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特開2022-170785トンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法
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  • 特開-トンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170785
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】トンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/14 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
E21D9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076979
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】亀田 佳明
(72)【発明者】
【氏名】朝原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】西岡 尊寿
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 直俊
(57)【要約】
【課題】少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群の縦断方向の設計において、精度の高い設計を実現できる、トンネル函体群の縦断方向の設計方法と、トンネル函体群の施工計画の修正方法を提供する。
【解決手段】複数のトンネル函体21により形成されて少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群20の縦断方向の設計方法であり、コンピュータにおいて、トンネル函体群20に関する曲線含有梁モデルBMを作成し、これに地盤バネJMを取り付けて縦断方向梁モデルMとし、この際、地盤バネJMを、余掘り部25において地盤反力がゼロであり、地盤と当接する領域で地盤反力が変位に応じて増加する、第一非線形地盤バネとする、A工程と、縦断方向梁モデルMに対して、推進ジャッキ30によるジャッキ推力Pを設定して載荷することにより、少なくともトンネル函体21の縦断方向の断面力を算定する、B工程と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法もしくはシールド工法により、推進装置もしくは掘進機の有する推進ジャッキによるジャッキ推力を受けながら、複数のトンネル函体により形成されて少なくとも曲線区間を有する、トンネル函体群の縦断方向の設計方法であって、
コンピュータにおいて、前記トンネル函体群を、等価剛性を有する曲線含有梁モデル、もしくは、隣接する前記トンネル函体の梁モデルを回転バネにて連結してなる曲線含有梁モデルを作成し、該曲線含有梁モデルに対して地盤バネを取り付けて縦断方向梁モデルとし、この際、該地盤バネを、余掘り部において地盤反力がゼロであり、地盤と当接する領域で地盤反力が変位に応じて増加する、第一非線形地盤バネとする、A工程と、
前記縦断方向梁モデルに対して、前記推進ジャッキによるジャッキ推力を設定して載荷することにより、少なくとも前記トンネル函体の縦断方向の断面力を算定する、B工程と、を有することを特徴とする、トンネル函体群の縦断方向の設計方法。
【請求項2】
前記地盤バネは、前記曲線区間における円弧の法線方向の法線方向地盤バネと、該円弧の接線方向の接線方向地盤バネとを有し、
前記法線方向地盤バネは前記第一非線形地盤バネであり、
前記接線方向地盤バネは、前記地盤反力に摩擦係数を乗じた値を上限値とする第二非線形地盤バネであることを特徴とする、請求項1に記載のトンネル函体群の縦断方向の設計方法。
【請求項3】
前記B工程では、前記縦断方向の断面力の他に、地盤反力と、必要ジャッキ推力をさらに算定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネル函体群の縦断方向の設計方法。
【請求項4】
前記A工程では、実施工において発生した前記トンネル函体群の蛇行量に基づいて、前記法線方向地盤バネを修正して修正法線方向地盤バネとし、該修正法線方向地盤バネを前記梁モデルに設置することを特徴とする、請求項2,又は請求項2に従属する請求項3に記載のトンネル函体群の縦断方向の設計方法。
【請求項5】
前記A工程では、実施工において特定された摩擦係数に基づいて、当初設定していた前記摩擦係数を修正して修正摩擦係数とし、該修正摩擦係数に基づいて、前記接線方向地盤バネを修正して修正接線方向地盤バネとし、該修正接線方向地盤バネを前記梁モデルに設置することを特徴とする、請求項2,請求項2に従属する請求項3又は4のいずれか一項に記載のトンネル函体群の縦断方向の設計方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトンネル函体群の縦断方向の設計方法により算定されている、前記縦断方向の断面力に基づいて設定されているトンネル函体の仕様と、前記地盤反力に基づいて設定されている地耐力と、前記必要ジャッキ推力に関し、実施工において発生した前記トンネル函体群の蛇行量に基づいてそれぞれの修正の要否を判定し、それぞれを修正要と判定した際に、該トンネル函体の仕様補強対策、地耐力確保対策、推進装置の増設による推力増加対策を講じることを特徴とする、トンネル函体群の施工計画の修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
推進工法やシールド工法では、複数の推進函体同士をリング継手(一方の推進函体の端部に他方の推進函体の端部を差し込む形態や、ボルト接合等される形態)を介して接続することにより、あるいは、複数のシールド函体同士をリング継手(ボルト接合等される形態)を介して接続することにより、地中に推進函体群やシールド函体群等のトンネル函体群を施工する。以下、本明細書では、推進函体とシールド函体をまとめてトンネル函体と称し、推進函体群とシールド函体群をまとめてトンネル函体群と称する。
トンネル函体群の縦断線形には、直線線形の他、円形や複数の曲率を有する曲線線形、直線と曲線が混在した線形等、様々な縦断線形が存在するが、縦断線形の中に少なくとも曲線区間(曲線線形)を備えたトンネル函体群においては、その縦断方向の設計に際して様々な影響を適正に評価することが、トンネル函体群の設計において肝要である。
例えば、トンネル函体群のうち、推進工法による曲線区間を有する推進函体群の縦断方向の設計に関して考察すると、推進工法の曲線区間では、掘進機と後続の推進函体群のスムーズな推進を図るべく、掘進機のカッタヘッドの側方からコピーカッタを地中に張り出して余掘りを行い、余掘り部に滑材を充填しながら掘進機の掘進と推進函体群の推進を行う施工方法が一般的である。この際、余掘り部に充填されている滑材の中に掘進機が存在することから、掘進過程で掘進機が蛇行する恐れがある。仮に、縦断方向の曲線線形が鉛直面内における曲線線形の場合には、余掘り部の滑材の中で、上昇しながら曲線区間を掘進する掘進機には、自重に加えて後続の推進函群の重量が作用することから、掘進機の蛇行は一層顕著になる。
【0003】
推進工法では、元押し装置が設置されている発進立坑の内部において、隣接する推進函体同士が接続されることから、推進過程における上記蛇行を勘案した縦断線形となるように推進函体群を発進立坑の内部で組み立てることは不可能である。
余掘り部に充填された滑材の中で掘進機と後続の推進函体群が蛇行すると、場所によっては掘進機の一部や推進函体群を構成する推進函体の一部が地山に拘束される恐れがあり、この地山による拘束に起因してジャッキ推力が不足し、当初は予定していなかった中押しジャッキの追加等による緊急措置を講じる必要が生じ得る。そして、追加のジャッキ推力により、推進函体群を構成する各推進函体には設計段階では想定外の過度な外力が作用することになり、推進函体の縦断方向の断面力の再照査を行い、必要に応じて早急に推進函体の補強を行う必要が生じ得る。
【0004】
トンネル函体群の縦断方向の設計においては、コンピュータ内でトンネル函体群を梁モデルにモデル化し、この梁モデルに対して地盤バネを取り付けて縦断方向梁モデルとし、縦断方向梁モデルに対してジャッキ推力を載荷することにより生じる断面力に基づいて、縦断方向の断面力照査を行う設計方法が一般に用いられる。しかしながら、上記するように、余掘り部では地盤バネによる地盤反力が梁モデル(トンネル函体群)に作用しないにも関わらず、地盤バネが作用することを前提としてトンネル函体群の縦断方向の断面力が算定されていることから、特に曲線区間を備えるトンネル函体群の縦断方向の設計においてはその精度に問題があると言わざるを得ない。
以上のことから、少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群の縦断方向の設計において、余掘り部が考慮された適正な縦断方向梁モデルが用いられて、精度の高い設計を実現できる、トンネル函体群の縦断方向の設計方法と、この設計方法による設計内容に基づく、トンネル函体群の施工計画の修正方法が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、シールド工法や推進工法において軟弱地盤中にトンネルを構築する際に、トンネルの急曲線箇所に反力壁を設置するか否かを判断する、反力壁設置の要否判断方法が提案されている。具体的には、急曲線箇所を模擬した構造解析により算定されたトンネル覆工の地盤反力と原地盤の強度との比較により、反力壁の設置の要否を判断する方法であり、地盤反力が原地盤強度よりも大きいと判断された際に、地盤反力を低減させるために、トンネルの軸方向剛性を高めて反力壁の設置を不要にする要否判断方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-194989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の反力壁設置の要否判断方法によれば、実状に対応した反力壁設置の要否判断方法を提供できるとしている。しかしながら、上記するように、少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群の縦断方向の設計において、余掘り部が考慮された適正な縦断方向梁モデルを提供するものではない。
【0008】
本発明は、少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群の縦断方向の設計において、余掘り部が考慮された適正な縦断方向梁モデルが用いられて、精度の高い設計を実現できる、トンネル函体群の縦断方向の設計方法と、この設計方法による設計内容と実施工における蛇行量に基づく、トンネル函体群の施工計画の修正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一態様は、
推進工法もしくはシールド工法により、推進装置もしくは掘進機の有する推進ジャッキによるジャッキ推力を受けながら、複数のトンネル函体により形成されて少なくとも曲線区間を有する、トンネル函体群の縦断方向の設計方法であって、
コンピュータにおいて、前記トンネル函体群を、等価剛性を有する曲線含有梁モデル、もしくは、隣接する前記トンネル函体の梁モデルを回転バネにて連結してなる曲線含有梁モデルを作成し、該曲線含有梁モデルに対して地盤バネを取り付けて縦断方向梁モデル(解析モデル)とし、この際、該地盤バネを、余掘り部において地盤反力がゼロであり、地盤と当接する領域で地盤反力が変位に応じて増加する、第一非線形地盤バネとする、A工程と、
前記縦断方向梁モデルに対して、前記推進ジャッキによるジャッキ推力を設定して載荷することにより、少なくとも前記トンネル函体の縦断方向の断面力を算定する、B工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、曲線区間を有するトンネル函体群を等価剛性を有する曲線含有梁モデル等にモデル化し、これに地盤バネを取り付けて縦断方向梁モデルとし、この際に、地盤バネを、余掘り部において地盤反力がゼロであり、地盤と当接する領域で地盤反力が変位に応じて増加する、第一非線形地盤バネにモデル化することにより、余掘り部が適正にモデル化された地盤バネを備える縦断方向梁モデルに基づいてトンネル函体の縦断方向の断面力を算定することから、精度の高いトンネル函体群の縦断方向の設計を実現することができる。ここで、トンネル函体群は、曲線区間が単円形の縦断線形を有する場合において、施工段階ごとに、例えばトンネル函体1リング(1R)が10基推進された10R段階での縦断方向梁モデル、20R推進された20R段階での縦断方向梁モデル、全周推進された円形の縦断方向梁モデル等、様々な施工段階での縦断方向梁モデルが作成され、都度、トンネル函体の縦断方向の断面力が算定される。ここで、トンネル函体群を構成する各トンネル函体は、場所ごとに算定される断面力が相違することになるが、設計段階では、最も厳しい断面力に基づいてトンネル函体の仕様が決定される。
また、ジャッキ推力は、推進工法における元押し装置の元押しジャッキによるジャッキ推力や、元押しジャッキに加えて中押し装置の中押しジャッキによるジャッキ推力、推進工法とシールド工法の双方における掘進機の備える推進ジャッキによるジャッキ推力等が挙げられる。例えば、推進ジャッキを備えた掘進機を利用する推進工法においては、縦断方向梁モデルにおける一端(発進立坑位置)に元押しジャッキによるジャッキ推力が載荷され、縦断方向梁モデルの他端(掘進機位置)に掘進機の備える推進ジャッキによるジャッキ推力が載荷され、トンネル函体群の中に中押し装置が介在する場合はその位置に中押しジャッキによるジャッキ推力が載荷される。
【0011】
また、地盤バネは、トンネル函体ごとに取り付けられる形態や、10Rごとに取り付けられる形態等、地盤バネの取り付け形態も様々である。さらに、場所ごと(土層ごと)に、地盤性状が地盤バネに適切に反映されるのが望ましく、土層ごとのN値や地盤の内部摩擦角、付着力(粘性)等が評価されて地盤バネが設定されるのがよい。
本態様において適用する地盤バネでは、余掘り部において、トンネル函体群は地盤に接していないことから地盤反力がゼロに設定され、地盤に接している領域においては変位に応じて地盤反力が増加(例えば直線的に増加)するように設定されることにより、余掘り部を考慮していない従来の地盤バネを備えた縦断方向梁モデルに比べて、安全側で精度の高い設計を実現できる。また、余掘り部において地盤反力がゼロである第一非線形地盤バネは、地盤反力と変位の関係を示す直線勾配がある変位において変化する(勾配の異なる二つの直線が連続する)従来一般の非線形地盤バネとは性質の異なる非線形地盤バネとなる。
【0012】
また、本発明によるトンネル函体群の縦断方向の設計方法の他の態様において、
前記地盤バネは、前記曲線区間における円弧の法線方向の法線方向地盤バネと、該円弧の接線方向の接線方向地盤バネとを有し、
前記法線方向地盤バネは前記第一非線形地盤バネであり、
前記接線方向地盤バネは、前記地盤反力に摩擦係数を乗じた値を上限値とする第二非線形地盤バネであることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、地盤バネが、余掘り部を考慮した第一非線形地盤バネからなる法線方向地盤バネと、地盤反力(法線方向の地盤反力)に摩擦係数を乗じた値を上限値とする第二非線形地盤バネからなる接線方向地盤バネとを有していることにより、より一層精度の高いトンネル函体群の縦断方向の設計を実現できる。例えば、通常の摩擦係数μは、tan(φ/2)(φは地盤の内部摩擦角)から算定されたり、1/3等に設定されるが、例えば法線方向地盤反力の最大値に対して摩擦係数μを乗じることにより、一定の変位において接線方向の反力が頭打ちになる、摩擦挙動を模擬した接線方向地盤バネを形成することができる。
【0014】
また、本発明によるトンネル函体群の縦断方向の設計方法の他の態様において、
前記B工程では、前記縦断方向の断面力の他に、地盤反力と、必要ジャッキ推力をさらに算定することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、縦断方向の断面力に加えて、地盤反力と必要ジャッキ推力が算定されることにより、算定された地盤反力に基づいて地盤バネを随時見直すことができ、算定された必要ジャッキ推力に基づいて元押しジャッキ等のジャッキ推力を随時見直すことができ、見直された地盤バネやジャッキ推力に基づいて再度解析を実行することにより、より一層高い精度で縦断方向のトンネル函体群を設計でき、必要ジャッキ推力を特定することができる。
【0016】
また、本発明によるトンネル函体群の縦断方向の設計方法の他の態様において、
前記A工程では、実施工において発生した前記トンネル函体群の蛇行量に基づいて、前記法線方向地盤バネを修正して修正法線方向地盤バネとし、該修正法線方向地盤バネを前記梁モデルに設置することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、実施工において発生したトンネル函体群の蛇行量に基づいて、法線方向地盤バネを修正して修正法線方向地盤バネとすることにより、実施工におけるトンネル函体群の蛇行量が反映された、より精度の高い法線方向地盤バネ(修正法線方向地盤バネ)を備えた解析モデルに基づいて、実施工に即した解析結果を得ることができ、それ以前の解析結果と照合して、トンネル函体群の補強や必要ジャッキ推力の見直し等を行うことが可能になる。ここで、蛇行量の測定は、掘進機やトンネル函体群を構成する各トンネル函体が備えているジャイロ等の位置センサ等により行われる。
【0018】
また、本発明によるトンネル函体群の縦断方向の設計方法の他の態様において、
前記A工程では、実施工において特定された摩擦係数に基づいて、当初設定していた前記摩擦係数を修正して修正摩擦係数とし、該修正摩擦係数に基づいて、前記接線方向地盤バネを修正して修正接線方向地盤バネとし、該修正接線方向地盤バネを前記梁モデルに設置することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、実施工において特定された摩擦係数に基づいて、当初設定していた摩擦係数を修正して修正摩擦係数とし、修正摩擦係数に基づいて接線方向地盤バネを修正して修正接線方向地盤バネとすることにより、より精度の高い接線方向地盤バネ(修正接線方向地盤バネ)を備えた解析モデルや、さらには、上記する修正法線方向地盤バネと修正接線方向地盤バネの双方に基づいて、実施工に即した解析結果を得ることができ、それ以前の解析結果と照合して、トンネル函体群の補強や必要ジャッキ推力の見直し等を行うことが可能になる。
ここで、実施工において摩擦係数を特定する方法は、例えば、掘進機のカッタヘッドが切羽から受ける切羽圧と、掘進機及び後続のトンネル函体群と地盤との周面摩擦力の合計が、例えば元押しジャッキによるジャッキ推力であるとした場合に、特定されているジャッキ推力から切羽圧を減じて周面摩擦力を算定し、算定された周面摩擦力に基づいて、実施工における摩擦係数を特定することが可能になる。
【0020】
また、本発明によるトンネル函体群の施工計画の修正方法の一態様は、
前記トンネル函体群の縦断方向の設計方法により算定されている、前記縦断方向の断面力に基づいて設定されているトンネル函体の仕様と、前記地盤反力に基づいて設定されている地耐力と、前記必要ジャッキ推力に関し、実施工において発生した前記トンネル函体群の蛇行量に基づいてそれぞれの修正の要否を判定し、それぞれを修正要と判定した際に、該トンネル函体の仕様補強対策、地耐力確保対策、推進装置の増設による推力増加対策を講じることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、実施工において発生した前記トンネル函体群の蛇行量に基づいて、トンネル函体の仕様と、地盤反力に基づいて設定されている地耐力と、必要ジャッキ推力のそれぞれの修正要否を判定し、必要に応じて、推進函の仕様補強対策(補強部材による補強等)や地耐力確保対策(地盤改良等)、推進装置の増設による推力増加対策(トンネル函体群の中に、単数もしくは複数の中押し装置(中押しジャッキ)を介在させる等)を講じることにより、余掘り部の滑材の中で掘進機やトンネル函体群が様々に蛇行した場合においても、推力不足や地耐力不足等による施工不能や施工遅延といった問題の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のトンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法によれば、少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群の縦断方向の設計において、余掘り部が考慮された適正な縦断方向梁モデルが用いられて、精度の高い設計を実現できる、トンネル函体群の縦断方向の設計方法と、この設計方法による設計内容と実施工における蛇行量に基づく、トンネル函体群の施工計画の修正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例を示すフローチャート(設計段階における設計フローチャート)である。
図2】推進工法により、鉛直面内において単円の縦断線形を有するトンネル函体群を推進させている状態を示す模式図である。
図3】曲線区間において、掘進機が余掘り部を造成し、余掘り部に滑材を充填しながら、トンネル函体群を推進させている状態を示す模式図である。
図4】推進の過程において一つのトンネル函体に作用する外力を説明する模式図である。
図5】縦断方向梁モデルの一例を説明する模式図である。
図6A】法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図である。
図6B】接線方向地盤バネのバネ特性を説明する、接線方向地盤反力-接線方向変位関係を示す図である。
図7】第2実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例を示すフローチャート(施工段階における設計フローチャート)と、実施形態に係るトンネル函体群の施工計画の修正方法の一例を示すフローチャート(施工段階における設計フローチャート)をともに示す図である。
図8】掘進機とトンネル函体群が、全体として一律に曲線区間(単円)の径方向の内側へ蛇行している状態を説明する模式図である。
図9図8の蛇行状態における蛇行量に基づく、修正法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図である。
図10】掘進機とトンネル函体群が、全体として一律に曲線区間(単円)の径方向の外側へ蛇行している状態を説明する模式図である。
図11図10の蛇行状態における蛇行量に基づく、修正法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図である。
図12】掘進機とトンネル函体群が、曲線区間(単円)の径方向の内側と外側へ蛇行している状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法、及びトンネル函体群の施工計画の修正方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[第1実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法]
はじめに、図1乃至図6を参照して、第1実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例について説明する。ここで、図1は、第1実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例を示すフローチャート(設計段階における設計フローチャート)である。また、図2は、推進工法により、鉛直面内において単円の縦断線形を有するトンネル函体群を推進させている状態を示す模式図であり、図3は、曲線区間において、掘進機が余掘り部を造成し、余掘り部に滑材を充填しながら、トンネル函体群を推進させている状態を示す模式図である。また、図4は、推進の過程において一つのトンネル函体に作用する外力を説明する模式図であり、図5は、縦断方向梁モデルの一例を説明する模式図である。さらに、図6Aは、法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図であり、図6Bは、接線方向地盤バネのバネ特性を説明する、接線方向地盤反力-接線方向変位関係を示す図である。
【0026】
図示例のトンネル函体群の縦断方向の設計方法では、設計対象のトンネル函体群の縦断線形が鉛直面内における単円であって、全区間が曲線区間であるが、設計対象のトンネル函体群の縦断線形は、図示例以外にも、鉛直面内もしくは水平面内において複数の曲率を有する縦断線形や、曲線区間と直線区間が混在する縦断線形等、様々な縦断線形のトンネル函体群が設計対象となり得る。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法は、実施工前の設計段階における設計方法であり、A工程とB工程を有する。
【0028】
A工程は、主として、入力条件の設定を行う工程と、解析モデルを作成する工程とを備えており、B工程は、解析を実施する工程と、トンネル函体の縦断方向の応力度照査を行う工程を備えている。
【0029】
A工程における入力条件の設定においては、トンネル函体の仕様を設定し、トンネル函体群の縦断線形(単円の場合はその径、複数の曲率を有する場合は各曲率とその線形等)を設定し、トンネル函体群が通過する土層をモデル化する。土層のモデル化においては、地盤調査結果に基づいて、土層ごとに、その性状(砂質層、粘土層、礫質層等)、N値や地盤の単位体積重量、内部摩擦角、付着力等の物性を設定する。
【0030】
図2に示す例は、鉛直面内において、半径rの単円の縦断線形を有するトンネル函体群20(円周トンネル)を推進工法にて施工する例である。図2に示すように、地中Gにおいて施工済みの本線トンネルHT(例えば本線シールドトンネル)と、その側方にあるランプトンネルRT(例えばランプシールドトンネル)とを地中で接続して拡幅するに当たり、ランプトンネルRTを利用してその下方に鉛直に延設する立坑Tを施工する。尚、この立坑は、鉛直方向でなく、斜め下方に延設する形態であってもよい。
【0031】
所定深度まで造成された立坑Tの下方に発進架台Rを設置し、発進架台Rに元押しジャッキを備えた元押し装置30を設置する。ランプトンネルRTから掘進機10とトンネル函体21を随時吊り下ろし、掘進機10を地中に掘進させ、その後方に複数のトンネル函体21を順次配設し、元押しジャッキ30によるジャッキ推力により、掘進機10と複数のトンネル函体21によって形成されるトンネル函体群20を推進させる。
【0032】
図示例の掘進機10は、前胴11と後胴12を備え、双方の間に不図示の推進ジャッキ(掘進機自身の推進の他にも、掘進機の方向制御を行うジャッキ)を備えている。掘進機10の正面視形状は、例えば横長の矩形であり、その前面には、例えば複数のカッタヘッド13が配設されている。各カッタヘッド13には、その側方からコピーカッタが出入り自在に内蔵されており、余掘り部の造成の際には、各カッタヘッド13からコピーカッタが外側へ張り出し、カッタヘッド13の回転に応じて回転するコピーカッタにより、余掘り部の造成が行われる。この際、コピーカッタの張り出し長の調整により、余掘り部の大きさを所望に調整できる。
【0033】
上記するように、正面視矩形の掘進機10の後方に連接するトンネル函体21は、掘進機10と同様の正面視形状を有した鋼殻により構成されている。
【0034】
掘進機10のカッタヘッド13には、前方から切羽圧Sが作用する。また、図示例のように鉛直面内での推進であることから、掘進機10には自重の軸方向分力W1が作用し、各トンネル函体21には自重の軸方向分力W2が作用する。
【0035】
推進されるトンネル函体群20には、周囲の地盤Gとの間の周面抵抗力F1が作用し、さらには、曲線施工に伴う地盤反力Qに起因した摩擦抵抗力F2が作用する。ここで、立坑Tにおける元押しジャッキ30から作用するジャッキ推力P1により、前方の掘進機10とトンネル函体群20が推進されることから、トンネル函体群20の前方にいくにつれて、作用するジャッキ推力P2,P3,P4は徐々に小さくなる。曲線施工に伴う地盤反力Qは、このジャッキ推力Pに起因する反力であることから、図2に示すように、元押しジャッキ30の近傍で最大の地盤反力となり、掘進機10に向かって徐々に小さくなる傾向を有している。
【0036】
このように、図示例の鉛直面内における曲線線形に沿う推進工法では、掘進機10に作用する切羽圧S,掘進機10に作用する自重の軸方向分力W1、各トンネル函体21に作用する自重の軸方向分力W2、周囲の地盤Gとの間の周面抵抗力F1、及び曲線施工に伴う地盤反力Qに起因した摩擦抵抗力F2の合計値以上のジャッキ推力Pにより、掘進機10とトンネル函体群20の推進が実現される。尚、例えば水平面内における施工では、掘進機10に作用する自重の軸方向分力W1と、各トンネル函体21に作用する自重の軸方向分力W2は、元押しジャッキ30のジャッキ推力の算定に際して不要になる。
【0037】
仮に、元押しジャッキ30のジャッキ推力が不足する場合においては、トンネル函体群20の間に、単数もしくは複数の中押しジャッキが配設されて不足分のジャッキ推力が補填されることになる。
【0038】
元押しジャッキ30のジャッキ推力や、元押しジャッキ30と必要に応じて設けられる中押しジャッキのジャッキ推力の設定に当たり、必要ジャッキ推力は、トンネル函体群20の推進の過程で随時変化することから、トンネル函体群20が10基(10R)までの段階、20Rまでの段階、掘進機10が立坑Tに到達する最終段階等、各段階に応じた必要ジャッキ推力が設定される。
【0039】
図3に示すように、カッタヘッド13(ここでは、説明を容易にするために、一つのカッタヘッド13のみを有する形態として図示している)の側方からコピーカッタ14が張り出し、カッタヘッド13が回転しながら掘進機10が計画縦断線形L1に沿って掘進方向に掘進する過程で、掘進機10と後続のトンネル函体群20の側方には、所定幅t1の余掘り部25が造成され、掘進機10から余掘り部25に対して滑材28が充填される。正面視矩形の掘進機10の周囲には、幅t1の矩形枠状の余掘り部25が造成されることになる。余掘り部25の幅t1は、図示例では、単円の半径r等に応じて設定する。
【0040】
図3は、計画縦断線形L1に沿って掘進機10が掘進し、トンネル函体群20が推進されている状態を示しており、単円の径方向の内側には余掘り部25の内側ラインL2があり、径方向外側には余掘り部25の外側ラインL3がある。すなわち、図3は、掘進機10が蛇行していない状態を示している。また、幅t1が、入力条件における設計余掘り量となる。
【0041】
図4に示すように、トンネル函体群20を構成する一つのトンネル函体21n(掘進機10側からn番目のトンネル函体)に着目して、軸方向(縦断方向)の力の釣り合いと、軸直角方向の力の釣り合いが成立する。
【0042】
軸方向の力の釣り合いは、(隣接鋼殻に伝達する荷重Pn)=(隣接鋼殻から伝達される荷重(ジャッキ推力)の軸方向分力Pn-1v)-(周面抵抗力F1n)-(地盤反力による摩擦抵抗力F2n)-(鋼殻自重の軸方向成分W2v)となる。
【0043】
一方、軸直角方向の力の釣り合いは、(地盤反力Q(外側への変形を抑制))=(隣接鋼殻から伝達される荷重(ジャッキ推力)の軸直角方向分力Pn-1h)となる。
【0044】
図1に戻り、入力条件を設定した後、解析モデルの作成を行う。具体的には、図5に示すように、コンピュータにおいて、トンネル函体群20を、等価剛性を有する曲線含有梁モデルBMにモデル化する。このモデル化に際しては、図示を省略するが、隣接するトンネル函体21の梁モデルを回転バネにて連結してなる曲線含有梁モデルを作成してもよい。
【0045】
曲線含有梁モデルBMに対して、地盤バネJMを取り付けることにより、縦断方向梁モデルMを作成する。地盤バネJMは、曲線含有梁モデルBMにおける各トンネル函体位置にそれぞれ取り付けてもよいし、例えば10Rごとに取り付けてもよい。
【0046】
地盤バネJMは、半径rの円周トンネルの法線方向の法線方向地盤バネJM1と、接線方向の接線方向地盤バネJM2とを有し、双方の地盤バネを例えばコネクタ要素で模擬する。また、図示を省略するが、元押しジャッキからのジャッキ推力Pが載荷される曲線含有梁モデルBMの一端BM1(もしくはその近傍)と、立坑に到達した曲線含有梁モデルBMの他端BM2(もしくはその近傍)にはそれぞれ、拘束バネを取り付ける。
【0047】
法線方向地盤バネJM1のモデル化においては、図3に示す余掘り部25を適切に考慮する。すなわち、従来の法線方向地盤バネの設定方法では、余掘り部の考慮は行われていないものの、図3からも明らかなように、余掘り部25には滑材28が充填されており、トンネル函体群20には地盤Gから地盤反力を受けないことから、設計される余掘り量t1の範囲に掘進機10やトンネル函体群20が存在する場合は、地盤反力の大きさをゼロにすることが安全側の設計となり、実情を正しく反映したモデル化と言える。
【0048】
そこで、図6Aに示すように、法線方向地盤バネJM1のモデル化に際し、円周トンネルの径方向の外側と内側に設定されている余掘り量t1の範囲は地盤反力Qをゼロとし、掘進機10やトンネル函体群20が余掘り部25の中で掘進方向に蛇行して地盤に接した段階で、地盤と当接する領域では、トンネル函体群20の法線方向の変位量に応じて比例的に地盤反力が増加するようにモデル化する。この際、土層ごとに、変位に応じた地盤反力の増加割合は異なることから、土層ごとに法線方向地盤バネJM1をモデル化するのが好ましい。
【0049】
図6Aに示すように、余掘り部25において地盤反力がゼロである法線方向地盤バネJM1(第一非線形地盤バネ)は、地盤反力と変位の関係を示す直線勾配が、ある変位において変化する(勾配の異なる二つの直線が連続する)、従来一般の非線形地盤バネとは性質の異なる非線形地盤バネとなる。
【0050】
一方、図6Bに示すように、接線方向地盤バネJM2は、接線方向変位の増加に応じて接線方向地盤反力が増加し、法線方向地盤反力Qに対して摩擦係数μを乗じた値を接線方向地盤反力の上限値(及び下限値)とする第二非線形地盤バネとしてモデル化する。例えば、法線方向地盤反力Qの最大値に対して摩擦係数μを乗じることにより、一定の変位において接線方向の反力が頭打ちになる、摩擦挙動を模擬した接線方向地盤バネJM2を形成することができる。
【0051】
摩擦係数μは、例えばtan(φ/2)(φは地盤の内部摩擦角)から算定するものとし、各土層の内部摩擦角φを適用して摩擦係数μを算定し、土層ごとに接線方向地盤バネJM2をモデル化するのが好ましい。
【0052】
以上のようにして、コンピュータ内において、施工段階ごとに、曲線含有梁モデルBMを作成し、曲線含有梁モデルBMの複数位置に、第一非線形地盤バネである法線方向地盤バネJM1と第二非線形地盤バネである接線方向地盤バネJM2を有する地盤バネJMを取り付けることにより、縦断方向梁モデルM(解析モデル)を作成する(以上、入力条件の設定と解析モデルの作成を含めて、A工程)。
【0053】
図5に示すように、縦断方向梁モデルMに対して、元押しジャッキ30等の推進ジャッキによるジャッキ推力Pを設定して載荷することにより、トンネル函体群20を構成する各トンネル函体21の縦断方向の断面力と、トンネル函体群20の縦断方向における地盤反力Qを算定する。この断面力には、曲げモーメントやせん断力、軸力(縦断方向の圧縮力や引張力)が含まれる。全区間が曲線区間である図示例のモデルにおいては、図5に示すように、算定された地盤反力Qは縦断方向に徐々に変化する。
【0054】
例えば元押しジャッキ30のジャッキ推力は、初期の段階では、図2を参照して説明したように、掘進機10とトンネル函体群20を推進可能なジャッキ推力を仮定して解析を実行し、縦断方向の断面力に含まれる軸力のうち、先頭に位置する掘進機10の位置の軸力が切羽圧S相当以上の圧縮力であれば、設定しているジャッキ推力が大きいと判断し、切羽圧S相当の圧縮力となるまで、ジャッキ推力を変化させながら解析を繰り返し、必要ジャッキ推力を設定する。
【0055】
一方、解析の結果、掘進機10の位置の軸力が切羽圧S相当の圧縮力より小さいようであれば、設定しているジャッキ推力が不足していると判断し、ジャッキ推力を増加させて解析を実施し、軸力が切羽圧S相当の圧縮力となる段階まで、上記する解析の繰り返しによって必要ジャッキ推力を設定する。
【0056】
解析により、トンネル函体の縦断方向の断面力、地盤反力、必要ジャッキ推力を算定するとともに、算定された断面力等に基づいて、各種の応力度照査を実施する。
【0057】
応力度照査により、当初設定していたトンネル函体の仕様(強度、耐力)や、地耐力、必要ジャッキ推力を特定し、トンネル函体が耐力不足である、地盤が地耐力不足である等の場合は、入力条件の設定に戻り、トンネル函体の仕様変更、縦断線形の見直しや地耐力向上のための地盤改良の検討等を行い、解析モデルの再作成と解析の再実施を行い、応力度照査を行ってトンネル函体と地盤双方の耐力が満足する仕様を決定する(以上、解析の実施と応力度照査を含めて、B工程)。
【0058】
図示するトンネル函体群の縦断方向の設計方法によれば、少なくとも曲線区間を有するトンネル函体群20の縦断方向の設計に際して、余掘り部25が考慮された法線方向地盤バネJM1を含む地盤バネJMを備えた縦断方向梁モデルMを用いて解析を実施することにより、精度の高いトンネル函体群の縦断方向の設計を実現できる。
【0059】
[第2実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法と、実施形態に係るトンネル函体群の施工計画の修正方法]
次に、図7乃至図12を参照して、第2実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例と、実施形態に係るトンネル函体群の施工計画の修正方法の一例について説明する。ここで、図7は、第2実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法の一例を示すフローチャート(施工段階における設計フローチャート)と、実施形態に係るトンネル函体群の施工計画の修正方法の一例を示すフローチャート(施工段階における設計フローチャート)をともに示す図である。また、図8は、掘進機とトンネル函体群が、全体として一律に曲線区間(単円)の径方向の内側へ蛇行している状態を説明する模式図であり、図9は、図8の蛇行状態における蛇行量に基づく、修正法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図である。また、図10は、掘進機とトンネル函体群が、全体として一律に曲線区間(単円)の径方向の外側へ蛇行している状態を説明する模式図であり、図11は、図10の蛇行状態における蛇行量に基づく、修正法線方向地盤バネのバネ特性を説明する、法線方向地盤反力-法線方向変位関係を示す図である。さらに、図12は、掘進機とトンネル函体群が、曲線区間(単円)の径方向の内側と外側へ蛇行している状態を説明する模式図である。
【0060】
第2実施形態に係るトンネル函体群の縦断方向の設計方法は、図1に示すA工程とB工程を基本としながら、実施工において特定された地盤条件や、掘進機10とトンネル函体群20の蛇行量に基づいて地盤バネを修正し、解析を行うことにより、当初設計に基づいて施工中の掘進機やトンネル函体群20、その周辺の地盤の耐力要否の判断を行うことをその内容とするものであり、トンネル函体群20や地盤に対して対策を要する場合に、対策案の立案を行う、施工計画の修正方法に繋がるものである。
【0061】
図7に示すように、実施工条件の設定として、実施工において実際の地盤条件を取得し、掘進機10やトンネル函体群20の内部に装備しているジャイロ等の位置センサにより特定された蛇行量を取得し、取得された地盤条件に基づいて設計段階における地盤条件の見直しを行う。
【0062】
また、キャリブレーションとして、各土層の摩擦係数を修正する。例えば、計測された切羽圧と実際の元押しジャッキによるジャッキ推力等からトンネル函体群20の周囲に作用する周面摩擦力を算定し、この周面摩擦力から実際の地盤の摩擦係数を特定し、設計段階の摩擦係数の修正を図る。この際、掘進方向に長いトンネル函体群20においては、例えば前方の10Rと、それに続く次の10R,さらに続く次の10R等、場所ごとに通過する土層が異なり得ることから、例えば10Rごとに固有の摩擦係数を設定するキャリブレーションを行ってもよい。
【0063】
実施工においては、図8に示すように、掘進機10とトンネル函体群20が、円周トンネルの内側へ全体的に蛇行量t2だけ蛇行する(計画縦断線形L1に対して掘進機10とトンネル函体群20の掘進方向軸がL4となり、当初の余掘り部25のラインが内側ラインL5と外側ラインL6の余掘り部25Aとなる)場合や、図10に示すように、逆に円周トンネルの外側へ全体的に蛇行量t2だけ蛇行する(計画縦断線形L1に対して掘進機10とトンネル函体群20の掘進方向軸がL7となり、当初の余掘り部25のラインが内側ラインL8と外側ラインL9の余掘り部25Bとなる)場合がある。
【0064】
図8に示すように、内側へ全体的に蛇行量t2だけ蛇行する場合は、この蛇行量t2に基づき、図9に示すように、修正法線方向地盤バネのモデル化を行う。具体的には、内側余掘り量をt1+t2とし、外側余掘り量をt1-t2とする(当初のグラフをX軸の-方向へt2ずらす)、地盤反力-変位グラフを作成する。
【0065】
一方、図10に示すように、外側へ全体的に蛇行量t2だけ蛇行する場合は、この蛇行量t2に基づき、図11に示すように、修正法線方向地盤バネのモデル化を行う。具体的には、外側余掘り量をt1+t2とし、内側余掘り量をt1-t2とする(当初のグラフをX軸の+方向へt2ずらす)、地盤反力-変位グラフを作成する。
【0066】
また、図12に示すように、計画縦断線形L1に対して、掘進機10とトンネル函体群20の掘進方向軸がL10のように、円周トンネルの内側と外側へ場所ごとに異なる態様で蛇行する場合には、各トンネル函体位置ごとに固有の蛇行量tを特定し、この蛇行量tに基づいて修正法線方向地盤バネの設定を行う。
【0067】
一方、接線方向地盤バネに関しては、キャリブレーションによって地盤の摩擦係数の修正を行っていることから、この修正摩擦係数に基づいて、接線方向地盤バネを修正して修正接線方向地盤バネを作成する。
【0068】
発生した蛇行量に基づき、以後のトンネル函体群の縦断線形の修正を行うべく、以後の設計余掘り量の変更を行う(以上、A工程に対して、実施工における蛇行量等に基づいて地盤バネが修正された縦断方向梁モデルを作成する、A'工程)。
【0069】
次に、修正された縦断方向梁モデルを用いて解析を実施し、応力度照査を行う(B'工程)。
【0070】
応力度照査の結果、縦断線形の修正のみで対応が可能か否かを検証する。この検証において、縦断線形の修正のみで対応が可能であると判断される場合は、縦断線形の修正を行い、設計余掘り量を変更するとともに、以後、修正された縦断線形に沿って掘進機10を掘進させ、トンネル函体群20を推進させる。
【0071】
一方、縦断線形の修正のみでは対応不可と判断される場合は、種々の対策案を講じる。具体的には、トンネル函体に関しては、仕様補強を行う。ここで、仕様補強とは、トンネル函体の内部の一部もしくは全部を補強すること等を意味しており、補強必要箇所に対して補強リブや補強柱を取り付けたり、コンクリート打設にて補強する等の措置が挙げられる。
【0072】
地盤の地耐力確保のための補強対策としては、薬液注入や凍土の造成等を含む地盤改良が挙げられる。
【0073】
推力増加対策としては、中押しジャッキの増設、立坑内の元押しジャッキの増強等が挙げられる。
【0074】
このように、実施工において取得された地盤条件や、実施工において発生した蛇行量等に基づいて解析モデルの修正を行い、修正された解析モデルを用いて解析を実施し、対策案の要否を判断し、対策要の際に各種の対策を講じることにより、施工計画の修正を図る一連の流れが、実施形態に係るトンネル函体群の施工計画の修正方法となる。
【0075】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:掘進機
11:前胴
12:後胴
13:カッタヘッド
20:トンネル函体群
21:トンネル函体
25,25A,25B:余掘り部
28:滑材
30:元押し装置(元押しジャッキ)
G:地盤(地中)
P:ジャッキ推力
S:切羽圧(先端抵抗力)
W1:掘進機自重の軸方向分力
W2:トンネル函体群重量の軸方向分力
F1:周面摩擦力
F2:曲線区間における地盤反力による摩擦抵抗力
Q:地盤反力
M:縦断方向梁モデル
BM:曲線含有梁モデル
JM:地盤バネ
JM1:法線方向地盤バネ(第一非線形地盤バネ)
JM2:接線方向地盤バネ(第二非線形地盤バネ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12