(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171006
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】歯科照明装置、及び、歯科ユニット
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20221104BHJP
A61C 1/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61C19/00 E
A61C1/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077360
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊坂 友和
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052LL09
(57)【要約】
【課題】効率よくエアロゾルの拡散を抑制することができる歯科照明装置を提供する。
【解決手段】照明部を有し、さらに、空気を出射するエア出射部を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科ユニットに備えられる、照明部を有する歯科照明装置であって、
空気を出射するエア出射部を備える、
歯科照明装置。
【請求項2】
前記エア出射部が前記照明部の外周部の少なくとも一部に配置されている請求項1に記載の歯科照明装置。
【請求項3】
ハンドピース及び請求項1又は2に記載の歯科照明装置を備え、
前記エア出射部からのエアの出射開始及び出射停止が、前記照明部の点灯及び消灯、及び/又はハンドピースの作動及び停止、に連動して自動に行われる、
歯科ユニット。
【請求項4】
ハンドピース及び請求項1又は2に記載の歯科照明装置を備え、
前記エア出射部から出射される空気は、前記ハンドピースへの空気供給源と同じ供給源から供給される、
歯科ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療等の際に患者を照明する無影灯等の歯科照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療では冷却や潤滑の観点から口腔内に水を供給しつつ治療を行うことがある。口腔内に供給した水はハンドピースバキュームや口腔外バキュームで吸引するが全てを吸引することは難しく、その一部が微小な粒子となって浮遊し空気と混合してエアロゾルとなる。飛散、拡散したエアロゾルは治療室内に浮遊したり堆積したりするため、衛生面や感染の観点からできるだけ減らすことが好ましい。
【0003】
特許文献1には層流化したエアを患者の口元付近へ流し、口腔付近の有害分子の拡散を遮蔽するエアマスクが開示されている。また、特許文献2には口腔外バキュームと一体的に移動可能なエアホースからエアカーテンを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-018164号公報
【特許文献2】特開2004-033474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術ではエアロゾルの吸引やそのための設備、施術者の手間等の観点から必ずしも効率が十分であるとは言えなかった。
【0006】
そこで本開示は、効率よくエアロゾルの拡散を抑制することができる歯科照明装置を提供することを課題とする。また、この歯科照明装置を備える歯科ユニットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの態様は、歯科ユニットに備えられる、照明部を有する歯科照明装置であって、空気を出射するエア出射部を備える、歯科照明装置である。
【0008】
エア出射部が照明部の外周部の少なくとも一部に配置されているように構成してもよい。
【0009】
本開示の他の態様は、ハンドピース及び上記歯科照明装置を備え、エア出射部からのエアの出射開始及び出射停止が、照明部の点灯及び消灯、及び/又はハンドピースの作動及び停止、に連動して自動に行われる、歯科ユニットである。
【0010】
本開示の他の態様は、ハンドピース及び上記歯科照明装置を備え、エア出射部から出射される空気は、ハンドピースへの空気供給源と同じ供給源から供給される、歯科ユニットである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、歯科照明装置から出射されるエアによりエアカーテンが形成されるため、必要なタイミングで的確な範囲及び位置にエアカーテンが形成され、効率よくエアロゾルの拡散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、歯科照明装置10の外観斜視図である。
【
図5】
図5は、エア出射部20の断面図であり、エアカーテンが先細りになる例である。
【
図6】
図6は、エア出射部20の断面図であり、エアカーテンが末広がりとなる例である。
【
図7】
図7は、エア出射部20の断面図であり、エアカーテンが形成される場面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本開示はこれら形態に限定されるものではない。
【0014】
1.歯科ユニットの構造
図1は、1つの形態にかかる歯科ユニット1を側面から見た図である。
図1からわかるように、歯科ユニット1は、基台2、患者用椅子3、ドクターユニット4、アシスタントユニット5、及び歯科照明装置10を備えている。
【0015】
1.1.基台
基台2は患者用椅子3の下方に配置されており、患者用椅子3の土台となるものである。基台2は、筐体により外郭が形成されるとともに、該筐体の内側には、各種制御機器が内包されている。ここに含まれる制御機器としては、例えば、患者用椅子3の昇降、傾倒起立等をさせるための油圧回路、及び該油圧回路を制御する油圧制御手段を挙げることができる。従って、基台2のうち、患者用椅子3の背面側には、フットスイッチが設けられる。施術者はこのフットスイッチやドクターユニット4の操作パネルの操作スイッチを操作して油圧制御手段に対して指令を出し、油圧回路を制御して患者用椅子3の昇降、傾倒起立をさせることができる。
【0016】
1.2.患者用椅子
患者用椅子3は、公知の通りであるが、着座部、背もたれ、ヘッドレスト、レッグレスト、及びフットレストを備えており、基台2に配置された油圧回路により上記したように昇降、及び傾倒起立させることができるように構成されている。
【0017】
1.3.ドクターユニット
ドクターユニット4は、患者用椅子3の側方のうちアシスタントユニット5とは反対側の側方に設けられ、施術者が必要とする各器具やスイッチ等が備えられる作業台を有している。この作業台にはその上面に作業面を有するとともに、施術者が施術の際に使用するハンドピース群がホルダーに収められている。ハンドピース群に含まれるハンドピースとしては、例えば、エアタービン、マイクロモータ、スケーラ、シリンジ等を挙げることができる。作業台には、操作パネルが設けられてもよく、ここに各種操作スイッチ類が配置されており、例えば患者用椅子3の傾倒起立、昇降操作、歯科用照明10の点灯及び消灯の切り替え、ハンドピースの作動及び停止等が可能となっている。
そして、作業台はアームにより移動及び回動ができるように支持されており、施術者の移動に合わせて作業台も移動及び回動することが可能とされ、利便性の向上が図られている。
【0018】
1.4.アシスタントユニット
アシスタントユニット5は、患者用椅子3の側方のうちのドクターユニット4が配置された側とは反対側に設けられ、アシスタントハンガー5a、スピットン5b、及び出水部5cを備えている。
【0019】
アシスタントハンガー5aは、主にアシスタントが使用する器具が具備された部位であり、ハンガー部、及びハンガー支柱を備えている。ハンガー部には、例えばバキューム、排唾管、シリンジ等のハンドピースが懸架されている。そしてこのようなハンガー部がハンガー支柱により移動及び回動可能に支持されている。
【0020】
スピットン5bは、出水部5cから供給された水により治療中や治療後に患者がうがいをして、口腔内を洗浄するときに使用するものである。従って、スピットン5bは、うがいをした後の口腔内の水を吐き捨てるため、鉢状とされている。そしてスピットン5bに排出された唾液や水は、ウオーターユニット中の排水トラップを介して排出される。ここで、スピットン5bは、患者の正面側に向かって水平面内で回動可能とされている。これにより患者の目の前にスピットン5bを配置することができ、利便性を向上させている。
【0021】
出水部5cは、給水源からの水が流出する部位であり、治療中や治療後に患者がうがいをして、口腔内を洗浄するとき等に使用される。出水部5cでは、コップを置くことができるように構成されており、コップを置くと自動にコップに所定の水量の水が注がれる。このようにコップに自動に水が注がれる手段は公知の通りである。
【0022】
1.5.歯科照明装置
歯科照明装置10は、治療を行うときに的確に患者の口腔内を照明する装置であり、歯科照明装置10は、歯科用椅子3及びこれに伴う患者の姿勢、照明する位置に応じてその位置、角度を調整することにより施術者は患者の口腔内を適切に観察することができる。また、この照明装置は影ができ難い、いわゆる無影灯により構成されている。さらに本形態で歯科照明装置10はエアカーテンを形成することができるように構成されている。
図2に歯科照明装置10の外観斜視図、
図3には歯科照明装置10を正面(光が出射される方向)から見た図を示した。
図2、
図3からわかるように、歯科照明装置10は照明部11、取っ手部12、連結部13、及びエア出射部20を有している。なお、歯科照明装置10は、アーム15(
図1参照、自在継ぎ手等)により支柱16(
図1参照)に保持されており、歯科照明装置10が自由度高く移動回動可能とされている。
【0023】
1.5a.照明部
照明部11は、ここに光源が配置され、患者を照明する部分であり、無影灯により構成されている。このような照明部の形態は特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。
【0024】
1.5b.取っ手部
取っ手部12は、施術者が照明部11を必要な位置及び角度になるように移動及び回動させるためにここを掴んで操作する部位である。
取っ手部の形状は多岐に亘るものであり、その形状を1つのものに限定することはできないが、通常、照明部11を正面視したとき(照らされる方向から見たとき、
図2参照)、取っ手部12は照明部の左右側のそれぞれに設けられ、上下方向、左右方向、又は、奥-手前方向に延びる把持部を備えている。施術者は通常、取っ手部12のうちこの把持部をもって照明部を動かす。
例えば
図2、
図3に示した例では、照明部11の正面視で、取っ手部12は照明部11の左右のそれぞれに配置され、照明部11の正面視で上下方向に延びる把持部12aが設けられている。
【0025】
1.5c.連結部
連結部13はアーム15と歯科照明装置10とを連結する部材である。この連結部13も様々な形態を考えることができ、形状を1つに限定することはできないが、本形態ではアーム15と照明部11とを連結する。
本形態では、連結部13は、歯科照明装置10の正面視で照明部11の左右のそれぞれで該照明部11に連結し、照明部11の後方(照明光が出射される側とは反対側)でこれが1つにつながってアーム15に連結している。
ただし、これに限らずこの他にも、照明部の背面(照明光が出射される側とは反対側の面)に連結部が設けられ、これがアームに連結する形態もある。
【0026】
1.5d.エア出射部
[エア出射部の形態]
エア出射部20は、エア(空気)を出射する部位である。本形態のエア出射部20は、
図2、
図3からわかるように、照明部11の正面視で照明部11の外周縁に沿って配置され、照明部11からの出光方向にエアを出射することができるようの構成されている。従って、本形態でエア出射部20は環状であり、ここから出射されるエアにより形成されるエアカーテンは筒状となる。
【0027】
図4には
図3にIV-IVで切断した矢視断面図のうち、エア出射部20を表した。
図2~
図4よりわかるようにエア出射部20は環状の部材であり、その内部には当該エア出射部20の環状に沿って延びる流路からなりエアが流れる環状のエア流路21、及び、エア流路21からはエアを出射する出射口20aを形成するエア出射路22が設けられている。また、エア出射部20にはエア流路21にエアを供給するエア供給路23が設けられている。本形態でこのエア供給路23はハンドピースにエアを供給するエア供給源と同じエア供給源に接続される。
【0028】
ここで、
図4にAで示したエア流路21の流路幅は、出射口20aを形成する
図4にBで示したエア出射路22の流路幅よりも大きいことが好ましい。これにより、安定したエアの出射及びエアカーテンの形成が可能となる。
また、エア出射路22の流路幅Bの大きさは特に限定されることはなく、エアカーテンの厚さとエアカーテンの筒状である形状が患者の顔面に届くまで維持できるものであればよい。なお、流路幅Bの大きさを使用者が変更することができるように構成されていてもよい。
【0029】
また、
図4の形態では、エア出射部20の環の軸線方向とエア出射路22によるエア出射方向が概ね平行であるため、形成される筒状のエアカーテンの内径は概ね一定であるが、本開示はこれに限られない。
図5に示した例では、エア出射路22によるエア出射方向(一点鎖線で表示)がエア出射部20の軸線に近づく方向となるように構成されているため、形成される筒状のエアカーテンの内径はエア出射部20から離れるにつれて小さくなるような円錐筒の一部の形態となる。すなわち先細りとなる。これによれば、筒状のエアカーテンの内側が狭く絞られるためエアカーテン内のエアロゾルを吸引し易くなる。
また、
図6に示した例では、エア出射路22によるエア出射方向(一点鎖線で表示)がエア出射部20の軸線にから離隔する方向となるように構成されているため、形成される筒状のエアカーテンの内径はエア出射部20から離れるにつれて大きくなるような円錐筒の一部の形態となる。すなわち末広がりとなる。これによれば、筒状のエアカーテンの内側が広くなるため広い範囲のエアロゾルをエアカーテン内に含めることができる。
図4~
図6のいずれのエア出射部とするかはエア出射部が配置される照明部11の大きさと形成すべきエアカーテンの大きさとの関係で適宜決めることができる。
【0030】
また、エア出射部20の外面のうち、出射口20aが設けられている部位の近傍は、該出射口20aに向けて細くなるように形成されている。そのため、本形態では
図4に表れているように、出射口20aに隣接してテーパ面20b及びテーパ面20cが設けられている。これにより、出射口20aから出射したエアによる渦が発生し難くなるとともに、出射口20aから出射したエアが周囲の空気を引き込んで(コアンダ効果)より安定したエアカーテンを形成することができる。
テーパ面20bが、エア出射路22によるエア出射方向(一点鎖線で表示)に対して成す角αは特に限定されることはないが、30°~60°であることが好ましい。同様にテーパ面20cが、エア出射路22によるエア出射方向(一点鎖線で表示)に対して成す角βは特に限定されることはないが、30°~60°であることが好ましい。
【0031】
[エア出射の開始及び停止手段]
エア出射部20からのエアの出射はエア供給路23にエアを供給することにより行うことができる。従って、例えばエア出射部20にエアを供給及び停止するためのスイッチを歯科ユニット1のいずれかの部分(例えばドクターユニット4や歯科照明装置10)に設ければ、施術者が所望するときにエアの出射及び停止が可能となる。
これに加え、又は、これに代えて、エア出射部20へのエアの供給及び停止が照明部11の点灯及び消灯に連動、及び/又は、ハンドピースの作動及び停止に連動するように構成してもよい。エアロゾルの発生は通常口腔内の施術の際に生じるため、この時に用いられる手段の作動及び停止に連動させることにより、施術者はエアカーテン形成のための個別の作業をする必要がなく施術者の手間を軽減することが可能となる。
【0032】
2.歯科ユニットによるエアカーテンの形成
以上説明した歯科ユニット1によれば、次のようにしてエアカーテンを形成することができる。例えば、エア出射部20のエア供給路23へのエアの供給及び停止を照明部11の点灯及び消灯に連動させた場合を考える。施術者は、施術のため歯科照明装置10を患者に向け、患者の口腔内を照らすべく照明部11を点灯する。するとこれに連動してエア出射部20のエア供給部23にエアが供給され、
図7に示したように出射口20aからエアが出射されて
図7にCで示したように筒状のエアカーテンCが形成される。従って、施術中は、患者に向けて照明及びエアカーテンCが出射されることになる。施術中に発生したエアロゾルはエアカーテンCにより拡散が抑えられ、拡散が抑えられたエアロゾルは既設のバキューム等により吸引される。ここで形成されるエアカーテンCを構成する空気の流れは、患者の顔面まで整った形状のエアカーテンCを形成しやすい観点から層流であることが好ましい。
その後施術を終えて照明部11を消灯すると、これに連動して出射部20のエア供給部23へのエア供給が停止され、形成されていたエアカーテンCも消失する。
【0033】
3.効果等
以上説明したように本開示の歯科照明装置10及びこれを備える歯科ユニット1によれば、患者に向けてエアカーテンを形成することができ、エアロゾルの拡散を抑え、拡散が抑えられたエアロゾルがもともと設置されたバキューム(吸引機)に吸い込まれやすくなり、エアロゾルの拡散を抑制することができる。
このとき本開示では歯科照明装置10にエア出射部20が配置されており、歯科照明装置はもともと患者の口腔に向けて使用されることから、エア出射部20は個別に患者に向けるための操作を必要とすることなく、自動的に適切な位置への設置となる。
【0034】
本形態のようにエア出射部20を歯科照明装置10の外周に沿って環状に配置すれば、形成されるエアカーテンは筒状となり、発生したエアロゾルを当該筒状のエアカーテンの内側(
図7のDで示した部位)に留めさせることができ、より効率的にエアロゾルの拡散が抑えられ、この拡散が抑えられたエアロゾルがもともと設置されたバキューム(吸引機)に吸い込まれやすくなり、エアロゾルの拡散を抑制することができる。
なお、本形態ではエア出射部20を歯科照明装置10の照明部11の外周に沿って1周するように設けたが、これに限定されることはない、一部が欠けるように、又は、断続的にエア出射部20が照明部11の外周部に配置されてもよい。これによっても程度の差はあるが上記の効果と同様にエアロゾルの拡散を抑制することができる。
【0035】
また、エア出射部20からのエアの出射の開始及び停止を、照明部11の点灯及び消灯に連動、及び/又は、ハンドピースの作動及び停止に連動するように構成すれば、施術者はエア出射のための個別の作業する必要がなく、利便性を高めることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 歯科ユニット
2 基台
3 患者用椅子
4 ドクターユニット
5 アシスタントユニット
10 歯科照明装置
11 照明部
12 取っ手部
13 連結部
20 エア出射部