(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170958
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】赤外線透過製品
(51)【国際特許分類】
G03B 11/00 20210101AFI20221104BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20221104BHJP
【FI】
G03B11/00
G03B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077267
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104135
【氏名又は名称】カシュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】服部 志帆
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】久野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 精一
【テーマコード(参考)】
2H083
2H100
【Fターム(参考)】
2H083AA04
2H083AA19
2H083AA26
2H083AA32
2H083BB03
2H083DD04
2H100AA05
2H100AA41
2H100AA61
2H100CC02
2H100FF07
(57)【要約】
【課題】本体部を通じて赤色光が視認されることを抑制することができる。
【解決手段】カバー10は、赤外線カメラ装置90における赤外線の照射部91及び受光部92の双方を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部11を備える。本体部11は、可視光を吸収する基材20と、照射部91からの赤外線の進行方向における基材20の後面に設けられ、700nm~900nmの波長の赤色光の透過を抑制する赤色光吸収層30とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線検出装置における赤外線の照射部及び受光部の双方を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部を備える赤外線透過製品であって、
前記本体部は、可視光を吸収する基材と、
前記照射部からの赤外線の進行方向における前記基材の後面に設けられ、700nm~900nmの波長領域の赤色光を吸収する赤色光吸収層と、を備える、
赤外線透過製品。
【請求項2】
前記赤色光吸収層における前記波長領域の光線透過率が、10%以下である、
請求項1に記載の赤外線透過製品。
【請求項3】
前記赤色光吸収層における900nm~1700nmの波長領域の光線透過率が70%以上である、
請求項1または請求項2に記載の赤外線透過製品。
【請求項4】
前記基材は、
透明樹脂により構成された基材本体と、
前記基材本体の後面に設けられ、可視光を吸収する可視光吸収層と、を備える、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の赤外線透過製品。
【請求項5】
前記赤色光吸収層は、前記基材の後面のうち、前記照射部の前方部分に設けられるとともに前記受光部の前方部分には設けられていない、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の赤外線透過製品。
【請求項6】
前記赤色光吸収層は、前記赤色光を吸収する染料が透明樹脂に配合して構成された塗膜層である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の赤外線透過製品。
【請求項7】
前記赤外線検出装置は、車両の運転者を監視するシステムを構成する赤外線カメラ装置であり、
前記照射部は、前記運転者を照明するために前記運転者に対して赤外線を照射するものであり、
前記受光部は、前記運転者からの赤外線を受光するものであり、
前記本体部は、前記運転者と、前記照射部及び前記受光部との間において前記照射部及び前記受光部を覆うカバーを構成している、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の赤外線透過製品。
【請求項8】
赤外線検出装置における赤外線の照射部を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部を備える赤外線透過製品であって、
前記本体部は、可視光を吸収する基材と、
前記照射部からの赤外線の進行方向における前記基材の後面に設けられ、700nm~900nmの波長領域の赤色光の透過を抑制する赤色光吸収層と、を備える、
赤外線透過製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線透過製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転者監視システムを搭載する車両が提案されている。運転者監視システムは、車内に搭載された赤外線カメラを用いて運転者を撮影するとともに、撮影した画像を解析することによって、運転者の目の動きや顔の向きを検出する。そして、検出した目の動きや顔の向きに基づいて、運転者が脇見や居眠り運転を行っているか否かを監視する。
【0003】
特許文献1には、こうした運転者監視システムを構成する運転者支援モジュール(以下、支援モジュール)が開示されている。この支援モジュールにおいては、自動車のステアリングのスポークに、運転者に向けて赤外線を照射する発光ダイオードが設けられている。この支援モジュールは、発光ダイオードを覆う外壁を有している。この外壁は、赤外線が透過する半透明部分を有している。
【0004】
発光ダイオードにより運転者に対して赤外線が照射されることによって、赤外線カメラにより撮影される画像の鮮明性が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
赤外線は、700nm~1mmの波長を有する電磁波である。発光ダイオードから照射される赤外線には、700nm~900nmの波長領域の赤色光が含まれている。そのため、特許文献1に記載の支援モジュールにおいては、発光ダイオードから照射される赤外線に含まれる赤色光が外壁の半透明部分を通じて運転者に視認される。その結果、発光ダイオードを含む支援モジュールの存在を運転者に認識させることになり、赤外線カメラによって監視されているという心理的抵抗感を運転者に与えるおそれがある。
【0007】
また、上記半透明部分が赤色に光ることで車両の内装部品の意匠性、ひいては商品性を損なうおそれがある。
なお、こうした問題は、車両の運転者を監視するシステムに用いられる赤外線透過製品に限定されるものではなく、赤外線検出装置における赤外線の照射部を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部を備える赤外線透過製品においては共通して生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための赤外線透過製品は、赤外線検出装置における赤外線の照射部及び受光部の双方を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部を備える。前記本体部は、可視光を吸収する基材と、前記照射部からの赤外線の進行方向における前記基材の後面に設けられ、700nm~900nmの波長領域の赤色光を吸収する赤色光吸収層と、を備える。
【0009】
同構成によれば、照射部及び受光部の双方が本体部によって覆われる。本体部は、基材と赤色光吸収層とによって構成されている。このため、基材によって可視光が吸収されることにより、照射部及び受光部が視認されにくい。また、赤色光吸収層によって700nm~900nmの波長領域の赤色光が吸収されることにより、照射部から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部を通じて視認されることを抑制できる。したがって、本体部を通じて赤色光が視認されることを抑制することができる。
【0010】
上記赤外線透過製品において、前記赤色光吸収層における前記波長領域の光線透過率が、10%以下であることが好ましい。
同構成によれば、照射部から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部を通じて視認されることを効果的に抑制できる。
【0011】
上記赤外線透過製品において、前記赤色光吸収層における900nm~1700nmの波長領域の光線透過率が70%以上であることが好ましい。
同構成によれば、照射部から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部を通じて視認されることを抑制しつつ、赤外線検出装置による赤外線の検出精度を確保することができる。
【0012】
上記赤外線透過製品において、前記基材は、透明樹脂により構成された基材本体と、前記基材本体の後面に設けられ、可視光を吸収する可視光吸収層と、を備えることが好ましい。
【0013】
同構成によれば、基材が、基材本体と可視光吸収層とによって構成されている。このため、基材全体に、可視光を吸収する材料を配合する場合に比べて、材料の使用量を低減することができる。
【0014】
上記赤外線透過製品において、前記赤色光吸収層は、前記基材の後面のうち、前記照射部の前方部分に設けられるとともに前記受光部の前方部分には設けられていないことが好ましい。
【0015】
同構成によれば、基材の後面のうち、照射部の前方部分には、赤色光吸収層が設けられている。このため、照射部から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部を通じて視認されることを抑制できる。
【0016】
また、基材の後面のうち、受光部の前方部分には赤色光吸収層が設けられていない。このため、受光部に向かう赤外線が本体部を通過する際に吸収されることを抑制できる。これにより、赤外線検出装置の検出精度の低下を抑制することができる。
【0017】
また、基材の後面全体に赤色光吸収層を設ける場合に比べて、赤色光吸収層の材料の使用量を低減することができる。
上記赤外線透過製品において、前記赤色光吸収層は、前記赤色光を吸収する染料が透明樹脂に配合して構成された塗膜層であることが好ましい。
【0018】
同構成によれば、基材の後面に赤色光吸収層を部分的に形成することが容易にできる。
上記赤外線透過製品において、前記赤外線検出装置は、車両の運転者を監視するシステムを構成する赤外線カメラ装置であり、前記照射部は、前記運転者を照明するために前記運転者に対して赤外線を照射するものであり、前記受光部は、前記運転者からの赤外線を受光するものであり、前記本体部は、前記運転者と、前記照射部及び前記受光部との間において前記照射部及び前記受光部を覆うカバーであることが好ましい。
【0019】
同構成によれば、本体部を通じて赤色光が視認されることを抑制することができるため、赤外線カメラ装置の存在が運転者に認識されることを抑制できる。また、カバーを含む車両の内装部品の意匠性を高めることができる。
【0020】
また、上記課題を解決するための赤外線透過製品は、赤外線検出装置における赤外線の照射部を覆うとともに赤外線の透過性を有する本体部を備える。前記本体部は、可視光を吸収する基材と、前記照射部からの赤外線の進行方向における前記基材の後面に設けられ、700nm~900nmの波長領域の赤色光の透過を抑制する赤色光吸収層と、を備える。
【0021】
同構成によれば、照射部が本体部によって覆われる。本体部は、基材と赤色光吸収層とによって構成されている。このため、基材によって可視光が吸収されることにより、照射部が視認されにくい。また、赤色光吸収層によって700nm~900nmの波長領域の赤色光の透過が抑制されることにより、照射部から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部を通じて視認されることを抑制できる。したがって、本体部を通じて赤色光が視認されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、本体部を通じて赤色光が視認されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】車両の運転席に着座するとともにステアリングホイールを把持する運転者を示す側面図。
【
図3】ステアリングホイールのカバーを中心に示す拡大正面図。
【
図5】波長とカバーの光線透過率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1~
図5を参照して、赤外線透過製品の一実施形態について説明する。
本実施形態では、車両のステアリングホイールに搭載される赤外線カメラ装置90のカバー10として赤外線透過製品を具体化している。赤外線カメラ装置90は、車両の運転者Dを監視するシステムを構成する。
【0025】
図1に示すように、車両の運転席80の前方には、操舵装置を構成するステアリングホイール81が設けられている。
図2に示すように、ステアリングホイール81は、リング部82、パッド部83及びスポーク部84を備えている。
【0026】
リング部82は、運転者Dによって把持されて回転操作される部分である。
パッド部83は、リング部82によって囲まれた空間に配置されている。
スポーク部84は、リング部82とパッド部83との間であってリング部82の軸線の周りの1箇所又は複数箇所(
図2では3箇所)に設けられている。
【0027】
ステアリングホイール81は、エアバッグ装置85を備えている。上記パッド部83は、エアバッグ装置85の一部を構成している。
パッド部83の中央には、貫通孔83aが設けられている。
【0028】
図3及び
図4に示すように、パッド部83の内部には、赤外線カメラ装置90における赤外線の照射部91及び受光部92が設けられている。
パッド部83には、貫通孔83aを閉塞するとともに照射部91及び受光部92を覆う本体部11を有するカバー10が取り付けられている(
図2参照)。本体部11は、赤外線の透過性を有している。なお、カバー10は、カバー10を貫通孔83aに取り付けるための図示しない取付部を有している。
【0029】
本体部11は、運転者Dと、照射部91及び受光部92との間に位置している。
照射部91は、運転者Dを照明するために運転者Dに対して赤外線を照射するものである。照射部91は、例えば発光ダイオード(LED)である。照射部91から照射される赤外線の中心波長は940nmである。
【0030】
受光部92は、運転者Dからの赤外線を受光するものである。
照射部91と受光部92とは、互いに間隔をおいて配置されている。本実施形態では、照射部91と受光部92とが車幅方向(
図3及び
図4の左右方向)において並んで配置されている。
【0031】
なお、以降において、照射部91からの赤外線の進行方向における前方及び後方を単に前方及び後方として説明する。
図4に示すように、本体部11は、可視光を吸収する基材20と、基材20の後面に設けられるとともに700nm~900nmの波長領域の赤色光を吸収する赤色光吸収層30とを備えている。
【0032】
基材20は、透明樹脂により構成された基材本体21と、基材本体21の後面に設けられ、可視光を吸収する可視光吸収層22とを備えている。
基材本体21を構成する透明樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマー、樹脂ガラスなどが挙げられる。
【0033】
<可視光吸収層22>
可視光吸収層22は、基材本体21の後面の全体にわたって設けられている。
可視光吸収層22は、可視光を吸収するとともに赤外線の透過性を有する。
【0034】
可視光吸収層22は、黒色の塗膜層によって構成されている。塗膜層は、それぞれ赤外線の透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料を透明樹脂に配合することにより形成されている。可視光吸収層22には、必要に応じて硬化剤が用いられてもよい。
【0035】
透明樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート及びメラミン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種を主成分とする。なお、「主成分」とは、その材料の特性に影響を与える成分を意味し、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上である。
【0036】
硬化剤は、上記透明樹脂の材料に応じて適宜用いられる。透明樹脂としてエポキシ樹脂を主成分とするものが用いられる場合、硬化剤としては、例えば、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。透明樹脂として、エポキシ樹脂以外を主成分とするものが用いられる場合、硬化剤は省略可能である。
【0037】
また、上記硬化剤としては、その目的及び用途によっては、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤以外に、他の硬化剤を用いることができる。このような硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、上記酸無水物系硬化剤をアルコールで部分エステル化したもの、又は、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸の硬化剤等が挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられてもよく、さらには、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤と併せて用いられてもよい。
【0038】
染顔料としては、以下の染料と、以下の着色顔料として使用可能な全ての顔料とからなる群から選ばれたものが用いられている。
染料としては、例えば、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、キノリン染料、クロム染料、スレン染料、トリフェニルメタン染料、フタロシアニン染料、プロシオン染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料及びレマゾール染料が挙げられる。
【0039】
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、焼成顔料、イソインドリノン、イソイン、ドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジケトピロロピロール、ペリノン、ペリレン、インジゴイド、キナクリドン、ジオキサジン及びフタロシアニンが挙げられる。なかでも、可視光吸収層22への均一な分散を容易に図るうえでは、油溶性の染顔料が好ましい。
【0040】
上記染顔料の群から、次の条件を満たす2種類以上の染顔料が選択されて使用される。
・単体では、黒色以外の色であるが、混合されると黒色になること。黒色は、光を反射することなく全ての色を吸収及び遮断する色である。
【0041】
・各染顔料が、互いに異なる特定の領域で可視光を吸収できない特性を有していること。
・単独では吸収できない可視光を、混ざり合うことによって吸収し合うことが可能であること。
【0042】
具体的には、補色関係にある色の染顔料が選ばれる。例えば、紫色の染顔料と、緑色の染顔料との組合せが挙げられる。紫色の染顔料は、例えば、赤色の染顔料と青色の染顔料とを混合することにより得られる。また、緑色の染顔料は、例えば、黄色の染顔料と青色の染顔料とを混合することにより得られる。
【0043】
なお、硬化剤が用いられる場合には、硬化促進剤が併用されてもよい。また、赤外線を透過する特性等を補完する目的で、酸化防止剤、劣化防止剤、変性剤、カップリング剤、脱泡剤、レベリング剤、離型剤等が適宜用いられてもよい。
【0044】
可視光吸収層22は、5μm~50μmの厚みを有している。可視光吸収層22では、透明樹脂100質量部に対し、染顔料が全体で50~150質量部含有されている。
上記のように構成された可視光吸収層22では、400nm~600nmの波長領域における光線透過率が10%以下となる。また、800nm~1700nmの波長領域における光線透過率が70%以上となる。なお、ここでの光線透過率は、上記波長領域における平均値である。
【0045】
<赤色光吸収層30>
赤色光吸収層30は、基材20の後面、すなわち可視光吸収層22の後面のうち、照射部91の前方部分に設けられるとともに受光部92の前方部分には設けられていない。
【0046】
赤色光吸収層30は、赤色光を吸収する染料が透明樹脂に配合して構成された塗膜層である。赤色光吸収層30には、必要に応じて硬化剤が用いられてもよい。
透明樹脂及び硬化剤としては、可視光吸収層22を構成する透明樹脂及び硬化剤と同様な材料を採用することができる。
【0047】
染料は、近赤外線吸収色素である。この染料の化学名は、1-{2,2-ビス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]ビニル}-3,3-ビス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]プロパ-2-エン-1-イリウム=p-トルエンスルホナートである。
【0048】
赤色光吸収層30は、10μm~100μmの厚みを有している。赤色光吸収層30では、透明樹脂100質量部に対し、染料が全体で3.0~10.0質量部含有されている。
【0049】
上記のように構成された赤色光吸収層30では、700nm~900nmの波長領域における光線透過率が10%以下となる。また、赤色光吸収層30における900nm~1700nmの波長領域の光線透過率が、70%以上となる。なお、ここでの光線透過率は、上記波長領域における平均値である。
【0050】
<実施例>
次に、表1を参照して、赤色光吸収層30の実施例について説明する。
【0051】
【表1】
本実施例では、900nmの波長の光線透過率が10%以下であることを条件1としている。また、940nmの波長の赤外線の光線透過率が70%以上であることを条件2としている。
【0052】
表1において、条件1及び条件2の双方を満たしている場合には「〇」と表記し、条件1のみ満たしている場合は「△1」と表記し、条件2のみ満たしている場合は「△2」と表記している。また、条件1及び条件2の双方を満たしていない場合には「×」と表記している。
【0053】
表1に示すように、赤色光吸収層30における染料添加量(以下、単に染料添加量)が1.0%の場合、塗膜層の膜厚が15μm~80μmでは、条件2のみを満たす結果となった(△2)。また、塗膜層の膜厚が85μmでは、条件1及び条件2の双方を満たす結果となった(〇)。
【0054】
染料添加量が2.0%の場合、塗膜層の膜厚が15μm~20μmでは、条件2のみを満たす結果となった(△2)。また、塗膜層の膜厚が30μm~60μmでは、条件1及び条件2の双方を満たす結果となった(〇)。また、塗膜層の膜厚が70μm~85μmでは、条件1のみを満たす結果となった(△1)。
【0055】
染料添加量が3.0%の場合、塗膜層の膜厚が15μm~40μmでは、条件1及び条件2の双方を満たす結果となった(〇)。また、塗膜層の膜厚が50μm~85μmでは、条件1のみを満たす結果となった(△1)。
【0056】
なお、染料添加量が3.5%、4.0%の場合、染料が溶解せず、塗料を形成することができなかった。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0057】
図5に、光線の波長と本実施形態のカバー10の光線透過率との関係を実線にて示す。また、光線の波長と比較例のカバーの光線透過率との関係を二点鎖線にて示す。比較例のカバーは、基材20のみを備えているものであり、赤色光吸収層30を備えていない。
【0058】
図5に示すように、本実施形態のカバー10の場合、基材20によって可視光が吸収される。これにより、照射部91及び受光部92が視認されにくくなる。なお、この作用については、比較例のカバーも同様である。
【0059】
ただし、本実施形態のカバー10の場合、赤色光吸収層30によって700nm~900nmの波長領域の赤色光が吸収される。これにより、照射部91から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部11を通じて視認されることを抑制できる。
【0060】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)カバー10は、赤外線の透過性を有する本体部11を備える。本体部11は、可視光を吸収する基材20と、照射部91からの赤外線の進行方向における基材20の後面に設けられ、700nm~900nmの波長領域の赤色光を吸収する赤色光吸収層30とを備える。
【0061】
こうした構成によれば、上記作用を奏することから、本体部11を通じて赤色光が視認されることを抑制することができる。
(2)赤色光吸収層30における700nm~900nmの波長領域の光線透過率が、10%以下である。
【0062】
こうした構成によれば、照射部91から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部11を通じて視認されることを効果的に抑制できる。
(3)赤色光吸収層30における900nm~1700nmの波長領域の光線透過率が70%以上である。
【0063】
こうした構成によれば、照射部91から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部11を通じて視認されることを抑制しつつ、赤外線カメラ装置90による赤外線の検出精度を確保することができる。
【0064】
(4)基材20は、透明樹脂により構成された基材本体21と、基材本体21の後面に設けられ、可視光を吸収する可視光吸収層22とを備える。
こうした構成によれば、基材20全体に、可視光を吸収する材料を配合する場合に比べて、材料の使用量を低減することができる。
【0065】
(5)赤色光吸収層30は、基材20の後面のうち、照射部91の前方部分に設けられるとともに受光部92の前方部分には設けられていない。
こうした構成によれば、基材20の後面のうち、照射部91の前方部分には、赤色光吸収層30が設けられている。このため、照射部91から照射される赤外線に含まれる赤色光が本体部11を通じて視認されることを抑制できる。
【0066】
また、基材20の後面のうち、受光部92の前方部分には赤色光吸収層30が設けられていない。このため、受光部92に向かう赤外線が本体部11を通過する際に吸収されることを抑制できる。これにより、赤外線カメラ装置90の検出精度の低下を抑制することができる。
【0067】
また、基材20の後面全体に赤色光吸収層30を設ける場合に比べて、赤色光吸収層30の材料の使用量を低減することができる。
(6)赤色光吸収層30は、赤色光を吸収する染料が透明樹脂に配合して構成された塗膜層である。
【0068】
こうした構成によれば、基材20の後面に赤色光吸収層30を部分的に形成することが容易にできる。
(7)赤外線検出装置は、車両の運転者Dを監視するシステムを構成する赤外線カメラ装置90である。照射部91は、運転者Dを照明するために運転者Dに対して赤外線を照射するものである。受光部92は、運転者Dからの赤外線を受光するものである。本体部11は、運転者Dと、照射部91及び受光部92との間において照射部91及び受光部92を覆うカバー10を構成している。
【0069】
こうした構成によれば、本体部11を通じて赤色光が視認されることを抑制することができるため、赤外線カメラ装置90の存在が運転者に認識されることを抑制できる。また、カバー10を含む車両の内装部品の意匠性を高めることができる。
【0070】
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0071】
・赤色光吸収層30は塗膜層に限定されず、シート材によって構成されていてもよい。この場合、基材20の後面に対してシート材を接着すればよい。この場合であっても、上記作用効果(1)~(5)、(7)と同様な作用効果を奏することができる。
【0072】
・基材20の後面全体に赤色光吸収層30を設けるようにしてもよい。この場合であっても、上記作用効果(1)~(4)、(6)、(7)と同様な作用効果を奏することができる。
【0073】
・基材20は、基材本体21と可視光吸収層22の双方を備えるものに限定されない。すなわち、可視光吸収層22を省略し、基材本体全体が可視光を吸収する構成とすることもできる。
【0074】
・本体部11を通じて赤色光が視認されることを抑制することができるのであれば、赤色光吸収層30における700nm~900nmの波長領域の光線透過率は10%以上であってもよい。
【0075】
・赤外線カメラ装置90に求められる検出精度を確保できるのであれば、赤色光吸収層30における900nm~1700nmの波長領域の光線透過率は70%未満であってもよい。
【0076】
・赤外線カメラ装置90の照射部91及び受光部92は、ステアリングホイール81のパッド部83の内部に設けられるものに限定されず、パッド部83の外部に設けることもできる。また、赤外線カメラ装置90の照射部91及び受光部92は、車両のインストルメントパネルに設けることもできる。この場合、カバー10もインストルメントパネルの一部を構成することとなる。
【0077】
・本発明に係る赤外線透過製品は、車両の運転者Dを監視するシステムを構成する赤外線カメラ装置90の照射部91及び受光部92を覆うカバー10に限定されない。他に例えば、車両の周辺の状況を検出するために同車両に搭載される赤外線検出装置の照射部及び受光部を覆うカバーとして具体化することもできる。
【0078】
・本発明に係る赤外線透過製品は、赤外線検出装置の照射部及び受光部の双方を覆うものに限定されず、少なくとも照射部を覆うものであればよく、受光部を覆っていないものであってもよい。この場合、赤色光吸収層を備えていない他の赤外線透過製品によって受光部を覆うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…カバー(赤外線透過製品)
11…本体部
20…基材
21…基材本体
22…可視光吸収層
30…赤色光吸収層
80…運転席
81…ステアリングホイール
82…リング部
83…パッド部
83a…貫通孔
84…スポーク部
85…エアバッグ装置
90…赤外線カメラ装置
91…照射部
92…受光部