(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171014
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】被処理水への薬剤添加方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/10 20060101AFI20221104BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C02F5/10 620A
C02F5/10 620F
C02F5/10 620B
C02F5/10 620E
C02F5/00 620B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077376
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大崎 和隆
(72)【発明者】
【氏名】松友 伸司
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽介
(57)【要約】
【課題】熱源機器などの水処理機器において処理される被処理水に対してスケール抑制剤として用いられることの多いカルボン酸系ポリマーを含む薬剤について、取扱い性を改善する。
【解決手段】水処理機器において処理される被処理水に対してカルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加するための方法は、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を含む薬液を調製する工程1と、工程1において調製した薬液を被処理水へ添加する工程2とを含む。工程1においては、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を溶剤に溶解して調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥することで予め得られた固形剤を溶剤に再度溶解することで薬液を調製する。薬液は、被処理水に対して薬液を添加する場において調製するのが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理機器において処理される被処理水に対してカルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加するための方法であって、
前記カルボン酸系ポリマー含有薬剤を含む薬液を調製する工程1と、
前記薬液を前記被処理水へ添加する工程2と、を含み、
工程1において、前記カルボン酸系ポリマー含有薬剤を溶剤に溶解して調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥することで予め得られた固形剤を溶剤に再度溶解することで前記薬液を調製する、
被処理水への薬剤添加方法。
【請求項2】
前記被処理水に対して前記薬液を添加する場において前記薬液を調製する、請求項1に記載の被処理水への薬剤添加方法。
【請求項3】
水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を調製するための固形剤の製造方法であって、
カルボン酸系ポリマーを含む薬剤を溶剤に溶解して溶液を調製する工程と、
前記溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥する工程と、
を含むカルボン酸系ポリマー含有薬液調製用固形剤の製造方法。
【請求項4】
水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液の製造方法であって、
請求項3に記載の製造方法により製造されたカルボン酸系ポリマー含有薬液調製用固形剤を溶剤に溶解する工程を含む、
カルボン酸系ポリマー含有薬液の製造方法。
【請求項5】
水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を調製するための固形剤であって、
カルボン酸系ポリマーを含み、
前記カルボン酸系ポリマーとしての換算質量が10gとなりかつ水との合計質量が100gとなるよう容量133mLの容器内に水とともに封入し、これを2cm以上3cm以下の直径で旋回振とうするよう設定した振とう機を用いて25℃で毎分200回の振とう回数で振とうしたときの溶解完了時間が遅くとも200秒である、
カルボン酸系ポリマー含有薬液調製用固形剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水への薬剤添加方法、特に、水処理機器において処理される被処理水に対してカルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラや開放式冷却塔などの熱源機器は、ボイラ水や循環冷却水などの用水に起因する各種の障害を抑えて安定な運転を継続するために、缶体や冷却系統でのスケール抑制が求められ、併せて各部での腐食抑制やスライムの発生抑制が求められる。そこで、熱源機器の運転では、用水の水質管理が必要となる。
【0003】
用水の水質管理方法としては、用水の濾過等の物理的方法のほか、用水に対して薬剤を添加する化学的方法が知られている。用水に対して添加される薬剤は、スケール抑制剤、pH調整剤、防食剤、脱酸素剤および殺菌剤など所要の水質管理目的に応じた効能を有する多様なものであるが、用水に対してこれらを個別に添加するのはその作業においても、また、薬剤管理の点においても、煩雑である。そこで、用水に添加する薬剤として、複数の薬剤を組み合わせた複合剤が提供されている。例えば、特許文献1は、ボイラ用水に対して添加される複合剤として、スケール抑制剤としてのポリアクリル酸ナトリウムと脱酸素剤としての亜硫酸塩とを同時に含む水溶液からなる複合清缶剤を開示している。
【0004】
特許文献1に記載された複合清缶剤などの複合剤は、通常、熱源機器の設置場所に常備され、用水に対して適時に添加される。しかし、複合剤は水溶液であって、その70~80質量%が溶剤としての水であることから、その重量や嵩の点において熱源機器の設置場所への運搬に労力を要するとともに保管場所の確保が必要であり、また、品質維持やその他の在庫管理を要する。重量や嵩についての問題点は、濃縮された複合剤を使用することである程度の解決が見込めるが、そのような複合剤は成分内容によっては劇物や危険物に該当したり、保存安定性が低下したりすることから、安全に配慮した使用や保管とともに高度の品質管理が求められ、使用現場での管理負担が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱源機器などの水処理機器において処理される被処理水に対してスケール抑制剤として用いられることの多いカルボン酸系ポリマーを含む薬剤について、取扱い性を改善しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水処理機器において処理される被処理水に対してカルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加するための方法に関するものである。この薬剤添加方法は、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を含む薬液を調製する工程1と、工程1において調製した薬液を被処理水へ添加する工程2とを含む。工程1においては、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を溶剤に溶解して調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥することで予め得られた固形剤を溶剤に再度溶解することで薬液を調製する。
【0008】
本発明の薬剤添加方法では、例えば、被処理水に対して薬液を添加する場において薬液を調製する。
【0009】
他の観点に係る本発明は、水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を調製するための固形剤の製造方法に関するものである。この製造方法は、カルボン酸系ポリマーを含む薬剤を溶剤に溶解して溶液を調製する工程と、調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥する工程とを含む。
【0010】
さらに他の観点に係る本発明は、水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液の製造方法に関するものである。この薬液の製造方法は、本発明に係る製造方法により製造されたカルボン酸系ポリマー含有薬液調製用固形剤を溶剤に溶解する工程を含む。
【0011】
さらに他の観点に係る本発明は、水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を調製するための固形剤に関するものである。この固形剤は、カルボン酸系ポリマーを含み、カルボン酸系ポリマーとしての換算質量が10gとなりかつ水との合計質量が100gとなるよう容量133mLの容器内に水とともに封入し、これを2cm以上3cm以下の直径で旋回振とうするよう設定した振とう機を用いて25℃で毎分200回の振とう回数で振とうしたときの溶解完了時間が遅くとも200秒である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る薬剤添加方法は、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を溶剤に溶解して調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥することで予め得られた固形剤を溶剤に再度溶解することで水処理機器において処理される被処理水に対して添加する薬液を調製するものであることから、運搬、保管、品質管理および取扱いの安全性などの点においてカルボン酸系ポリマー含有薬剤を容易に取扱うことができる。
【0013】
本発明に係る固形剤の製造方法は、水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を速やかに調製可能な固形剤を製造することができる。
【0014】
本発明に係る薬液の製造方法は、本発明の製造方法により製造された固形剤を溶剤に溶解することから、水処理機器で処理される被処理水に対して添加するためのカルボン酸系ポリマー含有薬液を速やかに調製することができる。
【0015】
本発明に係る固形剤は、水処理機器において処理される被処理水に対して添加するカルボン酸系ポリマー含有薬液を速やかに調製可能であるとともに、運搬、保管および品質管理などの点において取扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例の固形剤および比較例の混合薬剤の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る薬剤添加方法は、水処理機器において処理される被処理水に対してカルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加するための方法である。この薬剤添加方法の適用対象となる水処理機器は、ボイラや開放式冷却塔などの熱源機器のほか、逆浸透膜ろ過装置や排水ろ過装置等のろ過装置であり、硬度分(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオン)を含む被処理水が濃縮されることで生成するスケールによる障害が懸念されるものである。典型的な熱源機器であるボイラにおいて利用される被処理水、すなわちボイラ用水は、ボイラへ供給されて蒸気発生源となる給水である。ボイラ用水は、ボイラ缶体内での加熱処理により濃縮されることで硬度分濃度が上昇し、ボイラ缶体内に熱伝導性を阻害するスケールを生成する。また、開放式冷却塔において利用される被処理水は循環冷却水である。循環冷却水は、一部を蒸発させて冷却処理されることで濃縮され、それによって硬度分濃度が上昇して冷却塔の内部や熱交換器などに熱交換効率を低下させるスケールを生成する。逆浸透膜ろ過装置や排水ろ過装置等のろ過装置の被処理水は、純水製造のための原水や排水であり、ろ過膜面で溶解成分濃度、特に硬度分濃度が高まることでろ過面にスケールを生成する。
【0018】
本発明の添加方法では、先ず、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を含む薬液を調製する(工程1)。ここでは、カルボン酸系ポリマーを含む固形剤を溶剤に溶解することで目的の薬液を調製する。ここで用いる固形剤は、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を溶剤に溶解して調製した溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥することで予め得られたものである。
【0019】
固形剤を得るために用いられるカルボン酸系ポリマー含有薬剤は、カルボン酸系ポリマーと、必要により他の薬剤とを含むものである。ここで用いられるカルボン酸系ポリマーは、スケール抑制剤として機能するものであり、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩並びにポリマレイン酸およびその塩などのカルボン酸系ホモポリマー、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸二元共重合体、アクリル酸/マレイン酸二元共重合体、マレイン酸/メチルビニルエーテル二元共重合体、アクリル酸/ヒドロキシプロピルアクリル酸塩二元共重合体およびスルホン化スチレン/無水マレイン酸二元共重合体などのカルボン酸系コポリマー、並びに、マレイン酸/アクリル酸アルキルエステル/ビニルアセテート三元共重合体、アクリル酸/スルホン酸/スチレンスルホン酸ナトリウム三元共重合体およびアクリル酸/スルホン酸/置換アクリルアミド三元共重合体などの三元共重合体を例示することができる。これらのカルボン酸系ポリマーは、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0020】
カルボン酸系ポリマー含有薬剤に含まれる他の成分の例としては、カルボン酸系ポリマー以外のスケール抑制剤、防食剤、安定剤および殺菌剤等の効能成分のほか、トレーサ物質を挙げることができる。他の成分は、二種類以上のものであってもよい。
【0021】
カルボン酸系ポリマー以外のスケール抑制剤の例としては、キレート剤、例えば、ホスホン酸およびその塩(通常はアルカリ金属塩)並びに四ナトリウムホスホノエタン-1,2-ジカルボン酸塩、六ナトリウムホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸塩および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸などのホスホノカルボン酸またはホスホノカルボン酸塩が挙げられる。
【0022】
防食剤は、被処理水が流通する熱源機器の熱交換器、銅系や鉄系などの金属製の配管およびその他の水系において被処理水中の塩類の濃縮により発生が懸念される腐食を抑制するためのものである。銅系の配管などの防食剤の例としては、ピロール、ジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾアゾール、ベンゾジアゾールおよびベンゾトリアゾールなどのアゾール系化合物、リン化合物、亜鉛化合物およびリグニンなどが挙げられる。鉄系の配管などの防食剤の例としては、シリカ、ジエチルヒドロキシルアミンおよび2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミン化合物、りん化合物、亜鉛化合物、リグニン並びに水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウム等のアルカリ剤などが挙げられる。
【0023】
安定剤は、目的の固形剤の安定性を高めるためのものであり、その例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸および塩酸などのpH調整剤、硝酸マグネシウムおよび塩化マグネシウム等のマグネシウム化合物並びに界面活性剤が挙げられる。
【0024】
殺菌剤は、用水においてレジオネラ属菌やその他の細菌類が繁殖したりスライムが発生したりするのを抑制するためのものであり、その例としては、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、2,2-ジブロモ-2-ニトロ-1-エタノール、1,5-ペンタンジアール、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド、1-ブロモ-3-クロロ-5,5-ジメチルヒダントイン、N-デシル-N-イソノニル-N,N-ジメチルアンモニウムクロライド、ヒドラジン、2-ピリルチオ-1-オキシドナトリウム、ジンクピリチオン、メチレンビスチオシアネート、3-(3,4ジクロロフェニル)-1,1ジメチルウレア、2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2,3,3-トリヨードアリルアルコール、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンクロライド]並びに2-メチル-3-イソチアゾロン、2-エチル-3-イソチアゾロン、2-オクチル-4-クロル-イソチアゾロン、2-ベンジル-4,5-ジクロル-3-イソチアゾロン、2-アリル-3-イソチアゾロン、2-プロピニル-3-イソチアゾロン、5-クロル-2-メチル-3-イソチアゾロンおよび1,2-ベンゾチアゾロン等のチアゾリン系化合物を挙げることができる。
【0025】
トレーサ物質は、カルボン酸系ポリマー含有薬剤を添加した被処理水に含まれる、当該薬剤に由来のカルボン酸系ポリマーおよび他の効能成分の濃度を蛍光光度法により間接的に測定するためのものであり、例えば、ピレンスルホン酸若しくはそのナトリウム塩などのアルカリ金属塩などのスルホン化ピレン系化合物、フルオレセイン、モリブデン酸若しくはその塩、バナジン酸若しくはその塩またはナフタレンジスルホン酸ナトリウム塩である。
【0026】
固形剤の調製では、カルボン酸系ポリマーおよび必要な他の成分を均一に混合し、この混合薬剤を溶剤に溶解して溶液を調製する。この際、カルボン酸系ポリマーと他の成分とを溶剤に対して個別に投入し、溶剤中において各成分を均一に混合することもできる。カルボン酸系ポリマーと他の成分との合計量におけるカルボン酸系ポリマーの割合は、通常、10~70質量%に設定するのが好ましく、20~60質量%に設定するのがより好ましい。
【0027】
混合薬剤の溶液を調製するための溶剤は、通常、蒸留水、純水またはイオン交換水などの精製水であるが、各成分を溶解可能であれば各種の有機溶剤、例えば、メタノール、エタノールまたは2-プロパノールなどの水溶性有機溶剤を用いることもできる。溶剤は二種類以上のものが併用されてもよい。溶液の調製では、成分を均一に混合するために、撹拌したり加熱したりしてもよく、また、バブリングや超音波による振動を与えてもよい。
【0028】
次に、得られた溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥し、好ましくは含溶剤率が20質量%以下に制御された固形剤を調製する。ここで、含溶剤率は、固形剤に占める溶剤の質量比率をいう。なお、溶剤が水の場合(すなわち、上述の精製水の場合)、以下において含溶剤率のことを含水率ということがある。凍結乾燥により固形剤を調製する場合、圧力を600Pa以下(特に、100Pa以下)、初期温度(予備凍結温度)を-30℃以上(特に、-15℃以上)および凍結時間を2日以内に設定するのが好ましい。凍結乾燥によると塊状の固形剤が得られるが、この固形剤は粉砕して粉状にされてもよい。噴霧乾燥により固形剤を調製する場合、噴霧方式は2流体方式、1流体方式、超音波方式または回転式のいずれであってもよく、入口温度を100~300℃に、また、出口温度を70~200℃に設定するのが好ましい。特に、噴霧方式として2流体方式を選択し、入口温度を250℃以下にかつ出口温度を150℃以下に設定するのが好ましい。また、噴霧乾燥時の狙い液滴径は、500μm以下、特に、300μm以下に設定するのが好ましい。噴霧乾燥によると、粉状の固形剤が得られる。凍結乾燥または噴霧乾燥により得られた固形剤は、取扱性を高めるために、打錠機や粉砕機等を用い、タブレット状、顆粒状、フレーク状または微細粒子状に二次加工してもよい。
【0029】
凍結乾燥または噴霧乾燥により得られた固形剤は、乾燥品であることから保管中において変質しにくいものであり、また、多孔質体であることから水に対する特有の溶解性、すなわち、速やかな溶解性を示す。具体的には、固形剤は、カルボン酸系ポリマーとしての換算質量が10gとなりかつ水との合計質量が100gとなるよう容量133mLの容器内に水とともに封入し、これを2cm以上3cm以下の直径で旋回振とうするよう設定した振とう機を用いて25℃で毎分200回の振とう回数で振とうしたときの溶解完了時間が遅くとも200秒である。また、固形剤の含溶剤率は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。ここで、含溶剤率は、凍結乾燥においては凍結乾燥前後の質量減少率と混合薬剤の溶液の固形分濃度とに基づいて求めた値であり、噴霧乾燥においては105℃に保持した恒温槽に60分間おいた際の質量減少率より求めた値である。
【0030】
薬液の調製では、溶剤に対して固形剤を添加するか、固形剤に対して溶剤を添加するかすることで、固形剤を溶剤に溶解する。この際、均質な薬液を調製するために、溶剤を撹拌したり加熱したりしてもよく、また、バブリングや超音波による振動を与えてもよい。固形剤を溶解するための溶剤は、通常、水または水溶性有機溶剤である。水としては、水道水、井水またはイオン交換水、逆浸透膜処理水若しくは正浸透膜処理水などの精製水が用いられるが、精製水を用いるのが特に好ましい。また、水としては、薬液の添加対象となるボイラ給水、ボイラ水または冷却水などの被処理水を用いることもできる。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノールまたは2-プロパノールが用いられるが、エタノールを用いるのが特に好ましい。また、水と水溶性有機溶剤とは併用されてもよい。固形剤は、上述のような特有の溶解性を示すものであって水に速やかに溶解するものであることから、目的の薬液を速やかに調製することができる。
【0031】
本発明の添加方法では、次に、調製した薬液を被処理水に対して添加する(工程2)。添加された薬液は、カルボン酸系ポリマーを含むことから水処理機器においてスケールの生成を抑えることができ、カルボン酸系ポリマー以外の効能成分を含む場合は当該成分による効能を被処理水に対してさらに与えることができる。
【0032】
薬液の添加対象となる被処理水は、水処理機器の種類に応じて選択することができる。水処理機器がボイラの場合、添加対象の被処理水はボイラへの給水またはボイラ水である。開放式冷却塔の場合、添加対象の被処理水は循環冷却水である。逆浸透膜ろ過装置や排水ろ過装置等のろ過装置の場合、添加対象の被処理水はろ過処理される原水や排水である。
【0033】
本発明の添加方法の工程1において用いる固形剤は、乾燥品であることから軽量であるとともに嵩が小さく、しかも安定で安全であることから、保管場所への運搬や保管場所から薬液の調製場所への移動が容易であり、限られた空間において効率的にかつ安全に保管することもできる。このため、本発明の添加方法の工程1では、被処理水に対して薬液を添加するその場、例えばボイラや冷却塔の設置場所において薬液を調製し、この薬液の必要量を被処理水に対して添加することもできる。
【0034】
本発明の添加方法では、水処理機器の給水配管(例えば、ボイラへの給水配管)や循環配管(例えば、冷却塔の循環冷却水配管)等の被処理水の流通配管内または流通配管に設けた迂回路内において被処理水と固形剤とを接触させ、それによって固形剤を被処理水に溶解させることで薬液を調製するとともに当該薬液を被処理水に供給するようにしてもよい。例えば、流通配管内または迂回路内に底部が露出する筒状の容器を設置し、この容器内に固形剤を充填すると、固形剤が流通配管または迂回路を流れる被処理水と徐々に接触することになることから、被処理水の流通量に応じ、被処理水に対して薬液を徐々に供給することができる。
【実施例0035】
<実施例1>
カルシウムスケール防止に用いられるポリマレイン酸の50質量%水溶液440g、ホスホノカルボン酸系キレート剤80g、水酸化ナトリウム110g、水酸化カリウム110gおよび金属塩などの微量成分を純水に溶解し、2.2kgの水溶液を調製した。この水溶液を凍結乾燥し、塊状の固形剤を製造した。
【0036】
調製した水溶液の凍結乾燥では、当該水溶液を容器内に液厚が13mmになるように入れ、この容器を凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製の型番「FDU-1110」に組み合わせた同社製のドライチャンバー(型番「DRC-1000」)に入れ、-30℃に予備凍結した。続いてドライチャンバー内を3~15Paに減圧し、温度を-10℃に維持して24時間一次乾燥処理した後、温度を30℃に変更して20時間以上維持することで二次乾燥処理した。乾燥処理の間、到達真空度を0.7Pa、乾燥終期の実際真空度を3Paにそれぞれ設定し、トラップ温度を-60℃に設定した。得られた固形剤は、ポリマレイン酸の含有割合が37質量%であり、含水率が1.5質量%であった。
【0037】
<実施例2~3>
実施例1で調製したものと同じ水溶液を調製し、この水溶液を噴霧乾燥することで粉状の固形剤を製造した。水溶液の噴霧乾燥では、噴霧乾燥機(ビュッヒ社の型番「B-290」)を用い、表1に示す条件で処理した。この際、乾燥用ガスとして、除湿装置(ビュッヒ社の型番「B-296」)を用いて除湿した空気を用いた。得られた固形剤は、ポリマレイン酸の含有割合が37質量%であり、含水率については実施例2が5.8質量%、実施例3が7.7質量%であった。
【0038】
【0039】
<比較例1>
カルシウムスケール防止に用いられるポリアクリル酸ナトリウム500g、ホスホノカルボン酸系キレート剤180g、水酸化ナトリウム170g、金属塩などの微量成分および純水を混練し、練剤状の混合薬剤を調製した。この混合薬剤に含まれるポリアクリル酸ナトリウム濃度は41質量%(ポリアクリル酸換算で31質量%)である。
【0040】
<比較例2>
実施例1で調製したものと同じ水溶液を調製し、この水溶液を50℃の環境下に6日間置くことで蒸発乾固させ、固形状の混合薬剤を調製した。この混合薬剤の含水率は40質量%であった。この含水率は、蒸発乾固前後の質量減少率と混合薬剤の溶液の固形分濃度とに基づいて求めたものである。
【0041】
<評価>
実施例1~3のそれぞれで得られた固形剤、比較例1で得られた練剤状の混合薬剤および比較例2で得られた固形状の混合薬剤について、水への溶解性を評価した。ここでは、透明ポリプロピレンボトル(アズワン株式会社の商品名「グッドボーイ 100mL 110172」/実際容量133mL)内に評価対象の剤と愛媛県松山市の市水とを合計質量が100gになるよう封入した。この際、評価対象の剤の封入量は、市水に溶解後のカルボン酸系ポリマー濃度が10質量%(実施例1~3の固形剤および比較例2の混合薬剤についてはポリマレイン酸としての濃度であり、比較例1の混合薬剤についてはポリアクリル酸ナトリウムとしての濃度である。)となるよう設定した。そして、透明ポリプロピレンボトルを振とう機(東京理化器械株式会社の型番「MMS-3010型」)に横倒しに固定し、2cm以上3cm以下の直径で200rpmにて25℃の環境下において旋回振とうを行った際の溶解完了までの振とう時間を測定した。固形剤または混合薬剤の溶解完了は、溶け残りがないことを目視により確認した。結果を
図1に示す。
【0042】
図1によると、実施例1~3の固形剤は、100秒前後で溶解が完了しており、比較例1、2の混合薬剤を用いて薬液を調製する場合に比べて概ね1/2~1/3程度の短時間で速やかに薬液を調製可能である。
【0043】
比較例2の固形状の混合薬剤は比較例1の練剤状の混合薬剤よりも水に対して速やかに溶解するが、その調製のための水溶液の蒸発乾固に時間を要する。これは、カルシウムスケール防止に用いられるカルボン酸系ポリマーであるポリマレイン酸と水分子との親和性が高く、上記水溶液から水分を除去するのが容易ではないためと考えられる。上記水溶液をより高温に加熱することで水分の除去効率を高めることはできるが、その場合はポリマレイン酸等の水溶液中の成分の熱分解を招くおそれがある。また、比較例2の混合薬剤は、乾燥過程で粘性が生じ始めて最終的には比表面積が小さいゲル状の固形物となることから、実施例1~3の固形剤よりも水に対する溶解速度が遅くなるものと考えられ、結果的に薬液の調製に時間を要することから、必要なときに必要量の薬液を調製するのが困難である。