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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170896
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】不活化方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20221104BHJP
   A61L 2/10 20060101ALI20221104BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61L2/18
A61L2/10
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077178
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 広行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亮二
(72)【発明者】
【氏名】大和田 樹志
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058BB07
4C058JJ06
4C058KK02
4C058KK22
4C180AA07
4C180AA10
4C180AA19
4C180DD03
4C180HH02
4C180HH17
4C180HH19
4C180KK04
4C180LL04
4C180MM07
(57)【要約】
【課題】短時間で、且つ、人に安全に、患者を搬送および/または処置する空間に存在する微生物および/またはウイルスを不活化して消毒することができる不活化方法を提供する。
【解決手段】患者を搬送および/または処置する閉止空間に存在する有害な微生物および/またはウイルスを不活化する不活化方法であって、患者を搬送および/または処置した後の閉止空間内の表面を殺菌液で拭き取る拭き取り作業を行う第一工程と、第一工程と同時に行う工程であって、第一工程における拭き取り作業時に表面の拭き取り領域から飛散する飛沫に、有害な微生物および/またはウイルスを不活化する波長の紫外線として190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を照射する第二工程と、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を搬送および/または処置する閉止空間に存在する有害な微生物および/またはウイルスを不活化する不活化方法であって、
前記患者を搬送および/または処置した後の前記閉止空間内の表面を殺菌液で拭き取る拭き取り作業を行う第一工程と、
前記第一工程と同時に行う工程であって、前記第一工程における拭き取り作業時に前記表面の拭き取り領域から飛散する飛沫に、有害な微生物および/またはウイルスを不活化する波長の紫外線として190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を照射する第二工程と、を含むことを特徴とする不活化方法。
【請求項2】
前記第一工程および前記第二工程に先立って、前記患者を搬送および/または処置した後の前記閉止空間に人が存在しない無人状態で、前記閉止空間内に前記紫外線を照射する第三工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の不活化方法。
【請求項3】
前記閉止空間は、前記患者の処置に使用する機材が収納された棚が配置された空間であって、
前記患者を搬送および/または処置した後、前記棚の内部を露出する第四工程をさらに含み、
前記第三工程では、前記露出された前記棚の内部を含む領域に前記紫外線を照射することを特徴とする請求項2に記載の不活化方法。
【請求項4】
前記殺菌液は、揮発性の殺菌液であることを特徴とする請求項1に記載の不活化方法。
【請求項5】
前記第二工程では、前記拭き取り領域と前記拭き取り作業を行う作業者との間の空間に前記紫外線を照射することで、前記飛沫に前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の不活化方法。
【請求項6】
前記第一工程では、前記閉止空間内の表面のうち、前記紫外線の照射による前記微生物および/またはウイルスの不活化が不十分であると判断される領域について、選択的に前記拭き取り作業を行うことを特徴とする請求項1に記載の不活化方法。
【請求項7】
前記閉止空間は、救急車内の空間であることを特徴とする請求項1から6に記載の不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な微生物やウイルスを不活化する不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間中または物体表面に存在する微生物(細菌、真菌等)やウイルスは、人や人以外の動物に対して感染症を引き起こすことがあり、感染症の拡大によって生活が脅かされることが懸念される。特に、感染症患者を搬送したり処置したりした閉止空間の空間中や表面には、患者から飛散され、有害な微生物やウイルスを含む飛沫(痰、鼻水、吐しゃ物等も含む)等がとどまっている場合があるため、次にこの閉止空間に進入した人への2次感染のおそれがある。
【0003】
例えば救急車においては、従来、患者の搬送後、車内をエタノールや塩素系消毒液で拭き取る消毒作業が行われている。このような作業は、主に救急隊員が行うものであるが、救急車内には様々な機材(ストレッチャー、椅子、手すり、引き出し、測定器具等)が存在するため、それらの表面を拭き取る作業は煩雑であり、多大な労力を要するものであった。また、このような消毒作業は感染のリスクを伴うため、消毒作業者が不安を感じるものであった。
【0004】
一方で、空間を浮遊する有害な微生物(細菌やカビ等)やウイルス、および床面、壁面等の表面に付着している有害な微生物やウイルスを、紫外線を照射して不活化させる技術もある。
特許文献1には、救急車内の天井にUVCランプを取り付け、無人の救急車内にUVCの紫外線を照射して救急車内の表面を消毒する消毒システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9855353号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、救急車は、救急要請の頻度が高くなると、患者の搬送後、直ぐに、次の患者を搬送しなければならず、車内の消毒作業を短時間で行わなければならない。
しかしながら、拭き取りによる消毒作業を短時間で行うことは、作業者の負担を増やすこととなる。また、上記特許文献1に記載の技術では、車内に人が存在しない無人の状態でないと消毒処理を行うことができないため、処理が完了するまで出動することができず、救急車を効率良く運用することができない。
【0007】
そこで、本発明は、短時間で、且つ、人に安全に、患者を搬送および/または処置する空間に存在する微生物および/またはウイルスを不活化して消毒することができる不活化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る不活化方法の一態様は、患者を搬送および/または処置する閉止空間に存在する有害な微生物および/またはウイルスを不活化する不活化方法であって、前記患者を搬送および/または処置した後の前記閉止空間内の表面を殺菌液で拭き取る拭き取り作業を行う第一工程と、前記第一工程と同時に行う工程であって、前記第一工程における拭き取り作業時に前記表面の拭き取り領域から飛散する飛沫に、有害な微生物および/またはウイルスを不活化する波長の紫外線として190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を照射する第二工程と、を含む。
【0009】
このように、殺菌液を用いた拭き取り作業と、紫外線を用いた殺菌不活化処理とを同時に行うことで、患者を搬送および/または処置する閉止空間の消毒作業を短時間で適切に行うことができる。また、人や動物の細胞に悪影響の少ない190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射するので、拭き取り作業を行う作業者にも安全に殺菌、不活化を行うことができる。
また、患者を搬送および/または処置する閉止空間に存在する被洗浄物には、患者の咳やくしゃみ、会話から放出された飛沫が含まれ、当該飛沫には、有害な微生物やウイルスが含まれる場合がある。拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散する飛沫に紫外線を照射することで、当該飛沫に有害な微生物やウイルスが含まれる場合であっても、作業者が吸い込む前に紫外線により上記微生物やウイルスを不活化することができる。したがって、作業者への2次感染を適切に防止することができる。
【0010】
また、上記の不活化方法は、前記第一工程および前記第二工程に先立って、前記患者を搬送および/または処置した後の前記閉止空間に人が存在しない無人状態で、前記閉止空間内に前記紫外線を照射する第三工程をさらに含んでいてもよい。
この場合、拭き取り作業を行う作業者は、紫外線が照射されてある程度除染された閉止空間に進入して作業を行うことができる。したがって、作業者への感染のリスクを低減することができるとともに、作業者の心理的不安も軽減することができる。
【0011】
さらに、上記の不活化方法において、前記閉止空間は、前記患者の処置に使用する機材が収納された棚が配置された空間であって、前記患者を搬送および/または処置した後、前記棚の内部を露出する第四工程をさらに含み、前記第三工程では、前記露出された前記棚の内部を含む領域に前記紫外線を照射してもよい。
この場合、棚(引き出し等を含む)の内部の空間や表面に存在する微生物やウイルスを不活化することができる。したがって、棚の内部の拭き取り作業を不要もしくは簡易なものとすることができる。
【0012】
また、上記の不活化方法において、前記殺菌液は、揮発性の殺菌液であってもよい。
この場合、拭き取り作業時に拭き取り領域に噴霧した殺菌液が揮発するときに舞い上がる飛沫にも紫外線を照射することができる。
【0013】
さらにまた、上記の不活化方法において、前記第二工程では、前記拭き取り領域と前記拭き取り作業を行う作業者との間の空間に前記紫外線を照射することで、前記飛沫に前記紫外線を照射してもよい。
この場合、拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散する飛沫を作業者が吸い込む前に、当該飛沫に含まれる微生物やウイルスを紫外線照射により適切に不活化することができる。
【0014】
また、上記の不活化方法において、前記第一工程では、前記閉止空間内の表面のうち、前記紫外線の照射による前記微生物および/またはウイルスの不活化が不十分であると判断される領域について、選択的に前記拭き取り作業を行ってもよい。
この場合、作業者の拭き取り作業の負担を軽減することができる。
【0015】
さらに、上記の不活化方法において、前記閉止空間は、救急車内の空間であってもよい。
この場合、患者を搬送した後の車内の消毒作業を短時間で適切に行うことができ、速やかに次の患者を搬送することができる。したがって、消防車を効率良く運用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一つの態様によれば、短時間で、且つ、人に安全に、患者を搬送および/または処置する空間に存在する微生物および/またはウイルスを不活化して消毒することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の紫外線照射装置が配置される救急車の内部イメージ図である。
図2】本実施形態の紫外線照射装置の外観イメージ図である。
図3】無人状態で紫外線を照射する工程を示す図である。
図4】紫外線照射と拭き取り作業とを同時に行う工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、患者を搬送および処置する閉止空間である救急車内に存在する有害な微生物やウイルスを不活化する不活化方法について説明する。
図1は、紫外線照射装置100が配置された救急車200の内部イメージ図である。
紫外線照射装置100は、人や動物が存在する空間内(本実施形態では救急車内)において紫外線照射を行い、当該空間や当該空間内の物体表面に存在する有害な微生物やウイルスを不活化する装置である。ここで、上記物体は、人体、動物、物を含む。
紫外線照射装置100は、光放射面12から、人や動物の細胞への悪影響が少ない波長域190nm~235nmの紫外線(より好ましくは、波長域200nm~230nmの紫外線)を、対象空間に対して照射する。なお、紫外線を照射する対象空間は、実際に人や動物がいる空間に限定されず、人や動物が出入りする空間であって人や動物がいない空間を含む。
また、ここでいう「不活化」とは、微生物やウイルスを死滅させる(又は感染力や毒性を失わせる)ことを指すものである。
【0019】
紫外線照射装置100は、例えば救急車200内の天井201に配置され、下方に紫外線を放射する。紫外線照射装置100から放射された紫外線は、救急車200内の表面(床面、壁面、機材表面等)や空間に照射される。
なお、紫外線照射装置100の配置位置は天井201に限定されるものではなく、任意の位置に配置することができる。例えば、天井201に近い上方位置に配置する場合、天井201に設けられた手すり(ポール)202に配置したり、壁203の上側に配置したりしてもよい。
【0020】
救急車200内の後部には、患者を搬送するための機材であるストレッチャー(担架)211を載置可能な処置室210が設けられている。処置室210には、例えば心肺蘇生器や人工呼吸器等、患者の処置に使用する様々な機材212や、傷口等を保護するガーゼや包帯などの備品を含む医療用機材を収納する棚(引き出し)213が備えられている。
【0021】
図2は、本実施形態における紫外線照射装置100の外観イメージ図である。
図2に示すように、紫外線照射装置100は、筐体11を備える。筐体11には開口部11aが形成されており、開口部11aには、紫外線を放射する光放射面12が設けられている。光放射面12は、例えば石英ガラスからなる窓部材により構成されている。光放射面12には、不要な波長帯域の光を遮断する光学フィルタ等を設けることもできる。
筐体11内部には、紫外線光源として、エキシマランプ20が収容されている。エキシマランプ20は、例えば中心波長222nmの紫外線を放出するKrClエキシマランプとすることができる。なお、紫外線光源は、KrClエキシマランプに限定されるものではなく、190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であればよい。なお、筐体11と紫外線光源(エキシマランプ20)とで光源部を構成している。
【0022】
紫外線は、波長によって細胞の貫通力が異なり、短波長ほど当該貫通力が小さい。例えば、約200nmといった短波長の紫外線は、非常に効率良く水を通過するものの、ヒト細胞の外側部分(細胞質)による吸収が大きく、紫外線に敏感なDNAを含む細胞核に到達するのに十分なエネルギーを有さない場合がある。そのため、上記の短波長の紫外線は、ヒト細胞に対する悪影響が少ない。一方で、波長240nmを超える紫外線は、ヒト細胞の外側部分(細胞質)による吸収が小さく、細胞への貫通力が大きいため、細胞内部にまで紫外線が到達し、ヒトの細胞核中のDNAにダメージを与えうる。また、波長190nm未満の紫外光が存在すると、大気中に存在する酸素分子が光分解されて酸素原子を多く生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンを多く生成させてしまう。そのため、波長190nm未満の紫外光を大気中に照射させることは望ましくない。したがって、波長190~240nmの波長範囲は、人や動物に安全な波長範囲であるといえる。
本実施形態では、紫外線光源として、人体への悪影響が少なく、不活化効果が得られる波長域190nm~235nmにピーク波長を有する紫外線を放射する紫外線光源を用いる。また、大気中のオゾン発生をより効果的に抑制するため200nm以上にピーク波長を有する紫外線を利用することが望ましく、さらに安全性の高い波長帯域としてより短波長帯域の紫外線が望ましく、例えば、波長域200nm~230nmにピーク波長を有する紫外線光源を用いてもよい。
【0023】
エキシマランプ20は、両端が気密に封止された直管状の放電容器21を備える。放電容器21は、例えば石英ガラスにより構成することができる。また、放電容器21の内部には、発光ガスとして希ガスとハロゲンとが封入されている。本実施形態では、発光ガスとして、塩化クリプトン(KrCl)ガスを用いる。この場合、得られる放射光のピーク波長は222nmである。
なお、発光ガスは上記に限定されない。例えば、発光ガスとして臭化クリプトン(KrBr)ガス等を用いることもできる。KrBrエキシマランプの場合、得られる放射光のピーク波長は207nmである。
また、図2では、紫外線照射装置100が複数(3本)の放電容器21を備えているが、放電容器21の数は特に限定されない。
【0024】
放電容器21の外表面には、一対の電極(第一電極22、第二電極23)が当接するように配置されている。第一電極22および第二電極23は、放電容器21における光取出し面とは反対側の側面(-Z方向の面)に、放電容器21の管軸方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。
そして、放電容器21は、これら2つの電極22、22に接触しながら跨るように配置されている。具体的には、2つの電極22、23には凹溝が形成されており、放電容器21は、電極22、23の凹溝に嵌め込まれている。
【0025】
この一対の電極のうち、一方の電極(例えば第一電極22)が高圧側電極であり、他方の電極(例えば第二電極23)が低圧側電極(接地電極)である。第一電極22および第二電極23の間に高周波電圧を印加することで、ランプが点灯される。
【0026】
エキシマランプ20の光取出し面は、光放射面12に対向して配置される。そのため、エキシマランプ20から放射された光は、光放射面12を介して紫外線照射装置100から出射される。
ここで、電極22、23は、エキシマランプ21から放射される光に対して反射性を有する金属部材により構成されていてもよい。この場合、放電容器21から-Z方向に放射された光を反射して+Z方向に進行させることができる。
【0027】
そして、光放射面12には、上述したように光学フィルタを設けることができる。光学フィルタは、例えば、人体への悪影響の少ない波長域190nm~235nmの光(より好ましくは、波長域200nm~230nmの光)を透過し、波長236nm~280nmのUVC波長帯域をカットする波長選択フィルタとすることができる。具体的には、波長190nm~235nmの波長帯域におけるピーク波長の紫外線照度に対して、波長236nm~280nmの各紫外線照度を1%以下に低減する。
波長選択フィルタとしては、例えば、HfO層およびSiO層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることができる。
【0028】
なお、波長選択フィルタとしては、SiO層およびAl層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光放射面12に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ20から人に有害な光が放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0029】
また、紫外線照射装置100は、図2に示すように、電源部15と、制御部16と、を備える。
電源部15は、電源からの電力が供給されるインバータ等の電源部材や、電源部材を冷却するためのヒートシンク等の冷却部材を含む。また、制御部16は、光源部を構成するエキシマランプ20の点灯を制御する。
ここで、制御部16は、光放射面12からの光放射を連続的に行う、いわゆる連続点灯を行ってもよいし、光の発光動作と非発光動作とを交互に繰り返し行い、光放射面12からの光放射を断続的に行う間欠点灯を行ってもよい。
【0030】
さらに、紫外線照射装置100は、人感センサ31と、近接センサ32と、を備えていてもよい。人感センサ31および近接センサ32は、例えば、筐体11における光放射面12の近傍に配置することができる。
人感センサ31は、光放射面12から放射される紫外線が照射される領域(照射領域)内に存在する人を検知する。人感センサ31は、例えば、人体などから発する熱(赤外線)の変化を検知する焦電型赤外線センサとすることができる。人感センサ31は、人の所在を検知している場合、検知信号を制御部16に発信する。
【0031】
近接センサ32は、光放射面12から所定の離間距離以内の領域である検知範囲に存在する物体を検知する。ここで、当該物体は、人、動物、物を含む。また、上記所定の離間距離は、紫外線照射装置100の設置環境(設置空間の広さなど)や光放射面12での放射照度等に応じて適宜設定することができる。紫外線照射装置100を救急車200などの天井の低い空間に設置し、比較的高い放射照度で紫外線照射する場合には、上記所定の離間距離は、例えば5cm~50cm程度の近接距離とすることができる。
【0032】
近接センサ32は、光放射面12に対して直交する方向における光放射面12から対象物体までの離間距離を検知することができる。また、上記の所定の離間距離は、光放射面12から放射される紫外線が届く距離よりも、光放射面12に近い距離となるように設定されている。つまり、近接センサ32の検知範囲は、光放射面12から放射される紫外線が照射される照射領域内において設定される。
【0033】
近接センサ32は、例えば、赤外LEDなどの赤外線発光素子とフォトダイオードなどの受光素子とを有し、赤外線発光素子から放射され対象物によって反射された赤外線を受光素子により受光することで対象物までの距離を検知する赤外線近接センサとすることができる。近接センサ32は、検知範囲内において物体を検知している場合、検知信号を制御部16に発信する。
なお、近接センサ32は、対象物が検知範囲に存在しているか否かを検知できればよく、上記の赤外線型に限定されるものではない。近接センサ32は、例えば、超音波型や電波型などであってもよい。
【0034】
救急車内は、2次感染防止のために、患者の搬送後、次の患者を搬送するまでの間に、空間中や表面に存在する有害な微生物やウイルスを不活化する不活化処理を行う必要がある。
救急車内の天井にUVCランプを取り付け、無人の救急車内にUVCの紫外線を照射して救急車内の表面を消毒する技術もあるが、救急車内には様々な機材(ストレッチャー、椅子、手すり、引き出し、測定器具等)があり複雑であるため、光源から陰になる部分や引き出し内部など、紫外線が十分に当たらない領域が存在し得る。また、救急車内には、紫外線照射だけでは殺菌、不活化しきれない大きな飛沫(痰、鼻水、吐しゃ物等)が存在し得る。そのため、紫外線照射による除染処理だけでは不十分であり、車内をエタノールや塩素系消毒液で拭き取る作業が必要である。
【0035】
ところが、このような拭き取り作業は、救急隊員等の作業者が行うものであり、時間も労力もかかる。患者を搬送した後の拭き取り作業に時間がかかると、速やかに次の患者を搬送することができず、救急車を効率的に運用できない。また、何も除染されていない車内で拭き取り作業を行うことは感染リスクが高いため、作業者に不安を与える。
そこで、本実施形態では、患者の搬送後、まず、無人状態で救急車200内に紫外線照射を行い、ある程度除染してから作業者を救急車200内に入れ、拭き取り作業を行うようにする。また、このとき、拭き取り作業と紫外線照射とを同時に行う。
【0036】
具体的には、患者を病院等の目的地まで搬送して患者を搬出した後、紫外線照射装置100の制御部16がエキシマランプ20を点灯し、無人状態の車内に紫外線を照射する。ここで、制御部16は、車内から最後に退出する救急隊員からの点灯指示(点灯スイッチ操作等)に基づいてエキシマランプ20を点灯してもよいし、各種センサにより患者を搬出して無人状態となったことが検知されたタイミングでエキシマランプ20を点灯してもよい。
この紫外線照射により、車内に配置された様々な機材の表面に付着した、あるいは、空間中に浮遊する細菌やウイルスが不活化される。ただし、この場合、処置室210内の引き出し内部には紫外線は照射されない。そのため、患者を搬出した後、救急隊員は、図3に示すように処置室210の引き出し213を開け、引き出し213の内部を露出してから処置室210から退出してもよい。これにより、露出された引き出し213の内部に紫外線を照射することができる。
【0037】
そして、無人状態での紫外線照射を一定時間行った後、拭き取り作業を行う作業者が処置室210に入る。ここで、無人状態で紫外線照射を行う上記一定時間は、人が入っても問題ない程度に空間内の微生物やウイルスを不活化する(例えば90%殺菌する)のに必要な時間に設定する。
この場合、例えば作業者自身が上記一定時間をカウントして処置室210に進入してもよいし、紫外線照射装置100が紫外線照射時間をカウントし、上記一定時間が経過したタイミングで、作業者が入ってもよいことを知らせるようにしてもよい。作業者への合図は、例えば、作業者から見易い場所に適宜設置した通知用の表示ランプを点灯する、上記表示ランプの色を変えるなどであってもよいし、ドアロックと連動してもよい。
【0038】
図4に示すように、作業者300が処置室210に進入した後も、紫外線照射装置100は紫外線照射を継続する。このときの紫外線照度は、無人状態での照度と同じであってもよいし、有人状態であることを考慮して、無人状態での照度よりも低くしてもよい。
作業者300が防護服を着用しており、その防護服が紫外線の透過を阻止(または抑制)する部材により構成されている場合、作業者300は紫外線の透過を阻止する遮蔽部材によって遮蔽されるため、紫外線照度は比較的高照度であってもよい。
【0039】
この図4に示すように、紫外線照射が行われている状態で、作業者300は処置室210表面の拭き取り作業を行う。このとき、作業者300は、引き出し213の内部や複雑な機材の表面等、紫外線が十分に照射されない部分を拭き取る。また、紫外線照射では除染しきれない大きい飛沫や血液等の被洗浄物401を拭き取る。
このように、事前に無人状態での紫外線照射を行うことで、作業者300は、処置室210表面を万遍なくというより、紫外線照射でカバーできない領域(不活化が不十分な領域)に対して選択的に拭き取り作業を行えばよい。
【0040】
作業者300が図3に示す被洗浄物401を拭き取る際、殺菌液を噴霧したり表面を拭いたりすると、図4に示すように、被洗浄物401から空間中に飛沫402が舞い上がる。また、上記殺菌液がアルコール等の揮発性の殺菌液の場合、当該殺菌液が揮発するときに飛沫402が舞い上がる。この飛沫402に感染症の菌などが含まれる場合、飛沫402を作業者300が吸い込んでしまうと、作業者300が感染してしまうおそれがある。
本実施形態では、拭き取り作業と同時に紫外線照射を行うので、拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散する飛沫402に紫外線を照射することができる。また、拭き取り領域と作業者300との間の空間に紫外線を照射することで、拭き取り領域から舞い上がった直後の飛沫402に紫外線を照射することができる。これにより、拭き取り時に舞い上がった飛沫402を作業者300が吸い込んでしまう前に、当該飛沫402に含まれるウイルス等を空間中で不活化することができ、作業者300への2次感染を防止することができる。
【0041】
その後、作業者300は、拭き取り作業が終了すると処置室210から退出する。このとき、紫外線照射装置100の制御部16は、作業者300が処置室210から退出したタイミングでエキシマランプ20を消灯し、紫外線照射を終了する。この場合、制御部16は、処置室210から退出する作業者300からの消灯指示(点灯スイッチ操作等)に基づいてエキシマランプ20を消灯してもよいし、各種センサにより作業者300が退出したことが検知されたタイミングでエキシマランプ20を消灯してもよい。
【0042】
なお、紫外線照射を終了するタイミングは、作業者300が退出するタイミングに限定されるものではなく、例えば、作業者300が処置室210から退出した後も紫外線照射を継続し、処置室210内において十分に殺菌不活化ができたと判断できるタイミングで紫外線照射を終了してもよい。
また、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)によれば、人体への1日(8時間)あたりの紫外線照射量は、波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。この許容限界値は、今後は改定されてゆく可能性もあるが、紫外線の照射量が所定の許容限界値を超えないようにすることが適切である。そのため、上記の許容限界値(TLV)を考慮し、例えば、作業者300が処置室210に進入してから所定時間が経過したタイミングで紫外線照射を終了してもよい。
【0043】
なお、有人状態における紫外線照射中は、制御部16は、人感センサ31および近接センサ32からの信号に基づき、エキシマランプ20から放射される紫外線量を制御してもよい。例えば、制御部16は、人感センサ31から照射領域内に人の所在を検知していることを示す検知信号を受信しており、且つ、近接センサ32から検知範囲内に存在する物体を検知していることを示す検知信号を受信した場合に、検知範囲内に人が存在していると判定して、エキシマランプ20からの紫外線量を低減するように制御してもよい。
【0044】
エキシマランプ20から放射される紫外線量を低減する制御は、エキシマランプ20を消灯する制御、エキシマランプ20から放射される紫外線の照度を低減する制御、および、エキシマランプ20の点灯デューティ比を低減する制御、を含む。ここで、点灯デューティ比とは、紫外線光源が点灯している点灯時間と紫外線光源が消灯している休止時間との総和に対する点灯時間の割合である。
【0045】
ここで、紫外線の照度を低減する制御において、照度の低減量は、一定量であってもよいし、通常点灯の照度に対する一定の割合であってもよいし、近接センサ32によって検知された物体の距離に応じた量、例えば距離が近い程低減量を大きくするようにしてもよい。また、点灯デューティ比を低減する制御において、低減後の点灯デューティ比は、固定値であってもよいし、近接センサ32によって検知された物体の距離に応じた値、例えば距離が近い程点灯デューティ比を小さくするようにしてもよい。
【0046】
なお、一般的な人感センサである焦電型赤外線センサは、完全に静止した人を検知できない。そのため、人感センサ31と近接センサ32とを併用した場合、人が光放射面12から所定の離間距離以内の領域で静止していると、人感センサ31によってその人を検知できず、近接センサ32で物体を検知していても紫外線量の低減制御が作動しない。しかしながら、作業者300は車内の拭き取り作業を行っており、作業者300が静止していることはほぼ無いと考えられるため問題ない。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、患者を搬送および処置する閉止空間である救急車200内に配置された紫外線照射装置100から救急車200内に紫外線を照射し、救急車200内に存在する有害な微生物および/またはウイルスを不活化する。ここで、紫外線照射装置100は、波長帯域が190nm~235nmの紫外線を含む光を放射するエキシマランプ20と、エキシマランプ20から放射される光を放射する光放射面12を有する筐体11とを含む光源部と、当該光源部の点灯を制御する制御部16と、を備える。
このように、人や動物の細胞に悪影響の少ない190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を用いるので、人が居る救急車200内においても紫外線を照射して殺菌、不活化を行うことができる。
【0048】
実施形態では、患者を搬送した後の救急車200内の表面を作業者300が殺菌液で拭き取る拭き取り作業を行う拭き取り工程(第一工程)と、救急車200内に有害な微生物および/またはウイルスを不活化する波長の紫外線として190nm~235nmの波長範囲にある紫外線を照射するUV照射工程(第二工程)と、を同時に行う。ここで、拭き取り工程と同時に行うUV照射工程では、拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散する飛沫に上記紫外線を照射する。
【0049】
このように、殺菌液を用いた拭き取り作業と、紫外線を用いた殺菌不活化処理とを同時に行うので、患者を搬送した後、次の出動までの短時間に救急車200内の消毒作業を適切に行うことができる。そのため、救急車200を効率的に運用することができる。
また、拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散する飛沫に紫外線を照射することで、当該飛沫に有害な微生物やウイルスが含まれる場合であっても、作業者300が吸い込む前に紫外線により上記微生物やウイルスを不活化することができる。したがって、作業者300への2次感染を適切に防止することができる。
また、拭き取り領域と作業者300との間の空間に紫外線を照射可能な位置に紫外線照射装置100を配置すれば、拭き取り作業時に拭き取り領域から飛散した直後の飛沫に紫外線を照射することができる。そのため、当該飛沫を作業者300が吸い込む前に、当該飛沫に含まれる微生物やウイルスを紫外線照射により適切に不活化することができる。
【0050】
さらに、拭き取り作業と同時に紫外線照射を行うので、作業者300は、紫外線照射では不活化しきれない大きい飛沫が存在する領域など、紫外線照射による不活化が不十分であると判断される領域について、選択的に拭き取り作業を行うことができる。そのため、作業者300の作業負担を軽減することができる。
また、従来、空間内にオゾンを噴霧して殺菌する技術もあるが、オゾンは酸化作用が強く、樹脂やゴムを劣化させてしまう。救急車内には、測定器の接続線や医療用バンド、手袋などがあるため、オゾン殺菌の場合、これらがオゾンの酸化作用により劣化してしまうおそれがある。本実施形態では、殺菌液とオゾンを発生させない波長域の紫外線とを用いるので、上記のような劣化を抑制することもできる。
【0051】
また、本実施形態では、上記の拭き取り工程およびUV照射工程に先立って、患者を搬送した後の救急車200に人が存在しない無人状態で、救急車200内に紫外線を照射するUV照射工程(第三工程)を行ってもよい。
この場合、作業者300は、紫外線が照射されてある程度除染された救急車200内に進入して拭き取り作業を行うことができる。したがって、作業者300への感染のリスクを低減することができるとともに、作業者300の心理的不安も軽減することができる。
さらに、このとき、引き出し213の内部を露出しておけば(第四工程)、露出された引き出し213の内部を含む領域に紫外線を照射することができる。この場合、引き出し213内部の拭き取り作業を不要もしくは簡易なものとすることができる。
【0052】
以上のように、本実施形態における不活化方法によれば、短時間で、且つ、人に安全に、患者を搬送および/または処置する空間に存在する微生物および/またはウイルスを不活化して消毒することができる。
【0053】
(変形例)
上記実施形態においては、不活化処理対象の空間が、患者を搬送および処置する閉止空間である場合について説明したが、不活化処理対象の空間は、患者を搬送および/または処置する閉止空間であればよい。
また、上記実施形態においては、不活化処理対象の閉止空間が救急車内の空間である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ドクターカー等の搬送車内の空間であってもよい。また、上記閉止空間は、車内の空間に限定されるものではなく、例えば、手術室や集中治療室、病室などの医療施設内の空間であってもよい。
【0054】
さらに、上記実施形態においては、紫外線照射装置100の筐体11に人感センサ31および近接センサ32が設けられている場合について説明したが、人感センサや近接センサは紫外線照射装置100とは別体であってもよい。人感センサ31は光放射面12から放射される紫外線が照射される領域(照射領域)内に存在する人を検知可能な場所に設置されていればよく、近接センサ32は光放射面12から所定の近接距離以内の領域である検知範囲に存在する物体を検知できる場所に設置されていればよい。この場合、紫外線照射装置100の制御部16は、外部の人感センサや近接センサが発信する検知信号を受信し、受信した検知信号に基づいて紫外線量の低減制御を行う。
【0055】
また、上記実施形態においては、紫外線光源であるエキシマランプ20は、図2に示すように放電容器21の一方の側面に一対の電極22、23を配置した構成である場合について説明した。しかしながら、エキシマランプの構成は上記に限定されるものではない。
例えば、長尺な放電容器の両端部に、一対の環状の電極(第一電極、第二電極)が配置された構成であってもよい。また、長尺な放電容器の内部に内側電極(第一電極)を有し、放電容器の外壁面にメッシュ状(網目形状)または線形状の外側電極(第二電極)を有する構成であってもよい。さらに、別の例として、扁平状の放電容器の向かい合う2つの外側面上に、それぞれ第一電極および第二電極を有してなる、いわゆる「扁平管構造」を採用してもよい。また、円筒状の外側管と円筒状の内側管とからなる、いわゆる「二重管構造」を採用してもよい。この場合、外側管の外側面および内側管の内側面に、それぞれ網状の第一電極(外部電極)および膜状の第二電極(内部電極)が配置された構成とすることができる。
【0056】
さらに、上記実施形態においては、紫外線光源としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、紫外線光源としてLEDを用いることもできる。
LEDとしては、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LED等を採用することができる。
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が190~235nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。また、MgZnO系LEDは、Mgの組成を調整することで、中心波長が222nmである紫外線を放出することができる。
【0057】
本発明によれば、波長190~235nmの紫外線を用いることにより、紫外線照射による人体への悪影響を及ぼすことなく、紫外線本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外線光源とは異なり、人が存在する空間においても、紫外線による効果的な不活化処理を行うことができる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0058】
11…筐体、12…光放射面、15…電源部、16…制御部、20…紫外線光源、31…人感センサ、32…近接センサ、100…紫外線照射装置、200…搬送車(救急車)、201…天井、202…手すり、203…壁、210…処置室、211…ストレッチャー、212…機材、213…引き出し、300…作業者、401…被洗浄物、402…飛沫
図1
図2
図3
図4