(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170863
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】スパッタ装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20221104BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C23C14/35 C
H05H1/46 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077125
(22)【出願日】2021-04-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「レアメタルフリー透明遮断・断熱エコシートの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505402581
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・ディー
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000156042
【氏名又は名称】株式会社麗光
(71)【出願人】
【識別番号】502452369
【氏名又は名称】小川 倉一
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江部 明憲
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】筧 芳治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和郎
(72)【発明者】
【氏名】幾原 志郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小川 倉一
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA04
2G084BB02
2G084BB12
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD03
2G084DD12
2G084DD55
2G084FF23
2G084FF27
2G084FF28
2G084FF31
4K029CA05
4K029DA04
4K029DC13
4K029DC16
4K029DC43
4K029DC44
4K029EA06
4K029JA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プラズマ密度を高くすることができ、それによって成膜速度を速くすることができるスパッタ装置を提供する。
【解決手段】第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112と、プラズマ生成領域Rの側方に設けられた基板ホルダ16と、プラズマ生成領域R内に電界を生成する電源14と、プラズマ生成領域Rの、該プラズマ生成領域Rを挟んで基板ホルダ16と対向する側方に設けられた、該プラズマ生成領域R内に高周波電磁界を生成する高周波電磁界生成部17と、プラズマ生成領域R内にプラズマ原料ガスを導入するプラズマ原料ガス導入部15とを備え、第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112の、高周波電磁界生成部17側の端部には磁界を生成する手段が存在しないスパッタ装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 第1ターゲット及び第2ターゲットを、それらの表面が互いに対向するように、それぞれ保持する第1ターゲットホルダ及び第2ターゲットホルダと、
b) 前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダにそれぞれ保持された第1ターゲットと第2ターゲットの間の領域であるプラズマ生成領域の一方の側方に設けられた基板ホルダと、
c) 前記第1ターゲットを挟んで前記プラズマ生成領域の反対側、及び前記第2ターゲットを挟んで前記プラズマ生成領域の反対側にそれぞれ設けられ、互いに逆の極が対向するように磁石が配置された、該第1ターゲット及び該第2ターゲットの表面にそれぞれ第1主磁界及び第2主磁界を生成する第1主磁界生成部及び第2主磁界生成部と、
d) 前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダにそれぞれ所定の電位を付与することにより前記プラズマ生成領域内に電界を生成する電源と、
e) 前記プラズマ生成領域の、該プラズマ生成領域を挟んで前記基板ホルダと対向する側方に設けられた、該プラズマ生成領域内に高周波電磁界を生成する高周波電磁界生成部と、
f) 前記プラズマ生成領域内にプラズマ原料ガスを導入するプラズマ原料ガス導入部と
を備え、
前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダの、前記高周波電磁界生成部側の端部には磁界を生成する手段が存在しない
ことを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダが、前記第1ターゲット及び第2ターゲットを、それらの表面が互いに傾斜して対向するように、それぞれ保持するものであることを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記基板ホルダが、前記プラズマ生成領域の、間隔の広い方の側方に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダのいずれか一方又は両方が、円筒状部材の側面に円筒状のターゲットを保持する円筒状部材であって該円筒の軸を中心に回転可能なターゲットホルダであって、
前記第1主磁界生成部及び前記第2主磁界生成部のうち対応するターゲットホルダが前記円筒状ターゲットホルダであるものは前記円筒状部材の内側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
さらに、前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダの、前記基板ホルダ側の端部に、前記第1ターゲットホルダと前記第2ターゲットホルダの一方の側から他方の側に向かう補助磁界を生成する補助磁界生成部を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記高周波電磁界生成部が誘導結合型高周波アンテナであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記第1主磁界生成部及び前記第2主磁界生成部のうち、一方は1個又は複数個の永久磁石を備え該1個又は複数個の第1永久磁石の一方の極が前記プラズマ生成空間側に向いているものであって、他方は1個又は複数個の永久磁石を備え該1個又は複数個の第2永久磁石の他方の極が前記プラズマ生成空間側に向いているものであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【請求項8】
前記第1ターゲットホルダと前記2ターゲットホルダの一方における前記基板ホルダ側の端部から他方における前記基板ホルダ側の端部に向かう磁束密度の成分の大きさが0.3T以上であって、
前記第1ターゲットホルダと前記2ターゲットホルダの一方における前記高周波電磁界生成部側の端部から他方における前記高周波電磁界生成部側の端部に向かう磁束密度の成分の大きさが0.015T以下
であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のスパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの原料物質をプラズマによりスパッタし、基板上に堆積させることで成膜を行うスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スパッタ装置における成膜速度を速くすることを目的として、ターゲットの表面付近に生成するプラズマの密度を高くするための工夫が試みられている。
図10に、そのような従来のスパッタ装置の一例として、特許文献1に記載の装置の概略構成を示す。
【0003】
図10に示したスパッタ装置90は、2枚の板状のターゲットT1、T2を、一方の側方で間隔が広がるように対向させて配置する第1ターゲットホルダ911及び第2ターゲットホルダ912と、第1ターゲットホルダ911と第2ターゲットホルダ912の間の領域であるプラズマ生成領域Rを挟んでターゲットT1及びターゲットT2の各々の反対側(第1ターゲットホルダ911及び第2ターゲットホルダ912の各々の背面側)にそれぞれ設けられ、ターゲットT1、T2の表面付近に磁界(この磁界を「主磁界」と呼ぶ)を生成する第1主磁界生成部921及び第2主磁界生成部922と、第1ターゲットホルダ911と第2ターゲットホルダ912の間の領域であるプラズマ生成領域Rの前記広間隔の側方に配置された基板ホルダ96とを備える。
【0004】
スパッタ装置90はさらに、第1補助磁界生成部931及び第2補助磁界生成部932を備える。第1補助磁界生成部931は、第1ターゲットホルダ911の基板ホルダ96寄りの端部に設けられた第1-1補助磁石9311と、第2ターゲットホルダ912の基板ホルダ96寄りの端部に設けられた第1-2補助磁石9312から成り、第1-1補助磁石9311から第1-2補助磁石9312に向かう第1補助磁界を生成するものである。第2補助磁界生成部932は、第1ターゲットホルダ911の基板ホルダ96とは反対側の端部に設けられた第2-1補助磁石9321と、第2ターゲットホルダ912の基板ホルダ96とは反対側の端部に設けられた第2-2補助磁石9322から成り、第2-1補助磁石9321から第2-2補助磁石9322に向かう第2補助磁界を生成するものである。
【0005】
また、スパッタ装置90は、第1ターゲットホルダ911及び第2ターゲットホルダ912の各々の側方にそれらターゲットホルダを挟むように2個ずつ配置された接地電極98と、第1ターゲットホルダ911及び第2ターゲットホルダ912の各々と接地電極98の間に電圧を印加することによりプラズマ生成領域R内に電界を生成する直流電源94と、プラズマ生成領域R内にプラズマの原料となるプラズマ原料ガス(例えばArガス)を供給するプラズマ原料ガス供給部95とを備える。ここまでに述べたスパッタ装置90の各構成要素は、直流電源94を除いて、真空容器99内に収容されている。
【0006】
このスパッタ装置90では、プラズマ原料ガス供給部95からプラズマ生成領域Rに供給されるプラズマ原料ガスの原子又は分子が、プラズマ生成領域R内に生成される電界及び主磁界によって陽イオンと電子に電離することによりプラズマが生成される。そして、ターゲットT1、T2の表面において、陽イオンの軌跡が主磁界によって第1ターゲットホルダ911及び第2ターゲットホルダ912側に曲げられ、陽イオンがターゲットT1、T2の表面に入射することにより、ターゲットT1、T2がスパッタされる。こうして生成されたスパッタ粒子は、ターゲットT1、T2の表面が基板ホルダ96側を向くように傾斜していることから、主に基板ホルダ96側に向かって飛行し、基板ホルダ96に保持された基板Sの表面に堆積する。これにより、基板Sの表面にターゲットT1、T2の材料から成る膜が作製される。
【0007】
プラズマ生成領域R内で生成された陽イオン及び電子は、基板ホルダ96側又はその反対側に向かって飛行すると、第1補助磁界又は第2補助磁界から受けるローレンツ力によってプラズマ生成領域R内に戻るように進行方向が曲げられる。これにより、このスパッタ装置90では陽イオン及び電子がプラズマ生成領域R内に閉じ込められ、プラズマ生成領域R内のプラズマ密度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記スパッタ装置90では、直流電源94により印加する電圧を高くすることにより、プラズマ生成領域R内のプラズマ密度をさらに高くすることができるはずである。しかしながら、この電圧を高くするとプラズマ生成領域R内に異常放電が生じてしまうため、プラズマ密度を高くするためにはさらなる工夫が必要となる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、プラズマ密度を高くすることができ、それによって成膜速度を速くすることができるスパッタ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るスパッタ装置は、
a) 第1ターゲット及び第2ターゲットを、それらの表面が互いに対向するように、それぞれ保持する第1ターゲットホルダ及び第2ターゲットホルダと、
b) 前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダにそれぞれ保持された第1ターゲットと第2ターゲットの間の領域であるプラズマ生成領域の一方の側方に設けられた基板ホルダと、
c) 前記第1ターゲットを挟んで前記プラズマ生成領域の反対側、及び前記第2ターゲットを挟んで前記プラズマ生成領域の反対側にそれぞれ設けられ、互いに逆の極が対向するように磁石が配置された、該第1ターゲット及び該第2ターゲットの表面にそれぞれ第1主磁界及び第2主磁界を生成する第1主磁界生成部及び第2主磁界生成部と、
d) 前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダにそれぞれ所定の電位を付与することにより前記プラズマ生成領域内に電界を生成する電源と、
e) 前記プラズマ生成領域の、該プラズマ生成領域を挟んで前記基板ホルダと対向する側方に設けられた、該プラズマ生成領域内に高周波電磁界を生成する高周波電磁界生成部と、
f) 前記プラズマ生成領域内にプラズマ原料ガスを導入するプラズマ原料ガス導入部と
を備え、
前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダの、前記高周波電磁界生成部側の端部には磁界を生成する手段が存在しない
ことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るスパッタ装置では、プラズマ原料ガス供給部からプラズマ生成領域に供給されるプラズマ原料ガスの原子又は分子は、前記電界並びに主磁界(前記第1主磁界及び前記第2主磁界)に加えて前記高周波電磁界が作用し、それにより電離が促進される。
【0013】
第1ターゲットホルダ及び第2ターゲットホルダの、高周波電磁界生成部側の端部には磁界生成手段が存在しない。すなわち、本発明に係るスパッタ装置には、上記スパッタ装置90における第2補助磁界生成部932に相当するものは存在しない。これは、該端部に主磁界以外の磁界が生成されると、高周波電磁界生成部で生成される高周波電磁界が乱され、該高周波電磁界によるプラズマの生成が妨げられてしまうからである。また、本発明では第1主磁界生成部及び第2主磁界生成部において互いに逆の極(N極とS極)が対向するように磁石が配置されていることにより、第1主磁界及び第2主磁界により形成される第1ターゲットの表面付近及び第2ターゲットの表面付近の磁界が陽イオンや電子をプラズマ生成領域内に閉じ込める作用を有する。そのため、第2補助磁界生成部932に相当する磁界生成手段を設けなくとも、陽イオンや電子をプラズマ生成領域内に閉じ込めることができる。
【0014】
本発明に係るスパッタ装置によれば、このように陽イオンや電子をプラズマ生成領域内に閉じ込めつつ、高周波電磁界生成部が生成する高周波電磁界によりプラズマ原料ガスの原子又は分子の電離を促進することにより、プラズマ生成領域内のプラズマの密度を高くすることができ、それによって成膜速度を速くすることができる。
【0015】
本発明に係るスパッタ装置では、第1ターゲットと第2ターゲットは互いの表面が対向するように、第1ターゲットホルダ及び第2ターゲットホルダによって保持されればよい。すなわち、それら2つの表面は、互いに傾斜していてもよいし、互いに平行であってもよい。第1ターゲットの表面と第2ターゲットの表面が非平行である場合には、基板ホルダは、特許文献1に記載のように両ターゲットの間隔の広い方の側方に配置した方がスパッタ粒子をより多く基板ホルダ側に飛来させることができるため好ましいが、本発明ではそれには限定されない。このように第1ターゲットと第2ターゲットがどのような向きで配置されている場合にも、それらターゲットが同じ向きであるもの同士で対比すると、高周波電磁界生成部を有する本発明の方が、高周波電磁界生成部の無い従来の構成よりも成膜速度を速くすることができる。
【0016】
第1ターゲット及び/又は第2ターゲットは平板状のものには限定されない。例えば、
前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダのいずれか一方又は両方が、円筒状部材の側面に円筒状のターゲットを保持する円筒状部材であって該円筒の軸を中心に回転可能なターゲットホルダであって、
前記第1主磁界生成部及び前記第2主磁界生成部のうち対応するターゲットホルダが前記円筒状ターゲットホルダであるものは前記円筒状部材の内側に配置されている
という構成を取ることができる。このような円筒状ターゲットホルダを円筒の軸を中心に回転させながらスパッタを行うことにより、ターゲットの全体を均一に近くスパッタすることができ、ターゲットの利用効率を高くすることができる。なお、前述のように第1主磁界生成部と第2主磁界生成部において互いに逆の極が対向するように磁石が配置されている(その状態が維持される)ため、円筒状部材の内側に配置されている第1主磁界生成部及び/又は第2主磁界生成部が円筒状部材の回転に伴って回転することはない。
【0017】
前記電源が前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダに付与する電位は連続的に印加される直流であってもよいし、パルス状に繰り返し印加される直流(直流パルス)や交流(高周波)であってもよい。第1ターゲットホルダと第2ターゲットホルダの一方に付与する電位を(連続的な)直流とし、他方を直流パルスや交流としてもよい。
【0018】
高周波電磁界生成部には、2個の電極間や1個の電極と接地の間に高周波電圧を印加することにより高周波電磁界を生成する容量結合型アンテナ(容量結合型電極)や、導体に高周波電流を流すことにより高周波電磁界を生成する誘導結合型アンテナ等を用いることができる。特に、強い高周波電磁界を生成しても異常放電が生じ難い誘導結合型アンテナを高周波電磁界生成部に用いることが好ましい。
【0019】
本発明に係るスパッタ装置はさらに、前記第1ターゲットホルダ及び前記第2ターゲットホルダの、前記基板ホルダ側の端部に、前記第1ターゲットホルダと前記第2ターゲットホルダの一方の側から他方の側に向かう補助磁界を生成する補助磁界生成部(上記スパッタ装置90が有する第1補助磁界生成部931に相当)を備えることが好ましい。これにより、陽イオンや電子をプラズマ生成領域内に閉じ込めることができる。また、高周波電磁界側の端部とは異なり、プラズマ生成領域の基板ホルダ側の端部にこのような補助磁界を生成しても、高周波電磁界生成部が生成する高周波電磁界によるプラズマの生成を妨げることはない。そのため、基板ホルダ側に補助磁界生成部を備えることによりプラズマ密度をさらに高くすることができる。
【0020】
本発明に係るスパッタ装置において、前記第1主磁界生成部及び前記第2主磁界生成部のうち、一方は1個又は複数個の永久磁石を備え該1個又は複数個の第1永久磁石の一方の極(N極又はS極)が前記プラズマ生成空間側に向いているものであって、他方は1個又は複数個の永久磁石を備え該1個又は複数個の第2永久磁石の他方の極が前記プラズマ生成空間側に向いているもの(第1永久磁石のN極をプラズマ生成空間側に向けた場合には該他方の極はS極、第1永久磁石のS極をプラズマ生成空間側に向けた場合には該他方の極はN極)である、という構成を取ることができる。これにより、多くのスパッタ装置で用いられているマグネトロンを第1主磁界生成部及び第2主磁界生成部とした場合よりも、第1ターゲットホルダと第2ターゲットホルダに挟まれたプラズマ生成領域に陽イオンや電子を閉じ込め易くすることができる。そのため、プラズマ生成空間内のプラズマの密度をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るスパッタ装置によれば、プラズマ密度を高くすることができ、それによって成膜速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るスパッタ装置の第1実施形態を示す概略構成図。
【
図2】本発明に係るスパッタ装置の第2実施形態を示す概略構成図。
【
図3】第2実施形態のスパッタ装置が有する誘導結合型アンテナ27に高周波電流を供給するための構成を示す平面図。
【
図5A】第2実施形態のスパッタ装置につき、
図2の一点鎖線(中心線)上での磁束密度の該中心線に垂直及び平行な成分の強度を測定した結果を示すグラフ。
【
図5B】比較例のスパッタ装置につき、
図4の一点鎖線(中心線)上での磁束密度の該中心線に垂直及び平行な成分の強度を測定した結果を示すグラフ。
【
図6】第2実施形態及び比較例のスパッタ装置により作製された膜の例を示す写真。
【
図7】第2実施形態及び比較例のスパッタ装置における成膜速度を測定した結果を示すグラフ。
【
図8】本発明に係るスパッタ装置の第3実施形態を示す概略断面図。
【
図9】第2実施形態のスパッタ装置の変形例を示す概略構成図。
【
図10】従来のスパッタ装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~
図9を用いて、本発明に係るスパッタ装置の実施形態を説明する。
【0024】
(1) 第1実施形態
(1-1) 第1実施形態のスパッタ装置の構成
図1に示した第1実施形態のスパッタ装置10は、第1ターゲットホルダ111と、第2ターゲットホルダ112と、基板ホルダ16と、第1主磁界生成部121と、第2主磁界生成部122と、補助磁界生成部131と、直流電源(前記電源に相当)14と、誘導結合型アンテナ(高周波電磁界生成部)17と、プラズマ原料ガス導入部15と、高周波電源(前記電源とは異なる電源)171とを有する。直流電源14及び高周波電源171を除く各構成要素は真空容器19内に収容されている。スパッタ装置10の動作時には、真空容器19内は真空ポンプ(図示せず)により大気が排気される。
【0025】
第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112はいずれも、板状のターゲット(第1ターゲットホルダ111に保持されるものを第1ターゲットT1とし、(第2ターゲットホルダ112に保持されるものを第2ターゲットT2とする)を保持するものであると共に、直流電源14により負の所定値を有する電位が付与される電極の機能を有する。それら第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112は、第1ターゲットホルダ111に保持された第1ターゲットT1の表面に対して、第2ターゲットホルダ112に保持された第2ターゲットT2の表面が傾斜した方向に向くように配置されている。
【0026】
これら第1ターゲットホルダ111に保持された第1ターゲットT1と第2ターゲットホルダ112に保持された第2ターゲットT2の間の領域にプラズマが生成されることから、この領域をプラズマ生成領域Rと呼ぶ。
【0027】
基板ホルダ16は、プラズマ生成領域Rの、第1ターゲットT1と第2ターゲットT2の間隔の広い方(
図1ではプラズマ生成領域Rよりも右側)の側方に設けられている。基板ホルダ16の表面はプラズマ生成領域Rに対向しており、該表面に基板Sが保持される。基板ホルダ16の表面の法線(
図1中の一点鎖線)と第1ターゲットホルダ111の表面の成す角度、及び該法線と第2ターゲットホルダ112の表面の成す角度θは、本実施形態ではいずれも10°(従って、第1ターゲットホルダ111の表面と第2ターゲットホルダ112の表面の成す角度2θは20°)とした。角度θは10°には限定されないが、プラズマ生成領域Rの基板ホルダ16側における開口部が大きくなり過ぎないように、22.5°以下(2θを45°以下)とすることが好ましい。
【0028】
第1主磁界生成部121は第1ターゲットホルダ111の背面(すなわち、第1ターゲットT1を挟んでプラズマ生成領域Rの反対)側に設けられており、第1ターゲットT1の表面を含むプラズマ生成領域R内に磁界を生成するものである。同様に、第2主磁界生成部122は第2ターゲットホルダ112の背面(すなわち、第2ターゲットT2を挟んでプラズマ生成領域Rの反対)側に設けられており、第2ターゲットT2の表面を含むプラズマ生成領域R内に磁界を生成するものである。本実施形態では、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122には、永久磁石により作製されたマグネトロンを用いる。マグネトロンは、従来より多くのスパッタ装置で用いられている磁界生成装置である。第1主磁界生成部121では、第1ターゲットホルダ111の中央に対応する位置にはプラズマ生成領域R側にS極が向くように磁石を配置し、第1ターゲットホルダ111の互いに対向する2つの端部に対応する位置にはそれぞれプラズマ生成領域R側にN極が向くように磁石を配置している。第2主磁界生成部121では、第2ターゲットホルダ112の中央に対応する位置にはプラズマ生成領域R側にN極が向くように磁石を配置し、第2ターゲットホルダ112の互いに対向する2つの端部に対応する位置にはそれぞれプラズマ生成領域R側にS極が向くように磁石を配置している。これにより、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122の各磁石は、プラズマ生成領域Rを挟んで、互いに逆の極が対向するように配置されることとなる。なお、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122の全ての磁石の極が上記と逆になるように各磁石を配置してもよい。
【0029】
第1ターゲットホルダ111、第2ターゲットホルダ112、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122には、それらを冷却する冷却水供給機構(図示せず)が配設されている。
【0030】
補助磁界生成部131は、第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112の基板ホルダ16寄りの端部に設けられた永久磁石であって、プラズマ生成領域Rの基板ホルダ16寄りの端部に、第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の一方の側から他方の側に向かう磁界(「補助磁界」と呼ぶ)を生成するものである。
図1に示した例では、補助磁界生成部131は、第1ターゲットホルダ111に設けられプラズマ生成領域R側にN極が向くように(第1主磁界生成部121における両端の磁石と同じ向きに)配置された第1補助磁石1311と、第2ターゲットホルダ112に設けられプラズマ生成領域R側にS極が向くように(第2主磁界生成部122における両端の磁石と同じ向きに)配置された第2補助磁石1312から成る。なお、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122の各磁石を上記の例と逆向きに配置した場合には、第1補助磁石1311及び第2補助磁石1312も上記の例と逆向きに配置する。
【0031】
第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112の基板ホルダ16とは反対側(誘導結合型アンテナ17側)の端部には、補助磁界生成部131と同様の補助磁界生成部は設けられていない。
【0032】
直流電源14は、第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112に並列に接続されており、それら2つのターゲットホルダに負の直流電位を連続的に付与するものである。これにより、第1ターゲットT1及び第2ターゲットT2の表面を含むプラズマ生成領域R内に、接地との間の直流電界が生成される。なお、直流電源14の代わりに(高周波電源171とは別の)直流パルス電源又は高周波電源を用いて、第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112と接地の間に高周波電圧を印加し、それによりプラズマ生成領域R内に高周波電界を生成してもよい。
【0033】
誘導結合型アンテナ17は、プラズマ生成領域Rの側方であって、プラズマ生成領域Rを挟んで基板ホルダ16と対向する位置に設けられている。本実施形態では、誘導結合型アンテナ17はU字形の線状導体から成り、高周波電源171から供給される高周波電流が線状導体を流れることにより、プラズマ生成領域R内を含む領域に高周波電磁界を生成するものである。高周波電源171と誘導結合型アンテナ17の間にはインピーダンス整合器172が設けられている。
【0034】
第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112の各々の側方にはそれらターゲットホルダを挟むように2個ずつ、接地された接地電極18を配置する。また、真空容器19の壁は導電性材から成り、接地される。
【0035】
プラズマ原料ガス導入部15は、プラズマ生成領域R内にプラズマ原料ガスを導入するものである。プラズマ原料ガスには、本実施形態ではAr(アルゴン)ガス又はArとN2(窒素)の混合ガスを用いる。
【0036】
(1-2) 第1実施形態のスパッタ装置の動作
以下、スパッタ装置10の動作を説明する。まず、第1ターゲットホルダ111に第1ターゲットT1を、第2ターゲットホルダ112に第2ターゲットT2を、基板ホルダ16に基板Sを、それぞれ保持させる。この状態で真空容器19内の気体(大気)を真空ポンプにより外部に排出する。その後、プラズマ原料ガス導入部15からプラズマ生成領域R内にプラズマ原料ガスを供給する。
【0037】
そのうえで、直流電源14で第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112と接地電極18及び真空容器19の壁(前述のように接地されている)の間に直流電圧を印加することによりプラズマ生成領域R内に直流電界を生成する。また、高周波電源171から誘導結合型アンテナ17に高周波電流を流すことによりプラズマ生成領域R内に高周波電磁界を生成する。第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122は、プラズマ生成領域R内に主磁界を生成する。プラズマ生成領域Rの基板ホルダ16側の端部付近には、補助磁界生成部131により補助磁界が生成される。
【0038】
プラズマ原料ガスの原子又は分子は、直流電界、高周波電磁界及び主磁界によって陽イオンと電子に電離する。これにより、プラズマが生成される。そして、ターゲットT1、T2の表面において、それらターゲットT1、T2に印加された電界(直流、直流パルス、又は高周波)によって陽イオンがターゲット表面に向かって引き寄せられ、陽イオンがターゲットT1、T2の表面に入射する。これにより、ターゲットT1、T2がスパッタされる。こうして生成されたスパッタ粒子は、ターゲットT1、T2の表面が基板ホルダ16側を向くように傾斜していることから、主に基板ホルダ16側に向かって飛行し、基板ホルダ16に保持された基板Sの表面に堆積する。これにより、基板Sの表面にターゲットT1、T2の材料から成る膜が作製される。
【0039】
本実施形態のスパッタ装置10では、直流電界及び主磁界に加えて、誘導結合型アンテナ17による高周波電磁界が作用することにより、当該誘導結合型アンテナ17が無い場合よりもプラズマ原料ガスの原子又は分子の電離を促進することができる。
【0040】
プラズマ生成領域R内で生成された陽イオン及び電子のうち基板ホルダ16側に向かって飛行したものは、補助磁界生成部131によりプラズマ生成領域Rの基板ホルダ16側の端部付近に生成される補助磁界から受けるローレンツ力によってプラズマ生成領域R内に戻るように進行方向が曲げられる。これにより、陽イオンや電子をプラズマ生成領域R内に閉じ込めることができる。そのため、プラズマ中の電子や荷電粒子が基板Sの表面に飛来することが抑えられ、基板Sの表面の温度が上昇することを抑えることができる。一方、プラズマ生成領域Rの誘導結合型アンテナ17側の端部付近には補助磁界が生成されない。しかし、陽イオン及び電子のうち誘導結合型アンテナ17側に飛行したものは、第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122により形成される第1ターゲットT1及び第2ターゲットT2の表面付近の磁界によってプラズマ生成領域R内に閉じ込めることができる。
【0041】
以上のように、本実施形態のスパッタ装置10によれば、誘導結合型アンテナ17によりプラズマ原料ガスの原子又は分子の電離を促進しつつ、補助磁界生成部131により生成される補助磁界及び主磁界に含まれる第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の一方の側から他方の側に向かう磁界の成分によって陽イオンや電子をプラズマ生成領域R内に閉じ込めることにより、プラズマ生成領域R内のプラズマ密度を高くすることができる。
【0042】
本実施形態のスパッタ装置10において、仮に、プラズマ生成領域Rの誘導結合型アンテナ17側の端部に第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の一方の側から他方の側に向かう補助磁界を生成すると、誘導結合型アンテナ17が生成する高周波電磁界が乱され、該高周波電磁界によるプラズマの生成が妨げられる。そうすると、プラズマ生成領域R内のプラズマ密度を高くすることができない。そのため、前述のように、本実施形態のスパッタ装置10では第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の誘導結合型アンテナ17側の端部には補助磁界生成部を設けない。
【0043】
(2) 第2実施形態
(2-1) 第2実施形態のスパッタ装置の構成及び動作
図2に、第2実施形態のスパッタ装置20の構成を示す。このスパッタ装置20は、第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222並びに誘導結合型アンテナ27の構成が、第1実施形態のスパッタ装置10における第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122並びに誘導結合型アンテナ17の構成と異なる点を除いて、第1実施形態のスパッタ装置10と同様の構成を有する。そのため、以下では第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222並びに誘導結合型アンテナ27の構成のみを説明する。
【0044】
第1主磁界生成部221は複数個の永久磁石を備え、それら複数個の永久磁石はいずれも同じ極(
図2に示した例ではN極)がプラズマ生成領域R側を向いている。第2主磁界生成部222もまた複数個の永久磁石を備え、それら複数個の永久磁石はいずれも同じ極であって第1主磁界生成部221の複数個の永久磁石とは逆の極(
図2に示した例ではS極)がプラズマ生成領域R側を向いている。このような構成により、プラズマ生成領域R内の全体に亘って、第1主磁界生成部221と第2主磁界生成部222の一方から他方に向かう主磁界が生成される。このような主磁界により、基板ホルダ16側又は誘導結合型アンテナ27側に向かって飛行する陽イオン及び電子が該主磁界からローレンツ力を受けて進行方向が曲げられ、それら陽イオン及び電子をプラズマ生成領域R内に閉じ込めることができる。なお、第1実施形態と同様に、第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222にも冷却水による冷却機構(図示せず)が配設されている。
【0045】
誘導結合型アンテナ27は、銅等の良導体の金属板から成る面状のアンテナである。なお、誘導結合型アンテナ27には熱膨張の影響を受け難いという点で、金属繊維シートを用いても良い。本実施形態では、誘導結合型アンテナ27は長方形状の形状を有し、両短辺に沿って取り付けられた棒状の給電端子271を介して高周波電流が導入される(
図3)。
【0046】
第2実施形態のスパッタ装置20の動作は、基本的には第1実施形態のスパッタ装置10の動作と同様である。上記のように第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222が生成する主磁界によって陽イオン及び電子をプラズマ生成領域R内に閉じ込めることができるため、プラズマ生成領域R内のプラズマ密度をさらに高くすることができる。
【0047】
(2-2) 第2実施形態及び比較例のスパッタ装置による実験
次に、第2実施形態のスパッタ装置20、及び
図4に示す比較例のスパッタ装置80を用いて行った実験の結果を示す。比較例のスパッタ装置80は、第2実施形態のスパッタ装置20に第2補助磁界生成部832を追設したものである。第2補助磁界生成部832は、第1ターゲットホルダ111の誘導結合型アンテナ27寄りの端部に設けられた永久磁石である第2-1補助磁石8321と、第2ターゲットホルダ112の誘導結合型アンテナ27寄りの端部に設けられた永久磁石である第2-2補助磁石8322から成る。第2-1補助磁石8321はプラズマ生成領域R側にN極が向くように配置され、第2-2補助磁石8322はプラズマ生成領域R側にS極が向くように配置されている。
【0048】
<実験1>
まず、第2実施形態のスパッタ装置20と比較例のスパッタ装置80のそれぞれにつき、基板ホルダ16の表面の法線であって第1ターゲットホルダ111の表面と第2ターゲットホルダ112の表面から等距離の線である中心線(
図2及び
図4中の一点鎖線)上の各位置における磁束密度の、該中心線に垂直な方向の成分(垂直成分)及び該中心線に平行な方向の成分(平行成分)の強度を測定した。第2実施形態のスパッタ装置20の測定結果を
図5Aに、比較例のスパッタ装置80の測定結果を
図5Bに、それぞれ示す。いずれも、磁束密度の垂直成分は平行成分よりも十分に大きい。第2実施形態では、プラズマ生成領域Rの基板ホルダ16側の端部付近における磁束密度の垂直成分(第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の一方における基板ホルダ16側の端部から他方における基板ホルダ16側の端部に向かう磁束密度の成分)が他の箇所よりも大きく、0.03T以上となっている。それに対してプラズマ生成領域Rの誘導結合型アンテナ27側の端部付近における磁束密度の垂直成分(第1ターゲットホルダ111と第2ターゲットホルダ112の一方における誘導結合型アンテナ27側の端部から他方における誘導結合型アンテナ27側の端部に向かう磁束密度の成分)が他の箇所よりも小さく、0.015T以下となっている。一方、比較例では、プラズマ生成領域Rの基板ホルダ16側、誘導結合型アンテナ27側のいずれの端部においても、磁束密度の垂直成分は他の箇所よりも大きく、0.03T以上となっている。
【0049】
<実験2>
これら第2実施形態のスパッタ装置20と比較例のスパッタ装置80のそれぞれにつき、プラズマ原料ガスとしてArガスを100sccmの流量で供給し、圧力を0.5Paとした条件下で、第1ターゲットホルダ111と接地の間及び第2ターゲットホルダ112と接地の間にそれぞれ直流電源14により、ON時間が3マイクロ秒、ON時間における電圧が-220Vであるパルス状の直流電圧を80kHzの繰り返し周波数で印加しつつ、高周波電源171から誘導結合型アンテナ27に高周波電力(周波数13.56MHz)を供給した。第2実施形態のスパッタ装置20では高周波電力が100~1500Wの範囲内で安定して誘導結合アンテナによるプラズマが生成されることを確認した。特に高周波電力1100W以上のときには、インピーダンス整合器172における整合位置の変化から、誘導結合モードのプラズマが生成されていることが推測される。一方、比較例のスパッタ装置80では高周波電力が100~600Wのいずれの範囲内においても、誘導結合型アンテナ27によって安定してプラズマを生成することはできなかった。これは、誘導結合型アンテナ27の近傍の磁場構造が本実施形態のスパッタ装置20と異なることによる影響と考えられ、誘導結合型アンテナ近傍の磁場構造の最適化が重要であることを示している。
【0050】
<実験3>
次に、第2実施形態のスパッタ装置20につき、Alから成るターゲットT1及びT2を第1ターゲットホルダ111及び第2ターゲットホルダ112に装着し、プラズマ原料ガスとしてArとN2の混合ガス(N2の含有率は0~40%の範囲内。該含有率が0%のものはArガス。)を供給しつつ、実験2と同条件で直流電源14による直流電圧の印加を行い、高周波電源171から誘導結合型アンテナ27に2000W、周波数13.56MHzの高周波電力を供給する実験を行った。比較例のスパッタ装置80についても同様の実験を行ったが、実験2によって誘導結合型アンテナ27を用いた誘導結合型プラズマが生成されないことが確認されたため、誘導結合型アンテナ27への高周波電力の供給は行わなかった。従って、比較例に関しては、実質的には誘導結合型アンテナ27の無い従来のスパッタ装置90と同様である。
【0051】
この実験によって得られた膜の写真を
図6に示す。第2実施形態、比較例共に、N
2の含有率が0%のときには銀色の膜が、該含有率が27%及び40%のときには透明な膜が、それぞれ得られている。銀色の膜は単体のAlの膜であり、透明な膜はAlNの膜である。
【0052】
第2実施形態及び比較例につき、当該実験における成膜速度(得られた膜の厚さを成膜に要した時間で除した値)を測定した結果を
図7に示す。N
2の含有率がいずれの値の場合にも、比較例よりも第2実施形態の方が成膜速度が速いことがわかる。
【0053】
(3) 第3実施形態
図8に第3実施形態のスパッタ装置30の構成を示す。このスパッタ装置30は、第1ターゲットホルダ311、第2ターゲットホルダ312、第1主磁界生成部321及び第2主磁界生成部322の構成が、第1実施形態のスパッタ装置10における第1ターゲットホルダ111、第2ターゲットホルダ112、第1主磁界生成部211及び第2主磁界生成部212の構成と異なる。
【0054】
第1ターゲットホルダ311は、円筒状部材から成る。
図8ではスパッタ装置30の全体を該円筒状部材の軸に垂直な断面で示している。円筒状部材は
図8の紙面に垂直な方向に延びている。この円筒状部材の側面の全周に亘ってターゲットT1が保持される。第1ターゲットホルダ311は、モータ(図示せず)を用いて前記円筒の軸を中心として回転させることができる。第2ターゲットホルダ312も第1ターゲットホルダ311と同様の構成を有し、円筒の側面の全周に亘ってターゲットT2が保持され、円筒の軸を中心として回転させることができる。第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312の回転に伴って、ターゲットT1及びT2も回転する。第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312はいずれも導電性材料から成り、直流電源14に接続された導線と回転時に摺動しつつ接触している。
【0055】
第1主磁界生成部321は第1ターゲットホルダ311の円筒の内側に設けられており、3個の磁石が、第1ターゲットホルダ311と第2ターゲットホルダ312の中間線(基板ホルダ16の表面に垂直な線。
図8中の一点鎖線。)に対して傾斜した方向に並んで配置されたものである。それら3個の磁石の磁極は、並び順にS極、N極、S極が円筒の外側を向くように配置されている。第2主磁界生成部322は第2ターゲットホルダ312の円筒の内側に設けられており、第1主磁界生成部321と前記中間線に関して対称になるように3個の磁石が配置されている。但し、それら第2主磁界生成部322の3個の磁石の磁極は、対向する第1主磁界生成部321の3個の磁石とは逆極性になっており、N極、S極、N極の順に並んでいる。なお、これら第1主磁界生成部321及び第2主磁界生成部322は(第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312が回転しているときにも)回転しない。
【0056】
第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312の円筒の内部には冷却水が流され、ターゲットT1、T2、第1主磁界生成部321及び第2主磁界生成部322が冷却される。
【0057】
第3実施形態のスパッタ装置30にはさらに、第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312の外側に接地電位のシールド板34が設けられている。シールド板34は、誘導結合型アンテナ17側が開放されていると共に、基板ホルダ16に対向する位置には開口341が設けられている。また、スパッタ装置30には、開口341を挟んで互いに異なる極が対向するように第1補助磁石3311と第2補助磁石3312が配置されて成る補助磁界生成部331が設けられている。このように補助磁界生成部331を配置することにより、シールド板34の開口341に対して水平方向の磁力線が形成され、第1ターゲットホルダ311と第2ターゲットホルダ312の間に生成されたプラズマが閉じ込められる。そのため、プラズマ中の電子や荷電粒子が基板Sの表面に飛来することが抑えられ、基板Sの表面の温度が上昇することを抑えることができる。
【0058】
第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312の基板ホルダ16とは反対側(誘導結合型アンテナ17側)の端部には、補助磁界生成部331と同様の補助磁界生成部は設けられていない。なお、第3実施形態のスパッタ装置30には、接地電極18に対応するものは設けられていないが、第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312の近傍に接地電極を設けてもよい。
【0059】
第3実施形態のスパッタ装置30の動作は、スパッタ処理中に第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312を回転させる点を除いて、第1実施形態のスパッタ装置10の動作と同様である。このように第1ターゲットホルダ311及び第2ターゲットホルダ312を回転させることにより、それらに保持されたターゲットT1及びT2の全体を均一にスパッタすることができる。
【0060】
(4) 変形例
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、第1実施形態のスパッタ装置10及び第3実施形態のスパッタ装置30において、U字形の誘導結合型アンテナ17の代わりに、第2実施形態で用いた金属板や金属繊維性の面状の誘導結合型アンテナ27を用いてもよい。また、誘導結合型アンテナはU字形及び面状のものには限定されず、線状導体を多数回巻回したコイルやその他の誘導結合型アンテナを用いてもよい。
【0062】
高周波電磁界生成部として、誘導結合型アンテナの代わりに容量結合型アンテナ(電極)を用いてもよい。但し、容量結合型アンテナよりも誘導結合型アンテナの方が、強い高周波電磁界を生成しても異常放電が生じ難いため好ましい。
【0063】
第1実施形態のスパッタ装置10において、マグネトロンである第1主磁界生成部121及び第2主磁界生成部122の代わりに、第2実施形態で用いた第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222を用いてもよい。また、各実施形態における第1主磁界生成部及び第2主磁界生成部は上記の例には限定されず、種々の磁界生成手段を用いることができる。
【0064】
第2実施形態のスパッタ装置20で用いた第1主磁界生成部221及び第2主磁界生成部222、並びに第3実施形態のスパッタ装置30で用いた第1主磁界生成部321及び第2主磁界生成部322では、それぞれ複数個の永久磁石を用いたが、それら主磁界生成部のうちの一方又は両方において永久磁石を1個のみ用いてもよい。
【0065】
補助磁界生成部131は本発明において必須ではなく、
図9に例示するスパッタ装置20Aのように省略してもよい。なお、
図9では第2実施形態のスパッタ装置20から補助磁界生成部131を省略した例を示したが、第1実施形態や第3実施形態等のその他の構成において補助磁界生成部を省略してもよい。
【0066】
第1実施形態のスパッタ装置10及び第2実施形態のスパッタ装置20では2個の平板状のターゲットが互いに非平行となるように2個のターゲットホルダを配置したが、それらを互いに平行に配置してもよい。また、第3実施形態のスパッタ装置30では2個の円筒状のターゲットの軸が互いに平行となるように2個のターゲットホルダを配置したが、それらを互いに非平行に配置してもよい。
【0067】
第1実施形態のスパッタ装置10及び第2実施形態のスパッタ装置20では2個の平板状のターゲットを、第3実施形態のスパッタ装置30では2個の円筒状のターゲットを、それぞれ用いたが、2個のターゲットのうちの一方を平板状、他方を円筒状としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10、20、20A、30、80、90…スパッタ装置
111、311、911…第1ターゲットホルダ
112、312、912…第2ターゲットホルダ
121、221、321、921…第1主磁界生成部
122、222、322、922…第2主磁界生成部
131、331…補助磁界生成部
1311、3311…第1補助磁石
1312、3312…第2補助磁石
14、94…直流電源
15、95…プラズマ原料ガス導入部
16、96…基板ホルダ
17、27…誘導結合型アンテナ
171…高周波電源
172…インピーダンス整合器
18、98…接地電極
19、99…真空容器
271…給電端子
832、932…第2補助磁界生成部
8321、9321…第2-1補助磁石
8322、9322…第2-2補助磁石
931…第1補助磁界生成部
9311…第1-1補助磁石
9312…第1-2補助磁石
R…プラズマ生成領域
S…基板
T1…第1ターゲット
T2…第2ターゲット