(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171057
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】消火用積層体
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20221104BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A62D1/06
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077441
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】堤 明正
【テーマコード(参考)】
2E191
4F100
【Fターム(参考)】
2E191AA01
2E191AA06
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2E191AC08
4F100AA02B
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(57)【要約】
【課題】消火剤の性状安定性に優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火用積層体を提供すること。
【解決手段】一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、基材の水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)が、12g/m
2/day以下である、消火用積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基材と、前記一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、
前記基材の水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)が、12g/m2/day以下である、消火用積層体。
【請求項2】
前記消火剤成分が、カリウム塩及びナトリウム塩の少なくとも一方を含むラジカル発生剤を含む、請求項1に記載の消火用積層体。
【請求項3】
前記消火剤成分が、前記バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含み、
前記ラジカル発生剤の分解開始温度が90~260℃の範囲である、請求項1又は2に記載の消火用積層体。
【請求項4】
前記ラジカル発生剤が、酢酸カリウム及びクエン酸三カリウムの少なくとも一種である、請求項3に記載の消火用積層体。
【請求項5】
前記一対の基材のうち少なくとも一方が、アルミナ又はシリカを含む金属酸化物層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の消火用積層体。
【請求項6】
前記金属酸化物層が前記消火剤含有層側を向いている、請求項5に記載の消火用積層体。
【請求項7】
前記金属酸化物層が、金属酸化物の蒸着層である、請求項5又は6に記載の消火用積層体。
【請求項8】
前記消火剤含有層の側面を封止する封止部をさらに備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の消火用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用積層体に関する。本発明の消火用積層体は、電子機器部材、輸送機器部材、建装材などの産業資材とともに好適に使用される部材に関し、特にこれらの産業資材が発火、燃焼した際に直ちに消火機能を発現させ、付近への延焼を防止する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂等からなる積層フィルムは、主として包装材料分野で用いられてきたが、最近では蓄電池などの電子機器、自動車や航空機などの輸送機器、建装材等の分野で用いられるようになってきた。このような分野での用途では、積層フィルムの難燃化が要求され、各種製品の開発が進められている。さらに、近年では、難燃化に加えて、消火機能を具備したフィルムの必要性が高まっている。例えば、前述の電子機器や輸送機器に用いられる蓄電池においては、異常時に熱暴走による発熱、発火に対応するため、難燃化対策が施されている。ただし、より安全性を高めるためには、周囲への延焼などを未然に防ぐような消火機能を有する部材を使用することが求められている。
【0003】
このような消火機能を具備した成形品として、例えば、バインダー樹脂にカリウム塩を主成分とする消火剤を含有させ、シート状に加工した自己消火性成形品が提案されている(例えば、特許文献1)。この技術によれば、消火剤を含んだ成形品を対象となる部材に張り付けることにより、これらの部材の異常による発火時に周囲への延焼を抑制することが可能となり、非常時の安全性を担保させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記成形品は、保管や設置をする際の周囲の環境によりその性状が変化する虞がある。例えば、湿度が高い環境下で保管や設置をする場合であっても、消火機能低減が高い水準で抑制されることが望ましい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、消火剤の性状安定性に優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、基材の水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)が、12g/m2/day以下である、消火用積層体に関する。
【0008】
一態様において、消火剤成分が、カリウム塩及びナトリウム塩の少なくとも一方を含むラジカル発生剤を含んでよい。
【0009】
一態様において、消火剤成分が、バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含んでよい。また、ラジカル発生剤の分解開始温度が90~260℃の範囲であってよい。
【0010】
一態様において、ラジカル発生剤が、酢酸カリウム及びクエン酸三カリウムの少なくとも一種であってよい。
【0011】
一態様において、一対の基材のうち少なくとも一方が、アルミナ又はシリカを含む金属酸化物層を含んでよい。
【0012】
一態様において、金属酸化物層が消火剤含有層側を向いていてよい。
【0013】
一態様において、金属酸化物層が、金属酸化物の蒸着層であってよい。
【0014】
一態様において、消火用積層体は、消火剤含有層の側面を封止する封止部をさらに備えてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消火剤の性状安定性に優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火用積層体を提供することができる。本発明の利点を以下に簡潔にまとめる。
・炎が燃え広がることによる被害を最小限に留められる。すなわち初期消火が可能である。
・人が火災発生を確認後、消火器を消火対象付近に持ち運び消火活動を行う必要が無い。
・自動消火装置等の設備に比して簡易的に設置できるため、設置場所の制限が少なくかつ必要な箇所に応じて適用することができる。
・消火剤の性状安定性に優れるため、消火用積層体の交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。
【
図2】
図2は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<消火用積層体>
消火用積層体は、一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備える。水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)が12g/m2/day以下である一対の基材を、バリア基材(水蒸気バリア性を有する基材)ということができる。消火用積層体はシート状であってよい。消火剤含有層が一対の基材により挟持されているため、消火剤含有層を単層で用いる場合(単なる成形品として用いる場合)に比して形状安定性や強度に優れる。
【0019】
図1は、一実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。消火用積層体10は、基材1、消火剤含有層2、及び基材3をこの順に備える。基材1及び3が、消火用積層体10における、バリア基材ということができる。
図1に示すように、消火剤含有層2は基材1及び基材3間の全面に設けられていてもよい。すなわち、基材1、消火剤含有層2、及び基材3の端面は面一であってよい。消火剤含有層2は基材1及び基材3間の一部に設けられていてもよい。例えば、消火剤含有層2が基材1及び基材3間の中央部に設けられる場合、消火剤含有層2の側面を外部要因から保護し易い。
【0020】
図2は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。消火用積層体20は、基材1、消火剤含有層2、及び基材3をこの順に備え、消火剤含有層2の側面を封止する封止部4を備える。
【0021】
消火用積層体の厚さは、その層構成により変動するため必ずしも限定されないが、性状安定性を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば0.1~20mmとすることができる。
【0022】
消火用積層体の主面(消火用積層体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cm2とすることができる。
【0023】
消火用積層体は、発火する虞のある対象物上や対象物近辺に予め設けられる。対象物から発火した場合、消火用積層体により初期消火が行われることになる。
【0024】
(基材)
水蒸気バリア性を有する一対の基材として、樹脂基材や金属基材を選択することができる。例えば、樹脂基材の材質としては、所期の水蒸気透過度を有しており、消火剤の劣化を抑制し易い観点から、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。金属基材の材質としては、アルミニウム及びステンレスなどの金属などが挙げられる。透明性のある材質を選択することで、消火用積層体の外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。
【0025】
基材に求められる水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)は、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分の性状安定性に鑑み、12g/m2/day以下であるが、10g/m2/day以下であってよく、5g/m2/day以下であってよく、1g/m2/day以下であってよい。水蒸気透過度の下限は特に制限されないが、例えば金属基材であれば1×10-6g/m2/dayとすることができ、樹脂基材であれば0.1g/m2/dayとすることができる。基材の水蒸気透過度は、厚さの変更、分子量の変更や、表面処理、後述の金属酸化物層の形成等により調整することができる。水蒸気バリア性が不充分である場合、消火剤成分の潮解による消火剤成分の機能低下、消火用積層体の膨張、基材の変質等が生じる虞がある。水蒸気透過度(40℃/90%RH条件下)は、JIS Z 0208:1976 カップ法 / JISK7129B MOCON法 / ISO15106-5 デルタパーム、に従い測定される。
【0026】
基材の厚さは、出火時の熱量、衝撃、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い基材であれば、水蒸気透過を抑制し易く、強度や剛性が得られ、平面性の高い形態を得ることができ、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば、狭いスペースに消火用積層体を設けることができる。基材の厚さは、例えば5~200μmとすることができ、10~100μmであってよく、10~50μmであってよく、12~20μmであってよい。水蒸気バリア性を有する一対の基材の厚さは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0027】
基材は、その少なくとも一方が、水蒸気透過度の調整の観点から金属酸化物層を含んでいてよい。すなわち、基材の少なくとも一方として、金属酸化物層を表面に有する基材を用いてよい。金属酸化物層は、基材の一方の面に形成されていてよく、両面に形成されていてよい。金属酸化物層が基材の一方の面に形成されている場合、金属酸化物層を保護し、外部要因からの水蒸気バリア性の劣化を抑制する観点から、金属酸化物層は消火剤含有層側を向いていてよい。
【0028】
金属酸化物としては、アルミナやシリカが挙げられる。金属酸化物層としては、金属酸化物の蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が挙げられる。消火剤成分の潮解により発生するアルカリ水に対する耐腐食性の観点から、シリカ蒸着層を好適に用いることができる。金属酸化物層の厚さは、水蒸気バリア性及びコストの観点から3~100nmとすることができる。
【0029】
(消火剤含有層)
消火剤含有層は、消火剤成分と、バインダー樹脂とを含む層である。消火剤成分は、燃焼によってエアロゾルを発生するものである。消火剤成分は、例えば、無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含む。ラジカル発生剤は燃焼ラジカルを安定化して燃焼の連鎖反応を抑制する作用(負触媒作用)を有する。消火剤成分は潮解性を有する。
【0030】
消火剤含有層の厚さは、消火用積層体の設置場所、配合すべき消火剤成分の量に応じて適宜設定すればよい。消火剤含有層の厚さは、例えば、1mm以下であればよく、30~1000μmとすることができ、150~500μmであってよい。
【0031】
消火剤含有層の消火剤成分の含有率(消火剤含有層の質量基準)は、例えば、50~97質量%であり、好ましくは60~95質量%であり、より好ましくは70~92質量%である。消火剤成分の含有率が50質量%以上であることで、優れた消火性能を達成でき、他方、97質量%以下であることで、優れた成形性を達成できる。消火剤成分の単位面積あたりの量は、消火すべき対象に応じて設定すればよい。例えば、ろくそく程度の小さい火力に対しては25g/m2以上であればよい。固形燃料1gの火力に対しては90g/m2以上であればよい。大規模火災やリチウムイオン電池からの発火などの大きな火力に対しては100g/m2以上であることが好ましい。
【0032】
[消火剤成分]
消火剤含有層は、上述のとおり、消火剤成分として無機酸化剤とラジカル発生剤とを含む。以下、これらの成分について説明する。
【0033】
無機酸化剤(以下、場合により、「(A)成分」という。)は、バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する成分である。無機酸化剤として、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、及び過塩素酸カリウムが挙げられる。これらのうち、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
ラジカル発生剤(以下、場合により、「(B)成分」という。)は、バインダー樹脂及び無機酸化剤の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(ラジカル)を発生させるための成分である。ラジカル発生剤として、分解開始温度が90~260℃の範囲のものを使用することが好ましい。ラジカル発生剤として、カリウム塩及びナトリウム塩が挙げられる。カリウム塩として、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム及び重炭酸カリウムが挙げられる。ナトリウム塩として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。これらのうち、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
(A)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、10~60質量部であり、好ましくは20~50質量部であり、より好ましくは35~45質量部である。(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、40~90質量部であり、好ましくは50~80質量部であり、より好ましくは55~65質量部である。
【0036】
消火剤含有層に配合する消火剤成分として、市販品を使用してもよい。市販の消火剤成分として、K-1(商品名、ヤマトプロテック株式会社製)、STAT-X(商品名、日本工機株式会社製)が挙げられる。
【0037】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂には硬化剤成分が含まれていてよい。
【0038】
エポキシ樹脂は、消火剤成分との相溶性に優れるとともに、後述のアルコール溶媒に可溶であり且つ安定性が高い点で、バインダー樹脂に適している。エポキシ樹脂は、カリウム塩及びナトリウム塩(ラジカル発生剤)と相溶性に優れるため、厚さが均一の消火剤含有層が得られやすい。これに加え、エポキシ樹脂は湿熱による加水分解及び脆化が生じないため、エポキシ樹脂をバインダー樹脂として含む消火剤含有層は優れた安定性を有する。また、消火剤含有層の燃焼時には約260~350℃で熱分解が始まり、消火性能を損なうことなく、エアロゾルを発生することができる。
【0039】
バインダー樹脂として、水蒸気バリア性を有するものを使用することが好ましい。かかるバインダー樹脂の市販品として、エポキシ樹脂であるマクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。エポキシ樹脂は、例えばアミン系硬化剤と共に用いることができる。
【0040】
消火剤含有層の全量を基準とするバインダー樹脂の含有率は、例えば、3~50質量%であり、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは8~30質量%である。バインダー樹脂の含有率が3質量%以上であることで、優れた成形性を達成でき、他方、50質量%以下であることで、優れた消火性能を達成できる。
【0041】
[その他の成分]
消火剤含有層に配合するその他の成分として、分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材及び粘着剤が挙げられる。これらの成分は、消火剤含有層の組成及びバインダー樹脂の種類によって適宜選択すればよい。消火剤含有層におけるその他の成分の含有率(消火剤含有層の質量基準)は、例えば、10質量%以下である。
【0042】
(封止部)
消火用積層体は、消火剤含有層の側面を封止する封止部をさらに備えていてよい。消火用積層体に封止部を設けることで、消火剤成分が空気に触れなくなり、消火剤成分の機能低下をより抑制することができる。
【0043】
封止部は、水蒸気透過度の充分に低い(例えば、12g/m
2/day以下である)フィルムやテープを用いて形成することができる。例えば、
図2では、封止部4として封止テープを用いて、消火剤含有層の側面を含む消火用積層体の側面を封止している。同図にて、側面をより強固に封止できるよう、封止テープが基材1及び基材3の表面一部にまで回り込むように適用されているが、側面のみに適用されていてもよい。封止フィルム及び封止テープとしては、粘着剤(接着剤)を備える樹脂フィルム及び金属フィルムが挙げられる。
【0044】
(消火対象物)
消火対象物としては、発火する虞のあるものであれば特に制限されない。発火する虞のあるものとしては、例えば、電線、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池回収用BOX(リサイクルBOX)、ごみ箱、自動車関連部材、コンセント、コンセントカバーなどの各部材が挙げられる。消火用積層体は、接着剤や粘着剤によりこれらの消火対象物に貼り付けて使用されてもよい。貼り付けられる消火対象物の表面が、水蒸気透過度が極めて低いアルミ箔や鉄板などの金属、ガラスなどの無機物等である場合、消火剤含有層の性状がより安定し易い。
【0045】
<消火用積層体の製造方法>
消火用積層体の製造方法は特に制限されず、上記各層を適宜積層することにより製造することができる。
【0046】
基材1上への消火剤含有層2の形成方法は、例えば上記消火剤成分と、上記バインダー樹脂とを含む塗液を調製する工程(塗液調製工程)と、基材1の表面上に当該塗液を用いて塗膜を形成する工程(塗布工程)と、塗膜を乾燥処理することによって基材1の表面上に消火剤含有層2を形成する工程(乾燥工程)と、を備えてよい。
【0047】
塗液調製工程において、塗液の調製に使用する溶媒として、アルコール溶媒(例えば、エタノール、IPA)を用いることができる。アルコール溶媒は消火剤成分の分散性に優れるとともに低揮発性であるため、塗液を調製するための溶媒として適している。溶媒として、酢酸エチルを使用してもよい。消火剤成分及びバインダー樹脂の量に対する溶媒の量比は、所望の塗液粘度に応じて適宜調整すればよい。
【0048】
塗布工程は、ウェットコーティングによって実施してもよいし、基材を塗液に含浸させることによって実施してもよい。
【0049】
乾燥工程は、溶媒を充分に除去しつつ、かつ消火剤成分の反応を抑制する観点から、例えば塗膜を50~100℃に加熱することで実施することができる。
【0050】
その他、消火用積層体は、例えば、基材及び消火剤含有層をそれぞれ準備した後、ラミネートによる貼り合わせ行う方法や、基材及び消火剤含有層を共押出成形する方法などにより製造することができる。消火用積層体は、使用する材料に適した方法により製造することができる。
【実施例0051】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
<使用材料の準備>
以下の材料を準備した。
・消火剤成分
エアロゾル消火剤(商品名:K-1、ヤマトプロテック株式会社製)
・溶媒
エタノール
・バインダー樹脂
エポキシ樹脂(商品名:マクシーブM-100、三菱ガス化学株式会社製)
アミン系のエポキシ樹脂硬化剤(商品名:マクシーブC-93、三菱ガス化学株式会社製)
・基材
アルミニウム基材(商品名:1N30-O、UACJ製箔)
PET基材(商品名:ダイアホイル、三菱ケミカル)
GL-AE基材(凸版印刷株式会社製:アルミナ蒸着層を有する厚さ12μmのPETフィルム)
GL-RD基材(凸版印刷株式会社製:アルミナ蒸着層を有する厚さ12μmのPETフィルム)
【0053】
<消火用積層体の作製>
(実施例1)
エアロゾル消火剤にエタノールを加えてスラリーを調製した。得られたスラリーに、バインダー樹脂(エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤)を加えて塗液を調製した。バインダー樹脂とエアロゾル消火剤との混合比は、乾燥後の塗膜の状態における質量比で10:90(消火剤含有層の全量を基準とするバインダー樹脂の含有率が10質量%)とした。離型シート上に、上記塗液を、乾燥状態で475g/m2(乾燥後の塗膜の単位面積あたりの質量)となるように塗布して塗膜を形成した。これを90℃で2分間乾燥させて、厚さ220μmの消火剤含有層を形成した。
【0054】
50mm角にカットしたアルミニウム基材の中央に、上記で得られた消火剤含有層を15mm角にカットして配置し、さらにその上に50mm角にカットしたアルミニウム基材を配置し、積層体を得た。得られた積層体の4側面を、
図2に示すようにアルミテープを用いて封止し、消火用積層体を得た。
【0055】
(他の実施例及び比較例)
層構成を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして消火用積層体を得た。GL-AE基材及びGL-RD基材については、蒸着層を消火剤含有層側に向けて配置した。
【0056】
<各種評価>
基材の水蒸気透過度(40℃/90%RH)は、JIS Z 0208:1976 カップ法 / JISK7129B MOCON法 / ISO15106-5 デルタパーム、に従い測定した(表1)。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
各例の消火用積層体を、40℃/75%RHの環境に10日間保管し、その後の外観変化を観察した。結果を表2に示す。
外観変化無:消火剤含有層の潮解や基材の変質が確認されなかった。
外観変化有:消火剤含有層の潮解や基材の変質(基材の腐食)が確認された。
【0059】
【0060】
実施例の消火用積層体は、消火剤の性状安定性に優れており、火災の発生及び拡大を防止することのできるものであることが分かった。