(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171060
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】消火用積層体及びエレクトロニクス部材
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20221104BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A62D1/06
B32B27/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077447
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】堤 明正
【テーマコード(参考)】
2E191
4F100
【Fターム(参考)】
2E191AA06
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2E191AC08
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(57)【要約】
【課題】水蒸気を含む環境においても膨張を抑制することができる、消火用積層体を提供すること。
【解決手段】一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、基材の水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)が、15g/m
2/day以下である、消火用積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基材と、前記一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、
前記基材の水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)が、15g/m2/day以下である、消火用積層体。
【請求項2】
前記消火剤含有層の側面に封止部をさらに備える、請求項1に記載の消火用積層体。
【請求項3】
前記一対の基材のうち少なくとも一方が、金属酸化物層を含む、請求項1又は2に記載の消火用積層体。
【請求項4】
最外層に粘着層をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の消火用積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の消火用積層体と、エレクトロニクス部品と、を備えるエレクトロニクス部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用積層体及びエレクトロニクス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている一方で、その快適性を生む為に大量のエネルギーが必要となっている。例えば、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの生活をする上で欠かせない電気製品の多くは、配線用差込接続器(コンセント)に接続され、電気を供給されることによって稼働する。またスマートフォンや電気自動車なども、リチウムイオン電池などに充電された電力により稼働する。
【0003】
ところで、電気を流す箇所では火災が生じやすい。例えば配電盤においては、ケーブルの損傷などにより漏電や発熱が生じたり、埃などの可燃物が通電部に接触したりすると発火の原因となることがある。直接配線用差込接続器(コンセント)の周囲に埃などの可燃物が付着していると、コンセントの抜き差しの際に発生する静電気により着火し火災を引き起こすことがある。太陽光発電などの発電施設に用いられるパワーコンディショナーにおいても、施工不良などによって抵抗が増大することによる発熱や、塩害などによる錆により開口部が発生し水が浸入することによるトラッキングなどにより発火を起こすことがある。リチウムイオン電池も内部の不純物や衝撃などによりショートが発生すると、急激な発熱により発火を起こし、火災につながることがある。
【0004】
このような火災に対して、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、硝酸カリウムや過塩素酸カリウムなどのアルカリ金属塩を含む消火性組成物を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-276440号公報
【特許文献2】特表平7-503159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方で、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階での消火(初期消火)が行われることが望ましい。また、液体としての水を含む消火液の噴霧となるので、電機用品に噴射するとショート、トラッキング破壊、金属部品の腐食などを招き、火災部分以外に対しても損傷をもたらしてしまう。
【0007】
また、特許文献2のような消火性組成物を用いる場合、吸湿や温度変化に伴う結露により組成物が水を含むと、膨張して当初の寸法を保つことができなくなる。初期消火の観点では、消火性組成物を用いて作製した消火用積層体を電池のなど発火のリスクが高い材の近傍で用いることが好ましいが、当初の寸法を保つことができなければそのような個所での使用は困難となる。というのも、例えば種々の部品が高密度で集積されるエレクトロニクス部材では、吸湿して膨張した消火用積層体が他の部品に接触することによる不具合が生じる虞があるためである。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水蒸気を含む環境においても膨張を抑制することができる、消火用積層体を提供することを目的とする。また、本開示は、消火用積層体を備えるエレクトロニクス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る消火用積層体は、一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備え、基材の水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)が、15g/m2/day以下である。
【0010】
一態様において、消火用積層体は、消火剤含有層の側面に封止部をさらに備えてよい。
【0011】
一態様において、一対の基材のうち少なくとも一方は、金属酸化物層を含んでよい。
【0012】
一態様において、消火用積層体は、最外層に粘着層をさらに備えてよい。
【0013】
本開示の一側面に係るエレクトロニクス部材は、上記の消火用積層体と、エレクトロニクス部品と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、水蒸気を含む環境においても膨張を抑制することができる、消火用積層体を提供することができる。また、本開示は、消火用積層体を備えるエレクトロニクス部材を提供することができる。
【0015】
消火剤含有層の膨張は吸湿に起因する。本開示によれば、膨張による消火用積層体の破裂、破裂に伴う漏水(吸湿した水分の飛散)、そして漏水によるエレクトロニクス部材のショートなどを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。
【
図2】
図2は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。
【
図3】
図3は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<消火用積層体>
消火用積層体は、一対の基材と、一対の基材間に、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分及びバインダー樹脂を含む消火剤含有層と、を備える。水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)が15g/m2/day以下である一対の基材を、バリア基材(水蒸気バリア性を有する基材)ということができる。消火用積層体はシート状であってよい。
【0019】
図1は、一実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。消火用積層体10は、基材1、消火剤含有層2、及び基材3をこの順に備える。基材1及び3が、消火用積層体10におけるバリア基材ということができる。
図1に示すように、消火剤含有層2は基材1及び基材3間の全面に設けられていてもよい。すなわち、基材1、消火剤含有層2、及び基材3の端面は面一であってよい。
【0020】
図2は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。消火用積層体20は、基材4、基材1、消火剤含有層2、及び基材5をこの順に備え、消火剤含有層2の側面に封止部6を備える。基材1及び基材5、又は基材4及び基材5が、消火用積層体10におけるバリア基材ということができる。基材1及び4が共に水蒸気バリア性を有する基材であってもよい。
【0021】
図3は、他の実施形態に係る消火用積層体の模式断面図である。消火用積層体30は、粘着層7、基材4、基材1、消火剤含有層2、及び基材5をこの順に備え、消火剤含有層2の側面に封止部6を備える。基材1及び基材5、又は基材4及び基材5が、消火用積層体10におけるバリア基材ということができる。基材1及び4が共に水蒸気バリア性を有する基材であってもよい。
【0022】
消火用積層体の厚さは、その層構成により変動するため必ずしも限定されないが、消火性能を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば0.1~20mmとすることができる。
【0023】
消火用積層体の主面(消火用積層体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cm2とすることができる。消火用積層体が封止部を備える場合、例えば消火用積層体の断面視において、最外層を構成する基材の積層方向に垂直な方向の長さは、消火剤含有層の同長さよりも2mm以上長くてよい。
【0024】
(基材)
水蒸気バリア性を有する一対の基材として、樹脂基材を選択することができる。例えば、樹脂基材の材質としては、所期の水蒸気透過度を有しており、消火剤の劣化を抑制し易い観点から、ポリエステルなどが挙げられる。透明性のある材質を選択することで、消火用積層体の外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。
【0025】
水蒸気バリア性を有する一対の基材に求められる水蒸気透過度(JISK7129準拠、40℃/90%RH条件下)は、燃焼によってエアロゾルを発生する消火剤成分を用いることに鑑み、15g/m2/day以下であるが、10g/m2/day以下であってよく、5g/m2/day以下であってよく、1.5g/m2/day以下であってよく、1g/m2/day以下であってよい。水蒸気透過度の下限は特に制限されないが、例えば0.5g/m2/dayとすることができる。基材の水蒸気透過度は、厚さの変更、分子量の変更や、表面処理、後述の金属酸化物層の形成等により調整することができる。水蒸気バリア性が不充分である場合、消火剤成分の潮解により消火用積層体が膨張し、さらにアルカリ水が漏れだす場合がある。例えば消火用積層体がエレクトロニクス部材中に設置された場合、アルカリ水により設置箇所周辺部のショートや腐食等が生じる虞がある。
【0026】
水蒸気バリア性を有する一対の基材の厚さや破断強度等は、出火時の熱量、衝撃、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い基材であれば、水蒸気透過を抑制し易く、強度や剛性が得られ、平面性の高い形態を得ることができ、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば、狭いスペースに消火用積層体を設けることができる。水蒸気バリア性を有する一対の基材の厚さは、例えば4.5~1000μmとすることができ、10~100μmであってよく、10~50μmであってよく、12~20μmであってよい。水蒸気バリア性を有する一対の基材の厚さは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0027】
水蒸気バリア性を有する一対の基材は、その少なくとも一方が、水蒸気透過度の調整の観点から金属酸化物層を含んでいてよい。すなわち、水蒸気バリア性を有する一対の基材の少なくとも一方として、金属酸化物層を表面に有する基材を用いてよい。金属酸化物層は、基材の一方の面に形成されていてよく、両面に形成されていてよい。金属酸化物層としては、金属酸化物の蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が挙げられる。消火剤成分の潮解により発生するアルカリ水に対する耐腐食性の観点から、シリカ蒸着層を好適に用いることができる。金属酸化物層の厚さは、水蒸気バリア性及びコストの観点から3~100nmとすることができる。
【0028】
図2における基材1のように、必ずしも水蒸気バリア性を有していなくてよい基材としては、樹脂基材の他、金属基材、ガラスクロス、不燃紙等が挙げられる。このうち、絶縁性や耐腐食性の観点からは、樹脂基材(例えばポリエステルフィルム)、ガラスクロス、不燃紙を用いることができる。水蒸気バリア性を有していなくてよい基材の厚さは、耐火性、基材としての形状保持性、省スペース性等の観点から、20~1000μmとすることができ、25~300μmであってよい。
【0029】
(消火剤含有層)
消火剤含有層は、消火剤成分と、バインダー樹脂とを含む層である。消火剤成分は、燃焼によってエアロゾルを発生するものである。消火剤成分は、例えば、無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含む。ラジカル発生剤は燃焼ラジカルを安定化して燃焼の連鎖反応を抑制する作用(負触媒作用)を有する。消火剤成分は潮解性を有する。
【0030】
消火剤含有層の厚さは、消火用積層体の設置場所、配合すべき消火剤成分の量に応じて適宜設定すればよい。消火剤含有層の厚さは、例えば、1mm以下であればよく、30~1000μmとすることができ、150~500μmであってよい。
【0031】
消火剤含有層の消火剤成分の含有率(消火剤含有層の質量基準)は、例えば、50~97質量%であり、好ましくは60~95質量%であり、より好ましくは70~92質量%である。消火剤成分の含有率が50質量%以上であることで、優れた消火性能を達成でき、他方、97質量%以下であることで、優れた成形性を達成できる。消火剤成分の単位面積あたりの量は、消火すべき対象に応じて設定すればよい。例えば、ろくそく程度の小さい火力に対しては25g/m2以上であればよい。固形燃料1gの火力に対しては90g/m2以上であればよい。大規模火災やリチウムイオン電池からの発火などの大きな火力に対しては100g/m2以上であることが好ましい。
【0032】
[消火剤成分]
消火剤含有層は、上述のとおり、消火剤成分として無機酸化剤とラジカル発生剤とを含む。以下、これらの成分について説明する。
【0033】
無機酸化剤(以下、場合により、「(A)成分」という。)は、バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する成分である。無機酸化剤として、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、及び過塩素酸カリウムが挙げられる。これらのうち、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
ラジカル発生剤(以下、場合により、「(B)成分」という。)は、バインダー樹脂及び無機酸化剤の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(ラジカル)を発生させるための成分である。ラジカル発生剤として、分解開始温度が90~260℃の範囲のものを使用することが好ましい。ラジカル発生剤として、カリウム塩及びナトリウム塩が挙げられる。カリウム塩として、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム及び重炭酸カリウムが挙げられる。ナトリウム塩として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。これらのうち、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
(A)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、10~60質量部であり、好ましくは20~50質量部であり、より好ましくは35~45質量部である。(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し、例えば、40~90質量部であり、好ましくは50~80質量部であり、より好ましくは55~65質量部である。
【0036】
消火剤含有層に配合する消火剤成分として、市販品を使用してもよい。市販の消火剤成分として、K-1(商品名、ヤマトプロテック株式会社製)、STAT-X(商品名、日本工機株式会社製)が挙げられる。
【0037】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂には硬化剤成分が含まれていてよい。
【0038】
エポキシ樹脂は、消火剤成分との相溶性に優れるとともに、後述のアルコール溶媒に可溶であり且つ安定性が高い点で、バインダー樹脂に適している。エポキシ樹脂は、カリウム塩及びナトリウム塩(ラジカル発生剤)と相溶性に優れるため、厚さが均一の消火剤含有層が得られやすい。これに加え、エポキシ樹脂は湿熱による加水分解及び脆化が生じないため、エポキシ樹脂をバインダー樹脂として含む消火剤含有層は優れた安定性を有する。また、消火剤含有層の燃焼時には約260~350℃で熱分解が始まり、消火性能を損なうことなく、エアロゾルを発生することができる。
【0039】
バインダー樹脂として、水蒸気バリア性を有するものを使用することが好ましい。かかるバインダー樹脂の市販品として、エポキシ樹脂であるマクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。エポキシ樹脂は、例えばアミン系硬化剤と共に用いることができる。
【0040】
消火剤含有層の全量を基準とするバインダー樹脂の含有率は、例えば、3~50質量%であり、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは8~30質量%である。バインダー樹脂の含有率が3質量%以上であることで、優れた成形性を達成でき、他方、50質量%以下であることで、優れた消火性能を達成できる。
【0041】
[その他の成分]
消火剤含有層に配合するその他の成分として、分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材及び粘着剤が挙げられる。これらの成分は、消火剤含有層の組成及びバインダー樹脂の種類によって適宜選択すればよい。消火剤含有層におけるその他の成分の含有率(消火剤含有層の質量基準)は、例えば、10質量%以下である。
【0042】
(接着層)
消火用積層体はさらに接着層を備えていてよい。例えば、
図1では、消火剤含有層2と基材3との間に、
図2及び
図3では、基材1と基材4との間及び/又は消火剤含有層2と基材5との間に、接着層を備えていてよい。消火剤含有層の端面と接着層の端面とは面一であってもよいが、両者は必ずしも面一である必要はない。接着剤を消火剤含有層の端面より外側にはみ出すように用いる場合は、はみ出した接着剤が最外層となる基材同士を接着すると共に、封止部としての機能を発現することができる。
【0043】
接着層は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の接着剤を用いて形成することができる。このうち、水蒸気バリア性の観点からエポキシ樹脂を用いることができ、例えばマクシーブ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)を用いることができる。エポキシ樹脂は、例えばアミン系硬化剤と共に用いることができる。
【0044】
接着層の厚さは、例えば1~10μmとすることができ、2~5μmであってよい。
【0045】
(封止部)
消火用積層体は、消火剤含有層の側面に封止部をさらに備えていてよい。すなわち、消火用積層体は、基材のうち最外層となる基材の周縁同士を接合する封止部を備えていてよい。封止部を設けることで、消火剤含有層の側面が封止される。これにより消火剤成分が空気に触れなくなり、消火剤成分による吸湿を抑制することができる。
【0046】
封止部は、上記の接着層や、消火剤成分の熱分解温度以下でヒートシール性を発現するLDPEやLLDPEのようなフィルム(ヒートシール材)を用いて形成することができる。例えば、
図2において、基材1と基材4とを接着剤を用いて接着する場合、基材4上に形成された接着剤が消火剤含有層2の端面より外側に存在する。その状態で接着剤を硬化させることで、基材1と基材4との間に接着層が形成されると共に、消火剤含有層2の側面に封止部6が形成される。この場合封止部6は、基材4と基材5とを接着する接着層としての役割も有する。
【0047】
また、
図2において、ヒートシール材を基材4及び5上に形成し、当該ヒートシール材を対向させて消火剤含有層2を挟み込み、その状態でヒートシール材端部を積層方向に加熱加圧することで、ヒートシール材により消火剤含有層2が封入される。その際、ヒートシール材端部に形成されるヒートシール部が、消火剤含有層2の側面の封止部6となる。なお、ヒートシール材は、上記接着層を介して基材4及び5上に形成されてよい。
【0048】
(粘着層)
消火用積層体は、最外層に粘着層をさらに備えてよい。これにより、消火性積層体を、発火の虞がある箇所の近くの任意の場所に設置することができる。粘着層上には、取り扱い性向上のため離形層が形成されていてよい。離形層としては、シリコーンコートPETやPPコート紙等が挙げられる。
【0049】
粘着層は、例えば、ウレタンウレア樹脂、アクリル樹脂等の粘着剤を用いて形成することができる。このうち、易剥離性の観点からウレタンウレア樹脂を用いることができる。ウレタンウレア樹脂は、例えばウレタン系硬化剤と共に用いることができる。
【0050】
<消火用積層体の製造方法>
上述のとおり、消火用積層体の製造方法は特に制限されず、上記各層を適宜積層し、また必要に応じヒートシール等することにより製造することができる。
【0051】
なお、基材1上への消火剤含有層2の形成方法は、上記消火剤成分と、上記バインダー樹脂とを含む塗液を調製する工程(塗液調製工程)と、基材1の表面上に当該塗液を用いて塗膜を形成する工程(塗布工程)と、塗膜を乾燥処理することによって基材1の表面上に消火剤含有層2を形成する工程(乾燥工程)と、を備える。
【0052】
塗液調製工程において、塗液の調製に使用する溶媒として、アルコール溶媒(例えば、エタノール、IPA)を用いることができる。アルコール溶媒は消火剤成分の分散性に優れるとともに低揮発性であるため、塗液を調製するための溶媒として適している。溶媒として、酢酸エチルを使用してもよい。消火剤成分及びバインダー樹脂の量に対する溶媒の量比は、所望の塗液粘度に応じて適宜調整すればよい。
【0053】
塗布工程は、ウェットコーティングによって実施してもよいし、基材を塗液に含浸させることによって実施してもよい。
【0054】
乾燥工程は、溶媒を充分に除去しつつ、かつ消火剤成分の反応を抑制する観点から、例えば塗膜を50~100℃に加熱することで実施することができる。
【0055】
<エレクトロニクス部材>
エレクトロニクス部材は、上記の消火用積層体と、エレクトロニクス部品と、を備える。上記の消火用積層体は、高湿環境下でも吸湿による膨張が抑制される。したがって、エレクトロニクス部材に組み込まれた場合でも、消火用積層体起因の不具合を回避することができる。
【0056】
エレクトロニクス部品としては、具体的には電池、ケーブル、パワーコンディショナー等が挙げられる。また、エレクトロニクス部材としては、具体的には配電盤、太陽光発電装置等が挙げられる。
【実施例0057】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0058】
<消火用積層体の作製>
(実施例1)
ヤマトプロテック株式会社製のエアロゾル消火剤K-1にエタノールを加え、スラリーを調製した。得られたスラリーとバインダー樹脂(三菱ガス化学株式会社製、ポリエポキシ樹脂 マクシーブ M-100,ポリアミン樹脂硬化剤 C-93)とを、乾燥後の質量比でバインダー:消火剤=10:90として混合して塗液を調製し、これを東レ株式会社製のPETフィルム(基材A:S10、厚さ50μm)に、乾燥状態で235g/m2になるように塗布して塗膜を形成した。これを90℃で4分乾燥させ、PETフィルム上に厚さ200μmの消火剤含有層を形成した。
シリカを主成分とする蒸着層(シリカ蒸着層、厚さ50nm)を片面に有するPETフィルム(基材B:厚さ12μm)のシリカ蒸着層側に、接着剤(三菱ガス化学株式会社製、ポリエポキシ樹脂 マクシーブ M-100,ポリアミン樹脂硬化剤 C-93)を塗布して乾燥(90℃、1分間)させ、厚さ5μmの接着層を形成した。
基材A上の消火剤含有層と、基材B上の接着層とを対向させて貼り合わせることにより、消火用積層体を得た。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様にして、基材AであるPETフィルム上に厚さ200μmの消火剤含有層を形成した。
基材Aよりも縦・横ともに20mm長い方形の基材C及びDを準備した。基材C及びDは、シリカを主成分とする蒸着層(シリカ蒸着層、厚さ50nm)を片面に有するPETフィルム(厚さ12μm)である。このうち、基材Cのシリカ蒸着層側には、実施例1と同様にして、厚さ5μmの接着層を形成した。
基材Aと、基材C上の接着層とを対向させ、また基材A上の消火剤含有層と基材Dのシリカ蒸着層とを対向させて積層して貼り合わせることにより、消火用積層体を得た。この際、基材Aが、基材C及びDの中央に配置されるように位置を調整した。本例では、基材A及び基材C間に接着層が形成されると共に、基材A及び消火剤含有層の側面に、接着層を構成する接着剤成分の硬化物により封止部が形成された。
【0060】
(実施例3)
基材C及びDのシリカ蒸着層を、アルミナを主成分とする蒸着層(アルミナ蒸着層、厚さ50nm)に代えた基材C’及びD’を用いたこと以外は、実施例2と同様にして消火用積層体を得た。
【0061】
(実施例4)
基材A上の消火剤含有層と、基材C上の接着層とを対向させ、また基材Aと基材Dのシリカ蒸着層とを対向させて積層して貼り合わせることにより、消火用積層体を得た。本例では、基材A上の消火剤含有層及び基材C間に接着層が形成されると共に、基材A及び消火剤含有層の側面に、接着層を構成する接着剤成分の硬化物により封止部が形成された。
【0062】
(実施例5)
実施例1と同様にして、基材AであるPETフィルム上に厚さ200μmの消火剤含有層を形成した。
基材C及びDのシリカ蒸着層側に、実施例1と同様にして、厚さ5μmの接着層を形成した。
基材Aと、基材C上の接着層とを対向させ、また基材A上の消火剤含有層と基材D上の接着層とを対向させて積層して貼り合わせることにより、消火用積層体を得た。本例では、基材A及び基材C間並びに基材A上の消火剤含有層及び基材D間に接着層が形成されると共に、基材A及び消火剤含有層の側面に、接着層を構成する接着剤成分の硬化物により封止部が形成された。
【0063】
(実施例6)
実施例1と同様にして、基材AであるPETフィルム上に厚さ200μmの消火剤含有層を形成した。
基材C及びDのシリカ蒸着層側に、実施例1と同様にして、厚さ5μmの接着層を形成した。さらに、それぞれの接着層と、三井化学東セロ株式会社製のLLDPEフィルム(ヒートシール材、MC-S、厚さ30μm)のコロナ処理面側とを貼り合わせた。
基材Aと、基材C上のLLDPEフィルムとを対向させ、また基材A上の消火剤含有層と基材D上のLLDPEフィルムとを対向させて積層し、120℃に加熱したヒートロールでヒートシール処理を行うことにより、消火用積層体を得た。本例では、基材A及び消火剤含有層の全体がヒートシール材により封止された。基材A及び消火剤含有層の側面は、ヒートシール材同士の熱融着により封止部が形成された。
【0064】
(実施例7)
実施例6と同様にして、基材Aと、基材C上のLLDPEフィルムとを対向させ、また基材A上の消火剤含有層と基材D上のLLDPEフィルムとを対向させて積層した。
基材C側に、粘着剤(トーヨーケム株式会社製、ウレタンウレア系主剤SP-205、ウレタン系硬化剤T-501B)を塗布して乾燥させ、厚さ15μmの粘着層を形成した。さらに、粘着層上に、東レフィルム加工株式会社製のシリコーンコートPET(離型層、セラピール、厚さ75μm)のシリコーンコート面を貼り合わせた。
得られた積層体を、実施例6と同様にしてヒートシール処理を行うことにより、粘着層付きの消火用積層体を得た。
【0065】
(比較例1)
基材C及びDにシリカ蒸着層を設けなかったこと以外は、実施例7と同様にして粘着層付きの消火用積層体を得た。
【0066】
<各種評価>
(水蒸気透過度)
各例で使用した基材の水蒸気透過度は、JISK7129に準拠して、40℃/90%RH条件下で測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
(消火性)
消火剤含有層の消火性(初期消火性)を評価した。内寸が高139mm、横109mm、奥行36mmの直方体で、かつ高さと奥行からなる2つの側面にそれぞれ直径18mmの円形の穴を3つずつあけたSUS製の容器を用意した。底部中央にパラフィン含有圧縮木片(キャプテンスタッグ株式会社製 固形燃料 ファイアブロック着火剤)を1.5g分置き、高さと横よりなる容器の内側面に、消火用積層体の下端が底辺から40mmの位置になるようにして消火用積層体を貼り付けた。その際、消火用積層体の基材Aに対して消火剤含有層がある側(表2の基材構成にて右側に記載された層側)がパラフィン含有圧縮木片に対向するようにして、消火用積層体を貼り付けた。粘着層を有しない積層体に関しては、粘着層を形成して貼り付けた。パラフィン含有圧縮木片に着火させた際に、消火用積層体が反応後10秒以内に消火できるかを確認した。
【0069】
(膨張)
各例で得られた消火用積層体に対し高温高湿環境試験を行った。具体的には、消火用積層体を、80℃、85%RH環境下に168時間静置した。その後、消火用積層体の中央部の厚さ(積層方向の最大厚さ)をノギスで測定し、試験前の厚さと比較した。結果を表2に示す。
OK…厚さ増加量が500μm未満。
NG…厚さ増加量が500μm以上。
【0070】
【0071】
上記のとおり、一対のバリア基材を備える実施例の消火用積層体であれば、高温高湿環境に静置した後であっても、積層方向の膨張を500μm未満に抑えることができた。
【0072】
また、消火剤含有層の側面に封止部を形成した、実施例2~7及び比較例1の積層体は、80℃、85%RH環境下に168時間静置した後も、積層体側面に水滴を目視確認できなかった。
【0073】
金属酸化物層としてシリカ蒸着層を用いた、実施例2、4~7の積層体は、80℃、85%RH環境下に168時間静置した後も、その外観に変化(消火剤含有層の膨潤等)が認められなかった。
【0074】
粘着層を設けた、実施例7及び比較例1の積層体は、SUS製の対象物に施工性良く貼り付けることができた。