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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171019
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20221104BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B41J2/01 105
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 109
B41J2/17 103
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077383
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】高草 正
(72)【発明者】
【氏名】中田 安美
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛峰
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EB13
2C056EB29
2C056EB46
2C056EC07
2C056EC72
2C056EC79
2C056FA15
2C056FB10
2C056HA37
2C056JC17
(57)【要約】
【課題】インクの飛散を軽減できるインクジェット印刷装置を提供する。
【解決手段】制御部5は、主走査駆動モータ23によりヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ、高さ検出部27による平面視における基材15の形状の検出結果に基づき、基材15がない位置にはインクを吐出せずに基材15に印刷を行うよう制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドと、
平面視における基材の形状を検出する検出部と、
前記インクジェットヘッドと基材とを所定の走査方向に相対移動させる走査機構と、
前記走査機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に相対移動させつつ、前記検出部による基材の形状の検出結果に基づき、前記インクジェットヘッドにより、基材がない位置にはインクを吐出せずに基材に印刷を行うよう制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に直交する搬送方向に相対移動させる搬送機構をさらに備え、
前記制御部は、前記走査機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に相対移動させつつ前記インクジェットヘッドから基材へインクを吐出する動作と、前記搬送機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記搬送方向に相対移動させる動作とを交互に繰り返して基材に印刷するよう制御し、
前記検出部は、前記インクジェットヘッドと基材とが前記走査方向に相対移動するパスの動作において、次のパスにおける印刷領域の平面視における基材の形状を検出することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、基材の縁からの距離が所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記検出部は、基材の表面の高さを検出し、
前記制御部は、前記検出部により検出された基材の表面の高さに基づき、前記インクジェットヘッドにより、基材の表面の高さに応じた少なくとも1つのレイヤごとに設けられた印刷データに基づく印刷を行うよう制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記制御部は、基材に形成された印刷されない凹部の周囲の所定範囲内の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項6】
前記インクジェットヘッドを保持するヘッド保持部と、
前記ヘッド保持部に設けられ、インクミストを回収するミスト回収部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドから印刷媒体へインクを吐出して印刷するインクジェット印刷装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェット印刷装置において、サイズや形状が一様ではなく、個体によるばらつきがある基材に印刷を行うことがある。例えば、ありのままの木を縦割りした平板基材のような、自然形状由来の基材に印刷を行うことがある。このような基材に印刷する場合、基材より大きい画像を用いて基材の全面に印刷することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-12661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように基材より大きい画像の印刷を行うと、基材がない位置にもインクが吐出される。基材がない位置に吐出されたインクは飛散して、基材やインクジェット印刷装置における基材の周辺部分に付着し、これらを汚染することがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、インクの飛散を軽減できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット印刷装置は、インクジェットヘッドと、平面視における基材の形状を検出する検出部と、前記インクジェットヘッドと基材とを所定の走査方向に相対移動させる走査機構と、前記走査機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に相対移動させつつ、前記検出部による基材の形状の検出結果に基づき、前記インクジェットヘッドにより、基材がない位置にはインクを吐出せずに基材に印刷を行うよう制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインクジェット印刷装置によれば、インクの飛散を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の全体斜視図である。
図2図1に示すインクジェット印刷装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
図3】ヘッドユニット、高さ検出部、およびミスト回収部の概略構成図である。
図4】インクジェットヘッドの概略構成を示す斜視図である。
図5図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。
図6図1に示すインクジェット印刷装置の制御部の構成を示すブロック図である。
図7】基材の一例の斜視図である。
図8図7に示す基材をフラットベッドユニットに配置した状態を示す平面図である。
図9図7に示す基材をフラットベッドユニットに配置した状態を前側から見た図である。
図10】(a)は、図7に示す基材の第1レイヤに印刷される図柄を示す図である。(b)は、図7に示す基材の第2レイヤに印刷される図柄を示す図である。(c)は、図7に示す基材の第3レイヤに印刷される図柄を示す図である。(d)は、図7に示す基材が加飾(印刷)された状態を示す図である。
図11】インクジェット印刷装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図12】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図13】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図14】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図15図7に示す基材への印刷動作の途中において高さメモリに格納されている高さデータを示す図である。
図16】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図17】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図18図7に示す基材への印刷動作の途中において高さメモリに格納されている高さデータを示す図である。
図19】高さデータとヘッドデータとの関係を示す図である。
図20】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図21】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図22図7に示す基材への印刷動作の途中において高さメモリに格納されている高さデータを示す図である。
図23】インクジェット印刷装置の動作を説明するための図である。
図24】基材の他の例の斜視図である。
図25図24に示す基材をフラットベッドユニットに配置した状態を示す平面図である。
図26図24に示す基材をフラットベッドユニットに配置した状態を前側から見た図である。
図27図24に示す基材に印刷される図柄を示す図である。
図28図24に示す基材が加飾(印刷)された状態を示す図である。
図29図24に示す基材への印刷動作中に高さメモリに格納された高さデータの一部を示す図である。
図30図24に示す基材への印刷動作中のあるパスにおいてヘッドユニットが左から右へ移動したところを示す図である。
図31図24に示す基材への印刷動作中に高さ検出された一部の領域における各検出位置の高さデータを示す図である。
図32】印刷データを格納した印刷データメモリの、図31の領域に対応する箇所を示す図である。
図33】第2実施形態におけるヘッドユニット、高さ検出部、およびミスト回収部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0011】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の全体斜視図である。図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の概略構成を模式的に示す正面図である。図3は、ヘッドユニット、高さ検出部、およびミスト回収部の概略構成図である。図4は、インクジェットヘッドの概略構成を示す斜視図である。図5は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。図6は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御部の構成を示すブロック図である。以下の説明において、図1の矢印で示す上下左右前後を上下左右前後方向とする。
【0013】
図1図2図5に示すように、第1実施形態に係るインクジェット印刷装置1は、シャトルベースユニット2と、フラットベッドユニット3と、シャトルユニット4と、制御部5とを備える。
【0014】
シャトルベースユニット2は、シャトルユニット4を支持するとともに、前後方向(副走査方向)にシャトルユニット4を移動させる。シャトルベースユニット2は、架台部11と、副走査駆動モータ(搬送機構に相当)12とを備える。
【0015】
架台部11は、シャトルユニット4を支持する。架台部11は、矩形枠状に形成されている。架台部11の左右の枠上には、前後方向に延びる副走査駆動ガイド13A,13Bがそれぞれ形成されている。副走査駆動ガイド13A,13Bは、シャトルユニット4を前後方向に移動するようガイドする。
【0016】
副走査駆動モータ12は、シャトルユニット4を前後方向(搬送方向に相当)に移動させる。
【0017】
フラットベッドユニット3は、建材等からなる印刷媒体である基材15を保持する。フラットベッドユニット3は、シャトルベースユニット2の架台部11の内側に配置されている。フラットベッドユニット3は、基材15が載置される水平面である載置面3aを有する。フラットベッドユニット3は、油圧駆動機構等からなる昇降機構により、載置面3aの高さを調整できるようになっている。
【0018】
シャトルユニット4は、基材15に画像を印刷する。シャトルユニット4は、筐体21と、主走査駆動ガイド22と、主走査駆動モータ(走査機構に相当)23と、昇降ガイド24と、昇降モータ25と、ヘッドユニット26と、高さ検出部(検出部に相当)27とを備える。
【0019】
筐体21は、ヘッドユニット26等の各部を収納する。筐体21は、フラットベッドユニット3を左右方向に跨ぐ門型に形成されている。筐体21は、シャトルベースユニット2の架台部11に支持され、副走査駆動ガイド13A,13Bに沿って移動可能になっている。
【0020】
主走査駆動ガイド22は、ヘッドユニット26を左右方向(主走査方向)に移動するようガイドする。主走査駆動ガイド22は、左右方向に延びる長尺状に形成されている。
【0021】
主走査駆動モータ23は、ヘッドユニット26を左右方向(走査方向に相当)に移動させる。
【0022】
昇降ガイド24は、ヘッドユニット26を上下方向に移動するようガイドする。昇降ガイド24は、上下方向に細長い形状に形成されている。昇降ガイド24は、ヘッドユニット26とともに主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動可能に構成されている。
【0023】
昇降モータ25は、ヘッドユニット26を昇降させる。
【0024】
ヘッドユニット26は、主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動しつつ、基材15へインクを吐出して画像を印刷する。図2図3図5に示すように、ヘッドユニット26は、4つのインクジェットヘッド31と、キャリッジ(ヘッド保持部に相当)32と、ミスト回収部33とを備える。
【0025】
インクジェットヘッド31は、基材15へインクを吐出する。図4に示すように、インクジェットヘッド31は、前後方向に沿って配置された複数のノズル36を有し、ノズル36からインクを吐出する。インクジェットヘッド31には、ノズル36が開口するノズル面31aを保護するためのノズルガード37が設けられている。
【0026】
4つのインクジェットヘッド31は、左右方向に並列して配置されている。4つのインクジェットヘッド31は、それぞれ異なる色(例えば、シアン、ブラック、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。インクジェットヘッド31は、1つのノズル36から1つの画素に対して複数のインク滴を吐出可能なマルチドロップ方式のものであり、インク滴の数(ドロップ数)により濃度を表現する階調印刷を行う。インクジェットヘッド31には、図示しないインク供給経路を介してインクが供給される。
【0027】
キャリッジ32は、インクジェットヘッド31を保持する。キャリッジ32は、中空状の箱状に形成されている。
【0028】
ミスト回収部33は、インクミストを回収する。ミスト回収部33は、キャリッジ32に設けられている。ミスト回収部33は、4つの吸引機構41と、排気口42とを備える。
【0029】
吸引機構41は、キャリッジ32の4つの側面にそれぞれ1つずつ配置されている。吸引機構41は、キャリッジ32内にインクミストを含む空気を吸引するファン46と、インクミストを捕捉するフィルタ47とを備える。フィルタ47は交換可能に構成されている。
【0030】
排気口42は、キャリッジ32から排気する。排気口42は、キャリッジ32の天板に形成されている。
【0031】
高さ検出部27は、インクジェットヘッド31の印刷幅分の測定幅を有し、測定幅内における基材15の表面の高さを検出する。インクジェットヘッド31の印刷幅は、インクジェットヘッド31が1回の主走査方向のパス(走査)の動作で印刷可能な前後方向の幅である。高さ検出部27は、ヘッドユニット26に固定され、ヘッドユニット26とともに左右方向に移動する。また、高さ検出部27は、測定幅方向が前後方向に平行になり、前後方向における位置がインクジェットヘッド31の後側に隣接した位置になるように設置されている。これにより、高さ検出部27は、1パス分の印刷動作中に、次のパスでのヘッドユニット26による印刷領域の基材15の表面の高さを検出できる。高さ検出部27は、帯状の光を出射し、その光が基材15で反射した光を受光して基材15の表面の高さを検出する光センサからなる。
【0032】
制御部5は、インクジェット印刷装置1全体の動作を制御する。図6に示すように、制御部5は、主制御部51と、画像制御部52とを備える。制御部5の各部は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等によってソフトウェア的またはハードウェア的に実現できる。
【0033】
主制御部51は、インクジェット印刷装置1全体の制御を司る。主制御部51は、インクジェットヘッド31を主走査方向に移動させつつ、画像制御部52を介してインクジェットヘッド31からインクを基材15へ吐出させて1パス分の印刷を行い、その後、シャトルユニット4を副走査方向へ移動させる。主制御部51は、この1パス分の動作とシャトルユニット4の移動とを交互に繰り返すことにより、基材15に画像を印刷するよう制御する。この際、主制御部51は、高さ検出部27により検出された基材15の表面の高さに基づき、画像制御部52を介して、インクジェットヘッド31により、基材15の表面の高さに応じた少なくとも1つのレイヤごとに設けられた印刷データに基づく印刷を行うよう制御する。
【0034】
画像制御部52は、レイヤごとの印刷データに基づく印刷を行うようインクジェットヘッド31の駆動を制御する。画像制御部52は、印刷データメモリ56と、高さメモリ57と、データセレクタ58と、補助高さメモリ59とを備える。
【0035】
印刷データメモリ56は、各レイヤの印刷データを格納する。印刷データメモリ56には、基材15ごとに設定されたレイヤ数に応じた数のレイヤメモリ56a,56b,56c,…が形成される。各レイヤメモリ56a,56b,56c,…は、それぞれ1つのレイヤの印刷データを格納する。
【0036】
高さメモリ57は、高さデータを格納する。高さデータは、高さ検出部27により検出された各検出位置がどのレイヤに属するかを示すデータである。高さ検出部27による高さの検出位置は、印刷データにおける印刷解像度での画素の密度と同じ密度で設けられる。
【0037】
データセレクタ58は、検出位置ごとの高さデータが示すレイヤに応じた印刷データをレイヤメモリ56a,56b,56c,…から選択し、選択した印刷データをヘッドデータとしてインクジェットヘッド31へ出力する。
【0038】
補助高さメモリ59は、基材15に形成された印刷されない凹部における高さ検出部27による高さの検出値を格納する。
【0039】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0040】
まず、印刷媒体である基材15として、図7図9に示す基材61を用いる場合のインクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0041】
図7は、基材61の斜視図である。図8は、基材61をフラットベッドユニット3に配置した状態を示す平面図である。図9は、基材61をフラットベッドユニット3に配置した状態を前側から見た図である。
【0042】
図7図8に示すように、基材61は、縦4個、横3個に並べた12個のブロック66を一体化して形成されている。ブロック66は、平面視矩形状のベース部分67と、平面視ひし形状のひし形部分68と、平面視円形状の円形部分69とを、下からこの順で重ねて形成されている。
【0043】
基材61は、ベース部分67の表面(上面)67aを含む第1レイヤ、ひし形部分68の表面(上面)68aを含む第2レイヤ、および円形部分69の表面(上面)69aを含む第3レイヤの3つのレイヤを有するものである。
【0044】
ここで、図9に示すように、フラットベッドユニット3の載置面3aからベース部分67の表面67aまでの高さをh1とする。載置面3aからひし形部分68の表面68aまでの高さをh2とする。載置面3aから円形部分69の表面69aまでの高さをh3とする。
【0045】
上述のような基材61に対し、インクジェット印刷装置1により、第1レイヤには図10(a)に示す図柄、第2レイヤには図10(b)に示す図柄、第3レイヤには図10(c)に示す図柄をそれぞれ印刷することで、図10(d)のような加飾を施す。
【0046】
図11は、インクジェット印刷装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
【0047】
図11のステップS1において、基材61がフラットベッドユニット3の載置面3a上の所定の印刷領域内に配置される。
【0048】
次いで、ステップS2において、主制御部51は、パーソナルコンピュータ等の外部装置から、印刷設定情報および各レイヤの印刷データを受信する。
【0049】
印刷設定情報は、印刷解像度、基材61のレイヤ数を示す情報、およびレイヤ高さ情報を含む。基材61のレイヤ数は、前述のように3である。レイヤ高さ情報は、各レイヤの基準高さおよび高さ範囲を示す。第1レイヤの基準高さはh1、高さ範囲はh1min以上、(h1+h2)/2未満である。h1minは、最下層である第1レイヤの高さ範囲の下限として予め設定されたものである。第2レイヤの基準高さはh2、高さ範囲は(h1+h2)/2以上、(h2+h3)/2未満である。第3レイヤの基準高さはh3、高さ範囲は(h2+h3)/2以上である。なお、各レイヤの高さ範囲は上記の例に限定されない。
【0050】
印刷データは、各色のインクの画素ごとのドロップ数を示すデータである。主制御部51は、第1レイヤの印刷データを印刷データメモリ56のレイヤメモリ56aに格納し、第2レイヤの印刷データをレイヤメモリ56bに格納し、第3レイヤの印刷データをレイヤメモリ56cに格納する。
【0051】
次いで、ステップS3において、主制御部51は、ヘッドユニット26の高さ設定を行う。具体的には、主制御部51は、最上層である第3レイヤの基準高さの位置とインクジェットヘッド31との間隔が、予め設定された基準ヘッドギャップとなるようヘッドユニット26の高さを設定する。
【0052】
次いで、ステップS4において、主制御部51は、シャトルユニット4を、図12に示す待機位置から図13に示すようにy=0の位置へ移動させる。
【0053】
ここで、図12図13に示すy軸は、副走査方向に平行な軸であり、x軸は、主走査方向に平行な軸である。y軸の1目盛りは、シャトルユニット4(ヘッドユニット26)の副走査方向における1回の搬送量を示すものである。y=0の位置は、載置面3a上に配置された基材61の前側の端の位置である。
【0054】
次いで、ステップS5において、主制御部51は、y方向におけるシャトルユニット4の位置を示す変数nに「0」を設定する。
【0055】
ここで、シャトルユニット4がy=nの位置に配置されているとき、高さ検出部27の測定幅の前端がy=nの位置にあり、ヘッドユニット26による印刷領域の後端がy=nの位置にある。
【0056】
次いで、ステップS6において、主制御部51は、y=n(ここではy=0)の位置における基材61の表面の高さ検出を行う。
【0057】
具体的には、主制御部51は、図14に示すように、ヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ、高さ検出部27により、x=TL~TR、y=n~(n+1)の領域E(n)(ここでは、x=TL~TR、y=0~1の領域E(0))の高さを検出するよう制御する。ここで、TLは、フラットベッドユニット3の載置面3aの左端の位置であり、TRは、載置面3aの右端の位置である。高さ検出部27は、領域E(n)内の、印刷解像度における画素の密度と同じ密度の各検出位置における高さを検出する。
【0058】
主制御部51は、高さ検出部27による各検出位置における検出値が、どのレイヤの高さ範囲に含まれるかを判断し、その判断結果に基づき、各検出位置が属するレイヤを判断する。そして、主制御部51は、各検出位置がどのレイヤに属するかを示す高さデータを高さメモリ57に格納する。
【0059】
高さメモリ57に格納された領域E(0)の高さデータを図15に示す。図15に示すように、第1レイヤに属する検出位置には「1」、第2レイヤに属する検出位置には「2」、第3レイヤに属する検出位置には「3」、第1レイヤよりも低い(h1min未満の)検出位置には「0」が格納される。基材61がない領域では載置面3aの高さが検出され、高さデータは「0」となる。
【0060】
図11に戻り、ステップS7において、主制御部51は、次のパスで印刷を行う領域の印刷データの補正を行う。
【0061】
ここで、印刷時に基材61の縁の近傍にインクを吐出すると、インク吐出によって発生するインクミストが基材61の側面に付着し、基材61の側面を汚すことがある。そこで、主制御部51は、基材61の側面へのインクミストの付着を軽減するために、基材61の縁の近傍の画素に対するインクの吐出量(ドロップ数)を低減するよう、レイヤメモリ56a~56cに格納された各レイヤの印刷データを補正する。
【0062】
また、印刷面と載置面3aとの高低差、印刷時におけるヘッドユニット26の移動速度、およびインクの吐出量(ドロップ数)が大きいほど、インクミストによる基材61の側面の汚れへの影響が大きくなる。
【0063】
そこで、基材61の縁から画素までの距離をs、画素の印刷面と載置面3aとの高低差をh、印刷時におけるヘッドユニット26の移動速度をv、補正前の印刷データにおける画素の値(ドロップ数)をd、低減係数をkとすると、主制御部51は、s,h,v,d,kを変数とする演算式により、距離sが所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう印刷データを補正する。上記の所定値および演算式は、予め実験等に基づき導出されたものである。
【0064】
なお、s,h,v,d,kを入力とするテーブルを用いて印刷データを補正するようにしてもよい。
【0065】
ここで、基材61の縁から画素までの距離sは、基材61の四辺のうち当該画素に最も近い辺までの距離である。ヘッドユニット26の移動速度vは、印刷解像度に応じて設定されるものである。各画素の印刷面は、ベース部分67の表面67a、ひし形部分68の表面68a、および円形部分69の表面69aのいずれかである。
【0066】
sが小さいほど、また、h,v,dがそれぞれ大きいほど、印刷データの値が小さくなってインクの吐出量(ドロップ数)が低減するように補正が行われる。
【0067】
低減係数kは、補正の強度に応じた係数であり、ユーザにより設定可能なパラメータである。例えば、補正後の印刷データの値をDとすると、k=0ではD=d(補正なし)、k=1ではd×0.9≦D≦d(補正強度:弱)、k=2ではd×0.8≦D≦d(補正強度:中)、k=3ではd×0.7≦D≦d(補正強度:強)となるようにする。
【0068】
次いで、ステップS8において、主制御部51は、シャトルユニット4をy方向後方に1パス分だけ移動させる。y=0の位置における高さ検出後の場合は、主制御部51は、図16に示すように、シャトルユニット4をy=1の位置まで移動させる。
【0069】
なお、ステップS7とステップS8とを入れ替え、シャトルユニット4をy方向後方に1パス分だけ移動させた後に、上述したステップS7の印刷データの補正を行うようにしてもよい。
【0070】
次いで、ステップS9において、主制御部51は、変数nに「1」を加算する。
【0071】
次いで、ステップS10において、主制御部51は、変数nが、最後のパスを行うシャトルユニット4の位置であることを示す「N」であるか否かを判断する。
【0072】
n=Nではないと判断した場合(ステップS10:NO)、ステップS11において、主制御部51は、y=nの位置における基材61の表面の高さ検出を行うとともに、y=nの位置における基材61への印刷処理を行う。
【0073】
具体的には、主制御部51は、ヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ、高さ検出部27により、x=TL~TR、y=n~(n+1)の領域E(n)の高さを検出し、ヘッドユニット26により基材61のy=(n-1)~nの範囲に印刷するよう制御する。
【0074】
例えば、n=1の場合、主制御部51は、図17に示すように、ヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ、高さ検出部27により、x=TL~TR、y=1~2の領域E(1)の高さを検出し、y=0~1の範囲においてヘッドユニット26により基材61に印刷するよう制御する。
【0075】
領域E(1)の高さが検出されると、主制御部51は、領域E(1)の高さデータを高さメモリ57に格納する。この結果、図18に示すように、x=TL~TR、y=0~2の領域における各検出位置の高さデータが高さメモリ57に格納された状態となる。
【0076】
ヘッドユニット26によるy=(n-1)~nの範囲における基材61への印刷時には、主制御部51の制御により、領域E(n-1)の各検出位置における高さデータが高さメモリ57から順次読み出されてデータセレクタ58に出力される。また、主制御部51の制御により、各検出位置に対応する各レイヤの補正後の印刷データがそれぞれレイヤメモリ56a,56b,56cからデータセレクタ58に出力される。
【0077】
そして、図19に示すように、高さデータが「1」の場合は、データセレクタ58は、第1レイヤの印刷データをヘッドデータとしてインクジェットヘッド31へ出力する。高さデータが「2」の場合は、データセレクタ58は、第2レイヤの印刷データをヘッドデータとしてインクジェットヘッド31へ出力する。高さデータが「3」の場合は、データセレクタ58は、第3レイヤの印刷データをヘッドデータとしてインクジェットヘッド31へ出力する。ここで、各インクジェットヘッド31に、それぞれに対応する色のインクのドロップ数を示すデータが出力される。
【0078】
高さデータが「0」の場合は、データセレクタ58は、非吐出データ(0)を各インクジェットヘッド31に出力する。
【0079】
n=1の場合、右から左へ移動するヘッドユニット26の位置に応じて、高さメモリ57から図15に示す高さデータが順次読み出されてデータセレクタ58に出力される。
【0080】
ヘッドユニット26が基材61に到達する前は、高さメモリ57から「0」が読み出され、データセレクタ58からヘッドデータとして非吐出データ(0)が出力される。
【0081】
ヘッドユニット26が基材61に到達すると、高さメモリ57から「1」が読み出され、データセレクタ58により第1レイヤの印刷データが選択されてヘッドデータとして出力される。
【0082】
さらにヘッドユニット26が左へ進むと、高さデータが「3」、「2」の検出位置が出現し、それらの検出位置では、それぞれ第3レイヤの印刷データ、第2レイヤの印刷データがデータセレクタ58により選択されてヘッドデータとして出力される。
【0083】
ヘッドユニット26が基材61の左端を過ぎると、高さメモリ57から「0」が読み出され、データセレクタ58からヘッドデータとして非吐出データ(0)が出力される。そして、図17の印刷処理が完了する。
【0084】
図11に戻り、ステップS11の後、主制御部51は、ステップS7に戻る。
【0085】
ステップS10において、n=Nであると判断した場合(ステップS10:YES)、ステップS12において、主制御部51は、y=n(ここでは、y=N)の位置における基材61への印刷処理を行う。
【0086】
上述のようなS7~S12の処理により、n=1~(N-1)において、ヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ高さ検出および印刷処理を行った後、次のパスで印刷を行う領域の印刷データを補正し、シャトルユニット4を1パス分だけ移動させることが繰り返される。
【0087】
例えば、図17に示したy=1の位置における高さ検出および印刷処理後、主制御部51は、次のパスで印刷を行う領域の印刷データの補正を行い、図20に示すように、シャトルユニット4をy方向後方に1パス分だけ移動させる。この後、主制御部51は、図21に示すように、y=1の位置における高さ検出および印刷処理を行う。y=1の位置における高さ検出後に高さメモリ57に格納されている各検出位置の高さデータを図22に示す。
【0088】
y=Nの位置における基材61への印刷処理が終了すると、図23に示すように、基材61への印刷が完了する。これにより、一連の動作が終了となる。
【0089】
上述のような印刷動作中において、主制御部51は、ミスト回収部33を駆動させる。印刷動作中にヘッドユニット26が左右方向(主走査方向)および前後方向(副走査方向)に移動することでインクミストが舞い上がるのに対し、各吸引機構41のファン46が前後左右の4方向からインクミストを含む空気を吸引し、フィルタ47がインクミストを捕捉する。これにより、基材61やインクジェット印刷装置1における基材61の周辺部分のインクミストの付着による汚染を軽減できる。
【0090】
また、吸引機構41によりキャリッジ32の外部から内部へ空気が取り込まれることで、インクジェットヘッド31の温度上昇を抑制できる。これにより、インクジェットヘッド31によるインクの吐出速度および吐出量を安定させることができ、インクの着弾ドットの大きさの均一化、および着弾位置精度の向上を実現できる。
【0091】
なお、印刷解像度に応じてファン46の回転数を調整してもよい。具体的には、印刷解像度が高いほど、インクミストが多く発生しやすいため、ファン46の回転数を大きくしてもよい。
【0092】
また、ファン46の向きを調整可能な構成としてもよい。例えば、ファン46の向きを斜め上方向からインクミストを吸引可能な向きに調整可能とし、ファン46の向きを調整しながら吸引動作を行うようにしてもよい。これにより、上方に舞い上がったインクミストを効率的に回収できる。ここで、ファン46の向きおよび吸引風量は、インクジェットヘッド31によるインクの吐出に影響しない範囲とする。
【0093】
また、排気口42に排気用のファンを設けてもよい。さらに、排気口42にインクミストを捕捉するフィルタを設けてもよい。この場合において、排気用のファンにより排気される空気量が吸引機構41のファン46により吸引される空気量と同等以上となるように排気用のファンの回転数を設定することが好ましい。これにより、インクミストの吸引効率を良好とすることができる。
【0094】
また、フィルタ47が脱臭性能を有するものであってもよい。例えば、フィルタ47として活性炭フィルタ、イオン結合フィルタ、光触媒フィルタ等を用いてもよい。これにより、インクの臭気を抑制できる。
【0095】
次に、印刷媒体である基材15として、図24図26に示す基材71を用いる場合のインクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0096】
図24は、基材71の斜視図である。図25は、基材71をフラットベッドユニット3に配置した状態を示す平面図である。図26は、基材71をフラットベッドユニット3に配置した状態を前側から見た図である。
【0097】
図24図25に示すように、基材71は、平面視における形状が矩形ではない。図25図26に示すように、2つの基材71が載置面3a上に並べられて印刷されるが、2つの基材71の間に隙間がある。基材71の表面71aには、表面71aから窪んだ凹部71bが形成されている。
【0098】
基材71では、表面71aを含むレイヤが唯一のレイヤである。図26に示すように、フラットベッドユニット3の載置面3aから表面71aまでの高さをhrとする。
【0099】
上述のような基材71に対し、インクジェット印刷装置1により、図27に示す図柄を印刷することで、図28のような加飾を施す。
【0100】
基材71に印刷を行う動作の手順は、前述した基材61に印刷を行う動作の手順と同様である。
【0101】
基材71はレイヤが1つのみであるため、印刷設定情報は、レイヤ数が1、レイヤの基準高さがhr、レイヤの高さ範囲がhrmin以上であることを示す情報を含む。hrminは、基材71におけるレイヤの高さ範囲の下限として予め設定されたものである。
【0102】
主制御部51は、印刷設定情報とともに、図27の図柄を印刷するための印刷データを受信し、受信した印刷データを印刷データメモリ56に格納する。そして、主制御部51は、上記のようなレイヤの条件で、前述した基材61に印刷を行う動作と同様の手順で印刷を実行する。
【0103】
基材71への印刷動作中に高さメモリ57に格納された高さデータの一部を図29に示す。図29に示すように、2つの基材71の間の隙間の領域、および凹部71bの領域において、高さデータが「0」となっており、これらの領域には印刷が施されない(インクが吐出されない)。
【0104】
また、2つの基材71の間の隙間の領域以外の、基材71の周囲の基材71がない領域でも高さデータは「0」となり、印刷が施されない。
【0105】
ここで、基材71の凹部71bは、レイヤの高さ範囲の下限よりも深くまで掘り下げられて形成されている。すなわち、凹部71bの底面は、載置面3aからhrmin未満の位置にある。このため、上述のように凹部71bの領域の高さデータは「0」となる。
【0106】
基材71への印刷動作においても、前述した図11のステップS7における印刷データの補正が行われるが、基材71への印刷動作時における印刷データの補正について、図30図32を参照して説明する。
【0107】
図30は、あるパスにおいてヘッドユニット26が左から右へ移動したところを示している。このパスで高さ検出された領域の一部の領域Fにおける各検出位置の高さデータとして、図31のようなデータが高さメモリ57に格納されている。
【0108】
図31に示すように、基材71がない検出位置の高さデータは「0」であり、基材71がある検出位置の高さデータは「1」である。高さデータが「1」の領域に対して高さデータが「0」の領域は低くなっていることがわかる。
【0109】
図32は、印刷データを格納した印刷データメモリ56の、領域Fに対応する箇所を示している。図32に示すように、印刷データメモリ56には、位置(x,y)の印刷データとしてd(x,y)が格納されている。図32では、高さデータが「0」の部分をグレイ塗りで示している。
【0110】
図30の状態からシャトルユニット4をy方向後方に1パス分だけ移動させた後、ヘッドユニット26を右から左へ移動させつつ、直前のパスで高さ検出された領域に印刷を行うが、この印刷により位置(x,y)=(a+2,b+6),(a+3,b+5),(a+3,b+4),(a+3,b+3),(a+4,b+2),(a+4,b+1),(a+4,b)における基材71の側面にインクミストが付着して汚れるおそれがある。そこで、図30のタイミングで、次のパスで印刷を行う領域の印刷データの補正を行う。
【0111】
前述のように、s,h,v,d,kを変数とする演算式により、距離sが所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう印刷データを補正する。また、s,h,v,d,kを入力とするテーブルを用いて印刷データを補正するようにしてもよい。
【0112】
図32の例では、グレイ塗りされていない位置(画素)が、基材71の縁からの距離sが所定値以下であり、インクの吐出量を低減する補正の対象となる。
【0113】
(x,y)=(a+2,b+6),(a+3,b+5),(a+3,b+4),(a+3,b+3),(a+4,b+2),(a+4,b+1),(a+4,b)の位置(画素)ではs=0となる。(x,y)=(a+3,b+6),(a+4,b+5),(a+4,b+4),(a+4,b+3),(a+5,b+2),(a+5,b+1),(a+5,b)の位置(画素)ではs=1となる。(x,y)=(a+4,b+6),(a+5,b+5),(a+5,b+4),(a+5,b+3),(a+6,b+2),(a+6,b+1),(a+6,b)の位置(画素)ではs=2となる。(x,y)=(a+5,b+6),(a+6,b+5),(a+6,b+4),(a+6,b+3)の位置(画素)ではs=3となる。(x,y)=(a+6,b+6)の位置(画素)ではs=4となる。また、印刷面と載置面3aとの高低差h=hrである。
【0114】
また、基材71への印刷時には、凹部71bにもインクミストが付着して汚れるおそれがある。そこで、凹部71bの周囲の所定範囲内の画素に対するインクの吐出量を低減するよう印刷データを補正する。具体的には、主制御部51は、凹部71bの縁からの距離fが所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう印刷データを補正する。
【0115】
この補正も、上述した基材71の縁からの距離sが所定値以下の画素における印刷データの補正と同様の演算式により行う。上述した基材71の縁からの距離sが所定値以下の画素における印刷データの補正と同様に、テーブルを用いて印刷データを補正するようにしてもよい。
【0116】
ただし、この凹部71bの周囲の所定範囲内における印刷データの補正では、基材71の縁からの距離sのかわりに、凹部71bの縁からの距離fを用いる。また、印刷面と載置面3aとの高低差hのかわりに、印刷面と凹部71bの底面との高低差gを用いる。主制御部51は、凹部71bにおける高さ検出部27による高さの検出値を補助高さメモリ59に格納しておき、この検出値から高低差gを算出し、凹部71bの周囲の所定範囲内における印刷データの補正に適用する。
【0117】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、主制御部51は、高さ検出部27により検出された基材15(基材61,71)の表面の高さに基づき、インクジェットヘッド31により、基材15(基材61,71)の表面の高さに応じた少なくとも1つのレイヤごとに設けられた印刷データに基づく印刷を行うよう制御する。
【0118】
ここで、上記のような制御により、主制御部51は、高さ検出部27の検出結果に基づき、基材15(基材61,71)の周囲の載置面3aの位置にはインクを吐出せずに基材15(基材61,71)に印刷を行っている。換言すれば、高さ検出部27は高さ検出によって平面視における基材15(基材61,71)の形状を検出しており、主制御部51は、その検出結果に基づき、基材15(基材61,71)がない位置にはインクを吐出せずに基材15(基材61,71)に印刷を行うよう制御している。
【0119】
これにより、基材71のような複雑な形状の基材に印刷を行う場合や、複数の基材71を並べて印刷する場合でも、複数並べた基材と基材との隙間を含む基材がない位置へのインクの吐出を回避できるので、インクの飛散を軽減できる。この結果、基材15やインクジェット印刷装置1における基材15の周辺部分の汚染を軽減できる。
【0120】
また、基材15に個体差や経時変化がある場合でも、基材15がない位置へのインクの吐出によるインクの飛散を軽減しつつ、基材に印刷を行うことができる。
【0121】
また、インクジェット印刷装置1では、高さ検出部27により検出された基材15(基材61,71)の表面の高さに基づき、レイヤごとに設けられた印刷データに基づく印刷を行うので、例えば、基材61のような立体テクスチャを有する基材に印刷する場合に、高さの異なる各印刷面に所望の画像を高精度で印刷できる。また、例えば、基材71のように凹部71bを有する基材に印刷する場合に、凹部71bを避けて印刷することが可能になる。すなわち、表面に凹凸形状を有する基材15(基材61,71)に対して、凹凸形状に応じた画像の印刷を高精度で行うことができる。
【0122】
また、インクジェット印刷装置1では、高さ検出部27は、ヘッドユニット26が主走査方向に移動するパスの動作において、次のパスでのヘッドユニット26による印刷領域の基材15(基材61,71)の表面の高さを検出する。すなわち、高さ検出部27は、ヘッドユニット26が主走査方向に移動するパスの動作において、次のパスにおける印刷領域の平面視における基材15(基材61,71)の形状も検出している。これにより、印刷を行いつつ基材15(基材61,71)の表面の高さおよび平面視における基材15(基材61,71)の形状を検出できるので、効率的に印刷を行うことができる。
【0123】
また、インクジェット印刷装置1では、主制御部51は、基材15(基材61,71)の縁からの距離sが所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正する。これにより、インクミストが基材15(基材61,71)の側面に付着することによる基材15(基材61,71)の汚れを軽減できる。
【0124】
また、インクジェット印刷装置1では、主制御部51は、基材71に形成された印刷されない凹部71bの周囲の所定範囲内の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正する。これにより、インクミストが凹部71bに付着することによる凹部71bの汚れを軽減できる。
【0125】
また、インクジェット印刷装置1は、ミスト回収部33によりインクミストを回収するので、基材15やインクジェット印刷装置1における基材15の周辺部分のインクミストの付着による汚染をより軽減できる。
【0126】
[第2実施形態]
次に、上述した第1実施形態のミスト回収部を変更した第2実施形態について説明する。
【0127】
図33は、第2実施形態におけるヘッドユニット、高さ検出部、およびミスト回収部の概略構成図である。
【0128】
図33に示すように、第2実施形態におけるミスト回収部33Aは、キャリッジ32に設けられている。ミスト回収部33Aは、ダクト81と、4つの吸引口82と、4つのフィルタ83とを備える。
【0129】
ダクト81は、真空ポンプ、ダイアフラムポンプ等からなる吸引機構を有し、吸引口82を介してキャリッジ32内にインクミストを含む空気を吸引する。ダクト81は、キャリッジ32の天板に設けられている。
【0130】
吸引口82は、キャリッジ32内への空気の流入口である。4つの吸引口82は、キャリッジ32の4つの側面にそれぞれ1つずつ形成されている。
【0131】
フィルタ83は、インクミストを捕捉する。フィルタ83は、4つの吸引口82にそれぞれ1つずつ設けられている。フィルタ83は交換可能に構成されている。
【0132】
インクジェット印刷装置1における印刷動作中において、主制御部51は、ミスト回収部33Aを駆動させる。印刷動作中にヘッドユニット26が左右方向(主走査方向)および前後方向(副走査方向)に移動することでインクミストが舞い上がるのに対し、ダクト81の吸引機構が吸引口82を介して前後左右の4方向からインクミストを含む空気を吸引し、フィルタ83がインクミストを捕捉する。これにより、基材61やインクジェット印刷装置1における基材61の周辺部分のインクミストの付着による汚染を軽減できる。
【0133】
また、ダクト81の吸引機構によりキャリッジ32の外部から内部へ空気が取り込まれることで、第1実施形態と同様に、インクジェットヘッド31の温度上昇を抑制できる。
【0134】
なお、印刷解像度に応じてダクト81の吸引機構の空気圧を調整してもよい。具体的には、印刷解像度が高いほど、インクミストが多く発生しやすいため、ダクト81の吸引機構の吸引力が大きくなるように空気圧を調整してもよい。
【0135】
また、第1実施形態のフィルタ47と同様に、フィルタ83が脱臭性能を有するものであってもよい。
【0136】
また、ダクト81にインクを捕捉するフィルタを設けてもよい。このフィルタが脱臭性能を有するものであってもよい。
【0137】
[その他の実施形態]
上述のように、本発明は第1および第2実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0138】
上述した第1および第2実施形態では、基材15に対してインクジェットヘッド31を移動させつつ印刷を行うようにしたが、インクジェットヘッド31に対して基材15を移動させつつ印刷を行ってもよい。インクジェットヘッド31と基材15とを相対移動させつつ印刷を行うものであればよい。
【0139】
上述した第1および第2実施形態では、基材15に対してシャトルユニット4を副走査方向に移動させたが、シャトルユニット4に対して基材15を副走査方向に移動させる構成でもよい。副走査方向にインクジェットヘッド31と基材15とを相対移動させるものであればよい。
【0140】
上述した第1および第2実施形態では、インクジェットヘッド31を主走査方向に移動させつつ印刷を行う動作と、シャトルユニット4の副走査方向への移動とを交互に繰り返して基材15に印刷を行った。しかし、インクジェットヘッド31と基材15との1回の相対移動において基材15全体への印刷を行うものであってもよい。
【0141】
上述した第1および第2実施形態では、高さ検出部27がヘッドユニット26に固定され、ヘッドユニット26とともに移動するようにしたが、高さ検出部27が単独で移動可能な構成でもよい。
【0142】
上述した第1および第2実施形態では、ヘッドユニット26が主走査方向に移動するパスの動作において、高さ検出部27が次のパスでのヘッドユニット26による印刷領域の基材15の表面の高さ(平面視における基材15の形状)を検出するようにした。しかし、印刷動作の開始前に基材15全体の表面の高さ(平面視における基材15全体の形状)を検出するようにしてもよい。
【0143】
上述した第1および第2実施形態では、高さ検出部27は、帯状の光を出射し、その光が基材15で反射した光を受光して基材15の表面の高さおよび平面視における基材15の形状を検出する光センサからなるものとした。しかし、基材15の表面の高さおよび平面視における基材15の形状を検出する検出部の構成はこれに限らない。例えば、複数のレーザ変位センサを副走査方向(y方向)に並べて基材15の表面の高さおよび平面視における基材15の形状を検出する構成としてもよい。また、高さ検出以外の手段で平面視における基材15の形状を検出し、基材15がない位置にはインクを吐出せずに基材15に印刷を行うようにしてもよい。
【0144】
上述した第1および第2実施形態では、基材15(基材61,71)の縁からの距離sが所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正した。基材15が貫通穴を有するものである場合は、貫通穴の縁も基材15の縁として扱うようにしてもよい。
【0145】
上述した第1および第2実施形態における印刷データの補正において、インクジェットヘッド31が基材15のない位置から基材15へ進む場合と、インクジェットヘッド31が基材15から基材15のない位置へ進む場合とで、補正に用いる演算式またはテーブルを変えて、インクの吐出量の補正量を変えるようにしてもよい。インクジェットヘッド31が基材15のない位置から基材15へ進む場合と、インクジェットヘッド31が基材15から基材15のない位置へ進む場合とでは、気流およびインクミストの発生状況が異なるためである。それぞれの場合の演算式またはテーブルは、例えば、予め実験等に基づき求めればよい。
【0146】
上述した第1および第2実施形態における印刷データの補正において、インクジェットヘッド31ごとに、補正に用いる演算式またはテーブルを変えて、インクの吐出量の補正量を変えるようにしてもよい。ヘッドユニット26におけるインクジェットヘッド31の位置によって、気流およびインクミストの発生状況が異なるためである。それぞれのインクジェットヘッド31に応じた演算式またはテーブルは、例えば、予め実験等に基づき求めればよい。
【0147】
上述した第1および第2実施形態では、インクジェットヘッド31がマルチドロップ方式のものであるとしたが、これに限らず、例えば、ノズルから吐出するインク滴の大きさによりインク吐出量を変調する方式のものであってもよい。
【0148】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0149】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0150】
(付記1)
インクジェットヘッドと、
平面視における基材の形状を検出する検出部と、
前記インクジェットヘッドと基材とを所定の走査方向に相対移動させる走査機構と、
前記走査機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に相対移動させつつ、前記検出部による基材の形状の検出結果に基づき、前記インクジェットヘッドにより、基材がない位置にはインクを吐出せずに基材に印刷を行うよう制御する制御部と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0151】
(付記2)
前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に直交する搬送方向に相対移動させる搬送機構をさらに備え、
前記制御部は、前記走査機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記走査方向に相対移動させつつ前記インクジェットヘッドから基材へインクを吐出する動作と、前記搬送機構により前記インクジェットヘッドと基材とを前記搬送方向に相対移動させる動作とを交互に繰り返して基材に印刷するよう制御し、
前記検出部は、前記インクジェットヘッドと基材とが前記走査方向に相対移動するパスの動作において、次のパスにおける印刷領域の平面視における基材の形状を検出することを特徴とする付記1に記載のインクジェット印刷装置。
【0152】
(付記3)
前記制御部は、基材の縁からの距離が所定値以下の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正することを特徴とする付記1または2に記載のインクジェット印刷装置。
【0153】
(付記4)
前記検出部は、基材の表面の高さを検出し、
前記制御部は、前記検出部により検出された基材の表面の高さに基づき、前記インクジェットヘッドにより、基材の表面の高さに応じた少なくとも1つのレイヤごとに設けられた印刷データに基づく印刷を行うよう制御することを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置。
【0154】
(付記5)
前記制御部は、基材に形成された印刷されない凹部の周囲の所定範囲内の画素に対するインクの吐出量を低減するよう補正することを特徴とする付記4に記載のインクジェット印刷装置。
【0155】
(付記6)
前記インクジェットヘッドを保持するヘッド保持部と、
前記ヘッド保持部に設けられ、インクミストを回収するミスト回収部と
をさらに備えることを特徴とする付記1乃至5のいずれかに記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0156】
1 インクジェット印刷装置
2 シャトルベースユニット
3 フラットベッドユニット
4 シャトルユニット
5 制御部
11 架台部
12 副走査駆動モータ
13A,13B 副走査駆動ガイド
21 筐体
22 主走査駆動ガイド
23 主走査駆動モータ
24 昇降ガイド
25 昇降モータ
26 ヘッドユニット
27 高さ検出部
31 インクジェットヘッド
32 キャリッジ
33,33A ミスト回収部
51 主制御部
52 画像制御部
56 印刷データメモリ
56a,56b,56c,… レイヤメモリ
57 高さメモリ
58 データセレクタ
59 補助高さメモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33