IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社枚方技研の特許一覧

<>
  • 特開-防振材 図1
  • 特開-防振材 図2
  • 特開-防振材 図3
  • 特開-防振材 図4
  • 特開-防振材 図5
  • 特開-防振材 図6
  • 特開-防振材 図7
  • 特開-防振材 図8
  • 特開-防振材 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170851
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】防振材
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20221104BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20221104BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
F16F15/04 B
F16F15/06 G
F16F15/04 L
F16F15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077094
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】591222083
【氏名又は名称】株式会社枚方技研
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】森山 知佳津
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD14
3J048BA17
3J048BA18
3J048BC02
3J048BC04
3J048DA01
3J048EA08
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】低周波数の振動も吸収でき、水平方向の変異も抑えた防振材を得る。
【解決手段】円柱状又は正多角柱状である外周筒12と、外周筒12の下部に設けた底面板13とを有し、外周筒12の上方側の内部に、円柱状又は正多角柱状であり外周筒12と同軸に配される1つ以上の連結筒14と、筒間を塞ぐエラストマーからなるエラストマー充填部15とを有する吸振部16を有し、吸振部16の中央の上方側に設けた固定具17と、外周筒12の内部に設けた、底面板13と吸振部16とを離れる方向に付勢する弾性体18とを有する防振材を製造した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状又は正多角柱状である外周筒と、
前記外周筒の一方の端部に設けた底面板と、
前記外周筒の他方の端部側の内部に、円柱状又は正多角柱状であり前記外周筒と同軸に配される1つ以上の連結筒と、筒間を塞ぐエラストマーからなるエラストマー充填部とを有する吸振部と、
前記吸振部の中央の他方の端部側に設けた固定具と、
前記外周筒の内部に設けた、前記底面板と前記吸振部とを離れる方向に付勢する弾性体と、
を有する防振材。
【請求項2】
前記弾性体がコイルバネであり、
前記底面板の中央の他方の端部側に、前記コイルバネを受けて固定する凹皿部を有し、
前記コイルバネの前記吸振部側は、前記固定具と一体化した中央筒の内部に収容される
請求項1に記載の防振材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動を吸収する防振材に関する。
【背景技術】
【0002】
振動を吸収して支える防振材は、その振動の周波数や、支える荷重などによってさまざまなものが提案されている。例えば図9(a)に示すような、ゴム弾性を有する素材からなる緩衝部2を上下の間に挟んで、上部の振動をこの素材が吸収する防振材1が利用されている。
【0003】
これに類する技術として、たとえば特許文献1には、ゴムを二層化して振動を受けて配管への振動を防ぐ防振構造が記載されている。用途としては、冷凍サイクル装置における圧縮機を支えるもので、大きな荷重を支えつつ防振するものである。この例よりもさらに層を増やした多数の層が積み重なった防振構造も提案されている。
【0004】
ところがこのような防振材では、せん断方向に荷重がかかって圧縮する方向に力が掛かると、その振動を吸収するゴムのゴム硬度が上がってしまう。ゴム硬度が上昇すると、固有振動数が上昇し、吸収可能である振動の周波数の下限が上昇してしまう。例えば、ドローンに取り付けた場合、羽の回転による数十Hz以上の高周波数の振動は吸収できても、ドローン自体の移動に伴う5Hz以下の低周波数の振動は吸収できないということが起こる。特に多数の層が積み重なった防振構造であると、水平方向の振動は層間のずれによって吸収しやすくなるが、一方で上下方向(圧縮方向)の荷重に対しては変形しにくくなり、ゴム硬度が高くなってしまう。
【0005】
防振材を構成するゴムに上下方向に圧縮する力がかかっても低周波数の振動を吸収できるようにするならば、元々のゴム硬度を下げなければならない。だが、ゴム硬度が0程度まで低いゴムを使っても、ようやく吸収できる振動の周波数の下限が10Hz程度である。緩衝部2がこれほど柔らかいゴムであると、振動を吸収することができても、柔らかすぎて左右方向の動きで容易に図9(b)のように変形してしまい、上部にあるものを支えることができなくなってしまう。
【0006】
ゴムではなく、板バネなどで上部を支えて中空状にしたエアダンパーを用いると、5Hz程度の振動までは吸収可能である。特許文献2には、中空部分を有し、周囲をゴムやコイルバネで支えるショックアブソーバーが提案されている。
【0007】
また別の構成として、上下方向の振動を圧縮応力ではなく、引張によって支える防振構造が特許文献3に提案されている。上からかかる荷重はインシュレーターラバー(7)を押さえつけるのではなく、固定された外周と上下する中央部分との間で引っ張られることで吸収される。このため、荷重がかかってもインシュレーターラバーのゴム硬度が上昇することはなく、固有振動数を低いままに維持できるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-2439号公報
【特許文献2】特開昭63-72938号公報
【特許文献3】実開昭63-43887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に示すような中空型の防振部材は、荷重がかかってもゴム硬度の上昇は起きにくく、上下方向の防振性能では低固有振動数を維持できると考えられるが、水平方向への支えがなく、固定することが難しくなり全体が動いてしまい、動きが収束するまでに時間がかかりすぎるようになってしまう。例えば、工場のライン等では、前後との相対位置が動きすぎて位置が合わなくなるという問題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の防振部材では、引っ張られるインシュレーターラバーのみで振動を吸収するため、固有振動数の上昇は避けられても、水平方向の振動の吸収は不十分であり、耐荷重の点でも問題があった。
【0011】
そこでこの発明は、荷重がかかる環境においても固有振動数が上昇しにくく、低い固有振動数を保持して低周波の防振にも対応し、水平方向の動きに対しても支持性能を発揮できる防振材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、
円柱状又は正多角柱状である外周筒と、
前記外周筒の一方の端部に設けた底面板と、
前記外周筒の他方の端部側の内部に、円柱状又は正多角柱状であり前記外周筒と同軸に配される1つ以上の連結筒と、筒間を塞ぐエラストマーからなるエラストマー充填部とを有する吸振部と、
前記吸振部の中央の他方の端部側に設けた固定具と、
前記外周筒の内部に設けた、前記底面板と前記吸振部とを離れる方向に付勢する弾性体と、
を有する防振材により上記の課題を解決したのである。
【0013】
ここで、前記の筒間とは、前記外周筒と前記連結筒との間だけでなく、前記連結筒が複数個ある場合は前記連結筒同士の間も含む。また、最内周に位置する連結筒が前記固定具と一体化した中央筒や中央柱である場合はその中央筒又は中央柱と前記連結筒との間も含む。
【0014】
この防振材は主に底面板が下になるように設置する。上方からの荷重及び振動が前記固定具を介して掛けられる。この荷重及び振動を、吸振部のエラストマー充填部が筒間で引っ張られることで吸収する。荷重が引張方向に掛けられて圧縮する方向には掛からないため、エラストマー充填部を構成するゴム硬度が過度に上昇することがなく、固有振動数の上昇を抑えることができる。また、掛かる荷重はエラストマー充填部が戻ろうとする力だけでなく、前記弾性体の付勢する力によっても支えられるため、エラストマー充填部に過度の力がかかって劣化したり破断したりすることを防止する。
【0015】
前記外周筒と同軸に配される前記連結筒によりエラストマー充填部に掛かる振動も荷重も偏ることなく分散して吸収される。これにより、水平方向への歪みも起こりにくくなり、振動を吸収できるだけでなく、形状安定性も高いままであることができる。
【0016】
前記弾性体としては、板バネでもコイルバネでも利用できる。前記コイルバネを用いる場合は前記コイルバネを前記外周筒の中心軸に位置するように配し、前記底面板の中央の他方の端部側に、前記コイルバネを受けて固定する凹皿部を有する実施形態を採用できる。また、前記コイルバネの前記吸振部側は、前記固定具と一体化した中央筒の内部に収容されると、前記コイルバネが水平方向にずれることなく固定できるので好ましい。
【0017】
さらに、筒間にあるエラストマー充填部が複数あり、その分割される数が増えると、個々のエラストマー充填部ごとの変形量が小さくでき、上下方向のバネ定数を小さくすることができる。これにより、固有振動数を小さくし、吸収できる振動の振動数の下限を下げることができる。また、水平方向のずれを小さく抑制でき、水平方向の位置を保持しやすくなる。
【発明の効果】
【0018】
この発明にかかる防振材を用いると、荷重によってゴム硬度が上昇することを回避できるため、従来のエラストマーを積層した防振材よりも低周波数の振動を吸収できる。固有振動数の1.4倍から上の振動数帯の振動を吸収可能であり、コイルバネとエラストマー充填部との組み合わせ次第では1.4~7Hz程度の低周波数まで振動を吸収できる。また、垂直方向だけでなく、水平方向でも低周波数の振動を吸収できる。
【0019】
これにより、例えばドローンに搭載すると、プロペラの回転による高周波数の振動とともに、ドローン自体の大きな動きによる低周波数の振動も吸収することができ、この発明にかかる防振材を介してカメラを固定しておくことで、ドローン映像のブレを大きく抑制することができる。また、固有振動数を下げるためには荷重を十分に掛けなければならなかったが、この発明にかかる防振材ではドローンのような軽量の荷重の環境でも十分に固有振動数が小さく、低周波数の振動まで吸収できる。
【0020】
また、長期間に亘って耐荷重が続くような状況に設置しても、弾性体と吸振部とで併せて荷重を吸収できるので、素材の劣化がほとんど起こらず、長い耐久年数を実現する。これにより、長期間に亘って交換できない重量物や建築物に設置する防振材としても好適な効果を発揮する。低周波数の揺れも吸収できるため、地震による振動もある程度までは吸収可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)この発明の第一の実施形態にかかる防振材の斜視図、(b)(a)の正面図
図2】(a)図1(a)のII-II断面図、(b)図1(a)の平面図
図3】(a)この発明の第二の実施形態にかかる防振材の斜視図、(b)(a)の平面図
図4】この発明の第三の実施形態にかかる防振材の断面図
図5】この発明にかかる防振材を取り付けたドローンの概要図
図6】実施例1及び2における荷重と変位の関係を示すグラフ
図7】実施例1における固有振動数の測定時の状況を示す写真と測定結果を示すディスプレイの写真
図8】実施例2における固有振動数の測定時の状況を示す写真と測定結果を示すディスプレイの写真
図9】(a)従来の防振材の例を示す図、(b)(a)が形状維持できなくなるときのイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、振動と荷重とを受けて振動を吸収できる防振材11である。
【0023】
この発明にかかる防振材1の第一の実施形態を例にとりながら説明する。第一の実施形態の斜視図を図1に示す。第一の実施形態にかかる防振材11は、図1(a)の斜視図及び図1(b)の正面図に示すような外観を有する。II-IIの断面図を図2(a)に、上方から見た平面図を図2(b)に示す。
【0024】
この発明にかかる防振材11は、円柱状又は正多角柱状である外周筒12を有する。図1及び図2では円柱状の外周筒12を有する実施形態を例に示す。正多角柱状である場合は、正五角柱以上であることが好ましく、正六角柱以上であるとより好ましい。正四角柱以下であると、角が小さくて荷重や振動の偏りが生じやすく、振動吸収効果が不十分になりやすかったり、予期せぬ動きをしてしまうおそれがあるからである。後述する固定孔22などと位置を揃えようとする場合、正八角柱状などの2の乗数角状であるとデザイン上配置しやすく好ましい。一方、多角形であるほど荷重の偏りが少なくなり、耐久性や防振効果の点では円柱状が最も好ましい。
【0025】
外周筒12の素材は用途及び大きさにより適宜選択可能である。樹脂であれば、アクリル樹脂などの比較的脆い樹脂よりは、ポリカーボネートやABS樹脂などの比較的強度や耐候性を有する用途に用いられる樹脂が望ましい。また、ステンレスやアルミ、その他の金属の鋳物でもよいし、削りだしにより形成されるものでもよい。
【0026】
外周筒12の厚みTは、外周筒12の最大径の2%以上であると好ましく、強度を必要とする場合は4%以上であるとより好ましい。特に防振材11が最大径が1メートルを超えるような大きなものである場合、最大径に対してもある程度の厚みを確保しておかないと、掛けられる荷重に耐えきれなくなるおそれがある。また、最大径が1cm以下のような小さいものでも、荷重が集中してしまう場合には強度を確保するための厚みが必要となる。素材にもよるが、最大径の2%未満であると耐久性が十分に確保しにくく、歪んで防振効果が減退したり、荷重に耐えきれずに破断してしまうおそれがある。また、なお、ここで外周筒12の最大径とは、円柱状である場合には円の外周径であり、多角柱状である場合には、最大の長さとなる正多角形の対角線の長さである。一方、厚い分には耐久性の点で好ましいが、外周筒12の外周径に対して15%を超えると、後述する連結筒14及びエラストマー充填部15を設けるスペースが十分に取りにくくなるので、外周筒12の外周径の15%以下であると好ましい。
【0027】
この発明にかかる防振材11は、外周筒12の一方の端部に設けた底面板13を有する。基本的にはこの底面板13を下にして防振材11を設置する。以後、上下という場合には底面板13側を下とする。底面板13は外周筒12と一体化したものでもよいし、取り外し可能なものであってもよい。ただし、取り外し可能である場合、後述する弾性体18によって付勢する力によっては容易にはずれることがないよう、別途固定するための機構を有すると好ましい。図1及び図2に記載している例は、外周筒12と底面板13とが一体化した実施形態である。
【0028】
底面板13は、下部に設けた他の器具か床面に対して固定可能であるか、固定されているとよい。具体的には、外周筒12の最外周の外にまで突き出た固定翼部21を有しているか、又は他の用途の板と一体化していると望ましい。ここで他の用途の板としては、防振材11を取り付けることになる物体の天板が挙げられ、天板がこの発明における底面板13を兼ねている形状とすることができる。図1及び図2に記載している例では、固定翼部21、21が外周筒12の中心軸に対して点対称となるように左右に2つ突き出ている。固定翼部21にはそれぞれ下に設けた器具に対してネジ留めを可能にするための固定孔22が空けられてある。
【0029】
この発明にかかる防振材11は、外周筒12の他方の端部側の内部に、円柱状又は正多角柱状であり外周筒12と同軸に配される1つ以上の連結筒14と、筒間を塞ぐエラストマーからなるエラストマー充填部15とを有する吸振部16を有する。外周筒12と連結筒14のうちのいずれか複数が正多角柱状である場合、それらの多角柱としての角数は同一であることが望ましい。例えば正六角柱と正八角柱とが混在すると、振動の吸収に偏りが生じてしまったり、角度次第では連結筒14同士が接触してしまって防振効果が大きく低下してしまったりする恐れがある。少なくとも個々の連結筒14は互いに接触しておらず、外周筒12とも接触していないように配されており、その間の筒間にエラストマー充填部15(15a,15b,15c・・)が設けられている。
【0030】
連結筒14として、図1及び図2に示す実施形態では、外側から連結筒14a,14bと、後述する固定具17と一体化した連結筒(中央筒)14xとを有する。これらの連結筒14が外周筒12と同軸に配されるとは、外周筒12の円柱又は正多角柱の中心軸Aと、個々の連結筒14の中心軸とが一致するように配置することである。外周筒12と連結筒14とのいずれも円柱状である場合は、図2(b)に示すように、上方から平面視した形状が同心円状となる。一方、外周筒12と連結筒14のうちのいずれか複数が正多角柱状である場合、同じ角数の多角柱であることが望ましい。
【0031】
例として、外周筒32及び連結筒34とがいずれも正八角柱状である第二の実施形態を図3に示す。図3(a)が斜視図であり、図3(b)が平面図である。筒の形状に従って、エラストマー充填部35も円環状ではなく、正八角柱状の外周を有するようになっている。外周筒32と連結筒34のそれぞれの角の向きを揃えることで、どの方向から力が掛かっても偏ることなく、安定して振動を吸収することができる。
【0032】
連結筒14の素材は特に限定されない。樹脂製でもよいし、金属製でもよい。ただし、エラストマー充填部15と接触することで劣化しないものであると好ましい。また、エラストマー充填部15との間で強固に密着できるものであるとより好ましい。
【0033】
連結筒14の厚み(T,T,・・・)は、外周筒12の最大径の0.2%以上であると好ましい。特に防振材11が最大径が1メートルを超えるような大きなものである場合、最大径に対してもある程度の厚みを確保しておかないと、掛けられる荷重に耐えきれなくなるおそれがある。なお、ここで連結筒14の最大径とは、円柱状である場合には円の外周径であり、多角柱状である場合には、最大の長さとなる正多角形の対角線の長さである。一方、厚い分には耐久性の点で好ましいが、外周筒12の外周径に対して15%を超えると、エラストマー充填部15を設けるスペースが十分に取りにくくなるので、外周筒12の外周径の15%以下であると好ましい。使用する環境における耐久性さえ確保できるのであれば、基本的には連結筒14の厚みを小さくし、その分だけ連結筒14の数を増やして固有振動数を下げることができ、それにより吸収できる振動数の下限を下げることができるので好ましい。例えば、最大径がセンチメートル単位の小さいものである場合は、連結筒14として厚さが10~100μm程度の樹脂製フィルムでも実用可能である。薄い連結筒14であっても、エラストマー充填部15との間で接着した部分が上下に引っ張られる構造が複数繰り返されることで、固有振動数を低下させる効果は発揮される。
【0034】
連結筒14の上下方向長さは、外周筒12の上下方向長さよりも小さいことが必要である。連結筒14の上下方向長さは外周筒12の上下方向長さに対して、90%以下であると好ましい。90%を超えると、上方向から荷重がかかったときに連結筒14が底面板13にまで接触してしまう恐れが出てくる。一方で、連結筒14の上下方向長さは外周筒12の上下方向長さに対して、20%以上であると好ましい。20%未満であると、筒間をつなぐエラストマー充填部15の量が少なく、衝撃や振動を吸収する効果が不十分になる。
【0035】
エラストマー充填部15は、前記筒間をエラストマーで充填するものである。ここで用いるエラストマーとしては、例えばウレタンエラストマーや、エチレンエラストマー、シリコンエラストマーなどが挙げられる。天然ゴムではゴム弾性が高すぎて好ましくない。エラストマー充填部15は内外の筒により引っ張られ、その引っ張られた状態から元に戻ろうとすることで、低周波数の振動も吸収可能な防振材として作用する。エラストマー充填部15により振動が収束される。
【0036】
エラストマー充填部15と外周筒12又は連結筒14との間を接着する構造としては、エラストマーと外周筒12又は連結筒14との間が接着剤で接着されていてもよいし、エラストマー自体が外周筒12又は連結筒14に対して強固に接着していてもよい。これらをまとめて、吸振部16を形成する。
【0037】
エラストマー充填部15(15a,15b、15c、・・・)の径方向厚みW,W,W,・・・は、隣接する連結筒14の厚みTよりも厚いことが望ましい。連結筒14よりも薄いと、上下方向に引っ張られる変異の許容幅が小さすぎて、十分な防振効果が得られにくくなってしまう。また、エラストマー充填部15の個々の厚みWは、外周筒12の最大径の2%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましい。また、外周筒12の最大径にもよるが、2%未満であると、上下方向に引っ張られる変異の許容幅が、外周筒12の大きさから要求される変異幅に比べて小さすぎて、防振効果が不十分になりやすい。一方で、厚い分には特に制限はないが、一つのエラストマー充填部15の厚みが、外周筒12の最大径の25%以下であると好ましく、15%以下として多数のエラストマー充填部15の層を確保するとより好ましい。なお、一つのエラストマー充填部15だけが厚すぎると、中間に設けた連結筒14によって多段階的な衝撃吸収を行う効果が偏ってしまったり、不十分になったりするおそれがある。なお、個々の厚みW,W,Wは同一でもよいし、違っていてもよい。
【0038】
このような吸振部16を形成させる手順としては、例えば、外周筒12の中に軸が一致するように連結筒14を配置する枠を組み、そこに液体状態のウレタンなどの、硬化性のエラストマーとなる樹脂を流し込んで、全体を固める手順が挙げられる。枠の固め方に作業上の精度が要求されるものの、筒間を充填するエラストマー充填部15が外周筒12及び連結筒14と強固に結合して、高い耐久性を発揮できる。また別の手順として、外周筒12とは別に連結筒14を配置した枠に硬化性のエラストマーとなる樹脂を流し込んで固めたのち、エラストマー充填部15aの周囲を削り出し、外周筒12の内周に取り付けて接着剤で固定する手順も挙げられる。
【0039】
この発明にかかる防振材11は、吸振部16の中央の、他方の端部側(すなわち上方側)に固定具17を有する。固定具17は、防振材11の上方に位置する別の部材を防振材11に対して固定することができる部位である。図1及び図2に示す実施形態では、雌ネジが切られた中央筒14xと一体化している。逆に、上方に雄ネジが突き出た形態でもよい。雄ネジが突き出た形態の場合、固定具17の下方が中央筒14xの代わりに、内部に空洞がないか空洞が途中で塞がった中央柱となっていてもよい。このような厳密には筒状でない場合も、前記中央柱の周囲は同様に上記の筒間として記述するエラストマー充填部15が充填される。
【0040】
固定具17の側周面には、少なくとも一か所、望ましくは二か所以上の回転固定穴24が空けられているとよい。固定具17が雄ネジでも雌ネジでも、上方に配する別の部材に取り付けようとするときには固定具17をねじる方向に回転しようとする力が働く。そのままでは内周側の連結筒14がねじる方向に力を加えられ、それに引っ張られてエラストマー充填部15にもねじる方向に力が掛かってしまい、ねじられ続ける状態で固定されてしまったり、ねじ切られてしまうおそれがある。このため、固定具17の雄ネジ又は雌ネジに別の部材を取り付けるために回転する力を掛けるにあたって、側面から回転固定穴24に固定するための棒状の部材を挿入し、固定具17及び中央筒14xがねじる方向に回らないように固定しておく。回転固定穴24の内周は、滑らないように四角や六角などの角形に切り込まれていると望ましい。図に示す実施形態では六角に切った例である。
【0041】
この発明にかかる防振材11は、外周筒12の内部に設けた、底面板13と吸振部16とを離れる方向に付勢する弾性体18を有する。すなわち、吸振部16より下方で、底面板13より上の空間に設けられたものである。弾性体18としては、上下方向に付勢できるものであればよく、板バネやコイルバネなどが挙げられる。図1及び図2に示す実施形態ではコイルバネを用いている。
【0042】
弾性体18がコイルバネの場合、コイルバネが外れないように、底面板13の上方側中央部分に、コイルバネを載せて水平方向へ動かないように固定する凹皿部20が形成されているとよい。具体的には、コイルバネの径よりもわずかに大きな直径を有する窪みであるとよい。窪みの深さは、コイルバネを形成する針金の一本分の厚み以上であると望ましく、二本分の厚み以上であるとより望ましい。浅すぎると窪みがあってもコイルバネがずれて外れてしまうおそれがある。一方、コイルバネの上端側は、中央筒14xの下部に収容されると、水平方向にずれる可能性がほとんどなくなるので好ましい。ただし、コイルバネの上端を押さえつけるため、中央筒14xの途中に、縮径部25が設けられていると好ましい。縮径部25の径方向幅は、コイルバネを形成する針金の一本分の厚み以上であると望ましい。
【0043】
弾性体18がコイルバネである場合、取り付けた際の長さから、さらに長さが収縮可能であるように取り付ける必要がある。コイルバネの針金同士が接触するほどにバネが圧縮されていると、上下方向の振動を十分に吸収しきれない。一方で、取り付けた際の長さは、無荷重のときの元の長さではなく、バネとしての長さを5~50%縮めた圧縮状態となるように取り付けることが好ましく、20~50%縮めた圧縮状態となるように取り付けるとより好ましい。これにより、底面板13と吸振部16とを離れる方向に付勢する力が働く。バネを圧縮状態ではなく無荷重の状態で導入した場合、上方からの荷重によって変位されてバネ定数が上がっていく傾向を示しやすくなる。ところが、バネを圧縮状態で導入しておくと、防振材全体のバネ定数の上がり方がゆるやかになり、固有振動数をゼロに近づけやすくなる。
【0044】
具体的な数値を挙げて内容を説明する。例えば長さ10mmに縮めたコイルバネを取り付けるケースを想定する。元の長さが15mmありバネ定数が0.1kgf/mmと比較的小さいコイルバネAと、元の長さが11mmでありバネ定数が0.5kgf/mmと比較的大きいコイルバネBとを用いる。これらをどちらも10mmに縮めるのに必要な荷重はどちらも0.5kgfで同じである。したがってこれらを10mmに縮めて取り付けると、どちらも0.5kgfの荷重を支えることになる。このバランスが取れた状態に、さらに1mm分縮める、すなわち長さ9mmに縮めようとする振動の変位が加わったとする。このときに元に戻ろうとする力である反発弾性は、コイルバネAでは0.1kgf/mm×1mmであり0.1kgfで済む。一方でコイルバネBでは0.5kgf/mm×1mmであり0.5kgfとなる。つまり、コイルバネBの方が強い反発を受ける。本発明にかかる防振材は元に戻ろうとする力が弱いほど、振動が伝わりにくく好ましいため、反発の小さなコイルバネAの方が好ましい。したがって、バネ定数が小さいコイルバネを採用し、元の長さが長いコイルバネをある程度の長さ分縮めて導入することで、振動が伝わりにくくなり、好ましい防振材となる。
【0045】
図1及び図2に示す実施例では、中央筒14xにコイルバネである弾性体18による上向きの力が働き、中央筒14xに引っ張られてエラストマー充填部15cが上方に引っ張られて上面が斜めになっている。また、これに引っ張られた連結筒14bに引っ張られてエラストマー充填部15bが上方に引っ張られて上面が斜めになっている。さらに、これに引っ張られた連結筒14aに引っ張られてエラストマー充填部15aも上面が斜めになっている。つまり、中央筒14xに押された固定具17が上方へと押されている。
【0046】
弾性体18であるコイルバネは、固有振動数を下げる点からはバネ定数が小さいほど好ましい。一方で、用途によって支えるべき荷重に対応可能となるバネ定数を有することが求められる。
【0047】
固定具17に他の部材を取りつけて上からの荷重を掛けたとき、コイルバネはさらにそれ以上に、元の長さの5%以上圧縮できるだけの余裕を持っているとよい。その状態からさらに荷重を掛けたときに、コイルバネが完全に圧縮されていると、振動吸収効果が十分に発揮されない。
【0048】
この発明にかかる防振材は、図4に断面図を示す第三の実施形態のように、外周筒12の内部に複数段となる吸振部16を有していてもよい。この場合、下から数えて二段目以降の弾性体38であるコイルバネは、下方が固定具37の上面に設けられた凹皿部39に固定される形状とすることができる。多段の吸振部16を有することで、特に上下方向の振動に対する防振効果が、一つの上下に長い吸振部16であるよりも好適に発揮される場合がある。
【0049】
この発明にかかる防振材は、例えば図5に示すようなクアッドコプター型のドローン51において、中央部に4つの防振材を正方形の頂点となる位置にセットし、その上にカメラ52を固定するといった使い方が可能である。
【実施例0050】
(実施例1)
この発明の実施例を具体的に示すが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。まず、用いる材料について記載する。
・エラストマー1……株式会社枚方技研製:ノンブレン(硬化後のゴム硬度6)
・エラストマー2……株式会社枚方技研製:ノンブレン(硬化後のゴム硬度2)
・連結筒……アルミニウム合金製、削り出し
・外周筒……ポリカーボネート製
【0051】
外周筒の厚みTと、連結筒の厚みT,Tが1mmであり、外周筒の直径が30mm、一つめの連結筒の直径が23mm、二つ目の連結筒の直径が16mm、エラストマー充填部の厚みが2.5mmとなるように連結筒と外周筒を配置した。また、中心には中央筒と一体化した雌ネジを有する固定具を配した。連結筒の高さは8mm、外周筒の高さは16mmとした。ただし、向きは図1とは上下逆になるように配置してあり、固定具の周囲には一時的に底となるように蓋をしている。外周筒の中に、硬化前のエラストマー1を流し込み、連結筒の高さが埋まるまで注いで、硬化させた。硬化後に蓋を取り外し、上下を戻してから外周筒と最外周のエラストマー充填部とを切断して、一旦吸振部を外周筒から取り外した。次に、針金径が0.5mmでバネ長さ10mm、バネ定数は0.2kgf/mmのコイルバネの下端を凹皿部に乗せて、吸振部の中央にある中央筒にコイルバネの上端が嵌まるようにセットし、外周筒とエラストマー充填部との間を接着剤で固定した。このとき、コイルバネのバネ長さが10mmであるバネをそのまま導入して、図1に示す形状の防振材を完成させた。
【0052】
この防振材を4つ、荷重を掛ける板の四隅を支える配置で設置し、板と防振材とをネジ留めして固定した。板の上から荷重を掛けて、変位量を示す際の荷重(N)を測定した。それぞれの変位量のときの荷重を表1及び図6のグラフに示す。荷重が増えても変位量は比例して上昇する性質が確かめられた。また、従来のゲルを積層した防振材では変位量が増加するとバネ定数が増加してしまうが、この発明にかかる防振材ではエラストマー充填部の作用によりバネ定数の増加が抑制されることが確かめられた。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、板の上に重りを載せて、その上から振動分析計(リオン株式会社:VA-12)を取り付けて、固有振動数を測定した。その測定環境を示す写真を図7の上段に、測定結果を表示した写真を図7の下段及び表2に示す。図7下段のグラフは横軸が振動数、縦軸がデシベルであり、ピークを示す振動数が固有振動数にあたる。荷重が増加してバネが圧縮されても、固有振動数が上昇せずに減少を示し、10Hz近い振動まで吸収できる防振性能を発揮することが示された。また、振動させても水平方向のずれは見られず、安定した姿勢を保つことが確認された。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例2)
実施例1において、エラストマー1からエラストマー2に変更し、コイルバネをバネ長さが15mm、バネ定数が0.03kgf/mmのものに変更して、これをバネ長さが10mmになるように圧縮して導入するようにした以外は、実施例1と同様の構成となる防振材を製造した。同様に変位量を示す際の荷重を測定した結果を図6のグラフ及び表3に示す。実施例1に比べて同じ変位量でも変位量は著しく小さくなった。これは、実施例1に比べて荷重が少ない軽い物体を載せた場合でも、十分な変位を示して振動を吸収できることを示している。バネ定数が小さいコイルバネを用い、バネを元の大きさから縮めた変位量を大きくした上で導入したことによる効果であると考えられる。
【0057】
【表3】
【0058】
次に、実施例1と同様に固有振動数を測定した。その結果を図8及び表4に示す。図8の上段及び下段の写真はいずれも図7と同様に上段が測定環境を示す写真であり、下段が横軸が振動数で縦軸がデシベルのグラフを示す写真である。実施例1に比べて固有振動数がさらに小さくなり、軽い荷重に対しても、低い振動数の振動まで十分に吸収可能であることが示された。なお、実施例1の傾向からして16.2Nのときの荷重の方が固有振動数が小さくなるはずであるが、ピークがやや平になったために固有振動数がずれている。
【0059】
【表4】
【符号の説明】
【0060】
1 防振材
2 緩衝部
11 防振材
12、32 外周筒
13 底面板
14,14a,14b,34 連結筒
14x 中央筒
15,15a,15b,15c,35 エラストマー充填部
16 吸振部
17、37 固定具
18、38 弾性体
20、39 凹皿部
21 固定翼部
22 固定孔
24 回転固定穴
25 縮径部
51 ドローン
52 カメラ
A 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9