(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170751
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】多芯ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20221104BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076908
(22)【出願日】2021-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 孝巳
(72)【発明者】
【氏名】芥川 健太
【テーマコード(参考)】
5G311
5G313
【Fターム(参考)】
5G311AA04
5G311AB01
5G311AC06
5G311AD02
5G311AD03
5G313AB03
5G313AC03
5G313AD01
5G313AE04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、アーチ状に保持するための自立性に優れると共に、高速可動下での使用において、捻回における耐久性を向上させた多芯ケーブルを提供することにある。
【解決手段】少なくとも1本のチューブと、複数本からなる電線と、これらを一括して外周に設けられる外被からなる多芯ケーブルにおいて、チューブの硬度(ショアD)は30以上であって、外被の硬度(アスカーC)は60~85であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のチューブと、複数本からなる電線と、これらを一括して外周に設けられる外被からなる多芯ケーブルにおいて、
該チューブの硬度(ショアD)は30以上であって、
該外被の硬度(アスカーC)は60~85であることを特徴とする多芯ケーブル。
【請求項2】
該チューブの材質の動摩擦係数が、0.3以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の多芯ケーブル。
【請求項3】
該チューブの肉厚は0.50mm~3.0mmであって、
該チューブの外径は1.0mm~10mmであって、
該多芯ケーブルの外径が10.0mm~30.0mmであることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の多芯ケーブル。
【請求項4】
該チューブの扁平度(最小外径/最大外径)は、0.90~1.0であることを特徴とする、
請求項1~3の何れか一項に記載の多芯ケーブル。
【請求項5】
該外被の厚さは、1.0mm~4.0mmであることを特徴とする、
請求項1~4の何れか一項に記載の多芯ケーブル。
【請求項6】
該外被の内側に、静摩擦係数が動摩擦係数以下からなる材料で構成されるテープ巻き層を有することを特徴とする、
請求項1~5の何れか一項に記載の多芯ケーブル。
【請求項7】
該テープ巻きの巻きピッチが、テープの幅の1/6~1/2であることを特徴とする、
請求項6に記載の多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に産業用ロボットで用いられるケーブルであって、垂直多関節ロボット、水平多関節ロボット、直交ロボット等、関節部分の位置や数に応じて複雑な動きが求められる可動部において、好適に用いられる多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
中でも水平多関節ロボットに使われるケーブルは、ロボットアームの先端部と基端部を接続するケーブルとして用いられ、アーチ状に配設され、常時アーチ状に保持するため、ケーブルの自立性が求められる他、高速可動の環境下で長期間使用されることから、捻じれに対する耐久性が求められている。
【0003】
水平多関節ロボット用ケーブルの例として、特許文献1の多芯ケーブルは、シース部材の特性と、集合線の撚り方向と、集合線の外周を覆うテープ部材の巻き付け方向の関係性に着目し、捻回に対する耐久性を向上することが示されている。
【0004】
また、特許文献2においてもシースに着目し、ウレタン樹脂からなる内層シースと、内層シースを保護する外層シースを有する多芯ケーブルが示され、断線が発生にくい効果が謳われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-204591号公報
【特許文献2】特開2020-95790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アーチ状に保持するための自立性に優れると共に、高速可動下での使用において、捻回における耐久性を向上させた多芯ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)少なくとも1本のチューブと、複数本からなる電線と、これらを一括して外周に設けられる外被からなる多芯ケーブルにおいて、チューブの硬度(ショアD)は30以上であって、外被の硬度(アスカーC)は60~85であることを特徴とする。
(2)チューブの材質の動摩擦係数が、0.3以下であることが好ましい。
(3)チューブの肉厚は0.50mm~3.0mmであって、チューブの外径は1.0mm~10mmであって、多芯ケーブルの外径が10.0mm~30.0mmであることが好ましい。
(4)チューブの扁平度(最小外径/最大外径)は、0.90~1.0であることが好ましい。
(5)外被の厚さは、1.0mm~4.0mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チューブ自体が、多芯ケーブルの自立性向上に寄与するため、水平多関節ロボット等にアーチ状に固定された際、高速可動下における振れが抑制され、その結果ケーブルへの負荷を軽減できる。自立性向上に伴い、シースのしわが低減されることも、ケーブルへの負荷軽減に寄与する。また、チューブの滑り性向上により、チューブと電線間の摩擦が低減し、特に電線(信号線)内の導体の断線を防止できるため、耐久性が向上し長期使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)(b)本発明のケーブルにおける断面図の一例を示す。
【
図2】本発明における自立性評価試験の方法を表す概略図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のケーブルの一例として、基本構成について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1(a)の多芯ケーブル1は、少なくとも1本のチューブ2と、複数本からなる電線3と、これらを一括して外周に設けられる外被4からなる。
図2(b)は、さらに、テープ巻き層5や介在6を有する。
チューブ2の本数は、自立性向上の観点において、2本または3本が好ましい。
【0012】
チューブ2のデューロメータ硬さタイプ(ショアD)は30以上である。これにより自立性が向上し、多芯ケーブル1をアーチ状に保持することができる。自立性の向上により、高速可動下において多芯ケーブル1の振れを抑制でき、ケーブル内の電線(信号線)への負荷軽減される結果、導体の断線防止に寄与する。好ましくは50以上である。上限値は特に限定されないが、屈曲時の破損防止の観点から60以下が好ましい。
【0013】
(硬度の測定方法)
デューロメータ硬さDタイプ(ショアD)について、JISK7215に準拠する方法で測定する。測定サンプルはチューブ形状(内径4.0mm、外径6.0mm)であり、試験荷重は50Nである。
【0014】
チューブ2の材質の動摩擦係数については特に限定されないが、0.3以下の材料が好ましい。動摩擦係数が0.3以下の材料としてはふっ素樹脂、ポリエチレン、ナイロン66、などが挙げられ、特に好ましくはふっ素樹脂である。本発明における動摩擦係数は、JIS K 7125に準拠して測定される値である。
【0015】
チューブ2の肉厚は特に限定されないが、多芯ケーブル1の自立性を保持する目的で、0.50mm~3.0mmが好ましい。さらに好ましくは0.50mm~2.0mmであり、最も好ましくは0.50mm~1.0mmである。
【0016】
同様の目的において、チューブ2の外径は1.0mm~10mmが好ましい。さらに好ましくは、2.0mm~10.0mm、最も好ましくは3.0mm~8.0mmである。
【0017】
チューブ2の扁平度は特に限定されないが、0.90~1.0であることが好ましい。ここでの扁平度は、多芯ケーブル1が直線状態での値を示す。
扁平度=最小外径/最大外径
チューブ2と電線3との接触部分が点接触となるため、摩擦が低減され、多芯ケーブル1の耐捻回性が向上する。より好ましくは、0.95~1.0である。
【0018】
多芯ケーブル1の外径は特に限定されないが、10.0~30.0mmが好ましい。上述のチューブ2の肉厚、外径に加え、さらに多芯ケーブル1の外径が10.0~30.0mmの場合、多芯ケーブル1の自立性の改善がより顕著となりより好ましい。さらに好ましくは15.0~25.0mmである。
【0019】
多芯ケーブル1の外被4の硬度(アスカーC)は60~85である。60~85の場合、外被4は適度な柔軟性を有するため、可動時に多芯ケーブル1内部の電線3への負荷を緩和することができるため、しわの発生が少なく、導体31の断線防止に寄与し捻回に対する耐久性の向上につながる。さらに好ましくは70~85である。
【0020】
チューブの硬度(ショアD)が30以上であって、さらに外被の硬度(アスカーC)が60~85である場合、これらの相乗効果により捻回に対する耐久性の向上が顕著となる。
【0021】
外被4の厚さは特に限定されないが、1.0mm~4.0mmが好ましい。多芯ケーブル1の外径が10.0~30.0mmであって、かつ、外被4の厚さが1.0mm~4.0mmである場合は、外被4のしわ発生が抑制され、すなわち、ケーブル内部への負荷が緩和、電線への負荷が低減されるためさらに好ましい。
【0022】
外被4の硬度(アスカーC)60~85、かつ、厚さ1.0mm~4.0mmである場合、多芯ケーブルの捻じれに対し、ケーブル内部への負荷が緩和、電線への負荷が低減されるため、さらに好ましい。
【0023】
外被4の材質は特に限定されないが、好ましくは、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンが好ましい。
【0024】
電線3の構成について特に限定されない。例えば、単線又は撚線の導体上に絶縁材料を被覆された電線、同軸ケーブル、光ファイバケーブル、あるいは、介在と共にこれらを撚り合わせた多芯ケーブルなどが挙げられる。
【0025】
導体31の材質は特に限定されないが、例えば、銅やアルミニウム等の金属線や、あるいは、それらに錫、鉄、亜鉛、ニッケル等を添加した合金線等が用いられる。金属線の表面には、銀、錫等のメッキが施されてもよい。
【0026】
導体31の構成は特に限定されないが、複数の素線を撚り合わせた集合撚線を、さらに複数本撚り合わせた複合撚線構造であることが好ましい。単線構造や集合撚線構造と比較して、耐屈曲性が向上する。
【0027】
絶縁体32の材質は特に限定されないが、伝送特性の観点でふっ素樹脂が好ましい。
【0028】
外被4の内側には、静摩擦係数が動摩擦係数以下からなる材料で構成されるテープ巻き層5を有することが好ましい。
【0029】
テープ巻き層5は特に限定されないが、静摩擦係数が動摩擦係数以下からなる材料で構成されることが好ましく、例えばふっ素樹脂である。これにより、テープ巻き層5と接する、チューブ2や電線3との摩擦が低減され、結果として捻回に対する耐久性が向上する。好ましくは汎用性の点でPTFEであり、特に未焼成PTFEは耐久性に優れ、より好ましい。
【0030】
テープ巻き層5の巻きピッチは特に限定されないが、テープの幅の1/6~1/2であることが好ましい。一括して束ねられたチューブ2や電線3の押さえ効果の他、上述の摩擦低減による耐久性向上に寄与する。より好ましくは、テープの幅の1/6~1/3である。
【0031】
テープ巻き層5を施す場合、テープ巻き層5と外被4の間に隙間(図示せず)を設けることが好ましい。隙間により、捻じれにより生じる、電線3(導体31)への負荷を軽減できる。
【0032】
電線2やチューブ3の間は、介在6が用いられることが好ましい。介在の材料は特に限定されないが、例えば、ポリエステルやナイロン等のプラスチック材、綿材の糸状・紐状、棒状等の素材が挙げられる。低摩擦性の観点においては、チューブの材質同様、静摩擦係数が動摩擦係数以下からなる材料で構成されることが好ましい。
【実施例0033】
以下、本発明の多芯ケーブル1に関して実施例を挙げ具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1は、
図1(a)に示す多芯ケーブル1であって、内径2.0mm外径4.0mmで構成されるチューブ2を3本と、4芯の多芯ケーブルやツイスト線から構成される複数本の電線3を一括し、外周に外被4として、厚さ2.0mmのPVCを施す。PVCの硬度(アスカーC)は約80である。
【0035】
比較例1は、実施例1のうち、チューブ2の材質はポリウレタンを用いる。
【0036】
以上の実施例及び比較例のケーブルについて、自立性評価、屈曲時のしわ発生の有無、及び、耐捻回試験を行い、結果を表1に示す。
【0037】
(自立性評価試験の測定方法)
長さ700mmの多芯ケーブル1の両端を400mm幅で台に固定し、端部以外は台の外に吊るすように配置する。ケーブルの中間部分に300gfの錘を吊るし、台からのたわみ量を測定する。
【0038】
(耐捻回試験方法)
測定条件として、サンプルの長さは500mm、固定間距離は200mmである。サンプルの両端を左右同時に約140度捻じることを1回とし、速度約150回/minする。試験前の導体抵抗値からの上昇率(%)を確認し、10%以上となった捻回回数を測定する。
【0039】
【0040】
実施例1は、チューブ材質がFEPでチューブ硬度が30以上であるため自立性に優れている。外被のしわの発生も少ないことから、ケーブル内部への負荷が緩和、すなわち電線への負荷が低減されていることが分かる。その結果、耐捻回性試験の結果についても比較例1と比べて優れている。
【0041】
またチューブの材質について、実施例1は、動摩擦係数が0.3以下である材料で構成されることで、チューブと電線間の摩擦が軽減され、捻回に対する耐久性が改善することが言える。