IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

特開2022-171011骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法
<>
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図1
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図2
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図3
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図4
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図5
  • 特開-骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171011
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20221104BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221104BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221104BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/6839 20180101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221104BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221104BHJP
【FI】
G01N33/48 M ZNA
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N33/50 M
G01N33/574 D
G01N33/574 Z
C12Q1/02
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6839 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077371
(22)【出願日】2021-04-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月6日以降公開日のタイトル「Osteosarcoma-Derived Small Extracellular Vesicles Enhance Tumor Metastasis and Suppress Osteoclastogenesis by miR-146a-5p」
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 弘行
(72)【発明者】
【氏名】華山 力成
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孟史
(72)【発明者】
【氏名】荒木 麗博
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045BA13
2G045BB25
2G045CB01
2G045CB02
2G045DA14
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ57
4B063QQ58
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法を提供することを課題とした。
【解決手段】骨腫瘍患者の生体試料の破骨細胞数及び特定のmiRNA発現量が予後と相関することを見出して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨腫瘍患者から採取した生体試料の破骨細胞数を測定することを特徴とする骨腫瘍患者の予後診断方法又は予後診断補助方法。
【請求項2】
前記測定は、前記生体試料の破骨細胞数を健常者から得られた生体試料中の破骨細胞数又はカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カットオフ値は、前記生体試料0.50 mm2~1.50 mm2当たり1000μm2以上の破骨細胞数が4個であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予後診断とは、以下のいずれか1である請求項1~3のいずれか1に記載の方法。
(1)転移
(2)再発
(3)無転移生存率
(4)無局所再発生存率
(5)無増悪生存率
(6)全生存率
【請求項5】
破骨細胞を染色する抗体を含む、骨腫瘍患者の予後診断キット。
【請求項6】
骨腫瘍患者から採取した生体試料中の以下のいずれか1以上のmiRNAの発現量を測定することを特徴とする骨腫瘍患者の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(1)hsa-miR-146a-5p
(2)hsa-miR-1260
(3)hsa-miR-487b-3p
(4)hsa-miR-6720-3p
(5)hsa-miR-1260b
(6)hsa-miR-4758-3p
(7)hsa-miR-4690-3p
(8)hsa-miR-4286
(9)hsa-miR-6765-3p
(10)hsa-miR-1261
(11)hsa-miR-7975
(12)hsa-miR-4664-5p
(13)hsa-miR-3907
(14)hsa-miR-7977
(15)hsa-miR-1273c
(16)hsa-miR-375-5p
【請求項7】
前記測定は、前記生体試料中のmiRNAの発現量を健常者から得られた生体試料中のmiRNAの発現量又はカットオフ値と比較して、高い場合には、予後不良と判定又は判定補助をすることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記予後診断とは、以下のいずれか1である請求項6又は7に記載の方法。
(1)転移
(2)再発
(3)無転移生存率
(4)無局所再発生存率
(5)無増悪生存率
(6)全生存率
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(骨腫瘍)
骨腫瘍は、骨に生じた異常な細胞の増殖物であり、がん(悪性)とそうでないもの(良性)がある。最初から骨に生じる場合である原発性の癌と他の器官に生じて骨に転移する転移性癌がある。
骨肉腫は、主に10歳代若年者に好発する原発生悪性骨腫瘍として最も頻度の高いものであるが、発生原因は不明である。日本における発生頻度は100万人に対して1人の発生率(1年間に130人から260人)といわれている。かつて切断術が唯一の治療選択肢であった時代、骨肉腫の2年生存率は15~20%であり、非常に予後の悪い疾患であった(参照:特許文献1)。
転移性骨腫瘍とは、癌が骨に転移したもの(骨転移)で、どの癌にも骨転移を起こす可能性がある。特に頻度の高いものには、肺癌、乳癌、前立腺癌、腎癌などがある(参照:金沢大学附属病院整形外科のHP(非特許文献1))。
【0003】
骨腫瘍の検査方法・予後診断方法としては、以下が報告されている。
特許文献2は、「癌に侵された患者の予後診断方法であって、以下のステップ:該患者から取得した生物学的サンプル中のGP88発現レベルを測定するステップを含む、上記方法。」を開示している。
特許文献3は、「Gs alpha遺伝子のArg201コドンに生じた変異を高感度に検出する事により、Gs alpha遺伝子変異により発症する疾患群を同定し、他の腫瘍性疾患と鑑別する方法であって、試料中のゲノムDNAのArg201コドンを含む領域を増幅するために第1の増幅反応を行うステップと、上記第1の増幅反応により得た産物を鋳型として、制限酵素EagIの切断部位を導入するためのミスマッチプライマーを用いた第2の増幅反応を行うステップと、上記第2の増幅反応により得た産物が、制限酵素EagIによって切断されなかった場合に変異が生じたと判定するステップとを含み、上記第1および第2の増幅反応において、正常アリルの増幅を抑制するためPNA(ペプチド核酸)プローブを添加することを特徴とする方法。」を開示している。
上記特許文献は、本発明の予後診断方法又は予後診断補助方法を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2018/074451号公報
【特許文献2】特開2015-158498号公報
【特許文献3】特開2008-092899号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】http://ortho.w3.kanazawa-u.ac.jp/patnt/pages/brn_tmr.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、骨腫瘍患者の生体試料の破骨細胞数及び特定のmiRNA発現量が予後と相関することを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.骨腫瘍患者から採取した生体試料の破骨細胞数を測定することを特徴とする骨腫瘍患者の予後診断方法又は予後診断補助方法。
2.前記測定は、前記生体試料の破骨細胞数を健常者から得られた生体試料中の破骨細胞数又はカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をすることを特徴とする前項1に記載の方法。
3.前記カットオフ値は、前記生体試料0.50 mm2~1.50 mm2当たり1000μm2以上の破骨細胞数が4個であることを特徴とする前項2に記載の方法。
4.前記予後診断とは、以下のいずれか1である前項1~3のいずれか1に記載の方法。
(1)転移
(2)再発
(3)無転移生存率
(4)無局所再発生存率
(5)無増悪生存率
(6)全生存率
5.破骨細胞を染色する抗体を含む、骨腫瘍患者の予後診断キット。
6.骨腫瘍患者から採取した生体試料中の以下のいずれか1以上のmiRNAの発現量を測定することを特徴とする骨腫瘍患者の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(1)hsa-miR-146a-5p
(2)hsa-miR-1260
(3)hsa-miR-487b-3p
(4)hsa-miR-6720-3p
(5)hsa-miR-1260b
(6)hsa-miR-4758-3p
(7)hsa-miR-4690-3p
(8)hsa-miR-4286
(9)hsa-miR-6765-3p
(10)hsa-miR-1261
(11)hsa-miR-7975
(12)hsa-miR-4664-5p
(13)hsa-miR-3907
(14)hsa-miR-7977
(15)hsa-miR-1273c
(16)hsa-miR-375-5p
7.前記測定は、前記生体試料中のmiRNAの発現量を健常者から得られた生体試料中のmiRNAの発現量又はカットオフ値と比較して、高い場合には、予後不良と判定又は判定補助をすることを特徴とする前項6に記載の方法。
8.前記予後診断とは、以下のいずれか1である前項6又は7に記載の方法。
(1)転移
(2)再発
(3)無転移生存率
(4)無局所再発生存率
(5)無増悪生存率
(6)全生存率
【発明の効果】
【0009】
本発明は、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】同所性移植マウスモデルにおけるSEV(Small Extracellular Vesicle: 細胞外小胞)抑制OS(OsteoSarcom:骨肉腫)の悪性度の低下。マウスOS LM8-WT(Wild Type)、TSG101-KO(Knock Out)1又はTSG101-KO2細胞を、C3H/Heマウスの遠位大腿骨に移植した。腫瘍が2,000mm3に成長したとき、大腿骨と肺をマウスから採取した。大腿骨を、Ki67(A)、CD31(C)又はVEGF(E)の免疫組織化学的染色を実施した。総細胞数当たりのKi67陽性細胞の数(B)、1 mm2当たりのCD31陽性血管の数(D)、及び1 mm2当たりのVEGF陽性領域の面積(F)を測定した。(G)肺をH&E染色した。転移巣の数(H)又は面積(I)を計算した。画像の倍率は、A、Eで40倍、Cで20倍、Gで10倍である。スケールバーは、A、Eで50 μm、Cで100 μm、Gで300 μmを示す。B、D、F、H、Iの値は、平均値±標準偏差で表す。* P<0.05、** P <0.01対WT(スチューデントのt検定)で示す。
図2】OS-SEVによる破骨細胞形成の抑制。(A)LM8-WT、TSG101-KO1又はTSG101-KO2細胞をC3H/Heマウスの遠位大腿骨に移植した。腫瘍が2,000mm3に成長したとき、大腿骨のカテプシンKの免疫組織化学的染色を実施した。画像を20倍の倍率で撮影した。画像のB、BM、M及びTは、それぞれ、骨、骨髄、骨幹端及び腫瘍を示す。スケールバーは100 μmを示す。(B)フィールド内のカテプシンK陽性細胞の面積を計算した。値は平均±標準偏差で示す。* P <0.05、** P <0.01、n.s (not significant)対sham又はWT(ボンフェローニ補正を使用したスチューデントのt検定)で示す。(C)OPC(1×105細胞)をPKH標識LM8-SEVの各用量を含む培地で24時間培養し、フローサイトメーターで分析した。(D)OPCをLM8-SEVの各用量を含む培地で2日間培養し、OPCの細胞生存率をWST-8アッセイで測定した。(E)OPCを、各SEV含有又は未含有、RANKL含有又は未含有の培地で5日間培養した。TRAP染色の画像を4倍の倍率で撮影した。スケールバーは500 μmを示す。(F、G)Eに示すTRAP陽性細胞の面積を測定した。フィールド当たり1,000-10,000 μm2のTRAP陽性領域を持つ小さなOC又は10,000 μm2以上のTRAP陽性領域を持つ大きなOCの数を測定した。(H)RANKL又はSEVの含有又は未含有の条件下で5日間培養したOPCにおけるTrap及びGapdh遺伝子の相対的発現をリアルタイムPCRによって検出した。Trap遺伝子の発現レベルを、Gapdh発現に対して正規化し、RANKL(-)、SEV(-)グループに対する相対値として表す。(D)、(F-H)の値は、平均値±標準偏差で表す。*P <0.05、** P <0.01対RANKL(+)、SEV(-)グループ(ボンフェローニ補正を使用したスチューデントのt検定)で示す。 n.d.は検出されなかったことを意味する。
図3】LM8-SEVによる破骨細胞形成及びNF-κB経路に関与する遺伝子の抑制。(A)OPCを、RANKL又はLM8-SEVの含有又は未含有の条件下で48時間刺激した。Nfatc1、c-fos、Atp6v0d2、Dcstamp、Ocstamp及びGapdh遺伝子の発現を、リアルタイムPCRによって検出した。各遺伝子の発現レベルをGapdh発現に対して正規化し、RANKL(-)及びSEV(-)グループに対する相対値として示す。値は平均±標準偏差で示す。* P <0.01対RANKL(+)、SEV(-)グループ(スチューデントのt検定)で示す。(B)RANKL又はLM8-SEVの含有又は未含有の条件下で48時間の刺激後、表面DC-STAMPを抗DC-STAMP抗体(1A2; Merck)で染色し、フローサイトメーターで分析した。(C)OPCを、SEV未含培地又は各SEVを含む培地で12時間前培養し、RANKLで指定時間刺激した。Pphospho-NF-κB、phospho-IκBα及びGAPDHをウエスタンブロットで検出した。バンド強度をGAPDHで正規化した。最大値のサンプルに対する相対値を棒グラフで表示する。
図4】miRNA(miR-146a-5p)によるTRAF6のダウンレギュレーションに依存する破骨細胞形成の抑制。(A)143B細胞又はHOS細胞から分泌されたCD9-、CD63-、又はCD81-陽性SEVをSEV-ELISAで検出した。値は平均±標準偏差で示す。 * P <0.01対143B細胞(スチューデントのt検定)で示す。(B)OPCを、各SEVの含有又は未含有又はRANKLの含有又は未含有の条件での培地で5日間培養した。Trap遺伝子、Nfatc1遺伝子、Ocstamp遺伝子及びGapdh遺伝子の相対的な発現を、リアルタイムPCRによって検出した。Trap発現、Nfatc1発現又はOcstamp発現をGapdh発現で正規化し、RANKL(-)、SEV(-)グループの相対値として示す。値を平均±標準偏差で表す。*P <0.01、n.s (not significant)対RANKL(+)、SEV(-)グループ又はRANKL(+)、143B-SEVグループ(ボンフェローニ補正を使用したスチューデントのt検定)で示す。(C)Small RNAを143B-SEV又はHOS-SEVから単離し、has miR-146A-5P及びU6を検出するリアルタイムPCRに使用した。hsa miR-146a-5p発現をU6発現で正規化し、HOS-SEVの相対値として表す。値は平均±標準偏差で表す。 * P <0.01対HOS-SEV(スチューデントのt検定)で表す。(D)OPCを、各SEVを含有又は未含有M-CSFを含む培地で2日間培養した。TRAF6及びGAPDHのタンパク質をウエスタンブロットで検出した。バンドの強度を、GAPDHで正規化した。SEV(-)に対する相対値をバーグラフで示す。(E、F)miR-control(miR-Ctrl)又はhsa miR-146a-5p mimicをOPCにトランスフェクトし、さらにM-CSFを含む培地で2日間培養した。Traf6及びGapdh遺伝子の相対的発現をリアルタイムPCRによって検出した。Traf6発現をGapdh発現で正規化し、miR-Ctrlの相対値として表す(E)。TRAF6とGAPDHのタンパク質をウエスタンブロットで検出した。バンドの強度を、GAPDHで正規化した。miR-Ctrlに対する相対値をバーグラフで示す(F)。(G)OPCをmiR-Ctrl又はhas miR-146a-5p mimicでトランスフェクトし、RANKLを含む培地で5日間培養した。TRAP染色の画像は4倍の倍率で撮影した。スケールバーは500 μmを示す。(H)(G)に示すTRAP陽性細胞の面積を測定した。フィールド当たり10,000 μm2以上の大きなOCの数を計算した。値を平均±標準偏差で表す。* P <0.01対miR-Ctrl(スチューデントのt検定)で表す。
図5】OS患者におけるOC数の減少と予後不良との関係。(A)生検標本は、最初の診断時に化学療法未経験のOS患者から収集され、カテプシンKのIHC染色にかけられた。画像を20倍の倍率で撮影した。スケールバーは100 μmを示す。OC(+)グループは「≧5 OC/フィールド」を示し、OC(-)グループは「<5 OC/フィールド」を示す。最初の診断時に遠隔転移のある患者は黒い部分として示す。(B-E)OC(+)グループ又はOC(-)グループの無転移生存期間(B)、無局所再発生存期間(C)、無増悪生存率(D)及び全生期間(E)を追跡調査した。比率と時間をKaplan-Meier曲線としてプロットした。 P値をOC(+)グループとOC(-)グループの間で計算した(ログランク検定)。
図6】悪性度の高いOS患者では、抑制性の高いSEVが多数存在し、破骨細胞形成を阻害し、血管新生と転移を促進する。悪性度の低いOS患者では、少数の抑制性の低いSEVが破骨細胞形成を阻害することがほとんどなく、転移の発生率が低下する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の対象)
本発明は以下を対象とする。
(1)生体試料の特定のサイズの破骨細胞数を測定する工程を含む、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(2)生体試料の特定の数以上の核を含む破骨細胞数を測定する工程を含む、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(3)生体試料のTrap遺伝子量を測定する工程を含む、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(4)生体試料の特定の16種類のmiRNA発現量を測定する工程を含む、骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法。
(5)OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する化合物のスクリーニング方法。
(6)OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を検出することを含む、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進する化合物のスクリーニング方法。
(7)Traf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する化合物のスクリーニング方法。
(8)Traf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を検出することを含む、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進する化合物のスクリーニング方法。
(9)Traf6の数減少及び/又は活性を抑制をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を促進する化合物のスクリーニング方法。
【0012】
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、及び2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
本明細書において「マイクロRNA(miRNA)」は、特に言及しない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNaseIII切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基のRNAを意図して用いられる。また該「miRNA」は特定の塩基配列(又は配列番号)で示される「miRNA」だけではなく、該「miRNA」の前駆体(pre-miRNA、pri-miRNA)を含有し、これらによってコードされるmiRNAと生物学的機能が同等であるmiRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「miRNA」も包含する。かかる前駆体、同族体、変異体又は誘導体をコードする「miRNA」としては、miRBase(http://www.mirbase.org/)により同定することができ、ストリンジェントな条件下で、特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「miRNA」を挙げることができる。
【0013】
(骨腫瘍)
本発明の骨腫瘍とは、骨肉腫及び転移性骨腫瘍を含む悪性骨腫瘍と、良性の骨腫瘍も含むが、その他の腫瘍も存在するため、これらに限定されない。
【0014】
(予後診断方法(補助方法))
本発明の「予後」とは、最初の骨腫瘍診断時又は外科的手術(治癒切除) 後の約24ヶ月、約36ヶ月、約60ヶ月、約96ヶ月、約120ヶ月、約180ヶ月、約240ヶ月、又は約360ヶ月において、転移率、再発率、無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率及び/又は全生存率を意味する。
すなわち、本発明の予後診断方法(補助方法)とは、最初の骨腫瘍診断時又は外科的手術(治癒切除) 後の所定の期間での転移、再発、無転移生存、無局所再発生存、無増悪生存及び/又は全生存の確率を診断する方法(診断を補助する方法)である。
本発明の「予後不良」とは、最初の骨腫瘍診断時又は外科的手術(治癒切除)後の所定の期間での転移、再発、無転移生存、無局所再発生存、無増悪生存及び/又は全生存が、以下で示すカットオフ値を示す骨腫瘍患者と比較して、有意に悪いことを示す(参照:図5)。
【0015】
(生体試料)
本発明の「生体試料」とは、破骨細胞、Trap 遺伝子及び/又は16種類の特定のmiRNAを含む生物学的試料であれば良く、特に限定されない。このような生物学的試料としては、一般に生体(骨腫瘍患者、骨腫瘍の疑いがある人)から採取した組織(腫瘍組織を含む)の他、血液、尿、涙、血清、糞便、射出精液、喀痰、唾液、脳脊髄液などが挙げられる。生体から採取した組織では、例えば手術・生検により得られた組織(腫瘍)の組織切除物、手術前の内視鏡検査により得られた組織の組織生検材料などが挙げられる。
特に、破骨細胞数、Trap 遺伝子を含む生体試料としては、骨腫瘍病変組織が好ましい。また、16種類の特定のmiRNAを含む生体試料としては、血液、尿、涙等の体液が好ましい。
【0016】
(生体試料中の特定のサイズの破骨細胞数を測定する工程を含む予後診断方法)
本発明の「生体試料中の特定のサイズの破骨細胞数を測定する工程を含む診断方法」とは、生体試料(特に、骨腫瘍病変組織)の破骨細胞数を健常者から得られた生体試料中の破骨細胞数又はカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をする。
より詳しくは、被験者由来の生体試料(特に、骨腫瘍病変組織)0.50 mm2~1.50 mm2当たり1000μm2以上の破骨細胞数を、健常者から得られた生体試料中の0.50mm2~1.50 mm2当たり1000μm2以上の破骨細胞数又は以下のカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をする。
特定のサイズの破骨細胞数を測定する工程で使用するカットオフ値は、実施例6の結果より、0.50 mm2~1.50 mm2当たり1000μm2以上の破骨細胞数で決定される。例えば、該破骨細胞数が4個以下、3個以下、2個以下、1個以下又は0個の場合には、予後不良と判定する。一方、該破骨細胞数が5個以上、6個以上、7個以上、8個以下、9個以上又は10個以上の場合には、予後良好と判定する。
【0017】
(生体試料の特定の数以上の核を含む破骨細胞数を測定する工程を含む予後診断方法)
本発明の「生体試料の特定の数以上の核を含む破骨細胞数を測定する工程を含む診断方法」とは、生体試料(特に、骨腫瘍病変組織)中の特定の数以上の核を含む破骨細胞数を健常者から得られた生体試料中の特定の数以上の核を含む破骨細胞の核数又はカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をする。
【0018】
(破骨細胞の染色)
本発明の破骨細胞数を測定する工程では、必要に応じて、破骨細胞数測定を容易にするために、自体公知の方法で破骨細胞を染色(特に、免疫染色)することが好ましい。染色方法としては、自体公知の破骨細胞を染色する抗体(例、カテプシンKに対する抗体、TRAPに対する抗体)等を使用することが例示できるが、特に限定されない。
【0019】
(生体試料のTrap 遺伝子量を測定する工程を含む予後診断方法)
本発明の「生体試料のTrap 遺伝子量を測定する工程を含む予後診断方法」とは、生体試料(特に、骨腫瘍病変組織)中のTrap 遺伝子量を、健常者から得られた生体試料中のTrap 遺伝子量又は以下のカットオフ値と比較して、低い場合には、予後不良と判定又は判定補助をする。
実施例3の結果を基にしたカットオフ値の設定では、健常者を100とした場合、予後良好な骨腫瘍患者を75-100、予後不良な骨腫瘍患者(骨肉腫を含む)を0-50に設定することができる。
別法のカットオフ値の設定方法としては、骨腫瘍歴を有さない人(健常者)由来の生体試料中のTrap遺伝子量の発現量の平均値又は予後良好、予後不良の骨腫瘍患者由来の生体試料中のTrap 遺伝子量の発現量の平均値から算出する。通常、予め決定した健常者のcut off値の標準偏差の90%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは50%以上の場合には、予後不良の骨腫瘍患者と判定できる。
さらに、別のcut off値の設定方法としては、骨腫瘍歴のない被験者又は予後良好、予後不良の骨腫瘍患者由来の生体試料の各数値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求める。例えば、一次スクリーニング等の目的では感度が高い方を優先し、精査目的では特異度が高くなるようなカットオフ値を設定することが可能である。
【0020】
(生体試料の特定の16種類のmiRNA発現量を測定する工程を含む予後診断方法)
本発明の「生体試料の特定の16種類のmiRNA発現量を測定する工程を含む予後診断方法」とは、生体試料(特に、血液、尿、涙等の体液)の特定の16種類のmiRNA発現量を、健常者から得られた生体試料中の特定の16種類のmiRNA発現量又は以下のカットオフ値と比較して、高い場合には、予後不良と判定又は判定補助をする。
なお、特定の16種類のmiRNA(参照:表1)は、hsa-miR-146a-5p(配列番号1)、hsa-miR-1260 (配列番号2)、hsa-miR-487b-3p(配列番号3)、hsa-miR-6720-3p(配列番号4)、hsa-miR-1260b(配列番号5)、hsa-miR-4758-3p(配列番号6)、hsa-miR-4690-3p(配列番号7)、hsa-miR-4286(配列番号8)、hsa-miR-6765-3p(配列番号9)、hsa-miR-1261(配列番号10)、hsa-miR-7975(配列番号11)、hsa-miR-4664-5p(配列番号12)、hsa-miR-3907(配列番号13)、hsa-miR-7977 (配列番号14)、hsa-miR-1273c(配列番号15)及びhsa-miR-375-5p(配列番号16)である。
実施例5の結果を基にしたカットオフ値の設定では、健常者を100とした場合、予後良好な骨腫瘍患者を100-150、予後不良な骨腫瘍患者(骨肉腫などの悪性骨腫瘍を含む)を150以上に設定することができる。
別法のカットオフ値の設定方法としては、骨腫瘍歴を有さない人(健常者)由来の生体試料中の特定の16種類のmiRNAの発現量の平均値又は予後良好、予後不良の骨腫瘍患者由来の生体試料中の特定の16種類のmiRNAの発現量の平均値から算出する。通常、予め決定した健常者のcut off値の標準偏差の90%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは50%以上の場合には、予後不良の骨腫瘍患者と判定できる。
さらに、別のcut off値の設定方法としては、骨腫瘍歴のない被験者又は予後良好、予後不良の骨腫瘍患者由来の生体試料の各数値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求める。例えば、一次スクリーニング等の目的では感度が高い方を優先し、精査目的では特異度が高くなるようなカットオフ値を設定することが可能である。
【0021】
(miRNAの発現量の測定方法)
miRNAの発現量は当業者に公知の任意の方法で測定することができる。例えば、各miRNAに特異的にハイブリダイズするプライマー又はプローブを用いて各miRNAの発現量を測定することができる。このようなプライマー又はプローブは、当業者であれば、データベースの情報等を参考にして、適宜設計することが可能である。
このようなプライマー又はプローブを用いる測定方法としては、ノーザンブロット法が古典的方法である。miRNAマイクロアレイ(Liu et al, 2004; Lim et al, 2005)、改良型インベーダー法(Allawi et al, 2004)、ビーズを基にしたフローサイトメータ法(Luetal,2005)などの報告がある。また、定量性のある方法としてリアルタイムPCRがある(Chen et al, 2005)。
【0022】
(スクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、以下を対象とする。
(1)OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する化合物のスクリーニング方法。
(2)OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を検出することを含む、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進する化合物のスクリーニング方法。
(3)Traf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する化合物のスクリーニング方法。
(4)Traf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を検出することを含む、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進する化合物のスクリーニング方法。
(5)Traf6の数減少及び/又は活性を抑制をする物質を検出することを含む、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を促進する化合物のスクリーニング方法。
【0023】
「OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を検出する」とは、例えば下記のいずれか1以上の工程を含んでも良い。
(a-1)被験物質の存在下において、OS-SEV を含む試料のOS-SEVの数減少量及び/又は活性阻害量を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害作用を有する被験物質を選択する工程。
【0024】
「Traf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を検出する」とは、例えば下記のいずれか1以上の工程を含んでも良い。
(a-1)被験物質の存在下において、Traf6(遺伝子、タンパク質)を含む試料のTraf6の数増加量及び/又は活性促進量を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、Traf6の数増加及び/又は活性促進作用を有する被験物質を選択する工程。
【0025】
「Traf6の数減少及び/又は活性を抑制をする物質を検出する」とは、例えば下記のいずれか1以上の工程を含んでも良い。
(a-1)被験物質の存在下において、Traf6(遺伝子、タンパク質)を含む試料のTraf6の数減少量及び/又は活性抑制量を測定する工程、及び
(a-2)上記(a-1)の結果に基づいて、Traf6の数減少及び/又は活性抑制作用を有する被験物質を選択する工程。
【0026】
(被験物質)
上記スクリーニングで使用する抑制剤(治療剤)候補物質となる被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物(例えば、siRNA)でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
被験物質は、化合物ライブラリー、ゲノム編集ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー又はコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー及びコンビナトリアルライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0027】
(骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する剤)
本発明の骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する剤は、上記スクリーニングで得られたOS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を含む。
また、本発明の骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び/又は転移巣を抑制する剤は、上記スクリーニングで得られたTraf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を含む。
【0028】
(骨腫瘍での破骨細胞形成促進剤)
本発明の骨腫瘍での破骨細胞形成促進剤は、上記スクリーニングで得られたOS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質を含む。
本発明の骨腫瘍での破骨細胞形成促進剤は、上記スクリーニングで得られたTraf6の数増加及び/又は活性促進をする物質を含む。
【0029】
(投与方法、剤形)
本発明の剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経静脈、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤などが挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。
本発明の抑制剤は、有効成分の他に、投与形態に応じて、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。薬理学的に許容しうる担体としては、例えば賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0030】
本発明の抑制剤の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、特定のタンパク質での有効成分の投与量は、例えば、1日当たり、約0.0001 mg/kg体重~10 mg/kg体重投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
本発明の抑制剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、衛生用品、食品、飲料、サプリメントにすることができる。
【0031】
(骨腫瘍患者の予後診断キット。)
本発明の骨腫瘍患者の予後診断キットは、少なくとも以下のいずれか1以上を含む。
(1)破骨細胞を染色する抗体
(2)カテプシンKに対する抗体
(3)TRAPに対する抗体
【実施例0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例は、金沢大学実験動物研究施設の承認及び金沢大学倫理審査委員会の承認を受けている。
【実施例0033】
<材料及び方法>
以下の材料及び方法を使用して、実施例2~7を実施した。
【0034】
(プラスミド)
pX330Puroplasmidを、pX330-U6-Chimeric BB-CBh-hSpCas9plasmid (Addgene, Watertown, MA,USA)のNotI部位にピュロマイシン耐性遺伝子カセットを導入して構築した。マウスTsg101遺伝子をノックアウトするために、CCTACTAGTTCAATGACTA配列を標的とするpX330Puro-TSG101を作製した(参照:Colombo M, Moita C, van Niel G, Kowal J, Vigneron J, Benaroch P, etal. Analysis of ESCRT Functions in Exosome Biogenesis, Composition and Secretion Highlights the Heterogeneity of Extracellular Vesicles. JCell Sci (2013) 126:5553-65. doi: 10.1242/jcs.128868)。
【0035】
(細胞)
高度侵襲性のマウスOS細胞株LM8をRIKEN BRC(日本,茨城)から取得した。
NIH/3T3細胞、HOS細胞(非侵攻性,野生型k-Ras,ヒトOS)及び143B細胞(高度侵襲性;k-Ras活性化,ヒトOS)を、ATCC(Manassas, VA, USA)から得た。これらの細胞を、2%熱不活化FBSを含むAdvanced DMEM(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)で培養した。LM8-WT細胞又はLM8 TSG101-KO細胞を、CRISPR‐CAS9システムにより作製した。pX330Puro又はpX330Puro-TSG101 plasmidをViaFectによりLM8細胞にトランスフェクトした(Promega,Madison,WI,USA)。LM8TSG101-KO細胞を単クローン化し、2つの単クローンLM8TSG101-KO細胞株(K01とK02)を作製した。
【0036】
(同所性移植マウスOSモデル)
LM8-WT又はLM8 TSG101-100 KO細胞(1×105細胞)を、マトリゲルを使用して8週齢の雄C3H/Heマウス(JapanSLC, Tokyo, Japan)の大腿骨遠位部に移植した。移植された腫瘍が2,000mm3又は移植後4週間(shamグループ)に達したとき、肺と大腿骨を採取した。これらの組織をパラフィンに包埋し、H&E染色を行った。 免疫組織化学(IHC)のために、脱パラフィンした切片を、カテプシンK(Abcam, Cambridge, United Kingdom)、Ki67(Abcam)、CD31(Abcam)又は血管内皮増殖因子(VEGF; Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)に対する抗体とともにインキュベートし、続いてHRP標識二次抗体及びDAB-クロモゲン染色処理を行った。Ki67陽性細胞の数又はVEGF陽性細胞の面積を顕微鏡BZ-X710及びBZ-Xアナライザー(KEYENCE、Osaka、Japan)で測定した。
【0037】
(SEVの分離)
LM8、NIH/3T3、143B又はHOS細胞からSEVを分離するために、細胞を2%SEV未含有FBSを含むAdvanced DMEMで培養した(参照:Curr Protoc Cell Biol (2017) 77:3.45.1-3.45.18.)。馴化培地を約80%の集密度になると回収し、300×gで5分間、2,000×gで20分間、10,000×gで30分間順次遠心分離した。S50STローター(Hitachi, Tokyo, Japan)を使用して100,000×gで2時間超遠心分離した後、SEVをペレットから収集し、超遠心分離を繰り返してPBS(-)で洗浄し、最後にPBS(-)で再構成した。SEVのサイズ分布と量は、NanoSIGHTTM LM10(Malvern Panalytical、Malvern、United Kingdom)を使用したナノ粒子追跡分析によって決定した。分離されたSEVの特性評価は、MISEV2018ガイドライン(参照:Journal of ExtracellularVesicles (2018) 7:1535750.doi:10.1080/20013078.2018.1535750)に従って実行した。PKH標識LM8-SEVを調製するために、単離したSEVペレットを1μLのPKH26(Merck,Darmstadt, Germany)で3分間染色した後、1%BSA / PBS(-)を添加して染色反応を停止した。過剰な染色試薬を2時間の超遠心分離で除去し、PKH標識SEVのペレットをPBS(-)で再構成した。
【0038】
(破骨細胞形成)
8週齢の雄C3H/Heマウス(Japan SLC)の大腿骨と脛骨から骨髄を採取し、該骨髄を10%FBS及び100 ng/mLのマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF; BioLegend, San Diego, CA, USA)を補充したMEMα(FUJIFILM Wako, Osaka, Japan)で5×106細胞/100mmディッシュの密度で3日間培養した。破骨細胞前駆細胞(OPC)を誘導するために、細胞を5×105細胞/100-mmディッシュでさらに3日間培養した。破骨細胞形成のために、OPCを10%FBS、20 ng/mL M-CSF及び50 ng/mLのNF-kappaB ligandの受容体活性化因子(RANKL; Biolegend)含有MEMαで1×105細胞/12ウェルプレートで5日間培養した。SEVの作用を決定するために、破骨細胞形成の開始時に1×1010 粒子/mL又は指示された用量のSEVを培地に添加した。miRNAの作用を調べるために、破骨細胞形成の開始時に、60 pmolのmiRNA mimic transfection control withDy547 (miR-Ctrl)又はhsa-miR-135 146a-5p mimic(Horizo Discovery、Cambridgeshire、United Kingdom)をLipofectamine RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific)を使用してOPCにトランスフェクションした。細胞増殖は、WST-8アッセイ試薬(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)を使用して評価した。TRAP染色は、Acid Phosphatase Leukocyte Kit(Merck)を使用して破骨細胞形成の5日後に実施し、顕微鏡BZ-X710及びBZ-Xアナライザーを使用して評価した。
【0039】
(リアルタイムPCR)
mRNAを検出するために、全RNA抽出をHigh Pure RNA Isolation Kit(Roche、Basel、Switzerland)を使用して行った。RNAを、ReverTra Ace qPCR RT Kit(TOYOBO、Osaka、Japan)を使用してcDNAに逆転写し、該cDNAをLightCycler96システム(Roche)によるFast SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)と反応させた。各遺伝子のmRNA発現をGapdhに対して正規化した。miRNAを検出するために、FastGene RNA BasicKitとFastGenemiRNA Enhancer(NIPPON Genetics、Tokyo、Japan)を使用して全miRNA抽出を行った。miRNAをcDNAに逆転写し、LightCycler96システムでMir-X miRNA First-Strand Synthesis(TakaraBio、Shiga、Japan)を使用して検出した。hsa-miR-146a-5pの発現をU6の発現で正規化した。
【0040】
(ウエスタンブロット分析)
NF-κB経路分析に関し、OPCを1×105細胞/12ウェルプレートで播種し、10 %FBS、20 ng / mL M-CSF、及び1×1010 粒子/mLのSEVs含有MEMαで12時間前培養した。培地を10%FBS、20 ng/mL M-CSF、50 ng/mL RANKLを含むMEMαに変更した。RANKL刺激後、細胞をPBS(-)で洗浄し、プロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファーで溶解した。TRAF6発現の分析のために、1×105細胞のOPCを1×1010 粒子/mLのSEV又は60 pmolのmiRNA mimicを含有する10%FBS及び20 ng/mLM-CSFを含むMEMαで処理した。48時間のインキュベーション後、細胞をPBS(-)で洗浄し、プロテアーゼ阻害剤を含むRIPAバッファーで溶解した。溶解物をウエスタンブロット分析で使用した。タンパク質を、SuperSignal West PicoChemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)及びImageQuantLAS4000 Mini(GE Healthcare、Chicago,IL, USA)を使用して検出した。バンドの強度を、ImageJソフトウェア(NIH, Bethesda, MD, USA)によって決定した。各バンドの強度をGAPDHに対して正規化した。
【0041】
(SEV-ELISA)
細胞を、2 %SEV欠失FBSを含むAdvanced DMEMで5×104細胞/24ウェルプレートに播種した。 培養24時間後、培養上清を回収し、300×gで5分間、2,000×gで20分間、10,000×gで30分間順次遠心分離をした。得られた上清を、文献「Curr Protoc Cell Biol (2017) 77:3.45.1-3.45.18.」に記載されたのと同様の方法に従ってELISAに供した。 ヒト細胞株からのSEVを、ヒトCD9、CD63又はCD81に対する抗体及びHRP結合抗マウスIgG(JacksonImmunoResearch、West Grove、PA、USA)を使用して検出した。
【0042】
(SEVにおけるmiRNAのマイクロアレイ分析)
SEVを、MagCapture Exosome Isolation Kit(FUJIFILMWako)を使用して、HOS細胞又は143B細胞の馴化培地から分離した。SEVに含まれるmiRNAを、HumanmiRNA Oligoチップ(Toray Industries Inc., Tokyo, Japan)を使用して検出した。各miRNAの値を、シグナル強度の中央値を25に補正することで正規化し、グローバルな正規化値を得た。143B-SEVとHOS-SEVのmiRNAの各比率を、143B-SEVのグローバル正規化値をHOS-SEVのグローバル正規化値で割ることによって算出した。
【0043】
(臨床サンプル)
すべての化学療法未経験の原発性OS患者からの生検標本(生体試料)は、1999年から2018年の間に病理学データベースから収集された。低悪性度OS、脱分化型OS、多中心性OS、及び二次性OSの患者を除外した。他の病院で生検又は何らかの治療を受けた患者並びに診断後3か月未満のフォローアップを受けた患者も除外した。遠隔転移は、最初の診断時にすべての患者で、コンピューター断層撮影、骨シンチグラフィー及びPETを含むマルチモーダル放射線検査によって決定された。OCの存在を、カテプシンK(Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を使用して腫瘍により生成された類骨の周囲の生検標本をIHCによって決定した。OCは、面積が1,000 μm2を超えるカテプシンK陽性細胞として定義した。 3つのIHC画像の分析に基づいて、患者をOC(+)グループ(少なくとも2つの画像で≧5 OC/フィールド)及びOC(-)グループ(少なくとも2つの画像で<5 OC /フィールド)に分類した。
【0044】
(倫理的承認)
この患者標本の後ろ向き研究は、2013年に改訂されたヘルシンキ宣言のガイドラインに従って、金沢大学附属病院の倫理委員会(臨床試験番号2310及び3249)によって承認された。
【0045】
(統計分析)
患者のoncological outcomesを分析するために、Kaplan-Meir曲線を作成し、ログランク検定を使用して各グループ間の差異を比較した。患者の無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率、及び全生存率を、それぞれ、確定診断から遠隔転移若しくは死亡、確定診断から再発若しくは死亡、確定診断から遠隔転移、再発、病変増加若しくは死亡、及び確定診断から死亡までの時間として定義した。カイ2乗検定を、カテゴリデータの統計分析に使用した。数値データに関し、分布のシャピロ-ウィルク検定に基づいて、必要に応じてスチューデントのt検定又はマンホイットニーU検定(両側)を使用した。
【実施例0046】
SEV分泌障害のあるOS細胞は、同所性移植モデルで悪性度が低いことを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0047】
OSにおけるSEVの影響を分析するために、Tsg101遺伝子をノックアウトすることにより、SEV分泌障害のあるマウスOSLM8細胞を作成した。LM8 TSG101-KO細胞の2つの独立したクローン(KO1及びKO2)は、約40%のSEV低下を示したが、in vitroでの細胞増殖に影響はなかった。
OS進行におけるOS-SEVの機能を決定するために、LM8 TSG101-KO細胞をマウスの遠位大腿骨に埋め込んだ。インビトロの結果とは異なり、LM8 TSG101-KO細胞の増殖はインビボでのLM8WT細胞の増殖よりも遅かった。
潜在的なバイアスを排除するために、腫瘍が同じサイズに成長したときにすべての検査を実施した。原発巣のKi67染色は、LM8 TSG101-KO細胞で75%の発現低下を示した(図1A、B)。インビトロでの細胞増殖に差がなかったことを考慮すると、LM8-SEVは、周辺の細胞に影響を与えることにより、腫瘍増殖に好ましい微小環境を作り出すと考えられる。
さらに、血管新生は、LM8-SEV抑制によって劇的に減少した。この減少は、TSG101-KO細胞を担持したマウスのCD31陽性血管の75%の減少(図1C、D)及びVEGF陽性領域の約75%の減少(図1E、F)によって示され、腫瘍の成長の鈍化に寄与している。
肺標本に基づく遠隔転移に対するOS-SEVの影響の評価に関し、各腫瘍の原発巣が同じサイズに成長した場合では、TSG101-KO細胞を担持するマウスは、WT細胞を担持するマウスと比較して、転移巣の数が15分の1以下に減少し、転移病変の面積は6分の1以下に縮小した(図1G、I)。
【0048】
上記の結果は、OS-SEVが腫瘍の微小環境を変化させて、腫瘍の成長、血管新生、及び遠隔転移を促進することを示した。
これにより、OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質は、骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び転移巣を抑制することができる。
【実施例0049】
OS-SEVは破骨細胞形成を阻害することを確認した。詳細は以下の通りである。
【0050】
OCは、OSの腫瘍微小環境を構成する重要な細胞の1つとして知られている。カテプシンKの免疫組織染色は、LM8-WT細胞を担持するマウスのOCが、shamマウスと比較して劇的に減少したのに対し、TSG101-KOによるOS-SEVの分泌障害はOC減少を抑制にしたことを示した(図2A、B)。In vitroでのPKH標識SEVのOPCへの取り込み分析では、LM8-SEVは容量依存的にOPCに取り込まれていることが確認できた(図2C)。WSTアッセイは、LM8-SEVはどの用量でもOPCに対して細胞毒性を示さなかったことを示した(図2D)。
LM8-SEV処理は、10個を超える核を含む大きなOC(>10,000μm2)の数を減少し、約3~9個の核を含む小さなOC(1,000~10,000μm2)の数を増加させた(図2E-G)。
さらに、LM8-SEVは、成熟したOCと比較して、Trap mRNAの発現を約70%抑制した(図2H)。これらの抑制効果は、コントロールであるNIH/3T3-SEV処理群では見られなかったので、LM8-SEVに特異的に含まれる分子が要因であると考えられる。
【0051】
上記の結果は、OS-SEVが破骨細胞形成を強く阻害することを示す。該OS-SEVの阻害は、小さな未成熟OCの数を増加させ、成熟OCの数を減少させることによるものである。
これにより、OS-SEVの数減少及び/又は活性阻害をする物質は、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進することができ、さらに骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び転移巣を抑制することができる。
【実施例0052】
OS-SEVsは、NF-κB経路を抑制することにより破骨細胞形成を阻害することを確認した。詳細は以下の通りである。
【0053】
OS-SEVによる破骨細胞形成抑制のメカニズムを決定するために、骨細胞形成に関与する2つの重要な転写因子(c-fos及びNfatc1)及び3つの重要な分子(Dcstamp、Atp6v0d2、及びOcstamp)を解析した。LM8-SEVのOPCへの移入は、c-fos mRNAの発現に影響を与えないが、Nfatc1 mRNAの発現を強く抑制した(図3A)。リアルタイムPCR分析は、これらのマーカーのmRNA発現レベルの低下を示した(図3A)。フローサイトメーター分析は、RANKL刺激が細胞表面からのDC-STAMPの消失を誘導したのに対し、LM8-SEVはこれを抑制したことを示した(図3B)。
これらの結果は、OS-SEVが破骨細胞形成に関与する重要な遺伝子の発現を抑制し、DC-STAMPのER伝達を妨害したことを示した。
RANKL刺激の1~6時間後において、LM8-SEVで処理されたOPCのIκBα又はNF-κBのリン酸化は、未処理又はNIH/3T3-SEVで処理されたOPCのリン酸化よりも低かった(図3C)。
これらの結果は、OS-SEVがNF-κB経路のIκBαの上流のタンパク質に影響を与えることにより破骨細胞形成を阻害したと考えられる。
【実施例0054】
OS-SEVに含まれるmiRNAは破骨細胞形成を阻害することを確認した。詳細は以下の通りである。
【0055】
分泌されたSEV数又はSEVの作用がヒトOSの腫瘍悪性度と相関しているかどうかを評価した。悪性度が異なることが知られている2つのヒトOS細胞株の比較に関し、悪性度の高い143B細胞は、悪性度の低いHOS細胞と比較して、約5倍多いSEVを分泌し(図4A)、並びに143B-SEVは、HOS-SEVよりも破骨細胞形成に対して強い抑制効果を示した(図4B)。これらの結果は、TSG101-KO細胞を移植したマウスでの試験結果と一致した。
143B-SEVが破骨細胞形成を抑制するメカニズムを明らかにするために、マイクロアレイ分析を使用して、HOS-SEV及び143B-SEVに含まれるmiRNAを包括的に分析した。分析した結果、143B-SEVはHOS-SEVと比較して5倍以上豊富に含まれる16種類のmiRNAを同定した(表1:143B-SEV又はHOS-SEVに含まれるmiRNAのマイクロアレイ分析)。
Hsa-miR146a-5pはTRAF6遺伝子を標的とすることが知られており、RANK活性化をNF-kB経路に伝えることが知られている。リアルタイムPCR分析では、hsa-miR146a-280 5pはHOS-SEVよりも143B-SEVで22.8倍豊富であることを明らかにした(図4C)。143B-SEVの処理は、OPCにおけるHOS-SEVの場合と比較して、TRAF6タンパク質の発現を減少させた(図4D)。
次に、破骨細胞形成に対するhsa-miR146a-5pの作用を評価した。hsa-miR146a-5p mimicのトランスフェクションは、miR-Ctrlの発現と比較してTraf6 mRNAの発現を37%減少させ、TRAF6タンパク質の減少を引き起こした(図4E、F)。さらに、TRAP染色分析は、miR-146a-5p mimicのトランスフェクションが破骨細胞形成を劇的に阻害することも示した(図4G、H)。
【0056】
【表1】
【0057】
上記の結果は、miR-146a-5pによるTRAF6発現の抑制は、悪性度の高いOSでのSEVが成熟OCを減少させるメカニズムの1つであると考えられる。
上記実施例4の結果を合わせて、NF-κB経路のIκBαの上流のタンパク質であるTraf6の数増加及び/又は活性促進をする物質は、骨腫瘍での破骨細胞形成を促進することができ、さらに骨腫瘍の成長、血管新生、遠隔転移及び転移巣を抑制することができる。
【実施例0058】
成熟したOCの数の減少は、OS患者の予後不良を予測できるかを確認した。詳細は以下の通りである。
【0059】
本発明者らは、悪性度の高いOSが多数のSEVを分泌し、患者の成熟OCの数を減少すると考えた。そこで、OSの悪性度とOC数の相関を解析するために、化学療法を受けていない患者検体(生体試料)のOCの数を調査し、61人のOS患者に基づいて臨床的成果を追跡した。カテプシンKのIHCに基づいて、1)視野当たりの成熟OCが5未満の患者をOC(-)患者(n=33)、及び2)視野当たりの成熟OCが5以上の患者をOC(+)患者(n= 28)に分類した(図5A)。すべての患者の特徴は、2つのグループ間で有意差はなかった(表2:患者特性)。マルチモーダル放射線検査の結果によると、OC(-)患者の24%とOC(+)患者の11%に遠隔転移があり、最初の診断時に2つのグループ間で転移率に有意差がなかった(図5A)。追跡調査の結果、OC(+)患者は、OC(-)患者と比較して、無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率及び全生存率が有意に上昇していることを確認した(図5B-E)。同様に、転移と再発に関し、OC(-)患者は、OC(+)患者と比較して有意に高い割合で発生した(それぞれ、73%対29%、及び36%対14%)。この疾患による死亡率に関し、OC(-)患者(30%)は、OC(+)患者(4%)と比較して、高かった(表2)。
これらの結果は、OS病変周辺の成熟OCの数がOS悪性度に相関していることを示した。
さらに、転移を予測するための精度を評価した(表3:カテプシンKのIHCと転移によるOS患者の相互分類)。評価結果では、カテプシンK IHCに基づく成熟OCの減少測定は、75%の感度と69%の特異性であり、OSに関連する転移の指標になることを確認した(表4:診断精度の測定)。さらに、この測定の診断精度は72%であるので、転移のリスクの高い患者の診断に使用することができる。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
(結論)
上記結果及び実施例1-6の結果の結論として、悪性度の高いOSから分泌される抑制性(活性)の高いSEVが破骨細胞形成を抑制し、遠隔転移を促進することを示した(図6)。
加えて、OS病変周辺の成熟OCの数は、癌患者の転移、再発、無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率及び全生存率の予後診断に使用することができる。
表1に記載のhsa-miR146a-5p を含む16種類のmiRNAは、OS病変周辺の成熟OCの数と同様に、患者の転移、再発、無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率及び全生存率の予後診断に使用することができる。
Trapは、OS病変周辺の成熟OCの数と同様に、患者の転移、再発、無転移生存率、無局所再発生存率、無増悪生存率及び全生存率の予後診断に使用することができる。
【0064】
(総論)
本実施例の結果より以下のことを確認した。
(1)SEV欠失OS細胞の表現型を分析し、OPCが微小環境でOS-SEVのアクティブなレシーバーであり、成熟OCの数の減少と未分化OPCの増加を引き起こす。
(2)OS-SEVを破骨細胞形成を抑制するOS由来因子として特定した。
(3)143B細胞はHOS細胞よりも多くのOS-SEVを分泌し、さらに143B-SEVはHOS-SEVよりも破骨細胞形成を抑制する能力が高い。
(4)OS-SEVに含まれるmiR-146a-5p等は、TRAF6 mRNAの発現を抑制することにより、破骨細胞形成を阻害する。
(5)miR-146a-5pは、腫瘍細胞や血管内皮細胞だけでなく、腫瘍の微小環境を構成するOPCにも影響を与える。
(6)OC数の減少がOS患者の転移の加速と予後不良に相関している。
(7)最初の診断時に収集された生検標本中のOC数が、将来の転移と全生存を正確に予測できる。
(8)腫瘍微小環境のOCは、OS-EVの影響を受ける最初の細胞であるため、OCの減少は、血管新生や転移よりも早く発生すると考えられる。よって、OS患者の転移と全生存を予測するための早期診断に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
骨腫瘍の予後診断方法又は予後診断補助方法を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2022171011000001.app