列を他方の5’末端に有する特異的産物(以下、人工AB付加産物)を得る工程、
(2)下記3点を特徴とする1対のオリゴDNA(以下、3’人工配列導入オリゴ対)を用い、DNAポリメラーゼによって、前記(1)の工程にて得られた人工AB付加産物の3’末端を伸長させ、人工AB付加産物の3’末端に人工核酸配列C又はDをの相補的配列を付加した産物(以下、3’人工CD相補付加産物)を生成する工程、及び
特徴1:人工付加特異プライマーに存在する人工核酸配列A又はBの少なくとも一部と同じ配列を3’末端側に有する。
特徴2:人工AB付加産物に付加する人工核酸配列C又はDを5’末端側に有する。
特徴3:DNAポリメラーゼによる核酸伸長を防止するため、3’末端が標識されている。
(3)前記(2)の工程において生成された3’人工CD相補付加産物が、当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域に、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(e)および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対(以下、5’人工配列導入プライマー対)を結合させ、当該プライマーの3’末端を、伸長方向(3’末端方向)に塩基対が存在する状況であっても伸長が可能なDNAポリメラーゼを使用し、伸長させることにより最終人工配列付加産物を得る工程
【請求項2】
(4)(3)の工程にて生成される産物のうち、5’末端に人工核酸配列が付加されているが、3’末端に人工核酸配列の相補的配列が付加されていない産物について、当該産物を解離させた上で再結合させることで生じる一本鎖領域を、DNAポリメラーゼの伸長反応により二本鎖として、最終人工配列付加産物を得る工程をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
人工付加特異プライマー対は、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなり、
3’人工配列導入オリゴ対は、3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含み、
5’人工配列導入プライマー対は、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)を含む請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
請求項1、3に記載された人工付加特異プライマー対に関する特徴に加え、下記2点の特徴を有する人工付加特異プライマーを少なくとも1種含む当該プライマー対を使用することにより、人工AB付加産物への3’人工配列導入オリゴの結合効率を向上させ、3’人工CD相補付加産物の生成量を増加させることが可能な請求項1~3のいずれかに記載の方法。
特徴1:5’末端に、人為的に分子内2次構造を形成させることを目的とした配列を導入した人工付加特異プライマー。
特徴2:人工付加特異プライマーの5’末端に導入した上記特徴1に記載した配列の5’末端、または当該配列鎖中に、ブロッカーを導入した人工付加特異プライマー
【請求項5】
請求項1、3に記載された3’人工配列導入オリゴ対に関する特徴に加え、下記2点の特徴を有する3’人工配列導入オリゴを少なくとも1種含む当該オリゴ対を使用することにより、3’人工CD相補付加産物が当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域への5’人工配列導入プライマー対の結合効率を向上させ、最終人工配列付加産物の生成量を増加させることが可能な請求項1~4のいずれかに記載の方法。
特徴1:5’末端に、人為的に分子内2次構造を形成させることを目的とした配列を導入した3’人工配列導入オリゴ。
特徴2:上記特徴1に記載した3’人工配列導入オリゴの5’末端に導入した配列の5’末端、または当該配列鎖中に、ブロッカーを導入した3’人工配列導入オリゴ
【請求項6】
耐熱性DNAポリメラーゼであるSD polymerase(バイオロン)を、製造メーカープロトコルの指定量以上に添加することによって、最終人工配列付加産物の生成量を増加させることが可能な請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
反応工程(1)において、人工AB付加産物が最初に生成されるサイクルの次のサイクル以降において、当該反応の増幅反応に悪い影響を与えることがない範囲でアニーリング温度を上昇させることにより、反応工程(2)以降で働く3’人工配列導入オリゴ対、および/または5’人工配列導入プライマー対が、反応工程(1)において機能しない温度条件にて反応工程(1)を実施することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
(1)~(3)の工程または(1)~(4)の工程を1回の反応により同時進行させる請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
1回の反応により1種類以上の標的核酸配列に人工核酸配列を付加する請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
下記の(i)~(iii)を含む、最終人工配列付加産物を作製するためのキット。
(i)3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる人工付加特異プライマー対を、少なくとも1対以上含むことを特徴とする人工付加特異プライマー対群、
(ii)3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含むことを特徴とする3’人工配列導入オリゴ対、及び
(iii)人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対を含むことを特徴とする5’人工配列導入プライマー対
【請求項11】
請求項4に記載の人工付加特異プライマー対、または/および請求項5に記載の3’人工配列導入オリゴ対を含む、請求項10に記載の最終人工配列付加産物を作製するためのキット。
【請求項12】
さらに、DNAポリメラーゼを含む請求項10または11のいずれかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に特定の核酸配列群の検出または配列決定を行うアッセイに関する。特定の実施形態において、本発明は標的とする核酸配列に、検体を識別するための人工核酸配列であるバーコード配列を含む1つ以上の人工的に設計された核酸配列(以下、人工核酸配列)が付加される増幅方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
特定の核酸配列を検出することは、医療における遺伝子診断、食品における衛生検査、環境におけるモニタリングなど、多くの分野に渡って用いられている。
【0003】
加えて、近年次世代シーケンサーが台頭し、従来法のシーケンス法と比べて核酸配列決定が格段に容易になったことから、新たな解析手法として広がりを見せている。
【0004】
次世代シーケンサーにて、複数検体由来の増幅産物の混合物を供するためには、配列決定を行いたい核酸断片の両末端に、検体を識別するためのバーコード配列を含む特定の人工核酸配列が付加されていなくてはならず、そのための核酸増幅反応ステップが、標的とする核酸配列を増幅するステップに加えて必要である。
【0005】
標的とする核酸配列に特異的なプライマーの5’末端側に、あらかじめバーコード配列を含む特定の人工核酸配列が付加されているプライマーを用いても、次世代シーケンサーに供する核酸断片を得ることが可能である(先行技術1)。しかしながら、本法では核酸配列の種類ごとに検体の数だけバーコード配列が異なるプライマーを用意しなければならず、極めて不経済である(図1)。
【0006】
人工核酸配列が付加された増幅産物を経済的に得るための手段として、2段階のPCRを実施する方法(先行技術2)が一般的に用いられる(非特許文献1)。当該手法では、まず、人工核酸配列の3’末端側の一部を特異的配列の5’末端側に付加したプライマー(以下、人工付加特異プライマー)を用いて1回目のPCRを行い、標的核酸由来の産物を得る。続いて、当該産物を精製した後に、これを鋳型として、バーコード配列等の人工核酸配列を3’末端側に有するプライマー(以下、人工配列プライマー)を用いた2回目のPCRを実施する。上記した2回のPCRにより、標的核酸の両末端に人工核酸配列が付加された増幅産物(以下、最終人工配列付加産物)を得ることができる(図2)。
【0007】
しかしながら、先行技術2では、PCRを2回実施する必要性があり、また1回目のPCRによって得られた特異的産物を精製のうえ、濃度調整する必要性があることから、工程が煩雑であり、時間を要する作業となる。
【0008】
経済的かつ簡便に最終人工配列付加産物を得るための手段として、1つのPCR反応液に、人工付加特異プライマー対及び、人工配列プライマー対の両方を同時に添加した上で、増幅反応を行い、1回のPCRにて、最終人工配列付加産物を得ることが可能な手法(先行技術3)が開示されている(特許文献1、2)。
【0009】
特許文献1,2によれば、人工付加特異プライマーの濃度を、人工配列プライマーの濃度より低くすることで、全標的配列に共通に付加された人工核酸配列に結合可能な人工配列プライマーが増幅反応を支配的に行うことができることから、最終人工配列付加産物を効率的に得ることができ、かつ標的核酸が複数の場合は、遺伝子間の増幅効率のばらつきを抑制することができる(図3)。
【0010】
しかし、先行技術3を用いて次世代シーケンサーに供するための核酸配列を調製する場合、高い濃度で用いる人工配列プライマーが約60~70塩基と長鎖になるため、プライマー・ダイマーが高濃度に増幅される可能性が高まる。標的とする核酸配列が複数になる場合、用いる人工付加特異プライマーの種類が増えるため、同プライマー由来のプライマー・ダイマーが高頻度で生成される。これにより、次世代シーケンサー解析の際に標的配列以外の配列の割合が高まるという問題が生じる。
【0011】
加えて、標的とする核酸配列の種類が増えると、人工付加特異プライマーの総量が増え、結果として人工配列プライマーが増幅反応を支配的に行うことができず、人工核酸配列が付加されていない核酸配列の割合が高くなってしまうという問題点がある。
【0012】
前記の問題点の解決が可能な手法(先行技術4)が提案されている(特許文献3)。先行技術4では、標的遺伝子配列に人工核酸配列を付加する反応において、人工付加特異プライマーの他に、長鎖の人工配列プライマー(以下、長鎖人工配列プライマー。図4中の「プライマー対Y」)、短鎖の人工配列プライマー(以下、短鎖人工配列プライマー。図4中の「プライマー対Z」)の2対の人工配列プライマーを用いることで、プライマーに由来する非特異的配列の増幅を抑制でき、かつ目的とする最終人工配列付加産物を効率よく増幅できる手法が開示されている。さらに、人工付加特異プライマー、及びバーコード配列等を含む人工配列プライマー(プライマー対Y)濃度を低く、短鎖のプライマー(プライマー対Z)濃度を高くすることで、最終人工配列付加産物をより効率よく増幅させることが可能である旨、記載されている。
【0013】
しかしながら、先行技術4では、人工付加特異プライマー対、長鎖人工配列プライマー対、短鎖人工配列プライマー対の少なくとも3組のプライマーを用いており、3種のPCR反応が同時に進行することから、前記3組のプライマーが、1つのPCR反応液中において同時かつ適正に機能するよう、反応条件を厳密に最適化する必要性がある。
【0014】
上記した原理的な特徴より、先行技術4は、(1)標的核酸毎に反応条件の厳密な最適化が必要であり、本作業に過大な時間と労力を要する、(2)プライマー対を1組のみ使用する通常のPCRと比較して感度が低く、より多くの初期鋳型(標的遺伝子)が必要といった問題点を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Applied and Environmental Microbiology, 2013 September 79(17):5112-5120.
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO2006/023919
【特許文献2】特表2012-522517
【特許文献3】特許第5997407号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、次世代シーケンサーを用いて主に複数の遺伝子を標的とする場合において、経済的、簡便、高感度に最終人工配列付加産物を取得できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記の課題を解決するにあたり、経済的、簡便、高感度であり、効率よく最終人工配列付加産物を得る手法について検討を重ねた。
【0019】
その結果、
(1) 人工付加特異プライマー対を用いたPCR等の核酸増幅法により、人工核酸配列Aのうち少なくとも一部の配列を一方の5’末端側に有し、人工核酸配列Bのうち少なくとも一部配列を他方の5’末端に有する特異的産物(以下、人工AB付加産物)を得る工程
(2) 下記3点を特徴とする1対のオリゴDNA(以下、3’人工配列導入オリゴ)を用い、DNAポリメラーゼによって、前記(1)の工程にて得られた人工AB付加産物の3’末端を伸長させ、人工AB付加産物の3’末端に人工核酸配列C又はDの相補的配列を付加した産物(以下、3’人工CD相補付加産物)を得る工程
特徴1:人工付加特異プライマーに存在する人工核酸配列の少なくとも一部と同じ配列を3’末端側に有する。
特徴2:人工AB付加産物に付加する人工核酸配列C又はDを5’末端側に有する。
特徴3:DNAポリメラーゼによる核酸伸長を防止するため、3’末端が標識されている。
(3) 前記(2)の工程において生成される3’人工CD相補付加産物が、当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域に相補的であるプライマー(以下、5’人工配列導入プライマー)を1対用い、これを上記の一本鎖領域に結合させ、当該プライマーの3’末端を、伸長方向(3’末端方向)に塩基対が存在する状況であっても伸長が可能なDNAポリメラーゼを使用し伸長させる工程。
を、前記した組成(DNAポリメラーゼ、各種オリゴDNAなど)を、全て添加した1ステップの反応により進行させることが可能であり、その結果、目的とする最終人工配列付加産物を、経済的、簡便、高感度、かつ高効率に得ることが可能であった。
(4) 5’末端領域に分子内2次構造を有すると共に、分子内2次構造の形成を目的として追加した配列の3’末端、あるいは当該配列鎖中にDNAの伸長をブロックさせる機能を有する物質(以下、ブロッカー)を挿入した人工付加特異プライマー(以下、人工付加特異SLプライマー)を使用することで、人工AB付加産物への3’人工配列導入オリゴの結合効率を向上させ、3’人工CD相補付加産物の生成量を増加させることが可能であった。
(5) 5’末端領域に分子内2次構造を有すると共に、分子内2次構造の形成を目的として追加した配列の3’末端、あるいは当該配列鎖中にブロッカーを挿入した3’人工配列導入オリゴ(以下、3’人工配列導入SLオリゴ)を使用することで、3’人工CD相補付加産物への5’人工配列導入プライマーの結合効率、並びに5'人工配列導入効率をそれぞれ向上させることが可能であり、その結果、最終人工配列付加産物の生成量を増加させることが可能であった。
(6) 耐熱性DNAポリメラーゼであるSD polymerase(バイオロン)を、メーカープロトコルの指定量以上添加することによって、最終人工配列付加産物量を著しく増加させることが可能であった。
(7) 反応工程(1)(PCR反応)の3サイクル目以降のアニーリング温度を、反応工程(1)に悪影響を与えない範囲で上昇させることにより、反応工程(2)以降で働くプライマー、又はオリゴDNAが、反応工程(1)において機能しない温度条件を容易に実現でき、反応工程(1)とそれ以降の工程を確実に分離することが可能であることを見出し、当該変更によって、反応工程(1)にて機能する人工付加特異プライマーに関する設計の自由度が増し、本発明を適用することが可能な遺伝子の拡大(汎用性の拡大)に繋がった。
本発明はかかる発見に基づいて完成されたものである。
【0020】
このような技術は、様々な目的の解析に適用されうる。例えば、遺伝子変異の箇所を特定するために、がんの原因となりうる遺伝子を網羅的に解析することができる。その他にも、本技術は、種々のSNP解析、遺伝子変異解析、遺伝子発現解析、微生物相解析において、次世代シーケンサーを用いる際に好適に利用可能であるが、検査対象が核酸増幅産物であり、人工核酸配列を付加し検体を識別することで複数の標的遺伝子を解析する手法であれば、その適用範囲は制限されるものではない。
【0021】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕標的とする核酸配列に人工核酸配列を付加した核酸(以下、最終人工配列付加産物)を調製する方法であって、下記の(1)~(3)の工程を含む前記方法。
(1)標的とする核酸配列に特異的なプライマー対の各々に、人工核酸配列A又はBの配列のうち、少なくとも一部の配列が付加されている人工付加特異プライマー対を1対以上用いて核酸増幅法により人工AB付加産物を得る工程、
(2)下記3点を特徴とする1対の3’人工配列導入オリゴ対を用い、DNAポリメラーゼによって、前記(1)の工程にて得られた人工AB付加産物の3’末端を伸長させ、人工AB付加産物の3’末端に人工核酸配列C又はDをの相補的配列を付加した3’人工CD相補付加産物を生成する工程
特徴1:人工付加特異プライマーに存在する人工核酸配列A又はBの少なくとも一部と同じ配列を3’末端側に有する。
特徴2:人工AB付加産物に付加する人工核酸配列C又はDを5’末端側に有する。
特徴3:DNAポリメラーゼによる核酸伸長を防止するため、3’末端が標識されている。
(3)前記(2)の工程において生成された3’人工CD相補付加産物が、当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域に、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(e)および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対(以下、5’人工配列導入プライマー対)を結合させ、当該プライマーの3’末端を、伸長方向(3’末端方向)に塩基対が存在する状況であっても伸長が可能なDNAポリメラーゼを使用し、伸長させることにより人工配列付加産物を得る工程
〔2〕(4)(3)の工程にて生成される産物のうち、5’末端に人工核酸配列が付加されているが、3’末端に人工核酸配列の相補的配列が付加されていない産物について、当該産物を解離させた上で再結合させることで生じる一本鎖領域を、DNAポリメラーゼの伸長反応により二本鎖として、人工配列付加産物を得る工程をさらに含む〔1〕記載の方法。
〔3〕人工付加特異プライマー対は、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなり、
3’人工配列導入オリゴ対は、3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含み、
5’人工配列導入プライマー対は、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)を含む〔1〕または〔2〕のいずれかに記載の方法。
〔4〕〔1〕~〔3〕に記載された人工付加特異プライマー対に関する特徴に加え、下記2点の特徴を有する人工付加特異プライマー対を使用することにより、人工AB付加産物への3’人工配列導入オリゴの結合効率を向上させ、3’人工CD相補付加産物の生成量を増加させることが可能な〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
特徴1:人工付加特異プライマーの5’末端に、当該プライマーの少なくとも一部配列に相補的な配列を導入することで、人為的に分子内2次構造を形成させた人工付加特異プライマー
特徴2:人工付加特異プライマーの5’末端に導入した上記特徴1に記載した配列の3’末端、または当該配列鎖中に、ブロッカーを導入した人工付加特異SLプライマー
〔5〕〔1〕~〔3〕に記載された3’人工配列導入オリゴ対に関する特徴に加え、下記2点の特徴を有する当該オリゴ対を使用することにより、3’人工CD相補付加産物が当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域への5’人工配列導入プライマー対の結合効率を向上させ、最終人工配列付加産物の生成量を増加させることが可能な〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
特徴1:3’人工配列導入オリゴの5’末端に、当該オリゴの少なくとも一部配列に相補的な配列を導入することで、人為的に分子内2次構造を形成させた3’人工配列導入オリゴ。
特徴2:上記特徴1に記載した3’人工配列導入オリゴの5’末端に導入した配列の3’末端、または当該配列鎖中に、ブロッカーを導入した3’人工配列導入SLオリゴ
〔6〕耐熱性DNAポリメラーゼであるSD polymerase(バイオロン)を、製造メーカープロトコルの指定量以上に添加することによって、最終人工配列付加産物の生成量を増加させることが可能な〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕反応工程(1)において、人工核酸配列Aのうち少なくとも一部の配列を一方の5’末端側に有し、人工核酸配列Bのうち少なくとも一部配列を他方の5’末端に有する人工AB付加産物が最初に生成されるサイクルの次のサイクル以降において、当該反応の増幅反応に悪い影響を与えることがない範囲でアニーリング温度を上昇させることにより、反応工程(2)以降で働く3’人工配列導入オリゴ対、および/または5’人工配列導入プライマー対が、反応工程(1)において機能しない温度条件にて反応工程(1)を実施することを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕(1)~(3)の工程または(1)~(4)の工程を1回の反応にて進行させる〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕1回の反応により1種類以上の標的核酸配列に人工核酸配列を付加する〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕下記の(i)~(iii)を含む、人工配列付加産物を作製するためのキット。
(i)3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる人工付加特異プライマー対を、少なくとも1対以上含むことを特徴とする人工付加特異プライマー対群、
(ii)3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含むことを特徴とする3’人工配列導入オリゴ対、及び
(iii)人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対を含むことを特徴とする5’人工配列導入プライマー対
〔11〕〔4〕に記載の人工付加特異プライマー対、または/および〔5〕に記載の3’人工配列導入オリゴ対を含む、〔10〕に記載の最終人工配列付加産物を作製するためのキット。
〔12〕さらに、DNAポリメラーゼを含む〔10〕または〔11〕のいずれかに記載のキット。
【0022】
本発明は、
(1) 3’末端側に標的核酸に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的核酸に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる人工付加特異プライマー対を、少なくとも1対以上含むことを特徴とする人工付加特異プライマー対群
(2) 3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含むことを特徴とする3’人工配列導入オリゴ対
(3) 人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)を含むことを特徴とする5’人工配列導入プライマー対
により構成されるプライマー/オリゴDNAセット、耐熱性DNAポリメラーゼ等の反応試薬を用いて、1種以上の標的核酸由来の最終人工配列付加産物を取得する方法を提供する。
【0023】
本発明は、例えば試料中の1種類の核酸配列を増幅し、当該増幅産物の両末端にバーコード配列を含む人工核酸配列を付加する方法を提供する。具体的な実施形態として一例を挙げ、その内容について以下に記載する(図5図7参照)。
【0024】
図5図7に記載の実施形態にて用いる反応溶液は、前記(1) ~(3)に記載のプライマー/オリゴDNAセット、および耐熱性DNAポリメラーゼをはじめとするPCR試薬類を含み、これらを用いて、下記(1)~(3)の反応工程を実施すること、また、下記の反応工程(1)~(3)において最終人工配列付加産物が生成されない、または当該産物の生成が不十分である場合、反応工程(1)~(3)に加えて、反応工程(4)を実施することで、目的とする最終人工配列付加産物を取得する。
反応工程(1) 前記(1)に記載の人工付加特異プライマー対を用いたPCRにより、標的核酸の一方の末端に人工核酸配列Aのうち少なくとも一部の配列、他方の末端に人工核酸配列Bのうち少なくとも一部の配列が存在する標的核酸由来の人工AB付加産物を得る反応工程
反応工程(2) 前記(2) に記載の3’人工配列導入オリゴを用い、DNAポリメラーゼの作用により、前記反応工程(1)にて得られた人工AB付加産物の一方の3’末端に人工核酸配列Cの相補的配列を付加すると共に、他方の3’末端に人工核酸配列Dの相補的配列を付加することによって3’人工CD相補付加産物を取得する反応工程
反応工程(3) 前記(3) に記載の5’人工配列導入プライマーが、ハイブリダイス可能な温度にアニーリング温度を調整し、当該オリゴを、前記の反応工程(2)にて得られた3’人工CD相補付加産物の一本鎖部位にハイブリダイスさせ、伸長方向に存在する塩基対をDNAポリメラーゼが持つ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性または鎖置換活性にて排除しつつ、5’人工配列導入プライマーの3’末端を可能な限り伸長させることで、5’末端に人工核酸配列C、または Dが付加され、反応工程(2)にて付加された人工核酸配列CまたはDの相補的配列が排除された産物(以下、5’人工CD付加産物)、またはDNAポリメラーゼが保有する鋳型交換反応によって最終人工配列付加産物を取得する工程
反応工程(4) 前記の反応工程(3)において、鋳型交換反応が発生しない、または当該反応の効率が低く、その結果、5’人工CD付加産物が主な反応生成物として生成され、最終人工配列付加産物が生成されない、もしくは当該産物の生成が不十分である場合、反応液温度を調整することで5’人工CD付加産物を再結合させ、その結果生じた一本鎖部位を、DNAポリメラーゼによる5’→3’末端への伸長反応によって二本鎖とすることで目的とする最終人工配列付加産物を取得する反応工程
本発明では、使用するDNAポリメラーゼの特性によって反応工程(3)の反応機構が異なることから、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いた際の反応工程(3)以降の実施形態図は図6として、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを用いた際の反応工程(3)以降の実施形態図を図7として、それぞれ示した。
【0025】
なお、反応工程(1)、(2)については、DNAポリメラーゼの特性によって反応機構は変化せず、DNAポリメラーゼに依らず共通となる(図5-1、5-2)。
【0026】
本発明の実施形態には、以下に示す多様なバリエーションが存在する。
(1) 2対以上の人工付加特異プライマー対を、3’人工配列導入オリゴ対、および5’人工配列導入プライマーと共に使用し、前記の反応工程を実施することで標的核酸由来の2種以上の最終人工配列付加産物を取得する。
【0027】
(2) 前記反応工程(1)~(4)は、別々に実施することも可能であり、目的に応じて反応工程を任意に分離・利用することも可能である。しかし、反応開始前に同一反応液に必要資材を全て添加し、一回の反応にて、前記反応工程を連続的に進行させる実施形態のほうが、経済性、簡便性の面において有利と考えらえる。
【0028】
(3) 本発明の手法では、5’人工配列導入プライマーの短鎖化等により、反応工程(1)、(2)と反応工程(3)以降の反応工程を分離させることにより、互いの反応を切り離して進行させることが可能である。その場合、最終人工配列付加産物の生成は、反応工程(1)、(2)では発生せず、反応工程(3)以降でのみ発生することから、3’人工CD相補付加産物の濃度を上限とする範囲において、5’人工配列導入プライマーの濃度に依存し生成されることとなる。このため、5’人工配列導入プライマーの濃度を調整することにより、最終人工配列付加産物を目標濃度に調製することが可能である。
【0029】
加えて、反応工程(1)、(2)において反応工程(3)以降の反応工程が同時に進行した場合、人工付加特異プライマーおよび5’人工配列導入プライマーが同時に機能することから、プライマー・ダイマーをはじめとする非特異的産物が増幅される可能性が高まる。
【0030】
反応工程(1)、(2)において反応工程(3)以降の反応工程が進行しないようにするためには、5’人工配列導入プライマーを短鎖化(以下、短鎖5’人工配列導入プライマー)し、当該プライマーが、反応工程(1)、(2)において機能しないよう、当該反応工程の温度条件を、短鎖5’人工配列導入プライマーのTm値よりも高い温度に設定することで達成することができる。
【0031】
以上より、5’人工配列導入プライマーの濃度を調整し、最終人工配列付加産物を目標濃度に調製することや、非特異的増幅産物の増幅を抑制する上で、短鎖5’人工配列導入プライマーを使用することが望ましい。
【0032】
(4) 反応工程(3)において、3’人工CD相補付加産物の一本鎖部位にギャップが生じない5’人工配列導入プライマーを使用し、当該オリゴの伸長方向に存在する塩基対をDNAポリメラーゼが持つ各種活性(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性、鎖置換活性等)にて排除しつつ、当該オリゴの3’末端を可能な限り伸長させることで、最終人工配列付加産物および5’人工CD付加産物を取得することも可能である。但し、その場合、以下に記載する課題が生じる。
1. 5’人工配列導入プライマーが長鎖化するため、反応工程(1)、(2)の反応温度において、当該オリゴ同士、および当該オリゴと人工付加特異プライマー、3’人工配列導入オリゴ、人工AB付加産物、および3’人工CD相補付加産物等が相互作用しやすく、その結果、不要な非特異的産物が生成される可能性が高くなる。
2. 5’人工配列導入プライマーの長鎖化により、反応工程(1)、(2)の温度条件において反応工程(3)が同時に進行するため、反応工程(1)のPCR反応が進行中に最終人工配列付加産物が生成されると共に、当該産物を鋳型とした増幅反応が、5’人工配列導入プライマーおよび人工付加特異プライマーをプライマー対として進行することとなる。その結果、5’人工配列導入プライマーの濃度調整により最終人工配列付加産物の濃度を調整することが困難となる。
3. 5’人工配列導入プライマーが、バーコード配列を含む際は、当該オリゴをバーコードの種類と同数準備する必要性があるため経済性が低い。
【0033】
以上より、特段の理由がない限り、5’人工配列導入プライマーは、バーコード配列を含まず反応工程(1)、(2)において前記した各種核酸と相互作用しないよう可能な範囲で短鎖化し、反応工程(3)を反応工程(1)、(2)から、それぞれ切り離して進行させる条件にて実施する形態が望ましい。
【0034】
(5) 反応工程(1)においてアニーリング温度を高温に設定することができれば、反応工程(1)と反応工程(2)のアニーリング温度との差異、および反応工程(2)と反応工程(3)のアニーリング温度との差異を十分に確保することが可能となる。その結果、反応工程(2)で機能する3’人工配列導入オリゴ対が、反応工程(1)において機能しないよう、また反応工程(3)で機能する5’人工配列導入プライマーが反応工程(1)および(2)において機能しないよう、それぞれ設計することが容易となり、各反応工程のアニーリング温度条件を大きく変化させることで、反応工程(1)~(3)を順番に進行させることが可能となる。
【0035】
その結果、各反応工程において、他の反応工程で機能するオリゴDNAやプライマーが機能する可能性を低減することができるため、各反応工程における反応スキームが単純化されることから、各反応工程の条件至適化やトラブルシューティングが容易になると共に、反応工程(1)以外は、標的核酸に依らず共通する反応であることから、標的核酸毎に必要となる反応条件の最適化は反応工程(1)のみとなり、反応工程(2)、(3)の反応条件を標的核酸毎に最適化する必要はなくなる、といったメリットが生じる。
【0036】
前記を実現するためには、以下の条件設定が必要となる。
条件1.人工付加特異プライマーのTm値と、3’人工配列導入オリゴ対とのTm値との間に差異を十分に設けることで反応工程(1)、(2)間のアニーリング温度の差異を確保する。
条件2.3’人工配列導入オリゴ対と5’人工配列導入プライマーとのTm値との間に差異を十分に設けることで、反応工程(2)、(3)のアニーリング温度の差異を確保する。
条件3.反応工程(3)のアニーリング温度は、当該反応が十分に進行する温度に設定する。
【0037】
しかしながら、反応工程(1)のアニーリング温度は、人工付加特異プライマーのうち、標的核酸に相補的な配列のみが単独で結合可能な温度に設定するため、標的核酸によっては反応工程(1)~(3)を順番に進行させる上で十分なアニーリング温度の差異を確保することが困難なケースが想定される。例えば、反応工程(3)のアニーリング温度を、当該工程の正常な反応を担保する上でほぼ下限値と想定される40℃をとし、反応工程(1)と(2)のアニーリング温度の差異、及び反応工程(2)と(3)のアニーリング温度の差異を各々10℃確保した場合、反応工程(1)のアニーリング温度は60~72℃となるが、これは一般的なPCRのアニーリング温度範囲(50~72℃)の約半分となる(図8a)。このように、前記した方法では、人工付加特異プライマー設計の制限大きくなることから、本発明における標的核酸の適用範囲を狭める結果となるため、何らかの改良を行うとよい。
【0038】
当該改良方法を図9として示す。本改良法における反応工程(1)のアニーリング温度は、5’末端に一方の人工付加特異プライマーと同じ配列を有し、3’末端に他方の人工付加特異プライマーの相補的配列を有する人工AB付加産物が生成されるPCRサイクルまでは少なくとも、人工付加特異プライマー対の標的核酸に相補的な配列が単独で結合可能な温度とし、初期添加した核酸を鋳型とした増幅を担保する。人工AB付加産物は、人工付加特異プライマーの全領域と結合可能であることから、人工AB付加産物がはじめて増幅されるサイクルの次のサイクル以降の任意のサイクルにおいては、反応工程(1)のアニーリング温度を上昇させたとしても、当該産物の増幅が可能となると考えられる。具体的には、前記の人工AB付加産物は、2サイクル目にはじめて増幅されることから(図9参照)、3サイクル目以降の任意のサイクル数より、反応工程(1)のアニーリング温度を人工付加特異プライマー全領域のTm値に基づく温度に上昇させても、人工AB付加産物の増幅が可能であると考えられる。このように反応工程(1)の途中でアニーリング温度を上昇させ、人工AB付加産物のみを鋳型としたPCRを実施することにより、人工付加特異プライマーの設計上の制限(具体的には、反応工程(1)のアニーリング温度を、人工付加特異プライマーのうち標的核酸に相補的な配列のTm値より設定した温度とした上で、本アニーリング温度と反応工程(2)のアニーリング温度の差異を一定以上確保するという制限)がなくなることから、適用可能な標的核酸の範囲が広げることが可能となる(図8b参照)。
【0039】
なお、反応工程(2)で機能する3’人工配列導入オリゴは、人工AB付加産物に結合し機能することから、人工AB付加産物がはじめて生成される2サイクル目の次サイクル以降(3サイクル目)でないと機能することができない。従って、反応工程(1)の2サイクル目までのアニーリング温度が、3’人工配列導入オリゴが機能する上で十分低温であったとしても、2サイクル目までに当該オリゴが機能することはなく、人工AB付加産物が存在する3サイクル目以降においては、アニーリング温度を上昇させることで3’人工配列導入オリゴが機能することを回避できる。反応工程(1)のアニーリング温度を、前記のように設定することにより、反応工程(1)において反応工程(2)が進行することを容易に回避することができる。
【0040】
(6) 反応工程(2)における3’人工配列導入オリゴと人工AB付加産物の結合は、人工AB付加産物の再結合、および人工付加特異プライマーの人工AB付加産物への結合によって阻害され、3’人工CD相補付加産物の生成が抑制される場合がある。
【0041】
上記を解消する目的で、3’人工配列導入オリゴの配列領域のうち、人工AB付加産物と結合する配列領域に、当該オリゴの融解温度を上昇させる機能をもつ修飾を施した3’人工配列導入オリゴを使用することで、反応工程(3)における3’人工CD相補付加産物の濃度を上昇させることが可能な場合がある。前記の修飾として人工核酸(LNA, BNA等)を挙げることができる。
【0042】
また、前記した2つの阻害のうち、人工付加特異プライマーの人工AB付加産物への結合による阻害の解消を目的とする場合は、人工付加特異SLプライマーを用いることにより解消することができる。その原理を、図10として示した。
【0043】
図10に記載した人工付加特異SLプライマーは、当該5’末端に人工核酸配列Aに対し相補的な配列(図10のStem部分)の導入により、当該プライマーの5’末端側に分子内2次構造(図10中のStem-loop構造)を有する。また、分子内2次構造の形成を目的として導入した配列の3’末端にブロッカーを導入している。
【0044】
このような構造を有する人工付加特異SLプライマーを使用した場合、以下の2点を達成することが可能となる。
1.人工付加特異SLプライマーは、分子内2次構造を形成するため、当該プライマーは人工AB付加産物の人工核酸配列Aに相補的な配列と結合することができない。このため、反応工程(2)において、3’人工配列導入オリゴは、人工AB付加産物中の人工核酸配列Aの相補的配列に容易に結合することができる。
2.人工付加特異SLプライマーにブロッカーを導入しない場合(図11)、人工付加特異SLプライマーの分子内2次構造部分も含めてPCR増幅されるため、当該産物も分子内2次構造を形成し、反応工程(2)において3’人工配列導入オリゴの結合を阻害することとなる。一方、人工付加特異SLプライマーにブロッカーを導入した場合(図12)、分子内2次構造の形成に必要な配列を増幅する直前でDNA伸長がブロックされるため、人工AB付加産物が分子内2次構造を形成することはないため、反応工程(2)において、3’人工配列導入オリゴが、人工AB付加産物中の人工核酸配列Aの相補的配列に結合することを阻害しない。
【0045】
その結果、人工AB付加産物への3’人工配列の導入効率の向上に繋がる。
【0046】
(7) 反応工程(3)における5’人工配列導入プライマーと3’人工CD相補付加産物の結合は、3’人工CD相補付加産物と3’人工配列導入オリゴの再結合によって阻害され、5’人工配列の導入が抑制される場合がある。
【0047】
上記を解消する目的で、5’人工配列導入プライマーの配列領域に当該オリゴの融解温度を上昇させる機能をもつ修飾を施した5’人工配列導入プライマーを使用することで、反応工程(3)における5’人工配列の導入効率を上昇させることが可能な場合がある。前記の修飾として人工核酸(LNA, BNA等)を挙げることができる。
【0048】
また、5’末端領域に分子内2次構造を有する3’人工配列導入SLオリゴを用いることにより解消することができる。その原理を、図13として示した。
図13に記載した3’人工配列導入SLオリゴは、当該5’末端に人工核酸配列C又はDに対し相補的な配列(図13のStem部分)の導入により、当該プライマーの5’末端側に分子内2次構造(図13のStem-loop構造)を有する。また、分子内2次構造の形成を目的として導入した配列と、人工核酸配列C又はDとの間にブロッカーを導入している。
【0049】
このような構造を有する3’人工配列導入SLオリゴを使用した場合、以下の2点を達成することが可能となる。
1.3’人工配列導入SLオリゴは、分子内2次構造を形成するため、当該オリゴは、3’人工CD相補付加産物の人工核酸配列C又はDに相補的な配列と結合することができない。このため、5’人工配列導入プライマーは、3’人工CD相補付加産物中の人工核酸配列C又はDの相補的配列に容易に結合することができる。
2.3’人工配列導入SLオリゴにブロッカーを導入しない場合(図14)、反応工程(2)において3’人工配列導入SLオリゴの分子内2次構造も含めて伸長されるため、当該産物(3’人工CD相補付加産物)が、人工核酸配列C又はDの相補的配列部分で分子内2次構造を形成してしまい、5’人工配列導入プライマーの結合を阻害することとなる。一方、3’人工配列導入SLオリゴにブロッカーを導入した場合(図15)、分子内2次構造の形成に必要な配列を伸長する直前でDNA伸長がブロックされるため、当該産物(3’人工CD相補付加産物)が分子内2次構造を形成することはなく、5’人工配列導入プライマーが、3’人工CD相補付加産物中の人工核酸配列C又はDの相補的配列に結合することを阻害しない。
【0050】
その結果、3’人工CD相補付加産物への5’人工配列導入効率の向上に繋がる。
【0051】
(8) 本発明で使用する耐熱性DNAポリメラーゼとしてSD polymerase(バイオロン)を使用する場合、製造メーカープロトコルの指定量の数倍量を添加する。その結果、最終人工配列付加産物の生成量を顕著に増加させることが可能である。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、以下の効果が期待できる。
【0053】
(1) 1ステップの作業工程にて、次世代シーケンサーでの解析に供することが可能な最終人工配列付加産物を取得することができる。
【0054】
(2) 本発明は、先行技術3、4の手法のように、PCRのみに依存し、最終人工配列付加産物を得る手法とは異なり、標的核酸由来の人工AB付加産物を増幅するためのプライマーと、人工AB付加産物を鋳型とし当該産物に更に人工核酸配列C、及びDを付加することを目的とするプライマー・オリゴDNAを使用し、プライマー設計条件や反応条件の調整等により、同一反応液内での反応でありながら、前者の反応と後者の反応を時間的に分離して実施することが可能である。このため、各々の最適条件下で両反応を実施することが可能であるため、プライマー・ダイマー等の非特異的な増幅産物の生成を抑制することができる。また、上記した先行技術よりも初期鋳型量の最低必要量を低く抑えることができ、標的核酸に特異的なプライマーのみを使用した一般的なPCRと同様の感度を担保することができる。
【0055】
(3) 先行技術3、4のように、標的核酸由来の特異的産物を得るためのPCR反応と、当該産物を鋳型とし、最終人工配列付加産物を得るためのPCR反応を、同時に進行させるような手法の場合、性質や目的の異なる2種以上のPCR反応が同時かつ適正に進行するよう、反応条件を厳密に最適化する必要性がある。
【0056】
一方、本発明の場合、プライマー設計条件や反応条件等を制御することで、同一反応液内で発生する反応でありながら、人工AB付加産物を得るためのPCR反応が進行するタイミングと、人工核酸配列を付加し最終人工配列付加産物を得るための反応が進行するタイミングを明確に分離することが可能であり、かつ両反応を同一反応液中で連続的に実施することができるため、両反応をそれぞれ最適条件にて実施することが可能である。また、人工核酸配列を付加する反応(反応工程(2)、(3))にて使用するプライマー・オリゴDNAは、標的核酸に関わらず基本的に同一であるため、同一反応条件下にて使用することが可能である。このため、本発明の手法における反応条件の最適化は、人工AB付加産物を得るためのPCR反応(前記の反応工程(1))のみとなることから、一般的なPCRと同様の簡便性、迅速性にて反応系を構築することができる。
【0057】
(4) 標的とする核酸配列に特異的なプライマーの5’末端側に、あらかじめバーコード配列を含む特定の人工核酸配列が全て付加されているプライマーを使用する手法(先行技術1)の場合、簡単な1ステップの作業工程にて、次世代シーケンサー解析に供することが可能な最終人工配列付加産物を取得することができる。しかしながら、1つの標的核酸毎にバーコード配列が異なるプライマーを用意する必要性があり、極めて不経済である。例えば、両末端付近に付加されたバーコード配列と、当該配列の組み合わせにより検体を識別する手法にて、1回の解析で100検体を同時解析し、かつ1検体につき100種類の標的核酸を解析する場合、一つの標的核酸あたりフォワードプライマーが10種類、リバースプライマーが10種類、合計20種のプライマーが必要となり、当該セットが標的核酸の種類分必要となるため、2千種類のプライマーを準備する必要性がある。
【0058】
一方、本発明に基づく手法では、標的核酸の増幅は人工付加特異プライマーが担い、バーコード配列を含む人工核酸配列の付加は3’人工配列導入オリゴ、および5’人工配列導入プライマーにて実施することが可能であるため、それぞれ必要となるプライマーまたはオリゴの種類は、前者は標的核酸の種類、後者は解析する検体数に依存することとなる。例えば、上記と同じ前提(標的核酸:100種類、検体数:100検体)とした場合、人工付加特異プライマーはフォワード/リバースプライマーを合せて200種類、3’人工配列導入オリゴは20種類、5’人工配列導入プライマーは当該オリゴにバーコード配列を含まない場合は1種類、当該オリゴにバーコード配列を含む場合は10種類であり、合計221種または230種類で済む。加えて、3’人工配列導入オリゴおよび5’人工配列導入プライマーは、標的核酸が変化しても、共通して利用することが可能である。
【0059】
(5) 次世代シーケンサーに供する最終人工配列付加産物の濃度は一定とする必要性があるため、最終人工配列付加産物を作成後、当該濃度を調整することが求められる。先行技術1~4のようにPCR反応に基づき、最終人工配列付加産物を取得する手法の場合、当該産物の最終濃度は、非特異的増幅産物量、初期鋳型量、増幅阻害物質濃度などの違いにより、PCR反応毎に変化することから、上記の濃度調整が必要となる場合が多い。
【0060】
一方、本発明の手法では、5’人工配列を導入可能な対象産物の濃度を上限とする範囲において、5’人工配列導入プライマーの濃度を調整することにより、最終人工配列付加産物を目標濃度に調製することが可能である。このため、前述の濃度調整は必ずしも必要ない。
【0061】
上記のように、本発明に基づく手法は、次世代シーケンサーを用いた解析等に、好適に供することが可能な最終人工配列付加産物を、経済的、簡便、高感度に取得できるという効果があることから、先行技術と比較して多くの面で効率的といえる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】先行技術1の原理図。標的核酸配列に特異的なプライマーの5’末端側に、あらかじめバーコード配列を含む特定の人工核酸配列が付加されているプライマーを用い、次世代シーケンサーに供することのできる最終人工配列付加産物を取得する手法。本手法では核酸配列の種類ごとに検体の数だけバーコード配列が異なるプライマーを用意しなければならない。
図2】先行技術2の原理図。本手法では、人工核酸配列の3’末端側の一部を特異的配列の5’末端側に付加した人工付加特異プライマーを用いて1回目のPCR増幅を行い、標的核酸由来の特異的産物を得る。続いて、当該産物を精製した後に、これを鋳型として、バーコード配列等の人工核酸配列を3’末端側に有する人工配列プライマーを用いた2回目のPCR増幅を実施する。上記した2回のPCR増幅により、標的核酸の両末端に人工核酸配列が付加された最終人工配列付加産物を得ることができる。
図3】先行技術3の原理図。本手法は、人工付加特異プライマーの濃度を、人工配列プライマー濃度よりも低く設定した上で、両プライマーを同一反応液に添加し、増幅することで、1回の増幅にて最終人工配列付加産物を得ることができる。
図4】先行技術4の原理図。本手法では、標的核酸配列に人工核酸配列を付加する反応において、人工付加特異プライマー以外に、長鎖人工配列プライマー、および短鎖人工配列プライマーの2対の人工配列プライマーを用い、短鎖人工配列プライマー濃度を人工付加特異プライマー、及び長鎖人工配列プライマー濃度より高くすることで、最終人工配列付加産物をより効率よく増幅させることが可能である。
図5-1】本発明の反応工程(1)および(2)に関する実施形態を示した図。人工付加特異プライマー対は、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列の全部を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列の全部を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる。
図5-2】本発明の反応工程(1)および(2)に関する実施形態を示した図。人工付加特異プライマー対は、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる。
図6】本発明の反応工程(3)および(4)に関する実施形態を示した図(5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合)。
図7】本発明の反応工程(3)および(4)に関する実施形態を示した図(鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合)。
図8】反応工程(1)のアニーリング温度を途中変更した場合としない場合との比較。
図9】反応工程(1)の初期サイクル(1~3サイクル)における反応スキーム図。
図10】分子内2次構造を有する3’人工付加特異プライマー(人工付加特異SLプライマー)による人工配列導入効率の向上。
図11】ブロッカーのない人工付加特異SLプライマーを用いた場合の反応スキーム図。
図12】ブロッカーを有する人工付加特異SLプライマーを用いた場合の反応スキーム図。
図13】分子内2次構造を有する3’人工配列導入オリゴ(以下、3’人工配列導入SLオリゴ)による人工配列導入効率の向上。
図14】ブロッカーのない3’人工配列導入SLオリゴを用いた場合の反応スキーム図。
図15】ブロッカーを有する3’人工配列導入SLオリゴを用いた場合の反応スキーム図。
図16】ブロッカーを有する人工付加特異SLプライマーの分子内2次構造。
図17】ブロッカーを有する3’人工配列導入SLオリゴの分子内2次構造。
図18】ブロッカーの機能を有する各種スペーサー群の化学構造式。
図19】3’-3’, 5’ -5’結合の形成が可能であり、ブロッカーの機能を有するdT試薬(左側)と、通常の5’→3’のバックボーンを形成するdT試薬(右側)の化学構造式。
図20】5’人工配列導入プライマー濃度と得られる産物量との関係を示した図。
図21】各標的遺伝子におけるリード数を実施形態ごとに示した図。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の実施の態様について詳細に説明する。
【0064】
本発明は、標的とする核酸配列に人工核酸配列を付加した最終人工配列付加産物を調製する方法であって、下記の(1)~(3)の工程を含む前記方法を提供する。
(1)標的とする核酸配列に特異的なプライマー対の各々に、人工核酸配列A又はBの配列のうち、少なくとも一部の配列が付加されているプライマー対(以下、人工付加特異プライマー対)を1対以上用いて核酸増幅法により人工AB付加産物を得る工程、
(2)下記3点を特徴とする1対のオリゴDNA(以下、3’人工配列導入オリゴ対)を用い、DNAポリメラーゼによって、前記(1)の工程にて得られた人工AB付加産物の3’末端を伸長させ、人工AB付加産物の3’末端に人工核酸配列C、又はDの相補的配列を付加した3’人工CD相補付加産物を生成する工程、及び
特徴1:人工付加特異プライマーに存在する人工核酸配列A又はBの少なくとも一部と同じ配列を3’末端側に有する。
特徴2:人工AB付加産物に付加する人工核酸配列C又はDを5’末端側に有する。
特徴3:DNAポリメラーゼによる核酸伸長を防止するため、3’末端が標識されている。
(3)前記(2)の工程において生成された3’人工CD相補付加産物が、当該産物同士で二本鎖を形成した際、両末端に生じる一本鎖領域に、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(e)および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対(以下、5’人工配列導入プライマー対)を結合させ、当該プライマーの3’末端を、伸長方向(3’末端方向)に塩基対が存在する状況であっても伸長が可能なDNAポリメラーゼを使用し、伸長させることにより最終人工配列付加産物を得る工程
本発明の方法は、(4)(3)の工程にて生成される産物のうち、5’末端に人工核酸配列が付加されているが、3’末端に人工核酸配列の相補的配列が付加されていない産物について、当該産物を解離させた上で再結合させることで生じる一本鎖領域を、DNAポリメラーゼの伸長反応により二本鎖として、最終人工配列付加産物を得る工程をさらに含んでもよい。
【0065】
(1)~(3)の工程または(1)~(4)の工程を1回の反応により同時進行させることができる。
【0066】
また、1回の反応により1種類以上の標的核酸配列に人工核酸配列を付加することができる。
【0067】
本発明においては、人工付加特異プライマー対群を用いた増幅により、標的核酸由来の増幅産物であり、当該産物の一方の5’末端が人工核酸配列Aを有し、他方の5’末端に人工核酸配列Bを有する一種以上の人工AB付加産物を、一種以上の標的核酸から増幅し、得られた当該産物群について、3’人工配列導入オリゴ、および5’人工配列導入プライマーを用いた伸長反応によって、当該産物の人工核酸配列Aを有する末端には人工核酸配列C、人工核酸配列Bを有する末端には人工核酸配列Dが導入された最終人工配列付加産物を取得する。
【0068】
人工付加特異プライマー対は、3’末端側に標的核酸に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に同じく標的核酸に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなるとよい。本発明では、人工付加特異プライマー対を少なくとも1対以上使用する。
【0069】
人工付加特異プライマー対群は、1対以上のプライマーからなる。通常、プライマーの種類が増えるほど均一にPCR増幅することが難しくなるとされるが、5対程度であれば容易に増幅可能であり、20対以上であっても、配列の組み合わせの最適化を行うことで増幅が可能である。
【0070】
人工付加特異プライマー対群(a)および(b)において、標的核酸に相補的な配列は、10~40塩基長であるとよく、好ましくは、15~30塩基長であり、より好ましくは、15~25塩基長である。人工付加特異プライマー対群に導入する人工核酸配列AまたはBの配列は、人工核酸配列AまたはBの5’末端側から任意の数のヌクレオチドを除いた配列であっても良く、少なくとも人工核酸配列AまたはBの3'末端側の配列を含むよう設計することができる。人工付加特異プライマーは、人工核酸配列AまたはBの3'末端側の配列の0~40塩基を含むとよく、好ましくは0~30塩基、より好ましくは0~20塩基を含むとよい。
【0071】
また、人工付加特異プライマー対の人工AB付加産物への結合による3’人工配列導入オリゴの当該産物への結合阻害の解消を目的とする場合は、人工付加特異プライマーの5’末端に当該プライマーの少なくとも一部配列に相補的な配列を付加することで、5’末端側に分子内2次構造を導入すると共に、分子内2次構造の形成を目的として導入した配列の3’末端、または当該配列の鎖中にブロッカーを導入した人工付加特異SLプライマーを使用することにより上記の阻害を解消することができる。
【0072】
3’人工配列導入オリゴと人工AB付加産物の結合を促進するためには、Stem-loop構造形成のため導入した配列を除く人工付加特異SLプライマーの全領域と人工AB付加産物が結合できる温度となったときにはすでに、当該プライマーがStem-loop構造を形成しており、当該プライマーが、前記した全領域にて人工AB付加産物と結合できない状態となっていることが望ましく、そのためには、Stem-loop構造の解離温度(Tm値)が、Stem-loop構造形成のため導入した配列を除く人工付加特異SLプライマーの全領域の解離温度(Tm値)よりも高温であることが望ましい。当該Tm値の差異は、1~30℃であるとよく、好ましくは、3~20℃であり、より好ましくは、5~15℃である。Stem-loop構造のTm値は、ウェブアプリであるmfold(http://www.unafold.org/mfold/applications/dna-folding-form.php)等で予想すること可能であり、当該予測値を確認しつつ、Stemの長さを調整することで、当該Tm値を精度よく調整することが可能であるが、通常、Stem部分の長さは3~30塩基長であるとよく、好ましくは、5~25塩基長であり、より好ましくは、10~20塩基長である。
【0073】
一方、loop部分は設計したStem-loop構造以外の2次構造を形成しない配列であることが望ましい。また、loop部分の配列長が短いとStem構造を形成するDNA間の距離が小さくなり微視的な濃度が上昇するため、当該構造のTm値が高くなり、当該部分の配列長が長いとStem構造を形成するDNA間の距離が大きくなり、微視的な濃度が低下するため、当該構造のTm値が低くなる。このため、loop部分の配列長を調整することによってもStem-loop構造のTm値を調整することが可能であるが、通常、loop部分の長さは0~30塩基長であるとよく、好ましくは、8~24塩基長であり、より好ましくは、10~20塩基長である。
【0074】
人工付加特異SLプライマーにおいて使用するブロッカーは、ヘキシエチレングリコール(HEG)の利用が想定されるが、DNA伸長を停止させる機能を有する物質であればよく、ブロッカーによってその適用範囲が制限されるものではない。 HEGと同様の機能を有する物質を、図18、19として示した。図18に記載した物質は、塩基を持たない構造体で、DNA鎖のホスホジエステル結合骨格中に導入することが可能な物質であり、アルキルリンカー(Spacer C2, C3, C4, C6, C9, C12)、ポリエチレングリコールリンカー(Spacer 9, 18)、及び塩基のないデオキシリボース環(dSpacer, エチニルdSpacer)をスペーサーとして用いており、HEGと同様の機能を有する。
【0075】
図19の左側に記載した物質は、オリゴDNAの合成中に当該物質を鎖中に導入することで3’-3’, 5’ -5’結合を形成し、ヌクレオシドを逆方向に挿入することが可能であり、当該導入部位でブロッカーとして機能するdT試薬(dT-5'-CE Phosphoramidite(グレンリサーチ社))である。通常のオリゴDNA合成は、図19右側のタイプのモノマー試薬が5'位のDMTの位置に、3'位側のホスホジエステル結合となる部分が重合を繰り返し、3'側から5'側方向へ配列が合成されるが、当該試薬(図19左側)は、ホスホジエステル結合を形成する部分が5'位の位置にあるため、任意の部分で当該物質を導入すると、3'側から進んできた配列の5'位と、当該物質の5'位が結合して5'-5'結合が形成され、次に通常のモノマー試薬を重合させると、3'-3'結合が形成されて、その後は通常の重合が進むこととなる。
【0076】
一方、DNAポリメラーゼによるDNA伸長は5’側から3’側に進行し、鋳型の3’側から順に鋳型の相補的配列が合成されるが、当該物質を導入した箇所で、鋳型の方向が逆となるため(3’⇒5’から5’⇒3’に変化するため)、挿入箇所で合成が停止する。このため当該物質をオリゴDNAに導入することでDNA伸長をブロックすることができる。
【0077】
なお、前記ブロッカーは、1つのオリゴDNA中に2箇所以上挿入することが可能であり、その結果、DNAポリメラーゼによるDNA伸長をより確実にブロックすることが可能となる。この場合のブロッカーの挿入には、様々な形態が想定されるが、2つ以上のブロッカーを連続して挿入すること、ブロッカーとブロッカーの間に通常塩基が配置された形で挿入すること、2種以上の異なるブロッカーを1つのオリゴDNA中に挿入すること、或いは、上記3種の挿入形態を任意に組み合わせて挿入することにより、前記の目的を達成することが(DNA伸長をより確実にブロックすることが)可能である。
【0078】
3’人工配列導入オリゴ対は、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)からなり、当該3’末端は、DNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端がリン酸等で標識されているとよい。
【0079】
3’人工配列導入オリゴ対において使用する人工核酸配列AまたはBは、15~50塩基長であるとよく、好ましくは、15~40塩基長であり、より好ましくは、20~30塩基長である。人工核酸配列CまたはDは、15~40塩基長であるとよく、好ましくは、20~40塩基長であり、より好ましくは、20~30塩基長である。
【0080】
また、3’人工配列導入オリゴは、人工核酸配列C,D、人工付加特異プライマーには含まれない人工核酸配列A,B、または検体を識別するための人工核酸配列(バーコード配列)を有してもよい。バーコード配列は、3~20塩基長であるとよく、好ましくは、5~15塩基長であり、より好ましくは、5~10塩基長である。
加えて、3'人工配列導入オリゴは、少なくとも人工核酸配列AまたはBの5'末端側の配列を含むよう設計することができる。3'人工配列導入オリゴは、人工核酸配列AまたはBの5'末端側の配列の10~60塩基を含むとよく、好ましくは10~40塩基、より好ましくは15~25塩基を含むとよい。
【0081】
更に、3’人工配列導入オリゴ(c)、および (d)の3’末端は、DNAポリメラーゼにより伸長されないよう標識をする。当該標識は、リン酸化、蛍光色素、アミノリンカー、ビオチン等にて修飾が一般的に行われるが、DNAポリメラーゼによる3’末端の伸長が防止可能な修飾方法であればよく、標識方法によってその適用範囲が制限されるものではない。
【0082】
反応工程(3)において、3’人工CD相補付加産物と、3’人工配列導入オリゴの再結合による5’人工配列の導入抑制の解消を目的とする場合は、3’人工配列導入オリゴの5’末端に当該オリゴの少なくとも一部配列に相補的な配列することで、5’末端側に分子内2次構造を導入すると共に、分子内2次構造の形成を目的として導入した配列の3’末端、または当該配列の鎖中にブロッカーを導入した3’人工配列導入SLオリゴを使用することにより上記の阻害を解消することができる。
【0083】
5’人工配列導入プライマーと3’人工CD相補付加産物の結合を促進するためには、Stem-loop構造形成のため導入した配列を除く3’人工配列導入SLオリゴの全領域と3’人工CD相補付加産物が結合できる温度となったときには既に、当該オリゴがStem-loop構造を形成しており、当該オリゴが、前記した全領域にて3’人工CD相補付加産物と結合できない状態となっていることが望ましく、そのためには、当該オリゴのStem-loop構造の解離温度(Tm値)が、Stem-loop構造形成のため導入した配列を除く当該オリゴの全領域の解離温度(Tm値)よりも高温であることが望ましい。当該Tm値の差異は、1~30℃であるとよく、好ましくは、3~20℃であり、より好ましくは、5~15℃である。Stem-loop構造のTm値は、前記の通りウェブアプリであるmfold等で予想すること可能であり、当該予測値を確認しつつ、Stemの長さを調整することで、当該Tm値を精度よく調整することが可能であるが、通常、Stem部分の長さは3~30塩基長であるとよく、好ましくは、5~25塩基長であり、より好ましくは、10~20塩基長である。
一方、loop部分は設計したStem-loop構造以外の2次構造を形成しない配列であることが望ましい。また、loop部分の配列長が短いとStem構造を形成するDNA間の距離が小さくなり微視的な濃度が上昇するため、当該構造のTm値が高くなり、当該部分の配列長が長いとStem構造を形成するDNA間の距離が大きくなり、微視的な濃度が低下するため、当該構造のTm値が低くなる。このため、loop部分の配列長を調整することによってもStem-loop構造のTm値を調整することが可能であるが、通常、loop部分の長さは0~30塩基長であるとよく、好ましくは、8~24塩基長であり、より好ましくは、10~20塩基長である。
【0084】
3’人工配列導入SLオリゴにおいて使用するブロッカーは、前述した人工付加特異SLプライマーと同様、HEGの利用が想定されるが、DNA伸長を停止させる機能を有する物質であればよく、ブロッカーによってその適用範囲が制限されるものではない(HEG以外のブロッカーについては、前記した人工付加特異SLプライマーに関する記載を参照)。
【0085】
5’人工配列導入プライマー対は、人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ5’人工配列導入プライマー(e)と、人工核酸配列Dのうち、少なくとも一部の配列を持つ5’人工配列導入プライマー (f)からなるとよい。5’人工配列導入プライマー対の塩基長は、5~40塩基の範囲で設計されることが望ましく、好ましくは5~30塩基、さらに好ましくは7~15塩基である。
【0086】
また、人工付加特異プライマーは5'末端、3'人工配列導入オリゴは、3’末端にて、人工核酸配列AまたはBの少なくとも一部の配列を共有するよう設計するとよい(図5-2の「相補的部位」)。上記プライマーおよびオリゴが共有する配列は、0~40塩基であるとよく、好ましくは0~30塩基、より好ましくは0~20塩基である。そのようなプライマーを用いて反応を行うと、反応工程(2)において、反応工程(1)の過程で付加された人工核酸配列A,Bの相補鎖が、3'人工配列導入オリゴに付加した人工核酸配列A,Bと相補鎖を形成し、その結果、人工核酸配列A,B相補鎖の3'末端が伸長され、人工核酸配列A,B全長の相補鎖が形成されることになる(図5-2)。続いて、反応工程(3)を行うことで、反応工程(2)で生成された人工核酸配列A,Bの全長の相補鎖を鋳型とした伸長反応が発生するので、人工核酸配列A,Bの全長が形成されることになる(図7)。
【0087】
後述の実施例では、3'人工配列導入オリゴ(c), (d)については人工配列A,Bの配列を全部持っているが、人工付加特異プライマー(a),(b)は人工配列A,Bの3'末端側の一部しか持っていない。人工核酸配列A, B配列の一部しか持たない人工付加特異プライマーを使用することで、3'人工配列導入オリゴと人工付加特異プライマーの共通配列部分が短くなるが、このようにして共通配列部分の長さを調整することで、3'人工配列導入オリゴと反応工程(1)にて生成される人工AB付加産物との結合温度と、人工付加特異プライマーと人工AB付加産物の結合温度との差異をより大きく確保することができる。そうすることで、3'人工配列導入オリゴが人工AB付加産物と結合しない温度にて、反応工程(1)のみの反応を実施することが容易となり、反応工程(1)と反応工程(2)が同時進行することがなくなる。その結果、各反応工程の最適条件での反応が可能になることから、結果的に反応特異性が向上すると考えられる。言い換えると、人工付加特異プライマー、3'人工配列導入オリゴ間の共通配列の長さを調整することで、反応工程(2)における反応条件(主に温度)を任意に調整することができる。
【0088】
また、後述の実施例では、5'人工配列導入プライマー(e), (f)も、人工配列CまたはDの5'末端側の一部しか持っていない。このように、5'人工配列導入プライマーを短くするメリットは大きく2つある。一つは、5'人工配列導入プライマーを短くすることで、反応工程(3)を、反応工程(1)、(2)から切り離して実施することができ、そうすることで反応工程(3)を最適条件で実施することが可能となり。もう一つは、5'人工配列導入プライマーは3'末端がリン酸化されていないので、PCRプライマーとして機能するが、本プライマーが反応工程(1)で機能すると、非特異的産物の増幅を誘発する可能性がある。しかし、5'人工配列導入プライマーを短くすると、反応工程(1)において当該プライマーが機能することを防止することが可能となり、非特異的産物の増幅を抑制することが可能となる。従って、5'人工配列導入プライマーを短くすることで
(1)反応工程(3)を、反応工程(1)、(2)から切り離すことができるため、反応工程(3)を最適条件で実施することが可能となる。
(2)反応工程(1)において、5'人工配列導入プライマーがPCRプライマーとして機能することがないため、非特異的な増幅産物の形成を防止することができる。
というメリットが生じることになる。
【0089】
人工核酸配列A, B, C, D及びバーコード配列としては、次世代シーケンサー解析に用いられる配列を好適に用いることができる。例えばIllumina社が開示しているIllumina Adapter Sequence Document (http://support.illumina.com/downloads/illumina-customer-sequence-letter.html) においてPrimerと記載されている配列の全部あるいは一部は人工核酸配列A,B,C,Dとして、Index Adapterと記載されている配列はバーコード配列として用いるのに好適である。
【0090】
本発明において、最終人工配列付加産物の生成は、人工付加特異プライマー対群、3’人工配列導入オリゴ対、および5’人工配列導入プライマーについて、それらを最初にすべて混合し、途中の精製・希釈を伴わず、一連の反応で完了することができる。
【0091】
本発明は、非特異的配列の増幅を抑制するため、特に増幅サイクル初期における活性を抑えることができるとされる様々な手法・試薬と組み合わせることで、より効率的な増幅を可能とする。具体的にはタッチダウンPCRや、化学修飾されたホットスタートDNAポリメラーゼを用いるなど、増幅反応効率が徐々に上がっていく手法・試薬が好ましい。
【0092】
化学修飾されたホットスタートDNAポリメラーゼとは、室温で酵素を不活性化する熱不安定性のブロッキング基が導入されたDNAポリメラーゼのことであり、これらのブロッキング基は増幅の前段階において高温に達した際に除去され、酵素は活性化状態になる。このような修飾は、例えばシトラコン酸無水物、シス-アコニット酸無水物等をタンパク質のリジン残基に結合させることで達成することができる(特許第3026554号)。もう1つのホットスタート修飾法である、モノクローナル抗体を用いた手法(米国特許第5338671号)と比較して、活性化までの時間が長く、増幅サイクルの過程で段階的に活性が上がっていくため、増幅初期の特異性が高いという特徴を有する。
【0093】
本発明に使用するDNAポリメラーゼについては、PCRに使用可能な耐熱性DNAポリメラーゼを好適に使用することができる。主に市販されている耐熱性DNAポリメラーゼに関する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性及び鎖置換活性の有無に関して表1にまとめた。
【0094】
本発明にて使用するDNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性や鎖置換活性を持つものを用いることが好ましい。これは、上記の活性を持たないDNAポリメラーゼを用いた場合、反応工程(3)において5’人工配列導入プライマーの伸長方向に存在する塩基対を排除することができず、結果として3’人工CD相補付加産物の5’末端に人工核酸配列CまたはDが導入され、かつ解析対象領域を含む産物を取得することができないためである。なお、表1中のグレーとしたDNAポリメラーゼが、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性または鎖置換活性を有するポリメラーゼとなる。
【0095】
更に、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼは、鋳型交換反応の効率が、その他のDNAポリメラーゼよりも一般的に高く、前述の反応工程(4)を必ずしも実施をしなくても、反応工程(1)~(3)によって効率的に最終人工配列付加産物を取得することができる(図7参照)。このため、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用することで、最終人工配列付加産物の取得効率を高めることが可能である。
【0096】
加えて、当該DNAポリメラーゼの持つ鎖置換活性によって、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は分解されることなく、鋳型より解離され、3’人工CD相補付加産物の一本鎖が生成されるが、当該一本鎖は、再び反応工程(3)の鋳型として機能する(図7の反応工程(3)B -1および反応工程(3)B -2の部分を参照)。このため、加温によって3’人工CD相補付加産物を解離させなくとも、反応工程(3)の鋳型(5’人工配列導入プライマーの結合部位を持つ3’人工CD相補付加産物)が連続的に供給されることから、等温条件下において反応工程(3)を進行させることが可能であり、反応工程(3)において、鋳型の解離が必須である反応工程(1)、(2)の進行を強く抑制することが可能となる。このため、非特異的産物の増幅、バイアス、キメラ生成等の主原因となるPCRをはじめとする核酸増幅の反応時間(PCRの場合、サイクル数)を、人工AB付加産物を必要十分量得るための必要最低限な時間に設定することが可能となることから、鎖置換活性を持つDNAポリメラーゼの使用は、解析精度と感度の向上に寄与することとなる。
【0097】
本発明において好適に使用可能な5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼとして、Amplitaq Gold DNA Polymerase(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)、FastStart Taq DNA Polymerase(ロシュ・ダイアグノスティックス社)、MethylTaq DNA Polymerase(ニッポンジーン社)等を、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとして、SD polymerase (バイオロン) 、Tin(exo-) LF DNA Polymerase(オプティジーンズ)等を、各々挙げることができる。
【0098】
また、本発明で使用する耐熱性DNAポリメラーゼとしてSD polymerase(バイオロン)を使用する場合、製造メーカープロトコルの指定量の数倍量を添加することで、最終人工配列付加産物の生成量を顕著に増加させることが可能である。
【0099】
具体的な添加量は、メーカープロトコル指定量(反応液1μlあたり0.01~0.04ユニット(ユニットの定義:1ユニットの活性は、68℃で30分間に10nmolのdNTPを酸不溶性DNA画分に組み込むために必要な酵素の量))の2~20倍であると良く、好ましくは5~15倍であり、より好ましくは8~12倍である。

表1 耐熱性DNAポリメラーゼの例
【0100】
本発明の一実施態様において、本発明は、人工付加特異プライマー対群により人工AB付加産物をPCR増幅するための反応工程(1)、3’人工配列導入オリゴ対を用い人工AB付加産物の3’末端に人工核酸配列C,Dの相補鎖が付加された3’人工CD相補付加産物を得る反応工程(2)、5’人工配列導入プライマーを用い3’人工CD相補付加産物の5’末端に人工核酸配列(Cまはた/およびD)が付加され、反応工程(2)にて付加された人工核酸配列CまたはDの相補的配列が排除された5’人工CD付加産物、またはDNAポリメラーゼが保有する鋳型交換反応によって最終人工配列付加産物を得る反応工程(3)、および反応工程(3)において、鋳型交換反応の効率が低く、その結果、5’人工CD付加産物が主な反応生成物として生成され、最終人工配列付加産物の生成が不十分である場合、追加で実施する反応工程であり、5’人工CD付加産物を再結合させ、その結果生じた一本鎖部位を、DNAポリメラーゼによる5’→3’末端への伸長反応によって二本鎖化する反応工程(4)の最大4つの反応工程により構成されており、それぞれ異なる温度条件を設定することで、より効率的なPCR増幅と人工核酸配列の付加を可能とする。
【0101】
反応工程(1)はPCR反応であることから、解離ステップ、アニーリングステップ、伸長ステップの3ステップで構成されるPCRサイクル、またはアニーリングと伸長を1ステップで行い、同ステップと解離ステップの2ステップで構成されるPCRサイクルを10~70サイクル行うことが望ましく、好ましくは30~60サイクル、より好ましくは35~50サイクルである。
【0102】
反応工程(1)~(3)が同時進行することなく、(1)~(3)の順で反応させる場合、「(1)反応工程(1)で機能する人工付加特異プライマーの配列のうち標的核酸に相補的な配列のTm値」、「(2)反応工程(2)で機能する3’人工配列導入オリゴの配列のうち人工AB付加産物と相補的な配列のTm値」、および「(3)反応工程(3)で機能する5’人工配列導入プライマーのうち3’人工CD相補付加産物と相補的な配列のTm値」に、(1)>(2)>(3)となるような差異を設けた上で、各反応工程のアニーリング温度を反応工程(1)>反応工程(2)>反応工程(3)とし、各アニーリング温度に一定の差異を設ける必要性がある。
【0103】
なお、反応工程の移行に伴いアニーリング温度が低下することを特徴とする前記の反応系において、アニーリング温度が高い反応工程にて機能するプライマー、又はオリゴDNAは、アニーリング温度が低い反応工程においても、理論上機能することとなる。その場合、アニーリング温度が高い反応工程の段階で、飽和状態(プラトー)に達するまで反応を十分に進行させることよって、当該反応工程にて機能するプライマー、又はオリゴDNAが、アニーリング温度を低下させた反応工程において機能することを最小限に抑制することができる。その結果、各反応工程において機能すべきプライマー、又はオリゴDNAのみが適正に機能する反応環境とすることができ、各反応工程を明確に分離実施することが可能となる。
【0104】
反応工程(1)~(3)の3つの反応工程のうち、反応工程(1)、(2)を同時に反応させ、反応工程(3)のみを前記反応工程から分離・反応させる場合、反応工程(2)で機能する3’人工配列導入オリゴの配列のうち人工AB付加産物と相補的な配列のTm値と、反応工程(3)で機能する5’人工配列導入プライマーのうち3’人工CD相補付加産物と相補的な配列のTm値との間に一定以上の差異を設け、反応工程(1)、(2)のアニーリング温度>反応工程(3)のアニーリング温度となるアニーリング温度の差異を一定以上確保することで達成する事が出来る。
【0105】
また、反応工程(1)~(3)の3つの反応工程のうち、反応工程(2)、(3)を同時に反応させ、反応工程(1)のみを前記反応工程から分離・反応させる場合、反応工程(1)で機能する人工付加特異プライマーの配列のうち標的核酸に相補的な配列のTm値と、反応工程(2)で機能する3’人工配列導入オリゴの配列のうち人工AB付加産物と相補的な配列のTm値との間に一定以上の差異を設け、反応工程(1)のアニーリング温度>反応工程(2)、(3)のアニーリング温度となるアニーリング温度の差異を一定以上確保することで達成する事が出来る。
【0106】
前記のように反応工程を分離して実施する場合、前記したTm値の差異は、5~30℃であればよく、好ましくは7~25℃、より好ましくは10~20℃であると良い。また、反応工程間のアニーリング温度の差異は5~30℃であればよく、好ましくは7~25℃、より好ましくは10~20℃であると良い。
【0107】
なお、反応工程(3)のアニーリング温度は、当該反応が十分進行する温度に設定する必要性があり、当該温度は、30℃~伸長温度であればよく、好ましくは40~65℃、より好ましくは50~60℃であると良い。なお、伸長温度は、使用するDNA合成酵素によって異なるため、各メーカーの取扱説明書に記載の推奨伸長温度を採用すると良い(表1参照)。
【0108】
しかしながら、標的核酸によっては上記条件をクリアする人工付加特異プライマーの設計が困難な場合が想定され、その場合は、前記の通り、反応工程(1)の途中でアニーリング温度を上昇させることにより、人工付加特異プライマー設計に関する制限から解放され、適用可能な標的核酸の範囲を広げることが可能となる。反応工程(1)にてアニーリング温度を上昇させるサイクル数は、3~10サイクルであればよく、好ましくは3~5サイクル、より好ましくは人工AB付加産物が最初に生成される2サイクル目の次サイクルとなる3サイクルが良い。
【0109】
また、3’人工配列導入オリゴの配列のうち人工AB付加産物と相補的な配列のTm値と、人工付加特異プライマーの配列のうち標的核酸に相補的な配列のTm値との間に、反応工程(1)と反応工程(2)を分離するうえで必要となる温度差が担保されていない条件に於いて、人工AB付加産物が鋳型として機能する3サイクル目以降もアニーリング温度を上昇させない場合、3’人工配列導入オリゴが人工AB付加産物に結合することから、反応工程(1)において反応工程(2)が同時に進行することが想定される。前記の状況を回避する必要性がある場合、反応工程(1)において3サイクル目よりアニーリング温度を上昇させるのが、理論上、最も好適と考えられる。
【0110】
なお、変更前の反応工程(1)のアニーリング温度は、人工付加特異プライマーのうち、標的核酸に相補的な配列におけるTm値の±10℃であればよく、より好ましくは±5℃であると良い。一方、変更後の反応工程(1)のアニーリング温度は、人工付加特異プライマー全領域のTm値の±10℃であればよく、より好ましくは±5℃であり、伸長温度を上限とする温度であると良い(理由:伸長温度を超えた温度にアニーリング温度を設定すると、DNA合成酵素の活性低下による増幅不良が懸念されるため)。
【0111】
反応工程(2)は、人工AB付加産物を解離させた後、3’人工配列導入オリゴが人工AB付加産物に結合可能な温度に変更し、当該温度を一定時間保持するのみで反応が進行するため、PCRのように温度サイクルを複数回繰り返すことは必ずしも必要ではない。しかしながら、3’人工配列導入オリゴの人工AB付加産物への結合は、当該産物同士の結合によって阻害されることから、人工AB付加産物が解離する温度と3’人工配列導入オリゴが人工AB付加産物に結合できる温度にて構成された温度サイクルを複数回実施することで、3’人工配列導入オリゴと人工AB付加産物が結合する機会を増大させ、その結果、3’人工CD相補付加産物量を増やすことができる場合がある。当該温度サイクルについては、1~20サイクル行うことが望ましく、好ましくは1~10サイクル、より好ましくは1~5サイクルである。
【0112】
反応工程(3)では、使用するDNAポリメラーゼ、5’人工配列導入プライマーの鋳型への結合様式、およびDNAポリメラーゼによる伸長の程度によって、異なる反応形態が複数存在する(図6、7参照)。これら反応形態について、以下説明する。
<5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合(以下、反応工程(3)A)>
反応工程(3)A-1: 5’人工配列導入プライマーによる伸長が両末端より発生した場合、反対方向から伸長してきたDNAポリメラーゼが会合した際、DNAポリメラーゼが持つ鋳型交換活性によって、反対側から伸長してきた産物への鋳型交換が生じ、その結果、最終人工配列付加産物が生成される(図6中の反応工程(3)A-1参照)。また、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。
反応工程(3)A-2: 当該反応工程において、一方の末端から5’人工配列導入プライマーによる伸長が発生した場合、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した際は、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物を分解しつつ伸長反応が進行するため、生成される産物は、反応工程(2)に付加された人工核酸配列CまたはDの相補的配列を含まない5’人工CD付加産物に変換される(図6中の反応工程(3)A-2参照)。また、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、前記の反応工程(3)A-1と同様、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。
反応工程(3)A-3: 5’人工配列導入プライマーによる伸長が一方の末端あるいは両末端から発生したかに関わらず(図6中の反応工程(3)A-3では両末端から伸長が発生した際の反応図を記載)、何らかの理由により、5’人工配列導入プライマーによる伸長反応が、鋳型の3’末端に到達する前に停止した場合、多様な塩基長を有する5’人工CD付加産物が生成される(図6中の反応工程(3)A-3参照)。また、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、前記の反応工程(3)A-1, 2と同様、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解されることとなる。
反応工程(3)Aは、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物が、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解されることから、反応工程(3)A-2が主要な反応となった場合、当該反応工程の反応生成物は、5’人工CD付加産物がメインとなり、最終人工配列付加産物量を十分に取得することができない。
このような場合は、反応工程(3)Aの温度サイクルを複数回繰り返すことで、最終人工配列付加産物量を増やすことができる場合がある。当該温度サイクルについては、1~20サイクル行うことが望ましく、好ましくは1~10サイクル、より好ましくは1~5サイクルである。
<鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合(以下、反応工程(3)B)>
反応工程(3)B-1: 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合と同様、5’人工配列導入プライマーによる伸長が両末端より発生し、反対方向から伸長してきたDNAポリメラーゼが会合した際、DNAポリメラーゼが持つ鋳型交換活性によって、反対側から伸長してきた産物への鋳型交換が生じ、その結果、最終人工配列付加産物が生成される(図7中の反応工程(3)B-1参照)。また、 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、鎖置換活性によって、分解されることなく、3’人工CD相補付加産物より解離されることから、再び、当該反応工程の鋳型として機能することとなる(図7中の反応工程(3)B-1参照)。
反応工程(3)B-2: 当該反応工程において、一方の末端から5’人工配列導入プライマーによる伸長が発生した場合、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した際は、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物を解離しつつ、伸長反応が進行するため、生成される産物は、反応工程(2)に付加された人工核酸配列CまたはDの相補的配列を含まない5’人工CD付加産物に変換される(図7 中の反応工程(3)B-2参照)。また、 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、前記の反応工程(3)B-1と同様、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、鎖置換活性により分解されることなく、3’人工CD相補付加産物より解離されることから、再び、当該反応工程の鋳型として機能することとなる(図7中の反応工程(3)B-2参照)。
反応工程(3)B-3: 5’人工配列導入プライマーによる伸長が一方の末端あるいは両末端から発生したかに関わらず(図7中の反応工程(3)B-3では両末端から伸長が発生した際の反応図を記載)、何らかの理由により、5’人工配列導入プライマーによる伸長反応が、鋳型の3’末端に到達する前に停止した場合、多様な塩基長を有する5’人工CD付加産物が生成される(図7中の反応工程(3)B-3参照)。また、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用した場合、前記の反応工程(3)B-1,2と同様、伸長方向に存在する3’人工CD相補付加産物は、鎖置換活性によって、分解されることなく、3’人工CD相補付加産物から解離される。しかしながら、途中で伸長反応が停止することから、3’人工CD相補付加産物は完全に解離することなく、その一部が二本鎖の状態が保持される。このような場合、3’人工CD相補付加産物は、加熱により強制的に当該産物を解離させない限り、反応工程(3)の鋳型として再び機能することはない(図7中の反応工程(3)B-3参照)。
【0113】
反応工程(3)Bでは、使用したDNAポリメラーゼが保有する鎖置換活性により、当該反応工程の鋳型である3’人工CD相補付加産物が継続的に供給されることから、5’人工配列導入プライマーが、3’人工CD相補付加産物に結合できる温度とした後、この温度を一定時間保持するのみで反応が継続的に進行するため、温度サイクルを複数回繰り返すことは必ずしも必要ではない。また、当該反応工程では鋳型である3’人工CD相補付加産物が継続的に供給されることから、反応時間を長くすることで、最終的には、最終人工配列付加産物が生成される反応工程(3)B-1が主な反応となることから、後述する反応工程(4)を必ずしも実施する必要はない。
【0114】
しかしながら、何らかの原因で最終人工配列付加産物への変換効率が低い場合は、前述の温度サイクルを複数回繰り返すことで、当該産物量を増やすことができる場合がある。当該温度サイクルについては、1~20サイクル行うことが望ましく、好ましくは1~10サイクル、より好ましくは1~5サイクルである。
【0115】
以上のように、本発明では反応工程(3)までの反応工程を実施することによって、最終人工配列付加産物を取得することは可能であるが、反応工程(3)にて5’人工CD付加産物5’人工CD付加産物が、後の目的に悪影響を与えるほど残留する場合には、反応工程(4)にて、前記の反応工程(3)にて生成された5’人工CD付加産物の再結合、および当該産物の3’末端の伸長を温度調整により実施することで、5’人工CD付加産物の3’末端に人工核酸配列C,Dの相補鎖が付加された最終人工配列付加産物を取得することができる。
【0116】
しかし、当該反応工程は、5’末端に人工核酸配列Cを有するが、3’末端側に人工配列Dの完全な相補鎖を有しない5’人工CD付加産物の一本鎖(図6中のX)が、当該産物と相補的であり、かつ5’末端に人工核酸配列Dを有するが、3’末端に人工核酸配列Cの完全な相補鎖を持たない5’人工CD付加産物の一本鎖(図6中のY’)と結合した場合にのみ進行する。当該反応工程によって生じる二本鎖DNAは複数存在するものの、その一部においてのみ当該反応工程が進行することから、反応工程(4)の温度サイクルを複数回繰り返すことで、当該反応工程が進行する確率を高め、その結果、効率的に最終人工配列付加産物を取得することができる。
【0117】
当該温度サイクルについては、1~20サイクル行うことが望ましく、好ましくは1~10サイクル、より好ましくは1~5サイクルである。
【0118】
本手法のサイクルに入る前に行う最初の熱変性工程としては、使用するDNAポリメラーゼによって異なるものの、化学修飾されたホットスタートDNAポリメラーゼを用いる場合、94~98℃において1~15分行う事が望ましい。より好ましくは1~10分、さらに好ましくは2~8分である。
【0119】
反応工程(1)における熱変性工程については、使用するDNAポリメラーゼによって異なるものの、通常、90~98℃で5~90秒行う事が望ましく、より好ましくは5~60秒、さらに好ましくは10~30秒である。
【0120】
反応工程(1)におけるアニーリング工程としては、人工核酸配列AあるいはBが各人工付加特異プライマーに共通に付加されているため、30~120秒行うことが望ましい。より好ましくは60~120秒、さらに好ましくは60~90秒である。温度については、人工付加特異プライマーの標的核酸に相補的な部分のTm(通常、55~65℃、好ましくは、60℃付近)に対し-10℃~+10℃が望ましく、好ましくは-5℃~+5℃である。
【0121】
反応工程(1)における伸長工程については、増幅領域の長さ、および使用するDNAポリメラーゼの伸長スピードに依存するが、通常、30~120秒行うことが望ましく、好ましくは30~90秒、より好ましくは45~90秒である。伸長工程の温度は、通常は60~80℃であり、好ましくは60~75℃、より好ましくは65~75℃である。
【0122】
反応工程(2)における熱変性工程としては、90~98℃で5~90秒行う事が望ましく、より好ましくは5~60秒、さらに好ましくは10~30秒である。
【0123】
反応工程(2)におけるアニーリング工程としては、人工付加特異プライマー対群のハイブリダイスを抑えるため、5~30秒と比較的短く行うことが望ましく、より好ましくは5~15秒である。温度については、5’人工配列導入プライマーのTm(通常、50~65℃)に対し、-10℃~+10℃が望ましく、好ましくは-5℃~+5℃である。
【0124】
反応工程(2)における伸長工程としては、伸長領域が短いことから、0~20秒行うことが望ましく、好ましくは0~10秒、より好ましくは0~5秒である。伸長工程の温度は、使用するDNAポリメラーゼの特性に依存するが、通常は60~80℃であり、好ましくは60~75℃、より好ましくは65~75℃である。
【0125】
人工付加特異プライマー対群における各プライマー対のTm値は、なるべくばらつきが少ないことが望ましい。具体的には全プライマーの平均Tm(通常、45~75℃)値に対して、±10℃の範囲にあることが望ましく、好ましくは±5℃、より好ましくは±3℃である。
【0126】
人工付加特異プライマー対群における各プライマー対の濃度は、1~2000nMの範囲にあることが望ましく、好ましくは10~1000nM、さらに好ましくは40~500nMである。試料溶液中において、人工付加特異プライマー対群中の各プライマー対の濃度を調整することで、各標的遺伝子の増幅効率を均一に近づけることができる。
【0127】
3’人工配列導入オリゴの濃度は、当該オリゴが、人工AB付加産物に効率的に結合できるよう、支障のない範囲で高くすることが望ましい。具体的には2~4000nMの範囲にあることが望ましく、好ましくは20~2000nM、さらに好ましくは50~1000nMである。
【0128】
5’人工配列導入プライマーの濃度は、2~4000nMの範囲にあることが望ましく、好ましくは20~2000nM、さらに好ましくは50~1000nMである。
【0129】
なお、核酸増幅は、PCR法に限らず、LAMP法、NASBA法、ICAN法、LCR法、Rolling Cycle法、SMAP法、PALSAR法などで行うことができる。
【0130】
プライマー・オリゴに使用する核酸は、DNA、RNA等の天然核酸であってもよいし、2’,4’-BNAcoc、3’-Amino-2’,4’-BNA、2’,4’-BNANC(BNAは全てBridged Nucleic Acidの略称)、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)、TNA(Threose nucleic acid)、GNA(Glycol nucleic acid)等の人工核酸であってもよい。
【0131】
本発明は、下記の(i)~(iii)を含む、最終人工配列付加産物を作製するためのキットも提供する。
(i)3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(a)と、3’末端側に標的とする核酸配列の少なくとも一部に相補的な配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持つ人工付加特異プライマー(b)からなる人工付加特異プライマー対を、少なくとも1対以上含むことを特徴とする人工付加特異プライマー対群、
(ii)3’末端がDNAポリメラーゼにより伸長されないよう同末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Aの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Cを持つ3’人工配列導入オリゴ(c)と、同じく3’末端が標識されており、3’末端側に人工核酸配列Bの配列のうち、少なくとも一部の配列を持ち、5’末端側に人工核酸配列Dを持つ3’人工配列導入オリゴ(d)を含むことを特徴とする3’人工配列導入オリゴ対、及び
(iii)人工核酸配列Cの配列のうち、少なくとも一部の配列 を有する5’人工配列導入プライマー(e)、および人工核酸配列Dの配列のうち、少なくとも一部の配列を有する5’人工配列導入プライマー(f)からなるプライマー対を含むことを特徴とする5’人工配列導入プライマー対
本発明のキットは、以下の特徴を有する人工付加特異プライマー、または/および3’人工配列導入オリゴを含んでもよい。
特徴1:5’末端に人為的に分子内2次構造を形成させることを目的とした配列を導入した人工付加特異プライマー、または/および3’人工配列導入オリゴ。
特徴2:5’末端に導入した上記特徴1に記載した配列の5’末端、または当該配列鎖中に、ブロッカーを導入した人工付加特異プライマー、または/および3’人工配列導入オリゴ。
【0132】
本発明のキットは、さらに、DNAポリメラーゼを含んでもよい。
【0133】
本発明のキットを構成する、プライマーやオリゴDNA、DNAポリメラーゼなどの要素は、上述した通りである。
【0134】
本発明のキットは、その他、反応容器、反応バッファー、使用説明書、ポジティブコントロール試験用の標的核酸、プライマー、オリゴDNAなどを含んでもよい。
【実施例0135】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例0136】
<検出感度の確認>
先行技術1、先行技術4、本発明にて、最終人工配列付加産物の調製を行い、得られた当該産物量を定量することにより、各方法による検出感度を比較した。
【0137】
テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNA(Competent E. coli JM109(ニッポンジーン)より抽出したゲノムDNA)を使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μl、および10コピー/μlの2種類を使用し、これを1反応当たり10μl添加した。反応溶液の組成を、表2に示す。

表2 反応液組成
【0138】
使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列を表3に示す。

表3 使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列
【0139】
上記反応溶液をPCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、下表の温度条件にて反応に供した。

表4 実施例1の温度条件
【0140】
得られた増幅産物を、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
つづいて、上記の増幅産物をサンプルとして、NEBNext Library Quant Kit for Illumina(ニューイングランドバイオラボ社製)を用いたリアルタイムPCR法にて、当該キットに付属のマニュアルに従い、アダプター配列を有する増幅産物(以下、アダプター配列保産物)の定量を実施した。当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。
更に、アダプター配列を有する増幅産物の定量と同じ増幅産物をサンプルとして、QProbeを用いたリアルタイムPCR法を実施した。本定量では、標的遺伝子の増幅部位に相補的なQProbeを使用するため、アダプター配列を有し、かつ特異的な増幅産物のみを定量可能であり、本値より最終人工配列付加産物の量を定量することが可能である。当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。反応液組成(使用プライマー・QProbeの配列含む)、および温度条件を、それぞれ表5、および表6に示した。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。

表5 最終人工配列付加産物定量の反応液組成(使用プライマー・QProbeの配列含む)

表6 最終人工配列付加産物定量の温度条件
【0141】
結果を、表7として示す。

表7 各条件における最終人工配列付加産物の生成量について
【0142】
表7より、先行技術1は、初期添加鋳型濃度が10コピー/反応において、最終人工配列付加産物量が最も大きいことが分かる。しかし、初期添加鋳型濃度が2桁低い10コピー/反応の場合、最終人工配列付加産物量は著しく減少し、本発明よりも低い値を示した。アダプター配列保有産物については、初期添加鋳型濃度に関わらず高い値を示した。これは、先行技術1で使用するプライマーが70塩基前後と非常に長いことから、初期添加鋳型濃度が低い場合、プライマー・ダイマー等の非特異的増幅産物が優占的に増幅され、これがアダプター配列保有産物として検出されたためと推察された。
【0143】
先行技術4の最終人工配列付加産物量は、初期添加鋳型濃度に関わらず、最も少ないことが示された。先行技術4においては、プライマーを安価に準備することができるというメリットを有するものの、最終人工配列付加産物への変換効率は極めて低く、特に初期添加鋳型濃度が低い場合に、その傾向が顕著であることが示された。
【0144】
一方、本発明については、初期添加鋳型濃度に関わらず、最終人工配列付加産物量は高い値を示した。特に初期添加鋳型濃度が低い場合にも、同添加濃度が高い場合とほぼ同等の最終人工配列付加産物が得られ、その定量値は従来技術よりも高い値を示した。
【0145】
以上より、本発明は、従来技術よりも標的遺伝子の検出感度が高いことが示された。
【0146】
なお、本検討で取得した最終人工配列付加産物について、先行技術1、先行技術4、本発明の当該産物より1つずつ選択し、当該産物を、次世代シーケンサーにて解読した(実験方法等は実施例3に記載)。その結果、全ての産物の配列は、大腸菌の16S rRNA遺伝子配列と一致した。
【実施例0147】
<最終人工配列付加産物の濃度調整>
本発明について、5’人工配列導入プライマーの濃度を変化させ、最終人工配列付加産物の調製を行い、得られた当該産物量を定量することにより、5’人工配列導入プライマーの濃度を調整することで最終人工配列付加産物量の制御が可能であるかの検討を実施しした。
【0148】
テンプレートとしては、実施例1と同様、テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNAを使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μlを1反応当たり10μl添加した。反応溶液の組成は、5’人工配列導入プライマーの濃度を除き、表2と同様とした。5’人工配列導入プライマー対の濃度は、各25,50,75,100,150,200,300nMとした。使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列、および反応温度条件についても、実施例1と同様とした。
【0149】
得られた増幅産物は、実施例1と同様、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
【0150】
本希釈液を対象として、人工AB付加産物量および最終人工配列付加産物の定量を行った。最終人工配列付加産物量の定量は、実施例1と同様の方法で実施し、人工AB付加産物量の定量は、使用したプライマー以外は、実施例1と同様の方法にて実施をした。
【0151】
人工AB付加産物量の定量にて使用したプライマーを表8に示す。

表8 人工AB付加産物定量用プライマー
【0152】
特異的産物総量(人工AB付加産物量)定量用プライマーの配列は、標的遺伝子に対して特異的な配列であり、また、本定量では、標的遺伝子を特異的に検出可能なプローブを使用していることから、人工配列が導入されていないものを含めたトータルの特異的産物総量(人工AB付加産物量)を定量することが可能である。最終人工配列付加産物量、特異的産物総量(人工AB付加産物量)ともに定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。
【0153】
結果を図20に示す。
【0154】
特異的産物総量(人工AB付加産物量)は、5’人工配列導入プライマー濃度に依らず、ほぼ一定であった。
【0155】
一方、最終人工配列付加産物量は、本発明においては、5’人工配列導入プライマー濃度が100nMまでは当該添加量に比例して増加した。150nM以上では、最終人工配列付加産物量の増加が頭打ちとなったが、これは特異的産物総量(人工AB付加産物量)から算定されるモル濃度は約100nMであったことから、当該濃度以上の5’人工配列導入プライマーを添加しても、5’人工配列を導入する対象の産物が存在せず、最終人工配列付加産物量が増加に繋がらなかったためと考えられた。
【0156】
以上の結果より、5’人工配列を導入可能な対象産物の濃度を上限とする範囲において、5’人工配列導入プライマーの濃度を調整することにより、最終人工配列付加産物を目標濃度に調製することが可能であることが示された。
【実施例0157】
<数十項目・数十検体の同時増幅>
48人分のヒトゲノムを鋳型として、先行技術4、本発明にて、26箇所のヒト遺伝子から最終人工配列付加産物量を、1度の反応で同時に増幅・調製し、当該産物を対象として次世代シーケンス解析(以下、NGS解析)を実施した。
【0158】
鋳型として、ヒト口腔内粘膜より採取したスワブから抽出したDNAを48検体用いた。DNA濃度は1~4ng/μlの範囲であった。
【0159】
人工付加特異プライマーの終濃度を除く、本発明反応溶液組成を表9に示す。先行技術4の反応液組成については、人工付加特異プライマーの終濃度を除き、実施例1と同様である。人工付加特異プライマーの終濃度については、表10に記載した。

表9 本発明の反応溶液組成
【0160】
また、当該実施例において使用した人工付加特異プライマーを表10に、その他のプライマー、又はオリゴDNAを表11に示す。

表10 実施例3で使用した人工付加特異プライマーおよび添加終濃度の一覧
表11 実施例3で使用したその他プライマー、オリゴDNAの一覧
【0161】
PCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、最終人工配列付加産物を増幅・調製した。温度条件は、本発明については下表(表12)に示した。先行技術4の温度条件は、実施例1に記載の条件と同様である。

表12 実施例3の温度条件
【0162】
続いて、各増幅産物を2μlずつ等量混合し、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行った後、NGS解析(使用装置;Miseq;イルミナ社製)に供した。
【0163】
取得した塩基配列は、バーコード配列に従って分離し、検体中の各標的遺伝子のリード数をカウントした。
【0164】
その結果を図21に示す。この図より何れの実施形態においても、26種全ての標的遺伝子についてリードが得られたことが分かる。
【0165】
しかしながら、先行技術4では、リード数が0であった検体が複数存在した。具体的には、ABO261遺伝子、ABO703/796遺伝子、AGXT ProLeu遺伝子、GPX1遺伝子、GYPA遺伝子、ITPA遺伝子において、それぞれ1検体、1検体、7検体、2検体、1検体、2検体ほど、リード数が0の検体が存在した。一方、本発明では全体的にリード数が多く、検体間のリード数のバラツキも小さかったため、リードが得られない検体は存在せず、全検体について全遺伝子のリードが得られた。
【0166】
表13に、各遺伝子リード数の平均と、その標準偏差を示す。
【0167】
平均リード数は、本発明のほうが、先行技術4よりも多かった。これは、各実施形態間の人工配列導入効率の違いが反映された結果と推察された。
【0168】
一方、標準偏差(%)は、本発明のほうが、先行技術4よりも小さい値を示した。この結果より、遺伝子間のリード数のバラツキについても、本発明のほうが先行技術4よりも少ないことが示された。

表 13 平均リード数とその標準偏差について
【実施例0169】
<人工付加特異SLプライマーによる3’人工CD相補付加産物生成量向上効果>
5’末端に分子内2次構造を有し、鎖中にブロッカーを有する人工付加特異プライマー(人工付加特異SLプライマー)を使用して反応工程(1)、(2)を実施した系(試験系)と、通常の人工付加特異プライマーを使用し反応工程(1)、(2)を実施した系(コントロール系)にて、3’人工CD相補付加産物の調製を実施し、得られた当該産物を定量することにより、人工付加特異SLプライマーによる3’人工CD相補付加産物の生成量向上の効果を検証した。
【0170】
テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNA(Competent E. coli JM109(ニッポンジーン)より抽出したゲノムDNA)を使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μlを使用し、これを1反応当たり10μl添加した。
【0171】
反応溶液の組成は、反応工程(3)にて機能する5’人工配列導入プライマー対を添加しないこと、および使用した人工付加特異プライマーが試験系とコントロール系とで異なること以外、前記した表2中の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。
【0172】
試験系にて使用した人工付加特異プライマー(人工付加特異SLプライマー)を下表に示す。

表14 試験系に使用した人工付加特異SLプライマー
【0173】
また、使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列は、試験系にて使用した人工付加特異SLプライマー以外、前記した表3の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。また、上記の通り、反応工程(2)での3’人工CD相補付加産物の生成量を正確に見積るため、本実施例では表3に記載のある5’人工配列導入プライマー対は使用しなかった。上記の反応溶液をPCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、下記の温度条件にて反応に供した。具体的には、反応工程(1)、及び反応工程(2)のみ実施し、そのときの温度条件は、前記した表4中の「本発明」と記載した列の条件にて実施した。なお、前記の通り、反応工程(3)は実施しなかった。
【0174】
得られた増幅産物を、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
【0175】
つづいて、上記の増幅産物をサンプルとして、3’末端にアダプター配列の相補鎖を有する3’人工CD相補付加産物の定量を実施した。アダプター配列にはフォワード側(P1)とリバース側(P2)の2種類が存在することから、3’人工CD相補付加産物には、P1の相補鎖を3’末端に有する産物と、P2の相補鎖を3’末端に有する産物が存在する。本定量では、上記2種類の産物を各々定量した。
【0176】
また、前記した同じ希釈液を対象として、実施例2と同様の方法にて人工AB付加産物量の定量を実施した。
【0177】
当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。
【0178】
本定量に使用したプライマーを表15に示す。その他の反応液組成(QProbeの配列含む)、および温度条件は、それぞれ前記表5、6に記載の通りである。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。

表15 3’人工CD相補付加産物定量にて使用したプライマー
【0179】
結果を、表16として示す。

表16 人工AB付加産物総量、及び3’人工CD相補付加産物の定量結果
【0180】
上記表16より、2次構造を有する人工付加特異SLプライマーを使用した試験系における3’人工CD相補付加産物の生成量は、P1相補鎖保有産物、P2相補鎖保有産物ともに、2次構造を持たない通常の人工付加特異プライマーを使用したコントロール系よりも約1.5倍多いことが示された。この結果より、2次構造を有する人工付加特異SLプライマーによる3’人工CD相補付加産物生成量の向上効果が確認された。
【実施例0181】
<3’人工配列導入SLオリゴによる最終人工配列付加産物生成量向上効果>
5’末端に分子内2次構造を有し、鎖中にブロッカーを有する3’人工配列導入オリゴ(3’人工配列導入SLオリゴ)を使用して反応工程(1)~(3)を実施した系(試験系)と、通常の3’人工配列導入オリゴを使用し反応工程(1)~(3)を実施した系(コントロール系)にて、最終人工配列付加産物を実施し、得られた当該産物を定量することにより、3’人工配列導入SLオリゴによる最終人工配列付加産物の生成量向上の効果を検証した。
【0182】
テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNA(Competent E. coli JM109(ニッポンジーン)より抽出したゲノムDNA)を使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μlを使用し、これを1反応当たり10μl添加した。
【0183】
反応溶液の組成は、使用した3’人工配列導入オリゴが試験系とコントロール系とで異なること、、及び5’人工配列導入プライマー添加濃度を150nMとした以外、前記した表2中の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。試験系にて使用した3’人工配列導入オリゴ(3’人工配列導入SLオリゴ)を下表に示す。

表17 試験系に使用した3’人工配列導入SLオリゴ
【0184】
また、使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列は、試験系にて3’人工配列導入SLオリゴを使用した以外、前記した表3の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。上記の反応溶液をPCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、前記した表4中の「本発明」と記載した列の条件にて実施した。
【0185】
得られた増幅産物を、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
【0186】
つづいて、上記の希釈した増幅産物をサンプルとして、両末端にアダプター配列(P1,P2)を有する最終人工配列付加産物の定量を実施した。当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。
【0187】
本定量に使用したプライマー、その他の反応液組成(QProbeの配列含む)、および温度条件は、それぞれ前記表5、6に記載の通りである。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。
【0188】
また、前記した同じ希釈液を対象として、実施例2と同様の方法にて人工AB付加産物量の定量を実施した。
【0189】
結果を、表18として示す。

表18 人工AB付加産物総量、及び最終人工配列付加産物の定量結果
【0190】
上記表18より、2次構造を有する3’人工配列導入SLオリゴを使用した試験系における最終人工配列付加産物の生成量は、2次構造を持たない通常の3’人工配列導入オリゴを使用したコントロール系よりも約1.9倍多いことが示された。この結果より、2次構造を有する3’人工配列導入SLオリゴによる最終人工配列付加産物生成量の向上効果が確認された。
【実施例0191】
<SDポリメラーゼ添加量の増加よる最終人工配列付加産物生成量向上効果>
耐熱性DNAポリメラーゼであるSD polymerase(バイオロン)を、製造メーカープロトコルの指定量以上に添加した際の最終人工配列付加産物の生成量の増加効果を検証した。
【0192】
テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNA(Competent E. coli JM109(ニッポンジーン)より抽出したゲノムDNA)を使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μlを使用し、これを1反応当たり10μl添加した。
【0193】
反応溶液の組成は、SD polymeraseの添加量が異なること、及び5’人工配列導入プライマー添加濃度を150nMとした以外、前記した表2中の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。
【0194】
また、使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列は、試験系にて3’人工配列導入SLオリゴ以外、前記した表3の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。上記の反応溶液をPCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、前記した表4中の「本発明」と記載した列の条件にて実施した。
【0195】
得られた増幅産物を、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
【0196】
つづいて、上記の希釈した増幅産物をサンプルとして、両末端にアダプター配列(P1,P2)を有する最終人工配列付加産物の定量を実施した。当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。
【0197】
本定量に使用したプライマー、その他の反応液組成(QProbeの配列含む)、および温度条件は、それぞれ前記表5、6に記載の通りである。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。
【0198】
また、前記した同じ希釈液を対象として、実施例2と同様の方法にて人工AB付加産物量の定量を実施した。
【0199】
結果を、表19として示す。

表19 SDポリメラーゼ添加量が、人工AB付加産物総量、及び最終人工配列付加産物量に与える影響
【0200】
上記表19より、SD polymeraseの添加量が増加するに従い、最終人工配列付加産物の生成量も増加することが示された。この結果より、SD polymeraseの添加量増加による最終人工配列付加産物生成量の向上効果が確認された。
【実施例0201】
<反応工程(1)アニーリング温度を途中のサイクルで上昇させた条件での増幅確認>
反応工程(1)アニーリング温度を途中サイクルで上昇させた反応条件における人工AB付加産物の増幅の有無を検討した。また、人工AB付加産物を鋳型とした反応工程(2)における3’人工CD相補付加産物の生成の有無を検討した。
【0202】
各試験系(6系列)の反応条件を表20として示す。
【0203】
人工付加特異プライマー、及び3’人工配列導入オリゴは、表3中の「本発明」と記載した列に記載したものを用いた。なお、本実施例では5’人工配列導入プライマーは添加していない。反応溶液の組成は、前記した表2中の「本発明」と記載した列に明記した通りとなる。
【0204】
テンプレートとしては、大腸菌K-12株由来のゲノムDNA(Competent E. coli JM109(ニッポンジーン)より抽出したゲノムDNA)を使用し、16S rRNA遺伝子を標的遺伝子とし、標的遺伝子の濃度は、10コピー/μlを使用し、これを1反応当たり10μl添加した。
【0205】
試験系の反応は、PCR増幅装置(Life touch(日本ジェネティクス社製))を用いて、前記した表20に記載した温度条件にて実施した。
【0206】
得られた増幅産物を、AmpureXP(ベックマンコールター社製)を用いて精製を行い、1万倍に希釈した。
【0207】
つづいて、上記の希釈した増幅産物をサンプルとして、実施例2と同じ方法にて人工AB付加産物の定量を、実施例4と同じ方法にて3’人工CD相補付加産物の定量をそれぞれ実施した。当該測定の定量値は、遺伝子のコピー数にて得られるが、本定量値を、二本鎖の最終人工配列付加産物として重量濃度に換算した。
【0208】
本定量に使用したその他の反応液組成(QProbeの配列含む)、および温度条件は、それぞれ前記表5、6に記載の通りである。リアルタイムPCR装置は、Roter-Gene Q(キアゲン社製)を使用した。

表20 実施例7において使用したオリゴ/プライマーと各試験系の反応条件
【0209】
結果を、表21として示す。

表21 反応工程(1)のアニーリング温度を途中サイクルで変更した際の各種産物量に与える影響
【0210】
本実施例にて使用した人工付加特異プライマーの適正なアニーリング温度である63℃にてアニーリング温度を一定とした試験系1においては、想定通り、人工AB付加産物量が確認された。また、人工付加特異プライマーの適正なアニーリング温度よりも5℃高温である68℃にてアニーリング温度を一定とした試験系2においては、人工AB付加産物は生成されなかった。一方、人工付加特異プライマーの適正なアニーリング温度(63℃)で2サイクル反応を実施した後、試験系2にて増幅が確認されなかったアニーリング温度(68℃)にて50サイクル反応を実施した試験系3においては、試験系1とほぼ同程度の人工AB付加産物が確認された。
【0211】
この結果より、人工AB付加産物がはじめてに生成される2サイクルの次サイクル以降(3サイクル目以降)において、通常のPCRでは増幅されない温度(68℃)までアニーリング温度を上昇させたとしても、増幅が発生することを確認することができた。これは、人工AB付加産物は、当該産物の3’末端に一方の人工付加特異プライマーの全領域と相補的な配列を有するため、当該産物が存在する3サイクル目以降は、人工付加特異プライマーの全領域が人工AB付加産物に対して結合することから、通常のPCRサイクルでは増幅が確認できないアニーリング温度に当該温度を上昇させてもPCR増幅が可能であったと判断された。
【0212】
本実施例にて使用した人工付加特異プライマーの標的核酸に相補的な配列領域の推定Tm値、及び同プライマーの全領域の推定Tm値を、表22に示した。

表22 人工付加特異プライマーの標的核酸に相補的な配列、全領域の推定Tm値
【0213】
本表より、標的核酸に相補的な配列のTm値と、変更後のアニーリング温度(68℃)との差異は10℃程度であることから、反応工程(1)のはじめからアニーリング温度を68℃に設定すると、本実施例の試験系2のように、増幅が発生しないことが想定される。一方、人工付加特異プライマーの全領域の推定Tm値は、変更後のアニーリング温度よりも3~5℃高温であることから、本実施例の試験系3のように、当該プライマーの全領域に対して相補的な配列を持つ人工AB付加産物が存在する場合には、アニーリング温度を68℃に上昇させたとしても、増幅が確認されると想定された。このように、人工付加特異プライマーの推定Tm値からも、本実施例における結果を説明することが可能であった。
【0214】
また、試験系1及び4、試験系3及び6は、反応工程(1)の条件がそれぞれ同じであり、これら4つの試験系において人工AB付加産物はほぼ同程度増幅され、3’人工配列導入オリゴを添加した試験系4、及び6については、ほぼ同程度の3’人工CD相補付加産物が検出された。この結果より、反応工程(1)にて途中サイクルからアニーリング温度を上昇させる条件(試験系6)にて増幅された人工AB付加産物は、反応工程(2)の鋳型となり、3’人工CD相補付加産物に変換可能であることが示された。
【0215】
以上の結果より、反応工程(1)の3サイクル目以降の任意サイクルから、人工付加特異プライマーの全領域が人工AB付加産物に結合可能な温度範囲内において、アニーニング温度を上昇させたとしても、本発明の実施が可能であることが明らかとなり、その結果、前記したメリット(人工付加特異プライマー設計上の制限 [具体的には、反応工程(1)のアニーリング温度を、人工付加特異プライマーのうち標的核酸に相補的な配列のTm値より設定した温度とした上で、本アニーリング温度と反応工程(2)のアニーリング温度の差異を一定以上確保するという制限]から解放されるため、適用可能な標的核酸の範囲を拡大することが可能となるメリット)を享受できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0216】
本発明は、遺伝子ライブラリーの新規調製方法として利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0217】
<配列番号1~135>実施例で使用したプライマー/オリゴDNAの塩基配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
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