(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170808
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】接合金属部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20221104BHJP
B22D 19/16 20060101ALI20221104BHJP
B22D 17/24 20060101ALI20221104BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221104BHJP
B22D 17/00 20060101ALN20221104BHJP
B22D 17/02 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
B22D19/00 G
B22D19/16 Z
B22D17/24 A
C23C26/00 E
B22D17/00 540
B22D17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077024
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
(72)【発明者】
【氏名】川邊 主税
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
(72)【発明者】
【氏名】清水 潔
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA12
4K044BB14
4K044BC04
(57)【要約】
【課題】優れた接合金属部材を提供すること。
【解決手段】一実施の形態に係る接合金属部材の製造方法は、第1の金属材料から構成された第1の金属部材と、融点が前記第1の金属材料の融点以下である第2の金属材料から構成された第2の金属部材とが接合された接合金属部材の製造方法である。表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸を覆う酸化膜が形成された第1の金属部材を射出成形装置の金型の内部に配置し、当該金型の内部に半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態の第2の金属材料を射出して第2の金属部材を成形しつつ、第1の金属部材に第2の金属部材を接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属材料から構成された第1の金属部材と、融点が前記第1の金属材料の融点以下である第2の金属材料から構成された第2の金属部材とが接合された接合金属部材の製造方法であって、
(a)前記第2の金属部材との接合面となる表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸を覆う酸化膜が形成された前記第1の金属部材を、射出成形装置の金型の内部に配置する工程と、
(b)前記第1の金属部材が配置された前記金型の内部に、半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態の前記第2の金属材料を射出して前記第2の金属部材を成形しつつ、前記第1の金属部材に前記第2の金属部材を接合する工程と、を備える、
接合金属部材の製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜の厚さが、0.01~10μmである、
請求項1に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項3】
レーザビームを照射することによって、前記第1の金属部材の表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸の表面に前記酸化膜が形成される、
請求項1に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項4】
前記凹凸の高低差が、10~1000μmである、
請求項3に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記第2の金属材料は、マグネシウムを主成分とする金属材料である、
請求項1に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1の金属材料は、鉄又はアルミニウムを主成分とする金属材料である、
請求項5に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記第1の金属材料は、前記第2の金属材料と同じ金属材料である、
請求項5に記載の接合金属部材の製造方法。
【請求項8】
第1の金属材料から構成された第1の金属部材と、
融点が前記第1の金属材料の融点以下である第2の金属材料から構成された第2の金属部材と、が接合された接合金属部材であって、
前記第2の金属部材との接合面である前記第1の金属部材の表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸を覆う酸化膜が形成されており、
前記第1の金属部材に対して、半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態の前記第2の金属材料が射出成形されて前記第2の金属部材が接合されており、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との接合強度が30MPa以上である、
接合金属部材。
【請求項9】
前記酸化膜の厚さが、0.01~10μmである、
請求項8に記載の接合金属部材。
【請求項10】
レーザビームを照射することによって、前記第1の金属部材の表面に前記凹凸及び前記酸化膜が形成されている、
請求項8に記載の接合金属部材。
【請求項11】
前記凹凸の高低差が、10~1000μmである、
請求項8に記載の接合金属部材。
【請求項12】
前記第2の金属材料は、マグネシウムを主成分とする金属材料である、
請求項8に記載の接合金属部材。
【請求項13】
前記第1の金属材料は、鉄又はアルミニウムを主成分とする金属材料である、
請求項12に記載の接合金属部材。
【請求項14】
前記第1の金属材料は、マグネシウムを主成分とする金属材料である、
請求項12に記載の接合金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合金属部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の金属材料から構成された第1の金属部材と、融点が前記第1の金属材料の融点よりも低い第2の金属材料から構成された第2の金属部材とが接合された接合金属部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、第1の金属材料から構成された第1の金属部材と、融点が前記第1の金属材料の融点以下である第2の金属材料から構成された第2の金属部材とが接合された接合金属部材の開発に際し、様々な課題を見出した。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態に係る接合金属部材の製造方法では、第1の金属材料から構成され、表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸を覆う酸化膜が形成された第1の金属部材を射出成形装置の金型の内部に配置し、当該金型の内部に半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態の第2の金属材料を射出して第2の金属部材を成形しつつ、第1の金属部材に第2の金属部材を接合する。
【0006】
一実施の形態に係る接合金属部材では、第1の金属材料から構成された第1の金属部材の表面に凹凸が形成されると共に、当該凹凸を覆う酸化膜が形成されており、第1の金属部材に対して、半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態の第2の金属材料が射出成形されて第2の金属部材が接合されており、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との接合強度が30MPa以上である。
【発明の効果】
【0007】
前記一実施の形態によれば、優れた接合金属部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法に用いる射出成形装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法に用いる射出成形装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法に用いる射出成形装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図4】実施例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材のマクロ写真である。
【
図5】実施例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合界面の断面ミクロ写真である。
【
図6】実施例1に係る接合金属部材の接合界面のSEM観察写真及びその領域におけるMg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、O(酸素)の元素分析結果である。
【
図7】実施例1に係る接合金属部材の接合界面のSEM観察写真及びその領域におけるMg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、O(酸素)の元素分析結果である。
【
図8】実施例1及び比較例1に係るインサート部材(Al合金)の表面の深さ方向分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0010】
(事前検討)
発明者らは、アルミニウム合金部材とマグネシウム合金部材とを接合させた接合金属部材の製造方法を検討してきた。具体的には、レーザビームを照射して表面を粗面化させたアルミニウム合金部材をインサート部材としてダイカスト鋳造機の金型の内部に配置し、マグネシウム合金をダイカスト鋳造する方法を検討した。ダイカスト鋳造によって、マグネシウム合金部材を成形しつつ、金型の内部に配置されたアルミニウム合金から構成されたインサート部材にマグネシウム合金部材を接合する。
【0011】
しかしながら、アルミニウム合金から構成されたインサート部材にダイカスト鋳造を用いてマグネシウム合金部材を接合した接合金属部材では、充分な接合強度が得られなかった。接合強度が得られない原因として、以下のメカニズムが考えられる。
【0012】
ダイカスト鋳造では、金型に注入されるマグネシウム合金の溶湯温度が高く、粗面化によりインサート部材の接合面に形成された酸化膜が破壊される虞がある。その場合、マグネシウム合金の溶湯とインサート部材のバルクとが接触し、接合界面にAl-Mg系の金属間化合物が形成される。金属間化合物は脆いため、接合界面に金属間化合物が形成されると、充分な接合強度が得られない。ここで、Al-Mg二元系状態図によれば、Al-Mg系の金属間化合物Al3Mg2、Al12Mg17は、いずれも融点が450℃程度と低いため、金属間化合物が形成され易いと考えられる。
【0013】
(第1の実施形態)
<射出成形装置の構成>
まず、
図1~
図3を参照して、第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法に用いる射出成形装置の構成について説明する。
図1~
図3は、第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法に用いる射出成形装置の構成を示す模式的断面図である。
【0014】
なお、当然のことながら、
図1~
図3に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0015】
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る射出成形装置は、射出機10、固定型21、及び可動型22を備えている。ここで、射出機10は、シリンダ11、スクリュー12、ホッパ13、及び環状ヒータ14を備えている。この射出成形装置は、半溶融状態の金属材料(以下、「半溶融金属」とも呼ぶ)を射出するチクソモールディング用の射出成形機である。射出される金属材料は、例えばマグネシウムを主成分とする金属材料であるが、特に限定されない。
【0016】
図1は、射出成形装置において、金型(固定型21及び可動型22)のキャビティCへ半溶融金属82を射出する直前の様子を示している。
図2は、射出成形装置において、金型のキャビティCへの半溶融金属82の射出が完了した様子を示している。
図3は、射出成形装置において、金型から接合金属部材83を取り出した様子を示している。
【0017】
図1~
図3に示すように、シリンダ11は、x軸方向に延設された筒状部材である。シリンダ11の先端部(x軸負方向側の端部)は、段階的に細くなっており、ノズル状に形成されている。図示した例では、シリンダ11の先端部が3段階で細くなっており、シリンダ11の最先端部は、固定型21に設けられた貫通孔に挿入されている。
【0018】
スクリュー12は、x軸方向に延設され、シリンダ11に回転可能に収容されている。スクリュー12の根元部(x軸正方向側の端部)は、ピストン12aを介して回転駆動源であるモータMTに連結されている。ピストン12aは、図示しないアクチュエータによってx軸方向に移動できるため、スクリュー12もx軸方向に移動できる。
図2に示すように、スクリュー12がx軸負方向に前進することによって、半溶融金属82が金型(固定型21及び可動型22)の内部に射出される。
【0019】
ホッパ13は、
図3に示した半溶融金属82の原料である金属チップ81をシリンダ11の内部に投入するための筒状部材である。ホッパ13は、シリンダ11のx軸正方向側端部の上側に設けられている。
【0020】
環状ヒータ14は、シリンダ11の外周面を覆うように、シリンダ11の長手方向(x軸方向)に沿って並べて設けられている。
図1~
図3に示した例では、ホッパ13よりも先端側(x軸負方向側)に、10個の環状ヒータ14が設けられている。複数の環状ヒータ14のそれぞれは、例えば、図示しない制御部によって個別に制御される。
【0021】
第1の実施形態に係る射出機10では、ホッパ13から供給された金属チップ81は、シリンダ11の内部において環状ヒータ14によって加熱されつつ、回転するスクリュー12によって撹拌される。金属チップ81は、加熱されると共に、スクリュー12の根元部から先端部に向かって(x軸負方向に)押し出されることによって圧縮され、半溶融金属82に変化する。
【0022】
固定型21は射出機10の先端に固定された金型である。他方、可動型22は、図示しない駆動源によって駆動され、x軸方向にスライド移動可能な金型である。可動型22がx軸正方向に移動し、固定型21に当接することにより、
図1に示すように、固定型21と可動型22との間に製造される接合金属部材83(
図3参照)の形状に応じたキャビティCが形成される。
【0023】
<接合金属部材の製造方法>
次に、
図1~
図3を参照して、第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法について説明する。
まず、
図1に示すように、射出成形装置の金型(固定型21及び可動型22)の内部に、インサート部材(第1の金属部材)IMを配置する。図示した例では、インサート部材IMは、固定型21に装着されているが、可動型22に装着されてもよい。
【0024】
ここで、インサート部材IMにおいて接合面となる表面に、インサート部材IMを構成する金属材料(第1の金属材料)の酸化膜が形成されている。この酸化膜によって、半溶融金属82とインサート部材IMのバルクとの接触が抑制され、接合界面における金属間化合物の形成を抑制できるため、接合強度が向上すると考えられる。
【0025】
例えば、特許文献1に開示された手法と同様に、レーザビームを照射することによって、インサート部材IMの表面を粗面化しつつ、酸化膜を形成できる。すなわち、インサート部材IMの表面に凹凸を形成しつつ、当該凹凸の表面に酸化膜を形成できる。接合面に凹凸を形成することによって、当該凹凸に半溶融金属82が入り込む。そのため、アンカー効果によって、接合強度が向上する。凹凸の高低差は、例えば10~1000μm程度である。凹凸の高低差は、例えば接合界面のミクロ写真によって測定される。
【0026】
インサート部材IMの表面に形成する酸化膜の厚さは、例えば0.01~10μm程度である。酸化膜の厚さは、実施例において後述するように、例えばグロー放電発光分析(GD-OES:Glow discharge optical emission spectrometry)を用いた深さ方向分析によって測定される。
【0027】
酸化膜の厚さが0.01μm未満であると、酸化膜の形成が不完全だったり、流れ込む半溶融金属82によって酸化膜が剥がされたりする虞がある。そのため、インサート部材IMのバルクに半溶融金属82が接触し、接合界面に金属間化合物が形成され、接合強度が低下する虞がある。
【0028】
他方、酸化膜の厚さが10μmを超えると、酸化膜にクラックが生じ、酸化膜が剥離する虞がある。そのため、インサート部材IMのバルクに半溶融金属82が接触し、接合界面に金属間化合物が形成され、接合強度が低下する虞がある。また、インサート部材IMの表面の凹凸が不充分になって、アンカー効果が発揮できない虞もある。
【0029】
レーザは公知のものを使用できる。例えば、YVO4レーザ、ファイバーレーザ、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザ、YAGレーザ、半導体レーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、He-Neレーザ、窒素レーザ、キレートレーザ、色素レーザを使用できる。発振方法は、パルス発振、連続発振を使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、ファイバーレーザが好ましく、特に連続発振のシングルモードファイバーレーザーが好ましい。
【0030】
なお、レーザビームを照射する代わりに、エッチング液によるエッチング等の化学的処理や、機械加工、サンドブラスト、研磨等の物理的処理によって、凹凸を形成すると共にその表面に酸化膜を形成してもよい。また、凹凸の形成と酸化膜の形成とを別々に行ってもよい。
【0031】
また、射出される金属材料(第2の金属材料)の融点は、インサート部材IMを構成する金属材料の融点以下である。射出される金属材料がマグネシウムを主成分とする金属材料であれば、インサート部材IMを構成する金属材料は、例えば鉄やアルミニウムを主成分とする金属材料であるが、特に限定されない。
なお、射出される金属材料とインサート部材IMを構成する金属材料とが同じ金属材料でもよい。
【0032】
次に、
図2に示すように、スクリュー12をx軸負方向に前進させ、金型(固定型21及び可動型22)の内部すなわちキャビティCに半溶融金属82を充填させる。キャビティCにおいて半溶融金属82が凝固することによって、成形部材(第2の金属部材)83aを成形しつつ、インサート部材IMに成形部材83aを接合する。ここで、射出される金属材料の融点(液相線温度)は、インサート部材IMを構成する金属材料の融点(液相線温度)以下であるため、金型(固定型21及び可動型22)の内部に配置されたインサート部材IMが溶融することはない。
【0033】
その結果、
図3に示すように、インサート部材IMと成形部材83aとが接合した接合金属部材83が製造される。
最後に、
図3に示すように、スクリュー12がx軸正方向に後退すると共に、可動型22がx軸負方向に移動し、固定型21から離型することにより、製造された接合金属部材83が取り出される。
【0034】
以上の通り、本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、インサート部材IMが配置された金型の内部に、半溶融金属82を射出して成形部材83aを成形しつつ、インサート部材IMに成形部材83aを接合する。ここで、インサート部材IMにおける成形部材83aとの接合面には、予め凹凸及び当該凹凸を覆う酸化膜が形成されている。
【0035】
本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、半溶融金属82を射出して成形部材83aをしつつ、インサート部材IMに成形部材83aを接合する。本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、ダイカスト鋳造を用いた場合に比べ、優れた接合強度が得られる。その理由は、例えば以下のように考えられる。
【0036】
ダイカスト鋳造よりも低温で、インサート部材IMと成形部材83aとを接合することによって、インサート部材IMの表面(接合面)に形成された酸化膜が、凝固収縮によって破壊、剥離されることを抑制できる。その結果、半溶融金属82とインサート部材IMのバルクとの接触が抑制され、接合界面における金属間化合物の形成を抑制できるため、接合強度が向上すると考えられる。
接合強度は、例えば30MPa以上、好ましくは40MPa以上、さらに好まくは50MPa以上である。
【0037】
また、ダイカスト鋳造よりも低温で成形するため、ガスの巻き込みや引け巣等の欠陥も少ない。さらに、本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、ダイカスト鋳造よりも高圧で半溶融金属82を射出するため、インサート部材IMの接合面に形成された凹凸に半溶融金属82が入り込み易い。また、ダイカスト鋳造における溶解炉が不要であると共に、溶解炉において発生するスラッジ等を巻き込むこともない。
【0038】
なお、半溶融金属に代えて、液相線温度との差が30℃以下の溶融金属を射出しても同様の効果が得られる。液相線温度との差は、20℃以下が好ましい。半溶融金属に代えて、液相線温度よりも高温の溶融金属を射出することによって、薄肉製品成形時の充填性が向上する。
また、ダイカスト鋳造では、液相線温度との差が70~100℃程度の溶融金属を用いる。
【実施例0039】
以下、第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法を、実施例を挙げて、詳細に説明する。しかしながら、第1の実施形態に係る接合金属部材の製造方法は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
表1に、実施例1~5及び比較例1~3について、試験条件及び試験結果をまとめて示す。表1において、「成形材料」は、成形部材を構成する金属材料である。「インサート材料」は、インサート部材を構成する金属材料である。
【0040】
表1に示すように、成形材料は、実施例1~5及び比較例1~3の全てにおいて、AZ91Dマグネシウム合金である。インサート材料は、実施例1及び比較例1において、A5052アルミニウム合金、実施例2~4及び比較例2において、AZ91Dマグネシウム合金、実施例5及び比較例3において、SPCC鋼である。
【0041】
【0042】
[実施例1]
図4は、実施例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材のマクロ写真である。
図4に示すように、インサート部材は、長さ200mm、幅50mm、厚さ2mmの板状部材である。インサート部材における成形部材との接合面は、長さ200mm、厚さ2mmの長側面である。
【0043】
成形部材を成形する前に、A5052アルミニウム合金製のインサート部材の接合面にレーザビームを照射して、粗面化する(すなわち凹凸を形成する)と共に酸化膜を形成した。表1において、「レーザ処理」は、この処理を意味する。このレーザ処理は、DLAMP(登録商標)と呼ばれる。
【0044】
図1に示すように、レーザ処理が施されたインサート部材を金型の内部に配置した。そして、
図2、
図3に示すように、金型の内部に600℃のAZ91Dマグネシウム合金を射出して成形部材を成形しつつ、インサート部材に成形部材を接合した。
ここで、AZ91Dマグネシウム合金の液相線温度は595℃であるため、金型に射出されるAZ91Dマグネシウム合金は液相線温度との差が5℃の溶融状態である。
【0045】
図4に示すように、成形部材も、長さ200mm、幅50mm、厚さ2mmの板状部材である。成形部材におけるインサート部材との接合面は、長さ200mm、厚さ2mmの長側面である。すなわち、成形部材及びインサート部材の長側面同士を接合した。
【0046】
図4に示す接合金属部材を破線に沿って、幅10mmで切断し、ISO195095に準拠した長さ100mm、幅10mm、厚さ2mmの幅引張試験片を20本作製した。この20本の引張試験片について、引張試験を行い、得られた引張強度の平均値を接合強度とした。表1に示すように、実施例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合強度は、89MPaであった。この接合強度は、接着剤による接合強度(10MPa程度)に比べ、格段に高い。
【0047】
ここで、
図5は、実施例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合界面の断面ミクロ写真である。
図5に示すように、A5052アルミニウム合金製のインサート部材の接合面には、数十~数百μmの凹凸が形成されており、当該凹凸の凹部に成形部材が入り込んでいる。そのため、実施例1に係る接合金属部材では、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果によって、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0048】
ここで、A5052アルミニウム合金の液相線温度は649℃、固相線温度は607℃である。そのため、A5052アルミニウム合金製のインサート部材の接合面に形成された凹凸は、600℃のAZ91Dマグネシウム合金が射出されても溶融しない。
【0049】
また、接合面に酸化膜が形成されているため、半溶融状態のAZ91Dマグネシウム合金とインサート部材のバルクを構成するA5052アルミニウム合金との接触が抑制され、接合界面における金属間化合物の形成も抑制できる。
【0050】
[比較例1]
表1に示すように、インサート部材の接合面にレーザ処理を施さなかった以外は、実施例1と同様の条件で、接合金属部材を製造した。
比較例1に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材は、引張試験片を作製する際に、破断してしまった。すなわち、表1に示すように、比較例1に係る接合金属部材の製造方法では、インサート部材と成形部材とを接合できず、接合強度も測定できなかった。
【0051】
比較例1に係る接合金属部材では、インサート部材の接合面にレーザ処理が施されていないため、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果が得られない。また、接合面に酸化膜が形成されていないため、半溶融状態のAZ91Dマグネシウム合金とインサート部材のバルクを構成するA5052アルミニウム合金とが接触し、接合界面に低融点の金属間化合物が形成された虞もある。
【0052】
[実施例2]
表1に示すように、インサート材料を成形材料と同じAZ91Dマグネシウム合金とした以外は、実施例1と同様の条件で、接合金属部材を製造した。
表1に示すように、実施例2に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合強度は、実施例1と同じく、89MPaと良好であった。実施例2に係る接合金属部材でも、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果によって、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0053】
AZ91Dマグネシウム合金製のインサート部材の接合面に形成された凹凸は、液相線温度よりも5℃高い600℃の溶融状態のAZ91Dマグネシウム合金が射出されても溶融しなかった。
【0054】
[実施例3]
表1に示すように、成形温度を580℃に下げた以外は、実施例2と同様の条件で、接合金属部材を製造した。ここで、AZ91Dマグネシウム合金の液相線温度は595℃であるため、金型に射出されるAZ91Dマグネシウム合金は半溶融状態である。なお、AZ91Dマグネシウム合金の固相線温度は470℃である。
【0055】
表1に示すように、実施例3に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合強度は、100MPaであり、実施例2に係る接合金属部材よりも高く、良好であった。実施例3に係る接合金属部材でも、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果によって、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0056】
[実施例4]
表1に示すように、成形温度を620℃に上げた以外は、実施例2と同様の条件で、接合金属部材を製造した。ここで、AZ91Dマグネシウム合金の液相線温度は595℃であるため、金型に射出されるAZ91Dマグネシウム合金は液相線温度との差が25℃の溶融状態である。
【0057】
表1に示すように、実施例4に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合強度は、119MPaであり、実施例2に係る接合金属部材よりもさらに高く、良好であった。実施例4に係る接合金属部材でも、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果によって、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0058】
AZ91Dマグネシウム合金製のインサート部材の接合面に形成された凹凸は、液相線温度よりも25℃高い溶融状態の620℃のAZ91Dマグネシウム合金が射出されても溶融しなかった。
【0059】
実施例2~4に係る接合金属部材は、インサート材料及び成形材料が同じ金属材料である。このように、本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、インサート材料及び成形材料が同じ金属材料であっても、良好な接合強度が得られる。
【0060】
本実施形態に係る接合金属部材の製造方法では、金型に射出される成形材料が半溶融状態又は液相線温度との差が30℃以下の溶融状態で低温である。そのため、インサート部材の接合面に形成された凹凸が、射出された成形材料と接触した際に溶融し難い。さらに、凹凸の表面に形成された酸化膜によって、凹凸の溶融が抑制される。その結果、接合面に形成された凹凸によるアンカー効果が充分に発揮されるものと考えられる。
【0061】
[比較例2]
表1に示すように、インサート部材の接合面にレーザ処理を施さなかった以外は、実施例2と同様の条件で、接合金属部材を製造した。
比較例2に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材は、金型から取り出す際に、破断してしまった。すなわち、表1に示すように、比較例2に係る接合金属部材の製造方法では、インサート部材と成形部材とを接合できず、接合強度も測定できなかった。
【0062】
比較例2に係る接合金属部材では、インサート部材の接合面にレーザ処理が施されていないため、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果が得られない。
なお、比較例2に係る接合金属部材では、インサート材料及び成形材料が、いずれもAZ91Dマグネシウム合金であるため、接合界面に金属間化合物は形成されない。
【0063】
[実施例5]
表1に示すように、インサート材料をSPCC鋼とした以外は、実施例1と同様の条件で、接合金属部材を製造した。
表1に示すように、実施例3に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材の接合強度は、115MPaであり、実施例1に係る接合金属部材よりも高く、良好であった。実施例3に係る接合金属部材でも、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果によって、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0064】
ここで、SPCC鋼の液相線温度及び固相線温度は1500℃前後の高温である。そのため、SPCC鋼製のインサート部材の接合面に形成された凹凸は、600℃のAZ91Dマグネシウム合金が射出されても溶融しない。
【0065】
[比較例3]
表1に示すように、インサート部材の接合面にレーザ処理を施さなかった以外は、実施例5と同様の条件で、接合金属部材を製造した。
比較例3に係る接合金属部材の製造方法によって製造された接合金属部材は、金型から取り出す際に、破断してしまった。すなわち、表1に示すように、比較例3に係る接合金属部材の製造方法では、インサート部材と成形部材とを接合できず、接合強度も測定できなかった。
【0066】
比較例3に係る接合金属部材では、インサート部材の接合面にレーザ処理が施されていないため、接合面に形成された凹凸に基づくアンカー効果が得られない。なお、比較例3に係る接合金属部材では、インサート材料がSPCC鋼であり、成形部材がAZ91Dマグネシウム合金であるため、接合界面に金属間化合物は形成されない。
【0067】
<実施例1の接合界面の調査>
実施例1に係る接合金属部材の接合界面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察すると共に、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)により、元素分析を行った。
【0068】
ここで、
図6、
図7は、実施例1に係る接合金属部材の接合界面のSEM観察写真及びその領域におけるマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、酸素(O)の元素分析結果である。
図6、
図7の違いは、倍率の違いである。
【0069】
図6に示すように、A5052アルミニウム合金(以下、Al合金)から構成されるインサート部材の表面に形成された高低差数十μmの凹凸の凹部の内部に、AZ91Dマグネシウム合金(以下、Mg合金)が隙間無く充填されている。
ここで、接合界面を拡大した
図7に示すように、Al及びMgの元素分析結果において、Alが存在する領域とMgが存在する領域とが重複していないことから、AlとMgとの金属間化合物が形成されていないと推察される。
【0070】
また、接合界面に沿って、酸素(O)が濃縮しているため、接合界面に沿って酸化膜が形成されていると推察される。この酸化膜によって、Mg合金とインサート部材のバルクを構成するAl合金との接触が抑制され、接合界面における金属間化合物の形成も抑制できると考えられる。
【0071】
次に、GD-OESを用いて、実施例1に係るインサート部材の表面の深さ方向分析を行った。比較のために、比較例1に係るインサート部材の表面の深さ方向分析も行った。
図8は、実施例1及び比較例1に係るインサート部材の表面の深さ方向分析結果を示すグラフである。実施例1に係るインサート部材の表面には、レーザ処理によって凹凸が形成されている。一方、比較例1に係るインサート部材の表面には、レーザ処理による凹凸が形成されていない。
【0072】
図8に示すように、Al合金から構成される比較例1に係るインサート部材では、表面から0.01μmまでの範囲でAlの濃度が低く、酸素(O)の濃度が高くなっている。そのため、インサート部材の表面に自然に形成されたアルミニウム酸化膜の厚さは、0.01μm未満であると考えられる。
【0073】
これに対し、Al合金から構成される実施例1に係るインサート部材では、表面から0.02~0.03μm程度までの範囲でAlの濃度が低く、酸素(O)の濃度が高くなっている。そのため、レーザ処理によってインサート部材の表面に形成されたアルミニウム酸化膜の厚さは、0.02~0.03μm程度であると考えられる。
【0074】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。