(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170835
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】抗微生物剤及び抗微生物化方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20221104BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20221104BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221104BHJP
D06M 13/50 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01N25/10
A01P3/00
D06M13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077073
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】角田 百仁花
(72)【発明者】
【氏名】山岸 洋
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 哲也
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB18
4H011BC19
4H011DH11
4L033AB01
4L033AC10
4L033BA53
4L033BA92
(57)【要約】
【課題】繊維等の素材に抗微生物活性を付与することができる簡易な手段及び方法を提供すること。
【解決手段】全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンを含むことを特徴とする抗微生物剤であって、前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、前記mが、0~15の整数であり、前記nが、0~14の整数であり、前記aが、0又は1であり、前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含む、抗微生物剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンを含むことを特徴とする抗微生物剤であって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1であり、
前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含む、抗微生物剤。
【請求項2】
前記自己組織化ペプチドが、βシート構造を形成する、請求項1に記載の抗微生物剤。
【請求項3】
前記自己組織化ペプチドの全長が、4~15アミノ酸である、請求項1又は2に記載の抗微生物剤。
【請求項4】
前記自己組織化ペプチドが、末端に保護基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項5】
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸が、システイン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸を少なくとも1種類含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項6】
前記非極性アミノ酸又は中性アミノ酸が、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、トリプトファン、グルタミン及びセリンからなる群から選択されるアミノ酸を少なくとも1種類含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項7】
前記自己組織化ペプチドが、少なくとも2個のバリンが連続した配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項8】
前記自己組織化ペプチドが、Val-Lys-Val-Val-Cys(配列番号9)に記載の配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項9】
前記金属イオンが、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン及びクロムイオンからなる群から選択される金属イオンを少なくとも1種類含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項10】
素材表面に適用される、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項11】
前記素材が、繊維からなる素材である、請求項10に記載の抗微生物剤。
【請求項12】
前記微生物が、ウイルス、細菌又は真菌である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗微生物剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗微生物剤を有効成分として含む、抗微生物組成物。
【請求項14】
全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチドと、抗微生物活性を有する金属イオンとを含むことを特徴とする抗微生物キットであって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、抗微生物キット。
【請求項15】
前記金属イオンが、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン及びクロムイオンからなる群から選択される金属イオンを少なくとも1種類含む、請求項14に記載の抗微生物キット。
【請求項16】
素材表面に適用される、請求項14又は15に記載の抗微生物キット。
【請求項17】
全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンが適用された抗微生物素材であって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1であり、
前記自己組織化ペプチドによりβシート構造が形成され、
前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含み、
前記金属イオンが、前記βシート構造上に配置されている、抗微生物素材。
【請求項18】
前記素材が、繊維からなる素材である、請求項17に記載の抗微生物素材。
【請求項19】
素材の抗微生物化方法であって、
前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、
前記素材に、抗微生物活性を有する金属イオンを添加する工程、及び
前記素材を乾燥させる工程
を含み、
前記自己組織化ペプチドの全長が、4~30アミノ酸であり、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、方法。
【請求項20】
前記素材に金属イオンを添加する工程が、前記素材が湿潤な状態で行われる、請求項19に記載の抗微生物化方法。
【請求項21】
前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程及び前記素材に金属イオンを添加する工程が、自己組織化ペプチド溶液と金属イオンを混合してから行われる、請求項19又は20に記載の抗微生物化方法。
【請求項22】
前記素材に金属イオンを添加する工程が、前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程の後、自己組織化ペプチド溶液が乾燥する前までに行われる、請求項19~21のいずれか一項に記載の抗微生物化方法。
【請求項23】
金属イオンが結合している自己組織化ペプチドであって、
前記自己組織化ペプチドの全長が4~30アミノ酸であり、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、自己組織化ペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを素材表面に付着させることができる自己組織化ペプチドに関する。また本発明は、かかる自己組織化ペプチドと金属イオンを用いた、抗微生物剤及び抗微生物素材、並びに素材の抗微生物化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや細菌等の微生物に対する抗微生物活性を持つ物質として、多くの金属元素が知られている。特許文献1に記載のように、その中でも、特に銀、銅及び亜鉛等の金属元素は、比較的人体に害の少ない金属元素として古くから知られている。そのため、これらの金属元素を原子又はイオンの状態で有効成分として含む抗微生物組成物が数多く開発されてきた。
【0003】
一方、光の照射、熱への曝露又は染料等の化学物質との反応等によって、重金属イオンは酸化され、主に重金属原子となって凝集し析出することにより、変色やくすみを生じさせることが知られている。この変色やくすみは、製品の外観を損なうだけでなく、重金属イオンに起因する抗微生物活性が析出部分に限局してしまうため望ましくない。特に繊維製品において変色が起きるとその解消は困難であり、繊維製品用の重金属を含む抗微生物組成物の開発においては、重金属による変色を抑制する工夫が特に重要とされてきた。
【0004】
これまで、この工夫としていくつかの方法が開発されている。最もよく知られる方法としては、ゼオライト等の特殊な錯体を利用する方法が挙げられる(例えば、特許文献2)。この方法によって、光の照射に伴う変色は大きく改善されるものの、錯体の作製や入手が困難であり、その製造コストが高くなるという問題があった。また、繊維自体を加工して抗微生物活性を付与する方法も知られている。しかし、これらの抗微生物繊維には、製造コストの問題の他にも、繊維の抗微生物活性が一度失われてしまうと、抗菌活性を再び付与することは困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-133137号公報
【特許文献2】特開2007-223995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光の照射等の刺激に対して安定的に重金属イオンを均一に分散し、繊維をはじめとする素材に抗微生物活性を付与することができる簡易な手段及び方法が求められてきた。とりわけ、既製の素材に後から繰り返し適用可能な、安定で安価な抗微生物剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、自身が有していた自己組織化ペプチドに関する技術を用いて、上記課題の解決を試みた。この自己組織化ペプチド技術は、これまで液体中における金属粒子の分散剤や金属粒子の集合に特定の形態をとらせるための誘電特性に優れた基盤として使用されてきた。自己組織化させたこのペプチドと金属イオンを素材に適用した場合、自己組織化ペプチドを介して、金属イオンが素材表面に均一に保持されるという知見を得た。また、この金属イオンは光の照射後においても析出せずに安定であり、変色も抑制され、さらに、素材表面に保持された金属イオンは強い抗微生物活性を発揮することを見出した。以上の知見により、本発明を完成するに至った。
【0008】
例えば、本発明は以下の実施形態を包含する:
[1]全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンを含むことを特徴とする抗微生物剤であって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1であり、
前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含む、抗微生物剤。
[2]前記自己組織化ペプチドが、βシート構造を形成する、[1]に記載の抗微生物剤。
[3]前記金属イオンが、前記金属イオンのみを適用した場合に比べて、前記金属イオンの凝集が抑制される濃度で適用される、[1]又は[2]に記載の抗微生物剤。
[4]前記抗微生物活性を有する金属イオンが、抗微生物活性を発揮し得る濃度で適用される、[1]~[3]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[5]前記金属イオンに結合可能なアミノ酸のモル濃度が、前記抗微生物活性を有する金属イオンと同等のモル濃度で適用される、[1]~[4]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[6]前記自己組織化ペプチドの全長が、4~15アミノ酸である、[1]~[5]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[7]前記自己組織化ペプチドが、末端に保護基を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[8]前記保護基が、カルバマート系の保護基である、[7]に記載の抗微生物剤。
[9]前記カルバマート系の保護基が、Fmoc基又はBoc基である、[8]に記載の抗微生物剤。
【0009】
[10]前記金属イオンに結合可能なアミノ酸が、全て、前記自己組織化ペプチドのC末端から奇数番目に位置する、[1]~[9]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[11]前記金属イオンに結合可能なアミノ酸が、システイン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群から選択されるアミノ酸を少なくとも1種類含む、[1]~[10]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[12]前記塩基性アミノ酸が、リシンを含む、[1]~[11]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[12-2]前記非極性アミノ酸又は中性アミノ酸が、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、トリプトファン、グルタミン及びセリンからなる群から選択されるアミノ酸を少なくとも1種類含む、[1]~[11]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[12-3]前記自己組織化ペプチドが、前記金属イオンに結合可能なアミノ酸と、前記塩基性アミノ酸との間に、少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[13]前記自己組織化ペプチドが、少なくとも2個のバリンが連続した配列を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[14]前記自己組織化ペプチドが、Val-Lys-Val-Val-Cys(配列番号9)に記載の配列を含む、[1]~[13]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[15]前記金属イオンが、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン及びクロムイオンからなる群から選択される金属イオンを少なくとも1種類含む、[1]~[14]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[16]素材表面に適用される、[1]~[15]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[17]前記素材が、有機素材である、[1]~[16]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[18]前記有機素材が、繊維からなる素材である、[17]に記載の抗微生物剤。
[19]前記微生物が、ウイルス、細菌又は真菌である、[1]~[18]のいずれかに記載の抗微生物剤。
[20][1]~[19]のいずれかに記載の抗微生物剤を有効成分として含む抗微生物組成物。
【0010】
[21]全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチドと、抗微生物活性を有する金属イオンとを含むことを特徴とする抗微生物キットであって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、抗微生物キット。
[21-2]前記金属イオンが、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン及びクロムイオンからなる群から選択される金属イオンを少なくとも1種類含む、[21]に記載の抗微生物キット。
[21-3]素材表面に適用される、[21]に記載の抗微生物キット。
[22]前記自己組織化ペプチドが、βシート構造を形成する、[21]に記載の抗微生物キット。
[23]前記金属イオンが、前記金属イオンのみを適用した場合に比べて、前記金属イオンの凝集が抑制される濃度で適用される、[21]又は[22]に記載の抗微生物キット。
[24]前記抗微生物活性を有する金属イオンが、抗微生物活性を発揮し得る濃度で適用される、[21]~[23]のいずれかに記載の抗微生物キット。
【0011】
[25]全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンが適用された抗微生物素材であって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1であり、
前記自己組織化ペプチドによりβシート構造が形成され、
前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含み、
前記金属イオンが、前記βシート構造上に配置されている、抗微生物素材。
[25-1]前記素材が、繊維からなる素材である、[25]に記載の抗微生物素材。
[26]前記金属イオンのみを適用した場合に比べて、前記金属イオンの凝集が抑制されている、[25]に記載の抗微生物素材。
【0012】
[27]素材の抗微生物化方法であって、
前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、
前記素材に、抗微生物活性を有する金属イオンを添加する工程、及び
前記素材を乾燥させる工程
を含み、
前記自己組織化ペプチドの全長が、4~30アミノ酸であり、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、方法。
[28]前記自己組織化ペプチドが、βシート構造を形成する、[27]に記載の抗微生物化方法。
[29]前記金属イオンが、前記金属イオンのみを適用した場合に比べて、前記金属イオンの凝集が抑制される濃度で適用される、[27]又は[28]に記載の抗微生物化方法。
[30]前記素材に金属イオンを添加する工程が、前記素材に自己組織化ペプチドを添加する工程と同時に、又は後に行われる、[27]~[29]のいずれかに記載の抗微生物化方法。
[31]前記素材に金属イオンを添加する工程が、前記素材が湿潤な状態で行われる、[27]~[30]のいずれかに記載の抗微生物化方法。
[31-1]前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程及び前記素材に金属イオンを添加する工程が、自己組織化ペプチド溶液と金属イオンを混合してから行われる、[27]~[30]のいずれかに記載の抗微生物化方法。
[32]前記素材に金属イオンを添加する工程が、前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程の後、自己組織化ペプチド溶液が乾燥する前までに行われる、[27]~[30]のいずれかに記載の抗微生物化方法。
【0013】
[33]抗微生物素材の製造方法であって、
前記素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、
前記素材に、抗微生物活性を有する金属イオンを添加する工程、及び
前記素材を乾燥させる工程
を含み、
前記自己組織化ペプチドの全長が、4~30アミノ酸であり、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、方法。
【0014】
[34]全長が4~30アミノ酸である自己組織化ペプチドを含む金属イオン付着用組成物であって、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1であり、
有機素材に適用される、組成物。
[35]前記自己組織化ペプチドが、βシート構造形成能を有する、[34]に記載の金属イオン付着用組成物。
[36]前記自己組織化ペプチドが、前記有機素材に適用された際に、前記金属イオンに結合可能なアミノ酸が分散して存在するような構造である、[34]又は[35]に記載の金属イオン付着用組成物。
[37]前記有機素材の表面に適用される、[34]~[36]のいずれかに記載の金属イオン付着用組成物。
[38]前記金属イオンが、抗微生物活性を有する金属イオンを含む、[34]~[37]のいずれかに記載の金属イオン付着用組成物。
【0015】
[39]金属イオンが結合している自己組織化ペプチドであって、
前記自己組織化ペプチドの全長が4~30アミノ酸であり、
前記自己組織化ペプチドが、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含み、
前記金属イオンに結合可能なアミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
前記塩基性アミノ酸の、前記自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
前記mが、0~15の整数であり、
前記nが、0~14の整数であり、
前記aが、0又は1である、自己組織化ペプチド。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る抗微生物剤、抗微生物キット及び抗微生物化方法により、容易に、かつ光等の刺激によって変色しにくい状態で素材を抗微生物化することができる。さらに、本発明に係る抗微生物素材により、素材上の微生物の増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】合成した自己組織化ペプチドのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)による赤外線透過スペクトルを示す。破線の矩形はαヘリックス構造の形成を示す波数領域を、実線の矩形はβシート構造の形成を示す波数領域を示す。
【
図2】自己組織化ペプチドと銀の複合体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。A:弱拡大像、B:強拡大像。
【
図3】銀を添加したシルク布の表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。A:自己組織化ペプチド不使用時、B:自己組織化ペプチド使用時。
【
図4】銀を添加したシルク布の表面のエネルギー分散型X線(EDX)分析装置により得られた写真を示す。A:自己組織化ペプチド不使用時の硫黄元素(S)、B:自己組織化ペプチド使用時の硫黄元素(S)、C:自己組織化ペプチド不使用時の銀元素(Ag)、D:自己組織化ペプチド使用時の銀元素(Ag)。
【
図5】銀を添加したシルク布の写真を示す。A:自己組織化ペプチド不使用時、B:自己組織化ペプチド使用時。
【
図6】銀を添加したシルク布の殺菌作用の評価において得られた細菌培養培地の写真を示す。A:自己組織化ペプチド不使用時、B:自己組織化ペプチド使用時。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、特に金属イオンの抗微生物活性を利用した抗微生物剤、抗微生物キット、抗微生物素材、及び抗微生物方法に関する。本発明では、金属イオンを素材に適用する際、自己組織化ペプチドを利用することにより、素材表面に分散して安定的に金属イオンを保持させることができ、その結果、光等の刺激によって変色しにくい状態で素材に金属イオンが有する特性、例えば抗微生物活性を付与できる。
【0019】
なお、本発明において「抗微生物」又は「抗微生物活性」とは、微生物の生育、活動、成長又は増殖を抑制すること、また場合により、微生物の付着を抑制すること、微生物の生育の結果生じる現象を抑制することを意味する。したがって、抗微生物活性には、抗ウイルス活性、抗菌活性、滅菌活性、殺菌活性、消毒活性、静菌活性、除菌活性、抗カビ活性及び防カビ活性をいずれも包含する。本発明では、抗微生物活性によって微生物が完全に死滅する必要はない。また微生物の生育の結果生じる現象には、例えば、有害物質の発生、においの発生、素材の劣化、腐敗等が含まれる。したがって、抗微生物活性には、防臭活性、防腐活性、耐劣化活性等も含まれる。本発明において、ある物が「抗微生物活性を有する」とは、その物に抗微生物活性が備わっていることを意味する。したがって、その物が抗微生物活性を奏することを目的とした物か否かは問わず、その物が微生物にさらされた場合に、抗微生物活性を発揮すればよい。
【0020】
微生物には、例えば、ウイルス(例えば、病原性ウイルス、ファージ等)、原核生物(例えば、細菌及び古細菌等)、単細胞真核生物(例えば、真菌及び原虫等)、細胞群体(例えば、菌糸を形成する真菌及び地衣類等)、並びにその一部(例えば、胞子等)が含まれる。
【0021】
好ましい細菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を含むブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌等のグラム陽性細菌や、大腸菌(Escherichia coli)等のグラム陰性細菌等が挙げられる。好ましい真菌としては、例えば、酵母類真菌やカビ類真菌が挙げられる。
【0022】
本発明では、自己組織化ペプチドを使用する。ここで「自己組織化」とは、時間と共に、自律的に立体構造を形成することをいい、「自己組織化ペプチド」とは、特定の条件下で自己組織化するペプチドをいう。特定の条件とは、自己組織化が起きる環境、反応時間、及び場合によっては自己組織化に必要な刺激を含む。
【0023】
環境は、液体中であればよく、この液体の特性、例えば、物理学的特性(粘度、融点及び沸点等)並びに化学的特性(pH、組成及び極性等)は、自己組織化及び形成された構造の安定性に悪影響を及ぼさない限り特に限定されない。好ましい液体は、具体的には、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等の低級(例えば、炭素数が1~4である)アルコール、酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリン等のグリコール類、その他アセトン、酢酸等の極性溶媒、これらから選択される2つ以上の溶媒の混合物、並びに他の溶質を含有する溶液が挙げられる。
【0024】
反応時間も、特に限定されない。好ましくは、ペプチドが自己組織化するのに充分な時間である。自己組織化は、自己組織化ペプチドが素材に適用されるまでに起きればよく、後述するような抗微生物活性を有する金属イオンとの接触までに完了している必要はない。立体構造の形成は、正確には、透過型電子顕微鏡での観察や、赤外線透過スペクトルの取得によって解析することができるが、液体の粘度の上昇等によって肉眼で判断してもよい。具体的な反応時間は、例えば、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上又は10日以上であればよい。
【0025】
任意選択で、特定の刺激を加えることによって自己組織化の進行を調節してもよい。刺激には、例えば、温度等の熱力学的刺激及び混和等の力学的刺激等を含む物理学的刺激、pHの変化及び特定の物質の添加等を含む化学的刺激、並びにその組み合わせが含まれるが、特に限定されない。
【0026】
自己組織化ペプチドが形成する立体構造は、高次構造であれば限定されないが、好ましくは平面に近い構造であり、より好ましくはβシート構造を含む構造である。
βシート構造は、主に疎水性相互作用によって互いに平行に近接した2つのペプチド鎖間において、一方のペプチド鎖の主鎖のN-H部と、他方のペプチド鎖の主鎖のC=O部との間で水素結合が形成されることによって形成される。上述の2つのペプチド鎖は、ターン構造やループ構造によって連結された同一分子のペプチドに属していてもよいが、βシート構造は、好ましくは、分子間で形成される。自己組織化ペプチドが形成するβシート構造は、平行βシート構造及び逆平行βシート構造のいずれを含んでもよく、また、それらの組み合わせでもよい。また、形成されたβシート構造は、全体としてひだを有していてもよく、また、複数のβシート構造が層状に積層していてもよい。
【0027】
自己組織化ペプチドにより形成される立体構造は、その全体がβシート構造である必要はなく、例えば、その50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上がβシート構造によって占められていればよい。また、全ての自己組織化ペプチドが単一の立体構造を形成する必要はなく、いくつかの立体構造の集合体であってもよいし、単独で存在するペプチドがあってもよい。例えば、自己組織化ペプチドのうち、その50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上が立体構造の形成に寄与していればよい。
【0028】
自己組織化ペプチドは、立体構造を形成した際に、その面上に金属イオンが分散して結合可能であることを特徴とする。すなわち、金属イオンは、自己組織化ペプチドのβシート構造上に配置されることになる。したがって、自己組織化ペプチドが素材に適用された際に、金属イオンに結合可能なアミノ酸は、素材における自己組織化ペプチドのβシート構造上に分散して存在する。
【0029】
自己組織化ペプチドは、全長が4~30アミノ酸のペプチドである。例えば、上限が30アミノ酸以下、25アミノ酸以下、20アミノ酸以下、19アミノ酸以下、18アミノ酸以下、17アミノ酸以下、16アミノ酸以下、15アミノ酸以下、14アミノ酸以下、13アミノ酸以下、12アミノ酸以下、11アミノ酸以下、10アミノ酸以下、9アミノ酸以下、8アミノ酸以下、又は7アミノ酸以下であり、下限は、4アミノ酸以上、又は5アミノ酸以上である。好ましい実施形態において、自己組織化ペプチドは、全長が4~15アミノ酸のペプチドである。
【0030】
自己組織化ペプチドを構成するアミノ酸として、20種類の標準的なアミノ酸、及びその立体異性体を使用することができるが、自己組織化を阻害しない程度に任意の官能基が修飾された修飾アミノ酸が含まれていてもよい。修飾アミノ酸は天然のものでも、人工のものでもよい。ペプチドの修飾としては、N末端のアミノ基のアセチル化やC末端のカルボキシル基をアミド化等が挙げられるが、特に限定されない。βシート構造の形成を阻害しないようにするため、主鎖のN-H部及びC=O部は修飾されないか、修飾後も同じ位置に同様の電荷を有するものが好ましい。
【0031】
自己組織化ペプチドの末端には、検出、合成、又は精製等の過程において有用な標識、修飾若しくは保護基、糖化合物、脂質化合物、又はその他の化合物等が結合していてもよい。
【0032】
自己組織化ペプチドは、金属イオンに結合可能な少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも1個の塩基性アミノ酸、及び少なくとも2個の非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を特定の配置で含む。
【0033】
金属イオンに結合可能なアミノ酸とは、金属(好ましくは抗微生物活性を有する金属)、そのイオン及び/又は金属塩と結合することができるアミノ酸を指し、例えば、システイン(Cys/C)、ヒスチジン(His/H)、アスパラギン酸(Asp/D)、グルタミン酸(Glu/E)及びリシン(Lys/K)等が挙げられる。いずれのアミノ酸が金属イオンに結合可能か否かは、当技術分野で知られており、また当業者であれば慣用の方法を使用して確認することができる。
【0034】
塩基性アミノ酸とは、例えば、リシン(Lys/K)、アルギニン(Arg/R)及びヒスチジン(His/H)が挙げられる。好ましい実施形態において、塩基性アミノ酸は、リシンを含む。
なお、塩基性アミノ酸と金属イオンに結合可能なアミノ酸とは異なることが好ましい。
【0035】
非極性アミノ酸又は中性アミノ酸とは、例えば、アスパラギン(Asn/N)、セリン(Ser/S)、グルタミン(Gln/Q)、トレオニン(Thr/T)、グリシン(Gly/G)、チロシン(Tyr/Y)、トリプトファン(Trp/W)、メチオニン(Met/M)、プロリン(Pro/P)、フェニルアラニン(Phe/F)、アラニン(Ala/A)、バリン(Val/V)、ロイシン(Leu/L)及びイソロイシン(Ile/I)が挙げられる。好ましい実施形態において、非極性アミノ酸又は中性アミノ酸は、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、トリプトファン、グルタミン及びセリンからなる群から選択されるアミノ酸を少なくとも1種類含む。
【0036】
特定の配置は、立体構造、特にβシート構造を含む構造を取りやすくするための任意選択可能な条件、及び素材と金属イオンの両方に結合するための条件にしたがって決定される。
βシート構造を含む構造を取りやすくするためには、金属イオンに結合可能なアミノ酸と、塩基性アミノ酸との間に、非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を含むことが好ましい。含まれる非極性アミノ酸又は中性アミノ酸の数は、特に限定されないが、好ましくは、少なくとも2個、例えば、2~28個、2~26個、2~24個、2~22個、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~8個、2~6個又は2~4個である。自己組織化ペプチド一分子に含まれる金属イオンに結合可能なアミノ酸及び塩基性アミノ酸のそれぞれの個数は限定されない。
【0037】
素材と金属イオンの両方に結合するための条件は、例えば以下の通りである:
金属イオンに結合可能なアミノ酸の、自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2m+a番目として表現され、
塩基性アミノ酸の、自己組織化ペプチドのC末端からの位置が、全て2n+1+a番目として表現され、
mが、0~15の整数であり(但し、aが0の場合1~15であり、aが1の場合0~14である)、
nが、0~14の整数であり、
aが、0又は1である。
以上の条件を満たすことにより、金属イオンに結合可能なアミノ酸の、自己組織化ペプチドのC末端からの位置が全て偶数番目の場合は、塩基性アミノ酸の、自己組織化ペプチドのC末端からの位置は奇数番目となる。反対に、金属イオンに結合可能なアミノ酸の位置が全て奇数番目の場合は、塩基性アミノ酸の位置は全て偶数番目となる。
【0038】
この配置をとることによって、形成されたβシート構造の一方の面には金属イオンに結合可能なアミノ酸の側鎖が露出し、他方の面には塩基性アミノ酸の側鎖が露出する。この構成によれば、自己組織化ペプチドによって形成されたβシート構造が、一方の面では金属イオンに結合可能であり、他方の面では負電荷を有する素材に結合可能である。
【0039】
あるペプチドが自己組織化ペプチドであるか否かは、当業者であれば慣用的に判定することができる。例えば、作製したペプチドについて、透過型電子顕微鏡での観察や赤外線透過スペクトルの取得によってβシート構造を含む構造をとるかどうかを判定する。
【0040】
具体的な実施形態において、自己組織化ペプチドは、例えば、偶数個の連続した非極性アミノ酸又は中性アミノ酸を、塩基性アミノ酸及び金属イオンに結合可能なアミノ酸が挟んだ配列によって構成される。したがって、自己組織化ペプチドとして好ましいペプチドの最小単位は、例えば、以下の配列:
Xaa-Yaa-Zaa(配列番号1)、又は
塩基性アミノ酸及び金属イオンに結合可能なアミノ酸の位置が反対の以下の配列:
Zaa-Yaa-Xaa(配列番号2)
であり、
上記式中、
XaaはLys、Arg又はHis(塩基性アミノ酸)であり、
Yaaは独立して、Asn、Ser、Gln、Thr、Gly、Tyr、Trp、Met、Pro、Phe、Ala、Val、Leu及びIle(非極性アミノ酸又は中性アミノ酸)からなる群から選択される少なくとも2個(但し、偶数個)のアミノ酸であり、
ZaaはCys、His、Asp、Glu又はLys(金属イオンに結合可能なアミノ酸)である。
【0041】
塩基性アミノ酸及び金属イオンに結合可能なアミノ酸の間に挟まれる非極性アミノ酸又は中性アミノ酸は偶数個であればよく、その個数は限定されない。したがって、本発明において使用する自己組織化ペプチドのアミノ酸配列は、以下の配列を1個、又は複数個を連続して、一部連続して若しくは分離されて含む:
Yaa1-Yaa2
〔式中、Yaa1及びYaa2は独立してAsn、Ser、Gln、Thr、Gly、Tyr、Trp、Met、Pro、Phe、Ala、Val、Leu又はIleである。〕
【0042】
好ましくは、自己組織化ペプチドは、Val-Valのアミノ酸配列を少なくとも1個含む。このアミノ酸配列を含む好ましいペプチドの最小単位は、例えば、以下の配列:
Xaa-Val-Val-Zaa(配列番号3)、又は
塩基性アミノ酸及び金属イオンに結合可能なアミノ酸の位置が反対の以下の配列:
Zaa-Val-Val-Xaa(配列番号4)
〔式中、
XaaはLys、Arg又はHis(塩基性アミノ酸)であり、
ZaaはCys、His、Asp、Glu又はLys(金属イオンに結合可能なアミノ酸)である。〕
である。
【0043】
より具体的には、自己組織化ペプチドは、例えば、Lys-Val-Val-Cys(配列番号5)又はCys-Val-Val-Lys(配列番号6)等の配列を含む。
【0044】
また、自己組織化ペプチドは、そのN末端及び/又はC末端に1つ以上の任意のアミノ酸をさらに含んでもよい。好ましくは、ペプチドの末端のさらなるアミノ酸は、非極性アミノ酸又は中性アミノ酸である。
【0045】
好ましくは、ペプチドの末端のさらなるアミノ酸はバリンであり、自己組織化ペプチドは、例えば以下の配列:
Val-Xaa-Yaa-Yaa-Zaa(配列番号7)
〔式中、
XaaはLys、Arg又はHisであり、
Yaaは独立してAsn、Ser、Gln、Thr、Gly、Tyr、Trp、Met、Pro、Phe、Ala、Val、Leu又はIleであり、
ZaaはCys、His、Asp、Glu又はLysである。〕
を有する。また自己組織化ペプチドは、例えば、ペプチド内部の非極性アミノ酸又は塩基性アミノ酸がValである以下の配列を含む:
Val-Xaa-Val-Val-Zaa(配列番号8)
〔式中、
XaaはLys、Arg又はHisであり、
ZaaはCys、His、Asp、Glu又はLysである〕。
【0046】
具体的な配列としては、例えば、Val-Lys-Val-Val-Cys(配列番号9)等を使用することができる。
【0047】
自己組織化ペプチドは、当技術分野においてよく知られているペプチド合成方法を使用して合成することができる。例えば化学的合成方法及び遺伝子工学的合成方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明において利用可能な化学的合成方法は当技術分野においてよく知られているが、例として以下に一般的な方法の概要を記す。まず、結合しようとするアミノ基とカルボキシル基以外の官能基を保護基によって保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のアミノ基とカルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。続いて、得られたペプチドのN末端を脱保護し、次のアミノ酸のカルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。この反応を連続して行うことにより、側鎖の官能基が保護されたポリペプチドを合成する。最後に、全ての保護基を除去することにより、ペプチドの合成が完了する。
【0049】
保護基としては、任意の公知の保護基を使用することができる。また、保護基は自己組織化に対して正に働き得るため、自己組織化ペプチドとして使用される際に、保護基が完全に除去される必要はない。
【0050】
アミノ基の保護基としては、例えば、Boc基、Fmoc基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル(Z又はCbz)基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基、若しくはアリルオキシカルボニル(Alloc)基等のカルバメート系の保護基、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トシル基、若しくはニトロベンゼンスルホニル基等のスルホニル系の保護基、アセチル基、エチルカルボニル基、トリフルオロアセチル基、若しくはベンゾイル基等のアルキルカルボニル系、アリールカルボニル系保護基、又はフタロイル基等のイミド系の保護基等が使用される。好ましくは、カルバメート系の保護基が使用され、より具体的には、Boc基又はFmoc基等が使用される。
【0051】
また、カルボキシル基の保護が必要な場合(例えば、ペプチド液相合成法を実施する際)は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル若しくは2-アダマンチル等を用いて)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4-ニトロベンジルエステル、4-メトキシベンジルエステル、4-クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル等を用いて)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t-ブトキシカルボニルヒドラジド化、又はトリチルヒドラジド化等によってカルボキシル基の保護を行うことができる。
【0052】
自己組織化ペプチドは遺伝子工学的に合成することもできる。遺伝子工学的合成方法の例としては、例えば、遺伝子組換え法による合成が挙げられる。
本発明において利用可能な遺伝子組換え法による合成は当技術分野においてよく知られているが、例として以下に一般的な方法の概要を記す。まず、目的のペプチドをコードする核酸配列を設計し、その配列を含むDNA断片を適当な発現ベクター中に挿入する。次に、これを適当な宿主細胞に導入し、細胞を培養することによって、目的のペプチドを発現させる。その後、宿主細胞の細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することができる。このような宿主細胞における目的ペプチドの発現及び細胞からの目的ペプチドの精製は、当技術分野で慣用的に行われており、当業者であれば適宜行うことができる。
【0053】
上述したような自己組織化ペプチドは、金属イオンを分散して、安定的に素材表面に保持させることができるという性質を有する。
そのような金属イオンは、自己組織化ペプチドに含まれる金属イオンに結合可能なアミノ酸が結合可能であれば、特に限定されない。また、使用する金属イオンは、素材に付与する特性に応じて選択することができる。例えば、素材に抗微生物活性を付与する場合は、抗微生物活性を有する金属イオンが使用される。
【0054】
抗微生物活性を有する金属イオンは当技術分野においてよく知られている。本発明において使用される抗微生物活性を有する金属イオンは特に限定されないが、例えば、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン、クロムイオン、タリウムイオン、モリブデンイオン、ジルコニウムイオン、パラジウムイオン、金イオン、白金イオン、マンガンイオン及びタングステンイオン等の重金属イオン、並びにアルミニウムイオン等のその他の金属イオンからなる群から選択される1種以上の金属イオンが含まれる。好ましくは、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉛イオン、アルミニウムイオン、水銀イオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン及びクロムイオンからなる群から1種以上選択される。金属イオンと対となる陰イオンは、液体に可溶であれば限定されない。例えば、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベヘン酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン及び塩化物イオン等が挙げられる。
【0055】
本発明において、素材に適用される際には、金属イオンは溶液の状態が好ましいが、塩の形態で、又は塩が溶解した溶液の形態で提供されてもよい。本発明で使用される好ましい抗微生物活性を有する塩としては、硝酸銀、硫酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、塩素酸銀、ジアンミン銀硝酸塩、ジアンミン銀硫酸塩、テトラフルオロホウ酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、ベヘン酸銀、硝酸銅(II)、硫酸銅(I)、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、過塩素酸銅、酢酸銅、テトラシアノ銅酸カリウム、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、過塩素酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、酢酸鉛(II)、塩化鉛(II)、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、過塩素酸水銀、過塩素酸カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、酢酸カドミウム、過塩素酸クロム、硫酸クロム、硫酸アンモニウムクロム、硝酸クロム及びその水和物等が挙げられる。ここで、塩の溶解に使用される液体は、抗微生物活性を有する金属イオンが溶解可能であれば、限定されない。好ましい液体は、自己組織化ペプチドに関して上述したものと同様である。
【0056】
自己組織化ペプチドは金属イオンと結合させた状態で提供されてもよいし、別々に提供されてもよい。例えば、自己組織化ペプチドと金属イオンとを別々に提供し、後述するように素材に適用する際に、両者が結合するように接触させることができる。
【0057】
一態様において、本発明は、金属イオンが結合している自己組織化ペプチドを提供する。
【0058】
別の態様において、本発明は、自己組織化ペプチド、及び自己組織化ペプチドに結合した抗微生物活性を有する金属イオンを含む抗微生物剤を提供する。
【0059】
本発明では、自己組織化ペプチドと金属イオンとが結合している。本明細書において結合した及び結合しているとは、自己組織化ペプチドと金属イオンとが、結合可能な条件で共存している状態を含む。自己組織化ペプチドと金属イオンとを接触させることにより、両者は結合可能となる。
【0060】
接触の方法は限定されるものではない。例えば、自己組織化ペプチドに金属イオンを添加することによって、若しくはその逆によって、又は両者を同一の容器等に添加することによって接触させることができる。接触させる際の形態は限定されない。例えば、自己組織化ペプチドを含む液体に、金属イオンを含む液体を添加してもよいし、金属イオンを含む固体の塩を添加してもよい。任意選択で、接触後に軽い刺激等(例えば、転倒混和、振とう又は撹拌等)が与えられてもよい。
【0061】
自己組織化ペプチド及び金属イオンの濃度は、それぞれが目的の機能及び活性を発揮し得る濃度であれば限定されない。
【0062】
自己組織化ペプチドの好ましい濃度は、自己組織化可能な濃度である。自己組織化可能な濃度とは、例えば、自己組織化の際に0.1 mM以上、0.2 mM以上、0.3 mM以上、0.4 mM以上、0.5 mM以上、0.6 mM以上、0.8 mM以上、1 mM以上、1.5 mM以上、2.5 mM以上、5 mM以上、7.5 mM以上、8 mM以上、8.5 mM以上、9 mM以上、9.5 mM以上、又は10 mM以上の濃度であればよい。特に、自己組織化後の濃度は限定されない。したがって、自己組織化可能な濃度において自己組織化した後、適切な液体に希釈して、任意の濃度に調整した上で、金属イオンと接触させることができる。
【0063】
また、金属イオンの好ましい濃度は、所望の特性を発揮し得る濃度であれば特に限定されない。例えば、抗微生物活性を有する金属イオンの好ましい濃度は、抗微生物活性を発揮し得る濃度である。所望の特性、例えば抗微生物活性を発揮し得る濃度とは、例えば、適用時に0.01 mM以上、0.02 mM以上、0.05 mM以上、0.10 mM以上、0.15 mM以上、0.25 mM以上、0.5 mM以上、1 mM以上、1.5 mM以上、2 mM以上、2.5 mM以上、5 mM以上、7.5 mM以上、8 mM以上、8.5 mM以上、9 mM以上、9.5 mM以上、又は10 mM以上の濃度であればよい。
【0064】
接触させる際の比率又は濃度は限定されないが、好ましくは、金属イオンのみを適用した場合に比べて、金属イオンの凝集が抑制される比率又は濃度である。したがって、光を照射する等の刺激を加えた際に金属イオンの凝集又は析出が抑制されていればよい。金属イオンの凝集又は析出は、例えば、接触後の液体に刺激を加えた際に金属粒子の沈殿物が生じるかどうかによって容易に判断することができる。具体的には、接触させる際の比率は、接触後に、自己組織化ペプチドの金属イオンに結合可能なアミノ酸の濃度が、金属イオンの濃度と同等以上になる比率であればよい。同等以上とは、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、92.5%以上、95%以上、96%以上、97%以上、97.5%以上、98%以上、98.5%以上、99%以上、99.5%以上、又は100%以上である。一実施形態において、自己組織化ペプチドの金属イオンに結合可能なアミノ酸のモル濃度は、金属イオンと同等のモル濃度で適用される。
【0065】
本発明の自己組織化ペプチド及び抗微生物剤の形態は特に限定されない。好ましくは液体の形態で提供されるが、結晶等の固体の形態で提供され、それを液体に希釈して使用することもできる。
【0066】
本発明の自己組織化ペプチド及び抗微生物剤は組成物として用いることができる。例えば、本発明の抗微生物剤を適当な担体と混合するか又は担体中に希釈若しくは懸濁することにより組成物とすることができる。また、組成物には、一般的に用いられる賦形剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、安定化剤、又は等張化剤等に加え、他の有効成分、例えば抗微生物成分が含まれてもよい。組成物の剤形は特に限定されない。例えば、液剤、水和剤、乳剤、粉剤、懸濁剤、粒剤、カプセル剤、塗布剤又はスプレー剤のいずれであってもよい。
【0067】
自己組織化ペプチド及び抗微生物剤は、素材、例えば素材表面に適用される。その適用方法も限定されない。剤形や適用対象の素材に応じて適宜選択すればよいが、例えば、塗布、噴霧又は浸漬等により適用することができる。適用対象の素材は本明細書の他の部分に詳細に記載されている。所望の特性、例えば抗微生物活性を付与したい目的の素材又は部分に直接適用する必要はなく、目的の素材又は部分に接触する素材又は部分へ適用してもよい。
【0068】
以下では特に、抗微生物活性を有する金属イオンを用いて抗微生物活性を素材に付与することを目的とした態様を例示する。しかし、以下の態様において、抗微生物活性を有する金属イオンの代わりに所望の活性を有する金属イオンを用いることによって、金属イオンを素材に安定的に保持させることができ、また金属イオンの有する所望の活性を素材に付与することができる。本発明は、そのような金属イオンの付加キット及び付加方法、並びに任意の金属イオンが付加された素材も提供する。
【0069】
別の態様において、本発明は、自己組織化ペプチドと、抗微生物活性を有する金属イオンとを含む抗微生物キットを提供する。本発明のキットにおいて、自己組織化ペプチドと金属イオンは、同じ容器で提供されても、別々の容器で提供されてもよいが、好ましくは、両者は別の容器で提供される。キットに含まれる自己組織化ペプチド及び金属イオンの形態は特に限定されない。例えば、それぞれは液体の形態でも固体の形態でもよいが、適用時には液体の形態であることが好ましい。
【0070】
本発明のキットは、必要に応じて追加の要素、例えば希釈剤や使用説明書等をさらに含むことができる。希釈剤としては、特に限定されないが、自己組織化ペプチド及び抗微生物剤に関して上述した液体を使用することができる。自己組織化ペプチドの溶解に使用した液体又は金属イオンの溶解に使用した液体を使用してもよいし、別の液体を使用してもよい。
【0071】
本発明のキットは、素材、例えば素材表面に適用される。適用方法や適用対象の素材は、本明細書の他の部分に詳細に記載されている。以下に記載される抗微生物化方法と同様に、本キットを使用する際には、自己組織化ペプチドと金属イオンは結合させてから適用しても、別々に適用してもよい。
【0072】
本発明の抗微生物剤及び抗微生物キットにより、抗微生物活性を有する金属イオンを素材表面に分散して安定的に保持させることができるため、本発明の抗微生物剤及び抗微生物キットを素材に適用するのみで、簡便かつ迅速に、光等の刺激によって変色しにくい状態で、素材を抗微生物化することができる。
【0073】
自己組織化ペプチド及び抗微生物活性を有する金属イオンを用いて、素材を抗微生物化することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、素材の抗微生物化方法に関する。本発明の抗微生物化方法は、以下の工程を含む:
素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、
素材に金属イオンを添加する工程、及び
素材を乾燥させる工程。
【0074】
本方法における、素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、及び素材に金属イオンを添加する工程は、上述したような抗微生物剤の素材への適用に準じて行われる。
【0075】
また、素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程、及び素材に金属イオンを添加する工程は、同時に、又は別々に行うことができる。したがって、自己組織化ペプチドと金属イオンは接触されてから添加しても、別々に添加してもよい。
【0076】
両工程を同時に行う場合は、自己組織化ペプチド溶液と金属イオンを混合してから両工程が行われる。
両工程を別々に行う場合は、いずれの工程を先に行ってもよいが、好ましくは、素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程が、素材に金属イオンを添加する工程の前に行われる。素材に金属イオンを添加する工程は、素材が湿潤な状態で行われることが望ましい。そのため、素材に金属イオンを添加する工程は、自己組織化ペプチド溶液を添加する工程の後、素材上の自己組織化ペプチド溶液が乾燥する前までに行われることが好ましい。
【0077】
素材を乾燥させる工程では、素材において、特に少なくとも自己組織化ペプチドが適用された素材の部分において、水分を減じる。
乾燥方法は、水分を減じることができれば特に限定されない。例えば、送風装置等を用いて温風若しくは冷風を当てる通風乾燥法、加熱により水分を蒸発させる無風乾燥法、スラリーを適当なバッファで懸濁した後、その懸濁液を気体中に噴霧して急速乾燥させる噴霧乾燥、凍結乾燥(フリーズドライ)法、密閉容器内で真空ポンプ等を用いて脱気する真空乾燥法、外気に晒して放置する自然乾燥法(天日干しを含む)、又はその組み合わせが挙げられる。実際の工程では、上記方法を応用した各種乾燥装置を用いて行えばよい。例えば、ドラムドライヤー、遠赤バンド乾燥機、連続式真空乾燥装置、スプレードライヤー、フリーズドライヤー等を使用することができる。
【0078】
また、例えば、自己組織化ペプチド溶液を添加する工程の後に一度素材を乾燥させ、その後に任意の方法により素材を再度湿潤化してから、素材に金属イオンを添加する工程を行ってもよい。したがって、本発明の抗微生物化方法は、素材に自己組織化ペプチド溶液を添加する工程と、素材に金属イオンを添加する工程との間に、素材を乾燥させる工程をさらに含んでもよく、その後に素材を湿潤させる工程をさらに含んでもよい。
【0079】
素材を湿潤させる工程では、液体が素材に添加される。ここで使用される液体は特に限定されないが、抗微生物剤に関して上述したような液体を使用することができる。自己組織化ペプチドの溶解に使用した液体又は金属イオンの溶解に使用した液体を使用してもよいし、別の液体を使用してもよい。
【0080】
例えば、本発明の抗微生物化方法により、簡便かつ迅速に素材を抗微生物化することができる。本発明の抗微生物化方法は、光等の刺激によって変色しにくい状態で素材を抗微生物化することができるため、特に変色によって外観に不利な影響のある素材や長期間使用される素材等の抗微生物化に有用である。
【0081】
本発明の抗微生物化方法を使用することにより、素材が抗微生物化された抗微生物素材を製造することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、自己組織化ペプチド及び該ペプチドに結合した金属イオンが適用された抗微生物素材に関する。
【0082】
本発明の抗微生物素材は、自己組織化ペプチドが結合可能な素材であれば特に限定されるものではない。自己組織化ペプチドが結合可能であるとは、適用された自己組織化ペプチドが容易には脱落しないことをいい、例えば、自己組織化ペプチドが適用される素材の部分に負電荷をもつ官能基が存在していればよい。
【0083】
自己組織化ペプチドが適用される素材の部分は限定されないが、素材表面に適用されることが好ましい。素材表面は最表面である必要はなく、微生物で汚染される可能性がある全ての表面を含む。また、表面は、1種類の素材からなるものであってもよいし、複数種類の素材からなるものであってもよい。
【0084】
本発明の素材は、好ましくは有機素材、例えば、負電荷を有する有機素材であり、例えば、紙、ニット(編物)、織布及び不織布等の繊維からなる素材、生物素材表面、プラスチック等の樹脂等が含まれる。
【0085】
繊維としては、例えば、植物性繊維及び動物性繊維を含む天然繊維、再生繊維、半合成繊維、並びに合成繊維等が挙げられる。繊維からなる素材は、上記繊維を含む2種類以上の繊維を使用した混紡繊維で構成されていてもよい。使用される好ましい混紡繊維は、例えば、構成する繊維のうち最大の重量を占めるものの一つが、上記繊維のいずれかである。繊維からなる素材は、上述の繊維を含む素材、好ましくは負電荷を有する少なくとも1種類の繊維を20重量%以上含むことが好ましい。
【0086】
植物性繊維とは、主にセルロースを原料に含む繊維であり、具体的には、木綿、麻、ジュート、パルプ及びヘンプ等の天然繊維、ビスコースレーヨン、テンセル、リヨセル及びキュプラ等の精製セルロース繊維、並びにアセテート等の半合成繊維等が挙げられる。
【0087】
動物性繊維としては、羊毛(ウール)、絹(シルク)繊維、カシミア繊維、及びアンゴラ繊維等が挙げられる。
【0088】
負電荷を有する合成繊維として、例えば、ナイロン等のヒドロキシル基を含む樹脂及びその共重合体、ポリビニルアルコール及びその共重合体等を溶融紡糸することにより得ることができる繊維が挙げられる。ポリエステル繊維及びポリオレフィン繊維等の負電荷を有さない合成繊維に、グラフト重合及びコロナ放電処理等の後加工によって、カルボキシル基、スルホ基、スルホニル基及びヒドロキシル基等の負電荷を有する官能基を導入してもよい。
【0089】
繊維の長さ等の電荷及び組成以外の性質は特に限定されない。また、繊維からなる素材は、繊維製品の一部分でもよく、繊維製品の種類は限定されない。例えば、繊維製品としては、布団カバー、毛布及びシーツ等の寝装用品、カーテン、壁紙及びテーブルクロス等の室内装飾用繊維製品、帽子、シャツ及び肌着等の衣料用品、カーシート及びカーマット等の自動車部品、ぬいぐるみ等の玩具、並びに空気清浄機用フィルター、エアコン用フィルター及びマスク等のフィルター製品等が挙げられる。
【0090】
生物素材とは、木製、革製、皮製及び毛皮製の素材を含む生物由来の素材、並びにヒト及びペット動物等の生きた生物表面をも含む。素材が由来する生物は特に限定されない。したがって、例えば、消臭を目的として、ヒトの表皮やペット動物の表面に適用すること等も包含される。
【0091】
例えば、本発明の抗微生物素材は、素材上の微生物の増殖を抑制することができる。本発明の抗微生物素材は、光等の刺激によって変色しにくい状態で抗微生物化されているため、特に変色によって外観に不利な影響のある素材や長期間使用される素材に有利に適用される。
【実施例0092】
以下、本発明を実施例及び図面によりさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0093】
〔実施例1〕自己組織化ペプチドの合成
本実施例では、Fmoc基を用いたペプチド固相合成法により、自己組織化ペプチドの合成を行った。
【0094】
(1)ペプチド固相合成法
ペプチド固相合成法であるFmoc法を用いて行った。Fmoc法は、当技術分野において広く知られている定法にしたがって行った。ペプチド合成中、N末端をFmoc基に置換することによってN末端を保護し、Fmoc-VKVVC(配列番号10)の配列を持つペプチドを合成した。続いて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS法)により、合成により得られたペプチドの質量分析を行った。
【0095】
MALDI-TOFMS法による質量分析の結果、合成により得られたFmoc-VKVVCペプチドの精密質量は767.40であることがわかった。
【0096】
(2)ペプチドのβシート構造形成能の確認
合成したFmoc-VKVVCをメタノール溶液(99.5%、和光純薬株式会社)中に濃度1%(w/w)(約0.01 Mに相当)で溶解、分散させ、室温(約20℃)で約1週間静置することにより、分子の集積を促した。静置後の溶液について、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)光度計(日本分光株式会社)を使用し、アミドI吸収が観察される波数領域(1600~1700 cm-1)における透過光を検出した。
【0097】
FT-IRによる赤外線透過スペクトルを
図1に示す。αヘリックス構造の形成を示す1640~1660 cm
-1の波数領域においては明りょうな落ち込みが見られなかった一方、βシート構造の形成を示す1615~1640 cm
-1の波数領域には大きな落ち込みが見られた。合成されたペプチドにより1615~1640 cm
-1の波数領域の光が選択的に吸収されたことから、このペプチドはβシート構造の自己組織化能力を有することがわかった。
【0098】
〔実施例2〕ペプチド-金属複合体の作製
本実施例では、実施例1で合成したペプチドと金属イオンの複合体を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて観察を行った。
【0099】
透過型電子顕微鏡による観察のために、金属として銀を使用した。実施例1(2)で作製した静置後のFmoc-VKVVCペプチドメタノール溶液(0.01 M)と硝酸銀水溶液(0.01 M、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)を混合した。具体的には、マイクロピペットを用いてそれぞれの溶液を同量ずつサンプルチューブに添加し、手で振って混合した。この際、作業は暗所で行った。
【0100】
得られたペプチド-銀複合体溶液を滴下することにより、TEMグリット(応研商事株式会社、#10-9999 エラスチックカーボン ELS-C075)上に観察用標本を作製した。作製された観察用標本を透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社)を用いて観察した。
【0101】
TEMにより観察されたペプチド-銀複合体の様子を
図2に示す。
図2のA及びBに示されるように、ペプチドのβシート構造が網目状又は霧状に観察され、その上に黒い銀粒子が分散して存在しているのがわかった。100 nmを下回る大きさの銀粒子が数多く見られた。
【0102】
〔実施例3〕ペプチド-金属複合体の布への適用
本実施例では、ペプチド-金属複合体を用いることによって、ペプチド-銀添加シルク布を作製した。
【0103】
2cm四方に裁断したシルク布に、実施例2で得られたペプチド-銀複合体溶液200μlをマイクロピペットを用いて滴下した。その後、真空ポンプを用いて、溶液滴下済みのシルク布を急速に乾燥させた。
【0104】
〔比較例〕
本比較例では、実施例3と同じ手順で、しかしペプチド-銀複合体溶液の代わりに硝酸銀水溶液を用いて硝酸銀添加シルク布を作製した。
【0105】
〔実施例4〕布におけるペプチド-金属複合体の状態の評価
本実施例では、作製された銀添加シルク布の表面を観察すると共に、光照射に伴う変色を観察した。
【0106】
(1)シルク布表面の観察
実施例3で得られたペプチド-銀添加シルク布と比較例で得られた硝酸銀添加シルク布の表面を走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所)及びエネルギー分散型X線(EDX)分析装置(Oxford Instruments社)を用いて観察した。
【0107】
SEMによる観察結果を
図3に、EDXによる観察結果を
図4に示す。
図3A及びBに示されるように、シルク布表面の様子は、比較例(
図3のA)と実施例3(
図3のB)のシルク布の間で明りょうな違いは観察されなかった。
【0108】
一方、
図4のA及びBに示されるように、比較例のシルク布(
図4のA)に比べて、実施例3のシルク布の表面には硫黄原子のシグナルが多く観察された(
図4のB)。これは、側鎖にチオール基を持つシステイン(C)残基を含むFmoc-VKVVCペプチドがシルク布表面に多く存在することを示す。
【0109】
また、
図4のC及びDに示されるように、比較例のシルク布(
図4のC)に比べて、実施例3のシルク布の表面には銀原子のシグナルも多く観察された(
図4のD)。これは、比較例では、銀原子の多くがシルク布内部に染み込むか、大きな凝集体を形成しており、シルク布表面に存在する微小な銀粒子が少ないことを示している(
図4のC)。一方、実施例3のシルク布では、ペプチド-銀複合体の形成により、シルク布表面に微小な銀粒子が多くとどまっていることが明らかとなった(
図4のD)。また、硫黄のシグナルの一部は、銀のシグナルの一部と共局在していた(
図4のB及びD)。これは、システインが側鎖のチオール基を介して金属と結合可能であるという従来の知見と一致する。
【0110】
(2)光を照射した布の変色反応の観察
光照射に伴う銀の凝集体の析出は、銀イオンを含む布が光照射後に茶褐色を呈することにより観察可能である。そこで、光照射に伴う銀の凝集に対するペプチドの影響を調べるため、銀添加シルク布に光を照射し、その影響を調べた。
【0111】
日光を模した光を発するソーラーシュミレーター(三永電機製作所)を用いて、比較例と実施例3のシルク布に500 Wの白色光を1時間照射した。その後、目視で光照射後のシルク布を観察した。
【0112】
光照射後のシルク布の様子を
図5に示す。
図5のA及びBに示されるように、比較例のシルク布は光照射後に茶褐色に変色した(
図5のA)。一方、実施例3のシルク布は光照射後においても変色しなかった(
図5のB)。したがって、自己組織化ペプチドによるペプチド-銀複合体は、日光を照射されても安定であり、ペプチド-銀複合体の形成により銀の凝集体の形成が大きく抑制されていることがわかった。
【0113】
〔実施例5〕ペプチド-銀添加シルク布の抗菌作用の評価
本実施例では、JIS L1902の規格に従い、ペプチド-銀添加シルク布の抗菌作用を試験した。
【0114】
試験は菌液吸収法に従いを用いて行った。試験は、自己組織化ペプチド及び硝酸銀を1.4mLずつ混合したペプチド-銀複合体が全量(2.8mL)滴下されたペプチド-銀添加シルク布及び何も添加されていないシルク布(対照)それぞれ0.4gを用いて行った。操作の概略は以下の通りである。
【0115】
まず、シルク布には、標準布(絹14目付)を用いた。オートクレーブ(120℃, 20min)滅菌処理したサンプルを滅菌チューブに詰めて、シルク布上にマイクロピペットを用いて0.2 mlの試験接種菌液を接種した。試験接種菌液としてはグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus; 独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター: NBRCより提供; NBRC No. 12732)を1.2×105個/mlの濃度で含む菌液を使用した。接種したシルク布は37℃で18時間培養した。培養後、滅菌チューブに20 mlの生理食塩水を添加し、撹拌することにより洗い出しを行った。生菌数の初期値を得るために、対照シルク布の一部においては接種の直後に同様の洗い出しを行った。洗い出しの後に、混釈培養法により生菌数を定量した。混釈培養法の概略は以下の通りである。洗い出し液1 mlを採取し、生理食塩水を用いて10倍に希釈した。この操作を繰り返し、洗い出し液の1倍希釈、10倍希釈、100倍希釈、1000倍希釈等となるように10倍希釈の希釈系列を調製した。1 mlの各希釈液をそれぞれ2枚の寒天培地上で37℃で24時間培養した。培養後のコロニー数が30~300の希釈系列においてコロニー数を計数し、2枚の平均をとった。コロニー数が1以下であった場合、平均値を1とした。
【0116】
生菌数(CB)、増殖値(F)及び殺菌活性値(L)は以下のように算出した。
生菌数:CB=Z×R(Z:コロニー数の平均値、R:希釈倍率)
増殖値:F=Mb-Ma(Ma:接種直後の対照シルク布から計数された生菌数の常用対数、Mb:18時間培養後の対照シルク布から計数された生菌数の常用対数)
殺菌活性値:L=Ma-Mc(Mc:18時間培養後のペプチド-銀添加シルク布から計数された生菌数の常用対数)
【0117】
混釈培養法を行った後の細菌培養培地の様子を
図6に示す。
図6のA及びBに示されるように、対照シルク布を使用した場合は細菌の増殖が見られたが(
図6のA)、ペプチド-銀添加シルク布を使用した場合はコロニーの発生が見られなかった(
図6のB)。
【0118】
このことは、増殖値及び殺菌活性値からも確認された。Ma=log(9.4×104)=4.97、Mb=log(1.39×107)=7.14より、増殖値は2.17であり、試験成立条件である1.5を上回っていた。また、18時間培養後のペプチド-銀添加シルク布の生菌数は0であったため、Mc=log(1)=0より、殺菌活性値は4.97であり、殺菌活性の条件である0を大きく超えていた。このことから、実施例3で得られたペプチド-銀添加シルク布は強い抗菌活性を持つことがわかった。
【0119】
〔実施例6〕ペプチド及び金属イオンの添加方法の比較
本実施例では、自己組織化ペプチド及び金属イオンの添加方法を変化させることにより、金属イオンが素材表面に分散して安定的に存在し得る添加条件を探索した。
【0120】
実験の方法は実施例2~4にしたがって行った。金属イオンが素材表面に分散して安定的に存在し得るかどうかは、銀イオンをシルク布に適用した場合に、光照射後にシルク布が変色するか否かによって判断した。一部の条件においては、実施例2のように自己組織化ペプチド溶液と硝酸銀水溶液とを混合するのではなく、自己組織化ペプチドをシルク布に添加した後に硝酸銀水溶液を添加した。
各実験条件を表1に示す。
【0121】
【0122】
各条件における、光照射後の変色の有無は表1に示した通りであった。自己組織化ペプチド溶媒であるメタノールのみを硝酸銀と混合した場合には光照射に伴う変色が見られたことから、光照射に伴う変色の抑制が自己組織化ペプチドによる効果であることが確認された。また、硝酸銀水溶液を添加しても光照射後に変色しなかったのは、実施例2と同様の処理をした場合と、シルク布に自己組織化ペプチドを添加後、シルク布が乾く前に硝酸銀水溶液を添加した場合のみであった。このことから、自己組織化ペプチドを用いて銀イオンを素材表面に分散して安定的に存在させるためには、必ずしも自己組織化ペプチドと銀イオンを事前に混合しておく必要はなく、銀イオン添加時にシルク布が湿っていれば別々に添加してもよいことがわかった。