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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170832
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ブラシモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 23/04 20060101AFI20221104BHJP
   H02K 1/24 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H02K23/04
H02K1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077067
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】脇田 忠行
【テーマコード(参考)】
5H601
5H623
【Fターム(参考)】
5H601AA05
5H601AA23
5H601CC01
5H601CC09
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD25
5H601EE03
5H601EE06
5H601EE18
5H601EE27
5H601FF17
5H601GB04
5H601GB05
5H601GB06
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB48
5H601GC02
5H601GC12
5H601KK01
5H601KK08
5H623BB07
5H623GG13
5H623GG16
5H623GG23
5H623GG24
5H623JJ03
(57)【要約】
【課題】ブラシモータに関し、簡素な構成で小型化及び高トルク化を実現する。
【解決手段】開示のブラシモータ1は、回転子6に設けられる回転子コア10と、回転子コア10に設けられるs個のティース11と、ティース11の各々に電線を巻き掛けてなるs個の集中巻きのコイル7と、回転子6に相対回転不能に設けられるコミテータ8と、コミテータ8に設けられコイル7に接続されるc個のコミテータ片9と、固定子3に設けられティース11に対向して配置されるp対のマグネット磁極5と、コミテータ片9に摺接してコイル7に電流を供給するブラシ21とを備え、0.5<p/s<1、かつ、s<cである。なお、ティース11の羽根角度θは、一つのマグネット磁極5の着磁領域が回転軸Cを被覆する角度であるマグネット角度θ以上とすることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子に設けられる回転子コアと、
前記回転子コアに設けられるs個のティースと、
前記ティースの各々に電線を巻き掛けてなるs個の集中巻きのコイルと、
前記回転子に相対回転不能に設けられるコミテータと、
前記コミテータに設けられ前記コイルに接続されるc個のコミテータ片と、
固定子に設けられ前記ティースに対向して配置されるp対のマグネット磁極と、
前記コミテータ片に摺接して前記コイルに電流を供給するブラシとを備え、
以下の不等式A及び不等式Bが成立することを特徴とする、ブラシモータ。
0.5<p/s<1 …(不等式A)
s<c …(不等式B)
【請求項2】
前記ティースが、前記マグネット磁極の表面に沿って前記回転子の回転方向に広がる曲面状に形成された羽根部を有し、
前記マグネット磁極が、前記羽根部に対向する曲面状に形成され、
前記回転子の回転軸に垂直な断面において、前記羽根部と前記羽根部の両端部から前記回転軸までを結ぶ線分とで囲まれる扇形の中心角が羽根角度と定義され、一つの前記マグネット磁極の着磁領域が前記回転軸となす角度がマグネット角度と定義されるとともに、前記羽根角度が、前記マグネット角度以上である
ことを特徴とする、請求項1記載のブラシモータ。
【請求項3】
隣接する前記コイルの間において前記回転子コアと一体に設けられ、前記回転子の回転中心から放射状に延設されて磁束の流れを補強する、コイルを持たない補極を少なくとも一つ備える
ことを特徴とする、請求項1または2記載のブラシモータ。
【請求項4】
前記s個の前記コイルが環状に結線されるとともに、前記c個の前記コミテータ片の各々が前記回転子の回転角について360/p度ごとに短絡接続される給電回路を備える
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のブラシモータ。
【請求項5】
前記pが2であり、前記sが3であり、前記cが6である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のブラシモータ。
【請求項6】
前記pが3であり、前記sが4であり、前記cが12である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のブラシモータ。
【請求項7】
前記pが3であり、前記sが5であり、前記cが15である
ことを特徴とする、請求項1又は2、あるいは、請求項1又は2に従属する請求項4のいずれか1項に記載のブラシモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシからコミテータを介してコイルに通電されるブラシモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、界磁磁極の数よりもコイルの数が多いブラシ付き直流モータが知られている。このようなモータの一例としては、4個の界磁磁極と6個の鉄心溝(スロット)とを有する集中巻き構造(各々のティースに個別にコイルの電線を巻き掛けた構造)の4極6溝モータが挙げられる。このモータには、鉄心溝の数と同数のコイルが設けられ、界磁磁極の数である4個よりも多い6個のコイルが内蔵される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-69747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集中巻き構造のコイルを備えたモータにおいて、界磁磁極の数よりもコイルの数を多くした場合には、モータの回転軸に垂直な断面での羽根角度がマグネット角度よりも狭くなる。これにより、マグネット磁束のピックアップが不十分となり、磁束を有効利用できないという課題がある。また、複数のティースに跨がるように電線を巻き掛けた跨ぎ巻き構造のコイルを採用した場合には、コイルエンドが膨らみ巻線抵抗が大きくなるため、高トルク化しにくいという課題がある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成で小型化及び高トルク化を実現できるようにしたブラシモータを提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のブラシモータは、回転子に設けられる回転子コアと、前記回転子コアに設けられるs個のティースと、前記ティースの各々に電線を巻き掛けてなるs個の集中巻きのコイルと、前記回転子に相対回転不能に設けられるコミテータと、前記コミテータに設けられ前記コイルに接続されるc個のコミテータ片と、固定子に設けられ前記ティースに対向して配置されるp対のマグネット磁極と、前記コミテータ片に摺接して前記コイルに電流を供給するブラシとを備え、以下の不等式A及び不等式Bが成立する。
0.5<p/s<1 …(不等式A)
s<c …(不等式B)
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、マグネット磁束の十分な収集が可能となり、簡素な構成で小型化及び高トルク化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施例としてのブラシモータの分解斜視図である。
図2図1のブラシモータに内蔵されるロータの斜視図である。
図3図1のブラシモータの断面図である。
図4図1のブラシモータのマグネット角度及び羽根角度を示す図である。
図5図1のブラシモータにおける給電回路の構造を示す回路図である。
図6】(A)は比較例としてのブラシモータ(4極6溝)を示す図であり、(B)は図1のブラシモータ(4極3溝)を示す図である。
図7】(A)は比較例としてのブラシモータ(補極なし)を示す図であり、(B)は図1のブラシモータ(補極あり)を示す図である。
図8】第二実施例としてのブラシモータの断面図である。
図9図8のブラシモータのマグネット角度及び羽根角度を示す図である。
図10図8のブラシモータにおける給電回路の構造を示す回路図である。
図11】第三実施例としてのブラシモータの断面図である。
図12図11のブラシモータのマグネット角度及び羽根角度を示す図である。
図13図11のブラシモータにおける給電回路の構造を示す回路図である。
図14】リングマグネットのマグネット角度を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.第一実施例]
[A.構成]
図1は、第一実施例としてのブラシモータ1(ブラシ付きモータ)の主要部品を分解して示す斜視図である。ブラシモータ1は、ステータ3(固定子)とロータ6(回転子)とシャフト20とを備える。ステータ3及びロータ6は、図1に示すように、有底円筒状に形成されたハウジング2の内部に収容される。図1では、ハウジング2の開放端部(図1中では左端部)を閉塞する蓋部材(エンドベル)の記載を省略している。また、シャフト20は、図示しないベアリングを介してハウジング2及びエンドベルに支持される軸状の部材である。ステータ3はハウジング2に固定され、ロータ6はシャフト20に固定されてシャフト20と一体回転する。シャフト20の中心軸は、ロータ6の回転軸Cに一致している。
【0010】
ステータ3には、ロータ6に作用させる磁界を形成するためのマグネット4(永久磁石)が設けられる。マグネット4は、曲面状に形成されたp対のマグネット磁極5を持つ。マグネット磁極5の形状は、例えば円弧面状やこれに類する形状とされる。マグネット磁極5は、ハウジング2の内周面に沿って取り付けられ、互いに周方向(回転軸Cに垂直な断面において回転軸Cを中心とした円の円周方向)に所定の間隔をあけて配置される。磁界の向きは、ハウジング2の外部から内部へ向かう方向か、その反対方向(内部から外部へ向かう方向)に設定される。本件では、隣接するマグネット磁極5の間で磁界の向きが反転するように配置される。
【0011】
図1に示すマグネット4は、一片に一組の磁極対が着磁されたマグネット片を四つ組み合わせて形成されているが、一片に複数組の磁極対が着磁されたマグネット片を組み合わせて形成してもよい。あるいは、上記のマグネット4として、複数のマグネット片に分割されていない筒状磁石(リングマグネット)を使用してもよい。リングマグネットにおいては、複数のマグネット磁極5(着磁領域)が周方向に隣接配置されることになるが、それらのマグネット磁極5の間には無着磁領域が設けられてもよい。無着磁領域とは、ロータ6に対する磁界の形成に実質的に寄与しない領域であって、図1中に示すマグネット磁極5間の隙間に相当する部位である。このように、マグネット4の物理的な分割数は、磁気的な分割数と一致させる必要がない。
【0012】
ロータ6には、シャフト20に対して相対回転不能に固定されるコア10(回転子コア)及びコミテータ8(整流子)が設けられる。コア10は、複数の同一形状の鋼板を積層したものである。鋼板の積層方向は、回転軸Cの延在方向と同一である。このコア10には、回転軸Cに垂直な断面において回転軸Cから放射状に突出した形状のs個のティース11が設けられる。各々のティース11に電線を巻き掛けることで、s個のコイル7(集中巻きコイル)が形成されている。
【0013】
コミテータ8は、ロータ6の回転角に応じた適切な位置のコイル7に適切な向きで通電するための部材である。コミテータ8には、曲面状に形成されたc個のコミテータ片9が設けられる。コミテータ片9の形状は、例えば円弧面状やこれに類する形状に形成される。これらのコミテータ片9は、シャフト20の外周面に沿って周方向に隣接するように配置される。各々のコミテータ片9と各々のコイル7との間は、給電回路23で接続される。給電回路23の回路構造については後述する。
【0014】
コミテータ8の周囲には、ブラシ21(刷子)がコミテータ片9の表面に接触するように設けられる。ブラシ21は、ブラシアーム22の一端に取り付けられ、コミテータ片9に対して弾性的に押し付けられた状態で支持されている。また、ブラシ21及びブラシアーム22は、一対設けられる。各々のブラシアーム22の他端は、例えば蓋部材を貫通してハウジング2の外部まで延設され、電力供給用の端子となる。各々のブラシ21は、c個のコミテータ片9のいずれか一つと接触するように設けられる。
【0015】
p対のマグネット磁極5とs個のコイル7とc個のコミテータ片9との関係について、本件では以下の不等式がともに成立するようにp,s,cの値が設定される。すなわち、マグネット磁極5の組数(2個で1組のペア数)pをコイル7の個数sで除した値は、0.5よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように設定される。また、コイル7の個数sは、コミテータ片9の個数cよりも小さく設定される。
0.5<p/s<1 …(不等式A)
s<c …(不等式B)
なお、不等式Aを変形すれば「p<s<2p」となる。したがって、コイル7の個数sは、マグネット磁極5の組数pよりも大きく、かつ、マグネット磁極5の総数2pよりも小さく設定すればよい。
【0016】
図2は、コイル7の電線を取り除いたコア10を含むロータ6の示す斜視図である。各々のティース11は、柱部12と羽根部13とを有する。柱部12は、ロータ6の径方向外側に向かって延出する部位である。また、羽根部13は、柱部12の外端部からロータ6の周方向に展開される曲面状(円弧面状やこれに類する形状)の部位であり、マグネット磁極5に対して非接触で対向するように配置される。コイル7の電線は、集中巻き方式で柱部12の周囲に多重に巻き掛けられる。
【0017】
図3は、ステータ3及びロータ6の断面図である。ここでは便宜的に、コミテータ片9の断面図についても重ねて表示している。このブラシモータ1には、2対のマグネット磁極5と3個のコイル7と6個のコミテータ片9とが設けられる。(p,s,c)の組み合わせは(2,3,6)であり、4極3溝モータである。
【0018】
第一実施例に係るブラシモータ1のコア10には、補極14が設けられる。補極14は、ロータ6の回転軸Cから放射状に延設されて磁束の流れを補強する部位であり、コア10と一体に設けられる。図3に示すように、補極14は、回転軸Cに垂直な断面において隣接するティース11の間に配置されてコイル7の間を区画するように設けられる。補極14はコイル7を持たず、コイル7の電線は補極14には巻き掛けられない。なお、後述する第二実施例に示すように、補極14の先端に補極羽根部16を形成してもよい。また、ティース11の羽根部13と補極14との間には、所定幅のスリット17が設けられる。これにより、コイル7の巻き方向(柱部12の延在方向であってロータ6の径方向)のスリット幅Wが確保される。
【0019】
図4は、ブラシモータ1のマグネット角度θ及び羽根角度θを示す図である。回転軸Cに垂直な断面において、一つのマグネット磁極5の着磁領域がロータ6を実質的に被覆する範囲を回転軸Cに対する角度で表現し、これをマグネット角度θと呼ぶ。例えば、図4に示すようにマグネット4が複数のマグネット磁極5(複数のマグネット片)に分割されている場合には、回転軸Cに垂直な断面において、マグネット磁極5とマグネット磁極5の両端部から回転軸Cまでを結ぶ線分とで囲まれる扇形の中心角のことをマグネット角度θと定義する。また、マグネット4がリングマグネットである場合には、無着磁領域を含まない、磁力が半径方向に出現する範囲を回転軸Cに対する角度で表現し、これをマグネット角度θと定義する。
【0020】
なお、リングマグネットや1片のマグネット片に複数磁極が着磁されている場合の着磁領域の両端部は、各磁極の中心位置(着磁中心位置)から磁束密度が減少し、最初に磁束密度が0となる角度とする。リングマグネットの磁束密度分布とマグネット角度θとの関係を図14に例示する。図14中の角度θ~θ12は、磁束密度が0となる角度を表す。図14のように、隣り合う磁極との切替り箇所にあたる0°周辺(θ~θ)と90°(θ~θ)と180°(θ~θ)と270°(θ~θ10)の周辺で無着磁領域や微小な極性反転領域が生じることがあるが、この範囲を除外して、マグネット角度θを定義する。図14中でθ~θ,θ~θ,θ~θ,θ10~θ11のように、磁束密度の絶対値が0を超えてから、各磁極の中心位置を含み、再び0になるまでの角度範囲をマグネット角度θと定義する。いずれにしても、回転軸Cに垂直な断面において、一つのマグネット磁極5の着磁領域が回転軸Cとなす角度がマグネット角度θと定義される。
【0021】
また、回転軸Cに垂直な断面において、一つの羽根部13がマグネット4に対向する範囲を回転軸Cに対する角度で表現し、これを羽根角度θと呼ぶ。すなわち、回転軸Cに垂直な断面において、羽根部13と羽根部13の両端部から回転軸Cまでを結ぶ線分とで囲まれる扇形の中心角のことを、羽根角度θと定義する。第一実施例のブラシモータ1において、羽根角度θはマグネット角度θ以上の大きさに設定されることが好ましい(θ≧θ)。これにより、マグネット磁束がティース11にピックアップされやすくなり、磁束が有効に利用される。
【0022】
図5は、給電回路23の構造を示す回路図である。s個のコイル7は環状に結線される。図5では、3個のコイル7がデルタ結線方式(三角結線方式)で接続されている。また、c個(図5では6個)のコミテータ片9の各々は、ロータ6の回転角について360/p度ごと(図5では180度ごと)に、環状のコイル回路に対して短絡接続される。なお、図5中のC~Cは6個のコミテータ片9を表す。例えば、図5に示す環状のコイル回路上において、1番コイルと2番コイルとの間の点Pは、コミテータ片C,Cに対して短絡接続される。これらのコミテータ片C,Cの位置は、回転軸Cに対して180度ずれた位置になっている。したがって、点Pの電位は、回転軸Cが半回転する毎に同一となる。同様に、2番コイルと3番コイルとの間の点Pは、コミテータ片C,Cに対して短絡接続され、3番コイルと1番コイルとの間の点Pは、コミテータ片C,Cに対して短絡接続される。
【0023】
図5中のB,Bは2個のブラシ21を表す。ブラシB,Bの位置は、回転軸Cに対して90度ずれた位置になっている。一方のブラシ21は電源の+極に接続され、他方のブラシ21は電源の-極に接続される。ブラシB,Bの各々は、コミテータ片C~Cのいずれかに接続される。6個のコミテータ片9のうちブラシ21に接続されるコミテータ片9は、回転角に応じて変動する。例えば、ブラシB,Bに接続されるコミテータ片9の組み合わせは、ロータ6が回転するにつれて(C,C),(C,C),(C,C),(C,C)…と変化する。このような回路構成により、ロータ6が高トルクで適切に回転駆動される。
【0024】
[B.作用・効果]
図6(A)は、比較例としてのブラシモータ(4極6溝)を示す図である。このブラシモータでは、コイル7の数が第一実施例よりも多い6個であり、マグネット磁極5の対数pが第一実施例と同一の2対であって、マグネット角度θは90度弱である。一方、コイル数が6個であることから、羽根角度θは最大でも60度にしかならず、マグネット角度θと比べて羽根角度θが小さくなってしまう。これにより、マグネット磁束のピックアップが不十分となり、磁束を有効利用できない。
【0025】
これに対し、第一実施例のブラシモータ1(4極3溝)では、コイル数が3個であることから、図6(B)に示すように、羽根角度θが大きくなる。これにより、マグネット磁極5に対する羽根部13の対向面積が確保されることから、マグネット磁束がティース11にピックアップされやすくなり、磁束が有効に利用される。
【0026】
図7(A)は、比較例としてのブラシモータ(補極なし)を示す図である。コア10に補極14がない場合、マグネット磁極5からコア10に与えられる磁束の流れが断続的になり、振動(コギング)が増大しやすくなる。例えば、比較的広いスリット17の部分がマグネット磁極5に対向する状態では、図7(A)中に白抜き矢印で示す磁束がコア10に作用しない。また、ハウジング2に渦電流が発生することで損失が大きくなるおそれがある。さらに、パーミアンス係数が低下し、減磁しやすくなるおそれもある。
【0027】
これに対し、第一実施例のブラシモータ1には補極14が設けられ、スリット17が比較的狭いため、磁束の流れが連続的になる。例えば、図7(B)中に黒矢印で示すように、補極14やスリット17の部分がマグネット磁極5に対向する状態においても磁束がコア10に作用する。これにより、振動(コギング)が減少しやすくなる。また、ハウジング2に渦電流が発生しにくくなり、損失が小さくなる。また、パーミアンス係数が上昇して減磁しにくくなるほか、巻線ロータバランスも改善される。
【0028】
第一実施例のブラシモータ1によれば、以下の効果が得られる。
(1)第一実施例のブラシモータ1では、0.5<p/s<1、かつ、s<cが成立するようにp,s,cの値が設定される。これにより、例えば図6(A)に示すような既存のブラシモータと比較して、ブラシモータ1のサイズを容易に小型化することができ、あるいは同サイズ(同体積)で高トルク化を図ることができる。また、マグネット磁極5に対してティース11の羽根部13が十分に広い面積で対向しやすくなるため、磁束を有効利用することができる。したがって、マグネット磁束の十分な収集が可能となり、簡素な構成で小型化及び高トルク化を実現できる。
【0029】
また、既存のブラシモータと比較して、スリット17の幅方向が巻線の巻き方向に対して平行に近づくため、正味のスリット幅Wを広くすることができ、巻線を巻きやすくすることができる。加えて、巻線工数が少なくなり、製造にかかる手間やコストを削減することができる。
【0030】
(2)第一実施例のブラシモータ1では、図6(B)に示すように、羽根角度θがマグネット角度θ以上の大きさとされる。これにより、マグネット磁極5に対する羽根部13の対向面積を確保することができ、確実に磁束を有効利用することができる。また、羽根角度θがマグネット角度θ未満である場合と比較して、振動(コギング)を減少させることができる。さらに、羽根角度θを大きくすることで、スリット幅Wを広くすることができ、巻線を巻きやすくすることができる。
【0031】
(3)第一実施例のブラシモータ1には、図7(B)に示すように、補極14が設けられる。このような補極14を設けることで、マグネット磁極5とコア10との間で授受される磁束の流れを連続的にすることができ、振動(コギング)を減少させることができる。また、ハウジング2での渦電流の発生を防止することができ、損失を減少させることができる。また、パーミアンス係数を上昇させて減磁しにくくできるほか、巻線ロータバランスを改善することができる。
【0032】
(4)第一実施例のブラシモータ1では、図5に示すように、コイル7が環状に結線される。また、環状のコイル回路に対して、各々のコミテータ片9がロータ6の回転角について180度ごと(360/p度ごと)に短絡接続される。このような回路構成により、既存のブラシモータと比較してブラシ数を1/pに削減することができ、ブラシモータ1のサイズを容易に小型化することができ、簡素な構成で小型化及び高トルク化を実現できる。
【0033】
(5)第一実施例のブラシモータ1には、2対のマグネット磁極5と3個のコイル7と6個のコミテータ片9とが設けられており、(p,s,c)の組み合わせは(2,3,6)である。このような構成により、コイル数が少ない簡素な構成で高トルクのブラシモータ1を実現でき、また磁束の増加によって小型化も容易である。
【0034】
[2.第二実施例]
図8は、第二実施例としてのブラシモータ41の構造を示す断面図である。ここでは便宜的に、ステータ3及びロータ6の断面図にコミテータ片9の断面図を重ねて表示している。第一実施例で説明した要素に対応する要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。このブラシモータ41には、3対のマグネット磁極5と4個のコイル7と12個のコミテータ片9とが設けられる。(p,s,c)の組み合わせは(3,4,12)であり、6極4溝モータである。
【0035】
第二実施例に係るブラシモータ41のコア10に設けられる補極14は、補極柱部15と補極羽根部16とを有する。図8に示すように、補極柱部15は、ロータ6の径方向外側に向かって延出する部位である。また、補極羽根部16は、補極柱部15の外端部からロータ6の周方向に展開される曲面状(円弧面状やこれに類する形状)の部位であり、マグネット磁極5に対して非接触で対向するように配置される。なお、補極14はコイル7を持たず、コイル7の電線は補極14には巻き掛けられない。また、補極羽根部16は省略可能であり、第一実施例と同じような形状の補極14を形成してもよい。
【0036】
図9は、ブラシモータ41のマグネット角度θ及び羽根角度θを示す図である。第二実施例のブラシモータ41においても、羽根角度θはマグネット角度θ以上の大きさに設定されることが好ましい(θ≧θ)。これにより、マグネット磁束がティース11にピックアップされやすくなり、磁束が有効に利用される。
【0037】
各々のコミテータ片9と各々のコイル7との間は、給電回路42で接続される。図10は、給電回路42の構造を示す回路図である。4個のコイル7は環状に結線される。また、12個のコミテータ片9の各々は、ロータ6の回転角について360/p度ごと(すなわち120度ごと)に、環状のコイル回路に対して短絡接続される。例えば、図10に示す環状のコイル回路上において、1番コイルと2番コイルとの間の点Qは、コミテータ片C,C,Cに対して短絡接続される。
【0038】
これらのコミテータ片C,C,Cの位置は、回転軸Cに対して120度ずれた位置になっている。したがって、点Qの電位は、回転軸Cが三分の一回転する毎に同一となる。同様に、2番コイルと3番コイルとの間の点Qは、コミテータ片C,C,C10に対して短絡接続される。また、3番コイルと4番コイルとの間の点Qは、コミテータ片C,C,C11に対して短絡接続され、4番コイルと1番コイルとの間の点Qは、コミテータ片C,C,C12に対して短絡接続される。また、ブラシB,Bの位置は、回転軸Cに対して180度ずれた位置になっている。
【0039】
第二実施例のブラシモータ41によれば、第一実施例と同様の効果を獲得することができる。例えば、既存のブラシモータよりも容易にダウンサイジングが可能となり、あるいは同サイズで高トルク化を図ることができる。また、第一実施例のブラシモータ1と比較して、高トルクを得ることができる。一方、第二実施例のブラシモータ41とマグネット磁極5の数が同一でコイル数が多い既存のブラシモータ(例えば、6極12溝のブラシモータ)と比較して、集中巻き構造により巻線工数が少なくなり、製造にかかる手間やコストを削減することができる。さらに、集中巻き構造によりコイルエンドを小さくすることができ、巻線抵抗を小さくすることができる。加えて、第一実施例と比較して電流の脈動を増大させることができ、電流の脈動を利用することで別途必要とされるセンサマグネットが不要なセンサレス制御が可能となる。
【0040】
[3.第三実施例]
図11は、第三実施例としてのブラシモータ51の構造を示す断面図である。ここでは便宜的に、ステータ3及びロータ6の断面図にコミテータ片9の断面図を重ねて表示している。第一実施例で説明した要素に対応する要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。このブラシモータ51には、3対のマグネット磁極5と5個のコイル7と15個のコミテータ片9とが設けられる。(p,s,c)の組み合わせは(3,5,15)であり、6極5溝モータである。なお、第三実施例に係るブラシモータ51のコア10では、補極14が省略される。これにより、隣接する羽根部13の間のスリット幅Wが確保され、コイル7の電線が巻きやすい構造になる。
【0041】
図12は、ブラシモータ51のマグネット角度θ及び羽根角度θを示す図である。第三実施例のブラシモータ51においても、羽根角度θはマグネット角度θ以上の大きさに設定されることが好ましい(θ≧θ)。これにより、マグネット磁束がティース11にピックアップされやすくなり、磁束が有効に利用される。
【0042】
各々のコミテータ片9と各々のコイル7との間は、給電回路52で接続される。図13は、給電回路52の構造を示す回路図である。5個のコイル7は環状に結線される。また、15個のコミテータ片9の各々は、ロータ6の回転角について360/p度ごと(すなわち120度ごと)に、環状のコイル回路に対して短絡接続される。例えば、図13に示す環状のコイル回路上において、1番コイルと2番コイルとの間の点Rは、コミテータ片C,C,C11に対して短絡接続される。
【0043】
これらのコミテータ片C,C,C11の位置は、回転軸Cに対して120度ずれた位置になっている。したがって、点Rの電位は、回転軸Cが三分の一回転する毎に同一となる。同様に、2番コイルと3番コイルとの間の点Rは、コミテータ片C,C,C12に対して短絡接続される。また、3番コイルと4番コイルとの間の点Rは、コミテータ片C,C,C13に対して短絡接続され、4番コイルと5番コイルとの間の点Rは、コミテータ片C,C,C14に対して短絡接続され、5番コイルと1番コイルとの間の点Rは、コミテータ片C,C10,C15に対して短絡接続される。また、ブラシB,Bの位置は、回転軸Cに対して180度ずれた位置になっている。
【0044】
第三実施例のブラシモータ51によれば、第一実施例や第二実施例と同様の効果を獲得することができる。例えば、既存のブラシモータよりも容易にダウンサイジングが可能となり、あるいは同サイズで高トルク化を図ることができる。また、第一実施例や第二実施例のブラシモータ1,41と比較して、高トルクを得ることができる。さらに、第一実施例や第二実施例と比較してトルクの脈動を減少させることができ、振動を低減させて制御性を高めることができる。
【0045】
[4.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0046】
1,41,51 ブラシモータ
2 ハウジング
3 ステータ(固定子)
4 マグネット
5 マグネット磁極
6 ロータ(回転子)
7 コイル
8 コミテータ
9 コミテータ片
10 コア(回転子コア)
11 ティース
12 柱部
13 羽根部
14 補極
15 補極柱部
16 補極羽根部
17 スリット
20 シャフト
21 ブラシ
22 ブラシアーム
23,42,52 給電回路
θ 羽根角度
θ マグネット角度
C 回転軸
W スリット幅
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
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図14