(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170824
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】検知用媒体及び検知方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20221104BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20221104BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20221104BHJP
C07C 53/10 20060101ALN20221104BHJP
C07F 9/38 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N27/00 Z
B01J13/00 B
C07C53/10
C07F9/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077056
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴富喜
(72)【発明者】
【氏名】糠塚 明
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真菜
(72)【発明者】
【氏名】早川 渓
(72)【発明者】
【氏名】加納 一彦
【テーマコード(参考)】
2G060
4B063
4G065
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
2G060AA06
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AG03
2G060FA17
2G060KA09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
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4B063QS32
4B063QX01
4G065AA01
4G065AA07
4G065AB11X
4G065AB16X
4G065AB40Y
4G065BA07
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4G065CA11
4G065DA02
4H006AA01
4H006AB80
4H050AA01
4H050AB80
(57)【要約】
【課題】広い温度範囲で微生物の検出が可能となる検知用媒体及び当該検知用媒体を用いた検知方法を提供すること。
【解決手段】イオン液体を含有する、微生物、ウイルス又はウイロイドの検知用媒体である。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性のイオン液体を含有する、微生物、ウイルス又はウイロイドの検知用媒体。
【請求項2】
親水性のイオン液体と、水とを含有する、請求項1に記載の検知用媒体。
【請求項3】
親水性のイオン液体のみからなる、請求項1に記載の検知用媒体。
【請求項4】
前記親水性のイオン液体を10~95体積%含有する、請求項1又は2に記載の検知用媒体。
【請求項5】
前記親水性のイオン液体が、カルボン酸イオン、リン酸系イオン、及びハロゲン化物イオンより選択される1種以上のアニオンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項6】
前記親水性のイオン液体が、イミダゾリウム系カチオンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項7】
少なくとも-20℃~50℃の範囲で液状である、請求項1~6のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項8】
50℃雰囲気下、1時間静置したときの質量変化率が15%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項9】
微生物、ウイルス又はウイロイドを溶解しない、請求項1~8のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項10】
微生物、ウイルス又はウイロイドの分散が可能である、請求項1~9のいずれか一項に記載の検知用媒体。
【請求項11】
検知対象の微生物、ウイルス又はウイロイドを、請求項1~10のいずれか一項に記載の検知用媒体に分散し、分散液を調製する工程と、
前記分散液を電気的に計測する工程と、を有する、
微生物、ウイルス又はウイロイドの検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知用媒体及び検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物、ウイルス又はウイロイド(以下、単に微生物等ともいう)の検出方法としては、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法や、イムノクロマト法などが知られている。
一方、別の検出方法として、電気的計測による微生物等のセンシング方法が検討されている。電気的計測法は、一例として、検知対象の微生物等を水に分散し、当該微生物等を粒子として電気的に検出する手法などが挙げられる。
感染症等の予防や拡散防止などの観点から、室内、畜舎、野外などの環境中の微生物等の検出が求められている。このような環境中のセンシングにおいては上記電気的計測法が適している(例えば特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-202824号公報
【特許文献2】特開2020-098211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境中の微生物等の計測では、測定場所等によって温度の制御ができない場合がある。例えば、0℃以下の環境下では水分散液が凍結する恐れがある。一方、高温環境下においては水の蒸発によって、微生物等の定量性に影響を与える恐れがある。
【0005】
本発明は、広い温度範囲で微生物の検出が可能となる検知用媒体及び当該検知用媒体を用いた検知方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る微生物等の検知溶媒体は、親水性のイオン液体を含有する。
【0007】
上記検知用媒体の一実施形態は、親水性のイオン液体と水とを含有する。
【0008】
上記検知用媒体の一実施形態は、親水性のイオン液体のみからなる。
【0009】
上記検知用媒体の一実施形態は、前記イオン液体を10~95体積%含有する。
【0010】
上記検知用媒体の一実施形態は、前記親水性のイオン液体が、カルボン酸イオン、リン酸系イオン、及びハロゲン化物イオンより選択される1種以上のアニオンを含む。
【0011】
上記検知用媒体の一実施形態は、前記親水性のイオン液体が、イミダゾリウム系カチオンを含む。
【0012】
上記検知用媒体の一実施形態は、少なくとも-20℃~50℃の範囲で液状である。
【0013】
上記検知用媒体の一実施形態は、50℃雰囲気下、1時間静置したときの質量変化率が15%以下である。
【0014】
上記検知用媒体の一実施形態は、微生物、ウイルス又はウイロイドを溶解しない。
【0015】
上記検知用媒体の一実施形態は、微生物、ウイルス又はウイロイドの分散が可能である。
【0016】
本発明に係る微生物等の検知方法は、検知対象の微生物、ウイルス又はウイロイドを、請上記本発明に係る検知用媒体に分散し、分散液を調製する工程と、
前記分散液を電気的に計測する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、広い温度範囲で微生物の検出が可能となる検知用媒体及び当該検知用媒体を用いた検知方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】溶解性評価方法を説明するための模式図である。
【
図10】分散性評価結果を示す光学顕微鏡像である。
【
図11】分散性評価結果を示す光学顕微鏡像である。
【
図12】分散性評価結果を示す光学顕微鏡像である。
【
図13】分散性評価結果を示す光学顕微鏡像である。
【
図14】電気的計測方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る検知用媒体及び検知方法について順に詳細に説明する。
なお本明細書において、数値範囲を示す「~」はその上限値及び下限値を含むものとする。
本発明において「溶解しない」とは、微生物については細胞壁が崩壊されないこと(即ち、溶菌しないこと)を表し、ウイルス及びウイロイドについては粒子状を維持することを表すものとする。
本発明において「親水性のイオン液体」とは、水に対する接触角が70度以下のイオン液体をいい、具体的には、静置した水面に評価対象のイオン液体を滴下した直後の接触角により決定する。なお、滴下直後に濡れ広がる又は水と混和することにより接触角測定が困難なイオン液体は、水に対する接触角が70度以下であることが明らかであり、親水性である。
また本発明において「疎水性のイオン液体」とは、水に対する接触角が70度を超過するイオン液体をいう。
【0020】
[検知用媒体]
本発明に係る検知用媒体(以下、本検知用媒体ともいう)は、親水性のイオン液体を含有することを特徴とする。
検知用媒体としてイオン液体を用いることで、広い温度範囲で液状媒体を維持することができる。またイオン液体は比較的蒸気圧が低いため、高温環境下においても蒸発が抑制され、微生物計測時の定量性にも優れている。イオン液体は、電気伝導性に優れ、電気化学的安定性が高いため、特に電気的計測方法における検出感度及び定量性に優れている。
更に本検知用媒体は親水性のイオン液体を用いることで微生物等の溶解を抑制し、分散性を向上するため、微生物等の検出感度及び定量性に優れている。
本検知用媒体は、親水性のイオン液体からなるものであってもよく、親水性のイオン液体と他の成分を含有するものであってもよい。以下このような本検知用媒体について説明する。
【0021】
<親水性のイオン液体>
イオン液体は液体で存在する塩をいい、本実施形態においては、親水性であって少なくとも測定環境下において液状のものの中から適宜選択することができる。本検知用媒体を広い温度範囲で利用する観点からは、親水性のイオン液体が、少なくとも-20℃~50℃の範囲で液状であることが好ましく、-20℃~80℃で液状であることがより好ましく、-80℃~80℃で液状であることがさらに好ましい。なお、親水性のイオン液体は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせる場合には、混合物としての物性が上記を満たせばよい。
【0022】
親水性のイオン液体は、一般的に、アニオン又はカチオンの少なくとも一方が有機イオンであり、中でも、有機又は無機アニオンと、有機カチオンとの組み合わせが好ましい。
【0023】
親水性のイオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br-、I-)、硝酸イオン(NO3
-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、四フッ化ホウ酸イオン(BF4
-)、六フッ化リン酸イオン(PF6
-)、トリフラートイオン(CF3SO3
-、[TfO-])、ビストリフルオロメタンスルフォニルアミドイオン(CF3SO3N-SO3CF3、[NTf2
-])、カルボン酸イオン(R1COO-)、硫酸イオン(HSO4
-)、スルホン酸イオン(R2SO3
-)、硫酸エステルイオン(R3OSO3
-);リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)、リン酸エステルイオン[(R4O-)(R5O-)P(=O)(-O-)]、ホスホン酸エステルイオン[(R6O-)PH(=O)(-O-)]などのリン酸系イオンなどが挙げられる。
【0024】
上記式中、R1~R6は各々独立に、水素原子又は-R’である。
R’は各々独立に、炭素数1~20の直鎖又は分岐状アルキル基、炭素数2~20で1つ以上の二重結合を有する直鎖又は分岐状アルケニル基、炭素数2~20で1つ以上の三重結合を有する直鎖又は分岐状アルキニル基、又は置換基として炭素数1~6のアルキル基を有していてもよい炭素数3~7の飽和又は不飽和シクロアルキル基であって、置換基を有していてもよく、炭素鎖中に連結基を有していてもよい。
R’が有していてもよい置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”2、-SO2NR”2、-C(O)X、-SO2OH、-SO2X、-NO2などが挙げられる。
R’が有していてもよい連結基としては、-O-、-S-、-S(O)-、-SO2-、-SO2O-、-C(O)-、-C(O)O-、-N+R”2-、-P(O)R”O-、-C(O)NR”-、-SO2NR”-、-OP(O)R”O-、-P(O)(NR”2)NR”-、-PR”2=N-、-P(O)R”-などが挙げられる。
なお、R”は炭素数1~6のアルキル基又はフルオロアルキル基、炭素数3~7のシクロアルキル基又はフルオロシクロアルキル基、若しくは、フェニル基であり、Xはハロゲン原子である。
なお、イオン液体の親水性の程度は、上記R1~R6中の炭素鎖の長さや親水性を示す置換基等の数、後述するカチオンとの組み合わせなどによって調整される。
【0025】
カルボン酸イオンの具体例としては、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオンなどが挙げられる。
スルホン酸イオンの具体例としては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トシル酸イオンなどが挙げられる。
硫酸エステルイオンの具体例としては、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなどが挙げられる。
リン酸エステルイオンの具体例としては、メチルホスフェートイオン、フェニルホスフェートイオン、ジメチルフォスフェートイオンなどが挙げられる。
ホスホン酸エステルイオンの具体例としては、メチルホスホネートイオン、エチルホスホネートイオンなどが挙げられる。
本実施形態においてアニオンは1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本実施形態においてアニオンは、水との親和性(混和性)、微生物等の分散性を向上しや、溶解を抑制する点から、上記の中でも、カルボン酸イオン、リン酸系イオン、又はハロゲン化物イオンが好ましく、更に、ギ酸イオン、酢酸イオン、リン酸エステルイオン、ホスホン酸エステルイオン、又は塩化物イオンがより好ましい。
【0027】
親水性のイオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、アンモニウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピペリジニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、イミダゾリウム系カチオン、ホスホニウム系カチオンなどが挙げられる。
【0028】
アンモニウム系カチオンとしては、例えば下記式(1)で表されるカチオンが挙げられる。
【0029】
【化1】
式(1)中、R
11は各々独立に水素原子、-R’、-OR’又は-NR’
2であって、複数あるR
11のうち少なくとも一つは-R’、-OR’又は-NR’
2である。
R’は各々独立に、炭素数1~20の直鎖又は分岐状アルキル基、炭素数2~20で1つ以上の二重結合を有する直鎖又は分岐状アルケニル基、炭素数2~20で1つ以上の三重結合を有する直鎖又は分岐状アルキニル基、又は置換基として炭素数1~6のアルキル基を有していてもよい炭素数3~7の飽和又は不飽和シクロアルキル基であって、置換基を有していてもよく、炭素鎖中に連結基を有していてもよい。
R’が有していてもよい置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2などが挙げられる。
R’が有していてもよい連結基としては、-O-、-S-、-S(O)-、-SO
2-、-SO
2O-、-C(O)-、-C(O)O-、-N
+R”
2-、-P(O)R”O-、-C(O)NR”-、-SO
2NR”-、-OP(O)R”O-、-P(O)(NR”
2)NR”-、-PR”
2=N-、-P(O)R”-などが挙げられる。
なお、R”は炭素数1~6のアルキル基又はフルオロアルキル基、炭素数3~7のシクロアルキル基又はフルオロシクロアルキル基、若しくは、フェニル基であり、Xはハロゲン原子である。
【0030】
ピロリジニウム系カチオンとしては、例えば下記式(2)で表されるカチオンが挙げられる。
【0031】
【化2】
式(2)中、R
12は各々独立に水素原子、-R’、-OR’又は-NR’
2であって、複数あるR
12のうち少なくとも一つは-R’、-OR’又は-NR’
2である。なお、R’はR
11におけるものと同様である。また式(2)中、環構造を形成しいている炭素原子は水素原子の代わりに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2、-R”が挙げられ、置換基が有するR”同士が連結して環構造を形成していてもよい。なお、R”及びXは前述のとおりである。
【0032】
ピペリジニウム系カチオンとしては、例えば下記式(3)で表されるカチオンが挙げられる。
【0033】
【化3】
式(3)中、R
13は各々独立に水素原子、-R’、-OR’又は-NR’
2であって、複数あるR
13のうち少なくとも一つは-R’、-OR’又は-NR’
2である。なお、R’はR
11におけるものと同様である。また式(3)中、環構造を形成している炭素原子は水素原子の代わりに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2、-R”が挙げられ、置換基が有するR”同士が連結して環構造を形成していてもよい。なお、R”及びXは前述のとおりである。
【0034】
ピリジニウム系カチオンとしては、例えば下記式(4)で表されるカチオンが挙げられる。
【0035】
【化4】
式(4)中、R
14は-R’、-OR’又は-NR’
2である。なお、R’はR
11におけるものと同様である。また式(4)中、環構造を形成しいている炭素原子は水素原子の代わりに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2、-R”が挙げられ、置換基が有するR”同士が連結して環構造を形成していてもよい。なお、R”及びXは前述のとおりである。
【0036】
イミダゾリウム系カチオンとしては、例えば下記式(5)で表されるカチオンが挙げられる。
【0037】
【化5】
式(5)中、R
15は各々独立に水素原子、-R’、-OR’又は-NR’
2であって、複数あるR
15のうち少なくとも一つは-R’、-OR’又は-NR’
2である。なお、R’はR
11におけるものと同様である。また式(5)中、環構造を形成しいている炭素原子は水素原子の代わりに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2、-R”が挙げられ、置換基が有するR”同士が連結して環構造を形成していてもよい。なお、R”及びXは前述のとおりである。
【0038】
ホスホニウム系カチオンとしては、例えば下記式(6)で表されるカチオンが挙げられる。
【0039】
【化6】
式(6)中、R
16は各々独立に水素原子、-R’、-OR’又は-NR’
2であって、複数あるR
16のうち少なくとも一つは-R’、-OR’又は-NR’
2である。なお、R’はR
11におけるものと同様である。また式(6)中、環構造を形成しいている炭素原子は水素原子の代わりに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、-X、-OH、-OR”、-CN、-C(O)OH、-C(O)NR”
2、-SO
2NR”
2、-C(O)X、-SO
2OH、-SO
2X、-NO
2、-R”が挙げられ、置換基が有するR”同士が連結して環構造を形成していてもよい。なお、R”及びXは前述のとおりである。
【0040】
なお、イオン液体の親水性の程度は、上記R11~R16中の炭素鎖の長さや親水性を示す置換基等の数、前記アニオンとの組み合わせなどによって調整される。
本実施形態においてカチオンは、水との親和性(混和性)、微生物等の分散性や、溶解を抑制する点から、イミダゾリウム系カチオンが好ましい。
本実施形態においてカチオンは1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
親水性のイオン液体は、市販品を用いてもよく、また上記のカチオン及びアニオンを準備し、公知の方法で調製してもよい。
【0042】
本検知用媒体は、上記親水性のイオン液体のみからなるものであってもよく、本発明の効果を奏する範囲で更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、水、無機塩、緩衝液、疎水性のイオン液体などが挙げられる。
【0043】
本検知用媒体は水を含んでいてもよい。水を組み合わせることにより、例えば検知用媒体の粘度を調整して取り扱い性を向上や、微生物等の分散性の向上、溶解性の抑制をすることができる。
本検知用媒体が疎水性のイオン液体と水とを含有する場合、検知用媒体全量に対する疎水性のイオン液体の割合が、10~95体積%が好ましく、20~90体積%がより好ましく、40~80体積%がさらに好ましい。検知用媒体中に疎水性のイオン液体を上記下限値以上含有することで、低温における媒体の凍結が抑制される。一方、検知用媒体中に疎水性のイオン液体を上記上限値以下含有することで、蒸発や吸湿による質量変化が抑制される。
【0044】
また、本検知用媒体は、更に無機塩を含有してもよい。無機塩は、無機アニオンと無機カチオンとからなる塩であり、前述のイオン液体とは区別される。無機アニオンとしては、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、酢酸イオンなどが挙げられる。また無機カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオンなどが挙げられる。
【0045】
無機塩の具体例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどが挙げられる。無機塩は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液などが挙げられる。
【0047】
また、本検知用媒体は、本発明の効果を奏する範囲で疎水性のイオン液体を含有してもよい。疎水性のイオン液体としては、前記親水性のイオン液体において説明した化学式中のR1~R6、R11~R16として長鎖のアルキル基が置換したものなどが挙げられる。
【0048】
本検知用媒体は、微生物等の定量性の点から、50℃雰囲気下、1時間静置したときの質量変化率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
本検知用媒体を用いて電気的計測方法で微生物等を検知する場合には、本検知用媒体が、微生物等を溶解しないことが好ましい。また、本検知用媒体を用いて電気的計測方法で微生物等を検知する場合には、本検知用媒体が、微生物等の分散が可能なことが好ましい。
【0049】
本検知用媒体は、菌類、細菌類、ウイルス、ウイロイドなどの検知に好適に用いることができ、中でも、細菌類及びウイルスの検知に好適に用いることができる。なお、微生物等を電気的計測方法で検知する場合、本検知用媒体により微生物等が溶解しなければ、微生物は死滅してもよく、また、ウイルス及びウイロイドは不活化してもよい。
【0050】
<微生物等の検知方法>
上記検知媒体は、微生物、ウイルス、ウイロイド等の計測時に用いる媒体として好適に用いることができる。本発明に係る検知方法(以下、本検知方法ともいう)は、検知対象の微生物等を、前記本検知用媒体に分散し、分散液を調製し、前記分散液を電気的に計測することを特徴とする。
【0051】
本検知方法は、前記検知用媒体を用いて電気的計測を行うことで、PCR法などと比較して簡易的な抽出法で前処理ができ、広い温度範囲で検出感度及び定量性に優れた方法であり、例えば野外などの環境中の微生物等の検出に好適に適用することができる。
【0052】
本検知方法の前処理として、まず、検知対象となる微生物等の抽出を行う。検知対象となる微生物、ウイルス又はウイロイドは特に限定されず、任意の微生物等を適宜選択することができる。例えば微生物としては、細胞の大きさが0.5~5μm程度の細菌類を好適に検知できる。また、例えばウイルス及びウイロイドとしては、粒子径が10~500nm程度のものを好適に検知できる。
また、対象となる試料は特に限定されず、ヒトや動物の血液、組織、尿など;食物試料;室内、車両内、航空機内などの内壁や空気;屋外の植物、水、空気などが挙げられる。
【0053】
上記試料から、上記微生物等を抽出する方法は、試料の種類などに応じて、ホモジナイズ法や溶媒抽出法など公知の方法の中から適宜選択すればよい。抽出溶媒としては、上記本検知用媒体を用いてもよく、また、水や緩衝液などを用いてもよい。また抽出溶媒は、試料などに応じて界面活性剤などを添加してもよい。得られた抽出液は必要に応じて検知対象となる微生物等の単離を行う。単離は、例えば、遠心分離、濾過、ゲル電気泳動、ゲル濾過、誘電泳動、免疫沈降、溶媒抽出など、公知の方法の中から1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて行うことができる。
【0054】
次いで、微生物等を本検知用媒体に分散する。抽出を本検知用媒体で行った場合には前記単離工程時に分散してもよい。抽出時に他の溶媒を用いた場合には、例えば単離した微生物等を乾燥し、本検知用媒体を加えて分散処理を行ってもよい。
【0055】
得られた分散液中の微生物等は、例えば、電気的に計測することで検知できる。電気的計測方法としては、微生物等を粒子(バイオナノ粒子)として測定するあらゆる方法が適用できる。一例としてコールターカウンター法などが挙げられる。
図14を参照して説明する。
図14は、電気的計測方法の一例を示す模式図である。
図13の例では、壁面16により形成された流路10に、細孔12を有するフィルター17を設け、当該フィルター17で隔てられた2つの区分間に電圧をかけて、流路内に微生物等の粒子11を含む分散液を流し当該粒子11が細孔を通り抜けた際(
図14(B))の電流等の変化を検出器15により検出することで微生物等を検知する。電源14が直流電源の場合には、電流等の変化から、微生物等の粒子11の粒径及びゼータ電位を測定することができ、当該測定値から、微生物等の同定が可能である。また電源14を交流電源とする場合には、インピーダンススペクトルを測定することで微生物等の同定が可能である。また上記流路型の測定装置のほか、不図示ではあるが、電気泳動を利用したポア型を用いてもよい。
【0056】
以上のように本検知用媒体により、広い温度範囲で検出感度及び定量性に優れた検知方法が提供できる。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
[イオン液体]
下記のイオン液体を準備した。
実施例1:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム酢酸塩(親水性、以下イオン液体1ともいう)
実施例2:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメチルホスホネート(親水性、以下イオン液体2ともいう)
比較例1:N-メチル-Nプロピルピロジニウムビスイミド(疎水性、以下イオン液体3ともいう)
比較例2:N,N,N-トリメチル-Nプロピルアンモニウムビスイミド(疎水性、以下イオン液体4ともいう)
各イオン液体の希釈にはリン酸緩衝液を用いた。
【0059】
[評価]
<試験例1:溶解性(不溶性)評価>
イオン液体存在下における微生物等の溶解性を評価した。
図3を参照して説明する。
図3は、溶解性評価方法を説明するための模式図である。
まずE.coli(大腸菌)を含む水を流路に流した(
図3の1)。当該流路に交流電圧(100Vp-p、1MHz)を印加し、誘電泳動により大腸菌を電極間に固定した(
図3の2)。リン酸緩衝液で希釈したイオン液体を流路に流し(
図3の3)、流路内の蛍光を観察した(
図3の4)。蛍光が観察されなくなった場合に、大腸菌が溶解(溶菌)したと判断される。イオン液体の濃度を上げていきイオン液体100%で十分に置換されるまで、蛍光観察を行った。大腸菌についても同様の試験を行った。結果を
図1~
図2及び表2に示す。なお図中各例の左側が水100%における蛍光を観察したものであり、右側がイオン液体100%に置換後の蛍光を観察したものである。
(評価基準)
○(良好):イオン液体に置換後も蛍光が観察された。
×(不適):イオン液体に置換後に蛍光が観察されなかった。
【0060】
図1~2に示される通り、イオン液体1~4のいずれの例もイオン液体置換後に蛍光が観察されており、イオン液体による溶解は観察されなかった。
【0061】
<試験例2-1:分散性評価1>
E.coli(大腸菌)及び乳酸菌の培養液をそれぞれ準備した。次いで、可視化のため蛍光色素SYBRGOLD(登録商標)を添加した。上記イオン液体1~4のイオン液体を培養液に添加し、蛍光を観察することで分散性を評価した。結果を
図4~
図7及び表2に示す。
(評価基準)
○(良好):凝集が確認されなかった。
×(不適):凝集が確認された。
【0062】
図6及び
図7に示される通り疎水性のイオン液体を用いた比較例1及び2では、大腸菌、乳酸菌共に凝集が確認された。一方、
図4及び
図5に示される通り、親水性のイオン液体を用いた実施例1及び2では、大腸菌、乳酸菌共に凝集が確認されず、分散性に優れていることが示された。
上記試験例1-1で分散性に優れていることが示されたイオン液体1~2について更に下記の試験を行った。
【0063】
<試験例2-2:分散性評価2>
乳酸菌、大腸菌、バキュロウイルス(粒径約300nm)、インフルエンザウイルス(粒径約100nm)の培養液をそれぞれ準備した。次いで、可視化のため蛍光色素SYBRGOLD(登録商標)を添加した。上記実施例1~2のイオン液体を培養液に添加し、蛍光を観察することで分散性を評価した。イオン液体の希釈にはリン酸緩衝液を用いた。結果を
図8~
図13及び表2に示す。なお図中の数値は検知用媒体中のイオン液体の割合(体積%)である。
(評価基準)
○(良好):凝集が確認されなかった。
×(不適):凝集が確認された。
【0064】
図8~13に示される通り親水性のイオン液体を含む本検知用媒体は、微生物類、ウイルス類共に凝集や溶解が確認されず、分散性に優れていることが示された。
【0065】
<試験例3:凍結性評価>
上記イオン液体1及びイオン液体2をそれぞれリン酸緩衝液で40%、60%及び80%に希釈した検知用媒体をそれぞれ調製した。これらの検知用媒体を-40℃環境下に1週間放置した後、状態を観察した。結果を表2に示す。
(評価基準)
○(良好):イオン液体が40体積%の検知用媒体が凍結しなかった。
×(不適):イオン液体が40体積%の検知用媒体が凍結した。
【0066】
<試験例4:蒸発性評価>
上記イオン液体1及びイオン液体2をそれぞれリン酸緩衝液で50~80%に希釈し検知用媒体を調製した。当該検知用媒体をふたのない容器に入れ、50℃環境下に1時間放置した後、その質量変化を測定した。結果を表1及び表2に示す。
(評価基準)
○(良好):質量変化率が15%以下であった。
×(不適):質量変化率が15%超過であった。
【0067】
【0068】
【0069】
表2に示されるように、親水性のイオン液体1~2を含有する本検知用媒体は、微生物等の溶解を抑制し、分散性に優れ、広い温度範囲で微生物等の検知に好適に用いることが可能であることが示された。