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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022171077
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】トランスインピーダンス増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03G 3/20 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
H03G3/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021077470
(22)【出願日】2021-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良之
【テーマコード(参考)】
5J100
【Fターム(参考)】
5J100JA01
5J100LA08
5J100LA11
5J100QA01
5J100SA02
(57)【要約】
【課題】振幅設定によるAGC帯域の変動を抑えるトランスインピーダンス増幅回路を提供する。
【解決手段】トランスインピーダンス増幅回路は、制御信号によって設定される第1利得に応じて入力電流信号を増幅して電圧信号に変換する増幅回路と、電圧信号の振幅に応じて制御信号を生成する利得制御回路と、備え、利得制御回路は、電圧信号の振幅に応じて振幅検出信号を生成する検出回路と、基準電圧に応じて振幅基準信号を生成する設定回路と、振幅検出信号の電圧と振幅基準信号の電圧との差分を出力振幅設定信号に応じて補正して差動信号を生成する差分電圧生成回路と、出力振幅設定信号によって設定される第2利得に応じて、差動信号の電圧差を増幅して差分電流信号を生成する電圧制御電流源回路と、差分電流信号によって充放電される容量素子と、を備え、利得制御回路は、容量素子の充電電圧に応じて制御信号を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号によって設定される第1利得に応じて入力電流信号を増幅して電圧信号に変換する増幅回路と、
前記電圧信号の振幅に応じて前記制御信号を生成する利得制御回路と、
を備え、
前記利得制御回路は、
前記電圧信号の振幅に応じて振幅検出信号を生成する検出回路と、
基準電圧に応じて振幅基準信号を生成する設定回路と、
前記振幅検出信号の電圧と前記振幅基準信号の電圧との差分を出力振幅設定信号に応じて補正して差動信号を生成する差分電圧生成回路と、
前記出力振幅設定信号によって設定される第2利得に応じて、前記差動信号の電圧差を増幅して差分電流信号を生成する電圧制御電流源回路と、
前記差分電流信号によって充放電される容量素子と、
を備え、
前記利得制御回路は、前記容量素子の充電電圧に応じて前記制御信号を生成する、
トランスインピーダンス増幅回路。
【請求項2】
前記利得制御回路は、
さらに、前記出力振幅設定信号に応じて前記第2利得を設定するための利得制御電圧を生成する利得制御部を備え、
前記電圧制御電流源回路は、
前記差動信号を増幅する一対のトランジスタと、
前記一対のトランジスタのそれぞれのドレインの間に接続され、抵抗値が前記利得制御電圧に応じて変化する可変抵抗部と、
を備える
請求項1に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【請求項3】
前記利得制御部は、
前記利得制御電圧を出力する電圧出力ノードと、
前記電圧出力ノードに接続される抵抗素子と、
互いに並列に接続される複数の電流源と、
前記出力振幅設定信号の値に応じて出力信号を生成するサーモコード生成部と、
前記出力信号に応じて、前記電圧出力ノードに接続される前記複数の電流源の数を変更するスイッチと、
を備え、
前記利得制御電圧は、前記スイッチを介して前記電圧出力ノードに接続された前記複数の電流源の供給する電流が前記抵抗素子に流れて生成され、
前記出力信号は、前記出力振幅設定信号の値が1だけ増減するときに前記電圧出力ノードに接続される前記複数の電流源の数を1つだけ増減させる、
請求項2に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【請求項4】
前記差分電圧生成回路は、
前記出力振幅設定信号が示す値に応じたオフセット電流を生成する電流生成部と、
前記振幅検出信号と前記振幅基準信号とを差動増幅し、前記オフセット電流に応じた電圧を、前記振幅検出信号の増幅により得られた電圧に加算する差動増幅回路と、
を備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスインピーダンス増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムにおいて、互いに波長の異なる複数の光信号が多重化された光信号を2本の光ファイバを使用して送受信する波長分割多重方式が知られている。また、多重化された光信号を効率的に受信する手法として、コヒーレント受信方式が知られている。例えば、複数の光信号の一つ(単一光信号)を受信する光受信装置において、単一光信号から変換された電流信号を増幅する増幅回路は、トランスインピーダンスアンプと、トランスインピーダンスアンプの利得を可変制御し、増幅した信号の振幅を一定にするAGC(Auto Gain Control)回路とを有する。この種の増幅回路は、AGC回路による利得可変機能により、入力ダイナミックレンジが広く、線形性を有する出力信号を出力可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/004828号
【特許文献2】特開2015-220567号公報
【特許文献3】特開2015-084474号公報
【特許文献4】特開2011-217226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、増幅回路から出力される出力信号の振幅を設定する設定信号がAGC回路に供給される場合、設定された振幅に応じてAGC回路のループ利得およびAGC帯域が変動するおそれがある。ここで、AGC帯域は、AGCループのループ利得特性の利得が"1" (デシベル表示で0dB)のときの周波数として求められる。
【0005】
そこで、本開示は、振幅設定によるAGC帯域の変動を抑えるトランスインピーダンス増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のトランスインピーダンス増幅回路は、制御信号によって設定される第1利得に応じて入力電流信号を増幅して電圧信号に変換する増幅回路と、前記電圧信号の振幅に応じて前記制御信号を生成する利得制御回路と、備え、前記利得制御回路は、前記電圧信号の振幅に応じて振幅検出信号を生成する検出回路と、基準電圧に応じて振幅基準信号を生成する設定回路と、前記振幅検出信号の電圧と前記振幅基準信号の電圧との差分を出力振幅設定信号に応じて補正して差動信号を生成する差分電圧生成回路と、前記出力振幅設定信号によって設定される第2利得に応じて、前記差動信号の電圧差を増幅して差分電流信号を生成する電圧制御電流源回路と、前記差分電流信号によって充放電される容量素子と、を備え、前記利得制御回路は、前記容量素子の充電電圧に応じて前記制御信号を生成する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、振幅設定によるAGC帯域の変動を抑えるトランスインピーダンス増幅回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態にかかるトランスインピーダンス増幅回路の構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、図1のAGC制御回路の一例を示す回路図である。
図3図3は、図2のOTAの一例を示す回路図である。
図4図4は、振幅設定信号に応じて設定される利得制御電圧の一例を示す説明図である。
図5図5は、設定された利得制御電圧に応じてOTAの出力端子から出力される出力電流の一例を示す特性図である。
図6図6は、図2の利得制御部の一例を示す回路図である。
図7図7は、図2のAGC制御回路において、出力振幅設定信号による振幅設定に応じたAGCループ利得の一例を示す特性図である。
図8図8は、図7に示した特性を、出力振幅に対するAGC帯域として表した特性図である。
図9図9は、図1のトランスインピーダンス増幅回路に搭載されるAGC制御回路の他の構成例を示す回路図である。
図10図10は、図9のAGC制御回路において、出力振幅設定信号による振幅設定に応じたAGCループ利得の一例を示す特性図である。
図11図11は、図10に示した特性を、出力振幅に対するAGC帯域として表した特性図である。
図12図12は、図2または図9のAGC制御回路によるフィードバック機能を無効にした場合のトランスインピーダンス増幅回路の出力振幅と、振幅検出信号との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
〔1〕本開示の一態様にかかるトランスインピーダンス増幅回路は、制御信号によって設定される第1利得に応じて入力電流信号を増幅して電圧信号に変換する増幅回路と、前記電圧信号の振幅に応じて前記制御信号を生成する利得制御回路と、備え、前記利得制御回路は、前記電圧信号の振幅に応じて振幅検出信号を生成する検出回路と、基準電圧に応じて振幅基準信号を生成する設定回路と、前記振幅検出信号の電圧と前記振幅基準信号の電圧との差分を出力振幅設定信号に応じて補正して差動信号を生成する差分電圧生成回路と、前記出力振幅設定信号によって設定される第2利得に応じて、前記差動信号の電圧差を増幅して差分電流信号を生成する電圧制御電流源回路と、前記差分電流信号によって充放電される容量素子と、を備え、前記利得制御回路は、前記容量素子の充電電圧に応じて前記制御信号を生成する。
【0011】
このトランスインピーダンス増幅回路では、設定される電圧信号の振幅の大小にかかわりなく、AGC帯域を一定にすることができる。すなわち、振幅設定によるAGC帯域の変動を抑えるトランスインピーダンス増幅回路100を提供することができる。
【0012】
〔2〕上記〔1〕において、利得制御回路は、さらに、前記出力振幅設定信号に応じて第2利得を設定するための利得制御電圧を生成する利得制御部を備え、前記電圧制御電流源回路は、前記差動信号を増幅する一対のトランジスタと、前記一対のトランジスタのそれぞれのドレインの間に接続され、抵抗値が前記利得制御電圧に応じて変化する可変抵抗部と、備えてもよい。一対のトランジスタのそれぞれのドレインの間に接続される可変抵抗部の抵抗値を利得制御電圧により変化させることで、簡易な手段により、電圧制御電流源回路の利得を利得制御電圧に応じて変更することができ、振幅設定によるAGC帯域の変動を補償することができる。
【0013】
〔3〕上記〔2〕において、前記利得制御部は、前記利得制御電圧を出力する電圧出力ノードと、前記電圧出力ノードに接続される抵抗素子と、互いに並列に接続される複数の電流源と、前記出力振幅設定信号の値に応じて出力信号を生成するサーモコード生成部と、前記出力信号に応じて前記電圧出力ノードに接続される前記複数の電流源の数を変更するスイッチと、を備え、前記利得制御電圧は、前記スイッチを介して前記電圧出力ノードに接続された前記複数の電流源の供給する電流が前記抵抗素子に流れて生成され、前記出力信号は、前記出力振幅設定信号の値が1だけ増減するときに前記電圧出力ノードに接続される前記複数の電流源の数を1つだけ増減させてもよい。これにより、簡易な手段により、出力振幅設定信号に応じた利得制御電圧を生成することができる。
【0014】
〔4〕上記〔1〕から〔3〕のいずれかにおいて、前記差分電圧生成回路は、前記出力振幅設定信号が示す値に応じたオフセット電流を生成する電流生成部と、前記振幅検出信号と前記振幅基準信号とを差動増幅し、前記オフセット電流に応じた電圧を、前記振幅検出信号の増幅により得られた電圧に加算する差動増幅回路と、備えてもよい。これにより、出力振幅設定信号が示す振幅に対応するオフセット電圧を、差動増幅回路の出力に反映させることができ、電圧信号の振幅を出力振幅設定信号により示される振幅に設定することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のトランスインピーダンス増幅回路の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、同一の要素または対応する要素には同一の符号を付し、それらについては説明を省略する場合がある。また、入力端子、出力端子および各ノードの符号を、信号、電圧または電流を示す符号としても使用する。
【0016】
〔第1の実施形態〕
〔トランスインピーダンス増幅回路の回路構成〕
図1は、第1の実施形態にかかるトランスインピーダンス増幅回路の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すトランスインピーダンス増幅回路100は、TIA(TransImpedance Amplifier)10、VGA(Variable Gain Amplifier)20、BUF(バッファ)30、CML(Current Mode Logic)40およびAGC制御回路50を有する。
【0017】
例えば、トランスインピーダンス増幅回路100は、光信号を受信するコヒーレント受信器に使用され、フォトダイオードにより単一波長の光信号から変換された差動の電流信号を入力端子InP、InNで受信する。トランスインピーダンス増幅回路100は、受信した電流信号を増幅して差動の電圧信号として出力端子OutP、OutNから出力する。出力端子OutP、OutNから出力された電圧信号は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)等の信号処理回路に出力される。
【0018】
TIA10は、入力端子InP、InNで受ける差動の入力電流信号を電圧信号に変換し、VGA20に出力する。例えば、TIA10の利得は、AGC制御回路50から受ける制御信号CNTL1に応じて変化する。なお、TIA10の利得は、電流信号が電圧信号に変換されるため、例えば1000Ω等のように単位がインピーダンスで表される。TIA10は、例えば、INV(INVerting amplifier)11および抵抗素子R11、R12を有する。INV11は、反転増幅回路の一例である。例えば、INV11は差動信号を増幅する反転増幅回路である。
【0019】
INV11は、例えば、非反転入力端子と反転入力端子との間に入力された差動の電圧信号を反転増幅し、反転増幅された差動の電圧信号を反転出力端子および非反転出力端子から出力する。抵抗素子R11は、例えばINV11の非反転入力端子とINV11の反転出力端子との間に接続される。抵抗素子R12は、例えばINV11の反転入力端子とINV11の非反転出力端子との間に接続される。TIA10の利得は、制御信号CNTL1に応じて変化する。なお、TIA10は、例えば、抵抗素子R11、R12に可変抵抗素子を使用して、制御信号CNTL1に応じて抵抗素子R11、R12の抵抗値を変えることによってTIA10の利得を変化させてもよい。
【0020】
VGA20は、TIA10から受ける差動の電圧信号を増幅し、BUF30に出力する。例えば、VGA20の利得は、AGC制御回路50から受ける制御信号CNTL2、CNTL3、CNTL4に応じて変化する。VGA20は、例えば、非反転増幅を行うが、出力する差動の電圧信号の論理を反転するために反転増幅を行ってもよい。ところで、差動の電圧信号は、正相信号(正相成分)および逆相信号(逆相成分)で構成される。正相信号および逆相信号は、互いに位相が180度異なっており、一対の相補信号となっている。
【0021】
例えば、正相信号の電圧が増加するときには、逆相信号の電圧は減少し、正相信号の電圧が減少するときには、逆相信号の電圧は増加する。また、正相信号がピーク値に達するときには、逆相信号はボトム値に達し、正相信号がボトム値に達するときには、逆相信号はピーク値に達する。正相信号および逆相信号は、同じ振幅と同じ平均値(DC成分)を持つことが好ましい。一対となっている正相信号と逆相信号とを入れ替えると、差動の電圧信号の論理を反転することができる。従って、差動の電圧信号を増幅する回路において、非反転増幅と反転増幅との間の変更は、正相信号の配線と逆相信号の配線とのつなぎ替えによって容易に行うことができる。なお、VGA20は、TIA10から出力される差動の電圧信号を増幅するため、TIA10の中に含めることもできる。
【0022】
BUF30は、VGA20から受ける差動の電圧信号を増幅して得た電圧信号IP、INをAGC制御回路50およびCML40に出力する。CML40は、電圧信号IP、INを増幅した電圧信号を出力端子OutP、OutNに出力する。電圧信号IP、INおよび出力端子OutP、OutNに出力される電圧信号は、いずれも差動の電圧信号(以下、差動電圧信号という)である。例えば、電圧信号IPは、差動電圧信号の正相信号であり、電圧信号INは、差動電圧信号の逆相信号である。なお、例えば、VGA20の電圧利得が十分に大きく、駆動能力も十分に大きい場合には、BUF30は省いて、VGA20が差動電圧信号IP、INを供給してもよい。
【0023】
AGC制御回路50は、出力端子OutP、OutNから出力される差動電圧信号の振幅を出力振幅設定信号OAで示される振幅に設定するために、TIA10およびVGA20の利得を調整する制御信号CNTL1-CNTL4を生成する。制御信号CNTL1-CNTL4により設定されるTIA10およびVGA20の利得は、第1利得の一例である。AGC制御回路50は、利得制御回路の一例である。AGC制御回路50の例は、図2に示される。AGC制御回路50が振幅を検出するのは差動電圧信号IP、INであるが、例えば、CML40が一定の利得で線形増幅を行う場合、差動電圧信号IP、INの振幅に対して出力端子OutP、OutNから出力される差動電圧信号の振幅は線形に変化する。従って、差動電圧信号IP、INの振幅を制御することで出力端子OutP、OutNから出力される差動電圧信号の出力振幅を所定の値に設定することができる。
【0024】
〔AGC制御回路の回路構成〕
図2は、図1のAGC制御回路50の一例を示す回路図である。AGC制御回路50は、図1のBUF30から出力される差動電圧信号IP、INを受けるバイポーラトランジスタQ1P、Q1Nを有する。例えば、バイポーラトランジスタQ1Pは、差動電圧信号IP、INの正相信号IPを受け、バイポーラトランジスタQ1Nは、差動電圧信号IP、INの逆相信号INを受ける。また、AGC制御回路50は、バイポーラトランジスタQ1P、Q1Nのエミッタに接続された電流源I51および抵抗素子R51と、抵抗素子51に接続された容量素子C51とを有する。バイポーラトランジスタQ1P、Q1Nは、例えば製造上のばらつきが許容される範囲内で同じ電気的特性を有する。
【0025】
以下では、バイポーラトランジスタは、単にトランジスタとも称される。トランジスタQ1P、Q1N、電流源I51、抵抗素子R51および容量素子C51は、差動電圧信号IP、INの振幅を検出する検出回路として機能する。検出回路で検出された振幅に対応する電圧に設定される振幅検出信号PHは、差動増幅回路のpチャネルMOSトランジスタM1Pのゲートに出力される。抵抗素子R51および容量素子C51は、ローパスフィルタを構成し、振幅検出信号は、平均化されて抵抗素子R51と容量素子C51との間の接続ノードから出力される。例えば、差動電圧信号IP、INの振幅が一定のとき、振幅検出信号PHは、振幅の大きさに応じた電圧値を有するDC信号となる。以下では、pチャネルMOSトランジスタは、単にトランジスタとも称される。
【0026】
また、AGC制御回路50は、基準電圧Vrefを受けるバイポーラトランジスタQ2と、トランジスタQ2のエミッタに接続された電流源I52および抵抗素子R52と、抵抗素子R52に接続された容量素子C52とを有する。トランジスタQ2、電流源I52、抵抗素子R52および容量素子C52は、電圧信号IP、INの振幅を検出する検出回路と同様の回路構成を有し、例えば、各回路素子の電気的特性およびサイズも検出回路の各回路素子の電気的特性およびサイズと製造上のばらつきが許容される範囲内で同様である。
【0027】
例えば、基準電圧Vrefは、差動電圧信号IP、INの振幅の中心電圧に設定される。差動電圧信号IP、INの振幅の中心電圧は、それぞれの電圧信号の時間的な平均値(DC成分)と等しい。なお、基準電圧Vrefは、図1のBUF30から出力される電圧信号IP、INを抵抗列に与え、抵抗分割による平均値としてもよい。例えば、2つの抵抗素子から成る直列抵抗回路の一端に電圧信号IPを与え、直列抵抗回路の他端に電圧信号INを与え、2つの抵抗素子が接続される中間点の電圧を基準電圧Vrefとして使用してもよい。
【0028】
トランジスタQ2、電流源I52、抵抗素子R52および容量素子C52は、基準電圧Vrefをレベル変換し、レベル変換した電圧を振幅基準信号として生成する設定回路として機能する。振幅基準信号AHは、差動増幅回路のpチャネルMOSトランジスタM1Nのゲートに出力される。抵抗素子R52および容量素子C52は、ローパスフィルタを構成し、レベル変換された基準電圧Vrefは、安定化されて抵抗素子R52と容量素子C52との間の接続ノードからから出力される。例えば、振幅基準信号AHは、基準電圧Vrefに応じた電圧値を有するDC信号となる。このように、振幅検出信号および振幅基準信号は、それぞれDC信号として差動増幅回路に出力される。例えば、トランジスタQ1P、Q1N、Q2は、ヘテロ接合バイポーラトランジスタである。
【0029】
差動増幅回路は、例えば、トランジスタM1P、M1Nと、トランジスタM1P、M1Nのソースに接続された電流源I53と、抵抗素子R53、R54、R55、R56とを有する。抵抗素子R53、R54は、トランジスタM1Pのドレインと接地線GNDとの間に直列に接続される。抵抗素子R55、R56は、トランジスタM1Nのドレインと接地線GNDとの間に直列に接続される。例えば、抵抗素子R53、R55の抵抗値は製造上のばらつきが許容される範囲内で互いに同じであり、抵抗素子R54、R56の抵抗値は製造上のばらつきが許容される範囲内で互いに同じである。トランジスタM1P、M1Nは、例えば製造上のばらつきが許容される範囲内で同じ電気的特性を有する。
【0030】
抵抗素子R53、R54の接続ノードは、DAC(Digital-to-Analog Converter)52からオフセット電流Ioffsetを受ける。これにより、接地電位を基準にしたトランジスタM1Pのドレイン電圧には、オフセット電流Ioffsetと抵抗素子R54の抵抗値との積に対応するオフセット電圧が加算される。
【0031】
DAC52は、出力振幅設定信号OAにより示されるデジタル値に対応するオフセット電流Ioffsetを生成する。例えば、出力振幅設定信号OAのデジタル値が大きくなるにつれてオフセット電流Ioffsetの電流値は大きくなる。出力振幅設定信号OAは、例えば、トランスインピーダンス増幅回路100の外部から提供される。上述したように、第1の実施形態にかかるトランスインピーダンス増幅回路100において、出力振幅設定信号OAによって設定される出力振幅は、出力端子OutP、OutNから出力される差動電圧信号の出力振幅となっているが、検出回路が検出する振幅は差動電圧信号IP.INの振幅となっている。そのため、出力端子OutP、OutNから出力される差動電圧信号の出力振幅が所定の値となるようにオフセット電流Ioffsetによって差動電圧信号IP、INの振幅が設定される。DAC52は、出力振幅設定信号OAにより示されるデジタル値に応じたオフセット電流Ioffsetを生成する電流生成部の一例である。
【0032】
例えば、出力振幅設定信号OAのデジタル値は、設定される振幅が小さい場合に小さい値に設定され、設定される振幅が大きい場合に大きい値に設定される。出力振幅設定信号OAは、利得制御部53にも出力される。
【0033】
例えば、設定される振幅が相対的に小さい場合、DAC52は、相対的に値が小さい出力振幅設定信号OAを受信し、相対的に小さいオフセット電流Ioffsetを出力する。設定される振幅が相対的に大きい場合、DAC52は、相対的に値が大きい出力振幅設定信号OAを受信し、相対的に大きいオフセット電流Ioffsetを出力する。DAC52は、例えば、電流を出力する電流DAC(IDAC)である。
【0034】
出力振幅設定信号OAは、利得制御部53にも出力される。利得制御部53は、出力振幅設定信号OAのデジタル値に応じて利得制御電圧VGを生成する。例えば、利得制御部53は、出力振幅設定信号OAの値が相対的に小さい場合(設定振幅が小さい場合)、相対的に低い利得制御電圧VGを出力する。利得制御部53は、出力振幅設定信号OAの値が相対的に大きい場合(設定振幅が大きい場合)、相対的に高い利得制御電圧VGを出力する。利得制御電圧VGにより制御されるOTA51の利得は、第2利得の一例である。OTA51については後述する。
【0035】
差動増幅回路は、振幅検出信号PHの電圧および振幅基準信号AHの電圧と、オフセット電流Ioffsetとに応じて生成される差動電圧信号VIP、VINを、トランジスタM1NのドレインおよびM1Pのドレインから出力する。差動増幅回路およびDAC52は、振幅検出信号PHの電圧と振幅基準信号の電圧との差分を出力振幅設定信号OAに応じて補正して差動信号を生成する差分電圧生成回路の一例である。出力振幅設定信号OAに応じた補正は、例えば、上述したように、生成される差動信号の一方の電圧にオフセット電流Ioffsetと抵抗素子R54の抵抗値との積に対応するオフセット電圧を加算して行われる。
【0036】
差動電圧信号VIP、VINは、OTA(Operational Transconductance Amplifier)51の差動入力に供給される。差動増幅された電圧信号VIP、VINをOTA51に供給することで、振幅検出信号PHおよび振幅基準信号AHをOTA51に直接供給する場合に比べて、SN(Signal to Noise)比を向上することができ、AGC機能の精度を向上することができる。また、差動電圧信号VIP、VINの一方の電圧信号VINに上述のオフセット電流Ioffsetによるオフセット電圧を加算することにより、電圧信号VIPの電圧値と電圧信号VINの電圧値とが等しくなったときに、差動電圧信号IP、INの振幅が出力振幅設定信号OAに応じて設定される振幅値に等しくなるように設定することができる。
【0037】
OTA51は、利得制御部53から利得制御電圧VGを受け、差動の電圧信号VIP、VINに応じて出力ノードから差分電流信号OUTを出力する。OTA51は、利得制御電圧VGに応じて可変利得OTAとして動作し、出力振幅設定信号OAの値に応じて利得を制御する。OTA51は、入力される電圧信号に応じて電流信号を出力するため、OTA51の利得は、例えば100Sのように単位がコンダクタンスとして表される。OTA51の利得の調整により、AGC帯域の出力振幅に依存した変動を補償して、AGC帯域を出力振幅設定信号OAの値にかかわりなく一定にすることができる。OTA51の具体的な回路例は、図3に示される。OTA51は、電圧制御電流源回路の一例である。
【0038】
OTA51の出力ノードには、容量素子C2が接続される。OTA51および容量素子C2は、積分回路として機能し、OTA51から出力される差分電流信号と容量素子C2の容量値とに応じて出力ノードに出力電圧OUTを生成する。OTA51の出力インピーダンスと容量素子C2とによる時定数は、AGCループの利得特性の主要極を形成する。なお、トランスインピーダンス増幅回路100におけるAGCループは、制御信号CNTL1に応じて利得を変化させるTIA10と、制御信号CNTL2-CNTL4に応じて利得を変化させるVGA20と、BUF30と、および差動電圧信号IP、INが入力されて制御信号CNTL1-CNTL4を生成するAGC制御回路50と、によって構成される。
【0039】
OTA51の出力には利得制御部54が接続される。利得制御部54は、OTA51の出力ノードに接続された容量素子C2の充電電圧である出力電圧OUTに応じて、TIA10およびVGA20の利得を制御する制御信号CNTL1-CNTL4を生成する。
【0040】
例えば、利得制御部54は、出力電圧OUTが相対的に低い場合、TIA10およびVGA20の利得を大きくする制御信号CNTL1-CNTL4を生成する。利得制御部54は、出力電圧OUTが相対的に高い場合、TIA10およびVGA20の利得を小さくする制御信号CNTL1-CNTL4を生成する。
【0041】
振幅検出信号PHおよび振幅基準信号AHがそれぞれ一定の場合、オフセット電流Ioffsetが小さくなると電圧信号VINの電圧値は小さくなり、オフセット電流Ioffsetが大きい場合、電圧信号VINの電圧値は大きくなる。トランスインピーダンス増幅回路100は、上述のAGCループの負帰還により、OTA51に入力される電圧信号VIN、VIPの差が"0"になるように動作し、オフセット電流Ioffsetによるオフセット電圧分をキャンセルするように動作する。この結果、出力振幅設定信号OAのデジタル値により振幅設定が可能なAGC制御回路50を構成することができる。
【0042】
〔OTAの回路例〕
図3は、図2のOTA51の一例を示す回路図である。OTA51は、例えば、pチャネルMOSトランジスタPM1、PM2、PM3、PM4、PM5、nチャネルMOSトランジスタNM1、NM2、NM3、NM4および電流源I11、I12を有する。
【0043】
トランジスタPM1、PM2のゲートは、図2の差動増幅回路からの差動電圧信号VIN、VIPを受ける。トランジスタPM1のソースには電流源I11が接続され、トランジスタPM2のソースには電流源I12が接続される。また、トランジスタPM1のドレインは、トランジスタPM5のソースが接続される。トランジスタPM2のドレインは、トランジスタPM5のドレインが接続される。トランジスタPM5のゲートは利得制御電圧VGを受ける。なお、トランジスタPM5は後述するように可変抵抗素子として機能するため、トランジスタPM5のソース、ドレインは、互いに入れ換えてもよい。すなわち、トランジスタPM1のソースは、トランジスタPM5のドレインが接続されてもよく、トランジスタPM2のソースは、トランジスタPM5のソースに接続されてもよい。
【0044】
トランジスタPM1のドレインは、トランジスタNM1、NM3によるカレントミラー回路の共通ゲートに接続される。トランジスタPM2のドレインは、トランジスタNM2、NM4によるカレントミラー回路の共通ゲートに接続される。さらに、トランジスタNM3のドレインは、トランジスタPM3、PM4によるカレントミラー回路の共通ゲートに接続される。そして、トランジスタPM4のドレインとトランジスタNM4のドレインとがOTA51の出力端子OUTに接続される。
【0045】
トランジスタPM1のゲートは、例えば、差動電圧信号VIP、VINの一方(逆相信号)VINを受ける。トランジスタPM2のゲートは、例えば、差動電圧信号VIN、VIPの他方(正相信号)VIPを受ける。トランジスタPM1、PM2は、差動電圧信号VIP、VINに応じて差動出力電流信号を生成する。例えば、トランジスタPM1のドレイン電流は、トランジスタNM1を流れ、トランジスタPM2のドレイン電流は、トランジスタNM2を流れる。電圧信号VIPと電圧信号VINとの差電圧に応じて、トランジスタNM1のドレイン電流とトランジスタNM2のドレイン電流との差電流が変化する。
【0046】
トランジスタNM1を流れる差動出力電流信号の一方は、トランジスタNM1、NM3、PM3、PM4によって構成される2段のカレントミラー回路を介して出力端子OUTに供給される。トランジスタNM2を流れる差動出力電流信号の他方は、トランジスタNM2、NM4によって構成されるカレントミラー回路を介して出力端子OUTに供給される。差動電流信号の一方は、外部へ電流を流し出す(プッシュする)ように出力端子OUTへ供給され、差動電流信号の他方は、外部から出力端子OUTへ電流を引き込む(プルする)ように供給される。このようにして、差動電流信号の一方から差動電流信号の他方を差し引いた差電流が差分電流信号として出力端子OUTから出力される。トランジスタPM4、NM4は、プッシュプル回路を構成する。
【0047】
トランジスタPM5は、利得制御電圧VGに応じてソース、ドレイン間の抵抗値が変化する可変抵抗部として機能する。このため、OTA51の利得(gm)を、利得制御電圧VGにより制御することができる。
【0048】
図4は、出力振幅設定信号OAに応じて設定される利得制御電圧VGの一例を示す説明図である。図4に示す符号OA_GC30、OA_GC120、OA_GC210、OA_GC300の末尾の数値は、設定される振幅の大きさに対応しており、数値が大きいほど、値が大きい出力振幅設定信号OAがDAC52および利得制御部53に供給される。図4の横軸は、出力端子OutP、OutNから出力される差動出力電圧の出力振幅を表している。この例では、出力振幅が大きくなるほど、利得制御電圧VGは大きくなるように設定されている。利得制御電圧VGの電圧値が相対的に小さいとpチャネルMOSトランジスタPM5のオン抵抗は小さくなり、OTA51の利得は大きくなる。利得制御電圧VGの電圧値が相対的に大きいとpチャネルMOSトランジスタPM5のオン抵抗は大きくなり、OTA51の利得は小さくなる。利得制御電圧VGを設定する利得制御部53の例は、図6に示される。
【0049】
図5は、設定された利得制御電圧VGに対して、差動入力電圧VIP-VINに応じてOTA51の出力端子OUTから出力される出力電流差分電流信号Ioutの一例を示す特性図である。図5では、符号VG1~VG4で示される4つの利得制御電圧VGに対するOTA51の入出力特性が示されている。図5の横軸は、差動入力電圧VIP-VINを表しており、縦軸は差分電流信号Ioutを表している。差分電流信号Ioutの電流値は、出力端子OUTから外部へ流れ出る方向を正とし、外部から出力端子OUTへ流れ込む方向を負としている。4つの利得制御電圧VG1~VG4を示す破線は、後述する図7に示す符号OA_GC30、OA_GC120、OA_GC210、OA_GC300に付した破線に対応する。
【0050】
例えば、利得制御電圧VG1は、最も小さい出力振幅を設定する出力振幅設定信号OAを受けたときに生成される。利得制御電圧VG2は、2番目に小さい出力振幅を設定する出力振幅設定信号OAを受けたときに生成される。利得制御電圧VG3は、2番目に大きい出力振幅を設定する出力振幅設定信号OAを受けたときに生成される。利得制御電圧VG4は、最も大きい出力振幅を設定する出力振幅設定信号OAを受けたときに生成される。
【0051】
利得制御電圧VG1、VG2、VG3、VG4は、この順で順次高くなる(VG1<VG2<VG3<VG4)。図5において、利得制御電圧VG1~VG4に対応する各破線の傾きは、OTA51の利得に相当する。したがって、OTA51の利得は、利得制御電圧VGが高いほど小さくなり、利得制御電圧VGが低いほど大きくなる。すなわち、OTA51の利得を、出力振幅設定信号OAによって設定される出力振幅が小さいほど大きくすることができ、出力振幅設定信号OAによって設定される出力振幅が大きいほど小さくすることができる。
【0052】
図6は、図2の利得制御部53の一例を示す回路図である。利得制御部53は、サーモコード生成部531、互いに並列に接続されるn個(nは2以上の整数)の電流源I1~In、電流源I1~Inを利得制御電圧線(電圧出力ノード)VGに接続するn個のスイッチSWおよび利得制御電圧線VGと接地線GNDとの間に接続された抵抗素子RLを有する。例えば、電流源I1は、1番目のスイッチSWを介して利得制御電圧線VGに接続され、電流源Inは、n番目のスイッチSWを介して利得制御電圧線VGに接続される。すべてのスイッチSWをオン状態にしたとき、利得制御電圧線VGに対してn個の電流源I1~Inが並列に接続され、n個の電流源I1~Inのそれぞれから抵抗素子RLに電流が供給される。利得制御電圧は、n個の電流源I1~InのうちスイッチSWを介して電圧出力ノードに接続された電流源の供給する電流が前記抵抗素子に流れて生成される。利得制御電圧VGは、電圧出力ノードから出力される。
【0053】
サーモコード生成部531は、出力振幅設定信号OAの値に応じて、スイッチSWの断続(オン/オフ)をそれぞれ制御するn個の出力信号を生成する。例えば、1個目の出力信号は1番目のスイッチSWの断続を制御し、2個目の出力信号は2番目のスイッチSWの断続を制御し、n個目の出力信号はn番目のスイッチSWの断続を制御する。スイッチSWを断にすると、スイッチSWは非導通状態(オフ状態)となる。スイッチSWを続にすると、スイッチSWは導通状態(オン状態)となる。例えば、図4および図5で説明したように、4通りの振幅を設定するために出力振幅設定信号OAの値が4通りあるとする。この場合、サーモコード生成部531は、出力振幅設定信号OAの値が増えるにしたがい、オンさせるスイッチSWの数を増加させるように出力信号を生成する。
【0054】
例えば、出力振幅設定信号OAが最も小さい振幅を設定する値になっているときは、1個目の出力信号だけスイッチSWをオン状態にするよう設定され、他の出力信号はそれぞれに接続されるスイッチSWをオフ状態にするように設定される。出力振幅設定信号OAが2番目に小さい振幅を設定する値になっているときは、1個目の出力信号および2個目の出力信号だけそれぞれに接続されるスイッチSWをオン状態にするよう設定され、他の出力信号はそれぞれに接続されるスイッチSWをオフ状態にするように設定される。このように、例えば、出力振幅設定信号OAの値が1だけ、あるいは次に大きい値に増えたときに、オフ状態からオン状態になるスイッチSWは1個だけになるように設定する。
【0055】
例えば、サーモコードによって出力振幅設定信号OAのm個(mは1以上の整数)の値に応じて2個の出力信号を生成することができる。例えば、サーモコードでは、出力振幅設定信号OAのデジタル値Aが1つ増えるにつれてオンするスイッチSWは1つだけ増える。したがって、デジタル値Aが1だけ増減するときに、それに応じてオン/オフされるスイッチSWの数は1個のみとなり、出力信号Xのタイミングの影響を受けずに抵抗素子RLに流れる電流値を単調に増減させることができる。例えば、サーモコードを用いずに2個のスイッチSWを同時に制御する場合、具体的には一方のスイッチSWをオフ状態からオン状態にするとともに他方のスイッチSWをオン状態からオフ状態にするような場合、それぞれの出力信号Xのタイミングがずれることによって抵抗素子RLによって生じる利得制御電圧VGの単調変化が保証されなくなる虞がある。出力振幅設定信号OAに応じてOTA51の利得を調整することで、AGC帯域を出力振幅設定信号OAの値にかかわりなく一定にすることができる。
【0056】
なお、n通りの振幅設定において、所望のAGC帯域となるような利得制御電圧VGがV1~Vnであるとすると、I1~Inは次のように求めることができる。
I1=V1/RL
I2=V2/RL-I1
...
In=Vn/RL-Σ(k=1,n-1)Ik
ここで、符号Σの後は、kを"1"から"n-1"まで変化させたときの電流Ikを示し、符号Σは、電流Ikを積算することを示す。
【0057】
〔第1の実施形態のループ利得〕
図7は、図2のAGC制御回路50において、出力振幅設定信号OAによる振幅設定に応じたAGCループのループ利得の一例を示す特性図である。図7は、光入力信号パワーを一定(例えば、-15dBm)にした場合のAGCループ利得の特性を示している。光入力信号パワーを一定にしたとき、入力端子InP、InNで受ける差動入力電流信号の大きさは一定となっている。図7に示す符号OA_GC30、OA_GC120、OA_GC210、OA_GC300の末尾の数値は、図4で説明したように、出力振幅設定信号OAの値に対応する。
【0058】
AGC帯域は、上述したように、AGCループのループ利得特性において、利得が"1" (デシベル表示で0dB)での周波数として求めることができる。例えば、AGC帯域の適正範囲は、100kHz~1MHzである。この実施形態では、OTA51の利得を、振幅設定に応じて変更することで、振幅設定によらずAGC帯域を300kHz程度に設定することができる。300kHzは、AGC帯域の適正範囲の中央付近に位置しており、光入力信号パワーが変動する場合にも所望の通信性能を確保することができる。
【0059】
図8は、図7に示した特性を、出力振幅に対するAGC帯域として表した特性図である。図8に示すように、出力振幅設定信号OAにより設定される出力振幅にかかわりなく、AGC帯域をほぼ一定に安定化することができる。
【0060】
以上、この実施形態では、OTA51の利得を、振幅設定に応じて変更することで、設定される出力振幅の大小にかかわりなく、AGC帯域を一定に安定化することができる。すなわち、振幅設定によるAGC帯域の変動を抑えるトランスインピーダンス増幅回路100を提供することができる。この結果、光入力信号パワーの変動に対して所望の出力振幅を設定する場合にも十分な通信性能を確保することができ、トランスインピーダンス増幅回路100の信頼性を向上することができる。
【0061】
差動電圧信号VIP、VINを受けるトランジスタPM1、PM2のそれぞれのソースの間には、利得制御電圧VGに応じてソース、ドレイン間の抵抗値が変化するトランジスタPM5が接続される。これにより、簡易な手段により、電圧制御電流源回路の利得を利得制御電圧VGに応じて変更することができ、出力振幅に依存するAGC帯域の変動を補償することができる。
【0062】
サーモコードによって出力振幅設定信号OAの値に応じて利得制御電圧線VGに接続される電流源I1~Inの数を設定することで、簡易な手段により、電流源I1~Inを断続する出力信号のタイミングの影響を受けずに安定して利得制御電圧VGを生成することができる。
【0063】
出力振幅設定信号OAに応じてオフセット電流Ioffsetを差動増幅回路の抵抗素子R53、R54の接続ノードに供給することで、出力振幅設定信号OAが示す振幅に対応するオフセット電圧を、差動増幅回路の出力に反映させることができる。この結果、差動電圧信号IP、INの振幅を出力振幅設定信号OAにより示される出力振幅に設定することができる。
【0064】
〔他のAGC制御回路の回路構成〕
図9は、図1のトランスインピーダンス増幅回路100に搭載されるAGC制御回路の他の構成例を示す回路図である。図2と同様の要素については、同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図9に示すAGC制御回路50Aは、図1のAGC制御回路50の代わりに、図1に示したトランスインピーダンス増幅回路100に搭載される。
【0065】
AGC制御回路50Aは、図2のAGC制御回路50から利得制御部53を削除している。また、OTA51は、図3に示したOTA51からトランジスタPM5を削除している。AGC制御回路50Aのその他の構成は、図2のAGC制御回路50の構成と同様である。AGC制御回路50Aは、出力振幅設定信号OAによるOTA51の利得の調整を実施しないことを除き、図2のAGC制御回路50と同様に動作する。
【0066】
〔他のAGC制御回路のループ利得〕
図10は、図9のAGC制御回路50Aにおいて、出力振幅設定信号OAによる振幅設定に応じたAGCループ利得の一例を示す特性図である。図10は、図7に対応しており、光入力信号パワーを一定(例えば、-15dBm)にした場合のAGCループ利得の特性を示している。光入力信号パワーを一定にしたとき、入力端子InP、InNで受ける差動入力電流信号の大きさは一定となっている。
【0067】
出力振幅設定信号OAによる容量値の調整を実施しない場合、AGC帯域は、設定された振幅に応じて変動する。図10では、AGC帯域は、180kHz程度から1MHz程度まで変動しており、適正範囲である100kHz~1MHzに対するマージンが小さい。このため、光入力信号パワーが変動する場合、所望の通信性能を確保できないおそれがある。
【0068】
図11は、図10に示した特性を、出力振幅に対するAGC帯域として表した特性図である。図11では、出力振幅設定信号OAにより設定される振幅に応じてAGC帯域は変動してしまう。
【0069】
〔フィードバック機能を無効にした場合の特性〕
図12は、図2または図9のAGC制御回路による負帰還を無効にした場合のトランスインピーダンス増幅回路100の出力振幅と、振幅検出信号PHと振幅基準信号AHとの差電圧PH-AHとの関係を示す特性図である。図12に示すように、負帰還を無効にした場合、設定される振幅が大きくなるにしたがい、差電圧PH-AHは、非線形で弓なりに大きくなる。AGC制御回路50の設定回路において、基準電圧Vrefを差動電圧信号IP,INの平均値に設定した場合、差電圧PH-AHは、差動電圧信号IP,INの振幅(peak to peak値の半分)の値に対応した電圧となる。
【0070】
ところで、図11に示したAGC帯域の変化は、AGCループの利得が振幅設定によって変動するために発生するものであり、主に2つの原因による。1つ目は、TIA10およびVGA20がAGCループ内に含まれるため、AGC制御によるTIA10およびVGA20の利得の変動によりAGCループ利得が変動するためである。2つ目は、図2および図9のトランジスタQ1P、Q1N(例えば、HBT)は、ベース・エミッタ間でダイオード特性を有するため、入力に対して非線形な特性を有するためである。例えば、図12の差電圧PH-AHと実際の出力振幅との関係が非線形になっているのは、トランジスタQ1P、Q1Nの非線形特性によるものである。
【0071】
以上、本開示の実施形態などについて説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範囲内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、および組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0072】
10 TIA
20 VGA
30 BUF
40 CML
50、50A AGC制御回路
51 OTA
52 DAC
53、54 利得制御部
100 トランスインピーダンス増幅回路
531 サーモコード生成部
AH 振幅基準信号
C2 容量素子
C51、C52 容量素子
CNTL1-CNTL4 制御信号
I1、In 電流源
I11、I12 電流源
I51、I52、I53 電流源
InN、InP 入力端子
IN、IP 電圧信号
M1N、M1P トランジスタ
MP1、PM2、PM3、PM4、PM5 トランジスタ
NM1、NM2、NM3、NM4 トランジスタ
OA 出力振幅設定信号
OUT出力端子
OutN、OutP 出力端子
PH 振幅検出信号
Q1N、Q1P トランジスタ
Q2 トランジスタ
R11、R12 抵抗素子
R51、R52、R53、R54、R55、R56 抵抗素子
SW スイッチ
VG 利得制御電圧
VIP、VIN 電圧信号
Vref 基準電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12