(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171053
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】水性塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 101/02 20060101AFI20221104BHJP
C09D 5/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C09D101/02
C09D5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077433
(22)【出願日】2021-04-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年5月21日に公開された日本ゴム協会2020年年次大会要旨集第51頁において、公開した。 令和3年3月3日に開催された一般社団法人日本ゴム協会関西支部技術講習会において、公開した。 令和3年3月9日に開催された岡山理科大学プロジェクト研究推進事業報告会において、公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坂 昇
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】井口 勉
(72)【発明者】
【氏名】留目 大輔
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA021
4J038MA08
4J038NA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成膜した塗膜における凝集などの外観の異常と、物性の低下とが抑えられ、難燃性が向上した水性塗料を提供する。
【解決手段】特定の構造式を備える難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースと、揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とを含有する水性塗料である。前記難燃性化合物としては、例えば、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)が挙げられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の[化1]の構造を備える難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースと、揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とを含有する水性塗料。
【化1】
[ただし、R
1ないしR
3のうちふたつは、以下に示す[化2]に示す基であり、互いに同一又は異なっており、
R
1ないしR
3のうち残りのひとつが、リグノセルロースである。]
【化2】
[ただし、R
4及びR
5は、難燃性元素を含有しない基、又は難燃性元素を含有する基で置換されたアリール基であり、互いに同一又は異なる。]
【請求項2】
前記難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースを、1~30質量%含有する請求項1に記載の水性塗料。
【請求項3】
固化させた厚み50μmの塗膜における波長450nm、波長565nm、及び波長625nmにおける光線透過率が、何れも60%以上である請求項1又は2に記載の水性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースと、揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とを含有する水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1のように、ポリリン酸アンモニウムやメラミンなどの低分子量の難燃剤と、水性エポキシ樹脂とを含有する発泡型の水性塗料が知られている。
【0003】
また、以下の特許文献2の化1に記載の構造を有する難燃性化合物で修飾したリグノセルロースが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-158770号公報
【特許文献2】特開2020-11924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の塗料は、難燃剤を含有しているため、難燃性が一定程度向上していると思われる。しかしながら、特許文献1のような低分子量の難燃剤を添加した従来の水性塗料では、塗膜の弾性率が低下するなど塗膜の物性が低下する問題があった。また、難燃剤の種類によっては、難燃剤を水性塗料に添加すると、成膜された塗膜において凝集が生じることがあった。
【0006】
本発明者らの一部は、特許文献2の難燃化剤を開発したが、当該難燃化剤は固形の合成樹脂材料に添加することを目的として開発されたものであった。このため、特定の構造を有する難燃化剤で修飾されたリグノセルロースを乾燥させて、合成樹脂に添加していた。特許文献2には、水性塗料に当該難燃化剤を使用することについては記載がされていない。
【0007】
本発明は、成膜した塗膜における凝集などの外観の異常と、物性の低下とが抑えられ、難燃性が向上した水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の[化1]の構造を備える難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースと、揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とを含有する水性塗料により、上記の課題を解決する。
【化1】
[ただし、R
1ないしR
3のうちふたつは、以下に示す[化2]に示す基であり、互いに同一又は異なっており、
R
1ないしR
3のうち残りのひとつが、リグノセルロースである。]
【化2】
[ただし、R
4及びR
5は、難燃性元素を含有しない基、又は難燃性元素を含有する基で置換されたアリール基であり、互いに同一又は異なる。]
【0009】
上記の水性塗料は、前記難燃性化合物で修飾されたリグノセルロースを、1~30質量%含有するものとすることが好ましい。また、上記の水性塗料は、固化させた厚み50μm塗膜における波長450nm、波長565nm、及び波長625nmにおける光線透過率が、何れも60%以上となるようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成膜した塗膜における凝集などの外観の異常と、物性の低下とが抑えられ、難燃性が向上した水性塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1ないし3、及び比較例1に係る水性塗料で構成した試料について、歪みと応力の関係を分析した結果を示すグラフである。
【
図2】比較例2ないし4に係る油性塗料で構成した試料について、歪みと応力の関係を分析した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1ないし3、及び比較例1に係る水性塗料で構成した試料について、各波長の光の透過率を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】難燃化リグノセルロースの含量と、波長550nmの光線の透過率との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1、実施例3、及び比較例1の水性塗料で構成した各試料について、コーンカロリーメーターで測定した総発熱量と、経過時間との関係を示すグラフである。
【
図6】比較例2、比較例3、及び比較例4の油性塗料で構成した各試料について、コーンカロリーメーターで測定した総発熱量と、経過時間との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1、実施例3、及び比較例1の水性塗料で構成した各試料について、コーンカロリーメーターで測定した発熱速度と、経過時間との関係を示すグラフである。
【
図8】比較例2、比較例3、及び比較例4の油性塗料で構成した各試料について、コーンカロリーメーターで測定した発熱速度と、経過時間との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例3、比較例1、比較例3、及び比較例4のそれぞれの塗料による塗膜の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水性塗料の好適な実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0013】
水性塗料は、以下の[化1]の構造を備える難燃性化合物で修飾されたリグノセルロース(以下、難燃化リグノセルロースと称する。)と、揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とを含有する。
【0014】
揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂とは、例えば、市販の水性塗料を使用することができる。市販の水性塗料は、水を含有する液分と、水溶性型又は水分散型の合成樹脂とを含有する。水分散型の合成樹脂には、コロイダルディスパーション型と、エマルション型とがある。水溶性型とコロイダルディスパーション型は、親水性の溶剤を使用して合成した合成樹脂に中和剤を加えることによって得られる。中和剤を加えることで、合成樹脂は水に対して溶解又は半溶解する。エマルション型は、乳化重合により製造され、合成樹脂が水を主成分とする液分中にエマルションとして存在する。エマルション型としては、疎水性の合成樹脂を強制的に乳化したものも含まれる。
【0015】
上記の合成樹脂としては、特に限定するものではないが、例えば、水溶性アクリル樹脂、乳化重合による水分散型のアクリル樹脂、強制的に乳化させたポリウレタン樹脂、分子中に親水基を直接導入して乳化した自己乳化したポリウレタン樹脂、変性により水性化したエポキシ樹脂、フッ素樹脂エマルション、シリコーン樹脂エマルション又は、例えばアクリル・ウレタン共重合体などのこれら分子を構成するモノマーを共重合させた共重合体などが挙げられる。
【0016】
揮発成分である水と、塗膜を形成する成分である合成樹脂は、上記市販の水性塗料と同様の合成樹脂と、水とを含有させることによっても得られる。
【0017】
難燃化リグノセルロースは、公知の方法で以下の[化1]に示す難燃性化合物を合成して、公知のMannich反応により、リグノセルロースを、合成した難燃性化合物で化学的に修飾するようにすればよい。
【化1】
[ただし、R
1ないしR
3のうちふたつは、以下に示す[化2]に示す基であり、互いに同一又は異なっており、
R
1ないしR
3のうち残りのひとつが、リグノセルロースである。]
【化2】
[ただし、R
4及びR
5は、難燃性元素を含有しない基、又は難燃性元素を含有する基で置換されたアリール基であり、互いに同一又は異なる。]
【0018】
上記の難燃性元素を含有する基は、難燃性を示す元素を含有する基であればよい。そのような基としては、例えば、臭素若しくは塩素などのハロゲン元素、ホウ素、又はケイ素など難燃性元素を含有する基が挙げられる。例えば、ブロモ基、クロロ基などのハロゲン基、リン酸基、ニトロ基、ニトロソ基、アジド基、ボロン酸基、トリメチルシリル基などのシリル基、又は難燃性元素を有する炭化水素基などが挙げられる。難燃性元素を有する炭化水素基は、炭素数が1~6であるアルキル基の水素が難燃性元素で置換されたものが挙げられる。
【0019】
上記の難燃性化合物におけるアリール基としては、難燃性元素を含有する基で置換可能なものであればよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられる。
【0020】
上記の難燃性元素を含有しない基としては、例えば、水素原子、シクロヘキシル基、アリール基、又は炭素数が1~6であるアルキル基等が挙げられる。アリール基には、フェニル基、又はナフチル基が含まれる。
【0021】
R4及びR5は、互いに同一であってもよし、互いに異なってもよい。例えば、R4は難燃性元素を含有しない基であり、R5及は難燃性元素を含有する基であってもよいし、その逆でもよい。具体的には、例えば、R4及びR5は共に水素原子又はフェニル基であってもよいし、R4はフェニル基であり、R5は水素原子であってもよい。R1及びR2も、同様に、互いに同一であってもよし、互いに異なってもよい。
【0022】
上位の難燃性化合物がリグノセルロースに結合する位置は、R1ないしR3のうちいずれか一つであればよい。
【0023】
上記の難燃性化合物は、[化2]に示したように、R4及びR5によって水素が置換されたリン酸基を複数備える。リン酸基は、水溶性を向上させる。[化1]に示した難燃化リグノセルロースが、水溶性を呈するのは、このリン酸基によるものである。リン酸基によって親水性が付与されるため、R4及びR5は、任意の構造を有する基を採用することができる。例えば、上記のように、難燃性を示す元素を含有する基とすれば、難燃性を強化することができる。また、例えば、難燃性を示す元素を含有する基とすれば、環境に配慮したハロゲンフリーの塗料とすることができる。R4及びR5が難燃性元素を備えるものでなかった場合でも、上記の難燃性化合物は、難燃性元素であるリンと窒素とを含有するため、難燃性を発揮する。
【0024】
難燃性化合物としては、例えば、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,6-ジブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(4-ブロモフェニル);N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラフェニル;N,N'-(4-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,6-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)などが挙げられる。
【0025】
上記の例では、フェニル基の水素のうち1つから3つが臭素で置換された2,4,6-トリブロモフェニルである例を挙げた。このように、フェニル基を、例えば、2,4-ジブロモフェニル基、2,6-ジブロモフェニル基など任意の位置の水素2つが臭素で置換されたものとしてもよい。また、フェニル基を、例えば、4-ブロモフェニル基、又は2-ブロモフェニル基など任意の位置の水素一つが臭素で置換されたものとしてもよい。また、2,4-ジクロロフェニル基、2,6-ジクロロフェニル基など任意の位置の水素が塩素などのハロゲンで置換されたものとしてもよい。また、フェニル基を、例えば、4-クロロフェニル基、又は2-クロロフェニル基など任意の位置の水素が塩素などのハロゲン又はその他の難燃性元素で置換されたものとしてもよい。
【0026】
リグノセルロースは、セルロースとリグニンとを含む。リグノセルロースは、木材片を、解繊して製造されたものが市販されている。例えば、そのような市販のものを使用することができる。市販されたものに替えて、公知の方法により、木材を解繊することにより作製したリグノセルロースを使用してもよい。
【0027】
水性塗料における難燃化リグノセルロースの含有量は特に限定されない。難燃化リグノセルロースの含有量が増加すると、塗膜の透明度が低下する傾向がある。塗膜の透明度を重視する用途では、難燃化リグノセルロースを、1~30質量%、若しくは1~15質量%含有させることが好ましい。なお、前記含有率は、難燃化リグノセルロースの含有量を固形分に換算した数値である。
【0028】
上記の水性塗料によれば、顔料又は染料等を配合させなければ、固化させた厚み50μmの塗膜における波長450nm、波長565nm、及び波長625nmにおける光線透過率が、例えば、何れも、60%以上、70%以上、又は80%以上である塗膜を形成することができる。透過率の上限値は、特に限定されないが、例えば、95%、又は90%以下である。
【0029】
水性塗料は、難燃化リグノセルロースを配合することにより、難燃性が付与される。難燃化リグノセルロースを配合した水性塗料の物性は、難燃化リグノセルロースを配合していない水性塗料に比して、劣ることはなく、むしろ物性が向上する。例えば、難燃化リグノセルロースを配合した水性塗料の引張強度は、難燃化リグノセルロースを配合していない水性塗料に比して、難燃化リグノセルロースの配合量に応じて、例えば、4倍まで上昇させることができる。
【0030】
水性塗料は、顔料又は染料を添加せずに塗料としてもよいし、顔料又は染料を添加して塗料としてもよい。含量又は染料を配合しない塗料の場合は、透明な塗膜を形成することができる。この場合、木目などの下地の特徴を活かした塗膜を形成することができる。同様に染料を添加した場合も、下地の特徴を活かした塗膜を形成することができる。染料又は顔料を配合した場合は、染料又は塗料を含有しない水性塗料を固化させた塗膜が透明であるので、意図した色彩を付与することができる。
【0031】
水性塗料は、上記の成分の他に、顔料の分散剤、消泡剤、顔料の沈降防止剤、又は塗膜に平滑性を付与するレベリング材などの添加剤を添加してもよい。また、液分として主要な液分である水の含量を超えない範囲で、エタノールなどのアルコール溶剤、又はアセトンなどのケトン溶剤など、溶剤を含有してもよい。
【実施例0032】
以下、本発明の水性塗料の実施例を挙げて説明する。以下に示す各実施例は、本発明の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施例に限定されるものではない。
【0033】
[リグノセルロースの難燃化処理]
特開2020-11924号公報に記載の方法と同様の方法により、以下のN,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)を合成した。前記公報に記載の方法と同様の方法によって、以下の[式1]に示したように、前記合成物で化学的に修飾されたリグノセルロースを得た。なお、リグノセルロースはモリマシナリー株式会社製のCellFiM L45を使用した。この方法により、77.52質量%が水分であり、残部が固形分であり、乾燥重量が1.03gの水分散スラリーを得た。
[式1]
【0034】
[実施例1]
上記の方法で調製した水分散スラリーを、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)で修飾されたリグノセルロース(以下、難燃化リグノセルロースという。)の含量が5.0質量%となるように、水性ポリウレタン塗料に添加して、スターラーで一晩撹拌して、実施例1に係る水性塗料を調製した。前記含量は、液分を除いた固形物換算とした。水性ポリウレタン塗料として、玄々化学工業株式会社のユートンAQUA SC91を使用した。この水性ポリウレタン塗料は、樹脂分としてアクリルウレタンエマルジョン34.3質量%と、水55.2質量%と、アルコール3.9質量%と、ケトン4.9質量%と、添加剤を1.7質量%とを含有する。
【0035】
[実施例2]
上記の方法で調製した水分散スラリーを、難燃化リグノセルロースの含量が固形物換算で7.5質量%となるように、水性ポリウレタン塗料に添加した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る水性塗料を調製した。
【0036】
[実施例3]
上記の方法で調製した水分散スラリーを、難燃化リグのセルロースの含量が固形物換算で10.0質量%となるように、水性ポリウレタン塗料に添加した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る水性塗料を調製した。
【0037】
[比較例1]
上記の方法で調製した難燃化リグノセルロースを、配合しなかった点以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る塗料を調製した。すなわち、水分散スラリーの含量は、0質量%である。
【0038】
[比較例2]
水性ポリウレタン塗料を、油性ポリウレタン塗料に変更し、難燃化リグノセルロースを含油する水分散スラリーを濾過、乾燥して得た固形物を前記油性ポリウレタン塗料に配合した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る塗料を調製した。難燃化リグノセルロースの含量は、5.0質量%となるようにした。なお、油性ポリウレタン塗料として、玄々化学工業株式会社のユートンM L-45を使用した。この油性ポリウレタン塗料は、樹脂分として湿気硬化型ポリウレタン樹脂42.0質量%と、脂肪族炭化水素系の溶剤29.0質量%と、酢酸エステル系の溶剤29.0質量%とを含有する。
[比較例3]
上記の方法で調製した難燃化リグノセルロースを、その含量が10.0質量%となるように、油性ポリウレタン塗料に添加した点以外は、比較例2と同様にして、比較例3に係る塗料を調製した。
【0039】
[比較例4]
上記の方法で調製した難燃化リグノセルロースを、配合しなかった点以外は、比較例2と同様にして、比較例1に係る塗料を調製した。すなわち、難燃化リグノセルロースの含量は、0質量%である。
【0040】
[試験片の作製]
上記の各実施例に係る水性塗料、及び各比較例の塗料を、それぞれシャーレに注いで、一晩静置した。その後、フィルム状の試験片をシャーレ事真空乾燥機に入れて、40℃で一晩乾燥させた。乾燥したフィルムをシャーレから剥がして、フィルム状の試験片を得た。
【0041】
[引張試験]
上記の各実施例に係る試験片、及び上記の各比較例に係る試験片から、幅4mm、長さ12mm、厚み0.2mmの試料を切り出した。室温にて10mm/分で試料を延伸して、歪みと応力の関係を調べた。結果を
図1及び
図2に示す。
【0042】
[光線透過率]
【0043】
各実施例及び各比較例の試験片について、日本分光社製の分光光度計(品番:V-730BIO)を使用して、波長200nmから900nmの光線の透過率を測定した。前記分光光度系では、1cmの大きさの光が当たる領域があれば、測定可能である。波長を変える走査速度は200nm/分とし、データ間隔は0.5nmとし、各波長における測定データの取得回数(積算回数)は3回とした。試験片は、厚みが40~60μmの範囲でばらつきがあったため、得られた透過率(%)の値は、次式により、試料の厚みが50μmに相当するように補正した。結果を
図3、及び
図4のグラフに示す。なお、
図4は、波長550nmの光線透過率と、N,N'-(6-アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)ビス(ホスホルアミド酸)テトラ(2,4,6-トリブロモフェニル)で修飾されたリグノセルロースの含量との関係を示すグラフである。
(補正式)
x=100×exp(ln(実測の透過率(%)/100)×50(μm)/試料の厚み(μm))
【0044】
[コーンカロリーメーターによる試験]
以下の方法により、コーンカロリーメーター用の試験片を作製した。10cm×10cm×0.50cmのステンレス板の上に、各実施例又は各比較例の塗料を、乾燥前かつ希釈する前の塗料の質量で計1gとなるように塗布した。なお、塗布時には塗料の粘度が高かったために、各塗料に水を加えて希釈してステンレス板に塗布した。その後、一晩乾燥させてステンレス板上に塗膜を形成させた。その後、さらに真空乾燥を40℃で一晩行なって試験片を作製した。
【0045】
上記で作製した各試験片について、ISO5600に準拠して、総発熱量(kW/m
2)と、発熱速度(MJ/m
2)とを計測した。輻射量は、50kW/m
2であり、ヒーター温度は約750℃である。総発熱量と試験片を加熱してから経過した時間との関係を、
図5及び
図6に示す。発熱速度と試験片を加熱してから経過した時間との関係を、
図7及び
図8に示す。
【0046】
図1の結果からわかるように、上記の難燃性化合物で修飾したリグノセルロース(以下、難燃化リグノセルロースと称する。)を配合した水性塗料では、難燃化リグノセルロースの含有量が増えるにつれて、破断時の試料の歪みが小さくなり、試料の破断時の応力値が大きくなることがわかる。実施例3の試料では、比較例1の試料に比して約2倍も前記応力値が大きくなった。
【0047】
図2の結果からわかるように、上記の難燃化リグノセルロースを配合した油性塗料では、難燃化リグノセルロースを含有させると、試料の破断時の応力値が小さくなり、試料の破断時の歪みの値も小さくなり、塗膜の物性が損なわれることがわかる。
【0048】
図3の結果からわかるように、実施例1ないし3の水性塗料で構成した試験片は、何れも、固化させた厚み50μmの塗膜における波長450nm、波長565nm、及び波長625nmにおける光線透過率が、何れも60%以上である。このことからわかるように、上記の難燃化リグノセルロースを配合した水性塗料は、顔料又は染料を配合していない状態では、可視光線の透過率が高く、透明度の高い塗膜が得られることがわかる。また、
図4に示したように、難燃化リグノセルロースの含有量が大きくなると、徐々にではあるが、可視光線の透過率が低下する傾向があることがわかる。
【0049】
図9に実施例3、比較例1、比較例3、及び比較例4の各試験片の写真を示す。
図9の写真から明らかなように、実施例3の試験片は、難燃化リグノセルロースを配合していない比較例1に係る水性塗料による塗膜と同様に透明であった。
【0050】
上記の難燃化リグノセルロースを配合した比較例3に係る試験片では、凝集物が確認された。塗料としては使用に耐えるものではなかった
【0051】
図5及び
図7の結果からわかるように、上記の難燃化リグノセルロースを配合した水性塗料では、難燃化リグノセルロースの含有量が高くなるほど、総発熱量が小さくなり、発熱速度のピークが小さくなることがわかる。
【0052】
図6及び
図8の結果からわかるように、上記の難燃化リグノセルロースを配合した油性塗料では、難燃化リグノセルロースの含有量を高めても、総発熱量及び発熱速度は、難燃化リグノセルロースを配合していない比較例4に係る油性塗料に比して、改善が見られないことがわかる。