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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170946
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】複合ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20221104BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221104BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20221104BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01J37/147 D
H01J37/28 B
H01J37/317 D
H01J37/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077247
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 議覚
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA32
5C101EE22
5C101FF48
5C101FF58
5C101FF59
5C101FF60
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、試料の断面に生じた凹凸を事後的な加工により除去する。
【解決手段】ステージ70におけるステージ面74に、固定チルト角をもって傾斜した試料保持面を有する傾斜ホルダ76が設置される。パラメータ決定部80は、試料保持面に保持された試料に対して断面を作製する場合における加工ビームの方位角に基づいて、ステージ面74のチルト角、ステージ面74の回転角、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角、を決定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準点を通過する第1光軸を有し、加工ビームを照射する加工ビーム照射部と、
前記基準点で前記第1光軸に交差する第2光軸を有し、観察ビームを照射する観察ビーム照射部と、
前記第1光軸及び前記第2光軸を含む基準面に対して直交し前記基準点を通過するチルト軸、前記基準点を通過し前記基準面内において運動する回転軸、及び、前記回転軸に直交するステージ面、を有するステージと、
前記ステージに取り付けられ、前記ステージ面に対して固定チルト角をもって傾斜した試料保持面を有する傾斜ホルダと、
前記試料保持面に保持された試料に対して断面を作製する場合における前記加工ビームの方位角に基づいて、前記ステージ面のチルト角、前記ステージ面の回転角、及び、前記加工ビームのスキャン方向の回転角、を決定する決定部と、
前記ステージ面のチルト角及び前記ステージ面の回転角に基づいて前記ステージの動作を制御し、前記スキャン方向の回転角に基づいて前記加工ビーム照射部の動作を制御する制御部と、
を含むことを特徴とする複合ビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の複合ビーム装置において、
前記断面は前記試料の表面に対して垂直である、
ことを特徴とする複合ビーム装置。
【請求項3】
請求項1記載の複合ビーム装置において、
前記断面を作製する場合における前記加工ビームの方位角及び前記加工ビームの入射角を設定する設定部を含み、
前記決定部は、前記方位角及び前記入射角に基づいて、前記ステージ面のチルト角、前記ステージ面の回転角、及び、前記スキャン方向の回転角、を決定する、
ことを特徴とする複合ビーム装置。
【請求項4】
請求項1記載の複合ビーム装置において、
前記傾斜ホルダは、前記試料保持面に試料を固定する際において当該試料の向きを調整する際に目安となるマーカーを有する、
ことを特徴とする複合ビーム装置。
【請求項5】
請求項4記載の複合ビーム装置において、
前記マーカーは、前記チルト軸に平行なラインを含む、
ことを特徴とする複合ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ビーム装置に関し、特に、加工ビームに対する試料の姿勢の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ビーム装置は、試料の加工及び観察を行う装置であり、それは複合ビーム加工観察装置とも称されている。複合ビーム装置は、例えば、集束イオンビーム(FIB)加工装置、及び、走査電子顕微鏡(SEM)を備える。
【0003】
具体的には、複合ビーム装置は、ステージ、加工ビーム照射部、観察ビーム照射部、検出部、制御部等を備える。ステージによって試料が保持されつつ試料の位置及び姿勢が変更される。加工ビーム照射部は、試料に対して、加工ビームとしての集束イオンビームを照射するものである。観察ビーム照射部は、試料に対して、観察ビームとしての電子ビームを照射するものである。試料への電子ビームの照射により試料から放出される二次電子等が検出部より検出される。
【0004】
加工ビーム照射部は第1光軸を有し、第1光軸に沿って加工ビームを照射する。観察ビーム照射部は第2光軸を有し、第2光軸に沿って観察ビームを照射する。第1光軸及び第2光軸は、試料収容空間内に固定的に定められた一点(基準点)を通過している。ステージは、試料ホルダが配置されるステージ面を有する。
【0005】
複合ビーム装置において、加工及び観察の対象となる試料は、金属、半導体等であり、それは通常、平板形を有する。試料が試料ホルダの試料保持面に配置された上で、試料に対して、内部構造観察のための断面(通常、垂直断面)が形成される。形成された断面上に複数の筋状の凹凸が生じることがある。その現象は、カーテン現象、カーテン効果又はカーテニングと称されている。
【0006】
カーテン効果で生じた複数の凹凸を除去するために、加工ビームの方位角度を変更した上で、断面が事後的に加工され、つまり断面が平面化される。例えば、一次加工時に方位角ゼロ度の加工ビームによって断面が形成され、続いて、二次加工時に方位角として数度~数十度の範囲内の方位角を有する加工ビームにより断面が事後的に加工される。加工ビームの方位角を異ならせつつ3回以上の加工が行われることもある。
【0007】
後に詳述するように、ステージが1つのチルト軸のみを有する場合、加工ビームの方位角を変更するに当たって、ステージを90度回転させ、且つ、ステージをチルトさせることが考えられる。しかし、その方法を採用すると、加工後に加工箇所を観察するために、ステージの状態を元に戻す必要があり、加工した箇所を直ちに観察することができない。複合ビーム装置において、加工した箇所を直ちに観察できるのは大きな利点であるところ、上記構成では、その利点が損なわれてしまう。ちなみに、ステージに対して直交関係にある2つのチルト軸を設ければ、方位角の変更と加工直後の観察とを両立させることができるが、その場合にはステージの構成が複雑化してしまう。
【0008】
特許文献1には、カーテン効果で生じた複数の凹凸を除去し得る複合ビーム装置が開示されている。その図7には、傾斜型試料ホルダが開示されている。傾斜型試料ホルダの傾斜面に薄片状の試料が配置され、その薄片状の試料の表面(特許文献1では断面と表現されている)に対して加工ビームが照射されている。その加工ビームは、仕上げ加工のためのブロードなビームであると推認される。特許文献1には、試料の表面に対して直交する断面を形成すること、及び、その断面上において生じる複数の凹凸を除去すること、は開示されていない。
【0009】
特許文献2にも、カーテン効果で生じた複数の凹凸を除去し得る複合ビーム装置が開示されている。そこに開示された構成は、特許文献1に開示された構成で生じる課題を解決するものであり(特許文献2の第0004段落を参照)、つまり、特許文献1に開示された構成に代替されるものである。ステージのチルト運動により、試料の傾斜状態が形成され、その状態で、試料に対して、傾斜した断面が形成される。その後、その傾斜した断面が事後的に加工されている。事後的な加工に際しては、チルト角とローテーション角の組み合わせが演算されている。しかし、特許文献2に開示された構成によると、その原理上、試料に対してその表面に垂直な断面を形成することができない。例えば、半導体部品においてはシリコン基板に代表される結晶基板に対して、水平垂直にパターンが積み重ねられている。半導体部品を評価するためにその断面を透過電子顕微鏡等で観察する場合、観察断面は試料表面に対して垂直に形成されることが大前提となる。断面が試料表面に傾斜していると、それぞれのパターンの縦方向の関係性が把握できないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014- 63726号公報
【特許文献2】特開2017-174748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、複合ビーム装置において、加工箇所を直ちに観察できることを前提として、試料に対して断面を形成した上で、その断面上に生じた複数の凹凸を除去できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る複合ビーム装置は、基準点を通過する第1光軸を有し、加工ビームを照射する加工ビーム照射部と、前記基準点で前記第1光軸に交差する第2光軸を有し、観察ビームを照射する観察ビーム照射部と、前記第1光軸及び前記第2光軸を含む基準面に対して直交し前記基準点を通過するチルト軸、前記基準点を通過し前記基準面内において運動する回転軸、及び、前記回転軸に直交するステージ面、を有するステージと、前記ステージに取り付けられ、前記ステージ面に対して固定チルト角をもって傾斜した試料保持面を有する傾斜ホルダと、前記試料保持面に保持された試料に対して断面を作製する場合における前記加工ビームの方位角に基づいて、前記ステージ面のチルト角、前記ステージ面の回転角、及び、前記加工ビームのスキャン方向の回転角、を決定する決定部と、前記ステージ面のチルト角及び前記ステージ面の回転角に基づいて前記ステージの動作を制御し、前記スキャン方向の回転角に基づいて前記加工ビーム照射部の動作を制御する制御部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複合ビーム装置において、加工箇所を直ぐに観察できる条件下において、試料に断面を形成した上で、その断面上に生じた複数の凹凸を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ステージが有する一般的な座標系を示す図である。
図2】ステージの構成例を示す図である。
図3】入射角を示す図である。
図4】方位角を示す図である。
図5】試料を90度回転させた状態を示す図である。
図6】更に試料を傾斜させた状態を示す図である。
図7】実施形態に係る複合ビーム装置の構成例を示す図である。
図8】傾斜ホルダを搭載したステージが有する座標系を示す図である。
図9】回転角及びチルト角の組み合わせによる方位角の実現を示す図である。
図10】加工ビーム照射部におけるスキャン方向の回転角を示す図である。
図11】パラメータ決定部の第1構成例を示す図である。
図12】パラメータ決定部の第2構成例を示す図である。
図13】実施形態に係る動作例を示すフローチャートである。
図14】薄膜試料の加工を示す図である。
図15】第1変形例に係る傾斜ホルダを示す図である。
図16】第2変形例に係る傾斜ホルダを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る複合ビーム装置は、加工ビーム照射部、観察ビーム照射部、ステージ、傾斜ホルダ、決定部、及び、制御部を有する。加工ビーム照射部は、基準点を通過する第1光軸を有し、加工ビームを照射する。観察ビーム照射部は、基準点で第1光軸に交差する第2光軸を有し、観察ビームを照射する。ステージは、第1光軸及び第2光軸を含む基準面に対して直交し基準点を通過するチルト軸、基準点を通過し基準面内において運動する回転軸、及び、回転軸に直交するステージ面、を有する。傾斜ホルダは、ステージに取り付けられ、ステージ面に対して固定チルト角(プリチルト角)をもって傾斜した試料保持面を有する。決定部は、試料保持面に保持された試料に対して断面を作製する場合における加工ビームの方位角に基づいて、ステージ面のチルト角、ステージ面の回転角、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角、を決定する。制御部は、ステージ面のチルト角及びステージ面の回転角に基づいてステージの動作を制御し、スキャン方向の回転角に基づいて加工ビーム照射部の動作を制御する。
【0017】
上記構成によれば、ステージが1つのチルト軸を有する場合であっても、傾斜ホルダの使用を前提として、ステージ面のチルト角及び回転角の組み合わせを変化させることにより、加工ビームについて所望の方位角を実現し得る。断面製作過程において、必要なタイミングで、加工箇所を速やかに観察し得る。上記構成においては、ステージ面のチルト角及びステージ面の回転角の組み合わせが変化しても、基準面に対するチルト軸の直交、及び、基準面内での回転軸の運動が常に維持される。
【0018】
加工ビームは、荷電粒子線ビームであり、それは例えば集束イオンビームである。観察ビームは、荷電粒子線ビームであり、それは例えば電子ビームである。ステージ面は、実施形態において、試料ホルダが設置される物理的な面であるが、その概念には仮想的な面が含まれ得る。
【0019】
実施形態において、断面は試料の表面に対して垂直な断面である。例えば、半導体の内部構造を観察したい場合、半導体に対してその内部構造を示す垂直断面が形成される。試料の表面は、ビーム照射側の面(前面)である。試料の前面及び後面は一般に平行関係を有する。
【0020】
実施形態に係る複合ビーム装置は、断面を作製する場合における加工ビームの方位角及び加工ビームの入射角を設定する設定部を含む。決定部は、方位角及び入射角に基づいて、ステージ面のチルト角、ステージ面の回転角、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角、を決定する。この構成によれば、ユーザーにより方位角及び入射角を自由に指定し得る。加工条件に応じて方位角及び入射角が自動的に設定されてもよい。
【0021】
試料において試料垂直軸を定義し、試料垂直軸及びチルト軸を含む面(試料に形成される断面を含む面)を第1面と定義し、試料垂直軸を含み第1面に直交する面を第2面と定義した場合、第1面内において試料垂直軸に対する加工ビームの傾斜角度が方位角であり、第2面内において試料垂直軸に対する加工ビームの傾斜角度が入射角である。
【0022】
実施形態において、傾斜ホルダは、試料保持面に試料を固定する際において当該試料の向きを調整する際に目安となるマーカーを有する。この構成によれば、傾斜ホルダに対して試料を設置する場合に試料を正しい向きで設置できる。マーカーは、チルト軸に平行なラインを含む。チルト軸に平行に断面が形成されるので、ラインの参照によって、どの方向に断面が形成されるのかを認識し易くなる。
【0023】
(2)実施形態の詳細
最初に、図1図6を用いて、ステージに対して定められる一般的な座標系及びその座標系の下で生じる問題について説明する。
【0024】
図1には、試料ホルダ上の試料10が示されている。試料ホルダはステージのステージ面上に固定されている。但し、ステージ及び試料ホルダの図示が省略されている。基準点Oは、試料を収容する空間内において固定的に定められる点である。第1光軸24及び第2光軸26が所定角度をもって基準点Oで交差している。第1光軸24に沿って加工ビームが照射され、第2光軸26に沿って観察ビームが照射される。図示の例では、試料10における表面10A上に基準点Oが位置している。第1光軸24及び第2光軸26を含む面が基準面を構成する。なお、図1においては、第1光軸24及び第2光軸26がそれぞれ基準点Oを向く矢印として模式的に表現されている。
【0025】
ステージは、チルト軸(T軸)14、回転軸(R軸)16、x軸、及び、y軸18を有する。T軸14は、基準点Oを通過し、基準面に対して直交している。R軸16は、基準点Oを通過し、基準面内で運動する。図示の状態においては、x軸がT軸14に一致し、z軸がR軸16に一致している。x軸及びy軸18は、互いに直交しており、それらは試料10の表面10Aに対して平行である。z軸は、試料垂直軸であり、それはx軸及びy軸18に直交している。R軸16を回転中心軸とする回転運動が符号20で示されている。T軸14を回転中心軸とする回転運動(チルト運動)が符号22で示されている。
【0026】
ステージのチルト動作により、T軸14周りにおいて、R軸16及びy軸18がチルト運動する。ステージの回転動作により、R軸16周りにおいて、x軸及びy軸18が回転運動する。図1においては、試料を収容する空間における絶対座標系が示されており、具体的にはX軸、Y軸及びZ軸が示されている。ステージ面を基準とする相対座標系が、T軸14、R軸16、x軸、y軸18及びz軸により構成される。但し、T軸14は不動である。
【0027】
加工ビームによる試料10の加工により、試料10に断面28が作製される。それに伴って、試料10にくさび状の凹部30が生じる。断面28は、表面10Aに直交する垂直断面である。
【0028】
図2には、ステージ32の概略構成が示されている。ステージ32は、昇降機構38、チルト機構40、xyスライド機構42、回転機構44を有する。その順番で下から上へそれらの機構が積み上がっている。ステージ32(具体的には回転機構44)はステージ面34を有し、そこに試料を保持した試料ホルダ36が配置される。一般的な試料ホルダは、円柱状の形態を有し、その下面及び上面は平行である。上面が試料保持面として機能する。
【0029】
図3及び図4を用いて、加工ビームに関して、入射角及び方位角を説明しておく。図3において、試料10の表面上に基準点Oが存在している。第1基準面45Aは、基準点O、第1光軸及び第2光軸を含む面である。第2基準面45Bは、基準点Oを含み、第1基準面45Aに直交する面である。試料10において作製される断面28は、第2基準面45Bに属する。加工ビーム24Aの入射角46は、第1基準面45A内における加工ビーム24Aの傾斜角度、つまり第2基準面45B又は試料垂直軸に対する加工ビーム24Aの傾斜角度である。
【0030】
図4においては、試料10に作製された断面28及びT軸が現れている。方位角48は、第2基準面45B内における加工ビーム24Aの傾斜角度、つまり第1基準面45A又は試料垂直軸に対する加工ビーム24Aの傾斜角度である。
【0031】
図1に戻って、試料10の表面10Aの観察を行う場合には、表面10Aが第2光軸26に対して直交するように、チルト角が調整される。試料10に断面28を形成する場合には、第1光軸24に対して、試料10の表面10Aが直交するように、チルト角が調整される。既に説明したように、T軸14は、第1光軸24及び第2光軸26を含む基準面に対して直交している。
【0032】
図2に示した構成では、チルト機構40の上にxyスライド機構42を介して、回転機構44が搭載されている。その構成を前提とした場合、図1において、チルト動作時に、R軸16及びy軸18がチルト運動する。任意のチルト角度が設定された状態において、ステージ面をR軸16周りに回転させることができ、また、任意のチルト角度が設定されかつ任意の回転角度が設定された状態において、x軸の方向及びy軸18の方向に、ステージ面をスライド運動させることができる。
【0033】
上述したように、第1光軸24及び第2光軸26は、基準点Oにおいて交わっており、また、基準面に対してT軸14が直交している。加工ビームを用いて断面28を作製した場合、その断面28を直ちに電子顕微鏡画像(SEM画像)として観察し得る。その際においてステージ移動は不要である。これは複合ビーム装置の大きな利点である。ステージ移動を伴わずに、加工した断面28をそのまま観察するために、チルト軸を含む第2基準面に断面28が属するように、当該断面28が作製される。
【0034】
ちなみに、加工ビームを走査させながら試料から放出される信号を検出することにより、試料の観察を行うことも可能であるが、その場合においては、試料加工後にステージを傾斜等させる必要がある。これにより試料加工過程それ全体の時間が長引いてしまう。
【0035】
ところで、試料10に対して断面28を作製した場合、試料における加工のし易さの程度が局所的に区々であること等に起因して、カーテン効果が生じ、つまり断面28上に複数の凹凸が生じる。この問題を解決するためには、断面28に対する入射角を維持し、複数の方位角を設定しつつ複数回の加工ビーム走査を行う必要がある。しかし、図1に示した構成の場合、チルト角を変更しても、また、回転角を変更しても、方位角を変えることはできない。
【0036】
そこで、図5において、符号50で示すように、R軸周りにステージ面を90度回転させ、且つ、図6において、符号52で示すように、T軸周りにステージ面を所望の方位角に相当する角度分だけチルト運動させることが考えられる。なお、図5及び図6には第1光軸24及び第2光軸26が示されている。図6において、傾斜後のR軸が符号53で示されている。
【0037】
図6において、試料10に作製された断面28は傾斜姿勢を有している。その状態において、加工ビームをx軸に沿って走査すれば、カーテン効果で生じた複数の凹凸を抑圧することが可能となる。
【0038】
しかし、上記方法を採用した場合、図6に示した状態のままでは、加工箇所の観察を行えない。加工箇所を観察するためには、例えば、ステージ面を90度回転させる必要がある。その分だけ断面作製に要する時間が伸びてしまう。高品質な断面を作成するためには、加工と観察とを繰り返す必要があるところ、図5及び図6に示した方法を用いた場合、試料加工過程それ全体の時間がかなり伸びてしまう。特に、観察したい対象が非常に小さい場合、観察したい対象が露出した時点で即座に加工を停止する必要があることから、加工と観察とを短い間隔で交互に繰り返す必要がある。その場合、より一層、試料加工に長時間を要することになる。
【0039】
なお、上記の背景技術の欄に、カーテン効果により生じた複数の凹凸を取り除くための幾つかの方法を記載した。しかし、それらの方法は、試料上に垂直断面を作製できるものではない。より詳しくは、それらの方法は、必要に応じて加工箇所を直ぐに観察できることを前提として、試料に垂直断面を作製した上で、その断面上に生じる複数の凹凸を除去できるものではない。
【0040】
次に、図7図16を用いて、実施形態に係る複合ビーム装置について詳述する。図7には、実施形態に係る複合ビーム装置の概略的な構成が示されている。
【0041】
複合ビーム装置は、加工観察部60及び演算制御部62により構成される。加工観察部60は、加工ビーム照射部66、観察ビーム照射部68、ステージ70、検出器72、等を有する。
【0042】
加工ビーム照射部66は、第1鏡筒を構成しており、それは第1光軸24を有する。加工ビーム照射部66は、第1光軸24に沿って加工ビームを照射する。加工ビームは、具体的には、集束イオンビーム(FIB)である。加工ビーム照射部66は、電気的に制御されるビームスキャン機能を有している。当該機能により、第1光軸24を中心として、任意の方向への加工ビームのスキャンを行える。
【0043】
観察ビーム照射部68は、第2鏡筒を構成しており、それは第2光軸26を有する。観察ビーム照射部68は、第2光軸26に沿って観察ビームを照射する。観察ビームは、具体的には、電子ビームである。観察ビーム照射部68及び検出器72は、走査電子顕微鏡に相当する。
【0044】
ステージ70は、例えば、図2に示した構成を有している。すなわち、ステージ70は、昇降機構、チルト機能、xyスライド機構、回転機構、等を有する。符号74は、ステージ面を示している。複数の試料ホルダが用意されており、その中から特定の試料ホルダが選択され、それが使用される。複数の試料ホルダには、後に詳述する傾斜型試料ホルダ(以下、傾斜ホルダという。)76が含まれる。試料に対して断面を形成する場合に、傾斜ホルダ76が選択され、それがステージ面74に取り付けられる。傾斜ホルダ76は、傾斜した試料保持面を有し、そこに試料64が配置される。なお、図7においては、試料64の表面が第1光軸24に対して直交(正対)するように、ステージ面74のチルト角が調整されている。
【0045】
検出器72は、試料64に対する電子線の照射により試料から放出された信号(二次元電子、反射電子等)を検出するものである。電子以外の信号を検出する検出器が設けられてもよい。
【0046】
演算制御部62は、情報処理部78、入力器84、表示器86等を有する。情報処理部78は、プロセッサ、メモリ等を有する。プロセッサは例えばプログラムを実行するCPUである。プロセッサは複数の機能を発揮する。図7においては、その内で、代表的な2つの機能が示されており、すなわち、パラメータ決定部80及び加工制御部82が示されている。
【0047】
情報処理部78により、加工観察部60の動作が制御される。また、情報処理部78により、検出器72からの出力信号に基づいてSEM画像が形成される。入力器84は例えばキーボードにより構成される。
【0048】
入力器84を用いて、ユーザーにより、加工ビームの入射角及び方位角を指定し得る。断面作製過程において、一次加工時の方位角を0度とし、凹凸除去のための二次加工時の方位角を数度から数十度の範囲内の角度としてもよい。2つの方位角の差が指定されてもよいし、個々の方位角が指定されてもよい。2つ以上の方位角が定められてもよい。入射角についても、任意の角度を指定し得る。表示器86には、SEM画像が表示され、また、設定された又は演算された複数のパラメータが表示される。
【0049】
パラメータ決定部80は、傾斜ホルダ76の傾斜角(固定チルト角)、及び、加工ビームの方位角に基づいて、ステージ面のチルト角、ステージ面の回転角、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角を決定する。第1光軸24の入射角が指定された場合、パラメータ決定部80は、その入射角も考慮しつつ、各パラメータを決定する。各パラメータを決定するための計算式については後に詳述する。
【0050】
加工制御部82は、決定されたステージ面のチルト角及び回転角に従って、ステージ70の動作を制御する。また、加工制御部82は、決定されたスキャン方向の回転角に従って、加工ビーム照射部66の動作を制御する。
【0051】
図8には、傾斜ホルダ76に保持された試料64が示されている。試料64は平板状の形態を有し、その表面(前面)64Aは平面である。試料64において、前面64Aと後面は平行関係にある。試料64は例えば半導体である。その内部構造の調査及び確認のために、表面64Aに対して垂直な断面110が形成される。
【0052】
傾斜ホルダ76は、それ全体として、くさび形を有する。その上面が試料保持面76Aを構成している。その底面がステージ面74上に着脱可能に固定される。ステージ面74に対する試料保持面76Aの傾斜角度が固定チルト角(プリチルト角)94である。
【0053】
ステージ面74は、ステージが有する天板90の上面である。天板90又はステージ面74には第1係合構造が形成されており、一方、傾斜ホルダ76の底部又は底面には第2係合構造が形成されている。第1係合構造に対して第2係合構造が着脱可能に係合する。これにより、ステージ面74に対する傾斜ホルダ76の位置及び向きが自然に適正化される。
【0054】
図8においては、第1光軸98を基準として定義された絶対座標系が示されている。その絶対座標系には、X軸、Y軸及びZ軸が含まれる。Z軸と第1光軸98は平行である。但し、図示された絶対座標系は例示に過ぎないものである。
【0055】
基準点Oにおいて、第1光軸98及び第2光軸100が交差している。第1光軸98及び第2光軸100が属する面として第1基準面が定義される。チルト軸(T軸)102は、基準点Oを通過し、第1基準面に対して直交している。回転軸(R軸)104は、基準点Oを通過しており、第1基準面内を運動する。図8に示す状態では、x軸がT軸102に一致している。y軸106は、参考的に示されている試料水平軸108に対して傾斜している。試料水平軸108は、基準点Oを通過し、T軸102に対して直交し、試料64の表面に平行な軸である。x軸及びy軸106は、それぞれ、ステージ面74に対して平行な軸である。
【0056】
図8に示す状態では、ステージ面74は、XY平面に対して傾斜角度96をもって傾斜している。その傾斜角度は固定チルト角94と同一である(但し向きは異なる)。試料64の表面64Aが第1光軸98に対して直交している。ステージ面74がチルト運動すると、それに伴って、R軸104及びy軸106がチルト運動する。ステージ面74がR軸104周りにおいて回転運動すると、それに伴ってx軸及びy軸106が回転運動する。
【0057】
図8に示す状態において、試料64に対して、T軸102に沿った方向へ、加工ビームを相対的に移動させることにより、断面110が形成される。
【0058】
図示の状態において、加工ビームの方位角は0度である。以下に説明する手法を用いて、方位角として0度以外の角度を設定することも可能である。断面製作過程において、必要であれば、第2光軸100の方向から断面110を観察することが可能である。なお、その際に、チルト角を変更して第2光軸100に対して断面110を直交させてもよい。
【0059】
断面110の形成後、カーテン効果により、断面110上に複数の凹凸が生じる。それを取り除くために、断面110が事後的に加工される。その事後的な加工において、所望の方位角を実現するために、チルト角と回転角が調整される。すなわち、その方位角を実現するチルト角と回転角の組み合わせが決定される。
【0060】
図9には、一次加工工程の実行により作製された断面110が示されている。断面110の作製時において、加工ビーム98Aの方位角は0度である。第1光軸、第2光軸、T軸114、R軸118、及び、試料垂直軸(z軸)115が基準点Oを通過している。断面110の作製時において、z軸(試料垂直軸)115は、第1光軸に一致している。第1光軸に沿って加工ビーム98Aが照射される。
【0061】
二次加工工程の実行に先立って、設定された方位角に従って、ステージ面のチルト角、ステージ面の回転角及びスキャン方向の回転角が決定される。決定されたステージのチルト角及び回転角に従って、ステージの動作が制御される。その過程で、断面110の姿勢が変化する。符号112は姿勢変化後の断面を示している。ステージの動作に伴って、符号122で示すように、第1基準面内でR軸118が運動する。R’軸120は運動後のR軸である。また、ステージの動作に伴って、符号124で示すように、z軸115が運動する。z’軸116は運動後の試料垂直軸である。
【0062】
断面112は、第1光軸及びz’軸116を含む面に属している。加工ビーム98Aは、z’軸116に対して方位角125分だけ傾斜している。決定されたスキャン方向の角度に加工ビーム98Aがスキャンされ、これにより断面112上の凹凸が除去され、断面112が平坦化される。スキャン方向は、加工ビーム照射部から見て、断面112に沿った方向である。方位角を異ならせながら3回以上の加工工程が実行されてもよい。
【0063】
断面112を加工している過程において、必要に応じて、第2光軸方向から断面112を観察し得る。その場合において、断面112の観察のためにステージを動作させる必要はない。例えば、加工と観察とが短サイクルで繰り返されてもよい。なお、ステージの動作の制御により、断面112を第2光軸に対して直交させた上で、その断面112を観察することも可能である。
【0064】
実際には、一次加工工程及び二次加工工程において、設定された入射角が実現されるように、各パラメータが決定される。具体的には、一次加工工程に先立って、設定された入射角に従ってチルト角が調整される。二次加工工程に先立って、当該入射角及び方位角に従って、ステージ面のチルト角、ステージ面の回転角及びスキャン方向の回転角が決定される。
【0065】
図10には、加工ビームのスキャン方向134が示されている。上記のように、設定された方位角等に従って、スキャン方向の回転角が決定される。その回転角は、絶対座標系における断面130の傾斜角度に相当する。
【0066】
図11には、図7に示したパラメータ決定部の第1例が示されている。パラメータ決定部80Aは、パラメータ演算部136により構成される。パラメータ演算部136は、傾斜ホルダの固定チルト角θ及び方位角θIBに基づいて、パラメータセットとして、スキャン面のチルト角θ、スキャン面の回転角φ、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角φを計算するものである。例えば、一次加工工程での加工ビームの方位角が0度とされる。その場合、方位角θIBは二次加工工程での加工ビームの方位角である。パラメータ演算部136に対して、更に加工ビームの入射角を与えてもよい。
【0067】
図12には、図7に示したパラメータ決定部の第2例が示されている。パラメータ決定部80Bは、パラメータテーブル138により構成される。パラメータテーブル138は、方位角θIBに基づいて、パラメータセットとして、スキャン面のチルト角θ、スキャン面の回転角φ、及び、加工ビームのスキャン方向の回転角φを計算するものである。固定チルト角θは既知であり、それを考慮した計算結果がパラメータテーブル138に事前に登録される。パラメータテーブル138に対して、更に加工ビームの入射角を与えてもよい。第1加工工程で設定する加工ビームの方位角θ、及び、第2加工工程で設定する加工ビームの方位角θを個別的にパラメータテーブル138へ与えるようにしてもよい。
【0068】
次に、パラメータセットの計算方法について説明する。説明を簡単にするために、第1光軸を基準として絶対座標系を定義する。すなわち、第1光軸に一致するZ軸、チルト軸に一致するX軸、及び、Z軸及びX軸に直交するY軸を定義する。
【0069】
第1光軸をufibとすると、それは以下の(1)式のように定義される。
【数1】
【0070】
第1光軸に対して試料の表面を直交させるために、ステージ面をT軸周りにおいて回転運動させる。その角度(チルト角)はθである。ステージが有するR軸は、T軸周りに回転し、その向きが以下の(2)式で示すように変化する。
【数2】
【0071】
試料の表面が第1光軸に直交している状態において、試料に対して、加工ビームによる一次加工を行うことにより、試料内にその表面に垂直な断面を作製することができる。一次加工工程での加工ビームの照射方向をuとすると、uは上記ufibと一致するので、uは以下の(3)式のように表現される。
【数3】
【0072】
試料に作製される断面の法線ベクトルをnとすると、nは以下の(4)式のように表現される。
【数4】
【0073】
一次加工工程で作製された断面に対し、カーテン効果に起因する複数の凹凸を抑制する二次加工が適用される。それらの凹凸を抑制するためには、断面に対する加工ビーム入射角度を維持しつつ、断面に対する加工ビーム方位角を任意の角度θIB分、変更すればよい。一次加工時の方位角が0度であれば、二次加工時の方位角としてθIBが設定される。
【0074】
その方位角を実現するために、ステージ面の傾斜とステージ面の回転とが併用される。以下においては、ステージ面の傾斜運動をqと表現し、ステージ面の回転運動をpと表現する。
【0075】
二次加工工程における加工ビームの方向をuとし、断面の法線ベクトルをnとすると、それらは以下の(5)式及び(6)式で表現される。
【数5】
【0076】
下記の(7)式及び(8)式で示す2つの条件が満たされるように、ステージ面のチルト角及び回転角が決定される。
【数6】
【0077】
ここで、θIBは、一次加工工程での加工ビームの方位角と二次加工工程での加工ビームの方位角の差であり、具体的には、一次加工工程での加工ビームの方位角が0度であれば、θIBは、二次加工工程での加工ビームの方位角となる。θIBは、ユーザーが任意に入力可能な値である。
【0078】
ステージ面のチルト運動pは以下の(9)式のように表現される。但し、以下のθtは、ステージ面のチルト角である。
【数7】
【0079】
ステージ面のチルト運動により、ステージの回転軸は、以下の(10)式で示すように変化する。但し、以下のθは傾斜ホルダが有する固定チルト角である。
【数8】
【0080】
ステージ面の回転運動は、上記回転軸周りの回転であるので、回転角度をφとすると、当該回転運動qは以下の(11)式のように表現される。
【数9】
【0081】
(5)式及び(6)式に対して、上記の(9)式及び(11)式を適用した上で、(7)式及び(8)式を解くと、以下の(12)式及び(13)式が導かれる。
【数10】
【0082】
上記の(12)式及び(13)式において、θ及びθIBは既知パラメータであり、未知パラメータはθとφの2つである。上記の(12)式及び(13)式から、方位角を実現するためのスキャン面のチルト角θ及び回転角φが求められる。
【0083】
加工ビーム照射部は、X方向偏向電極とY方向偏向電極とを備えている。それらを用いて加工ビームの走査方向を任意の方向に定め得る。上記のパラメータ演算で求められた、ステージ面のチルト角θ及び回転角φは、断面の法線ベクトルnを第1光軸に対して垂直にするものである。その条件の下で、スキャン方向の回転角φの調整により、XY平面における断面線に対して、スキャン方向を一致させることが可能である。
【0084】
加工ビームのスキャン方向の回転sは以下の(14)式のように表現される。
【数11】
【0085】
φを決定するための条件は以下の(15)式に示すものとなる。(15)式は、一次加工時の断面の法線ベクトルnと二次加工時の断面の法線ベクトルnとの一致を求めるものである。
【数12】
【0086】
以上のように、所望の方位角θIBを実現するための、スキャン面のチルト角θ及び回転角φ、並びに、加工ビームのスキャン方向の回転角φが求められる。
【0087】
図13には、実施形態に係る動作がフローチャートとして示されている。S10では、ユーザーにより、方位角、入射角、断面幅、断面深さ等が指定される。それらに基づいて、加工条件が設定される。S12では、ステージ面上に傾斜ホルダが設置される。S14では、ステージの動作が制御された上で、一次加工工程が実施され、これにより試料に断面が作製される。一次加工工程の途中又は終了後に断面が観察される。
【0088】
S16では、加工ビームの方位角等に基づいて、パラメータセットが演算され、つまりステージ面のチルト角及び回転角、並びに、加工ビームのスキャン方向の回転角が演算される。S18では、それらのパラメータセットに基づいて、ステージの動作が制御され、また加工ビーム照射部の動作が制御される。二次加工工程の途中又は終了後に断面が観察される。なお、S20で示すように、仕上げ加工を繰り返し行うようにしてもよい。その場合、仕上げ加工ごとに方位角が変更される。
【0089】
図14には、透過電子顕微鏡において観察される薄片試料140の作製過程が示されている。加工ビームは、一般に、一定の広がりをもっている。そのような加工ビームにより作製される各断面は、加工ビームの入射角度に対して微小角度傾斜した面となる(例えば、符号146A及び146Bを参照)。
【0090】
各断面を垂直断面とするためには、試料端面に対して垂直な軸線142A,142Bに対して、加工ビーム144A,144Bの入射方向をθだけ傾斜させることが求められる。そのような場合、傾斜ホルダの固定チルト角θに対して角度調整のための数値θを足し合わせたもの又は減算したものを、上記各計算式に代入すればよい。あるいは、符号付きの数値θを固定チルト角θに対して加算すればよい。薄片試料ではなく、平板状の試料に単一の断面を作製する場合においても、上記同様の方法を適用し得る。すなわち、上記方法は加工ビーム入射角の調整に相当する。
【0091】
適切なθは、加工ビーム照射部の構成や照射条件によって異なる。一般に、照射電流が大きいほど、角度θを大きくすることになる。そのため、照射電流が大きい荒い加工では、角度θとして比較的大きな角度(例えば、0度~3度)を採用し、照射電流の小さい仕上げ加工では、角度θとして比較的小さい角度(0度~1度)を採用してもよい。θは、加工ステージごとに異なった数値になるため、一つの独立したパラメータとして取り扱うことが望まれる。
【0092】
図15には、傾斜ホルダの第1変形例が示されている。ステージ面152に対して傾斜ホルダ150が設置されている。傾斜ホルダ150は、傾斜した試料保持面150Aを有し、そこに試料154が取り付けられている。試料保持面150Aに対して、その中心点を通過し直交関係にある第1軸線157及び第2軸線158を定義し得る。試料保持面150Aは、楕円形状を有し、第1軸線157は楕円の長軸に相当し、第2軸線158は楕円の短軸に相当する。
【0093】
傾斜ホルダ150における試料保持面の上端部に、段差面156が形成されている。段差面156は、チルト軸及び軸線158に平行な辺(ライン)156Aを有する。試料保持面150Aに対して、試料154を配置する際、辺156Aがマーカーとして機能する。つまり、辺156Aに対して、試料154における基準線(例えば側面)が平行になるように、試料154の向きが定められる。これにより、所望の位置に正確に断面を形成することが可能となる。
【0094】
図16には、傾斜ホルダの第2変形例が示されている。傾斜ホルダ160において、傾斜した試料保持面160Aには、そこに試料を配置する際において目安となるマーカー162が形成されている。マーカー162は、図示の例において、試料保持面160Aにおける傾斜中心軸(縦軸、長軸)に平行な複数のラインと、試料保持面160Aにおける直交軸(横軸、短軸)に平行な複数のラインと、を含んでいる。ライン166は、傾斜中心軸を表すラインであり、それは中心点168を通過している。ライン164は、傾斜中心軸に直交する直交軸を表すラインであり、それも中心点168を通過している。試料保持面160Aに対して試料を配置する際、マーカー162を見ながら、試料の位置及び向きを調整し得る。
【符号の説明】
【0095】
24 第1光軸、26 第2光軸、60 加工観察部、62 演算制御部、64 試料、66 加工ビーム照射部、68 観察ビーム照射部、70 ステージ、74 ステージ面、76 傾斜ホルダ、80 パラメータ決定部、82 加工制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16