(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170754
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】セラミックス多孔体
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20221104BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B35/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076912
(22)【出願日】2021-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】塩津 兼一
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019FA15
(57)【要約】
【課題】セラミックス多孔体の軽量性を確保しつつ、強度を向上する。
【解決手段】セラミックス多孔体1は、1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下である。セラミックス多孔体1は、表層として緻密層2を有している。セラミックス多孔体1の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、セラミックス多孔体1の表面から100μm以内の領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下であるセラミックス多孔体であって、
表層として緻密層を有しており、
前記セラミックス多孔体の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、
前記セラミックス多孔体の表面から100μm以内の領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、
前記セラミックス多孔体の表面から200μm以上離れた領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、
割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい、セラミックス多孔体。
【請求項2】
前記セラミックス多孔体の表面から50μm以内の領域において、前記セラミックス粒子の粒径を測定すると、粒度分布がバイモーダル分布を示す、請求項1に記載のセラミックス多孔体。
【請求項3】
前記セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を算出し、
前記セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を算出すると、
前記セラミックス粒子を構成する主元素と前記セラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)のうち少ない方の含有率が70質量%以上90質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載のセラミックス多孔体。
【請求項4】
前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、繊維長が50μm以上である前記セラミックス繊維の平均アスペクト比が20以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセラミックス多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ繊維の集合体とアルミナ繊維が分散したスラリーとを所定の溶媒中で混合してアルミナ成形体を得て、アルミナ成形体を焼成したアルミナ焼成成形体が知られている(例えば、特許文献1)。高純度アルミナ繊維前駆体を熱処理したものにスラリーを含浸し再度熱処理する技術も知られている(例えば、特許文献2)。
また、セラミックスの繊維の集合体で気孔率が高いセラミックス焼結体(特許文献3)、繊維を圧縮成形し熱処理をおこなったセラミックス多孔体(特許文献4)、セラミックス短繊維が分散しているセラミックススラリーにセラミックス長繊維を浸漬して作製したセラミックス材料(特許文献5)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-36034号公報
【特許文献2】特開平5-319949号公報
【特許文献3】特開2007-217235号公報
【特許文献4】特開2011-219359号公報
【特許文献5】特開2012-12240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックス多孔体において、気孔率と強度は相反する性能であり、軽量性を確保しつつ、強度を向上することが難しかった。
本開示は、上記実情を鑑みてなされたものであり、セラミックス多孔体の軽量性を確保しつつ、強度を向上することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下であるセラミックス多孔体であって、
表層として緻密層を有しており、
前記セラミックス多孔体の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、
前記セラミックス多孔体の表面から100μm以内の領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、
前記セラミックス多孔体の表面から200μm以上離れた領域において、前記視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、
割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい、セラミックス多孔体。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、セラミックス多孔体の軽量性を確保しつつ、強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】セラミックス多孔体の断面を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記セラミックス多孔体の表面から50μm以内の領域において、前記セラミックス粒子の粒径を測定すると、粒度分布がバイモーダル分布を示す、セラミックス多孔体。
【0009】
〔3〕前記セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を算出し、
前記セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して、前記セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を算出すると、
前記セラミックス粒子を構成する主元素と前記セラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)のうち少ない方の含有率が70質量%以上90質量%以下である、セラミックス多孔体。
【0010】
〔4〕前記セラミックス多孔体の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、繊維長が50μm以上である前記セラミックス繊維の平均アスペクト比が20以上である、セラミックス多孔体。
【0011】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.セラミックス多孔体1
セラミックス多孔体1は、1種以上のセラミックス粒子と1種以上のセラミックス繊維とを含み、平均気孔率が40%以上75%以下である。セラミックス多孔体1は、表層として緻密層を有している。セラミックス多孔体1の断面を100μm×100μmの視野で観察して、セラミックス多孔体1の表面から100μm以内の領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい。
【0013】
(1)セラミックス粒子
セラミックス粒子としては、酸化物系セラミック粒子、炭化物系セラミックス粒子、窒化物系セラミックス粒子、炭窒化物系セラミックス粒子等が挙げられる。セラミックス粒子は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。セラミックス粒子は、酸化物系セラミック粒子又は炭化物系セラミックス粒子であることが好ましく、酸化物系セラミック粒子であることがより好ましい。
セラミックス粒子は、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Sr(ストロンチウム)、Cr(クロム)、及びBa(バリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素の酸化物を含むことが好ましい。これらの中でも、セラミックス粒子は、生産性の観点から、主成分としてアルミナ(Al2O3)を含むことがより好ましい。セラミックス粒子は、耐食性向上の観点から、主成分として炭化ケイ素(SiC)を含むことも好ましい。
【0014】
セラミックス粒子の平均粒径は特に限定されない。セラミックス粒子の平均粒径は、例えば、1μm以上8μm以下であってもよい。なお、セラミックス粒子の平均粒径は、セラミックス粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)画像から、円相当径として算出できる。
【0015】
(2)セラミックス繊維
セラミックス繊維としては、酸化物系セラミック繊維、炭化物系セラミックス繊維等が挙げられる。セラミックス繊維は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。セラミックス繊維は、酸化物系セラミック繊維又は炭化物系セラミックス繊維であることが好ましく、酸化物系セラミック繊維であることがより好ましい。
セラミックス繊維は、アルミナ(Al2O3)/シリカ(SiO2)ファイバー、アルミナ(Al2O3)ファイバー、シリカ(SiO2)ファイバー、及び炭化ケイ素(SiC)ファイバーからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、セラミックス繊維は、生産性や靭性の観点から、アルミナ(Al2O3)/シリカ(SiO2)ファイバーを含むことがより好ましい。セラミックス粒子は、耐食性向上の観点から、炭化ケイ素(SiC)ファイバーを含むことも好ましい。
セラミックス繊維は、セラミックス繊維以外の無機繊維と併用されてもよい。そのような無機繊維としては、カーボン(C)ファイバーが例示される。セラミックス繊維とセラミックス繊維以外の無機繊維が併用される場合には、セラミックス繊維以外の無機繊維の含有量よりもセラミックス繊維の含有量が多いことが好ましい。
【0016】
セラミックス繊維の平均繊維長は特に限定されない。セラミックス繊維の平均繊維長は、例えば、10μm以上500μm以下であってもよい。
セラミックス繊維の平均繊維幅は特に限定されない。セラミックス繊維の平均繊維幅は、例えば、10μm以上50μm以下であってもよい。
なお、セラミックス繊維の平均繊維長及び平均繊維幅は、セラミックス粒子のSEM画像から算出できる。具体的には、後述の(8)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件で説明するように、繊維長が50μm以上のセラミックス繊維の繊維長と繊維幅を測定して、その平均値として算出できる。
【0017】
(3)セラミックス多孔体1の平均気孔率
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、40%以上75%以下である。セラミックス多孔体1の平均気孔率は、軽量性の観点から、40%以上であり、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、セラミックス多孔体1の平均気孔率が75%以下であれば、セラミックス多孔体1の強度を確保できる。
【0018】
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、次のようにして算出できる。
セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いた画像解析を行い、気孔が領域全体に占める面積を求める。求めた気孔の面積を、領域の面積で除して、気孔率を百分率で算出する。この気孔率を3カ所の異なる領域において求め、その平均値を算出する。算出された平均値を平均気孔率とする。
セラミックス多孔体1の平均気孔率は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、樹脂ビーズの大きさ及び配合量、セラミックス繊維の原料の繊維長、繊維径及び配合量、セラミックス粒子の原料の粒径及び配合量、並びに焼成温度及び時間等を調整してコントロールできる。
【0019】
(4)緻密層2
セラミックス多孔体1は、表層として緻密層2を有している。セラミックス多孔体1は、強度、耐摩耗性、及び耐久性向上の観点から、外部に露出する表層全体が緻密層2であることがより好ましい。
緻密層2の厚みは、特に限定されない。緻密層2の厚みは、0μmより大きく、例えば30μm以上であってもよい。また、緻密層2の厚みは、200μm以下であってよく、例えば100μm以下であってもよい。
【0020】
(5)気孔率差に関する要件
セラミックス多孔体1の断面を100μm×100μmの視野で観察したときに、セラミックス多孔体1の表面から100μm以内の領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P1(%)を算出し、セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域において、視野の面積に対して気孔が占める面積の割合P2(%)を算出すると、割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい。セラミックス多孔体1の表面から200μm以上離れた領域としては、セラミックス多孔体1の大きさに応じて、セラミックス多孔体1の表面から300μm以下、500μm以下、10000μm以下離れた領域であってもよい。
割合P1(%)は、強度向上及び耐摩耗性向上の観点から、割合P2(%)よりも22%以上小さいことがより好ましく、24%以上小さいことがさらに好ましい。割合P1(%)が割合P2(%)よりも小さい割合は、通常、55%以下であり、40%以下、35%以下であってもよい。
割合P1(%)と割合P2(%)との差は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、第2のセラミックス粒子の原料粉末の粒径、樹脂ビーズの配合割合等を調整してコントロールできる。
【0021】
(6)表層の粒度分布に関する要件
セラミックス多孔体1の表面から50μm以内の領域において、セラミックス粒子の粒径を測定すると、粒度分布がバイモーダル分布を示すことが好ましい。このような構成によれば、緻密層2の気孔率をより一層小さくして、セラミックス多孔体1の強度を向上できる。
【0022】
セラミックス多孔体1の表面から50μm以内の領域の粒度分布は、次のようにして評価できる。
セラミックス多孔体1の表面の法線方向と切断方向とが平行となる断面のSEM画像を取得する。SEM画像上で、セラミックス多孔体1の表面から50μm以内において50μm×50μmの正方形の領域を10箇所特定する。これらの領域の範囲内でEPMAを用いた画像解析を行い、すべてのセラミックス粒子の粒径(円相当径)を求める。セラミックス粒子の粒径の分布について、以下の要件(a)、(b)、(c)のうち、(a)と、(b)及び(c)の少なくとも一方とを充足する場合に、バイモーダル分布を示すと評価する。セラミックス多孔体1は、要件(a)、(b)、(c)の全てを充足することがより一層好ましい。
(a)2つのピークのうち低いピークの頻度が、高いピークの頻度の0.55倍より大きい。
(b)2つのピークのみが観察される。
(c)2つのピークの頻度の合算が、セラミックス粒子全体の頻度の9%以上を占める。
【0023】
例えば、セラミックス多孔体1は、粒径が0.5μm~3μmの範囲にピークトップを有する第一ピークと、粒径が4μm~10μmの範囲にピークトップを有する第二ピークと、からなるバイモーダルな粒度分布を示していてもよい。以下、粒径が所定値(例えば3.5μm)よりも大きいセラミックス粒子を第1のセラミックス粒子と称し、粒径が所定値以下のセラミックス粒子を第2のセラミックス粒子と称して説明する場合がある。
セラミックス多孔体1の表面から50μm以内の領域の粒度分布は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、第2のセラミックス粒子の原料粉末の粒径を調整してコントロールできる。
【0024】
(7)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件
セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)は、セラミックス粒子をエネルギー分散型X線分析により分析して算出する。
具体的には、セラミックス多孔体1の断面においてセラミックス粒子上の点を、SEMに付属されているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)にて点分析する。点分析は、異なるセラミックス粒子上にそれぞれ位置する5点において行う。点ごとにすべての元素を定量分析し、その分析結果に基づきAl、Mg、Si等のカチオン成分の酸化物換算での含有率(質量%)を求める。この際、例えば、AlはAl2O3に、MgはMgOに、ZrはZrO2に、SiはSiO2に、TiはTiO2に、SrはSrOに、CrはCr2O3に、BaはBaOにそれぞれ酸化物換算する。各カチオン成分の酸化物換算での含有率は、カチオン成分全体を酸化物換算した合計の質量を100質量%として求める。
カチオン成分ごとに、5点の点分析で得られた酸化物換算での含有率の平均値を算出する。この平均値が最も大きいカチオン成分を、セラミックス粒子を構成する主元素として特定する。そして、特定した主元素の平均値を、セラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)とする。
【0025】
セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)は、セラミックス繊維をエネルギー分散型X線分析により分析して算出する。
具体的には、セラミックス多孔体1の断面においてセラミックス繊維上の点を、SEMに付属されているEDSにて点分析する。点分析は、異なるセラミックス繊維上にそれぞれ位置する5点において行う。点ごとにすべての元素を定量分析し、その分析結果に基づきAl、Si等のカチオン成分の酸化物換算での含有率(質量%)を求める。この際、例えば、AlはAl2O3に、SiはSiO2にそれぞれ酸化物換算する。各カチオン成分の酸化物換算での含有率は、カチオン成分全体を酸化物換算した合計の質量を100質量%として求める。
カチオン成分ごとに、5点の点分析で得られた酸化物換算での含有率の平均値を算出する。この平均値が最も大きいカチオン成分を、セラミックス繊維を構成する主元素として特定する。そして、特定した主元素の平均値を、セラミックス繊維を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)とする。
【0026】
セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とは共通していることが好ましい。例えば、セラミックス粒子を構成する主元素がAlである場合には、セラミックス繊維を構成する主元素もAlであることが好ましい。セラミックス粒子を構成する主元素がSiである場合には、セラミックス繊維を構成する主元素もSiであることが好ましい。
含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率は70質量%以上90質量%以下であることが好ましい。含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率は、強度向上の観点から、より好ましくは80質量%以上である。含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が90質量%以下であれば、セラミックス粒子とセラミックス繊維との界面の接合強度を向上させる点で好ましい。
セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とが共通し、含有率Aと含有率Bが上記の範囲内である場合には、焼結によってセラミックス粒子とセラミックス繊維の界面の接合強度が向上する。これは、セラミックス粒子とセラミックス繊維の界面に反応相が形成されるためであると推測される。したがって、上記の要件を充足することで、セラミックス多孔体1の気孔率が高い場合であっても、セラミックス多孔体1の強度を確保できる。
セラミックス粒子及びセラミックス繊維を構成する主元素の種類、及び主元素の酸化物換算での含有率A,B(質量%)は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス粒子及びセラミックス繊維の原料の種類及び配合量等を調整してコントロールできる。
【0027】
(8)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件
セラミックス多孔体1は、強度向上の観点から、セラミックス多孔体1の断面を600μm×600μmの視野で観察した場合に、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維の平均アスペクト比が20以上であることが好ましい。上記の平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、通常40以下である。
この要件を満たすことにより強度を向上できる理由は、1本のセラミックス繊維におけるセラミックス粒子との反応部分が多くなり、かつセラミックス繊維同士の相互作用も得られるためであると推測される。
【0028】
上記のセラミックス繊維の平均アスペクト比は、次のようにして算出できる。セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMAを用いた画像解析を行い、繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維を特定する。なお、セラミックス繊維のうち、視野からはみ出して輪郭の一部が見えないものについては観察対象から除外する。
繊維長が50μm以上であるセラミックス繊維について、繊維長と繊維幅を測定し、アスペクト比(繊維長/繊維幅)を算出する。このアスペクト比を3カ所の異なる領域において求め、その平均値を算出する。
上記の平均アスペクト比は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス繊維の原料の繊維長及び繊維幅の変更、原料の混合粉砕条件の変更等によってコントロールできる。
【0029】
(9)セラミックス繊維が占める面積の割合の要件
セラミックス多孔体1の断面を600μm×600μmの領域で観察した場合に、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積との合計に対して、セラミックス繊維が占める面積の割合が5.0%以上11.5%以下であることが好ましい。
セラミックス繊維が占める面積の割合は、強度を確保する観点から、好ましくは8.5%以上であり、より好ましくは10%以上である。セラミックス繊維が占める面積の割合が11.5%以下であれば強度を確保でき、また、強度のばらつきを抑制できる。
【0030】
セラミックス繊維が占める面積の割合は、次のようにして算出できる。セラミックス多孔体1の断面のSEM画像上で、600μm×600μmの正方形の領域を特定する。この領域の範囲内でEPMAを用いた画像解析を行い、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積とをそれぞれ求める。求めたセラミックス繊維が占める面積を、セラミックス粒子が占める面積とセラミックス繊維が占める面積の合算値で除して、セラミックス繊維が占める面積の割合を百分率で算出する。
セラミックス繊維が占める面積の割合は、後述するセラミックス多孔体1の製造方法において、セラミックス粒子及びセラミックス繊維の原料の大きさ並びに配合割合を調整してコントロールできる。
【0031】
2.セラミックス多孔体1の製造方法
セラミックス多孔体1の製造方法は特に限定されない。セラミックス多孔体1の製造方法の一例を以下に示す。
【0032】
(1)原料
原料として、セラミックス粒子(主に第1のセラミックス粒子)の原料粉末と、セラミックス繊維の原料繊維を使用する。さらに、気孔を形成するために樹脂ビーズを使用する。
また、緻密層2を形成するために、第2のセラミックス粒子の原料粉末を使用する。
【0033】
(2)顆粒作製
セラミックス粒子(主に第1のセラミックス粒子)の原料粉末、セラミックス繊維の原料繊維、樹脂ビーズを所定の配合割合になる様に秤量する。容器(例えば樹脂ポット等)の中に、秤量した原料、玉石(例えばAl2O3球石)、及び溶媒(例えば水)を入れて混合粉砕する。得られたスラリーを乾燥し、顆粒を得る。
【0034】
(3)成形
顆粒をプレス成形して、成形体を得る。
【0035】
(4)コーティング
第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルを作製する。このゾルで成形体の表面をディッピングによりコーティングする。ディッピングにかえて、第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルを成形体にスプレーしてもよい。
【0036】
(5)焼結
第2のセラミックス粒子の原料粉末がコーティングされた成形体を焼成してセラミックス多孔体1を得る。
【0037】
3.セラミックス多孔体1の用途
セラミックス多孔体1の用途は特に限定されない。セラミックス多孔体1は、軽量で、高強度であるから、断熱材、防音材、緩衝材として好適である。また、セラミックス多孔体1は、気孔率が高く、断熱材の断熱性能の向上に寄与できる。セラミックス多孔体1は、気孔率が高く、防音材の防音性能の向上に寄与できる。
【実施例0038】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0039】
1.セラミックス多孔体の作製
セラミックス粒子(原料粉末)には、表1の粒子種の欄に記載の各種粒子を用いた。表1に記載の粒子種のうち、最も左側に記載した粒子種の配合量が最も多い。
セラミックス繊維(原料繊維)には、表1の繊維種の欄に記載の各種繊維を用いた。表1に記載の繊維種のうち、最も左側に記載した繊維種の配合量が最も多い。
セラミックス粒子(原料粉末)85質量部~97質量部、セラミックス繊維(原料繊維)3質量部~15質量部を配合した。さらに、セラミックス粒子(原料粉末)とセラミックス繊維(原料繊維)の全量100質量部に対して、樹脂ビーズを30質量部~70質量部配合して、混合粉末とした。この混合粉末に、水とポリビニルアルコール(1wt%)を入れて混合粉砕した。混合粉砕の条件は、玉石:アルミナ球石、20rpm~70rpm、12時間とした。混合粉砕後、得られたスラリーを乾燥し、顆粒を作製した。得られた顆粒をプレス成形して、成形体を作製した。プレス成形の条件は、プレス圧:60MPa、保持時間:10秒とした。
第2のセラミックス粒子(原料粉末)には、表1に記載の粒子種うち最も左側に記載した粒子種と同種であり、平均粒径が3μm以下のものを用いた。第2のセラミックス粒子の原料粉末を含むゾルで、成形体の表面をディッピングによりコーティングした。その後、焼成を行って、セラミックス多孔体を作製した。焼成の条件は、焼成温度:1600℃、600℃までの昇温速度:3℃/min、600℃からの昇温速度:10℃/min、保持時間:2時間、大気雰囲気下とした。
【0040】
【0041】
2.実施例及び比較例の特性
表2に各実施例及び比較例の特性をまとめて記載する。
平均気孔率(%)の欄は、「(3)セラミックス多孔体1の平均気孔率」で記載された方法で測定された平均気孔率を示している。
気孔率差(%)の欄は、「(5)気孔率差に関する要件」で記載された方法で測定された割合P2(%)から割合P1(%)を引いた差分値を示している。
表層の粒度分布の欄は、「(6)表層の粒度分布に関する要件」で記載された方法で評価した表層の粒度分布を示している。なお、「〇」は、要件(a)、(b)、(c)の全てを充足することを表す。「△」は、要件(a)、(b)、(c)をのうち、(a)と、(b)及び(c)の少なくとも一方とを充足することを表す。「×」は、要件(a)、(b)、(c)の全てを充足しないことを表す。
セラミックス粒子の含有率A(質量%)の欄は、「(7)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定されたセラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率A(質量%)を示している。なお、実施例4以外の実施例及び比較例の主元素はAlであり、実施例4の主元素はSiである。
セラミックス繊維の含有率B(質量%)の欄は、「(7)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定されたセラミックス粒子を構成する主元素の酸化物換算での含有率B(質量%)を示している。なお、実施例4以外の実施例及び比較例の主元素はAlであり、実施例4の主元素はSiである。
平均アスペクト比の欄は、「(8)セラミックス繊維のアスペクト比に関する要件」で記載された方法で算出された平均アスペクト比を示している。
AとBの少ない方の含有率(質量%)の欄は、「(7)セラミックス粒子の主元素とセラミックス繊維の主元素に関する要件」で記載された方法で測定された含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率(質量%)を示している。
【0042】
【0043】
3.性能評価
(1)強度
セラミックス多孔体の曲げ強さを、JIS R1664:2004に準拠して測定した。セラミックス多孔体の曲げ強さについて、以下の基準で評価した。
「☆」…60MPaより大きい
「◎」…40MPaより大きく、60MPa以下
「○」…20MPaより大きく、40MPa以下
「△」…20MPa以下
【0044】
(2)耐摩耗性
JIS R1613:2010に準拠して、荷重:1N、回転数:10rpm、摩耗相手材:アルミニウム、時間:10minの条件で摩耗試験を行い、摩耗こんの深さを測定した。摩耗こんの深さについて以下の基準で評価した。
「◎」…10μm以下
「○」…10μmより大きく、20μm以下
「△」…20μm以下より大きい
【0045】
(3)耐久性
セラミックス多孔体の耐久性について次のように試験した。低温50℃、高温250℃、熱サイクル数500回の条件で熱疲労試験を行った。試験後のセラミックス多孔体の曲げ強さを、JIS R1664:2004に準拠して測定した。試験前のサンプルの曲げ強さを100%として、試験後のサンプルの曲げ強さの変化量(%)を算出した。
試験後のサンプルの曲げ強さの変化量(%)について、以下の基準で評価した。
「☆」…8%以下
「◎」…8%より大きく、12%以下
「○」…12%より大きく、18%以下
「△」…18%より大きい
【0046】
【0047】
実施例1~20は、下記要件(a)(b)を満たしている。
・要件(a):平均気孔率が40%以上75%以下である。
・要件(b):表層として緻密層を有しており、割合P1(%)が割合P2(%)よりも20%以上小さい。なお、表2において、P2(%)から割合P1(%)を引いた差分値が、気孔率差として記載されている。
【0048】
これに対して、比較例1~10は以下の要件を満たしていない。
比較例1は、要件(a)を満たしてない。
比較例2は、要件(a)を満たしてない。
比較例3は、要件(b)を満たしてない。
比較例4は、要件(b)を満たしてない。
比較例5は、要件(b)を満たしてない。
比較例6は、要件(b)を満たしてない。
比較例7は、要件(a)(b)を満たしてない。
比較例8は、要件(a)(b)を満たしてない。
比較例9は、要件(b)を満たしてない。
比較例10は、要件(a)(b)を満たしてない。
【0049】
実施例1~20は、比較例1~10と比較して、強度、耐摩耗性、耐久性のバランスが良かった。
また、実施例1~20のうち、更に下記要件(c)を満たしている実施例6~20は、強度及び耐摩耗性がより高かった。
また、実施例6~20のうち、更に下記要件(d)を満たしている実験例11~20は、耐久性がより高かった。
また、実施例11~20のうち、更に下記要件(e)を満たしている実験例16~20は、強度及び耐久性がさらに高かった。
・要件(c):セラミックス多孔体の表面から50μm以内の領域において、セラミックス粒子の粒径を測定すると、粒度分布がバイモーダル分布を示す。
・要件(d):セラミックス粒子を構成する主元素とセラミックス繊維を構成する主元素とが共通しており、含有率A(質量%)と含有率B(質量%)とのうち少ない方の含有率が70質量%以上90質量%以下である。
・要件(e):セラミックス繊維の平均アスペクト比が20以上である。
【0050】
5.実施例の効果
本実施例のセラミックス多孔体は、軽量性を確保しつつ、強度を向上できた。さらに、本実施例のセラミックス多孔体は、耐摩耗性及び耐久性に優れていた。
【0051】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。